説明

計測装置および該計測装置の計測方法

【課題】データ量増大によるネットワークの通信異常状態を検出することができる計測装置および該計測装置の計測方法を提供することにある。
【解決手段】
計測手段14はECUから伝送される制御データ、センサから伝送されるセンサデータを表示装置に表示させ、CANバスの通信状態を監視する通信状態監視手段15は、サンプリング周期におけるCANバスの総データ量を計測し、負荷率演算手段13は総データ量/(CANバス4の伝送速度*サンプリング周期)から実負荷率を算出し、判定手段19は、実負荷率が限界値を超過したと判定した場合に、CANバス4に通信異常状態が発生したと告知させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電子制御機器の制御対象物等の動作状態を計測する計測装置および該計測装置の計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、コントローラエリアネットワーク(以下、CANとする。)などのシリアルバスに、複数の車両用電子制御機器(以下、ECUとする。)および複数のセンサを接続した車両用制御システムがある。上記の車両用制御システムでは、上記のセンサからセンサデータ、例えば、スロットル開度、エンジン回転数、速度、水温などを、CANバスを介して全ECUに伝送している。各ECUは、伝送されたセンサデータが当該ECUの制御対象物を制御するのに必要なデータである場合、上記のセンサデータに基づいて、当該制御対象物を制御する。更に、当該制御対象物の制御に必要であれば、CANバスを介して、他のECUに対して制御データを伝送する。
【0003】
また、上記の車両用制御システムのシミュレーション、キャリブレーションまたはモニタに使用される波形計測器が開示されている(特許文献1参照)。この場合、CANバスに接続された各センサからのセンサデータを、CANバスを介して波形計測器に伝送している。
【特許文献1】特開2005−156277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の波形計測器では、計測項目数を増加させて、シミュレーション、キャリブレーションまたはモニタを実行すると、各センサからCANバスを介して波形計測器に伝送されるセンサデータの数が増加し、それとともに、CANバスを伝送するデータ量が増大するので、CANバスの負荷率が高くなる。これから、複数のECU間で伝送される制御データ、または、各センサと波形計測器間で伝送されるセンサデータの衝突が多発し、制御データまたはセンサデータの遅延時間が増大する。そのため、複数のECU間で伝送される制御データが一定周期内に伝送されず、正常に制御できなくなる、もしくは、各ECUと波形計測器間で伝送されるセンサデータのロスが発生してしまい必要なセンサデータを取得できなくなる、といった問題があった。更に、各ECUの制御処理に異常が発生しても、ECUまたはセンサ等の故障等に起因する異常なのか、それとも、データ量増大によるCANバスの通信異常状態に起因する異常なのか不明となり、原因究明に時間がかかるといった問題もあった。
【0005】
本発明は、こうした問題に鑑みてなされたものであり、データ量増大によるネットワークの通信異常状態を検出することができる計測装置および該計測装置の計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的達成のため、本発明に係る計測装置では、計測手段による計測中のネットワークのデータ量を計測する通信状態監視手段と、ネットワークのデータ量からネットワークの実負荷率を算出する負荷率演算手段と、実負荷率から、ネットワークに通信異常状態が発生したか否か判定する判定手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、ネットワークの実負荷率を算出し、該実負荷率から、データ量増大によるネットワークの通信異常状態を検出することができる。よって、計測装置による計測中に異常が発生しても、該異常がデータ量増大によるネットワークの通信異常状態に起因する異常と判定できるので、早期の原因究明が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態に係る計測装置について、図1乃至図6を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係る計測装置を含むハードウェア構成図である。図1に示す計測装置であるPC1は、通信ケーブル2およびCAN通信接続用ハードウェア3を介して、車両に搭載された車両用制御システム50と接続されている。車両用制御システム50は、図示しない車両に搭載されたエンジン、モータ、バッテリ等の制御対象物と、当該制御対象物を制御する複数の制御端末である車両用電子制御機器(以下、ECUとする。)5a、5b・・と、当該制御対象物の動作状態を計測する図示しない複数のセンサと、各ECUおよび各センサと接続する一本の伝送路であるコントローラエリアネットワーク(以下、CANとする。)バス4とから構成されている。
