説明

試験気体漏れ検知のための方法および機器

【課題】温度依存性が小さい複合膜を形成する方法を提供する。
【解決手段】漏れ検知器は、試験気体を受けるための漏れ検知器入口と、前記漏れ検知器入口に接続された真空ポンプと、通路を介して前記漏れ検知器入口に接続された試験気体感知ユニットと、前記試験気体に対する透過性があり、前記漏れ検知器入口と前記試験気体感知ユニットとの間の前記通路に配置された膜であって、前記試験気体に対し、T0が設計温度であるときにT0-20K〜T0+20Kの温度範囲に対して5パーセント未満で変動する透過性を有する膜とを含んでいる。くわえて、半透過性膜および多孔性膜を含む複合膜を形成するための方法が提供される。さらに、複合膜を含む漏れ基準器が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止された物品における漏れの検知に関し、特に、試験気体を試験気体感知ユニットへと通過させる膜を使用した試験気体漏れ検知のための方法および機器に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリウム質量分析計漏れ検知は、公知の漏れ検知技術である。ヘリウムは試験気体として使用され、封止された試験片の最も小さな漏れ孔でも通過する。漏れ孔を通過したのち、ヘリウムを含有する試験試料が漏れ検知器具に引き入れられて、測定される。器具では、質量分析計管がヘリウムを検知および測定する。ヘリウム成分を分離するために、投入された試験試料が分析計管によりイオン化されかつ質量分析される。1つの手法では、試験片をヘリウムにより加圧する。漏れ検知器の試験口に接続された探知器プローブが、試験片の外部の周りを移動する。ヘリウムは試験片の漏れ孔を通過し、プローブに引き入れられ、漏れ検知器により測定される。別の手法では、試験片の内部が、漏れ検知器の試験口に接続されていて、排気される。ヘリウムは試験片の外部に噴霧(スプレー)され、漏れ孔を通って内部に引き入れられ、漏れ検知器により測定される。
【0003】
ヘリウム質量分析計漏れ検知に関連する問題の1つは、質量分析計管の入口を、比較的低い圧力、通常2×10-4トールに維持しなければならないことである。いわゆる従来の漏れ検知器において、試験片または探知機プローブに接続された試験口を、比較的低い圧力に維持しなければならない。このため、真空ポンピングサイクルが比較的長い。さらに、漏れ部または大容量部の試験において、必要な圧力水準に達するのが困難または不可能な場合がある。必要な圧力水準に達することができたとしても、ポンピングサイクルが非常に長くなる。
【0004】
この問題を克服するための技術が、先行技術において提案されてきた。逆流漏れ検知器が、1972年9月12日にBriggsに発行された特許に係る下記特許文献1に開示されており、拡散ポンプを通って質量分析計へと向かうヘリウムの逆流の技術を使用している。漏れ検知器試験口は、拡散ポンプフォアラインの圧力で作動させることができる。類似の手法では、ターボ分子ポンプを通るヘリウムの逆流を使用している。1988年4月5日にFruzzettiに発行された特許に係る下記特許文献2は、試験気体が機械式真空ポンプの1つまたは2つのステージを通って逆方向に通過する、総体的な漏れ検知用の技術を開示している。これらの技術により、試験口圧力が、従来の漏れ検知器よりも高くできるようにされている。しかし、大容量、汚れた部分、または大きな漏れ孔を有する部分を試験するときに、より高い試験口圧力に達することが困難な場合がある。
【0005】
1959年6月15日に公開された下記特許文献3は、ヘリウムおよび水素を選択的に通過させるために、加熱したシリカ膜を使用する、ヘリウム漏れ検知器を開示している。水素を捕捉するために捕捉器(ゲッタ)が設けられ、ヘリウム圧力を測定するためにイオン化ゲージが使用されている。1990年1月31日に公開された下記特許文献4は、石英(シリカ)ガラス毛管の形態のプローブに接続されたイオンポンプを含むヘリウム漏れ検知器を開示している。石英ガラス管は300℃(セ氏)〜900℃の間の温度に加熱されて、ヘリウムが透過可能となる。1994年7月5日にDeSimonに発行された特許に係る下記特許文献5は、石英毛管膜、この膜を加熱するためのフィラメントおよびイオンポンプを使用したヘリウム検知ユニットを開示している。1997年8月26日にBohm外に発行された特許に係る下記特許文献6は、ヘリウムを気体消費真空ゲージへと選択的に通過させるためのポリマー窓または過熱された石英窓を有する漏れ検知器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第3,690,151号明細書
