説明

触媒活性多孔質エレメント

触媒気相反応を促進する触媒活性多孔質エレメントが提案され、上記エレメントは繊維状および/または粒状粒子から選択される焼結セラミックまたは金属一次粒子の多孔質構造エレメントと、上記焼結一次粒子の表面に析出したチタニアナノ粒子の二次構造と、チタニアナノ粒子の表面に析出した触媒成分とを備える。それによりNO還元反応だけではなく、他の触媒気相反応にも有用である、触媒気相反応用の多孔質触媒エレメントが提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は、触媒気相反応を促進する触媒活性多孔質エレメントに関するものである。さらに詳細には本発明は、酸化還元および酸化反応への使用のための多孔質触媒エレメントに関する。
【発明の背景】
【0002】
触媒活性多孔質エレメントの使用のための1つの重要な分野は、NOの選択的触媒還元である。本発明の多孔質触媒エレメントの別の重要な分野は、揮発性有機化合物(VOC)の触媒酸化である。その上、本発明の多孔質触媒エレメントは、同時に気相中のNOの含有率を低下させるためにはもちろんのこと、VOCを触媒酸化するためにも使用できる。
【0003】
さらに多孔質触媒エレメントはフィルタ層を装備できるので、多孔質触媒エレメントは濾過および触媒気相反応のために組合せて使用できる。
【0004】
国際公開第98/03249号パンフレットは、各種の密度および多孔質フィルタ構造の触媒セラミックフィルタを備えた排ガス清浄装置を開示する。多孔質フィルタ構造は、清浄装置の上流側と下流側との間に排ガス用通路を形成して、このような通路の表面にバインダによって結合された触媒物質を有する。
【0005】
この参考文献で開示されるセラミックフィルタエレメントは、このようなフィルタエレメントを用いたNO還元効果が、より高い気体流速にて小さくなるという欠点を有する。NO除去効率は、流速2.0cm/秒およびNO供給濃度400ppmでは25%以下に降下する。さらに要求される動作温度は340〜400℃である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、NO還元反応だけではなく、他の触媒気相反応、とりわけVOCの触媒酸化にも有用である、触媒気相反応用の多孔質触媒エレメントを提供することである。さらに本発明は、気相反応について改良された効率を持つこのような多孔質触媒エレメントを提供するものである。
【0007】
本発明の目的は、触媒活性多孔質エレメントが繊維および/または粒状粒子から選択される焼結セラミックまたは金属一次粒子の多孔質構造エレメント、上記焼結一次粒子の表面に析出したチタニアナノ粒子の二次構造およびチタニアナノ粒子の表面に析出した触媒成分を備えるという点で達成される。
【0008】
本発明の状況で使用される「チタニアナノ粒子」という用語は、1000nmまでの粒径の粒子を示す。チタニアナノ粒子の粒径の下限は重要ではないが、実用的な理由で通常、直径5nm以上のチタニアのナノ粒子が使用される。
【0009】
本発明は、国際公開第98/03249号パンフレットに匹敵する条件下で、より高いNO供給濃度(例えば500ppm)およびより低い温度(例えば300℃)においてさえ、70%を超えるNO除去効率を達成する。
【0010】
理想的には、多孔質構造エレメント内で到達可能な一次粒子の表面はチタニアナノ粒子によって完全に被覆されている。実際には、焼結一次粒子の到達可能な表面の実質的な部分の被覆は、早くも良好な結果を与えるであろう。
【0011】
触媒活性多孔質エレメントは、各種の形を有しうる。
【0012】
1つの代表的な実施形態において、触媒活性多孔質エレメントはプレートの形で提供される。
【0013】
別の代表的な実施形態は、管状形の触媒活性多孔質エレメントを提供する。管状エレメントは両端が開いていてもよいし、またはいわゆるフィルタキャンドルで既知であるように一端が端壁によって閉じられていてもよい。
【0014】
気相反応が濾過プロセスと組合される具体的な実施形態では、本発明による多孔質エレメントは上流側および下流側表面を装備しており、上記上流側表面はフィルタ層を備えている。該フィルタ層はメンブレンタイプのフィルタ層でありうる。
【0015】
フィルタ層は、濾過目的を果たしたり、触媒活性多孔質エレメントを通過する気相中に含有される粒子から多孔質構造エレメントを保護したりするのに役立つ。
【0016】
