説明

調湿用炭素材およびその製造方法

【課題】容量当たりの調湿性能が高く、嵩比重が高く省スペース化を図ることができるため、設置場所を問わず設置可能であり、賦活剤による環境への悪影響を及ぼすことがなく、簡便に安価に製造することができる調湿用炭素材やその製造方法を提供する。
【解決手段】石油コークスを650〜800℃で乾留して得られる調湿材用炭素材であって、気孔を20容量%以上、30容量%以下の範囲で有し、好ましくは、水素を1.0〜3.0質量%含有し、揮発分を1.0〜5.0質量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調湿用炭素材やその製造方法に関し、より詳しくは、容量当たりの調湿能力が高い調湿用炭素材やその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、住宅や、ビル等の室内において、湿度が高い時に空気中の水蒸気を吸着し、湿度が低い時に吸着した水蒸気を放出して湿度を調整する調湿材が使用されている。調湿材としては、スギ、ヒノキ、ナラ等種々の樹木を焼成して製造された木炭が利用され、床下や天井等に敷きつめられて使用されている。例えば、植物や廃木材、竹炭から生成される炭素微粉末を基材に付着させたもの(特許文献1、特許文献2、特許文献3)や、製紙工程で発生するペーパースラッジを焼却して得られるもの(特許文献4)などが知られている。また、木材から得られた木タールを、約300℃で加熱し、壁材、床下材などの板状もしくは適当な形状になるように加熱成形して発泡させたポーラス(多孔)構造の吸湿材として使用可能な木タール変成物(特許文献5)等が知られている。しかし、これらは調湿性に優れるものの、嵩比重(BD)が低く、嵩高い。これらの調湿材において、調湿の効果を高めるためには大きいスペースを確保する必要があるが、住宅の床下や天井は、点検等から空きスペースが必要であり、調湿材を配置するスペースを十分確保することは困難であり、壁材に設置する場合も壁厚が厚くなる等の理由から使用範囲が限定されてしまう。また、調湿能力を向上させる目的で、木炭を薬品などで賦活して活性炭にする方法も試みられているが、工程数が増加し、コストが大幅に高くなり、住宅用などに使用するには実用性に乏しい。
【0003】
このため、容量当たりの調湿能力を大幅に増大させ、省スペース化を図ることができ、環境への悪影響を抑制し、安価に製造することができる調湿材が切望されている。
【特許文献1】特開2004−330589号公報
【特許文献2】特開平9−52043号公報
【特許文献3】特開2004−57538号公報
【特許文献4】特開平11−90220号公報
【特許文献5】特開2002−201302号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、容量当たりの調湿性能が高く、省スペース化を図ることができ、設置場所を問わず設置可能であり、賦活剤による環境への悪影響を及ぼすことがなく、簡便に安価に製造することができる調湿用炭素材や、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、調湿用木炭に比べ、容積当たりの調湿能力を大幅に増大させる調湿剤を見い出すことを目的として、石油コークスを原料としこれを賦活処置を行わずに得られる炭素材について調湿剤への利用可能性について鋭意研究を行った。
【0006】
石油コークスを600〜800℃で乾留を行うと、比較的分解しやすいアルキル側鎖が切断され、低分子量の多環芳香族等が揮発分となって飛散し、これと同時に急激な収縮を起こす。そのため内部に応力が発生することによりポアやクラックが生じる。このとき、揮発するガスは、比較的結合の弱い多環芳香族化合物の層間や、積層物間を通過することにより、主としてマクロポアに相当する50nm〜300μmのポアやクラックを形成する。これらのポアやクラックは気孔率の増加で確認することができ、乾留温度の上昇に伴ない、気孔率も増加し、調湿能力が増加する。
【0007】
しかしながら、800℃を超えた範囲で乾留を行うと気孔率は上昇するが、調湿能力は逆に低下することの知見を得た。これは水蒸気の吸着、放出は気孔率によって表されるポアやクラックのみでなく、ポアに存在する親水成分(表面官能基)が、800℃を超えた範囲で結合が切れて失われることに起因すると考えられる。
【0008】
これらの知見から、石油コークスを原料として600〜800℃で乾留を行うことにより、親水性成分を温存しつつマクロポアを形成することができ、嵩比重が高い容量当たりの調湿能力に優れた調湿用炭素材を得ることができることを見出し、これらの知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、 石油コークスを650〜800℃で乾留して得られる調湿材用炭素材であって、気孔を20容量%以上、30容量%以下の範囲で有することを特徴とする調湿材用炭素材に関する。
【0010】
