説明

記録装置及びインク残量検知方法

【課題】インクタンク内のインク残量を検知する構成をもつインクジェット記録装置において、電源投入直後に記録の動作を短時間で開始する。
【解決手段】前回使用後の電源OFF時に異常なく終了し、電源ON時も異常がなければ、電源ON後に行っていたインクタンク内のインク残量の検知する動作を省略し、記録動作を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録装置及びそのインク残量検知方法に関し、詳しくは、インク残量を検出する機構を用いたインクジェット記録装置及びそのインク残量検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置(以下記録装置とも言う)におけるインク残量検知は、インクが無い状態で記録動作を行ってしまうことによる吐出不良や記録ヘッドの破損を未然に防止する目的、又はユーザにインクタンクの交換を促す目的等の目的で行われる。例えば、インクタンク内のインク量を検知することにより、その残量を表示したり、残量が少なくなった場合に警告を発したり、記録動作を停止させること等が行われる。
【0003】
インクタンク内のインク残量を検知する方式としては、様々なものが提案されており(例えば、特許文献1参照)、また複数のインク残量検知方式を並行して実施されているものもある。
【0004】
インクタンク内のインク残量を検知する方式の中でも、インク吐出の回数と記録ヘッドを回復させるための吸引回数とから算出されるインク消費量が所定量に達する毎に光学センサを用いてインク残量の検知を行う方式がある(特許文献2参照)。この方式は、検知手段である光学センサ自体のばらつき、光学センサの取付け精度によるばらつき及びインクタンクの製造上のばらつき等による検知精度の低下を生じさせない高精度なインク残量検知方式である。
【0005】
図1は特許文献2に記載されるインク残量検知方式と同様の方式である従来のインク残量検知方式の一例を示すフローチャートである。
【0006】
まず、ステップS110では、画像形成等の記録動作のためのインク吐出又は記録ヘッドの回復動作で行われる予備吐出若しくはインク吸引により消費される各インクのインク消費量を、インク吐出のために印加されるパルスのパルス数に換算して計数する。なお、本従来例では、上記吸引動作1回当たりのパルス数を、3×106パルスと換算している。
【0007】
ステップS120では、ステップS110にて計数されたパルス数が所定パルス数に達したか否かを判断する。本従来例ではこの所定パルス数を15×106パルスに設定している。この判断で、所定パルス数に達していないときは引き続き計数を行い、所定パルスに達した場合には、ステップS130においてインクタンクを搭載したキャリッジをフォトインタラプタが設けられる場所に移動してインクタンクの光反射率(出力値)を測定する。
【0008】
そして、次に、ステップS140で、過去3回の出力値とステップS130で測定した出力値から各出力値間の変化量を求めてそれらの合計値を求める。ステップS150では、この出力変化量の合計値と前回の同様に計算された合計値を比較し、前回求めた合計値よりも所定値であるα以上上昇したかを判別する。
【0009】
ここで、α以上上昇していないと判断したときにはステップS190でパルス数をカウントするカウンタをクリアしてステップS110に戻りパルス数の計数と出力値の取得を再び実行する。また、α以上上昇していると判断した場合にはステップS160に進み、インクタンクのインク残量が残り少なくなったことを表示する。そして、さらにステップS170で記録動作を中断しインクタンクの交換を待機する等の処理を行う。そして、上記パルス数をカウントするカウンタをクリアする(ステップS148)。このように、本インク残量検知動作では所定量のインクを消費する毎にフォトインタラプタによる出力値測定及びそれに基づく判断を行い、これにより定期的なインク残量検知動作を可能としている。
【0010】
一方、この他のタイミングにもインク残量検知動作を行う場合がある。例えば、記録装置の電源が投入(ON)された後に、記録装置の初期化動作の1つとして、インク残量の検知が行われている。これは、記録装置の電源が切断(OFF)されており記録装置にインク残量の変更が記憶できない間、インクタンクや記録ヘッドの着脱、インクの補充、インクの蒸発等によりインク残量の増減に変化があった場合に備える為である。そして、記録装置の電源が投入された後にインク残量検知を行って、記録装置に記憶されているインク残量との整合性を確認している。
【0011】
図2は、電源投入後の記録装置の初期化動作の一例を示す図である。
【0012】
まず、ステップS240で、記録装置のハードパワーのOFF又はONを行うかどうかを判断する。ハードパワーが既にONであれば、ソフトパワーをONし(ステップS250)、ステップS300に進む。ハードパワーがOFFであればハードパワーをONし、ステップS260によりソフトパワーをONし、ステップS270でハードパワーONのフラグをたてて、ステップS320に進む。
【0013】
