説明

誘導加熱コイルにおける放電防止用絶縁部材及びこれを用いた単結晶製造装置並びに単結晶製造方法

【課題】FZ法(フローティングゾーン法または浮遊帯溶融法)により大口径の単結晶を製造する場合であっても、誘導加熱コイルのスリットにおいて生じる放電を効果的に防止できる絶縁部材及び該絶縁部材がスリットに挿入された誘導加熱コイルを有し、高い単結晶化率で安定して高品質の単結晶を製造することのできる単結晶製造装置並びに該単結晶製造装置を用いた単結晶製造方法を提供する。
【解決手段】FZ法による単結晶製造装置に具備される誘導加熱コイル7の両コイル端部13を互いに分離するスリット14に挿入され、該スリット14において生じる放電を防止するための絶縁部材16であって、少なくとも、該絶縁部材16の、前記スリット14に挿入された際に前記コイル端部13と対向する表面上に、1以上の溝17が形成されたものであることを特徴とする絶縁部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料結晶棒を誘導加熱コイルで加熱溶融して浮遊帯域を形成し、浮遊帯域を相対的に移動する事で単結晶棒を育成するFZ法(フローティングゾーン法または浮遊帯溶融法ともいう)において、誘導加熱コイルの放電を防止するためにスリットに挿入する絶縁部材及びこの絶縁部材がスリットに挿入された誘導加熱コイルを有する単結晶製造装置並びにこれを用いた単結晶製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
FZ法による一般的な単結晶の製造方法としては、まず、原料結晶棒をチャンバー内に設置された上軸の上部保持具に保持する。一方、種結晶を原料結晶棒の下方に位置する下軸の下部保持具に保持する。
【0003】
次に、高周波発振機によって誘導加熱コイルに高周波電流を流し、これによって高周波磁界を発生させ、原料結晶棒の下端を自己発熱させることで溶融し種結晶に融着させる。その後、種絞りにより絞り部を形成して無転位化する。
そして、上軸と下軸を回転させながら原料結晶棒と単結晶棒を誘導加熱コイルに対して相対的に下降させることで浮遊帯域を原料結晶棒と単結晶棒の間に形成し、前記浮遊帯域を保持したまま原料結晶棒の上端まで移動させてゾーニングし、単結晶棒を成長させ、単結晶を製造する。
【0004】
なお、この単結晶成長は、Arガスに微量の窒素ガスを混合させた雰囲気中で行われ、また、N型FZ単結晶またはP型FZ単結晶を製造するために、ドープノズルにより、製造する導電型、抵抗率に応じた量のArベースのPH(ホスフィン)又はB(ジボラン)を流す。
【0005】
上記誘導加熱コイルとしては、銅または銀からなる単巻または複巻の冷却用の水を流通させた誘導加熱コイルが用いられており、例えば図3に示すものが知られている(特許文献1参照)。この誘導加熱コイル7は、スリット14を有するリング状のコイルで、コイル外周面11からコイル内周面15に向かって断面先細り状に形成されている。また、コイル外周面11には、コイル端部13に対応する位置に電源端子12が設けられている。この両端子12が接続されたコイル端部13の対向面を、スリット14を介して極力接近させるようにしており、これにより、誘導加熱コイル7の周方向における電流回路の対称性を維持し、ほぼ均一な磁界分布が得られるようにしている。
【0006】
このようなFZ法による単結晶製造では、原料結晶棒を狭小域において短時間に芯まで溶融する必要がある。そのため、両電源端子12間に高電圧を印加することにより、誘導加熱コイル7に高電流を発生させ、高周波磁界を発生させることによって原料結晶棒を溶融している。しかし、このように両電源端子12間に高電圧を印加すると、単結晶成長中に誘導加熱コイルのスリット14で放電が発生し、結晶の無転位化を阻害するという問題が生じていた。
【0007】
このような放電を防止する方法としては、炉内圧を更に高くする方法や窒素ガスを更に多く流す方法等が採用されていたが、これらの方法を用いた場合、育成中の単結晶の無転位化を阻害する恐れがあった。
【0008】
そこで、例えば図4に示すように、誘導加熱コイル7のスリット14に、絶縁部材116として耐熱性絶縁製のフラット構造体を可動的に挿入する方法が開示されている(特許文献2参照)。しかし、通常、誘導加熱コイル7は、図3に示すようにコイル外周面11からコイル内周面15に向かって断面先細り状に形成されている。図4(b)〜(d)に示すように火花連絡距離を上下共覆う場合、電源端子12側から絶縁部材116を挿入する事になるが、前述のようにコイル内周面15に向かって断面先細りになっているため、内周面側で絶縁部材116がコイル下面よりもはみ出す事になる。尚、図4(b)〜(d)は、図4(a)に示されている面ABにおける誘導加熱コイル7の断面図である。
