説明

触媒および該触媒を使用する方法

新規のクロム含有フッ素化触媒が記載されている。該触媒は、活性を促進させる量の亜鉛を含んでなる。亜鉛は、最大直径で1ミクロン以下の大きさを有する凝集物中に含有されている。凝集物は触媒の少なくとも表面領域全体に分布し、凝集物の40重量%以上が、該凝集物中における亜鉛の最頻濃度の±1重量%以内である濃度の亜鉛を含有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロム含有フッ素化触媒、および該触媒を用いるフッ素化炭化水素の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、亜鉛促進性のクロム含有フッ素化触媒、および炭化水素またはハロゲン化炭化水素を該触媒の存在下でフッ化水素と反応させるフッ素化炭化水素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素またはハロゲン化炭化水素とフッ化水素との触媒気相フッ素化による、フッ素以外にハロゲン原子も含みうるフッ素化炭化水素の製造は周知であり、非常に多くの触媒がこのようなプロセスでの使用に提案されてきた。クロム、特にクロミア、を含有し、かつ、典型的にはそれをベースにした触媒は、既知のプロセスで頻繁に用いられている。このように、例えば、クロミアまたはハロゲン化クロミアは、GB1,307,224に記載されているような1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンを製造するためのトリクロロエチレンとフッ化水素との気相反応、およびGB1,589,924に記載されているような1,1,1,2‐テトラフルオロエタンを製造するための1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンとフッ化水素との気相反応に用いられることがある。同触媒は、クロロジフルオロエチレンの1−クロロ−2,2,2,トリフルオロエタンへのフッ素化、例えば、GB−1,589,924にも記載されているような1,1,1,2,−テトラフルオロエタンから不純物のクロロジフルオロエチレンを除去するプロセスに使用されることもある。
【0003】
EP‐A‐0502605には、活性促進量の亜鉛または亜鉛の化合物を含んでなるクロム含有フッ素化触媒が開示されている。該触媒は、1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンを触媒存在下でフッ化水素と反応させて1,1,1,2‐テトラフルオロエタンを生成する、1,1,1,2‐テトラフルオロエタンの製造プロセスに使用することができる。1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンは、同触媒の存在下でトリクロロエチレンをフッ化水素と反応させることにより製造されうる。
【発明の概要】
【0004】
フッ素化炭化水素の製造業者は、それら化合物の製造に使用するための改良された触媒を常に求めている。触媒中における亜鉛の分布がある基準を満たすと、制御された量の亜鉛を含んだクロム含有触媒の安定性が改善されうることが、今般判明したのである。
【0005】
本発明によれば、ある量の亜鉛を含んでなるクロム含有フッ素化触媒であって、前記亜鉛が、最大直径が1ミクロン以下の大きさを有する凝集物に含まれ、該凝集物が触媒の少なくとも表面領域全体に分布し、ここで該凝集物の40重量%以上が、前記凝集物中における亜鉛の最頻濃度(modal concentration)の±1重量%以内の濃度の亜鉛を含有している、触媒が提供される。
【0006】
本発明によれば、フッ素化炭化水素の製造方法であって、ここで定義されているようなフッ素化触媒の存在下において、気相中で炭化水素またはハロゲン化炭化水素をフッ化水素と反応させることを含んでなる方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】
【図2】
【図3】
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明のクロム含有フッ素化触媒中における亜鉛は、触媒の少なくとも表面領域全体に均一に分布している凝集物に含有されている。触媒の表面領域によって、我々は、使用時にフッ化水素および有機反応物質と接触することになる触媒の部分に言及することを意図している。触媒の表面とは、通常、原子の配位または原子価がバルク物質と比べた場合に満たされていない領域のことである。好ましくは、亜鉛含有凝集物は触媒バルク全体にわたって均一に分布している。凝集物はそれらの最大直径で1ミクロン(1μm)以下、好ましくは20nm〜1μmの範囲の大きさを有し、凝集物の40重量%以上、好ましくは50重量%以上、更に好ましくは60重量%以上、特に70重量%以上は、それら凝集物中における亜鉛の最頻濃度の±1重量%以内である濃度の亜鉛を含有している。好ましい態様において、凝集物の80重量%以上、更に好ましくは85重量%以上、特に90重量%以上は、それら凝集物中における亜鉛の最頻濃度の±2重量%以内である濃度の亜鉛を含有している。
【0009】
凝集物中における亜鉛の最頻濃度とは、凝集物中で最も多く現れる亜鉛の濃度のことで、整数で表わされる。
【0010】
‘均一に分布する’によって、我々は‘実質上均一に分布する’を含めるものとし、亜鉛が触媒全体にわたって分散している場合には、触媒表面または触媒バルクの各領域における亜鉛含有凝集物の数または密度が、実質的に同じであることを意味する。例えば、凝集物が触媒表面のみに存在している場合、触媒表面の各平方ミリメートルにおける凝集物の数は触媒表面の平方ミリメートル当たりにおける凝集物の平均数の±2%以内である。亜鉛含有凝集物が触媒バルク全体にわたって分布している場合、触媒バルクの各平方ミリメートルにおける凝集物の数は触媒バルクの平方ミリメートル当たりにおける凝集物の平均数の±2%以内である。
【0011】
好ましい態様において、本発明のクロム含有フッ素化触媒は、酸化クロム、フッ化クロム、フッ素化酸化クロムおよびオキシフッ化クロムから選択される1種以上の化合物を含んでなる。
【0012】
本発明のクロム含有触媒を構成するクロム化合物は、クロムをその通常の酸化状態、すなわちクロム(II)、クロム(III)およびクロム(VI)のいずれかで含有しうる。しかしながら、好ましい態様では触媒中クロムの総重量を基準として0.1〜8.0重量%のクロムはクロム(VI)として存在することになるにもかかわらず、そのバルクまたはおそらく触媒中の全てのクロム化合物は、クロム(III)を通常はベースとするであろう。亜鉛促進性クロム含有触媒の性能、特に活性および安定性は、触媒中でクロムの一部がクロム(VI)として存在することで改善されうる。
【0013】
