誘導加熱調理器
【課題】鍋の素材に適した制御モードでインバータ回路を駆動することのできる誘導加熱調理器を得る。
【解決手段】通電比率制御モードでインバータ回路12を駆動している場合において、サーミスタ17により検知されたインバータ回路12の温度が、加熱コイル電流検知回路15により検知された電流値に対応する予め定められた閾値より高いときには、周波数制御モードに切り替えてインバータ回路12を駆動する。
【解決手段】通電比率制御モードでインバータ回路12を駆動している場合において、サーミスタ17により検知されたインバータ回路12の温度が、加熱コイル電流検知回路15により検知された電流値に対応する予め定められた閾値より高いときには、周波数制御モードに切り替えてインバータ回路12を駆動する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導加熱調理器として、加熱動作開始前に、天板上に載置された鍋の材質や直径等を判定し、載置された鍋の材質や直径に応じた制御モードによりインバータ回路を駆動して加熱コイルに高周波電流を供給するものが知られている。
しかしながら、このような従来の誘導加熱調理器においては、加熱動作中における鍋の置き換えや、加熱動作中に鍋温度が上昇することによる鍋の特性変化など、加熱動作開始後における負荷(鍋)の状態を正しく判断することが困難であった。このため、天板上に載置された鍋に適さない制御モードによってインバータ回路の駆動を継続してしまうことがあった。このような状態が継続すると、インバータ回路のスイッチング素子の損失増大、過温度上昇、並びに熱破壊が生じる可能性があった。
【0003】
上記のような事項を背景として、「前記制御手段は前記入力電流検知手段により検知した入力電流と、前記加熱コイル電流検知手段により検知した加熱コイル電流のいずれか、または両方が前記制御手段内に設定された閾値を超えると、動作中の加熱モードで想定されている負荷よりも抵抗値が低い鍋であると判定し、より抵抗値が低い鍋に適応する動作モードに前記インバータ回路の動作を遷移させる」という誘導加熱調理器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載の誘導加熱調理器は、加熱動作中における商用電源からの入力電流または加熱コイル電流の検出値から、負荷(鍋)の特性変化を検知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−3482号公報(第3頁、第5頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の誘導加熱調理器は、入力電流と加熱コイル電流により加熱中の鍋の抵抗値を判定することで、鍋の種別を判別している。このため、磁性鍋を、磁性鍋と比較して抵抗値の小さい非磁性鍋へと置き換えたような場合には、これを検知しうる。
しかしながら、例えばアルミ鍋の底面に磁性ステンレスを貼り付けた鍋(貼り付け鍋)のように、磁性鍋と同等の抵抗値を示すものについては、判別が困難であった。ここで例示した貼り付け鍋は、磁性鍋と比較してインダクタンスが小さく、共振周波数が高いという特性を有する。このため、この貼り付け鍋を磁性鍋と同条件で駆動すると、ターンオン時に大きな電流が流れてスイッチング損失が大きい動作状態となることから、インバータ回路を構成するスイッチング素子の過温度上昇を引き起こすという課題があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、鍋の素材に適した制御モードでインバータ回路を駆動することのできる誘導加熱調理器を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る誘導加熱調理器は、鍋を誘導加熱する加熱コイルと、交流電力を整流して直流電力に変換する直流電源回路と、前記直流電源回路の直流電流を高周波電流に変換して前記加熱コイルに供給するインバータ回路と、前記インバータ回路の温度を検知する回路温度検知手段と、前記加熱コイルに流れる電流を検知する加熱コイル電流検知手段と、前記インバータ回路の周波数を可変制御する周波数制御モード、及び前記インバータ回路の通電比率を可変制御する通電比率制御モードを含む制御モードのうちいずれかにより前記インバータ回路を駆動する制御回路とを備え、前記制御回路は、前記通電比率制御モードで前記インバータ回路を駆動している場合において、前記回路温度検知手段により検知された前記インバータ回路の温度が、前記加熱コイル電流検知手段により検知された電流値に対応する予め定められた閾値より高いときには、前記周波数制御モードに切り替えて前記インバータ回路を駆動するものである。
【0008】
本発明に係る誘導加熱調理器は、鍋の材質を判別する鍋材質判別手段を備え、前記制御回路は、加熱開始の指示を受けて前記インバータ回路の駆動を開始する場合において、前記鍋材質判別手段により磁性鍋と判別された鍋を加熱するときには、前記通電比率制御モードにより前記インバータ回路の駆動を開始するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、通電比率制御モードでインバータ回路を駆動している場合において、回路温度検知手段により検知されたインバータ回路の温度が所定の閾値より高いときには、周波数制御モードに切り替えてインバータ回路を駆動するようにした。このため、例えばアルミなどの低抵抗非磁性材質の鍋の底面に磁性ステンレスを施した鍋に対し、加熱開始時には通電比率制御モードで駆動が開始された場合であっても、加熱に適した周波数制御モードによる駆動に切り替えられる。したがって、上記のような鍋に適した制御モードでのインバータ回路の駆動が可能であり、上記のような鍋に対してデューティ制御が継続されることによるインバータ回路の過度な温度上昇や破壊を抑制することができる。
【0010】
また、本発明によれば、鍋の材質に応じた制御モードでインバータ回路を駆動するようにしたので、鍋の材質によって加熱コイルの損失を抑制することのできる加熱動作が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の上面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の右加熱口の回路構成図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器のスイッチング素子へのサーミスタの取付構成を説明する図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器のインバータ回路の駆動信号と入力電力の関係を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の入力電力と加熱コイル損失の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の入力電力と高電位側IGBTの損失の関係を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の動作の流れを示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器における調理器への入力電流と加熱コイルの電流値の関係に基づく鍋負荷の判別特性図である。
【図9】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の加熱コイル電流ピークと高電位側IGBTの温度の関係を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の、非磁性鍋載置状態におけるインバータ回路の駆動波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の上面図である。
鍋を載置する耐熱性のトッププレート1は、右加熱口2、左加熱口3及び中央加熱口4の合計3口の加熱口を有している。右加熱口2及び左加熱口3の下部には加熱コイル5及び加熱コイル6が設置され(なお、加熱コイル5及び加熱コイル6は、便宜上、実線で図示されている)、加熱口上部に載置された鍋を加熱コイルから発生する高周波磁界で誘導加熱する。トッププレート1にはさらに、使用者によるスイッチの操作を受け付けるとともに、誘導加熱調理器の加熱条件や使用者に対する情報を表示する操作・表示部7が設けられている。この操作・表示部7の操作により火力の調整及び加熱口の選択等が行われ、加熱状態の表示が行われる。この操作・表示部7は、表示手段として、例えば液晶パネル等の表示デバイスを備えている。操作・表示部7を加熱口毎に設けてもよいし、各加熱口に対応する操作部と表示部を一箇所にまとめて設けてもよく、具体的な構成を特に限定するものではない。
【0013】
図2は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の右加熱口の回路構成図である。なお、右加熱口2と左加熱口3は同様の回路構成であるため、ここでは、右加熱口2を例に説明する。