【特許文献2】米国特許第4,735,084号明細書
【特許文献3】仏国特許第1,181,312号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0352371号明細書
【特許文献5】米国特許第5,325,708号明細書
【特許文献6】米国特許第5,661,229号明細書
【特許文献7】米国特許第6,527,833号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
透過性膜を使用した漏れ検知技術により、試験気体センサが、漏れ検知器入口からの異なる圧力で作動することが可能になる。しかし、先行技術の膜は、室温での透過性が低く、通常、透過性を増加させるために高温に過熱することが必要とされてきた。加熱された膜には、制御された過熱源が必要であり、そのため、ユニットのコストおよび複雑性が増加する。くわえて、先行技術の膜の透過性は、比較的大きな温度係数を有している。ゆえに、漏れ検知の精度は、膜の温度が制御される正確さに、部分的に依存している。
【0008】
透過性膜を使用した漏れ検知技術はまた、イオン化ゲージ、イオンポンプまたは気体消費真空ゲージに達した過剰なヘリウムの影響を受けやすい。大規模な漏れが起きた場合、膜外での、結果として生じるヘリウム分圧により、多数のヘリウム原子がセンサ内へ送り込まれる。そうなると、これらのセンサは、これらのヘリウム原子すべてを急速に埋めることができない。そのため、数分の間、漏れ検知器は作動不能となるか、または感度が低下する。
【0009】
したがって、漏れ検知用の改良された方法および機器が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の局面によれば、漏れ検知器は、試験気体を受けるための漏れ検知器入口と、前記漏れ検知器入口に連結された真空ポンプと、通路を介して前記漏れ検知器入口に接続された試験気体感知ユニットと、前記試験気体に対する透過性があり、前記漏れ検知器入口と前記試験気体感知ユニットとの間の前記通路に配置された膜であって、前記試験気体に対し、T0が設計温度であるときにT0-20K〜T0+20Kの温度範囲にわたって5パーセント未満で変動する透過性を有する膜とを備えている。
【0011】
他の実施形態では、前記膜は、前記試験気体に対し、T0が設計温度であるときにT0-20K〜T0+20Kの温度範囲にわたって1パーセント未満で変動する透過性を有している。
本発明の第2の局面によれば、複合膜を形成するための方法が提供される。当該方法は、試験気体に対して透過性Sを有する半透過性膜、および、前記試験気体に対して透過性Pを有する多孔性膜を選択して、式
P2 dS/dT + S2dP/dT = 0
を満たすようにするステップであって、Tは温度であり、前記式は温度T0で評価されるステップと、前記選択された半透過性膜および前記選択された多孔性膜を含む複合膜を形成するステップとを含んでいる。
【0012】
本発明の第3の局面によれば、漏れ基準器は、開口部を有する包囲部と、前記開口部を封止し、半透過性膜および多孔性膜を含む複合膜と、前記包囲部内に封入された試験気体とを備えている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】漏れ検知器の第1の実施例の簡略なブロック図である。
【図2】膜を組み込んだ弁の実施例の部分断面図である。
【図3】漏れ検知器の第2の実施例の簡略なブロック図である。
【図4】複合膜の第1の実施例の温度の関数としての透過性のグラフである。
【図5】複合膜の第2の実施例の温度の関数としての透過性のグラフである。
【図6】漏れ基準器の実施例の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明をよりよく理解するために、参照により本明細書に組み込まれる添付図面を参照する。
