説明

触媒担体用多孔質セラミックス成形体の製造方法および触媒担体用多孔質セラミックス成形体

【課題】接触部分酸化反応用の触媒などの触媒担体として好適な、高い耐熱性を有し、長期間に渡って安定な触媒担体用多孔質セラミックス成形体を提供する。
【解決手段】アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末を含む原料混合物の成形体を焼成する工程を備え、該原料混合物中におけるAl23換算でのアルミニウム源粉末とTiO2換算でのチタニウム源粉末との含有量比がモル比で35:65〜45:55の範囲内であり、Al23換算でのアルミニウム源粉末とTiO2換算でのチタニウム源粉末との合計量に対するMgO換算でのマグネシウム源粉末の含有量がモル比で0.03〜0.15の範囲内であり、ケイ素源粉末の含有量は、原料混合物に含まれる無機成分中5質量%以下である、触媒担体用多孔質セラミックス成形体の製造方法および当該製造方法により得られる触媒担体用多孔質セラミックス成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガス等の低級炭化水素から一酸化炭素と水素とを含む合成ガスを製造するために用いられる接触部分酸化触媒の担体などとして好適な触媒担体用多孔質セラミックス成形体の製造方法および該製造方法によって得られる触媒担体用多孔質セラミックス成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
天然ガス等の炭化水素を原料として製造される一酸化炭素と水素とを含む合成ガスは、水素、アンモニア、メタノールなどの基幹化学工業製品の製造に広く用いられている。特に近年では、GTL(Gas to Liquid;炭化水素液体燃料)やDME(ジメチルエーテル)等の次世代燃料の原料として、合成ガスの需要増加が見込まれている。
【0003】
GTLなどの大規模ガス製造に適した合成ガスの製造方法として、接触部分酸化法が知られている。この方法は、天然ガスの一部を酸素または空気の添加により触媒燃焼させ、生成した高温の燃焼ガスをさらに触媒層中で改質するものであり、天然ガス成分としてメタンを例に挙げれば、主として以下の反応が含まれる。
【0004】
(1)CH4 + 1/2O2 → 2H2 + CO +36kJ/mol
(2)CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O +879kJ/mol
(3)CO + H2O → CO2 + H2 +42kJ/mol
(4)CH4 + H2O → CO + 3H2O −206kJ/mol
(5)CH4 + CO2 → 2CO + 2H2 −248kJ/mol
この方法は機構が単純で高い熱効率と生産効率が期待できる反面、触媒層入口付近に発熱が集中して局所的に非常に高温になる現象、所謂、ホットスポットが生じやすく、触媒成分である貴金属類がシンタリングにより劣化して活性が低下したり、部分的な熱膨張による歪の発生で触媒が破壊され、触媒層の圧力損失が経時的に増加して、装置の運転の継続が困難になる場合がある。このため、触媒には高い耐熱性が要求され、従来より種々の触媒および触媒担体の提案がなされている(たとえば特許文献1〜3、非特許文献1)。しかし、耐熱性には改善の余地があり、また、製法が複雑であったり、高価であるなど、今だ工業的に十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−12517号公報
【特許文献2】特開平1−145301号公報
【特許文献3】特表平10−503462号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】宇野和則他,「合成ガス」,PETROTECH,第29巻,第3号,p.220,2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような事情に鑑み、本発明は、接触部分酸化反応用の触媒などの触媒担体として好適な、高い耐熱性を有し、長期間に渡って安定な触媒担体用多孔質セラミックス成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、主にチタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶からなる多孔質セラミックス成形体の製造方法であって、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末を含む原料混合物の成形体を焼成する工程を備える、触媒担体用多孔質セラミックス成形体の製造方法に関する。本発明の製造方法において、原料混合物中におけるAl23換算でのアルミニウム源粉末とTiO2換算でのチタニウム源粉末との含有量比は、モル比で35:65〜45:55の範囲内であり、原料混合物中におけるAl23換算でのアルミニウム源粉末とTiO2換算でのチタニウム源粉末との合計量に対するMgO換算でのマグネシウム源粉末の含有量は、モル比で0.03〜0.15の範囲内であり、原料混合物に含まれるケイ素源粉末の含有量は、原料混合物に含まれる無機成分中、5質量%以下とされる。
【0009】
ケイ素源粉末は、長石あるいはガラスフリット、またはそれらの混合物からなる粉末であることが好ましい。原料混合物は造孔剤をさらに含んでいてもよい。
【0010】
本発明はまた、上記製造方法によって得られる触媒担体用多孔質セラミックス成形体を提供する。本発明の触媒担体用多孔質セラミックス成形体は、好ましくは、水銀圧入法により測定される全細孔容積が0.1mL/g以上であり、かつ、極大細孔半径が1μm以上である。
【0011】
また、本発明の触媒担体用多孔質セラミックス成形体は、好ましくは、1200℃で2時間加熱した直後に20℃の水中に投入し、ついで乾燥を行なう加熱処理を施したときに、下記式(1)および(2):
CSa/CSb≧0.4 (1)
CVCSa/CVCSb≦2.5 (2)
を満足する。ここで上記式中、CSaは加熱処理後における多孔質セラミックス成形体の耐圧強度であり、CSbは加熱処理前における多孔質セラミックス成形体の耐圧強度である。また、CVCSaは加熱処理後における多孔質セラミックス成形体の耐圧強度の変動係数であり、CVCSbは加熱処理前における多孔質セラミックス成形体の耐圧強度の変動係数である。本発明の触媒担体用多孔質セラミックス成形体は、より好ましくは、上記式(1)および(2)を満足するとともに、5daN以上の耐圧強度を示す。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐熱性に優れた、さらには耐熱性および機械的強度の双方に優れた触媒担体用多孔質セラミックス成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<触媒担体用多孔質セラミックス成形体の製造方法>
