説明

試料検査方法及び試料検査装置

【課題】透過光検出用の撮像素子を真空室内部に別途設置することなく、簡易な構成の装置によって、一次線透過部を探し出すことのできる試料検査方法及び装置を提供する。
【解決手段】試料保持体の一次線透過部に保持された試料21に対して、一次線透過部を介して一次線を照射し、これより試料21から発生して一次線透過部を通過した二次線を二次線検出手段3により検出して試料像の取得が可能であり、また、試料21に対して一次線透過部が位置する側とは反対の側から光(照射光)24を照射し、これによる反射光を検出して試料21の光学像の取得が可能である試料検査方法及び装置において、照射光24を試料21に照射したときに、試料21を介して一次線透過部を通過する通過光24aを二次線検出手段3によって検出することにより、試料21上への照射光24の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培養された細胞等からなる検査対象試料の観察又は検査を良好に行うことができる試料検査方法及び試料検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生命科学や、製薬分野では、細胞に刺激(電気、化学物質、薬等)を与え、その反応を観察することが重要となっている。従来、このような観察には光学顕微鏡が、細胞の刺激にはマニピュレータが用いられていたが、観察すべき重要な箇所は光学顕微鏡では観察不可能な0.1μm以下の微小領域であることも多い。例えば、細胞間の物質のやり取りが正常に行えなくなることに起因する病気に高血圧症、尿崩症、不整脈、筋肉疾患、糖尿病、うつ病等がある。この細胞間の物質のやり取りは細胞膜にある10nm程度の大きさのイオンチャンネルにより行われる。このようなイオンチャンネルは、光学顕微鏡では観察困難である為、分解能の高い走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」(Scanning Electron Microscope)という)を用いた観察が望まれていた。
【0003】
しかし、SEMの構成を備える検査装置において、検査対象となる試料は、通常、真空引きにより減圧された試料室内に配置される。そして、このように減圧雰囲気とされた試料室内に配置された試料に電子線(荷電粒子線)が照射され、当該照射により試料から発生する二次電子や反射電子(後方散乱電子)等の二次的信号が検出される。このようなSEMによる試料検査では、試料が減圧雰囲気に晒されることとなる。よって、試料から水分が蒸発して細胞が死んでしまい、生きた状態の細胞における刺激に対する反応を観察することは不可能であった。
【0004】
従って、試料に水分が含まれた状態で検査を行う際には、試料から水分が蒸発しないように、試料を減圧雰囲気に晒されることがないようにする必要がある。このように試料が減圧雰囲気に晒されることなくSEMを用いて検査を行う例の一つとして、膜により開口(アパーチャ)が密封された試料容器(サンプルカプセル)の内部に試料を配置し、減圧雰囲気とされたSEMの試料室内に、このサンプルカプセルを設置する手法が考えられている。
【0005】
ここで、試料が配置されるサンプルカプセルの内部は減圧されない。そして、サンプルカプセルに形成された当該開口を覆う膜は、SEMの試料室内の減圧雰囲気とサンプルカプセル内の減圧されていない雰囲気(例えば、大気圧雰囲気)との間の圧力差に耐えられるとともに、電子線が透過するものとなっている(特許文献1参照)。
【0006】
試料検査を行う際には、減圧雰囲気とされたSEMの試料室内に配置されたサンプルカプセルの当該膜を介して、サンプルカプセルの外部からサンプルカプセル内の試料に電子線が照射される。電子線が照射された試料からは反射電子が発生し、この反射電子はサンプルカプセルの当該膜を通過して、SEMの試料室内に設けられた反射電子検出器によって検出される。これにより、SEMによる像(SEM画像)が取得されることとなる。
【0007】
しかしながら、この発明では試料は閉じた空間内に封入されているので、マニピュレータを用いて細胞に刺激を与えることは不可能であった。さらに、検査対象試料である細胞をこのサンプルカプセルに封入した後に、その細胞を生きた状態で観察・検査をする場合には問題があった。
【0008】
すなわち、細胞は、予めシャーレ(皿)上に吸着させてその上に培養液を満たし、温度36〜38℃(通常37℃)、二酸化炭素濃度3〜10%(通常5%)の雰囲気下に置いて培養させている。細胞の観察の際には、この細胞をシャーレから剥がし、このサンプルカプセルに入れることになる。しかし、サンプルカプセル内の環境がシャーレ内とは異なるため、試料容器内で細胞が生存する確率が低かった。また、特許文献1に記載のサンプルカプセルでは、溶液を15μl程度しかその内部に入れることができず、短時間で環境雰囲気(pH、浸透圧等)が変化する為、細胞培養は困難であった。
【0009】
