説明

調整弁装置

【課題】弁の開閉精度を向上させた調整弁装置を提供する。
【解決手段】調整弁装置300は、弁体頭部310aを有する弁体310と、弁体に動力を伝達する動力伝達部材320aと、弁体を摺動可能に内蔵する弁箱305と、動力伝達部材に対して弁体と反対側の位置に第1の空間Usを形成する第1のベローズ320bと、動力伝達部材に対して弁体側の位置に第2の空間Lsを形成する第2のベローズ320cと、第1の空間と連通する第1の配管320dと、第2の空間と連通する第2の配管320eとを有する。第1の空間及び第2の空間に供給される作動流体の圧力比率に応じて動力伝達部材から弁体に動力を伝達することにより、弁体頭部によって弁箱に形成された搬送路を開閉する。弁体頭部は、弁体頭部が接する搬送路の弁座面のビッカース硬さより硬く、その硬度差は概ね200〜300Hvである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスにより弁体を開閉する調整弁装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスを使って被処理体に所望の処理を行う製造装置では、処理室にガスを運ぶ搬送路が設けられ、その搬送路には開閉や流量調整のための調整弁が設けられていることが多い。たとえば、特許文献1に記載された調整弁装置では、弁ボディのインポートとアウトポートとの間で開閉弁及び流量調整弁が同軸線上に配設されている。開閉弁と流量調整弁とが直列に配設され、開閉弁の操作機構と流量調整弁の操作機構とが各別に形成されている。開閉弁が開位置にあるときに、流量調整弁が絞り位置と開位置との間を、流量を連続的に変化させながら切り換えられるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−153235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、弁体の開閉動作時、弁体と弁体が当接する弁座面との間の機械的な干渉や、組み立て時に発生する弁体と弁座面との僅かな偏りにより弁体の開閉部分にてリークが発生する場合がある。特に、弁体を繰り返し弁座面に当接すると、カジリや焼き付きが生じて大きなリークが発生する場合がある。たとえば、有機EL装置では、蒸着源にて蒸発した成膜材料(有機分子)は、キャリアガスとともに搬送路を通過して基板まで搬送される。搬送中、付着係数を考慮して成膜材料が搬送路の内壁に付着することを回避するために、搬送路を300℃以上の高温状態にする。このような状態で弁体の開閉動作を繰り返すと、機械的な干渉だけでなく熱の影響を受けて弁体と弁座面との間に摩擦や溶解が生じ、カジリや焼き付きが発生して弁体の開閉精度が低下し、ガスの制御が困難になることがある。
【0005】
そこで、上記課題を解決するために、本発明は、弁体及び弁体が当接する弁座面の構成を適正化することにより弁の開閉精度を向上させた調整弁装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、上記課題を解決するために、弁体頭部を有する弁体と、前記弁体に連結され、前記弁体に動力を伝達する動力伝達部材と、前記弁体を摺動可能に内蔵する弁箱と、一端を前記動力伝達部材に固着し、他端を前記弁箱に固着することにより、前記動力伝達部材に対して前記弁体と反対側の位置に第1の空間を形成する第1のベローズと、一端を前記動力伝達部材に固着し、他端を前記弁箱に固着することにより、前記動力伝達部材に対して前記弁体側の位置であって前記第1のベローズにより前記第1の空間と仕切られた位置に第2の空間を形成する第2のベローズと、前記第1の空間と連通する第1の配管と、前記第2の空間と連通する第2の配管と、を有する。前記第1の配管から前記第1の空間に供給される作動流体と前記第2の配管から前記第2の空間に供給される作動流体との圧力比率に応じて前記動力伝達部材から前記弁体に動力を伝達することにより、前記弁体頭部によって前記弁箱に形成された搬送路を開閉し、前記弁体頭部は、該弁体頭部が接する搬送路の弁座面のビッカース硬さより硬く、その硬度差は概ね200〜300Hvである調整弁装置が提供される。
