説明

誘電体膜の製造方法

【課題】成膜速度、収率を向上し、膜厚をより均一にすることが可能な誘電体膜の製造方法を提供する。
【解決手段】粉末状の誘電体を含有し導電性を付与した原料粉末をガス中に分散させたエアロゾルにプラズマを照射するプラズマ照射工程と、プラズマを照射したエアロゾルを基材に噴射して原料粉末を膜状に堆積させて堆積膜を形成する膜形成工程とを含む誘電体膜の製造方法。原料粉末が、金属微粒子を含有することにより導電性が付与されたものであることが好ましく、また、原料粉末が、還元処理によって導電性が付与されたものであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電体膜の製造方法に関し、更に詳しくは、微粒子同士の凝集を抑制し、微粒子の装置への付着、堆積を抑制することにより、成膜速度、収率を向上し、膜厚をより均一にすることが可能な誘電体膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電アクチュエータ、電子放出素子等の誘電体デバイスの製造において、基材の表面に誘電体膜を形成する方法として、スクリーン印刷法、グリーンシート法、エアロゾルデポジション(AD)法、パウダージェットデポジション法等が用いられている。これらの中で、AD法は、振動等を用いて、原料粉末を気体中に分散させて煙のような状態にしたもの(エアロゾル)を形成した後、このエアロゾルを、所定の減圧下の成膜室に搬送し、ノズルを通して所定の基材表面に向けて噴射することにより、誘電体膜を形成するものである。このAD法によれば、粉体を基材に高速(100m/s以上)に吹き付けることにより、その衝突時に原料粉末の破砕および塑性変形が生じ、基材に堆積し、緻密な堆積膜が形成されるため、室温において成膜することが可能となる。
【0003】
このように誘電体膜の形成に有効なAD法であるが、原料粉末を構成する微粒子の表面に有機物や水が吸着していると、成膜性や膜質に悪影響を及ぼすという問題があった。これに対し、成膜の直前に、原料粉末の粒子表面にプラズマ照射し、表面に吸着した有機物や水を除去することにより、成膜性や膜質を向上させようとする提案がなされている(例えば、特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開2005−36255号公報
【特許文献2】特開2000−212766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に記載の成膜方法は、減圧容器内で原料粉末をプラズマ処理し、大気に触れないようにエアロゾル化室に導入し、AD成膜を行う方法である。特許文献1に記載の成膜方法では、原料粉末の微粒子を分散させた状態でプラズマ照射した後、微粒子が容器の底に沈降するという過程が介在する。このとき、表面が帯電した微粒子同士が強く凝集してしまい、AD成膜に適した単分散のエアロゾルが生成し難くなり、成膜速度、収率が低下するという問題があった。
【0005】
また、上記特許文献2に記載の成膜方法は、原料粉末の微粒子流にプラズマを照射することで、粒子表面を溶融すること無く活性化し、結晶性の高い、緻密な膜を形成することができる方法である。特許文献2に記載の成膜方法では、プラズマ作用時間を長くできるように微粒子流の速度を遅くすると、微粒子が帯電することにより電極に付着し、それが堆積するという問題があった。また、この付着、堆積した原料粉末が剥がれ落ちることにより、微粒子流における粒子濃度が間欠的に大きくなることがあり、噴射ノズルを走査して成膜するような場合には、膜厚のばらつきが発生するという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、成膜速度、収率を向上し、膜厚をより均一にすることが可能な誘電体膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明は、以下の誘電体膜の製造方法を提供するものである。
【0008】
[1] 粉末状の誘電体を含有し導電性を付与した原料粉末をガス中に分散させたエアロゾルにプラズマを照射するプラズマ照射工程と、プラズマを照射した前記エアロゾルを基材に噴射して前記原料粉末を膜状に堆積させて堆積膜を形成する膜形成工程とを含む誘電体膜の製造方法。
【0009】
[2] 前記原料粉末が、金属微粒子を含有することにより導電性が付与されたものである[1]に記載の誘電体膜の製造方法。
