説明

計測装置

【課題】基体上での位置情報の検出に基体に励振した表面弾性波を用いることにより、構成上や使用上の制限が少ない簡単かつコンパクトな構成の計測装置を提供する。
【解決手段】計測装置100は、表面弾性波が伝播可能で、かつ熱膨張係数が極めて小さいガラスセラミックス材で構成されたスケール基板101上に、櫛型電極対であるIDTで構成された励振器102,103および受信器105を備えている。励振器102,103は、スケール基板101に表面弾性波の定在波を励振させる。受信器105は、スケール基板101上を変位しながら表面弾性波を検出して弾性波検出信号を出力する。受信器105から出力された弾性波検出信号は、同調回路112およびローパスフィルタ113を介して変位量計算部114に入力される。変位量計算部114は、弾性波検出信号を振幅に対応するパルス信号に変換した後、同パルス信号のパルス数に対応した変位量を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体に励振した表面弾性波を検出することにより基体上での検出位置の位置情報を計算して出力する計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、各種工作機械および計測機などの産業用機械においては、長さを計測して出力する計測装置としてリニアポテンショメータやリニアエンコーダが用いられている。リニアポテンショメータは、主として、差動トランスや抵抗体における電圧値や抵抗値の変化を変位量として出力する。このようなリニアポテンショメータは、電圧値や抵抗値の変化量をアナログ値で検出し出力しているため、分解能や線形性(リニアリティ)の点において計測精度が低いという問題がある。このため、近年においてはデジタル式の計測装置であるリニアエンコーダが多用されている。
【0003】
一方、リニアエンコーダは、例えば、下記特許文献1に示すように、基体上に形成した光学的または磁気的な目盛を光学的または磁気的に検出して変位量を表すパルス信号を出力する。このようなリニアエンコーダにおいては、計測精度は基体上に形成した目盛の形成精度に強く依存する。このため、基体上に極めて高精度に目盛を形成する必要があり、製造工程が煩雑となって製造効率および経済性が低いという問題がある。また、目盛を精度良く形成するための基体の材質的、形状的および表面性状的制約が多いとともに、基体および検出器(目盛を検出する素子)への塵埃や油などの異物の付着を阻止するためのシールド構造を採用する必要がある。これらのため、結果としてリニアエンコーダの構成態様や使用環境が制限されるとともに構成の複雑化および大型化を招来するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−281870号公報
【特許文献2】特開平08−21826号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、基体上での位置情報の検出に基体に励振した表面弾性波を用いることにより、構成上や使用上の制限が少ない簡単かつコンパクトな構成の計測装置を提供することにある。
【0006】
なお、上記特許文献2には、基体に励振した表面弾性波を検出することにより基体表面の弾性特性を測定する音響特性装置が開示されている。しかしながら、上記特許文献2に示された音響特性装置は、基体を伝播する表面弾性波をカンチレバーを用いて検出して基体表面の弾性特性を測定する装置であり、長さなどの物理量を計測するものではない。すなわち、上記特許文献2には、基体を伝播する表面弾性波を検出して長さなどの物理量を計測する技術については開示も示唆もされていない。
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載した本発明の特徴は、表面弾性波が伝播可能な基体と、基体に表面弾性波を励振するための弾性波励振手段と、圧電体上に平行配置された少なくとも一対の電極からなる検出子が前記基体上を前記表面弾性波の伝播方向に沿って変位可能に設けられて前記表面弾性波を検出して弾性波検出信号を出力する弾性波検出手段と、弾性波検出手段から出力された弾性波検出信号に基づいて弾性波検出手段の変位量を計算する変位量計算手段とを備えたことにある。
【0008】
このように構成した請求項1に記載した本発明の特徴によれば、計測装置は、基体に対して弾性波励振手段により表面弾性波を励振させるとともに、励振させた表面弾性波を基体上で変位可能な弾性波検出手段によって検出している。そして、計測装置は、検出した表面弾性波を表す弾性波検出信号を用いて弾性波検出手段の変位量を計算している。すなわち、本発明に係る計測装置は、基体に励振した表面弾性波を用いて位置情報を検出している。したがって、基体は表面弾性波を励振可能に構成されていればよく、従来技術における目盛形成に起因する計測装置の製造工程上の負担および構成上や使用上の制限を軽減することができる。これらの結果、幅広い構成形態の計測装置を簡単かつコンパクトに構成することができる。
【0009】
また、請求項2に記載した本発明の他の特徴は、前記計測装置において、弾性波検出手段は、検出子を構成する前記一対の電極が表面弾性波の波長の1/2の整数倍の間隔で複数組配置されていることにある。
【0010】
このように構成した請求項2に係る本発明の他の特徴によれば、弾性波検出手段における検出子を構成する電極が表面弾性波の波長の1/2の整数倍の間隔で複数組配置されているため、複数の検出子のそれぞれが基体内を伝播する表面弾性波の節(振幅が最小部分)に一致させることができる。この場合、電極の配置間隔である表面弾性波の波長の1/2は、厳密な意味での1/2ではなく実質的に1/2であればよい。これにより、感度良く表面弾性波を検出することができるとともに、電極間の長さに一致する表面弾性波のみを選択的に検出することができるため、弾性波検出信号の精度が向上して結果として計測装置における位置情報の計測精度を向上させることができる。
【0011】
また、請求項3に記載した本発明の他の特徴は、前記計測装置において、弾性波励振手段および弾性波検出手段は、櫛歯状電極を互いに対向配置したIDTでそれぞれ構成されていることにある。
【0012】
このように構成した請求項3に係る本発明の他の特徴によれば、弾性波励振手段および弾性波検出手段は、検出子が電極を互いに櫛歯状に対向配置したIDTでそれぞれ構成されている。これにより、計測装置は、弾性波励振手段を介して特定の周波数の表面弾性波を精度良く基体に励振することができるとともに、基体に励振した特定の周波数の表面弾性波を弾性波検出手段を介して精度良く検出することができる。この結果、計測装置における位置情報の計測精度を向上させることができる。
