説明

診断支援システム、診断支援方法、およびコンピュータプログラム

【課題】医師が患者の病名をより正確に判断できるように支援する。
【解決手段】病名推測処理サーバ1に、症状と病名との組合せごとに、過去に医師がその症状の患者に対してその病名の病気であると診断した頻度を示す診断頻度データDTFを記憶する、症状病名テーブルTL1と、診断する対象の患者の1つまたは複数の症状を示す主訴データDT1を取得する主訴データ取得部101と、取得した主訴データDT1に示される各症状に係る診断頻度データDTFに基づいて、患者の病名を1つまたは複数推測する病名推測処理部105と、推測した1つまたは複数の病名を示す推測結果データDT4を医師の端末装置3に提供する推測データ提供処理部106と、医師が患者を診断した後、その患者の症状と病名との組合せごとの診断頻度データDTFの更新を行うテーブル更新処理部103と、を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医師を支援するシステムおよび方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、病院または診療所などの医療機関において、様々な目的のためにコンピュータシステムが使用されるようになった。また、様々な目的のためのコンピュータシステムが提案されている。
【0003】
特許文献1には、患者の診療の情報を電子データとして取り扱うことができる医療情報システムが記載されている。この医療情報システムによると、医師は、診療情報を参照する際に、自分の着目する情報を自分の所望する形式で表示することができる。よって、把握すべき診療記録の内容を一目で確認することができる。さらに、この医療情報システムによると、データの真正性を保証するとともに、内容更新時におけるデータ制御方法の異なるデータ項目が混在するレイアウト表示を可能にし、任意のレイアウト設計を補助することができる。
【0004】
特許文献2には、医師による電子カルテへの入力を支援する電子カルテ入力支援サーバが記載されている。この電子カルテ入力支援サーバによると、医師は、電子カルテに入力した病名および患者の持病などの傷病歴にマッチした処置および処方の候補の提供を受けることができる。よって、患者の処置および処方の決定を容易に行うことができる。
【特許文献1】特許第3549049号
【特許文献2】特開2005−242395号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上に述べたように、医療機関で使用するための様々なコンピュータシステムが提案されている。しかし、医者が患者の病名をより正確に判断できるようにするためのコンピュータシステムが最も強く求められる。なぜなら、病名の判断こそが、患者の治療のための医療行為の原点だからである。
【0006】
本発明は、このような点に鑑み、医師が患者の病名をより正確に判断できるように支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る診断支援システムは、症状と病名との組合せごとに、過去に医師が当該症状の患者に対して当該病名の病気であると診断した頻度を示す診断頻度情報を記憶する、診断頻度情報記憶手段と、診断する対象の患者の1つまたは複数の症状を入力する症状入力手段と、前記診断頻度情報記憶手段に記憶されている、前記症状入力手段によって入力された患者の各症状に係る前記診断頻度情報に基づいて、当該患者の病名を1つまたは複数推測する病名推測手段と、前記病名推測手段によって推測された1つまたは複数の病名を出力する病名出力手段と、医師が患者を診断した後、前記診断頻度情報記憶手段に記憶されている当該患者の症状と病名との組合せごとの前記診断頻度情報の更新を行う、診断頻度情報更新手段と、を有することを特徴とする。
【0008】
好ましくは、症状と病名との組合せの前記頻度は、過去に医師が当該症状の患者に対して当該病名の病気であると診断した回数であって、前記診断頻度情報更新手段は、前記診断頻度情報の更新を、当該診断頻度情報に係る前記頻度に1を加算することによって行う。
【0009】
または、前記病名推測手段は、前記診断頻度情報に示される前記頻度の値を病名ごとに集計し、集計した値が所定の値以上である病名を患者の病名であると推測する。
【0010】
または、前記病名推測手段は、前記診断頻度情報に示される前記頻度の値を病名ごとに集計し、集計した値の大きい順に所定の個数だけ選出した病名を患者の病名であると推測する。
【0011】
または、患者の検査の結果を示す検査結果情報を取得する検査結果情報取得手段を有し、前記病名推測手段は、患者の病名を、前記検査結果情報取得手段によって取得された当該患者の前記検査結果情報に基づいて推測する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、医師が患者の病名をより正確に判断できるように支援することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は診断支援システムMSYの全体的な構成の例を示す図、図2は病名推測処理サーバ1のハードウェア構成の例を示す図、図3は病名推測処理サーバ1の機能的構成の例を示す図、図4は端末装置3の機能的構成の例を示す図である。
【0014】
本発明に係る診断支援システムMSYは、図1に示すように、病名推測処理サーバ1、診療情報サーバ2、複数台の端末装置31、32、33、…、および通信回線4などによって構成される。これらの装置は通信回線4を介して互いに接続されている。通信回線4として、LAN、WAN、インターネット、イントラネット、公衆回線、または専用線などが用いられる。以下、端末装置31、32、33、…を「端末装置3」と総称する。
【0015】
診断支援システムMSYは、病院または診療所などの医療機関に設置され、患者の診断を行う医師を支援するために用いられる。以下、複数の診療科を有する医療機関Xに診断支援システムMSYが設置され使用される場合を例に説明する.