【0007】
これによれば、図1に示したように第1のベローズ320bを用いて動力伝達部材320aに対して弁体310と反対側の位置に第1の空間Usが形成され、第1のベローズ320b及び第2のベローズ320cを用いて動力伝達部材320aに対して弁体側の位置に第2の空間Lsが形成される。この第1の空間Usに供給されるガスと第2の空間Lsに供給されるガスとの比率により、第1及び第2の空間に挟まれた動力伝達部材320aを弁体の閉方向又は開方向に摺動させることができる。この動力は、弁軸310cを介して弁体頭部310aに伝えられ、これにより、弁体頭部310aと該弁体頭部が接する搬送路の弁座面200a3との当接又は隔離により搬送路の開閉を制御することができる。
【0008】
特に、弁体頭部は、弁座面のビッカース硬さより硬く、その硬度差は、概ね200〜300Hvである。弁体頭部と弁座面との硬度差がない、若しくは硬度差が非常に小さいと、すべり効果が生じず、弁体の弁座面への食い込み動作不良が発生してしまう。一方、弁体頭部と弁座面との硬度差が大きすぎると、弁座面の弁体頭部が当たる部分が損傷してリーク量が大きくなる。本発明のように弁体頭部のビッカース硬さを弁座面のビッカース硬さより200〜300Hv程度硬くすると、図3(a)に示したように、開閉時の弁体頭部と弁座面との当接の繰り返しにより、2万回程度の開閉回数でシートに当たりがつき、リーク量を減少させることができる。この結果、耐久性を高め、調整弁装置を長寿命化させることができる。
【0009】
前記弁座面のビッカース硬さは、概ね400〜500Hvであってもよい。
【0010】
前記弁座面は、基材上部にステライト盛りされた金属の表面であってもよい。
【0011】
前記弁体頭部には、Ni系合金メッキが施されていてもよい。
【0012】
前記弁体頭部の前記搬送路に当接する部分はテーパ形状あり、前記弁体頭部の先端面に垂直な成分に対するテーパ角度θは40°〜80°であってもよい。
【0013】
前記弁体頭部の前記輸送路に当接する部分は円弧状であり、所望の曲率半径を有する構造であってもよい。
【0014】
前記弁座面はテーパ形状又は円弧状に形成されていてもよい。
【0015】
前記調整弁装置は、概ね25℃〜500℃の環境下において使用されてもよい。
【0016】
前記調整弁装置は、前記第1の空間及び前記第2の空間に作動流体として所望の不活性ガスを供給してもよい。
【0017】
前記調整弁装置は、前記第1の空間及び前記第2の空間に作動流体として所望の液体を供給してもよい。
【0018】
前記調整弁装置の操作圧力は、0.2〜0.6MPaであってもよい。
【0019】
前記調整弁装置は、被処理体を成膜する有機分子を被処理体近傍まで搬送する搬送路の開閉に用いられてもよい。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、弁体及び弁体が当接する弁座面の構成を適正化することにより弁の開閉精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る調整弁装置の断面図である。
【図2】図2(a)は同実施形態に係る調整弁装置の初期リーク量を示した表であり、図2(b)はその比較例である。
【図3】図3(a)は同実施形態に係る調整弁装置の使用回数とリーク量との関係を示したグラフであり、図3(b)はその比較例である。
【図4】同実施形態に係る6層連続成膜装置の概略斜視図である。
【図5】同実施形態に係る成膜ユニットの断面図である。
【図6】同実施形態に係る蒸着源及び搬送路の断面図である。
【図7】同実施形態に係る6層連続成膜装置により形成された有機EL素子の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の一実施形態にかかる調整弁装置について説明する。なお、以下の説明及び添付図面において、同一の構成及び機能を有する構成要素については、同一符号を付することにより、重複説明を省略する。
【0023】
[調整弁装置]