ステップS320で、記録ヘッドの走査方向である主走査に対して副走査となる記録媒体の搬送について、副走査に関する初期化処理として機構動作が問題なく行われるように初期化し、また記録媒体が所定の初期位置に搬送されるように設定する。次にステップS330で、リフトアップ初期化処理として記録ヘッド部の上下動作が問題なく行われるように初期化し、また記録ヘッドが所定の初期位置に位置するよう設定する。続いて、ステップS340で、回復系イニシャル処理として、記録ヘッドを良好な状態にクリーニングするために使用するポンプやワイパー、キャップが問題なく動作するように初期化し、またこれらを所定の初期位置に設定する。これらステップS320、S330、S340によって本体機構の初期化動作をした後、ステップS380で、タンク検知として、インクタンクが正しく装着されているかの確認がされる。そして、ステップS390で、インク残量検知として、インクタンク内のインク残量の確認動作が行われる。その後、ステップS400で前回使用時からの経過時間などから記録ヘッドを良好な状態にクリーニングする吸引作業が必要に応じて(ステップS410)行われ、ステップS420で記録動作が開始される。
【特許文献1】特開平6−226989号公報
【特許文献2】特開平8−112910号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、光学的手段を用いて行うインク残量検知動作は光反射率の検知のためにキャリッジをフォトインタラプタ等のインク残量センサが設けられる位置まで移動させる動作が必要となる。
【0015】
上記特許文献1においても、インクタンク内のインク残量を検知する構成が示されているが、インク残量検知をするためにインクタンクが装着された記録ヘッドをインク残量センサの位置まで移動する必要があり、移動のための時間がかかってしまう。このため、ユーザが記録装置の電源投入直後に記録しようとした場合でも、記録が開始される前に、インク残量検知の動作のための時間を待つ必要があった。
【0016】
本発明は上記従来の問題点を解消するためになされたものであり、その目的とするところは、電源投入から記録開始までに要する時間を少なくすることが可能なインクジェット記録装置及びそのインク残量検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するため、本発明は、インクタンクに内包されたインクを吐出口から吐出するための記録ヘッドを用いて記録を行う記録装置であって、
前記インクタンク内のインク残量を検知する検知手段と、
電源切断時に異常が発生したか否かの情報を格納するための記憶手段と、
前記記憶手段に格納された情報に基づいて電源投入後の初期動作における前記検知手段の動作を制御する制御手段とを有することを特徴とする記録装置である。
【0018】
また、上記目的を達成するための別の本発明は、インクタンクに内包されたインクを吐出口から吐出するための記録ヘッドを用いて記録を行う記録装置であって、
前記インクタンク内のインク残量を検知する検知手段と、
電源投入時にハードパワーオンの処理を実行した場合には、前記検知手段の動作を抑止するよう制御する制御手段とを有することを特徴とする記録装置である。
【0019】
さらに、上記目的を達成するためのさらに別の本発明は、インクタンクに内包されたインクを吐出口から吐出するための記録ヘッドを用いて記録を行う記録装置における、前記インクタンク内のインク残量を検知するインク残量検知方法であって、
電源切断時に異常が発生したか否かの情報を記憶する記憶工程と、
前記記憶工程において記憶された情報に基づいて電源投入後の初期動作におけるインク残量を検知する動作を制御する制御工程とを有することを特徴とするインク残量検知方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、インクタンク内のインク残量を検知する構成をもつインクジェット記録装置において、電源投入直後に記録動作を短時間で開始できるインクジェット記録装置及びそのインク残量検知方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
【0022】
なお、この明細書において、「記録」とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、又は媒体の加工を行う場合も表すものとする。また、人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わない。
【0023】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0024】
また、「インク」とは、上記「記録」の定義と同様広く解釈されるべきもので、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成又は記録媒体の加工、或いはインクの処理に供され得る液体を表すものとする。インクの処理としては、例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固又は不溶化させることが挙げられる。
【0025】
