説明

触媒フィルタ

少なくとも40%の多孔率を有してなり、押出しタイプの選択式触媒還元(SCR)触媒から形成されてなる、ウォールフローフィルターモノリス基材。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、触媒、とりわけ選択式触媒還元(SCR)触媒を備えてなるウォールフローフィルタモノリス基材に関するものである。
【0002】
ウォールフィルタは、一般にハニカム配列において複数のチャンネル(通路)を備えてなり、一般的にコージライト又は炭化ケイ素のようなセラミック材料から形成される。この配列は、そのチャンネルの少なくとも一部は、上流端がプラグされ(閉塞され)、上流端にプラグされていないチャンネルの少なくとも一部は下流端がプラグされている。そのため、一の端部(末端)から見ると、プラグされ、及び開口したチャンネル端部の配列は市松模様のように見える。
【0003】
本明細書において記載する通り、選択式触媒還元(又は“SCR”)の用語は、適切な還元剤の下で窒素酸化物を転化(転換)する方法に関するものである。
【0004】
炭化水素(HC)によるSCRにおいて、HCはOよりむしろ、NOと反応し、化学反応式(1)によって窒素、CO、及び、水を形成する。
{HC}+NO→N+CO+HO (1)
【0005】
酸素との競合、非選択的反応は、化学反応式(2)によって与えられる。
{HC}+O→CO+HO (2)
【0006】
或いは、アンモニアのような窒素還元剤を使用することにより、化学反応式(3)、(4)及び/又は(5)に従って、選択的にNOを還元する。
4NH+4NO+O→4N+6HO (3)
2NH+NO+NO→2N+3HO (4)
8NH+6NO→7N+12HO (5)
【0007】
反応(4)は、ある種のSCR触媒、例えばヴァナディア−ベースのSCR触媒機構(V/WO/TiOのような)にとって有利である。これは、反応(3)又は(5)のいずれかより比較的早いためである。
【0008】
HC−SCR触媒もまた、時々「リーンNO触媒」(LNCs)又は「DeNOx触媒」及び「非選択式触媒還元触媒」と呼ばれることがある。HCを使用するNOx還元は、窒素還元剤を使用するSCRと比べて、選択反応が少ないことによるものである。既知のHC−SCR触媒は、Cu/ゼオライト、
Pt/アルミナ、及びAg/アルミナを包含する。
【0009】
SCR触媒は、基材モノリスの上にウォッシュコートされた触媒組成物又は押し出しにおける成分として使用可能である。後者の選択に関して、EP0219854は、アナターゼ(5重量%〜40重量%)、ゼオライト(50%〜90%)、結合材(0%〜30%)、及び、任意に、少なくとも0.1重量%の量でヴァナディウム、モリブデン、又は、銅の酸化物の助触媒の混合物から形成された複合体の携帯において、アンモニアの存在下で、窒素酸化物を窒素へ選択的に還元するための触媒を開示している。WO00/30746は、類似した触媒を開示している。
【0010】
SAE2004−01−0075は、“押出均一SCR触媒の耐久性”と題している。
【0011】
EP1300193は、燃焼エンジンの排ガスに含まれる有害物質の触媒転化の方法及び装置を開示しており、これは排ガスに触媒担持多孔質担体を通過させるものである。その担体は触媒材料担体自体から構成されてよく、触媒材料がその細孔をコーティングしており、及び/又は排ガスが通過する表面の片側又は両側に触媒層を有するものとされてよい。
【0012】
JP3−130522は、脱硝触媒担持セラミック多孔質フィルタに続いて、アンモニアインジェクターを備えてなる、ディーゼル排ガスを処理するための排気機構を開示している。
【0013】
DE10323607は、構造単位において粒子フィルタと結合したSCR触媒を開示しており、それはSCR触媒及び/又は粒子フィルタを破壊することなしには分離できない。
【0014】
