説明

試料の断面形成方法、固定用治具および測定方法

【課題】迅速かつ高精度な測定を実現する試料の断面形成方法、固定用治具および測定方法、を提供する。
【解決手段】試料の断面形成方法は、減衰全反射法を利用した赤外分光法において、フィルム状の試料21に測定用断面22を形成するための方法である。試料の断面形成方法は、試料21を補強用シート31間に配置するステップと、補強用シート31に対してその両側から試料21を挟み込む方向の外力を作用させるステップと、補強用シート31に外力を作用させた状態で、補強用シート31の端部を試料21ごと除去することによって、試料21に測定用断面22を得るステップとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般的には、試料の断面形成方法、固定用治具および測定方法に関し、より特定的には、減衰全反射法を利用した赤外分光法に適用される、試料の断面形成方法、固定用治具および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の試料の断面形成方法に関して、たとえば、特開昭57−14737号公報には、断面状態の正確な試料を容易かつ短時間に作成することを目的とした、シートまたはフィルムの断面観察試料の作成方法が開示されている(特許文献1)。特許文献1に開示された断面観察試料の作成方法においては、観察すべきシートの両面に、常温硬化型の速乾性接着剤を介して補強用シートを積層する。接着剤が硬化した後、観察すべき端面を超ミクロトームにより切断することによって観察面を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭57−14737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
有機化合物などから形成される試料に赤外線を照射し、透過もしくは反射光を分光することによってスペクトルを得て、試料の分子構造や状態を測定する赤外分光法が知られている。この赤外分光法においては、屈折率の大きい媒質結晶、代表的にはGe(ゲルマニウム)クリスタルを通じて試料に赤外線を照射する減衰全反射法が利用されている。減衰全反射法を利用する場合、試料に媒質結晶を押し当てる必要があるため、試料が薄肉のフィルム状であると、試料が曲がってしまい測定が実施できないという問題がある。
【0005】
このような問題に対しては、試料をエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂に埋め込み、試料の断面が露出するように樹脂を加工する方法が挙げられる。しかしながら、この方法においては、熱硬化性樹脂の硬化に長時間を要するといった問題や、熱硬化性樹脂が試料の表面を溶解するといった新たな問題が生じ、結果して、迅速かつ高精度な測定が実現されない。
【0006】
そこでこの発明の目的は、上記の課題を解決することであり、迅速かつ高精度な測定を実現する試料の断面形成方法、固定用治具および測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明に従った試料の断面形成方法は、減衰全反射法を利用した赤外分光法において、フィルム状の試料に測定用の断面を形成するための試料の断面形成方法である。試料の断面形成方法は、試料をシート部材間に配置するステップと、シート部材に対してその両側から試料を挟み込む方向の外力を作用させるステップと、シート部材に外力を作用させた状態で、シート部材の端部を試料ごと除去することによって、試料に測定用の断面を得るステップとを備える。
【0008】
このように構成された試料の断面形成方法によれば、試料をその両側からシート部材で挟み込む形態により強固に固定することができる。これにより、減衰全反射法を利用した赤外分光法による測定時に、試料が変形することを防止できる。また、シート部材に対して試料を挟み込む方向の外力を作用させることによって試料を固定するため、試料の固定に要する時間を短縮することができる。したがって、本発明によれば、迅速かつ高精度な測定を実現することができる。
【0009】
また好ましくは、シート部材は、試料とは異なる材質から形成される。このように構成された試料の断面形成方法によれば、試料の両側に配置されるシート部材に起因して試料の測定精度が低下することを防止できる。
【0010】
また好ましくは、シート部材は、樹脂材料から形成される。このように構成された試料の断面形成方法によれば、シート部材と試料との密着性を向上させることで、試料をシート部材間により強固に固定することができる。また、試料に測定用の断面を得るステップ時にシート部材の端部を容易に除去することができる。したがって、試料の測定をより迅速かつ高精度に実施することができる。