病名推測処理サーバ1は、図2に示すように、CPU10a、RAM10b、ROM10c、ハードディスク10d、ディスプレイ10e、キーボード10f、マウス10g、およびLANカード10hなどによって構成される。
【0016】
ROM10cまたはハードディスク10dには、図3に示すような主訴データ取得部101、診断データ取得部102、テーブル更新処理部103、検査データ取得部104、病名推測処理部105、推測データ提供処理部106、症状病名テーブルTL1、および検査病名テーブルTL2などの機能を実現するためのプログラムおよびデータが記憶されている。これらのプログラムおよびデータは必要に応じてRAM10bにロードされ、CPU10aによってプログラムが実行される。
【0017】
このような構成によって、病名推測処理サーバ1は、医療機関Xで医師の診察を受ける患者の病名を推測する処理を行うことによって、医師に対して診断の補助(支援)を行う。
【0018】
診療情報サーバ2は、医療機関Xで診察を受けたことのある患者のカルテのデータ(つまり、電子カルテ)および検査の結果のデータなどを管理する。つまり、電子カルテシステムのサーバの役割を担う。診療情報サーバ2として、カルテのデータおよび検査の結果のデータの管理を行う公知のサーバが用いられる。
【0019】
端末装置3は、医療機関Xの診療科の部屋ごとに少なくとも1台ずつ設置されている。端末装置3のハードディスクには電子カルテシステムのクライアント用のアプリケーションがインストールされており、医師は、端末装置3を操作することによって、患者のカルテ(電子カルテ)の内容を閲覧し、入力し、または訂正することができる。端末装置3として、パーソナルコンピュータまたはワークステーションなどが用いられる。
【0020】
さらに、端末装置3のハードディスクには、図4に示すような主訴データ提供処理部301、診断データ提供処理部302、推測データ取得部303、および推測結果表示処理部304などの機能を実現するためのプログラムおよびデータが記憶されている。
【0021】
図5はカルテ画面HG1の例を示す図、図6は症状病名テーブルTL1の例を示す図、図7はテーブル更新処理の流れの例を説明するフローチャート、図8は検査病名テーブルTL2の例を示す図、図9は病名推測処理の流れの例を説明するフローチャート、図10は病名推測結果画面HG2の例を示す図である。
【0022】
次に、図3に示す病名推測処理サーバ1の各部および図4に示す端末装置3の各部の処理内容について詳細に説明する。
【0023】
図4において、端末装置3の主訴データ提供処理部301は、診察の際に医師が入力した患者の症状などの内容を示すデータを病名推測処理サーバ1に提供するための処理を行う。診断データ提供処理部302は、診察の際に医師が入力した患者についての診断の内容を示すデータを病名推測処理サーバ1に提供するための処理を行う。これらの処理は、次のような手順で行われる。
【0024】
医師は、患者を診察するにあたって、端末装置3にインストールされている電子カルテシステムのクライアント用のアプリケーションによって、図5のような、診察の対象である患者のカルテ画面HG1を、端末装置3のディスプレイに表示させる。
【0025】
ここで、医師は、その患者の様子を観察しまたはその患者を問診するなどして、患者の症状を把握する。把握した症状を、キーボードを操作することによって、テキストボックスTX11に入力する。そして、決定ボタンBN11をマウスでクリックする。すると、主訴データ提供処理部301は、テキストボックスTX11に入力されたデータを主訴データDT1として病名推測処理サーバ1に送信する。
【0026】
さらに、医師は、患者を診察しまたは検査した結果などに基づいて、患者の病名を判断する。つまり、診断を下す。キーボードを操作してテキストボックスTX12に診断結果の内容を入力する。そして、決定ボタンBN12をクリックする。すると、診断データ提供処理部302は、テキストボックスTX12に入力されたデータを、その患者の識別情報(例えば、患者のID)と対応付けて診断データDT2として病名推測処理サーバ1に送信する。
【0027】
主訴データDT1および診断データDT2が同一の診察に係るものであることを識別できるように、ユニークな識別コードを発行し、それを両データに対応付けるようにしてもよい。
