説明

触媒及びその製造方法

【課題】低温下において高い酸素吸放出能を有し、それゆえ低温下において高い酸化活性を示す触媒及びその製造方法を提供する。
【解決手段】多孔質材料の細孔表面全体にセリア−ジルコニア固溶体層を被覆してなる触媒担体に触媒金属を担持したことを特徴とする、触媒及びその製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒及びその製造方法、特には内燃機関等からの排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排ガス浄化用触媒としては、排ガス中の一酸化炭素(CO)及び炭化水素(HC)の酸化と窒素酸化物(NOx)の還元とを同時に行う三元触媒が用いられている。このような三元触媒の作用によってCO、HC及びNOxの3成分を同時かつ効率的に浄化するためには、自動車のエンジンに供給される空気/燃料比(空燃比A/F)を理論空燃比(ストイキ)近傍に制御することが重要である。しかしながら、実際の空燃比は、自動車の走行条件等によってストイキを中心にリッチ(燃料過剰雰囲気)側又はリーン(燃料希薄雰囲気)側に変動するため、排ガスの雰囲気も同様にリッチ側又はリーン側に変動する。したがって、三元触媒のみでは必ずしも高い浄化性能を確保することができない。そこで、排ガス中の酸素濃度の変動を吸収して三元触媒の排ガス浄化能力を高めるために、排ガス中の酸素濃度が高いときには酸素を吸蔵し、排ガス中の酸素濃度が低いときには酸素を放出する、いわゆる酸素貯蔵能(OSC能)を有するセリア−ジルコニア(CeO2−ZrO2)等の酸素吸放出材が排ガス浄化用触媒において用いられている。
【0003】
特許文献1では、メソポーラス多孔体と、固溶体微粒子である基粒子及びこの基粒子の表面に配置された触媒金属からなる触媒粒子とを備え、前記触媒粒子が前記メソポーラス多孔体の細孔内に配置されてなる触媒体が記載され、基粒子としてCe−Zr酸化物固溶体を使用することが記載されている。
【0004】
特許文献2では、メソポーラスシリカの細孔内部に貴金属の触媒成分とセリウム−ジルコニウム複合酸化物が担持されてなる触媒が記載されている。
【0005】
特許文献3では、多孔質材料の細孔表面にセリア−ジルコニア複合酸化物を被覆してなる触媒担体が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−152725号公報
【特許文献2】特開2001−224962号公報
【特許文献3】特願2008−190055号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、Ce−Zr酸化物固溶体が微粒子の状態でメソポーラス多孔体の細孔内に導入されることが記載されているものの、このようなメソポーラス多孔体の細孔表面全体にCe−Zr酸化物固溶体の層が被覆された触媒については何ら記載も示唆もされていない。
【0008】
特許文献2及び3に記載の触媒及び触媒担体では、メソポーラスシリカ等の多孔質材料の細孔表面を被覆するセリア−ジルコニア複合酸化物が固溶体を形成しておらず、触媒の低温下における酸素吸放出能、ひいては低温下における酸化活性について依然として改善の余地があった。
【0009】
そこで、本発明は、新規な構成により、低温下において高い酸素吸放出能を有し、それゆえ低温下において高い酸化活性を示す触媒及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は下記にある。
(1)多孔質材料の細孔表面全体にセリア−ジルコニア固溶体層を被覆してなる触媒担体に触媒金属を担持したことを特徴とする、触媒。
(2)前記多孔質材料がメソポーラスシリカであることを特徴とする、上記(1)に記載の触媒。
(3)前記触媒金属が、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の触媒。
(4)(a)多孔質材料をセリウム塩とジルコニウム塩を含む溶液中に浸漬して乾燥する工程、(b)前記乾燥された多孔質材料をアンモニア及び水の存在下で該アンモニア及び水の少なくとも一部を蒸発させるのに十分な温度において加熱する工程、(c)得られた生成物を焼成することで、多孔質材料の細孔表面をセリウムとジルコニウムを含む金属酸化物で被覆する工程、(d)前記金属酸化物で被覆された多孔質材料を、カーボン前駆体を含む溶液中に浸漬して乾燥した後、不活性雰囲気中で熱処理する工程、(e)得られた生成物を酸化処理して触媒担体を調製する工程、並びに(f)前記触媒担体に触媒金属を担持する工程を含むことを特徴とする、触媒の製造方法。
