説明

調光体の製造方法

【課題】電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できる調光体の製造方法を提供する。
【解決手段】一対の導電膜の間に、有機エレクトロクロミック化合物を含有するエレクトロクロミック層及び電解質層を有する調光体の製造方法であって、上記エレクトロクロミック層を、上記有機エレクトロクロミック化合物のガラス転移温度以上で加熱する工程を有する調光体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できる調光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧を印加することにより光の透過率が変化する調光体は、広く用いられている。この調光体を建築物等や、電光板等の表示装置に応用することを目的とする検討が重ねられてきた。近年、自動車等の車内の温度を制御するために、調光シートを合わせガラス用中間膜として用いた合わせガラスが提案されている。このような合わせガラス用中間膜を用いることにより、合わせガラスの光線透過率を制御することができると考えられている。
【0003】
上記調光体としては、対向する一対の電極基板の間に、エレクトロクロミック層と電解質層とからなる調光シートが挟み込まれている調光体が提案されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層、イオン伝導層、無機酸化物を含有するエレクトロクロミック層の3層が順次積層された積層体が、2枚の導電性基板間に挟み込まれている調光体が開示されている。また、特許文献3及び特許文献4には、対向する一対の電極基板の間に、有機エレクトロクロミック材料を含有するエレクトロクロミック層と電解質層とが挟み込まれている調光体が開示されている。
【0004】
自動車用、建築用途にかかわらず合わせガラスには、高い安全性が求められる。とりわけ合わせガラスを自動車用フロントガラスに用いる場合には、高い耐貫通性が求められる。合わせガラスが高い耐貫通性を発揮するためには、ガラス板と合わせガラス用中間膜とが適度に密着することが求められる。しかしながら、従来の調光シートを合わせガラス用中間膜として用いた場合、ガラス板に対する密着性が低く、高い耐貫通性を発揮できないばかりか、使用中にガラス板と合わせガラス用中間膜とが剥離してしまう危険性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−062030号公報
【特許文献2】特開2005−062772号公報
【特許文献3】特表2002−526801号公報
【特許文献4】特表2004−531770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できる調光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、一対の導電膜の間に、有機エレクトロクロミック化合物を含有するエレクトロクロミック層及び電解質層を有する調光体の製造方法であって、前記エレクトロクロミック層を、前記有機エレクトロクロミック化合物のガラス転移温度以上で加熱する工程を有することを特徴とする調光体の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
本発明者は、従来の調光シートを合わせガラス用中間膜として用いた場合に、ガラス板との密着性が低い原因について検討した。その結果、調光シートを構成するエレクトロクロミック層と、ガラス板の表面の導電膜との密着性が低いことが原因であることを見出した。本発明者は、鋭意検討の結果、上記調光シートを予め調製してから、合わせガラスを形成するのではなく、導電膜上に、有機エレクトロクロミック化合物を塗布して塗布膜を形成し、上記塗布膜を、上記有機エレクトロクロミック化合物のガラス転移温度(Tg)以上で加熱することにより、エレクトロクロミック層と導電膜との密着性が格段に改善し、高い安全性を有する合わせガラスを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、一対の導電膜の間に、エレクトロクロミック層及び電解質層を有する調光体の製造方法である。
本発明の調光体の製造方法は、有機エレクトロクロミック化合物を含有するエレクトロクロミック層用組成物を上記導電膜上に塗布して塗布膜を形成する工程を有することが好ましい。上記塗布膜はエレクトロクロミック性を有し、エレクトロクロミック層でもある。
【0010】
エレクトロクロミック層は、有機エレクトロクロミック化合物を含有するエレクトロクロミック層用組成物を用いて形成される。
上記有機エレクトロクロミック化合物は、エレクトロクロミック性を有する有機化合物である。
なお、エレクトロクロミック性とは、電圧を印加することにより光の透過率が変化する性質を意味する。
【0011】
