説明

診断および治療スクリーニングに有用な増幅癌標的遺伝子

乳癌等の癌に苦しむ患者の生存の予後指標として有用な遺伝子を開示する。また、TRIP13遺伝子あるいはそのスプライス変異体の発現の調節に基づく抗腫瘍物質等の潜在的な治療物質をスクリーニングするための方法と、前記遺伝子の発現あるいは複製数の変化を含む発現パターンの結果としての癌状態あるいは潜在的な癌状態を診断するための方法を開示する。また、機能的関連遺伝子を検出あるいは測定するための方法を開示する。ここでTRIP13の破壊は、前記関連遺伝子の発現に影響を与え得る。併せて、前記遺伝子の発現産物を標的とすることによる癌を処置するための方法と、癌プロセスに関連する遺伝子を測定するための方法を開示する。患者や、処理前に前記遺伝子の高レベルの増幅/発現を持つ他の者を同定し、検出し、見守るための方法を開示する。ここで処理後の差異は、処理の成功を示す標識として、あるいはこの遺伝子標識を診断標識およびまたは予後標識およびまたは薬力学的標識あるいは代用標識として用いた前記処置の恩恵を受ける個体を同定するための標識として働く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は2002年12月20日に出願された合衆国仮出願60/434918号および2003年4月17日に出願された合衆国仮出願60/463577号の優先権を主張し、その開示は全体で引用例としてここに組み込まれている。
【0002】
本発明は、癌状態の診断および抗腫瘍物質の治療スクリーニングに用いるための、癌において増幅した遺伝子および転写段階で過剰発現した遺伝子、そのRNAスプライス変異体、また前記スプライス変異体によりエンコードされた推定ポリペプチドに関する。
【背景技術】
【0003】
新規薬剤のスクリーニング分析は、特異的化合物による処置のためのin vitroモデル細胞基準システムの応答に基づく。サイトカインの放出、細胞表面マーカーの変化、特定の酵素の活性化、およびイオン流動およびまたはpHの変化を含む細胞応答の種々の基準が用いられている。前記スクリーンの多くは、腫瘍遺伝子(あるいは遺伝子突然変異)等の特異的遺伝子に依存する。
【0004】
加えて、染色体異常がほとんどの癌細胞において同定されている。従来の染色体分染法が癌細胞における特異的染色体欠損の検出を可能にしているが、バンドパターンの解釈はしばしば困難であり、特に複合染色体再配列あるいはわずかな異常がある場合に困難である。近年、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)(Pinkel D,Segraves R,Sudar D,Clark S,Poole I,Kowbel D,Collins C,Kuo WL,Chen C,Zhai Y,Dairkee SH,Ljung BM,Gray JW,Albertson DG.マイクロアレイへの比較ゲノムハイブリダイゼーションを用いたDNA複製数変異の高分解能解析.Nat Genet.1998 Oct;20(2):207−11.)に基づくCGHおよびSKY等の新技術が、従来の染色体分染法の制限を克服するために開発されている。CGHは、正常染色体へのハイブリダイゼーション(Kallioniemi A,Kallioniemi OP,Sudar D,Rutovitz D,Gray JW,Waldman F,Pinkel D.固形癌の分子細胞遺伝学分析のための比較ゲノムハイブリダイゼーション.Science.1992 Oct 30;258(5083):818−21)に続く、蛍光標識された腫瘍DNAと正常DNAの強度を測定する。腫瘍DNA等のDNAの特定の染色体あるいは染色体領域の複製数の増幅あるいは消失は、蛍光比の相対強度により測定される。SKYは、各染色体を特定するために蛍光標識された染色体プローブの混合物を利用し、この混合物は、腫瘍細胞における数的異常および構造上の異常を同定する目的で腫瘍染色体にハイブリダイズする(Schrock E,du Manoir S,Veldman T,Schoell B,Wienberg J,Ferguson−Smith MA,Ning Y,Ledbetter DH,Bar−Am I,Soenksen D,Garini Y,Ried T.ヒト染色体の多色スペクトル染色体分析.Science.1996 Jul 26;273(5274):494−7)。CGHおよびSKYは、腫瘍の発生あるいは進行の過程に重要な遺伝子を抱く染色体領域を同定するために用いられている。
【0005】
したがって、複製数の増加はゲノム増幅を示し、一方メッセンジャーRNAレベルの増加は(少なくとも転写レベルでの)遺伝子の過剰発現を示す。また、これ等両方が、癌の開始およびまたは進行、例えば転移の進行等に重要であり得る。本発明にしたがって、TRIP13(甲状腺ホルモン受容体結合タンパク質)と呼ばれる遺伝子が、腫瘍細胞中では増幅し、転写段階で過剰発現するが、他の正常組織中では増幅および過剰発現しないことが特定されている。
【0006】
甲状腺ホルモン(T3)受容体(TRs)は、種々の特異的標的遺伝子の発現を調節するホルモン依存性転写因子である。Lee et al.(甲状腺ホルモン受容体と相互作用する甲状腺ホルモンの存在あるいは不在に依存する2クラスのタンパク質.Mol Endocrinol 9(2):243−54(1995))はラットTRベータのリガンド結合ドメインと特異的に相互作用(結合)するタンパク質をエンコードするクローンおよび前記タンパク質のいくつかを単離した。これらはT3の存在下あるいは不在下で実施された独立選別群から単離された。意外にも全てのTRIPがTRと相互作用するホルモンに依存し、そのいくつかはT3が存在した場合のみ結合し、残りはT3が不在の場合のみ結合した。またほとんど全てのTRIPが、類似の、レチノイドX受容体(RXR)とのリガンド依存性相互作用を示したが、如何なる条件下においても糖質コルチコイド受容体との相互作用を示さなかった。TRIPは特有の転写活性を持つ。しかしながら、TRIPは癌の過程に関わっていない。
【0007】
ゲノム増幅は、癌の開始および進行に関連する遺伝子の発現を増加させるための立証されたメカニズムである。その高い発現レベルのために、前記遺伝子にエンコードされたタンパク質は、抗癌治療用の主要な分子標的となる。本発明は、高分解能細胞遺伝学的地図と高分解能分子地図を一体化するシステムに全体発現プロファイリングを与えることにより、これ等の技術を活用する。高分解能比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)、アレイCGHおよび全ゲノム発現解析が、非常に増幅した、過剰発現した癌遺伝子候補を迅速に同定するために用いられた。続いて定量PCRによって関連腫瘍細胞系におけるDNA複製数およびmRNA発現レベルが確認され、これにより染色体領域5p15において、甲状腺ホルモン受容体結合タンパク質13遺伝子、TRIP13が同定された(乳癌細胞系において両方が増幅され、過剰発現していることが分かった)。TRIP13タンパク質について、2つの機能が知られている。TRIP13タンパク質は、甲状腺ホルモン受容体のリガンド結合ドメインおよびヒトパピローマウイルス タイプ16(HPV16)E1タンパク質と相互作用する。TRIP13タンパク質は、AAAドメイン(これは種々の細胞活性と関連するATPアーゼファミリーを示す)という名の唯一知られているタンパク質ドメインを含む。このドメインは、タンパク質複合体の組み立て、動作あるいは分解を助けるシャペロン様機能を調整し、また行うと考えられるタンパク質の大ファミリーによって共有される。タンパク質相同性調査が、原糸期チェックポイントタンパク質2(Pch2)および細胞分裂調節タンパク質48(Cdc48)を含むAAAドメイン含有タンパク質のサブファミリーの一員であることを示す。これらは、細胞周期の調節に関連するタンパク質ファミリーである。
【発明の開示】
【0008】
(発明の簡単な要約)
一見地において、本発明は、ここに開示される癌関連遺伝子の活性を調節する前記化合物の能力を判断することを含む、遺伝子調節物質を同定するための方法に関する。前記調節は、遺伝子発現、ポリペプチド合成あるいは酵素活性の調節の形をとり得る。好ましい実施例において、発現の変化は発現の減少であり、例えばここで発現の減少は遺伝子の複製数の減少である。
【0009】
前記スクリーニング法の他の好ましい実施例において、発現の変化は、前記遺伝子によりエンコードされたRNAの合成の減少、あるいは前記遺伝子によりエンコードされたポリペプチドの合成の減少である。
【0010】
さらなる一見地において、本発明は、抗腫瘍物質を同定するための方法に関し、前記方法は、癌細胞を、前記細胞の増殖を促進する条件下で、本発明の一つあるいはそれ以上のスクリーニング法で遺伝子調節活性を持つことが認められた化合物と接触させ、前記癌細胞の活性の変化を検出することを含む。前記方法の全てにおいて、細胞は組み換え(リコンビナント)細胞でもよい。
【0011】
他の見地において、本発明は、ここに開示されたように、一つあるいはそれ以上の遺伝子の増幅およびまたは過剰発現を測定することによる、動物、特にヒトにおける癌状態の存在の診断あるいは癌状態の発現傾向の診断のための方法に関する。
【0012】
さらなる一見地において、本発明は、ここに開示された分析法の一つを用いて同定された抗腫瘍活性を持つとして選択された化学物質を用いて、癌状態、特に胸部、大腸、肺あるいは前立腺組織に関連する癌状態、特に乳癌あるいは他の固形癌の処置のための方法に関する。
【0013】
またさらなる一見地において、本発明は、癌発現、促進あるいは抑制遺伝子を検出あるいは測定するための方法に関し、前記方法は、ここに開示されたように、癌細胞を遺伝子の活性を調節する物質と接触させ、前記遺伝子の活性の変化を測定することを含む。
【0014】
他の実施例において、本発明は、癌の処置の進行を観察するための方法を提供し、例えばここで本発明の方法は、癌治療の一定の経過が、ここに開示された遺伝子の発現の増加あるいは減少によって実行を現すか否かを判定することを可能にする。
【0015】
さらなる見地において、本発明は、患者と処置前に前記遺伝子の増幅/発現レベルの高い者を同定し、検出し、また見守るための方法に関し、ここで処置後の差異は、処置の成功を示すための標識として働く。
【0016】
(図面の簡単な説明)
図1は、乳癌材料におけるBACプローブ増幅に基づくカプラン−マイヤー生存率解析の結果を示す。パネルBは、生存率の関数として、増幅と正常との対比を示し、パネルAは高レベルおよび低レベルの増幅と正常組織との対比を示す。ここで、増幅の相対的レベルは縦座標で示され、材料が回収されてからの患者の生存月は横座標で示される。また増幅の相対的レベルは、TRIP13の増幅と生存率の低さとの重要な関連性を示している。
【0017】
(定義)
ここで用いられるように、以下の用語は、明示的に別段の定めをした場合を除き、以下に示された意味を持つ。
【0018】
“パーセント同一性”あるいは“パーセント同一性の”という用語は、配列に関する場合には、配列が、比較される配列(“比較配列”)の、開示あるいは請求された配列(“参照配列”)とのアライメントの後に、請求あるいは開示された配列と比較されることを意味する。その後パーセント同一性は以下の公式にしたがって測定される:
パーセント同一性=100[1−(C/R)]
ここでCは、参照配列と比較配列との間のアライメントの全長にわたる参照配列と比較配列との間の差異の数であり、ここで(i)比較配列中に対応するアライメントされた塩基あるいはアミノ酸のない参照配列中の各塩基あるいはアミノ酸および(ii)参照配列中の各ギャップおよび(iii)比較配列中のアライメントされた塩基あるいはアミノ酸と異なる参照配列中のアライメントされた各塩基あるいはアミノ酸が差異を構成し、Rは、参照配列中に構成されたギャップも塩基あるいはアミノ酸として数に入れた、比較配列とのアライメントの全長に亘る参照配列中の塩基あるいはアミノ酸の数である。
