説明

試料加工方法及び装置

【課題】荷電粒子ビーム装置により、簡易なプロセスにより急峻なエッジの膜を形成する。
【解決手段】デポジション加工を行った際に形成されたハロー成分33の形状から、当該ハロー成分33を除去した時に急峻なエッジとなるような、加工目標のイオンビーム照射プロファイル(ドーズ分布)を得る。そして、エッチングを行う際のイオンビーム1照射当りのドーズ分布を用いて、加工の目標とするドーズ分布に近似するよう、イオンビームの照射位置及びドーズ分布を算出する。ガラス基板34へエッチング用ガスを吹き付けながら、算出された照射位置及びドーズ分布に従ってイオンビームを照射し、エッチング加工を行う。これにより、ドーズ分布35のようにイオンビームが照射され、デポジション膜32に対し急峻なエッジが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームを用いた試料加工方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、イオンビームや電子ビームなどの荷電粒子ビーム(以下、単に「ビーム」ともいう)を用いて試料の加工が行われている。照射されるビームには広がりあるため、例えば、デポジション加工を用いてフォトマスクの白欠陥修正を行う際には、ビームプロファイルのテール部分に起因して、エッジの外側に裾をひいたような薄い膜であるハロー成分が生じてしまう。ところが、近年、半導体デバイスなどの試料のパターンは微細化されてきており、このハロー成分が大きな問題となってきている。そこで、このハロー成分を、荷電粒子ビームアシストエッチングにより除去し、透過率を向上させる技術がある(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1の技術では、ハロー成分や再付着成分の形状をAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)などにより認識し、局所的なドーズコントロール(ビームの照射位置と、その照射位置に照射すべきビーム量のコントロール)によってハロー全体にビームを照射して除去加工を行っていた。
【特許文献1】特開2004−279461号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、マスク露光時の露光照射ビームのフォーカス位置がずれた状態で露光したときの露光特性(デフォーカス特性)は、露光波長の短波長化に伴い、近年、要求が厳しくなっている。高いデフォーカス特性を得るためのマスクは、遮光部分であるパターン膜のエッジが急峻でなければならない。これよりマスク修正については、白欠陥修正の場合、単純にハロー成分を除去するだけではなく、エッジを急峻にしなければならない。しかし、上述するように、除去すべきハロー成分へビーム照射を行うだけでは、急峻なエッジを得ることはできない。また、従来の技術のように、AFMによりハロー成分や再付着成分の形状を認識して除去加工を行う方法では、加工を行うための荷電粒子ビーム装置とは異なる別の装置により加工対象部分の測定を行わなければならないため、プロセスが複雑になり、処理効率が悪くなってしまう。加えて、より微細なパターンの試料を加工する必要性も生じている。
【0004】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、簡易なプロセスにより急峻なエッジの膜を試料に形成することができる試料加工方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記の課題を解決すべくなされたもので、荷電粒子ビームを用いて試料の加工を行う試料加工方法において、デポジション加工により形成した膜のハロー成分の形状に対応して前記ハロー成分をエッチングにより除去した時に急峻なエッジを形成するためのドーズ分布を得、このドーズ分布に従って当該膜に荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行う、ことを特徴とする試料加工方法である。
【0006】
また、本発明は、荷電粒子ビームを用いて試料の加工を行う試料加工方法において、単独に形成した膜のハロー成分の形状に対応して急峻なエッジを形成するためのドーズ分布を得、このドーズ分布に従って当該膜に荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行う、ことを特徴とする試料加工方法である。
【0007】