なお、このように真空と大気圧との圧力差に耐えられる膜を介して試料に電子線を照射し、試料から発生する反射電子を検出してSEM画像を取得する例は、非特許文献1(当該文献のChapter1 Introduction)にも記載されている。
【0010】
また、このような膜を対向して設置して一対の膜を構成し、該一対の膜の間に試料を配置して透過型電子顕微鏡による像を取得する例は、特許文献2及び特許文献3に記載されている。特に、特許文献2には、このような一対の膜を利用して、その間に配置された試料のSEM画像を取得する場合についても述べられている。
【0011】
そして、上述のごとく、試料が閉じられた空間内に封入されていると、検査対象試料である細胞に対してマニピュレータによるマニピュレーションを行うことや、その細胞を生きた状態で観察・検査することが困難であるという問題がある。そのため、試料を開放状態の常圧雰囲気に配置するとともに、その開放されている側に、電子線鏡筒と光軸を同軸とする光学顕微鏡を設置して、光学像の取得も可能な試料検査装置も検討されている(特許文献4〜7参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2004−515049号公報
【特許文献2】特開昭47−24961号公報
【特許文献3】特開平6−318445号公報
【特許文献4】特開2007−292702号公報
【特許文献5】特開2008−153086号公報
【特許文献6】特開2008−180521号公報
【特許文献7】特開2008−210765号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「Atmospheric scanning electron microscopy」 Green, Evan Drake Harriman, Ph.D., Stanford University, 1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上述した特許文献4〜7に記載された試料検査装置においては、液体を含む試料を開放状態の常圧雰囲気に配置するとともに、その開放されている側に、電子線鏡筒と光軸が同軸とする光学顕微鏡が設置された構成となっている。この光学顕微鏡は、該光学顕微鏡側から試料に光を照射し、これによる反射光を検出して画像を取得するものである。
【0015】
特に、特許文献7に記載された試料検査装置において、その実施例で試料検査の際に使用される試料保持体は、シャーレ形状を有しており、その開放された試料保持面の一部が膜(試料保持膜)により構成されている。シャーレ形状の本体部には孔が形成されており、該孔には膜保持体が配置されている。膜保持体には開口部が形成されており、該開口部は該膜により覆われている。
【0016】
このような試料保持体の試料保持面における該膜(試料保持膜)の部分に保持されている試料の電子線によるSEM観察・検査を行う際には、まず該膜により覆われている上記開口部の部分を光学顕微鏡により探し出す必要がある。これは、該開口部を介して、該膜を通過した電子線が該膜上の試料に到達することにより、SEM観察・検査が可能となるからである。
【0017】
すなわち、該開口部を覆う該膜上には、SEM観察・検査の対象となる試料が配置されており、該膜を介して電子線を該試料に照射することにより、電子線によるSEM観察・検査を行うことができる。ここで、電子線を放出する電子線鏡筒の光軸と光学顕微鏡の光軸とが一致しているので、光学顕微鏡の視野中央に該開口部が位置する状態とすれば、電子線鏡筒から放出される電子線の走査領域(SEM観察・検査時での視野)を、該開口部に位置する(すなわち、該開口部を覆っている)該膜の部分とすることができる。
【0018】
その結果、この状態における電子線の照射時には、電子線が該開口部及び該膜を通過して、該膜上の試料に到達することが可能となり、試料からの二次的信号の検出を行うことが可能となる。
【0019】
ここで、上記開口部の寸法は、該開口部を覆う膜の耐圧力の関係から、例えば、0.25mm角程度となっており、非常に小さい寸法となっている。従って、光学顕微鏡で該開口部を探し出して、光学顕微鏡の視野内に該開口部を位置させることは困難であった。
【0020】
すなわち、上記光学顕微鏡では、試料及びその下に位置する該膜に光を照射し、これにより試料及び該膜から反射される反射光をCCD等の撮像素子により検出して画像を取得している。このとき、上記開口部を覆っている膜から生じる反射光の輝度と、該開口部以外に位置する膜から生じる反射光の輝度とではあまり大きな差異がないため、該開口部を明瞭に認識することが難しかった。これは、該開口部の寸法が小さくなれば、なおさら困難となる。
【0021】
そして、試料保持体を構成する本体部に形成される上記孔の加工精度が、現在のところあまり良くないので、完成された試料保持体を試料検査装置の所定箇所に配置しても、該孔内に位置する上記膜保持体の該開口部の箇所が、光学顕微鏡の所定視野内に入る可能性は小さくなり、光学顕微鏡により短時間で効率良く該開口部を探し出すことは難しかった。
