説明

記録装置及び液体噴射装置

【課題】 PG切り換え操作において記録ヘッドと被記録媒体との干渉を防止するとともに、短時間でPG切り換え操作を行うことのできる記録装置を提供する。
【解決手段】 ギャップ調節手段51は、キャリッジガイド軸34を回動させることで、キャリッジガイド軸34の軸芯の位置を変位させ、被記録媒体と記録ヘッドとの間のギャップを調節する。動力伝達手段67は、駆動モータ52からキャリッジガイド軸34へ動力を伝達する。キャリッジから押されることによって、隣接する歯車と噛合する噛合位置と、隣接する歯車と噛合しない非噛合位置とを変位する歯車64は、キャリッジの移動領域において、キャリッジのホームポジションに近い端部の側に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被記録媒体に記録を行う記録装置に関する。また、本発明は、液体噴射装置に関する。
【0002】
ここで、液体噴射装置とは、インクジェット式記録ヘッドが用いられ、該記録ヘッドからインクを吐出して被記録媒体に記録を行うプリンタ、複写機およびファクシミリ等の記録装置に限らず、インクに代えてその用途に対応する液体を前記インクジェット式記録ヘッドに相当する液体噴射ヘッドから被記録媒体に相当する被噴射媒体に噴射して、前記液体を前記被噴射媒体に付着させる装置を含む意味で用いる。
液体噴射ヘッドとして、前記記録ヘッドの他に、液晶ディスプレー等のカラーフィルター製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレーや面発光ディスプレー(FED)等の電極形成に用いられる電極材(導電ペースト)噴射ヘッド、バイオチップ製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド、精密ピペットとしての試料噴射ヘッド等が挙げられる。
【背景技術】
【0003】
Fax、プリンタ等に代表される記録装置或いは液体噴射装置には、多様な種類の被記録媒体、より具体的には厚さの異なる多様な被記録媒体に適切に記録を行うために、特許文献1に示すように記録ヘッドと被記録媒体とのギャップ(以下「PG」と言う)を調節(切り換え)可能に構成されたものがある。
【0004】
そのような記録装置の多くは、特許文献1に示すように、キャリッジガイド軸を偏心軸構造とすることで、キャリッジガイド軸の回転に伴ってキャリッジを上下動することにより、PGを切り換えるよう構成されている。また、特許文献1に示すように、PGを手動によって切り換えるのではなく、モータの駆動力によって自動的に切り換える構成も存在していた。
【0005】
【特許文献1】特開2002−67428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、PGを切り換えるために専用のモータを設けたのではコストアップを招くこととなるので、例えば、被記録媒体を搬送する搬送ローラを駆動するためのモータと兼用し、必要に応じてモータからキャリッジガイド軸への動力を伝達し、或いは切断するように構成することが望ましい。
ここで、モータからキャリッジガイド軸への動力の伝達および切断の切り換え操作を、キャリッジによって行うことも可能である。即ち、キャリッジと係合可能な位置に被係合部材を設け、キャリッジによって前記被係合部材を押すことで、モータからキャリッジガイド軸への動力伝達の切り換えを行うように構成することも可能である。
【0007】
この様に構成することは、部品点数の削減が可能であり、コスト的に好ましいが、その一方で以下のような問題が生ずる。即ち、キャリッジが被係合部材を押しに行く過程において記録ヘッドと対峙する位置に記録用紙が存在すると、当該記録用紙に適切なPGに切り替わっていない状態では記録ヘッドが記録用紙と擦れたり、記録ヘッドが記録用紙の側端に衝突して紙ジャムとなる虞がある。また、PGが十分大きく確保されていない状態において、光ディスク等の薄板状体をセットしたトレイが搬送経路に挿入されると、同様にトレイが記録ヘッドと衝突し、ひいては故障を来す虞もある。
また、キャリッジが被係合部材を押しに行く際にキャリッジ走行距離が長いと、PG切り換え操作に時間を要することになる。
【0008】