また、本発明は、上述する試料加工方法であって、エッチング加工領域の両端部分については、予め決められた両端部分加工用のドーズ分布に従って荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行い、加工領域の両端部分を挟んだ直線部分については、予め決められた直線部分加工用のドーズ分布を直線方向に繰り返したドーズ分布に従って荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行う、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、上述する試料加工方法であって、1照射当りの荷電粒子ビームのドーズ分布と、前記ハロー成分の形状とから、当該ハロー成分の形状に対応して急峻なエッジを形成するためのドーズ分布となるよう荷電粒子ビームの照射位置及び当該照射位置で照射すべきドーズ量を算出し、この算出した照射位置及びドーズ量に基づいて荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行う、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上述する試料加工方法であって、前記ハロー成分の形状は、膜の形成を行ったときの荷電粒子ビームの照射位置及び当該照射位置におけるドーズ量から得ることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、荷電粒子ビームを用いて試料の加工を行う試料加工装置において、デポジション加工により形成した膜のハロー成分の形状に対応して急峻なエッジを形成するためのドーズ分布を得、このドーズ分布に従って当該膜に荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行うよう制御する走査制御手段、を有することを特徴とする試料加工装置である。
【0011】
また、本発明は、荷電粒子ビームを用いて試料の加工を行う試料加工装置において、単独に形成した膜のハロー成分の形状に対応して急峻なエッジを形成するためのドーズ分布を得、このドーズ分布に従って当該膜に荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行うよう制御する走査制御手段、を有することを特徴とする試料加工装置である。
【0012】
また、本発明は、上述する試料加工装置であって、両端部分加工用及び直線部分加工用のドーズ分布のデータを記憶する記憶手段をさらに有し、前記走査制御手段は、エッチング加工領域の両端部分については、前記記憶手段から読み出した両端部分加工用のドーズ分布に従って荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行い、加工領域の両端部分を挟んだ直線部分については、前記記憶手段から読み出した直線部分加工用のドーズ分布を直線方向に繰り返したドーズ分布に従って荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行うよう制御する、ことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上述する試料加工装置であって、1照射当りの荷電粒子ビームのドーズ分布と、前記ハロー成分の形状とから、当該ハロー成分の形状に対応して急峻なエッジを形成するドーズ分布とするための荷電粒子ビームの照射位置及び当該照射位置で照射すべきドーズ量を算出する算出手段をさらに有する、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、加工領域を設定する工程と、設定した前記加工領域に対して実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量を設定する工程と、設定した前記実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量に従って荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行う工程とを有する試料加工方法において、前記実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量を設定する前記工程は、初期値として前記加工領域への予測ドーズ分布を設定し、前記予想ドーズ分布が加工目標のドーズ分布に近似するように逆変換して実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量を算出することを含むことを特徴とする試料加工方法である。
【0015】
