説明

記録装置

【課題】インク吸収材を備えた記録装置において、インク吸収材の材質と電極板間の配置を変更することなく、必要な電荷の量を小さな電圧によって得ることができるようにする。
【解決手段】記録実行領域23に搬送された被記録材Pの被記録面にインクを吐出して記録を実行する記録ヘッド27と、前記記録実行領域に搬送された被記録材の前記被記録面と反対側の被支持面を支持し、前記被記録材の搬送を案内する支持部材5と、前記支持部材の収容凹部39に収容され、前記記録ヘッドから吐出されたインクを受けるインク吸収材37と、前記収容凹部の底部に設けられ、前記インク吸収材の裏面側から表面に向って該インク吸収材中を通るとともに、前記被支持面の支持位置よりも低い位置まで延設された複数の突状部8と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録実行領域に搬送された被記録材の被記録面にインクを吐出して記録を実行する記録ヘッドと、前記記録実行領域に搬送された被記録材の前記被記録面と反対側の被支持面を支持し、前記被記録材の搬送を案内する支持部材と、前記支持部材の収容凹部に収容され、前記記録ヘッドから吐出されたインクを受けるインク吸収材とを備えた記録装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から被記録材(以下、「用紙」ともいう)の被記録面に余白を形成することなく記録を実行する、いわゆる「縁無し記録」に対応したインクジェットプリンターが開発されている(例えば特許文献1)。前記インクジェットプリンターにおいて縁無し記録を実行する場合には、記録実行領域に搬送された被記録材の前記被記録面と反対側の被支持面を複数のリブを有する支持部材で支持した状態で、被記録材の端縁の外側にもインクが吐出されるようになっている。
【0003】
また、前記支持部材の前記記録ヘッドからインクが吐出される範囲に対応する部位には、縁無し記録の際に被記録材に着弾しなかったインクを受けるための凹部等のインク受け部が設けられている。下記の特許文献1、特許文献2では、前記インク受け部はインク吸収材が収容される収容凹部となっており、該収容凹部に収容されたインク吸収材に前記被記録材に着弾しなかったインクが着弾するようにしてインクミストの発生を低減させている。
【0004】
また、記録の実行に使用されなかったインク滴の一部は、前記インク吸収材に到達する前にミスト化してプリンター本体内を浮遊し、周辺部材に付着してプリンター本体内の環境を汚染する。そこで、下記の特許文献1、特許文献2に記載のように、インク滴に電荷を与えてクーロン力を利用してインク吸収材に導き、前記インク滴のミスト化を低減するようにしたインクジェットプリンターも開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−234277号公報
【特許文献2】特開2006−224554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1及び特許文献2では、インク吸収材は、収容凹部に記録ヘッド側から押し込まれ、リブの上端付近の周囲や収容凹部の内側面に設けられたフック部で抜け止めされている。しかし、記録実行によって経時的に汚れた支持部材をユーザーが綿棒等を使用してクリーニングする際に、不用意に当該インク吸収材に触れて該インク吸収材が収容凹部から外れる虞があった。
【0007】
また、前記特許文献1及び特許文献2では、一方の電極板を記録ヘッドのインク吐出面に設け、他方の電極板を前記インク吸収材の下方に設置していたため、当該インク吸収材の厚さ分、他方の電極板が前記一方の電極板から離れた位置に配置されることになり、より大きな電圧をかけなければ必要な電荷の量(クーロン力)が得られなかった。
また、前記両特許文献1、2では、インク吸収材自体に導電性を持たせることによってインク吸収材の表面との間に電圧をかけることで前記2つの電極板間の距離を実質的に近付けるようにした工夫も開示されている。しかし、前記導電性と優れたインク吸収性の二つの性質を兼ね備えたインク吸収材の素材の選定は難しく、部品コストや製品コストの増大を招いてしまう問題があった。
【0008】
本発明の目的は、インク吸収材を備えた記録装置において、ユーザーが支持部材のクリーニングを行う場合に、インク吸収材に触れて当該インク吸収材が位置ずれしたり、外れたりする虞を低減することにある。
