説明

触媒充填構造

【課題】 容器内に触媒層を充填した構造において、容器が熱膨張と収縮を繰り返したときに触媒層を構成する触媒粒子が圧縮破壊されることを防止する。
【解決手段】 熱膨張性を有する容器A内に、該容器Aより小さい熱膨張率を有する触媒粒子20を充填して触媒層Bを形成した触媒充填構造において、容器Aが熱膨張後に縮小した際に、その内容積の減少による前記触媒粒子20の圧縮破壊を防止するように、前記触媒層Bにその触媒層Bより大きい熱膨張性を有する粒体21を混合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱膨張性を有する容器内に、該容器より小さい熱膨張性を有する触媒粒子を充填して触媒層を形成した触媒充填構造に関し、詳しくは容器が熱膨張後に縮小した際に、その内容積の減少による触媒の圧縮破壊を防止するようにした触媒充填構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば燃料電池の燃料として水素リッチな改質ガスが使用されるが、この改質ガスは反応容器内に水蒸気改質触媒を充填した改質器で生成される。図2は改質器の1例を示す模式的な断面図である。改質器1は内筒2と外筒3により構成される二重構造の反応容器4を備え、内筒2には上から順に混合触媒層5、高温シフト触媒層6、低温シフト触媒層7が配置され、それらの境界は多孔性の仕切板8で仕切られる。
【0003】
さらに内筒2の中央部に酸素含有気体(例えば空気)を供給する酸素含有気体供給管9が貫通し、その吹出ノズル10が混合触媒層5に開口している。また外筒3には水蒸気改質触媒層11が配置される。そして外筒3の下部にはメタンなどの原料ガスと水蒸気の混合物(原料−水蒸気混合物)を供給する配管12が連通し、内筒2の下部には生成した改質ガスを排出する配管13が連通する。
【0004】
水蒸気改質触媒層11は、粒径2〜3mm程度の粒状の水蒸気改質触媒を充填して形成される。水蒸気改質用としての担持触媒は、Ni或いはRh等が使用され、その担体はAl2 3 などが使用されている。混合触媒は上記水蒸気改質触媒に酸化触媒を混合したものであり、同様な粒径に形成される。酸化触媒は供給される原料ガスの一部を酸化し、その酸化熱で混合触媒層を水蒸気改質反応温度、例えば700℃程度に昇温するもので、担持触媒としては例えば白金(Pt)やパラジウム(Pd)を使用することができる。
【0005】
なお、水蒸気改質触媒に対する酸化触媒の混合割合は、水蒸気改質すべき原料ガスの種類に応じて1〜15%程度の範囲で選択する。例えば原料ガスとしてメタンを使用する場合は5%±2%程度、メタノールの場合は2%±1%程度の混合割合とすることが望ましい。
【0006】
高温シフト触媒層6や低温シフト触媒層7を構成する粒状のシフト触媒としては、水蒸気改質触媒と同様な粒径に形成されたCuO−ZnO2 、Fe2 3 、Fe3 4 または酸化銅の混合物等の触媒が使用され、700℃以上で反応を行う場合にはCr2 3 のような触媒が使用される。
【0007】
配管12から供給された原料−水蒸気混合物は外筒3の水蒸気改質触媒層11(内筒2からの熱で昇温している)を通過する間に原料ガスの一部が水蒸気改質され、水素リッチな改質ガスを生成する。生成した改質ガスと残りの原料−水蒸気混合物は水蒸気改質触媒層11の上部から内筒2に入り、混合触媒層5において酸素含有ガス供給管9から供給される酸素含有ガスで原料ガスの一部を酸化反応して昇温し、水蒸気改質触媒で水蒸気改質を行って改質ガスを生成する。生成した改質ガスは高温シフト触媒層6、低温シフト触媒層7を順次通過する間に残留する一酸化炭素(CO)のほとんどが水素に変換されて配管13より排出し、図示しない燃料電池などの負荷設備に供給される。
【0008】
上記改質器1を含め、内部に触媒を充填した容器は通常ステンレス系金属で作られる。このような金属製容器の熱膨張はかなり大きく、上記改質器のように冷却時と反応時の温度差が700℃程度の場合には1%程度の膨張が発生する。一方、容器の内部に配置した触媒層の熱膨張係数は一般に金属製の容器より小さく、例えば水蒸気改質触媒のように耐熱性に優れたセラミック担体を使用している場合の熱膨張係数はステンレス系金属の50%〜70%程度である。
【0009】
上記のように、容器よりその内部に配置した触媒層の熱膨張性が小さい場合、高温時には容器と触媒層の間に隙間を生じ、その後冷却したときはその隙間が縮小することを繰り返す。図3は温度変化と隙間の関係を示すものである。
【0010】
図3(a)は容器Aが加熱される前の状態であり、その内部に触媒層Bが規定レベルまで充填されている。図3(b)は加熱された状態であり、容器Aと触媒層Bの熱膨張性の差により容器Aの内壁と触媒層Bの間に隙間Cが形成されることを示している。このような隙間Cが生じると、図3(c)のように触媒層Bが重力作用によりその隙間Cを埋める。そのため触媒層Bのレベルは図示のようにtだけ低下する。
【0011】
