説明

試料計測装置及び試料容器

【課題】試料中に計測対象がどの程度含まれているのかを即座に判定すること。
【解決手段】燃焼室10内に載置された試料6を完全燃焼させ、この後、燃焼チャンバ19に発生したガスに含まれる13Cの濃度を計測チャンバ16により計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば組織等の試料に腫瘍組織が含まれているかの判定を行う試料計測装置及びこれに用いる試料容器に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野、例えば産婦人科分野や脳神経外科分野では、生体組織に存在する腫瘍組織の確定診断を行うために組織の採取及びその診断が実施されている。産婦人科分野では、子宮頚癌の早期発見のために生体組織の確定診断が行われる。脳神経外科分野では、開頭手術を行う前に腫瘍組織の確定診断を行うことができないので、手術中に術者が腫瘍組織を採取し、採取した組織を直ぐに病理に回して組織の確定診断を行っている。
【0003】
組織の確定診断では、次のように腫瘍組織と正常な細胞組織とを区別している。生体内で生じる全てのタンパク質の合成においてコドンは、タンパク質合成の開始指令を表す。これと同時にコドンは、アミノ酸であるメチオニンも指示している。これにより、タンパク質の合成が活発に行われている細胞は、メチオニンを多く取り込む。腫瘍細胞は、タンパク質の合成が活発なことからメチオニンを大量に取り込む。これにより、取り込まれたメチオニンの量から腫瘍細胞と周囲の正常な細胞組織との区別ができる。
【0004】
メチオニンの炭素原子をカーボン13(Carbon-13:13C)で置き換えたものを患者に投与すれば、腫瘍細胞に特に多くの13Cが含まれるようになる。腫瘍細胞に含まれた13Cは、例えばMRIスペクトロスコピー(MRI spectroscopy)により測定できる。このMRIスペクトロスコピーによる13Cの測定は、MRIにより得られる信号が微弱であるために時間を要する。MRIスペクトロスコピーによる13Cの測定では、空間分解能が非常に悪い。又、腫瘍細胞がどの辺に存在するか程度のことは分かるが、詳細な分布は分からない。このため、MRIスペクトロスコピーによる13Cの測定結果は、手術によって腫瘍細胞を摘出するときに、生体からどこまでの領域を除去すべきかを判断することには役立たない。
13Cは、赤外線分光計を用いて測定できる。しかし、赤外線分光計による13Cの測定は、13Cが気相でないと測定できない。
【0005】
悪性腫瘍組織は、その周囲の正常組織と明確な境界を持たず、正常組織内に浸潤した状態になっている。このため、悪性腫瘍組織を開頭手術により摘出する場合、どこまでの領域を除去すべきかを判断することは容易でない。
現在、悪性腫瘍組織を開頭手術により摘出する場合、どこまでの領域を除去すべきかを判断するための一つの手法として迅速生検が行われている。すなわち、悪性腫瘍組織を摘出する場合、例えば肝臓など胸腹部領域に生じた悪性腫瘍組織であれば、この悪性腫瘍組織とその周囲の正常組織を含んで多少大きな領域を摘出してもさほど問題ではない。しかし、脳神経外科分野における開頭手術では、脳に与える影響が大きいため脳の悪性腫瘍組織の周囲の正常組織の摘出は極力ミニマムに抑えなければならない。このため、開頭手術中に術者が迅速生検によって腫瘍組織を採取し、採取した組織を直ぐに病理に回して組織の確定診断を行っている。
【0006】
具体的に迅速生検は、開頭手術中に少量ずつ組織の摘出を行い、この摘出した組織を凍結し、スライスして顕微鏡用の標本を作る。そして、この標本を染色し、顕微鏡により観察することによって目視により悪性腫瘍細胞の有無・多寡を判定する。
【0007】
