説明

記録装置及び記録制御方法

【課題】記録ヘッドの故障の原因となるような不正な電気信号が記録ヘッドに入力される手前で検知、排除することで記録ヘッドの故障を防止し、インクジェット記録装置の記録動作時の信頼性を高めることである。
【解決手段】記録命令信号監視部、ヘッド過熱時間判定部、記録可否判定部を記録ヘッド近傍に有することで、記録ヘッドの故障を引き起こすような不正な電気信号を記録ヘッド部の手前で検知、排除することで記録ヘッドの故障を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は記録装置及び記録制御方法に関し、特に、記録素子としてヒータを備えた記録ヘッドを用いて記録を行う記録装置及び記録制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1に開示されている従来のインクジェット記録装置では、記録ヘッドへ転送する画像データと、その転送後も装置本体側で保持されている転送された画像データとを比較し、両者に差が生じた場合は転送エラーと判断している。このような処理を行うことで記録装置本体側のデータ送信部と記録ヘッドとの間で画像データを比較することにより、早期に転送エラーを検知し、画像品位の低下を実際の記録前に判別することを可能としていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−324045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来例では、不正なデータによって記録ヘッドが異常昇温してしまう際のヘッド故障防止の対策を必ずしも考慮しているわけではなかった。特許文献1に開示された方法を適用しても、転送エラーと判断するのはデータ転送元(本体側)と記録ヘッドのデータが一致しなかった場合だけであり、転送されるデータそのものの内容については考慮していない。従って、記録ヘッドの故障の原因となるような不正なデータが転送された場合でも、データ転送元と記録ヘッド側のデータが一致していればそのまま、記録ヘッドでの記録動作が実行されることになり、故障防止の観点での対策は不十分であった。
【0005】
例えば、記録装置本体側の制御回路やヘッドドライバから記録命令信号を記録ヘッドへ転送する際、その伝送経路に外部からのノイズが混入したり、伝送経路自体に断線があると、記録命令信号が不正な信号に変化することが生じえる。このようなことが生じると、本来の記録命令信号が一定時間以上の長い期間インクを吐出するよう記録ヘッドへ命令する信号に変化する。この結果、記録ヘッドの記録素子にはインクを吐出させるための電流が長時間にわたって供給され、記録ヘッドの温度が異常に上昇する。これは、記録ヘッドの故障の原因とある。
【0006】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、不正な記録命令信号の検出し記録ヘッドに不正な記録命令信号が入力されるのを防止することが可能な記録装置及び記録制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明の記録装置は、次のような構成からなる。
【0008】
即ち、複数のヒータを備えた記録ヘッドを往復走査しながら、フレキシブルケーブルを介して転送される記録データに基づいて前記複数のヒータを駆動して前記記録ヘッドにより記録媒体に記録を行う記録装置であって、前記記録装置の本体部に設けられ前記記録データと前記記録データにより前記記録ヘッドに記録を行わせるよう命令する記録命令信号とを生成する生成手段と、前記記録ヘッドを搭載し、予め定められた方向に往復走査するキャリッジと、前記キャリッジに前記記録ヘッドとともに搭載され、前記フレキシブルケーブルを介して転送される前記生成手段により生成された記録命令信号を受信し、該受信した記録命令信号の内容を調べ、該内容が正常なものであるどうかを判断し、該判断の結果に従って、前記記録命令信号により前記記録ヘッドに記録を行わせるかどうかを制御する制御手段とを有することを特徴とする。
【0009】
また本発明を別の側面から見れば、複数のヒータを備えた記録ヘッドを往復走査しながら、フレキシブルケーブルを介して転送される記録データに基づいて前記複数のヒータを駆動して前記記録ヘッドにより記録媒体に記録を行う記録装置の記録制御方法であって、前記記録装置の本体部に設けられた生成手段が、前記記録データと前記記録データにより前記記録ヘッドに記録を行わせるよう命令する記録命令信号とを生成する生成工程と、予め定められた方向に往復走査するキャリッジに前記記録ヘッドとともに搭載される制御手段が、前記フレキシブルケーブルを介して転送される前記生成された記録命令信号を受信し、該受信した記録命令信号の内容を調べ、該内容が正常なものであるどうかを判断し、該判断の結果に従って、前記記録命令信号により前記記録ヘッドに記録を行わせるかどうかを制御する制御工程とを有することを特徴とする記録制御方法を備える。
【発明の効果】
