説明

誘導加熱による加温方法及び加温装置

【課題】 少ない電気で、効率良く加温可能な、加温方法と加温装置を提供すること。
【解決手段】 誘導加熱コイルに交流電流を流し、誘導加熱によって発熱体を発熱させ、この熱を送風機で植物栽培ハウス内又は乾燥室内等に送ってそれら内部を加温する。誘導加熱コイルと、この誘導加熱コイルと電磁誘導結合されて発熱する発熱体と、発熱体からの発熱を送り出す送風機で誘導加熱による加温装置を実現する。発熱体はその基材に二以上の発熱板を取り付けて構成する。誘導加熱コイルに供給される電流量を調整可能な電流調整部と、加温箇所の温度を検知する温度検知器と、前記温度検知器で検知された環境温度と設定温度に基づいて前記電流調整部を制御可能な制御部を設けて、誘導加熱コイルに流れる電流を調整することで、発熱体の発熱量を自動制御可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、誘導加熱による加温に関するものであり、植物の栽培や物品の乾燥において、それら植物や物品等の周辺温度(環境温度)を上昇させるための方法及びこれに使用される装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビニールハウスといった農業用ハウス(以下「ハウス」という。)で植物栽培をする場合、ハウス内(植物栽培環境)を加温することがあり、その加温装置として暖房用ボイラーや電気ヒーターを熱源とする各種加温設備が一般的に使用されている。具体的には、ボイラーや電気ヒーターによって発生した熱をハウス内に送風することで、ハウス内を昇温させている。煙草の葉、茶葉、穀物類などの農産品を乾燥させる乾燥設備の場合、乾燥設備内を昇温させるための熱源としてボイラーや電気ヒーターが使用されている。
化石燃料を使用するボイラーにあっては、地球温暖化の一因とされる温室効果ガスのひとつであるCO2の発生量が高く、そのうえ化石燃料価格に左右されるため稼動コストが一定しないという問題があった。電気ヒーター式加温機は発熱効率が悪いため電力消費量が多く生産者にとっては経済的負担が大きい。
【0003】
特許文献1では省エネルギーを図るために夜間電力を活用することが提案され、特許文献2や特許文献3では化石燃料を用いずに空気を加温して温風を発生させることが提案されているが、いずれの場合も液体や空気を直接電気で加温するヒーター式であるため、発熱効率は従来のものから改善されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−319089号公報
【特許文献2】特開2007−292431号公報
【特許文献3】特開2005−333840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記問題点に鑑み、本願発明は、省エネルギーや環境問題に資するとともに、ハウス内や乾燥設備内等を効率良く加温することが可能な誘導加熱による加温方法及び加温装置(暖房機器を含む)を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明の誘導加熱による加温方法は、誘導加熱コイルに交流電流を流し、誘導加熱によって発熱体を発熱させ、この熱を送風機で加温箇所に送って、加温箇所を加温する方法である。この場合、加温箇所を植物栽培ハウス内又は乾燥室内とすることもできる。
【0007】
本願発明の誘導加熱による加温装置は、誘導加熱コイルと、この誘導加熱コイルと電磁誘導結合されて発熱する発熱体と、発熱体からの発熱を送り出す送風機を備えたものである。
【0008】
本願発明の誘導加熱による加温装置は、その発熱体を近傍に配置される基材に二以上の発熱板が取り付けられたものとすることもできる。
【0009】
本願発明の誘導加熱による加温装置は、誘導加熱コイルに供給される電流量を調整可能な電流調整部と、加温箇所の温度を検知する温度検知器と、前記温度検知器で検知された環境温度と設定温度に基づいて前記電流調整部を制御可能な制御部を設けて、誘導加熱コイルに流れる電流を調整することで、発熱体の発熱量の自動制御を可能にすることもできる。
【発明の効果】
【0010】
本願発明の誘導加熱による加温方法は、以下のような効果を奏する。
(1)発熱効率が良いため、省エネ、省コストを実現できる。
(2)化石燃料を使用しないのでCO2といった地球温暖化ガスが排出されず、環境にやさしい加温ができる。
(3)ボイラーを使用する場合のような騒音がほとんど発生せず、植物栽培、穀物乾燥などの作業環境が改善される。
【0011】
本願発明の誘導加熱による加温装置は、以下のような効果を奏する。