そこで本発明はこの様な状況に鑑みなされたものであり、その目的は、PG切り換え操作において記録ヘッドと被記録媒体との干渉を防止するとともに、短時間でPG切り換え操作を行うことのできる記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、被記録媒体に記録を行う記録ヘッドを支持するとともに主走査方向に往復動可能なキャリッジと、前記キャリッジを主走査方向にガイドするキャリッジガイド軸と、前記キャリッジガイド軸の軸芯の位置を変位させることにより、被記録媒体と前記記録ヘッドとの間のギャップを調節するギャップ調節手段と、を備えた記録装置であって、前記ギャップ調節手段は、前記キャリッジガイド軸を回動させることで、前記キャリッジガイド軸の軸芯位置を変位させるよう構成されるとともに、前記キャリッジガイド軸を回動させる駆動モータと、前記キャリッジからトリガを受けることにより、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸に動力を伝達する動力伝達状態と、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸へ動力を伝達しない動力切断状態と、を切り換え可能に構成された動力伝達手段と、を備え、前記動力伝達手段において前記キャリッジからトリガを受ける被係合部材が、前記キャリッジの移動領域においてホームポジションに近い端部の側に配置されていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、キャリッジからトリガを受ける被係合部材が、キャリッジの移動領域においてホームポジションに近い端部の側に配置されているので、キャリッジはホームポジションから被係合部材を押しに行く過程において被記録媒体の搬送経路を跨ぐ必要がなく、即ち被記録媒体と干渉することがない。従ってこれにより、PGが不適切な状態に設定されていても、記録ヘッドと被記録媒体との干渉を防止することができる。また、被係合部材を押しに行く際のキャリッジの走行距離を極めて短くすることができ、短時間でPG切り換え操作を行うことが可能となる。
【0011】
本発明の第2の態様は、上記第1の態様において、被記録媒体としての薄板状体をセット可能なトレイを搬送可能なトレイ搬送経路を、前記キャリッジの移動領域において、前記被係合部材の配設位置に対して前記キャリッジのホームポジションを挟む位置に備えていることを特徴とする記録装置。
本態様によれば、被記録媒体としての薄板状体をセット可能なトレイを搬送可能なトレイ搬送経路を、前記キャリッジの移動領域において、前記被係合部材の配設位置に対して前記キャリッジのホームポジションを挟む位置に備えているので、キャリッジがホームポジションから被係合部材を押しに行く過程においてトレイと干渉することがなく、記録ヘッドとトレイとの干渉を防止でき、故障等を招く虞がない。
【0012】
本発明の第3の態様は、被記録媒体に記録を行う記録ヘッドを支持するとともに主走査方向に往復動可能なキャリッジと、前記キャリッジを主走査方向にガイドするキャリッジガイド軸と、前記キャリッジガイド軸の軸芯の位置を変位させることにより、被記録媒体と前記記録ヘッドとの間のギャップを調節するギャップ調節手段と、を備えた記録装置であって、前記記録装置は、被記録媒体としての薄板状体をセット可能なトレイを搬送可能なトレイ搬送経路を備え、前記記録ヘッドによって前記トレイにセットされた前記薄板状体に記録を実行可能に構成され、前記ギャップ調節手段は、前記キャリッジガイド軸を回動させることで、前記キャリッジガイド軸の軸芯位置を変位させるよう構成されるとともに、前記キャリッジガイド軸を回動させる駆動モータと、前記キャリッジからトリガを受けることにより、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸に動力を伝達する動力伝達状態と、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸へ動力を伝達しない動力切断状態と、を切り換え可能に構成された動力伝達手段と、を備え、前記動力伝達手段において前記キャリッジからトリガを受ける被係合部材が、前記キャリッジの移動領域において、前記トレイ搬送経路に対して前記キャリッジのホームポジションを挟む位置に配置されていることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、キャリッジからトリガを受ける被係合部材が、キャリッジの移動領域において、前記トレイ搬送経路に対してキャリッジのホームポジションを挟む位置に配置されているので、キャリッジはホームポジションから被係合部材を押しに行く過程においてトレイ搬送経路を跨ぐ必要がなく、トレイと干渉することがない。従ってこれにより、PGが不適切な位置に設定されていても、記録ヘッドとトレイとの干渉を防止することができる。また、トリガ部材を押しに行く際のキャリッジの走行距離を極めて短くすることができるので、短時間でPG切り換え操作を行うことが可能となる。