US7225613は、窒素酸化物及び粒子状物質の両方を転化するための二つの機能を持ったディーゼルエンジン後処理装置を開示している。
【0015】
US2007/0259770は、押出しモノリス触媒コンバーター及び製造方法を開示している。
【0016】
WO01/12320は、(上記で述べたように)ウォールフローフィルタを備えてなる燃焼エンジンの排気機構用ウォールフロー型フィルタを開示しており、このフィルタは、下流端部で閉塞したチャンネルの上流端部で実質的にガス不透過性領域上に酸化触媒と、及びこの酸化触媒の下流にある、煤を捕捉するためのガス透過性フィルタゾーンとを備えてなり、この酸化触媒(好ましくは白金族金属を包含する)が、NOから十分なNOを発生させて捕捉した煤を連続的に400℃未満の温度で燃焼することができる。
【0017】
EP1837063は、セメントを使用し、押出し基材モノリスにおけるチャンネルの端部を不透過(通過)にした、ハニカムフィルタを製造する方法を開示している。
【0018】
WO99/39809から、特に、粒子状物質及び窒素酸化物、その他のものを処理する、SCR触媒を包含する排気機構において、多くの個々の独自な要素を組み合わせることは公知である。しかし、使用される排ガス後処理部品の数及び全体積は、排気機構の全コストを増加するだけでなく、その機構の全体積及び重量を増加することとなる。WO99/39809に開示された、方法(タイプ)の機構に適合可能とする体積は限界がある。自動車の排気機構全体が重くなればなるほど、自動車を運行するための燃料はより必要とされる。
【0019】
更に、比較される触媒形成及び反応ガス混合物の組成によって、押出しタイプのSCR触媒は、ウォッシュコートされたSCR触媒より活性を示す。押出しタイプのSCR触媒は、単位体積当たりより多くの触媒作用をなすことが可能だからである。
【0020】
我々は、今般、SCR触媒を含むフィルタを開発した。これは、システムにおいて、相対的に高い触媒活性と、排ガス後処理部品の全体積の減少を組み合わせたものであり、WO99/39809で開示されているように、同様な機能性を組み合わせた公知の触媒機構に対して、同様の粒子状物質と窒素酸化物を処理するための活性を有するものである。
【0021】
第1の態様によれば、本発明は、押出しタイプの選択式触媒還元(SCR)触媒から形成され、少なくとも40%の多孔率を有するウォールフローフィルタモノリス基材から成る。
【0022】
ウォールフロー型フィルタは、多くの小さな並行チャンネル(通路)からなり、これは、一般的に矩形断面を有し、その一部を介して軸方向に流出するものである。フィルタモノリスは、チャンネルを閉塞する(プラグする)ことによりフロースルーモノリスから得られる。隣接するチャンネルは、二者択一的に、どちらか一方の端部(end:末端、先端)が閉塞され、そうすることで一端部(一方端部)から見ると、この配列は市松模様のように見える(を呈する)。排出物質(エアロゾル)、例えば、ディーゼル排出物質(エアロゾル)は、機械的フィルタの機能を果たす多孔質基材壁を介して強制的に排出される。このフローパターンを反映して、この基材はウォールフローモノリスと呼ばれる。
【0023】
本明細書において定義されるように、「ウォールフロー型フィルタ」は、好ましくは、配列というものである。この配列において、ハニカム配列における複数のチャンネルは、コージライト又は炭化ケイ素のようなセラミック材料から一般的に形成されてなり、チャンネルの少なくとも一部は上流端部で閉塞され、上流端部で閉塞されていないチャンネルの少なくとも一部が下流端部で閉塞されてなり、この配列がこのように形成されることにより、一端部(一方端部)から見ると、閉塞され及び開口しているチャンネル端部の配列が市松模様のように見えることが分かる。しかし、それはまた、もう一つの配列を意味し、チャンネルの幾つかが上流端部又は下流端部のいずれにおいて閉塞されておらず、そのため、チャンネルは、ろ過効果を付与するチャンネルに対してバイパスとして機能する。そのようなウォールフロー型フィルタは、例えば、WO00/50745で開示されている配列を包含する。