【0010】
[3] 前記原料粉末が、前記金属微粒子を0.01〜20体積%含有する[1]又は[2]に記載の誘電体膜の製造方法。
【0011】
[4] 前記膜形成工程の後に、前記堆積膜を熱処理する[1]〜[3]のいずれかに記載の誘電体膜の製造方法。
【0012】
[5] 前記プラズマ照射工程で使用するプラズマ発生電源を、ナノパルス電源とする[1]〜[4]のいずれかに記載の誘電体膜の製造方法。
【0013】
[6] 前記原料粉末が、還元処理によって導電性が付与されたものである[1]に記載の誘電体膜の製造方法。
【0014】
[7] 前記膜形成工程の後に、前記堆積膜を酸化処理する[6]に記載の誘電体膜の製造方法。
【0015】
[8] 前記プラズマ照射工程で使用するプラズマ発生電源を、ナノパルス電源とする[6]又は[7]に記載の誘電体膜の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明の誘電体膜の製造方法は、原料粉末に導電性を付与したため、原料粉末にプラズマを照射しても、粒子同士の帯電による凝集を防止でき、また、電極等の装置に付着、堆積することを抑制することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に本発明の実施の形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0018】
本発明の誘電体膜の製造方法は、粉末状の誘電体を含有し導電性を付与した原料粉末をガス中に分散させたエアロゾルにプラズマを照射するプラズマ照射工程と、プラズマを照射したエアロゾルを基材に噴射して原料粉末を膜状に堆積させて堆積膜を形成する膜形成工程とを含むものである。ここで、「誘電体膜」とは電圧を印加すると分極が生じ、電荷を蓄積する特性を有する膜をいう。また、「導電性を付与する」とは、粉末状の誘電体に帯電した電荷を、速やかに除電されるようにすることであり、導電性粒子を配合したり、粉末状の誘電体に酸素空孔などの格子欠陥を形成させ、電気伝導性を与えることをいう。また、「導電性を付与した粉末」としては、たとえば粉末を所定の形状に押し固め、50体積%以上としたときの成形体の導電率が、10−6Ω−1cm−1以上を示すようなものを好適に用いることができる。ここで、所定の形状としては、円盤状、円柱状、角柱状等を挙げることができる。上記導電率の測定方法としては、具体的には、金型によりプレス成形し、直径15mm、厚さ1mm程度の円盤状圧粉体を作製し、これを電極板に挟み込み、絶縁抵抗計にて計測することにより導電率を得る方法を挙げることができる。
【0019】
このように、本発明の誘電体膜の製造方法は、導電性を付与した原料粉末をガス中に分散させたエアロゾルにプラズマを照射しているため、プラズマ照射後においても原料粉末の粒子の帯電が抑制され、粒子同士の凝集や、粒子が装置に付着、堆積することを抑制することが可能となる。そして、原料粉末の粒子同士が凝集することが抑制されるため、成膜速度、収率を向上させることができる。また、原料粉末が電極等の装置に付着、堆積することが抑制されるため、その付着物が剥がれて基材に噴射されることが抑制されるため、基材に形成される誘電体膜の膜厚をより均一にすることが可能となる。
【0020】
本発明の誘電体膜の製造方法の一の実施形態は、例えば、図1に示すようなエアロゾルデポジション(AD)装置100を用いて実施することができる。図1は、本発明の誘電体膜の製造方法に使用するエアロゾルデポジション(AD)装置100を示す模式図である。図1に示すエアロゾルデポジション装置100は、成膜室10、エアロゾル供給部20及びプラズマ照射装置30を備えている。
【0021】
(プラズマ照射工程)
本発明の誘電体膜の製造方法は、粉末状の誘電体を含有し導電性を付与した原料粉末をガス中に分散させたエアロゾルにプラズマを照射するプラズマ照射工程を有する。エアロゾルにプラズマを照射することにより、エアロゾル中の原料粉末の粒子表面の有機物や水を除去することが可能になり、成膜性や膜質を向上することが可能となる。
【0022】
上記粉末状の誘電体を含有し導電性を付与した原料粉末をガス中に分散させたエアロゾルは、エアロゾル供給部20において生成させることができる。
【0023】
エアロゾル供給部20は、原料粉末21をガス中に分散させてエアロゾルとし、そのエアロゾルをプラズマ照射装置30を経由して当該ノズル3に供給し得るように構成されている。