ある実施形態において、触媒活性多孔質エレメントはフィルタプレートの形で使用できる。管状形の触媒活性多孔質エレメントがその上流側表面にフィルタ層を装備している他の実施形態において、上流側は管状構造の外部表面または内部表面でありうる。
【0017】
フィルタ層が多孔質構造エレメントの上流側で使用されるとき、このようなフィルタ層は、好ましくは、チタニアナノ粒子を本質的に含まない。これはチタニアナノ粒子が好ましくは焼結一次粒子の多孔質構造エレメントのみに析出することを意味する。しかしながら焼結一次粒子とフィルタ層との間の移行帯でのチタニアナノ粒子の析出は、目立つ悪い影響を通常与えない。
【0018】
フィルタ層はチタニアナノ粒子を本質的に含まず、フィルタ層のそのフィルタ特徴を本質的に不変のままとする。フィルタ層は通常、触媒活性フィルタエレメント全体としての圧力降下を最小限に抑えるために、下にある焼結一次粒子の多孔質構造エレメントの厚さよりもはるかに薄い厚さである。
【0019】
チタニアナノ粒子を本質的に含まないフィルタ層と、あまり厳密でないまたはあまり重要でない製造パラメータとの間の非常に良好な妥協は、フィルタ層の所々での、とりわけフィルタ層の焼結一次粒子への移行帯でのチタニアナノ粒子の析出を可能にする。しかしながらチタニアナノ粒子の析出は上流側でのフィルタ層の平均厚の少なくとも半分以内では避けるべきであるが、フィルタ層および焼結一次粒子の上記移行帯内でのチタニアナノ粒子の一部が析出してもあまり重大でない。このような場合、しばしばフィルタ層での圧力降下が大きくなることは、実施される触媒反応で許容されることが分かった。
【0020】
上記焼結一次粒子に析出したチタニアナノ粒子の量は、焼結一次粒子の重量に基づいて0.1〜20重量%の範囲である。焼結一次粒子に析出できるチタニアナノ粒子の実際の量は、多孔質構造エレメントの一次構造に依存し、すなわち多孔質構造エレメントを形成するときの粒状および/または繊維状一次粒子の使用によって、そして使用される一次粒子のサイズおよびサイズ分布によって異なる利用可能な空隙容積および表面に依存する。それはさらにチタニアナノ粒子のサイズに依存し、すなわち析出できる重量%の量が一次粒子の所与のサイズに対するチタニアナノ粒子のサイズの縮小と共に増加する。
【0021】
多孔質構造エレメントが焼結粒状一次粒子より本質的に構成される場合、チタニアナノ粒子は好ましくは、焼結一次粒子の重量に基づいて0.1〜10重量%の範囲である。
【0022】
多孔質構造エレメントが繊維状一次粒子と焼結粒状一次粒子とにより成る場合、焼結一次粒子の表面に析出できるチタニアナノ粒子の量は好ましくは、焼結一次粒子の重量に基づいて0.1〜15重量%の範囲である。
【0023】
多孔質構造エレメントが本質的に焼結繊維状一次粒子のみより構成される場合、チタニアナノ粒子の量は好ましくは、焼結一次粒子の重量に基づいて0.1〜20重量%の範囲である。
【0024】
繊維状および粒状の一次粒子の重量に基づいた比率の変化は、多孔質構造エレメントの基本構造の各種の具体的な用途への適合を可能にする。
【0025】
チタニアナノ粒子表面に析出した触媒成分は、酸化バナジウムを含むことが多い。
【0026】
好ましくは、酸化バナジウムはチタニアナノ粒子にクラスタおよび/またはナノ粒子の形で析出されるが、ここで「クラスタ」という用語は、触媒材料自体の高特異性表面を供給する、単層、多層、凝集分子または晶子を形成する単分子、オリゴマー、ポリマーまたは結晶種を示す。
【0027】
析出した酸化バナジウムクラスタおよび/またはナノ粒子の量は、一次焼結粒子の重量に基づいて0.01〜10重量%の範囲である。
【0028】
酸化バナジウムナノ粒子は、1nmからチタニアナノ粒子の平均粒径の半分までの範囲でありうる。
【0029】
具体的な触媒成分は、酸化バナジウムと共にまたは単独で、酸化マンガンを含み、この触媒成分も好ましくはクラスタおよび/またはナノ粒子の形で析出される。
【0030】
酸化バナジウム物質に関連するクラスタに与えた定義はここでも当てはまる。
【0031】
酸化マンガンクラスタおよび/または粒子の量は好ましくは、一次焼結粒子の重量に基づいて0.001〜6重量%の範囲である。
【0032】
同様に、ナノ粒子として使用されたときの酸化マンガン粒子の平均サイズは、1nmからチタニアナノ粒子の平均粒径の半分までの範囲である。
【0033】