【0022】
なお、光学顕微鏡による光の照射時に、試料及び該膜を透過した透過光をCCD等の撮像素子で検出して画像を取得することも考えられる。しかしながら、その場合は、上記反射光検出用の撮像素子の他に、透過光検出用の撮像素子を、該光学顕微鏡が位置する側の反対側に設置しなければならないので、装置のコストアップにつながってしまう。
【0023】
この場合、上記試料検査装置の構成においては、電子線鏡筒に接続された真空室の内部に透過光検出用の撮像素子を設置することとなり、設計上の制約によっては、該真空室内部に透過光検出用の撮像素子を設置できない場合もある。
【0024】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、透過光検出用の撮像素子を真空室内部に別途設置することなく、簡易な構成の装置によって、一次線(電子線)透過部である「該開口部を覆う膜の部分」を探し出すことのできる試料検査方法及び試料検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明に基づく試料検査方法は、試料保持体の一次線透過部に保持された試料に対して、一次線透過部を介して一次線を照射し、これより試料から発生して一次線透過部を通過した二次線を二次線検出手段により検出し、該検出結果に基づいて試料像の取得が可能であり、また、試料に対して一次線透過部が位置する側とは反対の側から光(照射光)を照射し、これによる反射光を検出して試料の光学像の取得が可能である試料検査方法において、照射光を試料に照射したときに、試料を介して一次線透過部を通過する通過光を二次線検出手段によって検出することにより、試料上への照射光の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行うことを特徴とする。
【0026】
本発明に基づく試料検査装置は、試料保持体の一次線透過部に保持された試料に対して、一次線透過部を介して一次線を照射する一次線照射手段と、一次線の照射に基づいて試料から発生し、一次線透過部を通過した二次線を検出する二次線検出手段と、該検出結果に基づいて試料像の取得を行う試料像取得手段と、試料に対して、一次線透過部が位置する側とは反対の側から光(照射光)を照射し、これによる反射光を検出して試料の光学像の取得が可能である光学像取得手段とを備える試料検査装置において、照射光を試料に照射したときに、試料を介して一次線透過部を通過する通過光を二次線検出手段によって検出することにより、試料上への照射光の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行うことができることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明においては、一次線透過部(上述した「該開口部を覆う膜の部分」に相当)に保持された試料に対して、一次線透過部が位置する側とは反対の側から照射光を照射し、このとき試料を介して一次線透過部を通過する通過光を二次線検出手段によって検出することにより、試料上への照射光の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行う。
【0028】
これにより、試料を介して一次線透過部を通過する通過光(透過光)を検出するための撮像素子を別途設けることなく、一次線照射の際に二次線を検出するために使用される二次線検出手段をそのまま用いて該通過光の検出を行うことができ、コストを上げることなく簡易な構成の装置でもって、試料上への照射光の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行うことができる。
【0029】
このとき、一次線透過部を通過した通過光の検出を行っているので、一次線通過部から反射して生じた反射光の検出を行う場合よりも、輝度の明暗が明確な状態で一次線透過部を検出して当該位置合わせを行うことができる。
【0030】
すなわち、照射光による照射領域(視野)内に一次線透過部が位置するときには、一次線透過部を通過する通過光の検出値(輝度)は最大となる。よって、該検出値が最大となるように、試料上への照射光の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行うことにより、当該位置合わせを迅速かつ効率良く行うことができる。
【0031】
当該位置合わせにおいて、試料保持体を移動させることにより、試料上での照射光の照射領域を相対的に移動させ、このときに検出される該通過光を二次線検出手段によって検出して、該通過光の検出値が最大となる試料保持体の位置を求めることにより、当該位置合わせを自動的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明における試料検査装置を示す概略構成図である。