【0019】
アライメントが比較配列と参照配列との間に存在し、それに対する上記のように計算されたパーセント同一性が規定の最小パーセント同一性と同等あるいはそれ以上である場合には、たとえアライメントが、上記の算出されたパーセント同一性が規定のパーセント同一性以下である場合に存在したとしても、比較配列は参照配列に対して規定の最小パーセント同一性を持つ。
【0020】
ここで用いられるように、“部位”、“分節”および“断片”という用語は、ポリペプチドに関して用いられた場合、アミノ酸残基等の残基の連続した配列を示し、この配列はより大きな配列の一部を形成する。例えば、あるポリペプチドが、トリプシンあるいはキモトリプシン等の任意の代表的なエンドペプチダーゼを用いた処理を受けた場合、その結果生じたオリゴポリペプチドは最初のポリペプチドの部位、分節あるいは断片に相当する。ポリヌクレオチドに関して用いられた場合は、前記用語は、任意の代表的なエンドヌクレアーゼを用いた前記ポリヌクレオチドの処理により産生された産物、あるいは合成することができる一続きのポリヌクレオチドを示す。
【0021】
ここで用いられるように、“DNA分節”あるいは“DNA配列”という用語は、個別の断片の形態あるいはより大きいDNA構成体の構成要素としてのDNAポリマーを示し、DNAから得られ、単鎖および二本鎖配列の両方を含み得る。前記分節は、真核細胞遺伝子中に通常存在する内側非翻訳配列、イントロンにより中断されていない読み取り枠(オープンリーディングフレーム)の状態で提供される。
【0022】
“コード領域”という用語は、その自然ゲノム環境において遺伝子の発現産物を自然にあるいは正常にコードする遺伝子の部分、すなわちin vivoで遺伝子の自然発現産物をコードする領域を示す。
【0023】
“ヌクレオチド配列”という用語は、デオキシリボヌクレオチドのヘテロポリマーを示す。通常、本発明によって提供されるタンパク質をエンコードするDNA分節は、微生物あるいはウイルスオペロンから得られた調節因子を含む組換え型転写ユニット中で発現することが可能な合成遺伝子を提供するために、cDNA断片とショートオリゴヌクレオチドリンカーから、あるいは一連のオリゴヌクレオチドから組み立てられる。
【0024】
“発現産物”という用語は、遺伝子および、遺伝暗号縮重の結果として生じる同等物をコードし、したがって同じアミノ酸をコードする任意の核酸配列の自然翻訳産物であるポリペプチドあるいはタンパク質を意味する。この用語はまた、遺伝子から転写されたRNA種にも適用され得る。
【0025】
“操作可能に連結した”という用語は、核酸発現制御配列(例えばプロモーター、あるいは転写因子結合部位の配列)ともう一つの核酸配列との間の機能的連結を示す。ここで前記発現制御配列は、前記もう一つの配列に相当する核酸の転写を制御する。
【0026】
“断片”という用語は、コード配列に関する場合には、発現産物が完全コード領域の発現産物と同様の生物学的機能あるいは活性を基本的に保持する完全コード領域以下より成るDNAの部位を意味する。
【0027】
“抗体”および“免疫グロブリン”という用語は、ここでは置き換え可能であると考えられる。分子生物学および組換え技術の方法の出現により、現在では組換え手段によって抗体分子を産生し、それにより抗体のポリペプチド構造中に見られる特異的なアミノ酸配列をコードする遺伝子配列を生み出すことが可能である。前記抗体は、前記抗体のポリペプチド鎖をエンコードする遺伝子配列をクローニングすることにより産生することができ、あるいは特異的エピトープおよび抗原決定基に対する親和性を持つ活性化四量体(H)構造を形成するための、合成された鎖のin vitroでの組立を伴う、前記ポリペプチド鎖の直接合成により産生することができる。これは、異なる種および源由来の中和抗体に特有の配列を持つ抗体の迅速な産生を可能にする。
【0028】
抗体の起源に関係なく、あるいはどのように抗体が組換えにより構成され、もしくは生物反応器中で、研究室あるいは企業規模の大細胞培養を用い、ウシ、ヤギおよびヒツジ等の形質転換動物を用いて、in vitroあるいはin vivoで抗体が合成され、もしくはプロセスのどの段階にも生体を用いない直接化学合成により抗体が合成されるかに関係なく、全ての抗体は類似の全体3次元構造を持つ。この構造はしばしばHのように提示され、抗体が通常2つの軽(L)アミノ酸鎖と2つの重(H)アミノ酸鎖より成ることを示す。両鎖は構造上相補的な抗原標的と相互作用できる領域を持つ。標的と相互作用する前記領域は、“可変”あるいは“V”領域のように示され、抗原特異性の異なる抗体とアミノ酸配列が異なることを特徴とする。
【0029】
HあるいはL鎖の可変領域は、抗原標的と特異的に結合することができるアミノ酸配列を包含する。これらの配列内には、特異性の異なる抗体間での極端な可変性のために“超可変”と呼ばれる短い配列がある。前記超可変領域はまた、“相補性決定領域”あるいは“CDR”領域のように示される。これらのCDR領域は、特定の抗原決定構造に対する抗体の基本的な特異性の原因となる。
【0030】
CDRsは可変領域内のアミノ酸の不連続の配列であるが、種に関係なく、可変重鎖および軽鎖領域内のこれらの重要なアミノ酸配列の配置位置は、可変鎖のアミノ酸配列内の同様の位置をとっている。全ての抗体の可変重鎖および軽鎖は、軽(L)鎖および重(H)鎖それぞれについて、(L1、L2、L3、H1、H2、H3と称される)それぞれがその他のものと不連続である、それぞれ3つのCDR領域を持つ。対応するCDR領域は、Kabat et al,J.Biol.Chem.252:6609−6616(1977)により開示されている。
【0031】
全ての哺乳類種において、抗体ポリペプチドは、定常(すなわち高度に保存されている)および可変領域を含有し、後者の内部に、CDRsと、CDRs外の重鎖あるいは軽鎖の可変領域内のアミノ酸配列で構成されているいわゆる“枠組み構造(フレームワーク)領域”がある。
【0032】
本発明にしたがって開示された抗体はまた、完全に合成することができる。ここで抗体のポリペプチド鎖は合成され、レセプターとしてここに開示されたポリペプチドと結合するように最適化され得る。前記抗体は、キメラあるいはヒト化抗体であり得る。また前記抗体は完全四量体構造であるかあるいは二量体であり、単重鎖および単軽鎖のみから成り得る。前記抗体はまた、レセプターとしてここに開示された任意のポリペプチドと反応し、結合することができる、FabおよびF(ab)′断片等の断片を含み得る。
【0033】
ここで用いられるように、“生物学的活性”という用語は、TRIP13によりエンコードされたポリペプチド産物の任意の測定可能な化学的活性を示し、ここで前記活性は定量可能であり、またここで癌状態と関連しているため、前記生物学的活性の抑制は細胞における癌増殖あるいは他の癌関連活性の減少をもたらす。本発明の観点では、これは、TRIP13ポリペプチドのAAAドメインおよび、甲状腺ホルモンへの結合に依存する活性等の活性を含むがこれに限定されない。
【0034】
ここで用いられるように、“試験化合物”という用語は、TRIP13遺伝子の調節発現や、TRIP13タンパク質あるいはポリペプチドの生物学的活性の調節等の、本発明の任意の解析法において活性についてスクリーンすることができる小有機化合物等の化合物を意味する。“物質”という用語は、“化合物”と置き換え可能に用いられ、同様に“試験物質”は、“試験化合物”と置き換え可能に用いられる。
【0035】
(発明の詳細な説明)
一見地において、本発明は配列番号1から6のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子に関する。各配列は配列における変異形に相当し、エキソンが存在し、癌組織において増幅および過剰発現することが認められている。増幅およびまたは過剰発現を示す遺伝子配列は、特定の細胞の癌状態の指標である。より特に、特定の器官由来の非癌細胞と比較して、癌組織において増幅およびまたは過剰発現した場合の前記遺伝子は、配列番号1から6のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子である。これらのヌクレオチド配列によりエンコードされたアミノ酸配列を持つポリペプチドは、配列番号7から11として示される。ここで、配列番号7のポリペプチドは、配列番号1のcDNAのヌクレオチド配列によりエンコードされ、配列番号8のポリペプチドは、配列番号2のcDNAのヌクレオチド配列によりエンコードされ、配列番号9のポリペプチドは、配列番号3のcDNAのヌクレオチド配列によりエンコードされ、配列番号10のポリペプチドは、配列番号4のcDNAのヌクレオチド配列によりエンコードされ、配列番号11のポリペプチドは、配列番号5およびまたは6のcDNAのヌクレオチド配列によりエンコードされる。
【0036】
臨床腫瘍サンプル大部分におけるTRIP13の発現解析を利用した本発明は、TRIP13が約40%の上皮腫瘍において過剰発現することを示した。インサイチューハイブリダイゼーションと免疫組織化学は、ヒト腫瘍の上皮細胞においてRNAとタンパク質の高レベルの発現を示した。予測されたタンパク質配列は、ATPアーゼドメインを含み、細胞周期チェックポイント制御に関連するタンパク質と類似している。多くの臨床腫瘍サンプルの発現解析が、染色体の保全と分離に関連する遺伝子の発現レベルとの重要な相互関係を示している。乳癌細胞において、RNA干渉によるTRIP13のmRNAレベルにおける減少が、核分裂停止をもたらした。データは、この遺伝子が癌細胞の核分裂チェックポイント制御に関連することを示している。新規の開示は、したがって薬剤標的を迅速に同定するための標的発見パイプラインを提供する。
【0037】
好ましい実施例において、TRIP13の破壊は他の遺伝子、特に構造的にかつあるいは機能的に関連する遺伝子の発現に影響を与え、本発明は、癌の診断およびまたは処置プロセスを助ける手段として、前記他の遺伝子およびそれらの影響された発現の使用を含む。
【0038】
前記にしたがって、本発明はTRIP13と呼ばれる遺伝子に関し、TRIP13は、癌においてゲノムレベルで増幅され、転写段階で過剰発現する。さらに前記遺伝子はとりわけ、腫瘍状態、期(ステージ)、悪性度に対する診断標識としての使用、治療への応答あるいは特定の治療への応答を予測するための予後標識としての使用、抗体あるいは(治療を腫瘍細胞に誘導するために、あるいは腫瘍細胞の機能を妨害するためにタンパク質の活性を阻害するために使用することができる)小分子等の治療分子のための標的としての使用、およびタンパク質の活性、遺伝子の転写状況、あるいはTRIP13により活性化される標的遺伝子の転写状況に基づいて薬剤活性をスクリーニングするための標識としての使用が見出される。
【0039】
TRIP13の特性は、CGH、SKY、mRNA発現解析、定量ポリメラーゼ連鎖反応および逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)の組み合わせにより同定された。前記遺伝子は、癌、好ましくは胸部、大腸、肺および前立腺悪性腫瘍、最も好ましくは胸部の腫瘍に対する標識および潜在的な治療標的である。加えて前記遺伝子の、増幅するという性質が、癌に苦しむ患者、あるいは癌になりやすいか、そうでなくとも癌を発現する危険性のある患者における一つあるいはそれ以上の前記遺伝子の増幅を測定することにより、癌状態あるいは癌状態になりやすい素質を診断するための方法を提供する。TRIP13は、配列番号1から6のcDNA配列に代表される多くのスプライス変異体として見出される。
