診断薬剤
本発明は、シヌクレイン疾患の診断方法において使用するためのアミノ酸配列を含む薬剤を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−シヌクレイン凝集体を認識して結合できるペプチド、並びに1以上のシヌクレインの異常を伴う神経変性疾患であるシヌクレイン性疾患(シヌクレイン疾患又はシヌクレイン病)の診断及びモニタリングにおける該ペプチドの使用に関する。
【0002】
発明の背景
本発明は、シヌクレイン病の診断及びモニタリングに有用であるペプチド及びそれらの誘導体に関する。シヌクレイン病は、1以上のシヌクレインの異常に関連する疾患であり、いくつかの重要な神経変性状態(例えば、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、アルツハイマー病(AD)及び多系統萎縮症(MSA))が含まれる。シヌクレインはまた、ヒト癌における様々な腫瘍(例えば、乳房、卵巣)にて、異常に高レベルに発現されている。
【0003】
シヌクレインは、神経組織にて高レベルに発現されている小さいタンパク質(〜14kDa)のファミリーである。3つのファミリー構成メンバー(α−、β−、及びγ−シヌクレイン)が、異なる染色体上に存在する3つの遺伝子の産物である。集まってきた遺伝的及び生化学的証拠は、不溶性のα−シヌクレイン凝集体又は原繊維の蓄積が、いくつかのシヌクレイン病の進行において、重要な工程であることを示唆している。
【0004】
疾患の発症におけるα−シヌクレインの関与について最初の指摘は、アルツハイマー病(AD)の脳の精製したアミロイド由来のタンパク質分解断片の1つを単離したことに由来する。このα−シヌクレイン断片は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)不溶性物質の約10%を示しており、ADアミロイドの非Aβ成分(NAC)と名付けられた。アミノ酸配列決定に使用した酵素の特異性のため、N末端残基は確実性をもって決定され得なかったが、配列決定により、NACは少なくとも35アミノ酸を含むことが明らかになった。これら35アミノ酸は、140アミノ酸前駆体(NACP)の残基61〜95に相当することが後に示された。NACPは、α−シヌクレインと呼ばれるタンパク質と一致することが見出された。
【0005】
α−シヌクレイン遺伝子内の3つの異なる突然変異が、PDの稀な遺伝型において発見されたことが示されて、PDとの明らかな遺伝的関係が証明された。突然変異の1つであるα−シヌクレイン(A53T)は、あるイタリア及びギリシャの家系にて見出され、Ala53がThr置換している。他の突然変異であるα−シヌクレイン(A30P)は、ドイツに由来する家系に見出されており、Ala30がPro変化しており、最後の突然変異E46Kは、家族性パーキンソン病及びDLBに見出された。さらに、SNCAの遺伝子量の増加を示唆する、SNCA遺伝子座の遺伝的な重複及び3重複もまた家族性のPDのケースで報告されており、これは同時に、野生型α−シヌクレインタンパク質のレベルの増加をもたらし、病原性でもある。SNCAの重複は、高齢での発症、遅い進行並びに認知症及び認識低下の欠如を有する孤発性PDに非常に類似している。あるいは、SNCAの3重複は結果として、より迅速な進行及び認知症を有する若年発症PDとなる。
【0006】
さらに、「レビー小体」及び「レビー神経突起」として公知の脳の病変は、PD及びDLBの患者の脳における主な病的特徴を構成している。これらのレビー小体及びレビー神経突起は、α−シヌクレイン凝集体を含んでいる。さらなる免疫組織化学及び免疫電子顕微鏡による研究は、MSAに見出されるグリアの細胞質内封入体などの非神経細胞を時には含む、他の神経変性疾患における病理学的病変ともα−シヌクレインが関連していることを示している。したがって、PD、AD、DLB及びMSAを、本明細書中では、まとめてシヌクレイン病と呼ぶ。
【0007】
ヒトシヌクレイン疾患において見出されるのと同じ病変が、トランスジェニック動物において生成され得ることが最近報告されている。該トランスジェニック動物は、ヒト野生型又は変異型α−シヌクレインタンパク質を高レベルに発現し、シヌクレイン疾患に関連する多くの病態を徐々に発現する。これらの発見は、シヌクレイン疾患の病態生理学におけるα−シヌクレインタンパク質凝集体の蓄積と関係している。興味深いことに、3つのヒトα−シヌクレイン突然変異は、凝集プロセスを加速させているようである。ヒト野生型α−シヌクレインの完全なアミノ酸配列は、配列番号1として提供される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の要旨
α−シヌクレイン凝集及び毒性に対する小さなペプチド阻害剤が設計され、α−シヌクレイン阻害剤(ASI)と名付けられた。これらの短いペプチドは、配列番号1の残基69〜72に相当するα−シヌクレインの結合領域の一部を含む。これらのペプチドの不溶性は、合成ペプチドのN末端において親水性残基(アルギニン及びグリシンなど)に置換し、C末端においてグリシン及びアルギニンに置換することによって克服された。これらのペプチドは、α−シヌクレイン単量(遊離)体に結合することが見出されており、初期の可溶性凝集体(又は付加物)及び成熟した凝集体(又は成熟したシヌクレイン原繊維)両方へのα−シヌクレイン単量(遊離)体の集合を阻害することが可能であった。
【0009】
本発明により、ヒト野生型α−シヌクレインの結合領域のアミノ酸配列(すなわち、配列番号1の残基61から95)に相当するアミノ酸配列を含むか、又は本質的に該アミノ酸配列からなるペプチドが提供される。結合領域の配列は、以下に完全に、配列番号2として提供される。
【0010】
α−シヌクレインの結合領域の配列:
EQVTNVGGAV VTGVTAVAQK TVEGAGSIAA ATGFV(配列番号2)
【0011】
好ましくは、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の、2から12個の連続したアミノ酸残基由来のアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなる。具体的には、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の、2、3、4、5、6、7、8、9 10、11又は12個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなってよい。最も好ましくは、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の、最大で7個の連続したアミノ酸残基、最大で6個の連続したアミノ酸残基、最大で5個の連続したアミノ酸残基、最大で4個の連続したアミノ酸残基、最大で3個の連続したアミノ酸、又は最大で2個の連続したアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなってよい。
【0012】
本発明は、天然に生ずるα−シヌクレインの結合領域の配列(配列番号1のアミノ酸残基61から95)由来のASIペプチドが、遊離のα−シヌクレインである「α−シヌクレイン単量体」に対してよりも、α−シヌクレインの初期の可溶性凝集体及び成熟した凝集体の両方に対してより高い親和性にて結合するという驚くべき発見に基づかれている。したがって、α−シヌクレインの結合領域に相当するアミノ酸配列を含むか、又は本質的に該アミノ酸配列からなるペプチドは、α−シヌクレイン(又はNACなどのその断片)の凝集体を検出するために使用され得る。違うように説明されない限り、α−シヌクレイン凝集体についての全ての以下の言及は、α−シヌクレイン若しくはその断片又は誘導体の、初期の可溶性(低分子量及び/又は高分子量の可溶性オリゴマー)及び成熟した凝集体(任意の他のタンパク質(単数又は複数)と複合体を形成しているα−シヌクレインを含む凝集体を含む)の両方に適用されるものと解釈されるべきである。
【0013】
α−シヌクレイン凝集体に結合する能力のため、本発明のペプチドは、α−シヌクレインに関する疾患の診断における使用に適している。本発明のペプチドは、シヌクレイン疾患の初期段階に存在するα−シヌクレインの可溶性凝集体(又は付加物)に結合できることから、ペプチドは、このような疾患の初期診断における使用に特に適している。ペプチドは、「野生型」α−シヌクレイン(天然の形態)又は突然変異型、ニトロ化型、リン酸化型、グリコシル化型若しくは欠失型又は任意の他の天然に生ずる改変型の凝集体を検出するのに有用である。
【0014】
本発明のペプチドはさらに、血液脳関門を通過する輸送を増加させるため、及び/又は生細胞による取り込みを増加させるための置換基を含んでよい。さらに、本発明のペプチドは、造影剤としての使用のために標識されてよい。例えば、付加的な好ましいアミノ末端置換基(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリス(酢酸−t−ブチルエステル)−10−酢酸(DOTA)など)が、ガドリニウムイオンなどの造影剤と複合体を形成するためのリガンドを提供するために導入されてよく、それにより患者のα−シヌクレイン凝集体蓄積物のMRI画像化が可能となる。
【0015】
したがって、本発明のペプチドは、初期又は中程度のシヌクレイン疾患の診断において使用するため、及びシヌクレイン疾患の治療をモニタリングするための薬剤として、優れた特性を備えている。したがって、本発明は、以下を提供する:
− ヒト又は動物体に対して実践される診断方法における使用のための薬剤であって、ここで、該薬剤は配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の2から12個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むペプチドを含むか、又は該アミノ酸配列の誘導体又は類似体を含み、ここで、該薬剤が遊離のα−シヌクレインに対してよりも、α−シヌクレイン凝集体に対してより高い親和性にて結合する、薬剤。
− 以下を含む、ペプチド:
i)アミノ酸配列DThr−DVal−DVal−DAla又はDVal−DVal−DAla;
ii)グリシン若しくはN−メチル(methly)グリシン残基及び/又は任意の他のスペーサーにより、該配列(i)のN末端又はC末端に結合したポリ−D−アルギニンペプチド;及び
iii)該ペプチドのN末端に結合した置換基DOTA。
− α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の診断における使用のための本発明の薬剤又はペプチド。
− α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の診断方法であって、該方法が、被験体に本発明の薬剤を投与すること、及びそれによってα−シヌクレイン凝集体の存在の有無を検出することを含む方法であって、ここで、α−シヌクレイン凝集体の存在は、該被験体がシヌクレイン疾患に罹患していることを示しており、α−シヌクレイン凝集体が存在しないことは、該被験体が該シヌクレイン疾患に罹患していないことを示している、方法。
− α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患のモニタリング方法であって、該方法が本発明の薬剤を被験体に投与すること、及び任意のα−シヌクレイン凝集体の量及び/又は大きさを検出することを含む、方法。
− α−シヌクレイン凝集体の画像化キットであって、該キットが本発明の薬剤及び被験体に該薬剤を投与する手段を含む、キット。
− 患者における、α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患のインビトロ診断方法であって:
(a)該患者由来の組織及び/又は体液(例えば、血液、CSF、尿)サンプルを、本発明の薬剤を該サンプル中に存在するα−シヌクレインの凝集体と結合させるのに有効な時間及び条件下にて、該薬剤と混合することを含み;かつ
(b)それによって、該サンプル中のα−シヌクレインの凝集体の存在の有無を検出することを含み、ここで、α−シヌクレイン凝集体の存在は、該被験体がシヌクレイン疾患に罹患していることを示しており、α−シヌクレイン凝集体が存在しないことは、該被験体が該シヌクレイン疾患に罹患していないことを示している、方法。
− α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の処置が目的で投与された治療剤の有効性についてのインビトロのモニタリング方法であって、該方法が、動物モデル由来のサンプルをα−シヌクレインの凝集体の存在及び量について分析することを含む、方法。
− α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の処置が目的で投与された治療剤の有効性についてのモニタリング方法であって、該方法が、動物モデルの脳をα−シヌクレインの凝集体の存在及び量について画像化することを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の例示的な造影剤(造影剤1)の構造を示す。造影剤は、3つのドメインを含んでおり、α−シヌクレイン結合ドメインは、剤の中央部分にあるレトロインバーソ配列であり、輸送ドメインはC末端のポリアミン又はポリD−アルギニンであり、及び造影剤はN末端のガドリニウムイオンである。
【図2A】図2は、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上にコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から4(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図2B】図2は、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上にコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から4(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図2C】図2は、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上にコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から4(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図2D】図2は、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上にコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から4(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図3A】図3A〜Eは、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上に200pmol/ウェルにてコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるペプチド濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から5(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図3B】図3A〜Eは、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上に200pmol/ウェルにてコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるペプチド濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から5(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図3C】図3A〜Eは、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上に200pmol/ウェルにてコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるペプチド濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から5(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図3D】図3A〜Eは、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上に200pmol/ウェルにてコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるペプチド濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から5(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図3E】図3A〜Eは、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上に200pmol/ウェルにてコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるペプチド濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から5(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図4A】図4A及びBは、ペプチドをマイクロタイタープレート上にコートし、α−シヌクレイン溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、ペプチドが、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図4B】図4A及びBは、ペプチドをマイクロタイタープレート上にコートし、α−シヌクレイン溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、ペプチドが、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図5】図5は、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上にコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、本発明のペプチドが、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、加齢(不溶性凝集体)又はドーパミン処理若しくはニトロ化(可溶性凝集体)のいずれかによって生成した予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図6】図6のEM顕微鏡写真は、免疫金アッセイシステムを使用した、予め形成されたα−シヌクレインの凝集体(成熟したアミロイド原繊維)に対する本発明のペプチド(OR5及びOR7)の結合を示している。
【図7】図7は、ペプチドをマイクロタイタープレート上にコートし、Aβ溶液をウェルに添加した場合に、あるペプチド濃度範囲において、本発明のペプチドが、加齢して凝集している形態又はそのままで凝集していない形態のいずれについても、アルツハイマー病(Aβ)におけるタンパク質凝集体の主要な成分には結合しないことを示している。同じ結果が、イギリス型痴呆ペプチド(ABri)などの他のポリペプチド凝集体について得られた(データは示さない)。
【図8】図8は、本発明のペプチドが、ヒト神経芽腫細胞株SH−SYSYによって効率的に取り込まれることを示している。同じ結果が、ヒト神経芽腫細胞株M17について得られた(データは示さない)。
【図9】図9は、細胞からのペプチドOR5の除去を経時的に示している。
【図10】図10は、本発明のペプチドが、ヒト神経芽腫細胞株に対して細胞毒性を示さないことを示している。
【図11】図11は、α−シヌクレインオリゴマーに対するビオチン化したペプチドOR5の結合を示すドットブロットを示している。
【図12A】図12は、死後の脳のレビー小体(LB)が本発明のペプチドOR5によって標識されることを図示している。
【図12B】図12は、死後の脳のレビー小体(LB)が本発明のペプチドOR5によって標識されることを図示している。
【図13A】図13は、細胞モデルにおいて、ペプチドがα−シヌクレイン凝集体に結合することを示している。
【図13B】図13は、細胞モデルにおいて、ペプチドがα−シヌクレイン凝集体に結合することを示している。
【図14A】図14Aは、T1マップの例を示している。図14Bは、ペプチドOR7をivインジェクションした後の脳のMRI画像を示している。
【図14B】図14Aは、T1マップの例を示している。図14Bは、ペプチドOR7をivインジェクションした後の脳のMRI画像を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書中で述べる配列の説明
配列番号1は、ヒト野生型α−シヌクレインの全長配列に相当する。配列番号2は、α−シヌクレインの結合領域に相当する。配列番号3から7は、本発明の好ましいペプチド配列に相当する。
【0018】
本発明の詳細な説明
α−シヌクレイン凝集体
違うように説明されない限り、用語α−シヌクレイン凝集体は、α−シヌクレイン及び任意の断片又はそれらの誘導体の、初期可溶性凝集体(低分子量及び/又は高分子量の付加物又は可溶性オリゴマー)及び成熟した不溶性凝集体(又は成熟したアミロイド原繊維)の両方を包含することが意図されている。凝集体は、α−シヌクレイン単量体の、任意の異常なコンフォメーション又は集合体を含むと考えられており、ユビキチン、ニューロフィラメントタンパク質、及びアルファBクリスタリンなどの他の成分を含んでもよい。
【0019】
違うように説明されない限り、用語遊離のα−シヌクレインは、天然のコンフォメーションにおける可溶性α−シヌクレイン単量体を意味することが意図されている。
【0020】
薬剤
本発明は、α−シヌクレイン、特にα−シヌクレイン凝集体に対して結合する薬剤を提供する。薬剤は、α−シヌクレインの結合領域(配列番号1の残基61から95)由来のペプチド配列を含むα−シヌクレイン凝集体結合ドメイン、及び検出可能な標識を含む。薬剤は、血液脳関門を通過するペプチドの輸送及び/又は生細胞によるペプチドの取り込みを促進する輸送ドメインを任意に含んでよい。本発明の薬剤は、α−シヌクレイン凝集体の検出に有用であり、PD、DLB及びMSAを含むシヌクレイン疾患の診断において有用である。
【0021】
α−シヌクレイン凝集体結合ドメイン
ペプチドは、3から35個のアミノ酸残基を含む。好ましくは、ペプチド配列は、最大で7個のアミノ酸残基、より好ましくは最大で6個のアミノ酸残基、さらにより好ましくは最大で5個のアミノ酸残基、及び最も好ましくは最大で3個のアミノ酸残基を含む。
【0022】
