説明

誘電体粉末および誘電体膜

【課題】 微粒であっても高周波領域において誘電特性を示す誘電体粉末を提供し、高周波領域において誘電特性を示す誘電体膜を提供する。
【解決手段】
誘電体粉末は、平均粒子径が20nm〜300nmである。誘電体膜は、この誘電体粉末を有し、かつFT−IRの30cm−1における反射スペクトルが30%以上である。誘電体膜は、平均粒子径の異なる誘電体粉末について、30cm−1〜100cm−1の範囲におけるFT−IRの反射スペクトルを測定し、そのスペクトル曲線をR=ax+bx+cで近似したときにそれぞれ求まる2次の係数aと平均粒子径との関係で示されるグラフにおいて、該aの基準値をaとしたときに、a/a≧0.8の関係を満足する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体粉末に関し、特に、インダクタ、ノイズフィルタ、高周波回路用パッケージなど、高周波用電子部品に有用な誘電特性に優れた誘電体粉末に関するものである。
また、本発明は、この誘電体粉末を有し、誘電特性に優れた誘電体膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイルコンピューティングの発達にともない、そのような電子機器に用いられるLSIなどの電子デバイスは伝送容量および伝送速度の高度化のために動作周波数の高周波化が図られている。
【0003】
また、モバイルコンピューティングにおける無線通信の発達に伴い、周波数や出力電力の異なる電波が飛び交っており、精密な電子機器などに対して電磁波障害が問題視されてきており、このための電子遮蔽やEMI対策が急務となっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、上述した電子機器に対して、LSIなどの電子デバイスとともに実装され、電流制御やノイズ抑制に寄与するコンデンサなどの電子部品についても小型化および高信頼化とともに、高周波領域での高い誘電特性が要求されており、コンデンサについてはその形態が積層型のバルク状のみならず誘電体層を薄膜状にして、電子機器のさらなる小型、薄型化に対応できる用途も模索されている。
【0005】
一方、特定の波長において高い赤外線反射率を有する赤外線反射材が報告されている(例えば、特許文献2参照。)。また、誘電体膜について、いくつかの報告がなされている(例えば、特許文献3〜5参照。)。
【0006】
また、結晶性の基板表面を加工することによって顕在化された結晶学的方位が(111)である面を含む領域に形成され、面心立方晶のオパール結晶の結晶形を持つ微粒子構造体が報告されている(例えば、特許文献6参照。)。
【0007】
なお、発明者は、本発明に関連する技術内容を開示している(例えば、非特許文献1,2参照。)。これらは、特許法第30条第1項を適用できるものと考えられる。
【特許文献1】特開2004−143347号公報
【特許文献2】特開2005−70156号公報
【特許文献3】特開平9−245525号公報
【特許文献4】特開平9−202621号公報
【特許文献5】特開平9−134613号公報
【特許文献6】特開2003−185832号公報
【非特許文献1】和田智志、安野弘明、保科拓也、掛本博文,鶴見敬章,“THz領域におけるチタン酸バリウム微粒子の誘電特性のサイズ依存性”2005年日本セラミックス協会年会 3/22−24/2005
【非特許文献2】SATOSHI WADA,HIROAKI YASUNO,TAKUYA HOSHINA,HIROFUMI KAKEMOTO,YOSHIKAZU KAMESHIMA & TAKAAKI TSURUMI,“Size Dependence of THz−Region Dielectric Properties for Barium Titanate Fine Particles”4th Asian Meeting on Electroceramics 6/27−30