(1)ボイラーに比して小型化できるので、運搬、設置等が容易であり、設置のために広いスペースを必要とせず、排気ガスも騒音も発生しない。
(2)構成が簡潔であるため製作が容易で故障しにくく、メンテナンスが容易である。
(3)発熱体の発熱板の表面積を大きくすることにより発熱面積を大きくすることができるので、発熱効率の向上を容易に実現できる。
(4)発熱体の発熱板の形状を、らせん状、波型形状、屈折形状等として、発熱板付近を通過する空気(気体)の通過抵抗を大きくすれば気体の熱交換効率が向上し、発熱を効率良く利用できる。
(5)送風路を備えているので、送風路に風を送ることにより、発熱体から発生した熱を所望個所、例えば、ハウス内や乾燥室内等に効率よく送り出すことができる。
(6)温度制御機能を備えているので、植物栽培や穀物乾燥などに好適な温度制御ができ、消費電力の無駄もない。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(a)は本願発明の加温装置の構造図、(b)は加温装置の内部構造の一例を示す概略図。
【図2】本願発明の加温装置における発熱体の一例を示すもので、(a)は断面図、(b)は側面図。
【図3】発熱体の発熱板の一部を曲折させた例を示す正面図。
【図4】本願発明の誘導加熱による加温装置を乾燥室、加温室等に連結した例を示す説明図。
【図5】(a)は本願発明の誘導加熱による加温装置に排熱口を取り付けた例を示す説明図、(b)は排熱口を首振りした場合の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施形態1)
本願発明の誘導加熱による加温方法及び加温装置の一実施形態を図に基づいて説明する。
【0014】
図1に示す加温装置1は、断熱性と絶縁性を備えたパイプ状の送風路3の外側に配置された誘導加熱コイル2と、前記送風路3の内側に配置された発熱体4と、前記送風路3の軸方向一端の外側に配置された送風機5と、誘導加熱コイル2に電源供給する交流電源部6を備えている。
【0015】
誘導加熱コイル2は交流電源部6から供給される交流電流が流れるものであり、その巻き径、巻き数は、巻きピッチ、線径等は用途に応じて選定される。
【0016】
交流電源部6は誘導加熱コイル2に交流を供給するものであり、発熱体4との間で誘導加熱できる交流(高周波)であればよく、一例としては汎用のIH電源を使用することができる。具体的には、例えば、三相の200V、単相の100V等とすることができる。その周波数も任意に選択でき、例えば、10KHz〜1MHz程度とすることもできる。
【0017】
前記送風路3は送風機5から送風される空気が通過して、送風路3内の発熱体4から発生する熱を外部に送出するものであり、その内径、長さ等は発熱体4の外径、その長さ、誘導加熱コイル2の内径、その長さ等に合わせて選定される。図1の送風路3は円筒形であるが、その形状は角筒、多角形筒といった他の形状であってもよい。送風路3は断熱材製として発熱体4から発生する熱が送風路3の外部に逃げにくくし、絶縁材製として誘導加熱コイル2と発熱体4との間で生じる誘導加熱に干渉しないようにしてある。断熱・絶縁材としては石綿、セラミックウール、その他の断熱材を使用することができる。送風路3はその内径を発熱体4の外径よりも大きくして発熱体4の間に隙間(通気路)が形成されるようにしてある。
【0018】
送風機5は送風路3内の熱をその外部に送り出すものであり、気体が通過できることができるものであればどのようなものでもよく、例えば、汎用の送風機(ファン)をはじめ他の機器を使用することができる。送る気体は空気でよいが、伝熱性に優れた他の気体(ガス)であってもよい。
【0019】
発熱体4は図2(a)に示すように円筒形の基材7の外周に、板状の発熱板8を多数枚(図では24枚)放射状に取り付けたものである。発熱板8は基材7の軸方向に沿って取り付けてある。発熱体4は送風路3の中に納まる程度の形状及び大きさである。発熱板8は、誘導加熱コイル2に交流電流を流したときに発生する磁力線によって渦電流が流れ発熱するものであり、そのため導電性と電気抵抗とを備えた材質によって形成され、より効率よく発熱するため磁性体であることが望ましく耐久性等も考えあわせればステンレス製が好適であるが、ステンレス製に限らず他の磁性体であってもよく、非磁性体であっても構わない。基材7の材質は発熱板8を溶接できるもの、例えば、鉄とか他の金属が望ましいが、溶接しにくいステンレスであっても取り付け構造によっては使用可能である。基材7の形状は円筒ではなく多角柱や任意断面の柱や、中実の棒状のものなど任意の形状とすることができる。
