説明

記録用紙

【課題】インクジェット記録およびオフセット印刷の両方に対応した記録用紙を提供すること。特に、記録速度300m/分でインクジェット記録を行っても筋状の記録不良が発生せず、かつオフセット印刷に耐え得る程度の表面強度を有する、インクジェット記録・オフセット印刷兼用紙を提供すること。
【解決手段】基紙上に顔料および接着剤を主成分とする顔料塗工層が設けられた記録用紙において、前記接着剤として、少なくとも異なる2種類の親水性接着剤並びに、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体を主原料とし水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基紙上に顔料および接着剤を主成分とする顔料塗工層が設けられ、該顔料塗工層上に記録が行なわれるインクジェット記録およびオフセット印刷の両方に対応した記録用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の顔料塗工層を有するインクジェット記録用紙は、インクの吸収性を向上させるためにシリカやアルミナなどの比表面積が大きい微細粒子を顔料成分として用い、かつインクの吸液性を阻害しないよう接着剤含有量を顔料が脱落しない程度の一定量以下に抑制している。顔料塗工層の接着剤含有量を、顔料が脱落しない程度の接着剤含有量に設定する結果、当該インクジェット記録用紙に対し、タックバリューの高いオフセットインクによるオフセット印刷を行なうと、顔料塗工層から顔料が脱落してブランケットを汚すだけでなく印刷物に印刷抜けを発生させたり、顔料塗工層が基紙から剥離する問題が生じるため、インクジェット記録用紙にオフセット印刷を行なうことは困難であった。
【0003】
引用文献1には、インクジェット記録適性およびオフセット印刷適性の両方を有する記録用紙として、例えば特定のカチオン性樹脂を使用することで塗工層強度を高め、オフセット印刷適性を向上させる方法が開示されている。然しながら、この記録用紙では、記録速度300m/分を下回る場合ではインクジェット記録やオフセット印刷は可能であるものの、300m/分を超える記録速度においては、インクジェットインクの液滴が顔料塗工層に着弾後、インクジェットインクを素早く吸収できないため、顔料塗工層上に残留する液体状態のインクジェットインクが記録用紙に引きずられ、用紙移動方向に筋状に飛散する記録不良が発生し、美麗な印刷物が得られない問題を生じる。
【0004】
引用文献2には、特定の耐水化剤およびサイズ剤を使用することで、インクジェット記録適性およびオフセット印刷適性の両方を向上させる技術が開示されているが、サイズ剤、耐水化剤ともに高速のインクジェット記録においてはインクジェットインクの吸収性を低下させるため、引用文献1と同様に、インクジェット記録の記録速度を300m/分程度まで上昇させると筋状の記録不良が発生し、美麗な印刷物が得られない。
【0005】
引用文献3には、水溶性高分子が結合または吸着しているインクジェット記録媒体用重合体ラテックスが、表面強度、耐水表面強度、インクジェット記録により得られる印刷物の鮮明性を有するバインダーとして紹介されている。
水溶性高分子を吸着させたラテックスをインクジェット記録用バインダーとして用いることで、オフセット印刷、インクジェット記録の改善効果がみられるものの、記録速度300m/分を超える高速のインクジェット記録を行なうにおいてはインクジェットインクの吸収性が不十分であり、本件発明が課題とする筋状の記録不良については改善されておらず、さらなる改善が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−027398号公報
【特許文献2】特開2008−002033号公報
【特許文献3】特開2007−098678号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、基紙上に顔料および接着剤を主成分とする顔料塗工層が設けられ、該顔料塗工層上に記録が行なわれるインクジェット記録およびオフセット印刷の両方に対応した記録用紙において、特に、記録速度300m/分以上でインクジェット記録を行っても筋状の記録不良が発生せず、かつオフセット印刷に耐え得る程度の顔料塗工層の表面強度を有し、インクジェット記録におけるにじみ、耐水性、印字濃度を満足する、インクジェット記録・オフセット印刷兼用紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基紙上に顔料および接着剤を主成分とする顔料塗工層が設けられた記録用紙において、
前記接着剤として、少なくとも異なる2種類の親水性接着剤並びに、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体を主原料とし水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤、
を含む記録用紙である。
【0009】
好ましくは、前記親水性接着剤と、前記脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体を主原料とし水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤、の合計含有割合が前記顔料100質量部に対して質量割合で、20から63質量部である、請求項1記載の記録用紙。
【0010】
より好ましくは、前記親水性接着剤が、下記のAおよびBであり、
前記水溶性高分子化合物が、ポリビニルアルコールである、
請求項1または2に記載の記録用紙。
A:ポリビニルアルコール
B:エチレン−酢酸ビニル共重合体
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、インクジェット記録およびオフセット印刷の両方に対応した、特に、記録速度300m/分以上でインクジェット記録を行っても筋状の記録不良が発生せず、かつオフセット印刷に耐え得る程度の顔料塗工層表面強度を有し、インクジェット記録におけるにじみ、耐水性、印字濃度を満足する、インクジェット記録・オフセット印刷兼用紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(基紙)
本件発明を構成する基紙としては特に限定されず、記録用紙の使用目的や記録装置に応じて適宜選択すれば良い。例えば、塗工紙や塗工原紙、上質紙、中質紙、ライナー、コートボール原紙、白板紙、印刷筆記用紙、フォーム用紙、PPC用紙、インクジェット記録用紙等があげられるが、好適には非塗工の塗工原紙が好適に用いられる。