本発明において、チタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶から主に構成される多孔質セラミックス成形体は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末を含む原料混合物の成形体を焼成することにより製造される。「主にチタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶からなる」とは、多孔質セラミックス成形体を構成する主結晶相がチタン酸アルミニウムマグネシウム結晶相であることを意味する。
【0014】
(アルミニウム源粉末)
上記原料混合物に含有されるアルミニウム源粉末は、多孔質セラミックス成形体を構成するアルミニウム元素を含む化合物の粉末である。アルミニウム源粉末としては、たとえば、アルミナ(酸化アルミニウム,Al23)の粉末が挙げられる。アルミナの結晶型としては、γ型、擬γ型、δ型、θ型、α型、ρ型、η型、χ型、κ型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。
【0015】
本発明で用いられるアルミニウム源粉末は、空気中で焼成することによりアルミナに導かれる化合物の粉末であってもよい。かかる化合物としては、たとえばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどが挙げられる。
【0016】
アルミニウム塩は、無機酸との無機塩であってもよいし、有機酸との有機塩であってもよい。アルミニウム無機塩として具体的には、たとえば、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム硝酸塩;炭酸アンモニウムアルミニウムなどのアルミニウム炭酸塩などが挙げられる。アルミニウム有機塩としては、たとえば、蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0017】
また、アルミニウムアルコキシドとして具体的には、たとえば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。
【0018】
水酸化アルミニウムの結晶型としては、たとえば、ギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。アモルファスの水酸化アルミニウムとしては、たとえば、アルミニウム塩、アルミニウムアルコキシドなどのような水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物も挙げられる。
【0019】
本発明において、アルミニウム源粉末としては1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0020】
上記のなかでも、アルミニウム源粉末としてはアルミナ粉末が好ましく用いられる。なお、アルミニウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0021】
アルミニウム源粉末の粒径は特に限定されないが、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.1〜100μmの範囲内のものを使用することができる。D50は、好ましくは1〜60μmの範囲内である。アルミニウム源粉末のD50が100μmより大きいと、たとえば、造粒や押出しなどの湿式成形において、アルミニウム源粉末の保水力が低下して成形が困難となる傾向にある。また、D50が0.1μmより小さいと、粉末が気相中に浮遊し易くなり取扱いが困難になる。
【0022】
アルミニウム源粉末は、シングルモーダルな粒径分布を有していてもよく、バイモーダルな粒径分布を有していてもよく、あるいはそれ以上の粒径ピークを有するものであってもよい。
【0023】
アルミニウム源粉末としては、市販品をそのまま用いることもできるし、あるいは、市販品のアルミニウム源粉末に対して、粉砕、解砕、分級、篩別、造粒などの処理を施して上記粒径範囲を満たすアルミニウム源粉末を得てもよい。
【0024】
(チタニウム源粉末)
上記原料混合物に含有されるチタニウム源粉末は、多孔質セラミックス成形体を構成するチタン元素を含む化合物の粉末であり、かかる化合物としては、たとえば酸化チタンの粉末が挙げられる。酸化チタンとしては、たとえば、酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)などが挙げられ、なかでも酸化チタン(IV)が好ましく用いられる。酸化チタン(IV)の結晶型としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などが挙げられ、不定形(アモルファス)であってもよい。より好ましくは、アナターゼ型、ルチル型の酸化チタン(IV)である。
【0025】
本発明で用いられるチタニウム源粉末は、空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)に導かれる化合物の粉末であってもよい。かかる化合物としては、たとえば、チタニウム塩、チタニウムアルコキシド、水酸化チタニウム、窒化チタン、硫化チタン、チタン金属などが挙げられる。
【0026】
チタニウム塩として具体的には、三塩化チタン、四塩化チタン、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)、硫酸チタン(IV)などが挙げられる。チタニウムアルコキシドとして具体的には、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、および、これらのキレート化物などが挙げられる。
【0027】
本発明において、チタニウム源粉末としては1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0028】
上記のなかでも、チタニウム源粉末としては酸化チタン粉末が好ましく用いられ、より好ましくは、酸化チタン(IV)粉末である。なお、チタニウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0029】
チタニウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.5〜25μmの範囲内のものを用いることができる。チタニウム源粉末のD50は1〜20μmの範囲内であることが好ましく、これにより、焼成時に無作為に発生するチタン酸アルミニウムマグネシウムの核を効果的に抑制し、より均質なチタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶の組織構造を形成することができる。均質な組織構造の形成は、耐熱性および機械的強度のばらつきの低減に寄与する。なお、チタニウム源粉末はバイモーダルな粒径分布を示すことがあるが、このようなバイモーダルな粒径分布を示すチタニウム源粉末を用いる場合においては、レーザ回折法により測定される粒径が大きい方のピークを形成する粒子の粒径は、好ましくは20〜50μmの範囲内である。