別の具体的な実施形態において、触媒成分は酸化バナジウムクラスタおよび/またはナノ粒子に加えて、酸化タングステンおよび/または酸化モリブデンのクラスタおよび/またはナノ粒子を含む。「クラスタ」という用語に上で与えた定義はここでも当てはまる。
【0034】
酸化タングステンおよび酸化モリブデンのクラスタおよび/またはナノ粒子の量は、触媒活性多孔質エレメントに提案された用途に応じて、一次焼結粒子の重量に基づいて相互に独立して0.05〜20重量%の範囲である。
【0035】
上述の触媒化合物に加えて、触媒成分は1つ以上の貴金属を元素形で含みうる。好ましくは、該貴金属は一次焼結粒子に付着されたチタニアナノ粒子に化学的に析出される。
【0036】
多孔質構造エレメントを製造するための粒状一次粒子の平均サイズは好ましくは、40〜400μmの範囲である。これらの粒径は、構造エレメントにおける十分な多孔性または空隙容積の形成を可能にして、同時に焼結構造の十分な安定性を確保する。
【0037】
繊維状一次粒子は好ましくは、多孔質構造エレメントを形成するために粒状一次粒子と共に使用されるか、または単独で使用されるかということとは無関係に、10〜400μmの平均直径および1〜20mmの平均長を有する。
【0038】
粒状一次粒子を繊維状一次粒子と組合せて使用するとき、使用される一次粒状粒子の範囲は40〜90重量%であるのに対して、繊維状一次粒子の量は10〜60重量%の範囲であり、どちらも一次粒子の総量の重量に基づいて計算したものである。
【0039】
チタニアナノ粒子の一次粒子への結合は好ましくは、熱または焼結プロセスによって達成される。このような結合技法は、追加のバインダ物質の使用を回避する。
【0040】
熱プロセスによって触媒成分をチタニアナノ粒子に結合させることも、同様に好ましい。
【0041】
フィルタ層を本発明の触媒活性多孔質エレメントで使用するときに、該フィルタ層は好ましくはセラミックまたは金属粒子より成る。該フィルタ層は多孔質構造エレメントの上流側表面に焼結できる。該フィルタ層は通常、焼結一次粒子の構造エレメントよりも小さい孔径を有するので、下にある構造エレメントが処理される気相に含有される微粒子状物質に衝突するのを防止する。
【0042】
上述のように、触媒活性多孔質エレメントの好ましい形は、その1端が通常閉じられている管状構造である。
【0043】
本発明による多孔質エレメントの1つの好ましい用途は、ガス流からのNOの選択的触媒還元によるNO除去である。
【0044】
別の好ましい用途は、気相からの酸化反応によるVOCの除去である。
【0045】
本発明の多孔質エレメントの別の用途は、揮発性有機化合物(VOC)を含むガス流を処理して、同時触媒変換によってガス流からNOを同時に除去することである。
【0046】
本発明の主題はさらに、上述の触媒活性多孔質エレメントを製造する方法であって、このような製造方法は、
構造エレメントの上流側表面上にフィルタ層を有する多孔質構造エレメントを供給するステップと、
除去可能な保護剤でフィルタ層を含浸およびコーティングして、それによりフィルタ層の孔を閉塞する保護層を形成するステップと、
構造エレメントの焼結一次粒子にチタニアナノ粒子を析出させるステップと、
チタニアナノ粒子の表面に触媒成分を析出させるステップと、
フィルタ層から保護剤を除去するステップと、
を備える。
【0047】
触媒活性多孔質エレメントを製造する本発明の方法のさらに具体的な実施形態において、触媒成分の析出は、焼結一次粒子の表面にチタニアナノ粒子が析出した構造エレメントに触媒クラスタおよび/またはナノ粒子の前駆物質の溶液、あるいは触媒クラスタおよび/またはナノ粒子を含むゾルまたは懸濁物を含浸させて、含浸させたエレメントを乾燥および熱処理して、それにより前駆物質溶液、ゾルまたは懸濁物の溶媒を除去し、保護剤を蒸発および/または燃焼させて除去することによる。
【0048】
本発明者らの研究は、保護層に影響を及ぼさないままにする、チタニアナノ粒子の析出後の簡単な乾燥ステップが、触媒成分を析出するための多孔質エレメントを調製するのに十分であることを明らかにした。
【0049】
実際に、チタニアナノ粒子の上に触媒成分が析出されるまで、チタニアナノ粒子を一次焼結粒子上に焼結させることを遅らせるのが好ましく、析出前に焼結させることは好ましくない。
【0050】
それゆえフィルタ層への触媒成分の析出を回避するために、保護層を2回塗布することは必要ない。
【0051】
