説明

警報器

【課題】警報器のセンサ回路2の出力電圧を増幅する低濃度側増幅回路3と高濃度側増幅回路4の異常を専用の回路を用いずに検出する。
【解決手段】マイコン1により低濃度側増幅回路3と高濃度側増幅回路4でガス濃度を測定する。センサ回路2の出力電圧により、低濃度側増幅回路3で第1の計測ガス濃度を求め、高濃度側増幅回路4で第2の計測ガス濃度を求める。第1の計測ガス濃度と第2の計測ガス濃度が等しいか否かを判定する。両者の計測ガス濃度が等しくなければ、低濃度側増幅回路3または高濃度側増幅回路4の故障と判断し、表示部5に故障表示を行う。高濃度側の第2の計測ガス濃度が切替えポイント濃度未満で、低濃度側の第1の計測ガス濃度が切替えポイント以上の場合、警報を発生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出対象ガスのガス濃度に応じて警報を発する警報器に関する。
【0002】
従来、ガス漏れや不完全燃焼を検出して警報を発生する警報器が、例えば特開2005−107610号公報(特許文献1)に開示されている。また、検出対象ガスのガス濃度が低濃度領域である場合、ガス濃度の測定分解能を上げるようにしたレンジ切替え型の警報器がある。図3はこの種の警報器の要部ブロック図である。この警報器は、検出対象ガスのガス濃度に応じた検出電圧を出力するセンサ回路2と、この検出電圧を増幅する低濃度側増幅回路3と、高濃度側増幅回路4と、制御回路としてのマイコン10を備えている。図5は、低濃度側増幅回路3と高濃度側増幅回路3のガス濃度と増幅後センサ出力の特性を示す図であり、増幅前のセンサ出力に対するゲインは、低濃度側増幅回路3の方が高濃度側増幅回路4より大きくなっている。
【0003】
この例は検出対象ガスが一酸化炭素(CO)の場合であり、低濃度側増幅回路3を用いる低濃度領域と高濃度側増幅回路4を用いる高濃度領域との境界である切替えポイント濃度は、例えば1000ppmとしている。そして、マイコン10は図4に示すフローチャートによりガス濃度の計測と警報処理を行う。まず、ステップS21で低濃度側増幅回路3の出力電圧を測定し、ステップS22でその出力電圧から計測ガス濃度を演算する。次に、ステップS23で計測ガス濃度が切替えポイント濃度(1000ppm)以上であるかを判定する。
【0004】
切替えポイント濃度以上でなければ、ステップS26でその低濃度側増幅回路3による計測ガス濃度により、警報判定を行う。切替えポイント濃度以上であれば、ステップS24で高濃度側増幅回路4の出力電圧を測定し、ステップS25でその出力電圧から計測ガス濃度を演算する。そして、ステップS26でその高濃度側増幅回路4による計測ガス濃度により、警報判定を行う。
【0005】
なお、前記特許文献1の警報器では、音源ICの故障診断を行って、音源ICが故障しているときは強制報知処理を行うようにしているが、このような故障診断は警報器の信頼性を高める上で必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−107610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記従来のレンジ切替え型の警報器において、特に高濃度側増幅回路4が故障すると次のような問題がある。例えば、高濃度側増幅回路4の出力電圧が本来の値より低くなっているとする。低濃度側増幅回路3による計測ガス濃度が切替えポイント濃度を超えていて高濃度側増幅回路4でガス濃度を計測する場合、計測ガス濃度が低く演算される。したがって、切替えポイント濃度以下に警報判定値がある場合はよいが、警報判定値が切替えポイント濃度以上にある場合には、警報判定の結果、警報しなくなる。
【0008】
例えば、COHbを算出しているCO警報器においては、COHbの値が低くなり、鳴動が遅れるという問題がある。図6は、各COHb濃度に対してCO濃度によりCOHb濃度に達するまでの到達時間の関係を示す図である。図のように、所定のCOHb濃度に達するまでの到達時間は、CO濃度に応じて指数的に変化し、CO濃度が少し高くなるだけで到達時間は急激に短くなる。このため、高濃度側増幅回路4の出力電圧が低くなると、警報開始しなければならない時に警報せず、人体のCOHb濃度が高くなり、例えばユーザが危険な状態になっても警報器が鳴動しないというおそれがある。そこで、増幅回路の故障を検出する必要がある。
【0009】
