誘導加熱炉
【課題】誘導磁界が作用して発熱する輻射発熱体を薄板で構成しながらも被加熱物に対する輻射熱が均一で、消費エネルギーも少ない誘導加熱炉を提供する。
【解決手段】誘導加熱により発熱する輻射発熱体1a,1bの材料自体の放射率と、面内の放射率を制御するための材料である黒体近似物質7の放射率との差分を利用して、施工する黒体近似物質7の塗布密度を輻射発熱体1a,1bの温度分布によって変更する。これによって輻射発熱体1a,1b自身については誘導加熱によって温度ばらつきが発生しているが、被加熱物に相対する面については、それぞれの領域の温度に対応した放射率にすることで面内からの輻射熱が均一になっている。
【解決手段】誘導加熱により発熱する輻射発熱体1a,1bの材料自体の放射率と、面内の放射率を制御するための材料である黒体近似物質7の放射率との差分を利用して、施工する黒体近似物質7の塗布密度を輻射発熱体1a,1bの温度分布によって変更する。これによって輻射発熱体1a,1b自身については誘導加熱によって温度ばらつきが発生しているが、被加熱物に相対する面については、それぞれの領域の温度に対応した放射率にすることで面内からの輻射熱が均一になっている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱によって被加熱物を加熱し乾燥、焼成等を行う誘導加熱炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、乾燥、焼成、キュア、もしくは電子部品の実装工程などではんだ付けに使用されるリフロー炉などの工業用の炉については、消費されるエネルギーによって排出されるCO2の排出量削減などの環境面を含む社会情勢などにより、消費電力の低減などが進められている。
【0003】
そのため、電気炉における加熱源の見直しや炉体の断熱材の能力向上、炉内における被加熱物の搬送方法の見直し、給排気量の見直しなど、CO2排出量削減に向けて多様な取り組みがなされている。
【0004】
電気炉は、断熱材もしくは高温に耐えうる耐熱材料などで炉体を構成し、その内部に被加熱物を加熱するための加熱源として、遠赤外線のパネルヒーターや、近赤外線のランプヒーターまたは抵抗ヒーターを用いて、炉内の循環雰囲気に熱を伝達して熱風とし、その熱風により被加熱物の加熱を行う熱風循環加熱などが用いられている。さらには炉内に被加熱物の搬送手段を配置し、この搬送経路に沿って被加熱物を搬送して、被加熱物に所定の熱が加えられて加熱される。
【0005】
この際、前述の断熱材、もしくは金属、セラミックをはじめとする高温に耐えうる耐熱材料で構成された炉体そのものが、炉内の温度を所定の設定温度に保つために、加熱源によって加熱されており、被加熱物が搬送されて来ない間も、絶えず電力をはじめとする加熱エネルギーを消費し続けている。
【0006】
また断熱材で囲まれていたとしても、加熱された炉体の表面からも絶えず放熱によるエネルギーが失われており、被加熱物を所定の温度に加熱するための電気炉の加熱効率は非常に低く、炉全体への投入エネルギーの1割に満たないものがほとんどである。特に、大型の炉、高温の焼成炉になればその傾向はさらに大きくなる。
【0007】
そこで、電気炉の消費エネルギーを削減し、被加熱物が搬送されて来ない状態での消費電力を削減する方法として、特許文献1の誘導加熱炉が知られている。
この誘導加熱炉は、図13、図14に示すように構成されている。
【0008】
図13に示すように、被加熱物8の搬送経路に沿って広がる板状の輻射発熱体1は、誘導磁界が作用して発熱するものである。輻射発熱体1の前記被加熱物8と対向する面とは反対側には、輻射発熱体1に誘導磁界20を供給する誘導磁界発生手段21の誘導加熱コイル2が設けられている。
【0009】
このようにして、誘導加熱コイル2による誘導電流で加熱された輻射発熱体1の輻射熱によって被加熱物8を加熱している。6は被加熱物8を矢印A方向へ移送する搬送装置である。誘導磁界発生手段21は、図14に示すように制御ユニット10と、制御ユニット10から誘導加熱コイル2に電力を供給する導線9とで構成されている。
【0010】
この誘導加熱炉では、輻射発熱体1を誘導加熱で加熱するために急速加熱が可能となり、被加熱物8が供給されないときには誘導磁界を発生させず、被加熱物8が到着する直前に誘導磁界を発生させて輻射発熱体1を加熱する運用にすることによって、消費エネルギーの削減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3729689号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、輻射発熱体1の誘導磁界による加熱は温度のばらつきが大きく、この温度ばらつきが被加熱物8の品質に影響を与えるような場合には、そのための対策が必須となる。
【0013】
この温度ばらつきを低減するためには、輻射発熱体1の熱容量を大きくして緩和させるか、誘導加熱コイル2の巻き方を工夫して輻射発熱体1の加熱温度のばらつきを抑制する必要がある。
【0014】
ただし、輻射発熱体1の熱容量を大きくして緩和した場合には、熱容量の大きくなった輻射発熱体1そのものを所定の温度まで加熱するのに要するエネルギーが必要となる。また、誘導加熱コイル2の巻き方を工夫して輻射発熱体1の温度ばらつきを抑制するためには、複雑なコイル形状にする必要があり、特に、広域な面内全体をコイル形状の工夫によって均一にすることは非常に困難である。
【0015】
