説明

触媒部材、カーボンナノチューブの製造装置、カーボンナノチューブの製造方法およびカーボンナノチューブ

【課題】炭素原料ガスの分解される効率を高め、カーボンナノチューブの成長速度を高めて高品質なカーボンナノチューブの連続成長を可能にする触媒部材を提供する。
【解決手段】本発明に係る触媒部材10は、銀または銀合金からなるベース体1と、上記ベース体1の内部を貫通するように配置された鉄フィラメント3と、上記鉄フィラメント3の一方の端部の一部分に接触するように配置されたアルミナ膜7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒部材、カーボンナノチューブの製造装置、カーボンナノチューブの製造方法およびカーボンナノチューブに関するものである。より特定的にはカーボンナノチューブの製造に用いる触媒部材、当該触媒部材を用いたカーボンナノチューブの製造装置、カーボンナノチューブの製造方法、および上記製造方法を用いて形成されたカーボンナノチューブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、電力の送電やインターネットなどの通信に用いる、次世代の優れた導電材料として期待されている。カーボンナノチューブの製造方法として、従来から触媒CVD法が用いられている。これは具体的には、たとえば鉄のナノ粒子を触媒として用いる方法である。触媒CVD法では、鉄のナノ粒子に炭化水素やアルコールなどの炭素と水素を含有するガス(炭素原料ガス)を供給しながら鉄のナノ粒子を熱処理する。すると鉄のナノ粒子の近傍において炭素原料ガスが炭素原子のガスと水素原子のガスとに分解し、そのうち炭素原子のガスが鉄のナノ粒子の表面に接触する。このとき、炭素原子のガスが接触した鉄のナノ粒子の表面を起点としてカーボンナノチューブが成長する。
【0003】
しかし触媒CVD法を用いた場合、鉄のナノ粒子の表面上に供給される炭素原子がナノ粒子の表面を被覆することがある。すると鉄のナノ粒子が触媒として作用しなくなり、カーボンナノチューブの成長速度が低下し、さらにはカーボンナノチューブの成長が停止することがある。これは具体的には、鉄のナノ粒子の表面上に炭素からなる薄膜が形成されるために、鉄のナノ粒子が直接炭素原料ガスに接触しなくなるためである。鉄のナノ粒子の表面上に炭素原料ガスが接触して分解し、炭素が鉄のナノ粒子の内部に固溶する際に、炭素が鉄のナノ粒子に対して過飽和の状態になると、一部の炭素が鉄の表面上に炭素の薄膜として露呈する。このために上述したような薄膜が形成される現象が起こる。
【0004】
一方、たとえばJapanese Journal of Applied Physics Vol.46(非特許文献1)に開示されるように、従前より酸化アルミニウム(アルミナ:Al)がカーボンナノチューブを成長させるための触媒として有効であることが知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Suguru Noda他、Millimeter-Thick Single-Walled Carbon Nanotube Forests:Hidden Role of Catalyst Support、Japanese Journal of Applied Physics、2007年4月20日、Vol.46、No.17、p.L399-L401
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、触媒CVD法を用いた場合、カーボンナノチューブの成長速度が途中で低下したり停止したりする可能性がある。しかしこれを抑制するために触媒CVD法を用いてカーボンナノチューブを連続成長させることは容易ではない。たとえば鉄のナノ粒子の表面上に付着する炭素の薄膜の形成を抑制するためには、鉄のナノ粒子の表面上に炭素原料ガスと同時に水を供給する。しかしこの水が、形成されるカーボンナノチューブを破壊させ、当該カーボンナノチューブの品質を劣化させることがある。つまり触媒に対して炭素原料ガスが供給される領域と、カーボンナノチューブが成長する領域とが同一であると、上記のようなトレードオフの関係になる可能性がある。したがって炭素原料ガスを供給する領域と、カーボンナノチューブが成長する領域とは別個(独立)であることが好ましい。
【0007】
このため近年、炭素透過法と呼ばれる触媒CVD法に代わるカーボンナノチューブの形成技術が提案されている。炭素透過法とは、炭素原料ガスが供給される領域と、カーボンナノチューブが成長する領域とが、たとえば銀からなるセパレータにより分離されている系を用いてカーボンナノチューブを形成する方法である。セパレータの内部には、当該セパレータの内部を貫通するように長尺形状に形成されたフィラメントが形成されている。フィラメントは触媒としての鉄で形成されている。フィラメントに連続(接触)するように、セパレータの外部表面上に鉄が多少露出した領域が形成されている。この鉄が外部に露出された領域に、上述した炭化水素やアルコールなどの炭素と水素を含有するガス(炭素原料ガス)が供給されると、当該炭素原料ガスの炭素原子と水素原子とが分解される。そして鉄が外部に露出された領域の内部に炭素原子が進入する。すると鉄の内部に固溶された当該炭素原子は拡散現象により鉄フィラメントの内部を貫通して、炭素原料ガスが供給される領域と反対側からセパレータの外部に抜け、カーボンナノチューブとして成長される。
