説明

触媒劣化判定システム

【課題】触媒劣化判定システムにおいて、NOxの還元時にNOx触媒で生成されるNHを利用して、より正確なNOx触媒の劣化判定を行う。
【解決手段】内燃機関の排気通路に設けられてNOxを吸蔵し、吸蔵していたNOxを還元剤の供給により還元する吸蔵還元型NOx触媒の劣化を判定する触媒劣化判定システムにおいて、吸蔵還元型NOx触媒に被毒再生が不可能な状態で堆積している硫黄量が所定異常量より少ないと想定されている場合において、所定期間、排気空燃比がリッチ空燃比の状態とされたときに、吸蔵還元型NOx触媒から排出される排気中のNH量が所定生成量より少ない場合には、該吸蔵還元型NOx触媒は劣化していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒劣化判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のリーン燃焼時に排出される排ガス中のNOxを吸蔵還元型NOx触媒(以下、単に「NOx触媒」ともいう。)で吸蔵し、その後、空燃比を一時的にリッチとすることでNOx触媒からNOxを放出させると共にNへ還元させることができる。このNOx触媒については、排気中に含まれる硫黄成分による被毒や、異常発熱等を要因として、NOx触媒の還元能力が劣化する傾向がある。そこで、NOx触媒の劣化を検出し適切な処理を促すために、様々な触媒劣化の検出技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示の技術では、NOx触媒の下流側に配置されたNOxセンサを用いて、NOx触媒によるNOxの還元率や、当該NOx触媒におけるNOxの吸蔵能力の変化を算出し、NOx触媒の劣化判定が行われる。具体的には、算出されるNOx触媒のNOx吸蔵能力が大きく低下した場合には、NOx触媒が熱劣化したと判断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−190507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
NOx触媒において吸蔵されているNOxを還元するために、その周囲雰囲気をリッチ空燃比の状態とすると、NOxが還元剤に含まれるHCやHと反応してNHが生成される。一般に、NOxセンサはNOxとともにNHも検出可能であるが、それぞれを区別して検出することは困難である。NOxとNHを区別して検出するためには、それぞれに対応したセンサを設ける必要がある。したがって、NOx触媒において生成されるNHを利用してNOx触媒の劣化判定を行うためには、従来技術では検出対象に応じたセンサを設ける必要があり、劣化判定システムが大きくならざるを得ない。
【0006】
換言すれば、NOxセンサを用いてNOxの還元時にNOx触媒で生成されるNHを検出してNOx触媒の劣化判定を行おうとすると、その検出値がNHの検出を意味しているのか、NOxの検出を意味しているのか区別することが困難であるから、正確な劣化判定を行うことが困難となる。
【0007】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、NOxの還元時にNOx触媒で生成されるNHを利用して、より正確なNOx触媒の劣化判定を行い得るシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、上記課題を解決するために、NOx触媒に定常的に堆積されている硫黄量が比較的少ないと想定される状態において、当該NOx触媒に吸蔵されているNOxを十分に還元するための還元雰囲気の形成を行った後に、NOx触媒の下流側で検出されるNHの生成量に基づいて、NOx触媒の劣化判定を行うこととした。このようにNH生成量を検出する条件を限定することで、NOx還元時に生成されるNH量に基づいて、NOx触媒の劣化判定を正確に行い得る。
【0009】
そこで、詳細には、本発明は、内燃機関の排気通路に設けられてNOxを吸蔵し、吸蔵していたNOxを還元剤の供給により還元する吸蔵還元型NOx触媒(NOx触媒)の劣化を判定する触媒劣化判定システムにおいて、前記吸蔵還元型NOx触媒へ還元剤を供給することで該吸蔵還元型NOx触媒を通過する排気の空燃比を調整する還元剤供給部と、前記吸蔵還元型NOx触媒の下流側に配置され、該吸蔵還元型NOx触媒から排出される排気中のNHを検出可能な検出部と、前記還元剤供給部から還元剤を供給するときに排気の空燃比がリッチ空燃比となるように還元剤量を調整する空燃比制御部と、前記吸蔵還元型NOx触媒に被毒再生が不可能な状態で堆積している硫黄量が所定異常量より少ないと想定されている場合において、前記空燃比制御部によって、所定期間、排気空燃比が前記リッチ空燃比の状態とされたときに、前記検出部によって検出されるNH生成量が所定生成量より少ない場合には、該吸蔵還元型NOx触媒は劣化していると判定する劣化判定部と、を備える。
【0010】
本発明に係る触媒劣化判定システムは、排気通路に設けられたNOx触媒の劣化を判定する。ここで、NOx触媒は、流れ込む排気によってリーン雰囲気に置かれると排気中のNOxを吸蔵し、また、空燃比制御部によってNOx触媒に流れ込む排気の空燃比がリッチ空燃比に調整され、そこに還元剤が存在するようにすることで、吸蔵していたNOxを還元する。この還元剤は、空燃比制御部の制御の下、還元剤供給部によって排気中に供給されるものであり、その一例として、供給弁等を介して排気中に還元剤が供給されてもよく、また、内燃機関の燃焼状態が制御されることで、内燃機関からの排気に含まれる還元剤としてのHC量を調整するようにしてもよい。
【0011】
ここで、NOx触媒は、一般に、白金等の貴金属とNOx吸蔵剤として機能するBa等の塩基性の強い金属とが存在した状態となっている。白金等が塩基性の強い金属と共存した状態では、塩基性金属が電子受容体、白金等が電子許容体として機能するため、結果として白金等の活性がやや低下した状態で均衡し、その均衡状態が、NOx触媒が正常に本来の機能を発揮し得る状態(以下、「正常状態」という)となる。NOx触媒が正常状態である場合には、吸蔵されていたNOxが還元されNが生成されるに際し、供給された還元剤とNOxの反応によりNHも生成される。