(5)前記工程(b)の加熱処理が加圧容器内で実施されることを特徴とする、上記(4)に記載の方法。
(6)前記多孔質材料がメソポーラスシリカであることを特徴とする、上記(4)又は(5)に記載の方法。
(7)前記カーボン前駆体が、アルコール類、カルボン酸及びそれらの組み合わせであることを特徴とする、上記(4)〜(6)のいずれか1つに記載の方法。
(8)前記触媒金属が、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、上記(4)〜(7)のいずれか1つに記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の触媒によれば、多孔質材料、特にはメソポーラスシリカの細孔表面全体にセリア−ジルコニアの層がナノレベルの厚さで被覆される。したがって、セリア−ジルコニアの表面積が高く、しかも、このようなセリア−ジルコニアが固溶体を形成するため、得られる触媒の低温下における酸素吸放出能、ひいては低温下における酸化活性を顕著に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の触媒の一例を示す斜視図である。
【図2】本発明の方法による触媒の製造プロセスを示す模式図である。
【図3】本発明の方法を実施するための装置を示す。
【図4】比較例及び実施例の各触媒に関する広角X線回折パターンを示す図である。
【図5】比較例及び実施例の各触媒に関するCO酸化活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明は、排ガス浄化用触媒について詳しく説明されるが、本発明の触媒は、このような特定の用途に何ら限定されるものではなく、多孔質材料、特には制御された細孔構造を有する多孔質材料の細孔表面にセリア−ジルコニア固溶体がコーティングされてなる複合材料を含む任意の用途において幅広く適用できることは言うまでもない。
【0014】
本発明の触媒は、多孔質材料の細孔表面全体にセリア−ジルコニア固溶体層を被覆してなる触媒担体に触媒金属を担持したことを特徴としている。
【0015】
図1は、本発明の触媒の一例を示す斜視図である。本発明の触媒10は、多孔質材料11と、当該多孔質材料11の細孔12の表面全体に均一にコートされたセリア−ジルコニア固溶体層15とを含む触媒担体に触媒金属16が担持された構成を有する。
【0016】
本発明によれば、多孔質材料としては、特に限定されないが、例えば、規則的な細孔構造、特には規則的なナノ細孔構造を有する材料を使用することが好ましい。このように制御された規則的な細孔構造を持つ多孔質材料を本発明において使用することで、規則的な細孔構造はそのままにして、その細孔表面全体をセリア−ジルコニア固溶体の層で均一にコーティングすることができる。したがって、不均一な細孔構造を有する多孔質材料と比べて、得られる触媒の活性を顕著に改善することができる。
【0017】
本発明において用いられる「ナノ細孔」という語は、一般的には2〜50nmのメソ細孔を言うものであり、特には2〜10nmの細孔径を言うものである。
【0018】
本発明によれば、多孔質材料としては、例えば、メソポーラスシリカを使用することがより好ましい。本発明において用いられる「メソポーラスシリカ」という語は、二酸化ケイ素(シリカ)を材質として、一般に直径2〜50nmの均一で規則的な細孔(メソ孔)を有する物質のことを言うものである。
【0019】
本発明においては、メソポーラスシリカとしては、例えば、SBA−15、SBA−16、MCM−41、MCM−48、FMS−16等を使用することができる。これらのメソポーラスシリカは、当業者に公知の任意の方法によって製造することができ、一般的には界面活性剤を鋳型としたゾルゲル法によって製造することができる。
【0020】