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これまで用いられている誘電体セラミックスでは平均粒子径が微細になると比誘電率が低下したり、赤外帯域のような高周波領域において誘電特性が得られないという問題があった。
【0009】
一方、上述したように、特定の波長において高い赤外線反射率を有する赤外線反射材が報告されているが、高周波領域において高い誘電特性を示す誘電体膜は得られていない。
また、報告されている誘電体膜については、赤外線に対する高い反射率を有しかつ高周波領域において高い誘電特性を有する誘電体膜は得られていない。
また、面心立方晶のオパール結晶の結晶形を持つ微粒子構造体が報告されているが、誘電体粉末を持つ微粒子構造体は、得られていない。
【0010】
従って本発明は、微粒であっても高周波領域において高い誘電特性を示す誘電体粉末を提供することを目的とする。
また、本発明は、高周波領域において高い誘電特性を示す誘電体膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の誘電体粉末は、(1)平均粒子径が20nm〜300nmであり、かつFT−IRの30cm−1における反射スペクトルが30%以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明ではまた、(2)平均粒子径の異なる誘電体粉末について、30cm−1〜100cm−1の範囲におけるFT−IRの反射スペクトルを測定し、そのスペクトル曲線をR=ax+bx+cで近似したときにそれぞれ求まる2次の係数aと平均粒子径との関係で示されるグラフにおいて、該aの基準値をaとしたときに、a/a≧0.8の関係を満足すること、(3)格子定数比がc/a>1の関係であることが望ましい。ただし、本発明は、これらの条件に限定されるわけではない。
【0013】
本発明の誘電体膜は、(1)誘電体粉末を有し、この誘電体粉末の平均粒子径が20nm〜300nmであり、かつFT−IRの30cm−1における反射スペクトルが30%以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明ではまた、(2)平均粒子径の異なる誘電体粉末について、30cm−1〜100cm−1の範囲におけるFT−IRの反射スペクトルを測定し、そのスペクトル曲線をR=ax+bx+cで近似したときにそれぞれ求まる2次の係数aと平均粒子径との関係で示されるグラフにおいて、該aの基準値をaとしたときに、a/a≧0.8の関係を満足すること、(3)誘電体粉末の格子定数比がc/a>1の関係であること、(4)誘電体膜の表面平滑度が200nm以下の範囲内にあることが望ましい。ただし、本発明は、これらの条件に限定されるわけではない。
【発明の効果】
【0015】
上記構成の本発明にかかる誘電体粉末によれば、微粒であっても高周波領域において高い誘電特性を得ることができる。
また、上記構成の本発明にかかる誘電体膜によれば、赤外線に対する高い反射率を有しかつ高周波領域において高い誘電特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、誘電体粉末および誘電体膜にかかる発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0017】
誘電体粉末の製造方法について説明する。
【0018】
誘電体粉末の製造方法は、次の工程よりなる。
第1の工程は、蓚酸バリウムチタニル4水和物を空気中で加熱する工程である。
【0019】
第1の工程では、原料として蓚酸バリウムチタニル4水和物を用いる。原料は、蓚酸バリウムチタニル4水和物に限定されない。このほか、蓚酸ストロンチウムチタニル4水和物、蓚酸バリウムストロンチウムチタニル4水和物、蓚酸バリウムジルコニウム4水和物、蓚酸ストロンチウムジルコニウム4水和物、蓚酸バリウムストロンチウムジルコニウム4水和物などを採用することができる。
【0020】
第1の工程では、雰囲気が空気であることが好ましい。雰囲気が空気であると、純酸素の場合と比べて、雰囲気作りが容易である、製造コストを安く抑えることができる、可燃性などの事故を引き起こす要因を抑えられるという利点がある。