【0012】
一方で、NOx触媒が排気に晒されることで、排気中に含まれる硫黄成分もNOx吸蔵剤であるBa等の塩基性金属に吸蔵されて硫黄被毒状態が形成されていく。この硫黄被毒状態は、従来技術による所定の処理を行うことで基本的には再生可能であるが、白金等が熱ストレスによりシンタリングを起こすと、形成された硫黄被毒状態の一部は再生不可能な状態となり、NOx触媒に常在化してしまう傾向にある。このようにNOx触媒に硫黄被毒が再生不可能に顕著に常在化した状態を、本明細書では、硫黄被毒再生能低下状態という。
【0013】
ここで、本出願人は、このように硫黄被毒再生能低下状態に陥ったNOx触媒において、NOxの還元時にNHの生成量が顕著に抑制されながらも、NOxの還元が行われる事象(以下、「劣化時還元事象」という。)を見出した。当該劣化時還元事象では、上記NOx触媒の正常状態における均衡が失われ、相対的に電子受容体としての塩基性金属の機能が弱まり、白金等の機能が強まる結果となる。ただし、上記の通りシンタリングにより白金等の機能もある程度は弱まっていることから、供給された還元剤は、正常状態であればNOxとの反応により生成される程度のNHを十分に生成するに至らず、その中間生成物を生成するに留まる。この中間生成物は、選択的にNOxをNに還元する機能を有しており、その結果、硫黄被毒再生能低下状態にあるNOx触媒においては、NHの生成量が抑制された状態で、且つNOxの還元が実行されるという上記劣化時還元事象が生じ得る。
【0014】
そこで、本発明に係る触媒劣化判定システムでは、NOx触媒に被毒再生が不可能な状態で堆積している硫黄量が所定異常量より少ないと想定されている状態において、空燃比制御部によって、所定期間、排気空燃比がリッチ空燃比の状態とされたときに、検出部によって検出されるNH生成量に基づいて、NOx触媒の劣化判定を行う。ここでいう所定異常量とは、NOx触媒において被毒再生が不可能な状態で堆積している硫黄によりNOx触媒が劣化しているか否かを判定するための閾値である。また、上記所定期間とは、少なくとも、NOx触媒に吸蔵されているNOxを放出しその還元を行うために必要な、NOx触媒がリッチ空燃比の状態に置かれる期間である。
【0015】
仮に、NOx触媒における堆積硫黄量が所定異常量より少ないのであれば、空燃比制御部によって、所定期間、排気空燃比がリッチ空燃比の状態とされたときには、供給された還元剤と吸蔵NOxとの反応によりNHが比較的多量に生成されるはずである。しかしながら、当該堆積硫黄量が所定異常量より少ないと想定されている状態において、吸蔵NOx還元のためのリッチ空燃比の状態が形成されたときのNH生成量が所定生成量より少ない場合には、上記の劣化時還元事象が生じていると考えられることから、その場合には、NOx触媒は硫黄被毒再生能低下状態に陥り、劣化していると判定することが可能である。したがって、上記所定生成量は、NOx触媒が劣化しているか否かを判定するための、NOx還元時のNH生成量に関する閾値である。
【0016】
このように構成される触媒劣化判定システムでは、NOx触媒での堆積硫黄量が比較的少ないと想定されている場合に、NOx還元時に生成されるNH量に基づいて、NOx触媒の硫黄被毒による劣化の判定が行われることになる。NOx触媒での堆積硫黄量が比較的少ないと想定されている条件下でNOx還元時に生成されるNH量が所定生成量より低くなることは、NOx触媒において顕著に常在化した劣化が生じていることを意味する。したがって、本発明に係る触媒劣化システムでは、上記の通りNOx還元時のNH生成量に基づいて劣化判定を正確に行うことが可能となる。
【0017】
ここで、上記触媒劣化判定システムにおいて、前記所定期間は、前記吸蔵還元型NOx触媒における堆積硫黄量が前記所定異常量である場合の、該吸蔵還元型NOx触媒に吸蔵されているNOxを還元浄化するために必要な、排気空燃比が前記リッチ空燃比の状態とされる期間、又は該排気空燃比が前記リッチ空燃比の状態とされる期間より長い期間であってもよい。
【0018】
このように上述したNOx触媒の劣化判定時に行われる空燃比制御部によるリッチ空燃比の形成時間である上記所定時間を、NOx触媒での堆積硫黄量に基づいて設定することで、硫黄再生能低下状態にあるNOx触媒での還元剤によるNOx還元反応、すなわち、NHの生成を抑制しながらのNOxの還元反応で生成されるNH量を十分に劣化判定部による判定に反映させることが可能となる。硫黄再生能低下状態にあるNOx触媒では、白金等のシンタリングにより還元剤から上記中間生成物の反応、すなわち還元剤の消費反応が緩慢に進行する傾向にあるため、このように所定時間をNOx触媒での堆積硫黄量に基づいて設定することは正確な劣化判定のために有用である。
【0019】
また、上記触媒劣化判定システムにおいては、前記検出部は、排気中のNOxおよびNHを検出可能なNOxセンサであってもよい。上記の通り、劣化判定時において、空燃比制御部によって排気空燃比がリッチ空燃比の状態にされてNOxの還元が行われている際には、原理的にはNOxはNに還元されるか、もしくは還元剤との反応によりNHが生成されるかであるので、NOx触媒の下流にはNOxが流れ出さないか、もしくは流れ出たとしても極めて少量となる。したがって、上記のようにNOx還元時のNH生成量に基づいた触媒劣化判定を、NOxセンサによっても正確に行うことが可能となる。
【0020】
ここで、上述までの触媒劣化判定システムにおいて、前記吸蔵還元型NOx触媒の温度を検出する触媒温度検出部を、更に備える場合、前記劣化判定部は、前記吸蔵還元型NOx触媒における堆積硫黄量が前記所定異常量より少ないと想定されている状態において、前記空燃比制御部によって、前記所定期間、排気空燃比が前記リッチ空燃比の状態とされたときに、前記検出部によって検出されるNH生成量が前記所定生成量以上であって、且つ、前記触媒温度検出部によって検出される触媒温度が、該吸蔵還元型NOx触媒がその活性状態を判断するための閾値である所定触媒温度以下である場合には、該吸蔵還元型NOx触媒は、還元剤による被毒状態であると判定してもよい。