本発明は、低濃度側増幅回路と高濃度側増幅回路とに着目し、警報器のセンサ出力を増幅する回路の故障診断を専用の回路の追加をしないで実現し、コストを上げることなく信頼性の高い警報器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の警報器は、検知対象ガスのガス濃度に応じた検出電圧を出力するセンサ回路と、該センサ回路の検出電圧を高ゲインで増幅する低濃度側増幅回路と、該センサ回路の検出電圧を低ゲインで増幅する高濃度側増幅回路と、該低濃度側増幅回路及び該高濃度側増幅回路の出力に基づいて前記検知対象ガスのガス濃度を計測可能な制御回路とを備えた警報器において、前記低濃度側増幅回路の出力にて第1の計測ガス濃度を演算するとともに、前記高濃度側増幅回路の出力にて第2の計測ガス濃度を演算し、第1の計測ガス濃度と第2の計測ガス濃度とが異なるとき増幅回路の異常発生と判断することを特徴とする。
【0011】
請求項2の警報器は、請求項1に記載の警報器であって、前記検知対象ガスのガス濃度の低濃度領域と高濃度領域との境界である切替えポイント濃度が設定されており、前記増幅回路の異常発生と判断され、かつ、前記第2の計測ガス濃度が切替えポイント濃度未満で前記第1の計測ガス濃度が切替えポイント以上の場合、警報を発生することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の警報器によれば、低濃度側増幅回路と高濃度側増幅回路との出力による第1の計測ガス濃度と第2の計測ガス濃度を比較して、等しくなければ増幅回路の異常と判断するようにしたので、コストを上げることなく信頼性を高めることができる。
【0013】
請求項2の警報器によれば、請求項1の効果に加えて、異常発生と判断されたとき、高濃度側の第2の計測ガス濃度が切替えポイント濃度未満で、低濃度側の第1の計測ガス濃度が切替えポイント以上の場合、警報を発生するようにしたので、ガス濃度が高い場合に直ぐに警報を発生することができ、安全性が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態の警報器の要部ブロック図である。
【図2】実施形態におけるマイコンの制御を示す要部フローチャートである。
【図3】従来の警報器の要部ブロック図である。
【図4】従来の警報器におけるマイコンの制御を示す要部フローチャートである。
【図5】従来の警報器における低濃度側増幅回路と低濃度側増幅回路のゲインを示す図である。
【図6】各COHb濃度に対してCO濃度によりCOHb濃度に達するまでの到達時間の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は実施形態の警報器の要部ブロック図である。この実施形態の警報器は、ガス及び火災監視を行う複合型のガス警報器であり、制御回路としてのマイコン1、例えば一酸化炭素(CO)を検出する電気化学式ガスセンサを備えたセンサ回路2、センサ回路2の検出電圧を増幅する低濃度側増幅回路3、同様に検出電圧を増幅する高濃度側増幅回路4、表示部5,音声出力回路6及びスピーカ7等を備えている。なお、低濃度側増幅回路3と高濃度側増幅回路3のゲインは、前掲の図5と同様であり、増幅前のセンサ出力に対するゲインは、低濃度側増幅回路3の方が高濃度側増幅回路4より大きくなっている。
【0016】
マイコン1はCPU11、ROM12及びRAM13等で構成されている。CPU11は、周知のように、予め定めたプログラムに従って各種の処理や制御などを行うものであり、ROM12には、このCPU11のための制御プログラム等が格納されている。そして、CPU11は、RAM13のワーキングエリアを利用して各種の処理を行う。なお、表示部5は、警報時に例えばLED等を点灯するものであり、音声出力回路6及びスピーカ7は警報時にユーザに対して警報内容に応じたメッセージを発生するものである。
【0017】
マイコン1のCPU11は、警報器の電源コード(図示せず)がコンセントに接続されて電源が供給され始めると、点検モードの時間の経過後、通常モードに入り、ROM12に格納されたガス及び火災の監視に関する制御プログラムに従って、ガス及び火災監視モードの処理を実行する。
【0018】
図2は実施形態に係るCPU11が実行する制御プログラムの要部フローチャートである。まず、ステップS1で低濃度側増幅回路3の出力電圧を測定し、ステップS2で高濃度側増幅回路4の出力電圧を測定する。そして、ステップS3で、出力電圧から計測ガス濃度を演算する。次に、ステップS4で、低濃度側増幅回路3による第1の計測ガス濃度と高濃度側増幅回路4による第2の計測ガス濃度とが等しいかを判定する。