【0008】
ところが鉄の、炭素原料ガスを分解する触媒としての作用が強くないという問題がある。このため、鉄が外部に露出された領域において炭素原料ガスが十分に分解されなければ、鉄の内部に拡散される炭素原子の量が少なくなることがある。その結果、カーボンナノチューブの成長速度が低下することがある。したがって炭素原料ガスが分解される効率を高めることが望ましい。
【0009】
本発明は、以上の問題に鑑みなされたものである。その目的は、炭素原料ガスの分解される効率を高め、カーボンナノチューブの成長速度を高めて高品質なカーボンナノチューブの連続成長を可能にする触媒部材を提供することである。また当該触媒部材を備えるカーボンナノチューブの製造装置、カーボンナノチューブの製造方法、および当該カーボンナノチューブの製造方法を用いて形成されたカーボンナノチューブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る触媒部材は、銀または銀合金からなるベース体と、上記ベース体の内部を貫通するように配置された鉄フィラメントと、上記鉄フィラメントの一方の端部の一部分に接触するように配置されたアルミナとを備える。
【0011】
当該触媒部材は、炭素透過法を用いたカーボンナノチューブの形成に用いられる。つまり炭素原料ガスを供給する領域とカーボンナノチューブが成長する領域とのセパレータとして当該触媒部材が用いられる。炭素原料ガスを供給する領域にアルミナが配置されていれば、炭素原料ガスは高効率に分解される。これはアルミナは鉄よりも、炭素原料ガス中の炭素と水素とを分解する触媒としての作用が強いためである。このためアルミナにより高効率に分解された炭素が、アルミナと接触された鉄の部分から当該鉄の内部に固溶し、さらに接触する鉄フィラメントの内部に高速度で拡散され、カーボンナノチューブを高速度で連続成長させることができる。このように触媒部材にアルミナを用いれば、炭素透過法により高効率にカーボンナノチューブを成長することができる。
【0012】
上述した触媒部材を備えるカーボンナノチューブの製造装置には、炭素原料ガスを供給する領域とカーボンナノチューブが成長する領域とが独立に配置されている。このためたとえば炭素原料ガスを供給する領域に供給する水やガスなど、成長するカーボンナノチューブの品質を劣化させる要因となる物質が、成長されるカーボンナノチューブの内部に混入されにくくなる。したがって形成されるカーボンナノチューブの品質を向上することができる。また上述したように、触媒としてアルミナを用いれば、炭素原料ガスの分解が促進されるため、カーボンナノチューブが形成される効率を上げることができる。以上より、当該製造装置は、高品質のカーボンナノチューブを高効率に成長することを可能とする。言い換えれば当該触媒部材を用いたカーボンナノチューブの製造方法は、高品質のカーボンナノチューブを高効率に提供することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の触媒部材は、カーボンナノチューブの成長速度を高めて高品質なカーボンナノチューブの連続成長を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態1に係る、カーボンナノチューブの成長に用いる触媒部材を示す概略断面図である。
【図2】図1の線分II−IIにおける断面図である。
【図3】図1の触媒部材を用いたカーボンナノチューブの製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】触媒部材を形成するために銀パイプの内部に鉄線材を挿入する工程を示す概略図である。
【図5】触媒部材を形成するために銀パイプを伸線加工する工程を示す概略図である。
【図6】触媒部材を形成するために銀パイプを束ねたものを嵌合する工程を示す概略図である。
【図7】嵌合された銀パイプを切断する工程を示す概略図である。
【図8】切断された部材の主表面の銀をエッチングする工程を示す概略図である。
【図9】図4〜図8により形成された触媒部材の一部分を示す概略斜視図である。
【図10】図9の線分X−Xにおける断面図である。
【図11】本発明の実施の形態1に係るカーボンナノチューブの成長装置の内部構造を示す概略断面図である。
【図12】本発明の実施の形態1に係る、カーボンナノチューブの成長に用いる触媒部材の変形例を示す概略断面図である。
【図13】本発明の実施の形態2に係る、カーボンナノチューブの成長に用いる触媒部材を示す概略断面図である。
【図14】本発明の実施の形態3に係る、カーボンナノチューブの成長に用いる触媒部材を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の各実施の形態について説明する。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす要素には同一の参照符号を付し、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