【0010】
従って本発明によれば、記録ヘッドの故障の原因となるな不正な信号が記録ヘッドに入力される前に検知し、これを排除することができるので、記録ヘッドの故障を防止することができるという効果がある。これにより、インクジェット記録装置における記録動作時の信頼性を高めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】ホストから送信された記録ジョブに基づいて記録装置が実行する記録処理の基本的な流れを示したフローチャートである。
【図4】ステップS150における記録命令信号の内容の判定処理の詳細を示した実施例1に従うフローチャートである。
【図5】記録命令信号の内容に基づいて記録ヘッドを駆動して記録を行うかどうかの判定を行うために用いられる記録装置の各部の構成を示すブロック図である。
【図6】実施例2に従う記録可否の判定処理を実現するために必要とする構成を示すブロック図である。
【図7】記録可否判定部1007の詳細な構成を示すブロック図である。
【図8】ステップS150における記録命令信号の内容の判定処理の詳細を示した実施例2に従うフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。
【0013】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0014】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0015】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0016】
またさらに、「記録要素」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0017】
特に、この実施例では、インク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子として電気熱変換素子(ヒータ)を用い、このヒータに通電することにより、熱を発生させ、その熱によって吐出口付近に発生する泡の発泡力によりインクを吐出する。
【0018】
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の概略構成を示す斜視図である。
【0019】
このインクジェット記録装置(以下、記録装置)はネットワークや直接インタフェースで接続されるホストコンピュータ等の外部情報源から供給される記録情報やフォーム情報、マクロ命令などに従って対応する文字パターンやフォームパターンなどを作成する。そして、記録媒体である記録紙などに画像を形成する。
【0020】
図1に示すように、ガイドロッドGにガイドされつつ、移動機構(不図示)によって主走査方向X1、X2に往復走査されるキャリッジ3003は、インクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)3001と記録データ制御部3002とを搭載している。記録ヘッド3001は、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロを始めとする複数のカラーインクがそれぞれ封入されたインクタンク(不図示)と接続されている。記録ヘッド3001には、矢印X1の走査方向に沿ってブラック、シアン、マゼンタ、イエロといった具合に、各インク色用のノズルが並ぶように配列されている。一方、記録データ制御部3002は、画像処理部3008からフレキシブルケーブルを経由して伝送されてきた記録命令信号を監視し、記録命令信号が不正なものでないかを判断し、ヒータへの通電の可否を指示する機能を有する。キャリッジ3003は記録動作していない待機時などにはホームポジション位置(図1のP)に位置する。
【0021】
例えば、記録紙のような記録媒体3007は、搬送ローラ3006と補助ローラ3005とにより挟まれて、矢印Yの副走査方向へ間欠的に搬送される。給紙ローラ3004は記録媒体3007の給紙を行うと共に、搬送ローラ3006と補助ローラ3005と同様に記録媒体3007をおさえる役割を果たす。
【0022】
画像処理部3008は内部にCPUを有し、記録装置全体の制御も行う。画像処理部3008は、ホストコンピュータ(以下、ホスト)との通信やホストから入力された圧縮データの伸張処理、多値画像データへ対する二値化処理を行うとともに、記録命令信号の生成を行う記録命令信号生成部1001を有している。
【0023】
次に、以上構成の記録装置が実行する基本的な往復記録の動作について説明する。
【0024】
