説明

誘導加熱装置、誘導加熱装置の制御方法、及び制御プログラム

【課題】電源電圧を変化させることなく、振幅制御された略正弦波電流を誘導加熱コイルに流す。
【解決手段】誘導加熱コイル11,12,13と、この誘導加熱コイルに直列接続されたコンデンサ21,22,23と、直流電圧から変換させられた高周波電圧を前記誘導加熱コイル及び前記コンデンサの直列共振回路に印加する逆変換装置30,35,31と、前記逆変換装置を制御する制御回路50とを備える誘導加熱装置100であって、前記制御回路は、前記逆変換装置の出力電流の時間積分値が目標正弦波電流に収束するように、前記逆変換装置の出力電圧をPWM制御する。また、前記制御回路は、同期制御時定数を冷材を用いた場合の共振時定数(T=2L/R)よりも長くすることにより、前記出力電流の平均値を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱コイルに高周波電力を供給する逆変換装置を備える誘導加熱装置、誘導加熱装置の制御方法、及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ビレット(鋳塊)に鍛造や圧延、押出しを行って種々の製品に仕上げる前には、例えば整定温度1250℃までビレットを加熱して軟化させる必要がある。単一コイルで、棒状のビレットを整定温度に保とうとすると、温度分布が不均一になるので、スタンバイ時、スタンバイ時〜通常加熱に移行する場合など、過渡時に所定温度にならない無駄焼き材が発生することがある。また、両端部を整定温度に保とうとすると、中央部が高温になり、炉自体が溶解することもある。そこで、誘導加熱コイルを複数に分割して、分割された誘導加熱コイルごとに個別に高周波電源(例えば、インバータ)を接続して電力制御を行う誘導加熱装置が用いられる。
ところが、分割された各々の誘導加熱コイルは、誘導加熱コイル間の温度低下を防止するために、互いに近接させているので、相互インダクタンスMが存在し、相互誘導電圧が発生する状態となる。そのため、各インバータは、相互インダクタンスMを介して並列運転される状態となり、インバータ相互間で電流位相にズレがある場合はインバータ相互間で電力の授受が生じることがある。すなわち、各インバータの電流位相のズレによって、分割された誘導加熱コイル間で磁界に位相差が生じるため、隣接する誘導加熱コイルの境界付近で磁界が弱まり、誘導加熱電力による発熱密度が低下する。その結果、被加熱物(ビレットやウェハ)の表面に温度ムラが生じるおそれがある。
【0003】
そこで、隣接する誘導加熱コイル間に相互インダクタンスMが存在して相互誘導電圧が生じる状況下でも、インバータ相互間に循環電流が流れないようにすると共に、分割された誘導加熱コイルの境界付近で発熱密度が低下しないようにして、誘導加熱電力の適正な制御を行うことが可能な「ゾーンコントロール誘導加熱(Zone Controlled Induction Heating:ZCIH)」の技術が発明者等によって提案された(例えば、特許文献1参照)。このZCIHの技術によれば、各電源ユニットは、それぞれ、降圧チョッパと電圧形インバータ(以下、単にインバータという)とを備えて構成されている。そして、複数の電力供給ゾーンに分割された各電源ユニットは、分割されたそれぞれの誘導加熱コイルに個別に接続されて電力供給を行っている。
【0004】
このとき、各電源ユニットにおけるそれぞれのインバータは、電流同期制御(つまり、電流位相の同期制御)され、各インバータに流れる電流位相を一致させることにより、複数のインバータ相互間に循環電流が流れないようにしている。言い換えると、複数のインバータ相互間で電流の授受を起こさないようにして、インバータに流れ込む回生電力によって過電圧が発生することのないようにしている。また、インバータは、分割されたそれぞれの誘導加熱コイルに流れる電流位相を一致させることにより、各誘導加熱コイルの境界付近で誘導加熱電力による発熱密度が急激に低下しないようにしている。
【0005】
さらに、各降圧チョッパは、それぞれのインバータの入力直流電圧を可変することにより、各インバータの電流振幅制御を行い、各誘導加熱コイルに供給する誘導加熱電力の制御を行っている。すなわち、特許文献1に開示されたZCIHの技術は、各降圧チョッパごとに電流振幅制御を行うことにより、各ゾーンごとに誘導加熱コイルの電力制御を行い、各インバータの電流同期制御によって、複数のインバータ相互間の循環電流の抑制と、各誘導加熱コイルの境界付近での誘導加熱電力による発熱密度の均一化とを図っている。このようなZCIHの技術を用いて、降圧チョッパの制御系とインバータの制御系とが個別の制御を行うことで、被加熱物上の発熱分布を任意に制御することが可能となる。すなわち、特許文献1に開示されたZCIHの技術によって、急速かつ精密な温度制御、及び温度分布制御を行うことが可能となる。
【0006】
また、特許文献2には、複数の誘導加熱コイルに個別に接続したインバータに同時に直流電力を供給し、複数の誘導加熱コイルを同時に稼働させる技術が開示されている。具体的にこの技術は、直列共振回路に接続された各インバータからの出力電流のゼロクロスを検出し、各インバータの出力電流が負から正に変化するゼロクロスタイミングと、基準パルスの立ち上がりタイミングとを比較するようになっている。この技術は、比較により個別に算出される基準パルスからの位相差が0となるように、あるいは0に近づくように出力電流の周波数を調整することで各インバータの出力電流を同期させるものである。また、この技術は、各インバータの出力電流が同期した後には、インバータの出力電圧を増減させることで各誘導加熱コイルに流す電流の制御を行い、加熱対象物の温度分布の均一化を図るというものである。
【0007】