【0021】
このように構成される触媒劣化判定システムでは、所定の条件の下、検出部によって検出されるNH生成量が所定生成量以上となったことは、NOx触媒は、上述したような再生不可能な硫黄被毒再生能低下状態を伴う劣化状態にはないことを意味する。しかしながら、そのような劣化状態にはなくとも劣化判定のために排気空燃比がリッチ空燃比の状態とされたにもかかわらず、NOx触媒の温度が所定触媒温度以下であることは、NOx触媒による還元剤の良好な酸化反応が阻害された状態、換言すれば、NOx触媒に含まれる白金等が還元剤によって覆われることで良好な酸化反応が阻害された状態となっていると、合理的に考えられる。そこで、そのような場合には、NOx触媒は、硫黄被毒再生能低下状態を伴う劣化状態ではないが、還元剤により被毒された状態にあると判断することができる。
【0022】
なお、この還元剤によるNOx触媒の被毒は、NOx触媒を覆う還元剤を除去することで再生可能な点で、硫黄被毒再生能低下状態を伴う劣化状態とは異なる。そこで、上記触媒劣化判定システムにおいて、前記吸蔵還元型NOx触媒が還元剤による被毒状態にあるときに、該還元剤被毒状態を再生する被毒再生部を、更に備えるようにしてもよい。そして、前記劣化判定部は、前記吸蔵還元型NOx触媒における堆積硫黄量が前記所定異常量より少ないと想定されている状態において、前記被毒再生部によって該吸蔵還元型NOx触媒の還元剤による被毒状態を再生させた後に、前記空燃比制御部によって、前記所定期間、排気空燃比が前記リッチ空燃比の状態とされたときに、前記検出部によって検出されるNH生成量が前記所定生成量以上であって、且つ、前記触媒温度検出部によって検出される触媒温度が、前記所定触媒温度以下である場合には、還元剤に含まれる硫黄量が異常であると判定してもよい。
【0023】
このように構成される触媒劣化判定システムでは、NOx触媒での堆積硫黄量が所定異常量より少ないと想定される状態で、被毒再生部によって還元剤による被毒状態を再生させることで、還元剤被毒に起因したNOx触媒の不具合は解消していることになる。そして、そのような状態で、排気空燃比をリッチ空燃比としたときに検出部によって検出されるNH生成量が所定生成量以上となったことは、NOx触媒は、上述したような再生不可能な硫黄被毒再生能低下状態を伴う劣化状態にはないことを意味する。しかしながら、そのような劣化状態にはなくともNOx触媒の温度が依然として所定触媒温度以下であることは、還元剤に含まれる硫黄量が異常、すなわち、還元剤に想定以上の硫黄が含まれていると、合理的に考えられる。これは、還元剤に想定以上の硫黄が含まれるとNOx触媒の白金等が硫黄成分によって覆われてしまいNOx触媒の温度が十分に上昇しないことによる。そこで、そのような場合には、NOx触媒そのものの劣化状態ではなく、使用している還元剤に含まれる硫黄に関する異常と判断するのが好ましい。
【0024】
ここで、上述までの触媒劣化判定システムにおいて、前記吸蔵還元型NOx触媒の熱履歴を取得する熱履歴取得部を、更に備える場合、前記劣化判定部は、前記吸蔵還元型NOx触媒における堆積硫黄量が前記所定異常量より少ないと想定されている状態において、前記空燃比制御部によって、前記所定期間、排気空燃比が前記リッチ空燃比の状態とされたときに、前記検出部によって検出されるNH生成量が前記所定生成量以上であって、
且つ、前記熱履歴取得部によって取得された該吸蔵還元型NOx触媒の熱履歴が、異常発熱を示す所定の異常熱履歴である場合には、該吸蔵還元型NOx触媒は、異常発熱による劣化状態であると判定してもよい。
【0025】
このように構成される触媒劣化判定システムでは、所定の条件の下、検出部によって検出されるNH生成量が所定生成量以上となったことは、NOx触媒は、上述したような再生不可能な硫黄被毒再生能低下状態を伴う劣化状態にはないことを意味する。しかしながら、そのような劣化状態にはなくとも劣化判定のために排気空燃比がリッチ空燃比の状態とされたにもかかわらず、NOx触媒の熱履歴が所定の異常熱履歴である場合には、その異常熱履歴によってNOx触媒が劣化状態にあると、合理的に考えられる。そこで、そのような場合には、NOx触媒は、硫黄被毒再生能低下状態を伴う劣化状態ではないが、異常熱履歴による劣化状態にあると判断することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、触媒劣化判定システムにおいて、NOxの還元時にNOx触媒で生成されるNHを利用して、より正確なNOx触媒の劣化判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る触媒劣化判定システムが配置される内燃機関の排気系の概略構成を示す図である。
【図2】正常状態にあるNOx触媒におけるNOx還元時の、NおよびNH生成のモデル図である。
【図3】劣化(異常)状態にあるNOx触媒におけるNOx還元時の、NおよびNH生成のモデル図である。
【図4】NOx触媒における、還元剤であるHCの消費状況を示す図である。
【図5】NOxをある程度吸蔵したNOx触媒に対して、リッチ空燃比の排気を供給したときの、NOxの浄化およびNH生成に関するタイムチャートである。
【図6】NOx触媒の劣化状態に応じた、NOx触媒に供給される排気空燃比と未浄化NOx量との相関を示す図である。
【図7】NOx触媒の劣化状態に応じた、NOx触媒に供給される排気空燃比と、NOx還元時のNH生成量との相関を示す図である。
【図8】本発明に係る触媒劣化判定システムにおいて実行される、NOx触媒の劣化を判定するための第一の制御フローチャートである。
【図9A】本発明に係る触媒劣化判定システムにおいて実行される、NOx触媒の劣化を判定するための第二の制御フローチャートである。
【図9B】図9Aに示す制御に含まれるHC被毒再生処理の詳細を示す図である。
【図10】図9Aおよび図9Bに示す劣化判定制御に関し、NOx触媒のHC被毒状態に応じた、NOx触媒に供給される排気空燃比と未浄化NOx量との相関を示す図である。