【0028】
このようにして、患者の症状および診断の内容を示すデータが病名推測処理サーバ1に提供される。なお、医師は、病名推測処理サーバ1が推測した病名を参照することによって、診断を行うことができる。これについては、後に説明する。また、テキストボックスTX11、TX12に入力されたデータは、従来通り、電子カルテの管理のために診療情報サーバ2にも送信される。
【0029】
図3において、病名推測処理サーバ1の主訴データ取得部101は、端末装置3から送信されてきた主訴データDT1を受け付ける処理を行う。つまり、主訴データDT1を取得する処理を行う。診断データ取得部102は、端末装置3から送信されてきた診断データDT2を受け付ける処理を行う。つまり、診断データDT2を取得する処理を行う。
【0030】
症状病名テーブルTL1には、患者にどのような症状が見られる場合に医師がどのような診断を下したことがあるのか、という情報が、徐々に蓄積されていく。具体的には、図6に示すように、症状病名テーブルTL1には、症状と病名との組合せごとに、診断頻度データDTFが格納されている。「マッチングスコア」は、その症状が見られる場合に患者の病気がその病名の病気であると医師が診断した回数つまり頻度を示している。例えば、図6の先頭の診断頻度データDTFは、「頭が痛い」という症状が見られる場合に過去に医師が「上気道炎」と診断した回数は「2回」である、ということを示している。
【0031】
このように、症状病名テーブルTL1は症状と医師の診断した病名との関連性のデータを蓄積するデータベースである、と言える。
【0032】
テーブル更新処理部103は、症状病名テーブルTL1に既に格納されている診断頻度データDTFのマッチングスコアを更新しまたは新たな診断頻度データDTFを症状病名テーブルTL1に追加するなど、症状病名テーブルTL1の内容を更新するための処理を行う。係る処理は、主訴データ取得部101によって取得された主訴データDT1および診断データ取得部102によって取得された診断データDT2に基づいて、図7に示すような手順で行われる。
【0033】
図7において、テーブル更新処理部103は、診断データ取得部102によって取得された診断データDT2に示される診察結果から患者の病名を抽出する(#501)。主訴データ取得部101によって取得された主訴データDT1のうちの、その診断データDT2に対応する(つまり、例えば識別コードが同じである)主訴データDT1を選び出し、その主訴データDT1に示される主訴から患者の症状を抽出する(#502)。
【0034】
病名は、例えば次のような方法で抽出すればよい。既知の病名を示すキーワードを予めデータベースに登録しておく。診断データDT2の文字列の単語(ワード)を分割する。
そして、データベースに登録されている各キーワードと診断データDT2に含まれる単語とをマッチングすることによって、診断データDT2に示される病名を抽出する。または、公知の方法によって病名を抽出してもよい。症状の抽出についても、同様である。
【0035】
抽出した症状と病名との組合せを求める(#503)。例えば、5つの症状および1つの病名が抽出された場合は、5組の組合せが求められる。
【0036】
求められた組合せのうち1つ目の組合せに注目し(#504、#505)、その組合せに対応する診断頻度データDTFを症状病名テーブルTL1から検索する(#506)。その診断頻度データDTFが見つかった場合は(#507でYes)、その診断頻度データDTFのマッチングスコアに「1」を加算する(#508)。
【0037】
見つからなかった場合は(#507でNo)、その組合せの診断頻度データDTFを新たに生成し、これを症状病名テーブルTL1に登録する(#509)。例えば、「頭が重い」という症状および「流行性感冒」という病名の組合せに対応する診断頻度データDTFが見つからなかった場合は、この症状および病名を示す診断頻度データDTFを新たに生成し、症状病名テーブルTL1に登録する。この診断頻度データDTFのマッチングスコアには「1」を格納しておく。
【0038】
そして、残りの組合せについても、同様の処理を行う。これにより、症状病名テーブルTL1の更新の処理が完了する。
【0039】