【0030】
レーザ回折法により測定されるチタニウム源粉末のモード径は特に限定されず、0.3〜60μmの範囲内であってよい。
【0031】
上記原料混合物中におけるAl23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との含有量比は、モル比で35:65〜45:55の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは40:60〜45:55の範囲内である。このような範囲内で、チタニウム源粉末をアルミニウム源粉末に対して過剰に用いると、速やかにチタン酸アルミニウムマグネシウム化反応が進行するため有利である。
【0032】
(マグネシウム源粉末)
上記原料混合物に含有されるマグネシウム源粉末は、多孔質セラミックス成形体を構成するマグネシウム元素を含む化合物の粉末であり、かかる化合物としては、たとえば、マグネシア(酸化マグネシウム,MgO)の粉末のほか、空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる化合物の粉末が挙げられる。後者の例としては、たとえば、マグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウムなどが挙げられる。
【0033】
マグネシウム塩として具体的には、塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロりん酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0034】
マグネシウムアルコキシドとして具体的には、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシドなどが挙げられる。
【0035】
マグネシウム源粉末として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物の粉末を用いることもできる。このような化合物としては、たとえば、マグネシアスピネル(MgAl24)が挙げられる。なお、マグネシウム源粉末として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物の粉末を用いる場合、アルミニウム源粉末のAl23(アルミナ)換算量および、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた化合物粉末に含まれるAl成分のAl23(アルミナ)換算量の合計量と、チタニウム源粉末のTiO2(チタニア)換算量とのモル比が上記範囲内となるように調整されることが好ましい。
【0036】
本発明において、マグネシウム源粉末としては1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なお、マグネシウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0037】
マグネシウム源粉末の粒径は、特に限定されないが、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.5〜30μmの範囲内のものを用いることができる。マグネシウム源粉末のD50は3〜20μmの範囲内であることが好ましく、これにより、より均質なチタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶の組織構造を形成することができる。均質な組織構造の形成は、耐熱性および機械的強度のムラの低減に寄与する。
【0038】
原料混合物中におけるMgO(マグネシア)換算でのマグネシウム源粉末の含有量は、Al23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との合計量に対して、モル比で、0.03〜0.15の範囲内とすることが好ましく、より好ましくは0.03〜0.12である。マグネシウム源粉末の含有量をこの範囲内に調整することにより、多孔質セラミックス成形体の耐熱性および機械的強度を向上させ得る。
【0039】
(ケイ素源粉末)
上記原料混合物に含有されるケイ素源粉末は、主にチタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶からなる多孔質セラミックス成形体中に複合化されるケイ酸ガラス相を形成する化合物の粉末である。多孔質セラミックス成形体にケイ酸ガラス相を含有させることにより該成形体の耐熱性を向上させることができる。ケイ素源粉末としては、たとえば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素などの酸化ケイ素(シリカ)の粉末が挙げられる。
【0040】
また、ケイ素源粉末は、空気中で焼成することによりシリカ(SiO2)に導かれる化合物の粉末であってもよい。かかる化合物としては、たとえば、ケイ酸、炭化ケイ素、窒化ケイ素、硫化ケイ素、四塩化ケイ素、酢酸ケイ素、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、シリコン樹脂、長石、ガラスフリット、ガラスファイバーなどが挙げられる。なかでも、長石、ガラスフリットなどが好ましく用いられ、工業的に入手が容易であり、組成が安定している点で、ガラスフリットなどがより好ましく用いられる。ガラスフリットとは、ガラスを粉砕して得られるフレークまたは粉末状のガラスをいう。ケイ素源粉末として、長石とガラスフリットとの混合物からなる粉末を用いることも好ましい。
【0041】
ガラスフリットを用いる場合、得られる多孔質セラミックス成形体の耐熱性をより向上させるという観点から、屈伏点が700℃以上のものを用いることが好ましい。本発明において、ガラスフリットの屈伏点は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analyisis)を用いて、低温からガラスフリットの膨張を測定し、膨張が止まり、次に収縮が始まる温度(℃)と定義される。
【0042】
上記ガラスフリットを構成するガラスには、ケイ酸(SiO2)を主成分(全成分中50質量%以上)とする一般的なケイ酸ガラスを用いることができる。ガラスフリットを構成するガラスは、その他の含有成分として、一般的なケイ酸ガラスと同様、アルミナ(Al23)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化カルシウム(CaO)、マグネシア(MgO)等を含んでいてもよい。また、ガラスフリットを構成するガラスは、ガラス自体の耐熱水性を向上させるために、ZrO2を含有していてもよい。
【0043】