【0020】
発熱板8は基材7の軸線に平行に配置されているが、不規則に配置されてもよく、螺旋状にするなど他の状態に配置されてもよい。発熱板8は図2(a)に示すように基材7の周方向に均等間隔に配置するのではなく不均等の間隔で配置することもでき、放射状以外の配置にすることもできる。発熱板8は表面積が大きいほうが望ましいので、平板に限らず波板など他の形状にすることもできる。
【0021】
発熱板8を基材7に密に配置したり、螺旋状に配置したり、波板を使用したり、途中で曲折させたり湾曲させたりすることによって、送風機5から送風される空気は発熱板8で抵抗を受けて(通過抵抗が大きくなって)流通しにくくなる。すなわち、空気が送風路3内に留まる時間が長くなって発熱板8との間で熱交換する時間が長くなり、空気が十分に熱を吸収することができる。送風機から送られて発熱板8に当たる風の通過抵抗を大きくするためには、図3に示すように発熱板8の軸方向途中で折り曲げたり、湾曲させたりすることもできる。折り曲げ又は湾曲させる個所は一箇所でも二箇所以上でもよい。形状はその他の形状とすることができる。
【0022】
本実施形態では送風路3の外側に誘導加熱コイル2を、内側に発熱体4を配置してあるが、それらの配置は、誘導加熱コイル2と発熱体4の間に誘導加熱が生じる程度の離隔を設ければ、送風路3の中に誘導加熱コイル2を配置しパイプの外に発熱体4を配置するとか、送風路3の中に発熱体4及び誘導加熱コイル2を配置する等、任意の配置を選択することができる。
【0023】
送風機5は周辺の空気を送風路3内に送るものであり、本実施形態ではシロッコファンを採用しているが、プロペラ式やブロワ式など通常用いられている他の送風機を使用することもできる。
【0024】
(実施形態1の作用例)
誘導加熱コイル2に交流電源部6からAC電流を供給すると、誘導加熱コイル2に磁力線が発生する。誘導加熱コイル2に流れる電流は交流であるためその磁力線は強度及び向きが変化し、これによって発熱体4の発熱板8に渦電流が流れる。発熱板8には電気抵抗があるので、渦電流が流れることでジュール熱が発生する。送風機5により空気を送風路3内に送ると、発熱板8から発生している熱が送風路3の排気口から外部へ送り出される。この熱で送風路3の外部、例えば、ハウス内、乾燥設備内等が加温される。
【0025】
本願発明の誘導加熱による加温方法及び加温装置は、従来の電気ヒーター式加温機に比して遥かに熱効率が優れている。その検証を行った結果が表1である。
【表1】

【0026】
(実施形態2)
本願発明の誘導加熱による加温方法の他の実施形態を説明する。この実施形態は、本願発明を植物の栽培や乾燥設備内の乾燥に利用した場合を説明するための実施形態であって、加温装置1の基本的構造やその作用は実施形態1と共通する。
【0027】
畑や果樹園など農作物の作付け場所とか、ハウス内といった植物の栽培個所では、成長促進のために植物栽培地の環境温度を上げることがある。このハウス内に加温装置1を一又は二以上配置してハウス内温度を加温すればより効果的に栽培促進ができる。
【0028】
加温装置1は送風路3の出口から送出される熱風を直接、ハウス内に送るのではなく、送風路3の出口に送気管を連結し、この送気管をハウス内に配管し、その送気管の任意個所に設けた排出口からハウス内に熱風を送り出すこともできる。送気管は熱風をハウス内に送り込むことができるものであれば、塩ビ管、フレキシブル管、チューブなど、種々のものを使用することができる。送気管と送風路3の口径が異なる場合はレデューサを介して両者を接続してもよい。
【0029】
図4は、乾燥設備9に加温装置1を接続した状態を示す図である。この乾燥設備9は、例えば、煙草の葉や椎茸、漢方薬に使用される薬草、米、麦などの穀物、堆肥、鶏糞等の肥料、飼料用植物等々(以下、「被乾燥物」という。)を乾燥させる設備であり、加温装置1から乾燥設備9内に熱風を送りながら、乾燥設備9に設けた回転軸10を回転させて回転軸10に連結されている複数の羽根11を回転させ、乾燥設備9内で被乾燥物を攪拌しながら被乾燥物を乾燥できるようにしてある。
【0030】
(実施形態3)
本願発明の誘導加熱による加温装置の他の実施形態を説明する。この実施形態は、交流電源部6に電流調整機能を搭載した場合の実施形態であり、基本的構造やその作用は実施形態1乃至実施形態2と共通する。電流調整機能は、例えば、電流調整部のほかに、所定温度を入力し記憶する手段と、環境温度を測定する温度検知器と、制御部で構成することができる。
【0031】
(実施形態3の作用例)