本発明は、誘導磁界によって加熱される輻射発熱体1の熱容量が小さくて済み、しかも誘導加熱コイル2の形状も簡易な形状のままでも、被加熱物8への輻射熱を安定して均一に保つことができる誘導加熱炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の誘導加熱炉は、誘導磁界が作用して発熱する輻射発熱体を誘導磁界発生手段から発生する誘導磁界によって誘導加熱して、前記輻射発熱体に相対する位置にある被加熱物を加熱する誘導加熱炉であって、前記輻射発熱体は、前記被加熱物の側に相対する面の面内放射率を、面内のそれぞれの箇所と前記誘導磁界発生手段との距離の二乗を、前記誘導磁界発生手段の経路について積分した値に反比例した相対差の放射率分布に設定して、前記被加熱物への放射熱を前記面内で均等にしたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の誘導加熱炉は、誘導磁界が作用して発熱する輻射発熱体を誘導磁界発生手段から発生する誘導磁界によって誘導加熱して、前記輻射発熱体に相対する位置にある被加熱物を加熱する誘導加熱炉であって、前記輻射発熱体の前記被加熱物の側に相対する面に膜状の黒体近似物質を設け、前記黒体近似物質の分布が、前記被加熱物を加熱する温度パターンに応じて決定されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の誘導加熱炉は、誘導磁界が作用して発熱する輻射発熱体を誘導磁界発生手段から発生する誘導磁界によって誘導加熱して、前記輻射発熱体に相対する位置にある被加熱物を加熱する誘導加熱炉であって、前記輻射発熱体は、前記被加熱物の側に相対する面の面内放射率が、誘導磁界発生手段によって前記輻射発熱体に発生する渦電流の強度の測定結果、または前記輻射発熱体の温度分布の測定結果に応じて、被加熱物への放射熱パターンが均一になるように決定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
この構成によれば、輻射発熱体の被加熱物の側に相対する面の面内放射率が均一ではないため、輻射発熱体として熱容量の小さい薄板を使用し、これを誘導磁界によって加熱して加熱源として用いる場合においても、輻射発熱体の温度を迅速に昇温することができ、被加熱物に相対する面内の放射熱のばらつきの少ない安定した加熱が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態における誘導加熱炉の外観斜視図
【図2】本発明の実施の形態における誘導加熱炉の分解斜視図
【図3】本発明の実施の形態における輻射発熱体構成の説明図
【図4】本発明の実施の形態における輻射発熱体と誘導加熱コイルの位置関係の説明図
【図5】輻射発熱体の温度上昇の状態を示す図
【図6】黒体の分布比率を示す図
【図7】輻射熱の差異を示す説明図
【図8】輻射熱の均一化を示す説明図
【図9】誘導加熱による加熱分布計算方式の説明図
【図10】加熱分布と黒体の分布比率の関係を示す図
【図11】本発明の実施の形態における誘導加熱炉の説明図
【図12】本発明の実施の形態における誘導加熱炉の黒体の分布の説明図
【図13】従来の誘導加熱炉の説明図
【図14】従来の誘導加熱炉のヒーター構成説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図12に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1は誘導加熱炉の外観斜視図、図2はその分解斜視図を示す。
【0022】
炉体4は、高温の耐熱材料で非磁性体の壁面4a,4b,4c,4dを枠状に組み立てて構成されており、内側には被加熱物8が通過する搬送経路5が形成されている。炉体4の外側に誘導加熱用の誘導加熱コイル2が巻き付けられている。
【0023】
搬送経路5には、通過する被加熱物8を挟んで上側に第1の輻射発熱体1a、下側には第2の輻射発熱体1bが配置されている。この第1,第2の輻射発熱体1a,1bは、電磁誘導加熱に適している磁性体材料からなる薄板である。
【0024】
なお、図1と図2には図示されていないが、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの間を被加熱物8が通過するように、そのための搬送系が配置されている。
第1,第2の輻射発熱体1a,1bは薄板であるため、誘導加熱で加熱された際に材料の持つ線膨張係数によって伸びが発生する。そのため第1,第2の輻射発熱体1a,1bの四隅が、炉体4との間に介装した引っ張りバネ6によって、図3に示すように外側に常に引っ張ることで、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの伸びを吸収し、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に対する面の形状の変形を防いでいる。本実施例のような輻射加熱の場合は、第1,第2の輻射発熱体1a,1bと被加熱物8との距離の影響が非常に大きいため、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの変形によって被加熱物8との距離が部分的に、または全体的に変化すると、安定した加熱ができずに温度ばらつきが発生してしまうためである。
【0025】
図4は誘導加熱コイル2と第1,第2の輻射発熱体1a,1bの位置関係が判るように炉体4を削除した図として示している。
誘導加熱コイル2と第1,第2の輻射発熱体1a,1bの位置関係は、誘導加熱コイル2の先端部分のように形状の変化のある部分の影響を受けた場合、その他の直線部分とは誘導磁界の影響の度合いが異なるため、コイルの曲線部分などは誘導加熱コイル2から極力離れた位置にあるほうが望ましい。
【0026】
図5は誘導加熱炉での第1,第2の輻射発熱体1a,1bの温度上昇を測定した結果である。
誘導加熱コイル2に流す電流値によって、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの昇温速度、到達温度が変化している。誘導加熱コイル2の電流値が20[A]の場合は到達温度は75℃程度であるが、電流値を40[A]にすると昇温速度が約50℃/秒で、約10秒程度で200℃まで到達する。なお、この時は200℃での温度調節をしているために到達温度は200℃で安定している。
【0027】
ここで、誘導加熱コイル2が発生する誘導磁界による第1,第2の輻射発熱体1a,1bの発熱の状態は、下記の式で導かれる。
誘導加熱コイル2を流れる直線電流i[A]から距離r[m]離れた点での磁場の強さH[A/m]は、H = i/2πr を引用して、磁場Hが発生した時に距離r離れた点に流れる誘導電流は、i = 2πrH、この時のジュール熱は、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの電気抵抗をR[Ω]とすると、i2・R = (2πrH)2・R、つまり、誘導加熱による温度上昇は距離の二乗に反比例する。
【0028】
