説明

試料表面の誘電特性測定方法と測定装置

【課題】本発明は、試料表面の誘電特性を的確に測定できる装置を提供することを目的とする。
【解決手段】上記課題を解決するために、試料表面の誘電特性測定方法は、検出用電極と試料表面との間に間隙を配し、その間隙を液状誘電体で充填して、前記液状誘電体の接する試料表面の誘電特性を測定すること、また、試料表面の誘電特性測定装置であって、試料を保持する保持部材には、試料の非測定箇所の表面に密着し、測定箇所表面とは間隙を有して前記試料を保持する密着支持部が設けられていて、前記試料の測定箇所表面と電極及び保持部材との間の間隙内に前記液体誘電体を充填する液注入口が前記保持部材に設けられていることを特徴とする試料表面の誘電特性測定装置を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料の両表面を保持する保持部材と、これに取り付けられた測定用電極とからなる試料表面の誘電特性方法と測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来は、特許文献1、2に示され図2に示すように、検出用の電極を試料に密着させて測定していた。
具体的には、電磁遮蔽体(2)に覆われた電極(E)を、同軸ケーブル(4)を介して誘電特性計測装置に接続するもので、前記電極(E)を試料(S)に密着させて表面での均一な電位をつくりだしている。ここで試料表面に凹凸などの構造がある場合や、電極が傾いている場合は表面の電位が不均一になり、試料内部の誘電特性を測定する上では測定誤差の原因になる。
多くの場合、表面の影響を無くすために、導電性の金属を試料表面に蒸着している。
これは誘電特性の測定が材料内部全体の誘電特性を測定することを目的として、開発された技術であり、表面の影響を可能な限り小さくするという技術の流れを踏襲していることによるものであり、電極を密着させる事は表面を敢えて破壊していたし、表面構造に起因する隙間は誤差の原因でしかなかった。つまり、これまでの手法では凹凸のある表面構造体の誘電特性を的確の測定することは不可能であった。
つまり、表面の誘電特性を正しく測定する技術は、未だ提供されていないというべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような実情に鑑み、試料表面の誘電特性を的確に測定できる装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、電極と試料とが非接触でも誘電特性が測定できるとの知見に基づくものであり、以下のように構成した点に特徴を有する。
【0005】
発明1の試料表面の誘電特性測定方法は、検出用電極と試料表面との間に間隙を配し、その間隙を液状誘電体で充填して、前記液状誘電体の接する試料表面の誘電特性を測定することを特徴とする。
【0006】
発明2は、発明1の誘電特性測定方法において、前記液状誘電体は水であることを特徴とする試料表面の誘電特性測定方法。
【0007】
発明3は、発明1の誘電特性測定方法において、前記液状誘電体はアルコールであることを特徴とする。
【0008】
発明4は、発明1から3のいずれかの誘電特性測定方法に用いる試料表面の誘電特性測定装置であって、前記試料を保持する保持部材には、前記試料の非測定箇所の表面に密着し、測定箇所表面とは間隙を有して前記試料を保持する密着支持部が設けられていて、前記試料の測定箇所表面と電極及び保持部材との間の間隙内に前記液体誘電体を充填する液注入口が前記保持部材に設けられていることを特徴とする試料表面の誘電特性測定装置。
【0009】
発明5は、発明4の試料表面の誘電特性測定装置において、前記密着支持部は、保持部材の試料対向面に突出して配置された弾性パッキンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
試料表面を電極の密着により損傷する恐れが無く、試料をそのままの状態、つまり、製造や使用上必然とされた表面状態のままで、その誘電特性を測定することができた。
このことは、さらに、表面に凹凸のある試料に対しても同様であり、従来は、測定不可能とされた各種構造を表面に有し、それがでこぼこしているような試料であっても、それを全く損壊することなく、それらの構造による誘電特性の影響をも測定できるようになった。
物質の性質改良に表面構造を利用する事例は、柱状構造による光フィルター、多孔質構造による発光素子や触媒材料、ドット構造による光電子デバイス、ワイヤー構造による電子の伝導路など、広範囲にわたっており、これらの誘電特性の入手は、これら技術を促進するのである。
また、表面の変性層、布などの規則構造物、多孔質体などの誘電特性をも測定ができるようになったものであり、これらの技術をも促進するのである。
さらに、従来の手法では、誘電特性を求めるのに、表面と裏面の間の均一かつ等距離の電荷の移動のみを用いていた。本発明では表面構造に依存する電荷の動きを含めて測定する点で、誘電測定および誘電率を普遍化したといえる。物質内部に限られていた従来の手法の測定対象を、表面を含めた物質全体に拡張し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の表面構造体の誘電特性測定装置断面図。
【図2】従来法の誘電特性測定装置の概念図。
【図3】超純水の誘電緩和スペクトル。インピータンス絶対値―周波数プロットの例。
【図4】超純水の誘電緩和スペクトル。損失角―周波数プロットの例。
【図5】誘電緩和の等価回路。
【図6】実施例3のガラス表面層の誘電緩和スペクトル(インピータンス絶対値―周波数プロット)の例。
【図7】従来法によるガラス表面に金属を密着させた場合の誘電緩和スペクトルの例。
【図8】実施例4のゴムの誘電緩和スペクトル。インピータンス絶対値―周波数プロットの例。
【図9】実施例5の織布の誘電緩和スペクトル(インピータンス絶対値―周波数プロット)の例。
【図10】実施例5の織布を透過する電荷から見た等価回路。
【図11】実施例5の織布の誘電緩和スペクトル(損失角―周波数プロット)の例。
【図12】実施例6の多孔質の誘電緩和スペクトル(インピータンス絶対値―周波数プロット)の例。
【図13】エタノールの誘電緩和スペクトル。インピータンス絶対値―周波数プロットの例。
【図14】実施例3のガラス試料の形状。
【図15】実施例4のゴムシート試料の形状。