具体的には、水溶液中に臨界ミセル濃度以上の濃度で界面活性剤を溶解させてミセル粒子を形成する。しばらく静置するとミセル粒子が充填構造をとり、コロイド結晶となる。ここで溶液中にシリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)等を加え、微量の酸あるいは塩基を加えて、コロイド粒子の隙間でゾルゲル反応を進行させシリカゲル骨格を形成させる。最後に高温で焼成することにより、鋳型として使用した界面活性剤を分解・除去して純粋なメソポーラスシリカを得ることができる。
【0021】
メソポーラスシリカの製造においては、当該メソポーラスシリカの鋳型として用いられる界面活性剤の種類を変更することで、界面活性剤の種類に応じた一定の大きさと構造を有するミセル粒子が形成されるので、得られるメソポーラスシリカの細孔の大きさや形、充填構造を比較的容易に制御することができる。それゆえ、本発明における多孔質材料としてメソポーラスシリカを使用することで、用途に応じた細孔径及び/又は細孔分布を有する触媒担体を得ることができる。
【0022】
本発明によれば、メソポーラスシリカ等の多孔質材料の細孔表面全体にセリア−ジルコニア固溶体の層を被覆することにより触媒担体が構成される。メソポーラスシリカ等の規則的な細孔構造、特には規則的なナノ細孔構造、高比表面積、並びに高耐熱性を有する材料の細孔表面全体にセリア−ジルコニア固溶体の層を被覆することで、従来の共沈法等で合成されたセリア−ジルコニア材料と比べてより高い比表面積を有する触媒担体が得られるだけでなく、固溶体を形成していないセリア−ジルコニア複合酸化物が多孔質材料の細孔表面に被覆されたものと比較しても、低温下において高い酸素吸放出能を達成することができる。
【0023】
本発明によれば、上記の触媒担体に触媒金属が担持される。このような触媒金属としては、特に限定されないが、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru及びそれらの組み合わせが挙げられる。中でも、酸化活性の高いPtやPdを上記の触媒担体に担持することで、得られる触媒の低温下における酸化活性、特にはCO酸化活性を顕著に向上させることができる。
【0024】
本発明では、多孔質材料の細孔表面全体にセリア−ジルコニア固溶体層を被覆してなる触媒担体に触媒金属を担持した触媒を製造するための方法がさらに提供される。
【0025】
従来の方法では、メソポーラスシリカ等の多孔質材料の細孔表面全体が金属酸化物で均一に被覆された触媒を製造することは困難であった。本願出願人は、特願2008−190055号の明細書において、このような多孔質材料の細孔表面をセリア−ジルコニア複合酸化物で均一に被覆するための方法を提案した。一般に、セリア−ジルコニア等の酸素吸放出材では、セリアとジルコニアが固溶体を形成するほうが、酸素吸放出能、特には低温下における酸素吸放出能が高いことが知られている。しかしながら、特願2008−190055号の明細書に記載の方法によって得られるセリア−ジルコニア複合酸化物は固溶体を形成しておらず、触媒の低温下における酸素吸放出能、ひいては低温下における酸化活性について依然として改善の余地があった。
【0026】
本発明者らは、上記の特許出願において提案された方法に加えて、セリウムとジルコニウムを含む金属酸化物で被覆された多孔質材料を、カーボン前駆体を含む溶液中に浸漬して乾燥した後、それを不活性雰囲気中で熱処理し、さらに得られた生成物を酸化処理することで、多孔質材料の細孔表面全体をセリア−ジルコニアの固溶体層で均一に被覆できることを見出した。このようにして得られた触媒担体に触媒金属を担持することにより、酸化活性、特には低温下における酸化活性が顕著に改善された触媒、特には排ガス浄化用触媒を得ることが可能である。
【0027】
具体的には、本発明の触媒は、(a)多孔質材料をセリウム塩とジルコニウム塩を含む溶液中に浸漬して乾燥する工程、(b)前記乾燥された多孔質材料をアンモニア及び水の存在下で該アンモニア及び水の少なくとも一部を蒸発させるのに十分な温度において加熱する工程、(c)得られた生成物を焼成することで、多孔質材料の細孔表面をセリウムとジルコニウムを含む金属酸化物で被覆する工程、(d)前記金属酸化物で被覆された多孔質材料を、カーボン前駆体を含む溶液中に浸漬して乾燥した後、不活性雰囲気中で熱処理する工程、(e)得られた生成物を酸化処理して触媒担体を調製する工程、並びに(f)前記触媒担体に触媒金属を担持する工程を含むことを特徴とする方法によって製造することができる。