【0040】
ここに開示された遺伝子を同定するために用いられる手段は、以下のように要約され得る。
【0041】
CGH解析については、詳細な分子細胞遺伝学的性状に基づいて、公に知られている領域と今まで知られていなかった固有の領域とを含むデータセットが作成された。通常、代表的な癌細胞系あるいは腫瘍タイプ(例えば、大腸、前立腺、胸部および肺)に対する、一致し、反復し、また高レベルのゲノム増幅率(すなわち増幅)であって、腫瘍のパターン/形跡として認識することができるものに関する染色体領域の地図が作成される(例えば、試験される個別の細胞系に対する、腫瘍細胞におけるゲノム消失(すなわち欠失)を含む染色体領域の地図が同様に作成され得る)。増幅率と消失の強度レベルが、データベースに入力するために分類される。ステージと悪性度の一致した臨床サンプル(例えば大腸異種移植片)と細胞系(例えば大腸)との間の増幅率と消失のパターンの比較がその後行われる。加えて、これは、原発腫瘍細胞系と転移性前立腺腫瘍細胞系との間の増幅率と消失のパターンの比較を容易にする。
【0042】
本発明にしたがって、SKY解析については、癌細胞系における新規染色体再配列のデータペースの同定と開発、特定の染色体あるいは染色体領域を含む新規転座の同定、続く総合した結果の確認としての同じ細胞系あるいは細胞タイプでのSKYとCGH解析の調整により、データセットが作成された。
【0043】
腫瘍細胞系/臨床サンプルにおける増幅率のゲノムDNA解析と、同じ一致した腫瘍タイプからのmRNA発現解析由来の合成データは、NCBI Genbank配列集積から得られた組み立てられたヒトゲノム配列に表示された。
【0044】
1.ゲノム増幅の領域は、比較ゲノムハイブリダイゼーションを用いて、腫瘍細胞系および臨床腫瘍サンプルにおいて同定された。
【0045】
2.組み立てられたヒトゲノム配列は、増幅領域に存在するDNA配列を同定するために用いられた。
【0046】
3.腫瘍細胞系および臨床腫瘍サンプル由来のゲノムDNAにおける定量PCRは、最高増幅レベルのゲノム領域を同定するために用いられた。
【0047】
4.組み立てられたヒトゲノム配列は、増幅領域に存在するDNA配列を同定するために用いられた。ゲノムDNAのこの領域内の全ての推測される遺伝子が同定された。
【0048】
5.増幅された領域内の全ての推測される遺伝子について、ゲノム複製数が定量PCRにより同定され、またmRNA発現レベルが定量RT−PCRを用いて同定された。
【0049】
6.最高DNA複製数増幅のゲノム領域について、この領域と一致するヒトゲノム配列のおおよそ100kbを包含する細菌人工染色体(BAC)が同定された。このBACは、腫瘍細胞系および臨床組織サンプルにおけるFISHによりゲノム増幅を確認するために用いられた。
【0050】
7.SKY解析は、DNA複製数増加の機構を解明するための増幅を用いて、腫瘍細胞系において行われた。
【0051】
8.一貫してゲノムレベルで増幅し、mRNAレベルで過剰発現した遺伝子は、さらに(タンパク質発現、RNA干渉により)機能について特性を明らかにした。
【0052】
本発明にしたがって、細胞遺伝子の過剰発現は、増殖培地中に保存された(例えば、以下の実施例で用いられる)細胞系、初代細胞あるいは組織サンプルを用いてモデル細胞システムにおいて適宜観察された。別の目的として、これらは、調節物質の解析のために、一つあるいはそれ以上の異なる濃度の化合物で処理され得る。したがって、細胞RNAsは、選択された遺伝子発現の指標として細胞あるいは培養系から単離された。細胞RNAsはその後分割されて解析され、特異的RNA転写産物の存在およびまたは量が検出された。転写産物はその後、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)等の通常の技術を用いて、検出目的で増幅された。存在あるいは不在を含む、特異的RNA転写産物のレベルが測定された。抗腫瘍物質等の調節物質の同定のために用いられた場合、コントロールサンプルと比較した処理されたサンプルの応答のタイプと程度について、測定基準が得られた。
【0053】
前記にしたがって、TRIP13遺伝子が、癌細胞において増幅および過剰発現することが分かった。増幅および過剰発現には複製数の増加が含まれる。特に前記遺伝子は、配列番号1から6のヌクレオチド配列を持つスプライス変異体を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子を含む。特にここで前記遺伝子はこれらの配列の一つを含む。
【0054】
この遺伝子は、細胞あるいは組織の癌あるいは非癌状態を明らかにするために用いられ得る。本発明の方法は、種々の細胞系と共に、あるいは期間を変えるための適切な培養条件下でin vitroで維持された腫瘍由来の初代サンプルと共に、もしくはin situでの適切な動物モデルにおいて用いられ得る。
【0055】
ここに開示された遺伝子は、癌細胞において、非癌細胞における発現レベルと異なるレベルで発現する。この遺伝子のスプライス変異体(相当するcDNA配列としての配列番号1から6)は、癌細胞において、対応する組織の非癌細胞と比較して増幅される。
【0056】
一見地において、本発明はTRIP13遺伝子調節物質を同定するための方法に関し、前記方法は、
(a)試験化合物を、TRIP13遺伝子を発現する細胞と接触させ、
(b)前記接触の結果としての前記遺伝子の発現の変化を測定し、ここで測定された前記発現は遺伝子調節を示し、
それにより前記試験化合物を遺伝子調節物質として同定することを含む。
【0057】
より特定の実施例において、本発明はまた抗腫瘍物質等の遺伝子調節物質を同定するための方法に関し、ここで前記方法は、
(a)化合物を、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子の少なくとも一つを発現する細胞と、前記発現を促進する条件下で接触させ、
(b)前記化合物が存在しなかった場合、またあるいは前記接触がなかった場合の発現と比較した前記遺伝子の発現の変化を検出することを含み、
ここで前記遺伝子の発現の変化は抗腫瘍活性の指標である。
【0058】
ここに開示された遺伝子は過剰発現し、また細胞の癌状態に関連するため、この遺伝子(すなわち、配列番号1から6のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子、ここで後者は対応するmRNA配列から同定されたcDNA配列であり、またTRIP13のスプライス変異体に相当し、またここでTRIP13あるいはTRIP13に対応する遺伝子の発現は、遺伝子調節活性が測定された物質により調節される)の発現を減少させる物質により、成功した抗腫瘍活性が通常示される。
【0059】
一実施例において、発現の変化はTRIP13遺伝子から転写されたmRNAレベルにおける減少である。それにしたがって、前記遺伝子発現レベルの変化は、前記遺伝子配列によりエンコードされるメッセンジャーRNAの発現の変化を検出することにより、適宜測定される。
【0060】
TRIP13の発現の変化の測定に有用な他の方法は、前記遺伝子によりエンコードされたポリペプチドの合成量あるいは合成率の変化を、好ましくは前記ポリペプチドの合成の減少を測定することを含む。好ましくは、前記ポリペプチドは、配列番号7から11の配列と高い相同性を持つアミノ酸配列を含み、最も好ましくは、前記ポリペプチドは前記配列を含む。
【0061】
本発明の方法は、したがって癌状態の処置に有用な抗腫瘍物質を同定するために利用することができる。前記活性はさらに、まず既に開示された解析法を用いて前記物質を同定し、さらに前記物質を癌細胞と接触させ、続いて前記細胞の状態を観察することにより修正することができる。成功した抗腫瘍活性の指標となる状態の変化は、癌細胞の複製率の減少、前記癌細胞により産生される子孫細胞のトータル数の減少、前記癌細胞が複製できる回数の減少、あるいは前記癌細胞の死を含み得る。
【0062】
抗腫瘍物質はまた、TRIP13遺伝子を含み、発現するように適切に設計された組み換え細胞を用いて同定することができる。一実施例において、組み換え細胞は標準技術を用いて形成され、その後ここに開示された解析法において利用される。前記組み換え細胞を形成するための方法は文献にてよく知られている。例えば、Sambrook, et al.,Molecular Cloning:Alaboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor,N.Y.,(1989)、Wu et al.,Methods in Gene Biotechnology(CRC Press,New York,NY,1997)およびRecombinant Gene Expression Protocols,in Methods in Molecular Biology,Vol.62,(Tuan, ed.,Humana Press,Totowa,NJ,1997)参照。その開示は引用例としてここに組み込まれている。
【0063】
さらなる見地において、本発明はTRIP13ポリペプチド生物学的活性を調節する物質を同定するための方法に関し、前記方法は、
(a)試験化合物をTRIP13ポリペプチドと接触させ、
(b)前記接触の結果としての前記TRIP13ポリペプチドの生物学的活性の変化を測定し、ここで前記生物学的活性の変化はTRIP13生物学的活性の調節を示し、
それにより前記試験化合物を、TRIP13生物学的活性を調節する物質として同定することを含む。
【0064】
前記の好ましい実施例において、測定された変化は生物学的活性の減少である。他の好ましい実施例において、TRIP13ポリペプチドは細胞中に、より好ましくは哺乳類細胞中に存在する。例えばここで前記細胞はTRIP13ポリペプチドを含むように設計されている。前記実施例のいくつかにおいて、前記細胞は前記設計がなければTRIP13タンパク質を通常含まない。
【0065】
特に好ましくは、ここでTRIP13ポリペプチドは、配列番号7、8、9、10、11および12から選択されたアミノ酸配列を含み、これらの配列はより大きなポリペプチドの一部であり得る。TRIP13ポリペプチドが固体担体、特にガラスあるいはプラスチック担体に固定される実施例もまた有用であり、その多くの例がこの分野における通常の知識を有する者によく知られている。
【0066】
前記調節を測定するための基礎として測定される生物学的活性のタイプは多様であり、細胞中のTRIP13ポリペプチドの発現あるいは存在により測定され、誘導され、促進され、あるいは支持される細胞の癌特性に関連する任意の生物学的活性を含む。これは、甲状腺ホルモンの結合におけるTRIP13の活性に基づく解析法を含み得るし、また甲状腺ホルモン受容体の使用を含み得る。前記解析法はまた、TRIP13中のAAAドメインの存在に基づき得る。AAAドメインへの結合についての解析法は、この分野における通常の知識を有する者によく知られており、ここでは詳細に開示しない。TRIP13の生物学的活性はまた、試験化合物のATPアーゼ活性への影響を測定することにより観察することができる。AAAドメインを持つタンパク質に関する文献に開示された前記解析法の例は、以下の文献を含むがこれらに限定されない多くの公知資料に見受けられる。Hartman et al.,微小管切断タンパク質であるカタニンはWD40含有サブユニットを用いて動原体を標的とする新規AAA ATPアーゼである,Cell,93:277−287(1998);Joshi et al.,展開に必要とされる関与段階から結合するClpX分離基質におけるC末端ドメイン突然変異,Mol.Microbiol.,48:67−76(2003);Corydon et al.,細菌ClpXのヒトおよびマウスミトコンゴリアオルソローグ(orthologs),Mammalian Genome,11:899−905(2000);およびLi and Sha,大腸菌Hsp100ヌクレオチド結合ドメイン2(NBD2)のクローニング、発現、精製および予備X線結晶学的研究,Acta Crystallogr D Biol Crystallogr,58(Pt6 Pt2):1030−1031(2002)。これら全ての開示は全体で引用例としてここに組み込まれている。前記方法を用いて、完全試験化合物ライブラリーが、TRIP13生物学的活性の調節に関して迅速にスクリーンされ得る。