【0014】
本発明の第4の態様は、上記第1から第3の態様のいずれかにおいて、前記記録ヘッドの上流側に、被記録媒体を搬送する搬送手段を構成する、前記駆動モータによって回転駆動される搬送駆動ローラが設けられ、前記動力伝達手段が、前記搬送駆動ローラから動力を受けて前記キャリッジガイド軸に動力を伝達するよう構成されていることを特徴とする。
本態様によれば、キャリッジガイド軸を回転駆動する駆動モータは、記録ヘッドの上流側に設けられた搬送駆動ローラを回転駆動する駆動モータであることから、キャリッジガイド軸を回転駆動する為に専用のモータを用いるような構成と比して低コスト化を図ることができる。
【0015】
本発明の第5の態様は、上記第4の態様において、前記搬送手段の上流側に、被記録媒体を給送する給送手段を構成する、回転駆動される給送ローラが設けられ、前記給送ローラは、前記搬送駆動ローラから動力を受けて回転駆動されるよう構成され、前記動力伝達手段が、前記給送ローラから動力を受けて前記キャリッジガイド軸に動力を伝達するよう構成されていることを特徴とする。
本態様によれば、キャリッジガイド軸は、搬送駆動ローラの動力を受けて回転駆動される給送ローラを介して駆動モータからの動力を得るので、即ち搬送駆動ローラと、給送ローラと、キャリッジガイド軸と、を1つの駆動モータによって駆動することで、記録装置をより一層低コストに構成することができる。
【0016】
本発明の第6の態様は、上記第1から第5の態様のいずれかにおいて、前記動力伝達手段が歯車輪列を備えて構成され、前記被係合部材が、前記歯車輪列を構成する、主走査方向に平行な回転軸を持つ平歯車であるとともに、その回転軸の軸線方向にスライド可能に設けられたことにより、隣接する歯車と噛合する噛合位置と、隣接する歯車と噛合しない非噛合位置とを変位可能となっていることを特徴とする。
本態様によれば、簡単且つ安価な構成で、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸へ動力を伝達する動力伝達状態と、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸へ動力を伝達しない動力切断状態とを切り換え可能とすることができる。
【0017】
本発明の第7の態様は、被噴射媒体に液体噴射を行う液体噴射ヘッドを支持するとともに主走査方向に往復動可能なキャリッジと、前記キャリッジを主走査方向にガイドするキャリッジガイド軸と、前記キャリッジガイド軸の軸芯の位置を変位させることにより、被噴射媒体と前記液体噴射ヘッドとの間のギャップを調節するギャップ調節手段と、を備えた液体噴射装置であって、前記ギャップ調節手段は、前記キャリッジガイド軸を回動させることで、前記キャリッジガイド軸の軸芯位置を変位させるよう構成されるとともに、前記キャリッジガイド軸を回動させる駆動モータと、前記キャリッジからトリガを受けることにより、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸に動力を伝達する動力伝達状態と、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸へ動力を伝達しない動力切断状態と、を切り換え可能に構成された動力伝達手段と、を備え、前記動力伝達手段において前記キャリッジからトリガを受ける被係合部材が、前記キャリッジの移動領域においてホームポジション側の端部に配置されていることを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。以下では先ず、図1および図2を参照しながら、本発明に係る記録装置或いは液体噴射装置の一例としてのインクジェットプリンタ(以下「プリンタ」と言う)1の概要について説明する。ここで、図1はプリンタ1の装置本体(外装ケースを取り外した状態)の外観斜視図であり、図2は同側断面図である。尚、以下では、図2の右方向(プリンタ前方側)を用紙或いはトレイの搬送経路の「下流側」と言い、左方向(プリンタ後方側)を「上流側」と言うこととする。
【0019】
プリンタ1は後部に「被記録媒体」、「被噴射媒体」の一例としての記録用紙(主として単票紙:以下「用紙P」と言う)を傾斜姿勢でセット可能な給送装置2を備え、当該給送装置2から、用紙Pを下流側の被記録媒体搬送手段4へ向けて給送する。給送された用紙Pは被記録媒体搬送手段4によって下流側の記録手段3へ搬送され、記録が実行される。そして記録手段3によって記録の行われた用紙Pは、下流側の被記録媒体排出手段5によって装置前方へ排出される。
