説明

認証タグ、認証タグシステム、認証タグを用いた真正性の確認方法

【課題】 ホログラム・蛍光物質・高機能性繊維・DNAを利用するタグなど、既存の模造品対策ツールは、いずれも創意工夫がなされ、一定の成果をあげてはいるものの、情報が侵害者にも読み取られ得るため、商品だけでなく添付するタグ自身も模造が可能である。このため模造品・変造品等による流通現場の混乱、真正品の販売者・権利者の被害の拡大等の問題を解決できなかった。
【解決手段】 タグが有する情報が侵害者にも読み取られ得ない、又添付するタグの模造が不可能であるツールを、バイオテクノロジー手法を用いて構築した。本ツールは、一定のシグナルパターンを形成することが可能なバイオロジカルな組成物からなり、商品(物)の個別情報(ID番号・製品番号等)と関連付けることで、模造品対策システム設計の基盤となる。関連付けは、商品・物品だけでなく、特定の人、特定の対象等に対しても可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流通過程等における、商品・物品・人等の真正性の確認のためのタグ(小片)に関する。
【背景】
【0002】
”認証”という言葉の日常的な意味は、“人がその人、本人自身であることを確認すること(人の認証)”と、“物がその物自体・真正のものであることを確認すること(物の認証)”などである。人に関する認証は、認証される対象者が所持する、免許証・保険証・住民基本台帳カード(住基カード)・社員証あるいは銀行のキャッシュカード情報と照合することで行われている(写真との照合や本人による暗証番号・パスワード入力など)。守秘性の高いサービスを受ける際には(特定のセキュリテイエリアに入る場合など)、さらに指紋・虹彩・掌の静脈パターン・顔型等のバイオメトリクス情報と照合することなどで、本人確認を確実にしている。
【0003】
近年いわゆる“なりすまし”に関する犯罪が多発していることから、“人の認証”について社会の関心は高く、さまざまな新しい機器・ツール、あるいは従来型ツールとの組合せ及び併用が検討されている。同様に、工業製品・著作物等の知的財産権(特に商標権)を保護し、不正競争を防止し、あるいはBSE感染牛肉や産地虚偽表示食品などから消費者を保護するなどの観点から、“物の認証”についても着目されている。
【0004】
物が土地・建物である場合は、登記簿などで公証の方法が確立されているし、株などの有価証券である場合には、株主名簿等にて管理されていることがある。電気製品や特定の高額商品については保証書や認定証(Certificate)が商品に添付されている場合が多く、ソフトウエア、映像・音楽CD(又はDVD)あるいは紙幣等においては、特殊な印刷技術によるホログラムがつけられていることが多い。一般商品の場合でも、蛍光タグ・高機能繊維タグ等や認証ラベルが使用されるケースもある。そうした比較的高度の偽造防止技術の使用と同時に、商品管理のためのバーコード(又は2次元バーコード)などは日常的に利用されている。しかしこれらのラベル、タグ、コードの模造は容易であり、商品・紙幣・骨董品等の模造品(コピー)が横行し、流通現場、消費者の購買活動を混乱させている。さらに精巧に作られたスーパーコピーあるいはAクラスコピーと呼ばれるコピーが毎年のように税関等にて発見され、また摘発されている(1件あたり数億円単位相当である事もまれでない)。
【0005】
しかし検挙される模造品はごく一部であって、日本や世界各地で極めて巨大な模造品マーケットが形成されていると考えられている。近年WTOに加盟した中国の政府筋は、中国国内の模造品マーケットが、2〜3兆円規模であることを報告しており、また韓国税関当局は1年間で25億円分相当の模造品を検挙している。さらに平成17年に策定された「知的財産推進計画2005」の政府資料の中では、世界の模造品取引などの総額はおよそ65兆円であることが日本政府によって見積られている。このように模造品・偽造品・変造品による被害は、生産者・流通業者・消費者にとって極めて甚大なものとなっており、一部は国際犯罪組織やテロリストの資金源となるなど、社会問題として放置できない現状になっている。
【0006】
これらの状況に対し、日本では税関・特許庁・警察などを中心とした行政機関が、模倣品対策を強化している(模倣品対策マニュアルの公開、模倣品・海賊版撲滅キャンペーン実施等)。日本には高級ブランド志向の強い消費者が数多くいるだけでなく、模造品と知っていても商品を購入する、知的財産権違反・侵害を考慮しない消費者も存在するため模造品問題は深刻である。さらには模造品を東南アジア等でつくらせる悪徳日本人業者も存在し、模造品に対する国民の意識変革は急務である。製造・流通・購買のいずれの段階でも、日本人が関与することも多く、対策・変革の要望が諸外国からも強力に出されている。また模造品による侵害に関する訴訟が滞ることのないよう、十分な数の知的財産に関する専門家の養成および法令・制度整備の必要性も指摘されている。
【0007】
模造品問題のみならず、流通過程や販売現場では“商品のシュリンケージ問題(製造現場の内部あるいは流通中間業者による商品の横流し、不良消費者による万引きなどに起因した商品の紛失による被害の問題)“が広く発生しており、これも本来の正当権限者の利益を多大に損なうものとなっており、産業の発展の大きな阻害要因となっている。
【0008】
多数の商品の製造業者・流通業者・販売業者のうち、商品が真正のものであるかとうかの判別ができるものはきわめて少数であり、再販売業者にとってはさらに判断が困難な状況となっている。また判定のスペシャリストでさえ欺くいわゆるスーパーコピー、Aクラスコピーが存在するため、事態はさらに深刻であり、消費者は自らが購入する商品が真正のものであるかどうかについての不安に、常に曝されている(1978年の著名百貨店・著名スーパーを巻き込んだ“エルメス事件”においては、模造品被害が、上流・中流等の階級を問わず皇室を含めた広範囲の人々に広がっていることが明らかとなった)。
【0009】
【非特許文献1】「類似ヴィトン」佐々木 明著、2001年小学館社発行。
【0010】
流通市場における、膨大な数の各種ブランド商品のための、確実な真贋判定の必要性は高い。購入された商品(特に高級ブランド品等)は転売・譲渡されることも多く、商品が購入された後の真贋判定も望まれている。なお高級ブランドだけでなく、通常のブランドも販売量が多ければ、模造の好適なターゲットとなるため、真贋判定の要望はほぼ全てのブランドに及ぶものと考えられる。このブランド認定の要求は、服飾・貴金属品にとどまるものではなく、魚介類・動植物製品などの食品(産地表示含む)や玩具、ソフトウエアにいたるまで幅広く、ほぼ全ての商品に存在する。
【0011】
これらの問題解決策としてRFID(adiorequencyIdentification)タグと呼ばれる無線ICタグが使用され始めている。この無線ICタグは真贋判定に役立つだけでなく、商品の空間移動も管理出来るため、前述のシュリンケージ対策としても有効である。この無線ICタグによって製造現場・流通現場における空間移動のトレースが可能ではあるが、購入後の消費者行動のモニタリングも可能であると捉えられている。従って一部消費者は、無線ICタグの使用をプライバシー保護に対する脅威として捉え、無線ICタグがいわゆるスパイチップとなりえる可能性につき、拒否反応を起こしている。海外では既に不買運動等が勃発している(海外消費者団体CASPIANなどの運動)。日本においてもネットワーク社会における個人情報流出の危険性が指摘され、個人のプライバシー保護に対する関心は高く、無線ICタグ導入において大きな障害となる可能性がある。こうした消費者の反発に対応するためには、流通段階で使用した無線ICタグを販売時に商品から完全に除去し、購入後の商品には無線ICタグが存在しない様にしておくことが望ましいと考えられるが、そうした場合商品販売後の商品の真正性を証明する有力な手段がなくなってしまうこととなる。
【0012】
【非特許文献2】「RFIDハンドブック」フィンケンゼラー著(2003年)ジョンワイリー アンド サン社発行(Finkenzeller K.,RFID Handbook(2003):fundamentals and applications in contactless smart cards and identification:John Wiley & Sons,Inc.)。
【非特許文献3】「ウエブサイト http://www.nocard.com」。
【非特許文献4】「米国連邦通商委員会(FTC)からのワークショップレポート」(2005年3月)(A Workshop Report from the Staff of the Federal Trade Commission,Radio Frequency Identification:Applications and Implications for Consumers)。
【0013】