【0011】
また好ましくは、試料をシート部材間に配置するステップは、シート部材間の一部に配置した接着部材によって、試料をシート部材間に仮固定するステップを含む。試料の断面形成方法は、試料に測定用の断面を得るステップの前に、外力を作用させた状態のシート部材から、接着部材が配置されたシート部材の一部を切り離すステップをさらに備える。
【0012】
このように構成された試料の断面形成方法によれば、接着部材を用いて試料をシート部材間に仮固定することによって、シート部材に外力を作用させるまでの間、試料とシート部材とを一体に取り扱うことができる。また、シート部材に外力を作用させた後は、その外力によって試料がシート部材間に固定されるため、シート部材から接着部材が配置されたシート部材の一部を切り離す。
【0013】
また好ましくは、シート部材に外力を作用させるステップは、シート部材の両側に挟持部材を配置し、挟持部材を互いに近接させることによって、シート部材に試料を挟み込む方向の外力を作用させるステップを含む。このように構成された試料の断面形成方法によれば、シート部材の両側に配置された挟持部材によって、試料をその両側からシート部材で挟み込む形態を得ることができる。
【0014】
また好ましくは、シート部材の両側に挟持部材を配置するステップは、試料を挟み込んだシート部材の一部が挟持部材間から突出するように、シート部材の両側に挟持部材を配置するステップを含む。試料に測定用の断面を得るステップは、挟持部材間から突出する位置でシート部材の端部を試料ごと除去するステップを含む。このように構成された試料の断面形成方法によれば、挟持部材間から突出するシート部材間の試料の位置に、測定用の断面を得ることができる。
【0015】
この発明に従った試料の固定用治具は、上述に記載の試料の断面形成方法において用いられる。試料の固定用治具は、シート部材の両側に配置される挟持部材と、挟持部材に連結され、挟持部材間の距離が変化するように挟持部材を移動させる移動機構部とを備える。このように構成された試料の固定用治具によれば、移動機構部を操作することによって、挟持部材間の距離が近接するように挟持部材を移動させ、挟持部材からシート部材に所定方向の外力を加える。このため、試料の固定に要する時間を短縮し、試料の測定を迅速に実施することができる。
【0016】
この発明に従った試料の測定方法は、減衰全反射法を利用した赤外分光法による試料の測定方法である。試料の測定方法は、試料をシート部材間に配置するステップと、シート部材に対してその両側から試料を挟み込む方向の外力を作用させるステップと、シート部材に外力を作用させた状態で、シート部材の端部を試料ごと除去することによって、試料に測定用の断面を得るステップと、シート部材に外力を作用させた状態で、試料の測定用の断面に所定の屈折率を有する媒質結晶を当接させつつ、赤外線を媒質結晶を介して試料に照射するステップとを備える。
【0017】
このように構成された試料の測定方法によれば、減衰全反射法を利用した赤外分光法による試料の測定を、迅速かつ高精度に実施することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上に説明したように、この発明に従えば、迅速かつ高精度な測定を実現する試料の断面形成方法、固定用治具および測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】減衰全反射法を利用した赤外分光法による試料の測定を模式的に表わした図である。
【図2】図1中の測定装置において、試料を固定するためのホルダーを示す側面図である。
【図3】この発明の実施の形態における試料の断面形成方法および測定方法の流れを示すフローチャート図である。
【図4】図3中に示された試料の断面形成方法および測定方法の第1ステップを示す図である。
【図5】図3中に示された試料の断面形成方法および測定方法の第2ステップを示す図である。
【図6】図3中に示された試料の断面形成方法および測定方法の第3ステップを示す図である。
【図7】図3中に示された試料の断面形成方法および測定方法の第4ステップを示す図である。
【図8】図3中に示された試料の断面形成方法および測定方法の第5ステップを示す図である。
【図9】本実施の形態における試料の断面形成方法および測定方法が適用された測定事例の可視像を示す図である。
【図10】図9中の測定事例のイメージング像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
