説明

調理器具の製造方法

【課題】調理中に付着した食品の焦げ付き汚れや油汚れを、水拭き程度で簡単に除去することができる調理器具の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の調理器具の製造方法は、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム成分と、ケイ素成分と、溶媒とを含み、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)にそれぞれ換算したときの、酸化ケイ素の、酸化ジルコニウムと酸化ケイ素の合計量に対する重量百分率が1重量%以上かつ40重量%以下である塗布液を、基体の表面の少なくとも一部に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を大気中、200℃以上の温度にて熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調理器具の製造方法に関し、特に、調理中に付着した食品の焦げ付き汚れや油汚れを、水拭き程度で簡単に除去することが可能な調理器具を簡単な装置で簡便に製造することが可能な調理器具の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、焼肉用プレートやオーブン皿等の加熱を要する調理器具においては、食品の焦げ付き汚れを簡単に除去するために、例えば、酸化ジルコニウムを主成分とする薄膜を基体の表面に成膜した調理器具が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−321108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来の調理器具においては、食品の焦げ付き汚れは比較的簡単に除去することができるものの、油汚れについては、水拭き程度の作業では容易に除去することができないという問題点があった。
そこで、食品の焦げ付き汚れはもちろんのこと、油汚れをも簡単に除去することができる調理器具の出現が強く望まれていた。
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、調理中に付着した食品の焦げ付き汚れや油汚れを、水拭き程度で簡単に除去することができる調理器具の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、基体の表面のうち、少なくとも、食品に触れる虞のある部分または油汚れが生じる虞のある部分に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)とを含有し、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率が1重量%以上かつ40重量%以下である薄膜を成膜すれば、調理中に付着した食品の焦げ付き汚れや油汚れを、水拭き程度で簡単に除去することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の調理器具の製造方法は、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム成分と、ケイ素成分と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)にそれぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素の、前記酸化ジルコニウムと前記酸化ケイ素の合計量に対する重量百分率が1重量%以上かつ40重量%以下である塗布液を、基体の表面の少なくとも一部に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を大気中、200℃以上の温度にて熱処理することを特徴とする。
【0008】
前記ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物は、ジルコニウムアルコキシドと、エタノールアミン、β−ジケトン、β−ケト酸エステル及びカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の化合物との反応生成物であることが好ましい。
前記ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物は、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物と、エタノールアミン、β−ジケトン、β−ケト酸エステル及びカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の化合物との反応生成物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の調理器具の製造方法によれば、基体の表面の少なくとも一部に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)とを含有し、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率が1重量%以上かつ40重量%以下である薄膜を成膜した調理器具を、簡単な装置で簡便に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の調理器具の製造方法を実施するための最良の形態について説明する。
なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0011】
