説明

評価方法及び装置

【課題】1または複数の摺動部材を含む機械設備から検出した振動信号の解析作業時の負担を軽減して、診断作業の迅速化及び信頼性の向上を実現できる評価方法及び装置を得る。
【解決手段】評価装置1を、機械設備3から発生した音又は振動のアナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換手段9と、このAD変換手段9の出力に対して解析処理を行って実測周波数スペクトルデータを生成すると共に、前記機械設備3の異常に起因して発生する周波数成分の1次値、2次値、4次値に対する実測周波数スペクトルデータ上のピークの有無により、前記機械設備3に対する異常の有無の診断を行う演算処理手段13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1または複数の摺動部材を含む機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を解析して、機械設備に起因する異常の有無を診断する評価方法及び装置に関するもので、詳しくは、検出した信号の解析作業時の負担を軽減して、診断作業の迅速化及び信頼性の向上を実現するための改良にかかるものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、回転体等の1または複数の摺動部材を含む機械設備の、摺動部材の摩耗や破損等の異常の有無を診断する評価方法として、機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を適宜波形処理によって周波数スペクトルデータに変換し、機械設備の異常に起因した周波数成分と前記した周波数スペクトルデータとの比較照合により、異常の有無を診断する評価方法が知られている。
【0003】
摺動部材を含む機械設備の異常に起因した周波数成分は、摺動部材の設計諸元及び運用状況によって決まるもので、例えば、前記した回転体の設計諸元や運用状況等の条件から、演算処理によって求めることができる。
従って、機械設備の異常の有無を自動診断する評価装置では、コンピュータ等の演算処理手段を用い、予め、診断対象となる機械設備の異常に起因した周波数成分を算出処理すると共に、機械設備の発生する音又は振動の信号を適宜波形処理して周波数スペクトルデータに変換する演算処理を行い、更には、予め算出して記憶させた機械設備の異常に起因した周波数成分と前記した周波数スペクトルデータとを比較照合する演算処理を行う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の評価方法では、機械設備の特定部位毎に、異常時の周波数成分を1次から多次まで多数求め、これらの多数の周波数成分のそれぞれに対して、実測した機械設備の周波数スペクトルデータ上にピークが表出するか否かを診断する演算処理と、周波数スペクトルデータ上のピーク値が異常を示すピークレベルであるかを診断する演算処理とを繰り返す。
そのため、最終的な診断を下すまでの演算処理が膨大になり、演算処理手段に大きな負担がかかるために、演算処理能力が高い高価なコンピュータが必要となって装置コストの増大を招いたり、また演算処理の所要時間の長大化により診断作業の迅速化が困難になるという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、1または複数の摺動部材を含む機械設備の異常の有無を診断する際の演算処理の負担を軽減して、診断作業の迅速化及び信頼性の向上を実現することのできる評価方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1に記載した本発明に係る評価方法は、摺動部材を含む機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を解析して、前記機械設備に起因する異常の有無を診断する評価方法であって、
前記機械設備から発生した音又は振動のアナログ信号をAD変換によりデジタル信号に変換して実測デジタルデータを生成し、この実測デジタルデータに対して周波数分析及びエンベロープ分析等の適宜解析処理を行って実測周波数スペクトルデータを生成し、前記機械設備の異常に起因した周波数成分の1次、2次、4次値に対する前記実測周波数スペクトルデータ上のピークの有無により、前記機械設備に対する異常の有無の診断を行うことを特徴とする。
【0007】
上記目的を達成するための請求項2に記載した本発明に係る評価装置は、摺動部材を含む機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を解析して前記機械設備に起因する異常の有無を診断する評価装置であって、
前記機械設備から発生した音又は振動のアナログ信号をデジタル信号に変換して実測デジタルデータを生成するAD変換手段と、このAD変換手段が出力する実測デジタルデータに対して周波数分析及びエンベロープ分析等の適宜解析処理を行って実測周波数スペクトルデータを生成すると共に、前記機械設備の異常に起因した周波数成分の1次、2次、4次値に対する前記実測周波数スペクトルデータ上のピークの有無により、前記機械設備に対する異常の有無の診断を行う演算処理手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
そして、請求項1及び請求項2に記載した構成の評価方法及び装置によれば、機械設備の異常に起因した周波数成分に対応する実測周波数スペクトルデータ上のピークの有無を調べる照合処理は、機械設備の異常に起因した周波数成分の1次、2次、4次値の3回に限定されているため、例えば1次から高次の周波成分まで多数の周波数成分に対して照合処理を繰り返す従来技術と比較すると、照合処理時の演算処理量が低減して、演算処理手段への負担が大幅に軽減される。
更に、機械設備の異常に起因した周波数成分の1次、2次、4次値の3回に渡って照合処理を実施するため、周波数成分の1次のみで判断する場合と比較して、ノイズ等の影響による誤診断が発生し難く、信頼性の高い診断が可能になる。
【0009】