待機時にホームポジション位置Pにあるキャリッジ3003は、記録開始命令によりX1方向(往路走査方向)に移動する。そして、これに伴い記録ヘッド3001は、それぞれの複数のインク吐出口から画像データに従ってインクを吐出し、そのインクによって記録媒体3007に画像を記録する。記録媒体3007の端部までの1行分の画像データの記録が終了すると、搬送ローラ3006が矢印方向(時計回り)へ回転して、記録媒体3007をY方向へ所定幅だけ搬送する。続いて、キャリッジ3003がX2方向(復路走査方向)に移動しながら、記録ヘッド3001の複数のノズルから画像データに従ってインクを吐出して、記録媒体3007上に画像を記録する。そして、元のホームポジションPの位置まで戻る。その後、再び搬送ローラ3006が記録媒体3007をY方向へ所定幅だけ搬送する。このような記録ヘッドの走査動作と記録媒体の搬送動作との繰り返しによって、順次、記録媒体3007上に画像を記録する。
【0025】
なお、記録装置の本体部(不図示)には、キャリッジ3003を駆動するためのキャリッジモータ、給紙ローラを駆動するための給紙モータ、搬送ローラを駆動するための搬送モータなどと、これらを駆動するためのモータドライバが備えられている。さらに、記録ヘッドを駆動するためのヘッドドライバも備えられている。
【0026】
図2は、図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0027】
図2に示すように、画像処理部3008は、例えば、高速のRISC型CPU4002を含み、ROM4008に記憶された制御プログラムなどをRAM4007に展開して実行してシステムバスに接続される各種のデバイスへのアクセスを総合的に制御する。
【0028】
また、CPU4002は入出力インタフェース(I/O)4009を介して外部ネットワーク4010に接続されているホスト等の外部装置と通信可能に構成される。外部ネットワーク4010はホストから転送された圧縮画像データを受信する。この圧縮は、ランレングス圧縮に代表される可逆圧縮方式によるものが一般的である。
【0029】
画像処理部3008では、データ伸張部4003が圧縮画像データの伸張処理を行う。伸張された画像データは、それが多値データである場合は二値化処理部4004がこれを二値データへ変換する。その後、二値データを基にして、記録命令信号生成部1001は記録命令信号を生成する。そして、最終的にはデータ伝送部4006を介して接続される記録データ制御部3002に記録命令信号を電気信号として出力する。記録データ制御部3002では、データ受信部1003がデータ受信後に記録命令信号監視部1004、ヘッド加熱時間判定部1006、記録可否判定部1007において、入力された記録命令信号が不正なものでないか否かを判断する。そして、記録ヘッドを駆動して記録動作を行うべきかどうかを判断する。
【0030】
なお、画像処理部3008の各ブロック間の制御と画像データの通信はパケット通信によって行われる。ROM4008には、CPU4002が実行する制御プログラムや、記録装置の制御に必要なデータを記憶する。ここでは、ホストと外部ネットワークを介して通信する構成を例としているが、USBなどのインタフェースを介して直接ホストと接続し、通信を行うことも可能である。
【0031】
次に、記録ヘッドの近傍にて記録命令信号の特性を監視して記録制御を行うことによって、不正な記録命令信号が原因となる記録ヘッドの故障を防止することを可能とする処理について説明する。
【0032】
不正な記録命令信号を原因とする記録ヘッドの故障を防止するためには、まず記録命令信号に含まれる出力時間設定情報を検知する。この出力時間設定情報に従い、記録ヘッドでは記録時にヒータに通電する。出力時間設定情報の設定値が一定時間以上の加熱命令を意味するものであった場合、ヒータが過熱する可能性がある。よって、ヒータの過熱による記録ヘッドの故障を防止するため、該当する記録命令信号による記録は行わないよう制御する。
【0033】
なお、不正な記録命令信号は、記録命令信号生成部1001から記録ヘッドへ電気信号として伝送される際に、その伝送経路に外部からノイズが混入したり、その伝送経路自体の断線によるショートなどによって発生する。特に、A0やB0の大判の記録媒体に記録が可能な記録装置では、電気信号の伝送経路が長くなる傾向があり、ノイズや断線によって発生する不正な記録命令信号による誤動作を防止することは必須の課題である。このような課題を解決するために、この実施例では、記録命令信号生成部1001の近傍ではなく、記録ヘッド3001の近傍で記録命令信号の監視を行う。そもそも記録命令信号生成部1001では正しい信号生成が行われており、記録ヘッド3001の近傍で信号監視を行うことにより、不正データによる記録ヘッドの故障を防止できるのである。
【0034】
以下では、上記構成の記録装置において上記の課題を解決するためのいくつかの実施例について、フローチャート、ブロック図を参照して説明する。
【実施例1】
【0035】
図3はホストから送信された記録ジョブに基づいて記録装置が実行する記録処理の基本的な流れを示したフローチャートである。
【0036】