基紙には、後述する顔料塗工層を設ける前工程において、水溶性高分子を主成分とするクリア塗工層や、顔料および接着剤を主成分とする顔料塗工層を下塗り塗工層として設けることができる。
【0013】
本件発明において下塗り塗工層としてクリア塗工層を設ける場合においては、基紙の表面性改善に加えて、インク受容層を構成する塗工剤の浸透による層間強度を向上することができる。クリア塗工層の接着剤量は、全固形分重量に対し80%以上が好ましく、また、クリア塗工層を構成するクリア塗工液の塗工量は、固形分重量で0.5〜3.0g/m2が好ましい。
【0014】
クリア塗工液の主成分として使用する接着剤としては、生澱粉や、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、酵素変性澱粉、アルデヒド化澱粉、エーテル化澱粉(湿式低分子化ヒドロキシエチル化澱粉、乾式低分子化ヒドロキシエチル化澱粉等)などの変性澱粉や、イオン性のポリアクリルアミド、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなどが使用され、その固形分濃度は2〜14%、好ましくは3〜12%である。固形分濃度が2%以下であると、クリア塗工液の基紙への浸透性は良好となるものの、浸透量が多くなるために塗工後の乾燥負荷が大きくなる。一方、固形分濃度が14%以上となると、塗工液の粘度も高くなることから浸透性が低下し、十分な強度を得ることができない。また、クリア塗工液には、接着剤以外にサイズ剤、界面活性剤、保湿剤、消泡剤などを併用することもできる。
【0015】
クリア塗工層を設ける塗工装置としては、ロッドメタリングサイズプレスコータ、ブレードメタリングサイズプレスコータ、ゲートロールコータ、2ロールサイズプレスが使用できるが、特に層間強度向上の点からロッドメタリングサイズプレスコータを使用することが好ましい。
【0016】
(顔料塗工層)
(顔料)
顔料塗工層に用いる顔料としては、一般に製紙用途で使用される顔料を用いることができる。例えばシリカ、アルミノシリケート、カオリン、クレー、焼成クレー、酸化亜鉛、酸化錫、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミナ、炭酸カルシウム、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、スメクタイト、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土、スチレン系プラスチックピグメント、尿素樹脂系プラスチックピグメント、ベンゾグアナミン系プラスチックピグメント等があげられる。これらの顔料の中でも、特にシリカ、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、アルミナが好ましく、上記顔料の中でも、インクの吸液性に優れた合成非晶質シリカを用いると、細孔容積が大きく、インク吸収性に優れるのでインクジェット記録におけるインクにじみを低減しやすいため好適に用いられる。
【0017】
特に、本件発明の構成の特徴である、少なくとも異なる2種類の親水性接着剤並びに、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体を主原料とし水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤(以下、重合接着剤という)との組合せにおいて、少なくとも異なる2種類の親水性接着剤として好適にはポリビニルアルコールとエチレン酢酸ビニル共重合体を用い、重合接着剤における水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤を組み合わせて用いるにおいて、前記接着剤両者ともに親和性を有し、塗工層中での分散性に優れ、均質な塗工層を形成でき、オフセット印刷に用いられる疎水性インクや水性のインクジェット記録インク双方のインク吸収乾燥性、定着性に優れるという理由から、体積平均粒子径が2.3μm〜8.0μm、好ましくは2.3μm〜4.3μmのシリカを用いるとインク吸収性が良好であるため、より筋状の記録不良が発生しにくい。
重合接着剤のより好適な構成においては、芳香族ビニル単量体を含む共重合体が好ましく用いられる。
【0018】
本件発明の構成における好適な顔料として合成非晶質シリカを用い、体積平均粒子径が2.3μm〜8.0μm、より好適には4.3μm〜6.7μmとすることで、課題である記録速度300m/分以上でインクジェット記録を行っても筋状の記録不良が発生せず、かつオフセット印刷に耐え得る程度の顔料塗工層の表面強度を有する、インクジェット記録・オフセット印刷兼用紙を得るうえで好ましい。
【0019】
(接着剤)
本発明においては、接着剤として少なくとも異なる2種類の親水性接着剤および重合接着剤を組み合わせた構成とすることが好適である。少なくとも異なる2種類の親水性接着剤および、水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる重合接着剤を用いることで、インク液滴の吸収性が良好となるため、記録速度が300m/分と高速なインクジェット記録を行っても、筋状の記録不良が発生しない。
さらに、先にも述べたが接着剤と併用して用いる顔料として、オフセット印刷に用いられる疎水性インクや水性のインクジェット記録インク双方のインク吸収乾燥性、定着性に優れるという理由から顔料として体積平均粒子径が2.3μm〜8.0μm、好ましくは4.3μm〜6.7μmの合成非晶質シリカであることが好ましく、より好適には、親水性接着剤としてポリビニルアルコールおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体を用い、更に重合接着剤を組合わせて用いること、より好適にはポリビニルアルコールを結合または吸着している重合性接着剤を用いることで、課題である記録速度300m/分以上でインクジェット記録を行っても筋状の記録不良が発生せず、かつオフセット印刷に耐え得る程度の顔料塗工層の表面強度を有する、インクジェット記録・オフセット印刷兼用紙を得るうえで好ましい。
【0020】
一方、従来のオフセット印刷に用いられるスチレン−ブタジエンラテックス(SBR)を例とする疎水性接着剤を含有した顔料塗工層にインクジェット記録を行なった場合では、顔料塗工層が疎水性を示すため、顔料塗工層表面で水溶性であるインクジェット記録インクの液滴を弾き、インクジェット記録インクの顔料塗工層中へのインク吸収を阻害するため、吸収できないインクジェット記録インクによる筋状の記録不良が発生する。