【0028】
図2は、多孔質材料の例としてメソポーラスシリカSBA−15を用いた場合の本発明の方法による触媒の製造プロセスを示す模式図である。ここで、SBA−15は、一般に孔径が約4〜30nmの一次元細孔が六方最密的に配列した構造を有するナノ細孔構造体である。図2について詳しく説明すると、まず、SBA−15の多孔質材料11と、セリウム塩とジルコニウム塩を含む金属塩13を含有する溶液とを混合して撹拌及び乾燥し、多孔質材料11の細孔12の内壁に金属塩13を付着させる。次いで、これをアンモニアと水の存在下において加熱し、当該アンモニアと水の少なくとも一部を蒸発させて、このような雰囲気下で多孔質材料11と金属塩13を反応させ、それらを化学的に結合させる。次いで、得られた生成物を焼成することにより多孔質材料11の細孔表面に金属塩13をセリウムとジルコニウムを含む金属酸化物14として固着させる。次に、この金属酸化物14で被覆された多孔質材料11を、カーボン前駆体を含む溶液中に浸漬して乾燥した後、不活性雰囲気中で熱処理し、そして酸化雰囲気中で焼成することにより、多孔質材料11の細孔表面全体にセリア−ジルコニア固溶体層15を被覆した触媒担体を得る。最後に、得られた触媒担体に従来公知の方法で触媒金属16を担持する。
【0029】
本発明の方法によれば、先に記載した多孔質材料がセリウム塩とジルコニウム塩を含む溶液中に浸漬される。このようなセリウム塩及びジルコニウム塩としては、特に限定されないが、硝酸塩、塩化物、オキシ硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩等が挙げられる。
【0030】
上記のセリウム塩とジルコニウム塩を含む溶液において用いられる溶媒としては、これらの金属塩を溶解させることができる任意の溶媒、例えば、水などの水性溶媒又はエタノール等のアルコール溶媒を使用することができる。セリウム塩及びジルコニウム塩は、これらの溶媒に溶解された後、多孔質材料に導入される。より詳しくは、セリウム塩とジルコニウム塩は、所定濃度の溶液において、最終的にセリア−ジルコニア固溶体層として上記多孔質材料の細孔表面全体を均一に被覆するのに十分な量において導入される。特に限定されないが、一般的には、セリウム塩とジルコニウム塩を含む溶液は、最終的に得られるセリア−ジルコニア固溶体の含有量が多孔質材料の質量に対して5〜100wt%の範囲になるような量において当該多孔質材料に導入することができる。このようにしてセリウム塩とジルコニウム塩を含む溶液に多孔質材料を浸漬した後、それを乾燥することでセリウム塩とジルコニウム塩を多孔質材料の細孔内部に分散させて付着させることができる。このような乾燥は、例えば、多孔質材料を浸漬した溶液を60〜100℃の温度下で撹拌しながら溶媒を蒸発させて除去した後、さらに100〜120℃の温度で1〜12時間実施することができる。
【0031】
本発明の方法によれば、上記のようにしてセリウム塩とジルコニウム塩が導入された多孔質材料は、アンモニア及び水の存在下で当該アンモニア及び水の少なくとも一部を蒸発させるのに十分な温度において加熱される。
【0032】
セリウム塩とジルコニウム塩が導入された多孔質材料をアンモニア及び水の存在下で上記温度において加熱することで、セリウム塩及びジルコニウム塩と多孔質材料を反応させてそれらを化学的に結合させることができる。何ら特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、上記のような雰囲気下において多孔質材料を加熱処理することで、アンモニアと水を含む混合蒸気によりセリウム塩及びジルコニウム塩が加水分解され、多孔質材料の細孔表面にセリウム塩及びジルコニウム塩を構成する金属の水酸化物が形成される。そして、多孔質材料の表面上に存在するOH基と、この金属水酸化物のOH基とが脱水縮合して結合が形成されると考えられる。多孔質材料としてメソポーラスシリカ等のシリカを主成分とする材料を用いた場合には、このようなメソポーラスシリカの表面に存在するシラノール(Si−OH)基のOH基と金属水酸化物のOH基とが脱水縮合してSi−O−M(Mは金属水酸化物を構成する金属元素)の結合、すなわち、多孔質材料と金属水酸化物の間に酸素原子を介した結合が形成されると考えられる。
