説明

試料ホルダー

【課題】ラマン分光分析装置の測定部分に、断面切削装置で断面出しを行った分析用の試料を的確に装着できるようにした試料ホルダーの提供を目的とする。
【解決手段】
試料を固定するための試料台と、この試料台を一部で保持させながらラマン分光分析装置の測定部分に装着するための試料台支持体とを少なくとも備え、かつ試料台は試料固定部とそれに連設されている取付け部とを少なくとも有するものであると共に、試料を切削して測定用断面を形成するための断面切削装置の試料台も兼ねていて、その取付け部を試料台支持体の一部に設けてある嵌合部に嵌合させ、断面切削装置で断面出しを行った試料を固定したままラマン分光分析装置の測定部分に着脱自在に装着できるようになっており、測定部分に一旦装着した後に試料の切削断面がラマン分光分析装置の測定用レーザー光の光軸に対して直交する面と一致するようにその装着位置が微調整できるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマン分光分析装置の測定部分に、断面切削装置で断面出しを行った分析用の試料を的確に装着できるようにした試料ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
顕微レーザーラマン分光分析法は、様々な試料の微小分析を行うことができ、様々な構造情報が得られる分析手法であり、機能性フィルムなどの多層構造を持つフィルム、シート類の構成分析に応用されている。
【0003】
多層構造を持つ試料の顕微レーザーラマン分光分析は、まず断面切削装置で試料の断面出しを行い、しかる後にその断面に対して測定を行う方法が一般的である。この際、更にマッピング、イメージングといった方法を活用することで、各層の膜厚や層の成分変化の様子などの有意な情報が、簡便な操作で、かつ短い測定時間で得られるようになる。
【0004】
マッピング、イメージングとは、目的とする測定範囲を予め設定しておいた間隔でずらしながら、自動で連続的に測定していく方法である。従って、精細な結果が得られるように、測定面が全てラマン分光分析装置のレーザー光の光軸と直交する平面上にあり、同じ焦点深度に保たれていることが望ましい。
【0005】
ラマン分光分析においては、これまでは、断面切削装置で断面出しを行った試料を、断面切削装置用試料ホルダーから取り外し、しかる後にラマン分光測定装置用の試料台に固定するか、または断面切削装置用の試料ホルダーに固定したまま、ラマン分光分析装置のレーザー光の光軸に対して直交する面に測定試料の測定面が位置するように装着し、分析が行われている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−4545号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、前者の方法では、断面切削装置用の試料ホルダーから取り外した試料の切削断面をレーザー光の光軸に対し直交する平面と一致させ、同じ焦点深度を保つようにしてラマン分光測定装置の試料台に装着するには技術と時間を要し、また測定の過程で焦点ずれが起きやすい。
【0007】
一方、断面出しを行った試料を断面切削装置用の試料ホルダーから取り外さず、ラマン分光分析装置に装着すれば、試料の切削断面をレーザー光の光軸に直交する面に位置させることが一応は可能であるが、ラマン分光分析装置に的確に試料の分析面を位置させることは難しく、マッピング、イメージングの測定において測定箇所を移動させる際に、位置ずれや試料ホルダーの転倒が生じるという危険性がある。
【0008】
さらに、高倍率でマッピング、イメージングの測定を行うには、測定範囲において焦点深度が一定となるように、レーザー光の光軸と直交する面に試料の切削断面を位置させる必要があるが、断面切削装置や試料ホルダー、ラマン分光分析装置の試料台等の全てがそのために必要な精度を有して製造され、組立てられているとは限らない。したがって、このような状況に対応するため、試料の断面切削を行った後に試料ホルダーから試料を取り外さず、試料ホルダーに固定したままラマン分光分析装置に装着したとき、レーザー光の光軸と試料の測定面とが直交するように微妙な傾斜補正ができるようにしておく必要がある。しかしながら、上記のいずれの方法においても、このような測定面の位置調整は容易
ではない。
【0009】