また、本発明は、石油コークスを650〜800℃の温度で乾留し、気孔を20容量%以上、30容量%以下の範囲とすることを特徴とする調湿材用炭素材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の調湿用炭素材は、容量当たりの調湿性能が高く、嵩比重が高く省スペース化を図ることができるため、設置場所を問わず設置可能であり、賦活剤による環境への悪影響を及ぼすことがなく、簡便に安価に製造することができる調湿用炭素材を提供することにある。また、本発明の調湿用炭素材の製造方法は、容量当たりの調湿性能が高く、嵩比重が高く省スペース化を図ることができ、設置場所を問わず設置可能であり、賦活剤による環境への悪影響を及ぼすことがなく、簡便に安価に製造することができる調湿用炭素材の製造方法を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の調湿用炭素材は、石油コークスを乾留して得られる調湿用炭素材であって、気孔を20容量%以上有することを特徴とする。
【0013】
本発明の調湿用炭素材に用いる石油コークスとしては、重質油の流動接触分解装置のボトム油や、減圧蒸留装置の残渣油、芳香族化合物のタール等の石油に含有される重質炭化水素成分を原料として、これを熱処理して得られるものを挙げることができる。かかる熱処理としては、重質炭化水素成分をディレートコーカーで加圧下、例えば、0.1〜1Mpa、400〜600℃の温度での加熱処理を挙げることができる。このような熱処理により、重質炭化水素成分に含有される分解成分を留出させて得られる石油コークスは黒鉛類似の微結晶炭素を含有し黒鉛化性が高い。
【0014】
本発明の調湿用炭素材としては、このような石油コークスを後述する乾留によって得ることができ、気孔を20容量%以上、30容量%以下の範囲で有する。気孔が調湿用炭素材全体の容積に対して20容量%以上であると、優れた調湿効果を得ることができる。また、気孔が調湿用炭素材全体の容積に対して30容量%以下であると、気孔の形成が親水性官能基の喪失しない範囲で行われることになる。
【0015】
ここで、気孔の容量%、即ち気孔率としては、3.5〜4メッシュの試料約30gを用いて水置換法によってピクノメーターにより求めた見かけ比重ADと、200メッシュ以下の試料約10gを用いてn−ブチルアルコール置換法によってピクノメーターにより求めた真比重RDとから、次式によって算出して求めた値とすることができる。
【0016】
気孔率=[1−(AD/RD)]×100
本発明の調湿用炭素材における調湿能力は、高湿度における水蒸気吸着量と低湿度における水蒸気吸着量の差として評価することができ、この差が大きいものが高性能ということができる。調湿材の調湿能力は一般的に、湿度90%時と湿度55%時の吸水率の差によって評価することができる。吸水率は、具体的には、25℃における調湿用炭素材の単位容量当たりの水蒸気吸着後の増加した調湿炭素材の質量の割合を示す値である。
【0017】
また、本発明の調湿用炭素材としては、水素を1.0〜3.0質量%含有することが好ましい。水素量は、乾留の度合を示す数値で、1.0質量%以上であれば、乾留が充分に行われ気孔を充分に生成することができ、3.0質量%以下であれば、親水成分である表面官能基の喪失を抑制することができる。
【0018】
ここで調湿用炭素材中の水素の含有量は、試料を750℃の酸素気流中で完全燃焼させ、燃焼ガス中の水分量を電量適定法(カール・フィッシャー法)により測定し、水分量からこれに含まれる水素を算出して求めた値とすることができる。
【0019】
また、本発明の調湿用炭素材としては、揮発分の含有量が1.0〜5.0質量%以下であることが好ましい。揮発分の含有量も、乾留の度合を示す指標であり、1.0質量%以上であれば、乾留が充分に行われ気孔を充分に生成することができ、5.0質量%以下であれば、親水成分である表面官能基の喪失を抑制することができる。
【0020】
ここで上記揮発分の含有量としては、JIS M8812(二炉法)に準拠した方法により求めた値を用いることができる。この方法は試料を蓋付るつぼに入れ、縦型管状炉で、400℃、900℃で加熱したときの減量から揮発分の質量%を求める方法である。上記揮発分としては、JIS M8812(二炉法)に準拠した含有量の測定において、試料の減量の起因となる試料から離脱した成分に相当する成分である。
【0021】
このような本発明の調湿用炭素材の製造方法としては、石油コークスを650〜800℃の温度で乾留し、気孔を20容量%以上、30容量%以下の範囲とすることを特徴とする。
【0022】
石油に含有される重質炭化水素成分を熱処理して得られる上記石油コークスを650〜800℃の温度で乾留し、気孔を20容量%以上、30容量%以下の範囲とすることにより得られる。乾留は酸素を供給しない雰囲気、例えば、窒素気流下で行うことが好ましい。加熱温度範囲としては、650〜800℃の温度範囲で行う。より好ましくは、720〜770℃である。このような温度範囲で行う乾留により、水蒸気を含有する空気の導入出を容易とする気孔を備え、且つ、親水性官能基の脱落を抑制し、空気に含まれる水蒸気を効率よく吸着する調湿効果を有する調湿用炭素材を得ることができる。このような温度範囲における乾留は、例えば、5分〜2時間、好ましくは15分〜1時間を行うことが好ましい。