【0009】
ここで、ECU5aは、図示しない制御対象物であるエンジンの点火タイミング制御用ECUであり、ECU5bは、図示しない制御対象物であるスロットルバルブを制御するECUである。CANバス4には、その他、図示しないABS制御用ECU等が接続されている。また、図示しないセンサは、PC1から通信ケーブル2、CAN通信接続用ハードウェア3およびCANバス4を介して伝送された遠隔データ要求により、対象となるセンサデータを有していれば、当該センサデータをPC1および全ECUに伝送する。
【0010】
ここで、CANバス4は、CSMA/CD+AMP方式のアクセス制御方式を採用したネットワークであり、各ECUが制御データを伝送した場合に、全ECUおよびCAN通信接続用ハードウェア3(PC1)が制御データを同時に受け取れる機能(マルチキャスト機能)を備えている。同様に、各センサがセンサデータを伝送した場合に、全ECUおよびCAN通信接続用ハードウェア3(PC1)がセンサデータを同時に受け取れる機能(マルチキャスト機能)を備えている。また、CANバス4が空いていれば、全ECU、全センサおよびPC1がデータを伝送できる機能を備えている。また、CANバス4は、複数のECU、複数のセンサおよびPC1からデータの伝送があった場合、データの衝突が発生するので、全てのECU、全てのセンサおよびPC1のデータの伝送を中止させて、一定時間経過後、再度伝送させる機能を備えている。更に、複数のデータの衝突により、データの伝送を中止させる場合、衝突したデータの内、最も優先度の高いデータのみ伝送させ、他の優先度の低いデータの伝送を中止させる機能も備えている。このため、CANバス4を流れるデータ量が増加すると、データの衝突が頻繁に発生し、データの伝送時間が増大する。また、データに優先度を設定した場合でも、最も優先度の高いデータは伝送されるが、他の優先度の低いデータの伝送は中止となり、優先度の低いデータの伝送時間が増大する。
【0011】
次に、CAN通信接続用ハードウェア3は、CANバス4に流れる各センサから伝送されるセンサデータ(例えば、水温、スロットル開度、エンジン回転数、速度等)、または、各ECUから伝送される制御データをPC1に転送する。
【0012】
更に、PC1には、車両用制御システム50のシミュレーション、キャリブレーションまたはモニタに使用するアプリケーションソフトがインストールされている。よって、計測者は、センサデータおよび制御データを通信ケーブル2を介して受信し、上記のアプリケーションソフトを使用して、車両用制御システム50を計測している。
【0013】
図2は、図1に示すPC1のシステム構成の一例を示すブロック図である。本発明に係るPC1は、GUI11と、制御手段12と、負荷率演算手段13と、計測手段14と、通信状態監視手段15と、CANドライバ16と、記憶手段17と、自動変更手段18と、判定手段19と、相関データ作成手段20とを備えている。
【0014】
ここで、GUI11は、車両用制御システム50の計測開始前に、計測条件である計測項目、CANバス4の負荷率の限界値、サンプリング周期を表示し、計測者に所望する計測項目、限界値およびサンプリング周期を入力させる。同時に、計測項目の優先度も入力させる。また、後述する判定手段19で、CANバス4において通信正常状態で計測不能と判定された場合、再度計測条件を表示し、計測者に計測条件を変更させる。
【0015】
次に、計測手段14は、後述する判定手段19が計測可能と判定した場合、車両用制御システム50の計測開始後、各ECUの制御対象物の動作状態を計測するため、CAN通信接続用ハードウェア3からCANドライバ16を介して、センサデータおよび制御データを取得する。そして、計測手段14は、各ECUから伝送される制御データまたは各センサから伝送されるセンサデータの内、計測者によって入力された計測項目に係るデータを計測用データとして、図示しない表示装置に出力し表示させる。
【0016】
次に、通信状態監視手段15は、計測開始後、CANバス4の通信状態を監視する。具体的には、計測手段14で取得した全センサデータおよび全制御データから、サンプリング周期における総データ量を計測する。
【0017】
次に、負荷率演算手段13は、計測開始前に、GUI11で入力された計測項目の計測点数に基づくサンプリング周期におけるデータ量を自動的に算出する。そして、当該データ量、CANバス4の伝送速度、サンプリング周期および後述するデフォルト値から、CANバス4の予測負荷率を自動的に算出する。具体的には、予測負荷率=当該データ量/(CANバス4の伝送速度*サンプリング周期)+デフォルト値で算出する。また、計測開始後に、サンプリング周期における総データ量を取得した場合、実負荷率を自動的に算出する。具体的には、サンプリング周期における総データ量/(CANバス4の伝送速度*サンプリング周期)で算出する。
【0018】