先述の様に、流通市場での模造品・変造品等による詐欺的取引、シュリンケージ対策において、真贋判定技術は重要であり、消費者のプライバシーを害することなく、商品の真正性を証明できる手段(ツール)があれば、市場はそれを歓迎するであろう。真贋判定ツールとして、2005年現在においては、先にも触れたように、無線ICタグ、ホログラム・蛍光タグ・DNAタグ・高機能性繊維を織り込んだタグ等が存在している。
【0014】
無線ICタグは、一般には数センチ程度の極めて小さなICを用いるものであり、物の識別を容易に可能にするものである。タグの識別コード等の情報はそのチップ内に電磁的に記録されており、電磁波でリーダーと交信し、情報のやりとりを実施する。アンテナ側からの非接触電力伝送により、電池を持たない半永久的に利用可能なタグも存在する。棒状、カード状、コイン状、ラベル状など様々な形態があり、多用途に適応できる。通信距離は数ミリ程度から数メートルであり、非接触による使用が可能であるため、用途展開が種々可能である。現状のバーコードに代わる商品識別・管理技術として無線ICタグは研究が進められており、先端IT社会・自動化社会を具現するための基盤技術と考えられている。将来的にはすべての商品に無線ICタグを添付し、世界的な流通インフラとする構想があり、そのインフラを利用した各種の高インテリジェント家電の登場も予測されている。
【0015】
この無線ICタグが格納する、ID情報の規格統一化も進められており、米国ではオートIDセンター、日本ではユビキタスIDセンターが設立されている。全ての物品に、ICタグによりIDを付与する、ユビキタスIDという概念のもと、各企業・大学・研究所が検討を進めている。
【0016】
【非特許文献5】「月刊バーコード ユビキタスIDセンターの取り組み」坂村 健ら(2003年),日本工業出版。
【0017】
ホログラムは、レーザー光線で撮影する立体写真であり、完全な3次元情報を記録・再現できるものである。ホログラムは物体からの光と,参照光という別の光の干渉をうまく利用することで,光の強弱しか記録できない材料に、物体からの光の方向も記録し、3次元物体をあたかもそこに実物があるように記録することができる技術である。ホログラムは角度を変えると模様が変わって見える。一般の印刷技術と比較してこのホログラムは偽造が難しいと言われている。またホログラムの他に偽造防止に関する印刷技術として、傾けると色の違う文字や数字が現れる“潜像パール模様”、あるいは透かすと棒線が浮かぶ“すき入れバーパターン”等があり、紙幣・有価証券・ソフトウエアのパッケージ等に貼付されて使用されている。
【0018】
【非特許文献6】「ホログラフィーの原理」ハリハラン著(吉川浩ら翻訳)(2004年)、オプトロニクス社(Basics of Holography(2002),P.Hariharan,Cambridge University Press)。
【0019】
蛍光タグ(LUMILUX“TM)は、可視光線および紫外線によって蛍光を発する昼光型顔料を含む蛍光インクを用いて、タグに必要な事項、模様、情報を刷り込んで作製されるものである。人間が直接視認することが出来ない特殊な蛍光物質を利用しており、流通現場の必要に応じて、紫外線などの光をあてて判定するものである。
【0020】
【特許文献1】「米国特許公開公報20030194578」タムら(2003年)(United States Patent Application 20030194578 Tam,Thomas Y.et al.(2003))。
【0021】
高機能性繊維(アルタテックス)を織り込んだタグは、日本発条(ニッパツ)社とクラレ社が開発したポリアリレート(全芳香ポリエステル)系の長繊維をよりあわせた高機能繊維(アルタテックス)を織り込んで作製したものである。アルタテックス表面上の特定情報を、専用のビューアーによって視認することが可能であり、その特定情報によって商品を管理するものである。
【0022】
【非特許文献7】「ウエブページ http://www.nhkspg.co.jp/」。
【0023】
DNAタグは、特定塩基配列の遺伝子をタグやカードに貼付し、あるいはインク状にしてタグを作製したものである(特許文献2−5)。それらの遺伝子配列は特定個人由来あるいは、人工的に作製されたものである。いずれもカード、ラベル、インク等に特定の核酸(DNA)を含浸させたあるいは貼付したものから、その特定配列のDNAを抽出・精製した後、塩基配列を解析して判定するものである。解析はDNAシーケンサー等によって行うが、DNA配列情報の有する多様性(アデニン・チミン・グアニン・シトシンの配列組合せ)に応じたID数を確保できる。さらには犯罪捜査等で実施される、“多重STR配列法”等のDNA鑑定手法で、個人の特定DNA断片サテライト数の個別情報を求め、それらを暗号化した電子情報として、メモリICカードに格納して使用する方法も報告されている(板倉ら)。
【0024】
【特許文献2】「米国特許公報 6,354,501 アウトウォーターら(1999年)(Outwater,C.et.al.,United States Patent 6,354,501(1999))。
【特許文献3】「特許公開公報2004−175922」。
【特許文献4】「特許公開公報2004−175923」。
【特許文献5】「特許公開公報2004−175924」。
【非特許文献8】板倉征男ら、情報処理、11号、1134−1136頁(2004年)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
ホログラムは紙幣などの紙類・ソフトウエアのパッケージ等に使用されることが多いが、ホログラムを作製出来る機器は現在普及しているため、製品添付のホログラムが市場に登場すると数ヶ月でそのホログラムの模造品が出回ると言われている。模造の困難な印刷技術ではあるものの、その機器の普及により困難な模造が可能となるという現象は、新しい高機能を付加した新型ホログラム作製機種が登場しても繰り返されている。
【0026】
蛍光物質を使用するタグは、比較的簡便でハンディな紫外線照射機器を用いて、販売現場において即時にタグ上の情報を確認できるメリットがあるものの、侵害者に対しても記載情報は容易に知られることとなる。また各種蛍光顔料・蛍光化学物質等は市場で入手可能であり、侵害者が解析情報に従って蛍光物質によるタグを模造することは容易である。さらに蛍光物質利用タグが多量に出回ることは、蛍光物質の多くが有する化学物質としての有害性・毒性等を考慮すると、使用後の廃棄は好ましくない状況をも生むであろう。
【0027】
高機能性繊維(アルタテックス等)を織り込んだタグは、紫外線照射等を必要としないが、そのセキュリテイは、アルタテックスが一般には入手困難であることに依存している。今後ビューアーとアルタテックスの使用が普及すれば、侵害者にもID情報は容易に視認でき、また模造も可能になると考えられる。またアルタテックスで構成することの出来る多様性については疑問点があり、原理的にユビキタスID等の膨大な数に対応できる十分な多様性を確保するのは困難ではないかと考えられる。
【0028】
DNAタグの解析の前には、DNA抽出や精製といった前処理に労力・時間を要し、配列解析の時間も極めて長い(トータルで数時間から日単位での時間を要する。)。ひとつのタグの解析には多大な労力及時間が必要であるだけでなく、解析には良く訓練された特殊技能を有する人材も必要である。そのため現実的な対応として要求される、低解析コスト、同時多数処理、迅速な解析といった対応は困難である。そのうえ、添付・貼付等されたDNAそのものの解析は、スーパーコピー、Aクラスコピーを作製できる侵害者集団にとって、技術レベルとしてさほど困難ではないであろう。これは添付された特定配列のDNAの増幅・コピーが、DNAの特質から比較的容易であることが一因である。また特定個人の遺伝子情報をタグ化して利用する場合、商品等への添付は個人の遺伝情報公開に相当するため、プライバシー侵害等の倫理的問題が発生するであろう。
【0029】
現状の模造品対策ツールは、いずれも創意工夫がなされ、一定の範囲での成果をあげてはいるものの、情報が侵害者にも(ある場合は容易に)読み取られ得ること、そのため商品だけでなく添付した模造防止タグ(小片)自身の模造が可能であること、という本質的な問題を解決するものではない。
【課題を解決するための方法】
【0030】
既存の模造品対策ツールのデメリットを踏まえ、ツールが有するID認証情報が侵害者にも読み取られ得ないこと、添付するタグ・目印自身の模造が不可能であるツールを模索し、鋭意、検討した結果、バイオテクノロジー手法を活用した、ある特定の手段が好適であり、また実用性を兼ね備えていることを見出し、本発明を完成するに到った。つまり一定のシグナルパターンを形成することが可能なバイオ材料から作製された組成物からなるタグを、商品(物)の個別情報(ID番号・製品番号等)に関連付けることで、先述の本質的な問題に対応可能な模造品対策ツール並びに模造品対策システムを構築できることを見出したのである。なおこの関連付けは、商品(物)だけでなく、特定の人、特定の対象、特定の状況に対しても可能であり、有効である。
【0031】