【図16】実施例5の織布試料の表面拡大図。
【図17】実施例6の多孔質試料の拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、試料と電極との間に導電性液体を充填することを主とするものである。
これは試料表面は、露出されて初めて、その存在状態が明らかになるものとの考えに基づきなされたものである。従来法における電極の密着は、表面を無くすことに相当する。これを液体に置き換えて表面を残して測定することが、本発明の思想的本質の一つである。実際、これまで見ることができなかった表面層を観測できるようになった。(図6と図8)
【0013】
本発明で表面構造の電荷の動きを測定できるようになった要因は、従来法では金属電極を密着させることで等電位にしていた表面を、液体を接触させることで不均一にし、構造に対応した電荷の移動を許容した点にある。
従来の誘電緩和の理論は、図5の等価回路およびその直列接続で表現されてきた。これに対し本発明は、繊維の実施例で示した、プラス・マイナスの電荷を感じることによる等価的な接地、多孔質で示した、電荷の素通りによる抵抗の増大(静電容量の減少)など、構造に由来する新たな因子を付け加えて明らかにすることができた。
この構造由来の因子を含んだ等価回路の抵抗値、静電容量値は、従来の表面を等電位としたモデルからは導くことができない。電子が試料の表面構造の奥深くまで入り込むこと、または通過して戻ってくることによる表面の不均一な電位を許容することで初めて導かれる。
【0014】
ここで、電極を密着させる代わりに導入した液体の種類について述べておく。
液体は腐食性により電極や試料表面を劣化させるものは使えない。
真空との誘電率の比である比誘電率の大きな液体は、静電容量が大きくなり測定に有利である。例えば水(比誘電率80)、グリセリン(47)、グリコール(40)、メチルアルコール(32)、エタノール(24)、アセトン(19.5)などがある。
比誘電率としては、直径10mm、電極間隔15mmの装置を用いた場合、液体単独の静電容量が0.5pFを超える11以上、好ましくは液体単独の静電容量が1pFを超える22以上とするのが望ましい。
液体に微粒子などを加えて比誘電率を増す事が考えられるが、混合された微粒子の誘電特性により、試料の正しい測定を妨げる虞があるので好ましくない。ただし、このような問題を生じない微粒子の混合は許される。
比誘電率の上限は、混合物の無い純粋な液体の比誘電率で決まり、液体の中でも特に大きな比誘電率を持つ水(80)が、安定性、安全性の高さと相俟って、現状では実用上の最も好ましい上限といえる。
なお、原理的には、2,5 ジクロ‐フェニル‐フェニル‐スルフォンのように130という高い比誘電率を持つ液体の利用も可能である。一方、比誘電率が小さいと静電容量が小さくなるために測定は困難になるが、装置の電極間距離を短くすること、電極面積を大きくすることで、適用可能な比誘電率の最小値を下記実施例よりも小さくすることは可能である。
比誘電率以外の液体種の選択法として、例えば、試料が水溶性の場合、上述の水以外の溶液を使うことができる。
図13はエタノールを用いた場合の誘電緩和スペクトルである。これは超純水の場合(図3)に対応するものである。
【実施例1】
【0015】
試料表面の誘電特性を測定することを特長とする本発明の装置の断面図を図1に示す。
誘電特性を測定する装置を接続する二片の並行する金属電極(E)(直径10mm、電極間隔15mm)の間に試料(S)を挿入する。さらに金属電極(E)と試料(S)との空間(M)に液体を満たす。
前記金属電極(E)は電磁遮蔽体(2)によって覆われており、同軸ケーブル(4)を介して誘電特性計測装置に接続する。
前記空間(M)は、試料(S)と前記電磁遮蔽体(2)との間に位置して、試料(S)を保持する保持部材(10)の前記電極(E)に対向する位置に形成された貫通口である。前記保持部材(10)は、薬品に対する耐性が高い物質、例えばテフロン(弗素樹脂のポリ四弗化エチレンの商標名)などで作られ、前記空間(M)に通じる下側の注液口(5)と、上側の排液口(1)を有している。
さらに、前記試料(S)の測定範囲とは外れた箇所にて密接して保持する為に、試料面に対向する面には、リング状の弾性シール材(3)が突出状態で設けてある。このシール材(3)によって、保持部材(10)と試料(S)の測定面との間に、前記空間(M)に続く、高さの低い間隙(M1)を形成しながら試料を保持することができた。このようにして、この間隙(M1)を含む試料と電極間に存在する一連の空間(M)は、前記注液口(5)から注入された誘電性液体により充填することができるようになっている。
以上のようにすることで、試料(S)の測定表面を損傷することなく、その表面の凹凸をそのままにして、表面の誘電特性を測定できるようになった。
液体は空間(M)に気泡が入らないように注ぎ込む必要がある。これは測定値に気泡の誘電特性が入ることを防ぐためである。従って装置下部に設けた注液口から、気泡を追い出すように液体を注ぎ込み、装置上部に設けた排液口から気泡とともに液体を排出する必要がある。
【0016】
前記誘電性液体のような、中間的な電気電導性のある液体の接触は、微細構造を持つ表面上で電荷の不均一な分布を実現できる。この不均一な分布は、後述の具体例に示すとおり、構造を反映した独自の誘電特性を示す。
これを解析することにより、表面構造の物理的な変形を伴うことなく、表面構造に固有な誘電特性を測定できる。
本発明における表面の誘電特性の測定法として、以下の[参考例]で詳述する誘電緩和法が有効である。この手法は、電荷の動きを分析することができる。試料表面に電極を密着させない状態で誘電緩和測定することにより、表面内の電荷の動き(水平方向)、表面と誘電性液体の間の電荷の動き(垂直方向)を観測することができる。
【参考例】
【0017】
液体のみの測定例
試料を挿入しない液体のみの誘電緩和スペクトルの測定結果を図3と図4の●に示す。ここで液体の一例として超純水を用いている。両方の図とも横軸は誘電緩和測定のために電極に印加する交流電源の周波数(Hz)、縦軸は図3ではインピーダンスの絶対値(Ω)、図4では損失角(度)としている。
ここで、誘電緩和スペクトルに現れる、インピーダンスの絶対値と損失角について説明しておく。
インピーダンスZは印加する交流電圧Vと交流電流Iの間の振幅の比および位相の違いを表し、直流回路のオームの法則と同じように