【0016】
(実施の形態1)
図1に示す本発明の実施の形態1に係る触媒部材10は、炭素透過法を用いてカーボンナノチューブを成長するために用いる部材である。触媒部材10はベース体1と、鉄フィラメント3と、アルミナ膜7とを備えている。
【0017】
ベース体1はたとえば銀または銀合金など、銀を含む材質にて構成された構造体である。ベース体1は図1においては矩形状(直方体状)をなしているが、これは後述するようにベース体1の一部分の概略図であるためである。つまりベース体1は必ずしもこのような矩形状をなしている必要はなく、たとえば円柱形状などであってもよい。鉄フィラメント3は鉄で形成された、長尺形状の構造体である。鉄フィラメント3はベース体1の内部を、ベース体1の成長領域側主表面13とガス供給側主表面14とにほぼ垂直に交差するように貫通するよう配置されている。なお、ここで主表面とは表面のうち最も面積の大きい主要な面をいう。
【0018】
鉄フィラメント3は図1に示すように、ベース体1の成長領域側主表面13およびガス供給側主表面14に交差する方向に延在する長尺形状である。図1においては鉄フィラメント3の延在する方向に関する端部は、ベース体1の外部に突出している。つまり図1における鉄フィラメント3の上側の端部は、ベース体1の成長領域側主表面13よりも上側に存在し、鉄フィラメント3の下側の端部は、ベース体1のガス供給側主表面14よりも下側に存在する。このように鉄フィラメント3の上側(成長領域側主表面13側)や下側(ガス供給側主表面14側)の端部は、ベース体1の外部に、鉄フィラメント3が露出するように存在することが好ましい。このようにすれば、ベース体1の外部に配置された鉄フィラメント3の端部から、鉄フィラメント3の内部に拡散させる炭素原子を容易に供給することができる。その結果、図1に示すカーボンナノチューブ15を容易に成長させることができる。
【0019】
また鉄フィラメント3は図2の断面図に示すように、図1(図2)における左右方向に4本並ぶように配置される。また図1における奥行き方向(図2における上下方向)には1列のみ配置される。しかし鉄フィラメント3が配置される本数や場所はこれに限られず、たとえば図1における左右方向に5本以上(3本以下)、図1における奥行き方向(図2における上下方向)に2本以上配置される構成としてもよい。また図2の平面上において複数本の鉄フィラメント3が無秩序に配置されていてもよい。
【0020】
アルミナ膜7は、ベース体1のガス供給側主表面14上に、一定の厚みをもって配置されている。その厚み(図1における上下方向の寸法である厚み)は0.001μm以上1μm以下であることが好ましく、0.01μm以上0.1μm以下であることがさらに好ましい。またアルミナ膜7はアルミナのみからなる薄膜であってもよいが、たとえばアルミナと、アルミナ以外の組成とが合わさった組成を有するものであってもよい。アルミナ膜7に含まれるアルミナ以外の組成としてはたとえば鉄やニッケルなどが挙げられる。
【0021】
次に、上記触媒部材を用いたカーボンナノチューブの製造方法について説明する。図3のフローチャートに示すように、まず触媒部材を準備する工程(S10)が実施される。工程(S10)は、たとえば上述した図1に示すような触媒部材10を形成する工程である。
【0022】
具体的には図4に示すように、たとえば質量比にて99.998%以上の純度を持つ超高純度鉄で形成された、長尺形状を有する構造体である鉄線材21を、たとえば質量比にて99.99%以上の純度を持つ純銀からなる筒状の銀パイプ22の内部に挿入する。次に上記銀パイプ22に対して伸線加工を施し、たとえば図4に示す銀パイプ22の長尺方向に交差する断面の面積に比べて小さい断面積を有する、図5に示すような銀パイプ22とする。銀パイプ22の内部には上述のように挿入した鉄線材21が配置されている。これは具体的には、銀パイプ22の断面がなす円形状に対して、四方から当該円形状の直径が小さくなる方向に応力を加え、径が小さくなる分だけ銀パイプ22の長尺方向の長さが増加するように、当該銀パイプ22を搾り出すような加工を施す。
【0023】
次に伸線加工を施した、鉄線材21を含む銀パイプ22を、長尺方向に関して複数本に切断し、切断された複数本の銀パイプ22を束ねて図6に示すように銀パイプ23の内部に挿入する嵌合加工を行なう。当該銀パイプ23は、銀パイプ22と同様に純銀からなる銀パイプ23であってもよいが、たとえば銀と他の金属元素とが混合された銀合金であってもよい。銀パイプ23が銀合金からなるものである場合、銀のほかに白金が含まれることが好ましい。
【0024】
以上に述べた各加工は、超電導線材を形成するために、超電導材料の粉末を銀製のパイプの内部に充填させたものを、複数本束ねて多芯化する工程に類似している。このため上述した当該各加工は加工効率が高く、量産性に優れた加工技術である。
【0025】