【図2】本発明における試料検査装置の要部を拡大した図である。
【図3】試料保持体の移動方向を示す図である。
【図4】本発明の変形例における二次線検出手段の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照して、本発明における実施の形態について説明する。図1は、本発明における試料検査装置を示す概略構成図である。
【0034】
図1(A)において、試料保持体を構成するディッシュ8内には、液状の試料21が保持されている。試料21内には、観察・検査対象とされた細胞等及び培養液等の液体が含まれている。
【0035】
ここで、ディッシュ(試料保持体)8の拡大断面図を図1(B)に示す。ディッシュ8の底部29の中央には、孔28が形成されている。この孔28は、該底部29の内側底面と外側底面とを連通するように形成されている。ここで、該内側底面は、図1(B)におけるディッシュ8の底部29の上面となっており、該外側底部は、同図におけるディッシュ8の底部29の下面となっている。なお、ディッシュ8の底部29の周囲には、側壁部30が設けられている。
【0036】
ディッシュ8の内側底面における孔28が設けられている箇所には、シリコン基板9が配置されている。シリコン基板9には、その中央に開口部20が形成されている。これにより、シリコン基板9は、枠状の形状となっている。シリコン基板9の上面には、試料保持膜を構成する膜(窒化シリコン膜)10が被膜(堆積)されている。この膜(試料保持膜)10は、シリコン基板9の開口部20を覆っている。
【0037】
ディッシュ8の内部である内側底面には、試料21が保持される。これにより、ディッシュ8の内側底面において、シリコン基板9の開口部20を覆う膜10の表面に、試料21中に含まれた細胞等の検査対象物が配置される。
【0038】
この状態で、ディッシュ8は、ディッシュホルダ7に載置される。その後、ディッシュホルダ7は、ディッシュ8を載置した状態で、本装置(試料検査装置)のステージ4上に搭載される。
【0039】
ステージ4は、本装置を構成する真空室2の上部に設置されており、X方向及びY方向に移動可能となっている。ここで、X−Y平面は水平面となっている。なお、ステージ8は、垂直方向に沿うZ方向にも移動可能となっていてもよい。
【0040】
ステージ4の上方には、ディッシュ8内の試料21の光学像を取得するための光学顕微鏡5が設置されている。光学顕微鏡5の先端部は、ディッシュ8内の液状の試料21に接触することができる。光学像の取得時には、当該先端部が試料21に接した状態で、光学顕微鏡5から試料21に光(照射光)が照射される。
【0041】
また、光学顕微鏡5の基端側には、撮像手段であるCCDカメラ6が配置されている。CCDカメラ6は、該光の試料21への照射時に、試料21から反射される反射光を検出する。これにより、該反射光に基づく画像がCCDカメラ6によって取り込まれる。該画像には、試料21内の細胞等の検査対象物の像が含まれている。
【0042】
このCCDカメラ6により取り込まれた画像のデータは、本装置を構成する図示しないコンピュータに送られる。コンピュータは、表示手段(図示せず)によって、該画像の表示を行う。本装置のオペレータは、表示された画像によって、試料21に含まれた該検査対象物の像を目視にて確認することができる。
【0043】
真空室2の下部には、電子線鏡筒1が設置されている、電子線鏡筒1の内部は、電子線鏡筒1の先端部を介して、真空室2内部と連通している。電子線鏡筒1の基端側には、電子銃22が設置されている。電子銃22は、所定の加速電圧により加速された電子線23を放出する。これにより放出された電子線23は、電子線鏡筒1の先端部から真空室2内部に放出される。
【0044】
真空室2内には、反射電子検出器3が配置されている。反射電子検出器3には、電子線鏡筒1から放出された電子線23が通過可能とされた通過孔26が形成されている。
【0045】
さらに、真空室2の上部壁及び該上部壁の上面に配置されたステージ4にも、電子線23が通過可能とされた開口がそれぞれ形成されている。そして、ステージ4上に配置されるディッシュホルダ7にも同様に、電子線23が通過可能とされた開口が形成されている。
【0046】
ここで、電子線鏡筒1内部及び真空室2内部の各真空排気動作、真空排気時における電子線鏡筒1の駆動動作並びにステージ4の移動動作等は、上記コンピュータにより制御される。
【0047】
試料21に含まれた細胞等の検査対象物のSEM観察・検査の際には、電子線鏡筒1から真空室2内部に向けて電子線(一次線)23が放出される。電子線鏡筒1から放出された電子線23は、真空室2内において反射電子検出器3の通過光26を通過した後、真空室2の上部壁の開口及びステージ4の開口を介して、ディッシュホルダ7の開口を通過する。
【0048】