好ましくは、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の、2から12個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなる。具体的には、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の、2、3、4、5、6、7、8、9 10、11又は12個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなってよい。最も好ましくは、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の、最大で7個の連続したアミノ酸残基、最大で6個の連続したアミノ酸残基、最大で5個の連続したアミノ酸残基、最大で4個の連続したアミノ酸残基、最大で3個の連続したアミノ酸、又は最大で2個の連続したアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなってよい。
【0023】
好ましい実施態様において、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基67から73に相当する配列由来の2から7個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列(すなわち、Gly−Gly−Ala−Val−Val−Thr−Gly(配列番号3))を含むか、又は該アミノ酸配列からなる。具体的には、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基67から73に相当する配列由来の2、3、4、5、6又は7個の連続的なアミノ酸残基を含むか、又は該アミノ酸残基からなってよい。最も好ましくは、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基67から73に相当する配列由来の3個の連続したアミノ酸残基(すなわち、配列番号3の3個の連続したアミノ酸残基)を含むか、又は該アミノ酸残基からなる。特に、ペプチドは、配列番号3の7個全ての連続したアミノ酸のアミノ酸配列、又はテトラペプチドGly−Ala−Val−Val(配列番号4)、ペンタペプチドAla−Val−Val−Thr−Gly(配列番号5)、テトラペプチドVal−Val−Thr−Gly(配列番号6)、又はトリペプチドVal−Thr−Gly(配列番号7)のアミノ酸配列を含むか、又は本質的に該アミノ酸配列からなってよい。ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の2個の連続したアミノ酸のアミノ酸配列を含むか、又は本質的に該アミノ酸配列からなってよい。例えば、ペプチドは、アミノ酸配列VT又はTG(配列番号1の残基71から72又は72から73に各々相当する)を含むか、又は本質的に該アミノ酸配列からなってよい。
【0024】
本発明のペプチド配列の例は、以下の表1の左欄に示され、ペプチド配列が由来するα−シヌクレインの残基もまた同定している。
【0025】
【表1】
【0026】
配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の連続したアミノ酸残基の配列は、該配列のN末端及び/又はC末端にて、該配列の当該末端がヒト野生型α−シヌクレインのネイティブの配列に結合されているアミノ酸残基よりもより親水性である1以上のさらなるアミノ酸残基と、結合されてよい。グリシン(Gly)残基は、結合配列と付加的なアミノ酸残基との間のリンカー/スペーサーとして任意に使用されてよい。
【0027】
本発明のペプチドの誘導体又は類似体もまた、シヌクレインの凝集体への結合に有効である。それゆえ、本発明の第二の局面にしたがうと、本発明の第一の局面にしたがうペプチドの誘導体又は類似体が提供される。
【0028】
本発明のペプチドの誘導体又は類似体は、N置換型誘導体を含み得る。置換基は、例えば、ヒドロキシル基又はエチル基であってよいが、より好ましくはメチル基である。したがって、本発明のペプチドの誘導体又は類似体の例としては、ペプチドのNメチル化型の誘導体が挙げられる。このようなNメチル化型の誘導体としては、配列のいくつか又は全てがNメチル化型のアミノ酸残基である誘導体が挙げられる。置換はα位であることが好ましい。
【0029】
本発明の第一の局面のペプチドの誘導体又は類似体はさらに、ペプチドのD−アミノ酸誘導体、ペプチドのペプトイド類似体、又はペプチド−ペプトイドハイブリッドを含んでよい。
【0030】
ペプチドは多くの手段(生物システムにおけるプロテアーゼ活性など)によって分解に供されてよい。このような分解は、それらのバイオアベイラビリティ、したがって、シヌクレイン凝集体に対する結合能力を制限し得る。生物的状況において増強された安定性を有するペプチド誘導体を設計及び生産し得る十分に確立された技術が幅広く存在している。プロテアーゼを介する分解に対する耐性の増加の結果、このようなペプチド誘導体は、向上したバイオアベイラビリティを有し得る。
【0031】
好ましくは、本発明の第二の局面のペプチド誘導体又は類似体は、それが由来するペプチドよりもよりプロテアーゼ耐性である。ペプチド誘導体及びそれが由来するペプチドのプロテアーゼ耐性は、周知のタンパク質分解アッセイの手法によって評価され得る。次いで、ペプチド誘導体及びペプチドのプロテアーゼ耐性の相対値が比較され得る。
【0032】
ペプトイド残基では、側鎖の位置が、α炭素原子から窒素原子へとシフトされている。側鎖の同一性が保存されている一方、3次元空間における配向性が反転されている。これらの化合物は、骨格と側鎖改変の組み合わせと考えることができる。ペプトイド化合物は、本発明のペプチド誘導体/類似体としての使用のためにペプトイド化合物を適切にする2つの特性を有している:
(i)ペプトイド残基では、NHを含む水素結合はありえない。
(ii)ペプトイドは、酵素的分解に耐性である。
本発明のペプチドのペプトイド誘導体は、選択したペプチドの構造知見から容易に設計され得る。市販のソフトウエアは、十分に確立されたプロトコールにしたがって、ペプトイド誘導体を作製するために使用され得る。
【0033】
レトロペプトイド(全てのアミノ酸が逆の順番でペプトイド残基により置換されている)は、高親和性結合剤を模倣できることが報告されている。ペプトイド残基を1つ含むペプチド又はペプトイド−ペプチドハイブリッドと比較すると、レトロペプトイドは、リガンドが結合する溝に反対の方向にて結合すると予期される。その結果、ペプトイド残基の側鎖は、本来のペプチドの側鎖と同じ配向性である。
【0034】
ペプチド−ペプトイドハイブリッドペプチド模倣物もまた、α−シヌクレイン凝集体を検出するために使用され得る。このようなハイブリッドは、1以上のアミノ酸が相当するペプトイド残基によって置換されたペプチドを含む。
【0035】
本発明の第二の局面の別の実施態様において、配列はD−アミノ酸を含む。D−アミノ酸の配列順序はまた、基になっているα−シヌクレインの配列部分と比較して、反転され得る。例えば、α−シヌクレインの残基69から71(GAVV)に基づく配列を有するD−アミノ酸ベースのペプチド誘導体は、GAVV又はVVAG配列を有し得るであろう。
【0036】
本発明のペプチド、ペプチド誘導体及びペプチド類似体は、細胞への進入、又は生体関門(血液脳関門など)の通過を促進するために適応されてよい。シヌクレイン病は脳におけるシヌクレインの病的な活性を一般に伴うことから、脳組織への本発明のペプチド又はペプチド誘導体の進入を促進することは、非常に望ましい。
【0037】
輸送ドメイン
輸送ドメインはまた、血液脳関門を通過するペプチドの輸送及び/又は生細胞によるペプチドの取り込みを促進する、任意の化合物又は置換基を含んでよいか、又はこれらからなってよい。膜透過性キャリアペプチド(HIV−1 Tat(48〜60)、フロックハウスウイルス(FHV)コート(35〜49)、ショウジョウバエAntennapedia(43〜58)及びオクタ及びヘキサアルギニンペプチドなどの塩基性ペプチドなど)の助力により、外来性タンパク質を生細胞内に及び血液脳関門を通過させて送達するための方法が開発されている。これらのキャリアペプチドを遺伝学的又は化学的にハイブリダイズさせることによって、様々なオリゴペプチド及びタンパク質の効率的な細胞内送達が達成されてきた。このようなアプローチの有効性は、120kDa程度の分子量を有するTat−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質の例によって例示される。この融合タンパク質をマウスで発現させると、生物的に活性のある融合タンパク質が、脳を含む全ての組織に送達される結果となる。したがって、本発明のペプチド又はペプチド誘導体は、このようなキャリアペプチドの組み込みによって、細胞又は組織におけるそれらのバイオアベイラビリティを増加させるために適合され得る。
【0038】
本発明のペプチド、ペプチド誘導体及びペプチド類似体の有用性を改善するためにキャリアペプチドを使用するこのアプローチは、非天然アミノ酸(例えば、D−アミノ酸又はNメチル化型アミノ酸)又は非ペプチド性誘導体を含む分子の、組織又は細胞への取り込みを可能にするのに特に適している。
【0039】
さらに、好ましい輸送ドメインは、グアニジン基を含む。1つの好ましい実施態様において、輸送ドメインはジアミンを含む。ポリアミンは典型的には2、3、4、5、6、7、8又は9個のアミンを含む。ポリアミンは合成されるか、天然に生じ得る。ポリアミンは典型的には、血液脳関門にてポリアミントランスポーターと相互作用できるものである。有用なポリアミンとしては、1,4ブタジアミン、1,5ペンタジアミン、プトレッシン、スペルミジン、1,3−ジアミノプロパン、ノルスペルミジン、スペルミン、シン−ホモスペルミジン、サーマイン(thermine)、サーモスペルミン、カルドペンタミン、ホモカルドペンタミン及びカナバルミンが挙げられる。
【0040】
別の実施態様において、輸送ドメインはジグアニジンを含んでよい。ポリグアニジンは、3から10個のグアニジン(例えば、4、5、6又は7個のグアニジン)を含んでよい。
【0041】
別の実施態様において、輸送ドメインは、例えば、6個のアルギニン残基(ポリアルギニン[r6])を含むポリアルギニンであってよい。
【0042】
本発明の薬剤に含まれる輸送シグナルの適切性は、当業者によって容易に決定され得る。例えば、潜在的な輸送シグナルを含む薬剤の血液脳関門透過性は、マウスなどの実験動物において、各タンパク質について、透過性係数X表面積(PS)の積を定量化することによって、決定され得る。典型的には、PSは、静脈ボーラス注射の後に、異なる脳領域における血管内のタンパク質によって占められる残存血漿量(Vp)について補正した後に、測定される。
【0043】
輸送シグナルは、α−シヌクレイン凝集体結合ペプチドのN末端又はC末端のいずれに存在してもよい。
【0044】
アミン又はグアニジン輸送シグナルは、任意の適切な方法(例えば、化学的な架橋)によってペプチドに付着されてよい。適切な架橋剤は、当該分野で周知である。このような方法の1つが、実施例1に説明されている。
【0045】
検出可能な標識
本発明のα−シヌクレイン凝集体結合ペプチドは、α−シヌクレイン凝集体の画像化を促進するために標識される。ペプチドは、例えば、C末端及び/又はN末端の検出可能な標識を含んでよい。1つの好ましい実施態様において、検出可能な標識はN末端に存在する。検出可能な標識は典型的には、α−シヌクレイン凝集体に結合したときに、ペプチドの検出が可能となるものである。α−シヌクレイン凝集体は、生きた哺乳動物の脳又は死後の脳サンプル中に存在し得る。有用な標識は放射性標識及び造影剤、好ましくはヒトでの使用に適切なものが挙げられる。
【0046】
適切な放射性標識としては、18F、123I、111In、131I、99mTc、32P、125I、3H、14C及び188RLが挙げられる。適切な造影剤としては、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム及び鉄などの希土類イオンが挙げられる。このような造影剤の他の例としては、粒子などの多くの磁性剤、常磁性剤及び強磁性又は超常磁性剤が挙げられる。
【0047】
使用されてよい他の標識としては、蛍光標識(フルオレセイン及びローダミンなど)、核磁気共鳴活性標識、ポジトロン放出断層撮影法(「PET」)スキャナーによって検出可能なポジトロン放出同位元素、化学発光剤(ルシフェリンなど)及び酵素マーカー(ペルオキシダーゼ又はホスファターゼなど)が挙げられる。短飛程検出プローブによって検出可能な同位元素などの短飛程放射線放出物もまた、利用され得る。
【0048】
本発明のペプチドは、標準的な技術を使用して標識されてよい。例えば、ペプチドは、1,3,4,6−テトラクロロ−3α,6α−ジフェニルグリコウリル又はクロラミンTを使用してヨウ素化されてよい。
【0049】
キレート剤(例えば、EDTA、DTPA及びNTSキレート剤)は、いくつかの常磁性物質(例えば、Fe+3、Mn+2、Gd+3)を付着させる(及び毒性を減じる)ために使用され得る。例えば、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリス(酢酸−t−ブチルエステル)−10−酢酸(DOTA)又はジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)などの低分子Gdキレート剤をペプチドに結合させることによって、ペプチドはガドリニウムイオンで標識され得る。したがって、1つの実施態様において、本発明の薬剤は、ペプチドGly−X−DVal−DVal−DAla−Gly(ここで、Xは存在しないか又はDThrのいずれかである)、輸送シグナル及び低分子量キレート剤(DOTAなど)を含んでよい。本発明の1つの実施態様において、検出可能な標識は、顕微鏡(電子顕微鏡、共焦点顕微鏡又は光学顕微鏡など)による検出に適切であるものであってよい。検出可能な標識は、例えば、ビオチン、蛍光化合物(緑色蛍光タンパク質など)、又はペプチドタグ(hisタグ、myc又はflagなど)であってよい。
【0050】
画像化方法
検出可能な標識を含む本発明の薬剤は、α−シヌクレイン凝集体の画像化方法において有用である。したがって、本発明は、α−シヌクレイン凝集体の画像化方法を提供し、該方法は、α−シヌクレイン凝集体に対する本発明の薬剤の結合を検出することを含む。
【0051】
α−シヌクレイン凝集体の存在の有無は、任意の適切な画像化技術を使用して脳においてインビボで検出されてよい。このような実施態様において、方法は、被験体への本発明の薬剤の投与をさらに含んでよい。被験体は典型的には、哺乳動物、好ましくはヒトである。被験体は実験動物であってよく、特に、シヌクレイン疾患の実験動物モデルであってよい。例えばPDの動物モデルは当該分野で公知であり、トランスジェニックマウス及びトランスジェニックショウジョウバエを含む。
【0052】
適切な画像化技術としては、ポジトロン放出断層撮影法(PET)、ガンマシンチグラフィー、核磁気共鳴画像法(MRI)、機能的核磁気共鳴画像法(FMRI)、脳磁図(MEG)及び単光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)が挙げられる。MRI(30μm)によって提供される空間分解能及びシグナル対ノイズ比が、α−シヌクレイン凝集体蓄積物を検出するのに適切であることから、MRIは好ましい方法である。
【0053】
核磁気共鳴画像法(MRI)は、生きている被験体の内部的特徴を可視化するためにNMRを使用しており、予後、診断、処置、及び手術に有用である。MRIは、明らかな利益として、放射活性のあるトレーサー化合物なしで使用され得る。いくつかのMRI技術は、公表された欧州特許出願EP−A−0 502 814にまとめられている。一般に、異なる環境における水プロトンの緩和時間定数T1及びT2に関する差異が、画像を作成するときに使用される。しかし、これらの差異は、はっきりとした高分解能画像を提供するのには不十分であり得る。これらの緩和(relation)時間定数の差異は、造影剤によって増強される。
【0054】
α−シヌクレイン凝集体の存在の有無はまた、例えば、α−シヌクレイン凝集体の形成及び蓄積を阻害する薬剤を同定するために設計された実験にて、インビトロにおいて検出されてもよい。本発明の薬剤は、実験動物の脳切片又はヒト被験体の死後の脳切片におけるα−シヌクレイン凝集体を検出するためにもまた使用されてよい。このような実施態様において、画像化方法は、顕微鏡法(電子顕微鏡法、共焦点顕微鏡法又は光学顕微鏡法など)であってよい。
【0055】
本発明の薬剤は、シヌクレイン病の診断方法において使用されてよい。1つの好ましい実施態様において、本発明の薬剤は、PD、DLB及びMSAの診断に有用である。軽度又は中程度の段階のシヌクレイン病の診断は、複雑な精神医学プロファイルに依存するために、現在では困難である。MRI造影剤としての本発明の標識した薬剤の使用は、疾患の初期段階において決定的な診断が下されることを可能にし、脳の広範囲の破壊が起こる前に、保護的な治療が開始され得る。α−シヌクレイン凝集体の蓄積を脳から取り除く目的で多くの治療が試行されているが、本発明の造影剤を使用する画像法(特にMRI)は、治療の有効性の追跡方法を提供するであろう。
【0056】
1つの実施態様において、本発明は、被験体におけるシヌクレイン疾患の診断方法を提供し、該方法は、α−シヌクレイン凝集体の存在の有無を決定することを含み、ここで、α−シヌクレイン凝集体の存在は、被験体がシヌクレイン疾患に罹患していることを示している。α−シヌクレイン凝集体が存在しないことは、被験体がシヌクレイン疾患に罹患していないことを示している。
【0057】
被験体から得られた画像は、診断に至るか又は診断を確定するために、シヌクレイン疾患に罹患していないコントロールの被験体から得られた画像及び/又はシヌクレイン病に罹患していることが既知の他の被験体から得られた画像と比較されてよい。
【0058】
本発明のシヌクレイン疾患の診断方法は、典型的には、検出可能に標識された本発明の薬剤を被験体に投与すること、α−シヌクレイン凝集体に結合した任意の該薬剤を検出するために該被験体の脳を画像化すること、及びα−シヌクレイン凝集体の存在の有無を決定することを含む。本発明の薬剤は、任意のα−シヌクレイン凝集体に結合するのに十分な量にて診断が必要な被験体に投与され、MRIなどの画像化技術によって検出される。
【0059】
本発明は、被験体中のシヌクレイン疾患の状態のモニタリング方法もまた提供する。すなわち、該方法は、疾患の進行を決定するために使用され得る。例えば、方法は、被験体の脳におけるα−シヌクレイン凝集体蓄積物の増大をモニタリングするために使用されてよい。方法は、治療の有効性をモニタリングするため及び/又はシヌクレイン疾患の新しい処置効果を評価するためにも使用されてよい。被験体は、被験体内の疾患の進行をモニタリングするために、定期的に(例えば、毎月、6ヵ月毎、又は毎年)試験されてよい。
【0060】
したがって、さらなる実施態様において、本発明は、被験体におけるシヌクレイン疾患のモニタリング方法を提供し、該方法は、α−シヌクレイン凝集体に対する本発明の薬剤の結合を検出することによって、被験体の脳におけるα−シヌクレイン凝集体の存在の有無を決定することを含む。画像は典型的には、より初期の時点で同じ被験体から得られた1以上の画像と比較される。
【0061】
被験体の脳に存在するα−シヌクレイン凝集体の数及び/又は大きさは、シヌクレイン疾患の進行と関連している。α−シヌクレイン凝集体の数及び/又は大きさの増加は、疾患の進行を示している。反対に、α−シヌクレイン凝集体の数又は大きさの減少は、疾患の軽減を示している。α−シヌクレイン凝集体の数及び/又は大きさに変化が観察されない場合には、疾患は定常状態である。モニタリング方法がシヌクレイン疾患のための処置効果を決定する場合には、α−シヌクレイン凝集体の数又は大きさの定常状態での維持又は減少は、典型的には処置が成功していることを示している。α−シヌクレイン凝集体のレベルは、シヌクレイン疾患状態を決定するために、基準と比較されてよい。
【0062】
診断方法に使用するための薬剤の処方及び投与
任意の薬剤の処方は、薬剤の性質及び診断されるべき状態などの因子に依存するであろう。任意のこのような薬剤は、様々な剤形にて投与又は送達されてよい。非手術又は手術的な手段によって投与又は送達されてよい。非手術的な投与手段としては、例えば、経口投与(例えば、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、水性若しくは油性懸濁剤、分散性の粉末剤又は顆粒剤として)、局所投与、経皮投与又は点滴若しくは吸入技術による投与が挙げられる。手術的な投与手段としては、例えば、非経口投与、皮下投与、静脈投与、筋肉内投与、又は肋骨内(intrasternally)投与が挙げられる。薬剤は、坐薬として投与又は送達されてもよい。医師は、各特定の患者のために、必要とされる投与又は送達経路を決定することができるであろう。
【0063】
薬剤は、典型的には脳に供給する血管又は脳自体の中への注射によって、α−シヌクレイン凝集体の蓄積部位(例えば、レビー小体)に直接投与されてよい。
【0064】
典型的には、薬学的に受容可能なキャリア又は希釈剤とともに処方される。本発明は、本発明の薬剤及び薬学的に有効な希釈剤又はキャリアを含む薬学組成物を提供する。
【0065】
薬学的キャリア又は希釈剤は、例えば、等張液であってよい。例えば、固形経口形態としては、活性化合物と一緒に、希釈剤(例えば、ラクトース、デキストロース、サッカロース、セルロース、コーンスターチ又はポテトスターチ);潤滑剤(例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム若しくはカルシウム、及び/又はポリエチレングリコール);結合剤(例えば、スターチ、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルピロリドン);分散剤(例えば、スターチ、アルギン酸、アルギン酸塩又はデンプングリコール酸ナトリウム);発泡混合物;染料;甘味剤;湿潤剤(レシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸);及び、一般に、薬学的処方に使用される非毒性かつ薬理学的に不活性な物質を含んでよい。このような薬学調製物は、例えば、混合、顆粒化、錠剤化、糖コーティング又はフィルムコーティングプロセスの手段による、公知の様式にて製造されてよい。
【0066】
経口投与のための液体分散物は、シロップ、乳剤及び懸濁剤であってよい。シロップは、キャリアとして例えば、サッカロース又はサッカロースとグリセリン及び/又はマンニトール及び/又はソルビトールを含んでよい。
【0067】
懸濁剤及び乳剤は、キャリアとして例えば、天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルアルコールを含んでよい。筋肉内注射のための懸濁剤又は溶液は、活性化合物と一緒に、薬学的に受容可能なキャリア(例えば、滅菌水、オリーブオイル、オレイン酸エチル、グリコール(例えば、プロピレングリコール))、及び所望であれば、適切な量の塩酸リドカインを含んでよい。
【0068】
静脈又は点滴のための溶液は、キャリアとして例えば滅菌水を含んでよく、それらは好ましくは滅菌等張食塩水の形態であってよい。
