説明

誘導ラマン分光ガス分析装置

【課題】光軸調整が容易で耐環境性が向上した小型の誘導ラマン分光ガス分析装置でガス濃度分析の精度を向上させること。
【解決手段】 ポンプ光とプローブ光を測定対象に入射させ、誘導ラマン利得または損失スペクトルを測定する誘導ラマン分光誘導ラマン分光ガス分析装置において、前記ポンプ光と前記プローブ光とを合波してファイバから前記測定対象に出射するWDM光合波手段と、前記WDM光合波手段から出射される前記合波光を集光して前記測定対象に入射させる第1の集光手段と、前記測定対象を透過した透過光を集光して前記分光手段に入射させる第2の集光手段と、前記透過光からポンプ光を除去する分光手段と、前記分光手段から出射されるポンプ光が除去された前記透過光の強度を測定し前記測定対象を分析する分析部と、を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ光とプローブ光を測定対象に入射させ、誘導ラマン利得または損失スペクトルを測定する誘導ラマン分光ガス分析装置に関し、特にガス濃度分析の精度の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、近赤外光を利用した分光法などにより、光源から被測定対象に照射すると、被測定対象に含まれる成分に特有の波長域においてその成分の量に応じた吸光特性を示すことから、被測定対象からの透過光などの測定光から吸光度(特定成分による光の吸収度)を算出し、その吸光スペクトルに基づいて被測定対象に含まれる成分を分析する光分析装置が知られている。
【0003】
このような近赤外光を利用した分光法では、赤外不活性なガス(水素分子や窒素分子などの等核2原子分子)を測定することは不可能であり、赤外不活性なガスを測定するには、ラマン散乱分光を必要とする。
【0004】
しかし、ラマン散乱分光を用いたガス検出に数W以上の高出力レーザ光源が必要となるので、ポンプ光源として空間光ビーム出力であるYAGレーザやTiサファイアレーザなどを高出力パルス光源として使用している。この場合には光源が大型で高価なものであるから、フィールド対応の(測定対象を生産するような生産工場や測定対象を使用する現場、プラント等の各種現場に設置可能な)小型分光分析装置の達成は困難であった。
【0005】
またラマン散乱分光を用いたガス検出では、ラマン散乱光強度が極微小信号であるのでガス濃度を高精度で測定するには濃度範囲が狭くなってしまうという問題点があった。
【0006】
このような問題点に対し、従来からラマン散乱光強度を上げる取り組みが行なわれている。たとえばラマン散乱分光でラマン散乱光強度を上げるには誘導ラマン分光があり、下記特許文献1などがある。具体的には、試料にポンプ光とプローブ光を照射することにより得られる誘導ラマン散乱光を検出するように構成された誘導ラマン分光分析装置がある。また、誘導ラマンに係る文献としては、非特許文献1があり、ガスのラマンシフト量を記載した文献としては下記非特許文献2などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−227253号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M. D. Levenson, S. S. Kano 共著、狩野覚、狩野秀子共訳「非線形レーザー分光学」オーム社、昭和63年、p.191
【0009】
【非特許文献2】JOURNAL OF THE OPTICAL SOCIETY OF AMERICA VOLUME 63, NUMBER I, pp73-77 JANUARY 1973 : Raman cross section of some simple gases
【0010】
図10は、主に非特許文献1で示された従来の誘導ラマン分光ガス分析装置の構成図であり、図10において、Arレーザ1はポンプ光の光源として用いられるもので、波長514.5nmの出力光は電気光学効果素子2により変調され、ポンプ光波長のみを透過させて他の波長は反射させるように構成されたダイクロイックミラー3に入射される。
【0011】
色素レーザ4はプローブ光の光源として用いられるもので、たとえば1MHzの分解能で1cm-1にわたって波長を変えられる連続発振出力光はノイズ低減システム5およびハーフミラー6で反射されてダイクロイックミラー3に入射され、ポンプ光と重ね合わされる。
【0012】
ダイクロイックミラー3で重ね合わされた光ビームは、試料が充填された多重光路セル7に入射されて試料を多数回通過した後、分散プリズム8と空間フィルタ9を通過することによりポンプ光がカットされ、誘導ラマン効果により変調されたプローブ光がPINホトダイオードよりなる第1の検出器10で検出される。
【0013】
第1の検出器10で検出された信号の変調成分は、電流増幅器11およびロックイン増幅器12を介してチャートレコーダ13に入力されて高感度に測定記録される。
【0014】
ダイクロイックミラー3の他方の出力光ビームは波長計14に入射される。波長計14には、基準光源として用いられるHeNeレーザ15の出力光も入射される。
【0015】
ロックイン増幅器12には、基準検出器16で検出されたハーフミラー6の透過光が、電流増幅器17を介して入力される。
【0016】
基準発振器18の出力信号は、電気光学効果素子2に変調信号として入力されるとともに、ロックイン増幅器12に基準信号として入力される。
【0017】
このような構成において、色素レーザ4から出力されるプローブ光の波長を測定したい波長帯域で変化させながら測定を行うことにより、試料の定性・定量あるいは物性に関連した誘導ラマン利得または損失スペクトルを得ることができる。
【0018】
図10のような複雑な測定系を用いる必要性について説明する。強力なポンプ光とプローブ光を完全に分離するために、直列に配置した分散プリズム8と空間フィルタ9を用いて空間的にポンプ光とプローブ光を分離している。
【0019】
さらに、背景光と誘導ラマン光が含まれたプローブ光から誘導ラマン光分離するために、ポンプ光を基準発振器18から出力される所定の周波数で変調することにより、プローブ光が受ける誘導ラマン効果自体を変調する。背景光は変調されていないので、ロックイン増幅器12を用いてプローブ光の所定の周波数で変動する成分のみを検出すれば、誘導ラマン光強度を測定することができる。
【0020】
特許文献1では、ポンプ光源とプローブ光源(信号光源)を対向進行配置(後方散乱)にして、各種液体や固体を測定する方式が記載されている。(特許文献1における技術においても実際には非特許文献1同様の光チョッパやロックインアンプを使用した複雑な測定系となる。)
【0021】