本発明の別の興味深い態様は、触媒成分またはその前駆物質による含浸の後に多孔質エレメントから溶媒すべてを除去せず、孔内にその実質的な部分を残す乾燥ステップが実施されるときに、さらに改良された触媒活性が見出されるという事実にある。さらに部分的に湿った多孔質エレメントに保護層を除去するための熱処理を受けさせる。この熱処理の間に触媒成分がその前駆物質から形成され、前駆物質が含浸ステップで使用される場合、析出したチタニアナノ粒子は焼結されて、触媒成分は焼結一次粒子に結合される。
【0052】
本発明のさらなる利点および態様を、図面および以下の実施例と関連付けて述べる。
【実施例1】
【0053】
本実施例において、図1に概略的に示した焼結セラミック一次粒子の多孔質構造エレメントに基づく触媒活性多孔質エレメント10を製造した。多孔質構造エレメントは、一次粒子としてのSiC粒12およびAl繊維14より構成された。SiC粒12のAl繊維14に対する重量比は、約4.5であった。SiC粒12の平均粒径は160μmであり、Al繊維14の平均寸法は:平均直径0.3mmおよび平均長3mmであった。これらの一次粒子を完全に混合、焼結させて、外径60mm、内径40mmおよび長さ50mmの管状構造を形成した。
【0054】
管状エレメントの外部表面を上流側表面として使用し、メンブレンフィルタ層を装備させた。このフィルタ層は平均で約200μmの厚さを有し、平均粒径40μmの焼結ムライト粒子より構成されていた(簡略にするために、フィルタ層を図1に示さない)。フィルタ層の孔径は約10μmであった。
【0055】
このような多孔質構造エレメントは、ドイツのPALL Schumacher GmbHからDIA−SCHUMACEL HT 10として市販されている。
【0056】
第1のステップでは、メンブレンフィルタ層には融点51〜53℃の市販のパラフィンワックスの保護層を装備させた。パラフィンワックスは、メンブレンフィルタ層に含浸させてコーティングするために液体形として使用して、同時にメンブレンフィルタ層の上流側表面がパラフィンワックスによって完全に被覆され、フィルタ層自体がフィルタ層の平均厚の少なくとも50%の程度までパラフィンワックスが浸透するように注意を払った。
【0057】
多孔質構造エレメント10を含浸させるために、図2に概略的に示した装置30を使用した。該装置30は、多孔質構造エレメント10を含浸させるために使用する懸濁物、ゾルまたは溶液(液体34)を保持するコンテナ32を含む。液体34は、コンテナ32から弁38を含む下部出口36を通じて引き出すことができる。下部出口36は導管42、三方弁44および直立配置チューブ46を介してゴムホッパー40に連結される。導管42は、液体34をチューブ46およびゴムホッパー40に供給するためのポンプ48を含む。
【0058】
ゴムホッパー40は、図2に示すように管状多孔質構造エレメント10の一端を収容するように作用する。いったんエレメント10がゴムホッパー40上に正しく配置されると、三方弁44はコンジット42およびチューブ46を連結するように調節される。弁38が開き、ポンプ48が作動して、液体34の高さがエレメント10の上(開放)端18に上昇するまで、導管42、三方弁44およびチューブ46を通じてゴムホッパー40へ、そしてエレメント10の内部スペース16内へ液体34を供給する。液体34をエレメント10の空隙容積すべてに浸透させるために、液体34はエレメント10の内部16にある期間に渡って保持される。その後、三方弁44が作動して、エレメント10の内部16の液体34を、チューブ46およびさらなるチューブ50を通じて、使用済み液体34を収集する容器52内へ排出させる。
【0059】
この手順は、触媒成分の前駆物質液体を含む、すべての所望の成分に使用される。
【0060】
TiOナノ粒子懸濁物の調製では、市販のTiO粉末粒塊11g(チタニアナノ粒子の凝集体;凝集体サイズ63〜80μm;平均チタニアナノ粒子サイズ21nm;BET表面50m/g)を純2−プロパノール147.2g中に分散させて、96%酢酸4gの添加および15分間の超音波処理を続け、凝塊を個々のナノ粒子に分解して、チタニアナノ粒子を液相中に均一に分散させた。
【0061】