厳密にいうと、これは誘導加熱コイルのある任意の1点での誘導磁界の話なので、最終的には誘導加熱コイル2の全体の経路にわたって積分する必要があるが、この積分された値によって誘導加熱による第1,第2の輻射発熱体1a,1bの面内の各領域による加熱温度が定量的に決定される。
【0029】
つまり一般的には誘導加熱で加熱された第1,第2の輻射発熱体1a,1bの表面には、誘導加熱の誘導加熱コイル2の形状による固有の温度分布が発生していることになる。そのため、そのままでは第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に相対する面からの輻射熱は、第1,第2の輻射発熱体1a,1bに発生している温度分布の影響をそのまま受けてしまい、ばらつきができてしまう。この場合には、被加熱物8の受ける輻射熱にもばらつきが発生し、最終的には被加熱物8の温度ばらつきになる。
【0030】
被加熱物8の受ける輻射熱のばらつきを低減するために、この実施の形態では第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8の側に相対する面に形成されている膜状の黒体近似物質7の分布密度に差が付けられている。
【0031】
この点を詳しく説明する。
先程の、誘導加熱コイル2からの距離の二乗の積分によって定量化された値に基づいて、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に相対する面の放射率を制御して、被加熱物8に対する輻射熱を面内で均一にするために、黒体近似物質7は次のように塗布されている。
【0032】
この考え方を図6(a)(b)に示す。
先ず最初に、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの材料自体の放射率を把握する。第1,第2の輻射発熱体1a,1bとしては、誘導加熱に適した磁性体である、例えばステンレス板を用いる。
【0033】
図6(a)は誘導加熱されたときの第1,第2の輻射発熱体1a,1bの外面の温度分布を示しており、中央の黒く図示されている部分の温度が高く、外周は中央よりも低温である。
【0034】
図6(b)は第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8との対向面における黒体近似物質7の塗布状態を示している。面内の放射率を制御するために中央は外周よりも黒体7の塗布密度が少ない。
【0035】
黒体とは、理論的にはあらゆる光を完全に吸収できる物体のことであり、その場合の放射率は1.0になるが、現実にはそのような物体は存在しない。そのため黒体近似物質7としては、カーボンの微粒子からなる材料が一般的に知られており、放射率0.94〜0.97程度のものが多い。中でも「カーボンナノチューブ黒体」と呼ばれるものは、全ての光の波長域で放射率0.99以上となっている。本実施例では、図6(b)のようにステンレス材料の素材そのままの放射率は0.40、塗料の放射率は0.99とする。
【0036】
この差分を利用して、施工する黒体7の塗布密度を、前述の第1,第2の輻射発熱体1a,1bの温度分布に合わせて変えていく。
例えば、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの最も温度の高い箇所の黒体近似物質7の密度を0%とする。それから温度が低くなるに従って各箇所の黒体近似物質7の密度を徐々に上げていくのだが、この変更幅は、最高温度地点での輻射発熱体の材料自体の放射率(ステンレスの場合で0.40)による輻射熱と、黒体近似物質7の放射率(0.99)で同等の輻射熱が供給可能な温度の領域までの変更が可能である。その間の、中間の温度箇所については図6(b)に示すグラフのそれぞれの部分の温度に対応した密度でステンレスの輻射発熱体に黒体近似物質7を塗布する。
【0037】
これによってステンレスからなる第1,第2の輻射発熱体1a,1b自身については誘導加熱によって温度ばらつきが発生しているが、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に相対する面については、それぞれの領域の温度に対応した放射率の制御をすることで面内からの輻射熱を均一にすることができる。
【0038】
図7,図8は第1,第2の輻射発熱体1a,1bの輻射熱のイメージを示す。
図7は第1,第2の輻射発熱体1a,1bの温度分布が上のグラフに示すように中央が高く、周囲に行くにしたがって温度が下がっている状態で、被加熱物8に相対する面である第1,第2の輻射発熱体1a,1bの放射率が面内で一定の場合、中央部分の輻射熱7が高く、周囲に行くにしたがって輻射熱7は下がって行く。
【0039】
図8は第1,第2の輻射発熱体1a,1bの温度分布が図7と同様で、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの放射率が面内温度に応じて制御されている状態を示す。これによって被加熱物8に与える輻射熱7は面内で均一となる。
【0040】
本実施の形態について、より具体的な方法を示す。
図9は誘導加熱コイル2と第1の輻射発熱体1aとの位置関係を示す。
第1の輻射発熱体1a上のある地点X1(=xn,yn)と誘導加熱コイル2の各位置との距離を1,R2,・・・とすると、地点X1が誘導加熱コイル2から供給される誘導エネルギーは、誘導加熱コイル2の経路全体にわたって各箇所のそれぞれの距離の二乗を積分することによって求められる。
【0041】
図10は上述の図6の放射率のグラフに、誘導加熱コイル2と第1,第2の輻射発熱体1a,1bとの距離の二乗を積分した値を重ねたグラフである。つまり誘導加熱コイル2と第1,第2の輻射発熱体1a,1bとの距離の二乗積分値の最も小さい場所については、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に相対する面の放射率を、黒体近似物質7の塗布の施工をせず材質の放射率そのままとして、誘導加熱コイル2と第1,第2の輻射発熱体1a,1bとの距離の二乗積分値が大きくなるに従って黒体近似物質7の塗布密度を上げていく。この変更幅は、距離の二乗の積分値がもっとも小さい地点での第1,第2の輻射発熱体1a,1bの材料自体の放射率(ステンレスの場合で0.40)による輻射熱と、黒体近似物質7の放射率(0.99)で同等の輻射熱が供給される距離の二乗の積分値の地点までの変更が可能である。その間の温度の中間の部分については図10に示すグラフのそれぞれの部分の距離の二乗の積分値に反比例した密度のパターンで、ステンレスの輻射発熱体1a,1bに黒体近似物質7を塗布する。