【0024】
原料粉末21は、粉末状の誘電体と金属微粒子とを含有するものであり、金属微粒子を含有させることにより導電性が付与されたものである。粉末状の誘電体としては粉末状のセラミックスが好ましく、好適には、比誘電率が比較的高い(例えば1000以上の)誘電体材料が用いられ得る。このような誘電体材料としては、例えば、チタン酸バリウム、ジルコン酸鉛、マグネシウムニオブ酸鉛、ニッケルニオブ酸鉛、亜鉛ニオブ酸鉛、マンガンニオブ酸鉛、マグネシウムタンタル酸鉛、ニッケルタンタル酸鉛、アンチモンスズ酸鉛、チタン酸鉛、マグネシウムタングステン酸鉛、コバルトニオブ酸鉛、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸カリウム、タンタル酸ナトリウム、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム等が用いられ、またこれらを任意に組み合わせてなるセラミックスが好ましい。粉末状の誘電体の粒子径は、0.05〜10μmが好ましく、0.2〜3μmが更に好ましい。粒子径は、レーザー回折式の粒度分布測定装置により、湿式で測定した値である。また、金属微粒子としては、銀、銅、金、白金等が好ましく、低融点で且つ酸化され難い金及び銀が更に好ましい。金属微粒子の粒子径は、0.05〜5μmが好ましく、0.1〜1μmが更に好ましい。
【0025】
原料粉末は、金属微粒子を0.01〜20体積%含有することが好ましく、0.01〜10体積%含有することが更に好ましい。0.01体積%より少ないと、金属微粒子による導電性の付与が不十分になり、原料粉末が凝集することがある。20体積%より多いと堆積膜は導電性が高く、誘電体膜として使用し難いことがある。また、熱処理により金属を排出することは可能であるが、気孔率が高くなり、誘電体としての特性が著しく低下することがある。
【0026】
粉末状の誘電体と金属微粒子とを混合する方法は、特に限定されるものではなく、公知の粉体の混合方法を用いることができる。例えば、ポットミル、トロンメルなどの湿式混合や、ジェットミル、乳鉢混合などの乾式混合等の方法を用いることが好ましい。
【0027】
エアロゾル供給部20は、エアロゾル化室22と、圧縮ガス供給源23と、圧縮ガス供給管24と、振動撹拌部25と、エアロゾル供給管26と、制御弁27とを備えている。
【0028】
エアロゾル化室22は、上述のようにして作製した原料粉末21を貯蔵し得る容器として構成されている。エアロゾル化室22の大きさは、特に限定されるものではなく、0.1〜5リットルの瓶状、箱状等の容器を使用することができる。圧縮ガス供給源23は、エアロゾル化室22内にて原料粉末21を分散させてエアロゾルを生成させるためのガス(キャリアガス)を貯蔵し得るように構成されている。このキャリアガスとしては、圧縮空気の他、ヘリウム,アルゴンその他の希ガスや、窒素ガス等の不活性ガスが用いられ得る。圧縮ガス供給管24は、圧縮ガス供給源23からキャリアガスをエアロゾル化室22に供給し得るように構成されている。振動撹拌部25は、エアロゾル化室22内にて原料粉末21とキャリアガスを混合することでエアロゾルを生成させ得るように、エアロゾル化室22に振動を与えるように構成されている。エアロゾル供給管26は、エアロゾル化室22内にて生成したエアロゾルを、プラズマ照射装置30を経由させて、ノズル3に供給し得るように構成されている。制御弁27は、エアロゾル供給管26におけるエアロゾルの流量を調節することで、ノズル3から基材11へのエアロゾルの噴射量を制御し得るように構成されている。
【0029】
原料粉末21をガス中に分散させてエアロゾルにする方法としては、原料粉末21を、エアロゾル化室22内で、振動撹拌部25から受ける振動により、キャリアガスと激しく混合することが好ましい。これにより、エアロゾル化室22内にて、エアロゾルが生成される。このエアロゾルは、流体のような挙動を示すので、制御弁27が開かれた状態においては、エアロゾル化室22と真空容器1との圧力差によって、プラズマ照射装置30を経由して、真空容器1に向かって流動する。
【0030】
上述のように、エアロゾル化室22において作製されたエアロゾルはプラズマ照射装置に移動する。プラズマ照射装置30は、エアロゾルがその内部を通過するプラズマ照射器33と、プラズマ照射器33の内部に配設されて、通過するエアロゾルにプラズマを照射することができる2枚以上のプラズマ発生電極31と、プラズマ発生電極31にパルス電圧を印加するプラズマ発生電源32とを備えるものである。