【0019】
第1の計測ガス濃度と第2の計測ガス濃度が等しければステップS5に進む。ここで、両者の計測ガス濃度が等しいとは、所定のズレ分以内であれば等しい値であるという意味である。すなわち、この判定は、両者の計測ガス濃度の差を演算し、その差の絶対値が予め設定された所定の範囲内であれば等しいと判定し、範囲外であれば等しくないと判定する。そして、両者の計測ガス濃度が等しい場合には、低濃度側増幅回路3と高濃度側増幅回路4がいずれも正常であると判断し、ステップS5以降で、計測ガス濃度に基づいて警報に関する処理を行う。
【0020】
ステップS5では、計測ガス濃度が切替えポイント濃度(1000ppm)以上であるかを判定する。切替えポイント濃度以上でなければ、ステップS6で低濃度側増幅回路3による第1の計測ガス濃度を選択し、切替えポイント濃度以上であれば、ステップS7で高濃度側増幅回路4による第2の計測ガス濃度を選択する。そして、ステップS8で、選択した計測ガス濃度を予め設定された警報濃度と比較して警報判定を行い、ステップS9でその他の処理を行ってステップS1に戻る。
【0021】
ステップS4で、第1の計測ガス濃度と第2の計測ガス濃度が等しくなければ、低濃度側増幅回路3または高濃度側増幅回路4が異常である判断し、ステップS10で故障判定の処理を行い、ステップS11で故障表示を行って処理を終了する。
【0022】
以上の処理では、第1の計測ガス濃度と第2の計測ガス濃度が等しくなければ故障判定処理を行っているが、第1及び第2の両者の計測ガス濃度が等しくない場合、次のような処理を行ってもよい。例えば、高濃度側の第2の計測ガス濃度が切替えポイント濃度未満の場合で、低濃度側の第1の計測ガス濃度が切替えポイント以上の場合、故障表示ではなく、警報を発生する。
【0023】
また、切替えポイント濃度で、低濃度側の第1の計測ガス濃度より高濃度側の第2の計測ガス濃度の方が低い場合は、高濃度側増幅回路4が異常であると判断して、高濃度側増幅回路4の出力を使わないで、ガスがあるものとし、低濃度側増幅回路3を使用する。そして、この低濃度側増幅回路3の図5に太い実線で示す計測可能最大濃度までの出力を常に用いる。これにより、ユーザを危険な状態にしないようにする。
【0024】
以上のように、低濃度側増幅回路と高濃度側増幅回路の故障を検出するための故障検出回路など、専用の回路を設けずに、マイコンによる制御だけで増幅回路の故障を検出するようにしているので、コストを抑えた信頼性の高い警報器とすることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 マイコン(制御回路)
2 センサ回路
3 低濃度側増幅回路
4 高濃度側増幅回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検知対象ガスのガス濃度に応じた検出電圧を出力するセンサ回路と、該センサ回路の検出電圧を高ゲインで増幅する低濃度側増幅回路と、該センサ回路の検出電圧を低ゲインで増幅する高濃度側増幅回路と、該低濃度側増幅回路及び該高濃度側増幅回路の出力に基づいて前記検知対象ガスのガス濃度を計測可能な制御回路とを備えた警報器において、
前記低濃度側増幅回路の出力にて第1の計測ガス濃度を演算するとともに、前記高濃度側増幅回路の出力にて第2の計測ガス濃度を演算し、第1の計測ガス濃度と第2の計測ガス濃度とが異なるとき増幅回路の異常発生と判断することを特徴とする警報器。
【請求項2】
請求項1に記載の警報器であって、
前記検知対象ガスのガス濃度の低濃度領域と高濃度領域との境界である切替えポイント濃度が設定されており、前記増幅回路の異常発生と判断され、かつ、前記第2の計測ガス濃度が切替えポイント濃度未満で前記第1の計測ガス濃度が切替えポイント以上の場合、警報を発生することを特徴とする警報器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−3112(P2011−3112A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147219(P2009−147219)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】