説明

調光装置、団扇及びドアのぞき窓

【課題】メンテナンスフリーで高い透過効率をもつ調光装置を提供する。
【解決手段】間欠的な機械的作用を受けて電気エネルギーを発生する圧電素子と、圧電素子により発生した電圧により透明状態と散乱状態の2種類の状態に切り替わる光変調素子と、を接続した調光装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば入射光の光量を調節して出射するための、液晶光学素子を用いた調光装置及びその応用製品である団扇及びドアのぞき窓に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶光学素子(液晶セル)を用いる調光装置には、通常、偏光板が使用される。この液晶セルには、例えばTN(Twisted Nematic)型液晶セルが用いられる。通常は電圧を印加しない状態で透過し、電圧を印加することで遮光する。
【0003】
一方、電圧を印加しない状態で散乱し、電圧を印加することで透明し、偏光板を必要としない液晶光学素子として、ポリマーネットワーク液晶が挙げられる。ポリマーネットワーク液晶の液晶分子は、3次元ネットワーク状ポリマーの間で連続層を形成しているため、低い印加電圧による駆動が可能である。
【0004】
ポリマーネットワーク液晶と自立型の電源を利用した装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。商品価格等の表示情報を外部端末から無線で受信して変更可能な電子棚札において、棚札の商品価格等表示部にフィルム状の反射型液晶表示素子を設けたことを特徴とする。電子棚札には太陽電池を備えることができ、液晶表示にポリマーネットワーク型液晶材料を使用して反射特性を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−109956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のTN型液晶セルは偏光板を使用する。そのため透過率が半分となってしまい、光の利用効率が悪い。
【0007】
一方、特許文献1に示されているポリマーネットワーク液晶は偏光板を使用しないので光の利用効率を高くできる。しかし、駆動するための電源に太陽電池を使用している。太陽電池は外光を利用するために夜照明のない環境では発電できず液晶を駆動できなくなってしまう。
【0008】
通常、太陽電池は二次電池と併用して、昼間の明るい環境で発電し、余分な電力を二次電池に蓄電する構成の場合では、夜間は二次電池の電力利用し、装置に必要な電力を供給する。しかし、一日一回の充放電のペースであっても二次電池が劣化するために長期間の使用は不可能である。
【0009】
二次電池の代わりに太陽電池と一次電池の併用も、一次電池の寿命があるためにメンテナンスフリーで長期間の使用は期待できない。
【0010】
本発明は上記従来の課題に鑑みなされたものであり、透過率の優れた液晶光学素子を電源メンテナンスフリーで、昼夜問わず使用したいときに電気スイッチを使用しないで使用できる調光装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を達成するために、以下の様態について記載する。
第1の様態として、間欠的な機械的作用を受けて電気エネルギーを発生する圧電素子と、圧電素子により発生した電気エネルギーにより透明状態と散乱状態の2種類の状態に切り替わる光変調素子と、を接続した調光装置。
【0012】
第2の様態として、上記第1の様態において、圧電素子は、基板と、基板の両面に設置された1対の圧電セラミックス板と、1対の圧電セラミックス板にそれぞれ接続された1対の配線により成り立ち、配線は光変調素子に接続され、基板が撓むことにより圧電セラミックス板に圧電効果が発生し電気を出力する。
【0013】
第3の様態は、上記第1または2の様態において、光変調素子はポリマーネットワーク液晶パネルである。
【0014】
第4の様態は、上記第1ないし3の様態を応用したものであり、光変調素子を扇面に積層し、圧電素子は柄部の平面部と平行に設置されており、圧電素子から配線を介して光変調素子に電圧を伝達する団扇である。
【0015】
第5の様態は、上記第1ないし3の様態の応用したものであり、光変調素子がドアに形成された貫通孔に組みに込まれ、光変調素子に電気的に接続した圧電素子が設置され、圧電素子を押し込むことで光変調素子が透明状態に切り替わるドアのぞき窓である。