また、本発明は、加工領域を設定する手段と、設定した前記加工領域に対して実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量を設定する手段とを有し、設定した前記実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量に従って荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行う試料加工装置において、前記実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量を設定する前記手段には、初期値として前記加工領域への予測ドーズ分布を設定し、前記予想ドーズ分布が加工目標のドーズ分布に近似するように逆変換して実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量を算出する手段を有することを特徴とする試料加工装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、荷電粒子ビーム装置を用いた試料加工において、他の装置によるハロー成分の観察の必要がなく、また、簡易なプロセスにより効率よく、急峻なエッジの膜を得ることが可能となる。膜のエッジを急峻することにより、白欠陥修正した箇所も高いデフォーカス特性が得られるマスクを提供することができる。また、単独で膜を生成した場合も、膜の幅が小さくても急峻なエッジを持つ膜を生成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0018】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態による試料加工装置としての荷電粒子ビーム照射装置の全体構成図を示す。1はイオン源であってイオンビーム2を発する。3は走査電極であってX及びY電極からなり、イオンビーム2の試料であるマスク8上への照射スポットをXY平面内で所定範囲にわたり走査するものである。4は対物レンズであってイオンビーム2のスポットを被照射物であるマスク8の表面に結像させる。5はガス銃であってマスク8の白色欠陥部位を修正する場合はデポジションガスである有機化合物蒸気6を吹き付け、同時にイオンビーム2を白色欠陥部位に限定的に走査しながら照射し、遮光性の膜をつけ白色欠陥を修正する。
【0019】
また、黒色欠陥部位の修正においてはガス銃15からエッチング用ガスを不要付着部に吹き付け、同時にイオンビーム2を限定的に照射し、エッチング除去を行い修正する。9はXYステージであってマスク8を載置してXまたはY方向に移動する。10は検出器であってマスク8の表面からイオンビーム2の照射により発生した二次荷電粒子7の強度を検出する。この二次荷電粒子強度の平面分布はマスク8の上に形成されているパターンに対応している。11は、A/D変換器であって二次荷電粒子強度というアナログ量をデジタルデータに変換する。このデジタルデータはコンピュータ13に取り込まれて、マスク8のパターン画像が拡大再生され、ディスプレイ14に表示される。12は走査回路であってコンピュータ13よりイオンビーム照射条件を受け取り、走査電極3の制御をする。
【0020】
図2は、図1に示すコンピュータ13の内部構成を示すブロック図であり、本発明と関係する機能ブロックのみ抽出して示してある。
制御手段21は、CPU(central processing unit)及び各種メモリから構成され、各部の制御や、データの一時的な格納や、データの転送等を行う。画像形成手段22は、検出器10により検出された二次荷電粒子7の強度を基に、マスク8の試料パターンの画像を形成する。出力手段23は、ディスプレイ14に画像を表示させる。入力手段24は、キーボードやマウスなどであり、操作者が入力した情報を取得するための機能を有する。記憶手段25は、各種データを記憶する。算出手段26は、イオンビーム2のビーム照射位置と、その照射位置におけるビーム照射量を算出する。走査制御手段27は、算出手段26が算出したビーム照射位置及びビーム照射量に従って、走査回路12を制御する。なお、加工及び観察の際、イオンビーム2は、ピクセルと呼ばれる単位領域毎に照射される。
【0021】
本実施の形態においては、白欠陥修正により、欠陥部分にデポジション加工をした後、加工形状のドーズ依存性に関するデータに基づいて、エッジを急峻にするためのエッチング加工を実施する。ここで、加工形状のドーズ依存性に関するデータとは、デポジション膜のハローの形状に対して、急峻なエッジが得られるようエッチング加工をするためのドーズ分布(ドーズプロファイル)のデータである。なお、ドーズ分布とは、イオンビームのドーズ量の分布を示し、ドーズ量とは、イオンビームの電流量と照射時間の積で決まるイオンビームの照射量である。
【0022】
図3は本実施形態によるエッチング加工について説明するための図である。図3(a)は、エッチング加工前のマスク8の断面図であり、ガラス基板34上に形成された遮光膜31に対して白欠陥修正を行うことによりデポジション膜32が形成され、このデポジション膜32には、裾をひいたような薄い膜であるハロー成分33がエッジの外側部分に形成されている。図3(b)は、ハロー成分33の形状に対応し、エッジの形状を急峻にするためにエッチング加工の際に照射されるイオンビーム2のプロファイルを示すドーズ分布35を示す図である。図3(c)は、図3(a)に示すマスク8に対して、図3(b)に示すドーズ分布5に従ってイオンビーム2を照射してエッチング加工された結果のマスク8の断面図を示す。図3(c)では、ハロー成分33が除去され、エッジが急峻になっている。つまり、図3(b)は、ハロー成分33をエッチングにより除去した時に、急峻なエッジを形成するためのドーズ分布である。