クロム(III)は、典型的には、触媒中クロムの総重量の92.0〜100重量%、好ましくは94.0〜100重量%、特に96.0〜100重量%を構成する。クロム(VI)も存在する場合、本発明の触媒は、典型的には、触媒中クロムの総重量を基準として、92.0〜99.9重量%、好ましくは94.0〜99.9重量%、例えば95.0〜99.5重量%、特に96.0〜99.5重量%、とりわけ96.0〜99.0重量%、例えば98.0〜99.0重量%のクロム(III)と、0.1〜8.0重量%、好ましくは0.1〜6.0重量%、例えば0.5〜5.0重量%、特に0.5〜4.0重量%、とりわけ1.0〜4.0重量%、例えば1.0〜2.0重量%のクロム(VI)を含んでなる。すべてのクロムがクロム化合物として通常存在しているため、上記の百分率もクロム化合物の総重量を基準とした触媒中のクロム(III)およびクロム(VI)化合物の量を通常は規定している。
【0014】
本発明のクロム含有触媒に存在しうるクロム(III)化合物としては、水酸化クロム(III)、クロミア(すなわち、酸化クロム(III))、フッ化クロム(III)、フッ素化クロミアおよびオキシフッ化クロム(III)からなる群より選択される化合物がある。該触媒に存在しうるクロム(VI)化合物としては、酸化クロム(VI)、クロム酸、フッ素化酸化クロム(VI)、オキシフッ化クロム(VI)およびフッ化クロミルからなる群より選択される化合物がある。該触媒は、好ましくは、上記の化合物群から選択される1種以上のクロム(III)化合物と1種以上のクロム(VI)化合物を含有している。触媒の正確な組成は、特に、その製造に用いられる方法、および触媒の組成がフッ素化の前または後で測定されるかどうかに依存する。
【0015】
本発明の触媒がフッ素化プロセスで用いられる前、またはそれがフッ素化前処理に付される前に、かなりの割合のクロム、例えば、触媒中のクロムの総重量を基準として、50.0重量%超、更に典型的には75.0重量%超のクロムが、クロミア、および好ましくは酸化クロム(VI)を含めた酸化クロムとして、好ましくは触媒中に存在する。水酸化クロム(III)およびおそらく水酸化クロム(VI)を含めて、ある量の水酸化クロムも含有してよい。酸化および水酸化クロム(III)を合わせた量と、存在する場合、酸化および水酸化クロム(VI)を合わせた量は、好ましくは、通常クロム(III)およびクロム(VI)化合物に関して上記した通りである。好ましいクロム含有触媒は、フッ素化前に、クロム(III)対酸素対ヒドロキシル種(Cr(III):O:OH)のモル比で、1:0.5:2〜1:1.5:0の範囲、好ましくは1:1:1〜1:1.5:0の範囲にある。この比率は、熱重量分析を用いて、容易に調べられる。1つの具体的態様において、クロム含有触媒は、フッ素化前に、クロム(III)対酸素対ヒドロキシル種(Cr(III):O:OH)のモル比で、1:0.5:2〜1:n:mの範囲、好ましくは1:1:1〜1:n:mの範囲にあり、ここでnは1.5未満であり、mはゼロより大きく、2n+m=3.0である。
【0016】
触媒がフッ素化プロセスで用いられる場合、または触媒が後述するフッ素化前処理に付される場合、触媒中におけるある割合の酸化クロムと存在しうる水酸化クロムは、フッ化クロム、フッ素化酸化クロムおよび/またはオキシフッ化クロムに変換されることがある。
【0017】
本発明で用いられる亜鉛/クロミア触媒は非晶質でもよい。これについて、我々は、例えばその触媒がX線回折により分析された場合に、実質的な結晶特性を呈しないことを意味する。
【0018】
あるいは、触媒は部分的に結晶質でもよい。これについて、我々は、触媒の0.1〜50重量%が1種以上のクロムの結晶化合物および/または1種以上の亜鉛の結晶化合物の形であることを意味する。部分的に結晶質の触媒が用いられるならば、それは好ましくは0.2〜25重量%、更に好ましくは0.3〜10重量%、特に0.4〜5重量%の1種以上のクロムの結晶化合物および/または1種以上の亜鉛の結晶化合物を含有している。
【0019】
本発明の触媒中における結晶物質の量は、当業界で既知の任意の適切な方法により調べることができる。適切な方法としてX線回折(XRD)が挙げられる。XRD回折が用いられる場合、結晶質物質の量、例えば結晶質酸化クロムの量は、触媒に存在する既知量のグラファイト(例えば、触媒小粒を生産する上で用いられるグラファイト)との比較により、または更に好ましくは、サンプル物質と、適切な国際認証機関、例えばNIST(国立標準技術研究所)、が作製した既知量の結晶質物質を含有する基準物質とのXRDパターンの強度の比較により調べられる。
【0020】
亜鉛は亜鉛化合物として触媒中に通常存在し、クロム含有触媒の中または上に存在でき、すなわち亜鉛または亜鉛化合物はクロム含有触媒中に配合されていてもよいし、あるいは触媒の表面上に担持されていてもよく、これは触媒を調製するために用いられる具体的方法に少なくともある程度は依存する。亜鉛がクロム含有触媒の全体に配合されている場合、これは好ましいことであり、亜鉛は触媒バルクの全体に実質上均一に分布されるべきである。
【0021】
亜鉛は、触媒の総重量を基準として、典型的には0.5〜25重量%の量で触媒中に存在する。適切なレベルのときにはクロム含有触媒の活性を促進するため、亜鉛の量は重要である。亜鉛が多すぎると、他方では、触媒活性の増加よりもむしろ減少につながることがある。
【0022】
触媒活性を促進して、クロム含有触媒単独より大きな活性を有する触媒を生成しうる亜鉛の量は、少なくともある程度は、触媒の表面積、および亜鉛が触媒バルクの全体に配合されているのか又は単にその表面上に担持されているのかどうかに依存する。通常、触媒の作用表面積がより大きいほど、触媒活性を促進するために要する亜鉛の量はより多くなる。更に、そのバルク全体、すなわち表面と非表面位置、の全体に亜鉛を配合する触媒は、それらの表面のみに亜鉛を有する触媒よりも多量の亜鉛を必要とする傾向がある。
【0023】
例を挙げて説明すると、亜鉛が主に触媒表面に存在するように含浸により導入した触媒の場合、20〜50m/gの作用表面積を有するクロム含有触媒における活性促進量の亜鉛は、触媒の総重量を基準として、通常約0.5重量%〜約6.0重量%の範囲、好ましくは約1.0重量%〜約5.0重量%の範囲、特に約2.0重量%〜約4.0重量%の範囲である。
【0024】
しかしながら、それより大きな、例えば100m/gより大きな作用表面積を有し、触媒バルクの全体に分布した亜鉛を含んでなる触媒の場合、亜鉛は触媒の総重量を基準として5.0重量%〜25.0重量%の量、好ましくは5.0〜20.0重量%の量、特に5.0〜10.0重量%の量で存在する。
【0025】
それより小さな、すなわち20m/g未満、例えば約5m/gの作用表面積を有する触媒の場合、亜鉛の量は触媒の総重量を基準として0.5重量%〜1重量%のように少なくてもよい。
【0026】