特許文献1,2に記載の技術のインバータは、過熱コイルと直列にコンデンサを接続し、電流共振逆変換装置を構成すると共に、各インバータにチョッパを接続することにより、ZVS(Zero Voltage Switching)を実現し、転流ダイオードのリカバリ損失を低減していた。
【0008】
また、特許文献3には、直流電力を供給する電源として単一の順変換装置(チョッパ)を複数の電流共振型逆変換装置に接続し、複数の共振型逆変換装置に共通に印加される電源電圧を変化させ、矩形波電圧の立ち上がりタイミングと共振電流のゼロクロスタイミングとの位相差を長くすることにより、ZVSを実現した回路が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−26750号公報
【特許文献2】特開2004−146283号公報
【特許文献3】特開2010−287447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1,2の技術は、各インバータの前段にチョッパを備えているので、装置が大がかりになるという問題があった。
また、従来のZCIHは、半導体用途であり、小型であるので、直列インダクタのインダクタンスが小さく、高周波向きである。このため、運転周波数が比較的低周波で、きわめて大容量の金属分野ZCIHには適用困難である。
また、直列コンデンサを介せず、誘導加熱コイルを直接接続している一般のPWMインバータは、隣接する誘導加熱コイルから到来する相互誘導電圧以上の電圧を発生する必要があり、インバータ容量が大きくなるという問題点がある。
【0011】
ところで、ビレットは、キュリー点を超えるような温度上昇による磁性体から非磁性体への変化や、被加熱物の形状変化(空隙変化)に起因する位相角変化(位相角低下)があり、固有共振周波数が高くなると共に、共振電流が約3倍になる特性を有する。
冷材 HOT材 空芯コイル
等価抵抗 R(比率) 1 0.3 0.15 (約7倍)
インダクタンス L(μH) 118 84 110
【0012】
固有共振周波数が変化するため、位相が変化し、常に位相遅れモードになる最小位相角にすることができないという問題があった。
【0013】
この点、特許文献3の技術は、単一のチョッパを用いて、複数の共振型逆変換装置に共通に印加される電源電圧を変化させることにより、矩形波電圧の立ち上がりタイミングと共振電流のゼロクロスタイミングとの間の位相差を長くしていた。すなわち、共振型逆変換装置に印加される電源電圧を変化させない限り、最大電力を供給する逆変換装置を最小位相角にすることができないという問題があった。
【0014】
また、急速加熱を行うビレット1本焼きは、共振電流が約3倍になるという特性から、電力ピーク値が大きくなる。インバータに順変換装置を1対1に設ける構成では、順変換装置やリアクトル、コンデンサまで大容量になり、高コストになるという問題が生じる。
【0015】
そこで、本発明は、電源電圧を変化させることなく、振幅制御された略正弦波電流を誘導加熱コイルに流すことができる誘導加熱装置、誘導加熱装置の制御方法、及び制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するため、本発明は、同期制御時定数を共振時定数(T=2L/R)より長くし、出力電流の時間積分値(すなわち、平均値)が目標正弦波電流になるように、出力電圧をPWM制御する(PWM非共振型インバータ)。これにより、逆変換装置は、PWM変調された等価正弦波電圧(高周波電圧)が発生し、この等価正弦波電圧がL−R時定数により平均化され、誘導加熱コイルには略正弦波電流が流れる。
複数ゾーンの場合は、最大電力ゾーン(例えば、2ゾーン)を共振型PWMインバータとし、最小位相角制御を行う。チョッパ無しでも隣接ゾーンを出力制御することができるので、周波数同一かつ電流同期させつつ、共振電流位相遅れモードにすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電源電圧を変化させることなく、振幅制御された略正弦波電流を誘導加熱コイルに流すことができる。このため、複数の誘導加熱コイル、及び複数の逆変換装置を用いた場合、固有共振周波数に追随させて、各誘導加熱コイルに流れる略共振電流を位相遅れモードにすることができる。なお、最大電力を供給する逆変換装置は、最小位相角制御を行うことにより変換器容量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態である誘導加熱装置に使用されるビレットヒータの断面図である。
【図2】本発明の一実施形態である誘導加熱装置の動作を説明するための等価回路図、及びベクトル図である。
【図3】本発明の一実施形態である誘導加熱装置の構成図である。
【図4】冷材とHOT材とで相違する共振特性を説明するための周波数特性図である。
【図5】等価正弦波電圧、及び平均値制御を説明するための説明図である。
【図6】逆変換装置を制御する制御ユニットのブロック構成図である。
【図7】IPMモジュールを用いた第2実施形態の回路図である。
【図8】IPMモジュールを用いた第3実施形態の回路図である。
【図9】高次共振防止リアクトルを用いた第4実施形態の回路図である。
【図10】矩形波電圧を用いたときの動作を説明するための波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の本実施形態につき詳細に説明する。なお、各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0020】
(第1実施形態)
(全体構成)
図1(a)(b)は、本発明の一実施形態である誘導加熱装置に使用されるビレットヒータの構造図であり、図2は、ビレットヒータの等価回路図、及び動作を説明するためのベクトル図であり、図3は、誘導加熱装置の回路構成図である。