図3は、本発明の一実施例に係るカラーインクジェットプリンタの記録部の概略構成を示す斜視図である。
【0026】
図3において、104は複数の吐出口を配列し各吐出口からインク滴を吐出する記録ヘッドを有したヘッドユニットをキャリッジ103に着脱自在に装着するための固定レバーであり、ヘッドユニットはこの固定レバー104内に格納される。本実施例の場合、ヘッドユニットは、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)及びブラック(K)の4色のインクの記録ヘッドを一体に有している。この記録ヘッドから吐出されるインク滴により記録媒体としての例えば記録紙110上にドットが形成され、これにより、カラー画像等の記録を行うことが可能となる。なお、102YはYインクを、102MはMインクを、102CはCインクを、102KはKインクを、夫々内包したインクタンクである。
【0027】
キャリッジ103は、キャリッジ駆動用モータ113の駆動力がモータプーリ112、従動プーリ111及びタイミングベルト116を介して伝達されることにより、ガイド軸105に沿って図中矢印a及びb方向へ移動することが可能なように設けられている。一方、記録紙110は、その搬送方向において上流側及び下流側に設けられた2組の搬送ローラ106及び107並びに108及び109によって搬送される。
【0028】
また、記録紙110は記録ヘッドの吐出口と対向する位置において平坦な記録面を形成するよう、その裏面をプラテン(不図示)により支持されている。以上の、キャリッジ103の移動による記録ヘッドの走査及び搬送ローラ106から109による記録紙110の搬送により、記録紙110の所定領域に順次画像等が形成されて行く。
【0029】
なお、これら記録のための画像データ等は、フレキシブルケーブル(不図示)を介してプリンタ本体の制御部をなす電気回路から記録ヘッドの駆動回路に伝送される。
【0030】
記録ヘッドのホームポジションには、回復ユニット120が配設される。回復ユニット120は、各インクの記録ヘッド夫々に備えられている吐出口列に対応して配置された4個のキャップ121と各キャップにチューブ等で接続されたポンプユニット(不図示)とを備えている。キャップ121は、上下方向に昇降可能であり、記録ヘッドがホームポジションにあるときにそれぞれ対応する記録ヘッドの吐出口を配設した面(以下、吐出口面ともいう)に密着して吐出口を覆う(キャッピングをする)ように構成されている。このキャッピングにより、吐出口内のインクの蒸発による増粘又は固着が防止され、これにより吐出不良の発生を未然に防止することができる。また、インクタンクの交換時や記録ヘッドの吐出不良が生じた場合には、上述のキャッピング状態のもとでポンプユニットを作動させてキャップ内を負圧とし、この負圧による吸引力で吐出口からインクを吸い出し新しいインクを導く吸引回復処理が行われる。さらに、回復ユニット120には、キャップ121と記録領域との間に、記録ヘッドの吐出口面に付着したインク滴等を拭き取り吐出口面を清掃するためのワイパーブレード122が設けられている。
【0031】
前記キャップ121とワイパーブレード122との間には、光学的にインク残量を検知するためのフォトインタラプタ123が設けられる。このフォトインタラプタ123は、後述するようにキャリッジ103上の各インクタンクの底面に光を照射するとともにその反射光を受光しインクタンクの光反射率を測定するために用いられる。すなわち、キャリッジ103を移動させて各インクタンクをフォトインタラプタに対向させることにより各インクタンクの光反射率を測定できるように構成されている。
【0032】
図4は、キャリッジ103に搭載されるヘッドユニット及びインクタンクを示す斜視図である。
【0033】
キャリッジ103には、K、C、M及びYのインクをそれぞれ吐出する4つの記録ヘッド(不図示)を格納したヘッドユニット101が搭載されている。さらに、それぞれ対応する記録ヘッドに供給するインクを内包したインクタンク102K、102C、102M及び102Yが搭載されている。4つの記録ヘッドは、それぞれ吐出口を具備しており、これらの吐出口からインク滴が吐出される。また4つのインクタンクは各々キャリッジ103に着脱可能に装着されるものであり、インクがなくなった時点で新たなインクタンクに交換することができる。
【0034】
ヘッドユニット101のカバー部材をなす固定レバー104は、ヘッドユニット101をキャリッジ103に位置決めし、固定するためのものである。キャリッジ103の一部に設けられたボス103bと固定レバー104の穴104aとが回転自在に嵌合することにより、固定レバー104の開閉が可能となり、これによって記録ヘッド312の交換が可能になる。また、固定レバー104を閉じることにより記録ヘッド312と装置本体との電気信号等の接続が可能となる。
【0035】
図5は、上述したインクジェットプリンタの制御構成を示すブロック図である。
【0036】
図5おいて、301は、インクジェットプリンタ全体を制御するためのシステムコントローラである。システムコントローラ301の内部には、マイクロプロセッサ(MPU)、制御プログラムが収納されている記憶素子(ROM)、MPUが処理を行う際に使用する記憶素子(RAM)、EEPROM等の不揮発性で書換え可能な記憶素子等が設けられている。