【0020】
尚、プリンタ1においては光ディスクDをセット可能なセット部52を有するトレイ50を、被記録媒体搬送手段4によって搬送可能に構成されていて、記録手段3によってトレイ50にセットされた光ディスクDのラベル面へ記録を実行可能となっている。符号7はトレイ50を支持するトレイガイドを示しており、トレイ50はプリンタ1前方側から後方側に向けてトレイガイド7を介して差し込まれ、そして被記録媒体搬送手段4によって副走査送りされる。
【0021】
以下、プリンタ1の用紙搬送経路上の構成要素について更に詳説する。給送装置2は、ホッパ11と、給送ローラ12と、リタードローラ13と、戻しレバー14とを備えて構成されている。
ホッパ11は板状体から成り、上部の揺動支点(図示せず)を中心に揺動可能に構成され、揺動することにより、ホッパ11上に傾斜姿勢に支持された用紙Pを給送ローラ12に圧接させ、または、給送ローラ12から離間させる。給送ローラ12は側面視略D形の形状を成し、その円弧部分によって圧接した最上位の用紙Pを下流側へ給送する一方で、用紙Pが給送された後の、被記録媒体搬送手段4による用紙Pの搬送中においては、搬送負荷を生じさせない様に図示する様にその平坦部が用紙Pと対向する様に制御される。
【0022】
リタードローラ13は、給送ローラ12の円弧部分と圧接可能に設けられている。リタードローラ13は用紙Pの重送が発生せずに、1枚だけ用紙Pが給送されている場合にはこの用紙Pに接して従動回転(図2の時計回り)し、用紙Pが給送ローラ12とリタードローラ13との間に複数枚存在する場合には、用紙間の摩擦係数が用紙Pとリタードローラ13との間の摩擦係数よりも低いため、回転せずに停止した状態となる。従ってこれにより、給送されるべき最上位の用紙Pにつられて重送されようとする次位以降の用紙Pが、リタードローラ13から下流側へ進まずに、重送が防止される。戻しレバー14は回動可能に設けられていて、重送されようとした次位以降の用紙Pをホッパ11上に戻す作用を奏する。
【0023】
給送装置2と被記録媒体搬送手段4との間には、用紙Pの通過を検出する検出手段(図示せず)と、用紙Pの給送姿勢を形成するとともに用紙Pの給送ローラ12への接触を防止して搬送負荷を軽減するガイドローラ26が設けられている。尚、本実施形態においてガイドローラ26は、紙案内上24の上流側端部において自由回転可能に軸支されている。
【0024】
給送装置2の下流側に設けられた被記録媒体搬送手段4は、モータによって回転駆動される搬送駆動ローラ30と、該搬送駆動ローラ30に圧接して従動回転する搬送従動ローラ31とを備えて構成されている。搬送駆動ローラ30は用紙幅方向に延びる金属軸の外周面に耐摩耗性粒子がほぼ均一に分散されて成る付着層を備えて成され、搬送従動ローラ31は外周面がエラストマ等の低摩擦材料によって成され、搬送駆動ローラ30の軸線方向に複数配設されている。
【0025】
また、搬送従動ローラ31は本実施形態では1つの紙案内上24の下流側端部に2つ自由回転可能に軸支され、その紙案内上24は、用紙幅方向に3つ、図1に示すように設けられている。また、紙案内上24は軸24aがメインフレーム23に軸支されることで、用紙搬送経路を側視して軸24a中心に揺動可能に設けられるとともに、コイルばね25によって、搬送従動ローラ31が搬送駆動ローラ30に圧接する方向に付勢されている。
被記録媒体搬送手段4に到達した用紙Pは、搬送駆動ローラ30と搬送従動ローラ31とによってニップされた状態で搬送駆動ローラ30が回転することにより、下流側の記録手段3へと搬送される。
【0026】
記録手段3は、インクジェット記録ヘッド(以下「記録ヘッド」と言う)36と、当該記録ヘッド36と対向するように設けられる紙案内下37とを備えて構成される。記録ヘッド36はキャリッジ33の底部に設けられ、当該キャリッジ33は主走査方向に延びるキャリッジガイド軸34にガイドされながら、図示しない駆動モータによって主走査方向に往復動する様に駆動される。また、キャリッジ33は、複数色の各色毎に独立したインクカートリッジ35を搭載し、記録ヘッド36へとインクを供給する。
【0027】
用紙Pと記録ヘッド36との距離を規定する紙案内下37には、記録ヘッド36と対向する面にリブが形成されているとともに(図示せず)、インクを打ち捨てる凹部(図示せず)が形成されていて、用紙Pの端部から外れた領域に吐出するインクを前記凹部に打ち捨てることにより、用紙Pの端部に余白無く印刷を行う所謂フチ無し印刷が実行される。