まず、調整弁装置300の断面を示した図1を参照しながら、調整弁装置300の内部構成及び動作について述べる。調整弁装置300は、円筒状の弁箱305を有している。弁箱305は、前方部材305a及び後方部材305bの2つに分かれている。弁箱305は中空になっていて、その略中央に破線で示した弁体310を内蔵している。弁箱の後方部材305bは、後方の破線で示した弁体駆動部320を内蔵している。
【0024】
弁体310は、弁体頭部310aと弁体身部310bとに分離されている。弁体頭部310aと弁体身部310bとは、弁軸310cにより連結されている。具体的には、弁軸310cは棒状部材であって、弁体身部310bの長手方向の中央を貫通し、弁体頭部310aの中央に設けられた凹部310a1に嵌入されている。弁体身部310bの後方側部に設けられた突出部310b1は、弁箱305の前方部材305aに設けられた凹部305a1に挿入されている。弁箱305の前方部材305aには、ガスを搬送する搬送路の往路200a1及び復路200a2が形成されている。
【0025】
凹部305a1には、突出部310b1が挿入された状態にて、弁体身部310bがその長手方向に摺動可能な空間が設けられていて、その空間には耐熱性のシール部材315が介在している。シール部材315の一例としては、金属製ガスケットが挙げられる。シール部材315は、搬送路側の真空と弁体駆動部320側の大気を遮断するとともに弁体身部310bの摺動による突出部310b1と弁箱の前方部材305aとの機械的干渉を緩和するようになっている。
【0026】
(弁体身部及び弁体頭部の分離構造)
弁体頭部310aの凹部310a1にも、弁軸310cが挿入された状態で遊び310a2が設けられている。本実施形態に係る弁体310では、弁体身部310bと弁体頭部310aとを分離することにより、弁体身部310bと弁軸310cとのクリアランス(隙間)を制御することにより、開閉動作時の弁体310の中心位置のずれを補正する。これに加えて、弁体頭部310aの凹部310a1に遊び310a2を設けることにより、弁体頭部310aの軸の微少なずれを調整することができる。これによって、テーパ形状の弁体頭部310aを同じくテーパ形状の弁座面200a3に偏りなく当接することができる。なお、弁座面200a3は搬送路を形成する基材に密着形成されたシート部材であり、弁体頭部310aが当接する部分である。
【0027】
弁体駆動部320は、弁箱305に内蔵された動力伝達部材320a、第1のベローズ320b及び第2のベローズ320cを有している。動力伝達部材320aは、略T字状であって、弁軸310cの端部にねじ止めされている。
【0028】
第1のベローズ320bは、一端が動力伝達部材320aに溶接され、他端が弁箱の後方部材305bに溶接されている。これにより、動力伝達部材320aに対して弁体310と反対側の位置に、動力伝達部材320aと第1のベローズ320bと後方部材305bとにより隔絶された第1の空間Usが形成される。
【0029】
第2のベローズ320cは、一端が動力伝達部材320aに溶接され、他端が弁箱の後方部材305bに溶接されている。これにより、動力伝達部材320aに対して弁体側の位置に、動力伝達部材320aと第1のベローズ320bと第2のベローズ320cと後方部材305bとにより隔絶された第2の空間Lsが形成される。
【0030】
第1の配管320d内は、第1の空間Usと連通している。第1の配管320dは、ガス供給源600から出力されたアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを第1の空間Usに供給する。第2の配管320e内は、第2の空間Lsと連通している。第2の配管320eは、ガス供給源600のから出力されたアルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガスを第2の空間Lsに供給する。かかる構成により、ベローズの伸縮性によって各空間をシールするとともに各空間に不活性ガスを導入することができる。なお、第1の空間Us及び第2の空間Lsに供給する不活性ガスの替りに、ガルデン、エチレングリコール等の液体を供給するようにしてもよい。つまり、第1の空間Us及び第2の空間Lsには、ガス又は液体等の作動流体を供給することにより、各空間の圧力比率を制御することができる。