このように、従来の誘導ラマン分光ガス分析装置は、試料の定性・定量あるいは物性に関連した誘導ラマン利得または損失スペクトルを得ることができ、赤外不活性なガスの成分を分析することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
ここで、誘導ラマン分光ガス分析装置では、誘導ラマンを発生させるためにはポンプ光とプローブ光を多重光路セル7(試料ガスセル)内で同一光路導波させる必要がある。そのために、ミラーおよびダイクロイックミラーなどの光学部品をステージ類に保持し、空間光ビームの位置と角度を4軸調整することになる。
誘導ラマン分光分析でポンプ光とプローブ光のビーム径が同じで軸ズレがない場合に得られる誘導ラマン信号強度変化(ΔPS)を以下の式(1)に、ラマン利得係数gの最大値を式(2)に示す。
【0023】

ΔPS:プローブ光強度の変化量、PS0:入射プローブ光強度、g:ラマン利得係数、PP:入射ポンプ光強度、w:プローブ光とポンプ光のビーム半径、L:多重光路セル(試料ガスセル)の長さ
【0024】

dσ/dΩ:微分散乱断面積、N:ビーム中の分子数、V:ビームの体積、ω:ポンプ光の角振動数、ωf:分子の角振動数、η,ηS:媒質中におけるポンプ光と散乱光の屈折率、γ:ラマン線幅
【0025】
ここで、ラマン散乱分光分析を高精度に行なうためには、誘導ラマン信号強度ΔPSを大きくするべきであるところ、上述の式(1)、(2)からわかるように、誘導ラマン信号強度ΔPSを大きくするには、ラマン利得係数gを大きくする、光源の光出力PPとPS0を大きくする、ポンプ光とプローブ光の同一光路で導波する距離Lを長くする、光ビーム径wを絞って光パワー密度を高くする必要がある。
なお、式(2)によればラマン利得係数gを大きくするには、試料ガスを高圧状態にしてビーム中の分子数Nを多くすれば良いことが分かる。
【0026】
しかしながら、従来の誘導ラマン分光ガス分析装置では、誘導ラマンを発生させるためにはポンプ光とプローブ光を多重光路セル7(試料ガスセル)内で同一光路導波させることが前提となるが、同一光路で導波する距離を長くするには空間光(平行光)のビーム径を数mmに広げる必要がありビーム径を広げると光パワー密度が低くなって光路長を長くした効果を相殺してしまい、発生する誘導ラマン信号強度は小さく、高精度の分光分析ができないという問題点があった。
【0027】
また、光パワー密度を高くするために光ビームを集光する構成は、ポンプ光とプローブ光の2本の空間光を同一光路上に調整する必要があるが、僅かでも光軸がずれていると集光した場合に光軸の傾きが発生し、ラマン光発生が低下してしまうという問題点があった。ここで、ポンプ光とプローブ光のビーム径の違いと軸ズレがある場合の式を次の式(3)に示す。
【0028】

S:プローブ光のビーム半径、wP:ポンプ光のビーム半径、rP:軸ズレの大きさ
【0029】
また、従来の誘導ラマン分光ガス分析装置では、2本の異なった空間光を同一光路上に調整するのは難しく、温度変動で光軸が変化し易いという問題点あった。また平行光ビームの光軸調整は難しく、耐環境性が弱い構造となってしまうという問題点があった。
【0030】
また高出力の光ビームを使用しても、平行光ビームではビーム径が広いので光パワー密度が小さく、発生する誘導ラマン信号強度は小さいという問題点があった。
【0031】
これらの要因により従来の誘導ラマン分光ガス分析装置では、誘導ラマン散乱光強度が微小信号であるので測定対象(たとえばガス)を高精度で測定することができなかった。
【0032】
本発明は上述の問題点を解決するものであり、その目的は、光軸調整が容易で耐環境性が向上した小型の誘導ラマン分光ガス分析装置でガス濃度分析の精度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0033】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
ポンプ光とプローブ光を測定対象に入射させ、誘導ラマン利得または損失スペクトルを測定する誘導ラマン分光ガス分析装置において、
前記ポンプ光と前記プローブ光とを合波してファイバから前記測定対象に出射するWDM光合波手段と、
前記WDM光合波手段から出射される前記合波光を集光して前記測定対象に入射させる第1の集光手段と、
前記透過光を集光して前記分光手段に入射させる第2の集光手段と、
前記測定対象を透過した透過光からポンプ光を除去する分光手段と、
前記分光手段から出射されるポンプ光が除去された前記透過光の強度を測定し前記測定対象を分析する分析部と、
を備えたことを特徴とする誘導ラマン分光ガス分析装置。
【0034】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の誘導ラマン分光ガス分析装置において、
前記WDM光合波手段は、
前記ポンプ光が入射し前記ポンプ光を導光する第1の入力ファイバと、
前記プローブ光が入射し前記プローブ光を導光する第2の入力ファイバと、
一端が前記第1および第2の入力ファイバの前記各光の出射端と接続され、前記第1の入力ファイバにより導光された前記ポンプ光と前記第2の入力ファイバにより導光された前記プローブ光を合波し、この合波光を他端から出力する前記出力ファイバと、を備えたことを特徴とする。
【0035】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の誘導ラマン分光ガス分析装置において、
前記WDM光合波手段は、
前記ポンプ光を平行光とする第1の平行光変換手段と、
前記プローブ光を平行光とする第2の平行光変換手段と、
前記第1の平行光変換手段により平行光となった前記ポンプ光と前記第2の平行光変換手段により平行光となった前記プローブ光を合波するダイクロイックミラーと、
前記ダイクロイックミラーにより合波された合波光を集光する第3の集光手段と、
前記集光レンズにより集光された合波光を導光して前記測定対象に出射する出力ファイバと、を備えたことを特徴とする。
【0036】
請求項4記載の発明は、請求項1または2記載の誘導ラマン分光ガス分析装置において、
前記WDM光合波手段は、
前記ポンプ光が入射し前記ポンプ光を導光する第1の入力ファイバと、
前記プローブ光が入射し前記プローブ光を導光する第2の入力ファイバと、
前記第1の入力ファイバからの前記ポンプ光を平行光とする第1の平行光変換手段と、
前記第2の入力ファイバからの前記プローブ光を平行光とする第2の平行光変換手段と、
前記第1の平行光変換手段により平行光となった前記ポンプ光と前記第2の平行光変換手段により平行光となった前記プローブ光を合波するダイクロイックミラーと、
前記ダイクロイックミラーにより合波された合波光を集光する第3の集光手段と、
前記集光レンズにより集光された合波光を導光して前記測定対象に出射する出力ファイバと、を備えたことを特徴とする。
【0037】
請求項5記載の発明は、請求項1または2記載の誘導ラマン分光ガス分析装置において、