【0028】
尚、キャリッジガイド軸34は、ギャップ調節手段51(図4参照)によって、その軸芯位置が変位するよう設けられており、これによって用紙Pと記録ヘッド36との間のギャップ(PG)が調節(切り換え)可能となっているが、これについては後に詳説する。
【0029】
続いて、記録ヘッド36の下流側には、ガイドローラ43と、被記録媒体排出手段5が設けられている。ガイドローラ43は用紙Pの紙案内下37からの浮き上がりを防止して用紙Pと記録ヘッド36との距離を一定に保つ機能を果たす。被記録媒体排出手段5は図示しないモータによって回転駆動される排出駆動ローラ41と、当該排出駆動ローラ41に接して従動回転する排出従動ローラ42とを備えて構成されている。
【0030】
本実施形態において排出駆動ローラ41はゴムローラによって成されるとともに回転駆動される軸体の軸方向に複数設けられる。また、排出従動ローラ42は外周に複数の歯を有する歯付きローラによって成されるとともに、主走査方向に長い形状を成す排紙フレームAssy45に、複数の排出駆動ローラ41に対応するよう複数設けられる。記録手段3によって記録の行われた用紙Pは、排出駆動ローラ41と排出従動ローラ42とによってニップされた状態で排出駆動ローラ41が回転駆動されることにより、装置前方(図示しないスタッカ)へ向けて排出される。
尚、排紙フレームAssy45は、排出従動ローラ42が排出駆動ローラ41に接する接触ポジションと、排出駆動ローラ41から離間する離間ポジションと、をとり得るように、図示しないレリース手段によって変位可能に設けられている。
【0031】
以上がプリンタ1の概要であり、以下、図3乃至図10を参照しながらPGを切り換えるギャップ調節手段について詳説する。ここで、図3はプリンタ1の装置本体(主要部品)の外観斜視図、図4はギャップ調節手段の斜視図、図5及び図6は装置本体右側を後部から見た斜視図、図7は被係合部材としての歯車64の位相固定手段を示す斜視図、図8(A)(B)および図9(A)は動力伝達手段の平面図、図9(B)は歯車63の部分拡大斜視図、図10はPG調節の原理を示す説明図である。
【0032】
ギャップ調節手段51は、図4に示すように駆動モータ52と、駆動モータ52からキャリッジガイド軸34へ動力を伝達する動力伝達手段67とを備えて構成されている。
先ず、図3に示すように、キャリッジガイド軸34はサイドフレーム左23bの側と、サイドフレーム右23aの側とで支持されている。より詳しくは、図7および図10に示すように、キャリッジガイド軸34はサイドフレーム右23aとサイドフレーム左23bとに形成された鉛直方向に延びる案内溝75を貫通するように設けられているため、鉛直方向の移動だけが許容され、水平方向への移動はできない状態となっている。
【0033】
そして、サイドフレーム右23aの側において、キャリッジガイド軸34の軸端34aには歯車66と、ギャップ調節カム76が取り付けられ、歯車66が回動することによりキャリッジガイド軸34およびギャップ調節カム76が回動するようになっている。そして、ギャップ調節カム76に隣接してカムフォロアとして作用する固定ピン77が設けられていて、このような構成により、駆動モータ52(図4)から歯車64へ駆動が伝達されると、ギャップ調節カム76が回転駆動し、ギャップ調節カム76の外周面と固定ピン77との作用により、キャリッジガイド軸34の軸芯位置が上下動する。この結果、用紙Pと記録ヘッド36との間のギャップ(PG)が調節(切り換え)可能となる。尚、図示は省略するが、サイドフレーム左23bの側においてもギャップ調節カム76、固定ピン77と同様なギャップ調節カム、固定ピンが設けられている。
【0034】
次に、駆動モータ52からキャリッジガイド軸34へ動力を伝達する動力伝達手段67について詳説する。サイドフレーム左23bの側には図4に詳しく示すように駆動モータ52が設けられていて、当該駆動モータ52の回転軸には歯車54が取り付けられ、当該歯車54と搬送駆動ローラ30の軸端に取り付けられた歯車55とが噛合し、これによって搬送駆動ローラ30が回転駆動されるようになっている。
【0035】
搬送駆動ローラ30の他方の軸端には歯車56が取り付けられ、そして歯車57、58、59を介して給送装置2(給送ローラ12)へ動力が伝達されるようになっている。そして更に、歯車59から、平歯車60bと平歯車60cとが軸60aを介して一体に構成された歯車60と、そして更に歯車61、62、63、64、65を介して、キャリッジガイド軸34の軸端に取り付けられた歯車66へ駆動モータ52の動力が伝達される。