【0069】
用量は、様々なパラメーターにしたがって、特に使用される物質、処置されるべき患者の年齢、体重及び状態、投与経路、及び用いられる診断方法にしたがって決定されてよい。これについてもまた、医師は、任意の特定の患者のために必要とされる投与経路及び投薬量を決定できるであろう。
【0070】
キット
本発明は、本発明の診断及びモニタリング方法を行うためのキットもまた提供する。キットは、本発明の造影剤及び被験体に造影剤を投与するための手段を含んでよい。薬剤の投与手段は、滅菌シリンジを含むか又は該シリンジからなってよい。シヌクレイン疾患をモニタリング又は診断するためのキットの使用説明書もまた含まれてよい。
【0071】
以下の実施例は、本発明を例示している。
【実施例1】
【0072】
実施例1:
検出可能な標識を取り込んでいるレトロインバースペプチドの合成及び精製
アミロイド配列に最適化されたFmoc/tBu方法論を使用して、ペプチド合成を行った(El−Agnaf et al.,(2000)BBRC,Vol.273:pp1003−07)。HATU(2−(1H−7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチル ウロニウム ヘキサフルオロホスファート)を、PEG−PS樹脂上のFmocで保護したアミノ酸のためのカップリング剤として使用し、α−シヌクレイン結合配列について2重カップリングを合成の間に行った。実験システムにおけるペプチドの検出を促進するために、α−シヌクレイン結合配列のC末端に、ε−ビオチン−Lysタグを組み込んだ。生細胞への送達及び血液脳関門(BBB)透過を助けるために膜透過性キャリアとして、ペプチドのC末端又はN末端に、ポリD−アルギニン[r6]又はポリアミンを組み込んだ。HATUを使用する2重カップリングによって、[1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリス(酢酸−t−ブチルエステル)−10−酢酸](DOTA)をN末端にカップルさせた。MRI造影剤であるガドリニウム(Gd)と複合体を形成させるために、DOTAを組み込む。改変ペプチドを放出して脱保護し、次いで逆相HPLCを使用して、Phenomenix製の分取C4カラムにて精製した。精製度を、MALDI−TOF質量分析計によって確認した(データは示さない)。最後に、3倍モル過剰のGd三塩化物とともに水中で一晩インキュベーションして、DOTA−ペプチドのGd塩を調製し、pHを7.0に調製した。
【0073】
以下のペプチドが作製された:
(OR1)Gd−DOTA−rGtvvaGK(ビオチン)−rrrrrr
(OR2)Gd−DOTA−rGvvaGK(ビオチン)−rrrrrr
(OR3)Gd−DOTA−rrrrrrGtvvaGK(ビオチン)−r
(OR4)Gd−DOTA−rrrrrrGvvaGK(ビオチン)−r
(OR5)Gd−DOTA−r−Sar−vva−Sar−K(ビオチン)−rrrrrr
(OR6)Gd−DOTA−r−Sar−vva−Sar−K(ビオチン)−ブタジアミン
(OR7)Gd−DOTA−r−Sar−vva−Sar−K(ビオチン)−ペンタジアミン
【0074】
α−シヌクレイン結合配列に下線を施している。小文字は、D−配置のアミノ酸を示している(すなわち、これはα−シヌクレインの結合領域のレトロインバース配列である)。したがって、例えば、OR1のGtvvaGは、野生型α−シヌクレインの配列GAVVTG(配列番号1の残基68から73)に相当する。ペプチドOR5、6及び7においては、Glyの代わりにサルコシン(Sar)を組み込む。サルコシンは、N−メチルグリシンであり、タンパク質分解耐性、溶解性及び血液脳関門(BBB)透過性を付加する。
【0075】
α−シヌクレインの調製:
リコンビナントヒトα−シヌクレインをEscherichia coliで発現させて、我々が先に説明したようにFPLCにて精製した(El−Agnaf,et al.,1998)。α−シヌクレインタンパク質の精製度を、HPLC、SDS−PAGE及び質量分析法によって確認した。
【0076】
α−シヌクレインアミロイド原繊維の調製:
リコンビナントα−シヌクレインを、標準的なリン酸緩衝生理食塩水、pH7.4(PBS)に50μMにて溶解し、エッペンドルフサーモミキサー中にて継続的に混合しながら(1000rpm)37℃にて7日間までインキュベートした。アミロイド原繊維の形成を、Th−T結合アッセイによりモニタリングし、電子顕微鏡によっても確認した(データは示さない)。
【0077】
α−シヌクレインの可溶性凝集体を、ニトロ化によるか又はドーパミン処理によって生成した。ニトロ化は以下のように行う:0.7mg/mlの凍結乾燥した(lypholised)α−シヌクレインを700μlの水に溶解する。50μl分量の1%テトラニトロメタンのエタノール液を、500μlの1mg/mLタンパク質溶液に添加して、1%TNMのエタノール液によるα−シヌクレインのニトロ化を誘導した。反応混合物を室温にて10分間激しく攪拌した。同じ条件下にて、別の50μl分量の1%TNM溶液を添加して、手順を繰り返した。10分後、最終濃度2Mにて尿素を添加して、未反応のTNMを完全に除去するために、pH7.8の適切な緩衝液を4回交換することで、このタンパク質混合物を透析した。α−シヌクレインのニトロ化を、ニトロ化α−シヌクレインに対する特定のモノクローナル抗体を使用して、免疫ブロット法により確認した(データは示さない)。
【0078】
以下のようにして、ドーパミン処理を行う:ドーパミン及びα−シヌクレインを、1:1の比率で水中で混合し(典型的には、50μM α−シヌクレイン:50μMドーパミン)、次いでエッペンドルフサーモミキサー中にて継続的に混合しながら(1400rpm)37℃にて8日間までインキュベートした。α−シヌクレインオリゴマーの形成を、ウエスタンブロッティング及び特定のオリゴマー−ELISAアッセイにより確認し、一方でα−シヌクレイン原繊維の形成を、Th−T結合アッセイによりモニタリングし、EMにて確認した(データは示さない)。
【実施例2】
【0079】
実施例2:コートしたα−シヌクレイン凝集体に対するペプチドの結合
ELISAアッセイ
様々な濃度のそのまま又は凝集したα−シヌクレイン溶液(20〜200pmol/ウェル)を、マイクロタイタープレート上にコートして、37℃にて一晩乾燥させた。それゆえ、凝集したα−シヌクレインをマイクロタイタープレートに固定させた。凝集したα−シヌクレインは、図に示したように、加齢、ドーパミン処理又はニトロ化のいずれかによって生成された。0.05%Tween−20(PBST)を含むPBSで洗浄して、ブロッキング緩衝液(2.5%ゼラチン及び0.05%Tween−20を含むPBS)でブロッキングしたあとに、ビオチン化ペプチド(PBS中で200pmol/ウェル)又はBSAタンパク質(ネガティブコントロール)を添加して、1.5時間室温(RT)にてインキュベートした。
【0080】
α−シヌクレインに対するペプチドの結合を酵素と結合したアビジンを使用して定量化した。簡単に言うと、プレートをPBSTで3回洗浄した後に、ブロッキング緩衝液中に1:5,000に希釈したエキストラアビジンペルオキシダーゼを、100μl/ウェル添加した。次いで、プレートを3回PBSTで洗浄した後に、TMBペルオキシダーゼ基質を添加した。プレートを15分間RTにて放置して発色させた。100μl/ウェルの0.5M硫酸を添加して反応を停止させて、プレートを450nmにて分光光度計で読み取った。コートしたBSAタンパク質に対する非常に低い結合が全てのペプチドについて観察された一方で、コートしたα−シヌクレインに対しては全てのペプチドが濃度依存的な結合を示した(図2)。ペプチドOR1及び2は、コートしたそのまま及び凝集したα−シヌクレインの両方に対して、高い結合を示し(図2A、B)、一方で、同じ条件下において、ペプチドOR3及び4は、凝集したα−シヌクレインに対してより特異的な結合を示した(図2C、D)。
【0081】
固定濃度のα−シヌクレインに対する結合におけるペプチド濃度の効果を、コートしたマイクロタイタープレートにて、100又は200pmol/ウェルのα−シヌクレインにて上記のようにして試験した。ペプチドOR1及び2は、100pmol/ウェルのα−シヌクレインにて、そのままのα−シヌクレインよりも凝集したα−シヌクレインに対してより強い結合を示した(図3A、B)。両ペプチドについて検出された最も低い結合濃度は、10pmol/ウェルであった。ペプチドOR3から5は、200pmol/ウェルのα−シヌクレインにて、凝集したα−シヌクレインに対して高度に特異的な結合を示した(図3C、D、E)。全ての3つのペプチドについて検出された最も低い結合濃度は、10pmol/ウェルであった。コートしたそのまま又は加齢型のα−シヌクレインに対するペプチド6及び7の結合特性もまた試験した。凝集したα−シヌクレインを500pmol/ウェルにてコートした場合に、ペプチド6及び7について結合を検出した(データは示さない)。
【0082】
ペプチドOR5は、全ての形態の凝集したα−シヌクレインに対して非常に特異的な結合を示し、ドーパミン処理したα−シヌクレインに対して特に高い特異性を示した(図5)。ドーパミン処理したα−シヌクレインについて検出された最も低い結合濃度は10pmol/ウェルであった。ドーパミン処理又はニトロ化したα−シヌクレインは、シヌクレイン疾患の初期段階に存在する可溶性凝集体(又は付加物)の生理的な近似物である。したがって、このデータは、本発明のペプチドがこのような疾患の初期における検出及び診断に適切な特性を有していることを確証している。
【0083】
コントロール実験では、神経変性疾患におけるアミロイド原繊維形成に関連する他のタンパク質、特にアルツハイマー病におけるタンパク質凝集体の主要な成分(Aβ)、イギリス型痴呆ペプチド(ABri)を、様々な濃度にてマイクロタイタープレートをコートした。本発明のペプチドは、Aβ(図7)又はABri(データは示さない)について親和性を有さないことが示された。
【0084】
免疫金アッセイ
銅グリッドを50μMの凝集したα−シヌクレイン50μlに1時間配置して、次いで、50μlのPBSで2分間洗浄した後に、50μlのブロッキング緩衝液(Vector)を1時間30分配置した。グリッドをPBSで5回洗浄し(各5分)、次いで、0.1μg/mlのペプチド5(ブロッキング緩衝液中)又はブロッキング緩衝液のみ(ネガティブコントロール)のいずれかに1時間30分間、室温にて浸した。次いでグリッドをPBSで5回洗浄し(各5分)、ブロッキング緩衝液中にて50μlのストレプトアビジン−金標識(1:50)に30分間室温にて浸した。グリッドを再びPBSで5回洗浄し(各5分)、50μlの酢酸ウラニル(蒸留水中で2%)中に1分間室温にて浸した後に、透過型電子顕微鏡にて観察した。結果は、ペプチドOR5及びOR7がα−シヌクレイン凝集体を起こしているものに結合することを示している(図6)。ネガティブコントロールのグリッドについては金シグナルが観察されなかったことから、ストレプトアビジン−金標識には、非特異的な結合が存在しないことが示唆された。
【実施例3】
【0085】
実施例3:遊離のα−シヌクレイン凝集体に対するコートしたペプチドの結合
ペプチド(100pmol/ウェル)をマイクロタイタープレート上にコートして、37℃にて一晩乾燥させた。それゆえ、ペプチドをマイクロタイタープレートに固定させた。0.05%Tween20(PBST)を含むPBSで洗浄して、ブロッキング緩衝液(2.5%ゼラチン及び0.05%Tween20を含むPBS)でブロッキングしたあとに、そのまま若しくは凝集したα−シヌクレイン溶液(加齢によって生じた)、又はBSAタンパク質(ネガティブコントロール)を様々な濃度(0.001〜200pmol/ウェル)添加して、1.5時間室温(RT)にてインキュベートした。
【0086】
ペプチドに対するα−シヌクレインの結合を酵素と結合したα−シヌクレインに対する特異的な抗体を使用して定量化した。簡単に言うと、プレートをPBSTで3回洗浄した後に、ポリクローナルウサギα−シヌクレイン抗体FL−140を1:1000(PBS中)にて添加した。次いで、プレートを3回PBSTで洗浄した後に、TMBペルオキシダーゼ基質を添加した。プレートを15分間RTにて放置して発色させた。100μl/ウェルの0.5M硫酸を添加して反応を停止させて、プレートを450nmにて分光光度計で読み取った。
【0087】
ペプチドOR4(図4A)及び5(図4B)は、そのままのα−シヌクレインよりも凝集したα−シヌクレインをより多く捕獲した。これらの結果は、本発明のペプチドが、単量体α−シヌクレインよりもα−シヌクレイン原繊維に対してより特異的であることを確証している。
【実施例4】
【0088】
実施例4:本発明のペプチドが生きた神経細胞に進入するための能力
SH−SY5Y又はM17神経芽腫細胞を15mlの培地中でフラスコでコンフルエントにまで増殖させた後、各懸濁物をペトリ皿に分注して、カバースリップ上で翌日まで細胞を増殖させた(〜5x103/プレート)。次いで50μMの異なるペプチドとともに、細胞を増殖培地中で培養した(総量=2ml)。ペプチドOR1と同一であるがポリD−アルギニン[r6]を欠いているペプチドを、コントロールとして含んだ。各々のペプチドとともに15分インキュベーションした後に、細胞を3回PBSで洗浄した。2mlの固定液(PBS中で4%パラホルムアルデヒド)を細胞に添加して、次いで30分間室温にてインキュベートした。固定緩衝液を除去して、2mlの透過緩衝液(PBS中で0.2%Triton−X−100)を30分間室温にて細胞に添加して、次いで除去した。2mlのブロッキング緩衝液を添加して、1時間RTにて放置し、次いで除去した後に、ブロッキング緩衝液中の1:100 FITC[アビジン標識したフルオレセイン](Vector Labs)を添加した。細胞を1時間インキュベートして、次いでPBS 0.05%tweenで2回洗浄した。カバースリップを除去して、マウント剤(Dako Cytomation)を1滴添加して、細胞を有している表面をスライドガラス上に下向きに配置した。次いで細胞を共焦点顕微鏡下で可視化した。
【0089】
蛍光標識した本発明のペプチドを、生きた全てのSH−SY5Y細胞の蛍光シグナルとして観察し(図8)、細胞全体に分布していることが分かったが、一方で、コントロールペプチドで処理した細胞は、いずれの生細胞においても蛍光シグナルを示さなかった。ペプチド1から5は、30分インキュベーションした後に、生細胞中に蛍光シグナルとして観察され、ペプチド6及び7は、各々2時間及び4時間インキュベーションした後に、生細胞中に観察された。同様の結果が、M17細胞について得られた(データは示さない)。したがって、本発明のペプチドは、細胞膜を通過して、生きた神経細胞に進入する能力を有している。
【実施例5】
【0090】
実施例5:細胞によるペプチドの除去
ペプチドが細胞に進入した後に、細胞がペプチドを除去する能力を試験した。細胞をペプチドとともに30分間37℃にてインキュベートし、ペプチドを取り込ませた。次いで細胞培地をペプチドを含まない新鮮な培地に置換して、24時間までインキュベートした。細胞はペプチドを5分程度で除去し、1時間までには細胞はペプチドを完全に除去した(図9)。興味深いことに、4時間後に細胞は再びペプチドのいくらかの取り込みを示し、24時間までに再び除去した。
【実施例6】
【0091】
実施例6:本発明のペプチドの細胞毒性の評価
ヒト神経芽腫細胞株M17に対するペプチドの細胞毒性を、標準的なMTTアッセイを使用して評価した。Mosmannにより最初に説明された(J Immunol Methods.1983;65(1−2):p55−63)、MTT[3−(4,5−ジメチルチアゾル−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム ブロミド]アッセイは、生きた細胞由来のミトコンドリアデヒドロゲナーゼ酵素が、淡黄色のMTTのテトラゾリウム環を切断して、ほとんど細胞膜を透過できない紺青色のホルマザン結晶を形成させるという能力に基づいており、その結果、健康な細胞では結晶が蓄積することになる。界面活性剤の添加による細胞の可溶化により、可溶性である結晶が開放される。生存細胞の数は、生成されるホルマザン産物のレベルと正比例している。次いで分光光度計の簡易比色アッセイによって、色を定量化できる。
【0092】
図10に示すように、ペプチドOR1から4のいずれも、1〜50μMのペプチドにて48時間まで処理した後に、M17細胞に対して任意の有意な細胞毒性を示さなかった。同様の結果が、ペプチドOR5から7について得られ、(データは示さない)、全てのペプチドについて、ヒト神経芽細胞腫SH−SY5Y細胞株にて得られた。
【実施例7】
【0093】
実施例7:ドットブロッティングによるα−シヌクレインアミロイドオリゴマーに対するビオチン化ペプチドの結合の確認
オリゴマー化しているα−シヌクレインに対するペプチドの結合も、ドットブロッティングを使用して試験した。単量体α−シヌクレイン(そのままのα−シヌクレイン溶液)及びオリゴマー化しているα−シヌクレイン(ドーパミン処理したα−シヌクレイン)を、ニトロセルロース膜上にスポットした。サンプルを室温にて2時間乾燥させた後に、膜をブロックして、次いで抗α−シヌクレインMAb211又はビオチン化したペプチドを膜に添加して、1.5時間室温にてインキュベートした。ゆるやかに洗浄した後、エキストラアビジンペルオキシダーゼ又は抗マウス−ペルオキシダーゼにて膜を適切に処理した。211とペプチドの結合を、ECL試薬(Pierce)を使用して検出した。図11に示すように、ビオチン化したペプチドは、オリゴマー化しているα−シヌクレインに特異的に結合するが、単量体形態のα−シヌクレインには結合しない。
【実施例8】
【0094】
実施例8:脳における天然のα−シヌクレイン凝集体に対するペプチドの結合調査
ELISA
α−シヌクレイン原繊維に特異的な抗体(抗FILA(Poul Jensen,University of Aarhus,Denmarkより寄贈))を使用して、本発明者は、ヒト脳溶解物中の天然のα−シヌクレイン凝集体を定量化するためのELISAを開発した。コントロール、AD及びDLB患者由来の大脳皮質前部の死後の凍結脳サンプルを、弱い界面活性剤及びプロテアーゼ阻害剤カクテルからなる溶解緩衝液中にてホモジェナイズした。サンプルを遠心分離して、上清を回収した。サンプル中の総タンパク質濃度を測定して、次いで、ELISAで解析する前に3mg/mlに調製した。脳サンプルを、一晩37℃にてインキュベーションしてマイクロタイタープレート上にコートさせて、洗浄後にブロッキングして、抗FILAをウェルに添加して2時間インキュベートした。脳サンプル中のα−シヌクレイン凝集体に対する抗FILAの結合を、HRP標識した抗ラビット抗体にて定量化した。コントロールの脳サンプルの測定値と比較して、抗FILAは、ほとんどのDLBサンプルと、非常にわずかなADサンプルにのみ、強いシグナルを与えた。
【0095】
このELISA法を使用して試験した本発明のペプチドは、ヒトDLB脳における天然のα−シヌクレイン凝集体に対して結合することを示すであろう。
【0096】
免疫組織化学(Immunohiostochemistry)
ペプチドの結合について、ホルマリン固定した死後のPD及びDLB脳の5mmワックス切片、又は凍結させたばかりの脳のクライオスタット切片を使用して調べた。コントロールとして、最初に抗α−シヌクレイン抗体(MAb211又はFL−140)にて切片を免疫染色し、次いで、試験するペプチド及びペルオキシダーゼ−アビジンとともにインキュベートした連続切片と、顕微鏡下で比較して、死後の脳におけるレビー小体(LB)がペプチドで標識されるかどうかを決定した。
【0097】
脳切片を水に浸して、スライド上に配置して、次いでキシレン中にて5分間インキュベートした。キシレンを交換して、スライドをさらに5分間インキュベートしてから、3%過酸化水素のメタノール液にて室温で30分間インキュベーションすることによって、内在性ペルオキシダーゼ活性をクエンチさせた。次いでスライドを、100%エタノール5分、100%エタノール5分、90%エタノール5分、70%エタノール5分、ギ酸5分、70%エタノール5分、蒸留水(3回交換)5分、PBS5分にて洗浄した。スライドをブロッキング緩衝液(Vector Labs)中で90分間37℃にてインキュベートして、PBSで5分間洗浄した。抗α−シヌクレイン抗体FL−140をブロッキング緩衝液に添加して、一晩4℃にてインキュベートしてから、PBS(5分以上3回交換)で洗浄した。ヤギ抗ラビットFITC(ブロッキング緩衝液中で1:100)を添加して、1時間37℃にてインキュベートしてから、PBS(5分以上3回交換)で洗浄した。次いでスライドを蛍光顕微鏡下で観察するためにマウントしたところ、Fl−140はLBに対する特異的な染色を示した(図12A参照)。
【0098】
次いで、凍結させたばかりの死後のPD脳の5mmクライオスタット切片に対するペプチドの結合を評価した。スライドをブロッキング緩衝液(Vector Labs)中でインキュベートして、PBSで洗浄した。ペプチドOR5(0.05mg/ml)をブロッキング緩衝液に添加して、一晩4℃にてインキュベートしてから、PBSで洗浄した。次いでアビジン−FITC(ブロッキング緩衝液中で1:100)を添加して、1時間37℃にてインキュベートしてから、PBSで洗浄した。次いでスライドをマウントして、蛍光顕微鏡下で観察した。図12Bに示すように、ペプチドOR5はLBに対して特異的な染色を示した。この結果から、OR5がPDの死後の脳切片中のLBに特異的に結合することが示された。
【実施例9】
【0099】
実施例9:細胞モデルにおけるα−シヌクレイン凝集体に対するビオチン化したOR化合物の結合についての調査
この実施例は、Dr.Kostas Vekrellis(Foundation For Biomedical Research Academy of Athens)から頂いた、誘導可能なTET−offで制御されているSH−SY5Yシステムを利用している。これら形質導入した細胞は、可溶性及び不溶性のα−シヌクレインの凝集体を両方とも生産することを示している。α−シヌクレイン凝集体に対するOR化合物の結合について、この細胞モデルにおいて調べた。
【0100】
A53Tを発現している細胞を、ドキシサイクリンを含まない培地中のカバースリップ上で増殖させて、レチノイン酸を10μMにて添加して7日間分化させた。6日目に、レチノイン酸を含む培地にて1μMのMG132で24時間細胞を処置した。ビオチン化したOR5、6及び7を培地に5μMにて、各々1、2及び4時間37℃にて添加した。
【0101】
次いで細胞用培地を、ペプチドを含まない新鮮な培地に交換して、α−シヌクレイン凝集体に結合していないペプチドを細胞が除去するように、さらに15分間インキュベートした。細胞を固定して、次いで0.2%TritonXのPBS液にて15分間RTにて処置し、PBSで洗浄した後に、ブロッキング緩衝液である0.5%BSAを添加した。
【0102】
細胞を抗α−シヌクレイン抗体(MAb211又はFL−140(Santa Cruz Biotechnology))及びストレプトアビジン−FITC(Sigma)で染色した。抗マウスTRITC(Sigma)又は抗ラビットTRITC(Jackson ImmunoResearch Inc.)で必要に応じて染色した後に、α−シヌクレイン凝集体を検出した。