しかしながら、迅速生検は、通常、開頭手術を行う手術室とは別の生検を行う部屋に摘出した組織を持参し、この部屋において摘出した組織を凍結し、スライスして顕微鏡用の標本を作る。このように手術室から迅速生検を行う部屋等に場所を変え、しかも組織を凍結し、スライスして顕微鏡用の標本を作るなどの種々プロセスを経る必要があるので、いくら急いで処理しても悪性腫瘍細胞の有無・多寡を判定するまでに時間を費やしてしまう。この時間は、1回の迅速生検で例えば15分掛かる。脳の開頭手術では、かかる手術の進行中に迅速生検を何回も繰り返し行い、腫瘍細胞の良性又は悪性を確認する。このため、脳の開頭手術中において迅速生検に要する時間が長くなってしまう。脳の開頭手術では、迅速生検に長い時間をかけることはできない。又、悪性腫瘍細胞の有無・多寡の判定は、組織診断の専門家が行わなければならず、コストも掛かる。
【0008】
悪性腫瘍組織を手術により摘出する場合、どこまでの領域を除去すべきかを判断するための別の手法がある。この手法は、悪性腫瘍組織に特異的に集まる蛍光物質を予め患者に投与し、手術中に少量ずつ組織の摘出を行い、この摘出した組織に励起光を照射して蛍光を発するか否かを判定する。この手法であれば、悪性腫瘍細胞の有無等の判定を迅速に行える。しかしながら、悪性腫瘍組織以外の組織からでも蛍光を発したり、逆に悪性腫瘍組織から発する蛍光が弱いこともある。又、血液にも蛍光物質が含まれるので、この蛍光物質からの蛍光も発する。このため、悪性腫瘍組織に集まった蛍光物質からの蛍光であるのか血液中の蛍光物質からの蛍光であるのかの判別が難しい。
【0009】
他に例えば特許文献1、2に開示されている手法がある。特許文献1は、血清中の血管透過性因子の存在量を血管透過性因子に対する抗体を用いて測定し、この測定値に基づいて大腸癌を診断することを開示する。特許文献2は、患者の検査を行おうとする部位から組織を剥離してプレパラートに塗布して採取し、この採取組織に染色色素を加え、カバーガラスを貼り付け、標本を作成し、これに患者情報を書き込んで組織標本を作成する。次に、病理診断医によって病理診断用顕微鏡を用いてプレパラートの確定診断を実施し、この診断所見をカルテデータとして保存する。次に、診察医は、病理診断医によって記入された診断所見をネットワークを通して確認する、ことを開示する。しかしながら、特許文献1、2に開示されている手法であっても診断結果を得るまでに時間が掛かる。このため、特許文献1、2は、悪性腫瘍組織を摘出する手術に、どこまでの領域を除去すべきかを判断するためには採用できない。
【特許文献1】特開平8−43384号公報
【特許文献2】特開2003−111733号公報(段落番号[0043]〜[0050])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、試料中に計測対象がどの程度含まれているのかを即座に判定できる試料計測装置及び試料容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1記載の本発明の試料計測装置は、試料を収容する試料容器と、試料容器内を酸素雰囲気として試料を完全燃焼させる燃焼系と、試料の完全燃焼の後、試料容器内に発生した計測対象の気体の濃度を計測する計測部とを具備する。
【0012】
請求項2記載の本発明の試料計測装置は、試料を収容する試料容器と、試料容器を気密状態で取り付け可能とし、試料を加熱して完全燃焼させる燃焼ヘッドと、試料容器に燃焼ヘッドを取り付けて気密状態にある試料容器内に酸素を充填させる酸素供給系と、試料容器内の試料を酸素雰囲気中で完全燃焼させた後、試料容器内から計測対象の気体を吸引する吸引系と、吸引系により吸引された計測対象の気体の濃度を計測する計測部とを具備する。
【0013】
請求項15記載の本発明の試料容器は、試料を収容し、酸素雰囲気中で加熱され、この加熱により試料を完全燃焼させて計測対象の気体を発生させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、試料中に計測対象がどの程度含まれているのかを即座に判定できる試料計測装置及び試料容器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は試料計測装置の構成図を示す。装置筐体1には、試料取入れ口2が設けられている。装置筐体1内には、シャーレ押上げ機構3が設けられている。このシャーレ押上げ機構3は、押上げ駆動源3aと、この押上げ駆動源3aの駆動により昇降する押上げ端3bとを有する。このシャーレ押上げ機構3は、押上げ端3bの昇降によりトレイ4上に載置された試料容器としての耐熱シャーレ5を上方に押し上げ、又は下降させる。