本発明は、一般的に、1種以上の軽い気体を試験気体として使用する漏れ検知器に関する。軽い気体には、ヘリウム、水素、ネオン、およびこれらの同位体が含まれる。漏れ検知方法および機器は、入口と試験気体感知ユニットとの間に配置される膜を含んでいる。膜は、軽い気体に対する透過性を有しており、より重い気体を、すなわちネオンよりも重い気体すべてを選択的に遮断する。試験気体感知ユニットには例えば、イオンポンプ、イオン化ゲージ、質量分析計、扇形磁場型質量分析計、四重極質量分析計、ペニングセル、気体消費真空ゲージおよび電荷結合素子が含まれる。時間および弁調節履歴に基づく試験気体感知ユニットの出力から、ほぼ即時の試験気体濃度を、そしてそれゆえに漏れ比率を、算出することができる。
【0015】
試験気体を通過させ、より重い気体を選択的に遮断する膜を使用する漏れ検知器の問題は、膜を介した試験気体の通過を、例えば漏れ検知器の試験モードから非試験モードへの切り換えに応じて、どのようにして速やかに終了させるかである。試験モードでは、漏れ検知器の入口と膜との間で接続が確立されている。非試験モードでは、入口と膜とは、通常は弁を閉めることにより、切り離されている。しかし、弁と膜との間の空間に閉じ込められた試験気体は、弁が閉じられているという事実にもかかわらず、膜を透過し続け、試験気体感知ユニットにより感知される。膜を介した試験気体の透過は、閉じ込められた体積が比較的小さい場合であっても、許容できないほど長い時間続く可能性がある。ゆえに、この問題を軽減する漏れ検知器構成が必要である。
【0016】
先行技術の構成では、膜加熱器への通電を止めることにより、試験気体の通過を終了していた。しかし、膜が室温と約100℃との間で作動する構成では、膜を介した試験気体の通過を非常に速やかに終了するのが望ましい。
漏れ検知器が試験モードから非試験モードに切り換えられたとき、または、膜を介した試験気体通過の終了が他の何らかの理由で必要になったとき、膜を介した試験気体の通過は、実質的に500ミリ秒以下の時間内に終了されるのが好ましい。膜を介した試験気体の通過は、実質的に100ミリ秒以下の時間内に終了されるのがさらに好ましい。膜を介した試験気体の通過は、実質的に25ミリ秒以下の時間内に終了されるのがもっとも好ましい。本明細書中で、膜を介した試験気体の通過の実質的な終了とは、膜を介した試験気体の通過をその初期値の10%未満に減少させること、すなわち試験気体の通過を、90%を超えて減少させることを指す。これらのパラメータにより、複数の漏れ試験をすばやく連続して、互いに影響し合うことなしに、かつ試験気体感知ユニット中に過剰な量の試験気体を蓄積させることなしに、行うことができる。
【0017】
漏れ検知器の第1の実施例の模式的ブロック図を、図1に示す。試験口または漏れ検知器入口10は、弁12を介して、真空ポンプ14と、ソレノイド弁20であってもよい弁の入口とに連結されている。以下に説明するように、ソレノイド弁20は、一体的な膜30を含んでいる。ソレノイド弁20の出口は、試験気体感知ユニット22に連結されている。試験気体感知ユニット22は、試験気体濃度を示す電気信号を、信号処理器24へ供給する。
【0018】
膜30は、ソレノイド弁20に組み込まれている。弁と膜との構成により、弁が閉じられたときに、弁の入口側に閉じ込められる気体体積が制限される。膜30は、室温と約100℃との間で作動することができる種類である。膜30について詳細を以下に説明する。
一実施形態において、真空ポンプ14は機械式真空ポンプである。試験気体感知ユニット22は、イオンポンプ、イオン化ゲージ、気体消費真空ゲージ、質量分析計、扇形磁場型質量分析計、四重極質量分析計、ペニングセル、または電荷結合素子であってもよい。
【0019】
作動時に、試験片26または探知器プローブ(図示せず)が、入口10に真空気密に接続されている。弁12は開いていて、入口10を真空ポンプ14に接続している。真空ポンプ14は、入口圧を、大気圧から作動圧水準または試験圧水準へと減少させる。次いで、漏れ試験を行うために、弁20が開かれる。