この発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下で参照する図面では、同一またはそれに相当する部材には、同じ番号が付されている。
【0021】
図1は、減衰全反射法を利用した赤外分光法による試料の測定を模式的に表わした図である。図1を参照して、本実施の形態における試料の断面形成方法は、減衰全反射法(ATR法:attenuated total reflection)を利用した赤外分光法(IR法:infrared spectroscopy)による試料の測定に用いられる。
【0022】
測定装置10は、その主要な構成部品として、光源12、検出器14およびクリスタル16を有する。光源12は、試料21に向けて赤外線を発する。検出器14は、試料21からの反射光を取り込み、スペクトルに変換する。
【0023】
クリスタル16は、試料21に形成された測定用断面22に当接して配置される。クリスタル16としては、屈折率の大きい媒質結晶、たとえば、屈折率n=4を有するゲルマニウム(Ge)の結晶が用いられる。光源12から発せられた赤外線は、クリスタル16を通過して試料21に向かう。赤外線は、測定用断面22から数μmの深さまで達し、試料21によって反射される。その反射光は、再びクリスタル16を通過して検出器14に向けて進行する。
【0024】
本実施の形態における測定装置10は、特に、高分解能(たとえば、分解能1,56μm)を有することによって、測定用断面22に赤外線が照射された領域の情報を2次元的にイメージとして表示することが可能である。すなわち、測定装置10によれば、空間分解能を伴った試料21の解析が可能である。一例を挙げると、測定装置10は、赤外線が照射された領域の試料21の材質を色分けして表示することが可能である。
【0025】
測定装置10は、主に、高分子の有機化合物の測定に用いられる。一例を挙げれば、試料21としては、テープ電線やFPC(flexible printed circuits)が挙げられる。テープ電線は、複数本の平角導体を樹脂層を介して積層した構造を有する。FPCは、銅基板上に接着剤を介してポリイミド樹脂を積層した構造、もしくは銅基板上にエポキシ樹脂を積層した構造を有する。そのほか、試料21としては、リチウムイオン電池などの電池において、電解質を収容するケース体と、そのケース体から延出する電極との間を封止する接合部が挙げられる。その接合部は、ポリプロピレン(PP)と、架橋ポリプロピレンとを積層した構造を有する。
【0026】
試料21は、薄肉のフィルム形状を有する。試料21は、クリスタル16を測定用断面22に当接させる測定時に、試料21単体では形状を保持できない程の薄肉のフィルム形状を有する。本発明は、試料の厚みが3mm以下である場合に好適に適用され、さらに1mm以下である場合により好適に適用される。
【0027】
図2は、図1中の測定装置において、試料を固定するためのホルダーを示す側面図である。図2を参照して、固定用治具としてのホルダー41は、挟持部材としてのブロック42pおよびブロック42q(以下、両者を特に区別しない場合には、ブロック42という)と、移動機構部としてネジ部44とを有する。ブロック42は、ブロック42pとブロック42qとの間の距離が変化するように移動可能に設けられている。ネジ部44は、ブロック42に連結されている。ネジ部44を操作することによって、ブロック42が移動し、ブロック42pとブロック42qとの間の距離が増減する。ネジ部44は、手動により操作されてもよいし、モータ等の駆動によって操作されてもよい。
【0028】
図1中の測定装置10による測定時、試料21はホルダー41によって固定される。試料21の固定には、補強用シート31pおよび補強用シート31q(以下、両者を特に区別しない場合には、補強用シート31という)が用いられる。試料21は、補強用シート31pと補強用シート31qとの間に配置された状態で、ブロック42pとブロック42qとの間に位置決めされる。ホルダー41は、ブロック42pとブロック42qとが互いに近接する方向の外力を補強用シート31に対して作用させる。これにより、試料21は、その両側から補強用シート31によって挟み込まれた状態で固定される。
【0029】
補強用シート31は、樹脂材料から形成されている。補強用シート31は、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などから形成されている。補強用シート31は、平面的に見た場合に、試料21よりも大きい面積を有する。
【0030】
試料21は、測定用断面22を有する。測定用断面22は、試料21の端部を試料21の厚み方向に沿って除去した場合に得られる除去面により形成されている。特に本実施の形態では、測定用断面22が、試料21の端部を試料21の厚み方向に沿って切断した場合に得られる切断面により形成されている。補強用シート31は、切断面32を有する。切断面32は、測定用断面22と同一平面上に延在している。