加えて、インクミストの発生を低減できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明に係る記録装置の第1の態様は、記録実行領域に搬送された被記録材の被記録面にインクを吐出して記録を実行する記録ヘッドと、前記記録実行領域に搬送された被記録材の前記被記録面と反対側の被支持面を支持し、前記被記録材の搬送を案内する支持部材と、前記支持部材の収容凹部に収容され、前記記録ヘッドから吐出されたインクを受けるインク吸収材と、前記収容凹部の底部に設けられ、前記インク吸収材の裏面側から表面に向って該インク吸収材中を通るとともに、前記被支持面の支持位置よりも低い位置まで延設された複数の突状部と、を備えることを特徴とするものである。
【0010】
本態様によれば、インク吸収材が収容される収容凹部の底部に複数の突状部が設けられ、該突状部は前記インク吸収材の裏面側から表面に向って該インク吸収材中を通るように延設されている。従って、前記収容凹部に収容状態のインク吸収材を、該収容凹部の底部から該インク吸収材中を通るように立ち上がる複数の当該突状部によって保持することが可能となり、以って、当該インク吸収材が位置ずれしたり、外れたりする虞を低減することができる。
突状部の前記底部からの突出寸法を、インク吸収材を貫通しないに長さに設定すれば、インク吸収材のインク吸収面の面積をほとんど減少させずに済む。このように構成することによって、当該突状部による前記作用効果(インク吸収材の前記位置ずれや外れの虞を低減すること)をインク吸収材の吸収性能を低下すること無く得ることができる。
【0011】
本発明に係る記録装置の第2の態様は、前記第1の態様において、前記突状部は、前記インク吸収材の収容凹部からの抜け出しを防止する抜止め構造部を備えていることを特徴とするものである。
【0012】
本態様によれば、突状部が当該抜止め構造部を備えていることによって、インク吸収材が収容凹部から外れることを一層効果的に防止することができる。
【0013】
本発明に係る記録装置の第3の態様は、前記第1の態様又は第2の態様において、前記突状部の先端部は、前記インク吸収材によって覆われた状態で設けられていることを特徴とするものである。
ここで、本態様において使用する「覆われた状態」は、突状部の先端部のすべてがインク吸収材によって覆われている場合の他、前記インク吸収性能の実質的な低下を来たさない範囲で突状部の先端部の一部がインク吸収材から露出している場合も含む意味で使われている。
【0014】
本態様によれば、インク吸収材に向けて打ち捨てられたインクを、突状部の先端部がインク吸収材で覆われている構造のものより広い面積のインク吸収材で捕捉できるので、収容凹部に当該突状部を設けてもインク吸収性能が維持される。
【0015】
本発明に係る記録装置の第4の態様は、前記第1の態様から第3の態様のいずれか一つにおいて、前記突状部の先端部は、当該先端部に付着したインクを前記インク吸収材に導く案内傾斜面が形成されていることを特徴とするものである。
【0016】
本態様によれば、前記突状部の先端部に着弾したインク滴は、当該先端部に留まることなく、案内傾斜面を伝って速やかにインク吸収材側に流れて捕捉されるようになる。
【0017】
本発明に係る記録装置の第5の態様は、前記第1の態様から第4の態様のいずれか一つにおいて、前記記録ヘッドは、導電性のノズルプレートを備えており、前記突状部は、前記ノズルプレートとの間で電位差を発生させる導電性を有していることを特徴とするものである。
【0018】
本態様によれば、前記ノズルプレートと突状部との間に電位差を発生させることによって、当該突状部の先端部と前記ノズルプレートとの間で電界が発生する。よって、インク吸収材に導電性は不要であるから、インク吸収性のみを有する既存のインク吸収材をそのまま使用することが可能になる。
更に、前記ノズルプレートと突状部の先端部との間の距離は、突状部の基端部(収容凹部の底部)との距離よりも小さいので(ほぼインク吸収材の厚さ分小さい)、電気的にインクミストの発生を抑制するに際して、必要な電荷の量を小さな電圧によって得ることが可能になり、安価でインクミストの発生抑制効果の高い記録装置を提供できるようになる。
すなわち、当該突状部に前記位置ずれ防止機能或いは外れ防止機能に加えて、インクミストの電気的な発生低減機能を兼ねさせることができる。
【0019】