【0037】
302は、キャリッジ103を移動させるためのモータ304を駆動するドライバであり、同様に303は、記録媒体を搬送するためのモータ305を駆動するドライバである。すなわち、モータ304及び305は、対応するドライバからの速度、移動距離などの情報を受け取り動作する。
【0038】
307は、ホストコンピュータ306から送られるデータを一時的に格納するための受信バッファであり、システムコントローラ301によりデータが読み込まれるまでデータを蓄積しておく。また、308は、記録すべきデータをイメージデータに展開するためのフレームメモリであり、システムコントローラ301が受信バッファ307から読込んだデータに基づいて展開するイメージデータを格納する。このフレームメモリ308は、記録に必要な分のメモリサイズを有しており、本実施例では記録媒体1枚分のイメージデータを記憶可能なものである。しかし、本発明の適用がこのフレームメモリのサイズには限定されないことは勿論である。さらに、309は、記録ヘッドの走査による1ライン分の記録データを記憶するためのメモリであり、記録ヘッドの吐出口数に対応した記憶容量を有している。
【0039】
310は、システムコントローラ301からの指令により記録ヘッドの駆動を制御する記録制御部であり、例えば記録ヘッドの吐出周波数や吐出数等を制御する。また、ここでは、記録ヘッド312K、312C、312M及び312Yそれぞれによるインク滴の吐出数と、記録ヘッドの回復のために行われる吸引回数を計数し、インク毎のインク消費量をインク滴数(パルス数)に換算する処理も行われる。311は、記録制御部310の制御により各記録ヘッド312K、312C、312M及び312Yを駆動してインク吐出を行わせるドライバである。
【0040】
313は、上述した図3のフォトインタラプタ123からの出力を得てその出力値に応じたデジタル値に変換する検出部である。
【0041】
図6は、上述した記録ヘッド312及びインクタンク102のより詳細な構成を示す模式図であり、また、図7は記録ヘッド312の縦断面図である。
【0042】
これら図に示すように、記録ヘッド312にはインク滴を吐出させるための吐出口2が配置されている。吐出口2にはインクタンク102からその供給口4、供給管5、共通液室13及びインク流路17を介してインクが供給される。吐出口2に供給されたインクは、Al等よりなるベース板14に取付けられたヒーターボード15上に形成されたヒーター16によって加熱され、この加熱により生成した気泡によって吐出口2より微小液滴となって吐出される。
【0043】
インクタンク102には上述の供給口4のほかにインク消費に伴う気液交換を行うための大気連通口6が設けられている。また、インクタンク102の内部にはポリウレタン等のインク吸収体7が収められ、その毛管力により記録の際に適切な負圧を発生させ安定したインク滴の吐出を実現させている。
【0044】
記録ヘッド312及びインクタンク102は上述したようにキャリッジ103に搭載され、このキャリッジと摺動可能に係合するシャフト9及び10に沿って走査される。また、図3に示したように、キャリッジ103の走査方向の所定位置にはLED素子と受光素子とが一体になった反射型フォトインタラプタ123が設けられている。このフォトインタラプタ123は、上記所定位置においてキャリッジ103に開けられた穴12を通してインクタンク102の吸収体7の底面に光を照射することができる。このフォトインタラプタ123のLEDはカラープリンターで通常使用される黒、シアン、マゼンタ、イエローの4色のインク何れにも透過性を有する赤外光を発光し、受光素子もこのLEDが発光する赤外光の反射光の波長に対して十分な感度を有している。ここで、フォトインタラプタ123をキャリッジ103とは別個に設けることにより、キャリッジ103とインクジェットプリンタ本体との間でフォトインタラプタ用の給電線や信号線などが不要となる。
【0045】
図8(a)及び(b)は、インクタンク102の下面に対しフォトインタラプタ123が光照射している様子を模式的に示す図である。図8(a)に示すように、インクタンク102にインクが十分あるときはインクタンク102の壁面と吸収体7の隙間はインクで充填されている。また、図8(b)に示すように、インクタンク102にインクが無いか少なくなっているときはインクタンク102の壁面と吸収体7の隙間には空気が入り込んでいる。その結果、図8(b)の状態は図8(a)の状態に比べフォトインタラプタ123より照射した光の反射率が大きくなる。例えば、インクタンク102及び吸収体7の材質をプラスチックとしてその屈折率を約1.5とし、インクの屈折率を約1.4とすると、図8(b)の状態での光の反射率は、図8(a)の状態での光の反射率の約40倍あることになる。このため、この差によってインクの有無を検出することができる。
【0046】
なお、実際にはフォトインタラプタ123が光を照射している領域は点ではなくある所定の大きさの領域であり、その領域において徐々にインクが無くなることを検出するのでフォトインタラプタ123の出力も連続的に変化する。