次に、判定手段19は、計測開始前に、負荷率演算手段13で算出された予測負荷率とGUI11で入力された限界値を比較して、予測負荷率が限界値を超過したか否か判定する。予測負荷率が限界値を超過した場合、入力された計測項目では、CANバス4は通信正常状態で計測不能と判定する。この場合、判定手段19は、当該判定結果を図示しない表示装置に出力し表示させる。一方、予測負荷率が限界値を超過していない場合、判定手段19は、入力された計測項目において、CANバス4は通信正常状態で計測可能と判定する。そして、当該判定結果を図示しない表示装置に出力し表示させる。更に、計測開始後、負荷率演算手段13で算出された実負荷率と限界値を比較する。実負荷率が限界値を超過した場合、判定手段19は、CANバス4で通信異常状態が発生したと判定し、図示しない表示装置に出力し告知させる。
【0019】
次に、相関データ作成手段20は、判定手段19が、入力された計測項目において、CANバス4は通信正常状態で計測可能と判定した場合、限界値、計測項目の計測点数およびサンプリング周期の関係を示す相関データを作成する。
【0020】
次に、判定手段19が、入力された計測項目において、CANバス4は通信正常状態で計測可能と判定した場合、記憶手段17はGUI11で入力された計測項目、限界値およびサンプリング周期を記憶する。なお、計測項目については、優先度と対応付けて記憶する。更に、相関データ作成手段20で作成された相関データも記憶する。
【0021】
次に、自動変更手段18は、判定手段19がCANバス4で通信異常状態が発生したと判定した場合、記憶手段17で記憶された相関データで示された関係を満足しつつ、実負荷率が限界値以下となるように、優先度の低い順に計測項目を削減する変更またはサンプリング周期を長くする変更を自動的に行う。
【0022】
次に、制御手段12は、GUI11、負荷率演算手段13、計測手段14、通信状態監視手段15および記憶手段17の各制御処理で必要となるデータの出入力の制御処理を取扱う。
【0023】
図3は、図1に示すPC1の制御処理を示すフローチャート、図4は、計測点数と予測負荷率とサンプリング周期との関係を示す相関図である。また、図5は、CANデータフレーム構成図、図6は、計測点数とサンプリング周期の関係を示す相関図である。PC1の制御手段12は、図3に示すように、車両用制御システム50の計測開始前に、計測者が計測条件を入力する際に必要なデータを記憶手段17から取得する(ステップS101)。GUI11は、取得した上記の必要なデータを図示しない表示装置に表示させる(ステップS102)。これにより、計測者は、所望する計測条件、すなわち、計測項目、サンプリング周期、各計測項目の優先度および負荷率の限界値を入力することができる。
【0024】
次に、負荷率演算手段13は、上記の計測条件に係るデータ、デフォルト値およびCANバス4の伝送速度を取得した後、上記の計測条件で計測を開始した場合の予測負荷率を自動的に算出する(ステップS103)。ここで、デフォルト値は、入力された計測項目が無い場合、すなわち、計測用データのデータ量が0の場合におけるCANバス4の負荷率の予測値である。図4に示すように、入力された計測項目が無い場合でも、車両用制御システム50内では、各ECU間において、各ECUの制御対象物を制御するために必要とされる制御データが伝送されているので、CANバス4の負荷率は0とならない。更に、上記の制御データの伝送に基づく負荷率は、計測項目の計測点数およびサンプリング周期と別個独立の関係にある。そこで、図4に示した計測点数と予測負荷率とサンプリング周期との関係を示す相関図を予め作成することで、上記の制御データの伝送に基づく負荷率を予測することができる。そして、上記の制御データの伝送に基づく負荷率の予測値をデフォルト値として、記憶手段17に記憶している。
【0025】
負荷率演算手段13では、まず、入力された計測項目の計測点数に基づくサンプリング周期におけるデータ量を自動的に算出する。ここで、CANバス4で伝送される全データ(センサデータおよび制御データ)は、図5に示すデータフレームに添付されて伝送される。そのため、上記の計測点数に基づくサンプリング周期におけるデータ量には、伝送するデータのデータ量のみならず、CANバス4のデータフレームに使用されるデータ量も含む必要がある。そこで、CANバス4のデータフレーム構成について、以下、簡単に説明する。
【0026】