【0033】
上記の加熱は、アンモニアと水の少なくとも一部を蒸発させて混合蒸気として存在させ、セリウム塩及びジルコニウム塩と多孔質材料を反応させてそれらを化学的に結合させるのに十分な温度及び時間において実施することができる。例えば、このような加熱は、60〜100℃の温度で1〜12時間実施することができる。
【0034】
本発明の方法によれば、上記の加熱処理は、オートクレーブ等の加圧容器内で実施することが好ましい。
【0035】
何ら特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、上記のように加圧容器内において加熱することで、アンモニアと水を含む蒸気が加圧され、このような加圧蒸気によって、多孔質材料に付着したセリウム塩及びジルコニウム塩を当該多孔質材料の細孔のより内部まで移動させることができると考えられる。したがって、このようにすることで多孔質材料の表面全体にセリウム塩及びジルコニウム塩を確実かつ均一に分散させることができる。
【0036】
図3は、オートクレーブ等の加圧容器を使用した場合の本発明の方法を実施するための装置を示すものである。図3について詳しく説明すると、セリウム塩及びジルコニウム塩が付着された多孔質材料からなる試料21を一方の端部が開放された容器22内に導入し、当該容器22をアンモニア水23を含む加圧容器24内に封入する。次いで、この加圧容器24を、例えば、油浴中で所定の温度及び時間にわたって加熱することができる。
【0037】
本発明の方法によれば、セリウム塩及びジルコニウム塩が導入された多孔質材料をアンモニア及び水の存在下で当該アンモニア及び水の少なくとも一部を蒸発させるのに十分な温度において加熱した後、得られた生成物を焼成することにより当該多孔質材料の細孔表面にセリウムとジルコニウムを含む金属酸化物の被膜が形成され固着される。
【0038】
このような焼成は、多孔質材料の細孔表面にセリウムとジルコニウムを含む金属酸化物の被膜を形成して固着させるのに十分な温度及び時間において実施することができる。例えば、焼成は500〜800℃の温度で3〜12時間実施することができる。
【0039】
本発明の方法によれば、セリウムとジルコニウムを含む金属酸化物で被覆された多孔質材料は、カーボン前駆体を含む溶液中に浸漬され、乾燥した後、不活性雰囲気中で熱処理される。本発明の方法において用いられるカーボン前駆体としては、多孔質材料の細孔内、特にはメソポーラスシリカのメソ細孔内に容易に拡散でき、かつ乾燥の際に蒸発しないもの、すなわち、乾燥した際に多孔質材料の細孔中に残るものが好ましい。このようなカーボン前駆体としては、特に限定されないが、フルフリルアルコールなどのアルコール類、シュウ酸などのカルボン酸及びそれらの組み合わせなどが挙げられる。また、上記のカーボン前駆体を含む溶液において用いられる溶媒としては、これらのカーボン前駆体を溶解させることができる任意の溶媒、例えば、水などの水性溶媒又はアルコールやトルエン等の有機溶媒を使用することができる。
【0040】
カーボン前駆体は、これらの溶媒に溶解された後、多孔質材料に導入される。より詳しくは、カーボン前駆体は、所定濃度の溶液において、最終的に不活性雰囲気中で熱処理され、すなわち、炭化された際に、上記多孔質材料の細孔内をカーボンで完全に満たすのに十分な量において導入される。このようにしてカーボン前駆体を含む溶液に多孔質材料を浸漬した後、それを乾燥することでカーボン前駆体を多孔質材料の細孔内部に担持させることができる。このような乾燥は、例えば、多孔質材料を浸漬した溶液を50〜100℃の温度下で撹拌しながら溶媒を蒸発させて除去することで実施することができる。
【0041】
次に、細孔内部にカーボン前駆体が担持された多孔質材料は、不活性雰囲気中で熱処理される。不活性雰囲気中で熱処理することにより、カーボン前駆体が炭化され、多孔質材料の細孔内部がカーボンで完全に満たされると考えられる。なお、不活性雰囲気を構成するガスとしては、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴンなどが挙げられる。また、上記の熱処理は、多孔質材料の細孔内部に担持したカーボン前駆体を炭化するのに十分な温度及び時間において実施することができる。例えば、このような熱処理は、150〜700℃の温度で実施することができる。
