説明

触媒層−電解質膜積層体、及びそれを用いた膜電極接合体と燃料電池、並びにその製造方法

【課題】電解質膜が薄膜でありながら機械強度に優れ、触媒層と電解質膜との密着性が向上し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する触媒層−電解質膜積層体、及びそれを用いた膜電極接合体と燃料電池、並びにその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の触媒層−電解質膜積層体は、電解質膜1と触媒層2a,2bとを含み、電解質膜1は、固体酸を含み、多孔質支持体3を備え、触媒層2a,2bは、触媒を含み、電解質膜1の両面にそれぞれ接合され、多孔質支持体3が、電解質膜1と少なくとも触媒層2a,2bの一方又は両方の一部を貫通している。本発明の製造方法は、少なくとも一部に多孔質支持体を備える触媒層を形成する工程と、多孔質支持体を備える電解質膜を形成する工程と、多孔質支持体を少なくとも一部に備えるか又は備えていない他方の触媒層を形成する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒層−電解質膜積層体、及びそれを用いた膜電極接合体と燃料電池、並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりとともに、CO2や汚染物質を排出しないクリーンエネルギーとして燃料電池が注目されている。その中でも、エネルギー効率が高く、温度領域が100℃前後と一般用に取り扱いやすい固体高分子電解質を用いた固体高分子形燃料電池(PEFC)の開発が期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、通常固体高分子電解質からなる電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体を基本単位とする。固体高分子電解質としては、一般的にNafion(登録商標)で知られているパーフルオロスルホン酸等が用いられているが、プロトン伝導機構がH3+の状態でプロトンを伝導する運搬(Vehicle)機構であるため、加湿機構を備える必要があり、このためシステムが煩雑になるという問題点がある。
【0004】
そこで、無加湿状態でプロトン伝導性を有するプロトン伝導性電解質として金属リン酸塩が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、金属リン酸塩の一部に別種の金属をドープしたものも提案されている(例えば、特許文献2,3参照。)。
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に提案されている金属リン酸塩は、粉体であるため、成形性が困難であり、通常バインダーを添加してフィルム化しているが、バインダーを添加すると電解質本来のプロトン伝導性を阻害するため、電解質膜のプロトン伝導性と機械的性能がトレードオフの関係となり、電解質膜のプロトン伝導性と膜強度の両立が困難であるという問題がある。
【0006】
一方、膜強度を高め、機械的性能を改善した電解質膜として、多孔質材料に電解質を含浸させた複合膜が提案されている(例えば、特許文献4〜6参照。)。
【0007】
そして、燃料電池の出力特性が向上するという観点から、電解質膜の薄膜化が推奨されているが、
多孔質材料に電解質を含浸させた複合膜は、薄膜にすると、十分な膜強度が得られないという問題がある。
【0008】
さらに、燃料電池の電池性能を向上させるという観点から、電解質膜と触媒層との接合性を良好にさせることが要求されている(例えば、特許文献7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−294245号公報
【特許文献2】特開2008−53224号公報
【特許文献3】特開2008−53225号公報
【特許文献4】特開2002−8680号公報
【特許文献5】特表平11−501964号公報
【特許文献6】特開平10−92444号公報
【特許文献7】特開2008−293737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の問題を解決するため、電解質膜が薄膜でありながら機械強度に優れ、触媒層と電解質膜との密着性が向上し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する触媒層−電解質膜積層体、及びそれを用いた膜電極接合体と燃料電池、並びにその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の触媒層−電解質膜積層体は、電解質膜と、一対の触媒層とを含む触媒層−電解質膜積層体であって、上記電解質膜は、固体酸を含み、多孔質支持体を備えており、上記触媒層は、触媒を含み、上記電解質膜の両面にそれぞれ接合されており、上記多孔質支持体が、上記電解質膜と少なくとも上記触媒層の一方又は両方の一部を貫通していることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の膜電極接合体は、本発明の触媒層−電解質膜積層体と、一対のガス拡散層とを備え、上記ガス拡散層が上記触媒層−電解質膜積層体の両面にそれぞれ配置されていることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の燃料電池は、本発明の触媒層−電解質膜積層体と、一対のガス拡散層と、一対のセパレータとを備え、上記ガス拡散層と上記セパレータが上記触媒層−電解質膜積層体の両面にそれぞれ順次積層されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のプロトン伝導性電解質膜の製造方法は、触媒を含み、少なくとも一部に多孔質支持体を備える触媒層を形成する工程と、固体酸を含み、多孔質支持体を備える電解質膜を形成する工程と、触媒を含み、少なくとも一部に多孔質支持体を備えるか又は多孔質支持体を備えていない他方の触媒層を形成する工程とを含み、上記多孔質支持体が前記電解質膜と少なくとも一方又は両方の前記触媒層の一部を貫通していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、多孔質支持体が、電解質膜と少なくとも触媒層の一方又は両方の一部を貫通することにより、電解質膜が薄膜でありながら機械強度に優れ、触媒層と電解質膜との密着性が向上し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する触媒層−電解質膜積層体、及びそれを用いた膜電極接合体と燃料電池を提供できる。また、本発明の製造方法によれば、電解質膜が薄膜でありながら機械強度に優れ、触媒層と電解質膜との密着性が向上し、無加湿状態で高いプロトン伝導性を有する触媒層−電解質膜積層体が容易に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1A〜1Eは、本発明の実施形態1に係る触媒層−電解質膜積層体のいくつかの例を示す模式的断面図である。
【図2A】図2Aは、本発明の実施形態1に係る触媒層−電解質膜積層体の一例の製造工程を示す模式的断面図である。
【図2B】図2Bは、本発明の実施形態1に係る触媒層−電解質膜積層体の他の一例の製造工程を示す模式的断面図である。
【図2C】図2Cは、本発明の実施形態1に係る触媒層−電解質膜積層体の他の一例の製造工程を示す模式的断面図である。
【図2D】図2Dは、本発明の実施形態1に係る触媒層−電解質膜積層体の他の一例の製造工程を示す模式的断面図である。
【図2E】図2Eは、本発明の実施形態1に係る触媒層−電解質膜積層体の他の一例の製造工程を示す模式的断面図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態2に係る膜電極接合体の一例を示す模式的断面図である。
【図4】図4は、本発明の実施形態3に係る燃料電池の一例を示す模式的断面図である。
【図5】図5は、本発明の一実施例で用いた電解質の倍率250倍のSEM写真である。
【図6】図6は、本発明の一実施例における電解質膜中の電解質の倍率3万倍のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面等に基づいて、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための材料や製造方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、材料や製造方法等を下記のものに限定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