図3に戻って、検査病名テーブルTL2は、図8のように、検査値がどのような値である場合にどのような病気である可能性が高いのかを示している。例えば、図中の最初のレコードは、「γGTP」という検査項目の検査値(数値)が「100以上」という条件を満たす場合は「肝硬変」という病名の病気である可能性が高い、ということを示している。なお、検査病名テーブルTL2のデータとして、臨床実験などによって得られた既知のデータが用いられる。
【0040】
検査データ取得部104は、主訴データ取得部101によって取得された主訴データDT1に係る患者の検査の結果を示す検査データDT3を診療情報サーバ2に対して要求し、これを受信する処理を行う。つまり、検査データDT3を取得するための処理を行う。
【0041】
病名推測処理部105は、医師が診察している患者の病名を、主訴データ取得部101によって取得されたその患者の主訴データDT1および図6の症状病名テーブルTL1などに基づいて推測する処理を行う。また、検査データ取得部104によってその患者の検査データDT3が取得できた場合は、その検査データDT3および図8の検査病名テーブルTL2をも参照して推測の処理を行う。係る処理は、例えば図9に示すような手順で行われる。
【0042】
図9において、病名推測処理部105は、主訴データ取得部101によって取得された主訴データDT1から患者の症状を抽出する(#521)。
【0043】
抽出された症状のうち1つ目の症状に注目し(#522、#523)、その症状を示す診断頻度データDTFを症状病名テーブルTL1から検索する(#524)。その診断頻度データDTFが見つかったら(#525でYes)、その診断頻度データDTFに示される病名のカウンタが存在するのであれば(#526でYes)、その診断頻度データDTFに示されるマッチングスコアの値をそのカウンタに加算する(#528)。その診断頻度データDTFに示される病名のカウンタが存在しないのであれば(#526でNo)、その病名のカウンタを新たに生成し(#527)、その診断頻度データDTFに示されるマッチングスコアの値をその生成したカウンタに加算する(#528)。なお、カウンタの初期値は「0」である。抽出した残りの症状についても、同様の処理を行う。
【0044】
ところで、ステップ#524において、1つの症状について複数の診断頻度データDTFが見つかることがある。この場合は、それぞれの診断頻度データDTFが示す病名について、ステップ#526〜#528の処理を実行する。
【0045】
例えば、現在、図6に示すように、6つの診断頻度データDTFが症状病名テーブルTL1に格納されているとする。ステップ#521において「頭が痛い」という症状が抽出されたとすれば、ステップ#524において「上気道炎」、「インフルエンザ」、および「肺炎」をそれぞれ示す3つの診断頻度データDTFが見つかる。
【0046】
ここで、病名推測処理部105は、これら3つの病名それぞれについて、ステップ#526〜#528の処理を実行する。つまり、その病名に対応するカウンタがなければ、それを生成する。そして、「上気道炎」のカウンタに「2」を加算し、「インフルエンザ」のカウンタに「5」を加算し、「肺炎」のカウンタに「4」を加算する。
【0047】
または、もしも、ステップ#521において「頭が重い」および「頭が痛い」という2つの症状だけが抽出されたとすれば、それぞれの症状についてステップ#524〜#528の処理を終了した結果、「上気道炎」のカウンタの値は「2」になり、「インフルエンザ」のカウンタの値は「3+5=8」になり、「肺炎」のカウンタの値は「4」になる。
【0048】
フローチャートに戻って、ステップ#521で抽出したすべての症状についてステップ#523〜#528の処理が終了したら(#529でYes)、各病名のカウンタの値に基づいて、今回の患者が有する可能性の高い病名を次のように選出する(#531)。
【0049】
例えば、値の大きい順にカウンタを所定の個数だけ選び、それぞれに対応する病名を選出する。または、所定の値以上を示すカウンタに対応する病名を選出する。
【0050】
このようにして選出された病名が、病名推測処理部105による病名の推測の結果である。
【0051】
または、病名推測処理部105は、検査データ取得部104によってその患者の検査データDT3が取得された場合は、主訴データDT1および症状病名テーブルTL1だけでなく、その検査データDT3および図8の検査病名テーブルTL2をも参照し、その患者の病名を推測してもよい。