【0016】
トレイ4は、耐熱シャーレ5を載置する。このトレイ4は、耐熱シャーレ5を載置した状態で、試料取入れ口2を介して装置筐体1に取入れ、シャーレ押上げ機構3上にセットされる。図2はトレイ4及び耐熱シャーレ5の一例の外観図を示す。トレイ4は、平板4aに各脚4b、4cを設けてなる。平板4aには、耐熱シャーレ5を載置するための円形の載置用孔4dが設けられている。この載置用孔4dは、トレイ4を装置筐体1に取入れるときの先端側に設けられている。
【0017】
耐熱シャーレ5は、試料6を収容する。この試料6は、例えば手術中に摘出された悪性腫瘍組織を含む少量の組織である。この耐熱シャーレ5は、耐熱性を有する。この耐熱シャーレ5は、例えばアルミニウム、鉄又は銅により例えばカップ状に形成されている。この耐熱シャーレ5は、1つの試料6毎に新たなものに交換される所謂使い捨てタイプである。
【0018】
燃焼ヘッド7が装置筐体1内に設けられている。この燃焼ヘッド7は、シャーレ押上げ機構3上にセットされる耐熱シャーレ5の上方に設けられている。この燃焼ヘッド7には、シャーレ押上げ機構3により押し上げられた耐熱シャーレ5が取り付けられる。この燃焼ヘッド7の下面には、例えば円形の凸状部8が設けられている。この凸状部8は、耐熱シャーレ5の内径よりも若干大きな外径に形成されている。この凸状部8の外周縁には、パッキン9が設けられている。従って、耐熱シャーレ5が押し上げられると、耐熱シャーレ5の上端縁がパッキン9に押し付けられる。これにより、耐熱シャーレ5内は、燃焼ヘッド7の凸状部8により閉じられ、気密状態の燃焼室10が形成される。
【0019】
燃焼ヘッド7には、炭化系としての炭化用ヒータ11と、点火用バーナ12と、酸素供給系としての酸素管13と、吸引系としての吸引管14とが設けられている。炭化用ヒータ11は、例えば耐熱シャーレ5の周囲に配線され、発熱により耐熱シャーレ5を加熱する。この炭化用ヒータ11は、例えば電熱線を用いる。点火用バーナ12は、燃焼室10内に炭素を含まない燃料、例えば水素ガス等を供給し、かつ例えば電気スパークによって点火する。
酸素管13には、供給ポンプ15が設けられている。この供給ポンプ15は、酸素ガスを酸素管13に通して燃焼室10内に供給する。酸素管13には、酸素弁16が設けられている。
吸引管14は、計測チャンバ17に接続され、さらに吸引ポンプ18に接続されている。この吸引管14には、吸引弁19が設けられている。又、吸引管14の吸引口には、吸引フィルタ20が取り付け、取り外し可能に設けられている。この吸引フィルタ20は、例えば燃焼により発生した煤等が付着すると、新たなものに交換される所謂使い捨てタイプである。
【0020】
計測チャンバ17は、例えば赤外線分光計測器を有する。計測チャンバ17は、燃焼室10内で完全燃焼した後、燃焼室10から吸引管14を通して吸引された計測対象の気体、例えば13Cの濃度を計測する。計測された13Cの濃度は、例えば表示装置21に表示される。
吸引ポンプ18は、燃焼室10内に発生する完全燃焼後のガス、主に水蒸気、二酸化炭素、二酸化窒素からなるガスを吸引管14に通して吸引する。なお、吸引管14は、排気フィルタ22を介して装置筐体1の外部に開放されている。
【0021】
制御装置23は、予め設定されたシーケンスに従ってシャーレ押上げ機構3と、燃焼ヘッド7の点火用バーナ12と、供給ポンプ15と、計測チャンバ17と、吸引ポンプ18とを動作制御し、燃焼室10内に載置された試料6を完全燃焼させ、この後、燃焼室10内に発生したガスに含まれる13Cの濃度を計測チャンバ17で計測し、表示装置21に表示する。
なお、吸引弁19と吸引ポンプ18との間には、排気管24が設けられている。この排気管24には、排気弁25が設けられている。
【0022】