本実施形態の調理器具の製造方法により得られた調理器具は、調理器具の本体を構成する基体の表面の少なくとも一部、すなわち、この表面のうち少なくとも食品が触れる虞のある領域または油汚れが生じる虞のある領域に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)とを含有し、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率が1重量%以上かつ40重量%以下である薄膜を成膜している。
【0012】
この調理器具とは、例えば、屋内のキッチンや調理場等の厨房で使用されるフライパン、鍋、調理用プレート、魚焼き用グリルの水入れ皿、焼き網等はもちろんのこと、コンロ天板、コンロ部品、オーブン内部品等、食品の調理に用いられる各種器具及び各種厨房設備の付帯部品を総称したものであり、この各種器具には、グリル、オーブン、トースター等の食品を収容して加熱調理する加熱調理機器の加熱調理室内の天板や内壁面を含む。
この調理器具の材質としては、鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、銅等の金属材料、ガラス、ジルコニア等のセラミックス材料、琺瑯等の金属−セラミックス複合材料等、種類を問わない。
【0013】
この薄膜を成膜する領域としては、少なくとも、食品が触れる虞のある領域または油汚れが生じる虞のある領域とする必要があるが、表面全体に洩れなく上記の薄膜を成膜した構成としてももちろんかまわない。
ここで、薄膜の組成を、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率を1重量%以上かつ40重量%以下とした理由は、酸化ケイ素(SiO)の重量百分率が1重量%を下回ると、食品の焦げ付き汚れは水拭き程度で除去できるものの、油汚れは水拭き程度では除去することができないからであり、一方、酸化ケイ素(SiO)の重量百分率が40重量%を越えると、油汚れは水拭き程度で除去できるものの、食品の焦げ付き汚れは水拭き程度では除去することができないからである。
【0014】
ここで、前記重量百分率を1重量%以上かつ20重量%以下の範囲に限定すると、食品の焦げ付き汚れの除去容易性が特に優れたものとなる。もちろん、油汚れの除去容易性、薄膜の耐水性も良好である。
また、前記重量百分率を20量%を超えかつ40重量%以下の範囲に限定すると、油汚れの除去性が特に優れたものとなる。もちろん、食品の焦げ付き汚れの除去容易性、薄膜の耐水性も良好である。
【0015】
この薄膜の組成を撥水性及び親水性の点から考えると、酸化ジルコニウム(ZrO)は表面に親水基(−OH)を有しないので撥水性を示すが、酸化ケイ素(SiO)は、表面に親水基(−OH)を有するので親水性を示す。したがって、撥水性を示す酸化ジルコニウム(ZrO)に、重量百分率が1重量%〜40重量%となるように酸化ケイ素(SiO)を導入すると、この酸化ケイ素(SiO)含有酸化ジルコニウム(ZrO)からなる薄膜は、適度な撥水性と親水性とを兼ね備えたものとなる。
【0016】
この薄膜の厚みは、0.01μm以上かつ10μm以下であることが好ましい。
この薄膜の厚みが0.01μmを下回ると、防汚性の付与(食品の焦げ付き汚れや油汚れの除去容易性)が不充分となるので好ましくなく、一方、厚みが10μmを越えると、薄膜の耐衝撃性が低下してクラックが入り易く、また、透明性が低下して調理器具自体の色調等の意匠性が低下するので好ましくない。
【0017】
この調理器具は、例えば、次のような方法により製造することができる。
すなわち、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム成分と、ケイ素成分と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)にそれぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素の、前記酸化ジルコニウムと前記酸化ケイ素の合計量に対する重量百分率が1重量%以上かつ40重量%以下である塗布液を、基体の表面の少なくとも一部に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を大気中、200℃以上の温度にて熱処理する。
【0018】
この塗布液においては、上記のジルコニウムアルコキシドとしては、特に制限されるものではないが、例えば、ジルコニウムテトラノルマルブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシドを例示することができる。これらジルコニウムテトラノルマルブトキシドやジルコニウムテトラプロポキシドは、適度な加水分解速度を有し、しかも、取り扱い易いので、膜質が均一な薄膜を成膜することができる。
【0019】
また、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物としては、特に制限されるものではないが、例えば、ジルコニウムテトラノルマルブトキシドの加水分解物、ジルコニウムテトラプロポキシドの加水分解物を例示することができる。この加水分解物の加水分解率としては、特に制限はなく、0モル%超〜100モル%の範囲内のものを使用することができる。
【0020】
これらジルコニウムアルコキシドやジルコニウムアルコキシドの加水分解物は、吸湿性が高く、不安定であり、貯蔵安定性も充分でないので、取り扱う際には、非常に注意を要する。
そこで、取り扱いの容易さの点では、これらジルコニウムアルコキシドやジルコニウムアルコキシドの加水分解物をキレート化したジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物が好ましい。