【0009】
浮遊帯域は、単結晶径が小さい程、誘導加熱コイルの下面に近くなるが、内周面側で絶縁部材が誘導加熱コイルの下面よりも大きくはみ出すと、浮遊帯域に近づいた事による放電、若しくは浮遊帯域に接触する事による有転位化又は不純物汚染の問題が生じる。
【0010】
また、単結晶の大口径化に伴い、誘導加熱コイルの外径も大きくなってきており、このような誘導加熱コイルのスリットを覆う絶縁部材の長さも長くする必要があるが、そのためには電源端子を絶縁部材の長さよりも長くする必要があり、コイル強度の低下、またはチャンバー径を大きくする必要がある等という問題が生じる。このため、一般的には、コイル下面を覆う事なく、図2に示すようにコイル上方から絶縁部材116′をスリット14に差し込む事で放電を防止している。尚、図2(b)は、図2(a)に示されている面ABにおける誘導加熱コイル7の断面図である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公昭51−24964号公報
【特許文献2】特公昭63−10556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
誘導加熱コイルのスリット間での放電は、絶縁部材を挿入した場合、絶縁部材内部を絶縁破壊して起こるものではなく、電圧の高い片側のコイル端部から、絶縁部材表面に沿って電流が流れ、もう片方のコイル端部に到達する事によって起こる沿面放電である。従って絶縁部材の、誘導加熱コイルの下面からはみ出す長さが長い程、放電防止に効果がある。
しかし、誘導加熱コイルの下面には浮遊帯域が存在するため、誘導加熱コイルの下面から絶縁部材がはみ出す長さは、この浮遊帯域の位置によって制限される。
【0013】
近年、単結晶の大口径化の要求は益々強くなってきている。そのため、FZ法においても製造する単結晶の大口径化が進んでいる。ところが、FZ法により直径150mm以上、特には、直径200mm以上の大口径の単結晶を製造しようとする場合、スリット間電圧が高く、例えば直径200mmの単結晶の育成では、消費電力が160kWを超えるような高い電力が必要となる場合がある。このような場合に、図2に示すような従来の放電対策を採用しても、誘導加熱コイルの下面から絶縁部材がはみ出す長さを、スリット間での放電を防止できる程長くする事ができないため、放電がさけられず、高品質の単結晶を安定して製造することが出来なかった。
【0014】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたもので、FZ法により大口径の単結晶を製造する場合であっても、誘導加熱コイルのスリットにおいて生じる放電を効果的に防止できる絶縁部材及び該絶縁部材がスリットに挿入された誘導加熱コイルを有し、高い単結晶化率で安定して高品質の単結晶を製造することのできる単結晶製造装置並びに該単結晶製造装置を用いた単結晶製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明は、FZ法による単結晶製造装置に具備される誘導加熱コイルの両コイル端部を互いに分離するスリットに挿入され、該スリットにおいて生じる放電を防止するための絶縁部材であって、少なくとも、該絶縁部材の、前記スリットに挿入された際に前記コイル端部と対向する表面上に、1以上の溝が形成されたものであることを特徴とする絶縁部材を提供する。
【0016】
このようなものであれば、誘導加熱コイルのスリットにおいて生じる放電は沿面放電であるため、絶縁部材の表面に沿って流れる電流が、一方のコイル端部からもう一方のコイル端部に到達するまでの距離(以下、絶縁距離ということもある)を長くすることができ、これによって効果的に放電を防止することができる。
また、絶縁部材自体の長さを長くする必要もないため、絶縁部材が浮遊帯域に近づきすぎる事に起因する放電、若しくは浮遊帯域に接触する事による有転位化又は不純物汚染等も防止することができる。
さらに、従来までの絶縁部材に溝を設けるだけで良いため、容易に且つ安価に構成することができ、且つ上記のような効果を得ることができる。
【0017】
またこのとき、前記絶縁部材は、石英ガラスからなるものであることが好ましい。
【0018】
石英ガラスは絶縁性及び耐熱性に優れ、また純度の高いものを容易に入手することができるため、本発明の絶縁部材の材質として特に有効である。