【0031】
具体的には、第1の空間Usに供給された不活性ガスと第2の空間Lsに供給された不活性ガスとの比率に応じて、動力伝達部材320aを前方方向又は後方方向に移動することができる。たとえば、第1の空間Usに供給されるガス及び第2の空間Lsに供給されるガスにより、第1の空間Usの圧力が第2の空間Lsの圧力より相対的に高くなると、動力伝達部材320aは弁軸310cを前方に押圧し、弁体頭部310aが前方に移動して弁座面200a3に当接し、弁は閉状態なる。また、たとえば、上記各空間に供給されるガスにより、第1の空間Usの圧力が第2の空間Lsの圧力より相対的に低くなると、動力伝達部材320aは弁軸310cを後方に引っ張り、弁体頭部310aが後方に移動して弁座面200a3から離れ、弁は開状態なる。このようにして、弁体頭部310aがその長手方向に進行又は後退することによって搬送路の往路200a1及び復路200a2が開閉される。
【0032】
第3のベローズ325は、一端が弁体頭部310aに溶接され、他端が弁体身部310bに溶接されている。これにより、弁軸側の大気空間と搬送路側の真空空間とが遮断される。また、弁体身部310bと弁体頭部310aとの間を第3のベローズ325により支えることによって、弁体身部310bと弁軸310cとの間のクリアランスを管理することができる。これにより、弁体開閉動作時に弁体身部310bと弁軸310cとが接触して摩擦が生じないように制御される。
【0033】
(弁体及び弁座の材質及び表面処理)
以上に説明した構成の調整弁装置300では、リーク量を減らすために弁体及び弁座の材質、形状及び表面加工の最適化を図っている。たとえば、発明者らは、弁体310の材質として、耐熱性に優れたオーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lを採用した。加えて、発明者らは、弁体310の表面にF2コート(登録商標)を施した。F2コートは、ニッケルにリンを混入させた材料にてステンレス鋼をコーティングする処理である。本実施形態では、F2コートとして弁体頭部にNi系合金メッキを施した。これにより、発明者らは、特に弁体頭部のビッカース硬さを約600〜700Hvの硬度にした。
【0034】
弁座面200a3側は、ステンレス鋼にコバルト合金系の溶接盛りを施したステライトを採用し、ステライト盛りされた金属の表面を超精密研磨した。これにより、弁座面200a3のビッカース硬さは410〜440Hv程度にした。この結果、弁体310のスムーズな開閉動作を実現し、リーク量の低減による耐久性の向上と調整弁の長寿命化を達成した。この効果について図2及び図3を参照しながら説明する。
【0035】
[リーク状態の検証]
発明者らは、上記構成の調整弁装置300を用いて弁体310のリーク状態について検証した。その際、比較例として次の弁体を用いた。比較例の弁体及び弁座側の材質として、オーステナイト系ステンレス鋼SUS316Lを用い、弁体の表面をF2コート(登録商標)、弁座側をバニシング加工した。バニシング加工は、金属表面をローラで押しつぶし塑性変形させることにより、表層を硬化させるとともに超精密研磨により表面を鏡面状に仕上げる処理である。これにより、比較例の場合、弁体頭部310aのビッカース硬さは約600〜700HV、弁座面のビッカース硬さは300Hv程度、硬度差は300〜400Hvであった。なお、比較例では、弁体が弁体頭部と弁体身部とに分離していない一体型のものを使用した。
【0036】
まず、室温(25℃)における初期リーク量を測定した。
実験条件は次の通りである。
・操作圧力 0.2〜0.6(MPa)
・供給ガス 窒素ガス
・開閉時 バルブ入口側 真空引き
バルブ出口側 ガス加圧
【0037】
(初期リーク量)
実験の結果、図2(a)は本実施形態に係る調整弁装置300の初期リーク量を示した表であり、図2(b)はその比較例である。本実施形態に係る調整弁装置300では、初期リーク量は10−6〜10−9(Pa×m/sec)台の値であった。一方、比較例の場合、初期リーク量は10−7〜10−9(Pa×m/sec)台の値であり、本実施形態に係る調整弁装置300よりも初期リーク量は全体的に少なかった。