【0042】
(実施の形態2)
上記の実施の形態1では、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8との対向面の面内で黒体近似物質7の密度を漸増もしくは漸減させることによって放射率の均一化が図られているが、より簡易的には、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に相対する面内を複数の領域に分割して、それぞれの領域ごとに黒体近似物質7の塗布密度を決定しても良い。
【0043】
図11に示すように、誘導磁界20が作用して発熱する第1,第2の輻射発熱体1a,1bを複数の領域に分け、それぞれの領域の中心地点での誘導磁界発生手段との距離の二乗の積分値によって、それぞれの領域ごとに放射率を決定する。
【0044】
各領域(xn,yn)の中心点と誘導加熱コイル2との距離の二乗を誘導加熱コイル2の全経路にわたって積分し、その値からそれぞれの領域の放射率を決定する。ここから、上述の図10の黒体近似物質分布比率の図に基づき、誘導加熱コイル2と第1,第2の輻射発熱体1a,1bとの距離の二乗の積分値の最も小さい領域(xn,yn)については第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に相対する面の放射率は黒体近似物質7を塗布せず材質の放射率そのままとして、誘導加熱コイル2との距離の二乗積分値が大きくなるに従ってそれぞれの領域の黒体近似物質の塗布密度を上げていく。
【0045】
図12は第2の輻射発熱体1bの被加熱物8に相対する面を示し、領域によって黒体近似物質7の密度を変化させている施工の様子を示している。この場合の変更幅も、距離の二乗の積分値がもっとも小さい領域での輻射発熱体の材料自体の放射率(ステンレスの場合で0.40)により供給される輻射熱と、黒体近似物質7の放射率(0.99)で同等の輻射熱が供給される距離の二乗の積分値の領域までの変更が可能となる。その間の温度の中間領域については図10に示すグラフのそれぞれの部分の距離二乗の積分値に対応した密度でステンレスの輻射発熱体上に黒体近似物質7を塗布する。
【0046】
(実施の形態3)
上記説明では黒体近似物質7の塗布密度を決定する方法として、誘導磁界が作用して発熱する第1,第2の輻射発熱体1a,1bと誘導加熱コイル2との距離の二乗の積分値によって、それぞれ箇所の放射率を決定する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、誘導加熱コイル2によって第1,第2の輻射発熱体1a,1bに発生する渦電流の強度を実際に測定し、その測定値に応じて各箇所の黒体近似物質7の塗布密度を決定してもよい。また、誘導加熱コイル2によって第1,第2の輻射発熱体1a,1bに発生する渦電流による加熱の温度を実際に測定し、その測定値に応じて各箇所の黒体近似物質7の塗布密度を決定してもよい。
【0047】
(実施の形態4)
上記の各実施の形態では被加熱体8を間に挟んで第1,第2の輻射発熱体1a,1bを配置した誘導加熱炉を例に挙げて説明したが、被加熱体8に対向して一枚の輻射発熱体を配置した場合にも同様に実施できる。
【0048】
上記の各実施の形態において、SUSの第1,第2の輻射発熱体1a,1bの板厚の寸法は、0.05mm〜0.5mm程度のものを使用できる。
上記の各実施の形態において分布率(=黒体近似物質の密度)の定義は、黒体近似物が塗布されている箇所と黒体近似物質が塗布されていない箇所の比率を言う。
【0049】
上記の各実施の形態では、第1,第2の輻射発熱体1a,1bに膜厚が一定の黒体近似物が塗布されている箇所と黒体近似物質が塗布されていない箇所を設けて被加熱物への放射熱パターンが均一になるようにしたが、部分的に黒体近似物質の膜厚を変更して被加熱物への放射熱パターンが均一になるようにすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は高温、低温に関わらず輻射熱が均一でしかも消費エネルギーの少ない炉として多種多様な工業用加熱炉に適用できる。
【符号の説明】
【0051】
1a,1b 第1,第2の輻射発熱体
2 誘導加熱コイル
4 炉体
4a,4b,4c,4d 壁面
5 搬送経路
6 引っ張りバネ
7 黒体近似物質
8 被加熱物
20 誘導磁界
21 誘導磁界発生手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱によって被加熱物を加熱し乾燥、焼成等を行う誘導加熱炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、乾燥、焼成、キュア、もしくは電子部品の実装工程などではんだ付けに使用されるリフロー炉などの工業用の炉については、消費されるエネルギーによって排出されるCO2の排出量削減などの環境面を含む社会情勢などにより、消費電力の低減などが進められている。
【0003】
そのため、電気炉における加熱源の見直しや炉体の断熱材の能力向上、炉内における被加熱物の搬送方法の見直し、給排気量の見直しなど、CO2排出量削減に向けて多様な取り組みがなされている。
【0004】
電気炉は、断熱材もしくは高温に耐えうる耐熱材料などで炉体を構成し、その内部に被加熱物を加熱するための加熱源として、遠赤外線のパネルヒーターや、近赤外線のランプヒーターまたは抵抗ヒーターを用いて、炉内の循環雰囲気に熱を伝達して熱風とし、その熱風により被加熱物の加熱を行う熱風循環加熱などが用いられている。さらには炉内に被加熱物の搬送手段を配置し、この搬送経路に沿って被加熱物を搬送して、被加熱物に所定の熱が加えられて加熱される。
【0005】
この際、前述の断熱材、もしくは金属、セラミックをはじめとする高温に耐えうる耐熱材料で構成された炉体そのものが、炉内の温度を所定の設定温度に保つために、加熱源によって加熱されており、被加熱物が搬送されて来ない間も、絶えず電力をはじめとする加熱エネルギーを消費し続けている。
【0006】