【図11】図9Aおよび図9Bに示す劣化判定制御に関し、NOx触媒のHC被毒状態に応じた、NOx触媒に供給される排気空燃比と、NOx還元時のNH生成量との相関を示す図である。
【図12】本発明に係る触媒劣化判定システムにおいて実行される、NOx触媒の劣化を判定するための第三の制御フローチャートである。
【図13】図12に示す劣化判定制御に関し、NOx触媒の熱劣化状態に応じた、NOx触媒に供給される排気空燃比と未浄化NOx量との相関を示す図である。
【図14】図12に示す劣化判定制御に関し、NOx触媒の熱劣化状態に応じた、NOx触媒に供給される排気空燃比と、NOx還元時のNH生成量との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0029】
図1は、本発明の実施例に係る触媒劣化システムを搭載する内燃機関の排気系の概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、4つの気筒を有する水冷式の4サイクル・ディーゼルエンジンである。内燃機関1には、排気通路2が接続されている。この排気通路2の途中には、吸蔵還元型NOx触媒4(以下、NOx触媒4という。)が備えられている。
【0030】
NOx触媒4は、たとえばアルミナ(Al)を担体とし、その担体上に、たとえばバリウム(Ba)及び白金(Pt)を担持して構成されている。このNOx触媒4は、流入する排気の酸素濃度が高いとき(すなわち、排気空燃比がリーン空燃比の状態にあるとき)は排気中のNOxを吸蔵し、流入する排気の酸素濃度が低下し且つ還元剤が存在するとき(すなわち、排気空燃比がリッチ空燃比の状態にあるとき)は吸蔵していたNOxをNに還元する機能を有する。また、NOx触媒4よりも上流の排気通路2には、排気中に還元剤を噴射する噴射弁5が取り付けられている。噴射弁5は、後述するECU10からの信号により開弁して排気中へ還元剤を噴射する。還元剤には、たとえば内燃機関1の燃料(HC)が用いられるが、これに限らない。
【0031】
噴射弁5から排気通路2内へ噴射された燃料は、排気通路2の上流から流れてきた排気の空燃比を低下させる。そして、NOx触媒4に吸蔵されているNOxの還元時には、噴射弁5からHCを噴射することにより、NOx触媒4に流入する排気の空燃比を比較的に短い周期で低下させる所謂リッチスパイク制御を実行する。噴射弁5から噴射させるHC量は、たとえば内燃機関1の運転状態(機関回転数及び燃料噴射量)に基づいて決定される。HC量と機関回転数と機関負荷との関係は予めマップ化し、後述するECU10内のメモリに格納しておくことができる。また、排気通路2に空燃比センサを取り付けて、該空燃比センサにより検出される空燃比がNOx還元に必要な目標値となるようにHC量をフィードバック制御してもよい。
【0032】
なお、上記噴射弁5が、本発明に係る還元剤供給部に相当する。また、噴射弁5によるHC供給形態に代えて、内燃機関1から未燃燃料を含む排気を排出させることでHCを供給する形態も採用できる。すなわち、気筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁を備え、該筒内噴射弁から主噴射を行なった後の膨張行程中若しくは排気行程中に再度燃料を噴射する副噴射(ポスト噴射)を行なったり、筒内噴射弁からの燃料噴射時期を遅らせたりすることにより、内燃機関1からHCを多く含むガスを排出させることもできる。
【0033】
また、噴射弁5よりも上流の排気通路2には、排気中のNOx濃度を測定する上流側NOxセンサ7が取り付けられている。また、NOx触媒4よりも下流の排気通路2には、排気中のNOx濃度を測定する下流側NOxセンサ8及び排気の温度を測定する温度センサ9が取り付けられている。なお、本実施例においては下流側NOxセンサ8が、本発明における検出部に相当するものであって、実質的に排気中のNOxおよびNHを検出可能である。なお、排気中のNHは、下流側NOxセンサ8においてOと反応してNOになるため、NOxとして検出される。したがって、下流側NOxセンサ8においては、排気中のNHをNOxとして検出可能であるが、その場合、NHが検出されたのか、またはNOxが検出されたのか判別することは困難である。
【0034】
以上述べたように構成された内燃機関1には、該内燃機関1を制御するための電子制御
ユニットであるECU10が併設されている。このECU10は、内燃機関1の運転条件や運転者の要求に応じて内燃機関1の運転状態を制御する。また、ECU10には、上記センサの他、運転者がアクセルペダル11を踏み込んだ量に応じた電気信号を出力し機関負荷を検知するアクセル開度センサ12、および機関回転数を検知するクランクポジションセンサ13が電気配線を介して接続され、これら各種センサの出力信号がECU10に入力されるようになっている。
【0035】
一方、ECU10には、噴射弁5が電気配線を介して接続されており、該ECU10により噴射弁5の開閉時期が制御される。なお、本実施例では噴射弁5から供給するHC量を調整し、排気の空燃比を制御するECU10が、本発明における空燃比制御部に相当する。このECU10は、排気の空燃比をリッチ空燃比(たとえば空燃比14程度)を目標にリッチスパイク制御を行い、NOx触媒4に吸蔵されているNOxの還元処理を行う。
【0036】
また、ECU10は、下流側NOxセンサ8から得られる検出信号に基づいて、NOx触媒4の触媒劣化に関する判定処理を行う。したがって、この観点から、ECUは本実施例における劣化判定部にも相当することとなる。ここで、図2に、正常状態にあるNOx触媒4におけるNOx還元時のNおよびNH生成のモデルを示すとともに、図3に、回復が不可能な劣化状態にあるNOx触媒4におけるNOx還元時のNおよびNH生成のモデルを示す。当該回復不可能な劣化状態(図3に示す状態)は、熱ストレスによるNOx触媒4に含まれるPtのシンタリングと、そのシンタリングに起因した被毒再生が不可能な状態で多量の硫黄成分が堆積していることによるものであり、本明細書においては「異常状態」とも称する。なお、図2に示す状態は、当該異常状態ではない状態であり、本明細書においては「正常状態」とも称する。