ホストにおいて記録処理が開始されると記録装置では記録データを受信する。この記録データは、圧縮画像データと記録モード設定等の情報を含んでおり、ステップS110では圧縮画像データに伸張処理を施す。伸張処理された画像データは、ステップS120において二値化処理が施され、その二値化データを基にステップS130では記録命令信号を生成する。この記録命令信号はステップS140において電気信号として記録ヘッド3001へ伝送され、さらにステップS150において記録ヘッド3001の近傍でその信号内容が正しいものであるかどうかを判定する。この信号内容に問題がなければ、記録命令信号をそのまま用いてステップS160では記録処理を実行する。このようにして一連の動作を終了する。
【0037】
続いて、ステップS150における記録命令信号の内容の判定処理の詳細について、図4に示したフローチャートを参照して説明する。画像処理部3008において二値化された画像データを基に生成され記録命令信号が、記録ヘッド3001の近傍に設けられた記録データ制御部3002で受信すると、記録命令信号の内容判定処理は開始される。
【0038】
まず、ステップS151では、記録命令信号に含まれている“出力時間設定情報”を検出する。出力時間設定情報とは、記録時に行うヒータへの通電時間を示す情報である。
【0039】
続いて、ステップS152では、検出された出力時間設定情報に基づいて、実際にヒータへ通電時間を算出する。記録時のヒータへの通電は、第1信号及び第2信号と呼ばれる二段階の信号に分けて行われる。これはインク吐出部の温度を第1信号の指示によってあらかじめ上昇させておいてから、第2信号に連動させる形式でインク吐出を行うものである。このようなシーケンスで処理することにより、記録処理の即応性を確保できるようになっている。出力時間設定情報は第1信号と第2信号の双方の情報から構成され、ヘッド加熱時間判定部1006は、二つの信号情報からヒータへの通電時間を算出する。
【0040】
さらに、ステップS153では算出されたヒータへの通電時間が一定時間以上であるか否かを判定する。ここで、その通電時間が一定時間未満であると判断された場合、正常な記録命令信号であると判断し、処理はステップS154に進み、通常の記録処理を行う。一方、その通電時間が一定時間を超えるものであると判断された場合は、処理はステップS155に進み、記録ヘッドの故障を防ぐため、該当する記録命令信号による記録処理を中止(或いは、停止)する。ここでの判定に用いる閾値はソフトウェアで容易に設定可能なものであるとする。
【0041】
このようにして、記録命令信号の内容を調べ、記録の可否判定を行って一連の処理を終了する。新たに記録命令信号が入力された際には、同様の処理を繰り返すこととなる。
【0042】
次に、実施例1における記録可否判定を実現するために必要な構成をブロック図を参照して説明する。
【0043】
図5は記録命令信号の内容に基づいて記録ヘッドを駆動して記録を行うかどうかの判定を行うために用いられる記録装置の各部の構成を示すブロック図である。なお、図5において用いられている参照番号は図1〜図2で用いたのと共通している。
【0044】
上述の通り、記録命令信号の内容の判定処理は、記録ヘッド3001の近傍に設けられた記録データ制御部3002において、記録動作が実行される直前に行われる。この処理を実現するためには、記録命令信号の内容を検知する手段と、記録ヘッドのヒータに通電する時間を算出する手段と、算出されたヒータへの通電時間を基に記録命令信号による記録処理を許可するか否かを判定する手段を必要とする。
【0045】
記録を行う際は、図5に示されるように、二値データを基にして、記録命令信号生成部1001が記録命令信号を生成する。この記録命令信号はデータ伝送部4006によりフレキシブルケーブルを経てキャリッジ3003に備えられた記録データ制御部3002のデータ受信部1003に転送される。次に、記録命令信号監視部1004では受信した記録命令信号の内容を検知する。即ち、記録命令信号監視部1004は受信した記録命令信号から出力時間設定情報を取り出す。
【0046】
ここで、取り出された出力時間設定情報は、隣接するヘッド加熱時間判定部1006へ送られ、上述のように、ヒータへの通電時間が算出される。加熱時間情報とも呼ばれるヒータへの通電時間情報は、記録可否判定部1007へ送られる。記録可否判定部1007では、予めソフトウェアにより設定された閾値を基に、該当する記録命令信号により記録を許可するか否かの判定を行う。この判定の結果、記録を許可しない場合は、その旨を記録命令信号監視部1004へ伝送する。記録命令信号監視部1004へ判定結果を伝送する際にはパルス信号を用いる。パルス信号の周期を変動させることにより、複数の内容を伝達することが可能となる。記録が許可された場合は、記録命令信号監視部1004から記録ヘッド3001へ記録命令が転送され、記録処理を行う。
【0047】
なお、記録ヘッドの近傍に設けられる記録可否判定手段を構成する記録命令信号監視部1004、ヘッド加熱時間判定部1006、記録可否判定部1007は、1つのASICによる回路として実現可能である。
【0048】