【0031】
ブロック42は、頂面43を有する。頂面43は、同一平面上に延在するように形成されている。頂面43は、たとえば、研磨工程によって仕上げられている。試料21は、測定用断面22が頂面43よりも突出した位置に配置されるように、ホルダー41によって固定されている。
【0032】
図3は、この発明の実施の形態における試料の断面形成方法および測定方法の流れを示すフローチャート図である。図4から図8は、図3中に示された試料の断面形成方法および測定方法の各ステップを示す図である。
【0033】
続いて、試料21に測定用断面22を形成する方法、および減衰全反射法を利用した赤外分光法により試料21を測定する方法について説明する。
【0034】
図3および図4を参照して、まず、測定の対象となる試料21と、その試料21の固定に用いられる補強用シート31とを準備する(S101)。
【0035】
本実施の形態では、試料21が1μm以上1000μm以下の範囲の厚みを有する。補強用シート31は、0.1mm以上0.5mm以下の範囲の厚みを有する。補強用シート31の材質としては、試料21を形成する材質とは異なる材質を選定する。たとえば、試料21がPET層を含む場合、補強用シート31の材質としてPEを選定する。このような選定を可能とするため、予め試料21の材質を特定するためのIR測定を実施してもよい。
【0036】
次に、補強用シート31を洗浄する(S102)。具体的には、補強用シート31の表面をアセトンなどを用いて拭き取る。
【0037】
次に、試料21を補強用シート31間に仮固定し、試料21の両側に補強用シート31が配置された積層体を得る(S103)。具体的には、接着部材としての接着テープ36を、試料21と補強用シート31pおよび補強用シート31qとの間にそれぞれ介挿させる。この際、平面的に見た場合の補強用シート31の周縁に位置する接着領域37に、接着テープ36を配置する。接着領域37を除いた、補強用シート31の接触領域38では、補強用シート31と試料21とが直接、接触する。
【0038】
図3および図5を参照して、次に、ホルダー41によって試料21を固定する(S104)。具体的には、ブロック42pとブロック42qとを十分に離した状態で、両者の間に、試料21が仮固定された補強用シート31を位置決めする。この際、接着テープ36によって接着された接着領域37が、ブロック42の頂面43から突出した位置に配置され、接触領域38がブロック42pとブロック42qとの間に配置されるように、補強用シート31を位置決めする。ネジ部44を操作し、ブロック42pとブロック42qとを互いに近接させることによって、補強用シート31に対して試料21を挟み込む方向の外力を作用させる。
【0039】
本実施の形態では、補強用シート31は樹脂材料から形成されるため、補強用シート31と試料21との密着性を向上させることができる。これにより、試料21を補強用シート31間により強固に固定することができる。
【0040】
図3および図6を参照して、次に、接着テープ36を補強用シート31から切り離す(S105)。具体的には、はさみなどを用いて、ブロック42から突出する補強用シート31を、接触領域38の適当な位置で切断する。これにより、接着領域37を含む補強用シート31が切り離され、ホルダー41には、ブロック42pおよびブロック42qからの外力を受ける補強用シート31pおよび補強用シート31qと、その外力によって補強用シート31pと補強用シート31qとの間に挟み込まれた試料21とが残る。
【0041】
図3および図7を参照して、次に、補強用シート31を試料21ごと切断することによって、試料21に測定用断面22を形成する(S106)。本実施の形態では、補強用シート31および試料21の切断に、ダイヤモンドカッター52を備えたミクロトーム51を用いる。この際、補強用シート31は樹脂材料から形成されるため、ダイヤモンドカッター52を欠けさせることなく、切断工程を容易に実施することができる。ミクロトーム51によって切断された試料21の切断面によって、測定用断面22が形成される。同時に、補強用シート31には、測定用断面22と同一平面上に延在する切断面32が形成される。
【0042】
測定用断面22と、ブロック42の頂面43(すなわち、ブロック42による試料21の固定端)との間の高さをH1とするとき、試料21を、H1が1mm以下となるように切断するのが好ましい。さらに、ブロック42によって挟み込まれた試料21の高さをH2とするとき、試料21を、H2>H1の関係を満たすように切断するのが好ましい。これらの場合、ブロック42から補強用シート31に加わる外力を測定用断面22の高さまで十分に作用させることができる。その結果、クリスタル16が測定用断面22に当接される試料21の測定時に、試料21と補強用シート31との間に隙間が生じることを効果的に抑制できる。