本発明に係る記録装置の第6の態様は、前記第5の態様において、前記インク吸収材の裏面と前記支持部材の底部との間に設けられる導電性の基板部を備え、前記突状部は、前記基板部に立設されていることを特徴とするものである。
【0020】
本態様によれば、インク吸収材の裏面と支持部材の底部との間に導電性の基板部を設け、該基板部からインク吸収材の表面に向って突出する突状部を設けることによって、当該突状部の先端部と前記ノズルプレートとの間で電界が発生する構造である。従って、インク吸収材を基板部に装着した後、その全体を収容凹部に収容する組み付けが可能になるので、組み付け作業を簡単に行うことができる。
【0021】
本発明に係る記録装置の第7の態様は、前記第5の態様又は第6の態様において、前記突状部の先端部は、前記インク吸収材から露出した状態で設けられていることを特徴とするものである。
【0022】
本態様によれば、ノズルプレートと突状部の先端部との間に電界の発生を妨げる物が存在しないから、より小さな電圧をかけるだけで必要な電荷の量を得ることができるようになり、効率的で無駄のないインクミストの発生抑制効果が発揮されるようになる。
従って、本態様において使用する「露出」の中には、突状部の先端部のすべてがインク吸収材から露出している場合の他、前記インクミストの発生抑制効果の効率化が図られる範囲で突状部の先端部の一部がインク吸収材によって被覆されている場合も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施例1に係る記録装置の内部構造の概略を示す側断面図。
【図2】本発明の実施例1に係る記録装置の内部構造の概略を示す平面図。
【図3】本発明の実施例1に係る記録装置の導電部材とインク吸収材と支持部材とを分解した状態を示す斜視図。
【図4】本発明の実施例1に係る記録装置の記録実行領域を拡大して示す側断面図。
【図5】本発明の実施例1に係る記録装置の電位差発生機構の動作原理を示す模式図。
【図6】本発明の実施例1に係る記録装置の突状部の高さを異ならせた変形例(A)(B)(C)を示す側断面図。
【図7】本発明の実施例2に係る記録装置の記録実行領域を拡大して示す側断面図。
【図8】本発明の実施例2に係る記録装置における突状部の成形手順の一例を示す説明図。
【図9】本発明の実施例3に係る記録装置の記録実行領域を拡大して示す側断面図。
【図10】本発明の実施例3に係る記録装置における突状部の成形手順の一例を示す説明図。
【図11】本発明の実施例4に係る記録装置の記録実行領域を拡大して示す側断面図。
【図12】本発明の実施例4に係る記録装置における導電部材とインク吸収材の組付け前後の状態を示す説明図。
【図13】本発明の他の実施例に係る記録装置における導電部材とインク吸収材の組付け前後の状態を示す説明図。
【図14】本発明の他の実施例に係り、突状部を支持部材5の底部から直接立設させたものにインク吸収材を装着し、それを支持部材の収容凹部に収容した構造の概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1から図6に示す実施例1と、図7及び図8に示す実施例2と、図9及び図10に示す実施例3と、図11及び図12に示す実施例4とを例にとって、本発明の記録装置1の構成と作動態様について具体的に説明する。
尚、以下の説明では、最初に図1、図2に基づいて本発明の記録装置1の基本的構成について説明し、次いで本発明の特徴的構成である突状部8(導電部材9)の構成、製造・組付けの手順及び作動態様について前述した実施例1〜4の四つの実施例を例にとって順番に説明して行く。
【0025】
図示の記録装置1は、用紙Pの被記録面の全面に余白を形成することなく記録を実行する、いわゆる「縁無し印刷」に対応したインクジェットプリンター1(「記録装置」と同じ符号を使用する)である。
尚、以下の説明において、構成要素の符号において実施例毎に区別する場合はその符号の算用数字にアルファベットのA,B,C、…を付されて区別される。
【0026】
本実施例のインクジェットプリンター1は、記録実行領域23に搬送された用紙Pの被記録面にインクCを吐出して記録を実行する記録ヘッド27と、前記記録実行領域23に搬送された用紙Pの前記被記録面と反対側の被支持面を支持し、前記被記録材の搬送を案内する支持部材5と、前記支持部材5の収容凹部39に収容され、前記記録ヘッド27から吐出されたインクCを受けるインク吸収材37と、前記収容凹部39の底部に設けられ、前記インク吸収材37の裏面側から表面33に向って該インク吸収材37中を通るように延設された複数の突状部8を備えている。