【0037】
NOx触媒4は、排気の空燃比がリーンのときにNOをPt上でOと反応させ、BaへBa(NOとして吸蔵する。一方、HCを供給して排気の空燃比をリッチとすると、正常状態にあるNOx触媒4では、Ba(NOがNOとなって放出され、さらにPt上でNに還元される。ここでNOx触媒4では、Ptが塩基性の強いBaと共存した状態となっており、このような場合にはBaが電子受容体、Ptが電子許容体として機能するため、図2に示すようにPt上にその酸化物PtOが形成される。そのためPtの活性がやや低下した状態で均衡し、その均衡状態が、NOx触媒4が正常に本来の機能を発揮し得る状態(上記の正常状態に相当)となる。NOx触媒4がこのように正常状態である場合には、図2に示すように吸蔵されていたNOxが還元されNが生成されるに際し、供給されたHC(その他、CO、H等)とNOxの反応によりNHも生成される。
【0038】
一方で、NOx触媒4は排気に晒されることで、経時的な熱ストレスを受け続ける。その結果、NOx触媒4に含まれるPtにシンタリングが生じ、Baに吸蔵された硫黄成分による硫黄被毒状態を再生させる能力が低下し、次第に、NOx触媒4内に、再生が不可能な状態で硫黄成分が堆積していくことになる。このようにNOx触媒4において硫黄被毒が再生不可能に顕著に常在化した状態を、硫黄被毒再生能低下状態といい、上記の異常状態に相当する(図3に示す状態)。
【0039】
この異常状態では、NOx触媒4の正常状態におけるPtとBaの均衡が失われ、相対的に電子受容体としてのBaの機能が弱まり、Ptの機能が強まる結果となる。ただし、上記の通りシンタリングによりPtの機能もある程度は弱まっていることから、図4に示すように異常状態のNOx触媒4では還元剤であるHCの消費反応は緩慢なものとなる。なお、図4は、NOx触媒4におけるHCの消費状況を示す図であり、横軸がNOx触媒4の軸方向の距離を表し、縦軸がNOx触媒4に残存するHC量である。また、図中の三角は、NOx触媒4においてシンタリングおよび硫黄成分の堆積が無視できる正常状態に
おける、該NOx触媒4でのHCの消費状況を示す。また、図中の黒塗り丸は、異常状態におけるNOx触媒4でのHCの消費状況を示す。
【0040】
このように異常状態にあるNOx触媒4では、供給されたHCは、正常状態であればNOxとの反応により生成される程度のNHを十分に生成するに至らず、その中間生成物(NHになる手間の中間物であって、アミン、アミド等)を生成するに留まる。この中間生成物は、選択的にNOxをNに還元する機能を有しており、その結果、異常状態にあるNOx触媒4においては、NHの生成量が抑制された状態で、且つNOxの還元が実行されるという劣化時還元事象が生じることとなる。
【0041】
この劣化時還元事象について、図5−図7に基づいて詳細に説明する。ここで、異常状態にあるNOx触媒4は、正常状態にあるNOx触媒4と比べて吸蔵可能なNOx量(NOx吸蔵量)が著しく低下している。これは、異常状態にあるNOx触媒4では、硫黄被毒再生能低下状態となっており、その内部に再生不可能な状態で多くの硫黄成分が堆積していることによる。また、上述したように、NOx触媒4に対して噴射弁5から還元剤であるHCが供給されると、図2又は図3に示したモデルに従い、NOx触媒4に吸蔵されていたNOxの還元反応が生じ、未浄化(未還元)のNOx量が減少するとともに、NOxとHCとの反応によりNHが生成される(図5を参照)。
【0042】
ここで、本出願人は、NOx触媒4が正常状態である場合と異常状態である場合とでは、特に、このNOx還元時のNH生成量が大きく異なることを見出した。図6にNOx触媒4の劣化状態に応じた、該NOx触媒4に供給される排気空燃比と未浄化NOx量との相関を示し、図7にNOx触媒4の劣化状態に応じた、該NOx触媒4に供給される排気空燃比と、NOx還元時のNH生成量との相関を示す。なお、図6および図7において、図中の三角と黒塗り丸は、それぞれ図4に示す凡例の三角と黒塗り丸に対応している。また、図中の白抜き四角は、異常状態のNOx触媒4と同程度のシンタリングが形成されているものの再生不可能な状態で堆積している硫黄量が比較的少なく、まだNOx触媒としての機能が保たれており正常状態と扱い得る状態(正常状態2)における、未浄化NOx量とNH生成量の推移を表す。
【0043】
図6および図7から理解できるように、未浄化NOx量については、NOx触媒4が正常状態にあるか否かにかかわらず、NOx触媒4にリッチ空燃比の排気が供給されれば、NOx触媒4からの未浄化NOxの流出量は概ね無視できる状態となる。しかしながら、NOx触媒4が異常状態にある場合には、NOx還元時のNH生成量が、正常状態の場合と比べて大きく低下する傾向が見出せる。特に、正常状態2に係るNH生成量の推移と異常状態に係るNH生成量の推移とを比べると、NOx触媒4におけるPtのシンタリングは同程度であるにもかかわらず、堆積硫黄量が多くなることで、NH生成量が著しく低下している。このことから、NOx触媒4において再生不可能な状態で堆積している硫黄堆積量に着目し、NOx還元時のNH生成量を利用することで、NOx触媒4が異常状態にあるか否か、その劣化状態を判定することが可能であることが分かる。
【0044】
以上を踏まえて、図8に、本実施例に係るNOx触媒4の劣化判定制御のフローを示す。当該触媒劣化判定制御は、ECU10によって適宜繰り返し実行されるものである。まず、S101では、NOx触媒4の劣化判定を行う前提条件が成立しているか否か判定さ
れる。たとえば、NOx触媒4の温度がNOx還元に適した温度となっているときに前提条件が成立していると判定される。ここで、NOx触媒4の温度は、温度センサ9により検
出される。また、NOx還元に適した温度とは、たとえば、NOx触媒4が過度に低温であると触媒の活性が悪化し、また過度に高温であるとBaの吸蔵能力が低下してしまうことを踏まえて設定される所定の温度範囲を有する。したがって、NOx触媒4の温度が当該所定の温度範囲に属しているときはS101において肯定判定が為されS102へ進み、
属していないときは否定判定が為されて本制御を終了する。
【0045】