図1(a)(b)に示すように、ビレットヒータ10は、加熱対象の円柱状のビレット(鋳塊)1を中心として、同心円状の耐火材、及び断熱材を備え、断熱材の外周表面に誘導加熱コイルが巻回されて構成されている。この耐火材、及び断熱材は、高温に熱せられたビレットの放熱を回避すると共に、コイル素線を溶断させないようにしている。なお、ビレット1の径は直径55mmである。
図1(a)の軸方向断面図において、誘導加熱コイルは、1ゾーンから3ゾーンまで、空隙を介して3分割されており、分割された誘導加熱コイル11,12,13から構成されている。なお、誘導加熱コイル12を誘導加熱中央コイルとい、誘導加熱コイル11,13を誘導加熱隣接コイルということがある。
【0021】
ビレット1を誘導加熱する場合、渦電流損が発生するので、誘導加熱コイル11,12,13は、等価インダクタと等価抵抗器との直列回路で等価的に表現される(図2(a))。また、図3に示すように、誘導加熱コイル11,12,13は、それぞれ直列にコンデンサ21,22,23が接続されている。したがって、誘導加熱コイル11,12,13、及びコンデンサ21,22,23の直列回路は、RLC直列共振回路と等価的に表され、その一端に出力電圧Vinvのインバータ電源Einvが接続され、他端に相互誘導電圧Vmの交流電源Emが接続されて表現される(図2(a))。これにより、インバータ電流Iin(実線矢印)が流れ、逆方向に相互誘導電流Im(破線矢印)が流れる。逆方向電流を流さないために、逆変換装置30,35,31(図3)の出力電圧Vinvは、相互誘導電圧Vmよりも高くなければならない。
【0022】
また、整定温度(1250°C)では、キュリー点(740°C〜770°C)を超えているので、ビレット1は、磁性体から非磁性体に変化する。このため、固有共振周波数が高くなると共に、共振電流が約3倍になる。相互誘導電圧Vmが周波数により位相が360°変化し、円形の軌跡を示すので(図2(b))、インバータ(逆変換装置35)の出力電圧(インバータ電圧Vinv)がどのような周波数でも遅れ位相(すなわち、共振電流が進み位相)にならないようにするためには、出力電圧(インバータ電圧Vinv)が隣接ゾーン(1,3ゾーン)から到来する相互誘導電圧Vm12,Vm32の和よりも大きな値(Vinv>(Vm12+Vm32))になるように設定する。1,3ゾーンから到来する相互誘導電圧Vm12,Vm32が等しいとき、Vinv>2|Vm|となり、Vinv=2|Vm|のときの位相角は、30°である(図2(c)のa点)。
【0023】
図3の回路構成図において、本発明の一実施形態である誘導加熱装置100は、2組のビレットヒータ10(10a、10b)と、2組のコンデンサユニット20(20a、20b)と、2組の逆変換装置30(30a,30b)、35(35a,35b)、31(31a,31b)と、順変換装置40と、制御ユニット50とを備えて構成される。
【0024】
ビレットヒータ10は、図1を用いて説明したように、インダクタンスをL1,L2,L3の誘導加熱コイル11,12,13を備え、誘導加熱コイル11,12の相互インダクタンスをM12とし、誘導加熱コイルL2,L3の相互インダクタンスをM23とする。なお、誘導加熱コイル11,13との間の距離は長いので、その相互インダクタンスは無視する。
【0025】
コンデンサユニット20は、キャパシタンスC01、C02,03の3つのコンデンサ21,22,23を内蔵している。コンデンサ21,22,23は、それぞれ誘導加熱コイル11,12,13と直列接続されており、LC共振回路を構成している。
【0026】
図4は、ビレットの冷材とHOT材とで変化する周波数特性を示す各ゾーンの周波数−電流特性図であり、図4(a)は1,3ゾーンの冷材の特性を示し、図4(b)は1,3ゾーンのHOT材の特性を示し、図4(c)は2ゾーンの冷材の特性を示し、図4(d)は2ゾーンのHOT材の特性を示している。図からわかるように、HOT材の方が冷材よりも電流が3倍に増加している。
【0027】
図4(b)(c)に示すように、1,3ゾーンのHOT時固有共振周波数(350Hz)が、最大電力ゾーン(2ゾーン)の冷材時固有共振周波数(400Hz)よりも低くなるようにコンデンサ21,22,23(図3)のキャパシタンスC01,C02,C03を設定する。
言い換えれば、1ゾーンに2,3ゾーンから相互誘導電圧(それぞれ、Vm21、Vm31)を受けたとき、1,3ゾーンの逆変換装置30の出力電圧(インバータ電圧Vinv)が、2、3ゾーンから到来する相互誘導電圧よりも高い値(Vinv>Vm21またはVinv>Vm31)になるように、コンデンサ21,22のキャパシタンスを設定する。同様に、3ゾーンの逆変換装置31の出力電圧(インバータ電圧Vinv)が、2,1ゾーンから到来する相互誘導電圧よりも高い値(Vinv>Vm23またはVinv>Vm13)になるように、コンデンサ22,23のキャパシタンスを設定する。
【0028】
また、HOT材の方が冷材よりも共振周波数が高くなるので、図4(c)(d)からわかるように、インバータ電圧Vinvを同一にしつつ、各々のゾーンで固有共振周波数の変化に追随させる制御を行うことにより、各ゾーンの共振電流を同等にすることができる。
すなわち、2ゾーンにおいて、固有共振点400Hzの冷材が、加熱され、HOT材になると、共振電流が3倍に増加すると共に、固有共振点が550Hzまで上昇する。550Hzの固有共振点に追随させることにより、共振電流が減少して、冷材の共振電流と同等に制御できる。このとき、1,3ゾーンは、固有共振周波数が350Hzに低く設定されているが、2ゾーンと同一周波数の550Hzで駆動することになるので、共振電流がさらに低減する。すなわち、2ゾーンから1,3ゾーンが受ける相互誘導電圧は変化しないので、逆変換装置30,31の出力電圧(インバータ電圧Vinv)は、低減する。