以上説明した実施例に従えば、フレキシブルケーブルを経て受信した記録命令信号の内容を記録ヘッドの直前において検知してその内容を調べることにより、記録命令信号が正しいものか不正のものかを調べることができる。そして、その結果により記録ヘッドにより記録を行わせるかどうかを判断するので、不正な記録命令信号により記録ヘッドが誤って動作し、故障が生じてしまうことを防止できる。
【実施例2】
【0049】
実施例1では、記録命令信号を監視することで不正な電気信号による記録ヘッド故障を防止する例について説明したが、実施例2では記録ヘッドの故障検出をエラー通知する例について説明する。なお、実施例2においても、記録を行う際の基本的な動作は、実施例1において図3を参照して説明した動作と同じなので、その説明は省略する。
【0050】
図6は実施例2に従う記録可否の判定処理を実現するために必要とする構成を示すブロック図である。なお、図6において、既に実施例1の図5を用いて説明したのと同じ構成要素とその動作について同じ参照番号を付してその説明は省略する。この実施例では、特に実施例1に示した構成に加えて、記録処理を中断した際にエラー状態を通知する手段を必要とする。記録可否判定部1007は、予め設定された閾値を用いて該当する記録命令信号による記録を許可するか否かを判定する。この実施例では、記録可否判定部1007は、記録を許可しないと判定された場合は、その旨を記録命令信号監視部1004へ伝送するとともに、記録可否判定部1007に内蔵されているカウンタによって、エラー回数をカウントする。カウントされたエラー回数は、予め設定された閾値と比較され、閾値の回数を超えてエラーが発生した場合は、一連の記録処理を全て中止する判断をした上で、割込み信号をCPU4020へ発行する。
【0051】
なお、判定に用いる閾値はソフトウェアで容易に設定可能なものである。
【0052】
図7は、記録可否判定部1007の詳細な構成を示すブロック図である。
【0053】
レジスタ8005は、予めソフトウェアによって設定された値を加熱時間エラー判定閾値レジスタ8006、割込み出力判定用エラー発生数レジスタ8007、割込みパルス用周波数設定値レジスタ8008に保持している。ヘッド加熱時間判定部1006より入力された加熱時間情報は、記録加熱時間比較・エラー判定部8001において、加熱時間エラー判定閾値レジスタ8006に保持された値と比較される。そして、入力された加熱時間情報がその閾値よりも大きい場合は、エラーと判断し、記録停止命令を出力する。それと同時にエラーカウンタ8002はエラー発生回数をカウントする。
【0054】
エラーカウンタ8002でカウントされたエラー回数は、割込み出力判定部8003において、割込み出力判定用エラー発生数レジスタ8007に保持された値と比較される。ここで、エラーカウンタ8002のカウント値の方が大きい場合は、割込み通知用パルス出力部8004へ割込み出力指示を行う。割込み出力指示を受けた割込み通知用パルス出力部8004は、割込みパルス用周波数設定値レジスタ8008に保持された値を基に周波数を変更して、割込み出力としてのパルス信号を出力する。
【0055】
図8は、ステップS150における記録命令信号の内容の判定処理の実施例2における動作を示すフローチャートである。なお、図8のフローチャートにおいて、既に図4のフローチャートで説明したのと同じ処理ステップには同じステップ参照番号を付し、その説明は省略する。ここでは、実施例2に特有の処理についてのみ説明する。
【0056】
図8によれば、算出されたヒータへの通電時間が一定時間未満であると判断された場合は、正常な記録命令信号であると判断し、ステップS154において、通常の記録処理を行った後、処理はステップS151に戻る。
【0057】
これに対して、その通電時間が一定時間を超えるものであると判断された場合は、処理はステップS155に進み、記録ヘッドの故障を防ぐため、該当する記録命令信号による記録処理を中止(或いは、停止)する。さらに、ステップS156では、その中止した回数のカウントを行う。これは記録処理の中止を行うたびにエラーカウンタ8002が行うものである。
【0058】
続いて、ステップS157では、エラー回数を予めソフトウェアにて設定した閾値と比較する。ここでの判定に用いる閾値はソフトウェアで容易に設定可能なものであるとする。これは割込み出力判定部8003が行うものである。その比較結果、閾値の回数以上のエラーが発生していると判定された場合は、電気信号の伝送経路に何らかの異常が発生していると判断し、処理はステップS158に進む。そして、CPU4020に対してエラー割込みの出力を行い、一連の記録処理を全て中止する。なお、エラー回数が一定の回数未満の場合は、ステップS155において、該当する記録命令信号での記録処理のみ中止されているが、その後の新たな記録命令による処理は通常どおり実施するものとし、処理はステップS151に戻る。
【0059】
なお、実施例1と同様に、記録ヘッドの近傍に設けられる記録可否判定手段を構成する記録命令信号監視部1004、ヘッド加熱時間判定部1006、記録可否判定部1007は、1つのASICによる回路として実現可能である。