【0036】
以上により、上述した駆動モータ52からキャリッジガイド軸34に至る動力伝達経路の構成要素が、駆動モータ52からキャリッジガイド軸34へ動力を伝達する動力伝達手段67を構成する。尚、歯車58は図示しないポンプ手段(図示せず)へも動力を伝達し、これによって記録ヘッド36を封止するキャップ(図示せず)内へ負圧が供給されるようになっている。以上より、駆動モータ52は、搬送駆動ローラ30と、給送ローラ12と、図示しないポンプ手段と、キャリッジガイド軸34と、の共通の駆動源となる。
【0037】
続いて、歯車60から歯車66へ至る動力伝達経路を成す歯車輪列68について、図5乃至図9および他の図をも適宜参照しながら詳説する。図1は、キャリッジ33がホームポジションに位置した状態を示すものであり、図示するようにキャリッジ33の移動領域において右側(装置前方から見て右側)が、キャリッジ33のホームポジションとなっていて、そして歯車輪列68は、図5および図6に示すようにキャリッジ33の移動領域においてホームポジションに近い側のサイドフレーム右23aに取り付けられている。即ち、歯車輪列68は、キャリッジ33の移動領域において、キャリッジ33のホームポジションに近い端部の側に配置されている。尚、符号70は、歯車輪列68を覆うとともに歯車を保持するカバーを示している。
【0038】
歯車輪列68を構成する歯車60乃至歯車65は、主走査方向に平行な回転軸を中心に回転可能となるようにサイドフレーム右23aに取り付けられ、その中でも歯車63と歯車64については、その回転軸の軸線方向にスライド移動可能に設けられている。以下では先ず、当該歯車64について詳説する。
【0039】
図7に示すようにサイドフレーム右23aには、穴74が形成されている。そして歯車64には、図7および図8に示すように穴74からサイドフレーム右23aの内側に突出することで、キャリッジ33のホームポジション側の側壁に形成された係合部33aと係合可能な被係合部64aが形成されていて、そして更に歯車64は付勢ばね78によって被係合部64aがサイドフレーム右23aの内側に突出する方向に付勢された状態に設けられている。
【0040】
歯車64は、その回転軸の軸線方向にスライド移動することで、隣接する歯車63と噛合しない非噛合位置(図8(A)の位置)と、歯車63と噛合する噛合位置(図8(B)の位置)とを変位可能となっていて、キャリッジ33が被係合部64aを押していない状態では、図8(A)に示すように付勢ばね78の付勢力によって歯車64は非噛合位置をとる。即ち、動力伝達手段67が駆動モータ52からキャリッジガイド軸34へ動力を伝達しない動力切断状態となる。
【0041】
次に、キャリッジ33がサイドフレーム右23aに隣接する位置まで移動すると、図8(B)に示すようにキャリッジ33が被係合部64aを押すことで、歯車64が噛合位置へ変位する。即ち、動力伝達手段67が駆動モータ52からキャリッジガイド軸34へ動力を伝達する動力伝達状態となる。
【0042】
尚、図7において符号64b、64bは被係合部64aの周囲においてサイドフレーム右23aの内側に向かって突出するように形成された位相決めピンであり、符号71は、サイドフレーム右23aに形成された嵌合穴であって、図7(B)および図8(B)に示すように位相決めピン64b、64bが嵌合穴71に嵌入することで、歯車64の位相が所定の位置に定まる(歯車64が回転不可となる)ようになっている。尚、本実施形態においては4段階のPGに切り換えるよう構成されていて、嵌合穴71は、この4段階のPGに対応するような位置に形成されている。
【0043】
以上により、PGを調節する(切り換える)際には、先ずキャリッジ33をサイドフレーム右23aに隣接する位置まで移動させて、歯車64を押し、歯車64を噛合位置に変位させる。そして、その状態で駆動モータ52を所定量回転させることで、PGを所望の段階に切り換える。そして、キャリッジ33をサイドフレーム右23aから離間させて歯車64を非噛合位置に変位させるとともに、位置決めピン64b、64bを嵌合穴71に嵌入させて、PGを固定する。
【0044】