【0021】
上記のジルコニウムアルコキシドのキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドと、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン、アセチルアセトン等のβ−ジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フェノキシ酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸等のカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の加水分解抑制剤(化合物)との反応生成物を例示することができる。ここで、加水分解抑制剤とは、ジルコニウムアルコキシドとキレート化合物を形成し、このキレート化合物の加水分解反応を抑制する作用を有する化合物のことである。
【0022】
また、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドと、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のエタノールアミン、アセチルアセトン等のβ−ジケトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、マロン酸ジエチル、フェノキシ酢酸エチル等のβ−ケト酸エステル、酢酸、乳酸、クエン酸、安息香酸、リンゴ酸等のカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の加水分解抑制剤(化合物)との反応生成物を例示することができる。加水分解抑制剤の定義は、上述した通りである。
【0023】
この加水分解抑制剤の、ジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物に対する割合は、このジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物に含まれるジルコニウム(Zr)の0.5モル倍〜4モル倍、好ましくは1モル倍〜3モル倍が好ましい。
割合が0.5モル倍よりも少ないと、塗布液の安定性が不充分なものとなるからであり、一方、4モル倍を超えると、熱処理した後においても加水分解抑制剤が薄膜中に残留し、その結果、薄膜の硬度が低下するからである。
【0024】
これらジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物としては、ジルコニウムアルコキシドまたはジルコニウムアルコキシドの加水分解物を溶媒中に溶解し、さらに加水分解抑制剤を添加し、得られた溶媒中にてキレート化反応を生じさせたものであってもよい。
【0025】
上記のケイ素成分としては、熱処理により酸化ケイ素となり得るケイ素化合物であれば特に制限はないが、例えば、コロイダルシリカ、ケイ素アルコキシド、ケイ素アルコキシドの加水分解物を例示することができる。この加水分解物の加水分解率としては、特に制限はなく、0モル%超〜100モル%の範囲内のものを使用することができる。
【0026】
上記の溶媒としては、上述したジルコニウム成分及びケイ素成分を溶解または分散させることのできる溶媒であれば、特に制限なく用いることができ、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール等の低級アルコールが好適である。特に、溶媒として水を用いる場合、アルコキシドの加水分解量以上の量の水を含有させると、塗布液の安定性が低下するので好ましくない。
【0027】
ここで、ジルコニウム成分としてジルコニウムアルコキシドおよび/またはジルコニウムアルコキシドの加水分解物を用いる場合、あるいは、ケイ素成分としてシリコンアルコキシドおよび/またはシリコンアルコキシドの加水分解物を用いる場合には、このジルコニウム成分またはケイ素成分の加水分解反応を制御する触媒を添加してもよい。
この触媒としては、塩酸、硝酸等の無機酸、クエン酸、酢酸等の有機酸等を例示することができる。また、この触媒の添加量は、通常、塗布液中のジルコニウム成分及びケイ素成分の合計量に対して0.01〜10重量%程度が好ましい。なお、触媒の過剰の添加は、熱処理の際に熱処理炉を腐食する虞があるので好ましくない。
【0028】
この点、ジルコニウム成分としてジルコニウムアルコキシドのキレート化合物またはジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物を用い、ケイ素成分としてコロイダルシリカを用いると、加水分解反応を制御する触媒である酸を添加する必要がなく、したがって、熱処理の際に熱処理炉を腐食する虞がないので好ましい。
【0029】
この塗布液においては、ジルコニウム成分とケイ素成分の合計の含有率は、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)にそれぞれ換算したときの、酸化ジルコニウムと酸化ケイ素の合計の含有率が1重量%以上かつ10重量%以下であることが好ましい。
合計の含有率が1重量%を下回ると、所定の膜厚の薄膜を形成することが困難となり、一方、合計の含有率が10重量%を超えると、所定の膜厚を超えて薄膜が白化したり、剥離する原因となるので好ましくない。
【0030】
次いで、上記の塗布液を、調理器具の本体を構成する基体の表面の少なくとも一部、すなわち、少なくとも、食品が触れる虞のある領域または油汚れが生じる虞のある領域に、塗布する。塗布方法としては特に制限はなく、スプレー法、ディップ法、刷毛塗り法等が適用できる。塗布に当たっては、塗布膜の厚みを、熱処理後の膜厚が0.01μm〜10μmの範囲になるように調製することが好ましい。