【0021】
第1の工程の雰囲気は空気に限定されない。このほか、酸素、合成空気などを採用することができる。
【0022】
第1の工程の加熱温度は300〜550℃の範囲にあることが好ましい。加熱温度が300℃以上であると、蓚酸バリウムチタニル4水和物の熱分解により余分な水分や蓚酸を除去でき、種結晶を均質にできるという利点がある。加熱温度が550℃以下であると、中間生成物が更に分解して、炭酸バリウムと酸化チタンという結晶材料に変換することを抑制できるという利点がある。
【0023】
第1の工程の加熱時間は0.5〜5時間の範囲にあることが好ましい。加熱時間が0.5時間以上であると、蓚酸バリウムチタニル4水和物の熱分解を行うことができるという利点がある。加熱時間が5時間以下であると、中間生成物が更に分解して、炭酸バリウムと酸化チタンという結晶材料に変換することを抑制できるという利点がある。
【0024】
第2の工程は、上記第1の工程により得られた生成物を、減圧下で加熱する工程である。
【0025】
第2の工程では、減圧下で加熱する。雰囲気は空気であり、圧力は10−1〜10−3Torrの範囲にあることが好ましい。圧力が10−3Torr以上であると、高真空でないため、装置を簡略化できるという利点がある。圧力が10−1Torr以下であると、通常の大気中よりも300℃以上低い温度でチタン酸バリウム粒子を合成できるという利点がある。
【0026】
第2の工程の加熱温度は550〜1200℃の範囲にあることが好ましい。加熱温度が550℃以上であると、チタン酸バリウムの生成が始まり、微細なナノ粒子を作製できるという利点がある。加熱温度が1200℃以下であると、比誘電率が小さくかつ粒子径が大きなチタン酸バリウム粒子の生成を抑制できるという利点がある。
【0027】
第2の工程の加熱時間は0.5〜5時間の範囲にあることが好ましい。加熱時間が0.5時間以上であると、原料がすべてチタン酸バリウム粒子に変換できるという利点がある。加熱時間が5時間以下であると、比誘電率が小さくかつ粒子径が大きなチタン酸バリウム粒子の生成を抑制できるという利点がある。
【0028】
本発明の誘電体粉末について説明する。
【0029】
誘電体粉末は、チタン酸バリウムからなっている。図1は、本発明の誘電体粉末を示す断面模式図である。本発明にかかる誘電体粉末は、その形状が略球形であり、その構造がコア1とシェル3とからなるコア・シェル型であることが好ましく、特に、コアがシングルドメインであれば、粒子中の分極方向が一方向となるため粒子内の分極率を高めることができる。
【0030】
チタン酸バリウムの平均粒子径は、20nm〜300nmの範囲内にあることが好ましい。平均粒子径が20nm以上であると、チタン酸バリウム粒子における自発分極を大きくできるという利点がある。平均粒子径が300nm以下であると、チタン酸バリウム粒子における自発分極が、室温における熱振動により等価な6方位間を高速でフリッピング(熱揺らぎ)することができるという利点がある。
【0031】
また、本発明に係る誘電体粉末は、粉末自体がX線回折から評価される結晶相として単一相からなるものであり、かつ高密度であり欠陥が少ないものであることが好ましく、この場合、誘電体粉末の相対密度は97%以上であることが望ましい。
【0032】
また、誘電体粉末の結晶構造は、格子定数比がc/a>1の関係であること、つまり、格子定数比(c/a)が1.003〜1.009の範囲であり正方晶性が高いことが好ましい。格子定数比(c/a)が1.003〜1.009の範囲であると、誘電体粉末の中で正方晶と立方晶とが共存したものとなり、誘電体結晶の相転移の場合と同じように、正方晶から立方晶への相転移による巨大誘電率の発現を引き起こせるという利点がある。
【0033】
誘電体粉末は、ペロブスカイト型強誘電体結晶であることが好ましい。上では、例示としてチタン酸バリウム結晶について説明した。ペロブスカイト型強誘電体結晶は、チタン酸バリウムBaTiOに限定されない。このほか、チタン酸バリウムストロンチウムBaSr1−xTiO、チタン酸ジルコニウム酸バリウムBaZrTi1−x、ニオブ酸カリウムKNbO、チタン酸鉛PbTiO、チタン酸ジルコニウム酸鉛PbZrTi1−xなどが採用できる。