【0103】
α−シヌクレイン凝集体の形成を、蛍光顕微鏡を使用して分化させた細胞にて調べた。どちらの抗α−シヌクレイン抗体も、小さなα−シヌクレイン凝集体が分散した染色を示しており、核周辺領域にはほとんど凝集体が形成されていなかった(図13A及び13B)。しかし、未分化細胞では、α−シヌクレインは、細胞質全体に拡散的に分散していた(データは示さない)。細胞内のα−シヌクレイン凝集体に対するビオチン化したOR化合物の染色についても調べた。この結果から、細胞内に形成されたα−シヌクレイン凝集体に、ペプチドOR5、6及び7が結合することが示される(図13A及び13B)。興味深いことに、α−シヌクレインの凝集体は、α−シヌクレイン抗体及びビオチン化したOR化合物にて共染色した。ネガティブコントロールの細胞では、シグナルは検出されなかった(データは示さない)ことから、ストレプトアビジン−FITC又はα−シヌクレイン凝集体に対する抗マウスTRITC及び抗ラビットTRITCの非特異的な結合は存在しないことが示された。細胞における抗α−シヌクレイン抗体とビオチン化したOR化合物の共局在は、同じα−シヌクレインの凝集体に結合することを示している。
【実施例10】
【0104】
実施例10:正常マウスにおけるリード化合物の血液脳関門(BBB)透過性及び薬物動態の顕微鏡的調査
100μg/100μlのペプチドOR6及び50μg/200μlのペプチド5又はPBS溶液(各群についてn=2)を、正常マウスに静脈注射した。OR6を注射した動物を5、15、30及び60分後に犠牲にし、一方でOR5を注射したマウスを5、10、15、20及び30分後に犠牲にした。全脳、腎臓及び肝臓を取り除いた。組織を10%ホルムアルデヒドのリン酸緩衝液(PB)にて一晩室温(RT)にて固定して、翌日30%ショ糖のPB液に移して、もう一晩4℃にてインキュベートした。次いで、クライオスタットを使用して、脳を70mm凍結切片に切断した。脳スライスをPBSで洗浄してから、3%過酸化水素(50%エタノール中)にて30分間RTにてインキュベートした。PBSで洗浄した後、エキストラアビジンペルオキシダーゼ(0.3%tritonを含むPBS中にて1:500)とともに切片をインキュベートし、1時間RTにてインキュベートしてから、PBS(5分以上2回交換)、最後の洗浄はPBにて洗浄した。DAB(3,3’ジアミノベンジジン四塩酸塩)を15分間適用した後に、PBにて5分間3回洗浄した。切片をゼラチンコートしたスライド上に配置させて、一晩乾燥させるために放置した。翌日、スライドを水中で3分間水和化させて、次いで、50%エタノール、70%エタノール、95%エタノール、100%エタノール(2x)及びキシレン(2x)のそれぞれにて5分間脱水させた。次いで顕微鏡下で観察するために、スライドをDPX−キシレンでマウントした。
【0105】
ペプチドOR5
免疫組織化学データから得られた薬物動態の結果は、マウスがOR5を注射した5分後に、弱く拡散した染色パターンを、視床、中脳及び小脳にわたって観察したことを示唆している。注射10分後には、染色は海馬、橋及び視床にも拡大していた。このときに、小脳の染色は、小脳の周辺部に局在していた。注射15分後には、OR5染色は、中脳及び橋、並びに視床を含む脳幹に出現した。これらの領域の染色は、注射後30分まで維持していた。さらに、この時点で、小脳の染色は、内部を含む小脳全領域にわたって広がっていた。
【0106】
ペプチドOR6及びOR7
ペプチドOR6の薬物動態の結果は、ペプチドがBBBを通過して、注射5分後には中脳を極めて強く染色することを示唆している。注射5分後及び15分後の両方にて、弱いが特異的な染色を、視床下部、視床及び小脳周辺部においても観察した。小脳におけるペプチドの6染色は、注射30分後にピークに達し、ペプチド5について観察した小脳の染色パターンと同様に、小脳内部及び周辺部にわたって全てを染色している。注射30分後には、視床及び中脳の染色はより強くなり、海馬においても染色を観察した。注射30分後に見られる海馬及び中脳の染色を、注射1時間後にて維持しており、視床下部においてさらなる染色を観察した。しかし、小脳の染色はこの時点で次第に薄れ始め、これは、この領域からのペプチド6の除去におそらく起因しているのであろう。同じ結果がペプチドOR7について得られた。
【0107】
結論
3つのペプチド全てがBBBを通過し、時間の経過のあいだに、脳の様々な領域に局在しているようである。ペプチドOR5の染色を、視床、中脳、脳幹及び海馬において観察した一方で、OR6及び7は、視床、中脳及び海馬においてより強い染色を提示しているうえに、視床下部を選択的に染色した。一方で、3つのペプチドは、時間にて同じ小脳染色パターンを示したが、注射1時間後に、より薄い染色が観察されることから示唆されるように、ペプチド6は小脳から除去されてきている可能性もあった。先行実験もまた、ペプチドOR5が、1時間後に小脳から除去されてきている可能性を示唆している。OR6及び7とともに見られるより強い染色は、マウスにより高用量のペプチドを注射したことに起因し得る。
【実施例11】
【0108】
実施例11:リード化合物の血液脳関門(BBB)透過性についてのMRI調査
MRI画像化において使用される常磁性の造影剤であるガドリニウム(Gd)を、リード化合物のN末端に結合させる。Gdは、T1、T2及びT2*を短縮させる。この結果、T1強調画像の強度が上昇し、T2/T2*強調画像の強度が減少することになる。
【0109】
化合物がGdに結合していることを確認するために、水を含むチューブを、水に溶解した特定の化合物(82.2μMにて)溶液を含むチューブと比較した。例えば、ペプチドOR7は、化合物中のGd含有量の結果、T1強調画像のシグナルを増加させる。同じ結果が、ペプチドOR5及びOR6について得られた。
【0110】
次いで、ペプチドOR5、6及び7を、BBB透過性及び脳における生体内分布を調べるために、MRIを使用して、正常C57BL6コントロールマウス及びウィスター系ラットにて試験した。
【0111】
ボーラス追跡(T2/T2*)
カテーテルを介して静脈注射したGdを、Gdのボーラスが最初に脳を通過する間に、MRIによってシグナル減少として可視化できる。Gdが脳組織に漏れ出していれば、第2のシグナル増加が予期される。ボーラス追跡実験のためにげっ歯類に与えた正常なGd用量は、0.2mmol Gd/kgである。しかし、全ての実験を、低Gd濃度(すなわち、0.2mmol Gd/kg未満)にて行った。
【0112】
T1マッピング
T1マップを、静脈注射の前後に作成した。マップ中のT1値を比較することによって、脳全体の造影化合物の分布及びある領域中のGdの存在を評価することが可能である。T1マップの記録時間は40分であった。図14AはT1マップの例を示している。T1値は異なる灰色の値で表している。実験のために、Bruker Biospin社の高磁場MRIシステム、Pharmascan70/16及びBioSpec94/20USR(各々7T及び9.4Tの磁場を有する)という、2つのシステムを使用した。O2:N2が1:2の気体混合物とともに投与して、吸入麻酔薬イソフルランにて動物を麻酔した。
【0113】
データの後処理を、Bruker Para Vision 4.0画像ソフトウエア、自作のMatlabルーチン及びAmira 4.0(Mercury computer systems, Inc.)にて行った。
【0114】
ペプチドOR7
インビボにおけるMRI画像のために、正常ラットに2mgのOR7を0.1mlのPBS液にて静脈注射して、0.0012mmolのGd(通常使用されるGd濃度よりも40倍以上低い)を与えた。
【0115】
化合物のボーラス注射後、おそらく低容量及び/又は低濃度のため最初の通過が観察されなかったが、OR7がBBBを通過したことを示すシグナルの増加を検出した。図14Bは、グラフの右に示した目的領域(全脳)を表し、同時のプロファイルはより小さな領域についても見られた。
【0116】
ボーラス追跡実験のために、単一のスライス様式のみが可能であることから、脳の特定の位置を選択した。これは、他の領域で起きていることについての空間的な情報を制限した。このボーラス後に、複数スライス解剖学画像(T2強調)を、より局所的なGdの漏出を検出するために行った。これらの画像から、Gdスポットは(より低い強度のために)見られなかった。
【0117】
ボーラス追跡データは、ラットへの高投薬量(0.0012mmolGd及び2mgペプチド)を含む注射の後の脳におけるOR7の滞留を明らかに示唆している。
【0118】
ペプチドOR6
この実験において、ボーラス追跡ではなくT1マッピングを行った。注射の前にT1を測定して、マウスを磁石から移した。次いでマウスに、0.15ml生理食塩水に溶解したOR6溶液(0.18μmolのGdを含む0.3mg)を注射し、長距離カテーテルを使用せずに静脈に直接ゆっくりと溶液を注入した(このためには、より少量が必要とされる)。マウスを磁石に戻して、再びT1を測定した。
【0119】
以下に示す表において、平均T1値は、尾状核被殻(CPu)、海馬(Hippo)、及び深部中脳路核(Deep Mesenchephalic nucleus)(DpMe)の、脳の3領域に存在している。尾状核被殻は脳前部の大きな領域であるため分割しており、海馬は脳室の隣に位置する重要な領域である。
【0120】
表2において、試験したマウスについてのT1値を提示する。B=注射前、A=注射15分後(記録時間は40分)、及びA3d=注射後3日目。
【0121】
OR6溶液を注射した後に全ての領域においてT1値が有意に減少し、3日後には、シグナルは正常に回復した。
【0122】
【表2】
【0123】
ペプチドOR5
2匹のマウスに、0.165μmol及び0.124μmolのGdを各々含む0.4mg/mlのOR5溶液を、0.20ml及び0.15ml注射した。1番目のマウスにおいて、注射後に最初の通過と、その後のシグナルの増加がみられ、これはOR5を注射したときOR5がBBBを通過したことを意味している。
【0124】
2番目のマウスも評価して、OR6について行ったようにT1マップを作成した。
【0125】
表3は、2番目のマウスについてのT1値を提示している。(B=注射前、A=注射15分後(記録時間は40分))。注射後、3つの分割領域においてT1値がわずかに減少しており、これはGdがこれらの領域に滞留していることを示唆している。シグナルの減少は非常に小さく、これは少量のGdが投与されたということと一致している。
【0126】
【表3】
【0127】
OR5について、より低い濃度にて実験を繰り返した。0.5mg/mlのOR5を含む溶液を、3番目のマウスに0.30ml(0.150mgのOR5及び0.0618μmolのGd)を注射し、4番目のマウスに0.1ml溶液(0.050mgのペプチド5及び0.0206μmolのGd)を注射した。結果を表4に示す。マウス4について、2つの連続したT1マップを注射後に記録して、T1値の時間変化についてみた。2番目のマップ(A2)の記録は、注射55分後に開始した。
【0128】
【表4】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−シヌクレイン凝集体を認識して結合できるペプチド、並びに1以上のシヌクレインの異常を伴う神経変性疾患であるシヌクレイン性疾患(シヌクレイン疾患又はシヌクレイン病)の診断及びモニタリングにおける該ペプチドの使用に関する。
【0002】
発明の背景
本発明は、シヌクレイン病の診断及びモニタリングに有用であるペプチド及びそれらの誘導体に関する。シヌクレイン病は、1以上のシヌクレインの異常に関連する疾患であり、いくつかの重要な神経変性状態(例えば、パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、アルツハイマー病(AD)及び多系統萎縮症(MSA))が含まれる。シヌクレインはまた、ヒト癌における様々な腫瘍(例えば、乳房、卵巣)にて、異常に高レベルに発現されている。
【0003】
シヌクレインは、神経組織にて高レベルに発現されている小さいタンパク質(〜14kDa)のファミリーである。3つのファミリー構成メンバー(α−、β−、及びγ−シヌクレイン)が、異なる染色体上に存在する3つの遺伝子の産物である。集まってきた遺伝的及び生化学的証拠は、不溶性のα−シヌクレイン凝集体又は原繊維の蓄積が、いくつかのシヌクレイン病の進行において、重要な工程であることを示唆している。
【0004】
疾患の発症におけるα−シヌクレインの関与について最初の指摘は、アルツハイマー病(AD)の脳の精製したアミロイド由来のタンパク質分解断片の1つを単離したことに由来する。このα−シヌクレイン断片は、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)不溶性物質の約10%を示しており、ADアミロイドの非Aβ成分(NAC)と名付けられた。アミノ酸配列決定に使用した酵素の特異性のため、N末端残基は確実性をもって決定され得なかったが、配列決定により、NACは少なくとも35アミノ酸を含むことが明らかになった。これら35アミノ酸は、140アミノ酸前駆体(NACP)の残基61〜95に相当することが後に示された。NACPは、α−シヌクレインと呼ばれるタンパク質と一致することが見出された。
【0005】
α−シヌクレイン遺伝子内の3つの異なる突然変異が、PDの稀な遺伝型において発見されたことが示されて、PDとの明らかな遺伝的関係が証明された。突然変異の1つであるα−シヌクレイン(A53T)は、あるイタリア及びギリシャの家系にて見出され、Ala53がThr置換している。他の突然変異であるα−シヌクレイン(A30P)は、ドイツに由来する家系に見出されており、Ala30がPro変化しており、最後の突然変異E46Kは、家族性パーキンソン病及びDLBに見出された。さらに、SNCAの遺伝子量の増加を示唆する、SNCA遺伝子座の遺伝的な重複及び3重複もまた家族性のPDのケースで報告されており、これは同時に、野生型α−シヌクレインタンパク質のレベルの増加をもたらし、病原性でもある。SNCAの重複は、高齢での発症、遅い進行並びに認知症及び認識低下の欠如を有する孤発性PDに非常に類似している。あるいは、SNCAの3重複は結果として、より迅速な進行及び認知症を有する若年発症PDとなる。
【0006】
さらに、「レビー小体」及び「レビー神経突起」として公知の脳の病変は、PD及びDLBの患者の脳における主な病的特徴を構成している。これらのレビー小体及びレビー神経突起は、α−シヌクレイン凝集体を含んでいる。さらなる免疫組織化学及び免疫電子顕微鏡による研究は、MSAに見出されるグリアの細胞質内封入体などの非神経細胞を時には含む、他の神経変性疾患における病理学的病変ともα−シヌクレインが関連していることを示している。したがって、PD、AD、DLB及びMSAを、本明細書中では、まとめてシヌクレイン病と呼ぶ。
【0007】
ヒトシヌクレイン疾患において見出されるのと同じ病変が、トランスジェニック動物において生成され得ることが最近報告されている。該トランスジェニック動物は、ヒト野生型又は変異型α−シヌクレインタンパク質を高レベルに発現し、シヌクレイン疾患に関連する多くの病態を徐々に発現する。これらの発見は、シヌクレイン疾患の病態生理学におけるα−シヌクレインタンパク質凝集体の蓄積と関係している。興味深いことに、3つのヒトα−シヌクレイン突然変異は、凝集プロセスを加速させているようである。ヒト野生型α−シヌクレインの完全なアミノ酸配列は、配列番号1として提供される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明の要旨
α−シヌクレイン凝集及び毒性に対する小さなペプチド阻害剤が設計され、α−シヌクレイン阻害剤(ASI)と名付けられた。これらの短いペプチドは、配列番号1の残基69〜72に相当するα−シヌクレインの結合領域の一部を含む。これらのペプチドの不溶性は、合成ペプチドのN末端において親水性残基(アルギニン及びグリシンなど)に置換し、C末端においてグリシン及びアルギニンに置換することによって克服された。これらのペプチドは、α−シヌクレイン単量(遊離)体に結合することが見出されており、初期の可溶性凝集体(又は付加物)及び成熟した凝集体(又は成熟したシヌクレイン原繊維)両方へのα−シヌクレイン単量(遊離)体の集合を阻害することが可能であった。
【0009】
本発明により、ヒト野生型α−シヌクレインの結合領域のアミノ酸配列(すなわち、配列番号1の残基61から95)に相当するアミノ酸配列を含むか、又は本質的に該アミノ酸配列からなるペプチドが提供される。結合領域の配列は、以下に完全に、配列番号2として提供される。
【0010】
α−シヌクレインの結合領域の配列:
EQVTNVGGAV VTGVTAVAQK TVEGAGSIAA ATGFV(配列番号2)
【0011】
好ましくは、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の、2から12個の連続したアミノ酸残基由来のアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなる。具体的には、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の、2、3、4、5、6、7、8、9 10、11又は12個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなってよい。最も好ましくは、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の、最大で7個の連続したアミノ酸残基、最大で6個の連続したアミノ酸残基、最大で5個の連続したアミノ酸残基、最大で4個の連続したアミノ酸残基、最大で3個の連続したアミノ酸、又は最大で2個の連続したアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなってよい。
【0012】
本発明は、天然に生ずるα−シヌクレインの結合領域の配列(配列番号1のアミノ酸残基61から95)由来のASIペプチドが、遊離のα−シヌクレインである「α−シヌクレイン単量体」に対してよりも、α−シヌクレインの初期の可溶性凝集体及び成熟した凝集体の両方に対してより高い親和性にて結合するという驚くべき発見に基づかれている。したがって、α−シヌクレインの結合領域に相当するアミノ酸配列を含むか、又は本質的に該アミノ酸配列からなるペプチドは、α−シヌクレイン(又はNACなどのその断片)の凝集体を検出するために使用され得る。違うように説明されない限り、α−シヌクレイン凝集体についての全ての以下の言及は、α−シヌクレイン若しくはその断片又は誘導体の、初期の可溶性(低分子量及び/又は高分子量の可溶性オリゴマー)及び成熟した凝集体(任意の他のタンパク質(単数又は複数)と複合体を形成しているα−シヌクレインを含む凝集体を含む)の両方に適用されるものと解釈されるべきである。
【0013】
α−シヌクレイン凝集体に結合する能力のため、本発明のペプチドは、α−シヌクレインに関する疾患の診断における使用に適している。本発明のペプチドは、シヌクレイン疾患の初期段階に存在するα−シヌクレインの可溶性凝集体(又は付加物)に結合できることから、ペプチドは、このような疾患の初期診断における使用に特に適している。ペプチドは、「野生型」α−シヌクレイン(天然の形態)又は突然変異型、ニトロ化型、リン酸化型、グリコシル化型若しくは欠失型又は任意の他の天然に生ずる改変型の凝集体を検出するのに有用である。
【0014】
本発明のペプチドはさらに、血液脳関門を通過する輸送を増加させるため、及び/又は生細胞による取り込みを増加させるための置換基を含んでよい。さらに、本発明のペプチドは、造影剤としての使用のために標識されてよい。例えば、付加的な好ましいアミノ末端置換基(1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリス(酢酸−t−ブチルエステル)−10−酢酸(DOTA)など)が、ガドリニウムイオンなどの造影剤と複合体を形成するためのリガンドを提供するために導入されてよく、それにより患者のα−シヌクレイン凝集体蓄積物のMRI画像化が可能となる。
【0015】
したがって、本発明のペプチドは、初期又は中程度のシヌクレイン疾患の診断において使用するため、及びシヌクレイン疾患の治療をモニタリングするための薬剤として、優れた特性を備えている。したがって、本発明は、以下を提供する:
− ヒト又は動物体に対して実践される診断方法における使用のための薬剤であって、ここで、該薬剤は配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の2から12個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むペプチドを含むか、又は該アミノ酸配列の誘導体又は類似体を含み、ここで、該薬剤が遊離のα−シヌクレインに対してよりも、α−シヌクレイン凝集体に対してより高い親和性にて結合する、薬剤。
− 以下を含む、ペプチド:
i)アミノ酸配列DThr−DVal−DVal−DAla又はDVal−DVal−DAla;
ii)グリシン若しくはN−メチル(methly)グリシン残基及び/又は任意の他のスペーサーにより、該配列(i)のN末端又はC末端に結合したポリ−D−アルギニンペプチド;及び
iii)該ペプチドのN末端に結合した置換基DOTA。
− α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の診断における使用のための本発明の薬剤又はペプチド。
− α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の診断方法であって、該方法が、被験体に本発明の薬剤を投与すること、及びそれによってα−シヌクレイン凝集体の存在の有無を検出することを含む方法であって、ここで、α−シヌクレイン凝集体の存在は、該被験体がシヌクレイン疾患に罹患していることを示しており、α−シヌクレイン凝集体が存在しないことは、該被験体が該シヌクレイン疾患に罹患していないことを示している、方法。
− α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患のモニタリング方法であって、該方法が本発明の薬剤を被験体に投与すること、及び任意のα−シヌクレイン凝集体の量及び/又は大きさを検出することを含む、方法。
− α−シヌクレイン凝集体の画像化キットであって、該キットが本発明の薬剤及び被験体に該薬剤を投与する手段を含む、キット。
− 患者における、α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患のインビトロ診断方法であって:
(a)該患者由来の組織及び/又は体液(例えば、血液、CSF、尿)サンプルを、本発明の薬剤を該サンプル中に存在するα−シヌクレインの凝集体と結合させるのに有効な時間及び条件下にて、該薬剤と混合することを含み;かつ
(b)それによって、該サンプル中のα−シヌクレインの凝集体の存在の有無を検出することを含み、ここで、α−シヌクレイン凝集体の存在は、該被験体がシヌクレイン疾患に罹患していることを示しており、α−シヌクレイン凝集体が存在しないことは、該被験体が該シヌクレイン疾患に罹患していないことを示している、方法。