【0023】
本実施形態は、ビームの幅が20nm程度、膜の厚み(ガラス基板34から遮光膜31の高さ)が70〜100nm程度、膜の幅(遮光膜31の幅)が150nm〜250nm程度とする。このような場合でも、ビームの幅より一桁小さい数nmの精度で加工を行うことができる。
【0024】
また、本実施形態は、図4に示すように、単独に形成した遮光膜41にも適用される。イオンビーム2は広がりを持つため、膜の厚みを70〜100nm程度として単独に遮光膜41を生成した場合、形成される膜の幅は120nm程度となってしまう。そこで、単独に形成した遮光膜41の両エッジのハロー成分43を、図3と同様の方法により除去することにより、幅50〜60nm程度の遮光膜41に加工することが可能である。以下では、白欠陥修正によりデポジション膜32及びハロー成分33が形成された場合を例として記載するが、単独に形成した遮光膜のハロー成分のエッチング加工についても同様に行うことができる。
【0025】
次に、本実施の形態によるエッチング加工手順について説明する。
まず、荷電粒子ビーム装置により、マスク8に対してデポジション加工を行う。具体的には、遮光膜31のデポジション加工領域に、ガス銃5から有機化合物蒸気6を吹き付ける。有機化合物蒸気6はガラス基板34に吹き付けられて付着し、ある時間その付着位置に留まった後に蒸発する。そのため、照射するイオンビーム2が走査する間に適当量の有機化合物蒸気6が供給され、次の走査時にはこの供給された有機化合物蒸気6がポリマー化または炭化する。このようにしてデポジション膜32が堆積するように成長する。
【0026】
コンピュータ13の算出手段26は、デポジション加工において照射するイオンビーム2の照射位置及びドーズ量、ならびに、有機化合物蒸気6の量から、ガラス基板34上に形成されたハロー成分33の形状を算出する。さらに、算出手段26は、この算出したハロー成分33の形状からエッジを急峻とするための加工目標とするイオンビーム2の照射プロファイル(ドーズ分布)を得る。そして、エッチング加工を行う際のイオンビーム2の1照射当りのドーズ分布のデータを記憶手段25から読み出し、この読み出した1照射あたりのドーズ分布を用いて、加工の目標とするドーズ分布に近似するように、実際の加工に用いるイオンビーム2の照射位置及びドーズ量を算出する。走査制御手段27は、算出手段26の算出した照射位置及びドーズ量に従ったドーズコントロールを行いながら、ガラス基板34上へガス銃15からエッチング用ガスを吹き付け、イオンビーム2を照射するよう制御する。
【0027】
次に、算出手段26が、加工目標のドーズ分布に近似するように、実際の加工に用いるイオンビーム2の照射位置及びドーズ量を算出する方法について以下に示す。
図5は、ドーズ分布を説明するための図である。
イオンビーム2は、ピクセルと呼ばれる加工の単位領域毎に照射される。しかし、イオンビーム2は広がって照射されるため、あるピクセル内を照射中心としてイオンビーム2を照射した場合も、その照射の影響は周辺のピクセルに及ぶ。このときのイオンビーム2の照射中心から距離rの箇所におけるドーズ量は、関数f(r)で示される。この関数f(r)は、例えば、ガウシアン分布として近似することもできるが、実際にイオンビーム2を照射したときの測定結果から得てもよい。以下、縦i番目、横j番目のピクセルをPi,jとし、このピクセルPi,jにおけるイオンビーム2の照射中心からの距離をri,jとした場合、加工領域内のある箇所におけるドーズ量は、ビーム照射を行った全てのピクセルPi,jについてのf(ri,j)の総和として示される。
【0028】
例えば、簡単のため、ピクセルPi,jを照射中心としてドーズ量Di,jのイオンビーム2を1回照射した場合、ピクセルPi,jにはドーズ量Di,jのa%が、上下左右に隣接するピクセルP(i−1),j、Pi,(j−1)、Pi,(j+1)、P(i+1),jそれぞれにはドーズ量Di,jのb%が、斜めに隣接するピクセルP(i−1),(j−1)、P(i+1),(j−1)、P(i−1),(j+1)、P(i+1),(j+1)それぞれにはドーズ量Di,jのc%が照射されるとする。この場合、ピクセルP2,2のドーズ量は、(ドーズ量D2,2のa%)+(ドーズ量D1,2のb%)+(ドーズ量D2,1のb%)+(ドーズ量D2,3のb%)+(ドーズ量D3,2のb%)+(ドーズ量D1,1のc%)+(ドーズ量D1,3のc%)+(ドーズ量D3,1のc%)+(ドーズ量D3,3のc%)となる。
【0029】