【0031】
プラズマ照射器33は、その内部にプラズマ発生電極31が配設され、エアロゾルがプラズマを照射されながら通過することができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、円筒状、角柱状等のケースを用いることができ、その材質としては、例えば、ステンレススチール、ガラス等を用いることができる。
【0032】
プラズマ発生電極31は、複数の単位電極が所定間隔を隔てて階層的に積層されてなるものであることが好ましい。プラズマ発生電極31を構成する単位電極は、特に限定されるものではなく、パルス電圧を印加したときに単位電極間の空間にプラズマを発生させることができればよい。例えば、板状の誘電体と、誘電体の内部に配設された導電膜とから形成される単位電極を挙げることができる。また、導電膜の両面に誘電体が配設されていてもよいし、導電膜の一方の面にのみ誘電体が配設されていてもよい。対向する単位電極のそれぞれの導電膜間に誘電体が位置するように単位電極が積層されていることが好ましい。
【0033】
プラズマ発生電極31の隣接する単位電極間の距離は、0.5〜50mmであることが好ましく、1〜20mmであることが更に好ましい。
【0034】
また、本実施形態に用いられる導電膜は、導電性に優れた金属を主成分とすることが好ましく、例えば、導電膜の主成分としては、タングステン、モリブデン、マンガン、クロム、チタン、ジルコニウム、ニッケル、鉄、銀、銅、白金、及びパラジウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属を好適例として挙げることができる。なお、本実施形態において、主成分とは、成分の60質量%以上を占めるものをいう。
【0035】
単位電極において、導電膜は、誘電体に塗工されて配設されたものであることが好ましく、具体的な塗工の方法としては、例えば、印刷、ローラ、スプレー、静電塗装、ディップ、ナイフコータ等を好適例としてあげることができる。このような方法によれば、塗工後の表面の平滑性に優れ、且つ厚さの薄い導電膜を容易に形成することができる。
【0036】
また、単位電極を構成する誘電体は、誘電率の高い材料を主成分として形成された板状のセラミック体であることが好ましい。その材料としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化珪素、ムライト、コージェライト、チタン−バリウム系酸化物、マグネシウム−カルシウム−チタン系酸化物、バリウム−チタン−亜鉛系酸化物、窒化珪素、窒化アルミニウム等を好適に用いることができる。
【0037】
また、誘電体の厚さについては、特に限定されることはないが、1〜10μmであることが好ましい。
【0038】
プラズマ発生電源32は、プラズマ発生電極33にパルス電圧を印加することができれば特に限定されないが、ナノパルス電源であることが好ましい。ナノパルス電源とは、パルス幅が39〜1000nmのパルス電圧を印加するプラズマ発生電源である。ナノパルス電源としては、具体的には、特許第3811681号公報に記載のナノパルス電源等を挙げることができる。プラズマ発生電源32をナノパルス電源とすることにより、スパーク等の電極間短絡を防止し、効率的にエアロゾルにプラズマを照射することが可能となる。
【0039】
(膜形成工程)
本実施形態の誘電体膜の製造方法における膜形成工程は、プラズマを照射したエアロゾルを基材に噴射して原料粉末を膜状に堆積させて堆積膜を形成する工程である。膜形成工程は、例えば、図1に示す成膜室10を用いて行うことが好ましい。プラズマ発生装置30でプラズマ照射されたエアロゾルはノズル3から基材11に向けて噴射され、原料粉末が基材表面に膜状に堆積し、堆積膜が形成される。この堆積膜が誘電体膜である場合もあるが、金属微粒子の含有により導電性が付与されて導電性膜となっている場合には、堆積膜を熱処理することにより金属微粒子の影響のない誘電体膜とすることが好ましい。また、堆積膜が誘電体膜であっても、用途によって、より導電性の低いものとしたい場合には、堆積膜を熱処理することにより金属微粒子の影響のない誘電体膜とすることが好ましい。
【0040】