なお以上に述べた図4〜図6に示す、鉄線材21の挿入加工、銀パイプ22の伸線加工、および銀パイプ22の嵌合加工は、必要に応じて1度のみ行なってもよいし、同様の処理を複数回繰り返し行なってもよい。つまり各加工を行なう回数は任意である。1回または複数回、上記の処理を行なうことにより最終的に形成される図6の嵌合銀パイプ24の内部に複数存在する鉄線材21の断面がなす円形状の直径が1nm以上1000nm以下となるように加工することが好ましい。なかでも上記鉄線材21の断面がなす円形状の直径が10nm以上100nm以下となるように加工することがより好ましい。
【0026】
以上の要領により形成された嵌合銀パイプ24は、鉄線材21を含む銀パイプ22と、銀パイプ22が複数本束ねられたものを含む銀パイプ23とから構成される。ここで図7に示すように、嵌合銀パイプ24の長尺方向に関する一定の長さ分を輪切りに切断する。すると切断された部材が最終的にベース体1として形成される部材となる。当該切断された部材の厚みは、嵌合銀パイプ24が長尺方向に切断された分の長さに等しい。具体的には、嵌合銀パイプ24が切断されることにより、当該切断された部材の厚みが50μm以上500μm以下となるようにすることが好ましい。このようにすれば、当該切断された部材を最終的にベース体1として使用することができる。嵌合銀パイプ24を図7に示すように輪切りにした後、切断された部材の、嵌合銀パイプ24の断面に沿った円形の表面を研磨加工する。研磨加工はたとえばバフ研磨を用いて行なうことが好ましい。この研磨加工は、当該切断された部材の厚みがより所望の厚みに近づくようにする目的で行なうものである。具体的には、研磨加工を施すことにより、当該切断された部材の厚みが5μm以上50μm以下となるようにすることが好ましい。このようにすれば、当該切断された部材を最終的にベース体1として使用することができる。
【0027】
続いて上記の切断された部材の主表面から一定の深さの領域、すなわち嵌合銀パイプ24の断面に相当する表面から一定の深さの領域に存在する、銀パイプ22や銀パイプ23を構成する銀をエッチングにより除去する。このエッチング加工には、たとえば過酸化水素水とアンモニア水との混合水溶液を用いることが好ましい。このようにすれば、上記切断された部材を構成する鉄線材21の鉄をエッチングすることなく、鉄線材21の周囲に存在する銀パイプ22や銀パイプ23の銀成分のみをエッチングさせることができる。その結果、図8に示すように、銀パイプ23をベースとして、そのエッチングされた後の主表面23aおよび主表面23bが、鉄線材21の端部に比べて一定の深さ分だけ低い領域に存在することになる。言い換えれば、エッチングがなされていない鉄線材21の、図8における上側および下側の両方の端部は、切断された部材を構成する銀パイプ23の上側の主表面23aや下側の主表面23bに対して一定の距離だけ当該部材の厚み方向(図8の上下方向)に突出した状態となる。
【0028】
そして図9に示すように、アルミナ膜を形成する。このアルミナ膜は、たとえばスパッタリング成膜法により、図8に示す部材の主表面23aまたは主表面23bのいずれか一方の上に形成される。このようにしてアルミナ膜が形成されると、上記部材は、図9に示す触媒部材90として形成される。図9の触媒部材90は、図8の下側の主表面23b上にアルミナ膜25が形成されることを想定した描写がなされている。また図8においては主表面23a、23bの形状が嵌合銀パイプ24の断面の形状に合わせて円形状となっているが、図9においては図8の部材の主表面の一部分を矩形状に切り取り描写している。このため図9においてはあたかも触媒部材90が矩形状を有するように描写されている。
【0029】
図9の触媒部材90における銀パイプ23は、図1の触媒部材10におけるベース体1に相当する。図9の触媒部材90における鉄線材21は、図1の触媒部材10における鉄フィラメント3に相当する。また図9の触媒部材90におけるアルミナ膜25は、図1の触媒部材10におけるアルミナ膜7に相当する。
【0030】
図9の触媒部材90におけるアルミナ膜25を形成するためには、図10の断面図に示すように、鉄線材21の長尺方向に関する端部のうち銀パイプ23の外部に露出した領域の一部のみをアルミナ膜25が覆うことが好ましい。このためには、アルミナ膜25を形成するためにスパッタリング成膜法の処理を行なう際に、銀パイプ23の外部に露出した端部の一部の領域の表面上にアルミナ膜25が形成されないようにするために、鉄とアルミナとの同時成膜の処理を行なうことが好ましい。たとえば図10の断面図においては、中央側および右側の鉄線材21の下側(主表面23b側)の端部の、銀パイプ23の外部に露出した領域の左下側において、アルミナ膜25が形成されず、鉄線材21の表面が露出している。また図10における左側の鉄線材21については、先端部の表面の全体が露出している。
【0031】
以上のようにして触媒部材90が形成されたところで、図3のフローチャートに示すカーボンナノチューブを形成する工程(S20)を実施する。これは工程(S10)にて形成された触媒部材90を用いて、カーボンナノチューブを形成する工程である。
【0032】