誘導加熱調理器は、商用電源9に接続され、交流電力を整流して直流電力に変換する直流電源回路11と、インバータ回路12と、入力電流検知回路10と、加熱コイル電流検知回路15と、加熱コイル5とを有している。
【0014】
入力電流検知回路10は、商用電源9から直流電源回路11へ入力される電流値を検知し、入力電流値に相当するアナログ電圧信号を制御回路8へ出力する。
【0015】
直流電源回路11は、ダイオードブリッジ21、チョークコイル22、平滑コンデンサ23で構成され、商用電源9から入力される交流電力を直流電力に変換して、インバータ回路12へ出力する。
【0016】
インバータ回路12は、スイッチング素子としてのIGBT24及びIGBT25が直流電源回路11の出力点に直列に接続されたいわゆるハーフブリッジ型のインバータと、IGBT25に並列に接続されたスナバコンデンサ14とを備える。インバータ回路12は、直流電源回路11から出力される直流電力を20kHz〜50kHz程度の高周波電力に変換して加熱コイル5及び共振コンデンサ16からなる共振回路に供給する。このようにすることで、加熱コイル5には数10Aの高周波電流が流れ、高周波磁界により、加熱コイル5の直上のトッププレート1上に載置された鍋を誘導加熱する。
【0017】
加熱コイル電流検知回路15(コイル電流検知手段)は、インバータ回路12と加熱コイル5の中間に設置されている。加熱コイル電流検知回路15は、加熱コイル5に流れる電流のピークを検知し、加熱コイル電流のピーク値に相当するアナログ電圧信号を制御回路8へ出力する。
【0018】
制御回路8は、入力電流検知回路10を介して検知した入力電流値と商用電源電圧の積算から入力電力を演算し、操作・表示部7の操作で使用者が設定した火力に相当する電力となるように、インバータ回路12に備えられたIGBT24及びIGBT25の駆動信号を変動させて、電力フィードバック制御を行う。
【0019】
サーミスタ17は、インバータ回路12の高電位側に配置されたIGBT24の近傍に配置され、IGBT24の温度に相当するアナログ電圧信号を制御回路8に出力する。本実施の形態1では、サーミスタ17は、本発明の回路温度検知手段に相当する。
【0020】
図3は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器のスイッチング素子へのサーミスタの取付構成を説明する図である。
図3に示すように、スイッチング素子であるIGBT24は、放熱フィン27に取り付けられている。放熱フィン27には、発熱部品としてはIGBT24のみが取り付けられている。すなわち、IGBT24は、インバータ回路12において低電位側に配置されたIGBT25や、直流電源回路11のダイオードブリッジ21に取り付けられる放熱フィン(図示せず)とは独立して、放熱フィン27に取り付けられている。すなわち、IGBT24は、IGBT25や他の発熱部品とは熱的に遮断されている。
【0021】
サーミスタ17は、放熱フィン27に対してネジ等によって固着されており、放熱フィン27を介してIGBT24と熱的に結合されている。サーミスタ17は、温度変化によって抵抗値が変動するため、放熱フィン27の温度によって抵抗値が変動する。サーミスタ17と電気的に接続された制御回路8は、サーミスタ17の抵抗値を電圧変化として読み込むことで、放熱フィン27を介してIGBT24の温度を検知する。放熱フィン27には、発熱部品としてはIGBT24のみが取り付けられていて他の発熱部品とは熱的に遮断されているので、サーミスタ17によって高電位側のIGBT24の温度のみを検知することができる。
【0022】
図4は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器のインバータ回路の駆動信号と入力電力の関係を説明する図である。図4において横軸はインバータ回路12の駆動周波数を示し、縦軸はIGBT24の通電比率を示している。
図4に示す符号30は、周波数制御における入力電力と周波数の関係を示し、符号31は、デューティ制御における入力電力と通電比率の関係を示している。
【0023】
符号30に示す周波数制御は、高電位側IGBT24の通電比率を50%程度に固定した状態で、周波数を23kHz〜50kHz程度の範囲で変動させて電力制御する方式である。図4には図示しないが、低電位側に配置されたIGBT25は、高電位側のIGBT24と逆の駆動信号で駆動される。周波数制御においては、図4に示すように、周波数が低いほど入力電力は大きくなる。
【0024】
一方、符号31に示すデューティ制御(通電比率制御)は、周波数を21kHz〜24kHz程度の可聴域近傍に固定した状態で、高電位側のIGBT24の通電比率を1%〜50%程度の範囲で変動させることによって電力制御を行う方式である。低電位側に配置されたIGBT25は高電位側のIGBT24と逆の駆動信号で駆動される。デューティ制御においては、図4に示すように、高電位側のIGBT24の通電比率が大きいほど入力電力は大きくなる。
【0025】
図5は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の入力電力と加熱コイル損失の関係を示す図である。図5において、符号30は、周波数制御で駆動を行った際の加熱コイル損失と入力電力の関係を示すライン、符号31は、デューティ制御で駆動を行った際の加熱コイル損失と入力電力の関係を示すラインである。
加熱コイル5の巻線は、周波数が高いほど表皮効果や近接効果の影響が顕著となるため、周波数が高いほど巻線損失が増大する。このため、相対的に駆動周波数が低いディーティ制御(符号31。図4参照)の方が、周波数制御(符号30)よりも加熱コイル損失が小さくなる傾向を示す。
【0026】
図6は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の入力電力と高電位側IGBTの損失の関係を示す図である。図6において、符号30は、周波数制御で駆動した際の高電位側IGBT24の損失、符号31は、デューティ制御で駆動した際の高電位側IGBT24の損失を示している。また、符号32は、高電位側IGBT24の許容損失を示している。なお、符号32で示す許容損失は、放熱フィン27や冷却風量により規定される冷却性能によって定まる値である。
【0027】
図6(a)は、トッププレート1に磁性鍋を載置した場合の入力電力と高電位側IGBT24の損失の関係を示す図である。磁性鍋を載置した場合は、周波数制御(符号30)と、デューティ制御(符号31)との間でIGBT24の損失の差が小さい。
図6(b)は、トッププレート1に非磁性鍋を載置した場合の入力電力と高電位側IGBT24の損失の関係を示す図である。非磁性鍋を載置した場合は、デューティ制御(符号31)は、周波数制御(符号30)と比較してIGBT24の損失が大きく、また、相対的に入力電力が小さい範囲における損失が顕著に大きい。
【0028】
また、許容損失32との関係を見ると、図6(a)では、周波数制御(符号30)、デューティ制御(符号31)ともに、入力電力の全範囲で許容損失32以下となっていることが示されている。一方、図6(b)では、デューティ制御(符号31)においては、相対的に入力電力が小さい範囲において、IGBT24の損失が許容損失32を超過する場合がある。
許容損失32は、放熱フィン27や冷却風量により規定される冷却性能によって定まる値であって一概に規定できるものではないが、少なくとも、非磁性鍋に対してデューティ制御を行うと、IGBT24の損失が許容損失に近い値となるかこれを超える可能性が高いことが分かる。
【0029】
図4〜図6に示した事項をまとめる。
まず、加熱コイル損失に着目すると、デューティ制御の方が、周波数制御よりも加熱コイル損失が小さい(図5参照)ことから、加熱コイル損失を抑えるという観点ではデューティ制御が好ましい。
一方、IGBT24の損失に着目すると、磁性鍋であればデューティ制御と周波数制御とでIGBT24の損失の差異が小さいが(図6(a)参照)、非磁性鍋の場合には、入力電力が小さい範囲において高電位側のIGBT24の損失が許容損失を超えうる(図6(b)参照)。
【0030】
このため、高電位側IGBT24の損失が許容損失以下となる駆動状態では、デューティ制御でインバータ回路12の駆動を行い、一方、高電位側IGBT24の損失が許容損失を超える駆動状態では、周波数制御でインバータ回路12を駆動する必要がある。
【0031】
そこで、実施の形態1の誘導加熱調理器は、加熱を開始した直後の負荷判定処理において、トッププレート1上に載置された鍋の種類を判別する。そして、負荷判定処理において磁性鍋が載置されていることが検知された場合には、制御回路8はデューティ制御でインバータ回路12を駆動し、非磁性鍋が載置されていることが検知された場合には、制御回路8は周波数制御でインバータ回路12を制御する。