【0034】
本発明にかかる誘電体粉末は、例えば精密な電子機器などの筐体や、その内部に実装されている電子デバイスの表面に膜状に形成することにより、薄い膜であっても高周波誘電特性に優れた電磁遮蔽体を形成でき、電磁波の反射や吸収の作用によりフィルタなどにも適用でき、これにより電子機器のEMI対策を好適に行うことができる。また、コンデンサなどの電子部品としても小型、薄型化に対応できる高周波帯用のコンデンサを形成できる。
【0035】
誘電体膜の製造方法について説明する。
【0036】
誘電体膜の製造方法はつぎのとおりである。
所定量の誘電体粉末を所定量の溶媒に加え、さらに解砕・混合を行うことで、コロイド溶液を作製する。このコロイド溶液を所定温度で所定時間静置させ溶媒を蒸発させることで、誘電体粉末が配列し表面光沢のあるコロイド充填体の誘電体膜を得る。
【0037】
溶媒としては、ジエチレングリコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、プロピレンカーボネートなどを採用することができる。
【0038】
コロイド溶液中の誘電体粉末の濃度は15〜35wt%の範囲内にあることが好ましい。誘電体粉末の濃度が15wt%以上であると、十分に厚い誘電体膜を作製できるという利点がある。誘電体粉末の濃度が35wt%以下であると、十分に緻密な誘電体膜を作製できるという利点がある。
【0039】
解砕・混合の方法としては、ボールミル、超音波照射などを用いる方法を採用することができる。
【0040】
溶媒の蒸発温度は50〜90℃の範囲内にあることが好ましい。蒸発温度が50℃以上であると、製膜時間を短縮できるという利点がある。蒸発温度が90℃以下であると、十分に緻密な誘電体膜を作製できるという利点がある。
【0041】
溶媒の蒸発時間は1〜20日の範囲内にあることが好ましい。蒸発時間が1日以上であると、十分に緻密な誘電体膜を作製できるという利点がある。蒸発時間が20日以下であると、製膜時間を短縮できるという利点がある。
【0042】
誘電体膜の製造方法において、上述の方法により得られた誘電体膜は、溶媒を蒸発させたものである。
【0043】
上述したように、誘電体膜の製造方法は、所定量の誘電体粉末を所定量の溶媒に加え、さらに解砕・混合を行うことで、コロイド溶液を作製し、これを所定温度で所定時間静置させ溶媒を蒸発させる方法である。
【0044】
誘電体膜の製造方法は、これに限定されるものではない。このほか誘電体膜の製造方法としては、電気泳動法、移流集積法、スピンコーティング法、ディップコーティング法などを採用することができる。
【0045】
本発明の誘電体膜について説明する。
【0046】
本発明の誘電体膜は、誘電体粉末を有し、該誘電体粉末の平均粒子径が20nm〜300nmであり、かつFT−IRの30cm−1における反射スペクトルが30%以上であるものである。
【0047】
誘電体膜の膜厚は100〜5000μmの範囲内にあることが好ましい。膜厚が100μm以上であると、膜強度が強いという利点がある。膜厚が5000μm以下であると、膜厚方向に均一であるという利点がある。
【0048】
誘電体膜の表面平滑度は200nm以下の範囲内にあることが好ましい。表面平滑度が200nm以下であると、粉末の充填体であっても適正な赤外反射スペクトルが得られるという利点がある。
【0049】
FT−IRの30cm−1における反射スペクトルは30%以上であることが好ましい。反射スペクトルが30%以上であると、誘電体膜を構成するチタン酸バリウム粉末が高い誘電率を示す強誘電体となるという利点がある。
【0050】
誘電体膜の曲率比a/aは0.8以上の範囲内にあることが好ましい。曲率比a/aが0.8以上であると、波数30〜100cm−1の領域において強誘電性が得られているということであり、誘電体膜を構成するチタン酸バリウム粉末が高い誘電率を示す強誘電体であるという利点がある。なお、誘電体膜の曲率比a/aについては、後に定義する。
