説明

触媒構造体

【課題】 板状触媒の凸状列部または凹状列部におけるガスの吹き抜けを抑制し、灰の堆積を抑制することができる板状触媒およびその構造体を提供する。
【解決手段】 平板部内に所定高さの凸状列部と凹状列部とを交互に列状に形成したものを複数列形成した板状体に触媒成分を担持した板状触媒であって、該凸状列部と凹状列部がその稜線において一箇所以上の半楕円または台形状の凹部を有し、該凹部の前記凸凹列部の稜線との間に形成される接線角が45度以下である排ガス処理用板状触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス中に含まれる有害物質を浄化するための板状触媒および板状触媒構造体に関し、特に触媒装置内でのガスの偏流を防止し、使用される板状触媒の活性を向上させることができる板状触媒および板状触媒構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
排ガスに含まれる有害物質を浄化する触媒の形状としては、板状、ハニカム状、粒状、円筒状、ペレット状など様々なものがあるが、一般に板状あるいはハニカム状のものが触媒構造体として使用されている。板状触媒は、一般に触媒成分を塗布した平板を所定高さの凸状列部と凹状列部を形成するようにプレス加工したものから成るが、このように製造された板状触媒は、積層されて触媒構造体として触媒装置に組み込まれ、使用されている。
石炭焚ボイラ等のガスにダストが含まれる場合、ダストによる触媒の閉塞や摩耗が問題となるが、板状触媒構造体は、図6に示すように、板状触媒を積層した構造のために、他の形状よりも端部摩耗に強く、閉塞や摩耗に対して優れた耐久性を有し、また、他の形状よりも圧力損失が低いという利点を有している。
【0003】
さらに、板状以外の形状の場合、内部に基板や担体が含まれないために、触媒本体の強度を高く維持しなければならず、触媒の反応効率を犠牲にする必要があるのに対し、板状触媒の場合は、基板や担体で強度を保持することができるために、触媒成分は反応効率を最大限にするような組成にすることができるという利点も有する。
【特許文献1】特開平10-28871
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の凸状列部と凹状列部を持つ板状触媒においては、特に隣り合う触媒エレメント間の距離(ピッチ)が大きいと、図5に示すように凸状列部または凹状列部においてガスの一部が触媒と十分反応せず吹き抜けてしまい、触媒が有効に利用されなくなる可能性があった。また、石炭焚ボイラ排ガス等のダストを含むガスの場合、灰により触媒端面の閉塞を引き起こし、触媒の本来の性能が得られないことがある。さらに、この場合、他の流路へガス流れが集中するために早期に活性低下や触媒部の摩耗を引き起こす可能性もある。
【0005】
これらの課題に対して、板状触媒の凸状列部と凹状列部の境界が開口している構造体が提案されているが(特許文献1)、ガス流れの攪拌により圧損が高く、凸状列部の端部に灰が堆積しやすい可能性があった。
【0006】
本発明の課題は、板状触媒の凸状列部または凹状列部におけるガスの吹き抜けを抑制し、灰の堆積を抑制することができる板状触媒およびその構造体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するため、本願で特許請求される発明は以下のとおりである。
(1)平板部内に所定高さの凸状列部と凹状列部とを交互に列状に形成したものを複数列形成した板状体に触媒成分を担持した板状触媒であって、該凸状列部と凹状列部がその稜線において一箇所以上の半楕円または台形状の凹部を有し、該凹部の前記凸凹列部の稜線との間に形成される接線角が45度以下であることを特徴とする排ガス処理用板状触媒。
(2)前記凹部の高さが凸状列部または凹状列部の高さの半分以上であることを特徴とする(1)に記載の板状触媒。
(3)(1)または(2)に記載の板状触媒を、隣接する板状触媒の凸状列部と凹状列部が平板部に接触するように複数枚積層してユニットを形成し、凸凹状列方向に通気するように構成したことを特徴とする触媒構造体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、凸状列部または凹状列部に形成した半楕円または台形状の凹部によりガスが混合されるので、吹き抜けが抑制され、触媒上へのダストの堆積を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図1は、本発明の板状触媒の一実施例を示す斜視図である。板状触媒1は、方形の平板部2と、該平板部2内に交互に列状に形成された所定高さの凸状列部3と凹状列部4の対と、該凸状列部3および凹状列部4に一箇所以上形成されたガス流れ方向に一定の傾斜や曲率を有する半楕円または台形状の凹部5とを有している。このような凹部5を設けたことにより、板状触媒の排ガスの吹き抜けが効果的に抑制され、触媒自身の持つ性能を十分に発揮させることができる。
【0010】
本発明の板状触媒は、通ガス時の吹き抜けを抑制し、排ガス中に含まれる灰の堆積を抑制できる構造を提供するので、その適用される触媒の組成にはこだわらない。またその用途は、脱硝触媒等に限定されるものではなく、排ガス浄化プロセス一般に適用可能である。さらに、板状触媒の基板も、金属製、セラミック製の基板に塗布するものや、担体の表面に担持するものなど、どのような方法で製造したものでもよい。
【0011】
本発明の板状触媒おいて、凸状列部または凹状列部の稜線に設けられる半楕円または台形状の凹部は、凸状列部および凹状列部のプレス加工時や、プレス加工後に付加する等の手段によって得ることができるが、その凹部の開始点における接線と稜線とのなす角度αまたはθは10度以上、45度以下、より好ましくは20度以上、30度以下である。上記角度が小さすぎると灰堆積を抑制する効果が十分に発揮されない。
さらに、前記凹部の高さは、凸状列部または凹状列部の高さの半分以上、より好ましくは1/3以上である。上記高さが低すぎると、吹き抜けを抑制する効果が十分に発揮されない。
【0012】