元素である亜鉛として存在するかまたは亜鉛の化合物として存在するかにかかわらず、上記された亜鉛の量は亜鉛自体の量を表す、と理解されるべきである。そのため、通常そうであるように、亜鉛が亜鉛の化合物として存在する場合には、該量は亜鉛化合物により供される亜鉛に関するもので、亜鉛の化合物の量に関するものではない。
【0027】
本発明の好ましい触媒は、20.0〜300.0m/gの範囲、更に好ましくは100〜250m/gの範囲、特に180〜220m/gの範囲の表面積を有する。触媒の表面積に言及する場合、我々はいずれのフッ素化処理もなされる前の表面積でBET窒素等温法により測定したもののことを言う(例えば、G.C.Bond,Heterogeneous Catalysis - Principles and Applications,1987参照)。これらの触媒は、触媒の総重量を基準として、好ましくは0.5〜25.0重量%、更に好ましくは0.5〜10.0重量%、特に1.0〜6.0重量%の亜鉛を含んでなる。この亜鉛は、触媒の表面と非表面位置全体に、または単に表面に分布していてもよい。
【0028】
触媒活性を促進する亜鉛の量は、特に、触媒の表面積、触媒中における亜鉛の分布および触媒を調製するために用いた方法に応じて変わるが、任意の具体的な触媒および触媒調製法に関して、触媒活性を促進する亜鉛の量は上記百分率を指標として用いる所定の実験によって容易に決められる。
【0029】
クロム含有触媒は、酸化クロム、フッ素化酸化クロム、フッ化クロムまたはオキシフッ化クロム以外の金属酸化物、フッ素化金属酸化物、金属フッ化物または金属オキシフッ化物も含んでよい。その追加の金属酸化物として、例えば、アルミナ、マグネシアおよびジルコニア、特に、触媒の作用中に各々フッ化アルミニウムおよびフッ化マグネシウムへ少なくとも一部変換されうるマグネシアおよびアルミナから選択してもよい。
【0030】
所望であれば、触媒は、亜鉛以外に1種以上の金属、例えばニッケル、コバルトまたは他の二価金属も含有してよい。好ましくは、しかしながら、クロム含有触媒は、金属としてか、または更に典型的には1種以上の亜鉛化合物として、亜鉛だけを含む。
【0031】
本発明のクロム含有触媒は、活性炭またはアルミナのような触媒担体物質に担持させてもよい。
【0032】
亜鉛促進剤は、用いられる触媒調製技術に少なくともある程度依存して、化合物の状態で、例えばハロゲン化物、オキシハロゲン化物、酸化物または水酸化物で、クロム含有触媒の中および/または上に導入してもよい。クロム含有触媒(例えば、1種以上のクロム(III)化合物と所望により1種以上のクロム(VI)化合物を含有するもの)を亜鉛化合物で含浸させることによって該亜鉛促進剤を導入する場合、該亜鉛化合物は好ましくは水溶性塩、例えばハロゲン化物、硝酸塩または炭酸塩であり、クロム含有触媒を該亜鉛化合物の水溶液またはスラリーと接触させることにより、該亜鉛化合物を該触媒へ含浸する。
【0033】
本発明の触媒を調製するための別法では、亜鉛およびクロムの水酸化物を共沈させ、次いで混合酸化物触媒を調製するためにか焼によりその酸化物へ変換する。
【0034】
他の金属酸化物、例えばアルミナ、を触媒に含有させることになれば、クロムおよび他の金属の水酸化物を共沈させ、次いで、か焼により該水酸化物をそれらの酸化物へ変換して混合酸化物触媒(例えば、クロミアとアルミナのようなクロムとアルミの酸化物)を調製することで、これらを導入することができる。上記方法で、水酸化物または酸化物の混合物を亜鉛化合物の水溶液または分散液で含浸させることにより、亜鉛を触媒中へ導入しうる。あるいは、水酸化亜鉛をクロムおよび他の金属の水酸化物と共沈させ、3種の水酸化物を次いでか焼によりそれらの酸化物へ同時に変換することもできる。
【0035】
好ましい態様において、本発明の触媒は、亜鉛およびクロム(III)の塩を水へ加え、次いで適切な無機水酸化物、好ましくは水酸化アンモニウム、を該塩水溶液へ加えることで、亜鉛およびクロム(III)の水酸化物を共沈させて調製する。共沈は、亜鉛が触媒の全体に均一に分布するようになる混合条件下で行う。亜鉛およびクロムの水酸化物の混合物を次いで、例えば濾過により、集め、洗浄し、か焼して水酸化物をそれらの酸化物へ変換する。塩化物、炭酸塩および硝酸塩を含めた、亜鉛およびクロムの水溶性で安定な任意の塩を用いることができる。クロムの好ましい塩としては、硝酸クロムおよび塩基性硝酸クロム(Cr(NO.OH)が挙げられる。特に適したクロム塩は硝酸クロム(III)である。好ましい亜鉛塩は硝酸亜鉛である。
【0036】
混合水酸化物沈殿物の回収後における洗浄プロセスは重要となりうる。これは硝酸塩を含有する溶液から沈殿物を調製する場合、洗浄プロセス後に残留する硝酸塩が、か焼プロセス中にクロム(III)からクロム(VI)を生成させる酸化剤として作用しうるからである。触媒中における少量のクロム(VI)の存在は、触媒活性と安定性を更に改善しうる。例えば毎回新鮮な洗浄液を用いた繰返し洗浄による、回収した沈殿物の更なる徹底的な洗浄は、残留硝酸塩レベル、ひいてはか焼ステップでクロム(III)を酸化させるために利用されうる硝酸塩の量を減少させやすくなる。更に、洗浄液の性質は、混合水酸化物沈殿物中に含まれる硝酸塩を除去する効率に影響を与えることがある。例えば、アンモニア水溶液での洗浄は、水だけの場合よりも、硝酸塩を除去する上で効果的である。そのため、混合水酸化物沈殿物をクロム(III)および/または亜鉛の硝酸塩を含有する水溶液から調製するならば、洗浄プロセスで制御を働かせることにより、か焼後における触媒中のクロム(VI)のレベルを制御することができ、これは同様にクロム(III)を酸化させる上で利用されうる沈殿物中の硝酸塩の残留レベルに影響を及ぼすことになる。
【0037】
本発明の触媒の生成にか焼ステップを採用する場合、これは好ましいことであり、典型的には300〜450℃の範囲、更に好ましくは300〜400℃の範囲、例えば約350℃、の温度での前駆触媒物質の加熱を伴う。か焼は、例えば窒素のような不活性雰囲気中で行っても、またはそれは空気中で、あるいは窒素のような不活性ガスと混合させて空気または酸素を含んでなる雰囲気中で行ってもよい。
【0038】
用いられるか焼温度も、最終触媒中におけるクロム(VI)のレベルに影響を及ぼすことがある。例えば、クロム(III)および/または亜鉛の硝酸塩を含有する水溶液から調製した混合水酸化物沈殿物をか焼して触媒を調製する場合、洗浄後に一定の残留硝酸塩レベルのとき、より高いか焼温度ほど、より多くのクロム(III)がクロム(VI)へ酸化されることになりやすい。
【0039】
触媒中で所望レベルのクロム(VI)化合物を生成させる他の便利な手法は、必要な割合のクロム(III)をクロム(VI)へ酸化するために、制御した量の空気をか焼ステップへ導入することによる。ここでも再び、用いられるか焼温度が最終触媒中におけるクロム(VI)のレベルにも影響を及ぼすことがあり、より高いか焼温度ほど、一定レベルの空気でクロム(III)の酸化をより促しやすい。