【0038】
(開閉回数とリーク量)
次に、弁の開閉回数とリーク量との関係について実験した結果を説明する。図3に示した実験は、操作圧力が0.3MPaの場合であり、室温と450℃との両方について実験した。図3(a)は本実施形態に係る調整弁装置300の開閉回数とリーク量との関係を示したグラフであり、図3(b)はその比較例である。
【0039】
実験結果によれば、本実施形態に係る調整弁装置300では、室温及び450℃のいずれの条件においても、開閉回数が2万回〜5万回まで10−9(Pa×m/sec)の台のリーク量であり、特に開閉回数が2万回終了後から4万回まで10−9(Pa×m/sec)の台のリーク量で状態変化が少なく安定している。開閉回数が1万回前では10−8〜10−7(Pa×m/sec)の台のリーク量であったことと比較すると、2万回程度の開閉回数で弁座面のシートに当たりが付き、リーク量が減少した可能性があると考えられる。
【0040】
一方、比較例の場合、室温及び450℃のいずれの条件においても、開閉回数が増えるにつれ、リーク量が相対的に大きくなる傾向を示し、開閉回数が2万回を超えると、リーク量が概ね10−5(Pa×m/sec)台になった。
【0041】
以上から、比較例のように、弁体頭部と弁座面との硬度差が300〜400Hv程度であると、開閉回数が増えるとともに弁座面のシートが損傷し、リーク量が大きくなることが分かった。
【0042】
一方、本実施形態では、弁体頭部310aにF2コートを施し、ビッカース硬さを約600Hv以上(概ね600〜700Hv)とし、弁座面200a3のビッカース硬さを400以上(概ね400〜500Hv)とすることにより、弁体頭部310aが弁座面200a3よりビッカース硬さが硬く、その硬度差を200〜300Hv程度にし、かつ弁体頭部310a及び弁座面200a3に異なる表面硬化処理を施した。この結果、2万回程度の開閉回数で弁座面のシートに当たりが付き、リーク量を低減し、耐久性を高め、長寿命化した調整弁装置300を製造することができることがわかった。
【0043】
[6層連続成膜装置]
次に、上記調整弁装置300を適用した6層連続成膜装置について図4を参照しながら説明する。6層連続成膜装置10では、所望の真空状態に維持された真空容器Chの内部に6つの成膜ユニット20が配置されている。成膜ユニット20は、3つの蒸着源ユニット100、連結管200及び蒸着源ユニット100と対になって連結管200の反対側に配置される3つの調整弁装置300及び吹き出し機構400を有している。成膜ユニット20の間には、隔壁板500がそれぞれ設けられている。
【0044】
蒸着源ユニット100は、SUS等の金属から形成されている。石英等は有機材料と反応しにくいため、蒸着源ユニット100は、石英等でコーティングされた金属から形成されていてもよい。なお、蒸着源ユニット100は、材料を気化する蒸着源の一例であり、ユニット型の蒸着源である必要はなく、一般的なるつぼであってもよい。
【0045】
蒸着源ユニット100の内部には、異なる種類の有機材料が納められている。蒸着源ユニット100は所望の温度に温められて有機材料を気化させる。気化とは、液体が気体に変わる現象だけでなく、固体が液体の状態を経ずに直接気体に変わる現象(すなわち、昇華)も含んでいる。気化された有機分子は、連結管200を通って、吹き出し機構400まで運ばれ、吹き出し機構400の上部に設けられたスリット状の開口Opから吹き出される。吹き出された有機分子は、基板Gに付着され、これにより基板Gが成膜される。隔壁板500は、隣接する開口Opから吹き出された有機分子同士が混在しながら成膜されることを防止する。なお、本実施形態では、図4に示したように、真空容器Chの天井位置にてスライド移動するフェースダウンの基板Gを成膜したが、基板Gはフェースアップに配置されていてもよい。
【0046】
[成膜ユニット]