次に、上記の如く構成された装置の動作について説明する。
例えば、脳の悪性腫瘍組織を摘出する開頭手術の進行中、腫瘍細胞の良性又は悪性の確認が何回も繰り返し行われる。これら腫瘍細胞の確認では、メチオニンの炭素原子を13Cで置き換えたものを患者に投与する。これにより、腫瘍細胞には、多くの13Cが含まれるようになる。そこで、腫瘍細胞の良性又は悪性の確認を行う毎に、少量の組織が摘出される。この組織は、試料6として耐熱シャーレ5内に収容される。この耐熱シャーレ5は、トレイ4の載置用孔4d内に載置される。そして、トレイ4は、装置本体1の試料取入れ口2を介して装置本体1内に取入れられ、シャーレ押上げ機構3上にセットされる。
【0023】
次に、制御装置23は、図3に示す組織の確定診断の処理プロセスのフローチャートのプログラムに従ってシャーレ押上げ機構3と、炭化用ヒータ11と、燃焼ヘッド7の点火用バーナ12と、供給ポンプ15と、酸素弁16と、計測チャンバ17と、吸引ポンプ18と、吸引弁19とを動作制御する。すなわち、制御装置23は、ステップ#1において、耐熱シャーレ5を密閉するためにシャーレ押上げ機構3に上昇指令を発する。このシャーレ押上げ機構3は、押上げ端3bを上昇させてトレイ4上に載置されている耐熱シャーレ5を上方に押し上げる。この耐熱シャーレ5の押上げにより耐熱シャーレ5の上端縁は、パッキン9に押し付けられる。これにより、耐熱シャーレ5内は、燃焼ヘッド7の凸状部8により閉じられ、気密状態の燃焼室10が形成される。
【0024】
次に、制御装置23は、ステップ#2において、例えば排気弁25を開放すると共に吸引弁19を閉じ、かつ吸引ポンプ18を動作させて燃焼室10内の気体を排気管24を通して装置筐体1の外部に抜き、燃焼室10内を真空状態にする。燃焼室10内が真空状態になると、制御装置23は、排気弁25を閉じると共に吸引ポンプ18を停止する。なお、燃焼室10内は、酸素の無い状態にすればよい。又、制御装置23は、酸素弁16を開放し、供給ポンプ15を動作させて酸素ガスを予め設定された極少量だけ気密状態の燃焼室10内に供給してもよい。
【0025】
この状態で、制御装置23は、試料6を完全燃焼する前に、炭化用ヒータ11を通電して発熱させる。この炭化用ヒータ11の発熱により耐熱シャーレ5は、加熱される。これにより、燃焼室10内に収容されている試料6に含まれている水分や揮発性の成分、主に水蒸気、二酸化窒素から成るガスとなって飛ばされ、試料6は炭化される。制御装置23は、吸引ポンプ18を動作させて燃焼室10内の主に水蒸気、二酸化窒素から成るガスを排気管24を通して装置筐体1の外部に排気する。
【0026】
次に、制御装置23は、ステップ#3において、吸引弁19を開放し、かつ吸引ポンプ18の吸引動作を開始する。これにより、燃焼室10内の気体は、吸引管14を通して装置筐体1の外部に抜かれる。これと共に、制御装置23は、酸素弁16を開放し、かつ供給ポンプ15が酸素ガスの供給動作を開始する。これにより、酸素ガスは、酸素管13を通して燃焼室10内に供給される。この酸素ガスは、燃焼室10内に配置されている耐熱シャーレ5内に充填される共に、吸引管14を通して計測チャンバ17内にも充填される。
【0027】
次に、制御装置23は、吸引ポンプ18の吸引動作を停止し、吸引弁19を閉じる。
次に、制御装置23は、炭化用ヒータ11を通電して発熱させるか、又は燃焼ヘッド7の点火用バーナ12を点火する。例えば、燃焼ヘッド7の点火用バーナ12は、燃焼室10内に炭素を含まない燃料、例えば水素ガス等を供給し、電気スパークによって点火する。この点火により燃焼室10内に燃焼が発生し、この燃焼の加熱により試料6が点火する。これにより、試料6は、完全燃焼する。このときの燃焼温度は、例えば600〜1000℃である。試料6が完全燃焼することにより燃焼室10内には、二酸化炭素から成るガスが発生する。なお、このガスには、酸素も混入している。試料6の完全燃焼は、手術中に摘出した少量の悪性腫瘍組織を含む組織なので、短時間で終了する。
【0028】