【0027】
更に図1、図2に即して構成を説明すると、本実施例のインクジェットプリンター1は、記録実行領域23に供給された用紙Pの被記録面に各色のインクCを吐出して記録を実行する記録ヘッド27と、記録実行領域23に供給された用紙Pの前記被記録面と反対側の被支持面に当接して用紙Pの被記録面と前記記録ヘッド27のインク吐出面28との間のギャップPGを規定した状態で用紙Pの搬送を案内する複数のリブ3を備えた支持部材5と、前記記録ヘッド27から吐出されたインクCのインク吐出範囲35を内包するように前記支持部材5の収容凹部39に対して備えられるインク吸収材37と、を具備することによって基本的に構成されている。
【0028】
前記記録ヘッド27は、そのインク吐出面28を成すノズルプレート47を備えている。該ノズルプレート47は、導電性を有する公知の材料で形成されている。
本実施例では、前記収容凹部39に収容される前記インク吸収材37の裏面34と収容凹部39の底面との間に、前記ノズルプレート47との間で電位差を発生させる基板部7を備えた導電部材9が配設されている。そして、該導電部材9には、前記基板部7から前記インク吸収材37の表面33に向って該インク吸収材37中を通るように立ち上がる突状部8が複数本、設けられている。
【0029】
このようなインクジェットプリンター1における用紙Pの搬送方向Aの上流部には、図1に示すように、複数枚の用紙Pを積畳状態で載置し得る給送用セット部13が設けられている。該給送用セット部13は一例として用紙載置部15を備えることによって構成されている。
【0030】
また、前記給送用セット部13の近傍には、用紙載置部15上にセットされた用紙Pを最上位のものから1枚ずつ順番に搬送経路16に向けて繰り出す給送部17が設けられている。
給送部17は、用紙載置部15上にセットされた用紙Pを上方に押し上げるホッパー18と、該ホッパー18との挟圧送り作用によって用紙Pを繰り出す一例として側面視D字形状の給送用ローラー19と、を備えることによって構成されている。
【0031】
そして、前記給送部17によって搬送経路16に繰り出された用紙Pは、搬送部20によって記録実行領域23に送られ、更に記録実行後外部に排出される。
搬送部20は、一対のニップローラーによって構成され、記録実行領域23の上流位置に配置される搬送用ローラー21と、同じく一対のニップローラーによって構成され、記録実行領域23の下流位置に配置される排出用ローラー22と、を備えることによって構成されている。
【0032】
前記搬送部20によって記録実行領域23に送られた用紙Pは、前述した記録ヘッド27を備えた記録実行部25によって被記録面に記録が実行され、前述したリブ3を備えた支持部材5によって被支持面が支持されて記録実行中の用紙Pの被記録面と前記記録ヘッド27のインク吐出面28との間のギャップPGが一定になるように保たれている。
【0033】
記録実行部25は、前記記録ヘッド27と、該記録ヘッド27を搭載して用紙Pの搬送方向Aと交差する用紙Pの幅方向Bを走査方向として往復移動するキャリッジ29と、を備えることによって構成されている。
【0034】
支持部材5は、上面に用紙Pの被支持面に当接して前記ギャップPGを一定に保ちながら用紙Pの搬送を案内するリブ3が用紙Pの幅方向Bに適宜の間隔を空けて複数設けられている。
【0035】
また、支持部材5には、前記インク吸収材37を収容するための収容凹部39が形成されており、該収容凹部39に収容された状態で前記インク吸収材37の表面33は、支持部材5によって遮られることなく、記録ヘッド27から吐出されたインクCのうち記録の実行に使用されなかったインクCを捕捉できるよう、上方が開放された状態で設けられている。
尚、インク吸収材37としては、インク吸収性に優れた多孔質のスポンジ状の部材が一例として使用できる。
【0036】
[実施例1](図1から図6参照)
実施例1に係るインクジェットプリンター1Aでは、一例として矩形平板状の基板部7の上面に対して、一例として矩形平板状の突状部8Aを用紙Pの搬送方向Aに沿う方向と、用紙Pの幅方向Bに沿う方向とに適宜配列させて垂直に立ち上げた構造の導電部材9Aが設けられている。