【0067】
本発明はまた、細胞の癌状態を検出するための方法に関し、前記方法は前記細胞におけるTRIP13に対応する少なくとも一つの遺伝子、特にそのcDNAが配列番号1から6の一つであるRNAを発現する遺伝子の増加した複製数およびまたは発現を検出することを含む。前記増加した発現は、同じ遺伝子を持つ他の正常細胞の発現と比較することにより容易に観察することができる。この遺伝子の増加した発現は、癌状態の指標である。これは、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子を含む。増加した複製数を含む前記増加した発現は、二以上の前記遺伝子の発現であり得る。
【0068】
本発明はまた、癌関連遺伝子を検出するための方法に関し、前記方法は、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子に対する遺伝子調節活性を持つことが認められた化合物を、試験遺伝子を発現する細胞と接触させ、前記化合物がない場合あるいは前記接触がない場合と比較した前記試験遺伝子の減少した活性等の調節を検出し、それにより前記試験遺伝子を、癌関連遺伝子として同定することを含む。好ましい実施例において、前記プロセスにより測定された遺伝子は、腫瘍遺伝子あるいは癌促進遺伝子である。
【0069】
他の実施例において癌を処置するための方法が提供され、前記方法は、癌細胞を、本発明にしたがって開示された任意の解析プロセスを用いて遺伝子調節活性を持つことが最初に同定された物質の前記細胞の癌活性を減少させるのに有効な量と接触させることを含む。好ましい実施例において、癌細部はin vivoで接触させられる。他の好ましい実施例において、前記癌活性の減少は前記癌細胞の増殖率の減少であり、あるいは前記癌活性の減少は前記癌細胞の死である。
【0070】
本発明はさらに、癌を処置およびまたは診断するための方法に関し、前記方法は癌細胞を、配列番号1から6より成るグループから選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子によりエンコードされた発現産物に対する活性を持つ物質と接触させることを含み、好ましくはここで前記発現産物はポリペプチドであり、最も好ましくは配列番号7から11から選択されたアミノ酸配列を含むものである。好ましい実施例において、前記癌細胞はin vivoで接触させられる。他の好ましい実施例において、前記物質は抗体である。
【0071】
記載したように、本発明の解析法において有用な遺伝子は、TRIP13に対応する遺伝子群、あるいはTRIP13に対応する遺伝子、またはTRIP13の突然変異形態であり、また配列番号1から6の配列を持つポリヌクレオチドの一つ等(すなわち、その対応するcDNAが配列番号1から6の配列の一つである、同じメッセンジャーRNA等の同じRNAをエンコードする遺伝子)のスプライス変異体を含む。本発明のプロセスにおいて有用な遺伝子はさらに、その対応するcDNAが配列番号1から6から選択された配列と少なくとも90%同一、好ましくは前記配列と少なくとも約95%同一、より好ましくは前記配列と少なくとも約98%同一、最も好ましくは本発明の全てのプロセスに特に意図される配列を含むものであるRNAsをエンコードする遺伝子を含む。
【0072】
加えて、これらの配列の任意のものと同じタンパク質(配列番号7から11)をエンコードする配列もまた、その配列のパーセント同一性にかかわらず、本発明により特に意図される。
【0073】
TRIP13に対応する遺伝子は、そのため本発明の方法において有用であり、事実上のゲノムであって、したがってヒト遺伝子等の事実上の遺伝子の配列に相当し得るし、あるいはメッセンジャーRNA(mRNA)から得られたcDNA配列であって、したがって対応するゲノム配列から得られた連続するエキソン配列であり得るし、または検出目的で完全に合成されたものでもあり得る。実施例に開示されるように、これらの癌関連遺伝子の発現は、正常(すなわち非癌)細胞と比較した癌細胞のRNA補足物の相対的発現レベルから測定される。最初のRNA転写産物から最終的なmRNAへの変換において起こり得るプロセッシングのために、ここに開示された配列は完全ゲノム配列以下に相当する。これらはまた、リボソームRNAsおよびトランスファーRNAsから得られた配列に相当し得る。そのため、細胞中に存在する(そしてゲノム配列に相当する)配列およびここに開示された配列は、それらはほとんどcDNA配列であるが、同一であるか、あるいはcDNAが完全ゲノム配列以下の配列を含むということであり得る。前記遺伝子およびcDNA配列は、共に類似RNA配列をエンコードするため、相当する配列であると考えられる。したがって、限定されない例として、より短いmRNAへのプロセッシングを受けるRNA転写産物をエンコードする遺伝子は、前記RNAの両方をエンコードするとみなされ、したがってcDNA(例えば、ここに開示された配列)と(通常のワトソン−クリック相補性法則を用いて)相補的な、あるいはそうでなければcDNAによりエンコードされるRNAをエンコードする。したがって、ここに開示された配列は、発現の相対的レベルを測定するために用いられる癌あるいは正常細胞に含まれる遺伝子に相当する。なぜならば、ここに開示された配列は、これらの遺伝子によりエンコードされたRNAと同じ配列あるいは相補的である配列に相当するためである。前記遺伝子はまた、本発明のプロセスにおいて用いられる細胞中に発生し得る異なる対立遺伝子およびスプライス変異体を含む。
【0074】
本発明の遺伝子は、示唆された配列を持つポリヌクレオチドによりエンコードされるRNAあるいは示唆された配列とハイブリダイゼーション等により相補的なRNAと少なくとも90%同一、好ましくは少なくとも95%同一、最も好ましくは少なくとも98%同一、また特に同一であるRNA(自然発生スプライス変異体および対立遺伝子を含む、プロセッシングを受けたのも、あるいはプロセッシングを受けていないもの)をエンコードする場合には、TRIP13(あるいは配列番号1から6の配列を持つポリヌクレオチド)に“対応する”。加えて、配列番号1から6から選択された配列と少なくとも90%同一の配列、好ましくは前記配列と少なくとも95%同一の配列、より好ましくは前記配列と少なくとも約98%同一の配列、また最も好ましくは前記配列を含む配列を含む遺伝子は、本発明の全てのプロセスにより、これらの配列に相当する遺伝子として特に意図される。加えて、これらの配列のいずれかと同じタンパク質をエンコードする配列はまた、前記配列のパーセント同一性にかかわらず、どのように別段の開示あるいは限定がされているかによらず前記配列のいずれかあるいは全てに依存する本発明の任意の方法により特に意図される。したがって、任意の前記配列は、本発明にしたがって開示された任意の方法の実施において使用できる。前記配列はまた、配列番号1から6の配列のいずれかに存在する、ここに定義された任意のオープンリーディングフレームを含む。
【0075】
本発明はまた、癌組織あるいは細胞、または癌であると疑われる組織あるいは細胞のサンプルとして、患者における癌の存在を診断する方法としての使用が見出される。前記目的のために、またここでの開示にしたがって、前記診断は本発明にしたがって同定された遺伝子の一つあるいはそれ以上の増加した発現あるいは増幅、例えば増加した複製数の検出に基づく。前記増加した発現は、ここに開示された任意の方法により測定可能である。
【0076】
一実施例において、同じ器官の正常細胞およびまたは組織と比較して増加した発現は、RNAの転写の相対比率を測定することにより、例えば対応するcDNAの産生と、その後、配列番号1から6の遺伝子配列から作成したプローブを用いて結果的に生じたDNAを解析することにより測定される。癌であると疑われる細胞の完全RNA補足物と逆転写酵素の使用により産生されたcDNAのレベルは、結果的に生じたcDNAの相対的レベルを測定し、それにより遺伝子発現の相対的レベルを測定するために、ポリメラーゼ連鎖反応あるいは他の方法、例えばローリング サークル増幅(RCA)を用いて増幅させることができるcDNAの対応する量を生み出す。
【0077】
RNA解析のために、後者は、カオトロピック試薬(例えばトリアゾール(triazol))を含むフェノール溶液での溶解および変性、続くイソプロパノール沈殿、エタノール洗浄、水溶液中での再懸濁;あるいは溶解および変性、続くキアゲン(Qiagen)樹脂等の固体担体での単離、水溶液中での再構成;もしくは非フェノール性水溶液での溶解および変性、続くRNAのDNA鋳型コピーへの酵素的変換を含む、種々の方法においてサンプルから単離され得る。特定のタイプの細胞あるいは組織についての定常状態RNAレベルは、本発明のプロセスの適用の前に確定しておかなければならない可能性があるが、これらはこの分野における通常の知識を有する者の間でよく知られており、ここでのさらなる詳細な開示は行わない。
【0078】
あるいは、増加した発現、例えば増加した複製数は、試験される細胞中に存在するDNAに対するプローブを作成する方法として、配列番号1から6のヌクレオチド配列を用いて、癌細胞あるいは癌であると疑われる細胞中に存在する遺伝子について測定され得る。したがって、前記細胞のDNAは抽出され、ここに開示された配列を用いて、前記細胞のゲノムにおける、本発明の遺伝子の一つあるいはそれ以上の増加した量の存在について精査され得る。例えばここで、ここに開示された癌関連遺伝子は、細胞のゲノム内の多コピー(multiple copies)中に存在することが認められ、測定時に活発に過剰発現していない場合であっても、これは少なくともその後に癌を発現する性質の指標となり得る。
【0079】
前記にしたがって、ここに開示された遺伝子の前記多コピーの存在は、ノーザンあるいはサザンブロッティングを用いて、またこの目的用のプローブを作成するための配列番号1から6の配列を用いて測定され得る。前記プローブは、DNAあるいはRNAから成り得るし、また配列番号1から6の配列と一致する、あるいは相補的なヌクレオチド残基の連続した伸長より成り得る。前記プローブは、最も有効には、配列番号1から6の配列の一つあるいはそれ以上から得られた少なくとも15、好ましくは少なくとも30、より好ましくは少なくとも50、最も好ましくは少なくとも80、そして特に少なくとも100、さらには200残基の連続した伸長より成る。したがってここで、単一のプローブが癌細胞あるいは癌であると疑われる細胞もしくは癌になりやすい細胞のサンプルのゲノムに複数回結合し、一方で同じ器官あるいは組織の他の非癌細胞のゲノムから得られたDNAの類似量への同一プローブの結合は著しく少ない結合をもたらし、これはプローブ配列が得られた配列番号1から6の配列を含む、あるいは相当する遺伝子の多コピーの存在の指標である。
【0080】