【0021】
従来のインクジェット記録においては、顔料塗工層に用いる接着剤として、ポリビニルアルコールおよびその誘導体、カゼイン等の蛋白質、澱粉、およびその澱粉誘導体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス、或いはこれらの各種重合体のカルボキシル基、カチオン性基等の官能基含有変性重合体ラテックス、メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化樹脂等の合成樹脂系の水性接着剤、無水マレイン酸共重合樹脂系、ポリアクリルアミド系、ポリメチルメタクリレート系、ポリウレタン樹脂系、不飽和ポリエステル樹脂系、ポリビニルブチラール系、アルキッド樹脂系等の合成樹脂系接着剤等の水溶性高分子が、好ましく用いられ、水溶性のインクジェット記録インクの吸収乾燥性を保持させる構成となっている。
【0022】
しかしながら、前記水性接着剤を用いる顔料塗工層は、インクジェット記録適性を有するものの、疎水性インクを用いるオフセット印刷においては、印刷時に顔料塗工層がオフセット印刷インクに剥ぎ取られたり、オフセット印刷インクに取られた顔料塗工層が印刷不良を招くなどの問題が発現する。
親水性の顔料塗工層に、オフセット印刷に用いられる疎水性の接着剤を含有させる方策が考えられるが、顔料塗工層を構成する塗工液の調整が困難であること、従来のごとく記録速度が150m/分程度と遅い場合は、疎水性接着剤を含有しても筋状の記録不良の発生はみられないが、記録速度が300m/分以上の高速記録時に筋状の記録不良が発生する。
【0023】
従来のオフセット印刷適性を有するインクジェット記録用紙は、表面強度を向上させるために、表面強度向上効果の高いスチレン−ブタジエンラテックス等の疎水性ラテックスを含有させる必要があった。しかしながら発明者らは、これら疎水性接着剤を含有したインクジェット記録用紙ではインク吸収性が低いため筋状の記録不良が発生することを見出し、インク吸収性および表面強度向上効果を同時に付与するために、少なくとも2種類の異なる親水性接着剤および重合接着剤を含有させること、より好適には、親水性接着剤としてポリビニルアルコールおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体を用い、更に重合接着剤を組合わせて用いること、より好適にはポリビニルアルコールを結合または吸着している重合性接着剤を用いることが好ましく、さらに好適な構成においては、顔料として体積平均粒子径が2.3μm〜8.0μm、好ましくは4.3μm〜6.7μmの微細粒子、特には合成非晶質シリカを組合わせて用いることで、理由は定かではないものの、顔料塗工層の均質化と親水性と多孔性の高い顔料塗工層を形成できるという理由から本発明の課題である、記録速度300m/分以上でインクジェット記録を行っても筋状の記録不良が発生せず、かつオフセット印刷に耐え得る程度の顔料塗工層の表面強度を有する、インクジェット記録・オフセット印刷兼用紙を得るうえで好ましいことを見出したものである。
【0024】
本発明で用いる親水性接着剤としては、少なくとも異なる2種類の親水性背着剤を用いることが好ましく、例えば、ポリビニルアルコール;澱粉、ヒドロキシエチルエーテル化澱粉等の澱粉誘導体;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体;アクリル酸エステルおよびメタクリル酸エステルの重合体または共重合体等のアクリル系重合体ラテックス;エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体ラテックス;これら各種重合体のカルボキシル基等の官能基含有単量体による官能基変性重合体ラテックス;これら各種重合体にカチオン性基を用いてカチオン化したラテックス、カチオン性界面活性剤にて重合体表面をカチオン化したラテックス、カチオン性ポリビニルアルコール下で重合し、重合体表面に該カチオン性ポリビニルアルコールを分布させたラテックス、カチオン性コロイド粒子の懸濁分散液中で重合を行ない、重合体表面に該カチオン性コロイド粒子を分布させたラテックス;ポリメチルメタクリレート等のアクリル酸エステルやメタクリル酸エステルの重合体または共重合体等があげられる。
【0025】
この中でも、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体を用いることが好ましく、この両者を併用することがより好ましい。ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体はいずれも、インク液滴との親和性が高くインク液滴を吸収しやすいため、これらを含有した記録用紙は、記録速度が300m/分と高速なインクジェット記録を行っても速やかにインク液滴を吸収するため筋状の記録不良が発生しにくい。加えて、塗工層の表面強度の向上効果が高いため、オフセット印刷に用いても、紙ムケや塗工層の脱落が発生しにくい。
【0026】
本発明者らの知見では、本件発明の好適な構成においては、親水性接着剤としてポリビニルアルコールおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体を用い、重合接着剤と組合わせることにより課題解決を果たせるとともに、より好適には、顔料100質量部に対し固形分でポリビニルアルコールを10〜25質量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体を顔料100質量部に対し固形分で5〜20質量部、重合接着剤を顔料100質量部に対し、固形分で5〜18質量部の割合で用いることが、本件発明の課題である記録速度300m/分以上でインクジェット記録を行っても筋状の記録不良が発生せず、かつオフセット印刷に耐え得る程度の顔料塗工層の表面強度を有する、インクジェット記録・オフセット印刷兼用紙を得るうえで好ましい。
【0027】
ポリビニルアルコールが顔料100質量部に対し固形分で25質量部より多くなるとインク吸収が不良になり、10質量部より少なくなるとオフセット印刷時のブランケット汚れを誘発し、印刷部で白抜けが発生するため好ましくない。また、エチレン−酢酸ビニル共重合体の合計量が顔料100質量部に対し、5質量部より少ないと塗工層の強度が弱く、塗工層の脱落、粉落ちなどの問題が発生するため好ましくなく、20質量部を超えると塗工性の悪化や顔料を被覆してしまうことで顔料の特性を阻害するため好ましくない。