すなわち本発明は、
1) 特定の物・人・対象(A)に関する情報に関連付けた、特定のシグナルパターン(B)を形成することが可能な組成物(蛋白質、糖類、脂質、複合脂質、ペプチド、化学物質、核酸類を含む)からなるタグ、
に関するものであり、
2) 特定の物・人・対象(A)に関する情報に関連付けた、特定のシグナルパターン(B)を形成することが可能な組成物(蛋白質、糖類、脂質、複合脂質、ペプチド、化学物質、核酸類を含む)を担体に含有させたタグ、
に関するものであり、
3) 特定のシグナルパターン(B)が、直接物理的に解析されないことを特徴とする、1)−2)に記載のタグ、
に関するものであり、
4) 特定のシグナルパターン(B)が、生理活性物質の反応または結合反応を利用した方法で形成されることを特徴とする、1)−3)に記載のタグ、
に関するものであり、
5) 特定のシグナルパターン(B)が、蛋白質分子の配列によって構成されることを特徴とする、4)に記載のタグ、
に関するものであり、
6) 特定のシグナルパターン(B)が、細胞組織によって構成されることを特徴とする、4)に記載のタグ、
に関するものであり、
7) 特定のシグナルパターン(B)が、ペプチド・糖鎖・糖脂質・脂質・複合糖質・複合脂質または化学合成リガンドによって構成されることを特徴とする、4)に記載のタグ、
に関するものであり、
8) 生理活性物質が、抗体、レセプター、酵素、抗体と結合しうる物質、レセプターと結合しうる物質、酵素の基質あるいは阻害剤であることを特徴とする、1)−7)に記載のタグ、
に関するものであり、
9) 特定のシグナルパターン(B)が、真正性を判断する試験をする時点までは、タグ上でマスキングあるいは隠されていることを特徴とする、1)−8)に記載のタグ、
に関するものであり、
10) 1)−9)記載のタグに特定の物・人・対象(A)に関する情報を関連付け、当該物・人・対象(A)に添付させること、もしくは当該物・人・対象(A)の真正性を証明する際に提示することによって、特定物・人・対象(A)の真正性を確認または証明、認定する方法、
に関するものであり、
11) 関連付けられた特定の物・人・対象(A)の情報と特定のシグナルパターン(B)が、データベースによって保存・管理されていることを特徴とする10)記載の方法、
に関するものであり、
12) 関連付けられた特定の物・人・対象(A)の情報と特定シグナルパターン(B)が格納されたデータベースに対して、正当権限者がタグを解析した際に得られる特定パターンを直接またはネットワークを介して照合することを特徴とする方法、
に関するものであり、
13) 1)−12)に記載のタグならびに方法を実施するために必要とされる一連の試薬、
に関するものであり、
14) 10)−12)に記載の方法を可能にするための電子計算機に供するためのプログラム、
に関するものであり、
15) 1)−9)に記載のタグを備えた商品および物品
に関するものであり、
16) 物品・個人に人工的に設定したバイオロジカルなパターンを関連づけて、物品・個人の認証・管理を行う方法であり、
17) 16)の方法を可能にするための組成物に関するものである。
【0032】
以下本発明者らによる新しいタイプの真正性確認のためのタグを、総称的に「バイオIDタグ」と呼ぶこととする。「バイオIDタグ」とは本発明者らによる造語である。近年のバイオテクノロジー分野においては、特定蛋白を融合蛋白質やペプチド配列を目的蛋白質に融合発現(連続的に発現)させた場合、その融合蛋白質やペプチド配列等を一般にバイオタグと呼称するため、それらと区別するための造語である。バイオIDタグは、バイオテクノロジー手法により特定のシグナルパターンを作製することが可能な鋳型を、タグ上に載せたものであり、種々のタイプがありえる。なお本発明における“シグナルパターン”は、核酸の塩基配列(シーケンス)を意味しない。今回本発明者らは、(Aタイプ)作製者のみが知りえる情報によって解析可能な蛋白質によるパターンを、特定の物・人・対象・状況に関連付けて、担持したタグ、(Bタイプ)作製者のみが知りえる情報によって解析可能な組織切片あるいは細胞からなる構成物によるパターンを、特定の物・人・対象・状況に関連付けて、担持したタグ、(Cタイプ)作製者のみが知りえる情報によって解析可能なペプチドあるいは化学物質によるパターンを、特定の物・人・対象・状況に関連付けて、担持したタグ、(Dタイプ)作製者のみが知りえる情報によって、作製可能なパターンを作製しうる生物学的組成物を格納したタグ、の4種を主として例示する。
【0033】
さらに本発明者は(Eタイプ)として、作製者のみが知りえる情報によって解析可能な、特定の核酸類によるパターン(シーケンス情報とは異なる)を、特定の物・人・対象・状況に関連付けて、担持したタグについても、本発明の権利範囲内にあることを言明する。例示的には、核酸アレイによるマトリクスパターンを特定物等に関連付けること、核酸を特定の制限酵素(SmaIやBamHIなど)にて切断した際の切断断片からなる電気泳動パターンなどを意味する。なおこのEタイプのタグは、従来から存在する核酸のシーケンス配列を解析することで、真贋判定をおこなうタイプのタグを含まないことを再度指摘する。
【0034】
さらには核酸として、種々のターゲット物質との結合能を有するいわゆる“アプタマー(aptamer)“の使用も可能である。各種対象物に対するアプタマーの作製方法としては、ハーマンらの総説中の例が挙げられる。またDNAベースのものだけでなく、C型肝炎ウイルスのプロテアーゼを認識し、結合するRNAベースのアプタマーなど数多くの種類が報告されている。
【0035】
【非特許文献9】ハーマンら サイエンス 287巻 820頁−825頁(2000年)(Hermannら、Science,287,820−825(2000))。
【非特許文献10】 ニシカワら ヌクレイック アシッド リサーチ 31巻 1935頁−1943頁(2003年)(Nishikawa et.al.,Nucleic Acids Res.,31(7):1935−43(2003))。
【0036】
バイオIDタグ上の鋳型は、製作者(物のID情報等とシグナルパターン情報を対応させる者)のみが知る情報なしには、直接解析が極めて困難であり、タグの模造は実質上不可能である。一定のシグナルパターンをバイオテクノロジーにより、間接的に形成させる手法自体も、予想される侵害者に対して秘匿されるため、極めて堅牢な“物”認証システムを構築できる。さらに鋳型の構成成分が万が一にも解析された場合でも、正当な権限を有する製作者(物のID情報等とシグナルパターン情報を対応させる者)は、タグの材料・組み合わせ・解析法を、任意かつ容易に変更して、侵害の事態に対し、円滑な対応をすることが可能である。
【0037】
まず(Aタイプ)のバイオIDタグに使用する蛋白質としては、存在し得る全ての蛋白質(人工蛋白質、天然蛋白質、キメラ蛋白質、融合蛋白質)、酵素、蛍光蛋白質、蛋白質断片、ポリペプチドを利用することができる。人工蛋白質やポリペプチドは、侵害者にとっては未知のものとなりうるため、その使用が好ましい場合があると考えられる。本発明に使用する蛋白質は、解析時に抗体やレセプターなどの生理活性を有する蛋白質によって存在や濃度等が解析できる。蛋白質が酵素活性を有する場合は、その活性をシグナルパターンの視覚化に利用することもできる。
【0038】
本発明において、酵素活性や他の生理活性を有する蛋白質をタグ上で抗原蛋白質、構造蛋白質として用いる場合、それらの酵素活性・生理活性を保持していることは必ずしも要求されないが、タグ上のそれらの生理活性蛋白を検出するために、抗体が認識し得るための抗原性や、レセプターが認識し得るための特定の構造等は維持していることが必要である。
【0039】
蛋白質、ペプチド等は一般に不安定なものとされているが、それは蛋白質、ペプチドが有する生理的機能、活性に着目した場合にそうである。しかしながら防腐処置が施されている場合、抗体が認識するのに必要な、抗原性は保たれている場合が非常に多い。また抗原性を保つことが容易な蛋白質、ペプチドは多数存在し、本発明に好適な種類を選択することは容易である。抗原性の保持は、種々の安定化剤、防腐剤、酸化防止剤等や物理的磨耗を防ぐ、コーテイング、包装等の手段によりさらに完全となる。添付する対象の種類にもよるが、低温〜常温で使用することも可能である。
【0040】
本発明において酵素活性をタグのシグナルパターン作製のために用いる場合、当該酵素活性の失活に注意しなければならない。使用可能な酵素は特に限定しないが、安定で、種々の基材等に固定しやすいものが好適である。一般的に酵素免疫測定法で使用される、西洋わさび由来のペルオキシダーゼ、牛小腸由来のアルカリホスファターゼ、グルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼ等も使用可能であるし、他の蛋白質や生理活性物質と複合体を形成した状態でも、共有結合的にリンクされた状態でも使用は可能である。またそれらの酵素は天然型のものであっても良いし、遺伝子工学的に種々の変異・改変・付加を導入したものであってもよい。例えば熱安定性を向上させるために加えた変異や、精製を容易にするための特定配列の導入、異なる発光波長を得るための変異導入などである