上述するように、加工領域内の全てのピクセルそれぞれについてドーズ量を算出することにより、加工領域全体のドーズ分布を得ることができる。ドーズ量とデポジション膜の生成量との相関関係は既知であるため、算出手段26は、デポジション加工時のイオンビーム2の照射位置及びドーズ量からドーズ分布を算出し、この算出したドーズ分布、及び、ドーズ量とデポジション膜の生成量との相関関係からハロー成分33の形状を得ることができる。また、ドーズ量とハロー成分(デポジション膜)の除去量との相関関係も既知であるため、算出手段26は、ハロー成分33の形状、及び、ドーズ量とハロー成分(デポジション膜)の除去量との相関関係から、ハロー成分33を除去するための加工目標となるドーズ分布を得ることができる。なお、ドーズ量とデポジション膜の生成量との相関関係、及び、ドーズ量とハロー成分(デポジション膜)の除去量との相関関係は、記憶手段25内に予め記憶されているものとする。
【0030】
図6は、加工目標のドーズ分布に近似するように、逆変換により実際の加工に用いるイオンビーム2の照射位置及びドーズ量を算出する方法を説明するための図である。
算出手段26は、上述の方法によりハロー成分33の形状から加工目標のドーズ分布を算出する。ここでは、簡単のため、加工領域をi列目のピクセルのみであるものとして説明する。各ピクセルPi,jの加工目標ドーズ量をEi,jとすると、エッジが含まれる部分に対応したピクセルPi,2より遮光膜31側のピクセルPi,1の加工目標ドーズ量Ei,1は0となっている。なお、ピクセルPi,jを照射中心としてドーズ量Di,jのイオンビーム2を照射した場合、照射中心となったピクセルPi,jにはa%、隣接するピクセルPi,(j−1)、Pi,(j+1)にはb%が照射されるものとする。
【0031】
算出手段26は、各ピクセルPi,jを照射中心として照射すべきドーズ量Di,jの初期値を決定する。例えば、加工目標ドーズ量が0以外のピクセルPi,2、Pi,3、Pi,4を照射中心として、それぞれドーズ量Di,2、Di,3、Di,4のイオンビーム2を照射するものとし、ドーズ量Di,j×a%=加工目標ドーズ量Ei,jとなるよう初期値を決定する。そして、この仮定したドーズ量にて照射を行った場合の予想ドーズ分布を算出する。この予想ドーズ分布を構成する各ピクセルPi,jのドーズ量を予想ドーズ量E'i,jとする。同図においては、ピクセルPi,1の予想ドーズ量E'i,1は、ドーズ量Di,2のa%となり、ピクセルPi,1の予想ドーズ量E'i,2は、(ドーズ量Di,2のa%)+(ドーズ量Di,3のb%)となる。また、ピクセルPi,3の予想ドーズ量E'i,3は、(ドーズ量Di,2のb%)+(ドーズ量Di,3のa%)+(ドーズ量Di,4のb%)となる。
【0032】
このように算出した予想ドーズ分布と、加工目標のドーズ分布とをピクセル毎に比較し、所定より差分の大きなピクセルを特定する。そして、特定したピクセルを照射中心として照射すべきドーズ量を、当該ピクセルの予想ドーズ量が加工目標のドーズ量より大きければ、現在仮定しているドーズ量をより小さな値とし、小さければ現在仮定しているドーズ量をより大きな値として、各ピクセルPi,jを照射中心として照射すべきドーズ量Di,jを変化させ、再び予想ドーズ分布を算出する。
【0033】
上記で説明したように、イオンビーム2は広がりがあるため、加工目標のドーズ分布と予想ドーズ分布とは一致しない。算出手段26は、上記の計算を所定時間、所定回数、あるいは、加工目標のドーズ分布と予想ドーズ分布とが近似していると判定される所定の条件を満たすまで繰り返し、各ピクセルを照射中心にして照射すべきドーズ量を決定する。このときの予想ドーズ分布は、実際の加工で照射されるイオンビーム2のドーズ分布となる。走査制御手段27は、算出手段26により算出された、各ピクセルを中心に照射すべきドーズ量に従ってイオンビーム2を照射し、エッチング加工を行う。
複数の列に加工領域が及ぶ場合も、同様の処理手順により、どのピクセルを中心に、どれだけのドーズ量のイオンビーム2を照射すべきかを求めることができる。
【0034】
上記によれば、遮光膜31側のエッジを含むピクセルPi,2に隣接したピクセルPi,1については、加工目標のドーズ量Ei,1を0として逆変換を行うが、エッジ位置より内側のピクセルPi,1のドーズ量E'i,1は0にはならず、エッジよりも内側となるデポジション膜32まで加工が及ぶことになる。また、ハロー成分33の外側となるピクセルPi,5についても、加工目標のドーズ量Ei,5を0として逆変換を行うが、予想ドーズ量E'i,5は0にはならない場合もある。しかし、ガラス基板34自体に加工を及ぼすドーズ量は、ハロー成分を加工するためのドーズ量に比べて大きいため、ガラス基板34上にイオンビーム2が照射されてしまうことによる影響は少ない。
【0035】
なお、加工目標のドーズ分布に近似するドーズ分布とするためのイオンビーム2の照射位置及びドーズ量を得る上述した逆変換の動作手順は一例であり、任意の逆変換の演算方法を用いることが可能である。
【0036】
<第2の実施形態>
次に第2の実施形態について説明する。この実施形態は、遮光膜の幅が0.2ミクロン程度であり、単純な形状の膜に対してエッチング加工を行う場合に好適である。荷電修理ビーム装置の構成は、第1の実施形態と同様である。