図5に示したデータフレーム構成において、SOFはデータフレームの始まりを示す部分で、1bitのデータ量からなる。次に、Arbitorationは、データの内容を示す識別子を示す部分で、データの衝突が発生した場合に、優先度の最も高いデータのみ伝送させて、他の優先度の低いデータの伝送を中止させる通信調停にも使用される。Arbitorationのデータ量は12bitである。次に、Controlはデータ長を示す部分で、6bitのデータ量からなる。次に、Dataは、データフレーム内のデータバイトの部分であり、8Byteからなる。しかし、本実施形態においては、図5に示したように、最大7Byteのデータ量/フレームで伝送している。次に、CRCは巡回冗長検査(CRCシーケンス)で使用される部分で、16bitからなる。次に、ACKは、ACKスロットとACKデリミタから構成され、各1bitの計2bitのデータ量からなる。ACKスロットは、正常受信確認に使用され、正常に受信した場合、“ドミナント(0)”に書き換えて、当該データフレームは送信元に返信される。次にEOFは、データフレームの終了位置を示す部分で、7bitのデータ量からなる。最後に、インターミッションは、フレーム間の区切りとして使用される部分で、3bitのデータ量からなる。なお、上述した遠隔データ要求は、図5に示したデータフレームのデータ部分が無いフレーム(リモートフレーム)である。
【0027】
これから、1データフレーム当りのデータ量は、データ量=SOF+Arbitoration+Control+Data+CRC+ACK+EOF+インターミッションとなる。ここで、データが7byteの場合のデータ量を算出すると、データ量=1+12+6+8*7+7+16+2+7+3=110bitとなる。すなわち、上記のデータ量に必要なフレーム数を乗じることで、入力された計測項目の計測点数に基づくサンプリング周期におけるデータ量を自動的に算出できる。
【0028】
次に、負荷率演算手段13は、上記算出された計測点数に基づくサンプリング周期におけるデータ量から、予測負荷率を自動的に算出する。予測負荷率は、予測負荷率=計測点数に基づくデータ量/(CANバス4の伝送速度*サンプリング周期)+デフォルト値で算出される。これから、車両用制御システム50の計測開始前に、GUI11で計測項目を入力するだけで、入力した計測条件で計測を開始した場合のCANバス4の予測負荷率が自動的に算出される。よって、計測者は予測負荷率を計算しなくても良いため、予測負荷率を計算するためにCANバス4の仕様や通信プロトコルを理解する時間および予測負荷率の計算にかかる時間を短縮することができる。
【0029】
次に、判定手段19は、当該予測負荷率と限界値から、入力した計測条件においてCANバス4は通信正常状態で計測可能か否か判定する。すなわち、当該予測負荷率と限界値を比較し、当該予測負荷率が限界値を超過しているか否か判定する。判定手段19は、当該予測負荷率が限界値を超過していた場合、上記の計測条件で計測を開始すると、CANバス4は通信正常状態で計測不能と判定する。例えば、図4に示したように、サンプリング周期5ms、計測点数30点の場合である。一方、当該予測負荷率が限界値を超過していない場合、上記の計測条件で計測を開始しても、CANバス4は通信正常状態で計測可能と判定する。例えば、図4におけるサンプリング周期5ms、計測点数20点の場合である。
【0030】
入力した計測条件においてCANバス4は通信正常状態で計測可能か否か判定した後、判定手段19は、上記の判定結果および上記の計測条件で計測を開始した場合の予測負荷率を、図示しない表示装置に出力し表示させる(ステップS104)。そして、判定手段19がCANバス4は通信正常状態で計測不能と判定した場合、GUI11は再度計測条件を図示しない表示装置に表示させ、計測者に計測条件を変更させる。更に、変更された計測条件における予測負荷率を負荷率演算手段13で算出し、判定手段19でCANバス4は通信正常状態で計測可能か否か判定する。以上の一連の手順を、判定手段19がCANバス4は通信正常状態で計測可能と判定するまで、繰り返し実施する。
【0031】
これにより、計測者は、上記の判定結果を認識できる。よって、計測点数が多い場合でも、計測手段14による計測を開始する前に、計測者はCANバス4は通信正常状態で計測可能か否か認識できるので、試し計測をする必要が無く、計測条件の入力が容易となるとともに、計測条件の入力に係る時間を短縮することができる。また、熟練の計測者しか予測負荷率を計算できないことから、熟練の計測者でない者が車両用制御システム50を計測する場合でも、計測者の経験によって計測点数を予測し、試し計測を実施して最適と思われる計測点数を探す必要が無くなるので、試し計測にかかる工数を削減することができる。また、熟練の計測者でない者が車両用制御システム50を計測する場合でも、入力した計測点数が多いため、負荷率が増大し、CANバス4の通信異常状態が発生することを事前に判定でき、CANバス4の通信異常状態の発生を削減できる。よって、試し計測を実施する必要が無くなるので、車両用制御システム50の計測に係る工数を削減することができる。また、誰でも容易に計測することができる。同様に、サンプリング周期を変更する場合でも、CANバス4の通信異常状態が発生することを事前に判定でき、試し計測を実施する必要が無くなるので、試し計測に係る工数を削減することができる。
【0032】