次に、制御装置23は、ステップ#4において、吸引弁19を開放し、吸引ポンプ18の吸引動作を開始する。これにより、燃焼室10内の二酸化炭素から成るガスは、吸引管14を通して計測チャンバ17内に導入される。このとき、耐熱シャーレ5内に万が一煤が残っていても、この煤は、吸引フィルタ20により吸収され、計測チャンバ17内に導入されることはない。
【0029】
計測チャンバ17では、例えば赤外線分光計測器によって主に二酸化炭素及び酸素から成るガスから炭素Cに占める13Cの比率を計測する。計測された13Cの比率は、例えば表示装置21に表示される。ここで、人体から摘出した悪性腫瘍組織を含む組織は、炭素原子C、水素原子H、酸素原子O、窒素原子Nから組成される。メチオニンの炭素原子を13Cで置き換えたものを患者に投与すれば、腫瘍細胞に特に多くの13Cが含まれるようになる。
【0030】
従って、開頭手術の進行中に何回も繰り返し摘出された悪性腫瘍組織である試料6を完全燃焼されることにより13Cから組成される二酸化炭素13COと、12Cから組成される二酸化炭素12COと、酸素Oとを有するガスが発生する。
【0031】
計測チャンバ17は、二酸化炭素13COと、二酸化炭素12COと、酸素Oとを有するガスから二酸化炭素13COのCに占める比率を例えば赤外線分光計測器によって計測する。
制御装置23は、ステップ#5において、計測チャンバ17により計測された二酸化炭素13COのCに占める比率を表示装置21に表示する。なお、表示装置21は、例えば13Cの濃度を自然に存在する13Cの比率をパーセント表示(%)してもよい。又、赤外線分光計によって計測された12Cの濃度を表示装置21に表示してもよい。
【0032】
13Cの比率を計測した後、制御装置23は、吸引ポンプ18の吸引動作を停止する。これと共に制御装置23は、シャーレ押上げ機構3に対して下降指令を発し、押上げ端3bを下降させ、耐熱シャーレ5を下降させる。この下降により耐熱シャーレ5は、トレイ4の載置用孔4d内に戻される。そして、トレイ4は、装置本体1の試料取入れ口2を介して装置本体1外に排出される。この耐熱シャーレ5は、廃棄される。
【0033】
次に摘出された組織は、新たな耐熱シャーレ5内に収容され、トレイ4の載置用孔4d内に載置されて装置本体1内のシャーレ押上げ機構3上にセットされる。そして、上記同様に、13Cの比率の計測が行われる。
【0034】
手術中に摘出される悪性腫瘍組織を含む組織は、例えば脳の開頭手術の進行に従って深くなる人体の深部、例えば脳の深部から摘出されたものとなる。開頭手術の進行と共に逐次、悪性腫瘍組織を含む組織を摘出して13Cの比率を計測すれば、脳の深度に応じた各13Cの比率を取得できる。従って、表示装置21は、例えば図4に示すように脳の深度に応じて摘出した各組織に含む13Cの各比率の計測結果を例えば棒グラフにより表示することが可能である。この13Cの各比率の計測結果の表示では、自然に存在する13Cの比率dnと対比させて表示する。
なお、表示装置21における13Cの比率の表示は、13Cの比率値で表示してもよい。又、13Cの比率は、当該比率の値に応じた音の高さの報知音等によって報知してもよい。しかるに、13Cの比率は、開頭手術している医師が直感的に13Cの比率を分かるような報知の方法であればよい。
【0035】
このように上記一実施の形態によれば、燃焼室10内に載置された例えば脳の開頭手術中に摘出した悪性腫瘍組織を含む組織である試料6を完全燃焼させ、この後、燃焼室10内に発生したガスに含まれる13Cの比率を計測チャンバ17により計測するので、開頭手術中に摘出した少量の悪性腫瘍組織を含む組織等の試料6が完全燃焼するまでは短時間で終了し、即座に13Cの比率を計測してその結果を表示でき、しかも自然に存在する13Cの比率dnと対比させて表示できる。
【0036】