図4の1−1断面を示した図5を参照しながら、成膜ユニット20の内部構造について説明すると、蒸着源ユニット100は、材料投入器110と外部ケース120とを有している。材料投入器110は、有機成膜材料を収納する材料容器110aとキャリアガスの導入流路110bとを有する。外部ケース120は、ボトル状に形成され、中空の内部に材料投入器110が着脱可能に装着されるようになっている。材料投入器110が外部ケース120に装着されると、蒸着源ユニット100の内部空間が画定され、その内部空間は、連結管200の内部に形成された搬送路200aと連通する。搬送路200aは、調整弁装置300の前記動作により開閉される。
【0047】
材料投入器110の端部からはアルゴンガスを流路110bに導入する。アルゴンガスは、材料容器110aに収納された成膜材料の有機分子を搬送するキャリアガスとして機能する。なお、キャリアガスは、アルゴンガスに限られず、ヘリウムガスやクリプトンガスなどの不活性ガスであればよい。成膜材料の有機分子は、蒸着源ユニット100から連結管200の搬送路200aを通って吹き出し機構400に搬送され、バッファ空間Sに一時滞留した後、スリット状の開口Opを通って基板G上に付着する。
【0048】
[搬送路の経路]
つぎに、図5の2−2断面を示した図6を参照しながら、搬送路200aの経路について簡単に説明する。前述したように、連結管200は、調整弁装置300を経由して気化有機分子を吹き出し機構400側へ搬送する。具体的には、調整弁装置300の弁体は成膜中には開くため、各蒸着源ユニット100にて気化された有機分子は、キャリアガスにより搬送されながら、搬送路の往路200a1から復路200a2に通され、吹き出し機構400まで搬送される。一方、調整弁装置300の弁体は成膜しないときには閉じるため、搬送路の往路200a1と復路200a2とは閉塞され、有機分子の搬送は停止させる。
【0049】
[有機膜構造]
かかる構成の6層連続成膜装置10では、図4に示したように、基板Gは1〜6番目の吹き出し機構400の上方をある速度で進行する。進行中、図7に示したように、基板GのITO上に順に、第1層のホール注入層、第2層のホール輸送層、第3層の青発光層、第4層の緑発光層、第5層の赤発光層、第6層の電子輸送層が成膜される。このようにして、本実施形態にかかる6層連続成膜装置10では、第1層〜第6層の有機層が連続成膜される。このうち、第3層〜第5層の青発光層、緑発光層、赤発光層は、ホールと電子の再結合により発光する発光層である。また、有機層上のメタル層(電子注入層及び陰極)は、スパッタリングにより成膜される。
【0050】
これにより、有機層を陽極(アノード)および陰極(カソード)にてサンドイッチした構造の有機EL素子がガラス基板上に形成される。有機EL素子の陽極および陰極に電圧を印加すると、陽極からはホール(正孔)が有機層に注入され、陰極からは電子が有機層に注入される。注入されたホールおよび電子は有機層にて再結合し、このとき発光が生じる。
【0051】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0052】
たとえば、本発明に係る調整弁装置は、被処理体を成膜する有機分子を被処理体近傍まで搬送する搬送路の開閉に用いられ、有機EL装置だけでなく半導体製造装置やFPD装置等の製造装置に使用することができる。特に、本発明にかかる調整弁装置は、概ね25℃〜500℃の環境下において使用することができ、0.2〜0.6MPa操作圧力で使用可能である。
【0053】
弁体頭部の搬送路に当接する部分はテーパ形状に限られず、円弧状に形成されていてもよい。弁座面も同様にテーパ形状に限られず、円弧状に形成されていてもよい。
【0054】
弁体頭部の搬送路に当接する部分がテーパ形状の場合、弁体頭部の先端面に垂直な成分に対するテーパ角度θは40°〜80°である。弁体頭部の輸送路に当接する部分が円弧状の場合、所望の曲率半径を有する構造である。
【0055】
なお、本発明に係る有機EL装置の成膜材料には、パウダー状(固体)の有機材料を用いることができる。成膜材料に主に液体の有機金属を用い、気化させた成膜材料を加熱された被処理体上で分解させることにより、被処理体上に薄膜を成長させるMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition:有機金属気相成長法)に用いることもできる。
【符号の説明】