【0029】
図3に示す逆変換装置30(31)は、直列接続された電解コンデンサCF1,CF2と、2個のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)Q11,Q12(Q31,Q32)とを備え、ハーフブリッジ回路を構成し、コンデンサ21,23を介して、誘導加熱コイル11,13に電力を供給している。
【0030】
逆変換装置30(31)は、トランジスタQ11のエミッタ端とトランジスタQ12のコレクタ端とが接続され、トランジスタQ11のコレクタ端とトランジスタQ12のエミッタ端との間に直流電圧Vdcが印加され、直列接続された電解コンデンサCF1,CF2に直流電圧Vdcが印加される。
誘導加熱装置100は、トランジスタQ11のエミッタ端、及びトランジスタQ12のコレクタ端の接続点と、コンデンサ21の一端とが接続され、コンデンサ21の他端と誘導加熱コイル11の一端とが接続され、誘導加熱コイル11の他端と電解コンデンサCF1,CF2の接続点Pとが接続されている。
【0031】
逆変換装置35は、単一の電解コンデンサCF3と、4個のトランジスタQ21,Q22,Q23,Q24とを備え、フルブリッジ回路を構成し、コンデンサ22を介して誘導加熱コイル12に、逆変換装置30,31よりも大きな電力を供給している。
逆変換装置35は、トランジスタQ21のエミッタ端とトランジスタQ22のコレクタ端とが接続され、トランジスタQ23のエミッタ端とトランジスタQ24のコレクタ端とが接続され、トランジスタQ21,Q23のコレクタ端とトランジスタQ22,Q24のエミッタ端とに直流電圧Vdcが印加され、電解コンデンサCF3に直流電圧Vdcが印加される。トランジスタQ23のエミッタ端とトランジスタQ24のコレクタ端との接続点とコンデンサ22の一端とが接続され、コンデンサ22の他端と誘導加熱コイル12の一端とが接続されている。
また、トランジスタQ21のエミッタ端とトランジスタQ22のコレクタ端との接続点と、誘導加熱コイル12の他端とが接続されている。
【0032】
逆変換装置31は逆変換装置30と同様の構成であり、逆変換装置30b,35b,31bは逆変換装置30a,35a,31aと同一構成である。
順変換装置40は、ダイオードブリッジにより構成され、商用電源ACを用いて直流電圧Vdcを発生させて、第1の逆変換装置集合体(逆変換装置30a,35a,31a)及び第2の逆変換装置集合体(逆変換装置30b,35b,31b)に電力供給を行っている。なお、順変換装置40は、チョッパを用いておらず、逆変換装置30a,35a,31aには、同一の固定直流電圧Vdcが印加される。
【0033】
なお、コンデンサ21,22,23は、図4を用いて前記したように、1,3ゾーンのHOT時固有共振周波数が、最大電力ゾーン(2ゾーン)の冷材時固有共振周波数よりも低くなるようにキャパシタンスC01,C02,C03を設定する。
【0034】
(制御ユニットの機能)
制御ユニット50は、逆変換装置30,31,35内部のトランジスタ(IGBT)のゲートを制御するゲート信号を生成するものであり、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、CPU(Central Processing Unit)により構成され、CPUが所定のプログラムを実行することにより、下記の機能を実現する。
【0035】
1)全ゾーンを同一周波数、電流同期で運転する。
分割された誘導加熱コイル11,12,13は互いに近接しているので、相互誘導インダクタンスM12,M23が存在し、相互誘導電圧Vmが発生する状態となる。逆変換装置相互間で生じる電力の授受に伴って発生する誘導加熱コイル間での磁界の位相差を回避するために、1,2,3ゾーンを同一周波数で、かつ同期された正弦波電流で運転する。これにより、局所的に発熱量が低下して発熱ムラが発生する現象が回避される。
【0036】
2)制御ユニット50は、逆変換装置30,31をPWM非共振インバータとして機能させ、逆変換装置35をPWM共振インバータとして機能させている。具体的には、逆変換装置30,35,31は、ZVSを実現する必要があるので、所定のキャリア周波数の矩形波電圧を所定の運転周波数の正弦波信号(Sinωt)でPWM変調した矩形波状の等価正弦波電圧(フルブリッジ回路である逆変換装置35では図5(a))を発生する。この等価正弦波電圧は、L−R時定数((L1−C01)R時定数)により平均化され、誘導加熱コイル11,12,13には略正弦波形のコイル電流が流れる。そして、制御ユニット50は、同期制御時定数を共振時定数(T=2L/R)より長くさせる平均値制御を行い(図5(b)参照)、コイル電流の周波数が目標運転周波数、及び目標位相になるように、逆変換装置30,35,31の等価正弦波電圧を帰還制御する。なお、この目標位相は、等価正弦波を生成する正弦波信号が負から正に遷移するゼロクロス点と、略正弦波形のコイル電流が負から正に遷移するゼロクロス点との間の位相をいう。このように、制御ユニット50は、PWM制御により、キャリヤ周波数8kHzの三角波信号を用いて、運転周波数1kHzの等価正弦波信号を生成して、逆変換装置30,35,31内部のIGBTのゲートを制御している。
【0037】
しかしながら、逆変換装置30,35,31(特に、出力電力の大きな逆変換装置35)は、固定電源電圧でZVSを実現する必要があるので、制御ユニット50は、PWM制御で等価正弦波電圧を発生し、誘導加熱コイル11,13のL−R時定数((L1−C01)R時定数)により、略正弦波電流を流し、位相制御を行う。