[実施形態1]
まず、本発明の実施形態1として、触媒層−電解質膜積層体について説明する。
【0019】
(触媒層−電解質膜積層体)
図1A〜1Eは、本発明の実施形態1に係る触媒層−電解質膜積層体のいくつかの例を示す模式的断面図である。触媒層−電解質膜積層体10は、図1A〜1Eに示すように、電解質膜1と、一対の触媒層2a、2bとを含み、電解質膜1は、多孔質支持体3を備えており、触媒層2a、2bは、電解質膜1の両面にそれぞれ接合されており、多孔質支持体3が、電解質膜1と少なくとも触媒層2a、2bの一方又は両方の一部を貫通している。なお、電解質膜1は固体酸を含み、触媒層は触媒を含む。
【0020】
[電解質膜]
電解質膜1は、その厚みは特に限定されず、通常約20〜1000μmであり、強度の観点から、約20〜300μmであることが好ましく、薄膜の観点から、20〜50μmであることが好ましい。
【0021】
<固体酸>
本発明において、「固体酸」とは、固体でありながら、酸の特性を示すものを意味する。固体酸としては、特に限定されず、例えば無機固体酸や有機固体酸を用いることができ、プロトン伝導性の観点から、室温から200℃までの温度範囲かつ無加湿雰囲気下において、プロトン伝導性を有する固体酸を用いることが好ましい。本明細書において、無加湿雰囲気下とは、固体酸が置かれた雰囲気中に意図的な加湿を行わないことを意味する。また、室温とは、本発明の目的においては、固体酸が置かれた雰囲気中に意図的な温度調整を行わないことを意味する。
【0022】
上記有機固体酸としては、スルホン酸基を有する有機酸であればよく、特に限定されない。例えば、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、2−ナフタレンスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸、2,6−ナフタレンジスルホン酸、1,3,6−ナフタレントリスルホン酸、1,3,5,7−ナフタレンテトラスルホン酸等が挙げられる。上記スルホン酸基を有する有機酸を単独又は一種以上混合して用いてもよい。
【0023】
上記無機固体酸としては、例えばプロトン伝導性を有する無機固体酸を用いることができ、プロトン伝導性を有する無機塩であることが好ましい。
【0024】
上記プロトン伝導性を有する無機塩としては、金属リン酸塩、金属硫酸塩等が挙げられる。上記金属リン酸塩としては、オルトリン酸塩、ピロリン酸塩等の化合物を挙げることができる。中でも、プロトン伝導性という観点から、下記式(1)で表される金属リン酸塩であることがより好ましい。
1-xx27 (1)
但し、式(1)中、Xは0≦X<0.5であり、MはZr,Cs,Sn,Ti,Si,Ge,Pb,Hf,Ca,Mg,W,Na及びAlからなる群から選ばれる1種であり、NはAl,In,B,Ga,Sc,Yb,Ce,La,Sb,Y,Nb及びMgからなる群から選ばれる1種である。
【0025】
上記金属リン酸塩としては、具体的には、リン酸スズ,リン酸ジルコニウム,リン酸セシウム,タングステンリン酸塩等を挙げることができる。好ましくは、スズやセシウム等の金属の一部がインジウム,アルミニウムやアンチモン等のドーピング金属元素で置換されたピロリン酸塩である。
【0026】
上記金属リン酸塩は、Zr,Cs,Sn,Ti,Si,Ge,Pb,Hf,Ca,Mg,W,Na又はAl等の金属を主金属として、主金属と異なる金属をドープしてもよい。ドープ金属を用いた場合、上記主金属のうちリン酸塩としての安定性の点から、Sn,Cs,Ti又はZrを用いることが好ましい。
【0027】
上記ドープ金属としては、例えば、Snを主金属として用いた場合、主金属と固溶可能なものであることから、In,Alが好適である。主金属とドープ金属の配合比率は固溶限界により異なるが、Snを主金属、Inをドープ金属として用いる場合、例えば、モル比で、Sn/In=7/3〜9.8/0.2の範囲が望ましい。
【0028】
上記金属リン酸塩は、例えば1種以上の金属酸化物とリン酸を加熱して、熱処理することにより合成することができる。
【0029】
上記金属酸化物としては、リン酸と結晶性塩を生成可能なものであればよく、特に限定されない。例えば、Zr,Cs,Sn,Ti,Si,Ge,Pb,Hf,Ca,Mg,W,Na及びAl等の金属元素からなる酸化物が挙げられる。
【0030】
上記金属リン酸塩は、具体的には、以下のようにして作製することができる。まず、スズ等の主金属を含む化合物(以下、単に主金属化合物とも記す。)及びインジウム等のドーピング金属を含む化合物(以下、単にドーピング金属化合物とも記す。)と、液体リン酸を、所定のモル数で配合して混合物を得る。次いで、得られた混合物に水を加えて、約100〜300℃の温度で、約1〜3時間スターラー等を用いて攪拌して分散させて分散液を得る。得られた分散液を坩堝に入れて、例えば、約300〜700℃の温度で、約1〜3時間焼成する。上記高温状態ではリン酸が消失する恐れがあるため、液体リン酸のモル数は大目、例えば、モル当量の約1.1〜1.5倍加えるのが望ましい。なお、主金属化合物及びドーピング金属化合物としては、例えば金属酸化物、金属水酸化物、金属塩化物、又は金属硝酸化物等を用いることができる。
【0031】
上記において、焼成時におけるリン酸消失の問題を回避するため、液体リン酸に替えて固体リン酸を用いても良い。固体リン酸としては、例えば、リン酸1水素アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム等を用いて、スズ等の主金属を含む金属酸化物、及びインジウム等のドーピング金属を含む金属酸化物とを所定のモル数で混合する。主金属を含む金属酸化物とドーピング金属を含む金属酸化物は、主金属とドーピング金属のモル比を、例えば、約9/1〜1/1にして混合したものがよい。得られた混合物を坩堝に投入し、例えば、約300〜650℃の温度で、約1〜3時間で焼成する。次いで、焼成で得られた生成物をめのう鉢で粉砕して、所望の金属リン酸塩を得ることができる。固体リン酸を用いることにより、モル当量のリン酸が、金属酸化物と反応し、余剰物は高温により揮発するため余剰のリン酸が付着せず再現性の良い金属リン酸塩を得ることができる。
【0032】
また、上記金属リン酸塩は、共沈法で作製することも可能である。例えば、塩化スズ5水和物(SnCl4・5H2O)及び塩化インジウム4水和物(InCl3・4H2O)を、スズとインジウムが約9/1のモル比となるよう所定濃度の水溶液に調整した後、スターラーで攪拌しながら、アンモニア水溶液をpH7になるまで滴下することにより、水酸化スズ(Sn(OH)4)中に微量な水酸化インジウム(In(OH)3)が均一に存在した状態の沈殿物が得られる。その後、沈殿物を吸引・濾過して乾燥させ、上記水酸化塩とリン酸を混合し、還元雰囲気下で約200℃、約2時間熱処理を行うことにより、金属リン酸塩を得ることができる。最後に脱イオン水で洗浄を行う。共沈法によれば、所望の複数の金属イオンを含む溶液から複数種類の難溶性塩を同時に沈殿させることで、インジウムをリン酸スズに均一にドープした粉体を調整することができる。
【0033】
また、上記固体酸としては、上記金属リン酸塩とリン酸類で構成された電解質であってもよい。
【0034】
上記リン酸類(以下、単に「リン酸」ともいう。)とは、オルトリン酸及びリン酸縮合体をいい、リン酸縮合体としては、ピロリン酸、トリリン酸、メタリン酸(ポリリン酸)等が挙げられる。
【0035】
また、上述した金属リン酸塩とリン酸類で構成された電解質は、金属リン酸塩の金属元素及びドープされる金属元素の原子数をそれぞれ[m]及び[n]、金属リン酸塩のリンの原子数とリン酸のリンの原子数の合計を[p]とした場合、下記式(2)を満たすことが好ましい。
2<[p]/([m]+[n])≦4 (2)
【0036】
より好ましくは、下記式(3)を満たす。
2.4≦[p]/([m]+[n])≦3.2 (3)
【0037】
上記式(2)を満たすことにより、高いプロトン伝導性が得られるとともに、成形性が良好なものとなる。上記式[p]/([m]+[n])の値が2以下であると、金属リン酸塩上のリン酸量が少なくなり、プロトン伝導性が向上しにくくなる。一方、上記式[p]/([m]+[n])の値が4を超えると、リン酸量が多すぎて大気中の水分の吸湿が高く成形体が脆くなるので形状が維持できない恐れがある。
【0038】