図11に示す成長装置50に触媒部材90をセットし、後述の処理を行なうすることにより、触媒部材90にカーボンナノチューブが形成される。図11に示すように成長装置50は、チャンバ31と、真空ポンプ33と、炭素原料ガス供給装置35と、アルゴンガス供給装置37と、加熱ヒータ41とを備えている。
【0033】
チャンバ31は、真空ポンプ33を用いて内部を真空状態にすることが可能な設備である。炭素原料ガス供給装置35は、炭素透過法を用いて、カーボンナノチューブを成長させるために必要な炭素や水素を含むガスを噴射させる装置である。アルゴンガス供給装置37は、チャンバ31の内部に載置された触媒部材90に対してアルゴンガスを供給するための装置である。具体的には図11に示すように、触媒部材90の下側、つまり触媒部材90から見てアルミナ膜25が形成された主表面23bに対向する側に炭素原料ガス供給装置35が載置されている。そして炭素原料ガス供給装置35からアルミナ膜25(主表面23b)に向けて、炭素原料ガスが噴射される。また触媒部材90の上側、つまり触媒部材90から見て主表面23bと反対側の主表面である主表面23aに対向する側にアルゴンガス供給装置37が載置されている。そしてアルゴンガス供給装置37から主表面23aに向けてアルゴンガスが噴射される。
【0034】
図11においては、チャンバ31の内部に真空ポンプ33と炭素原料ガス供給装置35と、アルゴンガス供給装置37と加熱ヒータ41とのすべてが載置された態様となっている。しかしこれは、図11が成長装置50を構成する設備を説明するための概略図であるためである。実際には真空ポンプ33はチャンバ31の内部を真空状態にするためにチャンバ31の外部に載置された設備であることが一般的である。炭素原料ガス供給装置35およびアルゴンガス供給装置37についても同様に、チャンバ31の外部に載置された設備であることが多い。ただし加熱ヒータ41については、図11に示すように実際にチャンバ31の内部に載置され、触媒部材90を加熱する役割を有するものであることが一般的である。たとえば図11の加熱ヒータ41は、触媒部材90の周囲を囲むように配置されたコイルである。加熱ヒータ41のコイルに誘導電流を流すことにより、コイルに囲まれる中空の領域に配置された触媒部材90を加熱する。しかし加熱ヒータ41はこのような誘導加熱を利用したものである必要はなく、一般周知の任意の加熱方法を当該成長装置50における熱処理に使用することができる。
【0035】
図11においてアルミナ膜25が対向する、触媒部材90の下側の領域には、カーボンナノチューブを成長させるための炭素や水素を含有する炭素原料ガスを、炭素原料ガス供給装置35から供給する。炭素原料ガスはアルミナ膜25に接触すれば容易に炭素と水素とに分解する。これはアルミナ膜25に含まれるアルミナには、炭素原料ガスを炭素と水素とに分解するための強い触媒作用が存在するためである。上述した分解により、アルミナ膜25が対向する領域には炭素原子のガスが多数存在することになる。この炭素原子のガスが、鉄線材21のうち銀パイプ23の外部に露出しており、かつアルミナ膜に覆われていない部分の表面上に接触する。ただし上記の領域とは、図11における中央側および右側の鉄線材21についてはアルミナ膜25の下側の端部の左半分の領域を意味し、図11の左側の鉄線材21についてはアルミナ膜25の下側の端部の全域を意味する。
【0036】
このように炭素原子のガスが鉄線材21の表面の一部の領域に集まり接触すると、当該炭素原子は接触した場所から鉄線材21の内部に進入して固溶する。そして炭素原子は鉄線材21の内部を拡散する。上記の拡散速度は非常に速いため、炭素原子はすぐに鉄線材21の長尺方向に沿って進行し、主表面23a側の端部(図11の上側)に到達する。主表面23aが対向する、触媒部材90の上側の領域にはアルゴンガス供給装置37によりアルゴンガスが供給されている。加熱ヒータ41が鉄線材21を加熱しているため、鉄線材21と炭素原子との反応が起こる。このため、アルゴンガスが供給されている領域において、鉄線材21の上側に延長するようにカーボンナノチューブが成長する。具体的には図11と図1とを比較して、図11の炭素原料ガス供給装置35から供給される炭素原料ガス11(図1参照)は、炭素原料ガスが供給される銀パイプ23(ベース体1)の下側の領域と反対側、つまり銀パイプ23(ベース体1)の上側の領域に、鉄線材21(鉄フィラメント3)の上側に延長するようにカーボンナノチューブ15が成長する。
【0037】
以上のように本実施の形態1においては、カーボンナノチューブ15の製造方法として炭素透過法を用いる。つまりベース体1(銀パイプ23)をセパレータとして、成長領域側主表面13(主表面23b)が対向する領域を炭素原料ガスの供給、および炭素原子のガスの分解に用いる領域とし、ガス供給側主表面14(主表面23a)が対向する領域をカーボンナノチューブの成長に用いる領域と、2つの領域を別個に設けて別々に機能させる。このようにしているため、カーボンナノチューブの成長に用いる領域においては不活性ガスのアルゴンガスを供給することができる。このため、成長されるカーボンナノチューブ15に不純物が含有するなど、カーボンナノチューブの品質を劣化させる可能性を低減することができる。つまり成長されるカーボンナノチューブ15を高品質のものとすることができる。