【0043】
また、補強用シート31の厚みBは、0.1mm以上0.5mm以下の範囲に設定されることが好ましく、たとえば、0.35mmに設定される。厚みBを0.1mm以上に設定することによって、補強用シート31の強度を十分に確保し、試料21の測定時に補強用シート31が変形することを効果的に抑制できる。また、厚みBを0.5mm以下に設定することによって、ミクロトーム51による補強用シート31の切断を容易に行なうことができる。
【0044】
なお、本実施の形態では、ミクロトーム51を用いた切断工程によって、試料21に測定用断面22を形成したが、本発明はこれに限られず、たとえば、試料21の端面を研磨することによって測定用断面22を形成してもよい。
【0045】
図3および図8を参照して、次に、試料21を固定したホルダー41を測定装置10内の適当な位置に設置し、クリスタル16を測定用断面22に当接させる。赤外線をクリスタル16を通じて測定用断面22に照射することによって、試料21の測定を実施する(S107)。
【0046】
以上に説明したように、本実施の形態における試料の断面形成方法および測定方法においては、試料21をその両側に配置された補強用シート31によって強固に固定する。このため、試料21の測定時にクリスタル16が測定用断面22に押し付けられた場合にも試料21が変形するということがない。
【0047】
また、補強用シート31による試料21の固定には、補強用シート31をその両側から力学的に支持するホルダー41が用いられる。このため、試料21を熱硬化性樹脂によって封止する場合と比較して、樹脂を硬化させるための時間を必要とせず、試料21の固定を迅速に実施することができる。また、試料21を熱硬化性樹脂によって封止する場合、硬化前の樹脂によって試料21が溶融するおそれがあるが、本実施の形態ではこのような懸念もない。
【0048】
また、本実施の形態では、補強用シート31を形成する材質として、試料21を形成する材質とは異なる材質が選定される。このため、試料21および補強用シート31間でIRスペクトルのピークが重畳するということがなく、試料21の測定を高精度に実施することができる。また、補強用シート31は、単に試料21を補強する部材として設けられているため、材質の特性として接着性などが要求されることがなく、材質の選定時の自由度を高めることができる。
【0049】
以上に説明した、この発明の実施の形態における試料の断面形成方法および測定方法についてまとめて説明すると、本実施の形態における試料の断面形成方法は、減衰全反射法を利用した赤外分光法において、フィルム状の試料21に測定用の断面としての測定用断面22を形成するための方法である。試料の断面形成方法は、試料21をシート部材としての補強用シート31間に配置するステップと、補強用シート31に対してその両側から試料21を挟み込む方向の外力を作用させるステップと、補強用シート31に外力を作用させた状態で、補強用シート31の端部を試料21ごと除去することによって、試料21に測定用断面22を得るステップとを備える。
【0050】
また、本実施の形態における試料の測定方法は、上記試料の断面形成方法が備えるステップに加えて、補強用シート31に外力を作用させた状態で、試料21の測定用断面22に所定の屈折率を有する媒質結晶としてのクリスタル16を当接させつつ、赤外線をクリスタル16を介して試料21に照射するステップをさらに備える。
【0051】
このように構成された、この発明の実施の形態における試料の断面形成方法および測定方法によれば、試料21はその両側に配置された補強用シート31によって強固に固定されるため、クリスタル16が当接される測定時に試料21が変形するということがない。このため、試料21の高精度な測定を実現することができる。また、試料21はホルダー41を用いて力学的に固定されるため、試料21の測定に至るまで準備作業を迅速に進めることができる。
【0052】
図9は、本実施の形態における試料の断面形成方法および測定方法が適用された測定事例の可視像を示す図である。図10は、図9中の測定事例のイメージング像を示す図である。
【0053】
図9および図10を参照して、本測定事例では、試料21に対してIR測定を実施し、試料21の材質を2次元的に色分けして表示した。この際、補強用シート31として、厚み200μmのPE樹脂製のシートを用いた。図7中のH1が1mm以下となるように、試料21を補強用シート31によって挟持した。図9中では、クリスタル16が試料21の測定用断面22に当接される範囲が2点鎖線によって示されている。