上記エレクトロクロミック性を有する有機化合物としては、例えば、ポリピロール化合物、ポリチオフェン化合物、ポリパラフェニレンビニレン化合物、ポリアニリン化合物、ポリアセチレン化合物、ポリエチレンジオキシチオフェン化合物、金属フタロシアニン化合物、ビオロゲン化合物、ビオロゲン塩化合物、フェロセン化合物、テレフタル酸ジメチル化合物、テレフタル酸ジエチル化合物等が挙げられる。なかでも、ポリアセチレン化合物が好ましく、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物がより好ましい。
【0012】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、エレクトロクロミック性と導電性とを有し、かつ、エレクトロクロミック層の形成が容易である。従って、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物を用いれば、優れた調光性能を有するエレクトロクロミック層を容易に形成できる。また、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は、構造が変化することにより、吸収特性の変化を示す。その結果、吸収スペクトルが近赤外線の波長領域に及ぶため、エレクトロクロミック層は広い波長領域について優れた調光性能を有する。
【0013】
上記芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物は特に限定されないが、例えば、一置換又は二置換の芳香族を側鎖に有するポリアセチレン化合物等が好適である。
上記芳香族側鎖を構成する置換基は特に限定されないが、例えば、フェニル、p−フルオロフェニル、p−クロロフェニル、p−ブロモフェニル、p−ヨードフェニル、p−ヘキシルフェニル、p−オクチルフェニル、p−シアノフェニル、p−アセトキシフェニル、p−アセトフェニル、ビフェニル、o−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、p−(ジメチルフェニルシリル)フェニル、o−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、p−(ジフェニルメチルシリル)フェニル、o−(トリフェニルシリル)フェニル、p−(トリフェニルシリル)フェニル、o−(トリルジメチルシリル)フェニル、p−(トリルジメチルシリル)フェニル、o−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、p−(ベンジルジメチルシリル)フェニル、o−(フェネチルジメチルシリル)フェニル、p−(フェネチルジメチルシリル)フェニル等のフェニル基や、ビフェニル基や、1−ナフチル、2−ナフチル、1−(4−フルオロ)ナフチル、1−(4−クロロ)ナフチル、1−(4−ブロモ)ナフチル、1−(4−ヘキシル)ナフチル、1−(4−オクチル)ナフチル等のナフチル基や、ナフタレン基や、1−アントラセン、1−(4−クロロ)アントラセン、1−(4−オクチル)アントラセン等のアントラセン基や、1−フェナントレン等のフェナントレン基や、1−フルオレン等のフルオレン基や、1−ペリレン等のペリレン基等が挙げられる。
上記芳香族側鎖を構成する置換基として、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、ナフタレン基、アントラセン基、フェナントレン基、フルオレン基及びペリレン基からなる群より選択される少なくとも1種の置換基を有することが好ましい。なかでも、電圧を印加してから光透過率の変化が完了するまでの時間がより一層短くなることから、上記芳香族側鎖を構成する置換基は、ナフチル基、ナフタレン基、アントラセン基、フェナントレン基、フルオレン基又はペリレン基であることが好ましく、アントラセン基、フェナントレン基、フルオレン基又はペリレン基であることがより好ましく、フェナントレン基であることが更に好ましい。
なお、上記芳香族側鎖を構成する置換基の一部の水素原子は、水素原子以外の原子又は原子団に置換されていてもよい。
【0014】
また、必要に応じて、無機エレクトロクロミック化合物を併用してもよい。上記無機エレクトロクロミック化合物は、エレクトロクロミック性を有する無機化合物であり、例えば、Mo、Ir、NiO、V、WO等が挙げられる。
【0015】
上記エレクトロクロミック層用組成物は、バインダー樹脂を含有してもよい。
上記エレクトロクロミック層に用いるバインダー樹脂としては特に限定されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアセタール、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好適である。
【0016】
上記エレクトロクロミック層用組成物は、更に、熱線吸収剤や接着力調整剤を含有してもよい。