このようにして、ディッシュホルダ7の開口を通過した電子線23は、ディッシュ8の孔28及びシリコン基板9の開口部20を介して、該開口部20を覆っている膜10に到達する。膜10に到達した電子線23は、さらに該膜10を通過し、該膜10上に配置された試料21内の検査対象物に到達する。
【0049】
このとき、電子線23は、電子線鏡筒1に配置された対物レンズ(集束レンズ)の励磁によって細く集束している。これにより、集束された電子線23が、膜10を介して、該膜10上の試料21を照射することとなる。
【0050】
さらに、この状態で、電子線鏡筒1に配置された図示しない偏向器の動作により、電子線23が走査される。この結果、膜10を通過した電子線23は、試料21の所定領域(検査対象物が含まれた領域)を走査する。当該所定領域は、電子線23による走査領域となる。
【0051】
このようにして電子線23が走査された試料23の領域(走査領域)からは、反射電子(二次線)が発生する。この反射電子は、膜10を通過して真空室2内に入り、反射電子検出器3により検出される。
【0052】
反射電子検出器3は、検出される反射電子の検出強度に基づく検出信号を出力する。この検出信号は、図示しない増幅器によって増幅された後、デジタルデータに変換される。なお、本実施の形態において図示されている反射電子検出器3は、複数の半導体素子(フォトダイオード)を検出面に備える半導体検出器となっている。
【0053】
デジタルデータに変換された該検出信号は、上記コンピュータに送られる。コンピュータは、該検出信号に基づく画像データ(走査像データ)を形成する。このようにして形成された画像データは、表示手段に送られる。表示手段は、該画像データに基づく画像(走査像)の表示を行う。オペレータは、表示された走査像を見ることにより、試料21中の検査対象物の観察ないし検査を行うことができる。
【0054】
ここで、光学顕微鏡5の光軸と電子線鏡筒1の光軸とは合わされており、同軸となるように構成されている。これにより、光学顕微鏡5により取得される光学像の中心と、電子線鏡筒1からの電子線23の走査により得られる走査像(試料21からの上記反射電子の検出に基づく像)の中心とが一致することとなる。そして、該光学像の倍率と該走査像の倍率とが同じであるときには、双方の像の視野が互いに一致することとなる。
【0055】
なお、真空室2とステージ4との間、ステージ4とディッシュホルダ7との間、及びディッシュホルダ7とディッシュ8との間には、それぞれ図示しないOリングが配置されている。これらOリングによって、各間隙において真空シールが施されている。
【0056】
次に、本発明における試料検査方法について説明する。まず、電子線鏡筒1からの電子線23の走査に基づく試料21の走査像を得る際には、予め電子線23の走査領域を、ディッシュ8に備えられたシリコン基板9の開口部20の位置に合わせておく必要がある。すなわち、該開口部20を覆っている膜10を介して、電子線23が、該膜10上の試料21に到達し、これにより試料21からの反射電子が反射電子検出器3によって検出できるからである。
【0057】
ここで、電子線23の走査領域は、電子線23の走査により得られる走査像の視野に対応する。また、前述したように、電子線23の走査により得られる走査像の視野中心は、光学顕微鏡により取得される光学像の視野中心に一致している。
【0058】
従って、光学顕微鏡5による光学像の視野中心に、該開口部20を配置することができれば、電子線23の走査領域の中心に該開口部20を位置させることができる。これにより、電子線の走査領域を該開口部23の位置に合わせることが可能となる。そこで、本発明では、光学顕微鏡5により取得される光学像の視野中心に該開口部20が位置することを、反射電子検出器3による光の検出結果に基づき検知する。
【0059】
すなわち、光学顕微鏡5から放出されて試料21及びその下側に位置する膜10を透過し、さらに開口部20を通過した光(通過光)を、真空室2内に配置された反射電子検出器3により検出する。ここで、この反射電子検出器3は、上述のごとくフォトダイオードを備えているので、光学顕微鏡5で用いられる可視光の波長範囲を含む光(電磁波)の検出を行うことができる。
【0060】
図2に、反射電子検出器3を用いて、該通過光を検出する方法について説明する。同図に示すごとく、光学顕微鏡5の先端に、所定寸法の開口25を備える絞り11を配置する。この状態で、シリコン基板9の開口部20を覆う膜10上に配置された液状の試料(細胞等の検査対象物及び培養液等の液体12を含む)21に、絞り11と共に光学顕微鏡5の先端部を接触させる。シリコン基板9は、上述したように、ディッシュ8の底部29に形成された孔28の部分に配置されている。
【0061】
このように光学顕微鏡5の先端に絞り11が配置された状態で、試料21に対し、光学顕微鏡5から絞り11の開口25を介して光(照射光)24を照射する。試料21及び膜10を透過し、開口部20を通過した光(通過光)24aは、反射電子検出器3によって検出される。
【0062】