【0013】
また、請求項4に記載した本発明の他の特徴は、前記計測装置において、弾性波励振手段は、基体上における弾性波検出手段の変位方向両端部側に配置されて基体に定在波を励振させることにある。
【0014】
このように構成した請求項4に係る本発明の他の特徴によれば、計測装置における弾性波励振手段は、弾性波検出手段の変位方向両側に配置されて基体に定在波を励振させる。すなわち、計測装置は、基体に励振させた定在波を用いて位置情報の検出を行なっている。これにより、計測装置は、後述する進行波を用いて位置情報を検出する場合に比べて、主として弾性波検出信号を計算処理するための構成を簡単にすることができる。
【0015】
また、請求項5に記載した本発明の他の特徴は、前記計測装置において、変位量計算手段は、基体に励振した表面弾性波を表す基準弾性波信号と弾性波検出手段から出力された弾性波検出信号とを用いて弾性波検出手段の変位量を計算することにある。
【0016】
このように構成した請求項5に係る本発明の他の特徴によれば、計測装置における変位量計算手段は、基体に励振した表面弾性波を表す基準弾性波信号と弾性波検出手段から出力された弾性波検出信号との位相差を用いて弾性波検出手段の変位量を計算することができる。すなわち、計測装置は、基体に励振された表面弾性波の進行波を用いて位置情報を計算することができる。
【0017】
また、請求項6に記載した本発明の他の特徴は、前記計測装置において、弾性波検出手段は、少なくとも2組の検出子が互いに表面弾性波の伝播方向にずれて配置されてそれぞれ前記弾性波検出信号を出力し、変位量計算手段は、前記2組の検出子ごとの弾性波検出信号を用いて弾性波検出手段の変位方向を特定することにある。
【0018】
このように構成した請求項6に係る本発明の他の特徴によれば、計測装置における弾性波検出手段は、少なくとも2組の検出子が表面弾性波の伝播方向にずれて配置されている。これにより、変位量計算手段は、表面弾性波の伝播方向にずれて配置された少なくとも2組の検出子からそれぞれ出力される弾性波検出信号を用いて弾性波検出手段の変位方向を特定することができる。これにより、計測装置は、位置情報として弾性波検出手段の変位量に代えてまたは加えて弾性波検出手段の変位の方向を検出することができる。
【0019】
この場合、請求項7に示すように、請求項6に記載した計測装置において、弾性波検出手段は、前記少なくとも2組の検出子が互いに表面弾性波の波長の1/4の整数倍だけずれて配置されてそれぞれ前記弾性波検出信号を出力するようにするとよい。これによれば、計測装置における変位量計算手段は、1/4波長だけずれて配置された検出子からそれぞれ出力された各前記弾性波検出信号を用いて弾性波検出手段の変位方向を特定している。すなわち、計測装置は、基体内を伝播する表面弾性波に対して位相が90°ずれた2つの表面弾性波を検出することにより弾性波検出手段の変位の方向を特定している。これにより、計測装置は、位置情報として弾性波検出手段の変位量に代えてまたは加えて弾性波検出手段の変位の方向を簡易な構成で精度良く検出することができる。なお、この場合、2組の検出子の配置間隔である表面弾性波の波長の1/4は、厳密な意味での1/4ではなく実質的に1/4であればよい。
【0020】
また、請求項8に記載した本発明の他の特徴は、前記計測装置において、前記計測装置において、基体は、径、周長または曲率が既知の曲面部を有して構成されており、変位量計算手段は、前記径、周長または曲率および弾性波検出信号を用いて弾性波励振手段に対する弾性波検出手段の曲面部上での回転角度を計算することにある。
【0021】
このように構成した請求項8に係る本発明の他の特徴によれば、計測装置は、基体が径、周長または曲率が既知の曲面部を有して構成されており、変位量計算手段が前記径、周長または曲率と弾性波検出信号とを用いて弾性波励振手段に対する弾性波検出手段の前記曲面部上での回転角度を計算している。すなわち、本発明に係る計測装置は、基体を曲面を有した形状(例えば円柱状や円筒状)に形成することができるとともに、この曲面形状を有した基体上における角度変化量も計算することができる。これにより、計測装置の構成態様の選択の幅が広がり、幅広い環境および用途で用いることができる。
【0022】
また、請求項9に係る本発明の他の特徴は、前記計測装置において、弾性波検出手段は、少なくとも2組の検出子が表面弾性波の伝播方向に交わる方向に沿って互いに対向配置されてそれぞれ弾性波検出信号を出力し、変位量計算手段は、前記対向配置された2組の検出子ごとに計算した変位量を用いて弾性波検出手段の基体上での回転角度を計算することにある。
【0023】
このように構成した請求9に係る本発明の他の特徴によれば、計測装置における弾性波検出手段は、検出子が表面弾性波の伝播方向に交わる方向に沿って互いに対向配置されている。そして、計測装置における変位量計算手段は、対向配置された検出子ごとに計算した変位量を用いて弾性波検出手段の基体上での回転角度を計算している。すなわち、計測装置は、位置情報として弾性波検出手段の変位量に代えてまたは加えて基体上を変位する弾性波検出手段の向きの変化量(回転角度)を検出することができる。
【0024】
また、本発明は計測装置の発明として実施できるばかりでなく、表面弾性波を用いた計測方法の発明としても実施できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(A),(B)は本発明の一実施形態に係る計測装置の構成の一部を模式的に示しており、(A)は計測装置の主要部の構成を示すブロック図であり、(B)は(A)に示したスケール基板をA−A線から見た概略断面図である。
【図2】本発明の変形例に係る計測装置の主要部の構成を模式的に示すブロック図である。
【図3】(A),(B)は本発明の他の変形例に係る計測装置を模式的に示しており、(A)は平板環状に形成したスケール基板上に励振器および受信器を配置した状態を示した平面図であり、(B)は円筒状に形成したスケール基板の外側面部に励振器および受信器を配置した状態を示した平面図である。
【図4】本発明の他の変形例に係る計測装置における方形状のスケール基板上に励振器および受信器を配置した状態を示した平面図である。
【図5】(A),(B)は本発明の他の変形例に係る計測装置における受信器の構成を模式的に示しており、(A)はすだれ電極を直列的に配置した受信器の平面図であり、(B)はすだれ電極を並列的に配置した受信器の平面図である。
【図6】本発明の他の変形例に係る計測装置の主要部の構成を模式的に示すブロック図である。
【図7】本発明の他の変形例に係る計測装置の主要部の構成を模式的に示すブロック図である。