− α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の処置が目的で投与された治療剤の有効性についてのインビトロのモニタリング方法であって、該方法が、動物モデル由来のサンプルをα−シヌクレインの凝集体の存在及び量について分析することを含む、方法。
− α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の処置が目的で投与された治療剤の有効性についてのモニタリング方法であって、該方法が、動物モデルの脳をα−シヌクレインの凝集体の存在及び量について画像化することを含む、方法。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の例示的な造影剤(造影剤1)の構造を示す。造影剤は、3つのドメインを含んでおり、α−シヌクレイン結合ドメインは、剤の中央部分にあるレトロインバーソ配列であり、輸送ドメインはC末端のポリアミン又はポリD−アルギニンであり、及び造影剤はN末端のガドリニウムイオンである。
【図2A】図2は、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上にコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から4(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図2B】図2は、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上にコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から4(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図2C】図2は、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上にコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から4(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図2D】図2は、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上にコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から4(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図3A】図3A〜Eは、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上に200pmol/ウェルにてコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるペプチド濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から5(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図3B】図3A〜Eは、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上に200pmol/ウェルにてコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるペプチド濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から5(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図3C】図3A〜Eは、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上に200pmol/ウェルにてコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるペプチド濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から5(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図3D】図3A〜Eは、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上に200pmol/ウェルにてコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるペプチド濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から5(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図3E】図3A〜Eは、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上に200pmol/ウェルにてコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるペプチド濃度範囲において、本発明のペプチドOR1から5(各々)が、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図4A】図4A及びBは、ペプチドをマイクロタイタープレート上にコートし、α−シヌクレイン溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、ペプチドが、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図4B】図4A及びBは、ペプチドをマイクロタイタープレート上にコートし、α−シヌクレイン溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、ペプチドが、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図5】図5は、α−シヌクレインをマイクロタイタープレート上にコートし、ペプチド溶液をウェルに添加した場合に、あるα−シヌクレイン濃度範囲において、本発明のペプチドが、凝集していないそのままのα−シヌクレインよりも、加齢(不溶性凝集体)又はドーパミン処理若しくはニトロ化(可溶性凝集体)のいずれかによって生成した予め形成されたα−シヌクレイン凝集体に対してより効率的に結合することを示している。
【図6】図6のEM顕微鏡写真は、免疫金アッセイシステムを使用した、予め形成されたα−シヌクレインの凝集体(成熟したアミロイド原繊維)に対する本発明のペプチド(OR5及びOR7)の結合を示している。
【図7】図7は、ペプチドをマイクロタイタープレート上にコートし、Aβ溶液をウェルに添加した場合に、あるペプチド濃度範囲において、本発明のペプチドが、加齢して凝集している形態又はそのままで凝集していない形態のいずれについても、アルツハイマー病(Aβ)におけるタンパク質凝集体の主要な成分には結合しないことを示している。同じ結果が、イギリス型痴呆ペプチド(ABri)などの他のポリペプチド凝集体について得られた(データは示さない)。
【図8】図8は、本発明のペプチドが、ヒト神経芽腫細胞株SH−SYSYによって効率的に取り込まれることを示している。同じ結果が、ヒト神経芽腫細胞株M17について得られた(データは示さない)。
【図9】図9は、細胞からのペプチドOR5の除去を経時的に示している。
【図10】図10は、本発明のペプチドが、ヒト神経芽腫細胞株に対して細胞毒性を示さないことを示している。
【図11】図11は、α−シヌクレインオリゴマーに対するビオチン化したペプチドOR5の結合を示すドットブロットを示している。
【図12A】図12は、死後の脳のレビー小体(LB)が本発明のペプチドOR5によって標識されることを図示している。
【図12B】図12は、死後の脳のレビー小体(LB)が本発明のペプチドOR5によって標識されることを図示している。
【図13A】図13は、細胞モデルにおいて、ペプチドがα−シヌクレイン凝集体に結合することを示している。
【図13B】図13は、細胞モデルにおいて、ペプチドがα−シヌクレイン凝集体に結合することを示している。
【図14A】図14Aは、T1マップの例を示している。図14Bは、ペプチドOR7をivインジェクションした後の脳のMRI画像を示している。
【図14B】図14Aは、T1マップの例を示している。図14Bは、ペプチドOR7をivインジェクションした後の脳のMRI画像を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書中で述べる配列の説明
配列番号1は、ヒト野生型α−シヌクレインの全長配列に相当する。配列番号2は、α−シヌクレインの結合領域に相当する。配列番号3から7は、本発明の好ましいペプチド配列に相当する。
【0018】
本発明の詳細な説明
α−シヌクレイン凝集体
違うように説明されない限り、用語α−シヌクレイン凝集体は、α−シヌクレイン及び任意の断片又はそれらの誘導体の、初期可溶性凝集体(低分子量及び/又は高分子量の付加物又は可溶性オリゴマー)及び成熟した不溶性凝集体(又は成熟したアミロイド原繊維)の両方を包含することが意図されている。凝集体は、α−シヌクレイン単量体の、任意の異常なコンフォメーション又は集合体を含むと考えられており、ユビキチン、ニューロフィラメントタンパク質、及びアルファBクリスタリンなどの他の成分を含んでもよい。
【0019】
違うように説明されない限り、用語遊離のα−シヌクレインは、天然のコンフォメーションにおける可溶性α−シヌクレイン単量体を意味することが意図されている。
【0020】
薬剤
本発明は、α−シヌクレイン、特にα−シヌクレイン凝集体に対して結合する薬剤を提供する。薬剤は、α−シヌクレインの結合領域(配列番号1の残基61から95)由来のペプチド配列を含むα−シヌクレイン凝集体結合ドメイン、及び検出可能な標識を含む。薬剤は、血液脳関門を通過するペプチドの輸送及び/又は生細胞によるペプチドの取り込みを促進する輸送ドメインを任意に含んでよい。本発明の薬剤は、α−シヌクレイン凝集体の検出に有用であり、PD、DLB及びMSAを含むシヌクレイン疾患の診断において有用である。
【0021】
α−シヌクレイン凝集体結合ドメイン
ペプチドは、3から35個のアミノ酸残基を含む。好ましくは、ペプチド配列は、最大で7個のアミノ酸残基、より好ましくは最大で6個のアミノ酸残基、さらにより好ましくは最大で5個のアミノ酸残基、及び最も好ましくは最大で3個のアミノ酸残基を含む。
【0022】
好ましくは、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の、2から12個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなる。具体的には、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の、2、3、4、5、6、7、8、9 10、11又は12個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなってよい。最も好ましくは、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の、最大で7個の連続したアミノ酸残基、最大で6個の連続したアミノ酸残基、最大で5個の連続したアミノ酸残基、最大で4個の連続したアミノ酸残基、最大で3個の連続したアミノ酸、又は最大で2個の連続したアミノ酸残基を含むアミノ酸配列を含むか、又は該アミノ酸配列からなってよい。
【0023】
好ましい実施態様において、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基67から73に相当する配列由来の2から7個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列(すなわち、Gly−Gly−Ala−Val−Val−Thr−Gly(配列番号3))を含むか、又は該アミノ酸配列からなる。具体的には、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基67から73に相当する配列由来の2、3、4、5、6又は7個の連続的なアミノ酸残基を含むか、又は該アミノ酸残基からなってよい。最も好ましくは、ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基67から73に相当する配列由来の3個の連続したアミノ酸残基(すなわち、配列番号3の3個の連続したアミノ酸残基)を含むか、又は該アミノ酸残基からなる。特に、ペプチドは、配列番号3の7個全ての連続したアミノ酸のアミノ酸配列、又はテトラペプチドGly−Ala−Val−Val(配列番号4)、ペンタペプチドAla−Val−Val−Thr−Gly(配列番号5)、テトラペプチドVal−Val−Thr−Gly(配列番号6)、又はトリペプチドVal−Thr−Gly(配列番号7)のアミノ酸配列を含むか、又は本質的に該アミノ酸配列からなってよい。ペプチドは、配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の2個の連続したアミノ酸のアミノ酸配列を含むか、又は本質的に該アミノ酸配列からなってよい。例えば、ペプチドは、アミノ酸配列VT又はTG(配列番号1の残基71から72又は72から73に各々相当する)を含むか、又は本質的に該アミノ酸配列からなってよい。
【0024】
本発明のペプチド配列の例は、以下の表1の左欄に示され、ペプチド配列が由来するα−シヌクレインの残基もまた同定している。
【0025】
【表1】
【0026】
配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の連続したアミノ酸残基の配列は、該配列のN末端及び/又はC末端にて、該配列の当該末端がヒト野生型α−シヌクレインのネイティブの配列に結合されているアミノ酸残基よりもより親水性である1以上のさらなるアミノ酸残基と、結合されてよい。グリシン(Gly)残基は、結合配列と付加的なアミノ酸残基との間のリンカー/スペーサーとして任意に使用されてよい。
【0027】
本発明のペプチドの誘導体又は類似体もまた、シヌクレインの凝集体への結合に有効である。それゆえ、本発明の第二の局面にしたがうと、本発明の第一の局面にしたがうペプチドの誘導体又は類似体が提供される。
【0028】
本発明のペプチドの誘導体又は類似体は、N置換型誘導体を含み得る。置換基は、例えば、ヒドロキシル基又はエチル基であってよいが、より好ましくはメチル基である。したがって、本発明のペプチドの誘導体又は類似体の例としては、ペプチドのNメチル化型の誘導体が挙げられる。このようなNメチル化型の誘導体としては、配列のいくつか又は全てがNメチル化型のアミノ酸残基である誘導体が挙げられる。置換はα位であることが好ましい。
【0029】
本発明の第一の局面のペプチドの誘導体又は類似体はさらに、ペプチドのD−アミノ酸誘導体、ペプチドのペプトイド類似体、又はペプチド−ペプトイドハイブリッドを含んでよい。
【0030】
ペプチドは多くの手段(生物システムにおけるプロテアーゼ活性など)によって分解に供されてよい。このような分解は、それらのバイオアベイラビリティ、したがって、シヌクレイン凝集体に対する結合能力を制限し得る。生物的状況において増強された安定性を有するペプチド誘導体を設計及び生産し得る十分に確立された技術が幅広く存在している。プロテアーゼを介する分解に対する耐性の増加の結果、このようなペプチド誘導体は、向上したバイオアベイラビリティを有し得る。
【0031】
好ましくは、本発明の第二の局面のペプチド誘導体又は類似体は、それが由来するペプチドよりもよりプロテアーゼ耐性である。ペプチド誘導体及びそれが由来するペプチドのプロテアーゼ耐性は、周知のタンパク質分解アッセイの手法によって評価され得る。次いで、ペプチド誘導体及びペプチドのプロテアーゼ耐性の相対値が比較され得る。
【0032】
ペプトイド残基では、側鎖の位置が、α炭素原子から窒素原子へとシフトされている。側鎖の同一性が保存されている一方、3次元空間における配向性が反転されている。これらの化合物は、骨格と側鎖改変の組み合わせと考えることができる。ペプトイド化合物は、本発明のペプチド誘導体/類似体としての使用のためにペプトイド化合物を適切にする2つの特性を有している:
(i)ペプトイド残基では、NHを含む水素結合はありえない。
(ii)ペプトイドは、酵素的分解に耐性である。
本発明のペプチドのペプトイド誘導体は、選択したペプチドの構造知見から容易に設計され得る。市販のソフトウエアは、十分に確立されたプロトコールにしたがって、ペプトイド誘導体を作製するために使用され得る。
【0033】
レトロペプトイド(全てのアミノ酸が逆の順番でペプトイド残基により置換されている)は、高親和性結合剤を模倣できることが報告されている。ペプトイド残基を1つ含むペプチド又はペプトイド−ペプチドハイブリッドと比較すると、レトロペプトイドは、リガンドが結合する溝に反対の方向にて結合すると予期される。その結果、ペプトイド残基の側鎖は、本来のペプチドの側鎖と同じ配向性である。
【0034】
ペプチド−ペプトイドハイブリッドペプチド模倣物もまた、α−シヌクレイン凝集体を検出するために使用され得る。このようなハイブリッドは、1以上のアミノ酸が相当するペプトイド残基によって置換されたペプチドを含む。
【0035】
本発明の第二の局面の別の実施態様において、配列はD−アミノ酸を含む。D−アミノ酸の配列順序はまた、基になっているα−シヌクレインの配列部分と比較して、反転され得る。例えば、α−シヌクレインの残基69から71(GAVV)に基づく配列を有するD−アミノ酸ベースのペプチド誘導体は、GAVV又はVVAG配列を有し得るであろう。
【0036】
本発明のペプチド、ペプチド誘導体及びペプチド類似体は、細胞への進入、又は生体関門(血液脳関門など)の通過を促進するために適応されてよい。シヌクレイン病は脳におけるシヌクレインの病的な活性を一般に伴うことから、脳組織への本発明のペプチド又はペプチド誘導体の進入を促進することは、非常に望ましい。
【0037】
輸送ドメイン
輸送ドメインはまた、血液脳関門を通過するペプチドの輸送及び/又は生細胞によるペプチドの取り込みを促進する、任意の化合物又は置換基を含んでよいか、又はこれらからなってよい。膜透過性キャリアペプチド(HIV−1 Tat(48〜60)、フロックハウスウイルス(FHV)コート(35〜49)、ショウジョウバエAntennapedia(43〜58)及びオクタ及びヘキサアルギニンペプチドなどの塩基性ペプチドなど)の助力により、外来性タンパク質を生細胞内に及び血液脳関門を通過させて送達するための方法が開発されている。これらのキャリアペプチドを遺伝学的又は化学的にハイブリダイズさせることによって、様々なオリゴペプチド及びタンパク質の効率的な細胞内送達が達成されてきた。このようなアプローチの有効性は、120kDa程度の分子量を有するTat−β−ガラクトシダーゼ融合タンパク質の例によって例示される。この融合タンパク質をマウスで発現させると、生物的に活性のある融合タンパク質が、脳を含む全ての組織に送達される結果となる。したがって、本発明のペプチド又はペプチド誘導体は、このようなキャリアペプチドの組み込みによって、細胞又は組織におけるそれらのバイオアベイラビリティを増加させるために適合され得る。
【0038】
本発明のペプチド、ペプチド誘導体及びペプチド類似体の有用性を改善するためにキャリアペプチドを使用するこのアプローチは、非天然アミノ酸(例えば、D−アミノ酸又はNメチル化型アミノ酸)又は非ペプチド性誘導体を含む分子の、組織又は細胞への取り込みを可能にするのに特に適している。
【0039】
さらに、好ましい輸送ドメインは、グアニジン基を含む。1つの好ましい実施態様において、輸送ドメインはジアミンを含む。ポリアミンは典型的には2、3、4、5、6、7、8又は9個のアミンを含む。ポリアミンは合成されるか、天然に生じ得る。ポリアミンは典型的には、血液脳関門にてポリアミントランスポーターと相互作用できるものである。有用なポリアミンとしては、1,4ブタジアミン、1,5ペンタジアミン、プトレッシン、スペルミジン、1,3−ジアミノプロパン、ノルスペルミジン、スペルミン、シン−ホモスペルミジン、サーマイン(thermine)、サーモスペルミン、カルドペンタミン、ホモカルドペンタミン及びカナバルミンが挙げられる。
【0040】
別の実施態様において、輸送ドメインはジグアニジンを含んでよい。ポリグアニジンは、3から10個のグアニジン(例えば、4、5、6又は7個のグアニジン)を含んでよい。
【0041】
別の実施態様において、輸送ドメインは、例えば、6個のアルギニン残基(ポリアルギニン[r6])を含むポリアルギニンであってよい。
【0042】
本発明の薬剤に含まれる輸送シグナルの適切性は、当業者によって容易に決定され得る。例えば、潜在的な輸送シグナルを含む薬剤の血液脳関門透過性は、マウスなどの実験動物において、各タンパク質について、透過性係数X表面積(PS)の積を定量化することによって、決定され得る。典型的には、PSは、静脈ボーラス注射の後に、異なる脳領域における血管内のタンパク質によって占められる残存血漿量(Vp)について補正した後に、測定される。
【0043】
輸送シグナルは、α−シヌクレイン凝集体結合ペプチドのN末端又はC末端のいずれに存在してもよい。
【0044】
アミン又はグアニジン輸送シグナルは、任意の適切な方法(例えば、化学的な架橋)によってペプチドに付着されてよい。適切な架橋剤は、当該分野で周知である。このような方法の1つが、実施例1に説明されている。
【0045】
検出可能な標識
本発明のα−シヌクレイン凝集体結合ペプチドは、α−シヌクレイン凝集体の画像化を促進するために標識される。ペプチドは、例えば、C末端及び/又はN末端の検出可能な標識を含んでよい。1つの好ましい実施態様において、検出可能な標識はN末端に存在する。検出可能な標識は典型的には、α−シヌクレイン凝集体に結合したときに、ペプチドの検出が可能となるものである。α−シヌクレイン凝集体は、生きた哺乳動物の脳又は死後の脳サンプル中に存在し得る。有用な標識は放射性標識及び造影剤、好ましくはヒトでの使用に適切なものが挙げられる。
【0046】
適切な放射性標識としては、18F、123I、111In、131I、99mTc、32P、125I、3H、14C及び188RLが挙げられる。適切な造影剤としては、ガドリニウム(Gd)、ジスプロシウム及び鉄などの希土類イオンが挙げられる。このような造影剤の他の例としては、粒子などの多くの磁性剤、常磁性剤及び強磁性又は超常磁性剤が挙げられる。
【0047】
使用されてよい他の標識としては、蛍光標識(フルオレセイン及びローダミンなど)、核磁気共鳴活性標識、ポジトロン放出断層撮影法(「PET」)スキャナーによって検出可能なポジトロン放出同位元素、化学発光剤(ルシフェリンなど)及び酵素マーカー(ペルオキシダーゼ又はホスファターゼなど)が挙げられる。短飛程検出プローブによって検出可能な同位元素などの短飛程放射線放出物もまた、利用され得る。
【0048】
本発明のペプチドは、標準的な技術を使用して標識されてよい。例えば、ペプチドは、1,3,4,6−テトラクロロ−3α,6α−ジフェニルグリコウリル又はクロラミンTを使用してヨウ素化されてよい。
【0049】