増加した発現はまた、ここに開示された遺伝子の発現産物に選択的に結合し、それにより前記発現産物の存在を検出する物質を用いて測定され得る。例えば、抗体、場合によっては適切に標識された抗体、例えばここで抗体は蛍光物質あるいは放射性同位体に結合する、は、配列番号7から11の配列を含むポリペプチドの一つに対して産生され得る。また前記抗体は続いてここに開示された配列に対応する遺伝子の一つによりエンコードされるポリペプチドと反応、すなわち選択的あるいは特異的に結合する。前記抗体結合、特に他の非癌細胞および組織と比較した癌の疑いのある部位から得られたサンプルにおける前記結合の相対量は、ここで同定された癌関連遺伝子の発現の程度あるいは過剰発現の指標として用いることができる。したがって、癌細胞および組織において過剰発現すると、ここで同定された遺伝子は、増加した複製数により、あるいは過剰転写により過剰発現し得る。例えばここで過剰発現は、遺伝子を活性化し、RNAポリメラーゼの繰返しの結合を引き起こし、それにより正常量よりも多いRNA転写産物を生成する転写因子の過剰産生に起因し、前記RNA転写産物は、続いて配列番号7から11のアミノ酸配列を含むポリペプチド等のポリペプチドに翻訳される。前記解析は、本発明にしたがって同定された遺伝子の発現を確認し、それにより試験される患者から得られたサンプルにおける癌状態の存在を判断し、また前記患者におけるその後に癌を発現する傾向を判断するさらなる方法を提供する。
【0081】
本発明の方法の適用において、癌状態の遺伝子発現指標が、癌であることが認められる全ての細胞の特徴を示している必要はないことは考えるべきである。したがって、ここに開示された方法は、全ての細胞に満たない細胞が過剰発現の完全なパターンを示す組織内の癌状態の存在を検出するのに有用である。例えば、配列番号1から6の配列の少なくとも一つと、厳しい条件下で相同な配列、あるいは少なくとも90%、このましくは95%同一の配列を含む一連の選択された遺伝子は、適切なプローブ、DNAあるいはRNAを用いて、癌あるいは悪性組織のサンプルから得られた細胞の最低60%に存在し、一方対応する非癌あるいは他の正常組織から得られた細胞の最高60%に不在である(そしてしたがって前記正常組織細胞の最高40%に存在する)ことが認められ得る。好ましい実施例において、前記遺伝子パターンは、癌組織から得られた細胞の少なくとも70%に存在し、対応する正常、非癌組織サンプルの少なくとも70%に不在であることが認められる。特に好ましい実施例において、前記遺伝子パターンは、癌組織から得られた細胞の少なくとも80%に存在し、対応する正常、非癌組織サンプルの少なくとも80%に不在であることが認められる。最も好ましい実施例において、前記遺伝子パターンは、癌組織から得られた細胞の少なくとも90%に存在し、対応する正常、非癌組織サンプルの少なくとも90%に不在であることが認められる。さらなる実施例において、前記遺伝子パターンは、癌組織から得られた細胞の少なくとも100%に存在し、対応する正常、非癌組織サンプルの少なくとも100%に不在であることが認められる。しかしながら、後者の実施例はめったにないことである。
【0082】
さらなる見地において、本発明は、癌発現あるいは促進遺伝子を測定するための方法に関し、前記方法は、試験遺伝子(すなわち、癌発現あるいは促進遺伝子としての状態が測定されるものである遺伝子)を発現する細胞を、配列番号1から6より成るグループから選択された配列を含むかあるいは持つポリヌクレオチド(に相当する遺伝子)によりエンコードされるRNAと少なくとも90%、好ましくは95%同一のRNAをエンコードする遺伝子の発現を減少させる物質と接触させ、前記物質が存在しない場合と比較した前記試験遺伝子の発現の減少を検出し、それにより前記試験遺伝子を癌発現あるいは促進遺伝子として同定することを含む。前記遺伝子はもちろん腫瘍遺伝子であり得る。また、前記発現の減少は、前記細胞あるいは前記細胞から得られた細胞中の前記遺伝子の複製数の減少に起因し得る。例えばここで、複製数は前記細胞の複製により産生される細胞において、減少する。
【0083】
したがって、配列番号1から6に相当するとしてここに開示された配列のいくつかあるいは全部は、癌の発現あるいは進行、あるいはさらに他の疾患および疾患プロセスにおいて直接的な役割を果たすことが認められる。これ等の遺伝子の発現の変化(上向き調節)は疾患状態(すなわち癌)に関連するため、発現の変化は、疾患の発現あるいは進行に関与し得る。例えば、上向き調節される遺伝子が腫瘍遺伝子である場合、前記遺伝子は、発現産物量のみに基づくスクリーニングを超えた小分子治療のためのスクリーニング法を提供する。例えば、癌において上向き調節を示し、その増加した発現が疾患の発現あるいは進行に寄与する遺伝子は、前記遺伝子の機能を抑制あるいは阻止する小分子のスクリーニングにおける標的に相当する。例として、キナーゼ抑制、細胞増殖、タンパク質標的の活性化部位をブロックする基質類似体等を含むが、これ等に限定されない。
【0084】
遺伝子が癌プロセスに関連すると判断される様々な異なる状況があることは注目すべきである。したがって、いくつかの遺伝子は腫瘍遺伝子であり、癌プロセスに直接関連するタンパク質をエンコードし、それにより動物において癌の発生を促進し得る。他の遺伝子は、単に癌プロセスあるいは状態に直接的あるいは間接的に関連し、癌状態に関して補助的に働き得る。このようなタイプの遺伝子の全てがここに開示された発明の方法にしたがって測定されるものであると考えられ、ここで前記遺伝子の発現は、本発明のスクリーニング法により同定された物質によって調節される。したがって、本発明の前記方法により測定された遺伝子は腫瘍遺伝子であり得る。あるいは前記プロセスにより測定された遺伝子は癌促進遺伝子であり得る。後者は直接的あるいは間接的に、in vivoあるいはex vivoで、癌プロセス、または癌状態の促進において、あるいは癌増殖の進行の促進において、または癌細胞の増殖の調節において影響を与える遺伝子を含む。前記遺伝子は間接的に働き得るが、ここでその発現は、癌状態の進行の開始あるいは促進に直接的に関連する他の遺伝子あるいは遺伝子発現産物の活性を変える。例えば、腫瘍抑制遺伝子あるいはその発現産物の抑制に働く、野生型あるいは突然変異型ポリペプチドをエンコードする遺伝子は、それにより腫瘍増殖を間接的に促進するように働く。
【0085】
前記にしたがって、本発明の方法は、それ自体がポリペプチドあるいは小化学物質であり、in vivoあるいはex vivoで、腫瘍増殖の開始、抑制あるいは促進を含む癌プロセスに影響を与える癌調節物質を含む。前記物質はまた、配列番号7−11のポリペプチドの一つあるいはそれ以上と反応する抗体であり得る。
【0086】
ここでの開示に沿って、本発明はまた癌を処置するための方法に関し、前記方法は、癌細胞をTRIP13の変異体によりエンコードされる発現産物に対して活性を持つ物質と、あるいはまた配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子と接触させることを含み、例えばここで前記発現産物は、配列番号1から6のポリヌクレオチドによりエンコードされる配列番号7から11のポリペプチドの一つである。
【0087】
本発明の方法は、上記列挙されたプロセスの実施例を含み、ここで前記癌細胞はin vivoあるいはex vivoで接触させられ、好ましくはここで前記物質は、前記発現産物に対する親和性を持つ全体分子構造の部位を含むかあるいは一部である。前記一実施例において、前記発現産物に対する親和性を持つ部位は抗体である。本発明はまた、癌を診断するための方法に関し、前記方法は、癌細胞を、配列番号1から6のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子の発現産物に対する親和性を持つ物質の、前記細胞における癌活性の減少を引き起こすのに有効な量と接触させることを含む。好ましい実施例において、発現産物はポリペプチド、最も好ましくは配列番号7から11のアミノ酸配列を含むポリペプチドである。前記実施例の一例において、検出物質は抗体、好ましくは配列番号7から11のアミノ酸配列を持つポリペプチドに特異的なものである。
【0088】
本発明の一実施例において、タンパク質あるいは他のポリペプチド等の化学物質は、癌プロセスに関連する遺伝子、特に配列番号1から6のcDNA配列の一つに相当する遺伝子配列によりエンコードされるポリペプチドあるいはタンパク質等の癌細胞の発現産物に対する親和性を持つ、抗体等の物質に結合する。特定の実施例において、前記発現産物、好ましくはアミノ酸配列として配列番号7から11の一つを持つポリペプチドは、前記抗癌物質の親和性部位に対する診断用およびまたは治療用標的として働き、ここで前記物質の親和性部位の発現産物への結合後、前記物質の抗癌部位は、前記発現産物に対して、腫瘍形成およびまたは増殖の開始、促進あるいは進行への影響を無力化するように働く。本発明の他の実施例において、前記発現産物への前記物質の結合は、癌進行、促進あるいは増殖を抑制する効力のみを持ち得る。特にここで、前記発現産物の存在は、腫瘍の発現および増殖に、密接にあるいは単に補助的に関連する。したがって、ここで前記発現産物の存在は、腫瘍発現およびまたは増殖に必要不可欠であり、前記物質の前記発現産物への結合は、前記腫瘍進行活性を無効にする効力を持つ。一実施例において、前記物質は細胞自殺を引き起こすアポトーシス誘導物質であり、それにより癌細胞を殺し、腫瘍増殖を中断させる。
【0089】
多くの癌が染色体再配列を含み、それらは通常、ゲノムDNAの特異的領域の転座、増幅あるいは欠失である。癌の特定のステージおよびタイプと関連する再発性染色体再配列は常に、疾患の発現あるいは進行に直接的に重要な役割を果たす遺伝子(好ましくは遺伝子群)に影響を与える。多くの既知の腫瘍遺伝子あるいは癌に直接的に働く腫瘍抑制遺伝子は、ポジショナルクローニングに基づいて最初に再発性染色体再配列から同定され、あるいは他の方法によるクローニングの後の再配列に含まれることが示された。全ての場合において、前記遺伝子はDNA複製数のレベルとmRNAレベルでの転写発現のレベルとの両方で増幅を示す。
【0090】
本発明はまた、機能的に関連した遺伝子(機能的関連遺伝子)を測定するための方法に関し、前記方法は、配列番号1から6のcDNAに相当する遺伝子配列の一つあるいはそれ以上を、前記グループの遺伝子の一つ以上の発現を調節する物質と接触させ、それにより前記グループの遺伝子のサブセットを測定することを含む。
【0091】
本発明にしたがって、前記機能的関連遺伝子は、同一の代謝経路を調節する遺伝子であり、あるいは前記遺伝子は機能的関連ポリペプチドをエンコードする遺伝子である。一実施例において、前記遺伝子は、その発現が同じ転写アクチベーターあるいはエンハンサー配列により調節される遺伝子であり、特にここで前記転写アクチベーターあるいはエンハンサーは、配列番号1から6のcDNAに相当する遺伝子の活性を増加、あるいはそうでなければ調節する。
【0092】
本発明はまた、産物を生み出すための方法を含むプロセスに関し、前記プロセスは、前記物質(すなわち、ここに開示された解析法にしたがって同定された治療物質)を同定するための開示されたプロセスの一つにしたがって物質を同定することを含み、ここで前記産物は、前記同定プロセスあるいは解析の結果として前記物質に関して集められたデータであり、またここで前記データは、前記物質の化学的特徴およびまたは構造およびまたは性質を伝えるのに十分なものである。例えば本発明は特に、本発明の解析法の実施者が望ましい酵素調節活性を持つ化合物を選別するために前記解析法を用い、化合物を同定し、その後、本発明にしたがって前記物質を複製し、治療あるいは研究目的でそれを投与するために情報を利用する他の実施者に情報(すなわち構造、投与量その他に関する情報)を伝達する状況を意図する。例えば、解析法の実施者(実施者1)は化合物の構造あるいは特性を知らずに(例えばここで多数のコード番号が用いられ、最初の実施者にはただ前記のコード番号を付されたサンプルが与えられる)多数の試験化合物を選別し、本発明の解析プロセスの一つあるいはそれ以上を用いたスクリーニングプロセスの実施の後に、第2の実施者(実施者2)に口頭あるいは書面もしくは同様の方法で、特定の調節活性を持つ化合物を同定するのに十分な情報(例えば対応する結果を伴うコード番号)を伝えることができる。この実施者1から実施者2への情報の伝達は、本発明によって特に意図される。