前記WDM光合波手段は、
前記ポンプ光が入射し前記ポンプ光を導光する第1の入力ファイバと、
前記プローブ光が入射し前記プローブ光を導光する第2の入力ファイバと、
前記第1の入力ファイバからの前記ポンプ光と前記第2の入力ファイバからの前記プローブ光を平行光とする平行光変換手段と、
前記平行光変換手段により平行光となった前記ポンプ光と前記プローブ光を屈折させて合波させる光学素子と、
を備えたことを特徴とする。
【0038】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の誘導ラマン分光ガス分析装置において、
前記透過光を入射光として前記第1の集光手段に導光して前記測定対象に複数回照射させる周回透過部を備え、
前記周回透過部は、
前記WDM光合波手段から入射された合波光または前記透過光を前記第1の集光手段を介して前記測定対象に照射する第1の透過光周回手段と、前記透過光を入射光として前記周回照射手段に導光する導光手段と、前記第2の集光手段を介して入射された前記透過光を前記導光手段または前記光分岐手段に出射する第2の透過光周回手段と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、WDM光合波手段の出力ファイバコア端からポンプ光とプローブ光が出射されるため、光ビームの光軸角度ズレや位置ズレが無く、光軸調整が容易になる。
【0040】
また、本発明によれば、試料ガスセル内で光ビームがファイバコア径と集光手段(集光光学系)の像倍率で決定される集光ビーム径に集光されるため、光パワー密度が高くなり光路長を延ばさなくても誘導ラマン信号を大きくすることが可能となることにより、ガス濃度分析の精度を向上させることが可能になる点で有効である。
【0041】
また、本発明によれば、ポンプ光源として小型CW光源を使用することが出来るため、耐環境性が向上した小型の装置が可能となる点で有効である。
【0042】
また、本発明によれば、光源部分(ポンプ光源とプローブ光源)と試料ガスセル部分が、ファイバで分離されている構造になるため、光源部分のみを温度制御しやすくなり、耐環境性が向上する点で有効である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置の一実施例の構成である。
【図2】図1のWDM光合波手段の一実施例の構成図である。
【図3】図1のWDM光合波手段のその他の実施例の構成図である。
【図4】本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置が周回透過部を備える場合における実施例の構成図である。
【図5】図1の誘導ラマン分光ガス分析装置の他の実施例の構成図である。
【図6】図1の誘導ラマン分光ガス分析装置がポンプ光源を複数備えた実施例の構成図である。
【図7】図6のWDM光合波手段がAWG構造であるときの構成図である。
【図8】図6のWDM光合波手段が光分散プリズムを使用した空間光結合構造であるときの構成図である。
【図9】発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置の試料料ガスセルへのポンプ光とプローブ光の入射方向を対向型にした実施例の構成図である。
【図10】従来の誘導ラマン分光ガス分析装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明は、ポンプ光とプローブ光を測定対象(たとえばガス等)に入射させ、プローブ光の波長を変化させながら誘導ラマン利得または損失スペクトルを測定する誘導ラマン分光ガス分析装置に関し、特にWDM(Wavelength Division Multiplexing)合波手段がポンプ光とプローブ光とを合波してWDM合波手段の1本の出力ファイバから、この合波光を測定対象に集光出射し、分光手段が測定対象を透過した透過光からポンプ光を除去することを特徴とする誘導ラマン分光ガス分析装置に関する。
以下、図面を用いて本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置を説明する。
【0045】
<第1の実施例>
図1は、本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置の一実施例の構成図であり、図10と共通する部分には同一の符号を付けて適宜説明を省略する。
図10との相違点は、主に、ポンプ光とプローブ光とを合波して1本の光ファイバから合波光を測定対象に出射するWDM光合波手段と、WDM光合波手段のファイバ端から出射する合波光を測定対象中で集合する第1の集光手段と、測定対象を透過した透過光からポンプ光を除去する分光手段とを備えた点が相違する。
【0046】
(構成の説明)
図1において、本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置は主に、試料ガスセル25に含まれるガスのラマンシフトに対応する波長のプローブ光を発生するプローブ光源21、特定波長のポンプ光を発生するたとえば比較的低出力のCW(Continuous Wave)光源等のポンプ光源22、ポンプ光とプローブ光とを合波光としてファイバ出力するWDM光合波手段23、光合波器のファイバ端から出射する合波光を集光する集光レンズなどの光学素子からなる第1の集光手段24、セル内にガスなどの測定対象が注入(導入)・充填され、ポンプ光およびプローブ光の合波光が入射集光する試料ガスセル25から構成される。
【0047】
さらに、本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置は、試料ガスセル25を透過した合波光(以下、透過光という)を集光する集光レンズなどの光学素子からなる第2の集光手段26、第2の集光手段26を通過して集光された透過光からポンプ光を除去するラマンフィルタなどの分光手段27、分光手段27を介して入射されたプローブ光を電気信号(光強度信号)に変換する光検出手段28、光検出手段28からの電気信号(光強度信号)に基づき測定対象の成分(ガスの濃度)を解析する信号処理手段29からも構成される。
ここでWDM光合波手段23は主に、後述のとおり第1の入力ファイバである光ファイバ23aと、第2の入力ファイバである光ファイバ23bと、出力ファイバの一例であるファイバ23cから構成される。
【0048】
(接続・配置関係の説明)
本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置の各構成要素間の接続・配置関係について光の流れに基づき説明する。
【0049】
プローブ光源21から出射されるプローブ光は、光ファイバ23aの一端に入射する。光ファイバ23aにより導光されるプローブ光は、光ファイバ23aの他端と接続・連結されている光ファイバ23cの一端に入射する。