本発明において、ケイ素源粉末としては1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なお、ケイ素源粉末は、その原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0044】
ケイ素源粉末の粒径は、特に限定されないが、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が0.5〜30μmの範囲内のものを用いることができる。ケイ素源粉末のD50は1〜20μmの範囲内であることが好ましく、これにより、原料混合物の成形体の充填率が向上し、耐熱性および機械的強度のより高い焼成体を得ることができる。
【0045】
本発明においては、耐熱性に優れる、さらには耐熱性および機械的強度の双方に優れる多孔質セラミックス成形体を得るために、ケイ素源粉末の含有量は、原料混合物に含まれる無機成分中、5質量%以下とされ、好ましくは4質量%以下とされる。また、ケイ素源粉末の含有量は、原料混合物に含まれる無機成分中、2質量%以上とすることが好ましい。原料混合物に含まれる無機成分とは、多孔質セラミックス成形体を構成する元素を含む成分であり、典型的には、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末である。ただし、原料混合物に含まれる添加剤(造孔剤、バインダ、潤滑剤、可塑剤、分散剤等)が無機成分を含む場合、それらも含まれる。ケイ素源粉末の含有量が原料混合物に含まれる無機成分中、5質量%を超える場合あるいは2質量%未満である場合、良好な耐熱性および機械的強度が得られない場合がある。
【0046】
なお、本発明では、上記マグネシアスピネル(MgAl24)などの複合酸化物のように、チタニウム、アルミニウム、マグネシウムおよびケイ素のうち、2つ以上の金属元素を成分とする化合物を原料粉末として用いることができる。この場合、そのような化合物はそれぞれの金属源化合物を混合したものと同じであると考えることができ、このような考えに基づき、原料混合物中におけるアルミニウム源原料、チタニウム源原料、マグネシウム源原料およびケイ素源原料の含有量が上記範囲内に調整される。
【0047】
また、原料混合物にはチタン酸アルミニウムやチタン酸アルミニウムマグネシウムが含まれていてもよく、たとえば、原料混合物の構成成分としてチタン酸アルミニウムマグネシウムを使用する場合、該チタン酸アルミニウムマグネシウムは、チタニウム源、アルミニウム源およびマグネシウム源を兼ね備えた原料に相当する。
【0048】
(造孔剤)
上記原料混合物は造孔剤を含むことができる。造孔剤の粒径は特に限定されないが、通常、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)が10〜50μmの範囲内であるものが用いられる。
【0049】
造孔剤の種類(構成材料)は、特に制限されず、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類およびこれら樹脂類の中空粒子;アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物、変性ポリアルキレンオキサイド、イソブチレン−無水マレイン酸共重合体架橋物等の吸水性樹脂類;でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーン、コーンスターチなどの植物系材料;グラファイト等の炭素材などが挙げられる。また、造孔剤は原料混合物に含まれる無機成分になり得るものであってもよく、このようなものとしては、たとえば、アルミナ中空ビーズ、チタニア中空ビーズ、中空ガラス粒子などが挙げられる。これらの造孔剤は、市販品をそのまま用いることもできるし、適宜篩分けしたものを用いてもよい。
【0050】
原料混合物に含まれる造孔剤の含有量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常、0.1〜50質量部であり、好ましくは0.2〜25質量部である。造孔剤の含有量が0.1質量部未満であると、細孔が形成されず、造孔剤の添加効果を得ることができない。また、50質量部を超えると、得られる多孔質セラミックス成形体の機械的強度が低下する。
【0051】
本発明においては、上記アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末および任意で使用される造孔剤を含む原料混合物を成形して成形体を得た後、当該成形体を焼成することにより、主にチタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶からなる多孔質セラミックス成形体を得る。成形体の形状は特に制限されず、たとえば、球状、円柱状、リング状、三葉状、四葉状等を挙げることができる。
【0052】
原料混合物の成形に用いる成形機としては、一軸プレス、押出成形機、打錠機、造粒機などが挙げられる。押出成形を行なう際には、原料混合物に、たとえば、バインダ、潤滑剤および可塑剤、分散剤、ならびに溶媒などの、造孔剤以外の他の添加剤を添加して成形することができる。
【0053】
上記バインダとしては、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩などの塩;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等のワックス;EVA、ポリエチレン、ポリスチレン、液晶ポリマー、エンジニアリングプラスチックなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。バインダの添加量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常、20質量部以下であり、好ましくは15質量部以下である。
【0054】
上記潤滑剤および可塑剤としては、グリセリンなどのアルコール類;カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸;ステアリン酸Alなどのステアリン酸金属塩などが挙げられる。潤滑剤および可塑剤の添加量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常、10質量部以下であり、好ましくは1〜5質量部である。
【0055】
上記分散剤としては、たとえば、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどの界面活性剤などが挙げられる。分散剤の添加量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常、20質量部以下であり、好ましくは2〜8質量部である。
【0056】