次にS102では、NOx触媒4において硫黄被毒再生(S再生)が完了し、且つ、その完了後において推定される硫黄堆積量(S堆積量)が、所定の堆積量S0以下であるか否かが判定される。すなわち、NOx触媒4において被毒再生が不可能な状態で堆積している硫黄量が、閾値である所定の堆積量S0以下であるか否かが判定される。硫黄被毒再生については従来技術であるからその詳細な説明は割愛するが、NOx触媒4において被毒再生が可能な状態で吸蔵されている硫黄分を除去するための処理であり、噴射弁5からHCを供給しながら、NOx触媒4の触媒温度を昇温させる処理である。この硫黄被毒再生処理によれば、NOx触媒4に吸蔵されている硫黄分を除去することは可能であるが、被毒再生が不可能な状態で堆積している硫黄分についてはNOx触媒4から除去することは難しい。これは、上記の通り、経時的な熱ストレスにより、NOx触媒4のPtがシンタリングにより劣化していくことに起因する。また、NOx触媒4で堆積している硫黄量は、内燃機関1の運転状態や、NOx触媒4が受けてきた熱ストレスの履歴(触媒温度の履歴)に基づいて推定される。
【0046】
そして、所定の堆積量S0は、NOx触媒4での硫黄堆積量が、NOx触媒4が正常状態である程度の量か否かを判定するための閾値として設定される。したがって、S102で肯定判定されると、NOx触媒4には正常状態とみなせる程度の硫黄成分が堆積していることを意味し、以てS103へ進む。一方で、S102で否定判定されると、NOx触媒4には正常状態とみなせる量を超える程度の硫黄成分が堆積していることを意味し、本実施例の場合は本制御を終了する。
【0047】
S103では、NOx触媒4に吸蔵されているNOx吸蔵量が所定のNOx吸蔵量S1以上であるか否かが判定される。NOx触媒4に吸蔵されているNOx吸蔵量は、上流側NOxセンサ7によって検出される排気中のNOx量に基づいて推定される。そして、所定のNOx吸蔵量S1は、NOx触媒4が異常状態にあると仮定したときに当該NOx触媒4で最大限に吸蔵可能とされるNOx量として設定される。したがって、S103で肯定判定されると、仮にNOx触媒4が異常状態であれば既にNOxを更に吸蔵できない状態にあることを意味し、以てS104へ進む。一方で、S103で否定判定されると、NOx触媒4がまだNOxを吸蔵することが可能な状態にあることを意味し、本実施例の場合は本制御を終了する。
【0048】
S104では、NOx触媒4の劣化判定用のリッチスパイク制御が噴射弁5を介して行われる。当該リッチスパイク制御では、NOx触媒4が正常状態にあるときに図2に示すモデルに従ったNHの生成が為し得る排気のリッチ空燃比(例えば、排気空燃比が14±0.2程度)が形成され、且つ、その制御継続時間が、図4に示すようにNOx触媒4が異常状態であるときに供給HCの消費反応が緩慢であることを踏まえて、異常状態のNOx触媒4に吸蔵されているNOxを十分に還元し得るように設定される所定時間以上となるように、噴射弁5が制御される。したがって、S104の処理が行われると、NOx触媒4においては、図2に示すモデルに従ったNOx還元が行われるか、図3に示すモデルに従ったNOx還元が行われることになる。S104の処理が終了すると、S105へ進む。
【0049】
S105では、S104に係る劣化判定用リッチスパイク制御が実行されたときに、NOx触媒4から流れ出るNH量、すなわちNOx触媒4におけるNOx還元時のNH生成量が所定のNH生成量S2以上であるか否かが判定される。NOx触媒4におけるNOx還元時のNH生成量は、下流側NOxセンサ8のピーク出力等を利用して検出される。図6および図7に示すように、NOx還元時においては、NOx触媒4から流れ出る未浄化NOxは無視できる程度に微量であるから、S104の処理が行われているとき
の下流側NOxセンサ8の検出値は、図2また図3に示すモデルに従って生成されるNH量を反映しているものと理解して差し支え無い。
【0050】
そして、所定のNH生成量S2は、図2および図3に示すNOx触媒4が正常状態であるか又は異常状態であるかによって、NOx還元時に生成されるNH量が異なることを踏まえて、NOx触媒4の劣化状態を判定するための閾値として設定される。したがって、S105において肯定判定されると、NOx触媒4では図2に示すモデルに従ったNOx還元が行われていることを意味し、以てS106へ進み、NOx触媒4は正常状態にあると判定することができる。一方で、S105において否定判定されると、NOx触媒4では図3に示すモデルに従ったNOx還元が行われていることを意味し、以てS107へ進み、NOx触媒4は異常状態にあると判定することができる。
【0051】
上記の本実施例に係る触媒劣化判定制御では、S102およびS103の処理を経てNOx触媒4が正常状態にあると想定される条件下で、S104に係る劣化判定用リッチスパイク制御が実行され、そのときのNH生成量が下流側NOxセンサ8によって検出されることで、NOx触媒4が異常状態にあるか、その劣化が判定される。このようにNOx触媒4に被毒再生が不可能な状態で堆積されている硫黄成分量に着目してNOx還元時のNH生成量に基づいて劣化判定を行うことで、下流側NOxセンサ8を利用した触媒劣化判定の精度を効果的に高めることができる。
【実施例2】
【0052】
本発明に係る触媒劣化判定システムにおいて実行される触媒劣化判定制御の第二の実施例について、図9A、図9B、図10、図11に基づいて説明する。なお、図9Aに示す触媒劣化判定制御に含まれる処理のうち図8に示す触媒劣化判定制御に含まれる処理と同等のものについては、同じ参照番号を付すことで、その詳細な説明は割愛する。
【0053】
そこで、図9Aに示す触媒劣化判定制御では、S105においてNOx触媒4におけるNOx還元時のNH生成量が所定のNH生成量S2以上であると判定されると、S201へ進む。S201では、NOx触媒4の触媒温度が所定温度T0以上であるか否かが判定される。この所定温度T0は、NOx触媒4が活性状態にあるときにHCが供給されることで生じる昇温を踏まえて、NOx触媒4が供給されたHCによって覆われた状態に陥り、NOx触媒4に含まれるPtの酸化機能が失われた状態、すなわちHC被毒状態に至っていないか判定するための閾値として設定される。