【図8】本発明の他の変形例に係る計測装置の主要部の構成を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る計測装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1(A),(B)は、本発明に係る計測装置100の構成の一部を模式的に示しており、(A)は計測装置100の主要部の構成を示すブロック図であり、(B)は(A)に示したスケール基板101をA−A線から見た概略断面図である。なお、本明細書において参照する図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。この計測装置100は、表面弾性波を利用して長さを計測する装置である。ここで、表面弾性波(Surface Acoustic Wave:SAW)とは、弾性体の表面を伝播する縦波および/または横波からなる波である。
【0027】
(計測装置100の構成)
計測装置100は、スケール基板101を備えている。スケール基板101は、表面弾性波が伝播可能で、かつ熱膨張係数が極めて小さい材料を図示左右方向に延びる長方形状の板状に形成したものである。本実施形態においては、スケール基板101は、ガラスセラミックス材で構成されている。スケール基板101の大きさは、計測対象の長さや励振する表面弾性波の周波数などに応じて適宜決定される。また、スケール基板101の厚さは、励振する表面弾性波の波長の1波長以上の厚さであればよいが、好ましくは同波長の10倍以上の厚さで構成するとよい。このスケール基板101の上面には、長手方向両側に一対の励振器102,103が設けられているとともに、同一対の励振器102と励振器103との間に受信器105が設けられている。
【0028】
励振器102,103は、スケール基板101に表面弾性波を励振するための素子であり、本実施形態においては櫛型電極対であるIDT(Inter Digit Transducer)でそれぞれ構成されている。すなわち、励振器102と励振器103とは同一の構成であるため、励振器102について説明し、励振器103は励振器102に対応する符号を付してその説明は省略する。IDTは、圧電効果を利用して表面弾性波を発生させる素子であり、主として、圧電体(「圧電素子」ともいう)からなる圧電基板102aとすだれ電極102bとで構成されている。ここで、圧電効果とは、水晶などの結晶に力または電場を加えると、応力または電場に応じた電圧または歪が生じる現象であるが、本実施形態では、圧電基板102aに電場を加えることにより電場に応じた電歪が生じる現象をいう。
【0029】
圧電基板102aは、圧電効果によって表面弾性波を発生させる結晶体、例えば、ニオブ酸リチウム(LiNbO)、タンタル酸リチウム(LiTaO)、水晶、ランガサイトなどにより構成されている。なお、圧電基板102aは、縦波を含む弾性波を発生する基板、例えば、PZTなどの圧電セラミックスや酸化亜鉛(ZnO)、窒化アルミニウム(AlN)などからなる圧電薄膜をガラスやシリコンなどからなる基板表面の全面または部分的に積層したものを用いてもよい。また、圧電効果を生じる高分子基板を用いることもできる。この圧電基板102aにおけるスケール基板101に対向する面である下面には、すだれ電極102bが設けられている。
【0030】
すだれ電極102bは、圧電基板102aに対して電圧を加えまたは受けることができる電極であり、正極(+)側の櫛歯状電極と負極(―)側の櫛歯状電極とからなる一対の櫛歯状電極によって構成されている。具体的には、直線状に延びる基部から直交する方向に互いに平行に延びる複数の電極指によって構成された2つの櫛歯状電極が、互いの電極指間に入り込んだ状態で形成されている。この場合、正極側の電極指と負極側の電極指との間隔Pは、励振する表面弾性波の波長の1/2の整数倍の長さに設定されている。本実施形態においては、すだれ電極102bにおける正極側の電極指と負極側の電極指との間隔Pは、励振する表面弾性波の波長の1/2の長さに設定している。また、1対の櫛歯状電極を構成する各電極指間の間隔λも、励振する表面弾性波の波長の整数倍の長さに設定されている。
【0031】
このすだれ電極102bは、Al,Au,Cu,Cr,Ti,Ptなどの金属単体、またはこれらの合金によって構成されており、スケール基板101の長手方向に沿って表面弾性波を励振させる向き、具体的には、櫛歯状の電極指がスケール基板101の長手方向に直交する向きで設けられている。すだれ電極102bは、フォトリソグラフィー、スパッタ法などにより圧電基板102bの表面に形成される。この励振器102は、スケール基板101の上面に圧電基板102aが密着した状態で接着剤などにより固着されている。なお、図1(A)においては、理解を容易にするため、本来想像線で示されるべきすだれ電極102bを実線で示している。これらの励振器102と励振器103とは、それぞれ励振される表面弾性波の振幅が一致するように表面弾性波の波長の整数倍の間隔を介して配置されている。
【0032】
スケール基板101の上面に設けられた励振器102,103に対してスケール基板101の長手方向外側におけるスケール基板101の上面両端部には、吸振材104がそれぞれ設けられている。吸振材104は、スケール基板101に励振されてスケール基板101の両端部側に伝播した表面弾性波を減衰することにより、スケール基板101の端部での表面弾性波の反射を防止するための弾性体である。本実施形態においては、エポキシ樹脂製の接着剤をスケール基板101の上面両端部に塗布することにより吸振材104としている。
【0033】
受信器105は、スケール基板101に励振された表面弾性波を検出することにより、検出した表面弾性波に対応する電圧信号である弾性波検出信号を出力する素子である。本実施形態においては、受信器105は前記励振器102,103と同様のIDT(Inter Digit Transducer)で構成されている。この場合、受信器105を構成する正極側の電極指と負極側の電極指との間隔Pは、特定の長さに限定されるものではないが励振する表面弾性波の波長の1/2の整数倍の長さに設定することが好ましい。本実施形態においては、すだれ電極105bにおける正極側の電極指と負極側の電極指との間隔Pは、励振する表面弾性波の波長の1/2の長さに設定している。すなわち、受信器105における正極側の電極指と負極側の電極指とで構成される一対の電極指が、本発明に係る検出子に相当する。また、1対の櫛歯状電極を構成する各電極指間の間隔λも、特定の長さに限定されるものではないが励振する表面弾性波の波長の1/2の整数倍の長さに設定することが好ましい。本実施形態においては、1対の櫛歯状電極を構成する各電極指間の間隔λは、励振する表面弾性波の波長と同じ長さに設定している。