成膜室10は、真空容器1と、XYZθステージ2と、ノズル3と、真空ポンプ4とを備えている。真空容器1は、その内部が所定の真空度に保たれ得るように構成されている。XYZθステージ2は、真空容器1内に基材11を保持して任意の方向に基材11を移動し得るように構成されている。ノズル3は、真空容器1内に固定されている。このノズル3は、XYZθステージ2に保持された基材11上にエアロゾルを噴射し得るように構成されている。真空ポンプ4は、真空容器1内を上述のような所定の真空度に設定するために、当該真空容器1内から空気を排気し得るように構成されている。真空容器1の大きさは、特に限定されるものではなく、0.5〜200リットルの箱状の容器を使用することができる。
【0041】
エアロゾル化室22と真空容器1との間に圧力差があるため、制御弁27を開くことにより、エアロゾルは、エアロゾル化室22からプラズマ照射装置30を経由して真空容器1に向かって流動し、ノズル3から噴射される。
【0042】
上述のような、原料粉末と金属微粒子とをエアロゾルデポジション法によって基材11の表面に噴射する工程によれば、原料粉末や金属微粒子の破砕および塑性変形が生じ、基材11に堆積し、堆積膜を形成する。よって、常温で緻密な誘電体膜が形成される。
【0043】
また、原料粉末と金属微粒子とが同時に基材11上に噴射される際に、延性を有する金属微粒子が固着剤の役割を果たす。よって、基材11上の成膜性が向上する。
【0044】
堆積膜を熱処理する場合には、堆積膜を500〜900℃で熱処理することが好ましい。これにより、堆積膜に含有される金属微粒子が移動し、除去されることになり、導電性のより低い誘電体膜を形成することができる。500℃より低い温度で熱処理すると金属微粒子が十分に移動しないことがあり、900℃より高いと、ガラスやSi(シリコン)ウエハ、SUS(ステンレススチール)など、耐熱性の低い基材に形成した場合、基材の変形や、基材元素の膜への拡散等が起こることがある。
【0045】
本実施の形態の誘電体膜の製造方法により製造される誘電体膜の厚さは、2〜50μmであることが好ましく、5〜20μmであることが更に好ましい。2μmより薄いと、成膜時の金属微粒子の存在により誘電体膜に欠陥が生じ、絶縁性が低下することがあり、50μmより厚いと、基材と膜との熱膨張差などにより、剥離が生じやすくなることがある。
【0046】
次に、本発明の誘電体膜の製造方法の他の実施形態について説明する。
【0047】
本実施形態の誘電体膜の製造方法は、粉末状の誘電体を含有し導電性を付与した原料粉末をガス中に分散させたエアロゾルにプラズマを照射するプラズマ照射工程と、プラズマを照射したエアロゾルを基材に噴射して原料粉末を膜状に堆積させて堆積膜を形成する膜形成工程とを含み、上記原料粉末に導電性を付与する方法を、原料粉末を還元処理する方法としたものである。これは、上述した本発明の誘電体膜の製造方法の一の実施形態において、還元処理によって導電性が付与された原料粉末21を用いるものである。従って、本実施形態の誘電体膜の製造方法は、上記本発明の誘電体膜の製造方法の一の実施形態の場合のように原料粉末21に金属微粒子を含有させることにより原料粉末21に導電性を付与するのではなく、原料粉末21に含有される粉末状の誘電体を還元処理することにより原料粉末21に導電性を付与するものである。
【0048】
本実施形態の誘電体膜の製造方法は、このように金属微粒子を含有させずに原料粉末に導電性を付与することができるため、絶縁性の高い誘電体膜を製造したい場合により有効な方法として利用することができる。特に、誘電体膜を薄膜に形成する場合に有効である。それは、金属微粒子を原料粉末に含有させた場合には、誘電体膜を薄くし過ぎると、金属微粒子により誘電体膜に欠陥等が生じることがあるが、本実施の形態の誘電体膜の製造方法によれば、金属微粒子のような膜に欠陥を生じさせるものが存在しないため、より薄い誘電体膜の製造も行うことができるからである。
【0049】
還元処理する方法としては、原料粉末に導電性が付与されれば特に限定されず、たとえば、H雰囲気中や真空中で熱処理する方法がある。熱処理温度は400℃〜800℃程度が好ましい。400℃より低いと還元が進まないことがあり、800℃より高いと、PbOを含有した原料粉末では、PbOの揮発が起こることがある。PbOは、ジルコン酸鉛等の鉛含有化合物に通常含有される。PbOが揮発すると組成ズレによる特性低下等の問題が生じることがある。
【0050】