キレート剤(例えば、EDTA、DTPA及びNTSキレート剤)は、いくつかの常磁性物質(例えば、Fe+3、Mn+2、Gd+3)を付着させる(及び毒性を減じる)ために使用され得る。例えば、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリス(酢酸−t−ブチルエステル)−10−酢酸(DOTA)又はジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)などの低分子Gdキレート剤をペプチドに結合させることによって、ペプチドはガドリニウムイオンで標識され得る。したがって、1つの実施態様において、本発明の薬剤は、ペプチドGly−X−DVal−DVal−DAla−Gly(ここで、Xは存在しないか又はDThrのいずれかである)、輸送シグナル及び低分子量キレート剤(DOTAなど)を含んでよい。本発明の1つの実施態様において、検出可能な標識は、顕微鏡(電子顕微鏡、共焦点顕微鏡又は光学顕微鏡など)による検出に適切であるものであってよい。検出可能な標識は、例えば、ビオチン、蛍光化合物(緑色蛍光タンパク質など)、又はペプチドタグ(hisタグ、myc又はflagなど)であってよい。
【0050】
画像化方法
検出可能な標識を含む本発明の薬剤は、α−シヌクレイン凝集体の画像化方法において有用である。したがって、本発明は、α−シヌクレイン凝集体の画像化方法を提供し、該方法は、α−シヌクレイン凝集体に対する本発明の薬剤の結合を検出することを含む。
【0051】
α−シヌクレイン凝集体の存在の有無は、任意の適切な画像化技術を使用して脳においてインビボで検出されてよい。このような実施態様において、方法は、被験体への本発明の薬剤の投与をさらに含んでよい。被験体は典型的には、哺乳動物、好ましくはヒトである。被験体は実験動物であってよく、特に、シヌクレイン疾患の実験動物モデルであってよい。例えばPDの動物モデルは当該分野で公知であり、トランスジェニックマウス及びトランスジェニックショウジョウバエを含む。
【0052】
適切な画像化技術としては、ポジトロン放出断層撮影法(PET)、ガンマシンチグラフィー、核磁気共鳴画像法(MRI)、機能的核磁気共鳴画像法(FMRI)、脳磁図(MEG)及び単光子放射型コンピュータ断層撮影法(SPECT)が挙げられる。MRI(30μm)によって提供される空間分解能及びシグナル対ノイズ比が、α−シヌクレイン凝集体蓄積物を検出するのに適切であることから、MRIは好ましい方法である。
【0053】
核磁気共鳴画像法(MRI)は、生きている被験体の内部的特徴を可視化するためにNMRを使用しており、予後、診断、処置、及び手術に有用である。MRIは、明らかな利益として、放射活性のあるトレーサー化合物なしで使用され得る。いくつかのMRI技術は、公表された欧州特許出願EP−A−0 502 814にまとめられている。一般に、異なる環境における水プロトンの緩和時間定数T1及びT2に関する差異が、画像を作成するときに使用される。しかし、これらの差異は、はっきりとした高分解能画像を提供するのには不十分であり得る。これらの緩和(relation)時間定数の差異は、造影剤によって増強される。
【0054】
α−シヌクレイン凝集体の存在の有無はまた、例えば、α−シヌクレイン凝集体の形成及び蓄積を阻害する薬剤を同定するために設計された実験にて、インビトロにおいて検出されてもよい。本発明の薬剤は、実験動物の脳切片又はヒト被験体の死後の脳切片におけるα−シヌクレイン凝集体を検出するためにもまた使用されてよい。このような実施態様において、画像化方法は、顕微鏡法(電子顕微鏡法、共焦点顕微鏡法又は光学顕微鏡法など)であってよい。
【0055】
本発明の薬剤は、シヌクレイン病の診断方法において使用されてよい。1つの好ましい実施態様において、本発明の薬剤は、PD、DLB及びMSAの診断に有用である。軽度又は中程度の段階のシヌクレイン病の診断は、複雑な精神医学プロファイルに依存するために、現在では困難である。MRI造影剤としての本発明の標識した薬剤の使用は、疾患の初期段階において決定的な診断が下されることを可能にし、脳の広範囲の破壊が起こる前に、保護的な治療が開始され得る。α−シヌクレイン凝集体の蓄積を脳から取り除く目的で多くの治療が試行されているが、本発明の造影剤を使用する画像法(特にMRI)は、治療の有効性の追跡方法を提供するであろう。
【0056】
1つの実施態様において、本発明は、被験体におけるシヌクレイン疾患の診断方法を提供し、該方法は、α−シヌクレイン凝集体の存在の有無を決定することを含み、ここで、α−シヌクレイン凝集体の存在は、被験体がシヌクレイン疾患に罹患していることを示している。α−シヌクレイン凝集体が存在しないことは、被験体がシヌクレイン疾患に罹患していないことを示している。
【0057】
被験体から得られた画像は、診断に至るか又は診断を確定するために、シヌクレイン疾患に罹患していないコントロールの被験体から得られた画像及び/又はシヌクレイン病に罹患していることが既知の他の被験体から得られた画像と比較されてよい。
【0058】
本発明のシヌクレイン疾患の診断方法は、典型的には、検出可能に標識された本発明の薬剤を被験体に投与すること、α−シヌクレイン凝集体に結合した任意の該薬剤を検出するために該被験体の脳を画像化すること、及びα−シヌクレイン凝集体の存在の有無を決定することを含む。本発明の薬剤は、任意のα−シヌクレイン凝集体に結合するのに十分な量にて診断が必要な被験体に投与され、MRIなどの画像化技術によって検出される。
【0059】
本発明は、被験体中のシヌクレイン疾患の状態のモニタリング方法もまた提供する。すなわち、該方法は、疾患の進行を決定するために使用され得る。例えば、方法は、被験体の脳におけるα−シヌクレイン凝集体蓄積物の増大をモニタリングするために使用されてよい。方法は、治療の有効性をモニタリングするため及び/又はシヌクレイン疾患の新しい処置効果を評価するためにも使用されてよい。被験体は、被験体内の疾患の進行をモニタリングするために、定期的に(例えば、毎月、6ヵ月毎、又は毎年)試験されてよい。
【0060】
したがって、さらなる実施態様において、本発明は、被験体におけるシヌクレイン疾患のモニタリング方法を提供し、該方法は、α−シヌクレイン凝集体に対する本発明の薬剤の結合を検出することによって、被験体の脳におけるα−シヌクレイン凝集体の存在の有無を決定することを含む。画像は典型的には、より初期の時点で同じ被験体から得られた1以上の画像と比較される。
【0061】
被験体の脳に存在するα−シヌクレイン凝集体の数及び/又は大きさは、シヌクレイン疾患の進行と関連している。α−シヌクレイン凝集体の数及び/又は大きさの増加は、疾患の進行を示している。反対に、α−シヌクレイン凝集体の数又は大きさの減少は、疾患の軽減を示している。α−シヌクレイン凝集体の数及び/又は大きさに変化が観察されない場合には、疾患は定常状態である。モニタリング方法がシヌクレイン疾患のための処置効果を決定する場合には、α−シヌクレイン凝集体の数又は大きさの定常状態での維持又は減少は、典型的には処置が成功していることを示している。α−シヌクレイン凝集体のレベルは、シヌクレイン疾患状態を決定するために、基準と比較されてよい。
【0062】
診断方法に使用するための薬剤の処方及び投与
任意の薬剤の処方は、薬剤の性質及び診断されるべき状態などの因子に依存するであろう。任意のこのような薬剤は、様々な剤形にて投与又は送達されてよい。非手術又は手術的な手段によって投与又は送達されてよい。非手術的な投与手段としては、例えば、経口投与(例えば、錠剤、トローチ剤、ロゼンジ剤、水性若しくは油性懸濁剤、分散性の粉末剤又は顆粒剤として)、局所投与、経皮投与又は点滴若しくは吸入技術による投与が挙げられる。手術的な投与手段としては、例えば、非経口投与、皮下投与、静脈投与、筋肉内投与、又は肋骨内(intrasternally)投与が挙げられる。薬剤は、坐薬として投与又は送達されてもよい。医師は、各特定の患者のために、必要とされる投与又は送達経路を決定することができるであろう。
【0063】
薬剤は、典型的には脳に供給する血管又は脳自体の中への注射によって、α−シヌクレイン凝集体の蓄積部位(例えば、レビー小体)に直接投与されてよい。
【0064】
典型的には、薬学的に受容可能なキャリア又は希釈剤とともに処方される。本発明は、本発明の薬剤及び薬学的に有効な希釈剤又はキャリアを含む薬学組成物を提供する。
【0065】
薬学的キャリア又は希釈剤は、例えば、等張液であってよい。例えば、固形経口形態としては、活性化合物と一緒に、希釈剤(例えば、ラクトース、デキストロース、サッカロース、セルロース、コーンスターチ又はポテトスターチ);潤滑剤(例えば、シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム若しくはカルシウム、及び/又はポリエチレングリコール);結合剤(例えば、スターチ、アラビアゴム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース又はポリビニルピロリドン);分散剤(例えば、スターチ、アルギン酸、アルギン酸塩又はデンプングリコール酸ナトリウム);発泡混合物;染料;甘味剤;湿潤剤(レシチン、ポリソルベート、ラウリル硫酸);及び、一般に、薬学的処方に使用される非毒性かつ薬理学的に不活性な物質を含んでよい。このような薬学調製物は、例えば、混合、顆粒化、錠剤化、糖コーティング又はフィルムコーティングプロセスの手段による、公知の様式にて製造されてよい。
【0066】
経口投与のための液体分散物は、シロップ、乳剤及び懸濁剤であってよい。シロップは、キャリアとして例えば、サッカロース又はサッカロースとグリセリン及び/又はマンニトール及び/又はソルビトールを含んでよい。
【0067】
懸濁剤及び乳剤は、キャリアとして例えば、天然ゴム、寒天、アルギン酸ナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、又はポリビニルアルコールを含んでよい。筋肉内注射のための懸濁剤又は溶液は、活性化合物と一緒に、薬学的に受容可能なキャリア(例えば、滅菌水、オリーブオイル、オレイン酸エチル、グリコール(例えば、プロピレングリコール))、及び所望であれば、適切な量の塩酸リドカインを含んでよい。
【0068】
静脈又は点滴のための溶液は、キャリアとして例えば滅菌水を含んでよく、それらは好ましくは滅菌等張食塩水の形態であってよい。
【0069】
用量は、様々なパラメーターにしたがって、特に使用される物質、処置されるべき患者の年齢、体重及び状態、投与経路、及び用いられる診断方法にしたがって決定されてよい。これについてもまた、医師は、任意の特定の患者のために必要とされる投与経路及び投薬量を決定できるであろう。
【0070】
キット
本発明は、本発明の診断及びモニタリング方法を行うためのキットもまた提供する。キットは、本発明の造影剤及び被験体に造影剤を投与するための手段を含んでよい。薬剤の投与手段は、滅菌シリンジを含むか又は該シリンジからなってよい。シヌクレイン疾患をモニタリング又は診断するためのキットの使用説明書もまた含まれてよい。
【0071】
以下の実施例は、本発明を例示している。
【実施例1】
【0072】
実施例1:
検出可能な標識を取り込んでいるレトロインバースペプチドの合成及び精製
アミロイド配列に最適化されたFmoc/tBu方法論を使用して、ペプチド合成を行った(El−Agnaf et al.,(2000)BBRC,Vol.273:pp1003−07)。HATU(2−(1H−7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチル ウロニウム ヘキサフルオロホスファート)を、PEG−PS樹脂上のFmocで保護したアミノ酸のためのカップリング剤として使用し、α−シヌクレイン結合配列について2重カップリングを合成の間に行った。実験システムにおけるペプチドの検出を促進するために、α−シヌクレイン結合配列のC末端に、ε−ビオチン−Lysタグを組み込んだ。生細胞への送達及び血液脳関門(BBB)透過を助けるために膜透過性キャリアとして、ペプチドのC末端又はN末端に、ポリD−アルギニン[r6]又はポリアミンを組み込んだ。HATUを使用する2重カップリングによって、[1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリス(酢酸−t−ブチルエステル)−10−酢酸](DOTA)をN末端にカップルさせた。MRI造影剤であるガドリニウム(Gd)と複合体を形成させるために、DOTAを組み込む。改変ペプチドを放出して脱保護し、次いで逆相HPLCを使用して、Phenomenix製の分取C4カラムにて精製した。精製度を、MALDI−TOF質量分析計によって確認した(データは示さない)。最後に、3倍モル過剰のGd三塩化物とともに水中で一晩インキュベーションして、DOTA−ペプチドのGd塩を調製し、pHを7.0に調製した。
【0073】
以下のペプチドが作製された:
(OR1)Gd−DOTA−rGtvvaGK(ビオチン)−rrrrrr
(OR2)Gd−DOTA−rGvvaGK(ビオチン)−rrrrrr
(OR3)Gd−DOTA−rrrrrrGtvvaGK(ビオチン)−r
(OR4)Gd−DOTA−rrrrrrGvvaGK(ビオチン)−r
(OR5)Gd−DOTA−r−Sar−vva−Sar−K(ビオチン)−rrrrrr
(OR6)Gd−DOTA−r−Sar−vva−Sar−K(ビオチン)−ブタジアミン
(OR7)Gd−DOTA−r−Sar−vva−Sar−K(ビオチン)−ペンタジアミン
【0074】
α−シヌクレイン結合配列に下線を施している。小文字は、D−配置のアミノ酸を示している(すなわち、これはα−シヌクレインの結合領域のレトロインバース配列である)。したがって、例えば、OR1のGtvvaGは、野生型α−シヌクレインの配列GAVVTG(配列番号1の残基68から73)に相当する。ペプチドOR5、6及び7においては、Glyの代わりにサルコシン(Sar)を組み込む。サルコシンは、N−メチルグリシンであり、タンパク質分解耐性、溶解性及び血液脳関門(BBB)透過性を付加する。
【0075】
α−シヌクレインの調製:
リコンビナントヒトα−シヌクレインをEscherichia coliで発現させて、我々が先に説明したようにFPLCにて精製した(El−Agnaf,et al.,1998)。α−シヌクレインタンパク質の精製度を、HPLC、SDS−PAGE及び質量分析法によって確認した。
【0076】
α−シヌクレインアミロイド原繊維の調製:
リコンビナントα−シヌクレインを、標準的なリン酸緩衝生理食塩水、pH7.4(PBS)に50μMにて溶解し、エッペンドルフサーモミキサー中にて継続的に混合しながら(1000rpm)37℃にて7日間までインキュベートした。アミロイド原繊維の形成を、Th−T結合アッセイによりモニタリングし、電子顕微鏡によっても確認した(データは示さない)。
【0077】
α−シヌクレインの可溶性凝集体を、ニトロ化によるか又はドーパミン処理によって生成した。ニトロ化は以下のように行う:0.7mg/mlの凍結乾燥した(lypholised)α−シヌクレインを700μlの水に溶解する。50μl分量の1%テトラニトロメタンのエタノール液を、500μlの1mg/mLタンパク質溶液に添加して、1%TNMのエタノール液によるα−シヌクレインのニトロ化を誘導した。反応混合物を室温にて10分間激しく攪拌した。同じ条件下にて、別の50μl分量の1%TNM溶液を添加して、手順を繰り返した。10分後、最終濃度2Mにて尿素を添加して、未反応のTNMを完全に除去するために、pH7.8の適切な緩衝液を4回交換することで、このタンパク質混合物を透析した。α−シヌクレインのニトロ化を、ニトロ化α−シヌクレインに対する特定のモノクローナル抗体を使用して、免疫ブロット法により確認した(データは示さない)。
【0078】
以下のようにして、ドーパミン処理を行う:ドーパミン及びα−シヌクレインを、1:1の比率で水中で混合し(典型的には、50μM α−シヌクレイン:50μMドーパミン)、次いでエッペンドルフサーモミキサー中にて継続的に混合しながら(1400rpm)37℃にて8日間までインキュベートした。α−シヌクレインオリゴマーの形成を、ウエスタンブロッティング及び特定のオリゴマー−ELISAアッセイにより確認し、一方でα−シヌクレイン原繊維の形成を、Th−T結合アッセイによりモニタリングし、EMにて確認した(データは示さない)。
【実施例2】
【0079】
実施例2:コートしたα−シヌクレイン凝集体に対するペプチドの結合
ELISAアッセイ
様々な濃度のそのまま又は凝集したα−シヌクレイン溶液(20〜200pmol/ウェル)を、マイクロタイタープレート上にコートして、37℃にて一晩乾燥させた。それゆえ、凝集したα−シヌクレインをマイクロタイタープレートに固定させた。凝集したα−シヌクレインは、図に示したように、加齢、ドーパミン処理又はニトロ化のいずれかによって生成された。0.05%Tween−20(PBST)を含むPBSで洗浄して、ブロッキング緩衝液(2.5%ゼラチン及び0.05%Tween−20を含むPBS)でブロッキングしたあとに、ビオチン化ペプチド(PBS中で200pmol/ウェル)又はBSAタンパク質(ネガティブコントロール)を添加して、1.5時間室温(RT)にてインキュベートした。
【0080】
α−シヌクレインに対するペプチドの結合を酵素と結合したアビジンを使用して定量化した。簡単に言うと、プレートをPBSTで3回洗浄した後に、ブロッキング緩衝液中に1:5,000に希釈したエキストラアビジンペルオキシダーゼを、100μl/ウェル添加した。次いで、プレートを3回PBSTで洗浄した後に、TMBペルオキシダーゼ基質を添加した。プレートを15分間RTにて放置して発色させた。100μl/ウェルの0.5M硫酸を添加して反応を停止させて、プレートを450nmにて分光光度計で読み取った。コートしたBSAタンパク質に対する非常に低い結合が全てのペプチドについて観察された一方で、コートしたα−シヌクレインに対しては全てのペプチドが濃度依存的な結合を示した(図2)。ペプチドOR1及び2は、コートしたそのまま及び凝集したα−シヌクレインの両方に対して、高い結合を示し(図2A、B)、一方で、同じ条件下において、ペプチドOR3及び4は、凝集したα−シヌクレインに対してより特異的な結合を示した(図2C、D)。
【0081】
固定濃度のα−シヌクレインに対する結合におけるペプチド濃度の効果を、コートしたマイクロタイタープレートにて、100又は200pmol/ウェルのα−シヌクレインにて上記のようにして試験した。ペプチドOR1及び2は、100pmol/ウェルのα−シヌクレインにて、そのままのα−シヌクレインよりも凝集したα−シヌクレインに対してより強い結合を示した(図3A、B)。両ペプチドについて検出された最も低い結合濃度は、10pmol/ウェルであった。ペプチドOR3から5は、200pmol/ウェルのα−シヌクレインにて、凝集したα−シヌクレインに対して高度に特異的な結合を示した(図3C、D、E)。全ての3つのペプチドについて検出された最も低い結合濃度は、10pmol/ウェルであった。コートしたそのまま又は加齢型のα−シヌクレインに対するペプチド6及び7の結合特性もまた試験した。凝集したα−シヌクレインを500pmol/ウェルにてコートした場合に、ペプチド6及び7について結合を検出した(データは示さない)。
【0082】
ペプチドOR5は、全ての形態の凝集したα−シヌクレインに対して非常に特異的な結合を示し、ドーパミン処理したα−シヌクレインに対して特に高い特異性を示した(図5)。ドーパミン処理したα−シヌクレインについて検出された最も低い結合濃度は10pmol/ウェルであった。ドーパミン処理又はニトロ化したα−シヌクレインは、シヌクレイン疾患の初期段階に存在する可溶性凝集体(又は付加物)の生理的な近似物である。したがって、このデータは、本発明のペプチドがこのような疾患の初期における検出及び診断に適切な特性を有していることを確証している。
【0083】
コントロール実験では、神経変性疾患におけるアミロイド原繊維形成に関連する他のタンパク質、特にアルツハイマー病におけるタンパク質凝集体の主要な成分(Aβ)、イギリス型痴呆ペプチド(ABri)を、様々な濃度にてマイクロタイタープレートをコートした。本発明のペプチドは、Aβ(図7)又はABri(データは示さない)について親和性を有さないことが示された。
【0084】
免疫金アッセイ
銅グリッドを50μMの凝集したα−シヌクレイン50μlに1時間配置して、次いで、50μlのPBSで2分間洗浄した後に、50μlのブロッキング緩衝液(Vector)を1時間30分配置した。グリッドをPBSで5回洗浄し(各5分)、次いで、0.1μg/mlのペプチド5(ブロッキング緩衝液中)又はブロッキング緩衝液のみ(ネガティブコントロール)のいずれかに1時間30分間、室温にて浸した。次いでグリッドをPBSで5回洗浄し(各5分)、ブロッキング緩衝液中にて50μlのストレプトアビジン−金標識(1:50)に30分間室温にて浸した。グリッドを再びPBSで5回洗浄し(各5分)、50μlの酢酸ウラニル(蒸留水中で2%)中に1分間室温にて浸した後に、透過型電子顕微鏡にて観察した。結果は、ペプチドOR5及びOR7がα−シヌクレイン凝集体を起こしているものに結合することを示している(図6)。ネガティブコントロールのグリッドについては金シグナルが観察されなかったことから、ストレプトアビジン−金標識には、非特異的な結合が存在しないことが示唆された。
【実施例3】
【0085】
実施例3:遊離のα−シヌクレイン凝集体に対するコートしたペプチドの結合
ペプチド(100pmol/ウェル)をマイクロタイタープレート上にコートして、37℃にて一晩乾燥させた。それゆえ、ペプチドをマイクロタイタープレートに固定させた。0.05%Tween20(PBST)を含むPBSで洗浄して、ブロッキング緩衝液(2.5%ゼラチン及び0.05%Tween20を含むPBS)でブロッキングしたあとに、そのまま若しくは凝集したα−シヌクレイン溶液(加齢によって生じた)、又はBSAタンパク質(ネガティブコントロール)を様々な濃度(0.001〜200pmol/ウェル)添加して、1.5時間室温(RT)にてインキュベートした。
【0086】
ペプチドに対するα−シヌクレインの結合を酵素と結合したα−シヌクレインに対する特異的な抗体を使用して定量化した。簡単に言うと、プレートをPBSTで3回洗浄した後に、ポリクローナルウサギα−シヌクレイン抗体FL−140を1:1000(PBS中)にて添加した。次いで、プレートを3回PBSTで洗浄した後に、TMBペルオキシダーゼ基質を添加した。プレートを15分間RTにて放置して発色させた。100μl/ウェルの0.5M硫酸を添加して反応を停止させて、プレートを450nmにて分光光度計で読み取った。
【0087】
ペプチドOR4(図4A)及び5(図4B)は、そのままのα−シヌクレインよりも凝集したα−シヌクレインをより多く捕獲した。これらの結果は、本発明のペプチドが、単量体α−シヌクレインよりもα−シヌクレイン原繊維に対してより特異的であることを確証している。
【実施例4】
【0088】
実施例4:本発明のペプチドが生きた神経細胞に進入するための能力