【0040】
フッ素化触媒は、通常、フッ素化反応で触媒として用いられる前、フッ化水素、および所望により不活性希釈剤、の存在下で加熱することによる、フッ素化処理に付される。典型的なフッ素化処理では、250〜450℃の範囲、更に好ましくは300〜380℃の範囲、特に350〜380℃の範囲の温度において、フッ化水素の存在下で触媒を加熱する。好ましい態様において、フッ素化処理はフッ素化触媒をフッ化水素および窒素の混合気体と接触させることにより行われる。便宜上、該処理は反応器内で行われ、その後のフッ素化プロセスは、その反応器が加熱されているところにフッ化水素またはフッ化水素/窒素混合気体を通すことで行われる。
【0041】
フッ素化処理後に、作用触媒は、フッ素化酸化クロム、フッ化クロムおよびオキシフッ化クロムから選択される、1種以上のフッ素含有クロム(III)化合物と、好ましくは少量の1種以上のフッ素含有クロム(VI)化合物を含んでなる、フッ素化クロム含有触媒物質の中および/または上に、少なくともある割合のフッ化亜鉛を通常含んでなる。触媒が、クロムおよび亜鉛の水酸化物の共沈に続いて、該水酸化物をそれらの酸化物へか焼により変換して調製した混合酸化物触媒である場合、これは好ましいことであり、フッ素化処理によって通常少なくともある割合の酸化物がオキシフッ化物およびフッ化物へ変換される。
【0042】
触媒は、固定床または流動床での使用に適した形状および大きさの小粒または顆粒の形で存在しうる。便宜上、触媒は1〜6mmの範囲、好ましくは2〜4mmの範囲、例えば3mm、の長さおよび直径を有した円柱状小粒の形で存在する。
【0043】
フッ素化反応を触媒する使用期間後に、使用した触媒を、例えば空気/窒素または空気/フッ化水素混合気体中約300℃〜約500℃の温度で加熱することにより、再生または再活性化してもよい。再生または再活性化は、触媒がその有効寿命の終わりに達するまで、定期的に行なってもよい。触媒を加熱している間に反応器に塩素を通すことでも、該触媒は再生しうる。あるいは、本プロセスを行いながら、触媒を連続的に再生してもよい。
【0044】
本発明の更なる面は、炭化水素またはハロゲン化炭化水素を気相中高温でフッ化水素と反応させる、フッ素化プロセスにおける亜鉛促進性のクロム含有触媒の使用に存する。
【0045】
したがって、本発明では、ここで定義されているようなフッ素化触媒の存在下において、気相中高温で炭化水素またはハロゲン化炭化水素をフッ化水素と反応させることを含んでなる、フッ素化炭化水素の生成プロセスも提供される。
【0046】
少なくとも1つの塩素原子を含有するアルケン類およびアルカン類とそれらに対応するハロゲン化物は、フッ化水素と本発明の触媒を用いてフッ素化しうる。達成されうる具体的な気相フッ素化の例は、1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンから1,1,1,2‐テトラフルオロエタンの生成、トリクロロエチレンから1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンの生成、ジクロロトリフルオロエタンからペンタフルオロエタンの生成、ペルクロロエチレンからジクロロトリフルオロエタン、クロロテトラフルオロエタンおよび/またはペンタフルオロエタンの生成と、1‐クロロ‐2,2‐ジフルオロエチレンの1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンへの変換である。
【0047】
本発明の触媒の存在下で、炭化水素またはハロゲン化炭化水素をフッ化水素と反応させるときに用いられるフッ素化条件としては、クロム含有触媒を用いるフッ素化反応として当業界で既知のもの、例えば大気圧または超大気圧で、反応器の温度が180℃〜約500℃の範囲のもの、であってよい。反応器温度に言及する場合、我々は触媒床内における平均温度のことを言う。発熱反応の場合に入口温度が平均温度より低く、吸熱反応の場合に入口温度が平均より高いことが分かるであろう。正確な条件は、もちろん、行われる具体的なフッ素化反応に依存する。
【0048】
好ましい態様において、本発明の触媒は、該触媒の存在下において気相中高温で1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンをフッ化水素と反応させることを含んでなる、1,1,1,2‐テトラフルオロエタンの調製プロセスに用いられる。250〜500℃の範囲における反応温度が典型的に用いられ、280〜400℃の範囲における反応温度が好ましく、300〜350℃の範囲における反応温度が特に好ましい。本プロセスは大気圧または超大気圧下で行ってもよい。0〜30bargの圧力が好ましく、10〜20bargの圧力が特に好ましい。
【0049】
更なる好ましい態様において、本発明の触媒は、1,1,1,2‐テトラフルオロエタンを調製するための多段階プロセスであって、トリクロロエチレンとフッ化水素を該触媒存在下で反応させて1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンを生成するプロセスに用いられる。1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンは次いで、触媒の存在下で更なるフッ化水素と反応して、1,1,1,2‐テトラフルオロエタンを生成する。トリクロロエチレンの1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンへの変換と、1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンの1,1,1,2‐テトラフルオロエタンへの変換は、単一反応器の別個の複数の反応領域で行ってもよいが、それらは好ましくは別々の反応器で行われる。両反応は気相中高温で行われる。
【0050】
1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンの1,1,1,2‐テトラフルオロエタンへの変換に好ましい圧力および温度条件は、上記の通りである。
【0051】
トリクロロエチレンの1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンへの変換の場合、プロセスは典型的には180〜300℃の範囲、好ましくは200〜280℃の範囲、特に220〜260℃の範囲の温度で行われる。大気圧または超大気圧が本プロセスで用いられる。典型的には、本プロセスは0〜30bargの範囲、好ましくは10〜20bargの範囲の圧力で行われる。
【0052】
1,1,1,2‐テトラフルオロエタンをトリクロロエチレンから調製するための上記多段階プロセスの特に好ましい態様は、
