説明

誘導溶解炉

【課題】溶解室の上部の耐火材粉体層と、湯口を形成する耐火セメントとの接合部に生じた隙間から、出湯時に溶解金属が浸入することによる湯漏れ検出網の誤作動を防止した誘導溶解炉を提供するものである。
【解決手段】内側を耐火材焼結層1Aで、外側を耐火材粉体層1Bでルツボ形に形成された溶解室2の外周に、コイル4をスパイラル状に巻回し、このコイル4を保持する円筒状のコイルセメント3の内側の、前記溶解室2の外周の耐火材粉体層1Bとの間に、湯漏れ検出網6を設けて、耐火セメント8で形成された湯口9から溶解金属5を出湯するルツボ形の誘導溶解炉において、前記溶解室上部の湯口側の耐火材粉体層1Bを、湯口先端の出湯口10側に膨出させて段部12を形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湯漏れ検出網を設けた誘導溶解炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に誘導溶解炉は、図5に示すように、耐火材1で形成されたルツボ形の溶解室2を、円筒状のコイルセメント3で囲んで、その外周にスパイラル状に巻回したコイル4を設けて構成されている。この誘導溶解炉を築炉する方法は、スパイラル状に巻回したコイル4をコイルセメント3で保持して、この内側に耐火材粉体を突き固めてルツボ形に成形してから、内側に円筒状の金属筒を挿着し、コイル4に通電することにより金属筒が誘導加熱されて溶解し、この時の熱によって、耐火材粉体の内側が焼結されて耐火材焼結層1Aが形成され、この外側は耐火材粉体層1Bのままの溶解室2が形成される。
【0003】
また溶解室2の耐火材焼結層1Aは、長期間の繰業を繰り返しているうちに侵食、損耗、亀裂等が進行し、溶解金属5が外部に洩れる恐れがある。この湯洩れ事故を事前に検出するためにコイルセメント3の内側と、溶解室2の耐火材粉体層1Bとの間に、湯漏れ検出網6が設けられている。
【0004】
この湯漏れ検出網6は、正常な場合には微少電流が流れているが、溶解室2を形成している耐火材1の侵食が進んで炉壁が薄くなったり亀裂が入ると溶解金属5と湯漏れ検出網6との間の電気抵抗が変化して、検出回路に流れる電流が増加することにより炉壁の状態を測定することができる。
【0005】
このように誘導溶解炉を築炉した後は、溶解する金属をルツボ形の溶解室2内に投入し、コイル4に通電することにより、金属が誘導加熱されて溶解する。溶解室2で溶解した溶解金属5は、誘導溶解炉を傾動させて、耐火セメント8で形成された湯口9を通して先端の出湯口10から、樋や取鍋等に注湯し、ここから鋳型に鋳込むことにより鋳物製品を製造している。
【0006】
溶解室2で溶解した溶解金属5を、湯口9から樋や取鍋に注湯する際に、溶解室2の上部の耐火材粉体層1Bと、湯口9を形成する耐火セメント8との接合部を通過することになる。長期間の操業を繰り返す間に耐火材焼結層1Aは、次第に侵食、損耗等が進行して、この外側の耐火材粉体層1Bが順次内側から焼結されて耐火材焼結層1Aとなっていく。
【0007】
このように耐火材粉体層1Bの膨張、収縮を繰り返す間に、湯口9を形成する耐火セメント8との接合部との間に次第に隙間11を生じることになる。出湯時にこの隙間11から溶解金属5が入り込むが、耐火材粉体層1Bの厚さが薄くなってくると、ここで吸収・固化されずに隙間11を通って浸入し、コイルセメント3の内面に貼り付けられた湯漏れ検出網6に達すると、短絡して検出の誤動作を起こす問題がある。
【0008】
このように隙間11から浸入した溶解金属5により湯洩れの警報が出れば、溶解室2を形成する炉壁の侵食、損耗、亀裂による溶解金属5の湯漏れか、隙間11から浸入した溶解金属による誤動作かどうか判断できないので、安全のために操業を停止して、溶解室2の耐火材1を解体する必要がある。また解体した結果、誤作動と分かれば操業停止と共に、無駄な作業を実施した事になる。更に再築炉が必要となり、長期間の操業停止と修復のために多大な費用が発生する問題があった。
【特許文献1】特開平9−303971号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題を改善し、溶解室の上部の耐火材粉体層と、湯口を形成する耐火セメントとの接合部に生じた隙間から、出湯時に溶解金属が浸入することによる湯漏れ検出網の誤作動を防止した誘導溶解炉を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1記載の誘導溶解炉は、内側を耐火材焼結層で、外側を耐火材粉体層でルツボ形に形成された溶解室の外周に、コイルをスパイラル状に巻回し、このコイルを保持する円筒状のコイルセメントの内側の、前記溶解室外周の耐火材粉体層との間に、湯漏れ検出網を設けて、耐火セメントで形成された湯口から溶解金属を出湯するルツボ形の誘導溶解炉において、前記溶解室上部の湯口側の耐火材粉体層を、湯口先端の出湯口側に膨出させて段部を形成したことを特徴とするものである。
【0011】
また本発明の請求項2記載の誘導溶解炉は、請求項1において、段部を階段状に形成したことを特徴とするものである。
【0012】