さらに図3(c)の状態から容器Aが冷却すると、容器Aは図3(a)のように縮小するが、その際、容器Aの内壁が前記隙間Cを解消する方向に移動するので、触媒層Bは内側方向に圧縮される。容器Aにおける運転と停止のサイクルごとに、このように熱膨張と収縮が繰り返えされ、その都度触媒層Bの触媒粒子、特に下方に充填された触媒粒子が大きく圧縮され、それによって下方の触媒粒子の圧縮破壊が進行する。容器Aに当初充填された規定の粒径の触媒粒子が圧縮破壊されて細かい粉体になると、容器A内部の気体流通路を閉塞し、改質ガス等の生成効率を低下させる。
【0012】
容器Aの熱膨張と収縮の繰り返しによる触媒粒子の圧縮破壊を防止する方法が特許文献1に提案されている。特許文献1に記載された技術は、容器と同じ熱膨張性を有する通気性の仕切板を多段に設け、各仕切板の間に触媒をそれぞれセパレートして充填するものである。このような仕切板を設けることにより、下方の仕切板間に充填した触媒であっても、仕切板によって触媒の自重のかかり具合が少なくなるため、該部分における触媒粒子の圧縮破壊が抑制出来るとしている。
【0013】
【特許文献1】特開2004−57955号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし特許文献1の方法は容器内に多段の仕切板を設けるので、構造が複雑化し、容器重量も大きくなるという問題がある。また同種の触媒粒子の場合でも、それらを各仕切板の間に順次充填する必要があるので、定期的に実施される触媒層の交換作業等に手間がかかる。そこで本発明は従来技術におけるこのような問題を解決することを課題とし、そのための新しい触媒充填構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記課題を解決する本発明は、熱膨張性を有する容器内に、該容器の熱膨張係数より小さいそれを有する触媒粒子を充填することにより触媒層を形成した触媒充填構造である。そして本触媒充填構造は、容器が熱膨張後に縮小した際に、その内容積の縮小による前記触媒粒子の圧縮破壊を防止するように、前記触媒層にその触媒層より大きい熱膨張性を有する粒体を混合したことを特徴とする(請求項1)。
上記構成に加えて、前記触媒層に前記容器と同等もしくはそれより大きい熱膨張性を有する粒体を混合することを特徴とする(請求項2)。
【0016】
上記触媒充填構造において、前記容器をステンレス系の金属で作り、前記粒体を容器と同種のステンレス系金属、ニッケルまたはニッケル合金で作ることができる(請求項3)。
【0017】
上記いずれかの触媒充填構造において、前記粒体は隙間形成性を有する形状とすることができる(請求項4)。
【0018】
さらに上記いずれかの触媒充填構造において、前記容器は燃料電池用改質器の反応容器とすることができる(請求項5)。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載した本発明の触媒充填構造は、容器が熱膨張後に縮小した際に、その内容積の縮小による触媒粒子の圧縮破壊を防止するように、触媒層にその触媒層より大きい熱膨張係数を有する粒体を混合している。そのため容器が熱膨張と収縮を繰り返したとしても、触媒粒子が圧縮破壊されることを有効に防止できる。また従来のように容器内に同種の触媒層をセパレートする多段の仕切板などを設ける必要がないので、容器構造が簡単になる。
【0020】
上記構成に加えて、前記触媒層に前記容器と同等もしくはそれより大きい熱膨張性を有する粒体を混合する場合には、さらに触媒粒子が圧縮破壊されることを有効に防止できる。(請求項2)。
上記触媒充填構造において、請求項3に記載のように、前記容器をステンレス系金属で作る場合に、前記粒体をその容器と同種のステンレス系金属、またはニッケルやニッケル合金で作ることにより、粒体の熱膨張係数を容易に容器と同等またはそれより大きく設定できる。さらにその粒体をニッケルやニッケル合金としたので、耐酸化性が向上する。
【0021】
上記いずれかの触媒充填構造において、請求項4に記載のように、隙間形成性を有する形状とする場合は、その粒体を触媒粒子に混合したとき、触媒粒子と粒体との境界部分に多数の間隙部を形成できるので、触媒層の気体流通性を改善することができる。
【0022】
さらに上記いずれかの触媒充填構造において、前記容器を燃料電池用改質器の反応容器とする場合は、700℃程度の高温に達する改質器内に充填される触媒粒子の圧縮破壊を有効に防止できる(請求項5)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
次に本発明を実施するための最良の形態を説明する。図1は本発明の触媒充填構造を模式的に示す部分断面図である。容器A内に触媒層Bが充填されて触媒充填構造が構成される。容器Aは例えば図2に示す改質器1を構成する内筒2または外筒3のような反応容器4であり、触媒層Bは例えば水蒸気改質触媒層11または混合触媒層5などである。
【0024】