(A)第一反応領域において、1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンを本発明のフッ素化触媒の存在下、気相中250〜450℃の温度でフッ化水素と反応させて、1,1,1,2‐テトラフルオロエタンおよび塩化水素を未反応出発物質と一緒に含む生成物混合物を生成し、
(B)ステップ(A)の全生成物混合物およびトリクロロエチレンと所望により更なるフッ化水素を、本発明のフッ素化触媒を含む第二反応領域へ運び、該第二反応領域において、気相中180〜350℃でトリクロロエチレンをフッ化水素と反応させて1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンを生成し、
(C)1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタン、1,1,1,2‐テトラフルオロエタンおよび塩化水素を含んでなる生成物混合物をステップ(B)から集め、
(D)1,1,1,2‐テトラフルオロエタンを回収し、かつ、ステップ(A)の第一反応領域へ運ぶために適した1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンを含んでなる組成物を生成するようにステップ(C)の生成物を処理し、
(E)ステップ(D)から得られた1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタン組成物を所望により更なるフッ化水素と一緒に該第一反応領域へ運び、そして
(F)ステップ(D)で回収した1,1,1,2‐テトラフルオロエタンを集める
ステップを含んでなる。
【0053】
上記のプロセスは第一および第二反応領域に関するものであるが、これは本プロセスを特定の順序に制限するものとして受け取るべきではない。化学的に言うと、トリクロロエチレンが最初に1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンへ変換され、その1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンがその後続けて1,1,1,2‐テトラフルオロエタンへ変換される。このように、反応系列で最初の反応は、トリクロロエチレンのフッ化水素処理による1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンの生成である。
【0054】
第一および第二反応領域は第一および第二反応器を別々に備えていてもよく、またはそれらは単一反応器の別個の複数の領域でもよい。好ましくは、第一および第二反応領域は第一および第二反応器を別々に備える。
【0055】
少なくとも化学量論量のフッ化水素が上記プロセスのステップ(A)で通常用いられる。典型的には1〜10モルのフッ化水素、好ましくは1〜6モルのフッ化水素が1モル当たりの1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンに用いられる。したがって、ステップ(A)の生成物混合物は、1,1,1,2‐テトラフルオロエタン、塩化水素および副生成物に加えて、未反応のフッ化水素を通常含有している。それは未反応の1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンも含有することがある。ステップ(A)で好ましい反応温度は、250〜500℃の範囲、更に好ましくは280〜400℃の範囲、特に300〜350℃の範囲である。ステップ(A)で好ましい反応圧力は、0〜30bargの範囲、更に好ましくは10〜20bargの範囲、例えば約15bargである。第一反応領域で好ましい滞留時間は、1〜600秒間の範囲、更に好ましくは1〜300秒間の範囲、特に1〜100秒間の範囲である。
【0056】
ステップ(B)では、通常10〜50モルのフッ化水素、好ましくは12〜30モルのフッ化水素が1モル当たりのトリクロロエチレンに用いられる。しかも、この段階の反応生成物は未反応のフッ化水素を通常含有し、未反応のトリクロロエチレンも含有することがある。ステップ(B)で好ましい反応温度は、180〜300℃の範囲、更に好ましくは200〜300℃の範囲、特に220〜280℃の範囲である。ステップ(B)で好ましい反応圧力は、0〜30bargの範囲、更に好ましくは10〜20bargの範囲、例えば約15bargである。この第一反応領域で好ましい滞留時間は、1〜600秒間の範囲、更に好ましくは1〜300秒間の範囲、特に1〜100秒間の範囲である。
【0057】
第一および第二反応領域へ運ばれる反応物質混合物はフッ化水素を含んでいるべきだが、これは新鮮なまたは未使用の供給分の物質が両反応領域へ送られねばならないことを意味するものではない。例えば、未使用フッ化水素を十分な過剰量で第二反応領域のみに導入し、こうして、未反応フッ化水素を、ステップ(B)から出る生成物混合物から回収することができ、これがステップ(A)の第一反応領域で生じるフッ化水素処理反応を行うために十分な量であるように本プロセスを行うことができる。1つの可能性として、集められた1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタン組成物も第一反応領域での該反応を行うのに十分な量のフッ化水素を含有するように、本プロセスのステップ(D)を行うことである。あるいは、未使用フッ化水素を十分な過剰量で第一反応領域のみに導入し、こうしてフッ化水素をステップ(A)の生成物混合物に残留させ、これが第二反応領域に運ばれてトリクロロエチレンと反応するのに十分な量であるように、該プロセスを行いうる。加えて、起動後、第一および第二反応領域でフッ化水素処理反応に必要なフッ化水素を、本プロセスのステップ(D)を行うために用いられる蒸留カラム中へ導入してもよい。
【0058】
1,1,1,2‐テトラフルオロエタンを生成するための好ましい多段階プロセスを構成する反応および分離ステップは、通常の装置および技術を用いて行なってよい。ステップ(B)から集めた生成物を構成する使用可能な成分が互いに実質上分離される、事実上の分離/精製ステップであるステップ(D)は、当業者に既知の通常の蒸留、相分離および洗浄/スクラビングプロセスによって達成してもよい。
【0059】
1,1,1,2‐テトラフルオロエタンを生成するために好ましい多段階プロセスの運転は、EP‐A‐0449617に更に詳しく記載されている。
【0060】
他の好ましい態様において、本発明の触媒は、触媒の存在下において気相中高温でジクロロトリフルオロエタンをフッ化水素と反応させることを含んでなる、ペンタフルオロエタンの調製プロセスに用いられる。少なくとも280℃、例えば280〜400℃、の範囲の反応温度が典型的に用いられ、280〜380℃の範囲の反応温度が好ましく、300〜360℃の範囲の反応温度が特に好ましい。本プロセスは大気圧または超大気圧下で行ってもよい。典型的には、本プロセスは0〜30bargの圧力、好ましくは12〜22bargの圧力、更に好ましくは14〜20bargの圧力で行われる。