前記突状部8Aの先端部11Aは、インク吸収材37Aから露出した状態で設けられている。具体的には、突状部8Aの先端面8aがインク吸収材37Aの表面33とほぼ面一になっていて、前記先端面8aの全体がインク吸収材37Aによって覆われていない状態になっている。
また、インク吸収材37Aには、前記リブ3を受け入れる窓部38と、前記突状部8Aを受け入れる一例としてスリット状の穴部41Aが設けられている。
【0037】
本実施例では、前記導電部材9Aとノズルプレート47には、両者の間に電位差を発生させる電位差発生回路が接続されて電位差発生機構49が設けられている。前記電位差発生機構49は、本実施例では、静電気対策を兼ねて前記ノズルプレート47をアースGに接地すると共に、負極側電極として使用し、ノズルプレート47と導電部材9Aとの間に電源51を設けて両者を接続することで前記導電部材9Aを正極側電極として使用して、両者の間に電界を発生させるようになっている。
尚、前記ノズルプレート47を正極側電極とし、前記導電部材9Aを負極側電極として使用するように電源51を接続してもよい。
【0038】
そして、このような電位差発生機構49の電源51に電圧をかけるとノズルプレート47と導電部材9Aの間に電位差が生じ、両者の間に電界が発生する。
この状態でノズルプレート47に形成されているノズル開口53からインク滴Cが吐出されると、当該インク滴Cは前記ノズル開口53の面積Sに比例した電荷qを持つ。
そして、この電荷qの量は、ノズル開口53の半径をr、ノズルプレート47と導電層43間の距離をd、電源51によって加えられる電圧をV、εを誘電率とした時、以下の式(1)で表される。

q=εS・V/d=επr・V/d …(1)

【0039】
また、この電荷qは電界に対してクーロン力を受ける極性に帯電するので、本実施例の場合には、インク滴Cは負の電荷qを持ち、電気力線Fの方向は図5に示すように上向きとなるので、負の電荷qを持ったインク滴Cは、クーロン力により正極側電極である導電部材9Aに吸着される。
【0040】
また、前記導電部材9Aに設けた突状部8Aの形状は、前述したような矩形平板状のものに限らず、各棒状や丸棒状のもの等、種々の形状が採用可能である。前記インク吸収材37に設けられる穴部41Aの形状も、前述したようなスリット状のものに限らず、角穴状や丸穴状のもの等、種々の形状が採用可能である。
【0041】
また、前記突状部8Aの高さHは、図6(A)に示すようにインク吸収材37Aの厚さtよりも高く(H>t)することも可能であるし、図6(B)に示すようにインク吸収材37Aの厚さtと同じ(H=t)にすることも可能である。
【0042】
更に、図6(C)に示すように前記突状部8Aの高さHをインク吸収材37Aの厚さtよりも低く(H<t)することも可能である。
因みに、突状部8Aの高さHを高くするほどノズルプレート47と導電部材9A間の距離dが小さくなって電荷qの量が大きくなる。一方、突状部8Aの高さHが低くなるほどインク吸収材37Aから露出する突状部8Aの量が少なくなってインク滴Cの吸収性能が向上する。
【0043】
そして、このようにして構成される実施例1に係るインクジェットプリンター1Aによれば、前記収容凹部39に収容状態のインク吸収材37Aを、該収容凹部39の底部から該インク吸収材37中を通るように立ち上がる複数の突状部8Aによって保持することが可能となる。これにより、当該インク吸収材37が位置ずれしたり、外れたりする虞を低減することができる。
【0044】
また、本実施例によれば、前記ノズルプレート47と突状部8Aとの間に電位差を発生させることによって、当該突状部8Aの先端部と前記ノズルプレート47との間で電界が発生する。よって、インク吸収材37に導電性は不要であるから、インク吸収性のみを有する既存のインク吸収材37をそのまま使用することが可能になる。
更に、前記ノズルプレート47と突状部8Aの先端部との間の距離は、突状部8Aの基端部である収容凹部の底部付近との距離よりもほぼインク吸収材37の厚さ分小さいので、電気的にインクミストの発生を抑制するに際して、必要な電荷の量を小さな電圧によって得ることが可能になり、安価でインクミストの発生抑制効果の高い記録装置を提供できるようになる。
すなわち、当該突状部8Aに、前記位置ずれ防止機能或いは外れ防止機能に加えて、インクミストの電気的な発生低減機能を兼ねさせることができる。
【0045】
[実施例2](図7、図8参照)