【0031】
このようにして得られた塗布膜を、大気中、200℃以上、より好ましくは400℃以上、さらに好ましくは500℃以上の温度にて熱処理する。
熱処理温度が200℃を下回ると、得られた薄膜の膜強度が低下するので好ましくない。なお、熱処理温度が高すぎると、基体が変形する虞があるため、熱処理温度を調理器具を構成する基体の材質に応じて調整する。熱処理時の雰囲気は特に制限されず、通常、大気雰囲気中で行う。
【0032】
このようにして得られた薄膜は、下記の(1)〜(4)のいずれかの組成を有している。
(1)ケイ素(Si)原子とジルコニウム(Zr)原子が酸素(O)原子を介して結合した下記式(1)
【化1】

にて表される化学結合を分子骨格中に有するケイ素−ジルコニウム酸化物により構成され、このケイ素−ジルコニウム酸化物が三次元網目構造を形成した無機物質。
【0033】
(2)ジルコニウム(Zr)原子同士が酸素(O)原子を介して結合した下記式(2)
【化2】

にて表される化学結合を分子骨格中に有するジルコニウム酸化物により構成され、このジルコニウム酸化物が三次元網目構造を形成し、この三次元網目構造の中にケイ素酸化物の微粒子が閉じ込められた無機物質。
【0034】
(3)ケイ素酸化物微粒子とジルコニウム酸化物微粒子が互いに分散している無機物質。
(4)上記の(1)〜(3)のいずれか1種または2種以上の無機物質が混在した状態のもの。
【0035】
以上説明したように、本実施形態の調理器具によれば、基体の表面の少なくとも一部に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)とを含有し、ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率が1重量%以上かつ40重量%以下である薄膜を成膜したので、水拭き程度で、食品の焦げ付き汚れはもちろんのこと、油汚れも簡単に除去することができる。
また、上記の薄膜は、高屈折率材料である酸化ジルコニウム(ZrO)を主成分としたので、屈折率が大きく、深みのある反射が得られ、見た目にも美しく、意匠性も向上したものとなる。
【0036】
本実施形態の調理器具の製造方法によれば、ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム成分と、ケイ素成分と、溶媒とを含み、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)にそれぞれ換算したときの、酸化ケイ素の、酸化ジルコニウムと酸化ケイ素の合計量に対する重量百分率が1重量%以上かつ40重量%以下である塗布液を、基体の表面の少なくとも一部に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を大気中、200℃以上の温度にて熱処理するので、本実施形態の調理器具を、簡単な装置で簡便に製造することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
「実施例1」
ジルコニウムテトラブトキシド6重量部、アセト酢酸エチル3重量部、2−プロパノール90.9重量部を室温(25℃)下で30分混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとアセト酢酸エチルとのキレート化合物を生成させた。次いで、この溶液にテトラメトキシシラン0.1重量部を添加し、塗布液を得た。
この塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率は2重量%であった。
【0038】
次いで、この塗布液を、結晶化ガラス製のコンロ天板(いわゆるガラストップ)上に塗布量(固形分換算)が3g/mとなるようにスプレー塗装し、大気雰囲気中、500℃にて20分間、熱処理して、コンロ天板上に薄膜を成膜し、実施例1の調理器具を得た。
この薄膜の厚みは1μmであり、コンロ天板の表面は、薄膜の成膜前よりも光沢が増し、美しい表面を示した。
【0039】
次いで、この調理器具の防汚性(食品の焦げ付き汚れや油汚れの除去容易性)及び耐水性を評価した。評価結果を表1に示す。
なお、評価項目及び評価方法は次のとおりである。
(1)焦げ付き汚れの除去容易性
調理器具(結晶化ガラス製のコンロ天板)の表面に醤油を10ml滴下し、大気中、300℃にて1時間加熱し、醤油を焦げ付かせた。次いで、水を含ませた布を用いてこの焦げ付きを水拭きし、除去の容易性を評価した。
◎;極めて良好
○;良好
×;不良
【0040】
(2)油汚れの除去容易性
調理器具(結晶化ガラス製のコンロ天板)の表面に廃てんぷら油1mlを滴下し、水を含ませた布切れでこの廃てんぷら油を水拭きし、「べたつき残り」を指先で確認し、除去の容易性を評価した。
◎;極めて良好
○;良好
×;不良
【0041】
(3)耐水性
調理器具(結晶化ガラス製のコンロ天板)を、水道水を沸騰させた沸騰水中に24時間浸漬した後、薄膜を指先で擦り、薄膜の剥離状況を評価した。
◎;極めて良好
○;良好
×;不良
【0042】
「実施例2」
2−プロパノールを90.4重量部に、テトラメトキシシランを0.6重量部に変更した他は、実施例1に準じて実施例2の塗布液を得た。
この塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率は10重量%であった。
【0043】
次いで、この塗布液を用いて、実施例1に準じて実施例2の調理器具を得た。