【0061】
更に他の好ましい態様において、本発明の触媒は、ジクロロトリフルオロエタンを生成するために、触媒の存在下でペルクロロエチレンをフッ化水素と反応させることを含んでなる、ペンタフルオロエタンを調製するための多段階プロセスで用いられる。ジクロロトリフルオロエタンを次いで、触媒の存在下で更なるフッ化水素と反応させて、ペンタフルオロエタンを生成する。ペルクロロエチレンのジクロロトリフルオロエタンへの変換と、ジクロロトリフルオロエタンのペンタフルオロエタンへの変換は、単一反応器の別個の複数の反応領域で行ってもよいが、それらは好ましくは別々の反応器で行う。両反応は気相中高温で行う。
【0062】
ジクロロトリフルオロエタンのペンタフルオロエタンへの変換のために好ましい圧力および温度条件は、上記の通りである。
【0063】
ペルクロロエチレンのジクロロトリフルオロエタンへの変換の場合、このプロセスは典型的には200〜350℃の範囲、好ましくは230〜330℃の範囲、特に240〜310℃の範囲の温度で行われる。大気圧または超大気圧をこのプロセスで用いてもよい。典型的には、本プロセスは0〜30bargの範囲の圧力、好ましくは10〜20bargの範囲の圧力、更に好ましくは12〜18bargの範囲の圧力で行う。
【0064】
ペンタフルオロエタンをペルクロロエチレンから製造するための上記多段階プロセスの特に好ましい態様は:
(A)第一反応器または複数の第一反応器において、本発明のクロム含有フッ素化触媒の存在下において気相中200〜350℃の温度でペルクロロエチレンをフッ化水素と反応させて、ジクロロトリフルオロエタン、塩化水素、未反応のフッ化水素およびペルクロロエチレン、組成物中有機化合物の総重量を基準として2重量%未満のクロロテトラフルオロエタンおよびペンタフルオロエタンならびに5重量%未満の式CCl6−xを有する化合物(xは0〜6の整数である)を含んでなる組成物を生成し、
(B)ステップ(A)からの組成物を分離ステップへ付して、組成物中の有機化合物の総重量を基準として、少なくとも95重量%のジクロロトリフルオロエタンおよび0.5重量%未満の式CCl6−xを有する化合物(xは0〜6の整数である)を含んでなる精製組成物を得て、そして
(C)第二反応器または複数の第二反応器において、本発明のクロム含有フッ素化触媒の存在下において気相中少なくとも280℃の温度でステップ(B)からの組成物をフッ化水素と反応させて、ペンタフルオロエタン、および組成物中の有機化合物の総重量を基準として0.5重量%未満のクロロペンタフルオロエタンを含んでなる組成物を生成する
ステップを含んでなる。
【0065】
式CCl6−xの化合物(xは0〜6である)によって、我々はトリクロロトリフルオロエタンおよびジクロロテトラフルオロエタンを含めるものとする。
【0066】
ステップ(A)では、3〜50モルのフッ化水素を1モル当たりのペルクロロエチレンに通常用いる。好ましくは4〜20モルのフッ化水素、更に好ましくは4〜10モルのフッ化水素を、1モル当たりのペルクロロエチレンに用いる。ステップ(A)で好ましい反応温度および圧力は、ペルクロロエチレンのジクロロトリフルオロエタンへの変換に関して上記した通りである。ステップ(A)の第一反応器で反応物質にとって好ましい滞留時間は、10〜200秒間の範囲、更に好ましくは30〜150秒間の範囲、特に60〜100秒間の範囲である。
【0067】
ステップ(C)では、2〜20モルのフッ化水素を1モル当たりのジクロロトリフルオロエタンに通常用いる。好ましくは2〜10モルのフッ化水素、更に好ましくは2〜6モルのフッ化水素を、1モル当たりのジクロロトリフルオロエタンに用いる。ステップ(C)で好ましい反応温度および圧力は、ジクロロトリフルオロエタンのペンタフルオロエタンへの変換に関して上記した通りである。ステップ(C)の第二反応器で反応物質にとって好ましい滞留時間は、10〜200秒間の範囲、更に好ましくは20〜100秒間の範囲、特に30〜60秒間の範囲である。
【0068】
ペンタフルオロエタンを生成するために好ましい多段階プロセスを構成する反応および分離ステップは、通常の装置および技術を用いて行ってもよい。分離ステップ(B)は、例えば、当業者に既知の通常の蒸留、相分離および洗浄/スクラビングプロセスを用いて達成してもよい。
【0069】
ペンタフルオロエタンを生成するための好ましい多段階プロセスの運転は、WO2007/068962に更に詳しく記載されている。
【0070】
使用を経て非活性化された触媒を再生または再活性化するために必要な停止時間以外は、本発明の触媒を連続的に用いるプロセスを行うことが好ましい。本プロセスの運転中に触媒へ空気を供給することは触媒不活性化を抑制し、触媒再生のためのプロセス停止の頻度を減らしうる。
【0071】
本発明をここで説明するが、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0072】
例1
触媒調製
触媒サンプル(触媒A)を次のように1トン/日スケールで製造した。
【0073】
亜鉛およびクロム(III)の水酸化物の混合物を、水酸化アンモニウム(脱イオン水中12.5%(w/w)のアンモニア)を用いて亜鉛およびクロム(III)の硝酸塩の水溶液から共沈により得た。亜鉛およびクロムの硝酸塩の溶液は、最終触媒中で約8.0重量%の亜鉛の担持量を達成するように、約10%(w/w)の含有量のクロムと約1.3%(w/w)の含有量の亜鉛を含有していた。用いた装置は冷却かつ攪拌される沈殿タンクを装備しており、そこに亜鉛およびクロムの硝酸塩を含んでなる水流と水酸化アンモニウムの別流を供給した。タンクスターラーを触媒調製時に500rpmで回転させた。混合硝酸塩供給物と水酸化アンモニウム供給物を、速やかな混和を確保するために、スターラーブレードに近い場所でタンクへ連続的に注入した。沈殿タンクで生成した混合水酸化物生成物は、触媒調製時に沈殿タンクで一定のスラリー容量を維持するオーバーフローポイントで集めた。一定温度を維持するように容器壁を冷却し、スラリーのpHを7〜8.5の範囲で維持するように水酸化アンモニウムの揚水速度を調整した。
【0074】
沈殿タンクからのスラリーを濾過して共沈した水酸化物混合物を回収し、次いで洗浄し、更に濾過した。
【0075】
洗浄した固体物のバッチを次いで窒素雰囲気中高温で一晩乾燥させ、粉末に砕き、2%(w/w)のグラファイトと混合し、直径および長さが約6mmの小粒を形成するように圧縮した。圧縮した小粒を次いで窒素流下300℃でか焼した。
【0076】
亜鉛分布の測定
生成した触媒をサンプリングし、透過型電子顕微鏡を用いてエネルギー分散型X線分析(EDAX)により触媒サンプルの表面全域における亜鉛分布を測定した。
【0077】
触媒Aの典型的サンプルに関する亜鉛分布を図1に示す。
【0078】
触媒試験