実施例2に係るインクジェットプリンター1Bは、前記実施例1に係るインクジェットプリンター1Aと基本的な構成は同様であり、導電部材9Bにおける突状部8Bの形状と、該突状部8Bの先端部11Bの構造が前記実施例1と相違している。
従って、ここでは前記実施例1と相違する突状部8Bの形状と、該突状部8Bの先端部11Bの構造、該突状部8Bの成形手順及び該突状部8Bの作用を中心にして説明する。
【0046】
実施例2に係るインクジェットプリンター1Bでは、先端部11Bが尖った縦に長い三角形平板状の突状部8Bが採用されている。また、当該突状部8Bの先端部11Bは、一例として水平に90°折り曲げられており、インク吸収材37Bの収容凹部39からの脱落を防止する抜止め構造部61Bとして機能するように構成されている。
そして、このような突状部8Bを成形するには、図8に示す成形手順が一例として採用可能である。
【0047】
具体的には、金属製平板材料等を出発材料として金属プレス加工等で打ち抜いて,図8(A)に示す平板状の中間成形品63Bを得る。次に折曲げ線L1で90°折り曲げて、突状部8Bが立ち上げられた図8(B)に示す中間成形品65Bを得る。
次に、図8(C)に示すように上方からインク吸収材37Bを押し当てて、前記突状部8Bをインク吸収材37Bに突き刺し、インク吸収材37Bの表面33上に突状部8Bの先端部11Bが突き出た状態にする。
【0048】
尚、前記突状部8Bをインク吸収材37Bに突き刺す際、インク吸収材37Bに予めスリット状の穴部41Bが形成されている場合には、当該穴部41Bに突状部8Bの先端部11Bを位置合わせし、当該穴部41Bを押し広げながら突き刺すようにする。
一方、インク吸収材37Bに予め穴部41Bが形成されていない場合には、突状部8Bの尖った先端部11Bを利用して、インク吸収材37Bに穴部41Bを形成しながら突状部8Bをインク吸収材37B中に直接、突き刺して行く。
【0049】
次に、図8(D)に示すように,折曲げ線L2で90°折り曲げれば、前端部11Bが90°折り曲げられ、抜止め構造部61Bとして機能する突状部8Bとなり、最終成形品となる導電部材9Bが得られる。
【0050】
このようにして構成される本実施例によっても、前記実施例1と同様の作用、効果が発揮される。更に、本実施例の場合には、インク吸収材37Bの位置ずれ防止効果に加えて、前記先端部11Bの折り曲げによってインク吸収材37Bの収容凹部39からの脱落を防止するインク吸収材37Bの抜止め効果一層強く発揮されるようになる。
【0051】
尚、本実施例の場合には、基板部7に対して前記突状部8Bを成形するために打ち抜かれた開口67が残存することになるが、該開口67が残存していても突状部8Bの支持部材としての機能はそのまま維持されており、収容凹部39内に収容されていることからインクCの該開口67からの漏出も問題にならない。
【0052】
[実施例3](図9、図10参照)
実施例3に係るインクジェットプリンター1Cは、前記実施例1に係るインクジェットプリンター1Aと基本的な構成は同様であり、導電部材9Cにおける突状部8Cの形状と、該突状部8Cの先端部11Cの構造が前記実施例1と若干相違している。
従って、ここでは前記実施例1と相違する突状部8Cの形状と、該突状部8Cの先端部11Cの構造、該突状部8Cの成形手順及び該突状部8Cの作動態様を中心にして説明する。
【0053】
即ち、実施例3に係るインクジェットプリンター1Cでは、前記実施例1と同様の板状、角棒状あるいは丸棒状の突状部8Cが採用されており、該突状部8Cの先端部11Cには、他の部位よりも大径の頭部69が形成されている。
前記頭部69は、一例として側面視三角形状をしており、傾斜した上方の二面が該先端部11Cに付着したインク滴Cをインク吸収材37Cに導く案内傾斜面71、71になっている。
【0054】
また、前記頭部69の外方に張り出した下部の角稜部73、73は、インク吸収材37Cの収容凹部39からの脱落を防止する抜止め構造部61Cとして機能するようになっている。
また、このような頭部69を備える突状部8Cを受け入れるインク吸収材37Cに形成されている穴部41Cは、前記実施例1の穴部41Aと同様のスリット形状、あるいは角穴形状ないし丸穴形状等によって形成されている。
【0055】
そして、このような突状部8Cを成形するには、図10に示す成形手順が一例として採用可能である。
具体的には、金属製の厚肉材を出発材料として金属プレス加工等によって押圧して図10(A)に示すように基板部7から一様な厚さの突状部8Cが立ち上げられた中間成形品63Cを得る。