【0016】
第6の様態は、上記第5の様態において、圧電素子の室内側にフレネルレンズを配置し、さらにフレネルレンズの室内側に反射偏光板を配置する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の調光装置では、光変調素子を直接圧電セラミックス板に接続して、セラミックスに変位を与えることで得られる起電力のみで動作する。従って、従来のような太陽電池、二次電池、一次電池、液晶駆動回路、スイッチ機構等を一切使用しておらず、特別な駆動回路を使用せずに実現可能である。更に、電池交換などのメンテナンスも必要とせずランニングコストの大幅な低減を実現する。
【0018】
また、自らの力で発電することで、人のリズムと一体となったリズム感ある使用感覚が得られる。
【0019】
さらに、フィルムを用いたポリマーネットワーク液晶であるため、団扇などの用途にも応用が可能となる。団扇のように繰り返し変位を圧電セラミックス板にあたえる場合、発生する電圧は交流電圧となり、長時間液晶光学素子に印加しても劣化無く使用できる。
【0020】
他にも、本発明をドアのぞき窓に設置することで、外部から覗き込まれることで室内の様子を確認されるリスクが無くなり、安全性が向上する。
【0021】
ドアのぞき窓のようにワンショットで使用し、次に使用するまでのインターバルの長い用途では、圧電素子により発生した電圧をダイオードを介して光変調素子に印加する。その結果、一回の変位による電圧を保持できるようになり、透明状態の時間が長くなり、来訪者確認に必要な時間を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る調光装置の模式断面図である。
【図2】実施例1の調光装置を説明する模式図である。
【図3】実施例2の調光装置を説明する模式図である。
【図4】実施例2の調光装置の作用を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0024】
図1は、本発明に係る調光装置を表す模式図である。間欠的な機械的作用を受けて電気エネルギーを発生する圧電素子について説明する。
【0025】
図1において、圧電セラミック板6は0.25mm厚である。圧電セラミック板6は0.2mm厚のグラスファイバー製の基板7に2枚貼り合わせて構成されている。これら圧電セラミック板6及び基板7を合わせて圧電バイモルフ9と呼び、サイズは長さ105mm、幅10mm、厚さ0.7mmとなる。また、圧電バイモルフ9を片持ち支持で固定している支点8と、圧電バイモルフ9に変位を与えるための動作点4は基板7のそれぞれ別の端に形成される。
【0026】
圧電素子としては圧電バイモルフ9のみならず、両端支持型の圧電バイモルフ、単板の圧電素子、あるいは積層型の圧電素子等、機械的歪みに伴って電気エネルギーを発生するものであればいずれでも適用可能である。
【0027】
圧電バイモルフ9からの電力は配線5により光変調素子10の透明導電膜2に接続される。
【0028】
この光変調素子10は透明な樹脂と液晶との複合膜であるポリマーネット液晶3と、ポリマーネット液晶3の両面に透明導電膜2を介在させて、ガラスまたはプラスチックフィルムなどの透明基板1が1対の透明導電膜2を挟持するよう配置されて構成されている。
【0029】
また、この光変調素子10は電圧を印加すると透明になり、電圧を印加しないと光を散乱して不透明となる性質を有している。
【0030】
使用する液晶モードは、ポリマーネットワーク液晶以外に、コレステリック・ネマティック相転移型液晶モード、強誘電性液晶散乱モード、高分子分散液晶モード、動的散乱液晶モード(DSM)などが挙げられ、他の類似する液晶モードを使用してもよい。
【0031】
1対の圧電セラミックス板6を貼り合わせたものは、動作点4付近を上から押したとき、上側のセラミックスが伸び、下側のセラミックスは縮む変化(変位)が生じる。このとき、一定方向の起電力が発生する。再び、手を離すと、元に戻ろうと変位が起こり、そのため、起電力が発生する。
【0032】
先ほどと伸びる側と、縮む側が反対になり、発生する起電力の向きは逆向きになる。一般に液晶に印加する電圧は交流電圧であり、直流を印加し続けると劣化する場合がある。このため、通常はインバター回路を設けて液晶に印加される電圧がプラスとマイナスを同じになるような回路構成を用いる。