【0052】
例えば、検査データDT3に示される検査結果の数値つまり検査値を検査病名テーブルTL2の各レコードの「数値」フィールドの値と比較することによって、その患者が有する可能性の高い病気の病名を選出する。
【0053】
そして、図9のステップ#531において選出された病名のうち、今回の比較によって選出された病名のみを、推測の結果とする。または、図9のステップ#531において選出された病名および今回の比較によって選出された病名の両方を、推測の結果としてもよい。
【0054】
図3に戻って、推測データ提供処理部106は、病名推測処理部105によって行われた患者の病名の推測の結果をその患者の診察を行っている医師に提供するために、その結果を示す推測結果データDT4をその医師が操作している端末装置3に送信する。なお、各病名のカウンタの値も推測結果データDT4に含めるようにしてもよい。
【0055】
図4において、端末装置3の推測データ取得部303は、病名推測処理サーバ1から送信されてきた推測結果データDT4を受け付ける処理を行う。つまり、推測結果データDT4を取得する処理を行う。
【0056】
推測結果表示処理部304は、推測データ取得部303によって取得された推測結果データDT4に基づいて、図10に示すような病名推測結果画面HG2を生成し、これをディスプレイに表示させる。医師は、この病名推測結果画面HG2を参照し、患者の診断を行う。
【0057】
なお、診断支援システムMSYの運用の開始後しばらくは、症状病名テーブルTL1に格納されている診断頻度データDTFの個数が少ない。または、まったく格納されていない。したがって、図9のステップ#524において探している診断頻度データDTFが見つからないことがある。その場合は、病名推測処理サーバ1は、推測結果データDT4の代わりにその旨のメッセージを病名推測処理サーバ1に送信する。
【0058】
図11は病名推測処理サーバ1および端末装置3の全体的な処理の流れの例を説明するフローチャートである。
【0059】
次に、ある1人の患者を医師が診察する場合における病名推測処理サーバ1および端末装置3の処理の流れを、フローチャートを参照して説明する。
【0060】
図11において、端末装置3は、その患者のカルテ画面HG1(図5参照)を表示する(#31)。ここで、医師は、患者を問診したり患者の様子を目視したりする。患者は、自分が自覚している症状を医師に伝えたり、医師からの質問に答えたりする。そして、医師は、把握できた症状をテキストボックスTX11に入力し、決定ボタンBN11をクリックする。
【0061】
すると、端末装置3は、テキストボックスTX11に入力された内容を受け付け(#32)、その内容を示す主訴データDT1を病名推測処理サーバ1に送信する(#33)。
【0062】
病名推測処理サーバ1は、主訴データDT1を受信すると(#11)、その患者の検査データDT3が診療情報サーバ2に保存されていれば、それを診療情報サーバ2からダウンロードする(#12)。
【0063】
その主訴データDT1および症状病名テーブルTL1(図6参照)に基づいてその患者の病名を推測する(#13)。検査データDT3をダウンロードできた場合は、その検査データDT3および図8の検査病名テーブルTL2をも参照して推測する。推測の処理の手順は、前に図9で説明した通りである。
【0064】
そして、病名推測処理サーバ1は、推測の結果を示す推測結果データDT4を、主訴データDT1の送信元である端末装置3に送信する(#14)。
【0065】
端末装置3は、推測結果データDT4を受信すると(#34)、これに基づいて図10のような病名推測結果画面HG2を生成し表示する(#35)。
【0066】
ここで、医師は、その病名推測結果画面HG2の内容を参照しながら、患者が有する病気を診断する。そして、診断の結果をカルテ画面HG1のテキストボックスTX12に入力する。
【0067】
なお、病名推測結果画面HG2の内容は、あくまでも、医師の経験則に基づく推測結果に過ぎない。したがって、病名の最終的な判断は、医師の責任による。特に、病名推測処理サーバ1を運用し始めて間もない頃は、症状病名テーブルTL1に十分なデータが蓄えられておらず推測結果の信頼性が低いことがあるので、注意が必要である。
【0068】