【0051】
上述したように、本発明の誘電体粉末は、波数30〜100cm−1の領域において強誘電性が得られていることから、この波数領域の周波数において高い誘電率を示す強誘電体であることであり、そのため高周波帯においても強誘電性を示す強誘電体膜として電磁波の反射や吸収作用に適用されるフィルタなどにも好適となる。
【0052】
本発明にかかる誘電体膜は、高い赤外反射特性を有することから、例えば精密な電子機器などの筐体や、その内部に実装されている電子デバイスの表面に形成することにより、薄い膜であっても高周波誘電特性に優れた電磁遮蔽体を形成でき、電磁波の反射や吸収の作用によりフィルタなどにも適用でき、これにより電子機器のEMI対策を好適に行うことができる。また、コンデンサなどの電子部品としても小型、薄型化に対応できる高周波帯用のコンデンサを形成できる。
【0053】
これに対して、FT−IRの30cm−1における反射スペクトルが30%よりも低い場合には、特に赤外領域以上の高い周波数領域において誘電特性が得られない。
【0054】
以上のことから、本発明を実施するための最良の形態によれば、平均粒子径が20nm〜300nmであり、かつFT−IRの30cm−1における反射スペクトルが30%以上であるので、新規な誘電体粉末を提供することができる。
【0055】
また、本発明を実施するための最良の形態によれば、誘電体粉末を有し、誘電体粉末の平均粒子径が20nm〜300nmであり、かつFT−IRの30cm−1における反射スペクトルが30%以上であるので、上述の誘電体粉末を充填させた新規な誘電体膜を提供することができる。
【0056】
なお、本発明は上述の発明を実施するための最良の形態に限らず本発明の要旨を逸脱することなくその他種々の構成を採り得ることはもちろんである。
【実施例】
【0057】
つぎに、本発明にかかる実施例について具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではないことはもちろんである。
【0058】
誘電体粉末について具体的に説明する。
【0059】
本実施例で作製したチタン酸バリウム微粒子は以下の方法で合成された。まず、原料として、蓚酸バリウムチタニル4水和物(BaTiO(C・4HOを使用した。この原料は、Ba/Ti原子比が1.000であり、この中の不純物として考えられるSr、Si、Al、Na、Feがそれぞれ0.01%未満という非常に高純度の原料である。なお、原料粒子は、1次粒子が凝集した粒子で、その凝集粒子の大きさは約200μmである。この原料を用いて、蓚酸バリウムチタニルの2段階熱分解法を用いて、チタン酸バリウム粒子の合成を行った。
【0060】
蓚酸バリウムチタニル4水和物50gを、空気中、昇温速度3℃/minで530℃まで反応管中にある原料を石英製の棒状のロッドを用いて手で撹拌しながら加熱した。そして530℃に達した後、その温度で3時間保持した。ここまでが第1段階加熱の条件である。
【0061】
その後、第2段階では、さらに真空排気(2×10−2Torr)しながら)、4℃/minで660℃まで昇温後、1時間保持した。その後、電気炉の電源を切り、排気しながら室温まで徐令した。この操作により、25g近いチタン酸バリウム粒子を合成した。
【0062】
また、この第2段階での最高温度を760℃,840℃,860℃,900℃,960℃に変えて微粒子を作製した。以降、各微粒子の名称をBT660,BT760,BT840,BT860,BT900,BT960とする。なお、この他、水熱合成して得られた平均粒子径が500nmのチタン酸バリウム粉末を準備した(BT05)。
【0063】
本実施例で作製したチタン酸バリウム粒子の粒子径については、透過型電子顕微鏡観察を行うことにより、決定した。まず、各チタン酸バリウム微粒子を1−プロパノール10ml中に数十mgほど加え、超音波ホモジナイザーを用いて十分に撹拌した。この低濃度の懸濁液を試料ホルダーである銅メッシュに滴下し、乾燥したものを試料とした。この試料を透過型電子顕微鏡にセットし、その明視野像を試料ごとに10枚近く撮影した。それぞれの写真から、試料ごとに100個以上の粒子径を測定し、それを平均化したものを平均粒子径と定義した。