【0041】
【特許文献6】「米国特許6387675号」ウッドら(Wood et.Al.,USP6387675)。
【0042】
タグ上のシグナルパターンを構成しうる抗原性を有する蛋白質としては、ヒト・ウシ・ウマ・ヤギ・ウサギ・モルモット・マウス由来の血清アルブミンや免疫グロブリン(Ig)などが挙げられるが、疎水性アミノ酸のみの繰り返し配列のみからなる、人工ペプチドなどを除き、ほとんどの蛋白質は一般に抗原性を有しており、本発明に利用することができる。生理活性蛋白質のその活性が、非常に不安定で容易に失活するものであっても、抗原性を保持しつづける例は極めて多く、防腐の問題や蛋白質の切断等の問題に対処すれば、極めて長期間にわたって、タグ上に使用する抗原として利用可能である。従って現時点で創薬や研究の分野において主として使用されている、高価で不安定ないわゆるプロテインアレイとは構成・用途が全く異なるものである。
【0043】
本発明に使用する抗原の種類として膨大な数が存在し、本発明ではそれらの中から数種類を任意に選択することが可能である。既知の天然蛋白を使用できるだけでなく、人為的に加工したタンパクすなわち種々の合成化学物質をハプテンとして結合させた蛋白質や、糖・脂質等の各種の修飾を受けた蛋白質を自由にできる。これらの修飾は天然に生じたものであっても良いし、人工的に施したものであっても良い。解析に使用する抗体等は、それらのハプテン及び修飾基を認識することが可能であれば良い。ここで全く新規な化学物質を修飾した蛋白質を使用する場合、そのハプテンを認識する抗体は、ハーローらに従って作製すればよい。
【0044】
【非特許文献10】「抗体の使用法:ラボラトリーマニュアル」(1998年)コールドスプリングハーバー社(Harlow E.,et.al.,Using Antibodies:Laboratory Manual(1998)Cold Spring Harbor)。
【0045】
AタイプのバイオIDタグは、前述の蛋白質のうち数種を特定のフォーマットパターンに従って、数pg〜数mgの量で、メンブレン・プラスチック基材・ガラス基材上に固定化して使用できる。このフォーマットとしては、数μmの直径の円形スポットを8×8配列したもの、16×16配列したものあるいは、JAN ECODE−128・ECODE−39・1次元バーコード、CODE−49(米インターメック社)、CODE−16K(米レーザーライト社)・PDF−417(米シンボルテクノロジー社)、URTRA CODE(米ゼブラ社)、DATA MATRIX(米アイ・ディ・マトリクス社)、VERI CODE(米ベリテック社)、QR CODE(日本デンソー社)、MAXI CODE(米UPS社)・CP CODE(日本IDテック社)、CODE 1(米レーザーライト社)、ボックス図形コード(日本ロングソルト・インターナショナル社)、AZTECH CODE(米ウエルチ・アレン社)の2次元バーコードの様式を用いることも可能である。これらのフォーマットは例示であり、例示に制限されるものではない。他に各国で通常使用される文字、数字、イラスト、絵などもフォーマットとして使用できる。
【0046】
基本的なドット(スポット)マトリクスとして8×8のフォーマットを使用した場合、解析時に区別可能な4種類の蛋白質を使用した場合、4の64乗すなわち2の128乗(=128ビット)の多様性を確保することができ、これはユビキタスIDでいう128ビットの多様性に相当する。4種類の蛋白質は、膨大な種類の蛋白質から任意に選択できるため、ユビキタスIDの多様性を十分カバーできる。図1に4種類の蛋白質(A,B,C,D)を各スポット3μm直径の4×4アレイマトリクスアレイを作成した場合を示す。同様に16×16配列のマトリクスで4種類の蛋白質を使用した場合、4の256乗すなわち2の512乗(=512ビット)の多様性に対応できる。2次元バーコードフォーマットを使用した場合、IDだけでなく他の必要情報さえ含ませることができるが、QRコード10の場合、英数字として395文字、数字として652文字を含ませることができる。またQRコードのような2次元バーコードは暗号化することも可能であり、対応する暗号化したマトリクスパターンを蛋白質で構成できる。2次元バーコードを使用する場合は、白黒印刷パターンで黒と表示される部分を蛋白質Aで構成し、白の部分を蛋白質Bで構成すれば良く、4種類の蛋白質を使用した、さらに複合的なパターン作製も可能である。あるいは白・黒・色でパターンを構成させるだけでなく、濃淡によってもパターンを得ることができる。白・黒濃淡でいえば、まったくの白、25%黒、50%黒、75%黒、100%黒というように、5段階の区別をつけたパターンを作成することが可能である。1種類の蛋白質Aを5段階濃度に区別して,各スポット3μm直径の8×8のアレイマトリクスを作成した場合を図2に示す。これらのアレイマトリクスは、数mm平方〜数センチ平方の平面物、数mm〜数cmの糸状の物質、数mm立法〜数cm立法の立体物上、乃至は内部に、構築することができる。検出時に高倍率の顕微鏡などを使用すればさらに小さくもできる。
【0047】
シグナルパターンの色識別はCy−5、Cy−3等の蛍光色素や量子ドットによる蛍光色素を使用すれば、多種類の蛍光色を利用できるが、これに限られるものではなく、蛍光検出ではなく、アルカリホスファターゼやペルオキシダーゼ反応で生成した、可視性の色素の使用も可能であり、あるいは可視性の微小カラービーズを利用してもよい。あるいはこれら酵素活性は発光系によっても検出しうるため、シグナルを写真感光フィルムなどで検出してもよい。また各種ルシフェラーゼ及びそれらの変異体等の発光酵素による多種の発光色を利用することもできる。さらにはEGFP、ECFP、EYFP、DsRed、HcRed等による蛍光蛋白質を用いた多種の蛍光色を利用した検出も可能である。
【0048】
【非特許文献11】「ミチャレーら サイエンス 307巻 538頁−544頁(2005年)」(Michalet X.,Science Vol.307,pp538−pp544(2005))
【非特許文献12】「チャルフィーらGFPの性質・応用ならびにプロトコール(1998年)ワイリープレス社(Chalfie M.,et.al.,Green Fluorescent Protein Properties,Applications,and Protocols(1998)Wiley Press)。
【0049】
Aタイプに使用する蛋白質の量は数pg〜μgであり、他蛋白を含む溶液でマスキングされた混合物中より、特定の蛋白質を基材より剥離・分画・精製して、前情報なしに精密分析(アミノ酸配列解析・同定等)することは一般に困難である。Aタイプのタグを数十枚〜数百枚集め剥離させ得たとしても、混合蛋白質が極微量得られるだけであり、配列解析・抗原性解析は徒労に終わるであろう。またパターン作成に使用する蛋白質の他に、別のシグナルパターンを形成することが可能な蛋白質をおとり的に配置することも可能である。蛋白質にある特定のペプチド又は特定のリガンドを結合させたものを、タグの材料としてマスキングせずに使用した場合でも、侵害者がタグから分離精製して作製した抗原では、全く同一の抗体を作製することはできない。両者の抗体の反応性は微妙に差異があり、その差異は取得できるシグナルパターンの差として現出することとなる。正当権限者は分析する抗体を秘匿することで、タグの防護をすることが可能であり、正当権限者のみが知ることができる情報・材料なしには、タグ解析は極めて困難となる。
【0050】
蛋白質の分子量としては、数百〜数10万場合によっては数百万のものを使用でき、特に制限はないが、抗体やレセプターによって認識することができる部位を有することが必要である。分子量数百〜数千の蛋白質は一般にはペプチドと呼称され取り扱われるが、これらも本発明に利用可能である。
【0051】
蛋白質上のどこの抗原決定基を利用して解析するかは、作製者の任意によるため、万が一使用する蛋白質が同定されても、解析に使用する抗体の詳細が不明であれば情報は隠された状態のままである。抗原としての蛋白質とそれを認識する抗体(またはレセプター等)の組合せは、暗号解析におけるいわば鍵としての役割を果たすものとなる(これは全く新規なコンセプトである。)。さらに蛋白質上に新たに導入したペプチドやハプテン化合物を抗原決定基として利用する場合、マスキングされたペプチド配列、ハプテン化合物の構造を解析することは困難である(なおハプテンとは一般に抗体が認識しうる分子量数百〜数千の化学物質である)。ハプテンが全く新しい化学物質であるか、一般には極めて入手困難である場合、解析に用いる抗体を侵害者が予め入手することは不可能であり、よってタグ解析は極めて困難となる。従って導入ペプチド配列あるいはハプテン構造とそれを認識するための抗体の組合せも、暗号解析における錠と鍵としての役割を果たすものとなる。
【0052】