そして、デューティ制御を行っている場合において、高電位側IGBT24の損失が許容損失以下となる駆動状態では、デューティ制御でインバータ回路12の駆動を行い、一方、高電位側IGBT24の損失が許容損失を超える駆動状態では、周波数制御でインバータ回路12を駆動するという制御を行う。
【0032】
以下、実施の形態1を示す誘導加熱調理器の動作について説明を行う。図7は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の動作の流れを示すフローチャートである。ここでは、使用者により右加熱口2に鍋が載置され、操作・表示部7に対して火力が設定されて加熱開始が指示されたものとする。
【0033】
制御回路8は、調理開始が指示されたことを検知すると(S1)、負荷判定処理を行う(S2)。
【0034】
ここで、負荷判定処理について説明する。
図8は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器における入力電流と加熱コイルの電流値の関係に基づく鍋負荷の判別特性図である。図8に示すように、トッププレート1に載置された鍋負荷の材質によって、入力電流と加熱コイルの電流値の関係が異なる。そして、制御回路8は、図8に示した関係をテーブル化して負荷判定テーブルとして内部に記憶している。
ステップS2において調理開始直後に行う負荷判定処理では、制御回路8は、負荷判定用の特定の駆動信号でインバータ回路12を駆動し、入力電流検知回路10の出力信号、及び加熱コイル電流検知回路15の出力信号を読み込む。そして、制御回路8は、図8に示す判別特性をテーブル化した負荷判定テーブルを参照し、入力電流及び加熱コイル電流ピーク値の読み込み値のマッピング状態から、載置された鍋種を判定する。本実施の形態1では、制御回路8が、本発明の鍋材質判別手段に相当する。
【0035】
ステップS2にて図8に示す無負荷、あるいはアルミ鍋や銅鍋等の低抵抗の非磁性材質からなる鍋が載置されたことを検知すると、制御回路8は、不適合鍋であることを操作・表示部7に表示するなどして使用者に報知し、加熱動作への移行を行わず、磁性鍋あるいは高抵抗非磁性鍋への置き換えを使用者に促す(S3)。
また、ステップS2にて高抵抗の非磁性鍋が載置されていることを検知すると、制御回路8は、インバータ回路12を周波数制御モードで電力制御して、設定された火力に相当する入力電力となるよう電力フィードバック制御を行い(S4)、加熱停止の指示があるまでこれを継続する(S5)。
また、ステップS2にて磁性鍋が載置されていることを検知すると、制御回路8は、インバータ回路12をデューティ制御(通電比率制御モード)で電力制御して、操作・表示部7にて設定された火力に相当する入力電力となるよう電力フィードバック制御を行う(S6)。
【0036】
そして、負荷判定処理にて磁性鍋が載置されていることを検知してデューティ制御を行っている場合には、第二の負荷判定処理を行う(S7)。
【0037】
ここで、第二の負荷判定処理について説明する。
上述のようにステップS2にて負荷判定処理を行って鍋種を判定するのであるが、近年は、アルミなどの低抵抗非磁性材質の鍋の底面に磁性ステンレスを張り合わせたような貼り付け鍋が多く存在する。図8において符号20は、貼り付け鍋のマッピング状態を示している。これら貼り付け鍋は、等価インダクタンスが高抵抗非磁性鍋と同等程度、等価抵抗値が磁性鍋と同等程度、という特性を有し、非磁性鍋と磁性鍋の中間的な特性を有する。そのため、従来のように加熱コイル電流と入力電流のマッピング状態から鍋種を判定する方式では、貼り付け鍋を正確に検知することが困難であった。一般に、貼り付け鍋や高抵抗非磁性鍋は、磁性鍋と比較して加熱コイル上に載置した状態での等価インダクタンスが小さく、高抵抗非磁性鍋の共振周波数は磁性鍋の共振周波数に比べて高い。このため、貼り付け鍋に対してデューティ制御で電力制御を行うと、周波数制御で駆動する場合に比べて駆動周波数と共振周波数とが近い状態で駆動される傾向が強くなる。駆動周波数と共振周波数とが近い状態でインバータ回路12を制御すると、スイッチング素子の損失が増大し、破壊に至る可能性もある。
【0038】
そこで、本実施の形態1の誘導加熱調理器は、貼り付け鍋等のデューティ制御に適さない鍋を検出することを目的とした第二の負荷判定処理を、デューティ制御中に行う。
【0039】
次に、第二の負荷判定処理の具体的内容を説明する。
本実施の形態1の第二の負荷判定処理においては、スイッチング素子であるIGBT24の温度を検知することによって、IGBT24の損失を検知し、これによって鍋がデューティ制御に適さない鍋であるか否かを判断する。
図9は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の加熱コイル電流ピークと高電位側IGBTの温度の関係を示す図である。図9において、符号33は、磁性鍋をデューティ制御した場合の高電位側IGBT24の温度特性を示すラインである。
仮に、ステップS2において磁性鍋であると判断しステップS6にてデューティ制御を行っている鍋が、実際に磁性鍋である場合には、IGBT24の温度は、加熱コイル電流のピークに応じて図9の符号33に示すラインのような値となる。
【0040】
ところが、ステップS2において磁性鍋であると判断しステップS6にてデューティ制御を行っている鍋が、実際には貼り付け鍋等のデューティ制御に適さない鍋であったとする。貼り付け鍋である場合、前述のようにIGBT24の損失が相対的に大きいため、IGBT24の温度も高くなる。すなわち、IGBT24の温度を検知することにより、IGBT24の損失を検知することができる。そこで、図9に符号34で示すように、IGBT24の許容損失以下の損失に対応するIGBT24の温度を、閾値(制御切り替え閾値)として予め設定しておく。そして、検知されたIGBT24の温度と閾値とを対比することにより、IGBT24の損失を判断する。
【0041】
ここで、IGBT24の損失を検知するに際し、IGBT24の温度を検知するという構成を採用する理由について説明する。
図10は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の、非磁性鍋載置状態におけるインバータ回路の駆動波形を示す図である。
【0042】
図10(a)は、非磁性鍋を周波数制御で駆動した際のIGBT24及びIGBT25のコレクタ電流波形、ゲート波形、及び加熱コイル5の電流波形である。
図10(a)に示すT1期間は、IGBT24に内蔵された還流ダイオードに電流が流れ、ターンオンがゼロ電流スイッチングとなるため、IGBT24にはスイッチング損失が発生しない。図10(a)に示すT2期間には、IGBT24のコレクタからエミッタ方向に電流が流れ、IGBT24のコレクタ電流ピークIcpは、加熱コイル5の電流ピークIlpと一致する。ここで、加熱コイル電流検知回路15は、加熱コイル5に流れるピーク電流を検知している。このため、加熱コイル電流検知回路15が加熱コイルに電流ピークを検知することで、これと一致するコレクタ電流ピークIcpを検知することができる。
【0043】
図10(b)は、非磁性鍋をデューティ制御で駆動した際のIGBT24及びIGBT25のコレクタ電流波形、ゲート波形、及び加熱コイル5の電流波形である。
図10(b)に示すT1期間は、高電位側IGBT24のターンオン時はスナバコンデンサ14へ大きな突入電流が流れるため、IGBT24のターンオンはゼロ電流スイッチングとならず、周波数制御と比較して大きなスイッチング損失が発生する。
ここで、加熱コイル電流検知回路15は加熱コイル5に流れるピーク電流を検知しているが、T1期間にスナバコンデンサ14へ流れる突入電流は加熱コイル5に流れないため、加熱コイル電流検知回路15で検知した加熱コイル電流ピークIlpと、IGBT24に流れる電流ピークIcpは一致しない。
【0044】
ここで、スイッチング素子としてのIGBTで発生する損失は、導通損失とスイッチング損失とに大別される。導通損失はIGBTに流れる電流とコレクタ−エミッタ間の飽和電圧の積で発生する損失、スイッチング損失はターンオン時のスイッチング損失とターンオフ時のスイッチング損失の和である。
上述の図10(a)で示した周波数制御のようにターンオンがゼロ電流スイッチングとなる場合、導通損失とスイッチング損失はIGBT24の電流ピークIcpに依存する傾向を有する。そのため、ターンオンがゼロ電流スイッチングとなり、かつ、コレクタ電流ピークIcpが判っている場合、IGBT24で発生するIGBT損失もIGBT24の電流ピークIcpに依存する傾向を有するため、加熱コイル電流検知回路15で検知した加熱コイル電流ピークIlpから、IGBT24の損失を推定することができる。
【0045】
一方、図10(b)で示したデューティ制御のようにターンオン時に過大な突入電流が発生するような駆動状態の場合、加熱コイル電流検知回路15で加熱コイル5の電流ピークIlpを検知することによってT2期間に流れるコレクタ電流のピークを検知しても、ターンオン時のIGBT24の電流ピークIcpを検知することはできない。このため、デューティ制御においては、ターンオン時に発生する過大な損失を検知できず、加熱コイル電流ピークIlpからIGBT24で発生する損失を検知することができない。
