説明

誘電体アンテナ及び無線通信装置

【課題】500MHz〜5GHzにおいて、効率のみならず反射減衰特性に関しても有意な特性改善量を得るようにした誘電体アンテナ、及びそれを備えた無線通信装置を構成する。
【解決手段】誘電体アンテナ101は、誘電体セラミックスと樹脂との複合材料の成形体10と、放射電極が形成されたフレキシブル基板11とで構成されている。成形体10は、誘電体損によるQ値(Qd)が500以上1500以下の値となるように組成比等が定められている。フレキシブル基板11は、PETフィルムに線状導体14,15等が形成されたものである。線状導体14,15は給電部12付近の分岐部13で分岐し、開放部14p,15pまで互いに平行に延びている。フレキシブル基板11は成形体10の面に沿って粘着材または接着剤で貼付されている。この粘着材または接着剤のQdは10以上100以下の値である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話端末等の無線通信装置に用いられる誘電体アンテナ及びそれを備えた無線通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
逆F型アンテナ用の回路を有するフレキシブル基板と、該フレキシブル基板がコ字型に折られ平板状に対向して形成されたグランド部と放射素子部との間に介装される誘電体とで成るアンテナが特許文献1に開示されている。
【0003】
図1は特許文献1に係る逆F型アンテナの展開図である。逆F型アンテナ用の回路2を有するフレキシブル基板3と、そのフレキシブル基板3がコ字型に折られ平板状に対向して形成されたグランド部3aと放射素子部3bとの間に介装される誘電体とで構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−193299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1には、tanδが低いほうが利得が向上する、と記載されている。しかし、この効果の量は、使用するアンテナの周波数帯や帯域などにより異なり、tanδを低く(以下、「Qdを高く」と表現する。)しても有意な利得(以下、「効率」という。)の向上は得られない場合がある。
【0006】
一般的に、移動体無線通信で利用される500MHz〜5GHzの周波数帯においては、Qdが高い材料ほど、価格も高くなるため、特性改善量に対するコストも考慮する必要がある。
また、アンテナの反射特性はQd以外のQ値にも左右され、Qdが高くなることにより反射特性が劣化する場合もある。これにより、アンテナに接続される回路との整合が劣化することから、反射電力が増えるため、結果として他の回路に悪影響を及ぼすこともある。
【0007】
したがって、Qdを高くすれば、コストも含めたアンテナ特性が総合的に向上するとは必ずしもいえない。
【0008】
本発明の目的は、500MHz〜5GHzにおいて、効率のみならず反射減衰特性に関しても有意な特性改善量を得るようにした誘電体アンテナ、及びそれを備えた無線通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の誘電体アンテナは、誘電体セラミックスと樹脂との複合材料の成形体に、放射電極が形成されたフレキシブル基板が重ねられ、前記放射電極が500MHz〜5GHzで励振され、前記複合材料の、誘電体損によるQ値(Qd)が500以上1500以下の範囲内の値に定められたことを特徴としている。
【0010】
例えば、前記フレキシブル基板を前記成形体に対して貼付する粘着材又は接着剤の、誘電体損によるQ値(Qd)は10以上100以下の範囲内の値である。
【0011】
例えば、前記放射電極は、給電部から又は給電部付近から分岐した複数の線状導体である。
【0012】
また、この発明の無線通信装置は、この発明特有の構成を持つアンテナが筐体内に設けられて構成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、前記複合材料の、誘電体損によるQ値(Qd)の下限を定めることで、効率のみならず反射減衰特性の必要な特性を満足できる。また、Qdの上限を定めることで、Qdが高すぎることによる反射減衰特性の劣化を防ぐことができる。
したがって、効率のみならず反射減衰特性においても特性改善効果を得られる。
【0014】
また、フレキシブル基板を成形体に対して貼付する粘着材又は接着剤の、誘電体損によるQ値(Qd)についても制限を設けることによって、より改善効果が得られる。
【0015】
また、前記放射電極を、給電部から又は給電部付近から分岐した複数の線状導体とすることによって、500MHz〜5GHzの広帯域で高効率な特性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】特許文献1に係る逆F型アンテナの展開図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る誘電体アンテナの主要部の斜視図である。
【図3】アンテナの設計目標効率(設計目標η)と必要なQdの値との関係を示す図である。
【図4】第2の実施形態に係る無線通信装置の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《第1の実施形態》
本発明の第1の実施形態に係る誘電体アンテナの構成及び特性を図2・図3を参照して説明する。
図2は本発明の第1の実施形態に係る誘電体アンテナの主要部の斜視図である。この誘電体アンテナ101は、誘電体セラミックスと樹脂との複合材料の成形体10と、放射電極が形成されたフレキシブル基板11とで構成されている。
【0018】