【0019】
またこのとき、前記溝は、前記絶縁部材が前記スリットに挿入された際に前記コイル端部と対向する両表面上において、それぞれ異なる高さ位置に交互に形成されるか、または同じ高さ位置に形成されるか、もしくはどちらか片側の表面上のみに形成されるものとすることができる。
【0020】
このように溝を形成することにより、簡単な構成でより効果的に誘導加熱コイルのスリットにおいて生じる放電を防止することができる。また、スリット幅が狭く、両表面上に十分な大きさの溝を形成できない場合は、片側の表面上のみに形成することもでき、本発明の効果を得ることができる。
【0021】
また本発明は、FZ法による単結晶製造装置であって、本発明の絶縁部材がスリットに挿入された誘導加熱コイルを有するものであることを特徴とする単結晶製造装置を提供する。
また本発明は、FZ法による単結晶製造方法であって、本発明の単結晶製造装置を用いて単結晶を製造することを特徴とする単結晶製造方法を提供する。
【0022】
このような単結晶製造装置及び製造方法であれば、誘導加熱コイルのスリットにおける放電によって単結晶の無転位化を阻害されることなく、また絶縁物質が浮遊帯域に近づきすぎる事に起因する放電、若しくは浮遊帯域に接触する事による単結晶の有転位化又は不純物汚染を防止しながら、大口径且つ高品質の単結晶を安定して製造することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、誘導加熱コイルのスリットにおいて生じる放電を効果的に防止することができる。また、絶縁部材が、浮遊帯域に近づきすぎる事に起因する放電、若しくは浮遊帯域に接触する事による単結晶の有転位化又は不純物汚染も防止することができる。さらに、従来までの絶縁部材に溝を設けるだけで良いため、容易に且つ安価に構成して上記のような効果を得ることができる。
また、このような絶縁物質がスリットに挿入された誘導加熱コイルを有する単結晶製造装置によって単結晶を製造することにより、単結晶の有転位化や不純物汚染を防止しながら、大口径且つ高品質の単結晶を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の絶縁部材を誘導加熱コイルに挿入したときの概略平面図及び概略断面図の一例を示した図である。(a)は概略平面図、(b)〜(d)は概略断面図、(b’)は(b)の側面図を示している。
【図2】誘導加熱コイルの上面のみを覆う従来の絶縁部材の一例を示した図である。(a)は誘導加熱コイルに挿入したときの概略平面図、(b)は概略断面図を示している。
【図3】一般的な誘導加熱コイルの一例を示した概略斜視図である。
【図4】誘導加熱コイルの上面及び下面を覆う従来の絶縁部材の例を示した図である。(a)は誘導加熱コイルに挿入したときの概略平面図、(b)〜(d)は概略断面図を示している。
【図5】本発明の絶縁部材が適用可能なFZ法による単結晶製造装置の概略断面図の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
まず、図5に示したような、本発明が適用される、FZ法による単結晶製造装置30について説明する。
この単結晶製造装置30は、原料結晶棒1及び、下端に絞り部9が形成された単結晶棒2を収容するチャンバー20と、原料結晶棒1と単結晶棒2の間の浮遊帯域10を形成するための加熱源となる複巻誘導加熱コイル7と、複巻誘導加熱コイル7に電力を供給する高周波発振機と、原料結晶棒1を保持するための上部保持治具4と、原料結晶棒1を回転・移動させるための上軸3と、種結晶8を保持するための下部保持治具6と、種結晶8を回転・移動させるための下軸5と、を有するものである。
【0027】
ここで、前記誘導加熱コイル7は、図1に示したように、両コイル端部13を分離するスリット14に絶縁部材16が挿入されている。さらに、この絶縁部材16の、スリット14に挿入された際にコイル端部13と対向する表面上には、溝17が形成されている。この溝17が形成されることにより、絶縁部材16は碍子構造を有する。尚、ここで用いられる誘導加熱コイル7は、単巻または複巻のどちらであっても良い。また、少なくともコイル端部13と対向する表面に溝が形成されていればよく、さらにそれ以外の表面上にも溝が形成されていても良い。また、放電はコイル内周部に比べて外周部に発生しやすいため、溝は外周部のみに形成してもよい。
【0028】
この溝17の存在により、スリット14における沿面放電に対する絶縁距離を長くすることができ、これによって効果的に、また容易に且つ安価に放電を防止することができる。