またポンプ光源22から出射されるポンプ光は、光ファイバ23bの一端に入射する。光ファイバ23bにより導光されるポンプ光は、光ファイバ23bの他端と接続・連結されている光ファイバ23cの一端に入射する。
【0050】
光ファイバ23cの一端に入射されたプローブ光およびポンプ光は合波され、この合波光が光ファイバ23cの他端から出射され第1の集光手段24に入射する。第1の集光手段24に入射された合波光は、第1の集光手段24により集光されて測定対象(試料ガスセル25の試料ガス)に出射される。
【0051】
合波光は、試料ガスセル25の試料ガス(測定対象)を透過して第2の集光手段26に入射される。試料ガスセル25を透過した。透過光は第2の集光手段26で集光されて分光手段27に入射し、ポンプ光が除去されて光検出手段28に入射する。
【0052】
光検出手段28と信号処理手段29とは信号線等により相互に接続されており、光検出手段28が検出した透過光からポンプ光が除去された誘導ラマン増幅されたプローブ光の光強度に比例した光強度信号を測定・検出して信号処理手段29に出力する。
【0053】
(主な構成要素の説明)
図1の本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置の各構成要素について以下具体的に説明する。プローブ光源21とポンプ光源22は、波長の異なる単一縦モードで発振する光源であり、ファイバ出力である。
【0054】
一般に、誘導ラマン分光ガス分析装置では、ポンプ光の波長に対して測定対象試料の分子のラマンシフト量だけ異なる波長に、誘導ラマン利得または損失が生じる。そこで、プローブ光の波長をこの波長帯域で変化させながら、測定対象である試料ガスを通過したプローブ光の強度を測定することにより、誘導ラマン利得または損失スペクトルを得ている。
【0055】
本発明においても、プローブ光源21およびポンプ光源22から出射されるプローブ光の波長とポンプ光の波長は、試料ガスセル内の試料ガスで決定されるラマンシフト量に対応する波長差だけ異なるものが出射される。
このため、本発明に係るプローブ光、ポンプ光は、ポンプ光波長が決まればプローブ光波長も一義的に決定され、ポンプ光波長とプローブ光波長の組み合わせは多岐に渡ることになる。
【0056】
たとえば水素ガスを振動ラマンで測定する場合は4155cm-1のラマンシフトで、回転ラマンで測定する場合は587cm-1のラマンシフトである。
また、単一縦モードで高出力の入手可能な小型ポンプ光源の波長としては、532nm、785nm、852nm、980nm、1064nm、1480nmなどが高出力光源の代表値として挙げられる。さらに、ポンプ光源の波長は、短波長の方がラマン光発生には有利であるが、特に波長には限定されるものではない。
【0057】
プローブ光源21とポンプ光源22は、単一縦モードで発振する光源として、DFB−LD(Distributed FeedBack Laser Diode:分布帰還型レーザダイオード)やDBR−LD(Distributed Bragg Reflector Laser Diode:分布ブラッグ反射型レーザ)、DPSSレーザ(Diode Pumping Solid Stateレーザ:LD励起固体レーザー)、外部共振器型光源、FBG−LD(Fiber Bragg Grating Laser Diode)などから構成されるものでもよい。またDFB−LD、DBR−LD,外部共振器型光源は波長可変することも可能である。
【0058】
WDM光合波手段23は、ポンプ光とプローブ光とを合波光としてファイバ出力するものであり、光ファイバで構成されたWDMカプラで構成されるものでよい。図2は図1のWDM光合波手段23の一実施例の構成図であり、図2においてWDM光合波手段23は、プローブ光が一端に入射される第1の入力ファイバである光ファイバ23aと、ポンプ光が一端に入射される第2の入力ファイバである光ファイバ23bと、光ファイバ23aと光ファイバ23bからの二つの光を合波する結合部と、合波された光を出射する出力ファイバである光ファイバ23cとから構成される。
【0059】
すなわちWDM光合波手段23では、光ファイバ23a、23bに入射した異なる波長のプローブ光とポンプ光は結合部で合波される。そしてプローブ光とポンプ光とが合波された合波光(異なる波長の光を含む光)は光ファイバ23cの他端から出射される。
【0060】
なお、図2のようなWDMカプラから成るWDM光合波手段23は、光通信で使用され、合分波の波長特性も製造時に臨機応変に対応変更可能である。
【0061】
第1の集光手段24は、WDM光合波手段23の出射端側に配置される集光レンズなどの光学素子でWDM光合波手段23からの出射光(合波光)を集光する。具体的には、第1の集光手段24は、WDM光合波手段23から出射され光ファイバ23cの開口数(NA)で広がる出射光を試料ガスセル25内で集光させる。
【0062】
試料ガスセル25は、測定対象である試料ガス(または各種流体)を外部から挿入できる図示しない流体入出力ポートを備える。また試料ガスセル25は、第1の集光手段24により集光された合波光を試料ガスセル25内の測定対象(試料ガス)に入射させる光の入力窓、試料ガスセル25内の測定対象(試料ガス)を透過して第2の集光手段26に出射させる光の出力窓も備える。これらの光の入出力窓には、ポンプ光とプローブ光の両波長帯で反射率が低下する反射防止膜が施されているのが望ましい。
また試料ガスセル25内で集光された光ビームは、試料ガスセル25外に広がりながら出射して、第2集光光学系に入射する。
【0063】
第2の集光手段26は、試料ガスセル25を介して入射する透過光を集光し、分光手段27を介して光検出手段28に入射させる。
【0064】
分光手段27は、(高出力な)ポンプ光を除去し、誘導ラマン増幅されたプローブ光のみを光検出手段28に入射させる。
なお、光分波手段27は、回折格子を使用した分光器や光分散プリズム、ラマンフィルタ、LPF(ロングパスフィルタ)やBPF(バンドパスフィルタ)などが使用される。またこれら異なる光分波手段を直列接続して使用するものでもよく、このように直列接続した方がポンプ光をよりよく除去できる。
【0065】
また、第2の集光手段26で集光された透過光を上述のような分光器や光分散プリズムなどの光検出手段27に入射させずに、複数の光ファイバで構成されるWDMカプラを介して光検出手段27に導光するものとしてもよい。
たとえば上述の図2で示したWDM光合波手段23を構成するWDMカプラと同等のWDMカプラを逆接続して光分波器として使用することもできる。具体的には、WDMカプラから成る分光手段27は、第2の集光手段26からの透過光をWDMカプラの入射端で入射し導光の途中でプローブ光とポンプ光とに分岐して、分岐されたプローブ光を光検出手段27に入射させるものでもよい。