また断熱材で囲まれていたとしても、加熱された炉体の表面からも絶えず放熱によるエネルギーが失われており、被加熱物を所定の温度に加熱するための電気炉の加熱効率は非常に低く、炉全体への投入エネルギーの1割に満たないものがほとんどである。特に、大型の炉、高温の焼成炉になればその傾向はさらに大きくなる。
【0007】
そこで、電気炉の消費エネルギーを削減し、被加熱物が搬送されて来ない状態での消費電力を削減する方法として、特許文献1の誘導加熱炉が知られている。
この誘導加熱炉は、図13、図14に示すように構成されている。
【0008】
図13に示すように、被加熱物8の搬送経路に沿って広がる板状の輻射発熱体1は、誘導磁界が作用して発熱するものである。輻射発熱体1の前記被加熱物8と対向する面とは反対側には、輻射発熱体1に誘導磁界20を供給する誘導磁界発生手段21の誘導加熱コイル2が設けられている。
【0009】
このようにして、誘導加熱コイル2による誘導電流で加熱された輻射発熱体1の輻射熱によって被加熱物8を加熱している。6は被加熱物8を矢印A方向へ移送する搬送装置である。誘導磁界発生手段21は、図14に示すように制御ユニット10と、制御ユニット10から誘導加熱コイル2に電力を供給する導線9とで構成されている。
【0010】
この誘導加熱炉では、輻射発熱体1を誘導加熱で加熱するために急速加熱が可能となり、被加熱物8が供給されないときには誘導磁界を発生させず、被加熱物8が到着する直前に誘導磁界を発生させて輻射発熱体1を加熱する運用にすることによって、消費エネルギーの削減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3729689号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、輻射発熱体1の誘導磁界による加熱は温度のばらつきが大きく、この温度ばらつきが被加熱物8の品質に影響を与えるような場合には、そのための対策が必須となる。
【0013】
この温度ばらつきを低減するためには、輻射発熱体1の熱容量を大きくして緩和させるか、誘導加熱コイル2の巻き方を工夫して輻射発熱体1の加熱温度のばらつきを抑制する必要がある。
【0014】
ただし、輻射発熱体1の熱容量を大きくして緩和した場合には、熱容量の大きくなった輻射発熱体1そのものを所定の温度まで加熱するのに要するエネルギーが必要となる。また、誘導加熱コイル2の巻き方を工夫して輻射発熱体1の温度ばらつきを抑制するためには、複雑なコイル形状にする必要があり、特に、広域な面内全体をコイル形状の工夫によって均一にすることは非常に困難である。
【0015】
本発明は、誘導磁界によって加熱される輻射発熱体1の熱容量が小さくて済み、しかも誘導加熱コイル2の形状も簡易な形状のままでも、被加熱物8への輻射熱を安定して均一に保つことができる誘導加熱炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の誘導加熱炉は、誘導磁界が作用して発熱する輻射発熱体を誘導磁界発生手段から発生する誘導磁界によって誘導加熱して、前記輻射発熱体に相対する位置にある被加熱物を加熱する誘導加熱炉であって、前記輻射発熱体は、前記被加熱物の側に相対する面の面内放射率を、面内のそれぞれの箇所と前記誘導磁界発生手段との距離の二乗を、前記誘導磁界発生手段の経路について積分した値に反比例した相対差の放射率分布に設定して、前記被加熱物への放射熱を前記面内で均等にしたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の誘導加熱炉は、誘導磁界が作用して発熱する輻射発熱体を誘導磁界発生手段から発生する誘導磁界によって誘導加熱して、前記輻射発熱体に相対する位置にある被加熱物を加熱する誘導加熱炉であって、前記輻射発熱体の前記被加熱物の側に相対する面に膜状の黒体近似物質を設け、前記黒体近似物質の分布が、前記被加熱物を加熱する温度パターンに応じて決定されていることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の誘導加熱炉は、誘導磁界が作用して発熱する輻射発熱体を誘導磁界発生手段から発生する誘導磁界によって誘導加熱して、前記輻射発熱体に相対する位置にある被加熱物を加熱する誘導加熱炉であって、前記輻射発熱体は、前記被加熱物の側に相対する面の面内放射率が、誘導磁界発生手段によって前記輻射発熱体に発生する渦電流の強度の測定結果、または前記輻射発熱体の温度分布の測定結果に応じて、被加熱物への放射熱パターンが均一になるように決定されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
この構成によれば、輻射発熱体の被加熱物の側に相対する面の面内放射率が均一ではないため、輻射発熱体として熱容量の小さい薄板を使用し、これを誘導磁界によって加熱して加熱源として用いる場合においても、輻射発熱体の温度を迅速に昇温することができ、被加熱物に相対する面内の放射熱のばらつきの少ない安定した加熱が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態における誘導加熱炉の外観斜視図
【図2】本発明の実施の形態における誘導加熱炉の分解斜視図
【図3】本発明の実施の形態における輻射発熱体構成の説明図
【図4】本発明の実施の形態における輻射発熱体と誘導加熱コイルの位置関係の説明図
【図5】輻射発熱体の温度上昇の状態を示す図
【図6】黒体の分布比率を示す図
【図7】輻射熱の差異を示す説明図
【図8】輻射熱の均一化を示す説明図
【図9】誘導加熱による加熱分布計算方式の説明図
【図10】加熱分布と黒体の分布比率の関係を示す図
【図11】本発明の実施の形態における誘導加熱炉の説明図
【図12】本発明の実施の形態における誘導加熱炉の黒体の分布の説明図
【図13】従来の誘導加熱炉の説明図
【図14】従来の誘導加熱炉のヒーター構成説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図1〜図12に基づいて説明する。
(実施の形態1)
図1は誘導加熱炉の外観斜視図、図2はその分解斜視図を示す。
【0022】
炉体4は、高温の耐熱材料で非磁性体の壁面4a,4b,4c,4dを枠状に組み立てて構成されており、内側には被加熱物8が通過する搬送経路5が形成されている。炉体4の外側に誘導加熱用の誘導加熱コイル2が巻き付けられている。