なお、好ましくは、請求項3及び請求項4に記載のように、本発明に係る上記の評価方法及び装置において演算処理手段が実施する一連の診断処理では、前記実測周波数スペクトルデータの生成後、この実測周波数スペクトルデータの実効値を算出すると共に、この実効値に基づいて閾値を設定し、前記機械設備の異常に起因した前記周波数成分の1次、2次、4次値に対する前記実測周波数スペクトルデータ上のピークは前記閾値を超える場合にのみ有効なピークとして扱う構成とするとよい。
このようにすると、例えば、機械設備の異常に起因した周波数成分の1次、2次、4次値に対応する実測周波数スペクトルデータ上のピークに対して照合のための演算処理を実施する前に、閾値によって有効なピークを抽出する抽出処理をすれば、有意でないピークに対して照合処理を実施する無駄を省くことができる。
【0010】
そして、上記目的を達成するための請求項5に記載した本発明に係る評価方法は、摺動部材を含む機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を解析して、前記機械設備に起因する異常の有無を診断する評価方法であって、
前記機械設備から発生した音又は振動のアナログ信号をAD変換によりデジタル信号に変換して実測デジタルデータを生成し、この実測デジタルデータに対して周波数分析及びエンベロープ分析等の適宜解析処理を行って実測周波数スペクトルデータを生成後、この実測周波数スペクトルデータの実効値又は平均値を算出して、算出した実効値又は平均値を基準レベルに設定し、前記機械設備の異常に起因した周波数成分の1次値に対する前記実測周波数スペクトルデータ上のレベルと前記基準レベルとのレベル差から前記機械設備の特定部位の損傷の大きさを推定することを特徴とする。
【0011】
一般に、回転体等の摺動部材の損傷に起因する実測周波数スペクトル上でのピークレベルの増大は、異常に起因した周波数成分の一次値に対応するピークで一番顕著になる。
そのため、この請求項5に記載した構成の評価方法に示すように、機械設備の異常に起因した周波数成分の1次値に対する実測周波数スペクトルデータ上のレベルとこの実測周波数スペクトルデータの実効値又は平均値とのレベル差を計算することで、最小限の演算処理で効率よく損傷の大きさを推定でき、推定した損傷の大きさから損傷部品の適切な交換時期を決定することが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
以上述べたように、請求項1及び請求項2に記載の本発明の評価方法及び装置によれば、摺動部材を含む機械設備の特定部位の異常時に発生する周波数成分に対応する実測周波数スペクトルデータ上のピークの有無を調べる照合処理は、異常に起因した周波数成分の1次値、2次値、4次値の3回に限定されているため、例えば、1次から高次の周波成分まで多数の周波数成分に対して照合処理を繰り返す従来技術の場合と比較すると、照合処理時の演算処理量が大幅に低減する。
そのため、機械設備から検出した振動信号の解析作業時の演算処理手段への負担が大幅に軽減され、診断作業の迅速化を図ることができる。また、演算処理量が低減したことで、演算処理手段として使用するコンピュータに、演算処理能力が低い安価なコンピュータを使用することが可能になり、装置コストの低減を図ることも可能になる。
【0013】
更に、異常時に発生する周波数成分の1次値のみで判断すると、たまたまノイズ等の影響で、対応する実測周波数スペクトル上のピークにずれが生じたり、逆にピークが増大しているために誤診断を生じる可能性がある。
しかし、上記のように、異常に起因して発生する周波数成分の1次値、2次値、4次値の3回に渡って照合処理を実施する場合には、3回ともノイズの影響を受ける確率は殆どなく、診断に対する信頼性を向上させることができる。
【0014】
また、請求項3及び請求項4に記載の構成にすると、例えば、機械設備の特定部位での異常に起因して発生する周波数成分の1次値、2次値、4次値に対応する実測周波数スペクトルデータ上のピークに対して照合のための演算処理を実施する前に、閾値によって有効なピークを抽出する抽出処理を行なえば、有意でないピークに対して照合処理を実施する無駄を省くことができ、演算処理量による負担を更に軽減して、診断処理の迅速化を促進することができる。
【0015】
また、一般に、機械設備の損傷に起因する実測周波数スペクトル上でのピークレベルの増大は、異常に起因する周波数成分の1次値に対応するピークで一番顕著になる。
そのため、請求項5に記載した評価方法のように、機械設備の特定部位の異常時に発生する周波数成分の1次値に対する実測周波数スペクトルデータ上のレベルとこの実測周波数スペクトルデータの実効値又は平均値とのレベル差を計算することで、最小限の演算処理で効率よく損傷の大きさを推定できる。従って、推定した損傷の大きさから損傷部品の交換時期を決定することで、過剰な部品交換やメンテナンスを回避し、摺動部材を含む機器や設備における維持コストの削減が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る評価方法及び装置の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る評価方法及び装置の第1の実施の形態の概略構成を示すブロック図、図2は図1に示した評価装置の診断処理の手順を示すフローチャートである。
【0017】
先ず、第1の実施の形態の評価装置の概略構成を、図1に基づいて説明した後に、この評価装置による評価方法について詳述する。
本実施の形態の評価装置1は、診断対象となる1または複数の摺動部材を含む機械設備3の発生する音又は振動に応じたアナログ信号を出力する振動検出手段5と、この振動検出手段5の出力する信号を増幅する増幅手段7と、増幅手段7によって増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換して実測デジタルデータを生成するAD変換手段9と、このAD変換手段9が出力する実測デジタルデータに基づいて機械設備3の特定部位の異常の有無を診断する演算処理手段13とを備えた構成である。
【0018】