一作動モードにおいて、試験片26は入口10に接続されており、ヘリウムなどの試験気体が、ヘリウムスプレーなどにより、試験片の外表面に導入される。あるいは、試験片がヘリウムで加圧されている場合、探知器プローブは試験片の外部でその周りを動く。ヘリウムは、漏れ孔を介して試験片26の内部に引き込まれ、または探知器プローブ内に引き込まれ、入口10を介して漏れ検知器内へと通過する。次いで、ヘリウムは、弁12および20ならびに膜30を介して、試験気体感知ユニット22へと通過する。試験気体感知ユニット22はヘリウムを検知および測定し、試験片または探知器プローブから受け取った気体試料中のヘリウムの量に比例した出力信号を供給する。ヘリウム濃度は、試験片の漏れ比率に比例している。
【0020】
ソレノイド弁20および膜30の実施例の断面図を、図2に示す。ソレノイド弁20はハウジング40を含んでおり、ハウジング40は、弁入口42、弁出口44、および入口42と出口44との間の通路46を区画している。膜30は、通路46に一体的に組み込まれ、通路46を封止しており、それによって、この弁を通って流れる気体は、膜30を通過しなければならないようになっている。ソレノイド弁20はさらに、弁閉鎖部材50、および、弁部材50を開放位置と閉鎖位置との間で動かすためのコイル52を含んでいる。図2に示すように、弁部材50は、プランジャ54と、固定的に接続された先端要素56とを含んでいる。コイル52が通電されると、図2に示すようにプランジャ54および先端要素56は開放位置へと後退し、試験気体が入口42から膜30を介して出口44へと流れるようになる。コイル52の通電が停止されると、ばね58が先端要素56を付勢して膜30と接触させて、弁20を閉じ、膜30を介した気体の流れを遮断する。先端要素56は、弁が閉鎖位置にある状態で、通路46を十分に遮断し、膜30と接触しているように構成されている。
【0021】
先端要素56は、膜30と接触する面56a上に、比較的低いデュロメータ値のエラストマーの薄層を含んでいてもよい。ソレノイド弁20の通電が停止されると、ばね58が先端要素56を膜30に向かって押す。柔軟なエラストマー材料は、膜30を全面にわたって封止し、本質的にすべての気体をその表面との間から押し出す。閉じ込められた気体は、試験気体原子を多数含有している場合があるので、この構成により、ソレノイド弁20が閉じたときの膜30に閉じ込められた気体体積を制限することができる。弁のすばやい開閉を可能にするために、開放位置と閉鎖位置との間の弁のストローク(往復運動)は小さくされていてもよい。
【0022】
弁20を、一体的な膜を有し、弁が閉鎖位置にあるときに弁閉鎖部材が膜と接触するソレノイド弁として説明してきた。弁が閉じられたときに膜の入口側に閉じ込められる気体体積を制限するために、異なる種類および構成の弁を使用してもよいことを理解されたい。
漏れ検知器の第2の実施例の模式的ブロック図を、図3に示す。図1および図3の類似の要素には、同一の参照番号を付す。入口10は、弁12を介して、真空ポンプ72の第1の入口70に連結されている。入口10はまた、弁12および弁74を介して、膜80の入口側に連結されている。膜80の入口側は、弁82を介して、真空ポンプ72の第2の入口84に接続されている。弁86は、膜80の入口側と外気入口88との間に接続されている。図3に示すように、弁12および74ならびに真空ポンプ72の第1の入口70は、ノード(集合点)90に接続されており、弁74、82および86ならびに膜80の入口側は、ノード92に接続されている。ノード92に接続された導管、すなわち弁74、82および86と膜80とを相互接続する導管が、空間96を区画している。制御器98は、弁12、74、82および86の開閉を制御する。
【0023】
膜80の感知側は、試験気体感知ユニット22に接続されており、試験気体感知ユニット22は、試験気体濃度を示す電気信号を信号処理器24に供給する。図3の実施例において、試験気体感知ユニット22は、イオン化ゲージ100、イオンポンプ102および捕捉器104を含んでいる。これらはすべて、膜80を介して気体を受け取る。別の実施例では、試験気体感知ユニットは、気体消費真空ゲージおよび捕捉器を含んでいる。
【0024】