具体的には、逆変換装置30,31は、同期制御時定数を共振時定数より長くして平均値制御(図5参照)を行っている。すなわち、制御ユニット50は、PWM制御により、キャリヤ周波数8kHzの三角波信号を用いて、周波数1kHzの等価正弦波信号を生成して、逆変換装置30,31内部のIGBTのゲートを制御している。
【0038】
3)最小位相角制御
最大電力を出力する2ゾーンの逆変換装置35は、固有共振周波数に追随させつつ最小位相角制御を行っている。以下、最小位相角制御について説明する。
最大出力ゾーン(2ゾーン)の最小位相角(例えば、30°)となるように制御する。
具体的には、前記したように、最小位相角は、出力電圧(インバータ電圧Vinv)が隣接ゾーン(1,3ゾーン)から到来する相互誘導電圧Vm12,Vm32の和よりも大きな値(Vinv>(Vm12+Vm32))になるように設定する。1,3ゾーンから到来する相互誘導電圧Vm12,Vm32が等しいとき、Vinv>2|Vm|となり(図2(c))、このときの最小位相角は、30°である。
【0039】
なお、固有共振周波数の変化があっても、常に他ゾーンから到来する相互誘導電圧Vmに勝るインバータ電圧Vinvを出すために、十分大きな位相角となる固定周波数で運転することも考えられる。しかしながら、以下の問題点が生じる。
a)十分に大きな位相角を付けていたので、高力率運転することができない。
b)相互誘導電圧Vmを超えるインバータ電圧Vinvを発生していたので、電圧電流定格(実効電力Vdc×Idc)に余裕が必要である。
【0040】
また、ZCIHでは、定格電力に対し最大比率で出力するゾーンが最小位相角となるので、1,3ゾーンのHOT材の固有共振点(350Hz)が2ゾーンの冷材の固有共振点(400Hz)よりも低くなるようにキャパシタンスを設定する(図2(a))。なお、1,3ゾーンは、コイル電圧が低いので、コンデンサが無くてもよい。
【0041】
(制御ユニットの構成)
次に、逆変換装置30,31,35の制御を行うための制御ユニット50の構成を具体的に説明する。
図6は、逆変換装置30,31,35を制御する制御ユニット50(50a)のブロック構成図であり、1,3ゾーンを制御する制御ユニットの構成図を示すが、2ゾーンの制御ユニットの構成図も同様である。制御ユニット50aは、外部にA/D変換器を備え、コイル電流iを検出する。
【0042】
制御ユニット50aは、振幅演算器201と、目標電流生成器202と、加算器203と、PI演算器204,208と、ゼロクロス検出器205と、電流同期用基準位相信号生成器206と、同期ズレ検出器207と、電圧指令値演算器209と、三角波比較器210と、周波数設定器211、位相角比較器215と、30°基準値生成器216と、比較器217,219と、PI制御器218とを備える。
【0043】
振幅演算器201は、コイル電流iをA/D変換した変換値Iの振幅を演算する。目標電流生成器202は、コイル電流iの目標値を生成する。加算器203は、目標電流生成器202の出力波形から、振幅演算器201の出力値を減算して誤差信号を出力する。PI制御器204は、加算器203が出力する誤差信号を比例積分演算する。
【0044】
ゼロクロス検出器205は、コイル電流iをA/D変換した値Iを用いて、コイル電流iが負から正に変化する時のゼロクロス点を演算する。電流同期用基準位相信号生成器206は、誘導加熱コイル11,12,13に流れるコイル電流を同期させるために、目標電流生成器202との位相差の基準値を出力する。この基準値は、2ゾーンの場合は、30°の最小位相角に設定され、1,3ゾーンの場合は、消費電力が小さいので最小位相角よりも大きな値でもよい。
同期ズレ検出器207は、電流同期用基準位相信号生成器206の出力値と、ゼロクロス検出器205の出力値との間の差分(同期ズレ)を検出する。PI制御器208は、同期ズレ検出器206の出力偏差を比例積分演算する。
【0045】
電圧指令値演算器209は、PI制御器204,208の出力信号、及び周波数指令値fに基づいて、運転周波数1kHzの正弦波形を示す電圧指令値Vinvを生成する。周波数設定器211は、キャリア周波数8kHzの値を出力する。三角波比較器210は、電圧指令値Vinvと周波数設定器211が設定したキャリア周波数の三角波信号とを比較して、PWM制御信号を生成する。PWM制御信号制御信号が、逆変換装置30,35,31に入力され、誘導加熱コイル11,12,13に流れるコイル電流iがIとして帰還されることにより、コイル電流iの振幅は運転周波数の正弦波信号の波形に収束し、コイル電流iが負から正に変化する時の位相が各ゾーンで一致する。また、正弦波形を示す電圧指令値Vinvのゼロクロス点と三角波信号の反転タイミングとは一致している。これにより、逆変換装置30,35,31の出力電圧Vinvは、電圧指令値Vinvがゼロクロスする時に、矩形波状電圧が正負反転するとともに、原点0で正負反転する前後の遷移タイミングとゼロクロス点との間の時間T1,T2(図5(a))が一致する。
【0046】
位相角比較器215は、ゼロクロス検出器205の出力位相と、電圧指令値演算器209が出力する電圧指令値Vinvの位相とを比較する。すなわち、位相角比較器215は、電圧指令値Vinvの正弦波信号とコイル電流iとの位相差を演算し、電圧−電流位相差θvを出力する。30°生成器216は、最小位相角である30°の値を出力する。
【0047】
比較器217は、位相角比較器215が出力する電圧−電流位相差θvと、30°の値とを比較し、電圧−電流位相差θvの値が30°よりも大きいときに、負の一定値を出力し、電圧−電流位相差θvの値が30°よりも小さいときに、正の一定値を出力する。このとき、比較器217は、他ゾーン(2,3ゾーン)からの電圧−電流位相差と、30°の値とも比較する。PI制御器218は、比較器217の出力信号を比例積分演算し、運転周波数約1kHzの周波数指令値fを電圧指令値演算器209に出力する。これにより、電圧−電流位相差θvの値が30°よりも大きいときに、周波数指令値fが低下するように帰還制御され、電圧−電流位相差θvの値が30°よりも小さいときに、周波数指令値fが上昇するように帰還制御される。