【0038】
また、アルミナ膜7(アルミナ膜25)が存在することにより、炭素原料ガスはアルミナ膜7(アルミナ膜25)が存在しない場合よりも速く分解される。鉄の内部に固溶された炭素原子は速く拡散されるため、炭素原子の供給、つまり炭素原料ガスの分解が速く行なわれることにより、カーボンナノチューブ15の成長速度を高めることができる。以上よりアルミナ膜7(アルミナ膜25)には、カーボンナノチューブ15の成長される効率を高め、カーボンナノチューブ15を連続成長させる役割を有するといえる。
【0039】
ここでアルミナ膜7(アルミナ膜25)により分解される(炭素原料ガス供給装置35からの)炭素原料ガス11は、鉄フィラメント3(鉄線材21)の表面の近傍に集まるように供給されることが好ましい。このため、炭素原料ガス11が鉄フィラメント3(鉄線材21)の表面の一部に接触することが可能であることが好ましい。したがって鉄フィラメント3(鉄線材21)は、図1や図11に示すように端部における表面の一部がベース体1(銀パイプ23)の外部においてアルミナ膜7(アルミナ膜25)に覆われることなく露出していることが好ましい。すると鉄フィラメント3の露出された表面に、分解された炭素原子のガスが集まって接触すれば、そこから鉄フィラメント3の内部に当該炭素原子が固溶し、速く拡散されることになる。
【0040】
以上により、図8に示すように、銀パイプ23の一部をエッチングすることにより鉄線材21の端部を銀パイプ23の外部に露出させることが好ましい。ただしこのような処理を施さなくても、たとえば図1の触媒部材10が示すように、鉄フィラメント3の下側の端部の一部に、当該鉄フィラメント3と一部の領域において接触(連続)し、かつベース体1の外部に表面が露出するように配置された露出鉄5が存在すればよい。露出鉄5を構成する鉄の材料の組成は鉄フィラメント3を構成する鉄の材料の組成とほぼ同じであることが好ましいが、たとえば鉄フィラメント3における鉄の割合と露出鉄5における鉄の割合とは多少異なっていてもよい。
【0041】
この場合、露出鉄5の表面に炭素原子のガスが接触すれば、露出鉄5は鉄フィラメント3と接触しているため、炭素原子のガスは直ちに鉄フィラメント3の内部に進入して固溶する。したがって露出鉄5が存在せず、鉄フィラメント3の端部の一部分がベース体1の外部に露出している場合と同様の効果を奏する。
【0042】
つまり図1においては露出鉄5が接触している鉄フィラメント3の端部は、ベース体1の外部に存在するが、たとえば図8に示す銀のエッチングを行なわなかったことにより鉄フィラメント3の端部がベース体1の内部に完全に埋れている場合においても、一部の領域において鉄フィラメント3と接触してかつベース体1の外部に露出する表面を有する露出鉄5が存在してもよい。ただし露出鉄5の露出する表面上に炭素原子のガスが接触する必要があるため、図1に示すように、露出鉄5の少なくとも一部の領域はアルミナ膜7に覆われず露出していることが好ましい。たとえば図1のアルミナ膜被覆露出鉄表面19のように、露出鉄5のうちアルミナ膜7に被覆された領域は、炭素原子のガスが接触して当該炭素原子のガスを鉄フィラメント3の内部へと拡散させることが困難である。このため鉄フィラメント3や露出鉄5の、外部に露出して炭素原子のガスと接触可能な表面の面積はより広いことが好ましい。
【0043】
以上より、ベース体1の外部において炭素原料のガスと接触することが可能なように露出する表面が存在し、かつ当該露出する表面の存在する領域が鉄フィラメント3と接触していればよいといえる。つまり図1の触媒部材10のように鉄フィラメント3と別個の露出鉄5が鉄フィラメント3の表面に接触するように配置されていてもよいし、図12の触媒部材20のように、ベース体1の外部に露出した鉄フィラメント3の端部の一部分(図12における右半分)が、アルミナ膜7に覆われることもなく露出表面8として存在する態様であってもよい。
【0044】
(実施の形態2)
カーボンナノチューブ15(図1参照)を成長させるための鉄フィラメント3は、上述したように鉄線材21(図4〜図7参照)を銀パイプの内部で通常複数回にわたり伸線加工することにより形成される。このため通常、鉄フィラメント3の長尺方向に交差する断面のなす円形の直径は1nm〜100nmと極めて細い。したがって鉄フィラメント3の端部の露出した領域は、図13の触媒部材30のように、ベース体1の内部に埋れた、成長領域側主表面13とガス供給側主表面14とにほぼ垂直に延在する領域と異なり折れ曲がって(傾いて)存在することが多い。言い換えれば鉄フィラメント3の端部の露出した領域は、ベース体1の成長領域側主表面13とガス供給側主表面14に対して直角ではないある傾き角度の方向に延在する。ここである傾き角度とは、たとえば30°であっても45°であっても、60°であってもよく、直角とは大きく異なる任意の角度である。
【0045】