また、上記溶媒としては、たとえば、メタノール、エタノール、ブタノール、プロパノールなどのアルコール類;プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールなどのグリコール類;および水などを用いることができる。なかでも、水が好ましく、不純物が少ない点で、より好ましくはイオン交換水が用いられる。溶媒の使用量は、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末の合計量100質量部に対して、通常、10〜100質量部、好ましくは20〜80質量部である。
【0057】
成形に供される原料混合物は、上記アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末および任意で使用される造孔剤、ならびに上記の各種他の添加剤を混合(混練)することにより得ることができる。
【0058】
成形体の焼成における焼成温度は、通常、1000℃以上、好ましくは1100℃以上、さらに好ましくは1200℃以上である。また、焼成温度は、通常、1700℃以下、好ましくは1600℃以下である。焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常、1℃/時間〜500℃/時間である。焼成工程の前に、1100〜1300℃の温度範囲で3時間以上保持する工程を設けると、ケイ素源粉末の融解、拡散を促進させることができるため、多孔質セラミックス成形体の耐熱性および機械的強度の向上の点で有利である。焼成工程には、バインダや造孔剤等を燃焼により除去するための仮焼(脱脂)工程が含まれる。脱脂は、典型的には、焼成温度に至るまでの昇温段階(たとえば、150〜600℃の温度範囲)になされる。脱脂工程おいては、昇温速度を極力おさえることが好ましい。
【0059】
焼成は通常、大気中、もしくは穏やかな燃焼を行なわせるためにより低い酸素分圧中で行なわれるが、アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末、バインダおよび造孔剤等の種類や使用量比によっては、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガスなどのような還元性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成を行なってもよい。
【0060】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉などの通常の焼成炉を用いて行なわれる。焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0061】
焼成に要する時間は、原料混合物の成形体がチタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶に遷移するのに十分な時間であればよく、原料混合物の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気などにより異なるが、通常は10分〜24時間である。以上のようにして、主にチタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶から構成される触媒担体用多孔質セラミック成形体を得ることができる。焼成によって得られた多孔質セラミック成形体は、必要に応じて、適宜の形状に調整されてもよい。
【0062】
<触媒担体用多孔質セラミック成形体>
本発明の触媒担体用多孔質セラミックス成形体は、上記本発明の製造方法によって製造された、主にチタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶からなる多孔性のセラミックス成形体である。「主にチタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶からなる」とは、多孔質セラミックス成形体を構成する主結晶相がチタン酸アルミニウムマグネシウム結晶相であることを意味する。
【0063】
本発明の多孔質セラミックス成形体は、チタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶相以外の相(または結晶相)を含んでいてもよい。チタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶相以外の相としては、多孔質セラミックス成形体の作製に用いる原料由来の相などを挙げることができ、より具体的には、チタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶相を形成することなく残存したアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末および/またはマグネシウム源粉末由来の相である。また、本発明の多孔質セラミックス成形体は、ケイ素源粉末由来の相であるケイ酸ガラス相を含む。さらに、本発明の多孔質セラミックス成形体は、原料由来あるいは製造工程において不可避的に含まれる微量成分を含有し得る。
【0064】
本発明の多孔質セラミックス成形体の形状は特に制限されず、たとえば、球状、円柱状、リング状、三葉状、四葉状等を挙げることができる。
【0065】
本発明の多孔質セラミックス成形体は、触媒担体として用いられることから、好ましくは、水銀圧入法により測定される全細孔容積が0.1mL/g以上であり、かつ、極大細孔半径が1μm以上である。全細孔容積が0.1mL/gより少ないと、触媒成分が有効に担持されない傾向にある。また、極大細孔半径が1μmより小さいと、十分な触媒活性が得られ難い。全細孔容積は、より好ましくは0.11mL/g以上であり、極大細孔半径は、より好ましくは1.1μm以上である。上記本発明の製造方法によれば、このような細孔特性を有する多孔質セラミックス成形体を得ることができる。
【0066】
また、本発明の多孔質セラミックス成形体は、下記(i)に示される耐熱性を有することが好ましく、さらに、下記(i)に示される耐熱性および下記(ii)に示される機械的強度を有することが好ましい。上記本発明の製造方法によれば、これら(i)および(ii)を満足する多孔質セラミックス成形体を得ることができる。
(i)1200℃で2時間加熱した直後に20℃の水中に投入し、ついで乾燥を行なう加熱処理を施したときに、下記式(1)および(2):
CSa/CSb≧0.4 (1)
CVCSa/CVCSb≦2.5 (2)
を満足する。ここで上記式中、CSaは加熱処理後における多孔質セラミックス成形体の耐圧強度であり、CSbは加熱処理前における多孔質セラミックス成形体(上記本発明の方法に従い、焼成して得られた成形体)の耐圧強度である。また、CVCSaは加熱処理後における多孔質セラミックス成形体の耐圧強度の変動係数であり、CVCSbは加熱処理前における多孔質セラミックス成形体の耐圧強度の変動係数である。また、加熱処理における「直後」とは、5分以内(加熱された成形体の温度が急激に低下することがない時間である)を意味する。