【0042】
本発明の方法によれば、不活性雰囲気中で熱処理された多孔質材料は、さらに酸素を含むガス中で焼成される。このような酸化処理によって、先の工程で多孔質材料の細孔内部に担持したカーボンを除去し、当該多孔質材料の細孔表面全体にセリア−ジルコニアの固溶体層を形成することができる。上記の酸化処理は、多孔質材料の細孔内部に担持したカーボンを除去し、さらには多孔質材料の細孔表面にセリア−ジルコニアの固溶体層をするのに十分な温度及び時間において実施することができる。例えば、このような酸化処理は、300〜1000℃の温度で実施することができる。
【0043】
何ら特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、本発明の方法では、例えば、以下のようにしてセリア−ジルコニアの固溶体が形成されると考えられる。ここで、本願出願人による特願2008−190055号の明細書において明らかにされているように、セリウム塩とジルコニウム塩を導入した多孔質材料をアンモニア及び水の存在下で加熱し、そして焼成することによって得られた触媒担体では、多孔質材料の細孔表面に形成されたセリア−ジルコニア複合酸化物は固溶体を形成していない。本発明の方法によれば、これにさらにカーボン前駆体が導入され、そして不活性雰囲気中で熱処理される。その際、カーボン前駆体は炭化され、それがカーボンとして多孔質材料の細孔内部に担持されるとともに、このカーボンによって先に形成されたセリア−ジルコニア複合酸化物の表面から酸素が一部奪われると考えられる。すなわち、細孔内部に担持されたカーボンによってセリア−ジルコニア複合酸化物が還元されると考えられる。なお、セリア−ジルコニア複合酸化物からのこのような酸素の放出は、酸素吸放出材としての特性に基づくものである。次いで、酸素が一部除去されたセリア−ジルコニア複合酸化物中のCe及びZrは、当該複合酸化物中で互いに拡散すると考えられ、それゆえ、次にこれを酸化処理した際に固溶体が形成されるものと考えられる。
【0044】
何ら特定の理論に束縛されることを意図するものではないが、本発明の方法では、不活性雰囲気中での熱処理によって生成したカーボンが多孔質材料の細孔内部を完全に満たすため、このカーボンは、上記のようにセリア−ジルコニア層の表面から酸素が奪われる際に、同時にセリア−ジルコニア層が多孔質材料の細孔表面から剥離するのを防ぐ役割も果たすと考えられる。したがって、上記のようなカーボン前駆体を用いた還元熱処理によっても、多孔質材料の細孔構造が崩壊することなく、その細孔表面全体に均一なセリア−ジルコニアの固溶体層を形成することができると考えられる。
【0045】
本発明によれば、こうして多孔質材料の細孔表面全体にセリア−ジルコニアの固溶体層が形成された触媒担体に、従来のいわゆる含浸、蒸発・乾固等によって先に記載した触媒金属、例えば、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru及びそれらの組み合わせからなる触媒金属が0.01〜10wt%の量において担持される。先に記載したとおり、一般に、セリア−ジルコニア等の酸素吸放出材では、セリアとジルコニアが固溶体を形成するほうが、酸素吸放出能、特には低温下における酸素吸放出能が高いことが知られている。したがって、このような酸素吸放出材料と上記の触媒金属を組み合わせることで、得られる触媒の酸化活性、特には低温下での酸化活性を顕著に改善することが可能である。
【実施例】
【0046】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0047】
本実施例では、多孔質材料としてメソポーラスシリカであるSBA−15を使用し、このSBA15の細孔表面にセリア−ジルコニアの固溶体層をコーティングし、さらに触媒金属としてPtを担持した触媒を調製してその物性及び特性について調べた。
【0048】
[SBA−15の調製]