その上流側(外部)表面上がパラフィン保護層によって保護された管状フィルタエレメント10は、その開放端の一方によってゴムホッパー40に取り付けられ、焼結一次粒子の多孔質構造をTiO懸濁物(液体34)によって完全に浸漬させるために、新たに調製されたTiO懸濁物がホッパー40を通じて管状エレメント10の内部16へポンプ送達される。その後、懸濁物を管状フィルタエレメント10の内部16で3秒間保持する。続いて、残りの懸濁物が排出される。
【0062】
TiO含浸フィルタエレメント10を水平に回転させて、気流を使用しながら乾燥させて、TiOナノ粒子20コーティング管状フィルタエレメント10を得た。乾燥ステップ中の温度は周囲温度に維持した。多孔質構造エレメント10の焼結一次粒子12、14に析出したTiOナノ粒子20の量は、一次焼結粒子12、14の重量に基づいて1.3重量%であった。フィルタエレメントでの圧力降下は、約55%増大した。
【0063】
圧力降下のこのような増大は、以下で報告するように、特に得られた変換率の観点から許容できる。
【0064】
1.3重量%のチタニアナノ粒子の析出は、完成した触媒活性多孔質エレメントの最適性能をすでに備えている。もちろんチタニアナノ粒子のより多量な析出が可能である。一次焼結構造のより多量の装填を達成するために同じサイズのナノ粒子を使用する場合、処理される気相の圧力降下の増大または流速の低下が観察される。
【0065】
より小粒子径のチタニアナノ粒子の使用は、圧力降下の増大なしに、より多量の装填を可能にする。
【0066】
触媒析出では、脱イオン水152.2g、メタバナジウム酸アンモニウム2.44g、メタタングステン酸アンモニウム水和物14.03gおよびシュウ酸ニ水和物19.7gを含有する含浸前駆物質水溶液を調製して、TiOナノ粒子懸濁物を用いた含浸の場合と同じ方法で実施した含浸に直接使用した。TiO含浸ステップの乾燥手順とは対照的に、3秒の保持時間の後に、残りの含浸溶液を完全に濡れた管状フィルタエレメント10の内部16から排出してから、管状フィルタエレメント10を装填触媒含浸溶液の初期質量に対して質量損失35%まで部分的にのみ乾燥させた。
【0067】
この乾燥手順の後に、管状フィルタエレメント10を500℃に加熱し、それを500℃にて180分間維持して、そして電熱炉内で室温まで冷却することによって、サンプルを直接熱処理して、焼結一次粒子の重量に基づいて0.28重量%の酸化バナジウム(V)装填および1.9重量%の酸化タングステン(WO)を有する管状触媒活性多孔質フィルタエレメント10を得た。触媒成分の装填は、酸化バナジウムおよびタングステンのクラスタおよび/またはナノ粒子22より本質的に構成されていた。チタニアナノ粒子のより大きい表面積を考えると、触媒成分の大半がチタニアナノ粒子に析出した。
【0068】
このように得られた触媒活性多孔質フィルタエレメント10は、表1で述べるようなアンモニア(NO/NH=1:1)との化学量論的SCR反応を実施することによって、±10%以内の調製および測定誤差でNO変換を示す。報告した値は、2回の測定の平均値である。
【0069】
【表1】

【実施例2】
【0070】
触媒成分の前駆物質溶液の調製に脱イオン水161.5g、メタバナジウム酸アンモニウム2.44g、メタタングステン酸アンモニウム7.00g、ヘプタモリブデン酸アンモニウム四水和物1.17gおよびシュウ酸ニ水和物14.1gを使用することを除いて、触媒活性多孔質管状フィルタエレメント10を実施例1で述べた手順に従って調製した。装填触媒含浸溶液の初期質量に対して質量損失48%までの部分乾燥の後、管状触媒活性フィルタエレメント10を得た。そのように調製した触媒フィルタエレメントは、焼結一次粒子の重量に基づいて、1.3%のTiOナノ粒子装填、0.28重量%のV装填、0.97重量%のWO装填および0.14重量%のMoO装填を特徴としていた。
【0071】
アンモニアとの化学量論的SCR反応における温度の関数としての対応するNO変換率を±10%以内の調製および測定誤差で表2に与える。報告した値は、2回の測定の平均値である。
【0072】
【表2】

【実施例3】
【0073】
フィルタエレメント10を触媒前駆物質に含浸させるために脱イオン水157.9g、メタバナジウム酸アンモニウム4.89g、メタタングステン酸アンモニウム水和物7.00g、およびシュウ酸ニ水和物17.7gを使用しながら、実施例1で述べた手順に従って管状触媒フィルタエレメント10を調製した。装填触媒含浸溶液の初期質量に対して質量損失71%までの部分乾燥の後、焼結一次粒子の重量に基づいて1.3重量%のTiO装填、0.55重量%のV装填および0.96重量%のWO装填を持つ、VOC除去(揮発性有機化合物)用の触媒活性フィルタエレメント10を得た。揮発性有機化合物としてのナフタレンの除去効率を±10%以内の調製および測定誤差で表3に与える。報告した値は、2回の測定の平均値である。