本実施の形態の場合、診断対象となる機械設備3の摺動部材としては転がり軸受が適用される。そして、転がり軸受を構成している内外輪、転動体、保持器等の摩耗や損傷を、転がり軸受の駆動時の音又は振動から診断する。
なお、本実施の形態において、転がり軸受の音又は振動とは、転がり軸受の駆動時に現れる超音波振動、所謂AE(Acoustic Emission )を含む意味である。
【0019】
演算処理手段13は、予め記憶させた処理用の諸データや、AD変換手段9から受ける実測デジタルデータを、診断用プログラムに基づいて演算処理する診断用コンピュータである。
この演算処理手段13は、AD変換手段9が出力する実測デジタルデータに対して周波数分析及びエンベロープ分析等の適宜解析処理を行って実測周波数スペクトルデータを生成すると共に、機械設備3の異常に起因した周波数成分の1次、2次、4次値に対する実測周波数スペクトルデータ上のピークの有無により、機械設備3に対する異常の有無の診断を行う。
【0020】
以上の評価装置1は、図2に示す手順で、処理を行う。
先ず、振動検出手段5により機械設備3の発生する音又は振動の検出を行い(ステップS101)、次いで、増幅手段7を経た信号をAD変換手段9によるAD変換によってデジタル信号化して(ステップS102)、演算処理手段13に渡す。
演算処理手段13は、AD変換手段9から受けた信号を、例えば、WAVファイル等のファイル形式でデジタルファイル化し(ステップS103)、必要ならば、フィルタ処理を行って、余分な信号の除去等を行って実測デジタルデータを生成する。
【0021】
本実施の形態の場合、フィルタ処理は、演算処理手段13に予め組み込んだフィルタ処理プログラムによって入力信号に所定の処理を行うもので、予めカットする周波数域等の設定を行うフィルタ帯域の選定工程(ステップS104)と、選定されたフィルタ帯域に従って余分な信号のカットを行うフィルタ処理工程(ステップS105)とで構成される。
ステップS104及びステップS105によるフィルタ処理は、収集してあるデータのS/N比を向上させるために行うもので、入力信号のS/N比が十分であれば、不要である。
【0022】
次いで、生成した実測デジタルデータに対して、周波数分析及びエンベロープ分析等の解析処理を行って(ステップS106、S107)、機械設備3から検出した音又は振動を具現した実測周波数スペクトルデータd1を得る(ステップS108)。
ここで得た実測周波数スペクトルデータd1は、図3に示す波形w1である。 この波形w1は、摺動部材としての転がり軸受において、外輪固定で、毎分150回転で内輪を回転させた時のものである。
【0023】
更に、演算処理手段13は、機械設備3の特定部位の異常時に発生する周波数成分の1次、2次、4次値に対する実測周波数スペクトルデータd1上のピークの有無により、機械設備3の特定部位に対する異常の有無の診断を行う(ステップS109)。
摺動部材である軸受は、図4に示すように、設計諸元や使用条件に応じて、特定部位の異常時に発生する周波数成分値が決定される。
演算処理手段13は、機械設備3について、図4に示す特定部位の異常時に発生する周波数成分の1次、2次、4次値を予め基準値として記憶していて、これらの基準値に基づいて、ステップS109を行う。
【0024】
ステップS109では、具体的には、図5に示す手順で、機械設備3の特定部位の異常時に発生する周波数成分の1次、2次、4次値に対する実測周波数スペクトルデータd1上のピークの有無をチェックする照合処理を実施し、周波数成分の1次値、2次値の双方が実測周波数スペクトルデータd1上のピークに一致した場合(ステップS201、S202)、あるいは、周波数成分の1次値は実測周波数スペクトルデータd1上のピークに一致しないが、2次値、4次値の双方が実測周波数スペクトルデータd1上のピークに一致した場合(ステップS211、S212)など、二つ以上の周波数成分において実測周波数スペクトルデータd1上にピークが存在することが確認された場合には、その特定部位について異常有りの診断を下す(ステップS221)。
一方、実測周波数スペクトルデータd1上にピークが存在する周波数成分が一つ以下の場合には、他の部位の異常に起因する振動等がノイズとして影響して、たまたまピークを形成している可能性が高く、異常無しの診断を下す(ステップS231)。
【0025】
図6は、摺動部材としての転がり軸受において、外輪固定で、毎分150回転で内輪を回転させた時の波形w1に対して、特定部位である外輪の損傷に起因して発生する周波数成分の1次値Q1 、2次値Q2 、4次値Q4 の3つの周波数成分を、破線で付記したものである。
前述した図3の場合は、同様の波形w1に対して、外輪の損傷に起因して発生する周波数成分の一次値Q1 から高次Qn までの全てのものを、破線により付記している。
【0026】
以上の第1の実施の形態の評価装置1で行う評価方法では、機械設備3の特定部位の異常時に発生する周波数成分に対応する実測周波数スペクトルデータd1上のピークの有無を調べる照合処理は、機械設備3の異常に起因した周波数成分の1次、2次、4次値の3回に限定されているため、例えば、図3に示したように1次から高次の周波成分まで多数の周波数成分の全てに対して照合処理を繰り返す従来技術の場合と比較すると、照合処理時の演算処理量が大幅に低減する。
【0027】
そのため、機械設備3から検出した信号の解析作業時の演算処理手段13への負担が大幅に軽減され、診断作業の迅速化を図ることができる。また、演算処理量が低減したことで、演算処理手段13として使用するコンピュータに、演算処理能力が低い安価なコンピュータを使用することが可能になり、装置コストの低減を図ることも可能になる。
【0028】
更に、異常時に発生する周波数成分の1次のみで判断すると、たまたまノイズ等の影響で、対応する実測周波数スペクトル上のピークにずれが生じたり、逆にピークが増大しているために誤診断が生じる可能性がある。
しかし、上記のように、機械設備3の特定部位の異常時に発生する周波数成分の1次値、2次値、4次値の3回に渡って照合処理を実施する場合には、3回ともノイズの影響を受ける確率は殆どなく、従って、2回の照合処理を実施するだけで、診断に対する信頼性を向上させることができる。