一方、判定手段19が、CANバス4は通信正常状態で計測可能と判定した場合(ステップS105)、相関データ作成手段20は、入力された計測項目の計測点数、サンプリング周期および限界値から、相関データを作成する(ステップS106)。相関データは、限界値を一定とした場合の計測点数とサンプリング周期との関係を示している。図6に示すように、計測点数とサンプリング周期は比例関係にある。後述するが、車両用制御システム50の計測開始後、CANバス4に通信異常状態が発生したと判定手段19が判定した場合に、上記の相関データを使用して、自動変更手段18は、入力された計測条件を自動的に変更する。相関データ作成手段20が相関データを作成した場合、制御手段12は、記憶手段17に、入力された計測項目、サンプリング周期、各計測項目の優先度、負荷率の限界値および相関データを記憶させる。これにより、車両用制御システム50の計測開始前に実施する計測方法の一連の手順を終了する。
【0033】
その後、計測者からの計測開始要求があった場合(ステップS107でYes)、制御手段12は、計測手段14に車両用制御システム50の計測を開始させる(ステップS108)。具体的には、計測手段14は、車両用制御システム50の計測開始後、CANドライバ16、通信ケーブル2、CAN通信接続用ハードウェア3およびCANバス4を介して遠隔データ要求を伝送する。遠隔データ要求の対象となる制御データを有するECUは当該制御データをCANバス4、PC1に伝送する。また、遠隔データ要求の対象となるセンサデータを有するセンサは、当該センサデータをCANバス4、PC1に伝送する。そして、計測手段14は、各ECUから伝送される制御データまたは各センサから伝送されるセンサデータの内、計測者によって入力された計測項目に係るデータを計測用データとして、図示しない表示装置に表示させると共に、ロギングデータを作成する(ステップS109)。計測手段14は、計測開始後、計測者からの計測終了要求があるまで、上記の一連の手順(ステップS108〜S114)を繰り返し実施する。
【0034】
また、計測開始後、計測者からの計測終了要求があるまで、制御手段12は、通信状態監視手段15に常時CANバス4の通信状態を監視させる。以降、CANバス4の通信状態の監視について説明する。上述したようにCANバス4はマルチキャスト機能を有していることから、CANバス4を流れる全センサデータおよび全制御データは、PC1にも伝送される。そこで、通信状態監視手段15は、全センサデータおよび全制御データから、入力されたサンプリング周期におけるCANバス4の総データ量を計測する。
【0035】
負荷率演算手段13は、当該総データ量を取得して、当該総データ量およびサンプリング周期から実負荷率を自動的に算出する。実負荷率は、実負荷率=総データ量/(CANバス4の伝送速度*サンプリング周期)で算出される。車両用制御システム50の計測開始前に、計測者によって入力された計測条件で計測を開始した場合の予測負荷率を算出しているが、当該予測負荷率は、デフォルト値を加算していること、また、サンプリング周期とCANバス4を流れるデータ量によって、オーバーヘッドが存在することから、計測中のCANバス4の負荷率と比較して増減する可能性がある。そこで、負荷率演算手段13でCANバス4の実負荷率を算出している。
【0036】
次に、判定手段19は、実負荷率から、計測条件においてCANバス4に通信異常状態が発生したか否か判定する。すなわち、実負荷率と限界値を比較し、実負荷率が限界値を超過しているか否か判定する(ステップS111)。判定手段19は、実負荷率が限界値を超過していない場合、CANバス4に通信異常状態は発生していないと判定する(ステップS111でNo)。判定手段19がCANバス4に通信異常状態は発生していないと判定した場合、計測手段14は、引き続き、制御データまたはセンサデータの内、計測者によって入力された計測項目に係るデータである計測用データを図示しない表示装置に表示させると共に、ロギングデータを作成する(ステップS109)。これにより、CANバス4の通信状態を監視する通信状態監視手段15等における一連の手順(ステップS108〜S111)を繰り返し実施する。
【0037】
一方、判定手段19は、実負荷率が限界値を超過していた場合、CANバス4に通信異常状態が発生したと判定する(ステップS111でYes)。判定手段19は、CANバス4に通信異常状態が発生したと判定した場合、図示しない表示装置にCANバス4に通信異常状態が発生したことを告知させる(ステップS112)。
【0038】
また、判定手段19がCANバス4に通信異常状態が発生したと判定した場合、自動変更手段18は相関データで示された関係を満足しつつ、実負荷率が限界値以下となるように、計測項目またはサンプリング周期を自動的に変更する(ステップS113)。すなわち、まず、自動変更手段18は、各計測項目の優先度を比較して、優先度の低い順に並べ替えした後、最低の優先度に入力された計測項目を認識し、相関データで示された関係を満足しつつ、サンプリング周期を変更すること無く実負荷率が限界値以下となるように、計測点数を削減する変更を自動的に実施する。すなわち、優先度の低い順に並べ替えした計測項目について、優先度の低い計測項目を、削減した計測点数になるまで順次削除する。または、自動変更手段18は、相関データで示された関係を満足しつつ、入力された計測項目の計測点数を変更すること無く実負荷率が限界値以下となるように、サンプリング周期を長くする変更を自動的に実施する。