【0048】
比較器219は、電圧指令値Vinvと、他ゾーンからの相互誘導電圧Vmの2倍(2Vm)とを比較して、比較結果を電圧指令値演算器209に出力する。ここで、電圧指令値演算器209は、他ゾーンからの2Vmよりも電圧指令値Vinvが小さいとき、電圧指令値Vinvの値を上昇させるようにマイナーループで制御する。なお、1ゾーンが2,3ゾーンから受ける相互誘導電圧Vmは、Vm=(M12+M13)により演算される。
【0049】
(効果)
本実施形態によれば、最大出力ゾーン(2ゾーン)を対象とする逆変換装置35は、逆変換装置出力の矩形波電圧の立ち上がりタイミングとコイル電流が負から正に遷移するときのゼロクロスタイミングとの間の位相角が最小値になるよう制御される。
この最小位相角は、隣接ゾーン(1、3ゾーン)から相互誘導電圧(Vm12、Vm32)を受けたとき、最大出力ゾーンである中央ゾーン(2ゾーン)の逆変換装置35の出力電圧(インバータ電圧Vinv)が1,3ゾーンから到来する相互誘導電圧(Vm12、Vm32)の和よりも大きな値(Vinv>(Vm12+Vm32))になるように設定する。
また、隣接ゾーン(1、3ゾーン)は、キュリー点以上でのHOT時固有共振周波数が、(最大電力ゾーン(2ゾーン)の)冷材時固有共振周波数以下になるようにコンデンサ21,22,23のキャパシタンスを設定する。
すなわち、2ゾーンや3ゾーンから相互誘導電圧(Vm21,Vm31)を受けたとき、1ゾーンの逆変換装置30の出力電圧Vinvが相互誘導電圧Vm21,Vm31よりも高い値(Vinv>Vm21またはVinv>Vm31)になるように、コンデンサ21,22,23のキャパシタンスを設定する。
【0050】
逆変換装置30,35,31は、所定のキャリア周波数でPWM変調された等価正弦波電圧を発生し、この等価正弦波電圧がL−R時定数により平均化され、誘導加熱コイル11,12,13には略正弦波形のコイル電流が流れる。これにより、逆変換装置30,35,31は、ZVSにすることができるので、転流ダイオードがオン状態からオフ状態になることはなくリカバリ電流が発生しない。そして、逆変換装置30,35,31は、同期制御時定数を共振時定数(T=2L/R)より長くさせて、コイル電流の周波数が目標運転周波数、及び目標位相になるように、発生する等価正弦波電圧をPWM制御させる。すなわち、逆変換装置30,35,31は、PWM非共振型インバータとして機能する。これにより、高力率運転が可能になり、及びこれによる効率向上や、逆変換装置の低容量化を図ることができる。
【0051】
(第2実施形態)
前記第1実施形態は、逆変換装置30,31にハーフブリッジ回路を用い、逆変換装置35にフルブリッジ回路を用いて、独立した回路を構成していたが、3ゾーン構成では、3相IPM(Intelligent Power Module)モジュールを使用して並列接続することができる。
図7は、IPMモジュールを用いた逆変換装置、及びビレットヒータの回路図である。
IPMモジュールは、3相モータを駆動することを目的として、6個のIGBTと、6個の転流ダイオードとをモジュール化して、汎用化したものである。IPMモジュール60は、電源端子V+,V−と、出力端子U,V,Wと、ゲート端子とを備えている。
【0052】
誘導加熱装置101は、3個の誘導加熱コイル11,12,13の各々に対して、1個のIPMモジュール60を用いて、ハーフブリッジ回路を3回路構成にしたものであり、電源端子V+,V−の両端に直列接続された電解コンデンサCF1,CF2が接続され、直流電圧Vdcが印加される。出力端子U,V,Wは、それぞれ、コンデンサ24,25,26の一端が接続され、コンデンサ24,25,26の他端が誘導加熱コイル11,12,13の一端に接続され、誘導加熱コイル11,12,13の他端がコンデンサ27,28,29の一端に接続され、コンデンサ27,28,29の他端が一括して、電解コンデンサCF1,CF2の接続点Pに接続されている。なお、コンデンサ24,25,26,27,28,29のキャパシタンスは、コンデンサ21,22,23(図2)のキャパシタンスの2倍である。
【0053】
IPMモジュール60を用いることにより、簡易、小型のZCIHを実現することができるので、半導体の基板加熱の用途に用いて好適である。
【0054】
(第3実施形態)
第2実施形態は、IPMモジュールを1個用いたが、2個以上のIPMモジュールを並列接続して、大容量化を図ることができる。
図8は、第3実施形態のIPMモジュールを用いた逆変換装置、及びビレットヒータ周辺の回路図である。
誘導加熱装置102は、2個のIPMモジュール60a、60bと、電解コンデンサCF1,CF2と、コンデンサ24a,25a,26aと、コンデンサ27,28,29と、コンデンサ24b,25b,26bと誘導加熱コイル11,12,13とを備える。
【0055】
IPMモジュール60a,60bの電源端子V+,V−の両端に直列接続された電解コンデンサCF1,CF2が接続され、直流電圧Vdcが印加される。IPMモジュール60aの出力端子U1、V1,W1は、コンデンサ24a,25a,26aの一端に接続され、コンデンサ24a,25a,26aの他端は、誘導加熱コイル11,12,13の一端、及びコンデンサ24b,25b,26bの一端に接続され、誘導加熱コイル11,12,13の他端は、コンデンサ29,28,27の一端に接続され、コンデンサ29,28,27の他端は、一括して電解コンデンサCF1,CF2の接続点Pに接続される。また、コンデンサ24b,25b,26bの他端は、IPMモジュール60bの出力端子U2、V2,W2に接続される。