【0046】
すなわち、高抵抗の非磁性鍋や貼り付け鍋に対してステップS6にてデューティ制御を行っている場合、例えば特許文献1に記載のように加熱コイル電流ピークIlpを検知しても、IGBT24で発生する損失を検知することができず、IGBT24の損失が許容損失を超えてしまう可能性がある。
そこで、本実施の形態1の誘導加熱調理器では、サーミスタ17で検出するIGBT24の温度に基づいてIGBT24で発生する損失を検知するという構成を採用している。
【0047】
図7の説明に戻る。
ステップS7の第二の負荷判定処理において、制御回路8は、サーミスタ17によるIGBT24の温度検知結果と、加熱コイル電流検知回路15の加熱コイル電流ピークの検知結果を読み込む。制御回路8は、加熱コイル電流ピークに対するIGBT24の温度と、予め定めた閾値34(制御切り替え閾値)とを比較することにより、想定されるIGBT24の損失よりも大きい損失が発生しているか否かを判定する(S7)。
【0048】
そして、加熱コイル電流ピークに対するIGBT24の温度が、予め定めた閾値以下であれば(S7;No)、制御回路8は、加熱停止指示があるまでデューティ制御を継続する(S8)。一方、加熱コイル電流ピークに対するIGBT24の温度が、予め定めた閾値を超過している場合には(S7;Yes)、想定されるIGBT24の損失よりも大きい損失が発生している(すなわち、載置されている鍋が、デューティ制御に適さない高抵抗非磁性鍋や貼り付け鍋である)ものと判定し、制御回路8は、インバータ回路12の制御をデューティ制御から周波数制御に移行させる(S9)。
【0049】
ステップS9にてデューティ制御から周波数制御モードに遷移させる際、駆動周波数を同じままとすると、入力電力が急激に上昇することになる。よって、デューティ制御から周波数制御に遷移させる際には、制御回路8は、まずは周波数制御の最低電力となる駆動周波数(図4の周波数50kHz)に変更する。そして、入力電流検知回路10の出力信号を元にして入力電力をチェックしながら駆動周波数を下降させ、操作・表示部7に設定された火力に対応した目標電力となる駆動周波数で駆動する。
【0050】
以上のように、実施の形態1では、加熱開始指示を受けてから行う負荷判定処理において載置された鍋種を判定し、鍋種によってデューティ制御と周波数制御を切り替えるようにした。このため、鍋の材質に応じたインバータ回路の駆動が可能であり、加熱コイルの損失を低減することができる。
また、デューティ制御での加熱動作中において、第二の負荷検知処理を行い、加熱コイル電流ピークに対するインバータ回路の温度を用いてスイッチング素子の損失を判定するようにした。このため、負荷検知処理にて判別できない貼り付け鍋については、第二の負荷検知処理においてこれを検知することができる。したがって、例えば貼り付け鍋等のデューティ制御に適さない鍋に対してデューディ制御での駆動を継続する、といったことを抑制することができる。これにより、スイッチング素子の過温度上昇や、スイッチング素子の破壊に至る事態を未然に防ぐことができる。
【0051】
また、インバータの回路の温度は、インバータ回路を構成する2つのスイッチング素子のうち、損失の大きい高電位側のスイッチング素子(実施の形態1のIGBT24)の近傍で検知しているため、高電位側スイッチング素子の損失増大によるインバータ回路の温度上昇を、反応よく検知することができる。
【0052】
また、高電位側に配置されたスイッチング素子は、独立して放熱フィンに配置されているため、損失の大きい高電位側のスイッチング素子の温度を直接検知することができる。
【0053】
また、デューティ制御から周波数制御への遷移時は、周波数制御における最低電力(最低火力の電力)の駆動周波数でインバータ回路を駆動して周波数制御での駆動を開始するため、モード遷移時の急激な火力上昇や、急激な電流増加による素子のロス増加及び破壊を防止することができる。
【0054】
なお、インバータ回路のうち、損失の大きい高電位側に配置されたスイッチング素子は、例えば炭化珪素などのワイドバンドギャップ半導体により形成するようにしてもよい。このワイドバンドギャップ半導体としては、これに限らず、例えば窒化ガリウム系材料またはダイヤモンドなどでもよい。
【0055】
このようなワイドバンドギャップ半導体によって形成されたスイッチング素子やダイオード素子は、耐電圧性が高く、許容電流密度も高いため、スイッチング素子の小型化が可能であり、これら小型化されたスイッチング素子を用いることにより、これらの素子を組み込んだ半導体モジュールの小型化が可能となる。
また耐熱性も高いため、ヒートシンクの放熱フィンの小型化や、水冷部の空冷化が可能であるので、半導体モジュールの一層の小型化が可能になる。
さらに、電力損失が低いため、スイッチング素子の高効率化が可能であり、延いては半導体モジュールの高効率化が可能になる。
【符号の説明】
【0056】
1 トッププレート、2 右加熱口、3 左加熱口、4 中央加熱口、5 加熱コイル、6 加熱コイル、7 操作・表示部、8 制御回路、9 商用電源、10 入力電流検知回路、11 直流電源回路、12 インバータ回路、14 スナバコンデンサ、15 加熱コイル電流検知回路、16 共振コンデンサ、17 サーミスタ、21 ダイオードブリッジ、22 チョークコイル、23 平滑コンデンサ、24 IGBT、25 IGBT、27 放熱フィン。
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱調理器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導加熱調理器として、加熱動作開始前に、天板上に載置された鍋の材質や直径等を判定し、載置された鍋の材質や直径に応じた制御モードによりインバータ回路を駆動して加熱コイルに高周波電流を供給するものが知られている。
しかしながら、このような従来の誘導加熱調理器においては、加熱動作中における鍋の置き換えや、加熱動作中に鍋温度が上昇することによる鍋の特性変化など、加熱動作開始後における負荷(鍋)の状態を正しく判断することが困難であった。このため、天板上に載置された鍋に適さない制御モードによってインバータ回路の駆動を継続してしまうことがあった。このような状態が継続すると、インバータ回路のスイッチング素子の損失増大、過温度上昇、並びに熱破壊が生じる可能性があった。
【0003】
上記のような事項を背景として、「前記制御手段は前記入力電流検知手段により検知した入力電流と、前記加熱コイル電流検知手段により検知した加熱コイル電流のいずれか、または両方が前記制御手段内に設定された閾値を超えると、動作中の加熱モードで想定されている負荷よりも抵抗値が低い鍋であると判定し、より抵抗値が低い鍋に適応する動作モードに前記インバータ回路の動作を遷移させる」という誘導加熱調理器が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に記載の誘導加熱調理器は、加熱動作中における商用電源からの入力電流または加熱コイル電流の検出値から、負荷(鍋)の特性変化を検知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−3482号公報(第3頁、第5頁、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の誘導加熱調理器は、入力電流と加熱コイル電流により加熱中の鍋の抵抗値を判定することで、鍋の種別を判別している。このため、磁性鍋を、磁性鍋と比較して抵抗値の小さい非磁性鍋へと置き換えたような場合には、これを検知しうる。
しかしながら、例えばアルミ鍋の底面に磁性ステンレスを貼り付けた鍋(貼り付け鍋)のように、磁性鍋と同等の抵抗値を示すものについては、判別が困難であった。ここで例示した貼り付け鍋は、磁性鍋と比較してインダクタンスが小さく、共振周波数が高いという特性を有する。このため、この貼り付け鍋を磁性鍋と同条件で駆動すると、ターンオン時に大きな電流が流れてスイッチング損失が大きい動作状態となることから、インバータ回路を構成するスイッチング素子の過温度上昇を引き起こすという課題があった。
【0006】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、鍋の素材に適した制御モードでインバータ回路を駆動することのできる誘導加熱調理器を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る誘導加熱調理器は、鍋を誘導加熱する加熱コイルと、交流電力を整流して直流電力に変換する直流電源回路と、前記直流電源回路の直流電流を高周波電流に変換して前記加熱コイルに供給するインバータ回路と、前記インバータ回路の温度を検知する回路温度検知手段と、前記加熱コイルに流れる電流を検知する加熱コイル電流検知手段と、前記インバータ回路の周波数を可変制御する周波数制御モード、及び前記インバータ回路の通電比率を可変制御する通電比率制御モードを含む制御モードのうちいずれかにより前記インバータ回路を駆動する制御回路とを備え、前記制御回路は、前記通電比率制御モードで前記インバータ回路を駆動している場合において、前記回路温度検知手段により検知された前記インバータ回路の温度が、前記加熱コイル電流検知手段により検知された電流値に対応する予め定められた閾値より高いときには、前記周波数制御モードに切り替えて前記インバータ回路を駆動するものである。