【0093】
前記にしたがって、本発明はさらに化合物の抗腫瘍活性に関する試験データを産生するための方法に関し、前記方法は、
(a)化合物を、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子、あるいは配列番号7から11のアミノ酸配列を持つポリペプチドをエンコードする遺伝子の少なくとも一つを発現する細胞と、前記発現を促進する条件下で接触させ、
(b)前記接触がなかった場合の発現と比較した前記遺伝子の発現の変化を検出し、
(c)測定された遺伝子あるいは遺伝子群の発現の変化に基づく前記化合物の遺伝子調節活性に関する試験データを産生することを含み、測定された遺伝子の発現は癌細胞中よりも非癌細胞中で増加し、またその発現が非癌細胞中よりも癌細胞中で増加した測定された遺伝子あるいは遺伝子群の発現の減少は、抗腫瘍活性を示す。
【0094】
他の実施例において、本発明は癌処置の進行状況を観察するための方法を提供する。例えばここで本発明の方法は、癌治療の特定の過程が、ここに開示された遺伝子あるいは遺伝子群の増加あるいは減少した発現を根拠に、効果をもたらすか否かを判断することを可能にする。例えばここで、配列番号1から6に相当する遺伝子の一つあるいはそれ以上の増加あるいは減少した複製数があり、前記遺伝子の観察は、化学療法等の治療の過程の成功あるいは失敗を予測することができ、あるいは前記治療の後のこれらの遺伝子の一つあるいはそれ以上の活性あるいは発現の増加に基づく再発の可能性を予測することができる。したがって、TRIPは、生存あるいは再発の見通し等の疾患の過程を判断するための診断において、プローブとして使用することができる。前記予後診断へのTRIPの使用の有用性は、実施例2においてさらに開示されるように、図1に提示されたデータにより示される。
【0095】
前記にしたがって、本発明は、癌に苦しむ患者への癌処置の開始後の、前記患者における癌処置の進行を測定するための方法を意図し、前記方法は、
(a)前記患者における、配列番号1から6のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子の一つあるいはそれ以上の発現の変化を、前記一つあるいはそれ以上の遺伝子の発現を促進する条件下で測定し、
(b)前記癌処置の開始の前の前記一つあるいはそれ以上の測定された遺伝子の発現と比較した前記遺伝子の発現の変化を検出し、
それにより前記処置の進行を測定することを含む。
【0096】
好ましい実施例において、検出した発現の変化は、発現の減少である。他の好ましい実施例において、癌処置は、化学療法薬、特にここに開示された遺伝子の発現を調節、好ましくは減少させる物質を用いた処置である。例えばここで、前記物質は本発明の方法を用いて最初に抗腫瘍活性を持つと同定された。したがって、本発明のこの見地にしたがって、患者、あるいはさらに研究目的で誘導された癌を含む、癌に苦しむ研究動物、例えばマウス、ラット、ウサギあるいは霊長類は、ここに開示されたスクリーニング法の一つあるいはそれ以上により抗腫瘍活性を持つと最初に同定されたものを含む、抗癌物質の投与等の癌処置療法が取り入れられる。前記処置の進行と成功あるいは失敗は、前記処置後のここで同定された遺伝子の2あるいは3を含む、一つあるいはそれ以上、あるいは全ての発現を測定することにより続いて確認される。好ましい実施例において、前記発現を減少させる処置は有効であると思われ、また前記処置を継続する根拠となり得る。本発明の方法はしたがって、前記処置の成功を継続的に観察する方法、および前記処置の継続の必要性と好ましさ両方を評価する方法を提供する。加えて、一つ以上の前記処置は、前記の組合せた処置の全般的な成功の判断における本発明の方法の価値を下げることなく、同時に施すことができる。したがって、一つ以上の前記抗腫瘍物質は同じ患者に投与することができ、全般的な効果が列挙された方法により確認される。
【0097】
前記にしたがって、本発明はまた、癌、好ましくは乳癌に苦しむ患者の生存予測を判断するための方法を意図し、前記方法は、前記患者における、癌ではない個体と比較したTRIP13遺伝子の発現の変化を測定することを含み、ここで前記患者におけるTRIP13の増幅は、前記患者の生存に対する不良な予後を示す。好ましい一実施例において、前記TRIP13遺伝子は、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、あるいは配列番号7から11のアミノ酸配列を持つポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドに相当する。
【0098】
本発明はまた、乳癌等の癌に苦しむ患者への癌処置の開始後の、前記患者の生存可能性を判断するための方法について記され、前記方法は、前記患者における、前記処置の開始前のTRIP13遺伝子の発現と比較した、抗癌処置後のTRIP13遺伝子の発現の変化を測定することを含み、ここで発現の減少は生存の可能性を示す。その好ましい一実施例において、TRIP13は、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、あるいは配列番号7から11のアミノ酸を持つポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドに相当する。
【0099】
本発明はまた、癌、特に乳癌を診断するための方法を提示し、前記方法は、癌細胞を、TRIP13遺伝子の発現産物に対する親和性を持つ物質の前記細胞の癌活性の減少を引き起こすのに有効な量と接触させることを含む。その好ましい実施例において、TRIP13遺伝子は、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、あるいは配列番号7から11のアミノ酸配列を持つポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドに相当する。
【0100】
好ましい実施例において、検出された発現の変化は発現の減少であり、前記測定された遺伝子あるいは遺伝子群は、ここに開示された遺伝子の2、3、5あるいは全てを含み得る。したがって、本発明の方法は、ここに開示された他の方法に沿った一つあるいはそれ以上、好ましくは組み合わせた癌処置の後の、癌生存統計を収集するための方法として利用することができる。
【0101】
ここで同定された遺伝子はまた、本発明のスクリーニング法に基づいた化学療法に有効な遺伝子標的としてのこれらの遺伝子の同定によりもたらされる、組み合わせ処置を含む臨床試験およびまたは標的療法に先立った患者プロファイリング等のための薬力学的標識(あるいは薬理遺伝学的標識およびまたは代用標識)として提供される。その一実施例において、選択された化学療法薬を用いた癌処置の成功の可能性は、前記化学療法薬がここに開示された一つあるいはそれ以上の遺伝子の発現調節活性を持つと測定された事実に基づき、特にここで前記遺伝子は、癌に苦しむ候補患者由来のサンプルにおいて増加した発現レベルを示すことが同定されている。細胞の癌状態を判断するためのここに開示された方法は、前記評価における迅速な使用を見出し得る。
【0102】
前記方法は、癌の検出を容易にするだけでなく、処置に反応しそうな患者かあるいは効果がない患者かの階層化およびまたは選択を可能にし、それにより前記個体におけるTRIP13の増幅および発現レベルに基づく特定の処置の選択肢のより信頼性のある決定を可能にする。したがって、処置は患者にとってより満足できるものとなり、またより個人的なものとなる。
【0103】
任意の前記方法において、前記発現は、ポリペプチド、好ましくは配列番号7から11から選択されたアミノ酸配列を持つものの産生の変化を測定することにより、測定され得る。好ましい一実施例において、前記ポリペプチドの産生は、前記ポリペプチドに結合する抗体、最も好ましくは配列番号7から11のアミノ酸配列を持つポリペプチドに対して特異的な抗体を用いて測定される。したがって抗体は、in situおよびまたはin vitroで、組織中のタンパク質を検出するための方法としてのこれらの方法において、一連の処置の後の診断およびまたは予後診断およびまたは処置のための標識としての使用を見出す。
【0104】
本発明の任意の方法において、前記抗体はポリクローナルあるいはモノクローナル、また組み換え型であり得る。また、抗体鎖のポリペプチド合成により産生される合成抗体を含み得る。したがって、本発明の方法において有用な抗体を産生する方法は限定されない。いくつかの実施例において、一つ以上の抗体が単一ポリペプチドを検出するために用いられ得る。あるいは単一の抗体が多数のポリペプチドを検出するために用いられ得る。一実施例において、多数の抗体が多数のポリペプチドを検出するために用いられ得る。使用される種々の抗体の数、および検出される種々のポリペプチドの数は、同様に限定されない。
【0105】
ここに開示された本発明の方法の実施において、特定の緩衝液、培地、試薬、細胞、培養条件等についての言及は、限定することを意図するものではなく、この分野における通常の知識を有する者が、議論が提起された特定の状況において、関連するあるいは価値があると認識する全ての関連物質を含むように読まれるべきであることは注意すべきである。例えば、一つの緩衝システムあるいは培養培地を他のものに換え、同一でなくとも同様の結果を得ることがしばしば可能である。この分野における通常の知識を有する者は、必要以上の試験がなくとも、前記置換を、ここに開示された方法および手段の使用において最適にその目的を果たすようにすることができるように、前記システムおよび方法論の十分な知識を持つ。
【0106】
本発明はここで、以下の限定されない実施例を通してさらに開示される。実施例の開示の適用において、本発明にしたがって開示された方法のその他の異なる実施例は、関連する分野における通常の知識を有する者に前記実施例を示すであろうことは、はっきりと意図されるべきである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0107】
(実施例1)
遺伝子発現解析
配列番号1から6に相当する遺伝子から選択された一つあるいはそれ以上の遺伝子を過剰発現する癌細胞を、2mMのL−グルタミン(90%)と10%ウシ胎仔血清を添加したリーボビッツL−15培地中で、10細胞/cm密度まで培養する。前記細胞を37℃で2から5分間、0.25%トリプシン、0.02%EDTAで処理した後回収する。続いてトリプシン処理した細胞を、30mlの増殖培地で希釈し、96ウェルプレートに、一ウェルあたり50000細胞濃度(200μl/ウェル)で播種する。次の日、細胞を、化合物緩衝液のみあるいは試験される化学物質を含む化合物緩衝液で、24時間処理する。その後培地を除去し、細胞を溶解し、キアゲン(Qiagen)のRNAeasy試薬と手順を用いてRNAを回収する。RNAを定量し、サンプル1μl中の10ngを、1×PCR緩衝液、RNAsin、逆転写酵素、ヌクレオシド三リン酸、アンプリタック ゴールド(amplitaq gold)、トゥイーン20(tween20)、グリセロール、ウシ血清アルブミン(BSA)および、参照遺伝子(18SRNA)および試験遺伝子(遺伝子X)に対する特異的PCRプライマーとプローブを含むタックマン(Taqman)反応混合物の24μlに添加する。続いて逆転写を、48℃で30分間実施する。サンプルに対してPerkin Elmer7700配列検出器を適用し、95℃で10分間熱変性させる。60℃で15秒間のアニーリング、続いて72℃で60秒間の伸長、および95℃で30秒間の変性という40サイクルを通して増幅を行う。その後データファイルを獲得し、データを適当な基本ウィンドウズ(登録商標)と基準点を用いて解析する。