多孔質材料としてのSBA−15を以下のようにして調製した。鋳型となる界面活性剤としては、EO20−PO70−EO20(EO:エチレンオキシド、PO:プロピレンオキシド)の構造を有するブロックコポリマー(BASF社製、P123)を用いた。この界面活性剤P123 2gを濃塩酸12.3gと水51.5gの溶液に溶解して撹拌し、シリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)25.7gを加え、40℃で24時間、さらに100℃で24時間静置して沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過して洗浄し100℃で乾燥して乾燥粉末を得た。次いで、この乾燥粉末を空気中500℃で5時間焼成し、鋳型として使用した界面活性剤P123を除去して、メソ細孔(細孔径:約2〜50nm)を有する粉末状のSBA−15を得た。
【0049】
[比較例]
[Pt/SBA−15−CeO2−ZrO2複合酸化物からなる触媒の調製]
まず、ジルコニウム塩としてのオキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO32・2H2O)0.18gとセリウム塩としての硝酸セリウムアンモニウム(Ce(NH42(NO36)0.36gを25mLの蒸留水に溶解し、これに上で調製した多孔質材料SBA−15の粉末2gを添加した。次いで、この混合溶液を60℃で撹拌しながら水分を蒸発させ、これをさらに100℃で12時間乾燥した。このときのCeO2−ZrO2複合酸化物のコート量がSBA−15の質量に対して12wt%であることを確認した。次に、得られた試料に対して上記の工程をさらに2回繰り返し、CeO2−ZrO2複合酸化物をSBA−15の質量に対して36wt%コートした。
【0050】
次いで、得られた粉体を乳鉢で微粉化し、これを5ccのガラス製サンプル管に1.5g入れた。このサンプル管を50ccのテフロン(登録商標)容器内筒のSUSジャケット(オートクレーブ用圧力容器)に入れ、テフロン(登録商標)容器底にアンモニア水を10cc注入してこれを密閉した。次いで、このオートクレーブ用圧力容器を100℃の空気循環型オーブンに投入して5時間静置した。放冷後、サンプル管のみを取り出し、これを空気中500℃で5時間焼成し、CeO2−ZrO2複合酸化物のコート量がSBA−15の質量に対して36wt%のSBA−15とCeO2−ZrO2複合酸化物からなる触媒担体を得た。
【0051】
次に、得られた触媒担体の粉末を水に分散させ、六塩化白金酸(H2PtCl6)の溶液を当該触媒担体の粉末に対してPt濃度が0.1wt%になるような量で加え、次いで溶媒を蒸発させた後、400℃で1時間焼成してPt/SBA−15−CeO2−ZrO2複合酸化物からなる触媒(Pt担持量:0.1wt%)を得た。
【0052】
[実施例]
[Pt/SBA−15−CeO2−ZrO2固溶体からなる触媒の調製]
比較例で得られたCeO2−ZrO2複合酸化物のコート量がSBA−15の質量に対して36wt%のSBA−15とCeO2−ZrO2複合酸化物からなる触媒担体0.5gを、カーボン前駆体としてフルフリルアルコールとシュウ酸を含むトルエン溶液に添加した。次いで、この混合溶液を60℃で12時間撹拌しながら溶媒のトルエンを蒸発させ、これをさらに80℃で12時間空気中において乾燥した。次に、得られた粉末を窒素雰囲気中950℃で6時間熱処理した後、これをさらに空気中500℃で5時間焼成し、SBA−15とCeO2−ZrO2固溶体からなる触媒担体を得た。
【0053】
次に、得られた触媒担体の粉末を水に分散させ、六塩化白金酸(H2PtCl6)の溶液を当該触媒担体の粉末に対してPt濃度が0.1wt%になるような量で加え、次いで溶媒を蒸発させた後、400℃で1時間焼成してPt/SBA−15−CeO2−ZrO2固溶体からなる触媒(Pt担持量:0.1wt%)を得た。
【0054】
[触媒の分析]
比較例及び実施例で得られた各触媒について、それらの結晶状態をX線回折(理学製RINT2100)によって確認した。その結果を図4に示す。図4は、比較例及び実施例の各触媒に関する広角X線回折パターンを示す図である。図4を参照すると、比較例の触媒では、セリアに起因する回折ピークが30°、50°及び60°付近に観測され、セリアとジルコニアのそれぞれに起因する回折ピークが30°付近の回折ピークの高角度側にショルダーピークとして観測され、しかもそれらは非常にブロードなピークであった。この結果から、比較例の触媒では、セリアとジルコニアは固溶体を形成せず、しかもセリアが非常に微細な結晶としてSBA−15上に高分散に存在していると考えられる。これに対し、実施例の触媒(本発明の触媒)では、比較例の触媒で観測された各回折ピークがほぼ完全に消滅していた。この結果から、本発明の方法により製造された触媒では、セリア−ジルコニア相は非常に微細な固溶体として多孔質材料の細孔表面に存在していることがわかる。