【0034】
受信器105におけるその他の構成は、前記励振器102,103と同様の構成であるため、対応する符号を付してその説明は省略する。この受信器105は、スケール基板101に励振した表面弾性波を検出可能な向きで、スケール基板101の上面に圧電基板104aが密着しつつスケール基板101の長手方向に沿ってスライド可能な状態で組み付けられている。具体的には、受信器105は、櫛歯状の電極指が表面弾性波の伝播方向に対して直交する向きで、スケール基板101の幅方向両側にスケール基板101の長手方向に沿ってそれぞれ設けられたスライドレール101a上に摺動可能な状態で設けられている。
【0035】
この受信器105には、図示しない測定子が接続されている。測定子は、この計測装置100の長さ測定の対象となる被測定対象物(図示せず)に接触することにより、受信器105をスケール基板101上にて変位させるための接触子である。この測定子は、例えば、ノギスにおける2つの対向した爪状の測定子のような爪形状や深さゲージの測定子のような計測方向にスライドする棒形状に形成されて受信器105に一体的に繋がっている。
【0036】
励振器102,103には、発振器111が接続されている。発振器111は、励振器102,103を駆動するために励振器102,103に対して所定周波数の交流電気信号を出力する電源装置である。この発振器111は、後述する制御部115によって作動が制御される。一方、受信器105には、同調回路112が接続されている。同調回路112は、受信器105が検出して出力した弾性波検出信号から表面弾性波の周波数成分のみを取り出すための電気回路である。この同調回路112には、ローパスフィルタ113が接続されている。ローパスフィルタ113は、同調回路112から出力された弾性波検出信号から高周波成分を除いた低周波成分、すなわち、受信器105の変位によって生じる低周波成分の振幅のみを抽出して出力する電気回路である。このローパスフィルタ113には、変位量計算部114が接続されている。
【0037】
変位量計算部114は、ローパスフィルタ113から出力された弾性波検出信号に基づいて受信器105の変位量を算出する電気回路であり、主として、図示しない2値化回路、カウンタ回路および距離算出回路によって構成されている。この場合、2値化回路は、ローパスフィルタ113から出力された弾性波検出信号を2値化してパルス信号に変換して出力する電気回路である。また、カウンタ回路は、2値化された弾性波検出信号のパルスを計数して計数値を表す電気信号を出力する電気回路である。また、距離算出回路は、カウンタ回路によって計数されたパルス数と、受信器105を構成するすだれ電極105bにおける各電極指間の間隔とを用いて受信器105の変位量を算出して同算出値を表す電気信号である変位量信号を出力する電気回路である。この変位量計算部114は、前記制御部115によって作動が制御される。
【0038】
制御部115は、CPU、ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータによって構成されており、入力装置116からの指示に従って、図示しない制御プログラムを実行することにより発振器111および変位量計算部114の作動をそれぞれ制御する。入力装置116は、この計測装置100の使用者が制御部115に対して指示を与えるためのインターフェースであり、図示しない複数の押下式キースイッチで構成されている。また、制御部115には、制御部115の作動状態や計測結果を表示するための液晶ディスプレイからなる表示装置117が接続されている。なお、計測装置100には、発振器111、変位量計算部114および制御部115などの各部に駆動電力を供給するための電池を備える図示しない電源部などを備えているが、これらの本発明に直接関わらない構成については説明を省略する。
【0039】
(計測装置100の作動)
次に、上記のように構成した計測装置100の作動について説明する。計測装置100の使用者は、入力装置116を操作して計測装置100の電源をONにする。これにより、計測装置100の制御部115は、図示しない制御プログラムを実行することにより計測可能モードとなる。具体的には、制御部115は、発振器111の作動を制御してスケール基板101の両端部側にそれぞれ固着された一対の励振器102,103を駆動してスケール基板101に表面弾性波を励振させる(図1において破線矢印参照)。
【0040】
この場合、スケール基板101に励振する表面弾性波の駆動周波数fは、スケール基板101における表面弾性波の伝播速度Cおよび励振器102,103を構成する櫛歯状電極の電極指の間隔λにより、f=C/λで特定することができる。例えば、スケール基板101における表面弾性波の伝播速度Cが3200m/sであり、励振器102,103を構成する櫛歯状電極の電極指の間隔λが4mmである場合、スケール基板101に励振する表面弾性波の駆動周波数fは、800kHzとなる。
【0041】
これにより、スケール基板101の両端部側から駆動周波数fの表面弾性波が伝播して互いに重畳することによりスケール基板101の表層に定在波(「定常波」ともいう)が励振される。すなわち、このスケール基板101が本発明に係る基体に相当し、励振器102,103が本発明に係る弾性波励振手段に相当する。一方、励振器102,103からスケール基板101の両端部に向かってそれぞれ伝播した表面弾性波は、スケール基板101の上面両端部にそれぞれ設けられた吸振材104により減衰されてスケール基板101の両端部での反射が抑制される。また、制御部115は、変位量計算部114の作動を制御してカウンタ回路113からの入力信号に応じて変位量の計算処理を開始させる。
【0042】
計測装置100の計測可能モードにおいて、使用者は、計測装置100における図示しない測定子をスケール基板101の長手方向(図1において実線矢印参照)に変位させて被測定物における測定箇所に接触させる。これにより、測定子に一体的に接続された受信器105は、スケール基板101上を長手方向に沿って変位しながら弾性波検出信号を出力する。この場合、受信器105は、スケール基板101を伝播する表面弾性波を検出できれば弾性波検出信号を出力できる。すなわち、スケール基板101上に塵埃や油が付着している場合であっても、励振された表面弾性波が直ちに消滅することはないため、精度良く表面弾性波を検出して弾性波検出信号を出力できる。これにより、スケール基板101および受信器105への塵埃や油などの異物の付着防止のためのシールド構造を簡易なものとすることができるとともに使用環境の幅を広くすることができる。