そして、端末装置3は、テキストボックスTX12に入力された内容を受け付け(#36)、その内容を示す診断データDT2を病名推測処理サーバ1に送信する(#37)。
【0069】
病名推測処理サーバ1は、診断データDT2を受信すると(#15)、この診断データDT2およびステップ#11で受信した主訴データDT1に基づいて症状病名テーブルTL1を更新する処理を行う(#16)。係る処理は、前に図7で説明した通りである。
【0070】
本実施形態によると、患者にどのような症状がある場合に医師がどのような診断を下すのかを解析し、その解析結果を学習することができる。さらに、その解析結果を利用して患者の症状に基づいて患者の病名を推測し、その推測結果を医師に知らせることができる。よって、診断を行う医師を補助することができる。
【0071】
また、メジャーな病名に隠れがちであるマイナーな病名をも検出しそれを医師に知らせることができる。よって、誤診の防止を図ることができる。また、症状病名テーブルTL1を複数の医師で共有することによって、ベテランの医師の診断の経験則を若手の医師に利用させることができる。
【0072】
図12は入力用のテンプレートの例を示す図である。本実施形態では、症状および病名をテキストボックスTX11、TX12(図5参照)にキーボードで入力させたが、図12(a)(b)のような選択肢を示すテンプレートを用意しておき、該当する症状および病名をそれらの中からマウスで選択させることによって入力させてもよい。
【0073】
本実施形態では、端末装置3は、主訴データDT1および診断データDT2を診療情報サーバ2および端末装置3の両方に送信したが、従来通り診療情報サーバ2のみに送信し、診療情報サーバ2が端末装置3からの主訴データDT1および診断データDT2を病名推測処理サーバ1に与えるようししてもよい。
【0074】
医師は、病名推測結果画面HG2が表示された後、直ちに診断を下す必要はない。病名推測結果画面HG2の内容を見て、さらに診察を続けてもよい。例えば、病名推測結果画面HG2の内容を見た後、さらに別の質問を患者に与え、その回答をテキストボックスTX11に追記して主訴データDT1を病名推測処理サーバ1に送信し直し、推測処理を再度実行させてもよい。または、病名推測結果画面HG2の内容を見た後、患者に対して必要な検査を行い、検査結果が診療情報サーバ2に登録された後、推測処理を再度実行させてもよい。
【0075】
医師は、以前に診断した病名を別の病名に修正することも可能である。この場合は、医師は、修正の対象であるカルテの内容を示すカルテ画面HG1を端末装置3に表示させ、テキストボックスTX12の内容を修正する。すると、病名推測処理サーバ1は、修正前の病名と症状との組合せごとの診断頻度データDTFのマッチングスコアを「1」だけ減らするとともに、図7の処理を再度実行することによって修正後の病名と症状との組合せごとの診断頻度データDTFのマッチングスコアを「1」だけ加算する。
【0076】
テキストボックスTX11に、患者の症状だけでなく、患者の環境または生活習慣などに関する情報を入力できるようにしてもよい。例えば、職業、住まい、家族構成、周囲で流行している病気、診察時の季節、平均の睡眠時間、昨日の睡眠時間、嗜好品の摂取量、最近食べた物などに関する情報を入力できるようにしてもよい。そして、これらの事項と医師の判断した病名との組合せごとについても、診断頻度データDTFを用意し、両者の因果関係を解析してもよい。
【0077】
本実施形態では、診断支援システムMSYをサーバクライアント型のシステムによって実現する例を説明したが、本発明は、1台のコンピュータによるスタンドアロン型のシステムでも実現可能である。
【0078】
医療機関Xの受付係が患者の受付のために、例えば次のように端末装置3を使用してもよい。受付係は、来院した患者に対して簡単な質問を行う。患者からの回答を入力し、病名を推測するように病名推測処理サーバ1に対して指令を与える。そして、病名推測処理サーバ1から得られた推測結果に基づいて、その患者をどの診療科に振り分けるのかを決定する。
【0079】
医療機関Xの病名推測処理サーバ1の症状病名テーブルTL1のコピーを、他の医療機関の病名推測処理サーバ1にインストールして使用することもできる。
【0080】