【0028】
さらに、重合接着剤においては、顔料100質量部に対し、固形分で5質量部未満では、オフセット印刷時の塗工層の強度が弱く、塗工層の脱落、粉落ちなどの問題が発生するため好ましくなく、18質量部を超えると塗工性の悪化や顔料を被覆してしまうことで顔料の特性を阻害するため好ましくない。エチレン−酢酸ビニル共重合体と脂肪族共役ジエン系単量体、エチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料に、芳香族ビニル単量体からなる重合体、および水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤(重合接着剤)とは、本件発明における課題であるオフセット印刷に耐え得る程度の顔料塗工層の表面強度を確保するにおいて効果的であるうえ、両者を組合せ、さらにポリビニルアルコールを組合わせることで、特に、記録速度300m/分以上でインクジェット記録を行っても筋状の記録不良が発生しない本件発明における記録用紙を得ることができる。
【0029】
本件発明において好適に用いられるポリビニルアルコールは、重合度が500〜2400であることが顔料塗工層中でのポリビニルアルコールの分散均一性、他の親水性接着剤、特にエチレン−酢酸ビニル共重合体や重合接着剤との相溶性という理由で好ましく、1100〜1700であることがより好ましい。
重合度が500を下回ると塗工層の耐水性が十分に得られないためオフセット印刷時の湿し水の影響で塗工層表面の脱落が生じやすいため好ましくなく、分子量が2400を超過すると耐水性や表面強度は得られるが、インク吸収性に劣る傾向があるため、本件発明が課題とする、記録速度300m/分以上での高速インクジェット記録時に筋状の記録不良が発生しやすいため好ましくない。
【0030】
ポリビニルアルコールの中において、部分ケン化ポリビニルアルコールより完全ケン化ポリビニルアルコールを用いることが、塗膜強度が強く表面強度に優れるため好ましい。
【0031】
さらに前記ポリビニルアルコールと好適に組み合わされて用いられる、エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量は、顔料100質量部に対して5質量部〜20質量部が好ましく、10質量部〜17質量部がより好ましい。エチレン−酢酸ビニル共重合体は、顔料100質量部に対して5質量部未満では塗工層の強度が弱く、塗工層の脱落、粉落ちなどの問題が発生するため好ましくなく、20質量部を超えると塗工性の悪化や顔料を被覆してしまうことで顔料の特性を阻害するため好ましくない。
【0032】
本件発明者等の知見では、エチレン−酢酸ビニル共重合体を顔料塗工層中に含有させることで、親水性の比較的硬質になりがちの顔料塗工層の弾性を向上し、オフセット印刷時の印刷適性向上と記録速度300m/分以上での高速インクジェット記録時の搬送性が向上する付随効果が得られる。
【0033】
さらに、顔料として体積平均粒子径が2.3μm〜8.0μm、好ましくは4.3μm〜6.7μmの微細粒子、特には合成非晶質シリカを組合わせて用いることで、オフセット印刷、インクジェット記録の両方に対応した記録用紙を得ることが可能になり、本件発明の課題である記録速度300m/分以上でインクジェット記録を行っても筋状の記録不良が発生せず、かつオフセット印刷に耐え得る程度の顔料塗工層の表面強度を有する、インクジェット記録・オフセット印刷兼用紙を得るうえで好ましい。
【0034】
本発明では、好適には上記のポリビニルアルコールとエチレン−酢酸ビニル共重合体の併用からなる親水性接着剤に加えて、重合接着剤を含有する。
本発明における重合接着剤は、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、好適には芳香族ビニル単量体からなる重合体を組み合わせるとともに水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤(重合接着剤)であり、当該水溶性高分子化合物として好適にはポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤である。
本発明における好適な重合接着剤は、例えば引用文献3に記載の、脂肪族共役ジエン系単量体単位20〜60質量部、エチレン系不飽和ニトリル単量体単位5〜60質量部、芳香族ビニル単量体単位0〜10質量部、およびこれらと共重合可能なその他の単量体単位0〜75質量部からなる重合体、および水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤(重合接着剤)であり、該重合体100質量部に対して、該水溶性高分子化合物が1〜20質量部結合または吸着していることを特徴とする、接着剤があげられる。
【0035】
上述のとおり、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、好適には芳香族ビニル単量体からなる重合体を組み合わせるとともに水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤(重合接着剤)であり、当該水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤を用いると、得られる記録用紙の表面強度およびインク吸収性を特に向上でき、インクジェット記録適性およびオフセット印刷適性を向上しやすいため好ましい。
【0036】
特に本件発明者等の知見では、好適な構成であるポリビニルアルコールとエチレン−酢酸ビニル共重合体とを併用する親水性接着剤と、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、好適には芳香族ビニル単量体からなる重合体を組み合わせるとともに水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤(重合接着剤)であり、当該水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤を組み合わせて用いることで、顔料塗工層の強度向上とインクジェットインクの吸収乾燥性の両者を満足することを可能にし、優れたオフセット印刷適性とインクジェット記録適性を有しながら、本件発明の課題である記録速度300m/分以上でインクジェット記録を行っても筋状の記録不良が発生しない、オフセット印刷、インクジェット記録を兼用できる記録用紙を得ることができる。
【0037】