【0055】
[触媒性能の評価]
比較例及び実施例の各触媒について、それらのCO酸化活性を評価した。まず、上記の各触媒10〜100mgを6mm径のSUSチューブにセットし、グラスウールで固定床とした。次いで、これを10%O2/Heバランスのキャリアガス流通下で所定の温度(50〜550℃)に加熱し、各温度で5%CO/Heバランスのガスを400μLパルスし、その際に生成したCO2を直接導入型TCD−GCにより検出した。CO導入量とCO2生成量から計算した各温度におけるCOからCO2への転化率を図5に示す。
【0056】
図5は、比較例及び実施例の各触媒に関するCO酸化活性を示すグラフである。図5は、横軸に加熱温度(℃)を示し、縦軸にCOからCO2への転化率(%)を示している。図5から明らかなように、セリア−ジルコニアが固溶体を形成していない比較例の触媒では、200℃を超える温度までCOの転化率が0%であったのに対し、セリア−ジルコニアが固溶体を形成している本発明の触媒では、200℃で約27%の転化率を示し、低温下において高いCO酸化活性を示すことがわかった。
【符号の説明】
【0057】
10 触媒
11 多孔質材料
12 細孔
13 金属塩
14 金属酸化物
15 セリア−ジルコニア固溶体層
16 触媒金属
21 試料
22 容器
23 アンモニア水
24 加圧容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質材料の細孔表面全体にセリア−ジルコニア固溶体層を被覆してなる触媒担体に触媒金属を担持したことを特徴とする、触媒。
【請求項2】
前記多孔質材料がメソポーラスシリカであることを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記触媒金属が、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
(a)多孔質材料をセリウム塩とジルコニウム塩を含む溶液中に浸漬して乾燥する工程、
(b)前記乾燥された多孔質材料をアンモニア及び水の存在下で該アンモニア及び水の少なくとも一部を蒸発させるのに十分な温度において加熱する工程、
(c)得られた生成物を焼成することで、多孔質材料の細孔表面をセリウムとジルコニウムを含む金属酸化物で被覆する工程、
(d)前記金属酸化物で被覆された多孔質材料を、カーボン前駆体を含む溶液中に浸漬して乾燥した後、不活性雰囲気中で熱処理する工程、
(e)得られた生成物を酸化処理して触媒担体を調製する工程、並びに
(f)前記触媒担体に触媒金属を担持する工程
を含むことを特徴とする、触媒の製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)の加熱処理が加圧容器内で実施されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記多孔質材料がメソポーラスシリカであることを特徴とする、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記カーボン前駆体が、アルコール類、カルボン酸及びそれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記触媒金属が、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru及びそれらの組み合わせからなる群より選択されることを特徴とする、請求項4〜7のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−201398(P2010−201398A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−52387(P2009−52387)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】