また、上記プロトン伝導性を有する無機塩としては、ヘテロポリ酸と無機塩の複合体を用いてもよい。上記無機塩としては、硫酸水素塩、リン酸水素塩等が挙げられる。上記硫酸水素塩としては、硫酸水素セシウム、硫酸水素カリウム等を挙げることができる。上記リン酸水素塩としては、リン酸水素セシウム等を挙げることができる。上記ヘテロポリ酸としては、リンタングステン酸(H3PW1240:WPA)等が挙げられる。また、硫酸水素塩やリン酸水素塩の替わりに炭酸セシウム(Cs2CO3)、硫酸セシウム(Cs2SO4)等を用いてもよい。中でも、プロトン伝導性の観点から、硫酸水素塩とヘテロポリ酸の複合体が好ましく、より好ましいのはメカノケミカル法によって得られる硫酸水素カリウムとリンタングステン酸の複合体である。
【0039】
ヘテロポリ酸と無機塩の複合体の一種であるタングステンリン酸と硫酸水素カリウム(KHSO4)の複合体は、例えば以下のようなメカノケミカル法で作製することができる。WPA(H3PW1240:12タングスト(VI)リン酸n水和物)をあらかじめ温度60℃で約5〜24時間乾燥することにより、6水和物(WPA・6H2O)にする。次いで、得られたWPA・6H2Oと硫酸水素カリウム(KHSO4)とボールをめのうポットに入れる。その後、遊星ボールミル(フリッチェ・ジャパン株式会社製、P−7)で720rpm、10分混合することにより、タングステンリン酸と硫酸水素カリウム(KHSO4)の複合体が得られる。タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの配合量は、モル比で、例えば、1/99〜40/60であることが好ましい。
【0040】
なお、上記メカノケミカル法では、ボールミル等を用いたミリングによって得られる衝撃や摩擦等の大きな機械的エネルギーを利用することによって、タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を合成している。したがって、タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体を作製する場合には、金属リン酸塩等のように高温プロセスを必要としないため、作製が比較的容易であるという利点がある。
【0041】
上記ミリング処理により、WPAのケギンアニオンPW12403-とKHSO4のHSO4-アニオンがブレンステッド酸−塩基対の形で水素結合を形成することが導電率の向上に関係していると考えられる。硫酸水素塩とヘテロポリ酸をメカノケミカル法により複合化し、無機固体表面に欠陥構造やランダム構造を高密度に導入し、水素結合ネットワークを設計することが、広い温度範囲で高いプロトン伝導性を有する複合体を合成するための一つの重要な指針となる。
【0042】
また、上記固体酸としては、セシウムリン酸とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体を用いても良い。上記セシウムリン酸としては、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)、二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)等を挙げることができる。
【0043】
リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体は、例えば、以下のようにして作製する。
【0044】
まず、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)を、以下のようにして作製する。炭酸セシウム(Cs2CO3)及び水を所定の割合で混合し、スターラー等を用いて撹拌子で撹拌する。次いで、所定のモル数の液体リン酸を少量ずつ滴下し、約100〜150℃の温度で、約1〜3時間、撹拌しながら水を蒸発させる。その後、オーブンに入れて、例えば、約100〜150℃の温度で乾燥する。乾燥する時間は、例えば、約1日〜数日である。次いで、乾燥で得られた生成物をめのう鉢で粉砕して粉末状にし、所望のリン酸二水素セシウム(CsH2PO4)又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)を得ることができる。
【0045】
次に、リン酸ケイ素(SiP27)は、以下のようにして作製する。二酸化ケイ素(SiO2)と液体リン酸を所定のモル数で配合する。次いで、混合物をめのうばちに入れ、水あめ状になるまで混ぜる。その後、アルミナ坩堝に入れて、約100〜700℃の温度で焼成する。焼成する時間は、例えば、約30〜80時間である。次いで、焼成で得られた生成物をめのう鉢で粉砕して、所望のリン酸ケイ素(SiP27)を得ることができる。
【0046】
次に、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)と、リン酸ケイ素(SiP27)を所定のモル数で配合する。得られた混合物をポッドミル等で分散させて、リン酸二水素セシウム(CsH2PO4)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体又は二リン酸五水素セシウム(CsH5(PO42)とリン酸ケイ素(SiP27)の複合体を得る。分散時間は、例えば、約1時間〜30時間である。リン酸二水素セシウム又は二リン酸五水素セシウムとリン酸ケイ素の配合量は、モル比で1/4〜2/1であることが好ましい。
【0047】
有機固体酸は溶媒に溶けることからバインダー成分との馴染みが良く、電解質ペースト作製時に分散性が良好になるため、電解質膜の膜質が良好になるという効果が得られやすい。一方、無機固体酸は耐熱性及び耐久性に優れるため、電解質を膜化した後の機械強度が良好になるという効果が得られやすい。
【0048】
上記固体酸は、特に限定されないが、電解質膜中において、粒径が約0.1〜200μm、好ましくは、約0.1〜150μmである。なお、電解質膜を形成する前の上記固体酸単体も、粒径が約0.1〜200μm、好ましくは約0.1〜150μmである。固体酸の粒径が約0.1〜200μmであることにより、電解質ペースト作製時の分散性が向上し、良好な膜質の電解質膜が得られやすい。本発明において、固体酸の粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)等を用いて測定することができる。
【0049】
<バインダー>
電解質膜1は、固体酸に加えてバインダーを含んでもよい。
【0050】
上記バインダーとしては、結着性を有するものであればよく、特に限定されない。例えば、フッ素系ポリマー、炭化水素系ポリマー、フッ素系イオノマー、炭化水素系イオノマー、イオン性液体、セルロース系ポリマー等を用いることができる。中でも、pH1〜3における耐酸性、約50〜300℃の温度における耐熱性を有するものが好ましい。また、プロトン伝導性を有していても良い。
【0051】
上記フッ素系ポリマーとしては、テトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン、四フッ化エチレン―六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、四フッ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等のフッ素系樹脂等を用いることができる。
【0052】
上記炭化水素系ポリマーとしては、炭化水素系化合物を主骨格とする高分子であって、ポリイミド,ポリアミドイミド,ポリスチレンスルファイド,ポリベンズイミダゾール,ポリピリジン,ポリピリミジン,ポリイミダゾ−ル,ポリベンゾチアゾール,ポリベンゾオキザゾール,ポリオキサジアゾ−ル,ポリキリノン,ポリキノキサリン,ポリチアジアゾ−ル,ポリテトラザビレン,ポリオキサゾ−ル,ポリチアゾール,ポリビニールピリジン及びポリビニールイミダゾール等が挙げられる。
【0053】
上記フッ素系イオノマーとしては、デュポン社のNafion(登録商標)、旭硝子社のフレミオン(登録商標)、旭化成社のアシプレックス(登録商標)のようなパーフルオロスルホン酸系,アクイヴィオ(登録商標)のようなスルホニルフロリドビニルエーテル(SFVE)−テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。
【0054】
上記炭化水素系イオノマーとしては、ポリアリーレンエーテルスルホン酸,ポリスチレンスルホン酸,シンジオタクチックポリスチレンスルホン酸,ポリフェニレンエーテルスルホン酸,変性ポリフェニレンエーテルスルホン酸,ポリエーテルスルホンスルホン酸,ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸及びポリフェニレンサルファイドスルホン酸等が挙げられる。
【0055】