(ii)耐圧強度(CSb)が5daN以上である。
【0067】
上記(i)における式(1)は、多孔質セラミックス成形体の耐熱性を表すものである。すなわち、式(1)は、1200℃で2時間加熱した直後に20℃の水中に投入するという加熱処理による熱応力を加えた後であっても、加熱処理前の0.4倍以上の高い耐圧強度を保持していることを意味している。また、式(2)は、加熱処理後の耐圧強度の変動係数(CVCSa)が加熱処理前の耐圧強度の変動係数(CVCSb)の2.5倍以下であり、加熱処理によっても耐圧強度のばらつきが少なく、したがって、多孔質セラミックス成形体の耐熱性のばらつきが少ないことを意味している。式(1)および(2)を満足する多孔質セラミックス成形体は、耐熱性が高く、長期間に渡って安定な触媒担体となる。より高い耐熱性を達成するために、CSa/CSbは0.5以上であることがより好ましく、また、CVCSa/CVCSbは1.5以下であることがより好ましい。
【0068】
上記(i)および(ii)における「耐圧強度」(CSaおよびCSb)は、次の方法により測定される。すなわち、先端にゲージアタッチメント(型番:012B)を取り付けた、アイコーエンジニアリング株式会社製デジタルプッシュプルゲージ(Model.RX−50)を、同社製電動スタンド(Model.1307)に固定する。ついで、該電動スタンドの昇降台中央に1個の多孔質セラミックス成形体を配置した後、60mm/minの一定速度で昇降台ごと上昇させ、上記プッシュプルゲージ先端に取り付けられたゲージアタッチメントに押し当てて、多孔質セラミックス成形体が崩壊した時の荷重を上記プッシュプルゲージのピークホールド機能により読み取る。この測定を22個の多孔質セラミックス成形体について実施し、最大値と最小値を除いた20個の測定値の平均値を「耐圧強度」とする。ここで、球状以外の形状を有す多孔質セラミックス成形体については、該成形体の軸方向と垂直な方向にプッシュプルゲージ先端のゲージアタッチメントを押し当てて測定する。
【0069】
上記(i)における「変動係数」(CVCSaおよびCVCSb)とは、加熱処理後および加熱処理前それぞれの耐圧強度測定において得られた平均値および標準偏差を用い、下記式(3):
変動係数(%)=(標準偏差/平均値)×100 (3)
で計算される値であり、この値が小さいほど、耐圧強度のばらつきが少なく、耐熱性が均質な多孔質セラミックス成形体であるといえる。
【0070】
本発明の多孔質セラミックス成形体は、上記(ii)を満足する、すなわち、耐圧強度(CSb)が5daN以上であることが好ましく、6daN以上であることがより好ましい。該成形体の機械的強度が5daNより小さいと、触媒充填の際や移送などのハンドリングの過程で崩壊する恐れがある。
【0071】
本発明の多孔質セラミックス成形体は、5質量%以下のケイ酸ガラス相を含むことが好ましく、4.5質量%以下のケイ酸ガラス相を含むことがより好ましい。また、ケイ酸ガラス相の含有率は、2質量%以上であることが好ましい。5質量%以下のケイ酸ガラス相を含ませることにより、上記(i)の耐熱性を充足する、さらには上記(ii)の機械的強度を充足する触媒担体として好適に適用できる多孔質セラミックス成形体が得られやすくなる。ケイ酸ガラス相の含有率が5質量%を超える場合あるいは2質量%未満である場合、式(1)におけるCSa/CSbが0.4を下回ったり、式(2)におけるCVCSa/CVCSbが2.5を超える場合がある。多孔質セラミックス成形体におけるケイ酸ガラス相の含有率は、上記した製造方法において、原料混合物に含まれる無機成分中のケイ素源粉末の含有率を調整することにより制御可能である。原料混合物に含まれる無機成分中のケイ素源粉末の含有率を5質量%以下とすることにより、およそケイ酸ガラス相の含有率が5質量%以下である多孔質セラミックス成形体を得ることができる。
【0072】
本発明の多孔質セラミックス成形体におけるケイ酸ガラス相の含有率は、ICP発光分析、走査型電子顕微鏡(SEM)−エネルギー分散型X線分光法(EDS)または透過電子顕微鏡(TEM)−EDSなどの方法により定量することができる。
【0073】
本発明の多孔質セラミックス成形体は、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶パターンのほか、アルミナ、チタニア、チタン酸アルミニウムなどの結晶パターンを含んでいてもよい。なお、本発明の多孔質セラミックス成形体は、組成式:Al2(1−x)MgxTi(1+x)5で表すことができ、xの値は0.03以上であり、好ましくは0.03以上0.15以下、より好ましくは0.03以上0.12以下である。
【0074】
本発明の多孔質セラミックス成形体は、高い耐熱性、さらには高い機械的強度を有することから、触媒担体として好適であり、なかでも、接触部分酸化反応用触媒、水蒸気改質触媒、オートサーマルリフォーミング触媒、燃焼触媒、脱臭触媒などの500℃以上の高温下で反応を行なう触媒の担体として好適に用いることができる。
【0075】
本発明の多孔質セラミックス成形体からなる触媒担体に担持される触媒としては、たとえば、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の白金族元素、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)および銀(Ag)など(接触部分酸化反応用触媒);ニッケル(Ni)および上記白金族元素など(水蒸気改質触媒);上記白金族元素、コバルト(Co)、マグネシウム(Mg)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、ガリウム(Ga)、鉄(Fe)、銅(Cu)および銀(Ag)など(オートサーマルリフォーミング触媒);上記白金族元素、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)および銅(Cu)など(燃焼触媒);上記白金族元素(脱臭触媒)などを挙げることができる。触媒担体に対するこれら触媒の担持量は、通常、0.01〜50質量%程度である。
【実施例】
【0076】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。各実施例および比較例における、得られた多孔質セラミックス成形体の加熱処理前および加熱処理後の耐圧強度(CSbおよびCSa)、加熱処理前および加熱処理後の耐圧強度の変動係数(CVCSbおよびCVCSa)、得られた多孔質セラミックス成形体の全細孔容積および極大細孔半径、ならびにX線回折スペクトルは、下記方法により測定した。
【0077】
(1)多孔質セラミックス成形体(加熱処理前)の耐圧強度(CSb)およびその変動係数(CVCSb