【0043】
また、この場合、受信器105から出力される弾性波検出信号は、表面弾性波の振幅値が受信器105を変位に対応して連続的に変化、より具体的には、1対の櫛歯状電極を構成する電極指間の間隔λの1/2の間隔、換言すれば、スケール基板101を伝播する表面弾性波の1/2周期ごとに振幅が増減する電圧信号である。この場合、一対の櫛歯電極(すだれ電極105b)から出力される弾性波検出信号の大きさは、櫛歯電極を構成する電極指の数(本実施形態においては、各4つ)に比例して大きくなる。また、同弾性波検出信号の波長は、櫛歯電極を構成する各電極指間の各間隔λ(本実施形態においては、各4mm)を平均化したものとなる。
【0044】
すなわち、受信器105における検出子を構成する一対の櫛歯電極が表面弾性波の波長の1/2の整数倍(本実施形態においては4倍)の間隔で複数組配置されているため、複数の検出子のそれぞれがスケール基板101内を伝播する表面弾性波の節(振幅が最小部分)に一致させることができる。これにより、感度良く表面弾性波を検出することができるとともに、各櫛歯電極間の長さに一致する表面弾性波のみを選択的に検出することができるため、弾性波検出信号の精度が向上して結果として計測装置100における計測精度を向上させることができる。なお、受信器105を構成するすだれ電極105bは、少なくとも1つずつの正極側電極指および負極側電極指で構成されていれば、スケール基板101内を伝播する表面弾性波を検出することができる。また、受信器105における検出子を構成する一対の櫛歯電極同士が表面弾性波の波長の1/2の整数倍以外の間隔で配置されていても表面弾性波の検出自体は可能である。
【0045】
受信器105から出力された弾性波検出信号は、同調回路112に入力される。同調回路112は、弾性波検出信号の中から表面弾性波と異なる周波数成分をカットした弾性波検出信号をローパスフィルタ113に出力する。ローパスフィルタ113は、弾性波検出信号の中から表面弾性波の高周波成分をカットした信号、すなわち、受信器105の変位によって表面弾性波の定在波の周期ごとに増減する低周波信号を変位量計算部114に出力する。
【0046】
変位量計算部114は、ローパスフィルタ113から出力された弾性波検出信号を用いて受信器105の変位量を算出して、同算出値を表す電気信号である変位量信号を制御部115に出力する。この場合、変位量計算部114は、受信部104のすだれ電極105bを構成する1対の櫛歯状電極を構成する電極指間の間隔λの1/2の間隔(換言すれば、スケール基板101を伝播する表面弾性波の半波長)の分解能で変位量を計算する。例えば、前記条件(伝播速度C=3200m/s、櫛歯状電極の電極指の間隔λ=4mm、表面弾性波の駆動周波数f=800kHz)の場合、変位量計算部114が算出可能な変位量の分解能は2mmである。したがって、スケール基板101に励振する表面弾性波の駆動周波数を高めて表面弾性波の波長を短くすることにより、変位量の高分解能化が可能となる。すなわち、受信器105の変位量は、デジタル信号によって計算されるため、分解能や線形性(リニアリティ)の点において変位量を高精度に算出することができる。
【0047】
制御部115は、変位量信号によって表された受信器105、すなわち、測定子の変位量を表示装置117に表示させる。これにより、使用者は、測定子により計測した計測値を表示装置117を介して認識することができる。そして、変位量計算部114は、ローパスフィルタ113から弾性波検出信号を入力するごとに、すなわち、受信器105の変位に応じて連続的に前記変位量を計算して制御部115に出力する。これにより、使用者は、測定子によって計測作業を行う間、連続的に測定子の位置に応じた計測値を表示装置117を介して認識することができる。
【0048】
また、使用者は、計測作業を終了する場合には、入力装置116を操作することにより計測装置100の電源をOFFにする。この指示に応答して計測装置100の制御部115は、前記制御プログラムにおける計測終了処理を実行する。具体的には、制御部115は、発振器111の作動を停止させることにより励振器102,103の駆動によるスケール基板101への表面弾性波の励振を停止させるとともに、変位量計算部114の作動を停止させて変位量の計算処理を中断させる。そして、制御部115は、各部への電源供給を停止させて、この制御プログラムの実行を終了する。
【0049】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、計測装置100は、スケール基体101に対して励振器102,103により表面弾性波を励振させるとともに、励振させた表面弾性波をスケール基体101上で変位可能な受信器105によって検出している。そして、計測装置100は、検出した表面弾性波を表す弾性波検出信号を用いて変位量計算部114により受信器105の変位量を計算している。すなわち、本発明に係る計測装置100は、スケール基体101に励振した表面弾性波の周期的な振幅変化を用いて位置情報を検出している。したがって、スケール基体101は表面弾性波を励振可能に構成されていればよく、従来技術における目盛形成に起因する計測装置の製造工程上の負担および構成上および使用上の制限を軽減することができる。これらの結果、幅広い構成形態の計測装置100を簡単かつコンパクトに構成することができる。
【0050】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記変形例の説明においては、参照する各図における上記実施形態と同様の構成部分に同じ符号または対応する符号を付して、その説明は省略する。
【0051】
例えば、上記実施形態においては、スケール基板101の両端部側にそれぞれ励振器102,103を配置した。しかし、スケール基板101上に表面弾性波を励振可能であれば必ずしもスケール基板101の両端部側にそれぞれ励振器102,103を配置する必要はない。すなわち、励振器102,103は、スケール基板101上に少なくとも1つ配置されていればよい。例えば、図2に示すように、スケール基板101上における一方の端部側(図2においては左端部側)に励振器102を設けてもよい。この場合、スケール基板101に表面弾性波を伝播させる方向の長さおよび同スケール基板101上における端部と励振器102の配置位置との距離を表面弾性波の波長の整数倍に設定する。また、吸振材104は、スケール基板102の上面両端部における励振器102を設けた側にのみ配置して同励振器102を設けた反対側の端部上に設けない。
【0052】