尚、上記歯車64に隣接する歯車63がその回転軸方向にスライド可能に設けられているのは、以下の理由による。即ち、歯車64が非噛合位置(図8(A))から噛合位置(図8(B))へ移動する際には、歯車64の歯と歯車63の歯とが衝突して正しく噛合しない虞がある。従って歯車64の歯と歯車63の歯とが衝突しても、歯車64が噛合位置に変位できるように、歯車63がその回転軸方向にスライド可能に設けられている(図9(A)の状態)。また、図9(B)に示すように、歯車63の歯cには斜面bが形成されていて、これによって歯車63の回転にともなって当該歯車63と歯車64とが円滑に噛合できるようになっている。尚、図8および図9(A)において符号79は歯車63を付勢する付勢ばねを示している。
【0045】
以上のように構成されたプリンタ1においては、キャリッジ33からトリガを受ける被係合部材としての歯車64が、キャリッジ33の移動領域においてホームポジションに近端部の側(即ちサイドフレーム右23a)に配置されていて、用紙Pの搬送経路或いはトレイ50の搬送経路に対しては、キャリッジ33のホームポジションを挟む位置に配置されている。従ってキャリッジ33は、ホームポジションから歯車64を押しに行く過程において用紙Pの搬送経路やトレイ50の搬送経路を跨ぐ必要がなく、即ち用紙P或いはトレイ50と干渉することがない。従ってこれにより、PGが不適切な状態に設定されていても、記録ヘッド36と用紙P或いはトレイ50との干渉を防止することができる。また、歯車64を押しに行く際のキャリッジ33の走行距離を極めて短くすることができ、短時間でPG切り換え操作を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係るプリンタの装置本体の外観斜視図。
【図2】本発明に係るプリンタの側断面図。
【図3】本発明に係るプリンタの装置本体(主要部品)の外観斜視図。
【図4】ギャップ調節手段の外観斜視図。
【図5】装置本体右側を後部から見た斜視図。
【図6】装置本体右側を後部から見た斜視図。
【図7】被係合部材の位相固定手段を示す斜視図。
【図8】動力伝達手段の平面図。
【図9】(A)は動力伝達手段の平面図、(B)は歯車の拡大斜視図。
【図10】PG調節の原理を示す説明図。
【符号の説明】
【0047】
1 インクジェットプリンタ、2 給紙装置、3 記録手段、4 被記録媒体搬送手段、5 被記録媒体排出手段、7 トレイガイド、11 ホッパ、12 給送ローラ、13 リタードローラ、14 紙戻しレバー、23 メインフレーム、24 紙案内上、25 コイルばね、26 ガイドローラ、30 搬送駆動ローラ、31 搬送従動ローラ、
33 キャリッジ、34 キャリッジガイド軸、34a 軸端、35 インクカートリッジ、36 記録ヘッド、37 プラテン、41 排出駆動ローラ、42 排出従動ローラ、43 ガイドローラ、45 排紙フレームAssy、50 トレイ、51 ギャップ調節手段、52 駆動モータ、54 ピニオン歯車、55〜63 歯車、64 歯車(被係合部材)、64a 被係合部、64b 位相決めピン、65 歯車、66 歯車、67 動力伝達手段、68 歯車輪列、70 カバー、71 嵌合穴、74 穴、75 長穴、76 ギャップ調節カム、77 固定ピン、D 光ディスク、P 記録用紙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体に記録を行う記録ヘッドを支持するとともに主走査方向に往復動可能なキャリッジと、
前記キャリッジを主走査方向にガイドするキャリッジガイド軸と、
前記キャリッジガイド軸の軸芯の位置を変位させることにより、被記録媒体と前記記録ヘッドとの間のギャップを調節するギャップ調節手段と、を備えた記録装置であって、
前記ギャップ調節手段は、前記キャリッジガイド軸を回動させることで、前記キャリッジガイド軸の軸芯位置を変位させるよう構成されるとともに、
前記キャリッジガイド軸を回動させる駆動モータと、
前記キャリッジからトリガを受けることにより、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸に動力を伝達する動力伝達状態と、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸へ動力を伝達しない動力切断状態と、を切り換え可能に構成された動力伝達手段と、を備え、
前記動力伝達手段において前記キャリッジからトリガを受ける被係合部材が、前記キャリッジの移動領域においてホームポジションに近い端部の側に配置されている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
請求項1において、被記録媒体としての薄板状体をセット可能なトレイを搬送可能なトレイ搬送経路を、前記キャリッジの移動領域において、前記被係合部材の配設位置に対して前記キャリッジのホームポジションを挟む位置に備えている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項3】