【0039】
自動変更手段18による計測条件の変更後、自動変更手段18は、計測条件が自動的に変更されたことを図示しない表示装置に表示させると共に、変更後の計測項目およびサンプリング周期を表示させる(ステップS114)。また、変更後、計測手段14は、引き続き、上記の計測用データを図示しない表示装置に表示させると共に、ロギングデータを作成する。これより、CANバス4の通信状態を監視する通信状態監視手段15等における一連の手順(ステップS108〜S114)を繰り返し実施する。その後、計測者からの計測終了要求があった場合(ステップS110でYes)、制御手段12は、計測手段14に車両用制御システム50の計測を終了させる。更に、制御手段12は、通信状態監視手段15にCANバス4の通信状態の監視を終了させる。これにより、CANバス4に通信異常状態が発生した場合に実施する計測方法の一連の手順を終了する。
【0040】
これより、CANバス4に通信異常状態が発生した場合、ECUの制御対象物に対する制御処理に異常がなかったとしても、センサデータまたは制御データの送信に影響を及ぼし、入力した計測項目の内、最低限必要なデータも取得できない場合が発生し、車両用制御システム50のシミュレーション、キャリブレーションまたはモニタのやり直しが発生する可能性があったが、本実施形態に係るPC1および計測方法により、CANバス4における通信異常状態の発生を的確に検出し、計測条件を自動的に変更することができるので、確実に最低限必要なデータを取得することができるとともに、車両用制御システム50のシミュレーション、キャリブレーションまたはモニタのやり直しを防止することができる。これから、車両用制御システム50のシミュレーション、キャリブレーションまたはモニタのやり直しに係る工数を削減することもできる。また、CANバス4における通信異常状態の発生を的確に検出できるので、PC1による車両用制御システム50の計測中に異常が発生しても、該異常がデータ量増大によって発生するCANバス4の通信異常状態に起因する異常であるのか、それとも、ECU、センサまたは制御対象物自身の故障等に起因する異常であるのか判定できるので、早期の原因究明が可能となる。CANバス4における通信異常状態の発生時、図示しない表示装置に告知することで、計測者はCANバス4に通信異常状態が発生したことを認識することができ、計測者は迅速な対応を実施することができる。更に、本実施形態では、CANバス4における通信異常状態の発生時、計測条件を自動的に変更するので、計測中であっても、CANバス4における通信異常状態を正常にすることができる。よって、ECUの制御対象物に対する制御処理に異常が発生することを防止できる。これから、ECUの制御対象物に対する制御処理に異常が発生した場合に必要となる復帰処理が発生しないので、復帰処理にかかる工数を削減することができる。
【0041】
なお、以上に述べた実施形態は、本発明の実施の一例であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものでなく、特許請求の範囲に記載した範囲内で、他の様々な実施形態に適用可能である。例えば、PC1、通信ケーブル2、CAN通信接続用ハードウェア3は車両に搭載していないが、特にこれに限定されるものでなく、車両に搭載しても良い。
【0042】
また、本実施形態では、各機器をCANバス4で接続しているが、特にこれに限定されるものでなく、アクセス制御方式がCSMA/CD方式であれば、他のネットワークで接続しても、同様の効果を得られる。また、CANバス4のような多重通信のみならず、一対一のシリアル通信、多ビットポートのパラレル通信に対しても同様の効果を得られる。
【0043】
また、本実施形態では、計測者からの計測開始要求があった場合、計測を開始しているが、特にこれに限定されるものでなく、トリガ設定で計測を開始するようにしても良い。
【0044】
また、本実施形態では、計測者はGUI11において計測項目の優先度を入力しているが、特にこれに限定されるものでなく、計測項目の優先度を入力しなくても良い。この場合、自動変更手段18はサンプリング周期を長くする変更を実施すれば良い。
【0045】
また、本実施形態では、判定手段19がCANバス4に通信異常状態が発生したと判定した場合、自動変更手段18は自動的に計測条件を変更しているが、特にこれに限定されるものでなく、計測者が計測条件の変更を所望した場合のみ、自動的に変更しても良い。すなわち、計測者にCANバス4の通信異常状態が発生したことを告知すると共に計測条件の変更を推奨し、計測者が計測条件の変更を要求した場合のみ自動変更手段18は計測条件を自動的に変更するようにすれば良い。
【0046】