上記熱線吸収剤は、赤外線を遮蔽する性能を有すれば特に限定されないが、錫ドープ酸化インジウム粒子、アンチモンドープ酸化錫粒子、亜鉛以外の元素がドープされた酸化亜鉛粒子、六ホウ化ランタン粒子、アンチモン酸亜鉛粒子、及び、フタロシアニン構造を有する赤外線吸収剤からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。
【0017】
上記接着力調整剤は、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等が挙げられる。なかでも、炭素数2〜16のカルボン酸のアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩が好適であり、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸カリウム、プロピオン酸マグネシウム、プロピオン酸カリウム、2−エチルブタン酸マグネシウム、2−エチルブタン酸カリウム、2−エチルヘキサン酸マグネシウム、2−エチルヘキサン酸カリウム等が挙げられる。これらの接着力調整剤は単独で用いられてもよく、併用されてもよい。
【0018】
上記エレクトロクロミック層用組成物は、上述のエレクトロクロミック化合物、及び、必要に応じて添加する、バインダー樹脂、熱線吸収剤、接着力調整剤を適当な溶媒に溶解させることにより調製できる。
【0019】
上記導電膜は、スズドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、ガリウムドープ酸化亜鉛(GZO)等を含む透明導電膜であることが好ましい。
上記導電膜は、ガラス板上に形成されていることが好ましい。
上記ガラス板としては、一般に使用されている透明板ガラスを挙げることができる。例えば、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入りガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収ガラス、熱線反射ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアクリレート等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
【0020】
上記エレクトロクロミック層用組成物を塗布して、乾燥して、塗布膜を形成する方法としては、特に限定されず、公知の方法であればよく、例えば、バーコート、スピンコート、ディップコート、スクリーン印刷、ロールコート、スプレーコート等が挙げられる。
上記エレクトロクロミック層用組成物の塗布量は、所望の厚さのエレクトロクロミック層が得られるよう、適宜調整するとよい。
【0021】
本発明の調光体の製造方法は、更に、上記塗布膜を、上記有機エレクトロクロミック化合物のガラス転移温度(Tg)以上で加熱する工程を有する。
上記塗布膜を上述の温度で加熱することにより、導電膜とエレクトロクロミック層との密着性を格段に高めることができる。
【0022】
上記塗布膜の加熱温度が、有機エレクトロクロミック化合物のガラス転移温度(Tg)未満であると、導電膜とエレクトロクロミック層との密着性が不充分となる。
上記ガラス転移温度(Tg)は、JIS K7121に準拠する、示差走査熱量分析法により昇温速度10℃/minで測定して得られる温度である。
上記有機エレクトロクロミック化合物として、例えば、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物を用いた場合は、上記加熱温度は、230℃以上であることが好ましい。
【0023】
上記加熱温度の上限は、特に限定されないが、上記有機エレクトロクロミック化合物の劣化温度又は分解温度未満であることが好ましい。
上記有機エレクトロクロミック化合物として、例えば、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物を用いた場合は、上記加熱温度の実質的な上限は、320℃である。
上記加熱の方法は、特に限定されず、公知の方法であればよく、例えば、熱風による加熱、赤外線照射、光照射、マイクロウェーブ等が挙げられる。
【0024】
上記エレクトロクロミック層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.05μm、好ましい上限は2μmである。上記エレクトロクロミック層の厚さが0.05μm未満であると、エレクトロクロミック層に電圧を印加しても充分に光の透過率が変化しないことがあり、2μmを超えると、調光体の透明性が低下することがある。上記エレクトロクロミック層の厚さのより好ましい下限は0.1μm、より好ましい上限は1μmである。
【0025】
本発明の調光体の製造方法は、更に、形成されたエレクトロクロミック層上に、電解質層及び導電膜を積層する工程を有することが好ましい。