【0023】
搬送経路5には、通過する被加熱物8を挟んで上側に第1の輻射発熱体1a、下側には第2の輻射発熱体1bが配置されている。この第1,第2の輻射発熱体1a,1bは、電磁誘導加熱に適している磁性体材料からなる薄板である。
【0024】
なお、図1と図2には図示されていないが、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの間を被加熱物8が通過するように、そのための搬送系が配置されている。
第1,第2の輻射発熱体1a,1bは薄板であるため、誘導加熱で加熱された際に材料の持つ線膨張係数によって伸びが発生する。そのため第1,第2の輻射発熱体1a,1bの四隅が、炉体4との間に介装した引っ張りバネ6によって、図3に示すように外側に常に引っ張ることで、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの伸びを吸収し、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に対する面の形状の変形を防いでいる。本実施例のような輻射加熱の場合は、第1,第2の輻射発熱体1a,1bと被加熱物8との距離の影響が非常に大きいため、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの変形によって被加熱物8との距離が部分的に、または全体的に変化すると、安定した加熱ができずに温度ばらつきが発生してしまうためである。
【0025】
図4は誘導加熱コイル2と第1,第2の輻射発熱体1a,1bの位置関係が判るように炉体4を削除した図として示している。
誘導加熱コイル2と第1,第2の輻射発熱体1a,1bの位置関係は、誘導加熱コイル2の先端部分のように形状の変化のある部分の影響を受けた場合、その他の直線部分とは誘導磁界の影響の度合いが異なるため、コイルの曲線部分などは誘導加熱コイル2から極力離れた位置にあるほうが望ましい。
【0026】
図5は誘導加熱炉での第1,第2の輻射発熱体1a,1bの温度上昇を測定した結果である。
誘導加熱コイル2に流す電流値によって、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの昇温速度、到達温度が変化している。誘導加熱コイル2の電流値が20[A]の場合は到達温度は75℃程度であるが、電流値を40[A]にすると昇温速度が約50℃/秒で、約10秒程度で200℃まで到達する。なお、この時は200℃での温度調節をしているために到達温度は200℃で安定している。
【0027】
ここで、誘導加熱コイル2が発生する誘導磁界による第1,第2の輻射発熱体1a,1bの発熱の状態は、下記の式で導かれる。
誘導加熱コイル2を流れる直線電流i[A]から距離r[m]離れた点での磁場の強さH[A/m]は、H = i/2πr を引用して、磁場Hが発生した時に距離r離れた点に流れる誘導電流は、i = 2πrH、この時のジュール熱は、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの電気抵抗をR[Ω]とすると、i2・R = (2πrH)2・R、つまり、誘導加熱による温度上昇は距離の二乗に反比例する。
【0028】
厳密にいうと、これは誘導加熱コイルのある任意の1点での誘導磁界の話なので、最終的には誘導加熱コイル2の全体の経路にわたって積分する必要があるが、この積分された値によって誘導加熱による第1,第2の輻射発熱体1a,1bの面内の各領域による加熱温度が定量的に決定される。
【0029】
つまり一般的には誘導加熱で加熱された第1,第2の輻射発熱体1a,1bの表面には、誘導加熱の誘導加熱コイル2の形状による固有の温度分布が発生していることになる。そのため、そのままでは第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に相対する面からの輻射熱は、第1,第2の輻射発熱体1a,1bに発生している温度分布の影響をそのまま受けてしまい、ばらつきができてしまう。この場合には、被加熱物8の受ける輻射熱にもばらつきが発生し、最終的には被加熱物8の温度ばらつきになる。
【0030】
被加熱物8の受ける輻射熱のばらつきを低減するために、この実施の形態では第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8の側に相対する面に形成されている膜状の黒体近似物質7の分布密度に差が付けられている。
【0031】
この点を詳しく説明する。
先程の、誘導加熱コイル2からの距離の二乗の積分によって定量化された値に基づいて、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に相対する面の放射率を制御して、被加熱物8に対する輻射熱を面内で均一にするために、黒体近似物質7は次のように塗布されている。
【0032】
この考え方を図6(a)(b)に示す。
先ず最初に、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの材料自体の放射率を把握する。第1,第2の輻射発熱体1a,1bとしては、誘導加熱に適した磁性体である、例えばステンレス板を用いる。
【0033】
図6(a)は誘導加熱されたときの第1,第2の輻射発熱体1a,1bの外面の温度分布を示しており、中央の黒く図示されている部分の温度が高く、外周は中央よりも低温である。
【0034】
図6(b)は第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8との対向面における黒体近似物質7の塗布状態を示している。面内の放射率を制御するために中央は外周よりも黒体7の塗布密度が少ない。
【0035】
黒体とは、理論的にはあらゆる光を完全に吸収できる物体のことであり、その場合の放射率は1.0になるが、現実にはそのような物体は存在しない。そのため黒体近似物質7としては、カーボンの微粒子からなる材料が一般的に知られており、放射率0.94〜0.97程度のものが多い。中でも「カーボンナノチューブ黒体」と呼ばれるものは、全ての光の波長域で放射率0.99以上となっている。本実施例では、図6(b)のようにステンレス材料の素材そのままの放射率は0.40、塗料の放射率は0.99とする。
【0036】