ただしハプテン化合物として実用的に利用可能なものは長期間(年単位)にわたって安定なものが望ましい。なおハプテンはNHS基導入試薬やある種の化学物質をリンカーとして使用して結合させてもよいし、ビオチン基をハプテンに導入し、ストレプトアビジン等のビオチン結合蛋白質と結合させて間接的に導入することもできるであろう。
【0053】
Aタイプのタグに使用するメンブランとしては、ニトロセルロース、PVDF(ポリビニリデンジフルオリド)、ナイロン、各種の紙類等の材質のものを使用でき、大きさとしては(数ミリ〜数センチ)×(数ミリ〜数センチ)のものが望ましい。プラスチック基材としてはナイロン、ポリカーボネート、ポリスチレン等を使用することができ、数センチ×数センチ以下の大きさのものが望ましい。メンブラン、プラスチック基材、ガラス基材の各々はシランカップリング剤や、各種の官能基(アミノ基、カルボキシル基、チオール基等)の導入による修飾した物を使用できる。また表面をレーザー光等で加工したものを使用することも可能である。さらにいずれも透明のもの・不透明のもの、蛍光性のもの・非蛍光性のものも使用できるが、解析時の手段に対応して使い分けることができる。
【0054】
蛋白質はメンブラン・プラスチック基材・ガラス基材あるいは糸の上に、用手あるいはプロテインアレイヤー等の自動機械にてスポットでき、パターンを形成することができる(V&P サイエンティフィック社製 マニュアルマイクロアレイヤー: V&P Scientific INC.,Manual Micro Arrayer for DNA&Protein Chip あるいはパーキンエルマー社製 ピエゾアレイ バイオチップシステム:PerkinElmer INC.Piezoarray Biochip Systemなど)。用手の場合は数スポット〜数百スポット、アレイヤーの使用により、数スポット〜数千スポットが一度に作製できる。メンブレン・プラスチック基材・ガラス基材あるいは糸の上には複数のパターンを重ね合わせて形成させることもできる。これらのパターンは、視認や紫外線線照射によっては確認することができないように、あるいは容易に解析できないように、マスキングすることが好ましい。
【0055】
必要な蛋白質をスポット(または塗布)し、パターンを形成させた後、ウシ血清アルブミン・ゼラチン等の動物由来の蛋白質、ポリエチレングリコール等の高分子化合物を含む溶液に浸漬または塗布して、(タグのシグナルパターンをマスキングする目的で、あるいは保護する目的で)、表面をコーテイングすることができる。また糖・アミノ酸・有機酸等の溶液にも浸漬または塗布することができる。糖としてはグルコース・サッカロース・マルトノースの還元糖及び非還元糖、単糖・多糖類を使用でき、アミノ酸としてはグリシン、グルタミン酸等、有機酸としてはマレイン酸、コハク酸、クエン酸、リンゴ酸等を使用することができる。さらにはアジ化ナトリウム、プロクリン等の防腐剤を含む溶液を同様に併用することができる。以上各溶液は滅菌フィルター等でろ過し、無菌化したものを使用することが好ましい。
【0056】
各種の溶液に浸漬し、あるいはそれらを塗布した小片または糸等は、真空乾燥機、減圧乾燥機あるいは室温にて乾燥させることができる。これらの際の作業は作製するタグの防腐性能等を考慮すると、無菌的にクリーンベンチやクリーンルーム中ですることが好ましいであろう。
【0057】
蛋白質によるパターンを形成させ、種々のコーテイングをしたメンブレン、プラスチック、ガラスの乾燥小片または糸等は、所定の大きさにカッテイングした後、別の紙・プラスチックフィルム等で挟むか、密封するかして外装することができる。例えば乾燥した蛋白固定メンブレンをろ紙で両面をはさみ、さらにラミネートフィルムなどで密封などすればよい。全体の大きさは限定されるものではないが、例えば小片としては、数ミリ平方メートルから数センチ平方メートル、糸としては数ミリから数センチの長さのものを使用することができる。
【0058】
こうして作製したものはバイオIDタグ(タイプA)として種々の商品の表面あるいは内部に直接添付することができる他、保証書や認定書、説明書、カードなどに別途添付することができる。
【0059】
タイプBのバイオIDタグに使用する組織切片あるいは細胞からなる構成物は動物、植物、微生物由来のものをそれぞれ使用することができる。凍結ホルマリン組織切片の場合、ミクロトーム等で作製される複数の小切片はほぼ同一のものとみなすことができる。小切片中に分布している特定抗原を、免疫染色法などで視覚化した場合、各小切片はほぼ同じパターンを生じる。これらの小切片をタイプAで先述した種々の基材(メンブレン、スライドなど)上に固定化し、タグとして使用することができる。特定の細胞株を使用する場合、特定細胞を細胞株に応じた方法にて培養し、一定数を基材にまき、固定化すれば、特定の細胞株に特有に発現している蛋白質あるいは特定の抗原を、検出することで一定のシグナルパターンをえることができる。特定蛋白質あるいは抗原の検出法は、タイプAのタグで挙げたものと同様のものを使用することができる。使用できる細胞の種類は限定されるものではないが、例えば、ATCCや理化学研究所が頒布している各種の細胞株、市販の細胞株を使用することができる。具体的な細胞株名としては、HepG2、MCF7、LNCaP、PC10などを挙げることができる。
【0060】
タイプCのタグに使用できるペプチドあるいは化学物質としては、特に限定はないが、シグナルパターン作成(検出手段)に抗体やレセプター、細胞マトリクスを使用する場合、抗原性を有するか、相互作用が可能であることが必要である。Aタイプのタグが蛋白質を介してペプチド、ハプテン化合物(化学物質)を固定化しているのに対し、Cタイプは先述の基材にそれらを直接固定化している。直接固定化した場合でも、抗体やレセプター・生理活性物質は相互作用しうるため、Aタイプと同様の検出が可能であることがほとんどである。直接固定化は化学物質・ペプチドが完成してから実施する場合もあるが、基材上でペプチド合成や化学物質合成が実施される場合もある。ペプチド配列の長さとしては、任意の数アミノ酸〜数十、数百アミノ酸相当のものを使用することができるが、それらを特異的に認識することが可能な抗体やレセプター等の生理活性物質等の検出手段を有していることが必要である。なおペプチドやハプテン化合物に対する抗体の作製は、前述のハーローらによる方法に従って作製することができる。
【0061】
触媒抗体を作製する目的で、特殊なハプテン化合物(遷移状態アナログ)群を合成し、それらに対する抗体を取得した例としては、ジェンダらの報告が挙げられる。彼らが求めたのは触媒活性を有する抗体であるが、触媒活性を有さないが、特殊な構造を有するハプテン化合物に結合しうる抗体も、ハプテン化合物とともに、本発明に利用することができる。これらの抗体は、一般に入手可能な試薬として市場には出回っていないことが多く、秘匿することが容易であり、より堅牢な暗号システムとして構築が可能となろう。また完全に新規な化学物質をハプテンとして合成し、それらに対する抗体を取得した場合、さらに不可侵性の高いシステムが作製できる。
【0062】
【非特許文献13】「ジェンダら サイエンス 241巻1188頁−1191頁(1988年)」(Janda K.D.,Science Vol.241,pp1188−1191(1988))。
【0063】
タイプBおよびタイプCのタグはタイプAで使用した基材、マスキング材、保護剤、防腐剤を利用することができ、同様にシグナルパターンを担持した基材を、さらに紙片やラミネートフィルム材を用いて格納することもできる。全体の大きさはタイプAで使用したサイズのものと同程度のものを採用することが可能である。
【0064】
上記で得られたバイオIDタグ(A−Cタイプ)は、商品であるカバン、靴、衣類等の内部に設置できる他、商品あるいは食品包装の表面に貼り付けて使用することもできる。模造防止の目的においては、できるだけ小さな小片として、発見されにくい特定の部位に設置し、その設置情報・パターン情報は、正当権限者のみが厳重に管理しておくことが必要であろう。
【0065】
Dタイプの作製者のみが知りえる情報によって、作製可能なパターンを作製しうる生物学的組成物を格納したタグ、に使用する生物学的組成物としては、先出した各種の酵素・レセプターなどの蛋白質、ペプチド、糖類、脂質、複合脂質、天然由来の低分子化合物、合成化学物質物質、アプタマー、細胞抽出物、組織抽出物、血液、尿等の生体液、通常の細胞群、なんらかの刺激を与えた細胞群、健常な組織切片、病理切片等を利用できるが、これらの生物学的組成物は、作製者の指定する方法によって、一定のシグナルパターンを生成しうるものでなければならない。
【0066】
これらの生物学的組成物は、カプセル等の、内容物を安定的に保管できるもののなかに内包するか、特定の素材(紙、ポリマー樹脂、シリカ樹脂など)に含浸等させて使用することができる。内包したあるいは乾燥・含浸等させた生物学的組成物は取り出すことあるいは抽出すること、復元することができる形態であることが必要である。
【0067】