上記エレクトロクロミック層上に、電解質層及び導電膜を積層する方法としては、特に限定されず、公知の方法であればよく、例えば、予め電解質層を別に製造し、上記形成されたエレクトロクロミック層上に上記電解質層を積層し、更に、導電膜が形成されたガラス板を、該導電膜が上記電解質層と接するように積層して、これらの積層体を圧着させる方法が挙げられる。
【0026】
上記電解質層は、イオンを伝導することにより上記エレクトロクロミック層に電圧を印加し、エレクトロクロミック層の光の透過率を変化させる役割を有する層である。
上記電解質層は、バインダー樹脂、支持電解質塩及び溶媒を含有することが好ましい。
【0027】
上記電解質層のバインダー樹脂は、特に限定されないが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
上記バインダー樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体、ポリ三フッ化エチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。なかでも、ポリビニルアセタール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体が好ましく、ポリビニルアセタール樹脂がより好ましい。
【0028】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、透明性が高い電解質層が得られることから、炭素数が4又は5のアルデヒドによりポリビニルアルコール樹脂をアセタール化して得られたポリビニルアセタール樹脂が好適である。
上記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度の好ましい下限は500、好ましい上限は5000である。上記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度が500未満であると、上記電解質層の形状を維持できないことがあり、5000を超えると、イオン伝導性が低くなって、電圧を印加してもエレクトロクロミック層の光の透過率が変化しないことがある。
上記ポリビニルアルコール樹脂の平均重合度は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)を用いてポリスチレン換算により求めたポリビニルアルコール樹脂の重量平均分子量を、ポリビニルアルコール樹脂1セグメントあたりの分子量で除算することで求めることができる。
【0029】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセチル基量が15mol%以下であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂のアセチル基量が15mol%を超えると、疎水性が低くなりすぎ、電解質層の白化の原因となることがある。
上記ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基量が30mol%以下であることが好ましい。上記ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量が30mol%を超えると、上記溶媒との相溶性が低下し、エレクトロクロミック層の透明性が低下することがある。
なお、上記アセチル基量及び上記水酸基量は、JIS K 6728に準じて、滴定法により求めることができる。
【0030】
上記支持電解質塩は特に限定されず、過塩素酸リチウム、ホウフッ化リチウム、リンフッ化リチウム等の無機酸アニオンリチウム塩や、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドリチウム等の有機酸アニオンリチウム塩が挙げられる。
【0031】
上記支持電解質塩は、アンモニウムカチオンと、アニオンとの塩であってもよい。
上記アンモニウムカチオンは特に限定されず、例えば、テトラエチルアンモニウム、トリメチルエチルアンモニウム、メチルプロピルピロリジニウム、メチルブチルピロリジニウム、メチルプロピルピペリジニウム、メチルブチルピペリジニウム等のアルキルアンモニウムカチオンや、エチルメチルイミダゾリウム、ジメチルエチルイミダゾリウム、メチルピリジニウム、エチルピリジニウム、プロピルピリジニウム、ブチルピリジニウム等が挙げられる。
上記アニオンは特に限定されず、過塩素酸アニオン、ホウフッ化アニオン、リンフッ化アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビストリフルオロメタンスルホン酸イミドアニオン等が挙げられる。
【0032】
上記電解質層中における上記支持電解質塩の配合量は特に限定されないが、上記バインダー樹脂100重量部に対する好ましい下限は3重量部、好ましい上限は60重量部である。上記支持電解質塩の配合量が3重量部未満であると、イオン伝導性が低くなって、電圧を印加してもエレクトロクロミック層の光の透過率が変化しないことがあり、60重量部を超えると、エレクトロクロミック層の応答性が低くなることがある。上記支持電解質塩の配合量のより好ましい下限は10重量部、より好ましい上限は50重量部である。