【0029】
なお、好ましくは、演算処理手段13は、実測周波数スペクトルデータd1の生成後、この実測周波数スペクトルデータd1の実効値f1を算出すると共に、この実効値f1に基づいて閾値t1を設定し、機械設備3の特定部位の異常時に発生する周波数成分の1次値Q1 、2次値Q2 、4次値Q4 に対する実測周波数スペクトルデータd1上のピークは、閾値t1を超える場合にのみ有効なピークとして扱う構成とするとよい。
【0030】
図7は、摺動部材としての転がり軸受において、外輪固定で、毎分150回転で内輪を回転させた時の実測周波数スペクトルデータd1の波形w2に対して、実効値f1と、閾値t1とを書き込んだものである。また、摺動部材としての転がり軸受の転動体の傷に起因して発生する周波数成分の1次値q1 、2次値q2 、4次値q4 を波形w2上に点線で書き込んでいる。
この場合、実効値f1は、波形w2の振幅の平均レベルを算出したもので、−8.5dBである。
また、閾値t1は、t1=(f1+10dB) ……(1)
に設定したため、閾値t1は1.5dBとなった。
この例の場合は、転動体の傷に起因して発生する周波数成分(2fb)の1次値q1 、2次値q2 、4次値q4 のうち、2次値q2 が閾値t1より小さくノイズに埋もれていることから、閾値t1より大きな1次値q1 、4次値q4 のみについて照合処理が必要なことを示している。
【0031】
このように閾値t1によって有用なピークの選別を可能にすると、例えば、摺動部材の特定部位での異常に起因して発生する周波数成分の1次値、2次値、4次値に対応する実測周波数スペクトルデータ上のピークに対して照合のための演算処理を実施する前に、閾値t1によって有効なピークを抽出する抽出処理をすれば、有意でないピークに対して照合処理を実施する無駄を省くことができ、演算処理量による負担を更に軽減して、診断処理の迅速化を促進することができる。
【0032】
なお、以上の実施の形態では、特定部位の損傷の有無を診断する場合を示している。
しかし、前述したように、実測デジタルデータに対して周波数分析及びエンベロープ分析等の適宜解析処理を行って実測周波数スペクトルデータd1を生成した場合に、例えば、図8に示すように、この実測周波数スペクトルデータd1の実効値f1を算出して、算出した実効値f1を基準レベルL0 に設定し、機械設備3の特定部位の異常(本例では外輪損傷を示す)に起因して発生する周波数成分の1次値Q1 に対する実測周波数スペクトルデータd1上のレベルLh と基準レベルL0 とのレベル差lの大きさから、異常を起こしている外輪における損傷の大きさを推定できる。
なお、図8は摺動部材である回転体のエンベロープ波形を示す。
【0033】
図9は、摺動部材としての転がり軸受において、軌道輪の損傷である剥離が生じた場合に、剥離の大きさと、実測周波数スペクトルデータd1上に表れるピークと基準レベルとの間のレベル差との関係を示したものである。
このように、一般的に、レベル差は損傷の大きさに比例して増大するため、逆に、実測周波数スペクトルデータd1上のピークにおけるレベル差を求めることで、損傷の大きさを推定することが可能である。
しかも、機械設備3の損傷に起因する実測周波数スペクトルデータd1上でのピークレベルの増大は、異常に起因する周波数成分の1次値に対応するピークで一番顕著になる。
【0034】
そのため、既述したように、機械設備3の特定部位での異常に起因して発生する周波数成分の1次値に対する実測周波数スペクトルデータd1上のレベルLh とこの実測周波数スペクトルデータd1の実効値f1とのレベル差lを計算することで、最小限の演算処理で効率よく損傷の大きさを推定でき、推定した損傷の大きさから損傷部品の交換時期を決定することで、過剰な部品交換やメンテナンスを回避して、摺動部材を含む機器や設備における維持コストの削減が可能になる。
【0035】
なお、前記基準レベルL0 には、実効値f1の代わりに、実測周波数スペクトルデータd1の平均値を採用するようにしてもよい。
【0036】
なお、本発明の評価方法及び装置による診断対象となる摺動部材は、上記の実施の形態で示した転がり軸受に限らない。軸受以外の各種の摺動部材を診断対象とすることができ、例えば、ボールねじ、リニアガイド、モータ等を含めることができる。また、摺動部材は機器や設備に組み込んだ状態のままでも、摺動部材の駆動時に発生する音や振動が所定の振動検出手段によって検出できる状況であれば、機器や設備から取り外して、直接診断可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る評価方法を実現する評価装置の第1の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した評価装置による処理手順を示すフローチャートである。
【図3】転がり軸受の外輪の傷で異常振動が発生している時の実測周波数スペクトルを示す波形図である。
【図4】転がり軸受における傷の箇所と周波数との関係を示す図である。
【図5】異常時の周波数成分と実測周波数スペクトルデータのピーク箇所との照合処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】外輪の傷により異常振動が発生している時の実測周波数スペクトル上の周波数成分の照合箇所を示す波形図である。
【図7】転動体の傷により異常振動が発生している時の実測周波数スペクトル上の周波数成分の照合箇所を示す波形図である。
【図8】異常に起因した周波数成分と実測周波数スペクトルとのエンベロープ波形図である。
【図9】転動体表面の剥離の大きさと実測周波数スペクトルに表れるピークの平均レベルのレベル差との相関図である。
【符号の説明】
【0038】
1 評価装置
3 1または複数の摺動部材を含む機械設備
5 振動検出手段
7 増幅手段
9 AD変換手段
13 演算処理手段