【0024】
本発明で使用するのに適切なフィルタモノリス材料は、比較的低い圧力損失及び比較的高いろ過効率を有する。熟練した技術者は、多孔率と機械的強度との間にトレードオフが存在し、即ち、より小さな細孔径と低い多孔率の基材は、高い多孔率の基材より一般的に強度が高いことが分かる。温度特性、即ち、熱容量、及び、熱伝導性の両方は、多孔率が増加するにつれて、減少する。好適なフィルタ材料は、一般的に、45%−55%から、又は、更に60%以上の多孔率を有する。そのような材料の望ましい特徴は、それらが優れた細孔の相互接続性、及び、可能な限り、殆ど閉塞され、又は「行き止まり」のない細孔を有することである。好適な平均細孔径は8〜25μm、例えば15〜20μmである。本明細書において説明された多孔率値は、水銀ポロシメーター又は電子顕微鏡によって測定出来る。
【0025】
実施態様において、本発明によるウォールフローフィルタは少なくとも45%、例えば、少なくとも50%、又は、少なくとも55%の多孔率を有する。
【0026】
他の実施態様において、押出しSCR触媒が形成される押出し組成物の活性SCR物質は、少なくとも一つの遷移金属を含有するゼオライトを含んでなる。この押出し組成物はアルミナを含んでなり、それはまた、少なくとも一つの遷移金属を担持する。ゼオライト又はアルミナにおける少なくとも一つの遷移金属は、Cu、Fe、Hf、La、Au、In、V、ランタニド、及び、VIII群からなる群から選択される。
【0027】
好ましい実施態様において、遷移金属はセリウム、鉄、銅、又はこれらの組合せである。
【0028】
本発明で使用するゼオライトは、天然物又は人工物であってよく、A−ゼオライト、X−ゼオライト、又はY−ゼオライト、モルデナイト、ベータ、ZSM−5又はUSYを包含する。
【0029】
更なる実施態様において、押出し組成物における活性SCR物質は、チタニア及び酸化バナジウムから成り、押出し組成物はまた、任意にタングステンを含有する。
【0030】
上記実施態様のいずれにおいて、押出し組成物は無機繊維を含んでなることができ、フィルタモノリス基材の機械的強度を改善する。
【0031】
フィルタモノリス基材は、例えばディーゼルエンジン、とりわけ、車両(自動車)用エンジン等の、リーンバーン内燃エンジンからの排ガスを処理するための排気機構に組み込むことができる。還元剤供給源は一般に要求される。
【0032】
他の態様によれば、本発明は、本特許請求の範囲に記載された(前記)いずれかのフィルタモノリス基材を製造する方法を提供する。この製造方法は、
選択式触媒還元触媒を含んでなり、かつ、第一の開口チャンネル端部及び第二の開口チャンネル端部を包含するフローチャンネルの配列を有する、押出しフロースルーモノリス基材を形成し、
プラグ形成物質を複数の第一チャンネルに挿入し、複数の第一チャンネルにおける第一端部に、実質的に不透過性のプラグ(栓)を形成し、及び
前記プラグ形成物質を複数の第二チャンネルに挿入し、複数の第二チャンネルにおける第二端部に、実質的に不透過性のプラグ(栓)を形成することを含んでなり、
前記フロースルーモノリス基材が、少なくとも40%の多孔率を有してなり、又は有することが可能なものである。
【0033】
プラグ形成物質は、例えば、セメントである。
【0034】
他の態様によれば、窒素酸化物及び粒子状物質を含有するディーゼルエアロゾル(排気物質)を処理する為に、本発明によるウォールフローフィルタモノリスの使用が提供される。この使用は、排出ガス(キャリアガス)からディーゼル粒子状物質をろ過し、フィルタモノリスの存在下で、窒素酸化物を還元剤に接触することにより、排出ガス(キャリアガス)の窒素酸化物を窒素に転化する各工程を備えてなる。望ましい実施態様において、本発明は、車両(自動車)排気ガスの処理に使用される。
【0035】