原料混合物の成形体を焼成して得られた多孔質セラミックス成形体の中から、無作為に22個サンプリングし、測定試料とした。ついで、先端にゲージアタッチメント(型番:012B)を取り付けた、アイコーエンジニアリング株式会社製デジタルプッシュプルゲージ(Model.RX−50)を、同社製電動スタンド(Model.1307)に固定した。ついで、該電動スタンドの昇降台中央に1個の多孔質セラミックス成形体(円柱状)を配置した後、60mm/minの一定速度で昇降台ごと上昇させ、上記プッシュプルゲージ先端に取り付けられたゲージアタッチメントに押し当てて、多孔質セラミックス成形体が崩壊した時の荷重を上記プッシュプルゲージのピークホールド機能により読み取った。この測定を22個の多孔質セラミックス成形体について実施し、最大値と最小値を除いた20個の測定値の平均値を「耐圧強度CSb」とした。同様に標準偏差も算出し、これを耐圧強度CSbで割って、「変動係数CVCSb」を求めた。
【0078】
(2)多孔質セラミックス成形体(加熱処理後)の耐圧強度(CSa)およびその変動係数(CVCSa
原料混合物の成形体を焼成して得られた多孔質セラミックス成形体の中から、無作為に22個サンプリングし、これをルツボに入れて電気炉に仕込んだ。その後、空気中、毎分300℃の速度で1200℃まで昇温し2時間保持した後、電気炉の扉を空け、ルツボを取り出し、ルツボ中の該成形体22個全てを20℃の水が入ったステンレス製ビーカーに直ちに(5分以内)投入した。ついで、適当な目開きの篩で水分を分離して回収した該成形体を、熱風循環式乾燥機にて200℃で3時間乾燥した後、上記(1)と同様の方法で加熱処理された成形体の「耐圧強度CSa」と「変動係数CVCSa」をそれぞれ求めた。
【0079】
(3)多孔質セラミックス成形体の全細孔容積および極大細孔半径
2個の多孔質セラミックス成形体(加熱処理なし)を120℃で4時間、空気中で、電気炉を用いて乾燥させた後、Micromeritics社製の「オートポアIII9420」を用いて、水銀圧入法により、細孔半径0.0018〜100μmの範囲で測定し、全細孔容積と極大細孔半径をそれぞれ求めた。
【0080】
(4)多孔質セラミックス成形体の粉末X線回折スペクトル
多孔質セラミックス成形体(加熱処理なし)数個を乳鉢にて解砕し、株式会社リガク製の粉末X線回折分析装置「RAD−RB、RU−200型」を用いて、以下の条件にて測定を行なった。
X線管球 :CuKα、
電圧−電流 :40kV−80mA、
測定角度範囲:2θ=5〜70°、
ステップ :0.02°、
スキャンスピード:4°/分。
【0081】
<実施例1>
α−アルミナ粉末(D50:41.6μm)24.6質量部と、ルチル型結晶の酸化チタン(IV)粉末(D50:0.93μm)42.0質量部と、マグネシアスピネル粉末(D50:5.2μm)15.7質量部と、ケイ素源粉末としてのガラスフリット(D50:8.8μm)3.4質量部とを混合した。ついで、この混合物100質量部に対して、バインダとしてのメチルセルロース8.1質量部と、分散剤(界面活性剤)としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテル4.8質量部と、潤滑剤としてのグリセリン0.4質量部と、分散媒としての純水27質量部とを混合した後、混練機を用いて混練し、原料混合物を得た。この原料混合物を押出し成形した後、切断して、直径が4〜6mmφであり、長さが4〜8mmである、円柱状の押出し成形体を得た。ついで、この押出し成形体を、熱風循環式乾燥機にて120℃で3時間かけて乾燥した後、電気炉を用いて、空気中、1400℃で5時間かけて焼成し、多孔質セラミックス成形体を得た。粉末X線回折スペクトルより、得られた多孔質セラミックス成形体は、Mg0.3Al1.4Ti1.35の組成式を有し、微量成分としてAl23(コランダム)およびTiO2(ルチル)を含んでいることがわかった。
【0082】
<実施例2>
焼成温度を1450℃とした以外は、実施例1と同様の方法にて多孔質セラミックス成形体を得た。粉末X線回折スペクトルより、得られた多孔質セラミックス成形体は、Mg0.3Al1.4Ti1.35の組成式を有し、微量成分は検出限界以下であることがわかった。
【0083】
<実施例3>
焼成温度を1500℃とした以外は、実施例1と同様の方法にて多孔質セラミックス成形体を得た。粉末X線回折スペクトルより、得られた多孔質セラミックス成形体は、Mg0.3Al1.4Ti1.35の組成式を有し、微量成分は検出限界以下であることがわかった。
【0084】
<実施例4>
α−アルミナ粉末(D50:41.6μm)24.6質量部と、ルチル型結晶の酸化チタン(IV)粉末(D50:0.93μm)42.0質量部と、マグネシアスピネル粉末(D50:5.2μm)15.7質量部と、ケイ素源粉末としてのガラスフリット(D50:8.8μm)3.4質量部と、造孔剤としてのコーンスターチ粉末(D50:15.4μm)14.3質量部とを混合した。ついで、この混合物100質量部に対して、バインダとしてのメチルセルロース6.9質量部と、分散剤(界面活性剤)としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテル4.1質量部と、潤滑剤としてのグリセリン0.4質量部と、分散媒としての純水29質量部とを混合した後、混練機を用いて混練し、原料混合物を得た。この原料混合物を押出し成形した後、切断して、直径が4〜6mmφであり、長さが4〜8mmである、円柱状の押出し成形体を得た。ついで、この押出し成形体を、熱風循環式乾燥機にて120℃で3時間かけて乾燥した後、電気炉を用いて、空気中、1400℃で5時間かけて焼成し、多孔質セラミックス成形体を得た。粉末X線回折スペクトルより、得られた多孔質セラミックス成形体は、Mg0.3Al1.4Ti1.35の組成式を有し、微量成分としてAl23(コランダム)およびTiO2(ルチル)を含んでいることがわかった。
【0085】
<実施例5>
焼成温度を1450℃とした以外は、実施例4と同様の方法にて多孔質セラミックス成形体を得た。粉末X線回折スペクトルより、得られた多孔質セラミックス成形体は、Mg0.3Al1.4Ti1.35の組成式を有し、微量成分としてAl23(コランダム)およびTiO2(ルチル)を含んでいることがわかった。
【0086】
<実施例6>
焼成温度を1500℃とした以外は、実施例4と同様の方法にて多孔質セラミックス成形体を得た。粉末X線回折スペクトルより、得られた多孔質セラミックス成形体は、Mg0.3Al1.4Ti1.35の組成式を有し、微量成分は検出限界以下であることがわかった。
【0087】
<実施例7>