このように鉄フィラメント3の端部の露出した領域がベース体1の主表面に対して傾いていてもよい。この場合において、傾いた端部の領域に炭素原子のガスが集まり固溶することにより鉄フィラメント3の内部に炭素原子が拡散しても、成長するカーボンナノチューブの品質や成長速度には影響を与えない。鉄フィラメント3の断面積が極めて小さい(鉄フィラメント3が極めて細い)ため、上述した工程(S20)の処理を行なえば、加熱による熱応力や、炭素原料ガスの分解時の反応などにより、元々ほぼ直線状に配置されていた鉄フィラメント3が、特にベース体1の外部に露出された領域において図13のように屈曲することはしばしば起こる現象である。
【0046】
本発明の実施の形態2は、以上に述べた各点についてのみ、本発明の実施の形態1と異なる。すなわち、本発明の実施の形態2について、上述しなかった構成や条件、手順や効果などは、全て本発明の実施の形態1に順ずる。
【0047】
(実施の形態3)
図14に示す触媒部材40の鉄フィラメント3は、成長領域側主表面13側とガス供給側主表面14側との両方において、端部がベース体1の外部に突出している。そしてガス供給側主表面14側に突出された鉄フィラメント3の端部の表面のほぼ全体が、ポーラスアルミナ膜9で被覆されている。
【0048】
上述したように、ガス供給側主表面14上に形成されるアルミナ膜は、ベース体1の外側に突出した鉄フィラメント3の端部の表面の一部分のみを覆うことが好ましい。しかしポーラスアルミナ膜9のように、通常のアルミナ膜7よりも空孔が多いアルミナ膜を用いている場合においては、ポーラスアルミナ膜9が鉄フィラメント3の端部の表面のほぼ全体を覆ってもよい。これはポーラスアルミナ膜9には空孔が多いため、鉄フィラメント3の端部の表面の全体をポーラスアルミナ膜9が覆ったとしても、ポーラスアルミナ膜9の気孔の部分は鉄フィラメント3の表面が露出するためである。
【0049】
つまり鉄フィラメント3の端部の表面の全体をポーラスアルミナ膜9が覆ったとしても、ポーラスアルミナ膜9の気孔の部分に炭素原子のガスが集まれば、そこから鉄フィラメント3の内部へと炭素原子のガスが拡散される。またポーラスアルミナ膜9についてもアルミナ膜7と同様に、炭素原料ガスを炭素と水素とに分解する触媒としての作用を有する。このためポーラスアルミナ膜9がガス供給側主表面14上に配置されていれば、炭素原料ガスの分解作用が促進される。
【0050】
なおポーラスアルミナ膜9は、陽極酸化という方法により形成される。ポーラスアルミナ膜9を用いれば、ポーラスアルミナ膜9のうちアルミナが存在する、つまり気孔でない領域において炭素原料ガスが炭素と水素とに分解され、分解された炭素原子のガスがその近傍の気孔部分において鉄フィラメント3の表面に接触する。つまり、アルミナ膜が配置された領域と、分解された炭素原子のガスが鉄フィラメント3の内部に拡散されるために鉄フィラメントの表面に集まる領域との距離が短い。このため、アルミナ膜により炭素原料ガスが分解される領域と、分解された炭素原子のガスが集まって鉄フィラメントの表面から内部へ拡散される領域との距離が長い、実施の形態1や2のアルミナ膜7を用いた場合に比べて、分解されたガスが鉄フィラメント3の内部へ拡散される効率がより向上する。つまりカーボンナノチューブの成長速度をさらに高め、成長効率をさらに向上させることができる。
【0051】
なお触媒部材40においても、たとえば触媒部材30と同様に、ベース体1の外部に突出した鉄フィラメント3の端部が屈曲していてもよい。また触媒部材40においても、ベース体1の外部に突出した鉄フィラメント3の端部の表面の一部分のみにポーラスアルミナ膜9が配置されていてもよい。
【0052】
本発明の実施の形態3は、以上に述べた各点についてのみ、本発明の実施の形態1、2と異なる。すなわち、本発明の実施の形態3について、上述しなかった構成や条件、手順や効果などは、全て本発明の実施の形態1、2に順ずる。
【実施例1】
【0053】
上述した本発明の実施の形態1に従い、カーボンナノチューブを試作した。具体的には、図3の触媒部材を準備する工程(S10)として、まず図4に示すような鉄線材21を準備した。鉄線材21は断面のなす円形の直径が1mm、長尺方向の長さが30cmであり、質量比にて99.998%の純度を有する超高純度鉄である。これを図4に示すような内部における断面のなす円形の直径が1.05mm、長尺方向の長さが35cmであり、質量比にて99.99%の純度を持つ銀パイプ22の内部に挿入した。この銀パイプに対して図5に示すように伸線加工を施した。その後、当該銀パイプ22を長尺方向の長さが30cmずつとなるよう61本に分割したものを図6に示すように束ねて、銀パイプ22よりも内部における断面のなす円形の直径が大きい銀パイプ23の内部に挿入した。そしてその銀パイプ23に対して伸線加工を施し、銀パイプ23の断面のなす円形の直径がより小さくなるようにした。その後、銀パイプ23を熱処理炉の内部に投入し、水素、アルゴン混合雰囲気中で銀パイプ23を700℃に加熱して1時間保持することにより、焼鈍処理を行なった。ここまでの処理を繰り返し実施することにより、鉄線材21(鉄フィラメント3)の断面がなす円形の平均直径が50nmになるまで加工した。このとき形成される嵌合銀パイプ24の断面がなす円形の直径は10mmとなった。
【0054】