とあらわされる。インピーダンスZは振幅と位相の情報を含むため、数学的には複素数で表される。
インピーダンスの絶対値は、(インピーダンスの実数値)+(インピーダンスの嘘数値)の平方根であらわされる。インピーダンスの絶対値は、振幅情報を与える。
損失角は、tan−1((インピーダンスの嘘数値)/(インピーダンスの実数値))で定義される。この定義式は、実数値を横軸、嘘数値を縦軸とする複素平面において、インピーダンスが横軸となす角度を示す。この角度は位相情報に相当する。
【0018】
図3と4の誘電緩和スペクトルは以下のように説明できる。
周波数が低い場合には、電荷が十分に電極―試料間を移動する時間があるために、超純水の高抵抗の電導特性を示し、かつ電圧と電流の方向(位相)が等しいために損失角は小さい。周波数が高くなると、電荷は電極―試料間を移動する時間がなくなり、限られた領域での往復運動になる。しかし、この往復運動は電荷のバケツリレーと見なせるために、インピーダンスの絶対値は小さくなる。しかし電荷はやがて激しい往復運動に追随できなくなり、電圧と電流に位相差が現れてくる。最終的に高周波で損失角は最大の−90度(容量性)になる。
【0019】
この誘電緩和過程は、図5に示す抵抗Rと静電容量Cの並列等価回路で表すことができる。静電容量は電圧と電流の間に位相差を作り出す。この等価回路のインピーダンスZは