続いて、図10(B)に示すようにインク吸収材37Cの穴部41Cに一様な厚さの突状部8Cを挿入し、インク吸収材37Cの表面33上に突状部8Cの先端部11Cが突き出た状態にする。
【0056】
次に、底部が側面視三角形状に凹陥したハンマー75を使用して、前記インク吸収材37の表面33上に突き出ている突状部8Cの先端部11Cを押し潰して、図10(C)に示すように突状部8Cの先端部11Cに頭部69を形成すれば最終成形品となる導電部材9Cが得られる。
【0057】
そして、このようにして構成される本実施例によっても、前記実施例1と同様の作用、効果が発揮される。更に本実施例の場合には、インク吸収材37Cの位置ずれ防止効果に加えて、前記頭部69によってインク吸収材37Cの収容凹部39からの脱落を防止するインク吸収材37Cの抜止め効果が前記実施例2と同様に発揮されるようになる。
【0058】
また、前記頭部69に付着したインクCは、前記頭部69に設けた2つの案内傾斜面71、71によって案内されて速やかに側傍のインク吸収材37Cに吸収されて捕捉されるから、突状部8Cの先端部11CでのインクCの残留による固着は生じない。
【0059】
[実施例4](図11、図12参照)
実施例4に係るインクジェットプリンター1Dは、前記実施例1に係るインクジェットプリンター1Aと基本的な構成は同様であり、導電部材9Dの突状部8Dの高さHをインク吸収材37Dの厚さtよりも低くした点と、インク吸収材37Dに形成した穴部41Dの形状を2つのスリットを交差させた平面視で「十の字」形状にした点と、が前記実施例1と相違している。
従って、ここでは前記実施例1と相違する突状部8Dの高さHと穴部41Dの形状、該突状部8Dの組付け手順及び該突状部8Dの作動態様を中心にして説明する。
【0060】
即ち、実施例4に係るインクジェットプリンター1Dでは、突状部8Dが前記実施例1と同様、一様な断面の角棒状ないし丸棒状に形成されており、該突状部8Dの高さHがインク吸収材37Dの厚さtよりも僅かに低くなるように設定されている。
また、前記突状部8Dを受け入れるインク吸収材37Dに形成されている穴部41Dは、インク吸収材37Dの表面33と裏面34間を貫通する2本のスリットを垂直に交差させて平面視「十の字」形状にしたものである。
【0061】
そして、このような突状部8Dを前記穴部41Dに挿入して導電部材9Dにインク吸収材37Dを組み付ける場合には、図12(A)に示すように突状部8Dを穴部41Dの概略の位置に位置合わせし、インク吸収材37Dを上方から押し込めば、図12(B)に示すように導電部材9Dの上方にインク吸収材37Dが組み付けられる。
尚、インク吸収材37Dを組み付けた状態では、図12(B)に示すように突状部8Dの先端面8aは、インク吸収材37Dの表面33によって被覆され、該被覆している表面33の直下に前記先端面8aが位置している。
【0062】
そして、このようにして構成される本実施例によっても、前記実施例1と同様の作用、効果が発揮される。更に本実施例の場合には、導電部材9Dの突状部8Dのすべてがインク吸収材37Dによって被覆されているから、電位差発生機構49の作用で突状部8Dの先端面8aに向けて吸着されるインクミストは該先端面8aの上方に位置するインク吸収材37Dの表面33によって吸収されて捕捉される。
従って、インク吸収材37Dに向けて打ち捨てられたインク滴Cは、導電部材9Dの突状部8Dに付着することなく、直接インク吸収材37Dに吸収されるからインクCの効率の良い吸収が実行されるようになる。
【0063】
[他の実施例]
本発明に係る記録装置1は以上述べたような構成を有することを基本とするものであるが、本願発明の要旨を逸脱しない範囲内の部分的構成の変更や省略等を行うことも勿論可能である。
【0064】
例えば、図13に示すように、突状部8の先端面8aの面積を大きくして、より広い面積でインクインクミストを吸着できるように構成することが可能である。
この例では、インク吸収材37Eに表面33側で窄まった大径の穴部41Eを形成し、該穴部41Eに傘状の頭部77を備えた突状部8Eを挿入して組み付ける構成が図示されている。
【0065】