この差分を利用して、施工する黒体7の塗布密度を、前述の第1,第2の輻射発熱体1a,1bの温度分布に合わせて変えていく。
例えば、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの最も温度の高い箇所の黒体近似物質7の密度を0%とする。それから温度が低くなるに従って各箇所の黒体近似物質7の密度を徐々に上げていくのだが、この変更幅は、最高温度地点での輻射発熱体の材料自体の放射率(ステンレスの場合で0.40)による輻射熱と、黒体近似物質7の放射率(0.99)で同等の輻射熱が供給可能な温度の領域までの変更が可能である。その間の、中間の温度箇所については図6(b)に示すグラフのそれぞれの部分の温度に対応した密度でステンレスの輻射発熱体に黒体近似物質7を塗布する。
【0037】
これによってステンレスからなる第1,第2の輻射発熱体1a,1b自身については誘導加熱によって温度ばらつきが発生しているが、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に相対する面については、それぞれの領域の温度に対応した放射率の制御をすることで面内からの輻射熱を均一にすることができる。
【0038】
図7,図8は第1,第2の輻射発熱体1a,1bの輻射熱のイメージを示す。
図7は第1,第2の輻射発熱体1a,1bの温度分布が上のグラフに示すように中央が高く、周囲に行くにしたがって温度が下がっている状態で、被加熱物8に相対する面である第1,第2の輻射発熱体1a,1bの放射率が面内で一定の場合、中央部分の輻射熱7が高く、周囲に行くにしたがって輻射熱7は下がって行く。
【0039】
図8は第1,第2の輻射発熱体1a,1bの温度分布が図7と同様で、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの放射率が面内温度に応じて制御されている状態を示す。これによって被加熱物8に与える輻射熱7は面内で均一となる。
【0040】
本実施の形態について、より具体的な方法を示す。
図9は誘導加熱コイル2と第1の輻射発熱体1aとの位置関係を示す。
第1の輻射発熱体1a上のある地点X1(=xn,yn)と誘導加熱コイル2の各位置との距離を1,R2,・・・とすると、地点X1が誘導加熱コイル2から供給される誘導エネルギーは、誘導加熱コイル2の経路全体にわたって各箇所のそれぞれの距離の二乗を積分することによって求められる。
【0041】
図10は上述の図6の放射率のグラフに、誘導加熱コイル2と第1,第2の輻射発熱体1a,1bとの距離の二乗を積分した値を重ねたグラフである。つまり誘導加熱コイル2と第1,第2の輻射発熱体1a,1bとの距離の二乗積分値の最も小さい場所については、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に相対する面の放射率を、黒体近似物質7の塗布の施工をせず材質の放射率そのままとして、誘導加熱コイル2と第1,第2の輻射発熱体1a,1bとの距離の二乗積分値が大きくなるに従って黒体近似物質7の塗布密度を上げていく。この変更幅は、距離の二乗の積分値がもっとも小さい地点での第1,第2の輻射発熱体1a,1bの材料自体の放射率(ステンレスの場合で0.40)による輻射熱と、黒体近似物質7の放射率(0.99)で同等の輻射熱が供給される距離の二乗の積分値の地点までの変更が可能である。その間の温度の中間の部分については図10に示すグラフのそれぞれの部分の距離の二乗の積分値に反比例した密度のパターンで、ステンレスの輻射発熱体1a,1bに黒体近似物質7を塗布する。
【0042】
(実施の形態2)
上記の実施の形態1では、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8との対向面の面内で黒体近似物質7の密度を漸増もしくは漸減させることによって放射率の均一化が図られているが、より簡易的には、第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に相対する面内を複数の領域に分割して、それぞれの領域ごとに黒体近似物質7の塗布密度を決定しても良い。
【0043】
図11に示すように、誘導磁界20が作用して発熱する第1,第2の輻射発熱体1a,1bを複数の領域に分け、それぞれの領域の中心地点での誘導磁界発生手段との距離の二乗の積分値によって、それぞれの領域ごとに放射率を決定する。
【0044】
各領域(xn,yn)の中心点と誘導加熱コイル2との距離の二乗を誘導加熱コイル2の全経路にわたって積分し、その値からそれぞれの領域の放射率を決定する。ここから、上述の図10の黒体近似物質分布比率の図に基づき、誘導加熱コイル2と第1,第2の輻射発熱体1a,1bとの距離の二乗の積分値の最も小さい領域(xn,yn)については第1,第2の輻射発熱体1a,1bの被加熱物8に相対する面の放射率は黒体近似物質7を塗布せず材質の放射率そのままとして、誘導加熱コイル2との距離の二乗積分値が大きくなるに従ってそれぞれの領域の黒体近似物質の塗布密度を上げていく。
【0045】
図12は第2の輻射発熱体1bの被加熱物8に相対する面を示し、領域によって黒体近似物質7の密度を変化させている施工の様子を示している。この場合の変更幅も、距離の二乗の積分値がもっとも小さい領域での輻射発熱体の材料自体の放射率(ステンレスの場合で0.40)により供給される輻射熱と、黒体近似物質7の放射率(0.99)で同等の輻射熱が供給される距離の二乗の積分値の領域までの変更が可能となる。その間の温度の中間領域については図10に示すグラフのそれぞれの部分の距離二乗の積分値に対応した密度でステンレスの輻射発熱体上に黒体近似物質7を塗布する。
【0046】
(実施の形態3)
上記説明では黒体近似物質7の塗布密度を決定する方法として、誘導磁界が作用して発熱する第1,第2の輻射発熱体1a,1bと誘導加熱コイル2との距離の二乗の積分値によって、それぞれ箇所の放射率を決定する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、誘導加熱コイル2によって第1,第2の輻射発熱体1a,1bに発生する渦電流の強度を実際に測定し、その測定値に応じて各箇所の黒体近似物質7の塗布密度を決定してもよい。また、誘導加熱コイル2によって第1,第2の輻射発熱体1a,1bに発生する渦電流による加熱の温度を実際に測定し、その測定値に応じて各箇所の黒体近似物質7の塗布密度を決定してもよい。