また、本実施形態では、相関データ作成手段20において、負荷率の限界値を一定として計測項目の計測点数とサンプリング周期の関係を示す相関データを作成しているが、特にこれに限定されるものでなく、サンプリング周期を一定として限界値と計測点数の関係を示す相関データを作成しても同様の効果を得られる。また、計測点数を一定として限界値とサンプリング周期の関係を示す相関データを作成しても良い。更に、限界値、計測点数およびサンプリング周期の全てをパラメータとして、限界値、計測点数およびサンプリング周期の関係を3次元化して示す相関データを作成することもできる。
【0047】
また、本実施形態では、判定手段19がCANバス4は通信正常状態で計測可能と判定した場合に、相関データ作成手段20が相関データを作成しているが、特にこれに限定されるものでなく、GUI11で限界値を入力させる場合、限界値として離散した値を選択させるようにし、当該離散した値毎に、予め相関データを作成しておいても同様の効果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態に係る計測装置を含むハードウェア構成図。
【図2】図1に示すPCのシステム構成の一例を示すブロック図。
【図3】図1に示すPCの制御処理を示すフローチャート。
【図4】計測点数と予測負荷率とサンプリング周期との関係を示す相関図。
【図5】CANデータフレーム構成図。
【図6】計測点数とサンプリング周期の関係を示す相関図。
【符号の説明】
【0049】
1 計測装置であるPC、2 通信ケーブル、
3 CAN通信接続用ハードウェア、
4 コントローラエリアネットワーク(CAN)バス、
5a、5b 制御端末であるECU、
11 入力手段であるグラフィカルユーザインターフェース(GUI)、
12 制御手段、13 負荷率演算手段、14 計測手段、
15 通信状態監視手段、16 CANドライバ、17 記憶手段、
18 自動変更手段、19 判定手段、20 相関データ作成手段、
50 車両用制御システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークを介して複数の制御端末と接続された計測装置において、
前記制御端末の制御対象物の動作状態を計測する計測手段と、
前記計測手段による計測中の前記ネットワークのデータ量を計測する通信状態監視手段と、
前記データ量から前記ネットワークの実負荷率を算出する負荷率演算手段と、
前記実負荷率から、前記ネットワークに通信異常状態が発生したか否か判定する判定手段とを備えることを特徴とする計測装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記ネットワークに通信異常状態が発生したと判定した場合、前記ネットワークに通信異常状態が発生したことを告知させることを特徴とする請求項1に記載の計測装置。
【請求項3】
前記実負荷率は、サンプリング周期における前記ネットワークの総データ量/(前記ネットワークの伝送速度*前記サンプリング周期)で算出されることを特徴とする請求項1または2に記載の計測装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記実負荷率と限界値を比較し、前記実負荷率が前記限界値を超過した場合、前記ネットワークに通信異常状態が発生したと判定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の計測装置。
【請求項5】
ネットワークを介して複数の制御端末と接続された計測装置において、
前記制御端末の制御対象物の動作状態を計測する計測手段と、
入力手段により入力された計測条件から、前記ネットワークの予測負荷率を算出する負荷率演算手段と、
前記計測条件において、前記ネットワークは通信正常状態で計測可能かを、前記予測負荷率から判定する判定手段とを備えることを特徴とする計測装置。
【請求項6】
前記計測条件は、前記制御対象物の計測項目を含むことを特徴とする請求項5に記載の計測装置。
【請求項7】
前記計測条件は、サンプリング周期を含むことを特徴とする請求項6に記載の計測装置。
【請求項8】
前記予測負荷率は、前記計測項目の計測点数に基づく前記サンプリング周期におけるデータ量/(前記ネットワークの伝送速度*前記サンプリング周期)+デフォルト値で算出されることを特徴とする請求項7に記載の計測装置。
【請求項9】
前記計測条件は、前記負荷率の限界値を含むことを特徴とする請求項8に記載の計測装置。
【請求項10】
前記判定手段は、前記予測負荷率と、前記限界値とを比較して判定することを特徴とする請求項9に記載の計測装置。
【請求項11】
前記判定手段が計測可能と判定した場合に、前記限界値、前記計測点数および前記サンプリング周期の関係を示す相関データを作成する相関データ作成手段を備えることを特徴とする請求項10に記載の計測装置。
【請求項12】
前記計測手段による計測中の前記サンプリング周期における前記ネットワークの総データ量を計測する通信状態監視手段を備え、