本実施形態の誘電体膜の製造方法は、原料粉末に金属微粒子が含有されず、還元処理によって原料粉末に導電性を付与すること以外は、上述した本発明の誘電体膜の製造方法の一の実施形態と同様にして誘電体膜を製造することが好ましい。但し、上述した本発明の誘電体膜の製造方法の一の実施形態においては、金属微粒子を原料粉末に含有させたため、成膜後に金属微粒子を除去するための加熱処理を行うことが好ましいが、本実施形態の誘電体膜の製造方法においては、原料粉末が金属微粒子を有しないため、金属微粒子を除去するための加熱処理は必要としない。
【0051】
本実施形態の誘電体膜の製造方法は、上述した本発明の誘電体膜の製造方法の一実施形態の場合と同様に、プラズマ照射されたエアロゾルを基材に噴射して原料粉末を膜状に堆積させて堆積膜を形成する。そして、この堆積膜が誘電体膜である場合もあるが、原料粉末が還元処理されていることにより導電性が付与されて導電性膜となっている場合には、堆積膜を酸化処理することにより誘電体膜とすることが好ましい。また、堆積膜が誘電体膜であっても、用途によって、より絶縁性の高いものとしたい場合には、堆積膜を酸化処理することにより、より絶縁性の高い誘電体膜とすることが好ましい。
【0052】
酸化処理の方法は、特に限定されないが、大気中、酸素雰囲気中など、酸素の存在する雰囲気において、500℃以上で熱処理をすることが好ましい。
【0053】
本実施形態の誘電体膜の製造方法においては、上述した本発明の誘電体膜の製造方法の一実施形態の場合と同様に、プラズマ照射工程で使用するプラズマ発生電極を、ナノパルス電源とすることが好ましい。プラズマ発生電源をナノパルス電源とすることにより、スパーク等の電極間短絡を防止し、効率的にエアロゾルにプラズマを照射することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
圧電アクチュエータ、電子放出素子等の誘電体デバイスの製造において、基材の表面に誘電体膜を形成する方法として有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の誘電体膜の製造方法に使用するエアロゾルデポジション(AD)装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0056】
1:真空容器、2:XYZθステージ、3:ノズル、4:真空ポンプ、10:成膜室、11:基材、20:エアロゾル供給部、21:原料粉末、22:エアロゾル化室、23:圧縮ガス供給源、24:圧縮ガス供給管、25:振動撹拌部、26:エアロゾル供給管、27:制御弁、30:プラズマ発生装置、31:プラズマ発生電極、32:プラズマ発生電極、33:プラズマ照射器、100:エアロゾルデポジション(AD)装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の誘電体を含有し導電性を付与した原料粉末をガス中に分散させたエアロゾルにプラズマを照射するプラズマ照射工程と、プラズマを照射した前記エアロゾルを基材に噴射して前記原料粉末を膜状に堆積させて堆積膜を形成する膜形成工程とを含む誘電体膜の製造方法。
【請求項2】
前記原料粉末が、金属微粒子を含有することにより導電性が付与されたものである請求項1に記載の誘電体膜の製造方法。
【請求項3】
前記原料粉末が、前記金属微粒子を0.01〜20体積%含有する請求項1又は2に記載の誘電体膜の製造方法。
【請求項4】
前記膜形成工程の後に、前記堆積膜を熱処理する請求項1〜3のいずれかに記載の誘電体膜の製造方法。
【請求項5】
前記プラズマ照射工程で使用するプラズマ発生電源を、ナノパルス電源とする請求項1〜4のいずれかに記載の誘電体膜の製造方法。
【請求項6】
前記原料粉末が、還元処理によって導電性が付与されたものである請求項1に記載の誘電体膜の製造方法。
【請求項7】
前記膜形成工程の後に、前記堆積膜を酸化処理する請求項6に記載の誘電体膜の製造方法。
【請求項8】
前記プラズマ照射工程で使用するプラズマ発生電源を、ナノパルス電源とする請求項6又は7に記載の誘電体膜の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−106295(P2008−106295A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−288484(P2006−288484)
【出願日】平成18年10月24日(2006.10.24)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】