Dタイプのタグに使用される生物学的組成物は、その組成物のみを用いて、または作製者が指定する別の生物学的組成物と混合して、一定のシグナルパターンを生成することができる。混合する生物学的組成物としては、タグに使用する生物学的組成物と同様のものを使用することができる。例えばタグにある細胞抽出液から部分精製した生物学的組成物を用い、シグナルパターン作製時に、別種の細胞抽出液からなる生物学的組成物を混合するなどの使用の仕方が可能である。混合する生物学的組成物は、正当な権限者のみが知ることができ、侵害者に対して完全に秘匿することができ、結果的に侵害者はタグ中の生物学的組成物の何に対してパターンを形成させているのかを知ることはできない。
【0068】
DタイプのバイオIDタグ中の生物学的組成物は、先述の抗体やペプチド、レセプター等からなるプロテインアレイ、ペプチドアレイなどを用いて解析することができる。プロテインアレイによる解析については、シェーナ編「プロテインアレイ」に種々記載されている。
【0069】
【非特許文献14】「シェーナ編 プロテインアレイ(2004年)ジョーンズ&バートレット 出版」(Schena M.,Protein Array(1988)Jones and Bartlett Publishers)。
【0070】
DタイプのバイオIDタグは(A−Cタイプ)同様、商品であるカバン、靴、衣類等の内部に設置できる他、商品あるいは食品包装の表面に貼り付けて使用することもできる。模造防止の目的においては、できるだけ小さな形態にして、発見されにくい特定の部位に設置し、その設置情報は正当権限者のみが厳重に管理しておくことが必要であろう。
【0071】
バイオIDタグ(A−C、およびEタイプ)のシグナルパターン情報、バイオIDタグ(Dタイプ)の組成情報、それらと関連付けられた商品情報(商品ID、生産工場、取り扱いディーラー、製造責任者、販売店等)、タグを実際に解析して得られたパターンの情報(画像情報)は、データベース化してコンピュータ上に格納することができ、正当権限者は必要に応じて商品の真正性を確認する際に参照することが可能である。それらの情報は高いセキュリテイが担保されたシステムの中で、紛失・改ざん・盗難・損傷等が防止されつつ、また運用する側の高いモラルを持って公正に管理運用されなければならない。場合によってはそれぞれの情報を分割して管理することも必要であろう。
【0072】
バイオIDタグ(A−Eタイプ)の情報は、上記のコンピュータ上だけでなく、種々の記憶媒体(DVD、CD、USBメモリ等の光デイスク・磁気デイスク・ハードデイスクなど)で取り扱うことも可能である。また暗号化通信が可能なネットワーク(ローカルネットワークおよびグローバルネットワーク)において情報のやりとりを実施することができるが、情報の漏洩、改竄などを完全に防止したシステムでの運用が好ましい。ネットワークでの使用の守秘性に問題がある場合、クローズドなスタンドアローンのコンピュータシステムを活用できる。
【0073】
物品の真正性を確認する必要が生じた場合、正当な権限者はまず商品のIDを確認し、そのIDに従って、データベース内の情報を呼び出すことが出来る。データベースの情報から、まず商品のどの位置にどのタイプのバイオIDタグが設置されているかを知ることが出来る。商品の所定の場所からタグを取出し、バイオIDタグのシグナルパターンが担持されたパーツを摘出する。このパーツを例えば各種のプレート等に入れ、データベースの情報に従ってパターン検出の為の試薬を作用させればよい。データベースは所定試薬の指定のための情報だけでなく、検出のプロトコールを含ませることができる。
【0074】
検出のための試薬は、バイオIDタグが酵素活性を利用するものである場合、その活性に対する基質を構成成分とするものとなる。試薬は1液タイプのものでも2液タイプのものであっても、それ以上のタイプのものであっても良い。
【0075】
バイオIDタグが抗原性を利用したものである場合、その抗原性に応じた抗体が検出のための試薬の主要成分となる。抗体は酵素や蛍光物質、ビオチン、金コロイドや特定のリガンドで標識されていても良い。あるいは視覚化はできないが、電気化学的シグナル、電磁的シグナル等の物理的シグナルを発することのできる物質(フェロセン等)で標識されていてもよい。あるいは抗原性に関わる抗体(1次抗体)は未標識のまま、その1次抗体を認識する抗体、プロテインA、プロテインG等が、酵素や蛍光物質、ビオチン、金コロイドや特定のリガンドで標識されていても良い。検出試薬の構成成分による検出の原理の例を図3に示す。図3は一般的な酵素免疫測定法による視覚化の為の原理図である。
【0076】
視覚化されるためには、最終的に生成した物質が、可視性であるもの、蛍光性のあるもの、発光性のものであることが好ましい。またメンブレンをバイオIDタグの基材として使用した場合、生成物はメンブレンに吸着性のものであり、容易にメンブレンから遊離できないことが好ましい。例えばテトラメチルベンチジンはペルオキシダーゼの水溶性基質であるが、ペルオキシダーゼにより青色生成物となりメンブレン(PVDF製、ナイロン製)の上に固着することができる。アルカリフォスファターゼを利用する場合、ナフトールAS−TRリン酸が利用でき、この場合赤色の色素がメンブレン上に残る。マトリクスの解析には各種の標識体・色素等を組合わせて多重に解析することも適宜可能であり、それはマトリクスパターンのデザインを行う正当権限者の意図に従う。
【0077】
バイオIDタグを解析する場合は、タグをそのまま直接分析してもよいが、タグをフィルム、メンブレン、ろ紙、給水パッド、プラスチック容器、遠心ろか可能なミニカラムなどの支持体の上あるいは内部に格納した上で、種々の反応をさせて分析することができる。これらの方法は、いわゆるメンブラン・ガラス繊維ろ紙を用いたフィルターアッセイや、各種の形態のラテラルフローアッセイ等の迅速アッセイ方法をも包含する。
【0078】
検出時の生体結合反応によりバイオIDタグ上で固定化された蛍光物質・色素は、光学顕微鏡や蛍光顕微鏡、イルミネーター等で観察することができる。また種々のタイプのスキャナー(可視・蛍光・発光)も利用できる。
【0079】
検出時に得られたシグナルパターンは、デジタルカメラ、CCDカメラなどで種々のフォーマットによりデジタル化し、画像データを転送し、磁気ディスク、光ディスク等の記憶媒体に保存することが出来る。また記録時や照合時にこれらのデータをDES、RSA等種々の暗号作成アルゴリズムを用いて暗号化して処理することが出来る。
【0080】
物品や個人に対して人為的・人工的に設定されたバイオロジカルなパターンを関連づけて、物品の真正性を判断し、管理することを目的とした方法及びツールは、遺伝子(DNA)配列を利用したものを除いてこれまでに存在しなかったし、それらを目的のために構成された組成物も存在していなかった。認証対象の物品、個人の多様な情報とバイオロジカルパターンとの関連付けは、いわゆる情報工学をもちいた技術によって実施することができる。
【発明の効果】
【0081】
バイオIDタグは種々のバイオテクノロジー手法によって作製され、ID確認もバイオテクノロジー手法によって実施するものであり、物品の真正性を、流通ルート中あるいは販売後において確保し、一般社会より贋作・贋物を的確に排除するための、一連の合理的な解決策(バイオIDソリューション)を提供することが可能である。そしてその普及は模造品市場・ブラックマーケットの縮小を図り、あるいはシュリンケージ問題の解決に寄与し、健全かつ安全で円滑な流通市場に資すると考えられる。
【0082】
本発明により実際の流通現場に対応可能な、迅速かつ極めて堅牢な真正性判定システムを構築することができるが、バイオIDタグは、独立的な運用だけでなく、従来のICカード・ICチップと組合わせた利用あるいは共同的な運用が可能であり、より実際的な活用を図ることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
【実施例1】
【0083】
(単純タンパクアレイ)
ヤギIgG抗体(シグマ社製)(濃度 2.0mg/mL)を、20%(w/w)のグリセロール−PBS(10mM,pH7.2)溶液にて、0.5mg/mLの濃度になるように希釈した後、V&Pサイエンティフィック社(V&P Sci−entific Inc.:米国 カリフォルニア州)製のマニュアルアレイヤーを用いて、図4のようなドットマトリクスパターンを形成するように、1cm×1cm内にPVDFメンブレン(ワットマン社製)をプラスチック製スライド上に載せてセットし、スポッティングした。スポット後4℃にて1時間静置した後、デシケーターに入れ室温にて真空ポンプで減圧し乾燥させた。乾燥メンブレンを1%(v/v)マウス血清、0.1%(w/v)アジ化ナトリウム、2%(w/v)BSA、PBS(10mM,pH7.2)からなる溶液10mLに浸漬し、1時間4℃にて静置した。この後メンブレンを取りだしキムタオル上で水分を十分きり、デシケーターに入れ室温にて真空ポンプで減圧し再度乾燥させた。このメンブレンのスポットマトリクスを含む1.5cm×1.5cmの大きさの部分を切りとり、この上部・下部にワットマン社製ろ紙(2cm×2cm)をセットし、ラミネーター(RL−A6T:アイリスオーヤマ社製)を用いて、全体をラミネートフィルム(主成分PET)で密封した。作業はUV照射により十分滅菌状態とした後のクリーンベンチ内で実施した。密封小片は、空気のもれが無い事を視認した。合計全く同一の密封小片を100組作製した(密封小片A)。