上記イオン性液体としては、プロトン伝導性を妨げないものであればよく、特に限定されないが、例えば、フルオロハイドイロジェネート型イオン液体,ジエチルメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホン酸系イオン液体等が挙げられる。
【0056】
上記セルロース系ポリマーとしては、メチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,酢酸セルロース等が挙げられる。
【0057】
上述したバインダーの中でも、耐久性及び結着性の観点から、PTFE,ポリフッ化ビニリデン,パーフルオロスルホン酸,スルホニルフロリドビニルエーテル(SFVE)−テトラフルオロエチレン共重合体酢酸セルロースが好ましい。また、上述したバインダーは、単独で用いてもよく、一種以上を組合せて用いてもよい。
【0058】
<多孔質支持体>
多孔質支持体3としては、細孔を有する多孔質なものであればよく、特に限定されない。例えば、有機繊維、無機繊維等で構成される多孔質支持体を用いることができる。また、多孔質支持体3の形態は、特に限定されず、例えば不織布、織布等のシート状、メンブレンフィルター等の薄膜状が挙げられる。また、多孔質支持体3としては、例えば、pH1〜3における耐酸性、約50〜300℃の温度における耐熱性を有するものが好ましい。また、プロトン伝導性を有するものであってもよい。
【0059】
多孔質支持体3は、厚さが10〜500μmであることが好ましく、より好ましくは20〜300μmである。厚さが10μm未満では、多孔質支持体3の強度が著しく低下して電解質膜の補強材としての強度が得られにくい恐れがある。一方、厚さが500μmを超えると、電解質膜の補強材としては厚くなりすぎ、プロトン伝導性が低下する恐れがある。
【0060】
また、多孔質支持体3は、空隙率が40〜98体積%であることが好ましい。より好ましくは、60〜96体積%である。空隙率が98体積%を超えると、強度が著しく低くなり、補強材としての役割を果たしにくい恐れがある。一方、40体積%未満では、プロトン伝導性が低くなる恐れがある。
【0061】
なお、本発明において、「空隙率」は、例えば、以下のように測定することができる。所定の面積の多孔質支持体の厚みをマイクロメーターで測定し、見かけの体積を算出し、その後、重量と比重により実体積を算出し、見かけの体積から実体積を引くことにより算出した空隙率を多孔質支持体の空隙率とする。
【0062】
また、多孔質支持体3は、細孔径が500μm以下であることが好ましく、0.2〜500μmであることがより好ましく、5〜400μmであることが特に好ましい。細孔径が0.2μm未満では、細孔径が小さく電解質(固体酸)を含む電解質ペーストが多孔質支持体中に含浸しにくい恐れがある。一方、細孔径が500μmを超えると、多孔質支持体の強度が著しく低下して電解質膜の補強材としての強度が得られにくい恐れがある。なお、本発明において、「細孔径」は、例えば、SEMを用いて測定することができる。
【0063】
また、多孔質支持体3は、繊維径(平均直径)が30μm以下であることが好ましく、0.2〜30μmであることがより好ましい。繊維経が0.2μm未満では、多孔質支持体3の強度が著しく低下して電解質膜の補強材としての強度が得られにくい恐れがある。一方、繊維経が30μmを超えると電解質膜の補強材としては太くなり過ぎ、プロトン伝導性が低下する恐れがある。また、多孔質支持体3は、上記の繊維径の範囲内において、二種以上の異なる繊維経を有する有機繊維又は無機繊維で構成されてもよい。
【0064】
上記有機繊維としては、特に限定されず、例えば、繊維状のポリプロピレン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリアミド、ポリアクリルニトリル、ポリエーテルスルホン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルホン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフロロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、アラミド、セルロース、セルローストリアセテート、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリオキシメチレン等が挙げられる。そして、有機繊維は、より細孔径の細かいものが安価に得ることが可能となる利点がある。
【0065】
上記無機繊維としては、例えば、ガラス繊維,炭素ファイバー,黒鉛ファイバー,炭化珪素ファイバー,アルミナファイバー,タングステンカーバイファイバート,アルミナウィスカー,シリカウィスカー,セラミックファイバー,金属ファイバー等が挙げられる。このうち、耐酸性及び耐熱性の点から、無機繊維ではガラス繊維、有機繊維ではポリアクリルニトリル繊維を用いることが好ましく、より好ましいのはガラス繊維である。
【0066】
ガラス繊維で構成される多孔質支持体(以下、ガラス繊維支持体とも記す。)の場合、ガラス繊維の繊維径(平均直径)は、20μm以下であることが好ましく、0.3〜20μmであることがより好ましい。繊維経が0.3μm未満では、ガラス繊維支持体の強度が著しく低下して電解質膜の補強材としての強度が得られにくい恐れがある。一方、繊維経が20μmを超えると電解質膜の補強材としては太くなり過ぎ、プロトン伝導性が低下する恐れがある。上記ガラス繊維支持体は、繊維径が異なる二種以上のガラス繊維で構成されてもよい。また、入手が容易という観点から、ガラス繊維支持体としては、ガラスクロスやガラス繊維不織布を用いることが好ましい。
【0067】
また、上記ガラス繊維支持体において、ガラス繊維同士を結着させる結着成分として樹脂成分を含む場合、ガラス繊維支持体におけるガラス繊維の含有割合は、50〜98質量%であることが好ましい。ガラス繊維支持体におけるガラス繊維の含有割合が、50〜98質量%であることにより、電解質膜の補強材としての役割を果たせることができる強度を有するガラス繊維支持体が得られる。
【0068】
上記結着成分としては、ガラス繊維同士を結着させるものであればよく、特に限定されないが、耐熱性、耐酸性に優れたものが好ましい。例えば、叩解セルロース、アクリル繊維、アクリル樹脂エマルジョン、フッ素樹脂ディスパージョン、コロイダルシリカ、エポキシ樹脂等を用いることができる。上記ガラス繊維支持体に結着成分を含ませてガラス繊維同士を結着させることにより、多孔質支持体の機械的特性が向上する。
【0069】
上記ガラス繊維支持体は、厚さが10〜200μmであることが好ましく、より好ましくは20〜150μmである。厚さが10μm未満では、ガラス繊維支持体の強度が著しく低下して電解質膜の補強材として強度を得られにくい恐れがある。一方、厚さが200μmを超えると電解質膜の補強材としては厚くなりすぎ、プロトン伝導性が低下する恐れがある。
【0070】
また、上記ガラス繊維支持体は、空隙率が50〜98体積%であることが好ましい。より好ましくは、80〜96体積%である。空隙率が98体積%を超えると、強度が著しく低くなり、補強材としての役割を果たしにくい恐れがある。一方、空隙率が50体積%未満では、プロトン伝導性が低くなる恐れがある。
【0071】
また、上記ガラス繊維支持体は、細孔径が400μm以下であることが好ましく、0.2〜400μmであることがより好ましく、10〜360μmであることが特に好ましい。細孔径が0.2μm未満では、細孔径が小さく電解質(固体酸)を含む電解質ペーストが多孔質支持体中に含浸しにくい恐れがある。一方、細孔径が400μmを超えると、多孔質支持体の強度が著しく低下して電解質膜の補強材としての強度が得られにくい恐れがある。
【0072】
[触媒層]
触媒層2a、2bは、触媒を含む。触媒としては、燃料電池におけるアノード及び/又はカソード反応を促進する物質であればよく、特に限定されない。例えば、白金担持カーボン,白金−ルテニウム担持カーボン,白金−コバルト担持カーボン,金担持カーボン,銀担持カーボン,鉄−コバルト−ニッケル担持カーボン等の金属担持カーボン、白金ブラック,白金−ルテニウムブラック,白金−コバルトブラック,金ブラック,銀ブラック等の金属微粒子、モリブデンカーバイド等の無機物質を挙げることができる。中でも、触媒活性の高い白金担持カーボン、リン酸被毒の少ないモリブデンカーバイド等が好適である。
【0073】
触媒層2a、2bは、触媒に加えて固体酸を含むことが好ましい。固体酸としては、上述のものを用いることができ、密着性の観点から、電解質膜と同様の固体酸を含むことが好ましい。
【0074】