真空ポンプ72は、多段の隔膜(ダイアフラム)ポンプ、多段のルーツポンプ、多段のフックアンドクローポンプ、多段のロータリーもしくは回転ピストンポンプ、またはスクロールポンプであってもよい。一実施形態において、真空ポンプ72は、2つの入口を有する毎分50リットルのスクロールポンプとされている。入口84は、入口70よりもベース圧力が低くされているため、弁82が開放されると、空間96内の圧力は低下する。一実施例において、入口84および70はそれぞれ、約100〜300ミリトールおよび100〜300トールのベース圧力(すなわち、非質量流量条件)とされていてもよい。別の実施形態では、別体の真空ポンプが使用される。この実施形態では、第1の真空ポンプが、弁74の入口側(ノード90)に連結され、第2の真空ポンプが、弁82に連結されている。上記の実施形態と同様、第2の真空ポンプのベース圧力は、第1の真空ポンプよりも低くされている。
【0025】
通常0.05立方センチメートル未満のわずかな気体体積が、弁74、82および86と膜80との間の空間96に閉じ込められている。漏れ試験中、弁12は開放され、弁86は閉鎖され、弁74および82は順次起動される。弁82を閉鎖した状態で、漏れ試験を行うために、10〜500ミリ秒のオーダーの期間、弁74を開放する。次いで、弁74を閉鎖する。弁82がただちに開放されて、空間96を真空ポンプ72の入口84に向けて放出する。これにより、膜80における全体圧力および試験気体分圧が、約200倍、非常にすばやく低減される。弁74および82のサイクルを繰り返すことにより、第2の入口84への質量流量が小さくなる。上記のパラメータ値が単なる例示であって、本発明の請求の範囲を限定するものでないことを理解されたい。
【0026】
膜80が高水準の試験気体にさらされた場合、空間96を外気でパージするために、弁86を開放する。外気は、試験気体の低い分圧を有している。
試験気体感知ユニット22は、試験気体(この場合ヘリウム)に反応する。イオン化ゲージ100は、ヘリウムのきわめて低い分圧を感知することができる。イオンポンプ102は、残留気体およびヘリウムをポンピングして除去する。イオン化ゲージ100およびイオンポンプ102の両方の流速分布を、ヘリウム分圧を算出するのに使用することができる。捕捉器104を、水素を捕捉し、水素とイオン化ゲージ100またはイオンポンプ102との相互作用による誤信号を最小化するために使用してもよい。
【0027】
図1および図3の漏れ検知器において、膜30および80は、入口10と試験気体感知ユニット22との間に配置されている。膜の材料は、漏れ検知器で使用される試験気体に対する透過性を有している。試験気体は、ヘリウム、水素、ネオン、およびそれらの同位体などの軽い気体である。通常、ヘリウムが試験気体として使用される。膜は、試験気体を実質的に通過させるが、より重い気体、液体および粒子を実質的に遮断する。このようにして、膜は、より重い気体、液体および粒子を遮断する一方、試験気体を通過させることにより、試験気体窓として機能する。特に、膜は、軽い試験気体に対して比較的高い透過性を有しており、より重い気体、すなわちネオンより重いすべての気体に対して比較的低い透過性を有している。このようにして、入口10および試験気体感知ユニット22を、異なる圧力とすることができる。膜は、試験気体に対する透過性を持つ適した材料であればいかなるものでもよく、いかなる形状または寸法を有していてもよい。適した材料には、例えば、石英ガラスまたはシリカ、およびテトラフルオロエチレンなどの透過性ポリマーが含まれるが、これらに限定されない。図1および図3の漏れ検知器において、膜は、室温と約100℃との間で作動する。
【0028】
膜は、基材として機能してもよい多孔性膜と半透過性膜とを直列に含む複合膜であることが好ましい。複合膜の正味の透過性は、実質的に一定であり、設計温度T0の近傍では温度に依存しない。
半透過性膜は、特定の気体のみを透過させる。半透過性膜には例えば、石英、石英ガラス、溶融シリカ、シリカ、パイレックス(登録商標)などを含む、さまざまな二酸化ケイ素が含まれる。他の半透過性膜として、テフロン(登録商標)、テフゼル(登録商標)、FEP、カプトン(登録商標)、マイラー(登録商標)、アセテート、ポリアミドなどのポリマーが含まれる。軽い気体は、かなりの透過率でこれらの膜を透過するが、窒素および酸素などのより重い気体の透過率は、何桁も低くなる。軽い気体は、固体拡散により、半透過性膜を通って拡散する。半透過性膜の細孔径は気体原子の直径と同程度であり、原子は、不規則な熱運動により、膜格子内を移動する。特定の気体についての半透過膜の単位面積あたり、単位圧力差あたりの透過速度(透過性の単位は[モル/(m2秒パスカル)])は、温度に強く依存する。半透過性膜の透過性は、温度が上昇すると増加する。