【0047】
図9(a)はフォトインタラプタ123の出力が連続的に変化する様子を模式的に表したものである。図9(a)は、初期状態からインクタンク102のインクが無くなるまで記録を行ったとき、すなわち、記録された記録媒体の記録枚数が増加していったとき(横軸)のフォトインタラプタ123の出力(縦軸)の関係を示している。記録枚数がX枚に至るまではフォトインタラプタ123の出力はほぼ一定であるが、記録枚数がX枚を過ぎた後にフォトインタラプタ123が光を照射する領域のインクが減少し、フォトインタラプタ123の出力が上昇することを示している。したがって、X枚の記録枚数を過ぎた後、所定量のインクを消費する毎にフォトインタラプタの出力値を測定し、その消費の前後の出力変化を検知すれば、その変化率と図9(a)に示す関係からインクタンク102のインク残量を知ることが可能となる。
【0048】
なお、図9(b)はフォトインタラプタ123とインクタンク102との距離に応じて出力特性の違いを示す図である。この図からも明らかなように、設定される距離にかかわらず、出力の変化点である記録枚数Xの値はほとんど変わらないことがわかる。
【0049】
図10は、異なる4つのインクタンクでの実際の出力特性を示したものである。これらのインクタンクを用いて所定の画像を記録した場合に、所定消費量である5×106パルスに相当するインク消費量毎の出力値の測定結果をプロットしたものである。なお、縦軸の出力値は、LEDをオフとした時のフォトインタラプタからの出力(暗電圧)からLEDをオンとした時のフォトインタラプタからの出力(明電圧)を差し引いたものを示している。
【0050】
図10より明らかなように、インクタンクによって出力値が異なっているため、各インクタンクの出力値について単一の閾値を定めてインク残量を検知することは困難である。しかし、各インクタンクについて出力値の変化量(変化率)を測定すれば、各インクタンクのインク残量を検知することができる。
【0051】
一方、上述したように記録枚数がX枚に至るまではフォトインタラプタ123の出力はほぼ一定である。これは、記録枚数がX枚に至るまではフォトインタラプタ123から光が照射される領域に十分なインクがあるためである。このことを利用し、インク残量検知が行われた後に新しいインクタンクへの交換が行われた場合、出力変化が少ないことを検知した後自動的に、インク残量が少ない旨の報知をすることを一定期間停止させることもできる。
【0052】
なお、本発明は、記録ヘッド312とインクタンク102とが独立して着脱可能な記録装置の他、記録ヘッド312とインクタンク102とが一体型のヘッドカートリッジを用いた記録装置にも適用可能である。
【0053】
図12は、インクタンク102と記録ヘッド312とが一体的に形成されたヘッドカートリッジの構成を示す外観斜視図である。図12において、点線Kはインクタンク102と記録ヘッド312の境界線である。フォトインタラプタ123から出力された光がインクタンク102に照射されてインク残量検知が行われることは上記のインクタンク102と記録ヘッド312とが分離するタイプのヘッドカートリッジにおける場合と同様である。ヘッドカートリッジにはこれがキャリッジに搭載されたときには、キャリッジ側から供給される電気信号を受け取るための電極(不図示)が設けられている。そして、この電気信号によって、前述のように記録ヘッドが駆動されてインクが吐出される。なお、図12において、500はインク吐出口列である。
【0054】
(第1の実施例)
図11は、記録装置の電源を切断してから、電源投入し、その後記録を開始するまでに行われる初期動作の一例を説明するものである。なお、本明細書では、電源より電力が記録装置に供給される状態をハードパワーONのステータスといい、電源より電力が記録装置に供給されない状態をハードパワーOFFのステータスという。また、ハードパワーがONのステータスで記録装置が動作可能な状態をソフトパワーONのステータスという。また、ハードパワーがONのステータスで、記録を実行するための回路等への電源供給が行われておらず、記録装置が記録動作不可能な状態をソフトパワーOFFのステータスという。さらに、電源切断とは、ハードパワーONの状態のままソフトパワーオフのみを実行する処理を示すものである。さらにまた、電源投入とは、ハードパワーONの状態であればソフトパワーオンが行われる処理、ハードパワーOFFの状態であればハードパワーオンとソフトパワーオンとが行われる処理を示すものである。
【0055】
記録装置の電源切断時となるソフトパワーOFF処理を開始した際に、まず、ステップS210で、フェイタルエラーが発生した場合、異常終了と判断する。そしてその判断結果に基づいて、ステップS220において異常終了フラグをたて、システムコントローラ301の不揮発性で書換え可能な不揮発性の記憶素子に格納し、ソフトパワーOFFの処理を完了する(ステップS230)。ステップS210でフェイタルエラーが発生しなかった場合、そのままソフトパワーOFFの処理を完了する(ステップS230)。
【0056】