【0033】
上記溶媒は特に限定されず、例えば、アセトニトリル、ニトロメタン、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン等のエステル類や、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等の置換テトラヒドロフラン類や、1,3−ジオキソラン、4,4−ジメチル−1,3−ジオキソラン、t−ブチルエーテル、イソブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、1,2−エトキシメトキシエタン等のエーテル類や、エチレングリコール、ポリエチレングリコールスルホラン、3−メチルスルホラン、蟻酸メチル、酢酸メチル、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒が挙げられる。
【0034】
上記溶媒は、可塑剤であってもよい。可塑剤を上記溶媒として用いることにより、上記電解質層に柔軟性を付与することができる。
上記可塑剤は特に限定されず、例えば、トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)、トリエチレングリコールジ−2−エチルブチレート(3GH)、テトラエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(4GO)、ジヘキシルアジペート(DHA)等が挙げられる。
【0035】
上記電解質層中における上記溶媒の配合量は特に限定されないが、上記バインダー樹脂100重量部に対する好ましい下限は30重量部、好ましい上限は150重量部である。上記溶媒の配合量が30重量部未満であると、イオン伝導性が低くなって、電圧を印加しても調光体の光の透過率が変化しないことがあり、150重量部を超えると、電解質層が形状を維持できないことがある。上記溶媒の配合量のより好ましい下限は50重量部、より好ましい上限は100重量部である。
【0036】
上記電解質層は熱線吸収剤、接着力調整剤を含有してもよい。
上記熱線吸収剤、接着力調整剤は特に限定されず、上記エレクトロクロミック層に用いる添加剤と同様の添加剤を用いることができる。
【0037】
上記電解質層は単層構造であってもよく、多層構造であってもよい。上記電解質層が多層構造であるとは、上記電解質層が2層以上積層された構造であることを意味する。
上記電解質層が多層構造である場合、例えば、上記溶媒として可塑剤の含有量の異なる電解質層を積層したり、上記バインダー樹脂として水酸基量の異なるポリビニルアセタール樹脂を含有する電解質層を積層したりすることにより、得られる調光体の遮音性等を向上させることができる。
【0038】
上記電解質層の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は0.1mm、好ましい上限は3.0mmである。上記電解質層の厚さが0.1mm未満であると、上記調光体に電圧を印加しても光の透過率が変化しないことがあり、3.0mmを超えると、上記エレクトロクロミック層に電圧を印加した場合、光の透過率の変化速度が低下することがある。上記電解質層の厚さのより好ましい下限は0.3mm、より好ましい上限は1.0mmである。
【0039】
上記電解質層を形成する方法は特に限定されず、例えば、上記溶媒に上記支持電解質塩を溶解した溶液を調製し、得られた溶液と上記バインダー樹脂とを混合した混合物を用いて、熱プレス等の方法により電解質層を形成する方法や、該混合物を押出機により押出成形し、電解質層を形成する方法等が挙げられる。
【0040】
上記電解質層を上記エレクトロクロミック層上に積層する場合、上記電解質層は、上記エレクトロクロミック層に接する面に、エレクトロクロミック層を有することが好ましい。エレクトロクロミック層を有することにより、調光体の応答性をより良好にすることができる。なお、上述したエレクトロクロミック層と区別するため、上記電解質層に形成されるエレクトロクロミック層を以下「第二のエレクトロクロミック層」という。
【0041】
上記第二のエレクトロクロミック層は、上述したエレクトロクロミック層と同様の成分を含むことが好ましい。
上記第二のエレクトロクロミック層の形成は、特に限定されず、例えば、上述のエレクトロクロミック層用組成物を電解質層上に塗布して乾燥させて形成してもよいし、上述のエレクトロクロミック層用組成物を混練機で混合したうえで押出法により成形して製膜してもよい。
【0042】
上記第二のエレクトロクロミック層を形成する場合は、上述のエレクトロクロミック層と上記第二のエレクトロクロミック層とを合わせた総厚さが、上述したエレクトロクロミック層の厚みの範囲となるように、適宜塗布量を調整して形成することが好ましい。