【0066】
光検出手段28は、分光手段27により透過光からポンプ光が除去された誘導ラマン光を含んだプローブ光のみが入射され、このプローブ光の光強度に比例した光強度信号を測定・検出して信号処理手段29に出力する。
【0067】
信号処理手段29は、光検出手段28からの光強度信号のうち誘導ラマン光強度のみを抽出処理し、測定対象の成分(試料ガスの濃度)を算出する。
信号処理手段29は、単一縦モードで発振するプローブ光源またはポンプ光源からのプローブ光またはポンプ光の一方を波長掃引し、外部要因(温度や圧力)で変化する測定対象(試料ガス)のラマンシフト量やラマンスペクトル半値幅を測定してスペクトル解析することにより、ガス濃度以外に外部要因変動も測定可能とするものでもよい。
【0068】
(動作説明)
このような構成で本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置は、次の(1−1)〜(1−12)の動作を実行する。
【0069】
(1−1)プローブ光源21は、プローブ光を光ファイバ23aに出射する。
(1−2)光ファイバ23aは、プローブ光源21からのプローブ光を結合部に導光する。
(1−3)ポンプ光源22は、ポンプ光を光ファイバ23bに出射する。
【0070】
(1−4)光ファイバ23bは、ポンプ光源22からのポンプ光を結合部に導光する。
(1−5)プローブ光およびポンプ光は、結合部で合波され、光ファイバ23cに導光される。
(1−6)光ファイバ23cは、この合波光を導光して光ファイバ23cの他端から第1の集光手段24に出射する。
【0071】
(1−7)第1の集光手段24は、入射された合波光を集光して測定対象(試料ガスセル25の試料ガス)に出射する。
(1−8)合波光は、試料ガスセル25の試料ガス(測定対象)を透過して第2の集光手段26に入射される。いいかえれば第2の集光手段26には試料ガスセル25の試料ガス(測定対象)を透過した透過光が入射する。
(1−9)第2の集光手段26は、この透過光を集光して分光手段27に出射する。
【0072】
(1−10)分光手段27は、第2の集光手段26からの透過光からポンプ光を除去し、光検出手段28に出射する。
(1−11)光検出手段28は、透過光からポンプ光が除去された誘導ラマン増幅されたプローブ光の光強度を測定・検出して、プローブ光の光強度を示す光強度信号を信号処理手段29に出力する。
(1−12)信号処理手段29は、光検出手段28からの光強度信号に基づいて測定対象の成分(ガスの濃度)を解析する。
【0073】
この結果、本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置は上述の構成とすることによって、WDM光合波手段の出力ファイバコア端から出射されるため、光軸角度ズレや位置ズレが無く、光軸調整が容易になる点で有効である。
【0074】
また、本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置は上述の構成とすることによって、試料ガスセル内で光ビームがファイバコア径と集光手段(集光光学系)の像倍率で決定される集光ビーム径に集光されるため、光パワー密度が高くなり光路長を延ばさなくても誘導ラマン信号を大きくすることが可能となることにより、ガス濃度分析の精度を向上させることが可能になる点で有効である。
【0075】
また、本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置は上述の構成とすることによって、ポンプ光源として小型のCW光源を使用することが出来るため、耐環境性が向上した小型の装置が可能となる点で有効である。
【0076】
また、本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置は上述の構成とすることによって、光源部分(ポンプ光源とプローブ光源)と試料ガスセル部分が、ファイバで分離されている構造になるため、光源部分のみを温度制御しやすくなり、耐環境性が向上する点で有効である。
【0077】
なお、本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置は、第2の集光手段26は、この透過光を集光して分光手段27に出射すると説明したが、特にこれに限定するものではなく、第2の集光手段で集光した光ビームを光検出手段に直接入射させないで光ファイバを介して入射するものでもよく、このような構成であれば、試料ガスセル部分と光検出器部を分離した構造になるため、光源部分のみを温度制御するのと同様に光検出器部を温度制御しやすくなり、耐環境性が向上する点で有効である。
【0078】
また、本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置は、単一縦モードで発振するプローブ光源またはポンプ光源からのプローブ光またはポンプ光の一方を波長掃引する波長掃引手段を備えるものでもよく、このような構成であれば、外部要因(温度や圧力)で変化する測定対象(試料ガス)のラマンシフト量やラマンスペクトル半値幅を測定してスペクトル解析することにより、ガス濃度以外に外部要因変動も測定可能となる点で有効である。
【0079】
また、本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置は、試料ガスセル内でのポンプ光とプローブ光の光ビーム偏波面を合わせるために、各光源とWDM光合波手段の各入力端の間に偏波コントローラが接続されているものでもよい。また偏波コントローラは絶対必要部品ではなく、ポンプ光源とプローブ光源の出力ファイバおよびWDM光カプラの入出力ファイバが偏波保持ファイバで構成されていれば、偏波コントローラが接続されている必要もない。
【0080】
<第2の実施例>
また、本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置では、WDM光合波手段23は、上述第1の実施例の構成に限定するものではなく、ポンプ光とプローブ光をダイクロイックミラーにより合波させるものでもよい。
以下、この構成を図3を用いて説明する。
【0081】
図3は図1のWDM光合波手段のその他の実施例の構成図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けて適宜説明を省略する。図3において、WDM光合波手段は、ポンプ光が入射しポンプ光を導光する第1の入力ファイバである光ファイバ23aと、プローブ光が入射しプローブ光を導光する第2の入力ファイバである光ファイバ23bと、第1の入力ファイバからのポンプ光を平行光とするレンズなどの光学素子である第1の平行光変換手段と、第2の入力ファイバからのプローブ光を平行光とするレンズなどの光学素子である第2の平行光変換手段と、第1の平行光変換手段により平行光となったポンプ光と第2の平行光変換手段により平行光となったプローブ光を合波するダイクロイックミラー23dと、ダイクロイックミラー23dにより合波された合波光を集光するレンズなどの光学素子である集光手段と、集光レンズにより集光された合波光を導光して測定対象に出射する出力ファイバとを備える。