本発明は以上のような状況の下になされたものであって、試料台に固定されている分析用の試料に対して断面切削装置で断面出しを行った後、試料を試料台から取り外すことなく、試料を固定したままの試料台を試料台支持体の一部に嵌合させ、一体化させて試料ホルダーとし、これをラマン分光分析装置の測定部分に着脱可能な状態で取付け、しかも試料ホルダー取付け後にそこに固定されている試料の測定面がラマン分光分析装置のレーザー光の光軸と直交するように装着状態を微調整できるようにし、的確なラマン分光分析が行えるようにした、ラマン分光分析用の試料ホルダーの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上のような課題を解決するためになされ、請求項1に記載の発明は、ラマン分光分析装置に分析用の試料を装着するための試料ホルダーであって、試料を固定するための試料台と、この試料台を一部で保持させながらラマン分光分析装置の測定部分に装着するための試料台支持体とを少なくとも備え、かつ試料台は試料固定部とそれに連設されている取付け部とを少なくとも有するものであると共に、試料を切削して測定用断面を形成するための断面切削装置の試料台も兼ねていて、その取付け部を試料台支持体の一部に設けてある嵌合部に嵌合させ、断面切削装置で断面出しを行った試料を固定したままラマン分光分析装置の測定部分に着脱自在に装着できるようになっており、測定部分に一旦装着した後に試料の切削断面がラマン分光分析装置の測定用レーザー光の光軸に対して直交する面と一致するようにその装着位置が微調整できるようになっていることを特徴とするラマン分光分析用の試料ホルダーである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、断面切削装置で切削した分析用試料の切削断面を、レーザー光の光軸に対し直交する平面と一致する状態でラマン分光分析装置の測定部分に安定かつ容易に位置させることができ、マッピング、イメージング測定の際、焦点深度ずれや位置ずれを生じさせることなく、精度の高いラマン分光分析を行うことが可能になる。
【0012】
また、本発明によれば、ラマン分光分析装置に新たな装備を付設したり新たな手段を講じることなく、分析精度を保持しつつ、簡便かつ安価に、試料に対する様々なラマン分光分析を行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1には本発明に係る試料ホルダーの概略の構成が示してある。また、図2にはこのような構成の試料ホルダーの断面状態と、ラマン分光分析装置の測定部分に試料ホルダーを装着した後に行われる装着位置の微調整の様子が示してある。さらに図3には、試料ホルダーの試料台支持体を構成する上部支持板と下部支持板の概略の構成が示してある。
【0014】
図1に示すように、本発明の試料ホルダーは、分析用の試料を固定するための試料台2と、この試料台2に試料を一部で保持しながらラマン分光分析装置の測定部分に装着するための試料台支持体6とを少なくとも備え、かつ試料台2は試料固定部2aとそれに連設されている取付け部2bとを少なくとも有するものであると共に、試料を切削して測定用断面を形成するための断面切削装置の試料台も兼ねている。そして、その試料台支持部6の一部に設けてある嵌合部6c、6c′に試料台2の取付け部2bを嵌合させ、断面切削装置で断面出しを行った試料を固定したままラマン分光分析装置の測定部分に着脱自在に装着できるようになっている。
【0015】
また、試料台2は試料台支持体6に取付け部2bで嵌合させた状態で任意の角度で回転できるようになっている。
【0016】
さらにまた、この試料ホルダーは、ラマン分光分析装置の測定部分に一旦装着した後に試料の切削断面がラマン分光分析装置の測定用のレーザー光の光軸に対して直交する面と一致するようにその装着位置が微調整できるようになっている。
【0017】
分析用の試料に対して断面出しを行うには、まず、試料固定用ネジ8を締めることにより試料1を試料固定部2aの一部と試料固定板9の間に固定させ、しかる後に断面切削装置本体3の試料台固定部4にその取付け部2bを嵌め込んで固定する。
【0018】
図4に示す断面切削装置においては、試料台固定部4の凹みに試料台2に連設されている筒状の取付け部2bを差し込み、ネジなどの補助具を用いて固定し、試料台2に固定した試料1の切削面が垂直になるように断面切削装置本体3に装着されるようになっている。
【0019】