前記負荷率演算手段は前記総データ量/(前記ネットワークの伝送速度*前記サンプリング周期)から実負荷率を算出し、
前記判定手段は、前記実負荷率と前記限界値を比較し、前記実負荷率が前記限界値を超過したと判定した場合に、前記ネットワークに通信異常状態が発生したことを告知させることを特徴とする請求項10または11に記載の計測装置。
【請求項13】
前記計測手段による計測中の前記サンプリング周期における前記ネットワークの総データ量を計測する通信状態監視手段と、前記計測条件を自動的に変更する自動変更手段を備え、
前記負荷率演算手段は前記総データ量/(前記ネットワークの伝送速度*前記サンプリング周期)から実負荷率を算出し、
前記判定手段は、前記実負荷率と前記限界値を比較し、前記実負荷率が前記限界値を超過したと判定した場合に、前記ネットワークに通信異常状態が発生したことを告知させ、
前記自動変更手段は、前記相関データで示された関連性を満足するように、前記計測点数または前記サンプリング周期を自動的に変更して、前記実負荷率を前記限界値以下とすることを特徴とする請求項11に記載の計測装置。
【請求項14】
前記自動変更手段は、入力手段により入力された計測項目の優先度に応じて、前記優先度の低い前記計測項目を削減することを特徴とする請求項13に記載の計測装置。
【請求項15】
前記入力手段は、前記判定手段が計測不能と判定した場合、前記計測条件を再度表示し、前記計測条件を変更させることを特徴とする請求項5乃至14の何れかに記載の計測装置。
【請求項16】
前記ネットワークはCANバスであることを特徴とする請求項1乃至15の何れかに記載の計測装置。
【請求項17】
前記ネットワークは、シリアルバスであることを特徴とする請求項1乃至15の何れかに記載の計測装置。
【請求項18】
前記ネットワークは、多ビットポートのパラレル通信網であることを特徴とする請求項1乃至15の何れかに記載の計測装置。
【請求項19】
ネットワークを介して複数の制御端末と接続された計測装置の計測方法において、
計測手段により、前記制御端末の制御対象物の動作状態を計測し、
通信状態監視手段により、サンプリング周期における前記ネットワークの総データ量を計測し、
前記負荷率演算手段により、前記総データ量/(前記ネットワークの伝送速度*前記サンプリング周期)で、実負荷率を算出することを特徴とする計測方法。
【請求項20】
前記判定手段により、前記実負荷率が限界値を超過した場合、前記ネットワークに通信異常状態が発生したと判定し、前記ネットワークに通信異常状態が発生したことを告知させることを特徴とする請求項19に記載の計測方法。
【請求項21】
相関データ作成手段により、前記計測手段による計測前に、前記限界値、入力手段により入力された計測項目の計測点数および前記サンプリング周期の関係を示す相関データを作成し、
自動変更手段により、前記判定手段が前記ネットワークに通信異常状態が発生したと判定した場合に、前記相関データで示された関係を満足し、かつ、前記実負荷率が前記限界値以下となるように、前記計測点数または前記サンプリング周期を自動的に変更することを特徴とする請求項20に記載の計測方法。
【請求項22】
前記自動変更手段により、前記入力手段により入力された優先度の低い順に前記計測項目を削減することを特徴とする請求項21に記載の計測方法。
【請求項23】
ネットワークを介して複数の制御端末と接続された計測装置の計測方法において、
計測手段により、前記制御端末の制御対象物の動作状態を計測し、
負荷率演算手段により、入力手段により入力されたサンプリング周期、前記入力手段により入力された計測項目の計測点数に基づく前記サンプリング周期におけるデータ量を用いて、前記データ量/(前記ネットワークの伝送速度*前記サンプリング周期)+デフォルト値で、予測負荷率を算出することを特徴とする計測方法。
【請求項24】
前記判定手段により、前記予測負荷率が前記入力手段により入力された限界値を超過した場合、前記計測条件において前記ネットワークは通信正常状態で計測不能と判定することを特徴とする請求項23に記載の計測方法。
【請求項25】
前記判定手段が、前記ネットワークは通信正常状態で計測不能と判定した場合、前記入力手段により、前記計測条件を変更させるため、前記計測条件を表示することを特徴とする請求項24に記載の計測方法。
【請求項26】
相関データ作成手段により、前記判定手段が前記ネットワークは通信正常状態で計測可能と判定した場合に、前記限界値、前記計測点数および前記サンプリング周期の関係を示す相関データを作成することを特徴とする請求項24または25に記載の計測方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−235313(P2007−235313A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51782(P2006−51782)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】