脳の開頭手術では、かかる手術の進行中に何回も繰り返して腫瘍細胞の良性又は悪性を確認する。このような脳の開頭手術中における腫瘍細胞の良性又は悪性の確認には、長い時間をかけることができない。例えば図5に示すように悪性腫瘍組織tは、正常組織nとの境界が明確でない。悪性腫瘍組織tの領域内fでは殆ど悪性腫瘍細胞gである。悪性腫瘍組織tの領域と正常組織nの領域との境界付近の領域fでは、正常細胞hと悪性腫瘍細胞gとが混在する。正常組織nの領域fでは、殆ど正常細胞hである。メチオニンの炭素原子を13Cで置き換えたものを患者に投与した場合、悪性腫瘍細胞gの存在する割合に応じて13Cの含む量も変化する。従って、表示装置21に表示された13Cの比率から悪性腫瘍組織tを摘出する開頭手術中に、どこまでの領域を除去すべきかを判断する必要がある。
【0037】
本実施の形態であれば、かかる開頭手術の進行中に何回も繰り返して行われる腫瘍細胞の良性又は悪性の確認の毎に短時間で13Cの比率の計測結果を表示でき、開頭手術中に、どこまでの領域を除去すべきかの判断を短時間で行うことを可能とし、摘出領域を最小限に抑えることができる。
【0038】
13Cの比率を自然に存在する13Cの比率dnと対比させて表示するので、悪性腫瘍細胞gが存在する程度を視覚的に認識でき、どこまでの領域を除去すべきかの判断を支援できる。又、図4に示すように脳の深度に応じて摘出した各組織に含む13Cの各比率の計測結果を例えば棒グラフにより表示すれば、悪性腫瘍細胞gを削除する深度も判断を支援できる。
【0039】
耐熱シャーレ5は、例えばアルミニウム、鉄又は銅により例えばカップ状に形成されているので、加熱して悪性腫瘍組織を含む組織である試料6を完全燃焼させた場合、二酸化炭素から成るガス以外のガスを発生させて13Cの比率の計測に影響を与えることはない。又、耐熱シャーレ5は、1つの試料6毎に新たなものに交換される所謂使い捨てタイプであるので、前回の測定時に発生したガスが微量でも付着して今回の13Cの比率の計測に影響を与えることもない。
【0040】
又、上記一実施の形態によれば、装置筐体1の全体形状を小型化できる。例えば、耐熱シャーレ5は、摘出した若干の患部組織等の試料6を収容すればよいので、例えば直径1cm前後程度の小型に形成できる。又、耐熱シャーレ5の上方から耐熱シャーレ5内を気密状態の燃焼室10に形成して燃焼させる燃焼ヘッド7の形状も例えば耐熱シャーレ5の大きさと略同じ程度の大きさに形成できる。しかるに、装置筐体1の全体形状も例えば一辺30cm程度の立方体の箱状の形状に小型化できる。従って、本発明装置であれば、小型化を実現できるので、手術室に置いておくことが可能であり、手術中に即座に使用して短時間で13Cの比率の計測結果を表示でき、腫瘍細胞の良性又は悪性の確認をすることができる。小型化であるので、手術室に置いても術者の移動等の妨げになることはない。本発明装置であれば、各手術室に移動して使用することが可能である。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
例えば、上記一実施の形態では、脳の開頭手術に適用した場合について説明したが、脳の開頭手術に限らず、例えば胃、肝臓などの腹部臓器の手術にも適用できる。このような腹部臓器の手術の場合も、手術の進行中に、例えば腫瘍細胞の良性又は悪性の確認の毎に短時間で13Cの比率の計測結果を表示でき、胃、肝臓などの腹部臓器のどこまでの領域を除去すべきかの判断を短時間で行うことができ、摘出領域を最小限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る試料計測装置の一実施の形態を示す構成図。
【図2】同装置におけるトレイ及び耐熱シャーレの一例を示す外観図。
【図3】同装置における組織の確定診断の処理プロセスのフローチャート。
【図4】同装置における13Cの濃度の計測結果の表示例を示す図。
【図5】悪性腫瘍細胞と正常細胞との存在する状態を示す模式図。
【符号の説明】
【0043】
1:装置筐体、2:試料取入れ口、3:シャーレ押上げ機構、3a:押上げ駆動源、3b:押上げ端、4:トレイ、4a:平板、4b,4c:脚、4d:載置用孔、5:耐熱シャーレ、6:試料、7:燃焼ヘッド、8:凸状部、9:パッキン、10:燃焼室、11:炭化用ヒータ、12:点火用バーナ、13:酸素管、14:吸引管、15:供給ポンプ、16:酸素弁、17:計測チャンバ、18:吸引ポンプ、19:吸引弁、20:吸引フィルタ、21:表示装置、22:排気フィルタ、23:制御装置、24:排気管、25:排気弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を収容する試料容器と、