これによれば、励振器102から励振されて伝播する進行波と、励振器102から励振された後スケール基板101の端部(図2において右側端部)にて反射した反射波とが重畳することによりスケール基板101の表層に精度良く定在波を励振させることができる(図2において破線矢印参照)。なお、励振器102をスケール基板101の中央部に配置するとともに、受信器105をスケール基板101の両端部側の一方または両方に配置することもできる。受信器105を2つ以上配置した場合においては、配置した受信器105に応じて同調回路112、ローパスフィルタ113、変位量計算部114をそれぞれ設けることにより受信器105ごとに変位量を計測することができる。
【0053】
また、上記実施形態においては、スケール基板101は、ガラスセラミックス材で構成されている。しかし、スケール基板101は、表面弾性波が伝播可能で、かつ熱膨張係数が極めて小さい材料であれば、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、インバー材(「不変鋼」ともいう)を用いることができる。また、スケール基板101の素材として導電体を用いることもできる。この場合、励振器102,103および受信器105を構成するすだれ電極102b,103b,105bとスケール基板101との間に振動が伝播し易い絶縁体を介在させるようにするとよい。さらに、また、スケール基板101は、単一で均質な素材で構成されることが好ましいが、必ずしも単一で均質な素材である必要はなく、複数の素材や不均質な部分が存在する素材であってもスケール基板101を構成することができる。この場合、スケール基板101を伝播する表面弾性波は再現性のある周期誤差を生じる。このため、例えば、変位量計算部114は、前記周期誤差を補正して受信器105の変位量を計算するようにすればよい。
【0054】
また、上記実施形態においては、スケール基板101は、図示左右方向に延びる帯状の薄板形状に形成した。しかし、スケール基板101の形状は、表面弾性波が伝播可能で受信器105がスケール基板101に沿って変位可能であれば、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、図3(A)に示すように、スケール基板101をリング状の薄板形状に形成するとともに、同スケール基板101のリング状の平面部上に励振器102および受信器105をそれぞれ設けて計測装置100を構成することができる。
【0055】
また、図3(B)に示すように、スケール基板101を円筒状に形成するとともに、同スケール基板101の外周部上に励振器102および受信器105をそれぞれ設けて計測装置100を構成することもできる。これらの場合、スケール基板101における受信器105の変位経路の径、周長および曲率うちの少なくとも1つが既知である。そして、これらの場合、変位量計算部114は、受信器105の変位量を表す弾性波検出信号と前記受信器105の変位経路の径、周長または曲率とを用いて励振器102に対する受信器105の回転角度θを計算することができる。これにより、計測装置100の構成態様および計測対象の幅が広がり、幅広い環境および用途で計測することができる。なお、図3(A),(B)においては、発振器111、同調回路112、ローパスフィルタ113、変位量計算部114、制御部115、入力装置116および表示装置117を省略している。また、スケール基板101がリング状に形成されているため、1つの励振器102によってスケール基板101に定在波を生成することができる。
【0056】
さらに、また、図4に示すように、スケール基板101を直交する2方向に延びた方形板状に形成するとともに、同スケール基板101における互いに直交する2方向に一対の励振器102,103および励振器102’,103’をそれぞれ配置する。そして、これらの励振器102,103および励振器102’,103’の間に、これらの励振器102,103および励振器102’,103’にそれぞれ対応する向きにそれぞれ配置された2つのすだれ電極105b,105b’からなる受信器105を配置する。この受信部105は、スケール基板101の表面上の2次元平面内において自由に変位可能な状態で載置されている。なお、この場合においても、すだれ電極105b,105b’に応じて同調回路112、ローパスフィルタ113、変位量計算部114をそれぞれ設ける。
【0057】
これによれば、受信器105は、それぞれ励振器102,103および励振器102’,103’によってそれぞれ励振される表面弾性波(定在波)に基づいてすだれ電極105b,105b’ごとに位置情報がそれぞれ計算される。すなわち、受信器105は、互いに直交する2方向上における位置(2次元変位量)を検出することができる。
【0058】
また、上記実施形態においては、受信器105は、2つの櫛歯状電極によって構成された1組のすだれ電極105bで構成した。これにより、スケール基板101の表層を伝播する表面弾性波を検出することにより受信器105の変位量を計算することができる。しかし、スケール基板101の表層を伝播する表面弾性波を同表面弾性波の伝播方向に沿ってずれて配置された2組のすだれ電極105ba,105bbで検出することにより受信器105の変位量に加えて同受信器105の変位方向を特定することができる。例えば、図5(A),(B)に示すように、2組のすだれ電極105ba,105bbを櫛歯状電極の間隔λ(換言すれば、表面弾性波の波長)の1/4の間隔だけずらして配置することにより、スケール基板101を伝播する表面弾性波を90°の位相差で検出することができる。
【0059】
この場合、図5(A)に示す受信器105は、すだれ電極105baに対してすだれ電極105bbが表面弾性波の伝播方向に沿って櫛歯状電極の間隔λに対して(n+1/4)×λ(nは整数)の間隔を介して配置されている。一方、図5(B)に示す受信器105は、すだれ電極105baに対してすだれ電極105bbが表面弾性波の伝播方向に直交する方向(換言すれば、スケール基板101の幅方向)に沿ってオフセット量dを介して平行に配置されるとともに、各すだれ電極105ba,105bbにおける互いの櫛歯状電極が表面弾性波の伝播方向に沿って櫛歯状電極の間隔λの1/4の間隔を介して配置されている。
【0060】
このように構成した図5(A),(B)に示す受信器105においては、すだれ電極105baから出力される弾性波検出信号と、すだれ電極105bbから出力される弾性波検出信号とは、互いに90度ずつ位相がずれている。したがって、これら2つの弾性波検出信号を、例えば、ロータリーエンコーダーにおける所謂方向弁別回路を用いてアップ/ダウンパルス(CW/CCWパルス)信号を生成することにより受信器105の変位の方向を特定することができる。なお、受信器105の変位の方向は、各すだれ電極105ba,105bbを櫛歯状電極の間隔λ(換言すれば、表面弾性波の波長)の1/4の間隔とは異なる間隔に配置した場合であっても特定することができる。