【0064】
これらの測定結果をまとめたものが表1である。
【0065】
【表1】

【0066】
2段階熱分解法を用いて作製したチタン酸バリウム粉末において、その形状はほぼ球状で、最も粒子径の小さな試料BT660の平均粒子径は22nmであり、一方最も粒子径の大きな試料BT960の平均粒子径は230nmであった。このことから、第2段階での熱処理温度の増加とともに平均粒子径は単調に増加することがわかる。
【0067】
比重瓶法(ピクノメータ)により密度測定を行った。この方法では測定精度を上げるために大型の比重瓶を(50ml)を使用した。なお試料粉末は、測定前に一晩100℃で乾燥させた。この方法により測定した絶対密度だけでは比較が困難であるため、以下の方法で理論密度を算出した。まず、XRD測定より、結晶系と格子定数を測定した。これにより、チタン酸バリウム単位格子の体積を計算する。また、チタン酸バリウム単位格子中にはチタン原子1個、バリウム原子1個、酸素原子3個が含まれているため、単位格子の重さを計算する。従って、単位格子の重さを単位格子体積で割ることで理論密度を計算できる。それぞれの絶対密度を理論密度で割り、100を掛けることで相対密度を計算した。計算した相対密度を表1に示す。
【0068】
Spring−8からの高エネルギー放射光X線回折パターンをRietveld法により解析することにより、チタン酸バリウム粉末における結晶構造を解析した。
【0069】
この場合、Spring−8 BL02B2ビームラインにおいて粉末X線回折測定を行なった。波長は0.50Åとし、内径0.02mmのガラスキャピラリを用いた。測定は室温(24℃)で行われた。得られたデバイシェラーパターンを一次元化し、このデータについてRietveld解析を行なうことによって、結晶構造パラメータと格子定数の精密化を行なった。解析には、Rietveld法解析ソフトウェア DIFFRACplus TOPAS 2.1(Bruker AXS)を用いた。
【0070】
Spring−8のBL02B2ビームラインにおいて粉末X線回折測定を行うと、実験室X線回折よりも精度の高い測定を行うことができる。通常の特性X線を用いた実験室X線回折に比べてはるかに信頼性の高いデータが得られるという側面から格子定数や結晶構造パラメータが精密化できるからである。作製した微粒子のうち数サンプルを持ち込み、高エネルギー放射光粉末X線回折(λ〜0.50Å)で得られたデバイシェラーパターンを一次元化し、このデータについてRietveld解析を行うことによって、結晶構造パラメータと格子定数の精密化を試みた。Rietveld解析に際しては、粒径によってはチタン酸バリウムの空間群をTetragonal P4mmにするか、Cubic Pm3mにするかという選択肢が存在する。これまでの研究によってBT660に関してはCubic,BT760からはTetragonalであることが分かっている。これは、両者の002,200ピークの様子を24℃と150℃で比較し、相転移によるピークの変化が見られるかどうかで判断したものである。
【0071】
次に、BT05について実際にP4mmでフィッティングを行ったが、GOF(Goodness Of Fitting:測定データとフィッティングデータの一致の度合いを見る数値。1に近いほど良くフィットしているということになる。)は5.84とあまり良い値には収束しなかった。そこでP4mm単相であるとする粒子のモデルについて見直しを図った。というのも、粒子がナノの領域にいる場合、粒子表面の電子構造の違いや格子振動の表面状態(境界状態)が粒子全体の性質に十分影響を及ぼすことが考えられるためである。ナノ粒子がP4mm単相であるとするのは妥当ではなく、さらに表面状態は活性であるなどを考慮するとチタン酸バリウムP4mm相を持つ粒子はPm3m相で包まれていると考えることができる。
【0072】