なお、本例では、上記のフェイタルエラーとして、例えば以下に挙げるような異常動作を検知する。ソフトパワーOFFの命令が出されると記録装置の個々の機構は決められた位置に設定されるよう動作するが、その動作途中でハードパワーがOFFされ、その動作を完了できなかった場合がある。また、紙詰まりエラーが出たままソフトパワーOFFされた場合がある。また、ソフトパワーOFFの命令が出された際の動作時にインクタンクの誤装着が認められた場合がある。このような場合、本例では、フェイタルエラーとして検知して、その情報を不揮発性の記憶素子に記憶する。
【0057】
ステップS240からステップS270までは、図2と共通するため説明を省略する。なお、ステップS240においてハードパワーがON処理を行うことが判断され、ハードパワーオンされると、その情報(ハードパワーONのフラグ)は、ステップS270においてシステムコントローラ301の不揮発性で書換え可能な記憶素子に格納される。
【0058】
その後、ステップS350で、ハードパワーONのフラグが有るか否かを確認する。ハードパワーONのフラグが有るとの確認結果であった場合はステップS380に進み、ハードパワーONのフラグが無いとの確認結果であった場合はステップS360に進む。ステップS360では、異常終了フラグが有るか否かを確認する。異常終了フラグが有るとの確認結果であった場合はステップS380に進み、異常終了フラグが無いとの確認結果であった場合はステップS370に進む。なお、ステップS380からステップS420までは、図2と共通するため説明を省略する。
【0059】
このように、インク残量検知を行うステップであるステップS390を実施するのは、次の条件の少なくとも一方の条件を満たす場合であり、そうでない場合は、初期動作としてインク残量検知を行うことを抑止する。
【0060】
インク残量検知を行う第1の条件は、記録を開始しようとする際に、ハードパワーがOFFされていて、ハードパワーONの処理を要した場合である。また、インク残量検知を行う第2の条件は、前回の記録等が終了しソフトパワーOFFする際にフェイタルエラーが発生していた場合である。
【0061】
前記第1の条件について、具体的には、例えば、前回の記録等が終了し、正常にソフトパワーOFFされた後ハードパワーもOFFされ、記録を開始しようとする際までハードパワーがOFFされていた場合がある。つまり、ハードパワーオフの状態では記録装置に電源が供給されていないため、インクタンクの着脱など記録装置の変化を検知できない。したがって、本例では、第1の条件を満たすような場合に、初期化シーケンスにおいてインク残検を実施するようにしている。
【0062】
このように本実施例では電源投入時の初期化シーケンスにおいて、ソフトパワーOFFの命令が出された際の動作が正常に終了し、且つハードパワーオン処理が実行されなかった場合にインク残量検知を省略することにより短時間で記録を開始することができた。
【0063】
なお、本実施例においては、上記の第1、第2の条件のうち少なくとも一方の条件を満たした場合には、インクの残量検知を実行するようにした。しかし、本発明はこの構成に限られず、記録開始前にインク残検を実施するか否かの条件を、いずれか一方の条件のみとして、さらに短時間で記録を開始できるようにしてもよい。
【0064】
(第2の実施例)
第1の実施例では、記録を開始しようとする際にハードパワーONの処理を要したか否かの条件、およびソフトパワーOFFする際にフェイタルエラーが発生していたか否かの条件に応じて、インク残量検知の実行を制御した。これに対し、本実施例では、第1の実施例の2条件に加えて、電源投入後の記録装置の状態を検知してインク残量検知を実行するか否かを決定する。具体的には、キャップがオープン状態となっているか否か、およびインクタンク、記録ヘッドに着脱された履歴があるかを検出して、インク残量検知を実行するか否かを決定する。
【0065】
以下の説明では、すでに第1の実施例で説明した構成、並びに制御方法については説明を省略し、本実施例の特徴的構成を中心に説明を行う。
【0066】
図13は、本例において、記録装置の電源を切断してから、電源投入し、その後記録を開始するまでに行われる初期動作を説明するものである。
【0067】
記録装置の電源切断時となるソフトパワーOFF処理、および電源投入時のハードパワーON処理に係わるステップS200からS270までは、既に説明した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0068】
ステップS270の後、ステップS280に進むと、ソフトパワーONした際にキャップ(CAP)がオープン状態であったか否かを判断し、キャップがオープン状態であった場合は、ステップS290で異常終了フラグをたてステップS300に進む。キャップがオープン状態でなかった場合は、そのままステップS300に進む。
【0069】
そして、ステップS300でインクタンクや記録ヘッドが着脱された履歴があるかを確認する。その後、着脱された履歴があればインクタンク及び記録ヘッドの着脱フラグをたて、システムコントローラ301の不揮発性の記憶手段に記憶する(ステップS310)。その後、ステップS320に進み着脱された履歴が無ければそのままステップS320に進む。