また、上記実施例では、いずれも基板部7に突状部8が立設された導電部材9を備え、当該突状部8に前記位置ずれ防止機能或いは外れ防止機能に加えて、インクミストの電気的な発生低減機能を兼ねさせた構造について説明したが、当該突状部8は前記位置ずれ防止機能或いは外れ防止機能だけ有し、インクミストの電気的な発生低減機能まで有しないものであってもよい。
この場合、突状部8は、支持部材5の底部から直接立設させることが可能である。すなわち前記基板部7は不要である。図14は、このように突状部8を支持部材5の底部から一体成形によって直接立設させたものにインク吸収材37を装着し、それを支持部材5の収容凹部39に収容した構造の概略斜視図を示している。
【符号の説明】
【0066】
1 インクジェットプリンター(記録装置)、2 プリンター本体、3 リブ、
5 支持部材、7 基板部、8 突状部、8a 先端面、9 導電部材、
11 先端部、13 給送用セット部、15 用紙載置部、16 搬送経路、
17 給送部、18 ホッパー、19 給送用ローラー、20 搬送部、
21 搬送用ローラー、22 排出用ローラー、23 記録実行領域、
25 記録実行部、27 記録ヘッド、28 インク吐出面、29 キャリッジ、
33 表面、34 裏面、35 インク吐出範囲、37 インク吸収材、38 窓部、
39 収容凹部、41 穴部、47 ノズルプレート、49 電位差発生機構、
51 電源、53 ノズル開口、61 抜止め構造部、63 中間成形品、
65 中間成形品、67 開口、69 頭部、71 案内傾斜面、73 角稜部、
75 ハンマー、77 頭部、79 スリット、81 フラップ、83 係止爪部、
P 用紙(被記録材)、A 搬送方向、B 幅方向、PG ギャップ、
C インク(インク滴)、G アース、S 面積、q 電荷、r 半径、d 距離、
V 電圧、ε 誘電率、F 電気力線、H 高さ、t 厚さ、L 折曲げ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録実行領域に搬送された被記録材の被記録面にインクを吐出して記録を実行する記録ヘッドと、
前記記録実行領域に搬送された被記録材の前記被記録面と反対側の被支持面を支持し、前記被記録材の搬送を案内する支持部材と、
前記支持部材の収容凹部に収容され、前記記録ヘッドから吐出されたインクを受けるインク吸収材と、
前記収容凹部の底部に設けられ、前記インク吸収材の裏面側から表面に向って該インク吸収材中を通るとともに、前記被支持面の支持位置よりも低い位置まで延設された複数の突状部と、を備えることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
請求項1に記載された記録装置において、
前記突状部は、前記インク吸収材の収容凹部からの抜け出しを防止する抜止め構造部を備えていることを特徴とする記録装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された記録装置において、
前記突状部の先端部は、前記インク吸収材によって覆われた状態で設けられていることを特徴とする記録装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載された記録装置において、
前記突状部の先端部は、当該先端部に付着したインクを前記インク吸収材に導く案内傾斜面が形成されていることを特徴とする記録装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載された記録装置において、
前記記録ヘッドは、導電性のノズルプレートを備えており、
前記突状部は、前記ノズルプレートとの間で電位差を発生させる導電性を有していることを特徴とする記録装置。
【請求項6】
請求項5に記載された記録装置において、
前記インク吸収材の裏面と前記支持部材の底部との間に設けられる導電性の基板部を備え、
前記突状部は、前記基板部に立設されていることを特徴とする記録装置。
【請求項7】
請求項5または6に記載された記録装置において、
前記突状部の先端部は、前記インク吸収材から露出した状態で設けられていることを特徴とする記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−171120(P2012−171120A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32936(P2011−32936)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】