【0029】
先行技術では、漏れ検知器へのヘリウム通過を制御するために、石英の透過性の温度依存性が使用されていた。石英円板または石英管が、石英を介した高いヘリウム拡散速度を得るために、通常400℃〜750℃に加熱される。空気などの重い気体は、その原子の直径がほとんどすべての細孔にとって大き過ぎるため、排除される。ヘリウムが多過ぎる状態または待機状態などの特定の作動条件下では、加熱器のスイッチを切ることで石英の温度を低下される。これにより、100〜300倍、透過率を下げることができる。これらの装置に関し、温度に強く依存する膜透過性は、必要であり望ましい。
【0030】
多孔性膜は、細孔の形状に応じて、実質的にすべての気体を異なる度合いで通過させる。細孔径は、気体原子の直径の数倍ないしそれ以上とされている。多孔性膜には例えば、焼結金属、アルミナ、ゼオライト、炭化ケイ素などが含まれ、およびコーニング社のバイコール(登録商標)7930ガラスなどの特定のガラスが含まれる。多孔性膜を介した気体移送の主要な方法は、クヌーセン拡散によっている。クヌーセン拡散において、気体原子の平均自由行程は、特有の細孔径よりもはるかに大きい。このため、透過性はT-1/2として変動する。クヌーセン拡散での透過性は、温度が上昇すると低下する。
【0031】
一般的に、多孔性膜の透過性は、実用されている半透過性膜の透過性よりも、何桁も度合いが大きい。多孔性膜および半透過性膜を直列に配置し(それにより、気体が多孔性膜および半透過性膜の両方を通過するようにし)、複合膜を形成した場合、半透過性膜の低い透過性が優位となり、正味の透過性は温度に強く依存したままである。多孔性膜および半透過性膜の透過性が、同じオーダーの程度であれば、設計温度T0(通常は公称の作動温度)での局所的な温度依存性が達成されるように、1つ以上の設計パラメータを変更することが潜在的に可能である。
【0032】
複合膜の正味の透過性は、T0-20K〜T0+20K(T0は設計温度であり、Kはケルビン度である)の温度範囲にわたって5パーセント未満の変動をする試験気体に対する透過性を有しているのが好ましい。膜は、T0-20K〜T0+20Kの温度範囲にわたって1パーセント未満の変動をする試験気体に対する正味の透過性を有しているのがさらに好ましい。設計温度T0は約300Kであってもよい。透過性の異なる変動および異なる温度範囲は、本発明の特許請求の範囲に含まれることを理解されたい。例えば、漏れ検知器の作動温度範囲にわたって5パーセント未満で変動する試験気体に対する透過性を有する膜が、使用されてもよい。
【0033】
設計方法を以下に説明する。多孔性膜および半透過性膜に関して温度に依存する透過性の関数近似が必要である。2つの透過性は直列的であるため、結果として得られる正味の透過性は、
1/N(T) = 1/P(T) + 1/S(T) (式1)
となる。式中、Nは正味の透過性、Pは多孔性による透過性、Sは半透過性による透過性を示す。透過性PおよびSは、温度Tならびに様々な幾何学的定数および物理定数(このうちのいくつかは変化してもよい)の関数である。透過性Nについて、式(1)の解を出し、次いで、温度Tに関し式(1)を微分する。
【0034】
T = T0のときに dN/dT = 0 (式2)
が満たされる場合、N(T)は温度T0の近傍でおおよそ一定となる。結果として満たされることになる式は、
T = T0で評価したときに P2dS/dT + S2 dP/dT = 0 (式3)
となる。dP/dTはゼロ未満であり、他のすべての項は正であるため、解を出すことは可能であるが、保証されていない。透過性P(T)およびS(T)を得る材料特性および寸法は、解を出すことができないものである場合もある。薄いシリカ層を適度な厚みのバイコール(登録商標)7930ガラスと組み合わせると、一連の解が得られることが確認されている。
【0035】