以上のことを踏まえ、P4mmとPm3mの2相モデルでBT05に対し再度フィッティングをかけなおした結果、GOFは3.63となりフィッティング精度は向上した。この際、P4mmとPm3mの体積比はおよそ85:15であった。まだ測定値と計算値に差は見られるものの、実験室X線では観測できない様々なことが観察されたと言える。このようにして、22nm〜500nmの各粒子についてフィッティングを行い格子定数の精密化をはかった(図2)。この結果、本発明にかかるチタン酸バリウム粉末は粒径が22nmのもの以外はP4mmとPm3mの2相モデルとしてフィットし、正方晶と立方晶が共存した形態である。ここで平均粒子径34nm〜230nmの粉末についてはいずれも正方晶を示すコア部はシングルドメインであった。
【0073】
結果より分かることは、58nm近傍での値を除き一様に、軸長の増大、c軸長の減少、格子体積の膨張、およびc/aの減少、ということである。実験室X線回折結果と似たような結果が得られたが、特に粒径が小さい粒子の精密化がはるかに向上したことが分かる。また、最大の誘電率を示した58nmの粒径近傍で格子長がジャンプすることも観察された。この時の振る舞いは相転移特有のものと似ており58nm近傍において一度相転移が起こりそうになっているとも見て取れる。
【0074】
本発明では誘電体粉末から誘電体膜(コロイド充填体)試料を作製し、微粒子の赤外反射を測定した。そこで、チタン酸バリウム粒子をできるだけ最密充填構造で充填させたコロイド充填体を作製することで、滑らかな粉体表面を得ることを目指した。
【0075】
まず、大部分のチタン酸バリウム微粒子が1粒子で分散するコロイド溶液を作製し、次にその溶媒をゆっくりと蒸発させる。そして、粒子濃度が55vol%を超えたときに大きくなる横毛細管力を利用し、粒子同士が最密充填構造へと自己組織化するという現象を用いて、コロイド充填体を作製する。
【0076】
まず、溶媒としてジエチレングリコールを選択し、ジエチレングリコールに誘電体粉末を27wt%添加し分散させた。この分散液を24時間ボールミルによる解砕・混合を行うことで、コロイド溶液を作製した。これを恒温乾燥機に入れ80℃で2週間静置させることで、表面光沢のある誘電体膜を得た。この誘電体膜の表面を、レーザー顕微鏡を用いて詳細に観察した結果、本発明にかかるコロイド充填体の表面平滑度は150〜200nmである非常にフラットな表面であることが分かった。一方、BT05の試料では250nmであった。試料評価頻度は各試料10個とし平均化した。誘電体膜の膜厚は、2000μmであった。
【0077】
つぎに、このようにして得られたコロイド充填体を用いて、赤外反射スペクトルを、日本分光FARIS−1フーリエ変換型遠赤外分光光度計を用いて大気圧で測定した。また、150cm−1以下の領域については、Infrared Laboratoriesのボロメーター3072ユニットを、フィルタにはC103フィルタを用いた。その際、ディテクタの有効検知温度は4.2Kであるため、液体ヘリウムによる冷却を行った。
【0078】
図3は、種々の平均粒子径のコロイド充填体についてのFT−IRの反射スペクトルである。なお、FT−IRとはフーリエ変換型遠赤外分光分析のことである。表1に、FT−IRの30cm−1における反射率の値を示してある。
【0079】
本発明にかかる誘電体膜は、FT−IRの30cm−1における反射スペクトルが30%以上であることを特徴とする。このようにFT−IRにおける低波数側での高い反射スペクトルが観察されることは、これらの誘電体膜がソフトモード振動を有していることを意味するものであり、このことから高周波領域において高い誘電特性を有していることがわかる。
【0080】
図4は、図3に示した誘電体膜についての平均粒子径と、赤外反射スペクトル曲線から求めた曲率との関係を示すグラフである。この場合、本発明の誘電体粉末よりも平均粒子径の大きな水熱合成して得られた平均粒子径が500nmの誘電体粉末(BT05)の赤外反射スペクトル曲線からその曲率を求め、その平均粒子径が500nmの誘電体粉末の曲率に対する曲率比ΔCをプロットする。また、曲率比ΔCの値は、表1に示すとおりである。