【0056】
10 6層連続成膜装置
20 成膜ユニット
100 蒸着源ユニット
200 連結管
200a 搬送路
200a1 往路
200a2 復路
300 調整弁装置
305 弁箱
305a 弁箱の前方部材
305b 弁箱の後方部材
310 弁体
310a 弁体頭部
310b 弁体身部
310c 弁軸
315 シール部材
320 弁体駆動部
320a 動力伝達部材
320b 第1のベローズ
320c 第2のベローズ
320d 第1の配管
320e 第2の配管
400 吹き出し機構
600 ガス供給源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
弁体頭部を有する弁体と、
前記弁体に連結され、前記弁体に動力を伝達する動力伝達部材と、
前記弁体を摺動可能に内蔵する弁箱と、
一端を前記動力伝達部材に固着し、他端を前記弁箱に固着することにより、前記動力伝達部材に対して前記弁体と反対側の位置に第1の空間を形成する第1のベローズと、
一端を前記動力伝達部材に固着し、他端を前記弁箱に固着することにより、前記動力伝達部材に対して前記弁体側の位置であって前記第1のベローズにより前記第1の空間と仕切られた位置に第2の空間を形成する第2のベローズと、
前記第1の空間と連通する第1の配管と、
前記第2の空間と連通する第2の配管と、を備え、
前記第1の配管から前記第1の空間に供給される作動流体と前記第2の配管から前記第2の空間に供給される作動流体との圧力比率に応じて前記動力伝達部材から前記弁体に動力を伝達することにより、前記弁体頭部によって前記弁箱に形成された搬送路を開閉し、
前記弁体頭部は、該弁体頭部が接する搬送路の弁座面のビッカース硬さより硬く、その硬度差は概ね200〜300Hvである調整弁装置。
【請求項2】
前記弁座面のビッカース硬さは、概ね400〜500Hvである請求項1に記載の調整弁装置。
【請求項3】
前記弁座面は、基材上にステライト盛りされた金属の表面である請求項1又は2に記載の調整弁装置。
【請求項4】
前記弁体頭部には、Ni系合金メッキが施されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の調整弁装置。
【請求項5】
前記弁体頭部の前記搬送路に当接する部分はテーパ形状であり、
前記弁体頭部の先端面に垂直な成分に対するテーパ角度θは40°〜80°である請求項1〜4のいずれか一項に記載の調整弁装置。
【請求項6】
前記弁体頭部の前記輸送路に当接する部分は円弧状であり、所望の曲率半径を有する構造である請求項1〜4のいずれか一項に記載の調整弁装置。
【請求項7】
前記弁座面はテーパ形状又は円弧状に形成されている請求項1〜6のいずれか一項に記載の調整弁装置。
【請求項8】
前記調整弁装置は、概ね25℃〜500℃の環境下において使用される請求項1〜7のいずれか一項に記載の調整弁装置。
【請求項9】
前記調整弁装置は、前記第1の空間及び前記第2の空間に作動流体として所望の不活性ガスを供給する請求項1〜8のいずれか一項に記載の調整弁装置。
【請求項10】
前記調整弁装置は、前記第1の空間及び前記第2の空間に作動流体として所望の液体を供給する請求項1〜8のいずれか一項に記載の調整弁装置。
【請求項11】
前記調整弁装置の操作圧力は、0.2〜0.6MPaである請求項1〜10のいずれか一項に記載の調整弁装置。
【請求項12】
前記調整弁装置は、被処理体を成膜する有機分子を被処理体近傍まで搬送する搬送路の開閉に用いられる請求項1〜11のいずれか一項に記載の調整弁装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−99542(P2011−99542A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256210(P2009−256210)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(390033857)株式会社フジキン (148)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】