被記録媒体に記録を行う記録ヘッドを支持するとともに主走査方向に往復動可能なキャリッジと、
前記キャリッジを主走査方向にガイドするキャリッジガイド軸と、
前記キャリッジガイド軸の軸芯の位置を変位させることにより、被記録媒体と前記記録ヘッドとの間のギャップを調節するギャップ調節手段と、を備えた記録装置であって、
前記記録装置は、被記録媒体としての薄板状体をセット可能なトレイを搬送可能なトレイ搬送経路を備え、前記記録ヘッドによって前記トレイにセットされた前記薄板状体に記録を実行可能に構成され、
前記ギャップ調節手段は、前記キャリッジガイド軸を回動させることで、前記キャリッジガイド軸の軸芯位置を変位させるよう構成されるとともに、
前記キャリッジガイド軸を回動させる駆動モータと、
前記キャリッジからトリガを受けることにより、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸に動力を伝達する動力伝達状態と、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸へ動力を伝達しない動力切断状態と、を切り換え可能に構成された動力伝達手段と、を備え、
前記動力伝達手段において前記キャリッジからトリガを受ける被係合部材が、前記キャリッジの移動領域において、前記トレイ搬送経路に対して前記キャリッジのホームポジションを挟む位置に配置されている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項において、前記記録ヘッドの上流側に、被記録媒体を搬送する搬送手段を構成する、前記駆動モータによって回転駆動される搬送駆動ローラが設けられ、
前記動力伝達手段が、前記搬送駆動ローラから動力を受けて前記キャリッジガイド軸に動力を伝達するよう構成されている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項5】
請求項4において、前記搬送手段の上流側に、被記録媒体を給送する給送手段を構成する、回転駆動される給送ローラが設けられ、
前記給送ローラは、前記搬送駆動ローラから動力を受けて回転駆動されるよう構成され、
前記動力伝達手段が、前記給送ローラから動力を受けて前記キャリッジガイド軸に動力を伝達するよう構成されている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項において、前記動力伝達手段が歯車輪列を備えて構成され、
前記被係合部材が、前記歯車輪列を構成する、主走査方向に平行な回転軸を持つ平歯車であるとともに、その回転軸の軸線方向にスライド可能に設けられたことにより、隣接する歯車と噛合する噛合位置と、隣接する歯車と噛合しない非噛合位置とを変位可能となっている、
ことを特徴とする記録装置。
【請求項7】
被噴射媒体に液体噴射を行う液体噴射ヘッドを支持するとともに主走査方向に往復動可能なキャリッジと、
前記キャリッジを主走査方向にガイドするキャリッジガイド軸と、
前記キャリッジガイド軸の軸芯の位置を変位させることにより、被噴射媒体と前記液体噴射ヘッドとの間のギャップを調節するギャップ調節手段と、を備えた液体噴射装置であって、
前記ギャップ調節手段は、前記キャリッジガイド軸を回動させることで、前記キャリッジガイド軸の軸芯位置を変位させるよう構成されるとともに、
前記キャリッジガイド軸を回動させる駆動モータと、
前記キャリッジからトリガを受けることにより、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸に動力を伝達する動力伝達状態と、前記駆動モータから前記キャリッジガイド軸へ動力を伝達しない動力切断状態と、を切り換え可能に構成された動力伝達手段と、を備え、
前記動力伝達手段において前記キャリッジからトリガを受ける被係合部材が、前記キャリッジの移動領域においてホームポジションに近い端部の側に配置されている、
ことを特徴とする液体噴射装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2006−218689(P2006−218689A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32922(P2005−32922)
【出願日】平成17年2月9日(2005.2.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】