図7は、第2の実施の形態によるエッチング加工について説明するための図である。同図において、記憶手段25は、デポジション加工を行った両端部分の照射パターンA,B、及び、その両端部分挟んだ直線部分に適用される照射パターンCの情報を記憶している。この照射パターンとは、エッジの位置に対して、急峻なエッジを得るために目的とするドーズ分布となるために、どの位置のピクセルを照射中心にしてどれだけのドーズ量のイオンビーム2を照射すべきかを示すものである。この照射パターンA,B,Cは、上述した第1の実施形態に記載した方法により求めた照射パターンから得ることができる。
【0037】
算出手段26は、加工領域を特定し、この加工領域の両端部分については、記憶手段25から読み出した照射パターンA,Bに従った照射パターンを使用し、両端部分を除いた直線部分については、記憶手段25から読み出した照射パターンCを、直線部分の長さに対応した分だけ繰り返した照射パターンを使用して、加工領域全体における照射パターンを生成する。走査制御手段27は、算出手段26が生成した照射パターンに従ってイオンビーム2を照射してエッチング加工を行う。これにより、処理負荷をかけることなく、迅速かつ簡易にエッチング加工を行うことが可能となる。
【0038】
なお、上記実施の形態においては、荷電粒子ビーム装置は、イオンビームを照射する装置としているが、電子ビームを照射する装置などであってもよい。
【0039】
なお、上述のコンピュータ13は、内部にコンピュータシステムを有している。そして、コンピュータ13の画像形成手段22、算出手段26、及び、走査制御手段27の動作の過程は、プログラムの形式でコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピュータシステムが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでいうコンピュータシステムとは、各種メモリやOS、周辺機器等のハードウェアを含むものである。
【0040】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】第1の実施形態による荷電粒子ビーム装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】第1の実施形態によるコンピュータの構成を示すブロック図。
【図3】第1の実施形態によるエッチング加工について説明するための図。
【図4】第1の実施形態が適用される膜について説明するための図。
【図5】ドーズ分布について説明するための図。
【図6】第1の実施形態によるイオンビーム照射位置及びドーズ量を算出する方法を説明するための図。
【図7】第2の実施形態によるエッチング加工について説明するための図。
【符号の説明】
【0042】
1…イオン源、 2…イオンビーム、 3…走査電極、 4…対物レンズ、 5、15…ガス銃、 6…有機化合物蒸気、 7…二次荷電粒子、 8…マスク、 9…XYステージ、 10…検出器、 11…A/D変換器、 12…走査回路、 13…コンピュータ、 14…ディスプレイ、 21…制御手段、 22…画像形成手段、 23…出力手段、 24…入力手段、 25…記憶手段、 26…算出手段、 27…走査制御手段、 31、41…遮光膜、 32…デポジション膜、 33、43…ハロー成分、 34…ガラス基板、 35…ドーズ分布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを用いて試料の加工を行う試料加工方法において、
デポジション加工により形成した膜のハロー成分の形状に対応して前記ハロー成分をエッチングにより除去した時に急峻なエッジを形成するためのドーズ分布を得、このドーズ分布に従って当該膜に荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行う、
ことを特徴とする試料加工方法。
【請求項2】
荷電粒子ビームを用いて試料の加工を行う試料加工方法において、
単独に形成した膜のハロー成分の形状に対応して急峻なエッジを形成するためのドーズ分布を得、このドーズ分布に従って当該膜に荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行う、
ことを特徴とする試料加工方法。
【請求項3】
エッチング加工領域の両端部分については、予め決められた両端部分加工用のドーズ分布に従って荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行い、
加工領域の両端部分を挟んだ直線部分については、予め決められた直線部分加工用のドーズ分布を直線方向に繰り返したドーズ分布に従って荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行う、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の試料加工方法。
【請求項4】