【0033】
本発明においては、圧電バイモルフ9を利用することで印加電圧は交流化されており特別な駆動回路を使用する必要はない。
【0034】
図2は実施例1の調光装置を説明する模式図である。図において、扇面15と柄16とで団扇が構成されている。この柄16の材質は、古来多くは竹で構成されているが、木または合成樹脂によって構成しても良い。扇面15で通常は柄から複数本の骨が扇状に広がった骨に、表面と裏面の両方から紙などの薄膜を張ることで作られる。
【0035】
しかし、本発明では紙の一部を取り除き、代わりに光変調素子10を貼り付ける。圧電バイモルフ9は柄16の長手方向の柄軸と同じ向きに合わせ、団扇を扇いだ時に変位エルギーが最大となる位置に固定されている。光変調素子10と圧電バイモルフ9は図示しないが配線により接続されている。
【0036】
団扇を扇いだ時、柄16の撓みにより、一方の圧電セラミックス板が伸びると共に、他方の圧電セラミックス板が縮む。この変位により、2つの圧電セラミックス板の間に起電力が発生する。この起電力の向きは、柄16の撓む方向に応じて変化する。一般的に団扇を扇ぐ場合往復した動作となり、交流電圧を発生する。
【0037】
この交流電圧が光変調素子10に印加され透明状態になり、団扇の向こう側を視認出来る様になる。柄16を撓まないような持ち方をして扇げば、光変調素子10には交流電圧は印加されず、散乱して不透明状態にすることも可能である。
【0038】
本発明は、以上説明したように構成されているので、団扇を扇いで涼を取りながら、団扇越しに景色を意識せずに楽しむことが出来、また電池の入れ替えによる煩わしさからも解消され、夏のイベントシーズンのみならず春夏秋冬の年間で多目的な団扇として、何時でも何処でも誰でも使用したいときに楽しめる。
【実施例2】
【0039】
図3は実施例2の調光装置の応用例を説明する模式図である。実施例1で説明した図1の構成と同じであるが、異なるアプリケーションの作用について説明するのに必要な構成部品のみ記載している。
【0040】
図3において、本発明の調光装置を玄関のドア11ののぞき窓13に組み込まれた例である。光変調素子10でのぞき窓13に組み込まれた状態を表し、図示はしないが光変調素子10を保護するケースによりドア11に取り付けられ、ケース内に圧電バイモルフや配線など調光装置の構成が組み込まれている。玄関のドア11には他にドアノブ12が備わっている。
【0041】
スイッチ14はばね式のプッシュスイッチあるいはレバー式のスイッチなどにより圧電バイモルフの動作点を押し込み開放する働きをする。このスイッチ14を押し込むことで起電力を生じ、白濁で不透明である散乱状態の光変調素子10は透明となる透明状態になり、のぞき窓13を通してドアの外側の状況を見ることができるようになる。
【0042】
透明状態の保持時間は圧電バイモルフを押し込み開放され戻るまでの間で、時間を長くするには図1の配線5の片側にダイオードを取り付け、圧電素子により発生した電圧を、ダイオードを介して光変調素子に印加することで可能となる。これにより、一回の変位による電圧を保持して、透明状態の時間を長くして、来訪者確認に必要な時間を長く確保できる。
【0043】
スイッチ14を動作しない時は、光変調素子10は白濁し不透明となるので、ドアの外側から室内を透視することはできない。
【0044】
また、透明状態ではドアの外側の来訪者とドアの内側の応対者は双方向で透明のため、
のぞき窓の開口径は小さめにすることが望ましい。
【0045】
図4の例では、光変調素子10が透明状態の場合で、ドアの外側の来訪者18とドアの内側の応対者19との視線が合わないようにする構成を示す。
【0046】
図4において、光変調素子10の室内側にフレネルレンズ20を配置し、更にフレネルレンズ20の室内側に反射偏光板21を配置する。光変調素子10とフレネルレンズ20と反射偏光板21は積層し、隙間を持たせる必要はない。
【0047】
光変調素子10の散乱領域では来訪者側から発する外光17が入射しても散乱光24として拡散して不透明となる。これは、ドアの外側の来訪者18とドアの内側の応対者19は双方向で不透明となる。
【0048】
一方、光変調素子10の透明領域では来訪者側から発する外光17が入射すると、光変調素子10を透過し、フレネルレンズ20に入射する。フレネルレンズ20と反射偏光板21は積層されているので、反射偏光板21の反射光は凸面鏡として機能し、来訪者18へ反射光22として反射する。フレネルレンズ20の焦点距離は反射で使用すると半分になり、曲率の強い凸面鏡となるので、来訪者自身を含めたドアの外側を映し出す。