更に本発明の請求項3記載の誘導溶解炉は、請求項1または2において、段部に湯溜り部を形成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1記載の誘導溶解炉によれば、溶解室の上部の湯口側を形成する耐火材粉体層を溶解室の中心から離れた位置に形成して焼結化を遅らせると共に、溶解金属が浸入する隙間を、湯漏れ検出網が取付けられている部分まで長く形成して、隙間から浸入した溶解金属を耐火材粉体層で吸収固化させて、湯漏れ検出網への浸入を防止して、湯漏れ検出網の誤作動を防止するようにしたものである。
【0014】
また請求項2記載の誘導溶解炉によれば、段部を階段状に形成したので、更に隙間の距離が長くなり、湯漏れ検出網への溶解金属の浸入を防止することができる。
【0015】
また請求項3記載の誘導溶解炉によれば、段部に湯溜り部を形成したので、ここで隙間から浸入した溶解金属を溜めて、湯漏れ検出網への浸入を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明の実施の一形態を図1および図2を参照して詳細に説明する。誘導溶解炉は、耐火材1で形成されたルツボ形の溶解室2を、円筒状のコイルセメント3で囲んで、その外周にスパイラル状に巻回したコイル4を設け、前記コイルセメント3の内側の、溶解室2の耐火材粉体層1Bとの間に、湯漏れ検出網6が設けられている。前記溶解室2の耐火材1は、内側が熱によって焼結された耐火材焼結層1Aで、外側が耐火材粉体層1Bで形成されている。また溶解室2の上部には耐火セメント8で形成された湯口9が設けられ、ここから溶解金属5を出湯するようになっている。また前記溶解室2の上部の湯口側の耐火材粉体層1Bは、湯口先端の出湯口10側に段部12を設けて膨出させ、湯口9の耐火セメント8に食い込んだ状態に形成されている。
【0017】
上記構成の誘導溶解炉は、湯口9の耐火セメント8と、溶解室2の上部の湯口側の耐火材粉体層1Bとの間に、段部12を設けて耐火材粉体層1Bを膨出させているので、従来に比べて厚みがあり、溶解室2内の溶解金属5からの距離が離れているため幅射熱や熱伝導等による耐火材粉体層1Bの焼結を遅らせる効果がある。
【0018】
更に出湯時に、湯口9の耐火セメント8と、溶解室2の上部の湯口側の耐火材粉体層1Bとの間の隙間11に溶解金属5が浸入しても、耐火材粉体層1Bを焼結させるために熱が奪われて固化すると共に、段部12が形成され、角部が抵抗部となって溶解金属5の流れが阻止され、更に隙間11が長くなるので湯漏れ検出網6に達する手前で固化させることができる。
【0019】
図3は本発明の他の実施の形態を示すもので、溶解室上部の湯口9側の耐火材粉体層1Bを、湯口先端の出湯口10側に膨出させて、2段の階段状の段部12を形成したものである。
【0020】
この階段状の段部12を形成したものは、2つの角部があるので、ここが抵抗部となって溶解金属5の流れが阻止され、更に隙間11が長くなるので湯漏れ検出網6に達する手前で固化させることができる。
【0021】
図4は本発明の他の実施の形態を示すもので、溶解室上部の湯口9側の耐火材粉体層1Bを、湯口先端の出湯口10側に膨出させて段部12を形成し、この角部に湯溜り部13を設けたものである。
【0022】
この段部12の角部に湯溜り部13を形成したものは、隙間11から溶解金属5が浸入しても、湯溜り部13で溜められて、湯漏れ検出網への浸入を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の一形態による誘導溶解炉の要部断面図である。
【図2】図1の誘導溶解炉の要部平面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態による誘導溶解炉の要部断面図である。
【図4】本発明の異なる他の実施の形態による誘導溶解炉の要部断面図である。
【図5】従来の誘導溶解炉の要部断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 耐火材
1A 耐火材焼結層
1B 耐火材粉体層
2 溶解室
3 コイルセメント
4 コイル
5 溶解金属
6 湯漏れ検出網
8 耐火セメント
9 湯口
10 出湯口
11 隙間
12 段部
13 湯溜り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側を耐火材焼結層で、外側を耐火材粉体層でルツボ形に形成された溶解室の外周に、コイルをスパイラル状に巻回し、このコイルを保持する円筒状のコイルセメントの内側の、前記溶解室外周の耐火材粉体層との間に、湯漏れ検出網を設けて、耐火セメントで形成された湯口から溶解金属を出湯するルツボ形の誘導溶解炉において、前記溶解室上部の湯口側の耐火材粉体層を、湯口先端の出湯口側に膨出させて段部を形成したことを特徴とする誘導溶解炉。
【請求項2】
段部を階段状に形成したことを特徴とする請求項1記載の誘導溶解炉。
【請求項3】
段部に湯溜り部を形成したことを特徴とする請求項1または2記載の誘導溶解炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−139198(P2010−139198A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317884(P2008−317884)
【出願日】平成20年12月15日(2008.12.15)
【出願人】(000242127)北芝電機株式会社 (53)
【Fターム(参考)】