使用される還元剤は、炭化水素が可能であり、例えば、ディーゼル又はガソリン等の車両用燃料、或いはジメチルエーテル(DME)又は菜種メチルエーテルのような代替炭化水素(HC)供給源などである。本発明で使用する窒素の還元剤は、アンモニアそれ自体、ヒドラジン、或いは尿素((NHCO)、炭酸アンモニウム、カルバン酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、又はギ酸アンモニウムなどのアンモニア前駆体を含む。
【0036】
過剰な還元剤を大気に放出することを防ぐために、還元剤を「浄化」するのに適切な触媒で、フィルタモノリス基材の出口端部をコーティングすることが可能である。そのような触媒は、例えば、アンモニアスリップ触媒(ASC)が知られており、この触媒はアルミナ又はフィルタ材料それ自体(例えばEP410440を参照)で担持される比較的少ない充填量の白金族金属を含有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも40%の多孔率を有してなり、
押出しタイプの選択式触媒還元(SCR)触媒から形成されてなる、ウォールフローフィルターモノリス基材。
【請求項2】
押出し組成物における活性SCR物質が、少なくとも一つの遷移金属を含んでなるゼオライトを備えてなる、請求項1に記載されたフィルターモノリス基材。
【請求項3】
前記押出し組成物がアルミナを含んでなる、請求項2に記載されたフィルターモノリス基材。
【請求項4】
前記アルミナが少なくとも一つの遷移金属を担持してなる、請求項3に記載されたフィルターモノリス基材。
【請求項5】
前記少なくとも一つの遷移金属が、Cu、Fe、Hf、La、Au、In、V、ランタニド元素、及び、VIII群の遷移金属から成る群から選択されてなる、請求項2〜4の何れか一項に記載されたフィルターモノリス基材。
【請求項6】
押出し組成物における活性SCR物質が、チタニア及び酸化バナジウムを含んでなる、請求項1に記載されたフィルターモノリス基材。
【請求項7】
前記押出し組成物がタングステンを含んでなる、請求項6に記載されたフィルターモノリス基材。
【請求項8】
前記押出し組成物が無機繊維を含んでなる、請求項2〜7の何れか一項に記載されたフィルターモノリス基材。
【請求項9】
請求項1〜8の何れか一項に記載されたフィルターモノリス基材を製造する方法であって、
選択式触媒還元触媒を含んでなり、かつ、第一の開口チャンネル端部及び第二の開口チャンネル端部を包含するフローチャンネルの配列を有する、押出しフロースルーモノリス基材を形成し、
プラグ形成物質を複数の第一チャンネルに挿入し、複数の第一チャンネルにおける第一端部に、実質的に不透過性のプラグを形成し、及び
前記プラグ形成物質を複数の第二チャンネルに挿入し、複数の第二チャンネルにおける第二端部に、実質的に不透過性のプラグを形成することを含んでなり、
前記フロースルーモノリス基材が、少なくとも40%の多孔率を有してなり、又は有することが可能なものである、製造方法。
【請求項10】
窒素酸化物及び粒子状物質を含有するディーゼル排出物質を処理するための、請求項1〜8の何れか一項に記載されたウォールフローフィルターモノリスの使用であって、
排出ガスからディーゼル粒子状物質をろ過し、及び
前記フィルターモノリスの存在下において、窒素酸化物を還元剤に接触させ、
前記排出ガス中における窒素酸化物を窒素に転化するとの各工程を備えてなる、使用。

【公表番号】特表2011−509826(P2011−509826A)
【公表日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−543579(P2010−543579)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050049
【国際公開番号】WO2009/093071
【国際公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】