ここで、fは印加する交流電源の周波数であり、図3や4に示した誘電緩和スペクトルの横軸に相当する。よってこの式に従ってfからZが導かれ、上述のようにZからインピーダンスの絶対値(図3の縦軸)と損失角(図4の縦軸)が求まる。結果的に、誘電緩和スペクトルはRとCが決まれば一意に求まる。逆に、実験で得られた誘電緩和特性からRとCを求めることが可能である。
この回路からシミュレーションした誘電緩和スペクトルを図3と4の実線によって示す。ここで、抵抗Rは2 .0MΩ、静電容量Cは3.4 pFとしており、実験結果とよく一致する。
この液体に様々な試料を挿入することで現れる、表面固有の誘電特性例(実施例)を以下に示してゆく。
【実施例2】
【0020】
前記実施例1に示す保持部材を電磁波遮蔽体材料により構成し、当該保持部材(10)の空間(M)の電極(E)を取りつけて、保持部材(10)に電極(E)の機能を有さしめることも可能である。
また、保持部材(10)の試料に対向する面全体に弾性遮液材を張り付け、前記空間(M)の範囲を試料の測定範囲とすることも可能である。
【実施例3】
【0021】
ガラスへの適用例
前記実施例1で示す装置を用いて、超純水を液状誘電体としてガラスである二酸化珪素板を試料(S)とした場合の測定結果を以下に示す。二酸化珪素板の厚さは0.15mmであり、直径25mmの大きさを有する。試料は、本装置内で直径24mmのゴムリングで保持され、測定は電極の直径である10mmの部分に対して行っている。表面は光学的に研磨してある。試料の形状を写真1に示す。
当該測定による誘電緩和スペクトル(インピーダンスの絶対値―周波数特性)を図6に示し、主要な測定データを表1に示す。この図に示すとおり、三つの傾斜(T1−T3)が現れる。
【表1】

【0022】
この三つの傾斜は試料が三つの層から構成されることを示しており、それぞれの層の中で、前記参考例で述べた誘電緩和過程が起きている。すなわち、図5の等価回路が三つ直列接続されていると考えてよい。最も高い周波数に現れるT3は図3と一致することからわかるように、水の層のスペクトルである。一方で、最も低い周波数に現れるT1は二酸化珪素板のスペクトルである。そしてT2が本発明で得られる表面層のスペクトルとなる。図中の破線は、表面層がない場合を仮定したスペクトルのシミュレーションである。挿入図は、T2の部分を拡大している。
【0023】
従来法と同様に試料表面に金属(ここでは金)を真空蒸着により密着させた場合の誘電緩和スペクトル(インピーダンスの絶対値―周波数特性)を図7に示し、主要な測定データを表2に示す。誘電緩和の傾斜は二つ、すなわち図6のT2に対応する二酸化珪素板と、図6のT3に対応する水の層になり、表面層はなくなる。
【表2】