【0074】
【表3】

【実施例4】
【0075】
実施例1で使用したVおよびW触媒含浸溶液の代わりに脱イオン水187.1g中に硝酸マンガン四水和物1.92gを含有するMn前駆物質溶液を使用して、実施例1で述べた手順に従って管状触媒フィルタエレメント10を調製した。部分乾燥手順は、それをMn含浸溶液の初期質量装填に対する質量損失71%に調整することによって変更する。実施例1と同じ方法で実施した熱処理の後、焼結一次粒子の重量に基づいてTiO装填1.3重量%およびMnO装填0.096重量%を持つ触媒フィルタエレメント10を得た。
【0076】
本実施例の管状触媒フィルタエレメントは、VOC酸化のために特に設計された。
【0077】
揮発性有機化合物としてのプロペンの除去効率を±10%以内の調製および測定誤差で表4に与える。
【0078】
【表4】

【実施例5】
【0079】
管状触媒フィルタエレメント10を実施例1で述べた手順に従って調製した。しかしながら、触媒前駆物質溶液は、メタタングステン酸アンモニウム水和物14.03gおよびシュウ酸ニ水和物19.7gの代わりに、テトラミンプラチナ(II)クロライド(tetramminplatin(II)chlorid)一水和物0.273gおよびシュウ酸二水和物5.269gを含有していた。湿潤フィルタエレメント10を装填含浸溶液の初期質量に対して質量損失53%まで乾燥させた後、焼結一次粒子の重量に基づいて、1.3重量%のTiO装填、0.28重量%のV装填および0.022重量%の(元素)Pt装填を持つ触媒活性フィルタエレメント10を得た。400℃の5% H/N流中での5時間に渡る追加の還元処置によって、Pt触媒を元素形で得た。
【0080】
本実施例の管状触媒フィルタエレメントは、VOC除去はもちろんのこと、NOおよびVOCの複合除去のためにも設計されている。
【0081】
揮発性有機化合物としてのプロペンの除去効率を±10%以内の調製および測定誤差で表5に与える。
【0082】
【表5】

【0083】
NOおよび揮発性有機化合物としてのプロペンの複合除去の除去効率を±10%以内の調製および測定誤差で表6に与える。
【0084】
【表6】

【実施例6】
【0085】
本実施例では、焼結セラミック一次粒子の多孔質構造エレメントに基づく触媒活性多孔質エレメント60(図3の概略図を参照)を製造した。多孔質構造エレメントは、一次粒子としてのSiC粒62で構成されていた。SiC粒62の平均粒径は160μmであった。これらの一次粒子を焼結させて、外径60mm、内径40mmおよび長さ50mmの管状構造を形成した。
【0086】
管状エレメントの外部表面を上流側表面として使用し、膜フィルタ層63を装備させた。このフィルタ層63は、平均で約200μmの厚さを有し、平均粒径40μmの焼結ムライト粒子64より構成された。フィルタ層63の孔径は約10μmであった。
【0087】
このような多孔質構造エレメントは、ドイツのPALL Schumacher GmbHからDIA−SCHUMALITH 10−20として市販されている。
【0088】
続いてメンブレンフィルタ層63には、実施例1で述べたように融点51〜53℃の市販のパラフィンワックスの保護層を装備させた。
【0089】
第1のステップでは、実施例1で述べたように多孔質構造エレメント60をTiOナノ粒子懸濁物に含浸させた。図2の装置を使用して、多孔質構造エレメント60はゴムホッパー40上にその開放端の一方を置いた。エレメント60の内部スペース66に、高さがエレメント60の上(開放)端68に上昇するまで、チタニアナノ粒子懸濁物を充填した。
【0090】
焼結一次粒子構造の相違のために、0.92重量%のチタニアナノ粒子装填を得た。チタニアナノ粒子の装填による圧力降下の増大は53%に達した。
【0091】
その後、実施例1に述べた開始物質を使用して触媒成分を析出させた。
【0092】
多孔質エレメントを触媒成分前駆物質溶液で完全に湿らせた後に、多孔質エレメントを完全に乾燥させた(実施例1の部分乾燥とは対照的に)。
【0093】
その後、実施例1で述べた熱処理を実施し、それにより保護層をフィルタ層から除去した。
【0094】