1照射当りの荷電粒子ビームのドーズ分布と、前記ハロー成分の形状とから、当該ハロー成分の形状に対応して急峻なエッジを形成するためのドーズ分布となるよう荷電粒子ビームの照射位置及び当該照射位置で照射すべきドーズ量を算出し、この算出した照射位置及びドーズ量に基づいて荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行う、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の試料加工方法。
【請求項5】
前記ハロー成分の形状は、膜の形成を行ったときの荷電粒子ビームの照射位置及び当該照射位置におけるドーズ量から得ることを特徴とする請求項1から請求項4に記載の試料加工方法。
【請求項6】
荷電粒子ビームを用いて試料の加工を行う試料加工装置において、
デポジション加工により形成した膜のハロー成分の形状に対応して急峻なエッジを形成するためのドーズ分布を得、このドーズ分布に従って当該膜に荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行うよう制御する走査制御手段、
を有することを特徴とする試料加工装置。
【請求項7】
荷電粒子ビームを用いて試料の加工を行う試料加工装置において、
単独に形成した膜のハロー成分の形状に対応して急峻なエッジを形成するためのドーズ分布を得、このドーズ分布に従って当該膜に荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行うよう制御する走査制御手段、
を有することを特徴とする試料加工装置。
【請求項8】
両端部分加工用及び直線部分加工用のドーズ分布のデータを記憶する記憶手段をさらに有し、
前記走査制御手段は、エッチング加工領域の両端部分については、前記記憶手段から読み出した両端部分加工用のドーズ分布に従って荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行い、加工領域の両端部分を挟んだ直線部分については、前記記憶手段から読み出した直線部分加工用のドーズ分布を直線方向に繰り返したドーズ分布に従って荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行うよう制御する、
ことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の試料加工装置。
【請求項9】
1照射当りの荷電粒子ビームのドーズ分布と、前記ハロー成分の形状とから、当該ハロー成分の形状に対応して急峻なエッジを形成するドーズ分布とするための荷電粒子ビームの照射位置及び当該照射位置で照射すべきドーズ量を算出する算出手段をさらに有する、
ことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の試料加工装置。
【請求項10】
加工領域を設定する工程と、
設定した前記加工領域に対して実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量を設定する工程と、
設定した前記実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量に従って荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行う工程とを有する試料加工方法において、
前記実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量を設定する前記工程は、初期値として前記加工領域への予測ドーズ分布を設定し、前記予想ドーズ分布が加工目標のドーズ分布に近似するように逆変換して実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量を算出することを含むことを特徴とする試料加工方法。
【請求項11】
加工領域を設定する手段と、
設定した前記加工領域に対して実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量を設定する手段とを有し、
設定した前記実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量に従って荷電粒子ビームを照射してエッチング加工を行う試料加工装置において、
前記実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量を設定する前記手段には、初期値として前記加工領域への予測ドーズ分布を設定し、前記予想ドーズ分布が加工目標のドーズ分布に近似するように逆変換して実際に加工に用いる荷電粒子ビームの照射位置とドーズ量を算出する手段を有することを特徴とする試料加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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