【0024】
これらの結果の意味するところは以下のとおりである。
表面層は、材料内部と異なり化学結合をもたない表面原子に付随する動きづらい電子(捕獲電子)によるものである。これが金属を密着させることによって捕獲電子は自由に動けるようになり、物質内部と同じ状態になる。従って図7では表面層の特性がなくなる。
金属を密着しない場合(図6)の解析から、表面層(T2)の電気定数は抵抗740kΩ、静電容量80pFと決定された。
以上のように本発明の手法における、完全導体でもなく絶縁でもない中間的な電気電導性をもつ液体を介した接触によって表面の誘電特性が観測できるようになった。
【実施例4】
【0025】
高分子への適用例
前記実施例1で示す装置を用いて、超純水を液状誘電体として高分子材料を試料(S)とした例を以下に示す。
試料は、厚さ0.5mm、大きさ30mm角のゴムシートであり、本装置内で直径24mmのゴムリングで保持され、測定は電極の直径である10mmの部分に対して行っている。シート状に加工した後、架橋処理を施した表面を観測している。試料の形状を写真2に示す。
【0026】
高分子の誘電特性は、表3のように力学特性と対応づけられる。この対応づけは、電界が局所的に高分子材料の変位させることを示している。
【表3】

【0027】
従来の誘電特性の測定では、例えばゴムに金属を蒸着(密着)させ、試料全体の誘電特性と力学特性を評価していた。
これに対し本発明では、表面の誘電特性を測定できるために、表面固有の力学特性を明らかにすることができる。
【0028】
図8は本発明によるゴムシートの誘電緩和(インピーダンスの絶対値―周波数特性)特性である。表4はその主要測定データを示す。
ガラスの例と同様に、スペクトルは表4に示すように三成分に分けることができ、低周波数から、ゴムシートの誘電緩和、表面の緩和、水の誘電緩和を示している。それぞれの成分を分離した結果を1−3で示す。これらの和は、測定結果とよく一致する。ここで表面の緩和特性2に注目し、温度依存などを分析することで、表面の高分子の力学的な特性が分かる。
この結果例では、表面層の抵抗(弾性)1.5 MΩ、静電容量(粘性)15 pFと見積もられた。
高分子材料の表面は露出されているため、摩擦や耐侯性などを決める要素である。本発明では、高分子材料の表面を選択的に特性評価できる特長がある。
【表4】

【実施例5】
【0029】
織布への適用例
前記実施例1で示す装置を用いて、超純水を液状誘電体として織布を試料(S)とした例を以下に示す。
試料には、アセテート100%のサテン織りを使用した。表面の拡大図を写真3に示す。試料の厚さは0.18mm、大きさは30mmであるが、本装置内で直径24mmのゴムリングで保持され、測定は電極の直径である10mmの部分に対して行っている。
【0030】
織布は糸の束を規則的に組み合わせた構造をもっている。このような構造体は、物質内部を見る従来法の観測対象とは考えられていなかったし、観測不可能である。しかし本発明は、このような複雑な構造体の誘電特性を測定できる。
図9に化学繊維であるアセテート製の織布を試料として挿入した場合の誘電緩和スペクトル(インピーダンス絶対値―周波数特性)を示す。表5は、その主要な測定データを示す。
【表5】