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1または複数の摺動部材を含む機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を解析して、機械設備に起因する異常の有無を診断する評価方法及び装置に関するもので、詳しくは、検出した信号の解析作業時の負担を軽減して、診断作業の迅速化及び信頼性の向上を実現するための改良にかかるものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、回転体等の1または複数の摺動部材を含む機械設備の、摺動部材の摩耗や破損等の異常の有無を診断する評価方法として、機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を適宜波形処理によって周波数スペクトルデータに変換し、機械設備の異常に起因した周波数成分と前記した周波数スペクトルデータとの比較照合により、異常の有無を診断する評価方法が知られている。
【0003】
摺動部材を含む機械設備の異常に起因した周波数成分は、摺動部材の設計諸元及び運用状況によって決まるもので、例えば、前記した回転体の設計諸元や運用状況等の条件から、演算処理によって求めることができる。
従って、機械設備の異常の有無を自動診断する評価装置では、コンピュータ等の演算処理手段を用い、予め、診断対象となる機械設備の異常に起因した周波数成分を算出処理すると共に、機械設備の発生する音又は振動の信号を適宜波形処理して周波数スペクトルデータに変換する演算処理を行い、更には、予め算出して記憶させた機械設備の異常に起因した周波数成分と前記した周波数スペクトルデータとを比較照合する演算処理を行う。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の評価方法では、機械設備の特定部位毎に、異常時の周波数成分を1次から多次まで多数求め、これらの多数の周波数成分のそれぞれに対して、実測した機械設備の周波数スペクトルデータ上にピークが表出するか否かを診断する演算処理と、周波数スペクトルデータ上のピーク値が異常を示すピークレベルであるかを診断する演算処理とを繰り返す。
そのため、最終的な診断を下すまでの演算処理が膨大になり、演算処理手段に大きな負担がかかるために、演算処理能力が高い高価なコンピュータが必要となって装置コストの増大を招いたり、また演算処理の所要時間の長大化により診断作業の迅速化が困難になるという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、1または複数の摺動部材を含む機械設備の異常の有無を診断する際の演算処理の負担を軽減して、診断作業の迅速化及び信頼性の向上を実現することのできる評価方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための請求項1に記載した本発明に係る評価方法は、摺動部材を含む機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を解析して、前記機械設備に起因する異常の有無を診断する評価方法であって、
前記機械設備から発生した音又は振動から実測周波数スペクトルデータを生成後、この実測周波数スペクトルデータの実効値又は平均値を算出して、算出した実効値又は平均値を基準レベルに設定し、前記機械設備の異常に起因した周波数成分の1次値に対する前記実測周波数スペクトルデータ上のレベルと前記基準レベルとのレベル差から前記機械設備の特定部位の損傷の大きさを推定することを特徴とする。
【0007】
上記目的を達成するための請求項4に記載した本発明に係る評価装置は、摺動部材を含む機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を解析して、前記機械設備に起因する異常の有無を診断する評価方法であって、
前記機械設備から発生した音又は振動から実測周波数スペクトルデータを生成後、この実測周波数スペクトルデータの実効値又は平均値を算出して、算出した実効値又は平均値を基準レベルに設定し、前記機械設備の異常に起因した周波数成分の1次値に対する前記実測周波数スペクトルデータ上のレベルと前記基準レベルとのレベル差から前記機械設備の特定部位の損傷の大きさを推定することを特徴とする。
【0008】
一般に、回転体等の摺動部材の損傷に起因する実測周波数スペクトル上でのピークレベルの増大は、異常に起因した周波数成分の一次値に対応するピークで一番顕著になる。
そのため、この請求項1及び4に記載した構成の評価方法及び装置に示すように、機械設備の異常に起因した周波数成分の1次値に対する実測周波数スペクトルデータ上のレベルとこの実測周波数スペクトルデータの実効値又は平均値とのレベル差を計算することで、最小限の演算処理で効率よく損傷の大きさを推定でき、推定した損傷の大きさから損傷部品の適切な交換時期を決定することが可能になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の評価方法及び装置によれば、機械設備の特定部位の異常時に発生する周波数成分の1次値に対する実測周波数スペクトルデータ上のレベルとこの実測周波数スペクトルデータの実効値又は平均値とのレベル差を計算することで、最小限の演算処理で効率よく損傷の大きさを推定できる。従って、推定した損傷の大きさから損傷部品の交換時期を決定することで、過剰な部品交換やメンテナンスを回避し、摺動部材を含む機器や設備における維持コストの削減が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る評価方法及び装置の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明に係る評価方法及び装置の第1の実施の形態の概略構成を示すブロック図、図2は図1に示した評価装置の診断処理の手順を示すフローチャートである。
【0011】
先ず、第1の実施の形態の評価装置の概略構成を、図1に基づいて説明した後に、この評価装置による評価方法について詳述する。