【0008】
本発明に係る誘導加熱調理器は、鍋の材質を判別する鍋材質判別手段を備え、前記制御回路は、加熱開始の指示を受けて前記インバータ回路の駆動を開始する場合において、前記鍋材質判別手段により磁性鍋と判別された鍋を加熱するときには、前記通電比率制御モードにより前記インバータ回路の駆動を開始するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、通電比率制御モードでインバータ回路を駆動している場合において、回路温度検知手段により検知されたインバータ回路の温度が所定の閾値より高いときには、周波数制御モードに切り替えてインバータ回路を駆動するようにした。このため、例えばアルミなどの低抵抗非磁性材質の鍋の底面に磁性ステンレスを施した鍋に対し、加熱開始時には通電比率制御モードで駆動が開始された場合であっても、加熱に適した周波数制御モードによる駆動に切り替えられる。したがって、上記のような鍋に適した制御モードでのインバータ回路の駆動が可能であり、上記のような鍋に対してデューティ制御が継続されることによるインバータ回路の過度な温度上昇や破壊を抑制することができる。
【0010】
また、本発明によれば、鍋の材質に応じた制御モードでインバータ回路を駆動するようにしたので、鍋の材質によって加熱コイルの損失を抑制することのできる加熱動作が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の上面図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の右加熱口の回路構成図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器のスイッチング素子へのサーミスタの取付構成を説明する図である。
【図4】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器のインバータ回路の駆動信号と入力電力の関係を説明する図である。
【図5】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の入力電力と加熱コイル損失の関係を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の入力電力と高電位側IGBTの損失の関係を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の動作の流れを示すフローチャートである。
【図8】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器における調理器への入力電流と加熱コイルの電流値の関係に基づく鍋負荷の判別特性図である。
【図9】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の加熱コイル電流ピークと高電位側IGBTの温度の関係を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の、非磁性鍋載置状態におけるインバータ回路の駆動波形を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の上面図である。
鍋を載置する耐熱性のトッププレート1は、右加熱口2、左加熱口3及び中央加熱口4の合計3口の加熱口を有している。右加熱口2及び左加熱口3の下部には加熱コイル5及び加熱コイル6が設置され(なお、加熱コイル5及び加熱コイル6は、便宜上、実線で図示されている)、加熱口上部に載置された鍋を加熱コイルから発生する高周波磁界で誘導加熱する。トッププレート1にはさらに、使用者によるスイッチの操作を受け付けるとともに、誘導加熱調理器の加熱条件や使用者に対する情報を表示する操作・表示部7が設けられている。この操作・表示部7の操作により火力の調整及び加熱口の選択等が行われ、加熱状態の表示が行われる。この操作・表示部7は、表示手段として、例えば液晶パネル等の表示デバイスを備えている。操作・表示部7を加熱口毎に設けてもよいし、各加熱口に対応する操作部と表示部を一箇所にまとめて設けてもよく、具体的な構成を特に限定するものではない。
【0013】
図2は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の右加熱口の回路構成図である。なお、右加熱口2と左加熱口3は同様の回路構成であるため、ここでは、右加熱口2を例に説明する。
誘導加熱調理器は、商用電源9に接続され、交流電力を整流して直流電力に変換する直流電源回路11と、インバータ回路12と、入力電流検知回路10と、加熱コイル電流検知回路15と、加熱コイル5とを有している。
【0014】
入力電流検知回路10は、商用電源9から直流電源回路11へ入力される電流値を検知し、入力電流値に相当するアナログ電圧信号を制御回路8へ出力する。
【0015】
直流電源回路11は、ダイオードブリッジ21、チョークコイル22、平滑コンデンサ23で構成され、商用電源9から入力される交流電力を直流電力に変換して、インバータ回路12へ出力する。
【0016】
インバータ回路12は、スイッチング素子としてのIGBT24及びIGBT25が直流電源回路11の出力点に直列に接続されたいわゆるハーフブリッジ型のインバータと、IGBT25に並列に接続されたスナバコンデンサ14とを備える。インバータ回路12は、直流電源回路11から出力される直流電力を20kHz〜50kHz程度の高周波電力に変換して加熱コイル5及び共振コンデンサ16からなる共振回路に供給する。このようにすることで、加熱コイル5には数10Aの高周波電流が流れ、高周波磁界により、加熱コイル5の直上のトッププレート1上に載置された鍋を誘導加熱する。
【0017】
加熱コイル電流検知回路15(コイル電流検知手段)は、インバータ回路12と加熱コイル5の中間に設置されている。加熱コイル電流検知回路15は、加熱コイル5に流れる電流のピークを検知し、加熱コイル電流のピーク値に相当するアナログ電圧信号を制御回路8へ出力する。
【0018】
制御回路8は、入力電流検知回路10を介して検知した入力電流値と商用電源電圧の積算から入力電力を演算し、操作・表示部7の操作で使用者が設定した火力に相当する電力となるように、インバータ回路12に備えられたIGBT24及びIGBT25の駆動信号を変動させて、電力フィードバック制御を行う。
【0019】
サーミスタ17は、インバータ回路12の高電位側に配置されたIGBT24の近傍に配置され、IGBT24の温度に相当するアナログ電圧信号を制御回路8に出力する。本実施の形態1では、サーミスタ17は、本発明の回路温度検知手段に相当する。
【0020】
図3は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器のスイッチング素子へのサーミスタの取付構成を説明する図である。
図3に示すように、スイッチング素子であるIGBT24は、放熱フィン27に取り付けられている。放熱フィン27には、発熱部品としてはIGBT24のみが取り付けられている。すなわち、IGBT24は、インバータ回路12において低電位側に配置されたIGBT25や、直流電源回路11のダイオードブリッジ21に取り付けられる放熱フィン(図示せず)とは独立して、放熱フィン27に取り付けられている。すなわち、IGBT24は、IGBT25や他の発熱部品とは熱的に遮断されている。
【0021】
サーミスタ17は、放熱フィン27に対してネジ等によって固着されており、放熱フィン27を介してIGBT24と熱的に結合されている。サーミスタ17は、温度変化によって抵抗値が変動するため、放熱フィン27の温度によって抵抗値が変動する。サーミスタ17と電気的に接続された制御回路8は、サーミスタ17の抵抗値を電圧変化として読み込むことで、放熱フィン27を介してIGBT24の温度を検知する。放熱フィン27には、発熱部品としてはIGBT24のみが取り付けられていて他の発熱部品とは熱的に遮断されているので、サーミスタ17によって高電位側のIGBT24の温度のみを検知することができる。
【0022】
図4は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器のインバータ回路の駆動信号と入力電力の関係を説明する図である。図4において横軸はインバータ回路12の駆動周波数を示し、縦軸はIGBT24の通電比率を示している。