【0047】
(実施の形態4)
上記の各実施の形態では被加熱体8を間に挟んで第1,第2の輻射発熱体1a,1bを配置した誘導加熱炉を例に挙げて説明したが、被加熱体8に対向して一枚の輻射発熱体を配置した場合にも同様に実施できる。
【0048】
上記の各実施の形態において、SUSの第1,第2の輻射発熱体1a,1bの板厚の寸法は、0.05mm〜0.5mm程度のものを使用できる。
上記の各実施の形態において分布率(=黒体近似物質の密度)の定義は、黒体近似物が塗布されている箇所と黒体近似物質が塗布されていない箇所の比率を言う。
【0049】
上記の各実施の形態では、第1,第2の輻射発熱体1a,1bに膜厚が一定の黒体近似物が塗布されている箇所と黒体近似物質が塗布されていない箇所を設けて被加熱物への放射熱パターンが均一になるようにしたが、部分的に黒体近似物質の膜厚を変更して被加熱物への放射熱パターンが均一になるようにすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は高温、低温に関わらず輻射熱が均一でしかも消費エネルギーの少ない炉として多種多様な工業用加熱炉に適用できる。
【符号の説明】
【0051】
1a,1b 第1,第2の輻射発熱体
2 誘導加熱コイル
4 炉体
4a,4b,4c,4d 壁面
5 搬送経路
6 引っ張りバネ
7 黒体近似物質
8 被加熱物
20 誘導磁界
21 誘導磁界発生手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導磁界が作用して発熱する輻射発熱体を誘導磁界発生手段から発生する誘導磁界によって誘導加熱して、前記輻射発熱体に相対する位置にある被加熱物を加熱する誘導加熱炉であって、
前記輻射発熱体は、
前記被加熱物の側に相対する面の面内放射率を、面内のそれぞれの箇所と前記誘導磁界発生手段との距離の二乗を、前記誘導磁界発生手段の経路について積分した値に反比例した相対差の放射率分布に設定して、前記被加熱物への放射熱を前記面内で均等にした
誘導加熱炉。
【請求項2】
前記輻射発熱体の前記被加熱物の側に相対する面に膜状の黒体近似物質を設け、
前記輻射発熱体の面内放射率の分布は、
前記輻射発熱体を形成する材料の放射率と、
前記面内に施工する黒体近似物質の放射率の差分に基づいて前記黒体近似物質の分布密度に差を設けて、部分的に放射率に差が形成されている
請求項1記載の誘導加熱炉。
【請求項3】
前記輻射発熱体は、
前記被加熱物に対向する1枚の板状体、または前記被加熱物を挟んで対向する2枚の板状体である
請求項1記載の誘導加熱炉。
【請求項4】
誘導磁界が作用して発熱する輻射発熱体を誘導磁界発生手段から発生する誘導磁界によって誘導加熱して、前記輻射発熱体に相対する位置にある被加熱物を加熱する誘導加熱炉であって、
前記輻射発熱体の前記被加熱物の側に相対する面に膜状の黒体近似物質を設け、
前記黒体近似物質の分布が、前記被加熱物を加熱する温度パターンに応じて決定されている
誘導加熱炉。
【請求項5】
誘導磁界が作用して発熱する輻射発熱体を誘導磁界発生手段から発生する誘導磁界によって誘導加熱して、前記輻射発熱体に相対する位置にある被加熱物を加熱する誘導加熱炉であって、
前記輻射発熱体は、前記被加熱物の側に相対する面の面内放射率が、前記誘導磁界発生手段によって前記輻射発熱体に発生する渦電流の強度の測定結果、または前記輻射発熱体の温度分布の測定結果に応じて、被加熱物への放射熱パターンが均一になるように決定されている
誘導加熱炉。
【請求項1】
誘導磁界が作用して発熱する輻射発熱体を誘導磁界発生手段から発生する誘導磁界によって誘導加熱して、前記輻射発熱体に相対する位置にある被加熱物を加熱する誘導加熱炉であって、
前記輻射発熱体は、
前記被加熱物の側に相対する面の面内放射率を、面内のそれぞれの箇所と前記誘導磁界発生手段との距離の二乗を、前記誘導磁界発生手段の経路について積分した値に反比例した相対差の放射率分布に設定して、前記被加熱物への放射熱を前記面内で均等にした
誘導加熱炉。
【請求項2】
前記輻射発熱体の前記被加熱物の側に相対する面に膜状の黒体近似物質を設け、
前記輻射発熱体の面内放射率の分布は、
前記輻射発熱体を形成する材料の放射率と、
前記面内に施工する黒体近似物質の放射率の差分に基づいて前記黒体近似物質の分布密度に差を設けて、部分的に放射率に差が形成されている
請求項1記載の誘導加熱炉。
【請求項3】
前記輻射発熱体は、
前記被加熱物に対向する1枚の板状体、または前記被加熱物を挟んで対向する2枚の板状体である
請求項1記載の誘導加熱炉。
【請求項4】
誘導磁界が作用して発熱する輻射発熱体を誘導磁界発生手段から発生する誘導磁界によって誘導加熱して、前記輻射発熱体に相対する位置にある被加熱物を加熱する誘導加熱炉であって、
前記輻射発熱体の前記被加熱物の側に相対する面に膜状の黒体近似物質を設け、
前記黒体近似物質の分布が、前記被加熱物を加熱する温度パターンに応じて決定されている
誘導加熱炉。
【請求項5】
誘導磁界が作用して発熱する輻射発熱体を誘導磁界発生手段から発生する誘導磁界によって誘導加熱して、前記輻射発熱体に相対する位置にある被加熱物を加熱する誘導加熱炉であって、
前記輻射発熱体は、前記被加熱物の側に相対する面の面内放射率が、前記誘導磁界発生手段によって前記輻射発熱体に発生する渦電流の強度の測定結果、または前記輻射発熱体の温度分布の測定結果に応じて、被加熱物への放射熱パターンが均一になるように決定されている
誘導加熱炉。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図6】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図6】
【公開番号】特開2013−105548(P2013−105548A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246982(P2011−246982)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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