石炭焚きボイラの場合は、石炭灰により触媒構造体の開口部が閉塞される恐れもあることが知られており、この場合、閉塞部にガスが流れず、触媒の本来の性能が得られなくなる。さらに、他の流路へガス流れが集中するため、触媒が早期に活性低下し、また摩耗を引き起こす可能性がある。本発明においては、一部の開口部が閉塞した場合においても、隣り合う流路の半楕円または台形状の凹部の部分を介してガスが流れるため、触媒を有効に利用することが可能となる。
【実施例】
【0013】
[実施例1]
ステンレスエキスパンドメタルに触媒成分を塗布し、その後、プレス加工により、凸状列部と凹状列部の対がピッチ5mmで配列するように加工し、触媒ガス流れ方向(凸状列部方向)長さを500mm、幅を150mmに切断し、図1に示すような板状触媒とした。このとき、半楕円または台形状の凹部(以下、単に凹部と称する)の稜線との接線角はガス流れ方向に対して45度、凹部の数は山部1列に対して2つとし、凹部の長さは1つあたり125mm、凹部の高さは5mmとした。その後、該板状触媒体を全26枚重ねて図6に示すような150mm角の触媒構造体に組み立てた。
【0014】
触媒は、組成比Ti:W:V = 90:5:5の脱硝触媒を用いた。この触媒ユニットをベンチ試験装置として表1に示すガス条件で反応速度と圧力損失の測定を行った。また表2に示す条件で、触媒構造体に灰を含んだガスを24時間流通後、触媒構造体を解体して灰堆積状況を評価した。得られた測定結果は、比較例1の結果を1としたときの反応速度比、圧力損失比として灰堆積の状況と共に表3に示した。
【0015】
表3の結果から、本発明による板状触媒(構造体)は、比較例1に示す従来型の触媒体よりも反応速度が高いことが分かる。これは、凸状列部が凹部を有することにより、ガスの吹き抜けが抑制されているものと考えられる。圧力損失については、わずかに比較例1よりも高いものの、灰堆積については、比較例1に示す従来型の触媒体に近く、灰堆積の抑制がなされていることが分かる。
【0016】
[比較例1]
凸状列部に凹部を設けない以外は実施例1と同様にして触媒構造体を製作し、評価した。表3にその結果を示すが、本例では、灰堆積は実施例1と同様に少ないものの、反応速度は実施例1よりも低い結果となった。
[比較例2]
凸状列部と凹状列部の境界が図4に示すように開口するように加工する以外は実施例1と同様にして触媒構造体を製作し、評価した。表3にその結果を示すが、反応速度は実施例1よりも高いものの、圧力損失の上昇が見られた。これは、ガスの攪拌の効果により引き起こされているものと考えられる。また、灰堆積は山部端部に堆積しており、実施例1よりも多いことが分かった。
【0017】
[比較例3]
前記凹部の稜線との接線角を図4に示すようにガス流れ方向に対して70度と大きくなるように加工する以外は実施例1と同様にして触媒構造体を製作し、評価した。表3にその結果を示すが、反応速度は実施例1と同等であり、吹き抜けが十分に抑制されているものの、灰堆積については凹部に堆積が多く見られることから、凹部の接線角が高いことが影響したものと考えられる。
[比較例4]
前記凹部の接線角をガス流れ方向に対して90度となるように加工する以外は実施例1と同様にして触媒構造体を製作し、評価した。表3にその結果を示すが、反応速度は実施例1と同等であり、吹き抜けが十分に抑制されているものの、灰堆積については実施例、比較例の中で最も多く、さらに凹部への堆積が多く開口部の閉塞につながるおそれがあった。また、圧力損失も実施例1、比較例3より高い値となった。これらのことは凹部の接線角が高いことが影響したものと考えられる。
【0018】
[実施例2]
前記凹部の高さを凸状列部の高さの1/3とするように加工する以外は実施例1と同様にして触媒構造体を製作し、評価した。表3にその結果を示すが、灰堆積については実施例1、比較例1と同等であるが、反応速度と圧力損失は実施例1よりも若干小さくなった。これらのことは、凹部の高さが比較的小さいことが影響しているものと考えられる。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施例1における板状触媒の斜視図。
【図2】本発明の板状触媒における凸状列部に設けた凹部の接線との傾斜角αまたは接線角θおよび凹部の高さhを示す説明図。
【図3】本発明の実施例2における板状触媒の斜視図。
【図4】比較例2における板状触媒の斜視図。
【図5】従来の触媒構造体における板状触媒の凸状列部における吹き抜けが起こりうる位置を示す説明図。
【図6】従来の触媒構造体の斜視図。
【符号の説明】
【0023】
1‥板状触媒、2‥板状触媒における平板部、3‥凸状列部、4‥凹状列部、5‥半楕円または台形状の凹部、6‥触媒構造体、7‥吹き抜けが起こりうる位置、8‥稜線、9‥傾斜角、10‥接線角、11‥凹部の高さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板部内に所定高さの凸状列部と凹状列部とを交互に列状に形成したものを複数列形成した板状体に触媒成分を担持した板状触媒であって、該凸状列部と凹状列部がその稜線において一箇所以上の半楕円または台形状の凹部を有し、該凹部の前記凸凹列部の稜線との間に形成される接線角が45度以下であることを特徴とする排ガス処理用板状触媒。
【請求項2】
前記凹部の高さが凸状列部または凹状列部の高さの半分以上であることを特徴とする請求項1に記載の板状触媒。
【請求項3】
請求項1または2に記載の板状触媒を、隣接する板状触媒の凸状列部と凹状列部が平板部に接触するように複数枚積層してユニットを形成し、凸凹状列方向に通気するように構成したことを特徴とする触媒構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−273981(P2009−273981A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125841(P2008−125841)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】