【0043】
また、本発明の調光体の製造方法は、更に、必要に応じて、紫外線吸収剤を含有する紫外線吸収層や、熱線吸収剤を含有する赤外線吸収層等を積層する工程を有していてもよい。上記積層は、公知の方法により行うとよい。
【0044】
このような、本発明の調光体の製造方法により、一対の導電膜の間にエレクトロクロミック層及び電解質層を有する調光体を得ることができる。本発明の製造方法により得られた調光体は、導電膜とエレクトロクロミック層との密着性が優れる。
【0045】
本発明の製造方法により得られる調光体は、合わせガラスとして適用することができる。
すなわち、上記合わせガラスは、導電膜が形成されている一対のガラス板の間に、エレクトロクロミック層及び電解質層を有する。
【0046】
本発明の製造方法により得られる調光体を合わせガラスに適用する場合、合わせガラスとして適切なガラス板を適宜選択するとよい。
上記ガラス板として、2種類以上のガラス板を用いてもよい。例えば、一方に透明フロート板ガラスを用い、他方をグリーンガラスのような着色されたガラス板を用いてもよい。また、上記ガラス板として、2種以上の厚さの異なるガラス板を用いてもよい。
【0047】
本発明の製造方法により得られる調光体又は合わせガラスの面密度は特に限定されないが、12kg/m以下であることが好ましい。
本発明の製造方法により得られる合わせガラスは、自動車用ガラスとして使用する場合は、サイドガラス、リアガラス、ルーフガラスとして用いることができる。
【発明の効果】
【0048】
本発明によれば、電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できる調光体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されない。
【0050】
(実施例1)
(1)エレクトロクロミック(EC)層の作製
ポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)の調製
窒素雰囲気下−50℃で9−エチニルフェナントレン3gを溶解させたテトラヒドロフラン溶液30mLにノルマルブチルリチウムの1.6mol/Lヘキサン溶液を添加した。次いで、−90℃に冷却後、カリウムターシャリーブトキシド1.8gを溶解させたテトラヒドロフラン溶液15mLを添加し、−80℃で1時間撹拌し、5℃まで昇温した。次いで、−70℃で1−ヨードオクタデカン5.6gを滴下し、−30℃で12時間撹拌した。0℃で水100mLを滴下し、ヘキサンを加え、生成した化合物を抽出した。このヘキサン層を蒸留水300mLで3回洗浄後、無水硫酸マグネシウムで1時間乾燥させ、濾過後、溶媒を留去した。カラム精製後溶媒を留去し、ヘキサンを展開溶媒としてカラム精製することにより3.5gの9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンを得た。
得られた9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレンについてH−NMR(270MHz、CDCl)により分析を行ったところ、δ8.7(2H)、8.5(1H)、8.1(1H)、7.7(4H)、3.7(1H)、3.5(2H)、1.7(2H)、1.6(30H)、1.0(3H)のピークが認められた。
得られた9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン0.35gをWCl触媒を用いて重合させ、ポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)0.27gを得た。
得られたポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)のガラス転移温度(Tg)は、230℃であった。
【0051】
得られたポリ(9−エチニル−10−n−オクタデシルフェナントレン)3重量部をトルエン10重量部に溶解して溶液を調製した。この溶液を、ITOガラスの透明導電膜上に、トルエンが揮発した後の厚さが0.3μmになるようにバーコーターを用いて塗布し、乾燥して塗布膜を形成し、該塗布膜を240℃で30分間加熱し、エレクトロクロミック層を形成した。
【0052】
(2)電解質層の作製
トリエチレングリコールジ−2−エチルヘキサノエート(3GO)2.38重量部に、支持電解質塩としてビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドリチウム(LiTFSI)0.67重量部を溶解して電解質溶液を調製した。得られた電解質溶液の全量と、アセチル基量13mol%、水酸基量22mol%、平均重合度が2300のポリビニルブチラール樹脂5.0重量部とを混合して樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートに挟み、厚さ400μmのスペーサを介して、熱プレスにて150℃、100kg/cmの条件で5分間加圧し、厚さ400μmの電解質層を得た。