【0082】
このような構成で本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置は、次の(2―1)〜(2−8)の動作を実行する。
(2−1)プローブ光源21は、プローブ光を光ファイバ23aに出射する。
(2−2)光ファイバ23aは、プローブ光源21からのプローブ光を導光して第1の平行光変換手段に出射する。
(2−3)第1の平行光変換手段は、プローブ光を平行光としてダイクロイックミラー23dに照射する。
【0083】
(2−4)一方、ポンプ光源22はポンプ光を光ファイバ23bに出射する。
(2−5)光ファイバ23bは、ポンプ光源22からのポンプ光を導光して第2の平行光変換手段に出射する。
(2−6)第2の平行光変換手段は、プローブ光を平行光としてダイクロイックミラー23dに照射する。
(2−7)ダイクロイックミラー23dは、第1の平行光変換手段により平行光となったポンプ光と第2の平行光変換手段により平行光となったプローブ光を合波する。
(2−8)この合波光はダイクロイックミラー23dを介して第3の集光手段に入射する。第3の集光手段は合波光を集光して光ファイバ23cに出射する。
なお、これ以降の動作は上述(1−8)〜(1−12)と同様であるので省略する。
【0084】
このような構成にすることにより、本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置のWDM光合波手段は、WDM光合波手段の出力ファイバコア端から出射されるため、光軸角度ズレや位置ズレが無く、光軸調整が容易になることにより、ガス濃度分析の精度を向上させることが可能になる点で有効である。
【0085】
なお、本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置は、上述の説明で示した構成に限るものではなく、第1、第2の入力ファイバを介さずに、直接レーザ光源がポンプ光とプローブ光それぞれ第1の平行光変換手段と第2の平行光変換手段に出射するものであってもよい。
【0086】
<第3の実施例>
また本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置は、試料ガスセル25を透過した透過光を再び入射光として第1の集光手段に導光して測定対象に複数回照射させる周回透過部を備えるものでもよい。たとえば、誘導ラマン分光ガス分析装置は、WDM光合波手段から入射された合波光または試料ガスセル25を透過した透過光を再び第1の集光手段を介して測定対象に照射する第1の透過光周回手段と、透過光を再び入射光として周回照射手段に導光する導光手段と、第2の集光手段を介して入射された透過光を導光手段または光分岐手段に出射する第2の透過光周回手段とを備えた周回透過部を具備するものでもよい。
以下、この構成を図4を用いて説明する。
【0087】
図4は本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置が周回透過部を備える場合における実施例の構成図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けて適宜説明を省略する。図4において、本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置は主に、図示しないプローブ光源21、ポンプ光源22、WDM光合波手段23、周回透過部50から出射された透過光からポンプ光を除去するラマンフィルタなどの分光手段27、光検出手段28、信号処理手段29および、図4中の試料ガスセル25を透過した透過光を再び入射光として第1の集光手段に導光して測定対象に複数回照射させる周回透過部50、試料ガスセル25とから構成される。
【0088】
ここで周回透過部50は主に、複数の光ファイバ51a〜dが並列に設けられたファイバアレイ51と、ファイバアレイ51からの出射光を集光する集光レンズなどの光学素子からなる第3の集光手段52と、透過光を集光する集光レンズなどの光学素子からなる第4の集光手段53と、複数の光ファイバ54a〜dが並列に設けられたファイバアレイ54と、ファイバアレイ54に設けられた光ファイバ54a〜cとファイバアレイ51に設けられた光ファイバ51b〜dとを相互に連結させる複数の導光手段55a〜cから構成される。
【0089】
第3の集光手段52は、焦点距離fのレンズ等の光学手段であり、試料ガスセル25の合波光の入力側であって焦点距離2fの位置に配置される。また、第4の集光手段53は、焦点距離fのレンズ等の光学手段であり、試料ガスセル25の透過光の出力側であって焦点距離2fの位置に配置される。
すなわち第3の集光手段52と第4の集光手段53は、試料ガスセル25を中心として2fの位置に配置されることになる。また第3の集光手段52と第4の集光手段53から2fの位置にファイバアレイ51a〜dとファイバアレイ54a〜dの入出力端面が配置される。
【0090】
このような構成で本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置は、次の(3―1)〜(3−8)の動作を実行する。なおポンプ光とプローブ光の合波については前記(1−1)〜(1−5)の動作と同様であるため省略する。
(3−1)WDM光合波手段は、(必要であれば図示しない光ファイバなどの導光ファイバを介して)合波光を光ファイバ51aの一端に入射させる。
【0091】
(3−2)
ファイバアレイ51の光ファイバ51aは、他端から第3の集光手段52に合波光を出射する。第3の集光手段52は合波光を集光して試料ガスセルに照射する。この試料ガスセルからの透過光は第4の集光手段53に入射される。第4の集光手段53は透過光を集光してファイバアレイ54の光ファイバ54dの一端に入射させる。光ファイバ54dは、他端から導光手段55aに透過光を出力する。導光手段55aは透過光を導光してファイバアレイ51の光ファイバ51bの一端に入射させる。
【0092】
(3−3)
ファイバアレイ51の光ファイバ51bは、他端から第3の集光手段52に合波光を出射する。第3の集光手段52は合波光を集光して試料ガスセルに照射する。この試料ガスセルからの透過光は第4の集光手段53に入射される。第4の集光手段53は透過光を集光してファイバアレイ54の光ファイバ54cの一端に入射させる。光ファイバ54cは、他端から導光手段55bに透過光を出力する。導光手段55bは透過光を導光してファイバアレイ51の光ファイバ51cの一端に入射させる。