疎水性接着剤を接着剤として本件発明における顔料塗工層の構成に組み入れることも可能であるが、顔料塗工層中に含有させると、顔料塗工層のインク吸収性を低下させる傾向を発現するため、記録速度が300m/分と高速なインクジェット記録において筋状の記録不良が発生しやすい。このため疎水性接着剤の含有量は最大でも、顔料100質量部に対して質量換算で5質量部以下であり、好ましくは3質量部以下であり、さらに好ましくは0.5質量部以下であり、最も好ましくは無配合である。
【0038】
疎水性接着剤としては、例えば、ポリビニルピロリドン、無水マレイン酸樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系共重合体ラテックス;ポリウレタン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、アルキッド樹脂;メラミン樹脂、尿素樹脂等の熱硬化合成樹脂等があげられる。
【0039】
上記、重合接着剤の合計含有量は、顔料100質量部に対して、質量換算で30〜62質量部含有させることが好ましく、39質量部〜52質量部であることがより好ましい。接着剤の含有量が30質量部を下回ると、インクジェット記録での乾燥性は良好となるが、印刷時の表面強度が不足し、オフセット印刷時にブランケットに汚れが発生するため好ましくない。62質量部を超過すると、印刷時の表面強度は十分であるが、インク吸収性に劣りやすいため、インクジェット記録時に筋状の記録不良が発生しやすく、加えて顔料を接着させる効果が頭打ちとなり表面強度が上昇しないため好ましくない。
【0040】
本件発明における親水性接着剤として好適な構成要素であるポリビニルアルコールの含有量は、顔料100質量部に対して10質量部〜25質量部が好ましく、15質量部〜22質量部がより好ましい。10質量部を下回ると、インクジェット記録の乾燥性は十分であるが、インクジェット記録の印刷部の濃度が低下するため好ましくない。25質量部を超過すると、オフセット印刷時の表面強度は得られ、かつ印字濃度は向上するが、インク吸収性が低下しやすく、インクジェット記録時に筋状の記録不良が発生しやすいため好ましくない。
本件発明で好適に用いられるポリビニルアルコールとしては、従来から製紙用途で用いられるポリビニルアルコールの他、例えば酢酸ビニルアルコール共重合体、ポリビニルアセタール、ポリビニルホルマール、ポリビニルベンザール等があげられる。
【0041】
本件発明における親水性接着剤として好適な構成要素であるエチレン−酢酸ビニル共重合体の含有量は、顔料100質量部に対して5質量部〜20質量部が好ましく、10質量部〜17質量部がより好ましい。5質量部を下回ると、インクジェット記録時のインク吸収性は十分であるが、インクジェット記録時の印字濃度が低下するため好ましくない。20質量部を超過すると印字濃度が向上するが、インク吸収性が低下しやすく、インクジェット記録時に筋状の記録不良が発生しやすく、加えて顔料を接着させる効果が頭打ちとなり表面強度が上昇しない恐れがある。
【0042】
本件発明における親水性接着剤と組み合わせて好適に用いられる重合接着剤として、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、好適には芳香族ビニル単量体からなる重合体を組み合わせるとともに水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤であり、当該水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤の含有量は、顔料100質量部に対して5質量部〜18質量部が好ましく、9質量部〜14質量部がより好ましい。5質量部を下回ると、インクジェット記録適性は良好となるが、表面強度が低下しやすくオフセット印刷適性が低下しやすいため好ましくない。18質量部を超過すると、インク吸収性が低下しやすく、インクジェット記録時に筋状の記録不良が発生しやすくなり、加えて顔料を接着させる効果が頭打ちとなり表面強度が上昇しない恐れがある。
【0043】
ここで、ポリビニルアルコールとエチレン−酢酸ビニル共重合体の併用からなる親水性接着剤と、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、好適には芳香族ビニル単量体からなる重合体を組み合わせるとともに水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤(重合接着剤)であり、当該水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤との合計含有量は、全接着剤に対して質量換算で67質量%以上が好ましく、67質量%を超えて90質量%以下が好ましい。67質量%以下では筋状の記録不良を抑制しにくく、90質量%を超過するとオフセット印刷時に塗工層や基紙が剥離する場合が生じる恐れがある。
【0044】
上述のごとく、少なくとも異なる2種類の親水性接着剤として好適にはポリビニルアルコールおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体を併用すること、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、好適には芳香族ビニル単量体からなる重合体を組み合わせるとともに水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤であり、当該水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤(重合接着剤)の3種類を組み合わせて用いることで、インクの吸収性が早い塗工層を形成できるため、記録速度が300m/分と速いインクジェット記録用紙においても記録不良が発生せず、かつ表面強度が高いため、オフセット印刷適性を有する記録用紙を得ることができる。
【0045】
故に、顔料として体積平均粒子径が2.3μm〜8.0μm、好ましくは4.3μm〜6.7μmの合成非晶質シリカを用い、接着剤として、少なくとも異なる2種類の親水性接着剤として好適にはポリビニルアルコールおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体を併用すること、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、好適には芳香族ビニル単量体からなる重合体を組み合わせるとともに水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤であり、当該水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤(重合接着剤)を組み合わせて用いることで、インク吸収性および表面強度に優れた塗工層が得られるため、記録速度300m/分と高速インクジェット記録においても、筋状の印刷ムラが発生せず、かつオフセット印刷においても印刷抜け等のトラブルが発生しない記録用紙が得られやすい。