【0081】
なお、つぎのようにΔCを定義した。図3の赤外反射スペクトル曲線を、R=ax+bx+cに近似させた場合の傾きを表すaを求める。グラフより読み取った反射率曲線の曲率をaとする。すなわち本発明によれば、図3に示した平均粒子径の異なる誘電体粉末について、30cm−1〜100cm−1の範囲におけるFT−IRの反射スペクトルを測定し、そのスペクトル曲線をR=ax+bx+cで近似したときにそれぞれ求まる2次の係数aと平均粒子径との関係で示されるグラフにおいて、該aの基準値(BT05のスペクトル曲線の曲率)をaとしたときに、ΔC=a/aとする。なお、本実施例では、評価した試料粉末の最小粒径の10倍以上の平均粒径を有する粉末について求めたaをaとした。
【0082】
図5は、誘電体粉末についての平均粒子径と、反射スペクトルから導いたソフトモード周波数との関係を示すグラフである。このように、本発明にかかる誘電体粉末は、図4におけるΔCの極大点の粒径の範囲においてソフトモード周波数が最低値を示している。つまり、このソフトモード周波数の挙動からも本発明の誘電体粉末およびその誘電体粉末から構成される誘電体膜が高い誘電性を持つことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の誘電体粉末を示す断面模式図である。
【図2】サイズによる格子長と格子体積(上)とc/a(下)の変化を示す図である。
【図3】各コロイド充填体の低波数での反射率を示す図である。
【図4】ΔCのサイズ依存性を示す図である。
【図5】観察されたソフトモードのサイズ依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
1・・・・コア、3・・・・シェル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が20nm〜300nmであり、かつFT−IRの30cm−1における反射スペクトルが30%以上であることを特徴とする誘電体粉末。
【請求項2】
平均粒子径の異なる前記誘電体粉末について、30cm−1〜100cm−1の範囲におけるFT−IRの反射スペクトルを測定し、そのスペクトル曲線をR=ax+bx+cで近似したときにそれぞれ求まる2次の係数aと平均粒子径との関係で示されるグラフにおいて、該aの基準値をaとしたときに、a/a≧0.8の関係を満足する請求項1記載の誘電体粉末。
【請求項3】
格子定数比がc/a>1の関係である請求項2に記載の誘電体粉末。
【請求項4】
誘電体粉末を有し、該誘電体粉末の平均粒子径が20nm〜300nmであり、かつFT−IRの30cm−1における反射スペクトルが30%以上であることを特徴とする誘電体膜。
【請求項5】
平均粒子径の異なる前記誘電体粉末について、30cm−1〜100cm−1の範囲におけるFT−IRの反射スペクトルを測定し、そのスペクトル曲線をR=ax+bx+cで近似したときにそれぞれ求まる2次の係数aと平均粒子径との関係で示されるグラフにおいて、該aの基準値をaとしたときに、a/a≧0.8の関係を満足する請求項4記載の誘電体膜。
【請求項6】
前記誘電体粉末の格子定数比がc/a>1の関係である請求項5に記載の誘電体膜。
【請求項7】
誘電体膜の表面平滑度が200nm以下の範囲内にある請求項4記載の誘電体膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−294583(P2006−294583A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274639(P2005−274639)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年3月22日 社団法人日本セラミックス協会発行の「2005年年会講演予稿集」に発表
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】