好ましい実施形態には、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)の化学蒸着法を使用してガラス基板の一方側または両側に堆積されたシリカの薄層を有する、選択された厚みのバイコール(登録商標)7930ガラスの基板が含まれる。工程の詳細は、引用により本明細書に組み込まれ、2003年3月4日にOyama外に発行された特許に係る特許文献7に記載されている。コーニング社のバイコール(登録商標)7930ガラスは、約3.6ナノメートルの非常に均一な細孔径を有する多孔性のガラスである。薄いシリカ層(約10ナノメートル)により、バイコール(登録商標)ガラスよりも大きな透過性が得られる。
【0036】
上述した設計方法により、厚みが1.45ミリメートルのバイコール(登録商標)ガラスおよび厚みが10ナノメートルのシリカを使用した解決手段が得られる。図4に示すように、複合膜の透過性は、T=300Kで温度依存性がゼロとなり、300K付近での偏差が非常に小さくなる。図4において、曲線120は、温度の関数としての、シリカ層の透過性を示し、曲線122は、温度の関数としての、バイコール(登録商標)ガラスの透過性を示し、曲線124は、温度の関数としての、シリカとバイコール(登録商標)ガラスとの複合膜の正味の透過性を示している。300Kの透過性値からの偏差は、280K〜320Kで0.1パーセント未満である。これは、セ氏1度あたり約0.005%の温度係数ということになる。比較すると、石英層自体の透過性は、300Kでセ氏1度あたり2%を超える温度係数を有している。
【0037】
円板などの平坦な形状を有する複合膜が望ましい場合もある。この場合、円板全体をシリカで被覆するのが容易であろう。これにより、バイコール(登録商標)ガラス円板またはシートの両側に、同じ厚みの2つのシリカ層が得られる。設計工程は、上述したものと類似している。多孔性材料の両側で同じ厚みのシリカ層について、
T = T0で評価したときに 2P2dS/dT + S2 dP/dT = 0 (式4)
となる。式中、Pは多孔性による透過性、Sは単一層による透過性を示し、
N(T) = SP/(2P+S) (式5)
となる。
【0038】
堆積工程は、アルゴン中でなくヘリウム環境中で行ってもよい。ヘリウムを使用することの利点は、バイコール(登録商標)ガラスの両側が封止されても、ヘリウムは拡散できることにある。しかし、アルゴンは閉じ込められる。バイコール(登録商標)ガラスをシリカで封止した場合、水および炭化水素系汚染物質が入り込めない。これにより、複合膜の保管が簡単になる。
【0039】
図5は、2.327ミリメートルの厚みを有するバイコール(登録商標)ガラス基板および両側の8ナノメートルのシリカ層の透過性を示している。図5において、曲線130はシリカの透過性を示し、曲線132はバイコール(登録商標)ガラスの透過性を示し、曲線134は両側にシリカ層を有するバイコール(登録商標)ガラスの複合膜の正味の透過性を示している。300Kの透過性値からの偏差は、280K〜320Kで0.1パーセント未満である。
【0040】
上述した複合膜について、式(3)を満たすことができるようにする変数には、シリカ層の厚み、バイコール(登録商標)ガラスの厚みおよびバイコール(登録商標)ガラスの細孔径が含まれる。シリカ層の厚みは、TEOS分解時間に対して大略的に線形である。より厚い、またはわずかに薄いシリカ層を堆積することができる。異なる細孔径を有する多孔性ガラスを得ることができる。3つの変数をさまざまに組み合わせることにより、式(3)および(4)を満たし、特定の正味の透過性のために設計を行う点で、柔軟性が得られる。
【0041】
漏れ基準器ユニット180を図6に示す。基準漏れ孔は、漏れ検知器を較正するために使用してもよい。漏れ基準器ユニット180は、膜184により封止される開口部を有する容器182を含んでいてもよい。膜184は、上述したように複合膜であるのが好ましい。漏れ基準器ユニットの内部空間186には、ヘリウムなどの試験気体が入っている。ヘリウムは、膜184の透過性に応じた既知の速度で、容器182から漏れる。
【0042】
以上、本発明の少なくとも1つの実施形態のいくつかの局面について説明したが、当業者はさまざまな変更、修正および改良を容易に思い付くであろう。このような変更、修正および改良は、本開示の一部であるよう意図されており、本発明の精神および範囲内に含まれるよう意図されている。したがって、上記の説明および図面は、単なる例示に過ぎない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合膜を形成する方法であって、