この薄膜の厚みは1μmであり、コンロ天板の表面は、薄膜の成膜前よりも光沢が増し、美しい表面を示した。
この実施例2の調理器具の防汚性(食品の焦げ付き汚れや油汚れの除去容易性)及び耐水性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0044】
「実施例3」
2−プロパノールを89.9重量部に、テトラメトキシシランを1.1重量部に変更した他は、実施例1に準じて実施例3の塗布液を得た。
この塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率は18重量%であった。
【0045】
次いで、この塗布液を用いて、実施例1に準じて実施例3の調理器具を得た。
この薄膜の厚みは1μmであり、コンロ天板の表面は、薄膜の成膜前よりも光沢が増し、美しい表面を示した。
この実施例3の調理器具の防汚性(食品の焦げ付き汚れや油汚れの除去容易性)及び耐水性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0046】
「実施例4」
ジルコニウムテトラブトキシドを2.3重量部に、アセト酢酸エチルを1.2重量部に、2−プロパノールを96.0重量部に、テトラメトキシシランを0.5重量部に変更した他は、実施例1に準じて実施例4の塗布液を得た。
この塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率は25重量%であった。
【0047】
次いで、この塗布液を用いて、実施例1に準じて実施例4の調理器具を得た。
この薄膜の厚みは1μmであり、コンロ天板の表面は、薄膜の成膜前よりも光沢が増し、美しい表面を示した。
この実施例4の調理器具の防汚性(食品の焦げ付き汚れや油汚れの除去容易性)及び耐水性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0048】
「実施例5」
ジルコニウムテトラブトキシドを2.0重量部に、アセト酢酸エチルを1.0重量部に、2−プロパノールを96.3重量部に、テトラメトキシシランを0.7重量部に変更した他は、実施例1に準じて実施例5の塗布液を得た。
この塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率は35重量%であった。
【0049】
次いで、この塗布液を用いて、実施例1に準じて実施例5の調理器具を得た。
この薄膜の厚みは1μmであり、コンロ天板の表面は、薄膜の成膜前よりも光沢が増し、美しい表面を示した。
この実施例5の調理器具の防汚性(食品の焦げ付き汚れや油汚れの除去容易性)及び耐水性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0050】
「比較例1」
ジルコニウムテトラブトキシド6重量部、2−プロパノール93重量部、60重量%の硝酸1重量部を混合して、塗布液を得た。
次いで、この塗布液を用いて、実施例1に準じて比較例1の調理器具を得た。
この薄膜の厚みは1μmであった。
この比較例1の調理器具の防汚性(食品の焦げ付き汚れや油汚れの除去容易性)及び耐水性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0051】
「比較例2」
ジルコニウムテトラブトキシドを1.7重量部に、アセト酢酸エチルを0.8重量部に、2−プロパノールを96.6重量部に、テトラメトキシシランを0.9重量部に変更した他は、実施例1に準じて比較例2の塗布液を得た。
この塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率は45重量%であった。
【0052】
次いで、この塗布液を用いて、実施例1に準じて比較例2の調理器具を得た。
この薄膜の厚みは1μmであった。
この比較例2の調理器具の防汚性(食品の焦げ付き汚れや油汚れの除去容易性)及び耐水性を実施例1に準じて評価した。評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1によれば、実施例1〜3では、食品の焦げ付き汚れの除去容易性が特に優れており、また、油汚れの除去容易性、薄膜の耐水性も良好なものであった。
また、実施例4、5では、油汚れの除去性が特に優れており、食品の焦げ付き汚れ、薄膜の耐水性も良好なものであった。
これに対して、比較例1では、食品の焦げ付き汚れの除去容易性は良好であるものの、油汚れの除去容易性、薄膜の耐水性は共に不良であった。また、比較例2では、油汚れの除去容易性、薄膜の耐水性は優れているものの、食品の焦げ付き汚れの除去容易性が不良であった。
したがって、食品の焦げ付き汚れの除去容易性、油汚れの除去容易性、薄膜の耐水性のいずれも良好なのは、薄膜中のSiO量が1重量%〜40重量%の範囲であることが分かった。
【0055】
「実施例6」
ジルコニウムテトラブトキシド10重量部、アセチルアセトン5重量部、2−プロパノール84.5重量部を混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとアセチルアセトンとのキレート化合物を生成させた。次いで、この溶液にテトラメトキシシラン0.5重量部を添加し、塗布液を得た。
この塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率は7.2重量%であった。
【0056】
次いで、この塗布液を、結晶化ガラス製のコンロ天板上に塗布量(固形分換算)が1.5g/mとなるようにスプレー塗装し、大気雰囲気中、600℃にて10分間、熱処理して、コンロ天板上に薄膜を成膜し、実施例6の調理器具を得た。
この薄膜の厚みは0.5μmであり、コンロ天板の表面は、薄膜の成膜前よりも光沢が増し、美しい表面を示した。