【0061】
また、図5(B)に示す受信器105においては、すだれ電極105baとすだれ電極105bbとを、表面弾性波の伝播方向に直交する方向(換言すれば、スケール基板101の幅方向)に沿って平行に配置することにより、受信器105の変位時における受信器105の回転変位(自転変位)量、換言すれば姿勢変化量(図示破線矢印参照)を検出することができる。具体的には、変位量検出部114は、すだれ電極105baおよびすだれ電極105bbごとに表面弾性波の伝播方向における各変位量を計算した後、同各変位量の差をすだれ電極105baとすだれ電極105bbとのオフセット量dで除することにより受信器105の回転変位(自転変位)量を計算することができる。
【0062】
また、上記実施形態においては、計測装置100は、スケール基板101に励振した表面弾性波の定在波を用いて受信器105の変位量を計算するように構成した。しかし、受信器105の変位量は、表面弾性波の進行波を用いて計算することもできる。例えば、図6に示すように、上記実施形態における励振器103を受信器105と同様の受信器106として用いる。すなわち、受信器106は、スケール基板101上に固定的に設けられる。この場合、受信器106には、同調回路112と同様の同調回路112’を接続する。そして、同調回路112および同調回路112’は、加算回路118を介してローパスフィルタ113に接続される。加算回路118は、同調回路112および同調回路112’を介して入力される受信器105,106からの各弾性波検出信号を互いに合成した弾性波検出合成信号を出力する電気回路である。
【0063】
このように構成した計測装置100においては、励振器102によって励起された表面弾性波はスケール基板101の表層を受信器106側に向って伝播する。この場合、スケール基板101の両端部にそれぞれ到達した表面弾性波は同両端部にそれぞれ設けられた吸振材104によって減衰される。これにより、スケール基板101の表層には、上記実施形態における定在波が生じることなく進行波のみが存在することになる。一方、受信器105および受信器106によって検出された弾性波検出信号は、それぞれ同調回路112,112’に入力されて表面弾性波と異なる周波数成分がカットされた後、加算回路118に入力される。
【0064】
この場合、2つの弾性波検出信号には位相差が生じている。すなわち、検出器106から出力される弾性波検出信号は、スケール基板101上に固定的に設けられているため、励振器102によって励振された表面弾性波に対応している。すなわち、検出器106から出力される弾性波検出信号は、発振器111が励振器102を駆動する駆動信号に常に対応した一定の信号である。一方、受信器105から出力される弾性波検出信号は、検出器105の変位に応じて常に変化する信号である。したがって、加算回路118によって生成される弾性波検出合成信号は、表面弾性波の波長だけ受信器105が変位するごとに振幅が変化する信号となる。そして、この弾性波検出合成信号は、ローパスフィルタ113を介して変位量計算部114に入力される。
【0065】
変位量計算部114は、弾性波検出合成信号における前記振幅の変化を計数することにより受信器105の変位量を計算する。すなわち、表面弾性波の進行波を用いて受信器105の変位量を計算する場合においては、スケール基板101に励振した表面弾性波を表す信号と、受信器106によって検出した弾性波検出信号との位相差を用いればよい。したがって、加算回路118に代えて2つの弾性波検出信号の位相差に応じた電圧信号を出力する所謂位相比較器を用いても受信器105の変位量を計算することができる。また、これらの場合、2つの弾性波検出信号の位相差を用いれば、上記各変形例で示したように、受信器105の変位の方向や姿勢の変化も検出することができる。なお、検出器106から出力される弾性波検出信号は、発振器111が励振器102を駆動する駆動信号に対応した信号であり、受信器105から出力された弾性波検出信号との位相差の基準となる信号であり、本発明に係る基準弾性波信号に相当する。
【0066】
また、図6に示した計測装置100においては、スケール基板101の上面における一方の端部側(図示左側)に励振器102を配置するとともに、スケール基板101の上面における中央部および他方の端部側(図示右側)に受信器105および受信器106をそれぞれ配置した。しかし、励振器102は、スケール基板101上に表面弾性波を励振可能であれば必ずしもスケール基板101の端部側に配置する必要はない。また、受信器105および受信器106についても、スケール基板101を伝播する表面弾性波を検出可能な位置で、受信器105においては変位可能、受信器106においては固定的に配置されていれば必ずしも上記変形例に限定されるものではない。
【0067】
例えば、図7に示すように、スケール基板101の上面における一方(図示左側)の端部側に受信器106を固定的に配置するとともに、同受信器106に隣接して励振器10102を固定的に配置する。そして、励振器102に隣接して受信器105を表面弾性波の伝播方向に沿って変位可能な状態で配置する。これによれば、励振器102と基準弾性波信号を検出する受信器106とが隣接して配置されているため、励振器102から励振された表面弾性波を精度良く検出することができる。すなわち、基準弾性波信号の生成精度を向上させることができ、結果として計測装置100による計測精度を向上させることができる。
【0068】
また、図6および図7に示した計測装置100においては、励振器102から励振された表面弾性波をスケール基板101上に固定的に設けられた受信器106により検出して基準弾性波信号を生成した。しかし、基準弾性波信号は、発振器111が励振器102を駆動する駆動信号に対応した信号であるため、必ずしもスケール基板101を伝播する表面弾性波を検出して生成する必要はない。すなわち、例えば、図8に示すように、発振器111が励振器102を駆動する駆動信号を基準弾性波検出信号として加算器118に入力するように構成することもできる。これによれば、基準弾性波検出信号を生成するための受信器106や同調回路112’が不要となるため、計測装置100の構成を簡単にすることができる。
【0069】