試験気体に対して透過性Sを有する半透過性膜、および、前記試験気体に対して透過性Pを有する多孔性膜を選択して、式
P2 dS/dT + S2dP/dT = 0
を満たすようにするステップであって、Tは温度であり、前記式は温度T0で評価されるステップと、
前記選択された半透過性膜および前記選択された多孔性膜を含む複合膜を形成するステップとを含んでいる、方法。
【請求項2】
選択するステップが、前記半透過性膜および前記多孔性膜の材料および厚みを選択して、前記式を満たすようにするステップを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
複合膜を形成するステップが、前記多孔性膜の前側および後側にシリカ層を形成するステップを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記複合膜を、入口と試験気体感知ユニットとの間の漏れ検知器の通路に組み込むステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
選択するステップが、前記多孔性膜の細孔寸法を選択して前記式を満たすようにするステップを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
選択するステップは、温度の関数として、前記半透過性膜および前記多孔性膜の正味の透過性Nの傾きが、前記温度T0でゼロになるように、前記半透過性膜および前記多孔性膜を選択するステップを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記半透過性膜がシリカ層を含み、前記多孔性膜が多孔性ガラス基板を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記半透過性膜がシリカ層を含み、前記多孔性膜が多孔性アルミナ基板を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
選択するステップが、前記半透過性膜の材料および厚み選択し、前記多孔性膜の材料、厚みおよび細孔寸法を選択するステップを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
選択するステップは、前記複合膜が、前記試験気体に対し、T0-20K〜T0+20Kの温度範囲にわたって5パーセント未満で変動する透過性を有するように、前記半透過性膜および前記多孔性膜のパラメータを調節するステップを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
選択するステップは、前記複合膜が、前記試験気体に対し、T0-20K〜T0+20Kの温度範囲にわたって1パーセント未満で変動する透過性を有するように、前記半透過性膜および前記多孔性膜のパラメータを調節するステップを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
開口部を有する包囲部と、
前記開口部を封止し、半透過性膜および多孔性膜を含む複合膜と、
前記包囲部内に封入された試験気体とを備えている、漏れ基準器。
【請求項13】
T0が設計温度であるときに、温度の関数として、前記複合膜の正味の透過性の傾きが、前記温度T0でゼロになる、請求項12に記載の漏れ基準器。
【請求項14】
T0が設計温度であるときに、前記複合膜が、前記試験気体に対し、T0-20K〜T0+20Kの温度範囲に対して5パーセント未満で変動する透過性を有している、請求項12に記載の漏れ基準器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−520451(P2010−520451A)
【公表日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−551716(P2009−551716)
【出願日】平成20年2月27日(2008.2.27)
【国際出願番号】PCT/US2008/002600
【国際公開番号】WO2008/106173
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)
【Fターム(参考)】