触媒活性多孔質フィルタエレメントは、それぞれ焼結一次粒子の重量に基づいて、0.15重量%の酸化バナジウムおよび1.06重量%の酸化タングステンの装填を有していた。
【0095】
フィルタエレメントは、アンモニアとの化学量論的SCR反応の条件下で、表7で報告したようなNO変換を示した。調製および測定誤差は±10%であった。報告した値は、2回の測定で得た平均値である。
【0096】
【表7】

【0097】
上述の実施例1〜6では本発明を上流側表面にフィルタ層を持つ触媒活性多孔質エレメントに関連して説明したが、フィルタ層を欠いた触媒活性多孔質エレメントによって、NO除去およびVOC酸化について匹敵する結果が得られることが容易に理解される。フィルタ層は、多孔質エレメントを処理される気相におそらく含有される粒子に衝突するのを防止する役割を果たすだけで、触媒反応には関与しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】本発明による第1の触媒多孔質エレメントの概略図を示す。
【図2】多孔質構造エレメントを含浸させる装置の概略図を示す。
【図3】本発明による第2の触媒活性多孔質エレメントを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒気相反応を促進する触媒活性多孔質エレメントであって、
繊維状および/または粒状粒子から選択される焼結セラミックまたは金属一次粒子の多孔質構造エレメントと、前記焼結一次粒子の表面に析出したチタニアナノ粒子の二次構造と、前記チタニアナノ粒子の表面に析出した触媒成分とを含む、多孔質エレメント。
【請求項2】
前記多孔質構造エレメントが上流側および下流側表面を含み、前記上流側表面がフィルタ層を持つ、請求項1に記載の多孔質エレメント。
【請求項3】
前記フィルタ層がチタニアナノ粒子を本質的に含まない、請求項2に記載の多孔質エレメント。
【請求項4】
前記焼結一次粒子に析出したチタニアナノ粒子の量が焼結一次粒子の重量に基づいて0.1〜20重量%の範囲である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の多孔質エレメント。
【請求項5】
前記多孔質構造エレメントが焼結粒状一次粒子より本質的に構成され、チタニアナノ粒子の量が焼結一次粒子の重量に基づいて0.1〜10重量%の範囲である、請求項4に記載の多孔質エレメント。
【請求項6】
前記多孔質構造エレメントが焼結粒状および繊維状一次粒子より本質的に構成され、チタニアナノ粒子の量が焼結一次粒子の重量に基づいて0.1〜15重量%の範囲である、請求項4に記載の多孔質エレメント。
【請求項7】
前記多孔質構造エレメントが焼結繊維状一次粒子より本質的に構成され、チタニアナノ粒子の量が焼結一次粒子の重量に基づいて0.1〜20重量%の範囲である、請求項4に記載の多孔質エレメント。
【請求項8】
前記触媒成分が酸化バナジウムのクラスタおよび/またはナノ粒子を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の多孔質エレメント。
【請求項9】
前記酸化バナジウムクラスタおよび/またはナノ粒子の量が一次焼結粒子の重量に基づいて0.01〜10重量%の範囲である、請求項8に記載の多孔質エレメント。
【請求項10】
前記酸化バナジウムナノ粒子の平均サイズが1nmからチタニアナノ粒子の平均粒径の半分までの範囲である、請求項8または9に記載の多孔質エレメント。
【請求項11】
前記触媒成分が酸化マンガンクラスタおよび/またはナノ粒子を含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の多孔質エレメント。
【請求項12】
前記酸化マンガンクラスタおよび/またはナノ粒子の量が一次焼結粒子の重量に基づいて0.001〜6重量%の範囲である、請求項11に記載の多孔質エレメント。
【請求項13】
前記酸化マンガンナノ粒子の平均サイズが1nmからチタニアナノ粒子の平均粒径の半分までの範囲である、請求項11または12に記載の多孔質エレメント。
【請求項14】
前記触媒成分が酸化バナジウムクラスタおよび/またはナノ粒子に加えて、酸化タングステンおよび/または酸化モリブデンのクラスタおよび/またはナノ粒子を含む、請求項8〜13のいずれか一項に記載の多孔質エレメント。
【請求項15】