【0046】
さらにインクジェット記録適性およびオフセット印刷適性を向上させるためには、少なくとも異なる2種類の親水性接着剤として好適にはポリビニルアルコールおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体を併用すること、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、好適には芳香族ビニル単量体からなる重合体を組み合わせるとともに水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤であり、当該水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤(重合接着剤)との合計が、前記顔料に対して固形分での質量割合で、20〜63質量部であることが好ましく、70質量部を超えて85質量部以下であることがさらに好ましい。
【0047】
さらに塗工層には、例えば、蛍光増白剤や、蛍光増白剤の定着剤、消泡剤、離型剤、着色剤、保水剤、滑剤、耐水化剤等の、通常使用される各種助剤を適宜含有させることもできる。
【0048】
前記滑剤としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸およびそのアンモニウム塩や金属塩、ポリエチレンエマルジョン等の炭化水素類、セチルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール、、パラフィンワックスおよびその金属塩との混合物含フッ素界面活性剤等各種界面活性剤、ロート油、レシチン、四フッ化エチレンポリマーやエチレン−四フッ化エチレンポリマー等のフッ素系ポリマー等があげられる。
この中でもパラフィンワックスおよびその金属塩との混合物を用いることが好ましい。パラフィンワックスおよびその金属塩との混合物を用いることで、さらにオフセット印刷時の版への張付き防止を抑制し、オフセット印刷に適した記録用紙が得られやすい。
【0049】
耐水化剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、二級アミン、三級アミン、および四級アンモニウム塩としてポリエチレンイミン塩、ジメチルアミンエピハロヒドリン縮合体、ポリビニルアミン塩、ポリアリルアミン塩、ポリジメチルアミノエチルメタクリレート四級塩、ポリジアリルジメチルアンモニウム塩、ジアリルアミンアクリルアミド共重合体塩、ポリスチレンの四級アンモニウム塩等を用いることができる。
この中でもポリジアリルジメチルアンモニウム塩を用いることが好ましい。ポリジアリルジメチルアンモニウム塩を用いることで、さらにインク吸収性が向上できるためインクジェット記録適性に優れ、かつ表面強度をさらに向上させることができるためオフセット印刷適性に優れ、インクジェット記録およびオフセット印刷の双方に適した記録用紙が得られやすい。
【0050】
保水剤としては、ポリカルボン酸、アクリル系共重合体などのアルカリ増粘タイプ、アクリル系高分子、ポリエステルアミド、ポリエチレンオキサイドなどの親顔料ベースポリマーの両末端に親油基を配した会合タイプ、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどの天然由来タイプをあげることができる。
この中でもポリエステルアミドの多分岐分子を用いることが好ましい。ポリエステルアミドの多分岐分子を用いることで、さらにインク吸収性が向上できるためインクジェット記録適性に優れ、かつ表面強度をさらに向上させることができるためオフセット印刷適性に優れ、インクジェット記録およびオフセット印刷の双方に適した記録用紙が得られやすい。
【0051】
上述のごとく、接着剤として、少なくとも異なる2種類の親水性接着剤として好適にはポリビニルアルコールおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体を併用すること、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、好適には芳香族ビニル単量体からなる重合体を組み合わせるとともに水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤であり、当該水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤(重合接着剤)を組み合わせて用いることに加えて、滑剤としてパラフィンワックスおよびその金属塩を用い、さらには耐水化剤としてポリジアリルジメチルアンモニウム塩を用い、特に保水剤としてポリエステルアミドの多分岐分子を用いると、顔料塗工層を構成する塗工液の分散性や塗工作業性が良好になるとともに、特にインク吸収性および表面強度に優れた塗工層が得られるため、記録速度300m/分と高速インクジェット記録においても、筋状の記録不良が発生せず、かつオフセット印刷においても印刷抜け等のトラブルが発生しない記録用紙が得られやすい。
【0052】
さらにインクジェット記録適性およびオフセット印刷適性を向上させるためには、少なくとも異なる2種類の親水性接着剤として好適にはポリビニルアルコールおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体を併用すること、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、好適には芳香族ビニル単量体からなる重合体を組み合わせるとともに水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤であり、当該水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤(重合接着剤)との合計が、前記顔料に対して固形分の質量割合で、20〜63質量部であることが好ましく、70質量部を超えて85質量部以下であることがさらに好ましい。
【0053】