【0031】
本発明による織布誘電特性の特徴は、抵抗値が超純水のみの抵抗値R(図3参照)の1/2(破線)に近づき、容量が超純水のみの容量Cの2倍に(点線)に近づくことである。これは、本発明の場合、電荷が織布を透過することができ、その際に表面と裏面のプラスとマイナスの電荷を感じて総電荷量が0になるため、接地状態と同等となるためである。
これを等価回路で表すと図10のようになる。等価回路は表面側Aと裏面側Bの半分に分かれ、そのため観測される抵抗値が1/2に、容量が2倍になる。
【0032】
電荷の通過特性は織布に使用している繊維の抵抗に依存する。たとえば、無機繊維であるガラス繊維を使った織布のように抵抗値が高い場合には、電荷は織布を透過せず、図10の接地部分がない従来の測定と同じ等価回路で表される。
織布の誘電特性は、図9の点線および破線からのずれに含まれている。このずれを特徴的にみるには、図11に示すように、損失角―周波数特性で誘電緩和過程を観測するのが有効である。
図11で一点鎖線が超純水の誘電特性である。測定値(●)は高周波側でピークDAが現れるが、これがアセテート織布の誘電特性に対応する。
図9および図11の実線は、織布の誘電緩和スペクトルのシミュレーションの結果である。ここから、織布の物性値、抵抗54kΩおよび静電容量5.6pFが得られた。
【実施例6】
【0033】
多孔質への適用例
前記実施例1で示す装置を用いて、超純水を液状誘電体として多孔質材料を試料(S)とした例を以下に示す。
使用した試料は厚さ0.5mm、大きさは30mmのテフロンのパンチングシートであるが、本装置内で直径24mmのゴムリングで保持され、測定は電極の直径である10mmの部分に対して行っている。試料表面の顕微鏡図を写真4に示す。
従来法では孔に電極を付けることはできなかったし、孔のある物質は測定対象外であった。
図12は、テフロンに規則的な孔があいている板を試料として挿入した場合の、本発明による誘電緩和スペクトル(インピーダンス絶対値―周波数特性)を示す。
測定値(●)は、超純水の誘電特性とテフロンの誘電緩和特性の和によって表すことができる。シミュレーションによって求めた超純水とテフロンの誘電緩和特性をそれぞれ1と2に示す。1と2の和である3は測定値とよく一致する。
図12から、試料挿入後では挿入前よりも、超純水の抵抗値は増加し、容量は減少する。これを示すために、試料挿入前の超純水のみ抵抗成分と容量成分をそれぞれ4と5に示す(図3から導出)。超純水の誘電緩和特性1は、低周波で4より高く抵抗値が増えたことを示し、高周波では5よりも大きく容量が減ったことを示す。
これは電荷の一部が孔を通過し、試料に当たるまでの移動距離が長くなったためと等価的に考えられる。
この振る舞いを数式化すると次のようになる。孔が規則的でかつ開口率X(0<X<1)が小さい間は、超純水の抵抗は1/(1−X)倍大きくなり、容量は(1−X)の割合で小さくなる。すなわち、これらの値から開口率Xを算出することが可能である。またテフロンの容量は、上述のように孔を通過した後にテフロン表面に当たる電荷の分が加算され、大きくなる。
【0034】
一方、孔の開口率Xが大きくなると、表6に示すように、超純水の抵抗は急激に減少し図3の特性に戻る。これは、テフロンは開口率の増大とともに抵抗が増大し、Xが0.447以上では超純水の本来の抵抗値(2.0±0.15MΩ)を越え、その結果として電荷はテフロンにとどまらず、抵抗の小さな超純水が満たされた孔を通るようになるためである。このように電荷が孔を通り抜けるようになると、テフロンの静電容量は減少する。

従来の手法で求まる孔が全くない場合の材料固有の容量特性は、本発明における開口率Xが0の場合の外挿値に一致する。
このように誘電特性は、試料の材質とともに孔の分布や密度などの構造に依存する。従来法によって観測していた開口率Xが0の場合を含め、本発明は構造由来の誘電特性を評価できることが特長である。
【表6】

【符号の説明】
【0035】
(1) 排液口
(2) 電磁遮蔽体
(3) リング状の弾性シール材(密着支持部)
(4) 同軸ケーブル
(5) 注液口
(10) 保持部材
(E) 電極
(M) 空間
(S) 試料
【先行技術文献】
【特許文献】
【0036】
【特許文献1】特開平10−142170
【特許文献2】特開平10−142169
【非特許文献】
【0037】
【非特許文献1】インピーダンス測定 アクセサリガイド(アジレントテクノロジ社製 LCRメータ、キャパシタンスメータ、レジスタンスメータ、インピーダンス・アナライザ、コンビネーション・アナライザ用 アクセサリ一覧)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の表面の誘電特性を測定する方法であって、検出用電極と試料表面との間に間隙を配し、その間隙を液状誘電体で充填して、前記液状誘電体の接する試料表面の誘電特性を測定することを特徴とする試料表面の誘電特性測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の誘電特性測定方法において、前記液状誘電体は水であることを特徴とする試料表面の誘電特性測定方法。
【請求項3】
請求項1に記載の誘電特性測定方法において、前記液状誘電体はアルコールであることを特徴とする試料表面の誘電特性測定方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の誘電特性測定方法に用いる試料表面の誘電特性測定装置であって、前記試料を保持する保持部材には、前記試料の非測定箇所の表面に密着し、測定箇所表面とは間隙を有して前記試料を保持する密着支持部が設けられていて、前記試料の測定箇所表面と電極及び保持部材との間の間隙内に前記液体誘電体を充填する液注入部が前記保持部材に設けられていることを特徴とする試料表面の誘電特性測定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の試料表面の誘電特性測定装置において、前記密着支持部は、保持部材の試料対向面に突出して配置された弾性パッキンであることを特徴とする試料表面の誘電特性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−80820(P2011−80820A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232222(P2009−232222)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】