断面切削装置の試料台固定部4に固定された試料台2は試料1を固定したまま上下前後に移動するようになっており、試料台2に固定した試料1の先端が上から下へ移動する際、試料台固定部4の前面に設置した切削用ナイフ5の先端に接触して試料に対して切削が行われる。切削後は、試料台固定部4は試料1の先端に切削用ナイフ5が再接触することを避けるため、わずかな隙間をあけて後退した後に下から再度上に戻ると共に、切削用ナイフ5は切削毎に、切削された厚みに応じて試料1の方向に前進するようになっている。
【0020】
このようにして試料の断面出しを行った後、試料を取付けた試料台2を断面切削装置から取外し、図1に示すように、試料台支持体6の上部支持板6aと下部支持板6bの嵌合部6c、6c′に取付け部2bを嵌合させ、さらにその状態でラマン分光分析装置の測定部分に装着する。
【0021】
ラマン分光分析装置の測定部分に試料ホルダーが装着されたら、ラマン分光測定を行い、所定の分析を行えばよいが、試料の断面出しを行った測定面がラマン分光分析装置のレーザー光の光軸に対して直交する面にセットされていないときには、試料ホルダーのセット位置を調整する必要がある。本発明の試料ホルダーはこのような位置調整が可能な構造となっている。
【0022】
すなわち、試料台支持体6は上部支持板6aと下部支持板6b、およびこれらの支持板の相対的な高さを調節するための位置調整用脚7からなると共に、上部支持板6aと下部支持板6bのそれぞれには、断面切削装置の試料台2と兼用の試料台2の取付け部2bを嵌合させて所定位置で固定するための円形の嵌合部6c、6c′が設けてある。嵌合部6cは上部支持板6aを貫通する穴でもよいし、凹みであってもよい。また、嵌合部6cは、試料台の取付け部を嵌合させる際に、ずれや誤差が生じない限りにおいて、その大きさや形成位置を自由に設定してよい。
【0023】
またそれぞれの取付け板も、ラマン分光分析装置の試料装着部分におけるレーザー光の光軸上に対して、ずれや誤差を生じさせずに試料の測定面の微調整が可能であるならば、その大きさ、形状、材質等はラマン分光分析装置の測定部分の状態を考慮して自由に決定してよい。
【0024】
試料台支持体6の上部支持板6aには更に、位置調整用脚7が四隅に取り付けられるよう、上部支持板6aを貫通する穴6a′(脚支持部)が設けてある。位置調整用脚7には、図示の例では、高さの調整を容易にするためにネジが切られている。そして、試料台支持体6の下部支持板6bには、上部支持板6aの四隅に取り付ける位置調整用脚7に対応する位置に脚部固定用凹み6b′(脚支持部)が設けてある。この凹み6b′は下部支持板6bを貫通した穴であってもよい。
【0025】
一方、上部支持板6aの一部に設けてある嵌合部6cが、上部支持板6aを貫通した穴である場合、必要に応じ、それと対峙する位置に嵌合部6cよりやや径の大きい嵌合部6c′が設けてあってもよい。この取付け部取付け用の嵌合部6bは貫通し穴でなく凹みとしてもよい。図2には貫通した穴の例が示してある。
【0026】
本発明の試料ホルダーは、上述したように、その一部を構成する試料台支持体6が上部支持板6aと下部支持板6bとを有し、それらの一部には嵌合部6c、6c′と、位置調整用脚7並びに脚支持部6a′、6b′とが設けられていて、これらが協働してラマン分光分析装置での試料の装着位置の微調整を可能としている。
【0027】
すなわち、四隅に設けた位置調整用脚7を締めたり緩めたりすることにより、上部支持板6aの傾きを変え、さらに試料台2を回転させることにより、試料台2に固定されている試料1の測定面がレーザー光の光軸に対して直交する面に位置するように微調整できるようになっている。
【0028】
レーザー光の光軸方向が上下でなく、測定装置に試料ホルダーを立てた状態で設置する必要がある場合などは、10aや10bのような補助具を用い、試料台支持体6を貫通した試料台2の取付け部2bに補助具の間に試料台支持体6を挟むような形で固定するのでもよい。
【0029】
本発明の試料ホルダーが装着されるラマン分光分析装置は特に限定されるものではなく、光源として直線偏光のレーザーを用いることが可能で、試料を設置する試料室のほか、分光器および集光光学系、検出器、データ処理装置などから構成される一般的なものであれば、いずれのものでもよい。またレーザー光源や分光器、検出器の種類、測定条件も、測定に支障をきたさない限り、任意に選んでよい。
【0030】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0031】