触媒Aを用いて、1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンとHFとの反応を触媒して1,1,1,2‐テトラフルオロエタンを生成し、使用による触媒活性の低下を測定することによりその安定性を調べた。触媒試験装置は単一のInconel製の反応器チューブを備えていた。
【0079】
粒径を2.0〜3.35mmに小さくした6gの触媒小粒をInconel製の反応器チューブに投入し、窒素(80mL/min)流下250℃および3bargの圧力で16時間にわたり乾燥した。次いで約3bargの圧力で窒素(80mL/min)およびHF(4mL/min)の混合気体を用いて触媒をフッ素化した。フッ素化プロセスを300℃で開始し、反応器温度を次いで25℃/hrで380℃まで上げた。その温度を380℃で更に7時間維持した。
【0080】
7時間が経過した後、窒素流を止め、なおもHF流を通しながら反応器を315℃まで冷却した。1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタン(30mL/min)およびHF(90mL/min)を次いで14bargの圧力で反応器へ供給した。1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンの1,1,1,2‐テトラフルオロエタンへの10%変換を達成するために要する温度を測定し、記録した。10%変換が生じる温度を触媒活性の基準として使用した‐より活性な触媒であるほど、より低い反応温度での10%変換を達成可能とする。
【0081】
48時間の運転後、1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンの供給を止め、触媒を再生サイクルへ付し、そこでは14bargの圧力で反応器へHF(90mL/min)および空気(6mL/min)の混合気体を通しながら、反応器を380℃の温度に維持した。このプロセスを少なくとも40時間続けた。
【0082】
再生プロセスを完了した後、空気流を止め、なおもHF流を通しながら反応器を315℃まで冷却した。HFおよび1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタン流を次いで再開し、触媒の活性を前記と全く同様の方法で調べた。48時間の運転サイクルの終了後に、再度、前記と同様の方法で触媒を再生した。
【0083】
使用によって触媒の活性がどのように低下するかを調べて、触媒安定性の基準を得るために、運転および再生サイクルを数回繰り返した。多くの運転および再生サイクルを経ると、触媒は活性を失い、1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンの1,1,1,2‐テトラフルオロエタンへの10%変換を達成するために要する温度は徐々に上昇する。10%変換を達成するために続ける必要がある反応器温度の上昇は触媒安定性の基準であり、より安定な触媒ほど周期的な熱化学応力付加により良く耐えられるため、10%変換を達成するために要する温度の上昇が少なくて済む。
【0084】
触媒Aの性能を図3に示す。
【0085】
例2
触媒調製
触媒Aを調製するために上記されたものと同様の手順を用いて触媒サンプル(触媒B)を1トンスケールで製造したが、但し静的ミキサーを硝酸クロム/硝酸亜鉛供給ライン内へ設置し、最終触媒の亜鉛分布を改善するためにジェットミキサーを用いて、合わせた供給物を沈殿タンクへ注入した。
【0086】
亜鉛分布の測定
得られた触媒をサンプリングし、触媒の表面全域における亜鉛分布を前記のように調べた。触媒Bの典型的サンプルに関する亜鉛分布を図2に示す。
【0087】
触媒試験
触媒Bを用いて1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンとHFとの反応を触媒し、その安定性を触媒Aに関して上記したように調べた。
【0088】
触媒Bの性能を図3に示す。改善された亜鉛分布を有する触媒Bの方がより安定であり、周期的な熱化学応力付加により良く耐えられることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある量の亜鉛を含んでなるクロム含有フッ素化触媒であって、前記亜鉛が、最大直径が1ミクロン以下の大きさを有する凝集物に含まれ、前記凝集物が触媒の少なくとも表面領域全体に分布し、ここで前記亜鉛含有凝集物の40重量%以上が、前記亜鉛含有凝集物中における亜鉛の最頻濃度の±1重量%以内の濃度の亜鉛を含有している、触媒。
【請求項2】
前記亜鉛含有凝集物の50重量%以上が、前記亜鉛含有凝集物中における亜鉛の最頻濃度の±1重量%以内の濃度の亜鉛を含有している、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記亜鉛含有凝集物の60重量%以上が、前記亜鉛含有凝集物中における亜鉛の最頻濃度の±1重量%以内の濃度の亜鉛を含有している、請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
前記亜鉛含有凝集物の70重量%以上が、前記亜鉛含有凝集物中における亜鉛の最頻濃度の±1重量%以内の濃度の亜鉛を含有している、請求項1に記載の触媒。
【請求項5】
前記亜鉛含有凝集物の80重量%以上が、前記亜鉛含有凝集物中における亜鉛の最頻濃度の±2重量%以内の濃度の亜鉛を含有している、請求項1〜4のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項6】
前記亜鉛含有凝集物の85重量%以上が、前記亜鉛含有凝集物中における亜鉛の最頻濃度の±2重量%以内の濃度の亜鉛を含有している、請求項1〜4のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項7】
前記亜鉛含有凝集物の90重量%以上が、前記亜鉛含有凝集物中における亜鉛の最頻濃度の±2重量%以内の濃度の亜鉛を含有している、請求項1〜4のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項8】
前記触媒表面の各平方ミリメートルまたは前記触媒バルクの各平方ミリメートルにおける前記亜鉛含有凝集物の数が、前記触媒表面または前記触媒バルクの平方ミリメートル当たりにおける前記亜鉛含有凝集物の平均数の±2%以内である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項9】
前記亜鉛含有凝集物が前記触媒バルクの全体にわたって分布している、請求項1〜8のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項10】
前記亜鉛含有凝集物が20nm〜1ミクロンの範囲の大きさを有している、請求項1〜9のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項11】