本実施の形態の評価装置1は、診断対象となる1または複数の摺動部材を含む機械設備3の発生する音又は振動に応じたアナログ信号を出力する振動検出手段5と、この振動検出手段5の出力する信号を増幅する増幅手段7と、増幅手段7によって増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換して実測デジタルデータを生成するAD変換手段9と、このAD変換手段9が出力する実測デジタルデータに基づいて機械設備3の特定部位の異常の有無を診断する演算処理手段13とを備えた構成である。
【0012】
本実施の形態の場合、診断対象となる機械設備3の摺動部材としては転がり軸受が適用される。そして、転がり軸受を構成している内外輪、転動体、保持器等の摩耗や損傷を、転がり軸受の駆動時の音又は振動から診断する。
なお、本実施の形態において、転がり軸受の音又は振動とは、転がり軸受の駆動時に現れる超音波振動、所謂AE(Acoustic Emission )を含む意味である。
【0013】
演算処理手段13は、予め記憶させた処理用の諸データや、AD変換手段9から受ける実測デジタルデータを、診断用プログラムに基づいて演算処理する診断用コンピュータである。
この演算処理手段13は、AD変換手段9が出力する実測デジタルデータに対して周波数分析及びエンベロープ分析等の適宜解析処理を行って実測周波数スペクトルデータを生成すると共に、機械設備3の異常に起因した周波数成分の1次、2次、4次値に対する実測周波数スペクトルデータ上のピークの有無により、機械設備3に対する異常の有無の診断を行う。
【0014】
以上の評価装置1は、図2に示す手順で、処理を行う。
先ず、振動検出手段5により機械設備3の発生する音又は振動の検出を行い(ステップS101)、次いで、増幅手段7を経た信号をAD変換手段9によるAD変換によってデジタル信号化して(ステップS102)、演算処理手段13に渡す。
演算処理手段13は、AD変換手段9から受けた信号を、例えば、WAVファイル等のファイル形式でデジタルファイル化し(ステップS103)、必要ならば、フィルタ処理を行って、余分な信号の除去等を行って実測デジタルデータを生成する。
【0015】
本実施の形態の場合、フィルタ処理は、演算処理手段13に予め組み込んだフィルタ処理プログラムによって入力信号に所定の処理を行うもので、予めカットする周波数域等の設定を行うフィルタ帯域の選定工程(ステップS104)と、選定されたフィルタ帯域に従って余分な信号のカットを行うフィルタ処理工程(ステップS105)とで構成される。
ステップS104及びステップS105によるフィルタ処理は、収集してあるデータのS/N比を向上させるために行うもので、入力信号のS/N比が十分であれば、不要である。
【0016】
次いで、生成した実測デジタルデータに対して、周波数分析及びエンベロープ分析等の解析処理を行って(ステップS106、S107)、機械設備3から検出した音又は振動を具現した実測周波数スペクトルデータd1を得る(ステップS108)。
ここで得た実測周波数スペクトルデータd1は、図3に示す波形w1である。 この波形w1は、摺動部材としての転がり軸受において、外輪固定で、毎分150回転で内輪を回転させた時のものである。
【0017】
更に、演算処理手段13は、機械設備3の特定部位の異常時に発生する周波数成分の1次、2次、4次値に対する実測周波数スペクトルデータd1上のピークの有無により、機械設備3の特定部位に対する異常の有無の診断を行う(ステップS109)。
摺動部材である軸受は、図4に示すように、設計諸元や使用条件に応じて、特定部位の異常時に発生する周波数成分値が決定される。
演算処理手段13は、機械設備3について、図4に示す特定部位の異常時に発生する周波数成分の1次、2次、4次値を予め基準値として記憶していて、これらの基準値に基づいて、ステップS109を行う。
【0018】
ステップS109では、具体的には、図5に示す手順で、機械設備3の特定部位の異常時に発生する周波数成分の1次、2次、4次値に対する実測周波数スペクトルデータd1上のピークの有無をチェックする照合処理を実施し、周波数成分の1次値、2次値の双方が実測周波数スペクトルデータd1上のピークに一致した場合(ステップS201、S202)、あるいは、周波数成分の1次値は実測周波数スペクトルデータd1上のピークに一致しないが、2次値、4次値の双方が実測周波数スペクトルデータd1上のピークに一致した場合(ステップS211、S212)など、二つ以上の周波数成分において実測周波数スペクトルデータd1上にピークが存在することが確認された場合には、その特定部位について異常有りの診断を下す(ステップS221)。
一方、実測周波数スペクトルデータd1上にピークが存在する周波数成分が一つ以下の場合には、他の部位の異常に起因する振動等がノイズとして影響して、たまたまピークを形成している可能性が高く、異常無しの診断を下す(ステップS231)。
【0019】
図6は、摺動部材としての転がり軸受において、外輪固定で、毎分150回転で内輪を回転させた時の波形w1に対して、特定部位である外輪の損傷に起因して発生する周波数成分の1次値Q1 、2次値Q2 、4次値Q4 の3つの周波数成分を、破線で付記したものである。
前述した図3の場合は、同様の波形w1に対して、外輪の損傷に起因して発生する周波数成分の一次値Q1 から高次Qn までの全てのものを、破線により付記している。
【0020】
以上の第1の実施の形態の評価装置1で行う評価方法では、機械設備3の特定部位の異常時に発生する周波数成分に対応する実測周波数スペクトルデータd1上のピークの有無を調べる照合処理は、機械設備3の異常に起因した周波数成分の1次、2次、4次値の3回に限定されているため、例えば、図3に示したように1次から高次の周波成分まで多数の周波数成分の全てに対して照合処理を繰り返す従来技術の場合と比較すると、照合処理時の演算処理量が大幅に低減する。
【0021】
そのため、機械設備3から検出した信号の解析作業時の演算処理手段13への負担が大幅に軽減され、診断作業の迅速化を図ることができる。また、演算処理量が低減したことで、演算処理手段13として使用するコンピュータに、演算処理能力が低い安価なコンピュータを使用することが可能になり、装置コストの低減を図ることも可能になる。