SH−SY5Y又はM17神経芽腫細胞を15mlの培地中でフラスコでコンフルエントにまで増殖させた後、各懸濁物をペトリ皿に分注して、カバースリップ上で翌日まで細胞を増殖させた(〜5x103/プレート)。次いで50μMの異なるペプチドとともに、細胞を増殖培地中で培養した(総量=2ml)。ペプチドOR1と同一であるがポリD−アルギニン[r6]を欠いているペプチドを、コントロールとして含んだ。各々のペプチドとともに15分インキュベーションした後に、細胞を3回PBSで洗浄した。2mlの固定液(PBS中で4%パラホルムアルデヒド)を細胞に添加して、次いで30分間室温にてインキュベートした。固定緩衝液を除去して、2mlの透過緩衝液(PBS中で0.2%Triton−X−100)を30分間室温にて細胞に添加して、次いで除去した。2mlのブロッキング緩衝液を添加して、1時間RTにて放置し、次いで除去した後に、ブロッキング緩衝液中の1:100 FITC[アビジン標識したフルオレセイン](Vector Labs)を添加した。細胞を1時間インキュベートして、次いでPBS 0.05%tweenで2回洗浄した。カバースリップを除去して、マウント剤(Dako Cytomation)を1滴添加して、細胞を有している表面をスライドガラス上に下向きに配置した。次いで細胞を共焦点顕微鏡下で可視化した。
【0089】
蛍光標識した本発明のペプチドを、生きた全てのSH−SY5Y細胞の蛍光シグナルとして観察し(図8)、細胞全体に分布していることが分かったが、一方で、コントロールペプチドで処理した細胞は、いずれの生細胞においても蛍光シグナルを示さなかった。ペプチド1から5は、30分インキュベーションした後に、生細胞中に蛍光シグナルとして観察され、ペプチド6及び7は、各々2時間及び4時間インキュベーションした後に、生細胞中に観察された。同様の結果が、M17細胞について得られた(データは示さない)。したがって、本発明のペプチドは、細胞膜を通過して、生きた神経細胞に進入する能力を有している。
【実施例5】
【0090】
実施例5:細胞によるペプチドの除去
ペプチドが細胞に進入した後に、細胞がペプチドを除去する能力を試験した。細胞をペプチドとともに30分間37℃にてインキュベートし、ペプチドを取り込ませた。次いで細胞培地をペプチドを含まない新鮮な培地に置換して、24時間までインキュベートした。細胞はペプチドを5分程度で除去し、1時間までには細胞はペプチドを完全に除去した(図9)。興味深いことに、4時間後に細胞は再びペプチドのいくらかの取り込みを示し、24時間までに再び除去した。
【実施例6】
【0091】
実施例6:本発明のペプチドの細胞毒性の評価
ヒト神経芽腫細胞株M17に対するペプチドの細胞毒性を、標準的なMTTアッセイを使用して評価した。Mosmannにより最初に説明された(J Immunol Methods.1983;65(1−2):p55−63)、MTT[3−(4,5−ジメチルチアゾル−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム ブロミド]アッセイは、生きた細胞由来のミトコンドリアデヒドロゲナーゼ酵素が、淡黄色のMTTのテトラゾリウム環を切断して、ほとんど細胞膜を透過できない紺青色のホルマザン結晶を形成させるという能力に基づいており、その結果、健康な細胞では結晶が蓄積することになる。界面活性剤の添加による細胞の可溶化により、可溶性である結晶が開放される。生存細胞の数は、生成されるホルマザン産物のレベルと正比例している。次いで分光光度計の簡易比色アッセイによって、色を定量化できる。
【0092】
図10に示すように、ペプチドOR1から4のいずれも、1〜50μMのペプチドにて48時間まで処理した後に、M17細胞に対して任意の有意な細胞毒性を示さなかった。同様の結果が、ペプチドOR5から7について得られ、(データは示さない)、全てのペプチドについて、ヒト神経芽細胞腫SH−SY5Y細胞株にて得られた。
【実施例7】
【0093】
実施例7:ドットブロッティングによるα−シヌクレインアミロイドオリゴマーに対するビオチン化ペプチドの結合の確認
オリゴマー化しているα−シヌクレインに対するペプチドの結合も、ドットブロッティングを使用して試験した。単量体α−シヌクレイン(そのままのα−シヌクレイン溶液)及びオリゴマー化しているα−シヌクレイン(ドーパミン処理したα−シヌクレイン)を、ニトロセルロース膜上にスポットした。サンプルを室温にて2時間乾燥させた後に、膜をブロックして、次いで抗α−シヌクレインMAb211又はビオチン化したペプチドを膜に添加して、1.5時間室温にてインキュベートした。ゆるやかに洗浄した後、エキストラアビジンペルオキシダーゼ又は抗マウス−ペルオキシダーゼにて膜を適切に処理した。211とペプチドの結合を、ECL試薬(Pierce)を使用して検出した。図11に示すように、ビオチン化したペプチドは、オリゴマー化しているα−シヌクレインに特異的に結合するが、単量体形態のα−シヌクレインには結合しない。
【実施例8】
【0094】
実施例8:脳における天然のα−シヌクレイン凝集体に対するペプチドの結合調査
ELISA
α−シヌクレイン原繊維に特異的な抗体(抗FILA(Poul Jensen,University of Aarhus,Denmarkより寄贈))を使用して、本発明者は、ヒト脳溶解物中の天然のα−シヌクレイン凝集体を定量化するためのELISAを開発した。コントロール、AD及びDLB患者由来の大脳皮質前部の死後の凍結脳サンプルを、弱い界面活性剤及びプロテアーゼ阻害剤カクテルからなる溶解緩衝液中にてホモジェナイズした。サンプルを遠心分離して、上清を回収した。サンプル中の総タンパク質濃度を測定して、次いで、ELISAで解析する前に3mg/mlに調製した。脳サンプルを、一晩37℃にてインキュベーションしてマイクロタイタープレート上にコートさせて、洗浄後にブロッキングして、抗FILAをウェルに添加して2時間インキュベートした。脳サンプル中のα−シヌクレイン凝集体に対する抗FILAの結合を、HRP標識した抗ラビット抗体にて定量化した。コントロールの脳サンプルの測定値と比較して、抗FILAは、ほとんどのDLBサンプルと、非常にわずかなADサンプルにのみ、強いシグナルを与えた。
【0095】
このELISA法を使用して試験した本発明のペプチドは、ヒトDLB脳における天然のα−シヌクレイン凝集体に対して結合することを示すであろう。
【0096】
免疫組織化学(Immunohiostochemistry)
ペプチドの結合について、ホルマリン固定した死後のPD及びDLB脳の5mmワックス切片、又は凍結させたばかりの脳のクライオスタット切片を使用して調べた。コントロールとして、最初に抗α−シヌクレイン抗体(MAb211又はFL−140)にて切片を免疫染色し、次いで、試験するペプチド及びペルオキシダーゼ−アビジンとともにインキュベートした連続切片と、顕微鏡下で比較して、死後の脳におけるレビー小体(LB)がペプチドで標識されるかどうかを決定した。
【0097】
脳切片を水に浸して、スライド上に配置して、次いでキシレン中にて5分間インキュベートした。キシレンを交換して、スライドをさらに5分間インキュベートしてから、3%過酸化水素のメタノール液にて室温で30分間インキュベーションすることによって、内在性ペルオキシダーゼ活性をクエンチさせた。次いでスライドを、100%エタノール5分、100%エタノール5分、90%エタノール5分、70%エタノール5分、ギ酸5分、70%エタノール5分、蒸留水(3回交換)5分、PBS5分にて洗浄した。スライドをブロッキング緩衝液(Vector Labs)中で90分間37℃にてインキュベートして、PBSで5分間洗浄した。抗α−シヌクレイン抗体FL−140をブロッキング緩衝液に添加して、一晩4℃にてインキュベートしてから、PBS(5分以上3回交換)で洗浄した。ヤギ抗ラビットFITC(ブロッキング緩衝液中で1:100)を添加して、1時間37℃にてインキュベートしてから、PBS(5分以上3回交換)で洗浄した。次いでスライドを蛍光顕微鏡下で観察するためにマウントしたところ、Fl−140はLBに対する特異的な染色を示した(図12A参照)。
【0098】
次いで、凍結させたばかりの死後のPD脳の5mmクライオスタット切片に対するペプチドの結合を評価した。スライドをブロッキング緩衝液(Vector Labs)中でインキュベートして、PBSで洗浄した。ペプチドOR5(0.05mg/ml)をブロッキング緩衝液に添加して、一晩4℃にてインキュベートしてから、PBSで洗浄した。次いでアビジン−FITC(ブロッキング緩衝液中で1:100)を添加して、1時間37℃にてインキュベートしてから、PBSで洗浄した。次いでスライドをマウントして、蛍光顕微鏡下で観察した。図12Bに示すように、ペプチドOR5はLBに対して特異的な染色を示した。この結果から、OR5がPDの死後の脳切片中のLBに特異的に結合することが示された。
【実施例9】
【0099】
実施例9:細胞モデルにおけるα−シヌクレイン凝集体に対するビオチン化したOR化合物の結合についての調査
この実施例は、Dr.Kostas Vekrellis(Foundation For Biomedical Research Academy of Athens)から頂いた、誘導可能なTET−offで制御されているSH−SY5Yシステムを利用している。これら形質導入した細胞は、可溶性及び不溶性のα−シヌクレインの凝集体を両方とも生産することを示している。α−シヌクレイン凝集体に対するOR化合物の結合について、この細胞モデルにおいて調べた。
【0100】
A53Tを発現している細胞を、ドキシサイクリンを含まない培地中のカバースリップ上で増殖させて、レチノイン酸を10μMにて添加して7日間分化させた。6日目に、レチノイン酸を含む培地にて1μMのMG132で24時間細胞を処置した。ビオチン化したOR5、6及び7を培地に5μMにて、各々1、2及び4時間37℃にて添加した。
【0101】
次いで細胞用培地を、ペプチドを含まない新鮮な培地に交換して、α−シヌクレイン凝集体に結合していないペプチドを細胞が除去するように、さらに15分間インキュベートした。細胞を固定して、次いで0.2%TritonXのPBS液にて15分間RTにて処置し、PBSで洗浄した後に、ブロッキング緩衝液である0.5%BSAを添加した。
【0102】
細胞を抗α−シヌクレイン抗体(MAb211又はFL−140(Santa Cruz Biotechnology))及びストレプトアビジン−FITC(Sigma)で染色した。抗マウスTRITC(Sigma)又は抗ラビットTRITC(Jackson ImmunoResearch Inc.)で必要に応じて染色した後に、α−シヌクレイン凝集体を検出した。
【0103】
α−シヌクレイン凝集体の形成を、蛍光顕微鏡を使用して分化させた細胞にて調べた。どちらの抗α−シヌクレイン抗体も、小さなα−シヌクレイン凝集体が分散した染色を示しており、核周辺領域にはほとんど凝集体が形成されていなかった(図13A及び13B)。しかし、未分化細胞では、α−シヌクレインは、細胞質全体に拡散的に分散していた(データは示さない)。細胞内のα−シヌクレイン凝集体に対するビオチン化したOR化合物の染色についても調べた。この結果から、細胞内に形成されたα−シヌクレイン凝集体に、ペプチドOR5、6及び7が結合することが示される(図13A及び13B)。興味深いことに、α−シヌクレインの凝集体は、α−シヌクレイン抗体及びビオチン化したOR化合物にて共染色した。ネガティブコントロールの細胞では、シグナルは検出されなかった(データは示さない)ことから、ストレプトアビジン−FITC又はα−シヌクレイン凝集体に対する抗マウスTRITC及び抗ラビットTRITCの非特異的な結合は存在しないことが示された。細胞における抗α−シヌクレイン抗体とビオチン化したOR化合物の共局在は、同じα−シヌクレインの凝集体に結合することを示している。
【実施例10】
【0104】
実施例10:正常マウスにおけるリード化合物の血液脳関門(BBB)透過性及び薬物動態の顕微鏡的調査
100μg/100μlのペプチドOR6及び50μg/200μlのペプチド5又はPBS溶液(各群についてn=2)を、正常マウスに静脈注射した。OR6を注射した動物を5、15、30及び60分後に犠牲にし、一方でOR5を注射したマウスを5、10、15、20及び30分後に犠牲にした。全脳、腎臓及び肝臓を取り除いた。組織を10%ホルムアルデヒドのリン酸緩衝液(PB)にて一晩室温(RT)にて固定して、翌日30%ショ糖のPB液に移して、もう一晩4℃にてインキュベートした。次いで、クライオスタットを使用して、脳を70mm凍結切片に切断した。脳スライスをPBSで洗浄してから、3%過酸化水素(50%エタノール中)にて30分間RTにてインキュベートした。PBSで洗浄した後、エキストラアビジンペルオキシダーゼ(0.3%tritonを含むPBS中にて1:500)とともに切片をインキュベートし、1時間RTにてインキュベートしてから、PBS(5分以上2回交換)、最後の洗浄はPBにて洗浄した。DAB(3,3’ジアミノベンジジン四塩酸塩)を15分間適用した後に、PBにて5分間3回洗浄した。切片をゼラチンコートしたスライド上に配置させて、一晩乾燥させるために放置した。翌日、スライドを水中で3分間水和化させて、次いで、50%エタノール、70%エタノール、95%エタノール、100%エタノール(2x)及びキシレン(2x)のそれぞれにて5分間脱水させた。次いで顕微鏡下で観察するために、スライドをDPX−キシレンでマウントした。
【0105】
ペプチドOR5
免疫組織化学データから得られた薬物動態の結果は、マウスがOR5を注射した5分後に、弱く拡散した染色パターンを、視床、中脳及び小脳にわたって観察したことを示唆している。注射10分後には、染色は海馬、橋及び視床にも拡大していた。このときに、小脳の染色は、小脳の周辺部に局在していた。注射15分後には、OR5染色は、中脳及び橋、並びに視床を含む脳幹に出現した。これらの領域の染色は、注射後30分まで維持していた。さらに、この時点で、小脳の染色は、内部を含む小脳全領域にわたって広がっていた。
【0106】
ペプチドOR6及びOR7
ペプチドOR6の薬物動態の結果は、ペプチドがBBBを通過して、注射5分後には中脳を極めて強く染色することを示唆している。注射5分後及び15分後の両方にて、弱いが特異的な染色を、視床下部、視床及び小脳周辺部においても観察した。小脳におけるペプチドの6染色は、注射30分後にピークに達し、ペプチド5について観察した小脳の染色パターンと同様に、小脳内部及び周辺部にわたって全てを染色している。注射30分後には、視床及び中脳の染色はより強くなり、海馬においても染色を観察した。注射30分後に見られる海馬及び中脳の染色を、注射1時間後にて維持しており、視床下部においてさらなる染色を観察した。しかし、小脳の染色はこの時点で次第に薄れ始め、これは、この領域からのペプチド6の除去におそらく起因しているのであろう。同じ結果がペプチドOR7について得られた。
【0107】
結論
3つのペプチド全てがBBBを通過し、時間の経過のあいだに、脳の様々な領域に局在しているようである。ペプチドOR5の染色を、視床、中脳、脳幹及び海馬において観察した一方で、OR6及び7は、視床、中脳及び海馬においてより強い染色を提示しているうえに、視床下部を選択的に染色した。一方で、3つのペプチドは、時間にて同じ小脳染色パターンを示したが、注射1時間後に、より薄い染色が観察されることから示唆されるように、ペプチド6は小脳から除去されてきている可能性もあった。先行実験もまた、ペプチドOR5が、1時間後に小脳から除去されてきている可能性を示唆している。OR6及び7とともに見られるより強い染色は、マウスにより高用量のペプチドを注射したことに起因し得る。
【実施例11】
【0108】
実施例11:リード化合物の血液脳関門(BBB)透過性についてのMRI調査
MRI画像化において使用される常磁性の造影剤であるガドリニウム(Gd)を、リード化合物のN末端に結合させる。Gdは、T1、T2及びT2*を短縮させる。この結果、T1強調画像の強度が上昇し、T2/T2*強調画像の強度が減少することになる。
【0109】
化合物がGdに結合していることを確認するために、水を含むチューブを、水に溶解した特定の化合物(82.2μMにて)溶液を含むチューブと比較した。例えば、ペプチドOR7は、化合物中のGd含有量の結果、T1強調画像のシグナルを増加させる。同じ結果が、ペプチドOR5及びOR6について得られた。
【0110】
次いで、ペプチドOR5、6及び7を、BBB透過性及び脳における生体内分布を調べるために、MRIを使用して、正常C57BL6コントロールマウス及びウィスター系ラットにて試験した。
【0111】
ボーラス追跡(T2/T2*)
カテーテルを介して静脈注射したGdを、Gdのボーラスが最初に脳を通過する間に、MRIによってシグナル減少として可視化できる。Gdが脳組織に漏れ出していれば、第2のシグナル増加が予期される。ボーラス追跡実験のためにげっ歯類に与えた正常なGd用量は、0.2mmol Gd/kgである。しかし、全ての実験を、低Gd濃度(すなわち、0.2mmol Gd/kg未満)にて行った。
【0112】
T1マッピング
T1マップを、静脈注射の前後に作成した。マップ中のT1値を比較することによって、脳全体の造影化合物の分布及びある領域中のGdの存在を評価することが可能である。T1マップの記録時間は40分であった。図14AはT1マップの例を示している。T1値は異なる灰色の値で表している。実験のために、Bruker Biospin社の高磁場MRIシステム、Pharmascan70/16及びBioSpec94/20USR(各々7T及び9.4Tの磁場を有する)という、2つのシステムを使用した。O2:N2が1:2の気体混合物とともに投与して、吸入麻酔薬イソフルランにて動物を麻酔した。
【0113】
データの後処理を、Bruker Para Vision 4.0画像ソフトウエア、自作のMatlabルーチン及びAmira 4.0(Mercury computer systems, Inc.)にて行った。
【0114】
ペプチドOR7
インビボにおけるMRI画像のために、正常ラットに2mgのOR7を0.1mlのPBS液にて静脈注射して、0.0012mmolのGd(通常使用されるGd濃度よりも40倍以上低い)を与えた。
【0115】
化合物のボーラス注射後、おそらく低容量及び/又は低濃度のため最初の通過が観察されなかったが、OR7がBBBを通過したことを示すシグナルの増加を検出した。図14Bは、グラフの右に示した目的領域(全脳)を表し、同時のプロファイルはより小さな領域についても見られた。
【0116】
ボーラス追跡実験のために、単一のスライス様式のみが可能であることから、脳の特定の位置を選択した。これは、他の領域で起きていることについての空間的な情報を制限した。このボーラス後に、複数スライス解剖学画像(T2強調)を、より局所的なGdの漏出を検出するために行った。これらの画像から、Gdスポットは(より低い強度のために)見られなかった。
【0117】
ボーラス追跡データは、ラットへの高投薬量(0.0012mmolGd及び2mgペプチド)を含む注射の後の脳におけるOR7の滞留を明らかに示唆している。
【0118】
ペプチドOR6
この実験において、ボーラス追跡ではなくT1マッピングを行った。注射の前にT1を測定して、マウスを磁石から移した。次いでマウスに、0.15ml生理食塩水に溶解したOR6溶液(0.18μmolのGdを含む0.3mg)を注射し、長距離カテーテルを使用せずに静脈に直接ゆっくりと溶液を注入した(このためには、より少量が必要とされる)。マウスを磁石に戻して、再びT1を測定した。
【0119】
以下に示す表において、平均T1値は、尾状核被殻(CPu)、海馬(Hippo)、及び深部中脳路核(Deep Mesenchephalic nucleus)(DpMe)の、脳の3領域に存在している。尾状核被殻は脳前部の大きな領域であるため分割しており、海馬は脳室の隣に位置する重要な領域である。
【0120】
表2において、試験したマウスについてのT1値を提示する。B=注射前、A=注射15分後(記録時間は40分)、及びA3d=注射後3日目。
【0121】
OR6溶液を注射した後に全ての領域においてT1値が有意に減少し、3日後には、シグナルは正常に回復した。
【0122】
【表2】
【0123】
ペプチドOR5
2匹のマウスに、0.165μmol及び0.124μmolのGdを各々含む0.4mg/mlのOR5溶液を、0.20ml及び0.15ml注射した。1番目のマウスにおいて、注射後に最初の通過と、その後のシグナルの増加がみられ、これはOR5を注射したときOR5がBBBを通過したことを意味している。
【0124】
2番目のマウスも評価して、OR6について行ったようにT1マップを作成した。
【0125】
表3は、2番目のマウスについてのT1値を提示している。(B=注射前、A=注射15分後(記録時間は40分))。注射後、3つの分割領域においてT1値がわずかに減少しており、これはGdがこれらの領域に滞留していることを示唆している。シグナルの減少は非常に小さく、これは少量のGdが投与されたということと一致している。
【0126】
【表3】
【0127】
OR5について、より低い濃度にて実験を繰り返した。0.5mg/mlのOR5を含む溶液を、3番目のマウスに0.30ml(0.150mgのOR5及び0.0618μmolのGd)を注射し、4番目のマウスに0.1ml溶液(0.050mgのペプチド5及び0.0206μmolのGd)を注射した。結果を表4に示す。マウス4について、2つの連続したT1マップを注射後に記録して、T1値の時間変化についてみた。2番目のマップ(A2)の記録は、注射55分後に開始した。
【0128】
【表4】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト又は動物体に対して実践される診断方法における使用のための薬剤であって、ここで、該薬剤は配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の2から12個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むペプチドを含むか、又は該アミノ酸配列の誘導体又は類似体を含み、ここで、該薬剤が遊離のα−シヌクレインに対してよりも、α−シヌクレイン凝集体に対してより高い親和性にて結合する、薬剤。
【請求項2】
前記アミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸残基61から95に由来する、最大で7個の連続したアミノ酸残基、最大で6個の連続したアミノ酸残基、最大で5個の連続したアミノ酸残基、最大で4個の連続したアミノ酸残基、最大で3個の連続したアミノ酸、又は最大で2個の連続したアミノ酸残基を含む、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記アミノ酸配列が、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6又は配列番号7の配列を含む、請求項1又は2のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に定義した前記アミノ酸配列の誘導体及び類似体を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項5】
前記誘導体が、D−アミノ酸誘導体、Nメチル化型のアミノ酸誘導体、又はペプトイド類似体である、請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
前記誘導体又は類似体が、誘導体又は類似体が由来するペプチドよりも、よりプロテアーゼ耐性である、請求項4又は5に記載の薬剤。