容器Aは耐熱性および耐食性に優れた金属であるステンレス鋼で作られ、その熱膨張係数は一例として13×10-6(20℃ 以下同じ)程度である。一方、容器A内に配置される触媒層Bは図示のように触媒粒子20に粒体21を混合して構成される。通常、高温で使用する触媒粒子は2〜3mm程度の粒径を有するアルミナ等のセラミック担体に触媒物質を担持したものであり、その熱膨張係数はセラミック担体の熱膨張係数によって決まる。担体として例えばアルミナを使用する場合の熱膨張係数は8×10-6程度である。
【0025】
粒体21は前述のように容器と同等もしくはそれより大きい熱膨張係数を有するものが選択される。例えば容器Aがステンレス鋼で作られている場合、粒体21は容器Aと同様なステンレス鋼、またはニッケルやニッケル合金等を使用できる。なおニッケルの熱膨張係数は13.3×10-6程度であり、商品名インコネルのようなニッケル合金の熱膨張係数は11.5×10-6程度である。
【0026】
粒体21の形状は球形や短柱状などでもよいが、楔形または金平糖形のように外面に複数の突起を有する形状のものは、触媒粒子20に混合したときに、それとの境界部分に微細な隙間を形成する特性(隙間形成性)を有するので好ましい。このように微細な隙間が形成されると、充填効率は多少低下するものの、前述のように触媒層の気体流通性を改善できる。粒体21の最大径は触媒粒子20の粒径と略等しいか又はそれより若干大きい程度が好ましい。実験によれば触媒粒子20の粒径が2〜3mmの場合、粒体21の最大径を2〜5mm程度とすると、充填効率などの点で好ましいことがわかった。
【0027】
触媒粒子20に対する粒体21の混合割合は、形成される触媒層Bの総合熱膨張係数(触媒粒子20と粒径21が混合した状態における触媒層Bの熱膨張係数)と反応効率(単位容積あたりの反応性能)によって決められる。すなわち粒体21の混合割合が低すぎると目的とする触媒層Bの総合熱膨張係数に達しなくなり、高すぎると触媒粒子20の割合が少なくなって反応効率が低下する。
【0028】
実験によれば粒体21の熱膨張係数が容器Aの熱膨張係数と同等の場合、触媒粒子20と粒体21の混合割合は容積比で5〜30%程度が好ましいことが分かった。なお粒体21の熱膨張係数がより大きい場合は、その大きさの程度に応じて粒体21の混合割合を低くすればよい。
【0029】
これまでの実施形態では、容器Aとして二重構造の反応容器を例に説明したが、本発明はこれに限らず、単なる1重構造の反応容器であってもよく、それらの断面は円形、楕円形、矩形などであってもよい。
また、容器Aは改質器以外の他の反応容器であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の触媒充填構造は、燃料電池に改質ガスを供給する改質器などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の触媒充填構造の模式的な部分断面図。
【図2】水蒸気改質を行う改質器の1例を模式的に示す断面図。
【図3】容器Aと触媒層Bの熱膨張関係を説明する図。
【符号の説明】
【0032】
1 改質器
2 内筒
3 外筒
4 反応容器
5 混合触媒層
6 高温シフト触媒層
7 低温シフト触媒層
8 仕切板
9 酸素含有気体供給管
10 吹出ノズル
【0033】
11 水蒸気改質触媒層
12,13 配管
20 触媒粒子
21 粒体
A 容器
B 触媒層
C 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱膨張性を有する容器A内に、該容器Aの熱膨張係数より小さいそれを有する触媒粒子20を充填して触媒層Bを形成した触媒充填構造において、容器Aが熱膨張後に縮小した際に、その内容積の縮小による前記触媒粒子20の圧縮破壊を防止するように、前記触媒層Bにその触媒層Bより大きい熱膨張性を有する粒体21を混合したことを特徴とする触媒充填構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記触媒層Bに前記容器Aと同等もしくはそれより大きい熱膨張性を有する粒体21を混合したことを特徴とする触媒充填構造。
【請求項3】
請求項1において、前記容器Aがステンレス系金属で作られ、前記粒体21が容器Aと同種のステンレス系金属、ニッケルまたはニッケル合金で作られたものであることを特徴とする触媒充填構造。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記粒体21は隙間形成性を有する形状であることを特徴とする触媒充填構造。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかにおいて、前記容器Aは燃料電池用改質器の反応容器であることを特徴とする触媒充填構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−7014(P2006−7014A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184242(P2004−184242)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000222484)株式会社ティラド (289)
【Fターム(参考)】