【0060】
従って以上説明した実施例に従えば、転送されてきた記録命令信号の判断のみならず、発生したエラー回数を累積して、その累積エラー回数に応じて、記録処理を中止するように制御することができる。これにより、電気信号の伝送経路に何らかの一時的ではない異常が発生した場合にも記録ヘッドを保護し、例えば、フレキシブルケーブルそのものの交換など適切な処置をとることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のヒータを備えた記録ヘッドを往復走査しながら、フレキシブルケーブルを介して転送される記録データに基づいて前記複数のヒータを駆動して前記記録ヘッドにより記録媒体に記録を行う記録装置であって、
前記記録装置の本体部に設けられ前記記録データと前記記録データにより前記記録ヘッドに記録を行わせるよう命令する記録命令信号とを生成する生成手段と、
前記記録ヘッドを搭載し、予め定められた方向に往復走査するキャリッジと、
前記キャリッジに前記記録ヘッドとともに搭載され、前記フレキシブルケーブルを介して転送される前記生成手段により生成された記録命令信号を受信し、該受信した記録命令信号の内容を調べ、該内容が正常なものであるどうかを判断し、該判断の結果に従って、前記記録命令信号により前記記録ヘッドに記録を行わせるかどうかを制御する制御手段とを有することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記記録命令信号に含まれるヒータへの通電時間を示す情報を取り出す手段と、
前記取り出された通電時間を示す情報から通電時間を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された通電時間と予め定められた閾値とを比較する比較手段と、
前記算出された通電時間が前記予め定められた時間未満であれば、前記受信した記録命令信号に従って前記記録ヘッドに記録を行わせ、前記算出された通電時間が前記予め定められた時間以上であれば前記受信した記録命令信号に従う前記記録ヘッドによる記録を中止すると判断する判断手段とを含むことを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記判断手段により、前記受信した記録命令信号に従う前記記録ヘッドによる記録を中止すると判断した場合には、CPUに対する割込み通知を発行することを特徴とする請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記制御手段はさらに、
前記受信した記録命令信号に従う前記記録ヘッドによる記録を中止すると判断した回数をエラー回数としてカウントするカウント手段と、
前記カウント手段によりカウントし、累積されたエラー回数が予め定められた回数以上となったかどうかを判定する判定手段とを含み、
前記判定手段により、前記累積されたエラー回数が予め定められた回数以上となったと判定された場合には、前記CPUに対する割込み通知を発行することを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
前記記録装置は、前記割込み通知を受信した場合には、一連の記録処理を全て中止することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記制御手段はASICによって実現されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
前記記録ヘッドはインクジェット記録ヘッドであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項8】
複数のヒータを備えた記録ヘッドを往復走査しながら、フレキシブルケーブルを介して転送される記録データに基づいて前記複数のヒータを駆動して前記記録ヘッドにより記録媒体に記録を行う記録装置の記録制御方法であって、
前記記録装置の本体部に設けられた生成手段が、前記記録データと前記記録データにより前記記録ヘッドに記録を行わせるよう命令する記録命令信号とを生成する生成工程と、
予め定められた方向に往復走査するキャリッジに前記記録ヘッドとともに搭載される制御手段が、前記フレキシブルケーブルを介して転送される前記生成された記録命令信号を受信し、該受信した記録命令信号の内容を調べ、該内容が正常なものであるどうかを判断し、該判断の結果に従って、前記記録命令信号により前記記録ヘッドに記録を行わせるかどうかを制御する制御工程とを有することを特徴とする記録制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−43410(P2013−43410A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184063(P2011−184063)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】