その他、診断支援システムMSY、病名推測処理サーバ1、端末装置3の全体または各部の構成、処理内容、処理順序、テーブルの構成などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【0081】
上に述べた実施例には、以下に述べるような付記も開示されている。
(付記1)
症状と病名との組合せごとに、過去に医師が当該症状の患者に対して当該病名の病気であると診断した頻度を示す診断頻度情報を記憶する、診断頻度情報記憶手段と、
診断する対象の患者の1つまたは複数の症状を入力する症状入力手段と、
前記診断頻度情報記憶手段に記憶されている、前記症状入力手段によって入力された患者の各症状に係る前記診断頻度情報に基づいて、当該患者の病名を1つまたは複数推測する病名推測手段と、
前記病名推測手段によって推測された1つまたは複数の病名を出力する病名出力手段と、
医師が患者を診断した後、前記診断頻度情報記憶手段に記憶されている当該患者の症状と病名との組合せごとの前記診断頻度情報の更新を行う、診断頻度情報更新手段と、
を有することを特徴とする診断支援システム。
(付記2)
症状と病名との組合せの前記頻度は、過去に医師が当該症状の患者に対して当該病名の病気であると診断した回数であって、
前記診断頻度情報更新手段は、前記診断頻度情報の更新を、当該診断頻度情報に係る前記頻度に1を加算することによって行う、
付記1記載の診断支援システム。
(付記3)
前記病名推測手段は、前記診断頻度情報に示される前記頻度の値を病名ごとに集計し、集計した値が所定の値以上である病名を患者の病名であると推測する、
付記1または付記2記載の診断支援システム。
(付記4)
前記病名推測手段は、前記診断頻度情報に示される前記頻度の値を病名ごとに集計し、集計した値の大きい順に所定の個数だけ選出した病名を患者の病名であると推測する、
付記1または付記2記載の診断支援システム。
(付記5)
患者の検査の結果を示す検査結果情報を取得する検査結果情報取得手段を有し、
前記病名推測手段は、患者の病名を、前記検査結果情報取得手段によって取得された当該患者の前記検査結果情報に基づいて推測する、
付記1ないし付記4のいずれかに記載の診断支援システム。
(付記6)
症状と病名との組合せごとに、過去に医師が当該症状の患者に対して当該病名の病気であると診断した頻度を示す診断頻度情報を診断頻度情報記憶手段に記憶させておき、
診断する対象の患者の1つまたは複数の症状を入力し、
前記診断頻度情報記憶手段に記憶されている、入力した患者の各症状に係る前記診断頻度情報に基づいて、当該患者の病名を1つまたは複数推測し、
推測した1つまたは複数の病名を出力し、
医師が患者を診断した後、前記診断頻度情報記憶手段に記憶されている当該患者の症状と病名との組合せごとの前記診断頻度情報の更新を行う、
ことを特徴とする診断支援方法。
(付記7)
医師が患者を診断するための支援を行うコンピュータに用いられるコンピュータプログラムであって、
診断する対象の患者の1つまたは複数の症状を入力する処理と、
症状と病名との組合せごとに診断頻度情報記憶手段に記憶されている、過去に医師が当該症状の患者に対して当該病名の病気であると診断した頻度を示す診断頻度情報のうちの、入力した患者の各症状に係る前記診断頻度情報に基づいて、当該患者の病名を1つまたは複数推測する処理と、
推測した1つまたは複数の病名を出力する処理と、
医師が患者を診断した後、前記診断頻度情報記憶手段に記憶されている当該患者の症状と病名との組合せごとの前記診断頻度情報を更新する処理と、
をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
(付記8)
医師が患者を診断するための支援を行うコンピュータが参照可能な診断頻度データベースであって、
症状と病名との組合せごとに、過去に医師が当該症状の患者に対して当該病名の病気であると診断した頻度を示す診断頻度データを格納し、かつ、
医師が患者を診断した場合に、当該患者の症状と病名との組合せに係る前記診断頻度データの前記頻度がコンピュータによって更新される、
ことを特徴とする診断頻度データベース。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】診断支援システムの全体的な構成の例を示す図である。
【図2】病名推測処理サーバのハードウェア構成の例を示す図である。