触媒層2a、2bは、バインダーを含有してもよい。触媒層は、固体酸と触媒のみでも成形可能であるが、これらにバインダーを添加してペースト化したものを塗工・成形することにより、機械強度に優れた触媒層を得ることができる。バインダーとしては、上述したものを用いることができる。
【0075】
触媒層2a、2bの厚みは、電極基材の種類、電解質膜の厚み等を考慮して適宜決定すれば良い。例えば、約20〜3000μm、好ましくは、約20〜2000μmである。
【0076】
実施形態1の触媒層−電解質膜積層体10において、多孔質支持体3は、図1A〜1Eに示しているように、電解質膜1と少なくとも触媒層2a、2bの一方又は両方の一部を貫通している。これにより、電解質膜が薄膜であっても、膜強度を高くすることができる上、触媒層と電解質膜の密着性も向上する。また、触媒層−電解質膜積層体10は、電解質膜の膜強度及び触媒層と電解質膜の密着性をより向上させるという観点から、図1C〜1Eに示しているように多孔質支持体3が、電解質膜1と触媒層2a及び2bの一部又は全体を貫通していることが好ましい。
【0077】
以下、実施形態1の触媒層−電解質膜積層体10の製造方法について説明する。
【0078】
触媒層−電解質膜積層体10は、特に限定されないが、例えば、以下のように製造することが好ましい。触媒層−電解質膜積層体10の製造方法は、具体的には、図2A〜2Eに示すように、触媒を含み、少なくとも一部に多孔質支持体3を備えている触媒層2bを形成する工程と;固体酸を含み、多孔質支持体3を備える電解質膜1を形成する工程と;触媒を含み、少なくとも一部に多孔質支持体3を備えるか又は多孔質支持体3を備えていない触媒層2aを形成する工程とを含む。
【0079】
まず、多孔質支持体を準備する。多孔質支持体としては、上述のものを用いることができる。
【0080】
<触媒層2bの形成>
次に、触媒ペーストを多孔質支持体に含浸させ、乾燥することで、図2A〜2Eに示すように多孔質支持体を少なくとも一部に備える触媒層2bを形成する。なお、図2A及び2Dのように多孔質支持体を一部に備える触媒層2bは、多孔質支持体からのはみ出し部分を有することになる。
【0081】
上記触媒ペーストは、触媒と、固体酸と、溶媒を含む混合物を、分散機で混合・分散して得られる。分散機としては、超音波分散機、ホモゲナイザー、ボールミル等を用いることができる。
【0082】
なお、触媒及び固体酸としては、上述したものを用いればよい。上記溶媒としては、触媒及び固体酸を分散できるものであればよく、特に限定されず、例えば、水,エタノール,メタノール,1−ブタノール,t−ブタノール,プロパノール,N−メチルピロリドン,ジメチルアセトアミド等を用いることができる。
【0083】
上記触媒ペーストにおいて、触媒と固体酸とからなる固形分の濃度は、塗工性の観点から、2〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜20質量%である。また、触媒と固体酸の配合量は、質量比で、1/2〜1/0.1であることが好ましく、より好ましくは1/1〜1/0.25である。
【0084】
上記触媒ペーストは、さらにバインダーを含んでよい。上記バインダー(固形分)の添加量は、触媒ペースト中の固形分に対して2〜50質量%であることが好ましく、5〜40質量%であることがより好ましい。この場合、触媒と固体酸をバインダーの溶液もしくはディスパージョンに添加した後、溶媒を加えて触媒ペーストを作製してもよい。溶媒は、バインダーを凝集させないものが用いられる。具体的には水,エタノール,メタノール,1−ブタノール,t−ブタノール,プロパノール,N−メチルピロリドン,ジメチルアセトアミド等を挙げることができる。
【0085】
触媒層に用いるバインダーの種類、溶媒の種類、配合比は電解質膜と同じであってもよいし、異なってもよい。電解質膜に用いるバインダーと触媒層に用いるバインダーが異なる種類の場合、電解質膜と触媒層の密着性の点から、電解質膜と触媒層に含まれる少なくとも1種類のバインダーのガラス転移点又は軟化点の差が約50℃以下であることが好ましい。
【0086】
多孔質支持体への触媒ペーストの含浸は、特に限定されないが、例えば多孔質支持体に触媒ペーストを塗布することにより行うことができる。上記塗布方法は、特に限定されるものではなく、例えば、
スクリーン印刷、ブレードコート、ダイコート、スプレー塗工、ディスペンサー塗工、インクジェット塗工等を用いることができる。このうち、触媒ペーストの作製の簡便さから、スクリーン印刷,ブレードコートを用いることが好ましい。
【0087】
上記触媒ペーストの塗布量としては、例えば、触媒として白金担持カーボンを用いる場合、白金担持量として約0.1〜2.0mg/cm2、好ましくは、約0.5〜1.5mg/cm2である。
【0088】
乾燥温度は、例えば、約50〜300℃、好ましくは約100〜250℃である。乾燥温度が約50℃より低いと、触媒ペーストに含まれる溶媒が除去できない恐れがある。一方、乾燥温度が約300℃を超えると、バインダーが熱分解する恐れがある。また、乾燥時間は、例えば、約10分〜5時間、好ましくは約10分〜3時間である。
【0089】
<電解質膜1の形成>
次に、固体酸とバインダーを含む電解質ペーストを多孔質支持体3に含浸させた後、乾燥することで、図2A〜2Eに示しているように、触媒層2b上に、多孔質支持体3を備えた電解質膜1を形成する。なお、固体酸とバインダーとしては、上述のものを用いればよい。
【0090】
上記電解質ペーストは、固体酸と、バインダーを含む混合物を、分散機で混合・分散して得られる。分散機としては、超音波分散機、ホモゲナイザー、ボールミル等を用いることができる。
【0091】
上記電解質ペーストは、さらに溶媒を含んでもよい。上記溶媒としては、バインダーを凝集させないものであればよく、例えば、水、エタノール、メタノール、1−ブタノ−ル、t−ブタノ−ル、プロパノール、N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド等を用いることができる。この場合、固体酸を上記バインダーの溶液もしくはディスパージョンに添加した後、溶媒を加えて電解質ペーストを作製してもよい。
【0092】
上記電解質ペーストにおいて、固体酸とバインダーの固形分の配合量は、自立性と電池性能の観点から、質量比で、10/1〜10/3であることが好ましく、10/1であることがより好ましい。
【0093】
なお、分散方法又はバインダーの種類によって電解質ペースト中の固体酸の粒径が異なることが考えられる。この場合、それに応じて細孔径の異なる多孔質支持体3を用いることができる。
【0094】
電解質ペーストの多孔質支持体3への含浸は、特に限定されるものではなく、例えば、ナイフコーター、バーコーター、スプレー、ディップコーター、スピンコーター、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター、スクリーン印刷、圧延法等の一般的な方法を用いて行うことができる。
【0095】
また、乾燥温度は、約50〜300℃、好ましくは約100〜250℃である。乾燥温度が、約50℃より低いとペースト中に含まれる溶媒が除去できない恐れがあり、約300℃を超えるとバインダーが熱分解する恐れがある。また、乾燥時間は、約10分〜5時間、好ましくは約10分〜3時間である。
【0096】
なお、固体酸として金属リン酸塩を用いる場合、金属リン酸塩を粉末状にし、上述のリン酸類とバインダーを加え、上記のように混合・分散し、電解質ペーストを作製することができる。或いは、後焼成として、金属リン酸塩にリン酸を所定量加えた後、約100〜200℃の温度で、約30分〜2時間焼成したものにバインダーを添加して電解質ペーストを作製してもよい。上記において、金属リン酸塩とリン酸類の配合量は、質量比で、5/0.2〜5/2、好ましくは5/0.3〜5/1.2、より好ましくは5/0.8〜5/1、最も好ましくは5/0.9になるように調整する。そして、乾燥処理により、リン酸に含まれる水を揮発させるとともに、金属リン酸塩上のオルトリン酸が縮合してピロリン酸又はメタリン酸等が生成される。そして、このピロリン酸又はメタリン酸等と金属リン酸塩が架橋されることにより金属リン酸塩周辺にリン酸とのネットワークが形成され、電荷を有するリン酸が高密度に集積することにより良好なプロトン伝導性が発現するとともに、電解質の強度が増大するものと考えられる。
【0097】
<触媒層2aの形成>
次に、触媒層2bの場合と同様にして、触媒ペーストを作製する。得られた触媒ペーストを多孔質支持体3に含浸させ、乾燥することで、図2C〜2Eに示しているように、電解質膜1上に少なくとも一部に多孔質支持体3を備える触媒層2aを形成する。或いは、電解質膜1上に、触媒ペーストを直接塗布し、乾燥することで、図2A及び図2Bに示しているように、電解質膜1上に多孔質支持体3を備えていない触媒層2aを形成する。なお、図2C及び2Dに示しているように、多孔質支持体3を一部に備える触媒層2aは、多孔質支持体からのはみ出し部分を有することになる。