このとき、ディッシュ8が載置されたディッシュホルダ7を搭載するステージ4のステージスキャンを行う。このステージスキャンは、ステージ4をX方向及び/又はY方向に沿って、所定の移動範囲でもってステージ4を移動させることにより実行される。このステージ4のスキャンの際に、通過光24aを反射電子検出器3により検出し、通過光24aの検出量が一番大きくなる(すなわち、検出される輝度が一番大きくなる)ステージ4のステージ位置を探す。反射電子検出器3により検出される通過光24aの輝度が一番大きくなることの判別は、上記コンピュータによって行われる。
【0063】
ここで、図2(A)は、光学顕微鏡5による光学像の視野(照射光24の照射領域)の中心に開口部20が位置した状態を示している。この状態では、反射電子検出器3による通過光24aの検出量は最大となる。
【0064】
また、図2(B)は、光学顕微鏡5による光学像の視野から開口部20が完全に外れている状態を示している。この状態では、照射光24は開口部20を通過することがなく、反射電子検出器3による通過光24aの検出量は最小(ノイズ成分のみ)となる。
【0065】
なお、光学顕微鏡5の先端に配置される絞り11は、可動式である。試料21からの反射光に基づく光学像(試料像)を、CCDカメラ6を用いて取得する際には、手動操作により、絞り11を該先端から外すようにしておく。
【0066】
ここで、絞り11に設けられている開口25の寸法は、シリコン基板9に形成された開口部20と同等の寸法となっていることが望ましい。例えば、シリコン基板9の開口部20の寸法が0.25mm角である場合には、絞りの開口25の寸法は0.25mmΦ程度とすることが好ましい。
【0067】
以上のように、一次線(電子線23)の照射時に試料21から発生する二次線(反射電子)を検出するための二次線検出手段(反射電子検出器3)を利用して、光学顕微鏡5からの光(通過光24a)を検出し、該通過光24aの検出量が最大となるように、コンピュータがステージ4の移動を行えば、自動的に開口部20を光学顕微鏡5の視野中心に位置させることができる。
【0068】
この状態が達成されれば、光学顕微鏡5の光軸と電子線鏡筒1の光軸とは一致しているので、電子線鏡筒1から放出される電子線23の走査領域の中心に該開口部20が位置することとなる。
【0069】
この状態で、光学顕微鏡5からの光の照射を停止し、上述のように電子線鏡筒1から電子線23を放出すれば、集束された電子線23が、開口部20及び該開口部20を覆う膜10を通過し、確実に試料21に到達することとなる。そして、この電子線23の照射時に、電子線23の走査を行えば、上述したごとく、反射電子検出器3によって試料21からの反射電子を検出することができ、所定の走査像を取得することが可能となる。
【0070】
ここで、ステージ4のステージスキャン動作の一例を、図3に示す。絞り11の開口25の寸法が0.25mmΦの場合の例である。
【0071】
ディッシュ8における底部29の中心位置に形成される孔28の中心誤差を0.3mm、ステージ4に搭載されるディッシュホルダ7の機械誤差を0.1mmとすると、図3に示すごとく、ステージスキャン範囲は0.75mm角(X方向:±0.375mm,Y方向:±0.375mm)として設定可能となる。
【0072】
そして、この場合のステージスキャン時でのステージ4の総移動距離は、3mm(図3における各ステージ移動距離(1)〜(5)の総和)となる。このとき、ステージ4の移動速度を0.5mm/秒とすると、ステージ移動動作時間は6秒となり、短い時間でステージスキャン動作を完了することができる。このステージ移動動作も、上記コンピュータによる制御に基づいて実行される。
【0073】
次に、図4を参照して、本発明の変形例について説明する。上記実施の形態において、反射電子検出器3は半導体素子(フォトダイオード)を備える半導体検出器であった。図4に示す変形例では、上記構成の反射電子検出器3の代わりに、シンチレータ15、ライトパイプ13及び光電子増倍管14から構成された反射電子検出器3aを使用する。ここで、シンチレータ15は、真空室2内に配置される。また、光電子増倍管14は、真空室2外に配置される。
【0074】
シンチレータ15は、ライトパイプ13の先端側に設けられており、ライトパイプ13に基端側は光電子増倍管14に接続されている。シンチレータ15及びシンチレータ15が位置するライトパイプ14の部分には、電子線23が通過可能な通過孔27が設けられている。
【0075】
電子線23の照射(走査)により試料21から発生した反射電子は、シンチレータ15に衝突し、シンチレータ15を発光させる。このようにして発生した光(光信号)は、ライトパイプ13の先端側から基端側に導光されて、光電子増倍管14に到達する。光電子増倍管14内では、当該光信号を電気信号に変換すると共に増幅する。このようにして得られた検出信号は、デジタル信号に変換された後、上述したコンピュータに送られる。該コンピュータは、該検出信号に基づいて走査像データを形成することとなる。
【0076】