【0093】
(3−4)
ファイバアレイ51の光ファイバ51cは、他端から第3の集光手段52に合波光を出射する。第3の集光手段52は合波光を集光して試料ガスセルに照射する。この試料ガスセルからの透過光は第4の集光手段53に入射される。第4の集光手段53は透過光を集光してファイバアレイ54の光ファイバ54bの一端に入射させる。光ファイバ54bは、他端から導光手段55cに透過光を出力する。導光手段55cは透過光を導光してファイバアレイ51の光ファイバ51dの一端に入射させる。
【0094】
(3−5)
ファイバアレイ51の光ファイバ51dは、他端から第3の集光手段52に合波光を出射する。第3の集光手段52は合波光を集光して試料ガスセルに照射する。この試料ガスセルからの透過光は第4の集光手段53に入射される。第4の集光手段53は透過光を集光してファイバアレイ54の光ファイバ54aの一端に入射させる。光ファイバ54aは、他端から(必要であれば図示しない光ファイバなどの導光ファイバを介して)透過光を分光手段27に透過光を出力する。
なお、これ以降の動作は上述(1−10)〜(1−12)と同様であるので省略する。
【0095】
いいかえれば、WDM光合波手段からの合波光がファイバアレイ51の光ファイバ51aに入力すると、ファイバアレイの光ファイバ51aの他端から出射した光ビームは第3の集光手段で試料ガスセル内に集光し、透過光を第4の集光手段でファイバアレイ54の光ファイバ54dの一端に回転対称で集光することになる。
【0096】
また光ファイバ54dに入射した透過光を光ファイバ51bに入射させると、光ファイバ51bの他端からの出射光は前述と同様に回転対称で光ファイバ54cの一端に集光する。同様に回転対称が繰り返され、最終的にファイバアレイ54aの一端に入力した透過光が出力光となる。
【0097】
そしてファイバアレイ54からの出力光は、分光手段に入力され、ポンプ光を除去されたのち、光検出手段に入力してラマン信号強度が測定される。
【0098】
この結果、本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置は、上述の構成とすることにより、4列のファイバアレイを使用し、試料ガスセル内で4回集光されるので1回の透過光に比較して、約4倍のラマン光強度が得られるため、ガス濃度分析の精度を向上させることが可能になる点で有効である。
また、像倍率が1の光学系であるので、試料ガスセル内で集光される光ビーム径は、ファイバアレイのコア径と等しくなり、集光されたビームの光パワー密度を高くすることができるため、ガス濃度分析の精度を向上させることが可能になる点で有効である。
なお、像倍率1の光学系である必要はないが、集光されたビームの光パワー密度を高くするには、像倍率が小さい方が良い。
【0099】
また、本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置は、ファイバアレイ51とファイバアレイ54の接続方法は上述で説明したものに限るものではなく、その他接続方法でも良い。
【0100】
また、本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置は、誘導ラマン光強度をより精度良く測定するためには、従来技術でも使用されている光チョッピング手段をポンプ光源出力に追加接続し、ロックインアンプを光検出器出力に追加接続した構成が望ましい。プローブ光としての背景光成分が除去され、誘導ラマン光成分のみが精度良く検出される。
【0101】
<第4の実施例>
また本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置は、誘導回転ラマン分光するために、第1集光光学系の前または後に偏光子と1/4波長板(QWP:quarter-wave plate)を挿入するものでもよい。
図5は、図1の誘導ラマン分光ガス分析装置の他の実施例の構成図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けて適宜説明を省略する。図5において第1の集光手段の前(または後)に偏光子60と1/4波長板61が配置される。図5の誘導ラマン分光ガス分析装置では、偏光子60の偏波軸に対して1/4波長板61の軸を45度回転させると、試料ガスセル23に入射する光ビームの偏波は円偏波となる。
なお、第1集光手段を平行光用レンズと集光用レンズに分けて、平行光領域に偏光子60と1/4波長板61を配置しても良い。
【0102】
<第5の実施例>
また本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置は、ポンプ光源を複数備えるものでもよい。図6は図1の誘導ラマン分光ガス分析装置がポンプ光源を複数備えた実施例の構成図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けて適宜説明を省略する。
【0103】
図6において、本発明の誘導ラマン分光ガス分析装置は、波長の異なるポンプ光源22とポンプ光源70およびプローブ光源21を備え、これらの光源からのポンプ光またはプローブ光が光ファイバなどの導光手段を介して、WDM光合波手段の出力ファイバの1つの出射端から異なる波長を含む合波光を出射する。このような構成の場合には、ポンプ光源はどちらか一方の光のみを出力し、同時には出力しない。
【0104】
なお、上述の構成である場合には、図6のWDM光合波手段は、AWG(American Wire Gauge)構造、光分散プリズムを使用した空間光結合構造からなるものでもよい。図7は図6のWDM光合波手段がAWG構造であるときの構成図や図8は図6のWDM光合波手段が光分散プリズムを使用した空間光結合構造であるときの構成図である。
【0105】
また、WDM光合波手段は、その他の光学素子としては、回折格子などを用いるものでもよい。なお図8のポンプ光、プローブ光が入力されるファイバ側(光源側)はファイバアレイ構造が望ましい。
【0106】
ここで、図1の誘導ラマン分光ガス分析装置のポンプ光源1台とプローブ光源1台の構成では、誘導ラマンは一種類の試料ガスを測定するだけである。プローブ光源またはポンプ光源の波長を可変させれば、ラマンシフト量が近い異なる試料ガスも測定可能になる場合もあるが、広い波長範囲を可変させると、WDM光合波器や光分波器の光学特性が悪くなり、誘導ラマン信号強度の低下やポンプ光除去が不十分になることがありうる。
【0107】
これに対して図6の誘導ラマン分光ガス分析装置の構造では、波長の異なるポンプ光源22とポンプ光源70を接続しているため、異なる2種類の試料ガスを測定することが可能となる点で有効である。波長の異なるポンプ光源をより多く接続することで、試料ガス数を増やすことができる。例えば、プローブ光源の波長を1270nmにすると、ポンプ光源の波長が831.3nmでH2ガス、980nmでN2ガス、1060.6nmでO2ガスに対応することが可能になり、3種類のガスの誘導ラマン信号が得られる。