前記酸化タングステンおよび酸化モリブデンクラスタおよび/またはナノ粒子の量が相互から独立して、焼結一次粒子の重量に基づいて0.05〜20重量%の範囲である、請求項14に記載の多孔質エレメント。
【請求項16】
粒状一次粒子が40〜400μmの平均サイズを有する、請求項1〜15のいずれか一項に記載の多孔質エレメント。
【請求項17】
繊維状一次粒子が10〜400μmの平均直径および1〜20mmの平均長さを有する、請求項1〜16のいずれか一項に記載の多孔質エレメント。
【請求項18】
一次粒子の全量の重量に基づいて、粒状粒子の量が40〜90重量%の範囲であり、繊維状一次粒子の量が10〜60重量%の範囲である、請求項6〜17のいずれか一項に記載の多孔質エレメント。
【請求項19】
チタニアナノ粒子ならびに/あるいは触媒成分のクラスタおよび/または粒子が熱または焼結プロセスによって一次粒子および/またはチタニアナノ粒子にそれぞれ結合する、請求項1〜18のいずれか一項に記載の多孔質エレメント。
【請求項20】
前記フィルタ層がセラミックまたは金属粒子より成るフィルタ膜であり、前記フィルタ膜が焼結一次粒子の構造エレメントよりも小さい孔径を有する、請求項2〜19のいずれか一項に記載の多孔質エレメント。
【請求項21】
前記エレメントが本質的に管状構造を有する、請求項1〜20のいずれか一項に記載の多孔質エレメント。
【請求項22】
NOの選択的触媒還元によるガス流からのNO除去のための、請求項1〜21のいずれか一項に記載の触媒活性多孔質エレメントの使用。
【請求項23】
揮発性有機化合物(VOC)の触媒酸化によるガス流からの除去のための、請求項1〜21のいずれか一項に記載の触媒活性多孔質エレメントの使用。
【請求項24】
NOおよび揮発性有機化合物(VOC)を触媒変換によってガス流から同時に除去するための、請求項1〜21のいずれか一項に記載の触媒活性多孔質エレメントの使用。
【請求項25】
請求項3に記載の多孔質エレメントを製造する方法であって、
構造エレメントの上流側表面にフィルタ層を有する多孔質エレメントを供給するステップと、
前記フィルタ層を除去可能な保護剤で含浸およびコーティングして、それにより前記フィルタ層の孔を閉塞する保護層を形成するステップと、
前記構造エレメントの焼結一次粒子にチタニアナノ粒子を析出させるステップと、
前記チタニアナノ粒子の表面に触媒成分を析出させるステップと、
前記フィルタ層から前記保護剤を除去するステップと、
を備える、方法。
【請求項26】
前記触媒成分を析出させるステップが、前記焼結一次粒子の表面にチタニアナノ粒子が析出した前記構造エレメントを、前記触媒成分の前駆物質の溶液、触媒クラスタおよび/またはナノ粒子を含むゾルまたは懸濁物に含浸させる工程と、前記含浸させた構造エレメントを乾燥させ、熱処理する工程と、それにより前記前駆物質溶液の溶媒、前記ゾルまたは前記懸濁物を除去する工程と、前記保護剤を蒸発および/または燃焼させることによってそれを除去する工程とを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記チタニアナノ粒子を析出させるステップが、前記保護層に影響を及ぼさないままにする条件下で前記多孔質エレメントを乾燥させるステップを含む、請求項25または26に記載の方法。
【請求項28】
前記触媒成分を析出させるステップが、前記保護層の除去および最終熱処理ステップの前に、前記多孔質エレメントを部分的に乾燥させるステップを含む、請求項25〜27のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−514410(P2008−514410A)
【公表日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−533879(P2007−533879)
【出願日】平成17年7月5日(2005.7.5)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007234
【国際公開番号】WO2006/037387
【国際公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(596064112)ポール・コーポレーション (70)
【氏名又は名称原語表記】Pall Corporation
【住所又は居所原語表記】2200 Northern Boulevard East Hills, New York
【Fターム(参考)】