図4に示す符号30は、周波数制御における入力電力と周波数の関係を示し、符号31は、デューティ制御における入力電力と通電比率の関係を示している。
【0023】
符号30に示す周波数制御は、高電位側IGBT24の通電比率を50%程度に固定した状態で、周波数を23kHz〜50kHz程度の範囲で変動させて電力制御する方式である。図4には図示しないが、低電位側に配置されたIGBT25は、高電位側のIGBT24と逆の駆動信号で駆動される。周波数制御においては、図4に示すように、周波数が低いほど入力電力は大きくなる。
【0024】
一方、符号31に示すデューティ制御(通電比率制御)は、周波数を21kHz〜24kHz程度の可聴域近傍に固定した状態で、高電位側のIGBT24の通電比率を1%〜50%程度の範囲で変動させることによって電力制御を行う方式である。低電位側に配置されたIGBT25は高電位側のIGBT24と逆の駆動信号で駆動される。デューティ制御においては、図4に示すように、高電位側のIGBT24の通電比率が大きいほど入力電力は大きくなる。
【0025】
図5は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の入力電力と加熱コイル損失の関係を示す図である。図5において、符号30は、周波数制御で駆動を行った際の加熱コイル損失と入力電力の関係を示すライン、符号31は、デューティ制御で駆動を行った際の加熱コイル損失と入力電力の関係を示すラインである。
加熱コイル5の巻線は、周波数が高いほど表皮効果や近接効果の影響が顕著となるため、周波数が高いほど巻線損失が増大する。このため、相対的に駆動周波数が低いディーティ制御(符号31。図4参照)の方が、周波数制御(符号30)よりも加熱コイル損失が小さくなる傾向を示す。
【0026】
図6は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の入力電力と高電位側IGBTの損失の関係を示す図である。図6において、符号30は、周波数制御で駆動した際の高電位側IGBT24の損失、符号31は、デューティ制御で駆動した際の高電位側IGBT24の損失を示している。また、符号32は、高電位側IGBT24の許容損失を示している。なお、符号32で示す許容損失は、放熱フィン27や冷却風量により規定される冷却性能によって定まる値である。
【0027】
図6(a)は、トッププレート1に磁性鍋を載置した場合の入力電力と高電位側IGBT24の損失の関係を示す図である。磁性鍋を載置した場合は、周波数制御(符号30)と、デューティ制御(符号31)との間でIGBT24の損失の差が小さい。
図6(b)は、トッププレート1に非磁性鍋を載置した場合の入力電力と高電位側IGBT24の損失の関係を示す図である。非磁性鍋を載置した場合は、デューティ制御(符号31)は、周波数制御(符号30)と比較してIGBT24の損失が大きく、また、相対的に入力電力が小さい範囲における損失が顕著に大きい。
【0028】
また、許容損失32との関係を見ると、図6(a)では、周波数制御(符号30)、デューティ制御(符号31)ともに、入力電力の全範囲で許容損失32以下となっていることが示されている。一方、図6(b)では、デューティ制御(符号31)においては、相対的に入力電力が小さい範囲において、IGBT24の損失が許容損失32を超過する場合がある。
許容損失32は、放熱フィン27や冷却風量により規定される冷却性能によって定まる値であって一概に規定できるものではないが、少なくとも、非磁性鍋に対してデューティ制御を行うと、IGBT24の損失が許容損失に近い値となるかこれを超える可能性が高いことが分かる。
【0029】
図4〜図6に示した事項をまとめる。
まず、加熱コイル損失に着目すると、デューティ制御の方が、周波数制御よりも加熱コイル損失が小さい(図5参照)ことから、加熱コイル損失を抑えるという観点ではデューティ制御が好ましい。
一方、IGBT24の損失に着目すると、磁性鍋であればデューティ制御と周波数制御とでIGBT24の損失の差異が小さいが(図6(a)参照)、非磁性鍋の場合には、入力電力が小さい範囲において高電位側のIGBT24の損失が許容損失を超えうる(図6(b)参照)。
【0030】
このため、高電位側IGBT24の損失が許容損失以下となる駆動状態では、デューティ制御でインバータ回路12の駆動を行い、一方、高電位側IGBT24の損失が許容損失を超える駆動状態では、周波数制御でインバータ回路12を駆動する必要がある。
【0031】
そこで、実施の形態1の誘導加熱調理器は、加熱を開始した直後の負荷判定処理において、トッププレート1上に載置された鍋の種類を判別する。そして、負荷判定処理において磁性鍋が載置されていることが検知された場合には、制御回路8はデューティ制御でインバータ回路12を駆動し、非磁性鍋が載置されていることが検知された場合には、制御回路8は周波数制御でインバータ回路12を制御する。
そして、デューティ制御を行っている場合において、高電位側IGBT24の損失が許容損失以下となる駆動状態では、デューティ制御でインバータ回路12の駆動を行い、一方、高電位側IGBT24の損失が許容損失を超える駆動状態では、周波数制御でインバータ回路12を駆動するという制御を行う。
【0032】
以下、実施の形態1を示す誘導加熱調理器の動作について説明を行う。図7は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の動作の流れを示すフローチャートである。ここでは、使用者により右加熱口2に鍋が載置され、操作・表示部7に対して火力が設定されて加熱開始が指示されたものとする。
【0033】
制御回路8は、調理開始が指示されたことを検知すると(S1)、負荷判定処理を行う(S2)。
【0034】
ここで、負荷判定処理について説明する。
図8は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器における入力電流と加熱コイルの電流値の関係に基づく鍋負荷の判別特性図である。図8に示すように、トッププレート1に載置された鍋負荷の材質によって、入力電流と加熱コイルの電流値の関係が異なる。そして、制御回路8は、図8に示した関係をテーブル化して負荷判定テーブルとして内部に記憶している。
ステップS2において調理開始直後に行う負荷判定処理では、制御回路8は、負荷判定用の特定の駆動信号でインバータ回路12を駆動し、入力電流検知回路10の出力信号、及び加熱コイル電流検知回路15の出力信号を読み込む。そして、制御回路8は、図8に示す判別特性をテーブル化した負荷判定テーブルを参照し、入力電流及び加熱コイル電流ピーク値の読み込み値のマッピング状態から、載置された鍋種を判定する。本実施の形態1では、制御回路8が、本発明の鍋材質判別手段に相当する。
【0035】
ステップS2にて図8に示す無負荷、あるいはアルミ鍋や銅鍋等の低抵抗の非磁性材質からなる鍋が載置されたことを検知すると、制御回路8は、不適合鍋であることを操作・表示部7に表示するなどして使用者に報知し、加熱動作への移行を行わず、磁性鍋あるいは高抵抗非磁性鍋への置き換えを使用者に促す(S3)。
また、ステップS2にて高抵抗の非磁性鍋が載置されていることを検知すると、制御回路8は、インバータ回路12を周波数制御モードで電力制御して、設定された火力に相当する入力電力となるよう電力フィードバック制御を行い(S4)、加熱停止の指示があるまでこれを継続する(S5)。
また、ステップS2にて磁性鍋が載置されていることを検知すると、制御回路8は、インバータ回路12をデューティ制御(通電比率制御モード)で電力制御して、操作・表示部7にて設定された火力に相当する入力電力となるよう電力フィードバック制御を行う(S6)。
【0036】
そして、負荷判定処理にて磁性鍋が載置されていることを検知してデューティ制御を行っている場合には、第二の負荷判定処理を行う(S7)。
【0037】
ここで、第二の負荷判定処理について説明する。
上述のようにステップS2にて負荷判定処理を行って鍋種を判定するのであるが、近年は、アルミなどの低抵抗非磁性材質の鍋の底面に磁性ステンレスを張り合わせたような貼り付け鍋が多く存在する。図8において符号20は、貼り付け鍋のマッピング状態を示している。これら貼り付け鍋は、等価インダクタンスが高抵抗非磁性鍋と同等程度、等価抵抗値が磁性鍋と同等程度、という特性を有し、非磁性鍋と磁性鍋の中間的な特性を有する。そのため、従来のように加熱コイル電流と入力電流のマッピング状態から鍋種を判定する方式では、貼り付け鍋を正確に検知することが困難であった。一般に、貼り付け鍋や高抵抗非磁性鍋は、磁性鍋と比較して加熱コイル上に載置した状態での等価インダクタンスが小さく、高抵抗非磁性鍋の共振周波数は磁性鍋の共振周波数に比べて高い。このため、貼り付け鍋に対してデューティ制御で電力制御を行うと、周波数制御で駆動する場合に比べて駆動周波数と共振周波数とが近い状態で駆動される傾向が強くなる。駆動周波数と共振周波数とが近い状態でインバータ回路12を制御すると、スイッチング素子の損失が増大し、破壊に至る可能性もある。