【0108】
<第6の実施例>
また本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置は、試料料ガスセルへのポンプ光とプローブ光の入射方向を対向型とするものでもよい。
図9は、本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置の試料料ガスセルへのポンプ光とプローブ光の入射方向を対向型にした実施例の構成図であり、図1と共通する部分には同一の符号を付けて適宜説明を省略する。
【0109】
図9において、試料料ガスセルへのポンプ光とプローブ光の入射方向を対向型とする構成では、ポンプ光とプローブ光が同一コア端からは出射しなくなるが、プローブ光源からのファイバ出射光をWDMカプラのファイバ端に結合すれば、必然的にポンプ光の光軸とプローブ光の光軸が一致する。そのため、入射方向を対向型にしても光軸調整は容易である。
【0110】
この結果、本実施例では、ポンプ光とプローブ光の進行方向が反対になるので、光検出器にはポンプ光が入射し難い構成であり、光分波器の性能が若干低くても良い利点がある。
【0111】
また本発明に係る誘導ラマン分光ガス分析装置では、WDM光合波手段の出力ファイバコア端から出射されるため、光軸角度ズレや位置ズレが無く、光軸調整が容易になる導ラマン分光ガス分析装置が実現できる。
【符号の説明】
【0112】
21 プローブ光源
22、70 ポンプ光源
23 WDM光合波手段
23a、23b、23c 光ファイバ
23d、71、72 ダイクロイックミラー
24 第1の集光手段
25 試料ガスセル
26 第2の集光手段
27 分光手段
28 光検出手段
29 信号処理手段
50 周回透過部
51、54 ファイバアレイ
51a、b、c、d 光ファイバ
54a、b、c、d 光ファイバ
52 第3の集光手段
53 第4の集光手段
55a、b、c 導光手段
60 偏光子
61 1/4波長板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ光とプローブ光を測定対象に入射させ、誘導ラマン利得または損失スペクトルを測定する誘導ラマン分光誘導ラマン分光ガス分析装置において、
前記ポンプ光と前記プローブ光とを合波してファイバから前記測定対象に出射するWDM光合波手段と、
前記WDM光合波手段から出射される前記合波光を集光して前記測定対象に入射させる第1の集光手段と、
前記測定対象を透過した透過光を集光して前記分光手段に入射させる第2の集光手段と、
前記透過光からポンプ光を除去する分光手段と、
前記分光手段から出射されるポンプ光が除去された前記透過光の強度を測定し前記測定対象を分析する分析部と、
を備えたことを特徴とする誘導ラマン分光ガス分析装置。
【請求項2】
前記WDM光合波手段は、
前記ポンプ光が入射し前記ポンプ光を導光する第1の入力ファイバと、
前記プローブ光が入射し前記プローブ光を導光する第2の入力ファイバと、
一端が前記第1および第2の入力ファイバの前記各光の出射端と接続され、前記第1の入力ファイバにより導光された前記ポンプ光と前記第2の入力ファイバにより導光された前記プローブ光を合波し、この合波光を他端から出力する前記出力ファイバと、を備えたことを特徴とする請求項1記載の誘導ラマン分光ガス分析装置。
【請求項3】
前記WDM光合波手段は、
前記ポンプ光を平行光とする第1の平行光変換手段と、
前記プローブ光を平行光とする第2の平行光変換手段と、
前記第1の平行光変換手段により平行光となった前記ポンプ光と前記第2の平行光変換手段により平行光となった前記プローブ光を合波するダイクロイックミラーと、
前記ダイクロイックミラーにより合波された合波光を集光する第3の集光手段と、
前記集光レンズにより集光された合波光を導光して前記測定対象に出射する出力ファイバと、を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の誘導ラマン分光ガス分析装置。
【請求項4】
前記WDM光合波手段は、
前記ポンプ光が入射し前記ポンプ光を導光する第1の入力ファイバと、
前記プローブ光が入射し前記プローブ光を導光する第2の入力ファイバと、
前記第1の入力ファイバからの前記ポンプ光を平行光とする第1の平行光変換手段と、
前記第2の入力ファイバからの前記プローブ光を平行光とする第2の平行光変換手段と、
前記第1の平行光変換手段により平行光となった前記ポンプ光と前記第2の平行光変換手段により平行光となった前記プローブ光を合波するダイクロイックミラーと、
前記ダイクロイックミラーにより合波された合波光を集光する第3の集光手段と、
前記集光レンズにより集光された合波光を導光して前記測定対象に出射する出力ファイバと、を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の誘導ラマン分光ガス分析装置。
【請求項5】
前記WDM光合波手段は、
前記ポンプ光が入射し前記ポンプ光を導光する第1の入力ファイバと、
前記プローブ光が入射し前記プローブ光を導光する第2の入力ファイバと、
前記第1の入力ファイバからの前記ポンプ光と前記第2の入力ファイバからの前記プローブ光を平行光とする平行光変換手段と、
前記平行光変換手段により平行光となった前記ポンプ光と前記プローブ光を屈折させて合波させる光学素子と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2記載の誘導ラマン分光ガス分析装置。
【請求項6】
前記透過光を入射光として前記第1の集光手段に導光して前記測定対象に複数回照射させる周回透過部を備え、
前記周回透過部は、
前記WDM光合波手段から入射された合波光または前記透過光を前記第1の集光手段を介して前記測定対象に照射する第1の透過光周回手段と、前記透過光を入射光として前記周回照射手段に導光する導光手段と、前記第2の集光手段を介して入射された前記透過光を前記導光手段または前記光分岐手段に出射する第2の透過光周回手段と、を具備することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の誘導ラマン分光ガス分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−106990(P2011−106990A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262944(P2009−262944)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】