【0022】
更に、異常時に発生する周波数成分の1次のみで判断すると、たまたまノイズ等の影響で、対応する実測周波数スペクトル上のピークにずれが生じたり、逆にピークが増大しているために誤診断が生じる可能性がある。
しかし、上記のように、機械設備3の特定部位の異常時に発生する周波数成分の1次値、2次値、4次値の3回に渡って照合処理を実施する場合には、3回ともノイズの影響を受ける確率は殆どなく、従って、2回の照合処理を実施するだけで、診断に対する信頼性を向上させることができる。
【0023】
なお、好ましくは、演算処理手段13は、実測周波数スペクトルデータd1の生成後、この実測周波数スペクトルデータd1の実効値f1を算出すると共に、この実効値f1に基づいて閾値t1を設定し、機械設備3の特定部位の異常時に発生する周波数成分の1次値Q1 、2次値Q2 、4次値Q4 に対する実測周波数スペクトルデータd1上のピークは、閾値t1を超える場合にのみ有効なピークとして扱う構成とするとよい。
【0024】
図7は、摺動部材としての転がり軸受において、外輪固定で、毎分150回転で内輪を回転させた時の実測周波数スペクトルデータd1の波形w2に対して、実効値f1と、閾値t1とを書き込んだものである。また、摺動部材としての転がり軸受の転動体の傷に起因して発生する周波数成分の1次値q1 、2次値q2 、4次値q4 を波形w2上に点線で書き込んでいる。
この場合、実効値f1は、波形w2の振幅の平均レベルを算出したもので、−8.5dBである。
また、閾値t1は、t1=(f1+10dB) ……(1)
に設定したため、閾値t1は1.5dBとなった。
この例の場合は、転動体の傷に起因して発生する周波数成分(2fb)の1次値q1 、2次値q2 、4次値q4 のうち、2次値q2が閾値t1より小さくノイズに埋もれていることから、閾値t1より大きな1次値q1 、4次値q4 のみについて照合処理が必要なことを示している。
【0025】
このように閾値t1によって有用なピークの選別を可能にすると、例えば、摺動部材の特定部位での異常に起因して発生する周波数成分の1次値、2次値、4次値に対応する実測周波数スペクトルデータ上のピークに対して照合のための演算処理を実施する前に、閾値t1によって有効なピークを抽出する抽出処理をすれば、有意でないピークに対して照合処理を実施する無駄を省くことができ、演算処理量による負担を更に軽減して、診断処理の迅速化を促進することができる。
【0026】
なお、以上の実施の形態では、特定部位の損傷の有無を診断する場合を示している。
しかし、前述したように、実測デジタルデータに対して周波数分析及びエンベロープ分析等の適宜解析処理を行って実測周波数スペクトルデータd1を生成した場合に、例えば、図8に示すように、この実測周波数スペクトルデータd1の実効値f1を算出して、算出した実効値f1を基準レベルL0 に設定し、機械設備3の特定部位の異常(本例では外輪損傷を示す)に起因して発生する周波数成分の1次値Q1に対する実測周波数スペクトルデータd1上のレベルLh と基準レベルL0 とのレベル差lの大きさから、異常を起こしている外輪における損傷の大きさを推定できる。
なお、図8は摺動部材である回転体のエンベロープ波形を示す。
【0027】
図9は、摺動部材としての転がり軸受において、軌道輪の損傷である剥離が生じた場合に、剥離の大きさと、実測周波数スペクトルデータd1上に表れるピークと基準レベルとの間のレベル差との関係を示したものである。
このように、一般的に、レベル差は損傷の大きさに比例して増大するため、逆に、実測周波数スペクトルデータd1上のピークにおけるレベル差を求めることで、損傷の大きさを推定することが可能である。
しかも、機械設備3の損傷に起因する実測周波数スペクトルデータd1上でのピークレベルの増大は、異常に起因する周波数成分の1次値に対応するピークで一番顕著になる。
【0028】
そのため、既述したように、機械設備3の特定部位での異常に起因して発生する周波数成分の1次値に対する実測周波数スペクトルデータd1上のレベルLh とこの実測周波数スペクトルデータd1の実効値f1とのレベル差lを計算することで、最小限の演算処理で効率よく損傷の大きさを推定でき、推定した損傷の大きさから損傷部品の交換時期を決定することで、過剰な部品交換やメンテナンスを回避して、摺動部材を含む機器や設備における維持コストの削減が可能になる。
【0029】
なお、前記基準レベルL0 には、実効値f1の代わりに、実測周波数スペクトルデータd1の平均値を採用するようにしてもよい。
【0030】
なお、本発明の評価方法及び装置による診断対象となる摺動部材は、上記の実施の形態で示した転がり軸受に限らない。軸受以外の各種の摺動部材を診断対象とすることができ、例えば、ボールねじ、リニアガイド、モータ等を含めることができる。また、摺動部材は機器や設備に組み込んだ状態のままでも、摺動部材の駆動時に発生する音や振動が所定の振動検出手段によって検出できる状況であれば、機器や設備から取り外して、直接診断可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る評価方法を実現する評価装置の第1の実施の形態の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示した評価装置による処理手順を示すフローチャートである。
【図3】転がり軸受の外輪の傷で異常振動が発生している時の実測周波数スペクトルを示す波形図である。
【図4】転がり軸受における傷の箇所と周波数との関係を示す図である。
【図5】異常時の周波数成分と実測周波数スペクトルデータのピーク箇所との照合処理の処理手順を示すフローチャートである。
【図6】外輪の傷により異常振動が発生している時の実測周波数スペクトル上の周波数成分の照合箇所を示す波形図である。
【図7】転動体の傷により異常振動が発生している時の実測周波数スペクトル上の周波数成分の照合箇所を示す波形図である。
【図8】異常に起因した周波数成分と実測周波数スペクトルとのエンベロープ波形図である。