また、絶縁部材自体の長さを長くする必要もないため、絶縁部材が浮遊帯域に近づきすぎる事に起因する放電、若しくは浮遊帯域に接触する事による有転位化又は不純物汚染も防止することができる。
【0029】
尚、ここで言う「碍子構造」とは、コロナ放電や火花放電等が発生するために必要な、導電体同士の間の適度な隙間(放電ギャップとも言う)に絶縁体が存在する場合、この絶縁体の表面に沿って電流が流れる沿面放電に対する絶縁距離を長くするために、絶縁体の表面に凹凸が設けられた構造のことを言う。
【0030】
ここで、前記絶縁部材16の材質としては、特には限定されないが、絶縁性及び耐熱性に優れ、また純度の高いものを容易に入手することができる等の利点があるため、石英ガラスを用いることが好ましい。
【0031】
また、前記溝17の構造としては、特には限定されないが、例えば前記絶縁部材16の、コイル端部13に対向する両表面上において、図1(b)に示したように、それぞれ異なる高さ位置に交互に形成されたものとするか、または図1(c)に示したように、同じ高さ位置に形成されたものとすることができる。また、スリット14の幅が狭く、両表面上に十分な大きさの溝17を形成できない場合であっても、図1(d)に示したように、どちらか片側の表面上のみに溝17を形成することができる。尚、図1(b)〜(d)は、図1(a)に示されている面ABにおける誘導加熱コイル7の断面図である。
【0032】
さらに、溝17の形状や数についても特には限定されず、図1(b)〜(d)に示したような、断面角形状であって、両表面上にそれぞれ同数形成されるもののみならず、断面半円、三角形状等であっても良いし、また両表面上でそれぞれ異なった形状及び数にしても良い。
【0033】
以下に、上記のような本発明の単結晶製造装置を用いた単結晶製造方法の一例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
先ず、シリコン原料結晶棒1の溶融を開始する部分をコーン形状に加工し、加工歪みを除去するために表面のエッチングを行う。その後、図5に示すFZ法による単結晶製造装置30のチャンバー20内にシリコン原料結晶棒1を収容し、チャンバー20内に設置された上軸3の上部保持治具4にネジ等で固定する。一方、下軸5の下部保持治具6には種結晶8を取り付ける。この時、図1に示されるように、誘導加熱コイル7のスリット14に、表面に溝17が形成された絶縁部材16を挿入する。
【0035】
このとき、絶縁部材16の材質としては、例えば石英ガラスを用いることができる。また溝17の構造としては、絶縁部材16の、スリット14に挿入された際にコイル端部13と対向する両表面上において、例えば、図1(b)に示したようにそれぞれ異なる高さ位置に交互に形成するか、または図1(c)に示したように同じ高さ位置に形成することができる。スリット14の幅が狭い場合には、図1(d)に示したようにどちらか片側の表面上のみに形成することができる。
【0036】
次に、シリコン原料結晶棒1のコーン部の下端をカーボンリング(不図示)で予備加熱する。その後、チャンバー20の下部から窒素ガスを含んだArガスを供給し、チャンバー20上部より排気して、例えば圧力を0.01〜0.20MPa、Arガスの流量を20〜50L/min、チャンバー内窒素濃度を0.1〜0.5%とする。そして、シリコン原料結晶棒1を誘導加熱コイル7で加熱溶融した後、コーン部先端を種結晶8に融着させ、絞り部9により無転位化し、上軸3と下軸5を回転させながらシリコン原料結晶棒1を相対的に下降させることで、浮遊帯域10をシリコン原料結晶棒1の上端まで移動させてゾーニングし、シリコン単結晶棒2を成長させる。
【0037】
このとき、本発明では、溝付き絶縁部材をスリット14に挿入しているので、高電圧が必要な150mm以上といった大口径の単結晶を製造する場合であっても、スリット間での放電を防止して、安定して単結晶を製造することができる。
尚、シリコン原料結晶棒1を育成する際に回転中心となる上軸3と、単結晶化の際に単結晶の回転中心となる下軸5をずらして(偏芯させて)単結晶を育成することが好ましい。このように両中心をずらすことにより、単結晶化の際に溶融部を攪拌させ、製造する単結晶の品質を均一化することができる。偏芯量は単結晶の直径に応じて設定すればよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
(実施例)