前記触媒が、クロミア、フッ化クロム(III)、フッ素化クロミアおよびオキシフッ化クロム(III)からなる群より選択される1種以上のクロム(III)化合物を含んでなる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項12】
前記触媒がか焼プロセスに付されたものである、請求項11に記載の触媒。
【請求項13】
前記触媒がか焼プロセスに付され、その後続けてフッ素化されたものである、請求項11に記載の触媒。
【請求項14】
前記触媒がか焼プロセスに付され、その後続けてフッ化水素で処理されたものである、請求項13に記載の触媒。
【請求項15】
前記クロムの総重量を基準として、前記触媒中のクロムの92.0〜100重量%がクロム(III)として存在している、請求項11〜14のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項16】
1種以上のクロム(VI)化合物を更に含んでなり、前記クロムの総重量を基準として、前記触媒中のクロムの0.1〜8.0重量%がクロム(VI)として存在している、請求項11〜14のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項17】
前記クロムの総重量を基準として、前記触媒中のクロムの92.0〜99.9重量%がクロム(III)として存在している、請求項16に記載の触媒。
【請求項18】
1種以上のクロム(VI)化合物を更に含んでなり、前記クロムの総重量を基準として、前記触媒中のクロムの0.1〜6.0重量%がクロム(VI)として存在している、請求項11〜14のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項19】
前記クロムの総重量を基準として、前記触媒中のクロムの94.0〜99.9重量%がクロム(III)として存在している、請求項18に記載の触媒。
【請求項20】
1種以上のクロム(VI)化合物を更に含んでなり、前記クロムの総重量を基準として、前記触媒中のクロムの0.5〜4.0重量%がクロム(VI)として存在している、請求項11〜14のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項21】
前記クロムの総重量を基準として、前記触媒中のクロムの96.0〜99.5重量%がクロム(III)として存在している、請求項20に記載の触媒。
【請求項22】
1種以上のクロム(VI)化合物を更に含んでなり、前記クロムの総重量を基準として、触媒中のクロムの1.0〜2.0重量%がクロム(VI)として存在している、請求項11〜14のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項23】
前記クロムの総重量を基準として、前記触媒中のクロムの98.0〜99.0重量%がクロム(III)として存在している、請求項22に記載の触媒。
【請求項24】
前記亜鉛が、前記触媒の総重量を基準として、0.5〜25.0重量%の量で前記触媒中に存在している、請求項1〜23のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項25】
前記亜鉛が、前記触媒の総重量を基準として、0.5〜10.0重量%の量で前記触媒中に存在している、請求項1〜23のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項26】
前記亜鉛が、前記触媒の総重量を基準として、1.0〜6.0重量%の量で前記触媒中に存在している、請求項1〜23のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項27】
前記触媒が非晶質である、請求項1〜26のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項28】
前記触媒が部分的に結晶質で、0.4〜5重量%の1種以上のクロムの結晶化合物および/または1種以上の亜鉛の結晶化合物を含有している、請求項1〜26のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項29】
前記触媒の表面積が20〜300m/gの範囲である、請求項1〜28のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項30】
前記触媒の表面積が100〜250m/gの範囲である、請求項1〜28のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項31】
前記触媒の表面積が180〜220m/gの範囲である、請求項1〜28のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項32】
フッ素化炭化水素を製造する方法であって、請求項1〜31のいずれか一項で記載されているようなフッ素化触媒の存在下において、気相中高温で炭化水素またはハロゲン化炭化水素をフッ化水素と反応させることを含んでなる、方法。
【請求項33】
1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンが前記触媒の存在下でフッ化水素と反応して、1,1,1,2‐テトラフルオロエタンを生成する、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
トリクロロエチレンが前記触媒の存在下でフッ化水素と反応して、1‐クロロ‐2,2,2‐トリフルオロエタンを生成する、請求項32に記載の方法。
【請求項35】
ジクロロトリフルオロエタンが前記触媒の存在下でフッ化水素と反応して、ペンタフルオロエタンを生成する、請求項32に記載の方法。
【請求項36】
ペルクロロエチレンが、前記触媒の存在下でフッ化水素と反応して、ジクロロトリフルオロエタン、クロロテトラフルオロエタンおよび/またはペンタフルオロエタンを生成する、請求項32に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−501826(P2012−501826A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−525610(P2011−525610)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【国際出願番号】PCT/GB2009/002124
【国際公開番号】WO2010/026382
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(510127697)メキシケム、アマンコ、ホールディング、ソシエダッド、アノニマ、デ、カピタル、バリアブレ (24)
【氏名又は名称原語表記】MEXICHEM AMANCO HOLDING S.A. DE C.V.
【Fターム(参考)】