【0056】
本実施形態の誘導加熱装置102によれば、IPMモジュール60a,60bを用いたそれぞれの逆変換装置の出力電力が加算されるので、出力増大を図ることができる。
【0057】
(第4実施形態)
前記第1実施形態は、逆変換装置の電源側に電解コンデンサCF1のみを接続していたが、高次の電流成分が電源側に環流することを防止するために、逆変換装置毎に低域通過フィルタを設けることができる。
図9は、高次共振防止リアクトルを用いた第4実施形態の回路図である。
誘導加熱装置103は、第1実施形態と同様に、逆変換装置30,35,31とコンデンサ21,22,23と、誘導加熱コイル11,12,13とを備え、さらに、逆変換装置30,35,31の各々の電源側にLCローパスフィルタを構成する高次共振リアクトル73、及びコンデンサ74を備え、3個の高次共振リアクトル73の一端が接続されて、電解コンデンサ72の一端、及びチョークコイル71の一端に接続される。チョークコイル71の他端は、直流電圧Vdcが印加され、電解コンデンサ72の他端、及びコンデンサ74の他端は接地される。
【0058】
高次共振防止リアクトル73は、配線のインダクタンス(数μH)に追加することにより、コンデンサ74(例えば、1000μF)とで決まる共振周波数f0を高次共振周波数2f0よりも下げるように、そのインダクタンスを設定する。
これにより、相互誘導起電力Vmの高次共振周波数2f0の成分が、逆変換装置30,35,31の電源側に環流することを防止することができる。
【0059】
(第5実施形態)
前記各実施形態は、すべてのゾーン(1,2,3ゾーン)で、制御ユニット50は、逆変換装置30,35,31をPWM共振インバータとして機能させ、キャリア周波数の矩形波電圧(高周波電圧)を運転周波数の正弦波でPWM変調させ、等価正弦波を出力していた。加熱中心の2ゾーンは供給電力が多くなるので、制御ユニット50は、逆変換装置35を運転周波数の矩形波電圧を出力する電流共振型インバータとして機能させて、損失低減させることができる(特許文献3参照)。
すなわち、制御ユニット50は、逆変換装置35に対して、正弦波電流が負から正にゼロクロスするゼロクロスタイミングが矩形波駆動電圧の立ち上がりタイミングよりも遅れる共振電流位相遅れモードになるようにパルス幅を制御している。これにより、逆変換装置35内部の転流ダイオードの逆回復損失が発生しないようにしている。なお、この場合も、制御ユニット50は、逆変換装置30,31に対してはPWM共振インバータとして機能させている。
【0060】
図10は、矩形波電圧を用いたときの動作を説明するための波形図である。この波形図は、逆変換装置35の出力電圧Vinv(矩形波電圧波形)とその基本波電圧波形とコイル電流波形を示しており、縦軸は電圧・電流であり、横軸は位相(ωt)である。逆変換装置35の出力電圧Vinvは、実線で示される正負対称の奇関数波形(矩形波電圧波形)であり、その基本波が、破線の基本波電圧波形として示されている。出力電圧Vinvは、最大振幅が±Vdcであり、基本波電圧波形のゼロクロス点に対して制御角δの位相角が設定されている。すなわち、逆変換装置35の出力電圧Vinvの立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミングの双方と、基本波電圧波形のゼロクロスタイミングとが制御角δの位相差を有している。このとき、基本波電圧波形の振幅は、(4Vdc/π)・cosδであり、周波数は運転周波数(1kHz)である。
また、破線で示されるコイル電流波形iは、基本波電圧波形のゼロクロスタイミングよりも位相差θだけ遅れているいる正弦波である。
【0061】
(変形例)
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような種々の変形が可能である。
(1)前記第1実施形態は、誘導加熱コイル11,12,13に直列にコンデンサ24,25,26を接続していたが、1,3ゾーンの誘導加熱コイル11,13にはコンデンサ24,26を接続せずに直結することができる。
すなわち、1,3ゾーンは、供給電力が少ないので、コンデンサを追加することによりPWM非共振インバータとして機能させることができる。1,3ゾーンは、出力電圧Vinvを下げて、力率を下げたり、逆変換装置の容量を下げたりする必要が無いからである。
(2)前記第1実施形態は、逆変換装置30,35,31と、コンデンサ24,25,26、及び誘導加熱コイル11,12,13の直列回路とを直接接続していたが、整合変圧器を介して接続することができる。
例えば、電源電圧400Vdcのときに出力電圧Vinv=200Vacで足りる場合は、整合変圧器によりインバータの出力電流を小さくすることができるという点で有効である。
【0062】
(3)前記各実施形態は、ビレット1本焼きのビレットヒータ(図1)に電力供給する回路について説明していたが、縦型炉や、パンケーキ型の渦巻きコイルでも使用することができる。
縦型炉では、温度低下しやすい最下段ゾーンが最大出力に設定されるので、最小位相角制御の対象は、最下段ゾーンである。上のゾーンは、固有共振点が最下段ゾーンの固有共振点よりも低くなるようにコンデンサのキャパシタンスを設定する。
パンケーキ型の渦巻きコイルでは、最外周ゾーンが最大出力となるので、最外周ゾーンを位相角一定制御の対象にする。他のゾーンは、固有共振点が最外周ゾーンの固有共振点よりも下になるようにキャパシタンスを設定する。なお、中心コイル(特異点)の運転周波数は200kHz、その他は40kHzとする。
【0063】