【請求項7】
前記誘導体又は類似体が、生体細胞への進入、又は生体関門の通過を促進するために適応された、請求項4又は5に記載の薬剤。
【請求項8】
前記誘導体が、HIV−1 Tat(48〜60)、フロックハウスウイルス(FHV)コート(35〜49)、ショウジョウバエAntennapedia(43〜58)、塩基性ペプチド又はポリアミンから選択される膜透過性キャリアペプチドの添加により適応された、請求項7に記載の薬剤。
【請求項9】
検出可能な標識、又は検出可能な標識と複合体を形成できる置換基をさらに含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項10】
前記検出可能な標識が造影剤である、請求項9に記載の薬剤。
【請求項11】
前記造影剤がガドリニウムイオンを含む、請求項10に記載の薬剤。
【請求項12】
検出可能な標識と複合体を形成できる前記置換基が、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリス(酢酸−t−ブチルエステル)−10−酢酸(DOTA)である、請求項9に記載の薬剤。
【請求項13】
前記検出可能な標識、又は検出可能な標識と複合体を形成できる前記置換基が、C末端及び/又はN末端に存在する、請求項9から12のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項14】
α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の診断に使用するための、請求項1から13のいずれか1項に定義した薬剤。
【請求項15】
以下を含む、ペプチド:
i)アミノ酸配列DThr−DVal−DVal−DAla又はDVal−DVal−DAla;
iii)グリシン若しくはN−メチルグリシン残基及び/又は任意の他のスペーサーにより、該配列(i)のN末端又はC末端に結合したポリ−D−アルギニンペプチド;及び
iii)該ペプチドのN末端に結合した置換基DOTA。
【請求項16】
DOTAリガンドがガドリニウムイオンと錯体化した、請求項15に記載のペプチド。
【請求項17】
以下の式(I)から(VI)のいずれか1つで表される、請求項15又は16に記載のペプチド:
(I)DOTA−DArg−Nメチルグリシン−DVal−DVal−DAla−N−メチルグリシン−ポリ−D−アルギニン[r6]
(II)DOTA−DArg−Nメチルグリシン−DThr−DVal−DVal−DAla Nメチルグリシン−ポリ−D−アルギニン[r6]
(III)DOTA−DArg−グリシン−DVal−DVal−DAla−グリシン−ポリ−D−アルギニン[r6]
(IV)DOTA−DArg−グリシン−DThr−DVal−DVal−DAla−グリシン−ポリ−D−アルギニン[r6]
(V)DOTA−ポリ−D−アルギニン[r6]−グリシン−DVal−DVal−DAla−グリシン−DArg
(VI)DOTA−ポリ−D−アルギニン[r6]−グリシン−DThr−DVal−DVal−DAla−グリシン−DArg
(VII)DOTA−DArg−Nメチルグリシン−DVal−DVal−DAla−N−メチルグリシン−ブタジアミン
(VIII)DOTA−DArg−Nメチルグリシン−DVal−DVal−DAla−N−メチルグリシン−ペンタジアミン。
【請求項18】
α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の診断における使用のための、請求項1から13のいずれか1項に定義した薬剤、又は請求項15から17のいずれか1項に定義したペプチド。
【請求項19】
前記シヌクレイン疾患が、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、又は多系統萎縮症(MSA)である、請求項14に記載の薬剤、又は請求項18に記載のペプチド。
【請求項20】
α−シヌクレイン凝集体の画像化方法における、請求項9から13のいずれか1項に定義した薬剤の使用。
【請求項21】
α−シヌクレイン凝集体の画像化方法であって、該方法が、α−シヌクレイン凝集体に対する請求項9から13のいずれか1項に定義した薬剤の結合を検出することを含む、方法。
【請求項22】
前記α−シヌクレイン凝集体がヒト又は動物被験体中に存在する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項9から13のいずれか1項に定義した薬剤を、前記被験体に投与することをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記薬剤が核磁気共鳴画像法(MRI)により検出される、請求項21から23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の診断方法であって、該方法が、請求項1から13のいずれか1項に定義した薬剤を被験体に投与すること、及びそれによってα−シヌクレイン凝集体の存在の有無を検出することを含む方法であって、ここで、α−シヌクレイン凝集体の存在は、該被験体がシヌクレイン疾患に罹患していることを示しており、α−シヌクレイン凝集体が存在しないことは、該被験体が該シヌクレイン疾患に罹患していないことを示している、方法。
【請求項26】
α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患のモニタリング方法であって、該方法が請求項1から13のいずれか1項に定義した薬剤を被験体に投与すること、及びα−シヌクレイン単独又は任意の他のタンパク質(単数又は複数)と複合体を形成したα−シヌクレインによって形成された、任意のα−シヌクレイン凝集体の量及び/又は大きさを検出することを含む、方法。
【請求項27】
前記被験体が前記シヌクレイン疾患を処置するための治療を受けており、かつ前記方法が、該治療の有効性をモニタリングするためである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記シヌクレイン疾患が、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、又は多系統萎縮症(MSA)である、請求項25から27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記薬剤が非手術的な手段により投与される、請求項25から27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
α−シヌクレイン凝集体の画像化キットであって、該キットが、請求項1から13のいずれか1項に記載の薬剤及び被験体に該薬剤を投与する手段を含む、キット。
【請求項31】
患者における、α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患のインビトロ診断方法であって:
(a)該患者由来の組織及び/又は体液(例えば、血液、CSF、尿)サンプルを、請求項9から13のいずれか1項に記載の薬剤を該組織サンプル中に存在するα−シヌクレインの凝集体と結合させるのに有効な時間及び条件下にて、該薬剤と混合することを含み;かつ
(b)それによって、該サンプル中のα−シヌクレインの凝集体の存在の有無を検出することを含み、ここで、α−シヌクレイン凝集体の存在は、該被験体がシヌクレイン疾患に罹患していることを示しており、α−シヌクレイン凝集体が存在しないことは、該被験体が該シヌクレイン疾患に罹患していないことを示している、方法。
【請求項32】
以下をさらに含む、請求項31に記載の方法:
(c)サンプル中のα−シヌクレインの凝集体に結合した薬剤量を定量化すること。
【請求項33】
以下をさらに含む、請求項32に記載の方法:
(d)後に取得した前記患者由来の組織サンプルを、前記薬剤を当該後に取得したサンプル中に存在するα−シヌクレインの凝集体と結合させるのに有効な時間及び条件下にて、薬剤量と混合すること;
(e)当該後に取得したサンプル中のα−シヌクレインの凝集体に結合した該薬剤量を定量化すること;
(f)工程(c)のサンプル中のα−シヌクレインの量を、工程(e)のサンプル中のα−シヌクレインの量と比較すること;及び
(g)それによって、該患者の状態が変化したかどうかを決定することであって、ここで、工程(c)のサンプルよりも工程(e)のサンプル中のα−シヌクレインの量の方がより多いことは、該患者の状態が悪化していることを示しており、及びここで、工程(e)のサンプルよりも工程(c)のサンプル中のα−シヌクレインの量の方がより多いことは、該患者の状態が改善していることを示している。
【請求項34】
前記薬剤の標識が放射性標識、酵素標識、蛍光標識、化学発光標識、又は抗原標識を含む、請求項31から33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
サンプル中の可溶性α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの凝集体に結合した前記薬剤の存在が、オートラジオグラフィー、ポジトロン放出断層撮影法、核磁気共鳴画像法、ガンマカウンター、又はシンチレーションカウンターにより検出される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の処置が目的で投与された治療剤の有効性についてのインビトロのモニタリング方法であって、該方法が、動物モデル由来のサンプルをα−シヌクレインの凝集体の存在及び量について分析することを含む、方法。
【請求項37】
α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の処置が目的で投与された治療剤の有効性についてのモニタリング方法であって、該方法が、動物モデルの脳をα−シヌクレインの凝集体の存在及び量について画像化することを含む、方法。
【請求項38】
α−シヌクレイン凝集体の画像化キットであって、該キットが検出可能に標識された本発明の薬剤及び被験体に該薬剤を投与する手段を含む、キット。
【請求項1】
ヒト又は動物体に対して実践される診断方法における使用のための薬剤であって、ここで、該薬剤は配列番号1のアミノ酸残基61から95に相当する配列由来の2から12個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含むペプチドを含むか、又は該アミノ酸配列の誘導体又は類似体を含み、ここで、該薬剤が遊離のα−シヌクレインに対してよりも、α−シヌクレイン凝集体に対してより高い親和性にて結合する、薬剤。
【請求項2】
前記アミノ酸配列が、配列番号1のアミノ酸残基61から95に由来する、最大で7個の連続したアミノ酸残基、最大で6個の連続したアミノ酸残基、最大で5個の連続したアミノ酸残基、最大で4個の連続したアミノ酸残基、最大で3個の連続したアミノ酸、又は最大で2個の連続したアミノ酸残基を含む、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記アミノ酸配列が、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6又は配列番号7の配列を含む、請求項1又は2のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に定義した前記アミノ酸配列の誘導体及び類似体を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項5】
前記誘導体が、D−アミノ酸誘導体、Nメチル化型のアミノ酸誘導体、又はペプトイド類似体である、請求項4に記載の薬剤。
【請求項6】
前記誘導体又は類似体が、誘導体又は類似体が由来するペプチドよりも、よりプロテアーゼ耐性である、請求項4又は5に記載の薬剤。
【請求項7】
前記誘導体又は類似体が、生体細胞への進入、又は生体関門の通過を促進するために適応された、請求項4又は5に記載の薬剤。
【請求項8】
前記誘導体が、HIV−1 Tat(48〜60)、フロックハウスウイルス(FHV)コート(35〜49)、ショウジョウバエAntennapedia(43〜58)、塩基性ペプチド又はポリアミンから選択される膜透過性キャリアペプチドの添加により適応された、請求項7に記載の薬剤。
【請求項9】
検出可能な標識、又は検出可能な標識と複合体を形成できる置換基をさらに含む、先行する請求項のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項10】
前記検出可能な標識が造影剤である、請求項9に記載の薬剤。
【請求項11】
前記造影剤がガドリニウムイオンを含む、請求項10に記載の薬剤。
【請求項12】
検出可能な標識と複合体を形成できる前記置換基が、1,4,7,10−テトラアザシクロドデカン−1,4,7−トリス(酢酸−t−ブチルエステル)−10−酢酸(DOTA)である、請求項9に記載の薬剤。
【請求項13】
前記検出可能な標識、又は検出可能な標識と複合体を形成できる前記置換基が、C末端及び/又はN末端に存在する、請求項9から12のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項14】
α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の診断に使用するための、請求項1から13のいずれか1項に定義した薬剤。
【請求項15】
以下を含む、ペプチド:
i)アミノ酸配列DThr−DVal−DVal−DAla又はDVal−DVal−DAla;
iii)グリシン若しくはN−メチルグリシン残基及び/又は任意の他のスペーサーにより、該配列(i)のN末端又はC末端に結合したポリ−D−アルギニンペプチド;及び
iii)該ペプチドのN末端に結合した置換基DOTA。
【請求項16】
DOTAリガンドがガドリニウムイオンと錯体化した、請求項15に記載のペプチド。
【請求項17】
以下の式(I)から(VI)のいずれか1つで表される、請求項15又は16に記載のペプチド:
(I)DOTA−DArg−Nメチルグリシン−DVal−DVal−DAla−N−メチルグリシン−ポリ−D−アルギニン[r6]
(II)DOTA−DArg−Nメチルグリシン−DThr−DVal−DVal−DAla Nメチルグリシン−ポリ−D−アルギニン[r6]
(III)DOTA−DArg−グリシン−DVal−DVal−DAla−グリシン−ポリ−D−アルギニン[r6]
(IV)DOTA−DArg−グリシン−DThr−DVal−DVal−DAla−グリシン−ポリ−D−アルギニン[r6]
(V)DOTA−ポリ−D−アルギニン[r6]−グリシン−DVal−DVal−DAla−グリシン−DArg
(VI)DOTA−ポリ−D−アルギニン[r6]−グリシン−DThr−DVal−DVal−DAla−グリシン−DArg
(VII)DOTA−DArg−Nメチルグリシン−DVal−DVal−DAla−N−メチルグリシン−ブタジアミン
(VIII)DOTA−DArg−Nメチルグリシン−DVal−DVal−DAla−N−メチルグリシン−ペンタジアミン。
【請求項18】
α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の診断における使用のための、請求項1から13のいずれか1項に定義した薬剤、又は請求項15から17のいずれか1項に定義したペプチド。
【請求項19】
前記シヌクレイン疾患が、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、又は多系統萎縮症(MSA)である、請求項14に記載の薬剤、又は請求項18に記載のペプチド。
【請求項20】
α−シヌクレイン凝集体の画像化方法における、請求項9から13のいずれか1項に定義した薬剤の使用。
【請求項21】
α−シヌクレイン凝集体の画像化方法であって、該方法が、α−シヌクレイン凝集体に対する請求項9から13のいずれか1項に定義した薬剤の結合を検出することを含む、方法。
【請求項22】
前記α−シヌクレイン凝集体がヒト又は動物被験体中に存在する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
請求項9から13のいずれか1項に定義した薬剤を、前記被験体に投与することをさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記薬剤が核磁気共鳴画像法(MRI)により検出される、請求項21から23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の診断方法であって、該方法が、請求項1から13のいずれか1項に定義した薬剤を被験体に投与すること、及びそれによってα−シヌクレイン凝集体の存在の有無を検出することを含む方法であって、ここで、α−シヌクレイン凝集体の存在は、該被験体がシヌクレイン疾患に罹患していることを示しており、α−シヌクレイン凝集体が存在しないことは、該被験体が該シヌクレイン疾患に罹患していないことを示している、方法。
【請求項26】
α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患のモニタリング方法であって、該方法が請求項1から13のいずれか1項に定義した薬剤を被験体に投与すること、及びα−シヌクレイン単独又は任意の他のタンパク質(単数又は複数)と複合体を形成したα−シヌクレインによって形成された、任意のα−シヌクレイン凝集体の量及び/又は大きさを検出することを含む、方法。
【請求項27】
前記被験体が前記シヌクレイン疾患を処置するための治療を受けており、かつ前記方法が、該治療の有効性をモニタリングするためである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記シヌクレイン疾患が、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)、レビー小体型認知症(DLB)、又は多系統萎縮症(MSA)である、請求項25から27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記薬剤が非手術的な手段により投与される、請求項25から27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
α−シヌクレイン凝集体の画像化キットであって、該キットが、請求項1から13のいずれか1項に記載の薬剤及び被験体に該薬剤を投与する手段を含む、キット。
【請求項31】
患者における、α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患のインビトロ診断方法であって:
(a)該患者由来の組織及び/又は体液(例えば、血液、CSF、尿)サンプルを、請求項9から13のいずれか1項に記載の薬剤を該組織サンプル中に存在するα−シヌクレインの凝集体と結合させるのに有効な時間及び条件下にて、該薬剤と混合することを含み;かつ
(b)それによって、該サンプル中のα−シヌクレインの凝集体の存在の有無を検出することを含み、ここで、α−シヌクレイン凝集体の存在は、該被験体がシヌクレイン疾患に罹患していることを示しており、α−シヌクレイン凝集体が存在しないことは、該被験体が該シヌクレイン疾患に罹患していないことを示している、方法。
【請求項32】
以下をさらに含む、請求項31に記載の方法:
(c)サンプル中のα−シヌクレインの凝集体に結合した薬剤量を定量化すること。
【請求項33】
以下をさらに含む、請求項32に記載の方法:
(d)後に取得した前記患者由来の組織サンプルを、前記薬剤を当該後に取得したサンプル中に存在するα−シヌクレインの凝集体と結合させるのに有効な時間及び条件下にて、薬剤量と混合すること;
(e)当該後に取得したサンプル中のα−シヌクレインの凝集体に結合した該薬剤量を定量化すること;
(f)工程(c)のサンプル中のα−シヌクレインの量を、工程(e)のサンプル中のα−シヌクレインの量と比較すること;及び
(g)それによって、該患者の状態が変化したかどうかを決定することであって、ここで、工程(c)のサンプルよりも工程(e)のサンプル中のα−シヌクレインの量の方がより多いことは、該患者の状態が悪化していることを示しており、及びここで、工程(e)のサンプルよりも工程(c)のサンプル中のα−シヌクレインの量の方がより多いことは、該患者の状態が改善していることを示している。
【請求項34】
前記薬剤の標識が放射性標識、酵素標識、蛍光標識、化学発光標識、又は抗原標識を含む、請求項31から33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
サンプル中の可溶性α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの凝集体に結合した前記薬剤の存在が、オートラジオグラフィー、ポジトロン放出断層撮影法、核磁気共鳴画像法、ガンマカウンター、又はシンチレーションカウンターにより検出される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の処置が目的で投与された治療剤の有効性についてのインビトロのモニタリング方法であって、該方法が、動物モデル由来のサンプルをα−シヌクレインの凝集体の存在及び量について分析することを含む、方法。
【請求項37】
α−シヌクレイン及び/又はα−シヌクレインの断片(単数又は複数)に関するシヌクレイン疾患の処置が目的で投与された治療剤の有効性についてのモニタリング方法であって、該方法が、動物モデルの脳をα−シヌクレインの凝集体の存在及び量について画像化することを含む、方法。
【請求項38】
α−シヌクレイン凝集体の画像化キットであって、該キットが検出可能に標識された本発明の薬剤及び被験体に該薬剤を投与する手段を含む、キット。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3E】
【図5】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図3E】
【図5】
【図2D】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図13A】
【図13B】
【図14A】
【図14B】
【公表番号】特表2010−537962(P2010−537962A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522442(P2010−522442)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002932
【国際公開番号】WO2009/027690
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510055079)ユナイティッド アラブ エミレーツ ユニヴァーシティ (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【国際出願番号】PCT/GB2008/002932
【国際公開番号】WO2009/027690
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510055079)ユナイティッド アラブ エミレーツ ユニヴァーシティ (2)
【Fターム(参考)】
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