【0023】
このようにして得られる調湿用炭素材としては、嵩比重が高く、湿度90%時と55%時の調湿用炭素材の容量当たりの吸水率の差が大きく、優れた調湿能力を有する。
【0024】
上記調湿用炭素材の嵩比重としては、具体的には0.77〜0.87を挙げることができる。この嵩比重としては、具体的には、試料100gを4回/秒で500回振動を与えながらシリンダーに落下させ、シリンダー中の容量aを測定し、100g/amlを求め、3回の平均値として求めた値を嵩比重(BD)として採用することができる。
【0025】
本発明の調湿用炭素材は必要に応じて他の調湿材などを適宜配合することができる。
【0026】
本発明の調湿用炭素材はそのまま用いてもよく、また、粒子状にして溶媒に分散させた塗布液とし、基材にコーティングし、あるいは基材を浸漬するなどして用いることもできる。
【実施例】
【0027】
次に本発明について実施例より詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
石油系重質油の流動接触分解装置のボトム油及び減圧蒸留装置の残渣油を混合し、オートクレーブで0.2Mpa、450℃でコーキングし、石油コークスを得た。
【0028】
得られた石油コークスを、窒素流通下、650℃、1時間乾留を行い、調湿材用炭素材を得た。得られた調湿材用炭素材の気孔率、揮発分含有量(VM)、全水素含有量(TH)、嵩比重(BD)、吸水率を以下のように測定し、調湿能力を求めた。結果を表1に示す。
[気孔率]
3.5〜4メッシュの試料約30gを用いて水置換法によってピクノメーターにより求めた見かけ比重ADと、200メッシュ以下の試料約10gを用いてn−ブチルアルコール置換法によってピクノメーターにより求めた真比重RDとから、次式によって算出した。
【0029】
気孔率=[1−(AD/RD)]×100
[揮発分含有量]
試料中の揮発成分は、JIS M8812に準拠した方法により求めた。
[全水素含有量]
試料を750℃の酸素気流中で完全燃焼させ、燃焼ガス中の水分量を電量適定法(カール・フィッシャー法)により測定し、水分量からこれに含まれる水素量を算出した。
[嵩比重]
試料100gを4回/秒で500回振動を与えながらシリンダーに落下させ、シリンダー中の容量aを測定し、100g/amlを求め、3回の平均値として求めた。
[吸水率]
25℃、湿度90%と湿度55%時のそれぞれについて、調湿用炭素材の単位重量当たりの水蒸気吸着後の調湿炭素材の質量の増加割合を求め、これに嵩比重(BD)を乗じて調湿用炭素材の単位容量当たりの水蒸気吸着率を求めた。
[調湿能力]
25℃、湿度90%時の調湿用炭素材の単位容量当たりの水蒸気吸着率から 25℃、湿度55%時の調湿用炭素材の単位容量当たりの水蒸気吸着率を減じて求めた。
[実施例2、3]
乾留温度を表1に示す温度とした他は、実施例1と同様にして調湿材用炭素材を得て、得られた調湿材用炭素材の気孔率、揮発分含有量(VM)、全水素含有量(TH)、カサ比重(BD)、吸水率について、実施例1と同様に測定し、調湿能力を求めた。結果を表1に示す。
[比較例1〜5]
石油コークスそのもの(比較例1)、乾留温度を550℃、820℃、1200℃とした他は実施例1と同様に行ったもの(比較例2〜4)、調湿材用木炭(比較例5)の気孔率、揮発分含有量(VM)、全水素含有量(TH)、カサ比重(BD)、吸水率について、実施例1と同様に測定し、調湿能力を求めた。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
以上の結果から、石油コークスを650〜800℃で乾留を行うことにより、調湿能力が優れた調湿用炭素材を得ることができることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油コークスを650〜800℃で乾留して得られる調湿材用炭素材であって、気孔を20容量%以上、30容量%以下の範囲で有することを特徴とする調湿材用炭素材。
【請求項2】
水素を1.0〜3.0質量%含有することを特徴とする請求項1記載の調湿材用炭素材。
【請求項3】
揮発分を1.0〜5.0質量%含有することを特徴とする請求項1または2記載の調湿材用炭素材。
【請求項4】
石油コークスを650〜800℃の温度で乾留し、気孔を20容量%以上、30容量%以下の範囲とすることを特徴とする調湿材用炭素材の製造方法。

【公開番号】特開2007−209844(P2007−209844A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−29586(P2006−29586)
【出願日】平成18年2月7日(2006.2.7)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】