【0057】
「実施例7」
ジルコニウムテトラアセチルアセトネート15重量部、30重量%のコロイダルシリカを含む2−プロパノール分散液0.5重量部、ブチル−β−オキシエチルエーテル(ブチルセロソルブ)84.5重量部を混合し、塗布液を得た。
この塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率は4重量%であった。
【0058】
次いで、この塗布液を、琺瑯製オーブン皿上に塗布量(固形分換算)が0.3g/mとなるようにディップ塗装し、大気雰囲気中、500℃にて30分間、熱処理して、オーブン皿上に薄膜を成膜し、実施例7の調理器具を得た。
この薄膜の厚みは0.1μmであり、琺瑯製オーブン皿の表面は、薄膜の成膜前よりも光沢が増し、美しい表面を示した。
【0059】
「実施例8」
ジルコニウムテトラブトキシド10重量部、アセチルアセトン5重量部、2−プロパノール84重量部を混合し、ジルコニウムテトラブトキシドとアセチルアセトンとのキレート化合物を生成させた。次いで、この溶液にテトラエトキシシラン1重量部を添加し、塗布液を得た。
この塗布液における、ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)に、それぞれ換算したときの、酸化ケイ素(SiO)の、酸化ジルコニウム(ZrO)と酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率は8.6重量%であった。
【0060】
次いで、この塗布液を、セラミック製焼肉プレート上に塗布量(固形分換算)が1.5g/mとなるようにディップ塗装し、大気雰囲気中、700℃にて50分間、熱処理して、この焼肉プレート上に薄膜を成膜し、実施例8の調理器具を得た。
この薄膜の厚みは0.5μmであり、焼肉プレートの表面は、薄膜の成膜前よりも光沢が増し、美しい表面を示した。
【0061】
実施例6〜8それぞれの調理器具の表面に卵白を塗りつけ、大気雰囲気中、350℃にて1時間加熱し、焦げ付かせた。次いで、水を含ませた布を用いてこの焦げ付きを水拭きしたところ、簡単に拭き取ることができた。
また、実施例6〜8それぞれの調理器具の表面に廃てんぷら油を滴下し、水を含ませた布切れでこの廃てんぷら油を水拭きしたところ、簡単に拭き取ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の調理器具は、基体の表面の少なくとも一部に、ケイ素(Si)と、ジルコニウム(Zr)と、酸素(O)とを含有し、前記ケイ素(Si)を酸化ケイ素(SiO)に、前記ジルコニウム(Zr)を酸化ジルコニウム(ZrO)に、それぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素(SiO)の、前記酸化ジルコニウム(ZrO)と前記酸化ケイ素(SiO)の合計量に対する重量百分率が1重量%以上かつ40重量%以下である薄膜を成膜したことにより、調理中に付着した食品の焦げ付き汚れや油汚れを水拭き程度で簡単に除去することができたものであるから、食品の調理に用いられる調理器具や各種厨房設備の付帯部品はもちろんのこと、この調理器具以外の防汚性が要求される各種部材や各種部品等に対しても適用可能であり、その工業的意義は極めて大きいものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウムアルコキシド、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物、ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物及びジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物の群から選択される1種または2種以上のジルコニウム成分と、ケイ素成分と、溶媒とを含み、前記ジルコニウム成分を酸化ジルコニウム(ZrO)に、前記ケイ素成分を酸化ケイ素(SiO)にそれぞれ換算したときの、前記酸化ケイ素の、前記酸化ジルコニウムと前記酸化ケイ素の合計量に対する重量百分率が1重量%以上かつ40重量%以下である塗布液を、基体の表面の少なくとも一部に塗布して塗布膜を形成し、次いで、この塗布膜を大気中、200℃以上の温度にて熱処理することを特徴とする調理器具の製造方法。
【請求項2】
前記ジルコニウムアルコキシドのキレート化合物は、ジルコニウムアルコキシドと、エタノールアミン、β−ジケトン、β−ケト酸エステル及びカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の化合物との反応生成物であることを特徴とする請求項1記載の調理器具の製造方法。
【請求項3】
前記ジルコニウムアルコキシドの加水分解物のキレート化合物は、ジルコニウムアルコキシドの加水分解物と、エタノールアミン、β−ジケトン、β−ケト酸エステル及びカルボン酸の群から選択される1種または2種以上の化合物との反応生成物であることを特徴とする請求項1記載の調理器具の製造方法。

【公開番号】特開2012−177195(P2012−177195A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−70326(P2012−70326)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【分割の表示】特願2007−99474(P2007−99474)の分割
【原出願日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】