【0053】
(3)調光体の作製
上記で得られた、ITOガラスの透明導電膜上に形成されたエレクトロクロミックシート上に、電解質層を配置し、その上からITOガラスを、該ITOガラスの透明導電膜と電解質層とが接するようにし、電解質層をはさみ込むようにして積層した。得られた積層体を、90℃の真空ラミネーターで圧着し、圧着後140℃、14MPaの条件でオートクレーブを用いて20分間圧着を行い、調光体を得た。
【0054】
(比較例1)
塗布膜を240℃で加熱する代わりに、180℃で加熱した点以外は、実施例1と同様にして、エレクトロクロミック層を形成し、調光体を作製した。
(評価)
実施例及び比較例で得た調光体について、下記の方法により評価を行った。
結果を表1に示した。
【0055】
(1)透明導電膜に対する密着性の評価
ITOガラス(縦25mm×横150mm)の透明導電膜上に形成されたエレクトロクロミック層側に電解質層が接するようにして、ITOガラスとポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムA(縦25mm×横150mm×厚み0.1mm)との間に、電解質層を挟み込むことにより、積層体を得た。積層体を作製する際に、エレクトロクロミック層と電解質層との間に、積層体の横方向の一方の端部とPETフィルムB(縦25mm×横20mm)の横方向の一方の端部とが一致するように、PETフィルムBを挟み込んだ。すなわち、積層体の横方向の一方の端部から20mmの領域Aにおいては、ITO透明導電膜が形成されたガラスと、エレクトロクロミック層と、PETフィルムBと、電解質層と、PETフィルムAとがこの順に積層されていた。積層体の他の領域Bにおいては、ITO透明導電膜が形成されたガラスと、エレクトロクロミック層と、電解質層と、PETフィルムAとがこの順に積層されていた。
積層体を90℃の真空ラミネーターで圧着し、140℃、14MPaの条件でオートクレーブを用いて20分間圧着を行い、ピール試験用のサンプル(縦25mm×横150mm)とした。領域AにおけるPETフィルムBを除去した後、試験機でピール試験を行い、電解質層を剥離させた。実施例1では、ピール試験にて電解質層を剥離する際に、電解質層はエレクトロクロミック層から剥離したが、エレクトロクロミック層は透明導電膜から剥離しなかった。比較例1では、ピール試験にて電解質層を剥離する際に、電解質層はエレクトロクロミック層から剥離しなかったが、エレクトロクロミック層が透明導電膜から剥離した。試験条件は、剥離角度を180°、温度を25℃、剥離速度を200mm/分とした。
【0056】
(2)エレクトロクロミック性の評価
ITOガラスA(縦50mm×横50mm)の透明導電膜上に形成されたエレクトロクロミック層側に縦45mm×横45mmのサイズに切断された電解質層が接するようにし、ITOガラスB(縦50mm×横50mm)の透明導電膜が電解質層と接するように合わせた。すなわち、ITOガラスAと、エレクトロクロミック層と、電解質層と、ITOガラスBとがこの順に積層されていた。
積層体を90℃の真空ラミネーターで圧着し、140℃、14MPaの条件でオートクレーブを用いて20分間圧着を行い、調光体を得た。
完全に着色した状態の調光体の640nmの透過率をTC、完全に消色した状態の調光体640nmの透過率をTBとする。完全に着色した状態の調光体に+2Vの電圧を印加し、調光体に+2Vの電圧を印加してから、調光体の640nmの透過率がTCからT1=TC+(TB−TC)×0.8まで変化する時間(以下、消色時間ともいう)を確認した。なお、透過率の測定には、日本分光社製の分光光度計「V−670」を用いた。
【0057】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明によれば、電圧を印加することにより光の透過率が変化し、かつ、高い安全性を有する合わせガラスを製造できる調光体の製造方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の導電膜の間に、有機エレクトロクロミック化合物を含有するエレクトロクロミック層及び電解質層を有する調光体の製造方法であって、
前記エレクトロクロミック層を、前記有機エレクトロクロミック化合物のガラス転移温度以上で加熱する工程を有する
ことを特徴とする調光体の製造方法。
【請求項2】
有機エレクトロクロミック化合物は、芳香族側鎖を有するポリアセチレン化合物である請求項1記載の調光体の製造方法。

【公開番号】特開2012−215684(P2012−215684A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−80410(P2011−80410)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】