【0070】
ステップ320からS350までの処理は、第1の実施例の処理と同様なため説明を省略するが、本実施例でも、ステップS350において、記録開始時にハードパワーON処理を実行した場合には、インク残検を行うようにしている。
【0071】
ステップ360では、異常終了フラグが有るか否かを確認する。異常終了フラグが有るとの確認結果であった場合はステップS380に進み、異常終了フラグが無いとの確認結果であった場合はステップS370に進む。なお、第1の実施形態では、ソフトパワーOFF処理の際にフェイタルエラーが発生した場合のみ、S360で異常終了フラグありと判断され、ステップS390においてインク残量検知が実施されていた。これに対し、本例では、S280により、ソフトパワーON時にキャップがオープン状態であった場合でも異常終了フラグをたてている。したがって、ステップ360では、ソフトパワーOFF処理の際にフェイタルエラーが発生した場合に加えて、ソフトパワーON時にキャップがオープン状態であった場合も、インク残量検知が行われるようにステップS390へと進む。
【0072】
ステップS370では、インクタンク又は記録ヘッドの着脱フラグが有るか否かを確認する。インクタンク又は記録ヘッドの着脱フラグが有るとの確認結果であった場合はステップS380に進み、インクタンク又は記録ヘッドの着脱フラグが無いとの確認結果であった場合はステップS420に進み記録を開始する。なお、ステップS380からステップS420までは、既に説明した通りであり、その説明を省略する。
【0073】
このように、本実施例では、電源投入後の記録装置の状態を確認し、キャップがオープン状態となっている場合、およびインクタンク、記録ヘッドに脱着された履歴がある場合にもインク残量検知を実行するようにしている。
【0074】
本実施例によれば、ソフトパワーOFF処理などが正常に行われたものの、その後の記録装置の運搬などでキャップが外れてしまった場合であっても、初期動作シーケンスにおけるインク残量検知を行うように構成されている。記録開始時にキャップが外れていた場合には記録ヘッド内のインクの水分が蒸発して、正常な記録が行えない虞もある。しかし、本実施形態では、電源投入時にキャップがオープン状態となっている場合にはインク残量検知を行うため、良好な画像記録を維持することが可能となる。
【0075】
また、前回の記録終了後から記録開始前までにインク残量の少ないインクタンクに交換される場合もあるが、本実施例はインクタンクに着脱履歴に応じてインク残検を実行する。これにより、インク残量が少ない状態で記録が実行され、かすれた画像が記録されるなどの弊害が抑制される。さらに、例えばインクタンクとインクジェットヘッドとが分離可能な記録装置においては、記録ヘッドが着脱された場合には、インクタンクと記録ヘッドとのジョイント部が大気に曝されてジョイント部からインクが蒸発する場合がある。そして、装着された記録ヘッドとインクタンクとのジョイント部でのインク供給不良が懸念される。このように、記録ヘッドが着脱された場合には、インク供給不良を起こさないために吸引回復が必要であり、本実施例においてはインク残量検知を行うようになっている。
【0076】
本実施例では、電源投入後、キャップがオープン状態となっている場合、およびインクタンク、記録ヘッドに脱着された履歴がある場合には、インク残量検知を行う。このため、第1の実施例よりも記録開始までに時間を要する場合があるものの、良好な画像を記録できるようになる。なお、本発明は、キャップがオープン状態となっている場合、且つインクタンク、記録ヘッドに脱着された履歴がある場合のみインク残量検知の実行を抑止する構成に限られない。例えば、どちらか一方のみを、記録開始時にインク残量検知を実行するか否かの条件とすることで、さらに短時間で記録を開始できるようにしてもよい。
【0077】
(その他の実施例)
以上の各実施例は、特にインクジェット記録方式の中でも、インク吐出を行わせるために熱エネルギーを発生する手段を備え、前記熱エネルギーによりインクの状態変化を生起させる方式を用いることにより記録の高密度化、高精細化が達成できる。
【0078】
また、記録装置の記録モードとしては黒色等の主流色のみの記録モードだけではなく、記録ヘッドを一体的に構成するか複数個の組み合わせによって、異なる色の複色カラー、又は混色によるフルカラーの少なくとも1つを備えた装置とすることもできる。
【0079】
さらに、本発明に係る記録装置の形態としては、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力端末として一体又は別体に設けられるものの他、リーダ等と組み合わせた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を取るものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】従来の残量検知処理を示すフローチャートである。