このような構成からなる反射電子検出器3aを用いた場合、ライトパイプ13の外側面13aは導光部が露出された(剥き出しの)状態となっているので、上記通過光24aの検出も可能となる。すなわち、該通過光24aがライトパイプ13の外側面13aに到達することにより、該光が光電子増倍管14に導光されて検出されることとなる。
【0077】
なお、上記各例においては、位置合わせ時に、光学顕微鏡5の先端に絞り11を配置していたが、光学顕微鏡5を共焦点顕微鏡とすれば、照射光はレーザー光となるので、絞り11を配置する必要はない。
【0078】
本発明では、光学顕微鏡5から照射されて、一次線透過部である「開口部20を覆う膜10の部分」を通過する光を反射電子検出器(二次線検出手段)により検出して、電子線鏡筒1の光軸(光学顕微鏡5の光軸と同軸)と該一次線透過部との位置合わせを行う。
【0079】
これにより、電子線鏡筒1から電子線23を膜10に対して照射することなく、当該位置合わせを行うことができ、位置合わせ時での電子線照射に起因する膜10の損傷を回避することができる。このように、膜10の損傷を回避することができれば、膜10の耐圧力性を保持することができ、膜破壊の発生を抑えることができる。
【0080】
すなわち、膜10に対して、走査像の取得時以外のときに電子線23を照射することがないので、電子線照射による膜10の不要な損傷を回避することができ、SEM観察・検査における走査像の取得のための時間を十分に確保することができる。
【0081】
また、ステージ4の移動(ステージスキャン)と反射電子検出器3による通過光24aの検出を同時に行うことにより、短時間で自動的に上記位置合わせを行うことができる。
【0082】
なお、上記各例においては、一次線を電子線、試料21からの二次線を反射電子とする例であったが、二次線を二次電子、X線若しくはカソードルミネッセンス光とすることもできる。
【0083】
また、一次線をイオン線等の荷電粒子線とすることも可能である。この場合、膜10が該荷電粒子線の照射に対して耐性を備える(損傷が軽微である)ことが条件となる。
【0084】
このように、本発明における試料検査方法は、試料保持体(ディッシュ8)の一次線透過部(開口20を覆う膜10の部分)に保持された試料21に対して、一次線透過部を介して一次線(電子線23等)を照射し、これより試料21から発生して一次線透過部を通過した二次線(反射電子等)を二次線検出手段(反射電子検出器3等)により検出し、該検出結果に基づいて試料像(走査像)の取得が可能であり、また、試料21に対して一次線透過部が位置する側とは反対の側から光(照射光)24を照射し、これによる反射光を検出して試料23の光学像の取得が可能である試料検査方法おいて、照射光24を試料21に照射したときに、試料21を介して一次線透過部を通過する通過光24aを二次線検出手段によって検出することにより、試料21上への照射光24の照射領域(光学像の視野)と一次線透過部との位置合わせを行う。
【0085】
また、本発明における試料検査装置は、試料保持体の一次線透過部に保持された試料21に対して、一次線透過部を介して一次線を照射する一次線照射手段1と、一次線の照射に基づいて試料21から発生し、一次線透過部を通過した二次線を検出する二次線検出手段3と、該検出結果に基づいて試料像の取得を行う試料像取得手段(コンピュータ)と、試料21に対して、一次線透過部が位置する側とは反対の側から光(照射光)24を照射し、これによる反射光を検出して試料21の光学像の取得が可能である光学像取得手段5とを備える試料検査装置において、照射光24を試料21に照射したときに、試料21を介して一次線透過部を通過する通過光24aを二次線検出手段3によって検出することにより、試料21上への照射光24の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行うことができる
ここで、試料21上への照射光24の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行うときには、一次線透過部の寸法(開口部20の寸法)とほぼ等しい寸法の開口25を備える絞り部材11を介して、試料21に照射光24を照射するのが好適である。
【0086】
さらに、ステージ4のステージスキャンにより試料保持体を移動させることによって、試料21上での照射光24の照射領域を相対的に移動させ、このときに二次線検出手段によって検出される通過光24の強度(検出量)に基づいて、試料21上への照射光24の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行うことができる。
【0087】
ここで、一次線の光軸(電子線鏡筒1の光軸に対応)と照射光の光軸(光学顕微鏡5の光軸に対応)とは同軸となっており、試料21上への照射光24の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行うことにより、該一次線の照射領域と該一次線透過部との位置合わせが行われる。