図5に示したような単結晶製造装置を用いて、直径170mmのCZシリコン単結晶をシリコン原料結晶棒として、炉内圧を0.18MPa、Arガス流量を50L/min、チャンバー内窒素ガス濃度を0.1%、成長速度を2.2mm/min、偏芯量を10mmとしてFZ法によりゾーニングを行い、直径205mm、直胴長さ60cmのシリコン単結晶を製造した。
このとき、外径300mm、内径50mmの誘導加熱コイルのスリットには、図1(b)及び図1(b’)に示したような、石英ガラスからなり、コイル端部と対向する表面上に、溝深さ1.0mm、溝幅0.8mm、溝数は両表面上にそれぞれ5箇所ずつとして溝が形成されることによって、碍子構造を有する絶縁部材を挿入した。尚、誘導加熱コイルの下面にはみ出した絶縁部材の厚さは2.0mmで、長さはコイル外周部が24mmで内周部が1.0mmであった。
このようなFZ法によるシリコン単結晶の育成を20回実施した。その結果、誘導加熱コイルのスリット間で放電は一度も発生せず、有転位化や不純物汚染の無い高品質のシリコン単結晶を製造することができた。
【0040】
(比較例)
図2(b)に示したような、溝が形成されていない以外は同一形状の絶縁部材を誘導加熱コイルのスリットに挿入したこと以外は実施例1と同様に、直径205mm、直胴長さ60cmのシリコン単結晶を製造した。
このようなFZ法によるシリコン単結晶の育成を10回実施した。その結果、誘導加熱コイルのスリット間で10回とも放電が発生し、シリコン単結晶の無転位化が阻害され、製造を行うことができなかった。
【0041】
実施例及び比較例の結果より、溝が設けられることによって碍子構造を有する絶縁部材を誘導加熱コイルのスリットに挿入することにより、溝が設けられていない絶縁部材に比べ、絶縁部材自体の長さを長くすることなく沿面放電に対する絶縁距離を長くすることができ、スリット間における放電の発生を防止し、有転位化や不純物汚染の無い高品質のシリコン単結晶を安定して製造できることがわかった。
【0042】
尚、実施例においては、図1(b)に示したような溝を形成した絶縁部材を用いたが、もちろん図1(c)に示したような、コイル端部と対向する両表面上に、それぞれ同じ高さ位置に溝が形成された絶縁部材や、場合によっては図1(d)に示したような、どちらか片側の表面上のみに溝が形成された絶縁部材を用いても、溝の無いものに比べ、十分に良い結果を得ることができる。
【0043】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載した技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0044】
1…原料結晶棒、 2…単結晶棒、 3…上軸、 4…上部保持治具、 5…下軸、
6…下部保持治具、 7…誘導加熱コイル、 8…種結晶、 9…絞り部、
10…浮遊帯域、 11…コイル外周面、 12…電源端子、 13…コイル端部、
14…スリット、 15…コイル内周面、 16、116、116′…絶縁部材、
17…溝、 20…チャンバー、 30…単結晶製造装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FZ法による単結晶製造装置に具備される誘導加熱コイルの両コイル端部を互いに分離するスリットに挿入され、該スリットにおいて生じる放電を防止するための絶縁部材であって、少なくとも、該絶縁部材の、前記スリットに挿入された際に前記コイル端部と対向する表面上に、1以上の溝が形成されたものであることを特徴とする絶縁部材。
【請求項2】
前記絶縁部材は、石英ガラスからなるものであることを特徴とする請求項1に記載の絶縁部材。
【請求項3】
前記溝は、前記絶縁部材が前記スリットに挿入された際に前記コイル端部と対向する両表面上において、それぞれ異なる高さ位置に交互に形成されるか、または同じ高さ位置に形成されるか、もしくはどちらか片側の表面上のみに形成されるものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の絶縁部材。
【請求項4】
FZ法による単結晶製造装置であって、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の絶縁部材がスリットに挿入された誘導加熱コイルを有するものであることを特徴とする単結晶製造装置。
【請求項5】
FZ法による単結晶製造方法であって、請求項4に記載の単結晶製造装置を用いて単結晶を製造することを特徴とする単結晶製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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