前記試料容器内を酸素雰囲気として前記試料を完全燃焼させる燃焼系と、
前記試料の完全燃焼の後、前記試料容器内に発生した計測対象の気体の濃度を計測する計測部と、
を具備することを特徴とする試料計測装置。
【請求項2】
試料を収容する試料容器と、
前記試料容器を気密状態で取り付け可能とし、前記試料を加熱して完全燃焼させる燃焼ヘッドと、
前記試料容器に前記燃焼ヘッドを取り付けて気密状態にある前記試料容器内に酸素を充填させる酸素供給系と、
前記試料容器内の前記試料を酸素雰囲気中で完全燃焼させた後、前記試料容器内から計測対象の気体を吸引する吸引系と、
前記吸引系により吸引された前記計測対象の気体の濃度を計測する計測部と、
を具備することを特徴とする試料計測装置。
【請求項3】
前記試料を前記完全燃焼する前に、前記試料を炭化する炭化系を有することを特徴とする請求項1又は2記載の試料計測装置。
【請求項4】
前記炭化系は、酸素の無い雰囲気中で前記試料を炭化することを特徴とする請求項3記載の試料計測装置。
【請求項5】
前記炭化系は、前記試料に含む揮発性成分を除去することを特徴とする請求項3記載の試料計測装置。
【請求項6】
前記試料容器は、耐熱性を有することを特徴とする請求項1又は2記載の試料計測装置。
【請求項7】
前記試料容器は、少なくともアルミニウム、鉄又は銅により形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の試料計測装置。
【請求項8】
前記試料容器は、前記試料を加熱して完全燃焼させる燃焼ヘッドを取り付け可能とし、かつ前記燃焼ヘッドの取り付けにより気密状態となることを特徴とする請求項1又は2記載の試料計測装置。
【請求項9】
前記試料容器は、前記試料毎に交換可能とすることを特徴とする請求項1又は2記載の試料計測装置。
【請求項10】
前記計測部は、前記計測対象の気体として13Cの濃度を計測することを特徴とする請求項1又は2記載の試料計測装置。
【請求項11】
前記計測部は、赤外線分光計測器を有することを特徴とする請求項1又は2記載の試料計測装置。
【請求項12】
前記燃焼ヘッドは、前記酸素供給系と前記吸引系とを設けたことを特徴とする請求項2記載の試料計測装置。
【請求項13】
前記燃焼ヘッドは、炭素を含まない燃料を供給して点火することを特徴とする請求項2記載の試料計測装置。
【請求項14】
前記燃焼ヘッドは、前記試料を完全燃焼してCOを発生させ、
前記計測部は、赤外線分光計測器により前記COを組成する13Cの濃度を計測する、
ことを特徴とする請求項2記載の試料計測装置。
【請求項15】
試料を収容し、酸素雰囲気中で加熱され、この加熱により前記試料を完全燃焼させて計測対象の気体を発生させることを特徴とする試料容器。
【請求項16】
前記計測対象の気体は、13Cを含むことを特徴とする請求項15記載の試料容器。
【請求項17】
耐熱性を有することを特徴とする請求項15記載の試料容器。
【請求項18】
少なくともアルミニウム、鉄又は銅により形成されることを特徴とする請求項15記載の試料容器。
【請求項19】
前記試料を加熱して完全燃焼させる燃焼ヘッドを気密状態で取り付け可能とすることを特徴とする請求項15記載の試料容器。
【請求項20】
前記試料毎に交換可能とすることを特徴とする請求項15記載の試料容器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−309826(P2007−309826A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140282(P2006−140282)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】