【0054】
ここで、図10にNOx触媒4のHC被毒状態に応じた、NOx触媒4に供給される排気空燃比と未浄化NOx量との相関を示し、図11にNOx触媒4のHC被毒状態に応じた、NOx触媒4に供給される排気空燃比と、NOx還元時のNH生成量との相関を示す。なお、図10および図11において、図中の黒塗り丸はHC被毒状態にあるNOx触媒4における、未浄化NOx量とNH生成量の推移を表し、図中の三角は正常状態にあるNOx触媒4における、未浄化NOx量とNH生成量の推移を表す。図10および図11から理解できるように、NOx触媒4がHC被毒状態にある場合は、NOx触媒4から未浄化のNOxが流れ出るとともに、少量のNHも生成され流れ出る。したがって、下流側NOxセンサ8は、未浄化NOxと生成NHの両者を区別なく検出してしまう結果、S105での判定処理では肯定判定される可能性が高い。
【0055】
この点を踏まえて、S105で肯定判定された後にS201で肯定判定される場合には、NOx触媒4はPtの酸化機能が保たれていると合理的に考えられ、以てS106において、NOx触媒4は正常状態にあると判定し得る。一方で、S105で肯定判定された後にS201で否定判定される場合には、NOx触媒4はHC被毒状態に陥っていると考えられる。そこで、本実施例では、その場合にはS202に係るHC被毒再生処理が行わ
れることになる。
【0056】
ここで、図9Bに、上記HC被毒再生処理のフローチャートを示す。S201で否定判定されると、上記理由に従いS203でNOx触媒4はHC被毒状態に陥っていると判定される。なお、このHC被毒状態はNOx触媒4がHCによって覆われていることにより生じているため、上述した異常状態と異なりHC被毒の再生が可能である。そこで、次にS204で、NOx触媒4におけるHC被毒を再生するための処理が行われる。当該再生処理では、内燃機関1から排出される排気の温度を上昇させることによって、NOx触媒4に付着したHCの除去を図る。
【0057】
その後、S205で、噴射弁5を介してリッチスパイク制御が行われ、NOx触媒4に流れ込む排気空燃比をリッチ空燃比状態にする。当該リッチ空燃比は、上述した処理S104において設定されるリッチ空燃比と同じでよい。S205の処理が終了すると、S206へ進む。S206では、上記S201と同じようにNOx触媒4の触媒温度が所定温度T0以上であるか否かが判定される。このS206で肯定判定されると、NOx触媒4におけるPtの酸化機能が十分に発揮し得る状態に戻ったことを意味し、以てS207で、NOx触媒4におけるHC被毒の再生が完了したと判定される。
【0058】
一方で、S206で否定判定されると、NOx触媒4におけるPtの酸化機能が十分に発揮し得る状態に戻っていないことを意味する。NOx触媒4においてPtの酸化機能が回復しないケースとして、還元剤として利用されている内燃機関1の燃料に含まれる硫黄成分量が異常に多いケースが挙げられる。HCに含まれる硫黄成分量が多いと、Ba中に硫黄成分が吸蔵、堆積するとともに、Pt上にも堆積しその機能を滅失させてしまう。この場合、Ptの活性が失われた続けた状態になるため、NOx触媒4によるNOx還元が困難となり、下流側NOxセンサ8によって多くの未浄化NOxが検出されることになる。そのため、この場合、上記S105で肯定判定され、且つS201およびS206で否定判定されることになる。
【0059】
以上を踏まえて、S206で否定判定された場合は、S208へ進み、内燃機関1に使用される燃料に関する異常判定、すなわち、燃料に含まれる硫黄成分量が異常に多いと判定されることになる。なお、この場合、ユーザに対して当該燃料の使用を控えるよう、S209で異常警告が出される。当該異常警告では、図示しない表示装置(ディスプレイ)や音声装置(スピーカ)等から、燃料異常を示す情報が発せられる。
【0060】
このように第二の実施例に係る触媒劣化判定制御では、NOx触媒4の正確な異常判定に加えて、NOx触媒4のHC被毒判定およびその再生処理、更に内燃機関1で使用する燃料の異常判定が行われることになる。
【実施例3】
【0061】
本発明に係る触媒劣化判定システムにおいて実行される触媒劣化判定制御の第三の実施例について、図12、図13、図14に基づいて説明する。なお、図12に示す触媒劣化判定制御に含まれる処理のうち図8に示す触媒劣化判定制御に含まれる処理と同等のものについては、同じ参照番号を付すことで、その詳細な説明は割愛する。
【0062】
そこで、図9Aに示す触媒劣化判定制御では、S105においてNOx触媒4におけるNOx還元時のNH生成量が所定のNH生成量S2以上であると判定されると、S301へ進む。S301では、NOx触媒4において異常発熱の熱履歴がないか否かが判定される。この熱履歴は、温度センサ9によって検出されるNOx触媒4の触媒温度の履歴に基づいて判断される。
【0063】
ここで、図13にNOx触媒4の熱劣化状態に応じた、該NOx触媒4に供給される排気空燃比と未浄化NOx量との相関を示し、図14にNOx触媒4の熱劣化状態に応じた、該NOx触媒4に供給される排気空燃比と、NOx還元時のNH生成量との相関を示す。なお、図13および図14において、図中の白抜き丸は正常状態にあるNOx触媒4における、未浄化NOx量とNH生成量の推移を表し、図中の黒塗り三角は一様に熱劣化した状態(異常発熱による熱劣化より低い800度程度の熱ストレスに晒された状態)にあるNOx触媒4における、未浄化NOx量とNH生成量の推移を表している。更に、図中の白抜き三角は異常発熱による熱劣化状態にあるNOx触媒4における、未浄化NOx量とNH生成量の推移を表し、図中の白抜き四角は異常状態にあるNOx触媒4における、未浄化NOx量とNH生成量の推移を表す。
【0064】