【0038】
そこで、本実施の形態1の誘導加熱調理器は、貼り付け鍋等のデューティ制御に適さない鍋を検出することを目的とした第二の負荷判定処理を、デューティ制御中に行う。
【0039】
次に、第二の負荷判定処理の具体的内容を説明する。
本実施の形態1の第二の負荷判定処理においては、スイッチング素子であるIGBT24の温度を検知することによって、IGBT24の損失を検知し、これによって鍋がデューティ制御に適さない鍋であるか否かを判断する。
図9は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の加熱コイル電流ピークと高電位側IGBTの温度の関係を示す図である。図9において、符号33は、磁性鍋をデューティ制御した場合の高電位側IGBT24の温度特性を示すラインである。
仮に、ステップS2において磁性鍋であると判断しステップS6にてデューティ制御を行っている鍋が、実際に磁性鍋である場合には、IGBT24の温度は、加熱コイル電流のピークに応じて図9の符号33に示すラインのような値となる。
【0040】
ところが、ステップS2において磁性鍋であると判断しステップS6にてデューティ制御を行っている鍋が、実際には貼り付け鍋等のデューティ制御に適さない鍋であったとする。貼り付け鍋である場合、前述のようにIGBT24の損失が相対的に大きいため、IGBT24の温度も高くなる。すなわち、IGBT24の温度を検知することにより、IGBT24の損失を検知することができる。そこで、図9に符号34で示すように、IGBT24の許容損失以下の損失に対応するIGBT24の温度を、閾値(制御切り替え閾値)として予め設定しておく。そして、検知されたIGBT24の温度と閾値とを対比することにより、IGBT24の損失を判断する。
【0041】
ここで、IGBT24の損失を検知するに際し、IGBT24の温度を検知するという構成を採用する理由について説明する。
図10は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱調理器の、非磁性鍋載置状態におけるインバータ回路の駆動波形を示す図である。
【0042】
図10(a)は、非磁性鍋を周波数制御で駆動した際のIGBT24及びIGBT25のコレクタ電流波形、ゲート波形、及び加熱コイル5の電流波形である。
図10(a)に示すT1期間は、IGBT24に内蔵された還流ダイオードに電流が流れ、ターンオンがゼロ電流スイッチングとなるため、IGBT24にはスイッチング損失が発生しない。図10(a)に示すT2期間には、IGBT24のコレクタからエミッタ方向に電流が流れ、IGBT24のコレクタ電流ピークIcpは、加熱コイル5の電流ピークIlpと一致する。ここで、加熱コイル電流検知回路15は、加熱コイル5に流れるピーク電流を検知している。このため、加熱コイル電流検知回路15が加熱コイルに電流ピークを検知することで、これと一致するコレクタ電流ピークIcpを検知することができる。
【0043】
図10(b)は、非磁性鍋をデューティ制御で駆動した際のIGBT24及びIGBT25のコレクタ電流波形、ゲート波形、及び加熱コイル5の電流波形である。
図10(b)に示すT1期間は、高電位側IGBT24のターンオン時はスナバコンデンサ14へ大きな突入電流が流れるため、IGBT24のターンオンはゼロ電流スイッチングとならず、周波数制御と比較して大きなスイッチング損失が発生する。
ここで、加熱コイル電流検知回路15は加熱コイル5に流れるピーク電流を検知しているが、T1期間にスナバコンデンサ14へ流れる突入電流は加熱コイル5に流れないため、加熱コイル電流検知回路15で検知した加熱コイル電流ピークIlpと、IGBT24に流れる電流ピークIcpは一致しない。
【0044】
ここで、スイッチング素子としてのIGBTで発生する損失は、導通損失とスイッチング損失とに大別される。導通損失はIGBTに流れる電流とコレクタ−エミッタ間の飽和電圧の積で発生する損失、スイッチング損失はターンオン時のスイッチング損失とターンオフ時のスイッチング損失の和である。
上述の図10(a)で示した周波数制御のようにターンオンがゼロ電流スイッチングとなる場合、導通損失とスイッチング損失はIGBT24の電流ピークIcpに依存する傾向を有する。そのため、ターンオンがゼロ電流スイッチングとなり、かつ、コレクタ電流ピークIcpが判っている場合、IGBT24で発生するIGBT損失もIGBT24の電流ピークIcpに依存する傾向を有するため、加熱コイル電流検知回路15で検知した加熱コイル電流ピークIlpから、IGBT24の損失を推定することができる。
【0045】
一方、図10(b)で示したデューティ制御のようにターンオン時に過大な突入電流が発生するような駆動状態の場合、加熱コイル電流検知回路15で加熱コイル5の電流ピークIlpを検知することによってT2期間に流れるコレクタ電流のピークを検知しても、ターンオン時のIGBT24の電流ピークIcpを検知することはできない。このため、デューティ制御においては、ターンオン時に発生する過大な損失を検知できず、加熱コイル電流ピークIlpからIGBT24で発生する損失を検知することができない。
【0046】
すなわち、高抵抗の非磁性鍋や貼り付け鍋に対してステップS6にてデューティ制御を行っている場合、例えば特許文献1に記載のように加熱コイル電流ピークIlpを検知しても、IGBT24で発生する損失を検知することができず、IGBT24の損失が許容損失を超えてしまう可能性がある。
そこで、本実施の形態1の誘導加熱調理器では、サーミスタ17で検出するIGBT24の温度に基づいてIGBT24で発生する損失を検知するという構成を採用している。
【0047】
図7の説明に戻る。
ステップS7の第二の負荷判定処理において、制御回路8は、サーミスタ17によるIGBT24の温度検知結果と、加熱コイル電流検知回路15の加熱コイル電流ピークの検知結果を読み込む。制御回路8は、加熱コイル電流ピークに対するIGBT24の温度と、予め定めた閾値34(制御切り替え閾値)とを比較することにより、想定されるIGBT24の損失よりも大きい損失が発生しているか否かを判定する(S7)。
【0048】
そして、加熱コイル電流ピークに対するIGBT24の温度が、予め定めた閾値以下であれば(S7;No)、制御回路8は、加熱停止指示があるまでデューティ制御を継続する(S8)。一方、加熱コイル電流ピークに対するIGBT24の温度が、予め定めた閾値を超過している場合には(S7;Yes)、想定されるIGBT24の損失よりも大きい損失が発生している(すなわち、載置されている鍋が、デューティ制御に適さない高抵抗非磁性鍋や貼り付け鍋である)ものと判定し、制御回路8は、インバータ回路12の制御をデューティ制御から周波数制御に移行させる(S9)。
【0049】
ステップS9にてデューティ制御から周波数制御モードに遷移させる際、駆動周波数を同じままとすると、入力電力が急激に上昇することになる。よって、デューティ制御から周波数制御に遷移させる際には、制御回路8は、まずは周波数制御の最低電力となる駆動周波数(図4の周波数50kHz)に変更する。そして、入力電流検知回路10の出力信号を元にして入力電力をチェックしながら駆動周波数を下降させ、操作・表示部7に設定された火力に対応した目標電力となる駆動周波数で駆動する。
【0050】
以上のように、実施の形態1では、加熱開始指示を受けてから行う負荷判定処理において載置された鍋種を判定し、鍋種によってデューティ制御と周波数制御を切り替えるようにした。このため、鍋の材質に応じたインバータ回路の駆動が可能であり、加熱コイルの損失を低減することができる。
また、デューティ制御での加熱動作中において、第二の負荷検知処理を行い、加熱コイル電流ピークに対するインバータ回路の温度を用いてスイッチング素子の損失を判定するようにした。このため、負荷検知処理にて判別できない貼り付け鍋については、第二の負荷検知処理においてこれを検知することができる。したがって、例えば貼り付け鍋等のデューティ制御に適さない鍋に対してデューディ制御での駆動を継続する、といったことを抑制することができる。これにより、スイッチング素子の過温度上昇や、スイッチング素子の破壊に至る事態を未然に防ぐことができる。
【0051】
また、インバータの回路の温度は、インバータ回路を構成する2つのスイッチング素子のうち、損失の大きい高電位側のスイッチング素子(実施の形態1のIGBT24)の近傍で検知しているため、高電位側スイッチング素子の損失増大によるインバータ回路の温度上昇を、反応よく検知することができる。
【0052】
また、高電位側に配置されたスイッチング素子は、独立して放熱フィンに配置されているため、損失の大きい高電位側のスイッチング素子の温度を直接検知することができる。
【0053】