【実施例2】
【0084】
(ハプテンタンパクアレイ)
テストステロン修飾BSA(シグマ社製)を、2mg/mLになるようにPBS(10mM,pH7.2)溶液にて、1.0mg/mLの濃度になるよう希釈した後、実施例1と同一のアレイヤーとメンブレンを用いて同様の操作にて密封小片を100組作製した(密封小片B)。但しドットマトリクスパターンは図5のようにした。
【実施例3】
【0085】
(組織切片アレイ)
マウスの腫瘍より取出した組織をパラフィン包埋し、常法にてほぼ同一部位のパラフィン切片を16個作製した。1つの切片を光透過性のガラス製スライドに固定した。切片上面を小さなポリプロピレンフィルムにて覆い、さらに作製したスライド全体をろ紙で覆い、全体を実施例1のラミネーターとラミネートフィルムにて密封した(密封小片C)。
【実施例4】
【0086】
(酵素アレイ:ルシフェラーゼ)
プロメガ社製のルシフェラーゼベクター2種(pCBR Control ベクター 及び pCBG99luc)をHera細胞に形質転換した後、プロメガ社の添付書に従って約1週間継代・拡大培養した。拡大培養終了後、ルシフェリン(プロメガ社)を添加して発光を発することを確認した。トリプシン処理した培養細胞を遠心分離で集め、それぞれの形質転換細胞を超音波処理にて破砕・除核酸した後、無細胞抽出液とした。無細胞抽出液は、40%飽和硫安により沈殿した画分をPBSにて再懸濁して、各種ルシフェラーゼを含有する溶液を得た。この各種ルシフェラーゼ含有溶液を図6に示すマトリクスにて、ニトロセルロース膜上に、実施例1のアレイヤーにてスポットし、膜全体を2%ウシ血清アルブミン、10%サッカロースを含むPBS溶液中に含浸させたのち、減圧乾燥を行った。乾燥後メンブレンのスポットマトリクスを含む1.5cm×1.5cmの大きさの部分を切りとり、実施例1の様にラミネートし、密封小片を50個作製した(密封小片D)。
【実施例5】
【0087】
(ペプチドアレイ)
配列番号1、2、3のアミノ酸配列[FLAGM2(
【配列1】
)、α−カテニン(
【配列2】
)、カスパーゼ3(
【配列3】
)]のカルボキシル基末端にビオチンを有する合成ペプチドそれぞれを、常法によるペプチド合成法にて作製を依頼し、それぞれ純度95%以上の標品を作製した。次に1.5cm×1.5cmのニトロセルロース膜を、ストレプトアビジン10μg/mL を含むPBS溶液に含浸し、4℃、1時間後にPBS溶液20mLにて3回洗浄した。洗浄後膜全体を2%ウシ血清アルブミン、10%サッカロースを含むPBS溶液中に含浸させたのち、減圧乾燥を行った。乾燥後各配列のビオチン化ペプチドを図7のマトリクスとなるよう実施例1のアレイヤーにてスポットした。スポット後ニトロセルロース膜を再度PBSにて3度洗浄し、再度膜全体を2%ウシ血清アルブミン、10%サッカロースを含むPBS溶液中に含浸させたのち、減圧乾燥を行った。この後実施例1と同様にラミネートし、密封小片を100個作製した(密封小片E)。
【0088】
【配列1】

【配列2】

【配列3】

【実施例6】
【0089】
(データベースネットワークの構成)
各種バイオIDタグのマトリクスパターン(あるいは他種のパターン)と製品番号・ID番号、製造工場、流通ルート、販売ルート、製造責任者、タグの設置位置情報、タグの種類、タグの解析時に必要な情報は、まとめてあるいはいくつかに分割して、コンピュータのデータベースにて管理することができる。これらのデータベースの情報は独立したコンピュータによりスタンドアローン的に利用することもできるし、情報の暗号化、ファイアーウォール使用等による堅固なネットワークシステム(複数のユーザーとコンピュータとメインコンピュータよりなる)を介して利用することもできる(図8参照)。ネットワークシステムを利用する場合、正当権限を有するユーザーは認証したい製品のID番号よりタグの解析情報を入手し、解析を行った結果得た各種パターンを、ネットワークを介して照合し、商品の正当性を判断することができる。
【実施例7】
【0090】
(商品への添付・解析(1))
実施例1で作製した密封小片A50個それぞれを、特定産地Xの生鮮食品(特定時・場所で生産されたもの)のパッケージの表面に、実施例2で作製した密封小片B50個それぞれを、特定産地Yの生鮮食品(特定時・場所で生産されたもの)のパッケージの表面に、それぞれの産地表示シールの下面となる様、覆う形式でひとつずつ貼り付けた。
【実施例8】
【0091】
(商品への添付・解析(2))
実施例2で作製した密封小片B50個を、限定生産された25個のハンドバッグの内部に、それぞれ2個ずつ外部から視認できず、また推定できない様に隠してセットした。このハンドバッグにはそれぞれ、1箇所に製品番号・製造地が布片として、またそれらが視認できるよう縫いこまれている。さらに、それらのバッグに流通工程で使用可能な、RFIDタグ(凸版印刷社製)及び紙製の通常のバーコード付商品タグをセットした。
【実施例9】
【0092】
(各種アレイの解析(1))
実施例7で添付した密封小片A、Bをそれぞれの商品から分離回収した後、ラミネート部分の周囲をカットし、内部に挟んだ膜を取出し、10mLのPBSを入れたチューブ中に入れた。PBSで浸潤したメンブレンを、8穴のプレートに入れ、2mL容量の1%BSA/PBSを加え、4℃にて10分間ブロッキングした後溶液を除き、密封小片Aには、1%BSA/PBSにて1/4000希釈した抗ヤギIgGウサギ抗体ペルオキシダーゼ標識(シグマ社製)2mLを加え、密封小片Bには、1%BSA/PBSにて1/3000希釈した抗テストステロンマウス抗体ペルオキシダーゼ標識(フィッツジェラルド社製)2mLを加え、30分間・4℃にてインキュベートした。インキュベート後それぞれの溶液を除き、0.1%ツイン20を含むPBS 3mLを添加して洗浄した。この洗浄工程をさらに2度繰返した後、ブロッテングTMB溶液(モス社製)1mLをメンブレン上に加え、5分間静置した。酵素反応を5mL PBSにて洗浄することによって終結させ、光学顕微鏡にて染色スポットパターンを確認したところ、図4及び図5のマトリクスパターンに相当する像が得られた。これらの像は顕微鏡に備えたCCDカメラを介して、デジタル画像としてコンピュータのハードディスクに転送し、保存した。
【実施例10】
【0093】
(各種アレイの解析(2))
実施例3の密封小片C内の基材を取り出し、常法によりキシレンの段階希釈系列に順次浸漬し、小片上の切片を脱パラフィンした。さらにこの小片を支持体ごと、電子レンジ内で加熱した沸騰水を満たした三角フラスコ中に漬け、10分間処理した。処理後、2%ヤギ血清を含むPBS 100μLを切片上に垂らし、4℃にて60分間ブロッキングを行った。ブロッキング後、2%ヤギ血清/PBSで抗PCNAマウス抗体を1/100希釈し、100μLを切片上に載せ、4℃にて1時間反応を行った。この後ベクタスティン社製ABCマウスIgGキットを用いて、キット添付書に従い染色を行った。但し最終染色は免疫染色用のTMB(モス社製)を使用した。染色した切片はPCNAの局在を明確に示し、実施3で作製した密封小片Cを5個テストしたが、染色像は全てほぼ同一であった。画像は実施例9同様にデジタル画像として転送・保存した。
【実施例11】
【0094】
(各種アレイの解析(3))
実施例4の密封小片Dを実施例9同様に取出し、PBS 5mLに5分間浸漬後、ルシフェリン(プロメガ社製)を含むPBS溶液 5mLに浸し、湿潤状態のまま暗室内の光学顕微鏡にて観察した。図6で設計したパターンに従い、2種の発光色のパターンが観察でき、画像は実施例9同様にデジタル画像として転送・保存した。
【実施例12】
【0095】
(各種アレイの解析(4))
実施例5の密封小片Eを実施例9同様に取出し、10mLの2%BSA/PBSに10分間浸漬した後、抗FAGM2マウス抗体(シグマ社製)および抗α・カテニン(890−901)ラビット抗体(シグマ社製)をそれぞれ1/1000及び1/500倍となるように1%BSA/PBSで希釈し、500μLを小片上に載せ、30分間4℃にてインキュベートした。この後0.1%ツイン20を含むPBS溶液10mLにて3度洗浄した後、抗マウスIgGヤギ抗体−ペルオキシダーゼ標識及び抗ラビットIgG抗体アルカリフォスファターゼ標識をそれぞれ、1/100希釈した1%BSA/PBS 500μLを小片上に載せ、30分間4℃にてインキュベートした。再度ツイン20を含むPBSにて3度洗浄した後、まずブロッティング用TMB(モス社製)500μLと反応させた。さらにツイン20を含むPBSにて2度洗浄した後、ブロッテイング用のナフトールAS−TRリン酸(シグマ社)溶液500μLを載せて反応させた。最終染色終了後、蒸留水洗浄にて反応を終結させてメンブレンを光学顕微鏡にて観察した。図7のマトリクスに従い、FLAGM2ペプチドのスポットに相当する部分は青に、α−カテニンペプチドのスポットに相当する部分は赤に、発色していることが確認できた。発色した画像は実施例9同様にデジタル画像として転送・保存した。