NOx触媒4において、異常発熱が何らかの理由で生じるとNOx触媒4が本来有している吸蔵、還元機能が失われた状態となる。そのため、図13および図14から理解できるように、このような場合には、NOx触媒4をすり抜けるNOx量が増加するとともに、また、吸蔵されるNOx量も少ないことからNOx還元時に生成されるNH量も少量となる。したがって、したがって、下流側NOxセンサ8は、未浄化のすり抜けNOxと生成NHの両者を区別なく検出してしまう結果、S105での判定処理では肯定判定される可能性が高い。この点を踏まえて、S105で肯定判定された後にS301で肯定判定される場合には、NOx触媒4は異常発熱によって熱劣化していないと合理的に考えられ、以てS106において、NOx触媒4は正常状態にあると判定し得る。一方で、S301で否定判定される場合には、S302においてNOx触媒4は異常発熱によって熱劣化していると判定される。
【0065】
このように第三の実施例に係る触媒劣化判定制御では、NOx触媒4の正確な異常判定に加えて、NOx触媒4の異常発熱による熱劣化判定が行われることになる。
【0066】
<その他の実施例>
上記第二の実施例で示したNOx触媒4のHC被毒判定およびその再生処理、更に内燃機関1で使用する燃料の異常判定と、上記第三の実施例で示したNOx触媒4の異常発熱による熱劣化判定を、同じ触媒劣化判定処理の中で行うようにしてもよい。この場合、NOx触媒4において異常発熱による熱劣化が生じた場合、既にNOx触媒としての機能を十分に果たせない状態となっていることを踏まえて、S105で肯定判定された後に、S301に係る判定処理を、S201に係る判定処理よりも先に行う方が好ましい。この場合、S301で肯定判定されるとS201に係る判定処理が行われることになる。
【符号の説明】
【0067】
1 内燃機関
2 排気通路
4 吸蔵還元型NOx触媒(NOx触媒)
5 噴射弁
7 上流側NOxセンサ
8 下流側NOxセンサ
9 温度センサ
10 ECU
11 アクセルペダル
12 アクセル開度センサ
13 クランクポジションセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられてNOxを吸蔵し、吸蔵していたNOxを還元剤の供給により還元する吸蔵還元型NOx触媒の劣化を判定する触媒劣化判定システムにおいて、
前記吸蔵還元型NOx触媒へ還元剤を供給することで該吸蔵還元型NOx触媒を通過する排気の空燃比を調整する還元剤供給部と、
前記吸蔵還元型NOx触媒の下流側に配置され、該吸蔵還元型NOx触媒から排出される排気中のNHを検出可能な検出部と、
前記還元剤供給部から還元剤を供給するときに排気の空燃比がリッチ空燃比となるように還元剤量を調整する空燃比制御部と、
前記吸蔵還元型NOx触媒に被毒再生が不可能な状態で堆積している硫黄量が所定異常量より少ないと想定されている場合において、前記空燃比制御部によって、所定期間、排気空燃比が前記リッチ空燃比の状態とされたときに、前記検出部によって検出されるNH生成量が所定生成量より少ない場合には、該吸蔵還元型NOx触媒は劣化していると判定する劣化判定部と、
を備える、触媒劣化判定システム。
【請求項2】
前記所定期間は、前記吸蔵還元型NOx触媒における堆積硫黄量が前記所定異常量である場合の、該吸蔵還元型NOx触媒に吸蔵されているNOxを還元浄化するために必要な、排気空燃比が前記リッチ空燃比の状態とされる期間、又は該排気空燃比が前記リッチ空燃比の状態とされる期間より長い期間である、
請求項1に記載の触媒劣化判定システム。
【請求項3】
前記検出部は、排気中のNOxおよびNHを検出可能なNOxセンサである、
請求項1又は請求項2に記載の触媒劣化判定システム。
【請求項4】
前記吸蔵還元型NOx触媒の温度を検出する触媒温度検出部を、更に備え、
前記劣化判定部は、
前記吸蔵還元型NOx触媒における堆積硫黄量が前記所定異常量より少ないと想定されている状態において、前記空燃比制御部によって、前記所定期間、排気空燃比が前記リッチ空燃比の状態とされたときに、前記検出部によって検出されるNH生成量が前記所定生成量以上であって、且つ、前記触媒温度検出部によって検出される触媒温度が、該吸蔵還元型NOx触媒がその活性状態を判断するための閾値である所定触媒温度以下である場合には、該吸蔵還元型NOx触媒は、還元剤による被毒状態であると判定する、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の触媒劣化判定システム。
【請求項5】
前記吸蔵還元型NOx触媒が還元剤による被毒状態にあるときに、該還元剤被毒状態を再生する被毒再生部を、更に備え、
前記劣化判定部は、
前記吸蔵還元型NOx触媒における堆積硫黄量が前記所定異常量より少ないと想定されている状態において、前記被毒再生部によって該吸蔵還元型NOx触媒の還元剤による被毒状態を再生させた後に、前記空燃比制御部によって、前記所定期間、排気空燃比が前記リッチ空燃比の状態とされたときに、前記検出部によって検出されるNH生成量が前記所定生成量以上であって、且つ、前記触媒温度検出部によって検出される触媒温度が、前記所定触媒温度以下である場合には、還元剤に含まれる硫黄量が異常であると判定する、
請求項4に記載の触媒劣化判定システム。
【請求項6】
前記吸蔵還元型NOx触媒の熱履歴を取得する熱履歴取得部を、更に備え、
前記劣化判定部は、
前記吸蔵還元型NOx触媒における堆積硫黄量が前記所定異常量より少ないと想定され
ている状態において、前記空燃比制御部によって、前記所定期間、排気空燃比が前記リッチ空燃比の状態とされたときに、前記検出部によって検出されるNH生成量が前記所定生成量以上であって、且つ、前記熱履歴取得部によって取得された該吸蔵還元型NOx触媒の熱履歴が、異常発熱を示す所定の異常熱履歴である場合には、該吸蔵還元型NOx触媒は、異常発熱による劣化状態であると判定する、
請求項1から請求項5の何れか1項に記載の触媒劣化判定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−104348(P2013−104348A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248595(P2011−248595)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】