また、上記実施形態および上記各変形例においては、同調回路112を用いることにより受信器105から出力された弾性波検出信号から表面弾性波成分を取り出した。しかし、すだれ電極102b,103b,105b,106bが精度良く形成されていれば、すだれ電極105bと圧電体との組合せの特性による同調効果によって表面弾性波の周波数成分が選択的に検出される。すなわち、同調回路112を省略して計測装置100を構成することもできる。また、同調回路112およびローパスフィルタ113に代えて、所謂PLL(位相同期回路)を用いても受信器105の変位量を計算することができる。
【0070】
また、上記実施形態および上記各変形例においては、スケール基板101に表面弾性波を励振する弾性波励振手段(例えば、励振器102,103)および同スケール基板101上に励振された表面弾性波を検出する弾性波検出手段(例えば、受信器105,106)をIDTで構成した。しかし、弾性波励振手段および弾性波検出手段は、スケール基板101に表面弾性波を励振可能および同スケール基板101上に励振された表面弾性波を検出可能な素子で構成されていれば、上記実施形態に限定されるものではない。
【0071】
例えば、弾性波励振手段としては、スケール基板101に接触した状態で表面弾性波を励振するIDT以外の圧電アクチュエータを用いることができる他、スケール基板101に表面弾性波を励振可能なパルス光を発光するレーザ光やLEDを用いることもできる。また、弾性波検出手段としては、スケール基板101に接触した状態で表面弾性波を検出するIDT以外の圧電振動センサを用いることができる他、レーザドップラー式振動計ななどの各種振動計を用いることができる。これらの場合、スケール基板101に対して被接触で表面弾性波を励振または検出する素子を用いることにより、幅広い構成形態の計測装置100を簡単かつコンパクトに構成することができる。
【0072】
また、上記実施形態および上記各変形例においては、弾性波検出手段(例えば、受信器105)の変位に応じた変位量を検出するように構成した。しかし、本発明は、長さ以外の物理量を計測する計測装置としても実施できるものである。例えば、弾性波検出手段(例えば、受信器105)の変位量に応じて重さ(質量)、体積、温度、湿度、圧力または速度などの各種物理量を算出して表示する計測装置としても実施できるものである。
【符号の説明】
【0073】
100…計測装置、101…スケール基板、101a…スライドレール、102,102’,103,103’…励振器、102a,103a,105a,106a…圧電基板、102b,103b,105b,106b…すだれ電極、104…防振材、105,105’,106…受信器、111…発振器、112,112’…同調回路、113…ローパスフィルタ、114…変位量計算部、115…制御部、116…入力装置、117…表示装置、118…加算回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面弾性波が伝播可能な基体と、
前記基体に前記表面弾性波を励振するための弾性波励振手段と、
圧電体上に平行配置された少なくとも一対の電極からなる検出子が前記基体上を前記表面弾性波の伝播方向に沿って変位可能に設けられて前記表面弾性波を検出して弾性波検出信号を出力する弾性波検出手段と、
前記弾性波検出手段から出力された前記弾性波検出信号に基づいて前記弾性波検出手段の変位量を計算する変位量計算手段とを備えることを特徴とする計測装置。
【請求項2】
請求項1に記載した計測装置において、
前記弾性波検出手段は、前記検出子を構成する前記一対の電極が前記表面弾性波の波長の1/2の整数倍の間隔で複数組配置されていることを特徴とする計測装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した計測装置において、
前記弾性波励振手段および前記弾性波検出手段は、櫛歯状電極を互いに対向配置したIDTでそれぞれ構成されていることを特徴とする計測装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載した計測装置において、
前記弾性波励振手段は、前記基体上における前記弾性波検出手段の変位方向両端部側に配置されて前記基体に定在波を励振させることを特徴とする計測装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載した計測装置において、
前記変位量計算手段は、前記基体に励振した前記表面弾性波を表す基準弾性波信号と前記弾性波検出手段から出力された前記弾性波検出信号とを用いて前記弾性波検出手段の変位量を計算することを特徴とする計測装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載した計測装置において、
前記弾性波検出手段は、少なくとも2組の前記検出子が互いに前記表面弾性波の伝播方向にずれて配置されてそれぞれ前記弾性波検出信号を出力し、
前記変位量計算手段は、前記2組の検出子ごとの前記弾性波検出信号を用いて前記弾性波検出手段の変位方向を特定することを特徴とする計測装置。
【請求項7】
請求項6に記載した計測装置において、
前記弾性波検出手段は、前記少なくとも2組の前記検出子が互いに前記表面弾性波の波長の1/4の整数倍だけずれて配置されてそれぞれ前記弾性波検出信号を出力することを特徴とする計測装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちのいずれか1つに記載した計測装置において、
前記基体は、径、周長または曲率が既知の曲面部を有して構成されており、
前記変位量計算手段は、前記径、周長または曲率および前記弾性波検出信号を用いて前記弾性波励振手段に対する前記弾性波検出手段の前記曲面部上での回転角度を計算することを特徴とする計測装置。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のうちのいずれか1つに記載した計測装置において、
前記弾性波検出手段は、少なくとも2組の前記検出子が前記表面弾性波の伝播方向に交わる方向に沿って互いに対向配置されてそれぞれ弾性波検出信号を出力し、
前記変位量計算手段は、前記対向配置された2組の検出子ごとに計算した前記変位量を用いて前記弾性波検出手段の前記基体上での回転角度を計算することを特徴とする計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−257315(P2011−257315A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−133282(P2010−133282)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】