次に図7に示すように上記嵌合銀パイプ24を輪切りに切断した。そして切断された部材の、嵌合銀パイプ24の断面に沿った円形の表面を研磨加工した。この研磨加工により、切断された部材の厚み(嵌合銀パイプ24の長尺方向の長さ)が約10μmになるように調整した。
【0055】
さらに当該切断された部材の切断された断面がなす主表面から一定の深さの領域に存在する銀のみをエッチングすることにより除去し、図8に示すように鉄線材21が銀に対して突出した構造となるようにした。銀のみをエッチングするために、過酸化水素水とアンモニア水との混合水溶液を用いた。
【0056】
以上の手順で形成された部材の一方の主表面(たとえば図8の下側の主表面23b)上に、アルミナの薄膜と鉄の薄膜とを同時にスパッタリング成膜する成膜法を用いて、両者の膜厚の合計が約10nmとなるように成膜した。このようにして炭素透過法によりカーボンナノチューブを形成するための触媒部材Aが形成された。
【0057】
触媒部材Aを用いて、図11の成長装置50を用いて炭素透過法によりカーボンナノチューブを成長させた。具体的には、まず成長装置50のチャンバ31の内部に図11に示すように触媒部材Aを載置した。そして触媒部材Aの下側、つまり主表面23bやアルミナ膜25が対向する領域には、炭素原料ガス供給装置35から、炭素と水素とを含むガスやその他のガスを供給した。具体的には炭素原料ガス供給装置35から供給した混合ガスは、アセチレン(C)ガスを1000cc/min、水素(H)ガスを3000cc/min、およびアルゴン(Ar)ガスを6000cc/minである。この混合ガスにさらに2000ppmの濃度となるように水蒸気ガスを添加した。また触媒部材Aの上側、つまり主表面23aが対向する領域には、アルゴンガス供給装置37から、アルゴンガスを1000cc/min供給した。
【0058】
すると触媒部材Aの鉄線材21の、アルゴンガス供給装置37に対向する上側の端部から、3mm長のカーボンナノチューブが成長した。
【0059】
なお、上記の触媒部材Aの比較用として、上述した触媒部材Aと同様の条件で形成しているものの、主表面23b上にアルミナの薄膜と鉄の薄膜とを形成させていない触媒部材Bを用いて、上記と同様にカーボンナノチューブを成長させた。すると触媒部材Bの鉄線材21の、アルゴンガス供給装置37に対向する上側の端部から、0.1mm長のカーボンナノチューブが成長した。つまり触媒部材Aのようにアルミナ膜を有する触媒部材を用いた方が、炭素原料ガスの分解が活発になるために、カーボンナノチューブの成長速度が速くなる。このため高効率に長いカーボンナノチューブを成長させることができる。
【0060】
上記の2種類の触媒部材A、Bのそれぞれから成長したカーボンナノチューブをラマン分光法を用いて評価したところ、両者とも、炭素原子のグラフェン層を意味するGバンドピークが観測された。そして触媒部材Aから成長したカーボンナノチューブからは、欠陥を意味するDバンドのピークはほとんど観測されなかった。したがって、上述したカーボンナノチューブの製造方法を用いれば、欠陥のほとんどないカーボンナノチューブを形成することができる。これは炭素透過法を用いているために、たとえば触媒CVD法を用いた場合のように、成長するカーボンナノチューブ中に不純物が混入する可能性が低減されるためであると考えられる。
【0061】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、高効率に高品質のカーボンナノチューブを形成する技術として、特に優れている。
【符号の説明】
【0063】
1 ベース体、3 鉄フィラメント、5 露出鉄、7,25 アルミナ膜、8 露出表面、10,20,30,40,90 触媒部材、9 ポーラスアルミナ膜、11 炭素原料ガス、13 成長領域側主表面、14 ガス供給側主表面、15 カーボンナノチューブ、19 アルミナ膜被覆露出鉄表面、21 鉄線材、22,23 銀パイプ、23a,23b 主表面、24 嵌合銀パイプ、31 チャンバ、33 真空ポンプ、35 炭素原料ガス供給装置、37 アルゴンガス供給装置、41 加熱ヒータ、50 成長装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀または銀合金からなるベース体と、
前記ベース体の内部を貫通するように配置された鉄フィラメントと、
前記鉄フィラメントの一方の端部の一部分に接触するように配置されたアルミナとを備える、触媒部材。
【請求項2】
請求項1に記載の触媒部材を備える、カーボンナノチューブの製造装置。
【請求項3】
請求項1に記載の触媒部材を用いた、カーボンナノチューブの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のカーボンナノチューブの製造方法を用いて形成された、カーボンナノチューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−98864(P2011−98864A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−254959(P2009−254959)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】