【0108】
続いて、標的遺伝子と参照遺伝子との間の量的差異を計算し、用いられたサンプルの全てについて相対的発現値を測定する。特定の特徴あるいは性質における標的遺伝子のそれぞれについてこの方法を繰り返し、各組の遺伝子の一式と相対発現割合を測定する(すなわち、発現を測定するための他の遺伝子のそれぞれに対する各標的遺伝子の発現割合を測定し、ここで各遺伝子の絶対的発現を、選別するための各化合物あるいは化学物質について、参照遺伝子を比較して測定する)。続いて、コントロールと比較した処理したサンプルにおける発現特徴の変化の程度にしたがって、サンプルに得点を付け、順位付けする。他の化学物質と比較して、一つの化学物質により調節された場合のコントロールと比較した一連の遺伝子の全体発現もまた、確認する。特定の遺伝子あるいは遺伝子群に最大の効果を持つ化学物質が、最も抗腫瘍性であると認められる。
【0109】
(実施例2)
BAC FISHを用いたTRIP13増幅状態の解析
乳癌におけるTRIP13遺伝子増幅頻度と臨床的有意性が、ここに開示された配列から得られたBACプローブを用いて証明された。
【0110】
サンプルを蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を用いて精査した。標準的実験において、1あるいは2μgのプローブを標準ニックトランスレーション法により標識した。湿室(モイストチャンバー)内で、37℃で48時間ハイブリダイゼーションを行った。使用した器材は、Breast Prognostic Array(Edition 2a−Diomeda Biosciences Inc.)であった。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
ここで、プローブは、遺伝子TRIP13を含む5p15.33の特定領域に及ぶものを用いた。
【0114】
TRIP13の増幅状態もまた、FISHによる785の乳癌サンプルより成るホルマリン固定組織マイクロアレイ(TMA)において調査した。TRIP13遺伝子の特定の領域由来のBACプローブ(試験プローブ)と5番染色体のサブ動原体(sub−centromeric)領域に位置する(マッピングする)BACプローブより成る参照プローブを蛍光標識し、個々にBreast Prognostic Tissue MicroArray(TMA)にハイブリダイズさせた(図1)。試験プローブおよび参照プローブは、TMAにおいて785の胸部サンプル中、547サンプルにおいてのみ検出することができた。TRIP13領域由来のBACは、全ケースの5%(547の中の27)で高レベル増幅(>3倍)を示し、また乳癌ケースの29%(547の中の158)で低レベル増幅(2から3倍)を示した。TRIP13増幅は、小葉癌(77ケースの中の1、1.3%)よりも腺管癌(364ケースの中の19、5.2%)においてより高頻度に認められ、また高悪性度腫瘍(G1=1.2%、G2=4.0%、G3=10.1%;P=0.02)と顕著な相関関係があったが、腫瘍ステージ、サイズあるいはリンパ節転移とは著しい相関関係はなかった。この結果を表3に要約する。
【0115】
【表3】

【0116】
TRIP13増幅は、TMAに示されたケースについてのTRIP13増幅と生存結果との間の相関関係の測定により示されるように、乳癌における独立した予後標識であった。TMAにおけるサンプルに関連した患者臨床データの解析は、TRIP13増幅が乳癌患者における生存率の低さと関連すること(P=0.0001)を示した。さらに、高レベル増幅した患者は、最悪の生存率であった(P=0.0006)。TRIP13増幅は、HER2/NEU過剰発現のない場合(P<0.002増幅、P<0.0002陽性)およびHER2/NEU過剰発現と無関係に(P<0.002増幅、P<0.0002陽性)、予後不良との顕著な関連を示した。TRIP13はまた、これらの遺伝子のどちらの影響をも受けない場合と比較して、HER2/NEUを添加した予後不良と顕著な相関を示す(P<0.02増幅、P<0.00001陽性)。さらには、TRIP13はまた、GX2000TMデータベースにおいて、ER陰性乳癌サンプルの一部で高度に発現することが認められた。
【0117】
HER2/NEUについては、バイオプシー(生検)中のHER2/NEUのDNA増幅レベルを、蛍光ハイブリダイゼーションを用いてハーセプト試験(Hercept test)で測定した。本発明にしたがって、TRIP13は、TRIP13の発現の増加がHER2/NEUに関係なく低い生存率を予測させる、乳癌における生存の独立した予後指標である。したがって、処置目的に対して、TRIP13発現を減少させることに失敗した場合には、HER2/NEU発現が減少しても、低い生存率をもたらす。したがって、本発明は乳癌生存率の二つの見地を提示する。一つ目は、TRIP13の発現の増加が、たとえHER2/NEUが増幅しなくても低い生存率を予測させるということであり、二つ目は、HER2/NEU発現レベルを減少させるがTRIP13発現を減少させない処置が、患者にたいして予後不良をもたらすことが予想されることである。例えば、前記ハーセプト試験が、ハーセプチンを用いた処置の開始前に、患者の生検におけるHER2/NEU増幅を確認するために用いられる。類似の試験を、本発明により特に意図されるTRIP13増幅に対する処置を施す前に、HER2/NEUと無関係に、TRIP13増幅について実施することができる。
【0118】
(実施例3)
TRIP13と共発現した遺伝子を、アフィマトリクスHG_U133チップセットで、一連の151悪性乳癌サンプルにおいて解析した。高レベルのTRIP13を持つサンプルと、低レベルのTRIP13を持つサンプルとの比較により、いくつかの発現レベルを持った遺伝子の集団を発見した。いくつかの既知の遺伝子がTRIP13と顕著に共発現した(p<0.001)ことが認められた。紡錘体アセンブリおよび運動中心(kineticore)機能(CENPA、KNSL5、TPX2、PRC1、ZWINT、BUB1、SMC4L1、MCM6、DLG7)に関連する遺伝子と最も高い相関関係を持つ。他の共発現した遺伝子は、G2/M転移(サイクリンA2、サイクリンB1、サイクリンB2、Cdc2、Cdc28キナーゼ1および2)と、染色体構造および保持(STK12、STK15、PLK、CDC45L、MCM6、CHK1およびMAD2)に関連するものを含む。このデータは、細胞周期調節と染色体完全性の維持におけるTRIP13の役割を裏付ける。
【0119】
(実施例4)
TRIP13発現の表現効果
RNA干渉(RNAi)を、腫瘍細胞系におけるTRIP13 mRNAの発現を抑制する効果を検査するために用いた。TRIP13 mRNAを中程度に発現するMCF7細胞に、TRIP13に対するsiRNAs(TRIP13i)と2塩基対ミスマッチを含むネガティブコントロール(TRIP13mi)とを導入した。TRIP13iは、TRIP13mi処理細胞と比較して、安定状態レベルのTRIP13 mRNAの90%の減少をもたらした。我々は、RNAi処理後48時間DNA合成のレベルを測定し、TRIP13の抑制が細胞周期進行に影響を持つことを示す、BrdU取り込みの30から40%の降下を見出した。siRNA処理後に存在する有糸分裂細胞の数を、有糸分裂細胞に特異的な抗体を用いた染色により測定した。TRIP13mi処理と比較してTRIP13i処理した細胞において、有糸分裂細胞の顕著な増加が認められた。この徴候は、TRIP13の発現が細胞周期の進行に必要とされ、その阻害が細胞の有糸分裂への蓄積(G2/M進行停止)を引き起こすことを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】AおよびBは、カプラン−マイヤー生存率解析の結果を示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TRIP13遺伝子調節物質を同定するための方法であって、前記方法が、
(a)試験化合物を、TRIP13遺伝子を発現する細胞と接触させ、
(b)前記接触の結果としての前記遺伝子の発現の変化を測定し、ここで前記測定された発現の変化は遺伝子調節を示し、
それにより前記試験化合物を遺伝子調節物質として同定することを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記発現の変化が、発現の減少であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記発現の減少が、遺伝子の複製数の減少であることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記TRIP13遺伝子が、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当することを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記遺伝子が、TRIP13のスプライス変異体であるヌクレオチド配列を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記遺伝子を発現する細胞が、TRIP13のスプライス変異体を発現するように設計された組み換え細胞であることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法において、前記発現の変化が、前記遺伝子によりエンコードされたRNAの合成の減少であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法において、前記発現の変化が、前記遺伝子によりエンコードされたポリペプチドの合成の減少であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記ポリペプチドが、配列番号7から11のアミノ酸配列を持つポリペプチドより成るグループから選択された一つであることを特徴とする方法。
【請求項10】
抗腫瘍物質を同定するための方法であって、前記方法が、癌細胞を請求項1に記載の方法において遺伝子調節活性を持つことが認められた化合物と、前記細胞の増殖を促進する条件下で接触させ、前記癌細胞の活性の変化を検出することを含むことを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法において、前記活性の変化が、前記癌細胞の複製率の減少であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項10に記載の方法において、前記活性の変化が、前記癌細胞により産生され得る子孫細胞のトータル数の減少であることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項10に記載の方法において、前記活性の変化が、前記癌細胞が複製できる回数の減少であることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項10に記載の方法において、前記活性の変化が、前記癌細胞の死であることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項10に記載の方法において、前記癌細胞が、組み換え細胞であることを特徴とする方法。
【請求項16】