【0098】
なお、上記では、触媒層2b、電解質膜1、触媒層2aの順番で説明したが、順番は特に限定されず、触媒層2a、電解質膜1、触媒層2bの順番に形成してもよい。また、図1A及び1Bに示すような、触媒層2aが多孔質支持体を備えていない場合は、上記以外に、電解質膜1、触媒層2b、触媒層2aの順番で形成してもよく、電解質膜1、触媒層2a、触媒層2bの順番で形成してもよい。
【0099】
上記のようにして、多孔質支持体3が、電解質膜1と少なくとも触媒層2a、2bの一方又は両方の一部を貫通している触媒層−電解質膜積層体10が得られる。
【0100】
[実施形態2]
以下、本発明の実施形態2として、膜電極接合体について説明する。
【0101】
(膜電極接合体)
図3は、本発明の実施形態2に係る膜電極接合体の一例を示す模式的断面図である。図3に示すように、本発明の実施形態2に係る膜電極接合体20は、実施形態1で示した触媒層−電解質膜積層体10と、一対のガス拡散層14a,14bとを備え、ガス拡散層14a,14bが触媒層−電解質膜積層体10の両面にそれぞれ配置されている。図3では、図1と同一の部分には同一の符合を付け、重複する説明は省略する。また、図3と図1において同一の部分は、同様の機能を有する。
【0102】
ガス拡散層14a,14bは、多孔質体等ガス拡散性を有する導電材料で構成されており、燃料ガス又は酸化剤ガスが流通できるようになっている。
【0103】
ガス拡散層14a,14bの厚みは、触媒層や電解質膜の厚み等を考慮して適宜決定すればよい。その厚みは、例えば、約200〜400μm、好ましくは、約250〜350μmである。
【0104】
本実施形態に係る膜電極接合体20は、上記の実施形態1で示した触媒層−電解質膜積層体10を用い、その両面にガス拡散層14a,14bを圧着等により接合して製造することができる。この場合、触媒層2aとガス拡散層14aがカソード側触媒電極を構成し、触媒層2bとガス拡散層14bがアノード側触媒電極を構成する。或いは、触媒層2aとガス拡散層14aがアノード側触媒電極を構成し、触媒層2bとガス拡散層14bがカソード側触媒電極を構成してもよい。
【0105】
なお、触媒層2aが多孔質支持体を備えていない場合は、膜電極接合体20は、例えば以下のように作製してもよい。まず、図2A〜2Bに示しているように、触媒層2bと、触媒層2b上に電解質膜1を形成する。次に、電解質膜1上に、触媒電極を直接接合する。次に、触媒層2b上にガス拡散層14bを圧着等により接合する。或いは、触媒層2b上にガス拡散層14bを圧着等により接合した後、電解質膜1上に、触媒電極を直接接合してもよい。すなわち、この形態では、触媒電極が触媒層とガス拡散層の役割をする。触媒電極は、触媒と、多孔質体等ガス拡散性を有する導電材料で構成されており、燃料ガス又は酸化剤ガスが流通できるようになっている。なお、触媒電極の厚みは、電極基材の種類、電解質膜の厚み等を考慮して適宜決定すればよく、例えば、約20〜3000μm、好ましくは、約30〜2000μmである。
【0106】
[実施形態3]
以下、本発明の実施形態3として、燃料電池について説明する。
【0107】
(燃料電池)
図4は、本発明の実施形態3に係る燃料電池の一例を示す概略断面図である。図4に示すように、本発明の実施形態4に係る燃料電池30は、実施形態1で示した触媒層−電解質膜積層体10と、一対のガス拡散層14a,14bと、一対のセパレータ28,29とを備えており、触媒層−電解質膜積層体10の両面にガス拡散層14a,14bとセパレータ28,29がそれぞれ順次積層されて構成されている。図4では、図1及び図3と同一の部分には同一の符合を付け、重複する説明は省略する。また、図4と図1及び図3において同一の部分は、同様の機能を有する。
【0108】
セパレータ29は、燃料をアノード側触媒電極に供給するためのものであり、燃料を流通するための燃料流路21を有する。一方、セパレータ28は、酸化剤ガスをカソード側触媒電極に供給するためのものであり、酸化剤ガスを流通するための酸化剤ガス流路22を有する。
【0109】
セパレータ28,29の材質としては、燃料電池30内の環境においても安定な導電性を有するものであればよい。一般的には、カーボン板に流路を形成したものが用いられる。また、セパレータ28,29は、ステンレススチール等の金属で構成し、その金属の表面にクロム、白金族金属又はその酸化物、導電性ポリマー等の導電性材料からなる被膜を形成したものであってもよい。
【0110】
なお、セパレータ28,29は、燃料電池30を複数個積層して構成した燃料電池に用いる場合、集電体としての機能を有することができる。
【0111】
<燃料電池の動作原理>
燃料流路21により、水素ガス又はメタノール等の水素供給可能な燃料が、アノード側触媒電極に供給され、この燃料からプロトン(H+)と電子(e-)が生成される。生成されたプロトンは電解質膜1によってカソード側触媒電極へと搬送される。一方、酸化剤ガス流路22により、空気又は酸素ガス等の酸化剤ガスが、カソード側触媒電極に供給され、電解質膜1によって搬送されてきたプロトンと外部回路23からくる電子及び酸化剤ガスとが反応して水が生成される。このようにして燃料電池として機能する。
【0112】
本実施形態に係る燃料電池30は、燃料電池の作製に用いられる公知の技術を用いて、上述のようにして得られた膜電極接合体20の両面に、セパレータ28,29をそれぞれ積層することにより、製造することができる。
【0113】
本実施形態によれば、安定性に優れ、高性能な燃料電池30を提供することができる。
【実施例】
【0114】
以下において、実施例に基づいて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更実施可能である。
【0115】
(実施例1)
<固体酸の作製>
固体酸として、リン酸スズを以下のようにして作製した。酸化スズ(SnO2、Nano Tec社製)13.56g(0.09モル)に、酸化インジウム(In23、ナカライテスク社製)1.40g(0.0050モル)と、リン酸水素2アンモニウム(ナカライテスク社製)27.99g(0.212モル)を加え、混合した。得られた混合物を坩堝に投入し、約650℃で、約2時間焼成し、焼結後得られた生成物をめのうばちで粉砕し、粒径が28.4μmのリン酸スズを得た。なお、リン酸スズの粒径は、下記のように測定した。
【0116】
<触媒層−電解質膜積層体の作製>
上記で得られたリン酸スズ0.5gに白金担持カーボン(田中貴金属社製「TEC10E50E」)1g、バインダー(Dupont社製「Nafion2020CS」)2.5g、溶媒(n−ブタノールとt−ブタノールを1/1の質量比で混合したもの)6.0gを混合し、分散機により約3時間混合し、触媒ペーストを作製した。得られた触媒ペーストを、図2Dに示しているように、厚み110μm、空隙率95%、繊維径10μm、細孔径100μmのガラス繊維支持体3上にブレードコーターで、(トータル)厚みが30μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが10μmになるように塗工し、約100℃で、約30分間乾燥し、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2bを形成した。
【0117】
次に、上記で得られたリン酸スズ5gに85%リン酸水溶液0.9g、60%PTFEディスパージョン(ダイキン工業社製「ポリフロンD1−E」)0.83g及び水20gを加え、分散機で分散して電解質ペーストを作製した。得られた電解質ペーストを、図2Dに示すように、触媒層2b上に、ブレードコーターで塗工し、約160℃で、約30分間乾燥し、厚みが70μmであり、多孔質支持体3を備えた電解質膜1を触媒層2b上に形成した。
【0118】
次に、電解質膜1上に、上記で得られた触媒ペーストをブレードコーターで、図2Dに示すように、(トータル)厚みが30μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが10μmになるように塗工し、約100℃で、約30分間乾燥し、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2aを電解質膜1上に形成し、触媒層−電解質膜積層体10を得た。
【0119】
<膜電極接合体の作製>