【0088】
また、一次線は、荷電粒子線又は電子線とすることができ、二次線は、二次電子、反射電子、X線、若しくはカソードルミネッセンス光のうちの少なくとも一つとすることができる。
【符号の説明】
【0089】
1…電子線鏡筒、2…真空室、3,3a…反射電子検出器(二次線検出手段)、4…ステージ、5…光学顕微鏡、6…CCDカメラ、7…ディッシュホルダ、8…ディッシュ、9…シリコン基板、10…窒化シリコン膜(膜)、11…絞り(絞り部材)、12…液体、13…ライトバルブ、13a…外側面、14…光電子増倍管、15…シンチレータ、20…開口部、21…試料、22…電子銃、23…電子線、24…照射光、24a…通過光、25…開口、26,27…通過孔、28…孔、29…底部、30…側壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料保持体の一次線透過部に保持された試料に対して、一次線透過部を介して一次線を照射し、これより試料から発生して一次線透過部を通過した二次線を二次線検出手段により検出し、該検出結果に基づいて試料像の取得が可能であり、また、試料に対して一次線透過部が位置する側とは反対の側から光(照射光)を照射し、これによる反射光を検出して試料の光学像の取得が可能である試料検査方法において、照射光を試料に照射したときに、試料を介して一次線透過部を通過する通過光を二次線検出手段によって検出することにより、試料上への照射光の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行うことを特徴とする試料検査方法。
【請求項2】
試料上への照射光の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行うときには、一次線透過部の寸法とほぼ等しい寸法の開口を備える絞り部材を介して、試料に照射光を照射することを特徴とする請求項1記載の試料検査方法。
【請求項3】
試料保持体を移動させることにより、試料上での照射光の照射領域を相対的に移動させ、このときに二次線検出手段によって検出される通過光の強度に基づいて、試料上への照射光の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行うことを特徴とする請求項1又は2記載の試料検査方法。
【請求項4】
一次線の光軸と照射光の光軸とは同軸となっており、試料上への該照射光の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行うことにより、該一次線の照射領域と該一次線透過部との位置合わせが行われることを特徴とする請求項1乃至3何れか記載の試料検査方法。
【請求項5】
一次線は、荷電粒子線又は電子線であり、二次線は、二次電子、反射電子、X線、若しくはカソードルミネッセンス光のうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項1乃至4何れか記載の試料検査方法。
【請求項6】
試料保持体の一次線透過部に保持された試料に対して、一次線透過部を介して一次線を照射する一次線照射手段と、一次線の照射に基づいて試料から発生し、一次線透過部を通過した二次線を検出する二次線検出手段と、該検出結果に基づいて試料像の取得を行う試料像取得手段と、試料に対して、一次線透過部が位置する側とは反対の側から光(照射光)を照射し、これによる反射光を検出して試料の光学像の取得が可能である光学像取得手段とを備える試料検査装置において、照射光を試料に照射したときに、試料を介して一次線透過部を通過する通過光を二次線検出手段によって検出することにより、試料上への照射光の照射領域と一次線透過部との位置合わせを行うことができることを特徴とする試料検査装置。
【請求項7】
光学像取得手段は、一次線透過部の寸法とほぼ等しい寸法の開口を備える絞り部材を具備することを特徴とする請求項6記載の試料検査装置。
【請求項8】
試料保持体を移動させるための移動手段を備えることを特徴とする請求項6又は7記載の試料検査装置。
【請求項9】
一次線の光軸と照射光の光軸とは同軸となっていることを特徴とする請求項6乃至8何れか記載の試料検査装置。
【請求項10】
一次線は、荷電粒子線又は電子線であり、二次線は、二次電子、反射電子、X線、若しくはカソードルミネッセンス光のうちの少なくとも一つであることを特徴とする請求項6乃至9何れか記載の試料検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−257587(P2010−257587A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102728(P2009−102728)
【出願日】平成21年4月21日(2009.4.21)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】