ステアリン酸で表面被覆された水硬性遷移アルミナ粉末26.8質量部(うち、水硬性遷移アルミナ26.3質量部、ステアリン酸0.5質量部、D50:12.7μm)と、ルチル型結晶の酸化チタン(IV)粉末(D50:0.93μm)42.0質量部と、マグネシアスピネル粉末(D50:5.2μm)15.7質量部と、ケイ素源粉末としてのガラスフリット(D50:8.8μm)3.4質量部とを混合した。ついで、この混合物100質量部に対して、バインダとしてのメチルセルロース7.8質量部と、分散剤(界面活性剤)としてのポリオキシアルキレンアルキルエーテル4.7質量部と、潤滑剤としてのグリセリン0.4質量部と、分散媒としての純水30質量部とを混合した後、混練機を用いて混練し、原料混合物を得た。この原料混合物を押出し成形した後、切断して、直径が4〜6mmφであり、長さが4〜8mmである、円柱状の押出し成形体を得た。ついで、この押出し成形体を、熱風循環式乾燥機にて120℃で3時間かけて乾燥した後、電気炉を用いて、空気中、1250℃で5時間かけて焼成し、多孔質セラミックス成形体を得た。粉末X線回折スペクトルより、得られた多孔質セラミックス成形体は、Mg0.3Al1.4Ti1.35の組成式を有し、微量成分としてAl23(コランダム)およびTiO2(ルチル)を含んでいることがわかった。なお、上記水硬性遷移アルミナは、ρ−アルミナのほか、χ−アルミナ、η−アルミナ等を含む。
【0088】
<比較例1>
上記実施例7で用いたのと同じステアリン酸で表面被覆された水硬性遷移アルミナ粉末100質量部(うち、水硬性遷移アルミナ98.0質量部、ステアリン酸2.0質量部、D50:12.7μm)と、バインダとしてのメチルセルロース5.0質量部とを混合した。ついで、この混合物100質量部に対して、分散媒としての純水44質量部を混合した後、混練機を用いて混練し、原料混合物を得た。この原料混合物を押出し成形した後、切断して、直径が4〜6mmφであり、長さが4〜8mmである、円柱状の押出し成形体を得た。ついで、この押出し成形体を、80℃の熱水中で2時間保持した後、固液分離して、150℃の飽和水蒸気中で4時間保持し後、電気炉を用いて、空気中、1400℃で2時間かけて焼成し、アルミナ成形体を得た。粉末X線回折スペクトルより、得られたアルミナ成形体は、Al23(コランダム)からなることが確認された。
【0089】
<比較例2>
焼成温度を1450℃とした以外は、比較例1と同様の方法にてアルミナ成形体を得た。粉末X線回折スペクトルより、得られたアルミナ成形体は、Al23(コランダム)からなることが確認された。
【0090】
<比較例3>
焼成温度を1500℃とした以外は、比較例1と同様の方法にてアルミナ成形体を得た。粉末X線回折スペクトルより、得られたアルミナ成形体は、Al23(コランダム)からなることが確認された。
【0091】
各実施例および比較例で得られた多孔質セラミックス成形体の加熱処理前および加熱処理後の耐圧強度(CSbおよびCSa)およびその変動係数(CVCSbおよびCVCSa)、ならびに全細孔容積および極大細孔半径を表1に示す。また、各実施例および比較例で調製した原料混合物中のAl23換算でのアルミニウム源粉末とTiO2換算でのチタニウム源粉末とのモル比〔表1では「Al23/TiO2」と記す〕、Al23換算でのアルミニウム源粉末とTiO2換算でのチタニウム源粉末との合計量に対するMgO換算でのマグネシウム源粉末のモル比〔表1では「MgO/(Al23+TiO2)」と記す〕、および、原料混合物に含まれる無機成分中のケイ素源粉末の含有量(質量%)〔表1では「Si源粉末の含有量」と記す〕を、表1に併せて示した。なお、ここでいう「Al23換算でのアルミニウム源粉末」の量は、マグネシアスピネル粉末に含まれるAl分のAl23換算量を含んでいる。
【0092】
【表1】

【0093】
表1の結果から、本発明の製造方法に従って作製された実施例1〜7の多孔質セラミックス成形体は、全細孔容積が0.1mL/g以上、かつ、極大細孔半径が1μm以上と良好な細孔特性を示すとともに、耐圧強度CSb 5daN以上、CSa/CSb 0.4以上、CVCSa/CVCSb 2.5以下と、優れた耐熱性および機械的強度を有する。
【0094】
これに対し、比較例1〜3のアルミナ成形体は、全細孔容積が0.1mL/g以上であるものの、極大細孔細孔半径は1μmより小さく、触媒担体としては不十分である。また、耐圧強度CSbが5daN以上であり、CVCSa/CVCSbも2.5以下であるものの、CSa/CSbが0.4未満であり、耐熱性に欠ける。
【0095】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主にチタン酸アルミニウムマグネシウム系結晶からなる多孔質セラミックス成形体の製造方法であって、
アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末を含む原料混合物の成形体を焼成する工程を備え、
前記原料混合物中におけるAl23換算での前記アルミニウム源粉末とTiO2換算での前記チタニウム源粉末との含有量比は、モル比で35:65〜45:55の範囲内であり、
前記原料混合物中におけるAl23換算での前記アルミニウム源粉末とTiO2換算での前記チタニウム源粉末との合計量に対するMgO換算での前記マグネシウム源粉末の含有量は、モル比で0.03〜0.15の範囲内であり、
前記原料混合物に含まれる前記ケイ素源粉末の含有量は、前記原料混合物に含まれる無機成分中、5質量%以下である、触媒担体用多孔質セラミックス成形体の製造方法。
【請求項2】
前記ケイ素源粉末は、長石あるいはガラスフリット、またはそれらの混合物からなる粉末である、請求項1に記載の触媒担体用多孔質セラミックス成形体の製造方法。
【請求項3】
前記原料混合物は造孔剤をさらに含む、請求項1または2に記載の触媒担体用多孔質セラミックス成形体の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の製造方法によって得られる触媒担体用多孔質セラミックス成形体。
【請求項5】
水銀圧入法により測定される全細孔容積が0.1mL/g以上であり、かつ、極大細孔半径が1μm以上である、請求項4に記載の触媒担体用多孔質セラミックス成形体。
【請求項6】
耐圧強度が5daN以上であり、
1200℃で2時間加熱した直後に20℃の水中に投入し、ついで乾燥を行なう加熱処理を施したときに、下記式(1)および(2)を満足する、請求項4または5に記載の触媒担体用多孔質セラミックス成形体。
CSa/CSb≧0.4 (1)
CVCSa/CVCSb≦2.5 (2)
(式中、CSaは前記加熱処理後における多孔質セラミックス成形体の耐圧強度であり、CSbは前記加熱処理前における多孔質セラミックス成形体の耐圧強度である。また、CVCSaは前記加熱処理後における多孔質セラミックス成形体の耐圧強度の変動係数であり、CVCSbは前記加熱処理前における多孔質セラミックス成形体の耐圧強度の変動係数である。

【公開番号】特開2011−125776(P2011−125776A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−285123(P2009−285123)
【出願日】平成21年12月16日(2009.12.16)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】