成形体10の組成は、例えば、チタン酸カルシウム、ルチル型酸化チタン、アナターゼ型酸化チタン、アルミナ、炭酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムのうち少なくとも1種類のセラミック粉末と、LCP(2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸、ハイドロキノン、2,6−ナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸)との複合体であり、誘電体損によるQ値(Qd)が500以上1500以下の値となるように組成比等が定められている。
【0019】
フレキシブル基板11は、PETフィルムに線状導体14,15等が形成されたものである。線状導体14,15は、給電部12付近の分岐部13で分岐し、開放部14p,15pまで互いに平行に延びている。この二つの線状導体14,15の線路長は異なり、長い方の線状導体14が低域側、短い方の線状導体15が高域側で励振される。
前記PETフィルムのQdは50以上200以下である。
【0020】
成形体10は、直方体の互いに隣接する三面の稜を丸めた形状をなしている。フレキシブル基板11は展開した状態ではL字型であり、成形体10の面に沿って粘着材または接着剤で貼付されている。この粘着材または接着剤のQdの値は10以上100以下である。
【0021】
このように給電部付近で分岐した二つの線状導体14,15が放射電極として作用し、500MHz〜5GHzの周波数帯域で励振される。
【0022】
図3は、アンテナの設計目標効率(設計目標η)と必要なQdの値との関係を示す図である。設計目標ηは、必要な効率ピーク値と必要な帯域幅から得られる値である。理論式は次のとおりである。ここで効率ピーク値とは、設計対象とするアンテナの、任意の周波数帯域における平均効率値の最大値のことである。
【0023】
設計目標η=x × 効率ピーク値 × fo/BW
このように、設計パラメータ「設計目標η」は、効率ピーク値、中心周波数fo、帯域幅BW、及び設計対象のアンテナにより定まる定数xから求められる。このパラメータは、設計において必要な帯域幅内における効率値を規定するために用いるものである。
【0024】
「必要な効率ピーク値」も「必要な帯域幅」も設計的なパラメータであるが、この2つの関係からQdの必要値が決められるため、2つの設計値の関係を表現するパラメータとして「設計目標η」を設定する。
【0025】
図3に示した関係は、アンテナの構造によって変わるが、Qdが500付近を超えると、Qdを増大させても設計目標ηが殆ど変化しなくなるという関係は成り立つ。その傾向は余裕を考慮して、Qd=1500あたりでは殆ど変化がなくなるといえる。
【0026】
Qdが1500以上になるものを製造することは、利用可能材料の面で非現実的であり、また、それ以上にQdを高めても特性面で有意な改善が見られなくなる。したがって、Qdの上限は1500に定める。
【0027】
フレキシブル基板11を成形体10に貼付するために用いる粘着材(両面テープ)や接着剤は、フレキシブル基板の線状導体に近接するため、Qdの高い材料で構成されている方が望ましいが、高Qdの材料で構成し難い。しかし、厚みが薄くできるので、設計目標ηは成形体10のQdが支配的である。そのため、粘着材または接着剤のQdは10以上100以下の値であればよい。この範囲は、現実的に選定可能な材料のQdから定めた。
【0028】
なお、以上に示した例では、フレキシブル基板11に二つの線状導体14,15を設けたが、三つ以上の線状導体を設けてもよい。
【0029】
《第2の実施形態》
図4は第2の実施形態に係る無線通信装置の構成を示す断面図である。この無線通信装置201は、第1の実施形態で示した誘電体アンテナ101を実装した回路基板20を筐体21内に収めたものである。この無線通信装置201は例えば携帯電話端末であり、回路基板20には、誘電体アンテナ101を用いて無線通信を行う無線通信回路及びその他の各種回路が構成されている。
【0030】
誘電体アンテナ101の丸みを帯びた面が筐体21の内面に沿うように、誘電体アンテナ101が筐体21内に配置されているので、誘電体アンテナは筐体に近接している。そのため、筐体21のQdも高い方が望ましい。但し、フレキシブル基板の線状導体から或る程度離れているので、成形体(図2に示した成形体10)のQdが支配的であるので、成形体10のQdを前述した範囲に定めることが重要である。
【符号の説明】
【0031】
10…成形体
11…フレキシブル基板
12…給電部
13…分岐部
14,15…線状導体
14p,15p…開放部
20…回路基板
21…筐体
101…誘電体アンテナ
201…無線通信装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体セラミックスと樹脂との複合材料の成形体に、放射電極が形成されたフレキシブル基板が重ねられた誘電体アンテナにおいて、
前記放射電極は500MHz〜5GHzの周波数範囲内の周波数で励振され、
前記複合材料の、誘電体損によるQ値(Qd)は500以上1500以下の範囲内の値である、誘電体アンテナ。
【請求項2】
前記フレキシブル基板を前記成形体に対して貼付する粘着材又は接着剤の、誘電体損によるQ値(Qd)は10以上100以下の範囲内の値である、請求項1に記載の誘電体アンテナ。
【請求項3】
前記放射電極は、給電部から又は給電部付近から分岐した複数の線状導体である、請求項1又は2に記載の誘電体アンテナ。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れかに記載の誘電体アンテナを筐体内に設けてなる無線通信装置。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−160368(P2011−160368A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22724(P2010−22724)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】