上記で得られた触媒層−電解質膜積層体10の両面に、図3に示しているように、ガス拡散層14a、14b(東レ社製「TGH−090」)を接合して膜電極接合体を得、JARIセル標準セルにセル組みした。なお、JARIセル標準セルとは、(財)日本自動車研究所(JARI:Japan Auto mobile Research Institute)において、PEFCの基礎研究及びPEFC用材料(膜、電極触媒、構成部品等)の評価試験用として開発されたセルを意味する。
【0120】
(実施例2)
<触媒層−電解質膜積層体の作製>
まず、(トータル)厚みが40μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが10μmになるようにした以外は、実施例1と同様にして多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2bを形成した。
【0121】
次に、厚みを50μmにした以外は、実施例1と同様にして、多孔質支持体3を備えた電解質膜1を触媒層2b上に形成した。
【0122】
次に、(トータル)厚みが40μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが10μmになるようにした以外は、実施例1と同様にして、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2aを電解質膜1上に形成し、触媒層−電解質膜積層体10を得た。
【0123】
<膜電極接合体の作製>
上記で得られた触媒層−電解質膜積層体10を用い、実施例1と同様にして、膜電極接合体を得、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0124】
(実施例3)
<触媒層−電解質膜積層体の作製>
まず、(トータル)厚みが55μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが10μmになるようにした以外は、実施例1と同様にして多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2bを形成した。
【0125】
次に、厚みを20μmにした以外は、実施例1と同様にして、多孔質支持体3を備えた電解質膜1を触媒層2b上に形成した。
【0126】
次に、(トータル)厚みが55μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが10μmになるようにした以外は、実施例1と同様にして、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2aを電解質膜1上に形成し、触媒層−電解質膜積層体10を得た。
【0127】
<膜電極接合体の作製>
上記で得られた触媒層−電解質膜積層体10を用い、実施例1と同様にして、膜電極接合体を得、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0128】
(実施例4)
<触媒層−電解質膜積層体の作製>
まず、(トータル)厚みが50μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが30μmになるようにした以外は、実施例1と同様にして、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2bを形成した。
【0129】
次に、実施例1と同様にして、厚みが70μmであり、多孔質支持体3を備えた電解質膜1を触媒層2b上に形成した。
【0130】
次に、(トータル)厚みが50μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが30μmになるようにした以外は、実施例1と同様にして、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2aを電解質膜1上に形成し、触媒層−電解質膜積層体10を得た。
【0131】
<膜電極接合体の作製>
上記で得られた触媒層−電解質膜積層体10を用い、実施例1と同様にして、膜電極接合体を得、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0132】
(実施例5)
<触媒層−電解質膜積層体の作製>
まず、(トータル)厚みが70μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが50μmになるようにした以外は、実施例1と同様にして、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2bを形成した。
【0133】
次に、実施例1と同様にして、厚みが70μmであり、多孔質支持体3を備えた電解質膜1を触媒層2b上に形成した。
【0134】
次に、(トータル)厚みが70μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが50μmになるようにした以外は、実施例1と同様にして、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2aを電解質膜1上に形成し、触媒層−電解質膜積層体10を得た。
【0135】
<膜電極接合体の作製>
上記で得られた触媒層−電解質膜積層体10を用い、実施例1と同様にして、膜電極接合体を得、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0136】
(実施例6)
<触媒層−電解質膜積層体の作製>
厚み60μm、空隙率96%、繊維径10μm、細孔径200μmのガラス繊維支持体を用い、(トータル)厚みが20μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが10μmになるようにした以外は、実施例1と同様にして、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2bを形成した。
【0137】
次に、厚みを40μmにした以外は、実施例1と同様にして、多孔質支持体3を備えた電解質膜1を触媒層2b上に形成した。
【0138】
次に、(トータル)厚みが20μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが10μmになるようにした以外は、実施例1と同様にして、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2aを電解質膜1上に形成し、触媒層−電解質膜積層体10を得た。
【0139】
<膜電極接合体の作製>
上記で得られた触媒層−電解質膜積層体10を用い、実施例1と同様にして、膜電極接合体を得、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0140】
(実施例7)
<触媒層−電解質膜積層体の作製>
(トータル)厚みが25μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが10μmになるようにした以外は、実施例6と同様にして、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2bを形成した。
【0141】
次に、厚みを30μmにした以外は、実施例6と同様にして、多孔質支持体3を備えた電解質膜1を触媒層2b上に形成した。
【0142】
次に、(トータル)厚みが25μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが10μmになるようにした以外は、実施例6と同様にして、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2aを電解質膜1上に形成し、触媒層−電解質膜積層体10を得た。
【0143】
<膜電極接合体の作製>
上記で得られた触媒層−電解質膜積層体10を用い、実施例1と同様にして、膜電極接合体を得、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0144】
(実施例8)
<触媒層−電解質膜積層体の作製>
(トータル)厚みが30μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが10μmになるようにした以外は、実施例6と同様にして、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2bを形成した。
【0145】
次に、厚みを20μmにした以外は、実施例6と同様にして、多孔質支持体3を備えた電解質膜1を触媒層2b上に形成した。
【0146】