細胞の癌状態を検出するための方法であって、前記方法が、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子の少なくとも一つの、前記細胞における増加した発現を検出することを含み、前記増加した発現が細胞の癌状態の指標であることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法において、前記増加した発現が、遺伝子の複製数の増加であることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項16に記載の方法において、前記遺伝子が、配列番号1から6の配列を含むことを特徴とする方法。
【請求項19】
癌関連遺伝子を検出するための方法であって、前記方法が、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子、あるいは配列番号7から11のアミノ酸配列を持つポリペプチドをエンコードする遺伝子の発現を減少させる化合物を、試験される遺伝子を含む細胞と接触させるステップと、前記試験される遺伝子の発現の減少を検出するステップと、それにより前記遺伝子を癌関連遺伝子として同定するステップとを含むことを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項19に記載の方法において、前記遺伝子が、配列番号1から6の配列を含むことを特徴とする方法。
【請求項21】
TRIP13ポリペプチド生物学的活性を調節する物質を同定するための方法であって、ここで前記方法が、
(a)試験化合物をTRIP13ポリペプチドと接触させ、
(b)前記接触の結果としての前記TRIP13ポリペプチドの生物学的活性の変化を測定し、
ここで前記生物学的活性の変化が、TRIP13生物学的活性の調節を示し、
それにより前記試験化合物をTRIP13生物学的活性を調節する物質として同定することを含むことを特徴とする方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法において、前記測定された変化が、生物学的活性の減少であることを特徴とする方法。
【請求項23】
請求項21に記載の方法において、前記TRIP13ポリペプチドが、細胞中に存在することを特徴とする方法。
【請求項24】
請求項23に記載の方法において、前記細胞が、哺乳類細胞であることを特徴とする方法。
【請求項25】
請求項23に記載の方法において、前記細胞が、TRIP13ポリペプチドを含むように設計されたものであることを特徴とする方法。
【請求項26】
請求項21に記載の方法において、前記TRIP13ポリペプチドが、配列番号7、8、9、10、11および12から選択されたアミノ酸配列を含むことを特徴とする方法。
【請求項27】
請求項21に記載の方法において、前記TRIP13ポリペプチドが、固体担体に固定されていることを特徴とする方法。
【請求項28】
癌あるいは癌を発現しやすい素質を検出するための方法であって、前記方法が、患者由来のサンプルにおいて、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子、あるいは配列番号7から11のアミノ酸配列を持つポリペプチドをエンコードする遺伝子の発現の増加を検出することを含むことを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項28に記載の方法において、前記発現の増加が、遺伝子の複製数の増加であることを特徴とする方法。
【請求項30】
請求項28に記載の方法において、前記遺伝子が、配列番号1から6のヌクレオチド配列を含むことを特徴とする方法。
【請求項31】
癌を処置するための方法であって、前記方法が、癌細胞を、請求項1に記載の方法を用いて遺伝子調節活性を持つと最初に同定された物質の前記細胞の癌活性の減少を引き起こすのに有効な量と接触させることを含むことを特徴とする方法。
【請求項32】
請求項31に記載の方法において、前記癌細胞が、in vivoで接触させられることを特徴とする方法。
【請求項33】
請求項31に記載の方法において、前記癌活性の減少が、前記癌細胞の増殖率の減少であることを特徴とする方法。
【請求項34】
請求項31に記載の方法において、前記癌活性の減少が、前記癌細胞の死であることを特徴とする方法。
【請求項35】
請求項31に記載の方法において、前記癌が、胸部、大腸、肺あるいは前立腺組織の癌であることを特徴とする方法。
【請求項36】
癌を処置するための方法であって、前記方法が、癌細胞を、配列番号1から6のヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子の発現産物に対する親和性を持つ物質の前記細胞の癌活性の減少を引き起こすのに有効な量と接触させることを含むことを特徴とする方法。
【請求項37】
請求項36に記載の方法において、前記発現産物が、ポリペプチドであることを特徴とする方法。
【請求項38】
請求項37に記載の方法において、前記ポリペプチドが、配列番号7から11のアミノ酸配列を含むことを特徴とする方法。
【請求項39】
請求項36に記載の方法において、前記物質が、抗体であることを特徴とする方法。
【請求項40】
患者における癌治療の進行を観察するための方法であって、前記方法が、癌治療を受けた患者における、配列番号1から6の配列を持つポリヌクレオチドに相当する遺伝子の発現を観察することを含み、ここで前記発現の減少が、前記癌治療の成功の指標であることを特徴とする方法。
【請求項41】
請求項40に記載の方法において、前記遺伝子が、配列番号1から6の配列を含むことを特徴とする方法。
【請求項42】
請求項40に記載の方法において、前記癌治療が、化学療法であることを特徴とする方法。
【請求項43】
請求項40に記載の方法において、前記癌が、固形癌あるいは胸部、大腸、肺もしくは前立腺組織の癌であることを特徴とする方法。
【請求項44】
患者における癌治療の成功の可能性を判断するための方法であって、前記方法が、癌治療を受けた患者における、配列番号1から6の配列を持つポリヌクレオチドに相当する遺伝子の発現を観察することを含み、ここで前記癌治療の完了前の前記発現の減少が、前記癌治療の成功の可能性の指標であることを特徴とする方法。
【請求項45】
請求項44に記載の方法において、前記遺伝子が、配列番号1から6の配列を含むことを特徴とする方法。
【請求項46】
化合物の抗腫瘍活性に関する試験データを産生するための方法であって、前記方法が、
(a)化合物を、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子、あるいは配列番号7から11から選択されたアミノ酸配列を持つポリペプチドをエンコードする遺伝子の少なくとも一つを発現する細胞と接触させ、
(b)前記接触がなかった場合の発現と比較した前記遺伝子の発現の変化を測定し、
(c)測定された遺伝子あるいは遺伝子群の発現の変化に基づく前記化合物の遺伝子調節活性に関する試験データを産生することを含み、測定された遺伝子の発現が癌細胞中よりも非癌細胞中で増加し、またその発現が非癌細胞中よりも癌細胞中で増加した測定された遺伝子あるいは遺伝子群の発現の減少が、抗腫瘍活性を示すことを特徴とする方法。
【請求項47】
癌に苦しむ患者への癌処置の開始後の、前記患者における癌処置の進行を測定するための方法であって、前記方法が、
(a)前記患者における、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドに相当する遺伝子、あるいは配列番号7から11から選択された配列をエンコードする遺伝子の一つあるいはそれ以上の発現の変化を、前記発現を促進する条件下で測定し、
(b)前記癌処置の開始前の前記一つあるいはそれ以上の測定された遺伝子の発現と比較した前記遺伝子の発現の変化を測定し、
それにより前記処置の進行を測定することを含むことを特徴とする方法。
【請求項48】
請求項47に記載の方法において、ステップ(b)において測定された発現の変化が、一つ以上の前記遺伝子の発現の変化であることを特徴とする方法。
【請求項49】
請求項45に記載の方法において、前記ポリペプチドの産生が、前記ポリペプチドに結合する抗体を用いて測定されることを特徴とする方法。
【請求項50】
請求項47に記載の方法において、前記抗体が、配列番号7から11のアミノ酸配列を持つポリペプチドに特異的であることを特徴とする方法。
【請求項51】
癌に苦しむ患者の生存予後診断を判断するための方法であって、前記方法が、癌ではない個体に対する、前記患者におけるTRIP13遺伝子の発現の変化を測定することを含み、ここで、前記患者におけるTRIP13の増幅が前記患者の生存に対する予後不良を示すことを特徴とする方法。
【請求項52】
請求項51に記載の方法において、前記癌が乳癌であることを特徴とする方法。
【請求項53】
請求項51に記載の方法において、前記TRIP13遺伝子が、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、あるいは配列番号7から11のアミノ酸配列を持つポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドに相当することを特徴とする方法。
【請求項54】
癌に苦しむ患者への癌処置の開始後の、前記患者の生存可能性を判断するための方法であって、前記方法が、前記患者における、前記処置の開始前のTRIP13遺伝子の発現と比較した、抗癌処置後のTRIP13遺伝子の発現の変化を測定することを含み、ここで発現の減少が生存の可能性を示すことを特徴とする方法。
【請求項55】
請求項54に記載の方法において、前記癌が乳癌であることを特徴とする方法。
【請求項56】
請求項54に記載の方法において、前記TRIP13が、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、あるいは配列番号7から11のアミノ酸配列を持つポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドに相当することを特徴とする方法。
【請求項57】
癌を診断するための方法であって、前記方法が、癌細胞を、TRIP13遺伝子の発現産物に対する親和性を持つ物質の前記細胞の癌活性の減少を引き起こすのに有効な量と接触させることを含むことを特徴とする方法。
【請求項58】
請求項57に記載の方法において、前記物質が抗体であることを特徴とする方法。
【請求項59】
請求項57に記載の方法において、前記TRIP13遺伝子が、配列番号1から6から選択されたヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド、あるいは配列番号7から11のアミノ酸配列を持つポリペプチドをエンコードするポリヌクレオチドに相当することを特徴とする方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−515515(P2006−515515A)
【公表日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−510024(P2005−510024)
【出願日】平成15年12月19日(2003.12.19)
【国際出願番号】PCT/US2003/040701
【国際公開番号】WO2004/058050
【国際公開日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(501128379)アバロン ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (7)
【Fターム(参考)】