【図2】従来の電源投入後の初期動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施例に係わるインクジェットプリンタの概略斜視図である。
【図4】ヘッドユニット、インクタンク及びキャリッジを示す概略斜視図である。
【図5】本発明の一実施例に係わるインクジェットプリンタの制御構成を示す図である。
【図6】記録ヘッドとインクタンクとの接続状態を示す断面図である。
【図7】記録ヘッドの先端部を示す断面図である。
【図8】本発明の一実施例に係わるフォトインタラプタによるインク残量検出の原理を説明する図である。
【図9】インクの減少に伴う光反射率の変化を説明する図である。
【図10】光反射率の変化をインクの種類毎に示す図である。
【図11】本発明の第1の実施例による初期動作のを示すフローチャートである。
【図12】インクタンクと記録ヘッドとが一体的に形成されたヘッドカートリッジの構成を示す外観斜視図である。
【図13】本発明の第2の実施例による初期動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0081】
2 吐出口
102 インクタンク
123 フォトインタラプタ
301 システムコントローラ
310 記録制御部
312 記録ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクタンクに内包されたインクを吐出口から吐出するための記録ヘッドを用いて記録を行う記録装置であって、
前記インクタンク内のインク残量を検知する検知手段と、
電源切断時に異常が発生したか否かの情報を格納するための記憶手段と、
前記記憶手段に格納された情報に基づいて電源投入後の初期動作における前記検知手段の動作を制御する制御手段とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記検知手段は、前記インクタンク内のインク残量を光学的に検知することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記格納手段に格納された情報が電源切断時に異常が発生したことを示す情報の場合に、前記検知手段の動作を抑止するよう制御することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項4】
前記記録ヘッドの吐出口を覆うキャップをさらに有し、
前記制御手段は、電源投入時に前記記録ヘッドが前記キャップにより覆われている場合には、前記検知手段の動作を抑止するよう制御することを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
前記インクタンクは、前記インクジェット記録装置に対して着脱可能であって、
前記制御手段は、電源切断されてから電源投入までに前記インクタンクが着脱されていない場合には、前記検知手段の動作を抑止するよう制御することを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項6】
前記記録ヘッドは、前記インクタンクおよびインクジェット記録装置に対して着脱可能であって、
前記制御手段は、電源切断されてから電源投入までに前記記録ヘッドが着脱されていない場合には、前記検知手段の動作を抑止するよう制御することを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項7】
前記記憶手段は、不揮発性のメモリであることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項8】
前記制御手段は、電源投入時にハードパワーオンの処理を実行した場合には、前記検知手段の動作を抑止するよう制御することを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項9】
インクタンクに内包されたインクを吐出口から吐出するための記録ヘッドを用いて記録を行う記録装置であって、
前記インクタンク内のインク残量を検知する検知手段と、
電源投入時にハードパワーオンの処理を実行した場合には、前記検知手段の動作を抑止するよう制御する制御手段とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項10】
インクタンクに内包されたインクを吐出口から吐出するための記録ヘッドを用いて記録を行う記録装置における、前記インクタンク内のインク残量を検知するインク残量検知方法であって、
電源切断時に異常が発生したか否かの情報を記憶する記憶工程と、
前記記憶工程において記憶された情報に基づいて電源投入後の初期動作におけるインク残量を検知する動作を制御する制御工程とを有することを特徴とするインク残量検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−290451(P2008−290451A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114421(P2008−114421)
【出願日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】