【0049】
一方、ドアの内側の応対者19からは、反射偏光板21はフレネルレンズ20の手前にあるので、フレネルレンズ20は透過のレンズとして機能し、焦点距離も変わらず、通常のレンズとして機能し、応対者19がフレネルレンズ20から30センチメートル以上離れる位置から透過光23を受け取り、ドアの外側の倒立像を広角で観察できる。この場合のフレネルレンズの焦点距離は30ミリメートル以内が望ましい。
【0050】
また、光変調素子10の位置は来訪者18側に備えるのではなく、応対者19側の反射偏光板21上に設置しても良い。光変調素子10を応対者19側に備えた場合、応対者19が光変調素子10を散乱状態から透明状態に切り替えても、来訪者18側である外側ではのぞき窓に大きな光学上の変化が生じないため、よりプライバシーが保てる構成となる。
【0051】
この構成はドアの外側が明るく、ドアの内側が暗いほうがより効果を発揮するので、夜間は玄関照明を外側に用いることが望ましい。
【0052】
倒立像が好ましくない場合、2枚の鏡をレンズ間に設置し正立像に変換したり、正立プリズムにより正立像へ変換したりするなどにより、倒立像を修正しても良い。
【0053】
また、玄関ドアは電源工事が難しく、電池のメンテナンスをするほど使用頻度も少なく、取り付けも既存ドアへの後付けとなるため、軽量、メンテナンスフリーの本発明の調光装置は、住宅や収納庫などのドアに組み込んで用いるのに有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 透明基板
2 透明導電膜
3 ポリマーネット液晶
4 動作点
5 配線
6 圧電セラミックス板
7 基板
8 支点
9 圧電バイモルフ
10 光変調素子
11 ドア
12 ドアノブ
13 のぞき窓
14 スイッチ
15 扇面
16 柄
17 外光
18 来訪者
19 応対者
20 フレネルレンズ
21 反射偏光板
22 反射光
23 透過光
24 散乱光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間欠的な機械的作用を受けて電気エネルギーを発生する圧電素子と、前記圧電素子により発生した電気エネルギーにより透明状態と散乱状態の2種類の状態に切り替わる光変調素子と、を接続した調光装置。
【請求項2】
前記圧電素子は、基板と、前記基板の両面に設置された1対の圧電セラミックス板と、前記1対の圧電セラミックス板にそれぞれ接続された1対の配線により成り立ち、前記配線は前記光変調素子に接続され、前記基板が撓むことにより前記圧電セラミックス板に圧電効果が発生し電気を出力する請求項1に記載の調光装置。
【請求項3】
前記光変調素子はポリマーネットワーク液晶パネルである請求項1または2に記載の調光装置。
【請求項4】
柄と扇面とからなる団扇において、前記光変調素子を前記扇面に積層し、前記圧電素子は前記柄部の平面部と平行に設置されており、前記圧電素子から前記配線を介して前記光変調素子に電圧を伝達する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の調光装置を利用した団扇。
【請求項5】
ドアのぞき窓において、前記光変調素子がドアに形成された貫通孔に組みに込まれ、前記光変調素子に電気的に接続した前記圧電素子が設置され、前記圧電素子を押し込むことで前記光変調素子が透明状態に切り替わる請求項1ないし3のいずれか1項に記載の調光装置を利用したドアのぞき窓。
【請求項6】
前記ドアのぞき窓において、前記圧電素子の室内側にフレネルレンズを配置し、さらに前記フレネルレンズの室内側に反射偏光板を配置する請求項5に記載の調光装置を利用したドアのぞき窓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−209469(P2011−209469A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76361(P2010−76361)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000002325)セイコーインスツル株式会社 (3,629)
【Fターム(参考)】