【0054】
IR測定の結果、図10中に示すように、試料21の測定用断面22が、PET層を示す領域61と、共重合ポリエステル+水酸化アルミニウム層を示す領域62とに色分けして表わされた。また、測定に際して、補強用シート31と試料21との間に隙間が生じないことが確認された。なお、H1が1mmよりも大きい場合には、補強用シート31と試料21との間に隙間が生じることが確認された。
【0055】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0056】
この発明は、主に、減衰全反射法を利用した赤外分光法による、フィルム状の試料の測定に利用される。
【符号の説明】
【0057】
10 測定装置、12 光源、14 検出器、16 クリスタル、21 試料、22 測定用断面、31,31p,31q 補強用シート、32 切断面、36 接着テープ、37 接着領域、38 接触領域、41 ホルダー、42,42p,42q ブロック、43 頂面、44 ネジ部、51 ミクロトーム、52 ダイヤモンドカッター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減衰全反射法を利用した赤外分光法において、フィルム状の試料に測定用の断面を形成するための試料の断面形成方法であって、
試料をシート部材間に配置するステップと、
前記シート部材に対してその両側から試料を挟み込む方向の外力を作用させるステップと、
前記シート部材に前記外力を作用させた状態で、前記シート部材の端部を試料ごと除去することによって、試料に測定用の断面を得るステップとを備える、試料の断面形成方法。
【請求項2】
前記シート部材は、試料とは異なる材質から形成される、請求項1に記載の試料の断面形成方法。
【請求項3】
前記シート部材は、樹脂材料から形成される、請求項1または2に記載の試料の断面形成方法。
【請求項4】
前記試料をシート部材間に配置するステップは、前記シート部材間の一部に配置した接着部材によって、試料を前記シート部材間に仮固定するステップを含み、
前記試料に測定用の断面を得るステップの前に、前記外力を作用させた状態の前記シート部材から、前記接着部材が配置された前記シート部材の一部を切り離すステップをさらに備える、請求項1から3のいずれか1項に記載の試料の断面形成方法。
【請求項5】
前記シート部材に外力を作用させるステップは、前記シート部材の両側に挟持部材を配置し、前記挟持部材を互いに近接させることによって、前記シート部材に試料を挟み込む方向の外力を作用させるステップを含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の試料の断面形成方法。
【請求項6】
前記シート部材の両側に挟持部材を配置するステップは、試料を挟み込んだ前記シート部材の一部が前記挟持部材間から突出するように、前記シート部材の両側に前記挟持部材を配置するステップを含み、
前記試料に測定用の断面を得るステップは、前記挟持部材間から突出する位置で前記シート部材の端部を試料ごと除去するステップを含む、請求項5に記載の試料の断面形成方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の試料の断面形成方法において用いられる試料の固定用治具であって、
前記シート部材の両側に配置される前記挟持部材と、
前記挟持部材に連結され、前記挟持部材間の距離が変化するように前記挟持部材を移動させる移動機構部とを備える、試料の固定用治具。
【請求項8】
減衰全反射法を利用した赤外分光法による試料の測定方法であって、
試料をシート部材間に配置するステップと、
前記シート部材に対してその両側から試料を挟み込む方向の外力を作用させるステップと、
前記シート部材に前記外力を作用させた状態で、前記シート部材の端部を試料ごと除去することによって、試料に測定用の断面を得るステップと、
前記シート部材に前記外力を作用させた状態で、試料の測定用の断面に所定の屈折率を有する媒質結晶を当接させつつ、赤外線を前記媒質結晶を介して試料に照射するステップとを備える、試料の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−242327(P2011−242327A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116229(P2010−116229)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】