(4)前記各実施形態は、金属ビレットの直接、誘導加熱していたが、非磁性体としてのグラファイトを誘導加熱して、半導体ウエハ等を間接加熱することができる。
最大出力を出すゾーンを最小位相角制御を行い、他ゾーンのコンデンサも固有共振点が最下段ゾーンの固有共振点よりも下になるようにキャパシタンスを設定する。
ソレノイドコイルによる縦形グラファイトチューブ加熱や、パンケーキコイルによる円板状グラファイト加熱に使用される。
なお、この場合は、加熱周波数=約20kHz〜50kHzでチョッパ+共振型インバータを用いる、ことが好ましい。
【符号の説明】
【0064】
10 ビレットヒータ
11,12,13 誘導加熱コイル
20 コンデンサユニット
21,22,23,24a,24b,25a,25b,26a,26b 直列コンデンサ
30,30a,30b,31,31a,31b,35,35a,35b, 逆変換装置
40 順変換装置
41 ダイオードブリッジ
42 電解コンデンサ
45 チョッパ
50,50a,50b 制御ユニット
55,56,57 A/D変換器
60,60a,60b IPMモジュール
71,73 リアクトル
72,74 コンデンサ
100,101,102,103 誘導加熱装置
201 振幅演算ユニット
202 目標電流生成器
203 加算器
204,208,218 PI制御器
205 ゼロクロス検出ユニット
206 電流同期用基準位相信号生成器
207 同期ズレ検出ユニット
209 電圧指令値演算器
210 三角波比較器
211 周波数設定器
215 位相角比較器
216 30°設定器
217、219 比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘導加熱コイルと、この誘導加熱コイルに直列接続されたコンデンサと、直流電圧から変換させられた高周波電圧を前記誘導加熱コイル及び前記コンデンサの直列共振回路に印加する逆変換装置と、前記逆変換装置を制御する制御回路とを備える誘導加熱装置であって、
前記制御回路は、前記逆変換装置の出力電流の時間積分値が目標正弦波電流に収束するように、前記逆変換装置の出力電圧をPWM制御することを特徴とする誘導加熱装置。
【請求項2】
前記制御回路は、冷材を用いた場合の前記直列共振回路の共振時定数よりも制御時定数を長くすることにより、前記出力電流の時間積分値を演算することを特徴とする請求項1に記載の誘導加熱装置。
【請求項3】
前記誘導加熱コイル、及び前記コンデンサは、偶数個備えられ、
前記逆変換装置は、高周波電圧が前記誘導加熱コイル、及び前記コンデンサの直列回路の各々に印加するように複数備えられ、
前記複数の誘導加熱コイルを隣接配置する誘導加熱中央コイルと、該誘導加熱中央コイルに直列接続される他のコンデンサと、高周波電圧が前記誘導加熱中央コイル及び前記他のコンデンサの直列回路に印加させる逆変換中央装置とがさらに備えられ、
複数の前記逆変換装置、及び前記逆変換中央装置は、同一電圧が印加させられ、
前記制御回路は、前記複数の逆変換装置、及び逆変換中央装置に対して、
前記複数の誘導加熱コイル、及び前記誘導加熱中央コイルに流れるコイル電流の位相を揃えるように周波数同一、かつ電流同期するように制御すると共に、
前記コイル電流のゼロクロスタイミングが前記高周波電圧のゼロクロスタイミングよりも遅れる共振電流位相遅れモードになるように制御することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の誘導加熱装置。
【請求項4】
前記制御回路は、前記逆変換中央装置の矩形波出力電圧と正弦波出力電流との位相差を略30度に制御することを特徴とする請求項3に記載の誘導加熱装置。
【請求項5】
前記高周波電圧は、正弦波信号と三角波信号とを比較して得られる矩形波状電圧を呈し、
前記高周波電圧のゼロクロスタイミングは、前記正弦波信号のゼロクロスタイミングであることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載の誘導加熱装置。
【請求項6】
前記コイル電流のゼロクロスタイミングは、前記正弦波信号のゼロクロス点よりも遅れることを特徴とする請求項5に記載の誘導加熱装置。
【請求項7】
前記逆変換装置は、フルブリッジ回路、及びハーフブリッジ回路の何れか一方により構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか一項に記載の誘導加熱装置。
【請求項8】
誘導加熱コイルと、この誘導加熱コイルに直列接続されたコンデンサと、直流電圧から変換させられた高周波電圧を前記誘導加熱コイル及び前記コンデンサの直列共振回路に印加する逆変換装置と、前記逆変換装置を制御する誘導加熱装置の制御方法であって、
前記逆変換装置の出力電流の時間積分値が目標正弦波電流に収束するように、前記逆変換装置の出力電圧をPWM制御することを特徴とする誘導加熱装置の制御方法。
【請求項9】
誘導加熱コイルと、この誘導加熱コイルに直列接続されたコンデンサと、直流電圧から変換させられた高周波電圧を前記誘導加熱コイル及び前記コンデンサの直列共振回路に印加する逆変換装置と、前記逆変換装置を制御する制御回路の制御プログラムであって、
前記逆変換装置の出力電流の時間積分値が目標正弦波電流に収束するような前記逆変換装置の出力電圧のPWM制御をコンピュータに実行させる制御回路の制御プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−199159(P2012−199159A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63529(P2011−63529)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】