【実施例12】
【0096】
(細胞抽出液から部分精製した組成物からなるタグの作製)
MCF7細胞(大日本製薬社より入手)を瀬野らのマニュアルに記載の方法にて培養し、3度目の継代時に二つに分けてそれぞれコンフルエントになった状態で、タモキシフェン(シグマ社製)100nmol/mLとなるように添加したものと添加しなかったものを調製した。さらにインキュベートを6時間続けた後、トリプシン処理にて細胞を剥離し、遠心分離によってそれぞれ回収した。回収した細胞評品はBDクロンテック社製のAbマイクロアレイバッファーキット添付の細胞溶解液にて溶解し、遠心分離により上清をとり、OD280nmが20となる様にPBSにてそれぞれ調整した。調整した2種の溶液200μLをそれぞれ別のアクリルアミドゲル1cm×1cm×3mmに含浸させた後、減圧加熱乾燥し、2cm×2cmのろ紙2枚の間に挟んで実施例1の様にそれぞれラミネートフィルムで密封した。タモキシフェンで処理した細胞の方の密封小片Tは、製品(カバン)添付用とし、処理しなかった細胞の密封小片Rは、製品に添付することなく、保存した。
【0097】
【非特許文献15】「研究テーマ別 動物培養細胞マニュアル」瀬野悍二ら(1993年)共立出版。
【実施例13】
【0098】
(実施例12で作製したタグの解析1)
実施例12で作製した密封小片T(カバン添付)より、乾燥したアクリルアミドゲルを取り出し、PBSで2mLを加えて1時間抽出処理を行い、遠心分離し上清を集めた。この上清のOD280nmが2となるようにPBSで調整し、BDクロンテック社製のAbマイクロアレイバッファーキットを用い、添付文書に従ってCy−5にてラベリングを行った。この蛍光ラベル化後、キットの添付文書に従いBDクロンテック社製のAbマイクロアレイ500スライドを用いて解析を行い、蛍光スキャナーにて一定の解析パターンを得た。
【実施例14】
【0099】
(実施例12で作製したタグの解析2)
実施例12で作製した密封小片R(保管分)より、実施例13の方法と同様に、乾燥したアクリルアミドゲルを取り出し、PBSで2mLを加えて1時間抽出処理を行い、遠心分離し上清を集めた。この上清のOD280nmが2となるようにPBSで調整し、BDクロンテック社製のAbマイクロアレイバッファーキットを用い、添付文書に従ってCy−3にてラベリングを行った。このCy−3ラベリング溶液と実施例13のCy−5ラベリング溶液を1対1(1mLと1mL)にて混合し、混合液をBDクロンテック社製のAbマイクロアレイ500スライドを用いて解析を行い、蛍光スキャナーにて一定の解析パターンを得た。実施例14の解析パターンは実施例13のそれと全く異なるものであり、十分に区別が可能であった。この実施例14の意味としては、外部に全く知られることの無い材料によって解析が実施されるため、侵害者はタグのどの成分が有効であり、パターンを形成に寄与するのかという点について知ることが不可能である、という点にある。このため侵害者が製品添付のタグを模造することは不可能である。すなわち製品添付のタグ成分も暗号情報となるが、外部のものが知り得ない保管タグの成分も暗号情報となりうる、いわば2重の暗号情報を構成することができる。
【発明の効果】
【0100】
バイオIDタグは種々のバイオテクノロジー手法によって作製され、ID確認もバイオテクノロジー手法によって実施するものであり、従来のタグでは達成することが出来ない、模倣・偽造が極めて困難で、堅牢な認証システムを構築することができる。
【0101】
本発明は実際の流通現場に対応に要求される、迅速で正確な判定をも可能にするものであり、多数の物品の同時認証・判断をも可能とする。またバイオIDタグは、独立的な運用が可能であるだけでなく、プライバシー侵害が問題とされている、従来のICカード・ICチップ・RFIDの補完的あるいは共同的な運用が可能であり、より実際的な活用ができる。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明のタグ及びタグを用いたシステムにより、物品の真正性を、流通ルート中あるいは販売後において確保し、一般社会より贋作・贋物を的確に排除するための、一連の合理的な解決策(バイオIDソリューション)を提供することが可能である。そして模造品市場の縮小に寄与し、健全かつ安全で円滑な流通市場をもたらし、ほとんどすべての産業の振興に資すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】4種類の蛋白質を用いてデザインした4×4のマトリクス形式のパターンを示す。
【図2】1種類の蛋白質を5段階の濃度に区別してデザインした8×8のマトリクス形式のパターンを示す。
【図3】酵素免疫測定法によるバイオマトリクスパターンの視覚化の原理図を示す。
【図4】実施例1で作製したタグにデザインしたマトリクス形式のパターンを示す。
【図5】実施例2で作製したタグにデザインしたマトリクス形式のパターンを示す。
【図6】実施例4で作製したタグにデザインしたマトリクス形式のパターンを示す。
【図7】実施例5で作製したタグにデザインしたマトリクス形式のパターンを示す。
【図8】本発明のタグを用いた認証管理システムの概念図(ネットワーク・スタンドアローン)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の物・人・対象(A)に関する情報に関連付けた、特定のシグナルパターン(B)を形成することが可能な組成物(蛋白質、糖類、脂質、複合脂質、ペプチド、化学物質、核酸類を含む)からなるタグ。
【請求項2】
特定の物・人・対象(A)に関する情報に関連付けた、特定のシグナルパターン(B)を形成することが可能な組成物(蛋白質、糖類、脂質、複合脂質、ペプチド、化学物質、核酸類を含む)を担体に含有させたタグ。
【請求項3】
特定のシグナルパターン(B)が、直接物理的に解析されないことを特徴とする、請求項1、2に記載のタグ。
【請求項4】
特定のシグナルパターン(B)が、生理活性物質の反応または結合反応を利用した方法で形成されることを特徴とする、請求項1−3に記載のタグ。
【請求項5】
特定のシグナルパターン(B)が、蛋白質分子の配列によって構成されることを特徴とする、請求項4に記載のタグ。
【請求項6】
特定のシグナルパターン(B)が、細胞組織によって構成されることを特徴とする、請求項4に記載のタグ。
【請求項7】
特定のシグナルパターン(B)が、ペプチド・糖鎖・糖脂質・脂質・複合糖質・複合脂質または化学合成リガンドによって構成されることを特徴とする、請求項4に記載のタグ。
【請求項8】
生理活性物質が、抗体、レセプター、酵素、抗体と結合しうる物質、レセプターと結合しうる物質、酵素の基質あるいは阻害剤であることを特徴とする、請求項1−7に記載のタグ。
【請求項9】
特定のシグナルパターン(B)が、真正性を判断する試験をする時点までは、タグ上でマスキングあるいは隠されていることを特徴とする、請求項1−8に記載のタグ。
【請求項10】
請求項1−9に記載のタグに特定の物・人・対象(A)に関する情報を関連付け、当該物・人・対象(A)に添付させること、もしくは当該物・人・対象(A)の真正性を証明する際に提示することによって、特定物・人・対象(A)の真正性を確認または証明、認定する方法、
【請求項11】
関連付けられた特定の物・人・対象(A)の情報と特定のシグナルパターン(B)が、データベースによって保存・管理されていることを特徴とする請求項10に記載の方法、
【請求項12】
関連付けられた特定の物・人・対象(A)の情報と特定シグナルパターン(B)が格納されたデータベースに対して、正当権限者がタグを解析した際に得られる特定パターンを直接またはネットワークを介して照合することを特徴とする方法、
【請求項13】
請求項1−12に記載のタグならびに方法を実施するために必要とされる試薬。
【請求項14】
請求項10−12に記載の方法を可能にするための電子計算機に供するためのプログラム。
【請求項15】
請求項1−9に記載のタグを備えた商品および物品。
【請求項16】
物品・個人に人工的に設定したバイオロジカルなパターンを関連づけて、物品・個人の認証・管理を行う方法。
【請求項17】
請求項16の方法を可能にするための組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−58823(P2007−58823A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270962(P2005−270962)
【出願日】平成17年8月21日(2005.8.21)
【出願人】(505350514)
【Fターム(参考)】