また、デューティ制御から周波数制御への遷移時は、周波数制御における最低電力(最低火力の電力)の駆動周波数でインバータ回路を駆動して周波数制御での駆動を開始するため、モード遷移時の急激な火力上昇や、急激な電流増加による素子のロス増加及び破壊を防止することができる。
【0054】
なお、インバータ回路のうち、損失の大きい高電位側に配置されたスイッチング素子は、例えば炭化珪素などのワイドバンドギャップ半導体により形成するようにしてもよい。このワイドバンドギャップ半導体としては、これに限らず、例えば窒化ガリウム系材料またはダイヤモンドなどでもよい。
【0055】
このようなワイドバンドギャップ半導体によって形成されたスイッチング素子やダイオード素子は、耐電圧性が高く、許容電流密度も高いため、スイッチング素子の小型化が可能であり、これら小型化されたスイッチング素子を用いることにより、これらの素子を組み込んだ半導体モジュールの小型化が可能となる。
また耐熱性も高いため、ヒートシンクの放熱フィンの小型化や、水冷部の空冷化が可能であるので、半導体モジュールの一層の小型化が可能になる。
さらに、電力損失が低いため、スイッチング素子の高効率化が可能であり、延いては半導体モジュールの高効率化が可能になる。
【符号の説明】
【0056】
1 トッププレート、2 右加熱口、3 左加熱口、4 中央加熱口、5 加熱コイル、6 加熱コイル、7 操作・表示部、8 制御回路、9 商用電源、10 入力電流検知回路、11 直流電源回路、12 インバータ回路、14 スナバコンデンサ、15 加熱コイル電流検知回路、16 共振コンデンサ、17 サーミスタ、21 ダイオードブリッジ、22 チョークコイル、23 平滑コンデンサ、24 IGBT、25 IGBT、27 放熱フィン。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鍋を誘導加熱する加熱コイルと、
交流電力を整流して直流電力に変換する直流電源回路と、
前記直流電源回路の直流電流を高周波電流に変換して前記加熱コイルに供給するインバータ回路と、
前記インバータ回路の温度を検知する回路温度検知手段と、
前記加熱コイルに流れる電流を検知する加熱コイル電流検知手段と、
前記インバータ回路の周波数を可変制御する周波数制御モード、及び前記インバータ回路の通電比率を可変制御する通電比率制御モードを含む制御モードのうちいずれかにより前記インバータ回路を駆動する制御回路とを備え、
前記制御回路は、
前記通電比率制御モードで前記インバータ回路を駆動している場合において、
前記回路温度検知手段により検知された前記インバータ回路の温度が、前記加熱コイル電流検知手段により検知された電流値に対応する予め定められた閾値より高いときには、前記周波数制御モードに切り替えて前記インバータ回路を駆動する
ことを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項2】
前記鍋の材質を判別する鍋材質判別手段を備え、
前記制御回路は、
加熱開始の指示を受けて前記インバータ回路の駆動を開始する場合において、
前記鍋材質判別手段により磁性鍋と判別された鍋を加熱するときには、前記通電比率制御モードにより前記インバータ回路の駆動を開始する
ことを特徴とする請求項1記載の誘導加熱調理器。
【請求項3】
前記インバータ回路は、前記直流電源回路の出力に対して直列接続された2つのスイッチング素子を備え、
前記回路温度検知手段は、前記直流電源回路の出力の高電位側に配置されたスイッチング素子の温度を検知する
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の誘導加熱調理器。
【請求項4】
前記高電位側に配置されたスイッチング素子は、前記直流電源回路の出力の低電位側に配置されたスイッチング素子とは熱的に遮断されている
ことを特徴とする請求項3記載の誘導加熱調理器。
【請求項5】
前記高電位側に配置されたスイッチング素子は、前記直流電源回路の出力の低電位側に配置されたスイッチング素子とは独立して放熱フィンに取り付けられている
ことを特徴とする請求項4記載の誘導加熱調理器。
【請求項6】
前記制御回路は、前記通電比率制御モードから前記周波数制御モードへの切り替え時において前記周波数制御モードで前記インバータ回路の駆動を開始する際には、前記周波数制御モードにおける最低入力電力となる駆動周波数で前記インバータ回路の駆動を開始する
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の誘導加熱調理器。
【請求項7】
前記インバータ回路を構成するスイッチング素子の少なくとも1つは、ワイドバンドギャップ半導体により形成されている
ことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の誘導加熱調理器。
【請求項8】
前記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料、またはダイヤモンドである
ことを特徴とする請求項7記載の誘導加熱調理器。
【請求項1】
鍋を誘導加熱する加熱コイルと、
交流電力を整流して直流電力に変換する直流電源回路と、
前記直流電源回路の直流電流を高周波電流に変換して前記加熱コイルに供給するインバータ回路と、
前記インバータ回路の温度を検知する回路温度検知手段と、
前記加熱コイルに流れる電流を検知する加熱コイル電流検知手段と、
前記インバータ回路の周波数を可変制御する周波数制御モード、及び前記インバータ回路の通電比率を可変制御する通電比率制御モードを含む制御モードのうちいずれかにより前記インバータ回路を駆動する制御回路とを備え、
前記制御回路は、
前記通電比率制御モードで前記インバータ回路を駆動している場合において、
前記回路温度検知手段により検知された前記インバータ回路の温度が、前記加熱コイル電流検知手段により検知された電流値に対応する予め定められた閾値より高いときには、前記周波数制御モードに切り替えて前記インバータ回路を駆動する
ことを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項2】
前記鍋の材質を判別する鍋材質判別手段を備え、
前記制御回路は、
加熱開始の指示を受けて前記インバータ回路の駆動を開始する場合において、
前記鍋材質判別手段により磁性鍋と判別された鍋を加熱するときには、前記通電比率制御モードにより前記インバータ回路の駆動を開始する
ことを特徴とする請求項1記載の誘導加熱調理器。
【請求項3】
前記インバータ回路は、前記直流電源回路の出力に対して直列接続された2つのスイッチング素子を備え、
前記回路温度検知手段は、前記直流電源回路の出力の高電位側に配置されたスイッチング素子の温度を検知する
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の誘導加熱調理器。
【請求項4】
前記高電位側に配置されたスイッチング素子は、前記直流電源回路の出力の低電位側に配置されたスイッチング素子とは熱的に遮断されている
ことを特徴とする請求項3記載の誘導加熱調理器。
【請求項5】
前記高電位側に配置されたスイッチング素子は、前記直流電源回路の出力の低電位側に配置されたスイッチング素子とは独立して放熱フィンに取り付けられている
ことを特徴とする請求項4記載の誘導加熱調理器。
【請求項6】
前記制御回路は、前記通電比率制御モードから前記周波数制御モードへの切り替え時において前記周波数制御モードで前記インバータ回路の駆動を開始する際には、前記周波数制御モードにおける最低入力電力となる駆動周波数で前記インバータ回路の駆動を開始する
ことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の誘導加熱調理器。
【請求項7】
前記インバータ回路を構成するスイッチング素子の少なくとも1つは、ワイドバンドギャップ半導体により形成されている
ことを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の誘導加熱調理器。
【請求項8】
前記ワイドバンドギャップ半導体は、炭化珪素、窒化ガリウム系材料、またはダイヤモンドである
ことを特徴とする請求項7記載の誘導加熱調理器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2013−54873(P2013−54873A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191212(P2011−191212)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000176866)三菱電機ホーム機器株式会社 (1,201)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【出願人】(000176866)三菱電機ホーム機器株式会社 (1,201)
【Fターム(参考)】
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