加工が容易で安価であることから、材料としてアルミニウムを用い、形状を、測定に用いた顕微レーザーラマン分光分析装置の試料設置部に保持しやすいように、市販のスライドグラスの形状と同じ矩形(長さ76mm×幅26mm)とし、厚さは、折れや歪みといった変形を防ぐために1.5mmとし、上部支持板6aと下部支持板6bを作成した。
【0032】
そして、試料台支持体を構成する上部支持板6aの嵌合部6cは、最も加工が容易である貫通穴とし、上部支持板6aの中央に設けた。この嵌合部6cに対応し、下部指示板6bの中央部にも、同様に下部支持板6bを貫通する穴を設け、嵌合部6c′とした。
【0033】
そして、断面切削装置用の試料台も兼ねる試料台2の取付け部2bを上部支持板6aの嵌合部6cに上から挿し込んで嵌合させ、試料ホルダーとして一体化した。
【0034】
試料台支持体6の位置調整用脚7としては、安定性を考慮して、市販の長さ6mm×径2mmの短いネジを用いた。また、上部支持板6aを貫通する脚部固定用穴(脚支持部)6a′には、取り付ける位置調整用脚7の径、ネジ山に合わせてねじを切り、下部支持板6bの位置調整用脚固定用凹み(脚支持部)6b′にも、位置調整用脚7の径、ネジ山に合わせてねじを切った。得られた試料ホルダーは位置調整用脚7を回動させることによって、試料台支持体6の一部に嵌合して固定してある試料台の切削断面を適宜に傾斜させ、分析対象となる試料の切削断面をラマン分光分析装置のレーザー光の光軸に直交する面に
正確に位置させることができた。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、多層構造を持つフィルムやシート等の層断面部分における構成や配向性などを求めるためのラマン分光分析に際し、ラマン分光分析装置に、付加的な装備や手段を施すことなしにラマン分光分析を簡便、かつ分析精度を保持しつつ行うことが可能となり、測定における操作の簡便化、効率化、装置の低コスト化に寄与することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る試料ホルダーの概略の構成を示す説明図である。
【図2】本発明に係る試料ホルダーの断面の構成と試料台取付け補助具の構成、ならびにラマン分光分析装置の測定部分に試料ホルダーを装着した後に行われる装着位置の微調整の様子を示す説明図である。
【図3】試料ホルダーの試料台支持体を構成する上部支持板と下部支持板の概略の構成を示説明図である。
【図4】断面切削装置により断面出しを行っている状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1…試料
2…試料台
2a…試料台の試料固定部
2b…試料台の取付け部
3…断面切削装置本体
4…試料台固定部
5…切削用ナイフ
6…試料台支持体
6a…上部支持板
6a′…上部支持板の脚支持部
6b…下部支持板
6b′…下部支持板の脚支持部
6c…上部支持板の嵌合部
6c′…下部支持板の嵌合部
7…位置調整用脚
8…試料固定用ネジ
9…試料固定板
10a、10b…断面切削装置用試料ホルダー固定用補助具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラマン分光分析装置に分析用の試料を装着するための試料ホルダーであって、試料を固定するための試料台と、この試料台を一部で保持させながらラマン分光分析装置の測定部分に装着するための試料台支持体とを少なくとも備え、かつ試料台は試料固定部とそれに連設されている取付け部とを少なくとも有するものであると共に、試料を切削して測定用断面を形成するための断面切削装置の試料台も兼ねていて、その取付け部を試料台支持体の一部に設けてある嵌合部に嵌合させ、断面切削装置で断面出しを行った試料を固定したままラマン分光分析装置の測定部分に着脱自在に装着できるようになっており、測定部分に一旦装着した後に試料の切削断面がラマン分光分析装置の測定用レーザー光の光軸に対して直交する面と一致するようにその装着位置が微調整できるようになっていることを特徴とするラマン分光分析用の試料ホルダー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−112776(P2010−112776A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283972(P2008−283972)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】