次に、(トータル)厚みが30μm、ガラス繊維支持体からのはみ出し部分の厚みが10μmになるようにした以外は、実施例6と同様にして、多孔質支持体3を一部に備えた触媒層2aを電解質膜1上に形成し、触媒層−電解質膜積層体10を得た。
【0147】
<膜電極接合体の作製>
上記で得られた触媒層−電解質膜積層体10を用い、実施例1と同様にして、膜電極接合体を得、JARIセル標準セルにセル組みした。
【0148】
(比較例1)
実施例1と同様にして得られた電解質ペーストを、厚み20μm、空隙率85%、繊維径2μm、細孔径15μmのガラス繊維支持体上にブレードコーターで塗工し、約100℃で、約30分間乾燥して厚み20μmの電解質膜を得た。
【0149】
実施例及び比較例で用いた電解質(リン酸スズ)の粒径、実施例及び比較例における電解質膜中の電解質(リン酸スズ)の粒径、実施例で得られたJARIセル標準セルの起電力及び実施例の触媒層−電解質膜積層体における電解質膜と触媒層の密着性を下記のように測定し、その結果を下記表1に示した。なお、実施例及び比較例で用いた多孔質支持体の細孔径及び空隙率は下記にように測定したものである。
【0150】
(電解質の粒径測定)
電解質単体のSEM写真を倍率250倍で2枚撮り、電解質の2次粒子径を各N5で測定し、合計N10の平均粒径を電解質の粒径とした。SEM装置はJEOL社製「JSM−6700F」を使用した。なお、図5に、実施例で用いたリン酸スズの倍率250倍のSEM写真を示している。
【0151】
(電解質膜中の電解質の粒径測定)
電解質膜1の断面SEM写真を倍率3万倍で5枚撮り、電解質膜中の電解質の粒子径を各N4で測定し、合計N20の平均粒径を電解質膜中の電解質の粒径とした。なお、図6に、実施例1における電解質膜中のリン酸スズの倍率3万倍のSEM写真を示している。
【0152】
(起電力の測定)
実施例で得られたJARIセル標準セルを用い、120℃で、無加湿ガスを用いてIV測定を行い、100mA/cm2における起電力を調べた。
【0153】
(密着性の評価)
実施例で得られた触媒層―電解質膜積層体の片側の触媒層の表面に市販のセロハンテープ(ニチバン社製「CT405AP−18」、幅18mm、長さ35mm)を貼った後、約1mm/分の速度で引っ張り、セロハンテープを剥がすことにより、電解質膜と触媒層との密着性を調べ、以下のように3段階で評価した。なお、触媒層―電解質膜積層体のもう一方の触媒層及び電解質膜は、剥がれないようにポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に固定した。
A:セロハンテープのみが剥がれる。
B:セロハンテープに薄く触媒層が付いて剥がれる。
C:電解質膜側に触媒層の欠落が目視可能な程度でセロハンテープに触媒層が張り付き剥がれる。
【0154】
(多孔質支持体の細孔径測定)
多孔質支持体単体の表面のSEM写真を倍率100倍で5枚撮り、多孔質支持体の細孔径を各N5で測定し、合計N20の平均細孔径を多孔質支持体の細孔径とした。
【0155】
(多孔質支持体の空隙率測定)
所定の面積の多孔質支持体単体の厚みをマイクロメーターで測定し、見かけの体積を算出した。その後、重量と比重により実体積を算出し、見かけの体積から実体積を引くことにより算出した空隙率を多孔質支持体の空隙率とした。
【0156】
【表1】

【0157】
多孔質支持体が電解質膜と少なくとも触媒層の一方又は両方の一部を貫通している実施例1〜8では、電解質膜が薄膜でも強度に優れ、触媒層形成時に膜破れが発生しない。また、上記表1に示すように、密着性評価において、触媒層の顕著な剥がれが確認されず、電解質膜と触媒層との密着性は良好であった。これに対して、比較例1では、多孔質支持体の厚みが薄く強度が足りないため触媒層形成時に膜破れが発生し、膜-電極接合体の形成が困難であり、密着性を確認することも困難であることを確認した。
【0158】
また、表1に示すように、実施例1〜8では、強度を維持したまま電解質膜の薄膜化が可能であり、100mA/cm2において0.3V以上の起電力を示した。これに対して、比較例1では、膜電極接合体の形成が困難であったため、電池特性評価は困難であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、固体酸を用いた電解質膜及びそれを用いた燃料電池に関連した技術分野に好適に適用され得る。
【符号の説明】
【0160】
1 電解質膜
2a、2b 触媒層
3 多孔質支持体
10 触媒層−電解質膜積層体
14a,14b ガス拡散層
20 膜電極接合体
21 燃料流路
22 酸化剤ガス流路
23 外部回路
28、29 セパレータ
30 燃料電池

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質膜と、一対の触媒層とを含む触媒層−電解質膜積層体であって、
前記電解質膜は、固体酸を含み、多孔質支持体を備えており、
前記触媒層は、触媒を含み、前記電解質膜の両面にそれぞれ接合されており、
前記多孔質支持体が、前記電解質膜と少なくとも前記触媒層の一方又は両方の一部を貫通していることを特徴とする触媒層−電解質膜積層体。
【請求項2】
前記多孔質支持体が、前記電解質膜と前記両方の触媒層の一部又は全体を貫通している請求項1に記載の触媒層−電解質膜積層体。
【請求項3】
前記固体酸が、無機固体酸である請求項1又は2に記載の触媒層−電解質膜積層体。
【請求項4】
前記固体酸が、プロトン伝導性を有する無機塩である請求項1〜3のいずれか1項に記載の触媒層−電解質膜積層体。
【請求項5】
前記固体酸が、下記式(1)で表される金属リン酸塩である請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒層−電解質膜積層体。
1-xx27 ・・・(1)
但し、式(1)中、Xは0≦X<0.5であり、MはZr,Cs,Sn,Ti,Si,Ge,Pb,Hf,Ca,Mg,W,Na及びAlからなる群から選ばれる1種であり、NはAl,In,B,Ga,Sc,Yb,Ce,La,Sb,Y,Nb及びMgからなる群から選ばれる1種である。
【請求項6】
前記固体酸が、リン酸スズである請求項1〜5のいずれか1項に記載の触媒層−電解質膜積層体。
【請求項7】
前記固体酸が、ヘテロポリ酸と無機塩の複合体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒層−電解質膜積層体。
【請求項8】
前記固体酸が、タングステンリン酸と硫酸水素カリウムの複合体、タングステンリン酸と硫酸水素セシウムの複合体及びタングステンリン酸と硫酸セシウムの複合体からなる群から選ばれる一種である請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒層−電解質膜積層体。
【請求項9】
前記固体酸が、セシウムリン酸とリン酸ケイ素の複合体である請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒層−電解質膜積層体。
【請求項10】
前記多孔質支持体が、ガラス繊維で構成されている請求項1〜9のいずれか1項に記載の触媒層−電解質膜積層体。
【請求項11】
請求項1〜10に記載の触媒層−電解質膜積層体と、一対のガス拡散層とを備え、前記ガス拡散層が前記触媒層−電解質膜積層体の両面にそれぞれ配置されていることを特徴とする膜電極接合体。
【請求項12】
請求項1〜10に記載の触媒層−電解質膜積層体と、一対のガス拡散層と、一対のセパレータとを備え、前記ガス拡散層と前記セパレータが前記触媒層−電解質膜積層体の両面にそれぞれ順次積層されていることを特徴とする燃料電池。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の触媒層−電解質膜積層体の製造方法であって、
触媒を含み、少なくとも一部に多孔質支持体を備える触媒層を形成する工程と、
固体酸を含み、多孔質支持体を備える電解質膜を形成する工程と、
触媒を含み、少なくとも一部に多孔質支持体を備えるか又は多孔質支持体を備えていない他方の触媒層を形成する工程とを含み、
前記多孔質支持体が、前記電解質膜と少なくとも一方又は両方の前記触媒層の一部を貫通している触媒層−電解質膜積層体を得ることを特徴とする触媒層−電解質膜積層体の製造方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−64343(P2012−64343A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205568(P2010−205568)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】