【図9】転動体表面の剥離の大きさと実測周波数スペクトルに表れるピークの平均レベルのレベル差との相関図である。
【符号の説明】
【0032】
1 評価装置
3 1または複数の摺動部材を含む機械設備
5 振動検出手段
7 増幅手段
9 AD変換手段
13 演算処理手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部材を含む機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を解析して、前記機械設備に起因する異常の有無を診断する評価方法であって、
前記機械設備から発生した音又は振動のアナログ信号をAD変換によりデジタル信号に変換して実測デジタルデータを生成し、この実測デジタルデータに対して周波数分析及びエンベロープ分析等の適宜解析処理を行って実測周波数スペクトルデータを生成し、前記機械設備の異常に起因した周波数成分の1次、2次、4次値に対する前記実測周波数スペクトルデータ上のピークの有無により、前記機械設備に対する異常の有無の診断を行うことを特徴とする評価方法。
【請求項2】
摺動部材を含む機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を解析して前記機械設備に起因する異常の有無を診断する評価装置であって、
前記機械設備から発生した音又は振動のアナログ信号をデジタル信号に変換して実測デジタルデータを生成するAD変換手段と、このAD変換手段が出力する実測デジタルデータに対して周波数分析及びエンベロープ分析等の適宜解析処理を行って実測周波数スペクトルデータを生成すると共に、前記機械設備の異常に起因した周波数成分の1次、2次、4次値に対する前記実測周波数スペクトルデータ上のピークの有無により、前記機械設備に対する異常の有無の診断を行う演算処理手段とを備えたことを特徴とする評価装置。
【請求項3】
前記実測周波数スペクトルデータの生成後、この実測周波数スペクトルデータの実効値を算出すると共に、この実効値に基づいて閾値を設定し、前記機械設備の異常に起因した前記周波数成分の1次、2次、4次値に対する前記実測周波数スペクトルデータ上のピークは前記閾値を超える場合にのみ有効なピークとして扱うことを特徴とする請求項1記載の評価方法。
【請求項4】
前記演算処理手段は、前記実測周波数スペクトルデータの生成後、この実測周波数スペクトルデータの実効値を算出すると共に、この実効値に基づいて閾値を設定し、前記機械設備の異常に起因した前記周波数成分の1次、2次、4次値に対する前記実測周波数スペクトルデータ上のピークは前記閾値を超える場合にのみ有効なピークとして扱うことを特徴とする請求項2記載の評価装置。
【請求項5】
摺動部材を含む機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を解析して、前記機械設備に起因する異常の有無を診断する評価方法であって、
前記機械設備から発生した音又は振動のアナログ信号をAD変換によりデジタル信号に変換して実測デジタルデータを生成し、この実測デジタルデータに対して周波数分析及びエンベロープ分析等の適宜解析処理を行って実測周波数スペクトルデータを生成後、この実測周波数スペクトルデータの実効値又は平均値を算出して、算出した実効値又は平均値を基準レベルに設定し、前記機械設備の異常に起因した周波数成分の1次値に対する前記実測周波数スペクトルデータ上のレベルと前記基準レベルとのレベル差から前記機械設備の特定部位の損傷の大きさを推定することを特徴とする評価方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部材を含む機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を解析して、前記機械設備に起因する異常の有無を診断する評価方法であって、
前記機械設備から発生した音又は振動から実測周波数スペクトルデータを生成後、この実測周波数スペクトルデータの実効値又は平均値を算出して、算出した実効値又は平均値を基準レベルに設定し、前記機械設備の異常に起因した周波数成分の1次値に対する前記実測周波数スペクトルデータ上のレベルと前記基準レベルとのレベル差から前記機械設備の特定部位の損傷の大きさを推定することを特徴とする評価方法。
【請求項2】
前記摺動部材は、転がり軸受、ボールねじ、リニアガイドのいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記損傷は、前記摺動部材に生じた剥離であることを特徴とする請求項1又は2に記載の評価方法。
【請求項4】
摺動部材を含む機械設備から発生する音又は振動を検出し、検出した信号を解析して、前記機械設備に起因する異常の有無を診断する評価装置であって、
前記機械設備から発生した音又は振動から実測周波数スペクトルデータを生成後、この実測周波数スペクトルデータの実効値又は平均値を算出して、算出した実効値又は平均値を基準レベルに設定し、前記機械設備の異常に起因した周波数成分の1次値に対する前記実測周波数スペクトルデータ上のレベルと前記基準レベルとのレベル差から前記機械設備の特定部位の損傷の大きさを推定することを特徴とする評価装置。
【請求項5】
前記摺動部材は、転がり軸受、ボールねじ、リニアガイドのいずれかであることを特徴とする請求項4に記載の評価装置。
【請求項6】
前記損傷は、前記摺動部材に生じた剥離であることを特徴とする請求項4又は5に記載の評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−349693(P2006−349693A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−214501(P2006−214501)
【出願日】平成18年8月7日(2006.8.7)
【分割の表示】特願2001−327742(P2001−327742)の分割
【原出願日】平成13年10月25日(2001.10.25)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】