上記顔料および接着剤を主成分とする塗料の塗工量は特に限定されないが、片面あたり3〜15g/m2であることが好ましく、5〜11g/m2であることがより好ましい。3g/m2を下回ると塗工層がインクを十分に吸収できないだけでなく、にじみが発生し画像再現性が乏しい。15g/m2を超過するとインクジェット印字時の印字濃度が低下しやすいため好ましくない。
【0054】
本形態では、塗工層に光沢性や平坦性、印刷適性を付与する目的で、熱ロールを用いて平坦化処理を施すことが好ましい。一般に平坦化処理は、弾性ロールと金属ロールとの間に記録用紙を通し、記録用紙にニップ圧をかけて摩擦力により記録用紙表面を磨き、光沢性を付与するものである。
平滑化処理を行なう設備としては、従来製紙用途で用いられるマシンカレンダーや、ソフトカレンダー等を使用できる。
【0055】
平坦化後の記録用紙は、JIS P 8119:1998「紙および板紙−ベック平滑度試験機による平滑度試験方法」に準じて測定し、5〜60秒になるように調整することが好ましく、10〜45秒に調整することがさらに好ましい。5秒を下回ると印字濃度が低下しやすく、60秒を上回るとインクの吸収性が低下しやすい。
【0056】
上述のごとく、接着剤として、少なくとも異なる2種類の親水性接着剤として好適にはポリビニルアルコールおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体を併用すること、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、好適には芳香族ビニル単量体からなる重合体を組み合わせるとともに水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤であり、当該水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤(重合接着剤)を併用することに加えて、滑剤としてパラフィンワックスおよびその金属塩を用い、さらには耐水化剤としてポリジアリルジメチルアンモニウム塩を用い、保水剤としてポリエステルアミドの多分岐分子を用い、かつ、平坦化後の記録用紙の平滑度が10〜45秒、好ましくは20〜30秒であると、さらにインクジェット記録適性およびオフセット印刷適性を向上できるため好ましい。
【0057】
特にインクジェット記録適性およびオフセット印刷適性を向上させるためには、少なくとも異なる2種類の親水性接着剤として好適にはポリビニルアルコールおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体を併用すること、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、好適には芳香族ビニル単量体からなる重合体を組み合わせるとともに水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤であり、当該水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤(重合接着剤)との合計が、
前記顔料に対して固形分の質量割合で、20〜63質量部であることが好ましく、70質量部を超えて85質量部以下であることがさらに好ましい。
【実施例】
【0058】
次に、本発明の記録用紙を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0059】
(基紙)
基紙として、ニューブライトフォーム(104.7g/m2、大王製紙社製)を用いた。
【0060】
(塗工層)
基紙上に、顔料として表1に示す粒径の非晶質シリカ、炭酸カルシウム、クレーを表1に沿って用いるとともに、親水性接着剤として表2に示す種類および重合度・ケン化度を有するポリビニルアルコールと、エチレン−酢酸ビニル共重合体と、重合接着剤として脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤(型番:PPT7651、日本ゼオン社製)とを、顔料100質量部に対して表に記載の量を加え、さらに、顔料100質量部に対して滑剤(型番:SN−3X−4039、サンノプコ社製、成分:パラフィンワックスとその金属塩)0.2質量部、耐水化剤(型番:CP−261−LV、ナルコ社製、成分:ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド)15質量部、保水剤(トップブランS1、DSMジャパン社製、成分:ポリエステルアミドの多分基高分子)0.4質量部を混合して塗料を調製した。この塗料を基紙上に、ワイヤーバー(No.10)を用いて、片面あたり表に記載の塗工量となるよう塗工し、記録用紙を得た。
但し、実施例4および5、比較例8および9は、ソフトカレンダーによる平坦化処理にて、平滑度を表3に記載のとおり調整した。
また、比較例8,9,11については、重合接着剤に置き換えて、スチレン−ブタジエンラテックス(型番:L−1571、旭化成社製)を、比較例10、14,15については、重合接着剤に置き換えて、スチレン−アクリルラテックス(型番:ポリゾールAM230、昭和高分子社製)を用いた。
更に、実施例19は滑剤を配合せず、実施例8は耐水化剤を配合せず、実施例25は保水剤を配合しなかった。
【0061】
実施例で用いた顔料および接着剤は以下のとおりである。
(顔料)
・非晶質シリカ
名称:NIPGEL、型番:AY−4A2、東ソー・シリカ社製、粒径4.3μm。
名称:NIPGEL、型番:AY−8A2、東ソー・シリカ社製、粒径8.0μm。
(なお、実施例9に使用した粒径2.3μmの非晶質シリカは、実施例1に記載のものを粉砕し、実施例10に記載の非晶質シリカは、実施例11に記載の粒径8.0μmのものを粉砕し、それぞれ表に記載の粒径となるよう調製して用いた。粉砕は湿式粉砕機(品番:プラネタリーミル、セイシン企業製)を用いた)
・炭酸カルシウム
名称:タマパール、型番:TP−121−6S、奥多摩工業社製、粒径0.8μm。
クレー
名称:カオファイン、型番:カオファイン90、白石工業社製、粒径1.0μm。
【0062】
(接着剤)
ポリビニルアルコール
名称:PVA105、クラレ社製、実施例14
名称:PVA110、クラレ社製、実施例13
名称:PVA124、クラレ社製、実施例15
名称:PVA217、クラレ社製、実施例12
名称:PVA117、クラレ社製、実施例1〜11、実施例16〜20、比較例3,4,6,8,9、12〜15
名称:PVA135、クラレ社製、比較例11
名称:PVA103、クラレ社製、比較例12
・エチレン−酢酸ビニル共重合体
名称:リカボンド、型番:BE−814、中央理化工業社製
・脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体単位を主原料とし、水溶性高分子化合物としてポリビニルアルコールを結合または吸着してなる接着剤
名称:PPT7651、日本ゼオン社製、ポリビニルアルコールを付加重合させた接着剤。
・ラテックス
名称:ポリゾールAM230、昭和高分子社製社製、成分:アクリルラテックス、比較例4
名称:L−1571、旭化成社製、成分:スチレン−ブタジエンラテックス、比較例5
(評価)
【0063】
得られた記録用紙の塗工面について、次のとおり評価を行った。
(a)平滑度
JIS P 8119:1998「紙及び板紙−ベック平滑度試験機による平滑度試験方法」に準じて測定した。
(b)オフセット印刷適性
次の条件で記録用紙に印刷を行って印刷試験体を作製した。
・印刷機:RI‐2型、(株)明製作所製
・インク:WebRexNouverHIMARKプロセス(藍)、大日精化社製
・インク量:ロールに0.5ml・試験方法:ロールでインクを3分間練り(2分間練った後、ロールを反転させてさらに1分間練る)、回転速度30m/分で印刷を行った。
前記印刷試験体について、印刷抜けの発生度合いを目視およびルーペ(10倍)にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:印刷抜けがなく、オフセット印刷品質に特に優れる。
○:印刷抜けの発生が僅かであり、オフセット印刷品質に優れる。
△:印刷抜けの発生が少なく、オフセット印刷品質が良好である。
×:印刷抜けが発生し、オフセット印刷品質に劣る。
なお、前記評価基準のうち、◎、○、△を実使用可能と判断する。
(c)インクジェットインクの乾燥性評価
製造したインクジェット記録用紙における記録速度300m/分以上における乾燥性評価ついて、動的接触角測定装置(DCA−VZ 協和界面科学(株)社製)を用い、動的接触角を代替測定手段として以下の指標で評価した。
測定溶媒としては、Versamark専用インク2003ブラックを使用し、4μl滴下したときの0.1秒後の接触角(A)と0.2秒後の接触角(B)の差(B‐A)を測定した。この測定は、表裏各10箇所について行ない、その平均値を動的接触角とした。
発明者らは、(B‐A)の差が、0.1秒後の接触角50度未満で、かつ0.1秒後の接触角(A)と0.2秒後の接触角(B)の差(B‐A)が5度未満の場合、高速インクジェットプリンタでの印字の際、インクの筋状の汚れが発生しないこと、0.1秒後の接触角が50度以上の場合は、プリンターでの吸収不良が発生し、筋状の汚れが紙にみられること、0.1秒後の接触角(A)と0.2秒後の接触角(B)の差(B‐A)が5度以下の場合、高速インクジェットプリンタでの乾燥不良が発生し、前期同様に筋状の汚れが紙にみられることを知見している。
◎:(B‐A)の差が、0.1秒後の接触角50度未満で、かつ0.1秒後の接触角(A)と0.2秒後の接触角(B)の差(B‐A)が5度未満
×:0.1秒後の接触角が50度以上、かつ0.1秒後の接触角(A)と0.2秒後の接触角(B)の差(B‐A)が5度未満(使用不可)
××:0.1秒後の接触角(A)と0.2秒後の接触角(B)の差(B‐A)が5度以下。(使用不可)
(d)にじみ
インクジェットプリンタ(EPSON社製 PM−G800)を用いて文字の大きさ12ポイントでインクジェット記録を行ない、得られた文字のにじみによる可読性を、次のとおり目視評価した。
◎:にじみがなく、文字が容易に判断できる。
○:にじみが僅かにみられるものの、文字が容易に判断できる。
△:にじみが多少あるものの、文字が充分判別でき実使用可能。
×:にじみが多く、文字が判別できないものがあり、実使用不可能。
(e)耐水性
上記にじみ評価にて調製した印刷サンプルを、水中に3秒間浸漬した後、水中から印刷サンプルを取り出した際のの文字の可読性について、次のとおり目視評価した。
◎:にじみがなく、文字が容易に判断できる。
○:にじみが僅かにみられるものの、文字が容易に判断できる。
△:にじみが多少あるものの、文字が充分判別でき実使用可能。
×:にじみが多く、文字が判別できないものがあり、実使用不可能。
(f)印字濃度
上記にじみ評価にて調製した印刷サンプルについて、印字濃度を次のとおり目視評価した。
◎:印字濃度が高く、文字が容易に判断できる。
○:印字濃度が僅かに低いものの、文字が容易に判断できる。
△:印字濃度が低いものの、文字が充分判別でき実使用可能。
×:印字濃度が低く、文字が判別できないものがあり、実使用不可能。
評価結果を表1及び表2、表3に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
【表2】

【0066】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明によれば、インクジェット記録およびオフセット印刷の両方に対応した記録用紙を提供することができる。特に、記録速度300m/分でインクジェット記録を行っても筋状の記録不良が発生せず、かつオフセット印刷に耐え得る程度の表面強度を有する、インクジェット記録・オフセット印刷兼用紙を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙上に顔料および接着剤を主成分とする顔料塗工層が設けられた記録用紙において、
前記接着剤として、少なくとも異なる2種類の親水性接着剤並びに、脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体を主原料とし水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤、
を含む記録用紙。
【請求項2】
前記親水性接着剤と、
前記脂肪族共役ジエン系単量体及びエチレン系不飽和ニトリル単量体を主原料とし水溶性高分子化合物を結合または吸着してなる接着剤、
の合計含有割合が前記顔料100質量部に対して質量割合で、20から63質量部である、
請求項1記載の記録用紙。
【請求項3】
前記親水性接着剤が、下記のAおよびBであり、
前記水溶性高分子化合物が、ポリビニルアルコールである、
請求項1または2に記載の記録用紙。
A:ポリビニルアルコール
B:エチレン−酢酸ビニル共重合体

【公開番号】特開2011−110736(P2011−110736A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267136(P2009−267136)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】