【図3】病名推測処理サーバの機能的構成の例を示す図である。
【図4】端末装置の機能的構成の例を示す図である。
【図5】カルテ画面の例を示す図である。
【図6】症状病名テーブルの例を示す図である。
【図7】テーブル更新処理の流れの例を説明するフローチャートである。
【図8】検査病名テーブルの例を示す図である。
【図9】病名推測処理の流れの例を説明するフローチャートである。
【図10】病名推測結果画面の例を示す図である。
【図11】病名推測処理サーバおよび端末装置の全体的な処理の流れの例を説明するフローチャートである。
【図12】入力用のテンプレートの例を示す図である。
【符号の説明】
【0083】
MSY 診断支援システム
101 主訴データ取得部(症状入力手段)
103 テーブル更新処理部(診断頻度情報更新手段)
105 病名推測処理部(病名推測手段)
106 推測データ提供処理部(病名出力手段)
304 推測結果表示処理部(病名出力手段)
DTF 診断頻度データ(診断頻度情報)
TL1 症状病名テーブル(診断頻度情報記憶手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
症状と病名との組合せごとに、過去に医師が当該症状の患者に対して当該病名の病気であると診断した頻度を示す診断頻度情報を記憶する、診断頻度情報記憶手段と、
診断する対象の患者の1つまたは複数の症状を入力する症状入力手段と、
前記診断頻度情報記憶手段に記憶されている、前記症状入力手段によって入力された患者の各症状に係る前記診断頻度情報に基づいて、当該患者の病名を1つまたは複数推測する病名推測手段と、
前記病名推測手段によって推測された1つまたは複数の病名を出力する病名出力手段と、
医師が患者を診断した後、前記診断頻度情報記憶手段に記憶されている当該患者の症状と病名との組合せごとの前記診断頻度情報の更新を行う、診断頻度情報更新手段と、
を有することを特徴とする診断支援システム。
【請求項2】
症状と病名との組合せの前記頻度は、過去に医師が当該症状の患者に対して当該病名の病気であると診断した回数であって、
前記診断頻度情報更新手段は、前記診断頻度情報の更新を、当該診断頻度情報に係る前記頻度に1を加算することによって行う、
請求項1記載の診断支援システム。
【請求項3】
前記病名推測手段は、前記診断頻度情報に示される前記頻度の値を病名ごとに集計し、集計した値が所定の値以上である病名を患者の病名であると推測する、
請求項1または請求項2記載の診断支援システム。
【請求項4】
症状と病名との組合せごとに、過去に医師が当該症状の患者に対して当該病名の病気であると診断した頻度を示す診断頻度情報を診断頻度情報記憶手段に記憶させておき、
診断する対象の患者の1つまたは複数の症状を入力し、
前記診断頻度情報記憶手段に記憶されている、入力した患者の各症状に係る前記診断頻度情報に基づいて、当該患者の病名を1つまたは複数推測し、
推測した1つまたは複数の病名を出力し、
医師が患者を診断した後、前記診断頻度情報記憶手段に記憶されている当該患者の症状と病名との組合せごとの前記診断頻度情報の更新を行う、
ことを特徴とする診断支援方法。
【請求項5】
医師が患者を診断するための支援を行うコンピュータに用いられるコンピュータプログラムであって、
診断する対象の患者の1つまたは複数の症状を入力する処理と、
症状と病名との組合せごとに診断頻度情報記憶手段に記憶されている、過去に医師が当該症状の患者に対して当該病名の病気であると診断した頻度を示す診断頻度情報のうちの、入力した患者の各症状に係る前記診断頻度情報に基づいて、当該患者の病名を1つまたは複数推測する処理と、
推測した1つまたは複数の病名を出力する処理と、
医師が患者を診断した後、前記診断頻度情報記憶手段に記憶されている当該患者の症状と病名との組合せごとの前記診断頻度情報を更新する処理と、
をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−27099(P2008−27099A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−197772(P2006−197772)
【出願日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】