例えば、ハウス内の温度を25℃に保ちたい場合について以下説明する。
まず、事前に入力手段を用いて25℃という数値(基準値)を入力して、記憶手段に記憶させる。また、環境温度を計測するための温度検知器を加温装置の吸気口付近に設けておく。この状態で、加温装置1を稼働させてハウス内を昇温させる。ハウス内の温度(検知温度)が25℃を超えると制御部において検知温度26℃と基準温度25℃を比較し判断して、電流調整部に調整指令信号を送る。電流調整部は前記指令信号を受けて誘導加熱コイル2に流れる電流を弱めるよう調整する。電流調整部にはインバータ機能を利用して、交流を一旦直流に変換して再度交流に戻し、直流に変換する際に電圧を調整することで電流調整部は誘導加熱コイル2に流れる電流を調整することができる。あるいは、直流から交流に戻す際に交流の周波数を調整することで誘導加熱コイル2に流れる電流を調整することもできる。いずれにしろ、誘導加熱コイル2に流れる電流を調整することにより、発熱板8で生じる発熱量を調整し、環境温度の上昇を緩和して設定温度(基準温度)25℃を保持することができる。検知温度が25℃に達しない場合(例えば24℃)のときは、制御部が検知温度24℃と設定温度25℃を比較して判断し、電流調整部に調整指令信号を送り、電流調整部は前記指令信号を受けて誘導加熱コイル2に流れる電流を多くして環境温度を設定温度25℃まで上昇させる。
【0032】
(実施形態4)
本願発明の誘導加熱による加温装置の他の実施形態を説明する。この実施形態は、送風路3の出口に送風管を取り付けた実施形態であって、基本的構造やその作用は実施形態1乃至実施形態3と共通する。
【0033】
図1の加温装置1では送風路3の排気口の向きが固定されているため、熱風が送りだされるのも一定方向に固定される。本実施形態では送風路3の排気口に屈曲管12を連結し、この屈曲管12を送風路3の軸周りに回転(首振り)可能としてあり、この首振りにより熱風を首振り方向に送り出すことができ、室内をむらなく温度上昇させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本願発明は、軽量で取付けも容易であることから、環境にやさしく効率的な加温を可能とするものであって、農業用、乾燥用の温風発生装置のみならず、例えば、工場、公共施設、住居等の室内の暖房装置としても利用でき、その他、加熱、乾燥、暖房の必要な各種分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0035】
1 加温装置
2 誘導加熱コイル
3 送風路
4 発熱体
5 送風機
6 交流電源部
7 基材
8 発熱板
9 乾燥設備
10 回転軸
11 羽根
12 屈曲管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱コイルに交流電流を流し、誘導加熱によって発熱体を発熱させ、この熱を送風機で加温箇所に送って、加温箇所を加温することを特徴とする誘導加熱による加温方法。
【請求項2】
請求項1記載の加温方法において、加温箇所が植物栽培ハウス内又は乾燥室内であることを特徴とする誘導加熱による加温方法。
【請求項3】
誘導加熱コイルと、この誘導加熱コイルと電磁誘導結合されて発熱する発熱体と、発熱体からの発熱を送り出す送風機を備えたことを特徴とする誘導加熱による加温装置。
【請求項4】
請求項3記載の誘導加熱による加温装置において、発熱体はその近傍に配置される基材に二以上の発熱板が取り付けられたものであることを特徴とする誘導加熱による加温装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4記載の誘導加熱による加温装置において、誘導加熱コイルに供給される電流量を調整可能な電流調整部と、加温箇所の温度を検知する温度検知器と、前記温度検知器で検知された環境温度と設定温度に基づいて前記電流調整部を制御可能な制御部を設けて、誘導加熱コイルに流れる電流を調整することで、発熱体の発熱量を自動制御可能としたことを特徴とする誘導加熱による加温装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−268772(P2010−268772A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125720(P2009−125720)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(393010352)株式会社サーフコート (1)
【出願人】(506296581)
【Fターム(参考)】