説明

豆科植物から免疫機能増強活性と癌細胞に対するアポト−シス誘導能をもち抗癌・癌予防効果を与える抽出物を得る方法、該抽出物、該抽出物を含有しかつ健康食品材料、該健康食品材料を含有する健康食品および健康飲料水

【課題】ハッショウ豆等の豆植物抽出物を含有し、免疫機能増強活性と癌細胞に対するアポトーシス誘導能を有する抗癌・癌予防効果を有する、健康食品材料。
【解決課題】以下の工程i)〜iv)からなる方法によってハッショウ豆(Mucuna. hassjoo Sieb.)、フロリダ・ベルベットビ−ン(Mucuna. deeringigina Merr.)、アナン(Mucuna. ana)、ハリデイビ(Mucuna. Hari Devi)、紫花豆(Phaseolus coccineus L.)、高原豆(Phaseolus coccineus L.)、小豆(Vigna angularis Ohwi et Ohashi)からなる豆科植物の群から得られた抽出物。豆科植物をミキサーで破砕し、ii)必要に応じてエタノールにより脱脂し、iii)脱脂した破砕豆科植物を0.1 Mの濃度のNaOH水溶液にて熱抽出し、iv)熱抽出後、得られた熱抽出物を中和してpH7.0に調整する。得られた溶液を遠心して残留粒状物質を除去後、 ろ過滅菌して最終抽出物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豆科植物から免疫機能増強活性と癌細胞に対するアポト−シス誘導能をもち抗癌・癌予防効果を与える抽出物を得る方法、該抽出物、該抽出物を含有しかつ健康食品材料、該健康食品材料を含有する健康食品および健康飲料水に関する。
【背景技術】
【0002】
現在日本人の死因の第一位は癌であり、高齢化が進めばさらに癌による死亡率が増加する傾向にある。しかしながら、癌患者の8割には有効な抗癌剤がないのが現状である。しかし、近年、原因の単純な癌に対してはグリ−ベック等のような癌特効薬の開発が可能な時代になった。一方、これまで免疫機構を増強させるには結核菌やコレラ毒素のような毒性の強いアジュバントが必要とされたが、免疫学も著しく発展し、米国Tampa Research Institute所長の田中博士により、松かさ抽出液にアジュバント作用があり、免疫増強作用があることを発見した。特許文献1参照。米国では、現在松かさ抽出液の癌患者に対する第3相の臨床試験が行われている。また最近は日本でも、癌患者からリンパ球を採取し、それを活性化後、再び体内に戻す細胞免疫療法についても同様な臨床試験が始められている。
【特許文献1】米国特許第6,703,053B2
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、容易に入手可能な豆科植物から、免疫機能増強活性と癌細胞に対するアポトーシス誘導能を有する抽出物を得る方法、該抽出物、該抽出物を含有しかつ免疫機能増強活性と癌細胞に対するアポト−シス誘導能をもつ抗癌・癌予防効果を有する健康食品材料、該健康食品材料を含有する健康食品および健康飲料を提供することを目的とする。本発明者は、食用に供される種々の植物について制癌作用を有する植物について検討し、特定の豆科植物から免疫増強活性と癌細胞に対するアポトーシス誘導活性を持つ抗癌・癌予防食品材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0004】
即ち、本発明者は、松かさ抽出液の免疫増強作用機構に関する研究の過程で、日本で以前に食用に供されていたマメ科植物のハッショウ豆(Mucuna. hassjoo Sieb.)等に、種々の癌細胞に対するアポト−シス誘導作用と、免疫機能を増強させる活性があることを独自に発見した。そこで、免疫増強活性と癌細胞に対するアポト−シス誘導活性をもつ抗癌・癌予防飲料および食品を開発する目的で、豆科植物のスクリ−ニングを行ない、ハッショウ豆、フロリダ・ベルベッドビーン、アナン、ハリディブ、紫花豆、高原豆、小豆から得られた抽出液が免疫増強活性と癌細胞に対するアポト−シス誘導活性の強いことを突き止め、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明は、以下の工程i)〜iv)によってハッショウ豆(Mucuna. hassjoo Sieb.)、フロリダ・ベルベットビ−ン(Mucuna. deeringigina Merr.)、アナン(Mucuna. ana)、およびハリデイビ(Mucuna. Hari Devi)、紫花豆(Phaseolus coccineus L.)、高原豆(Phaseolus coccineus L.)、小豆(Vigna angularis Ohwi et Ohashi)、からなる豆科植物の群から選択された豆科植物から抽出物を製造する方法に関する。
i)豆科植物をミキサーで破砕し、
ii)必要に応じて95%エタノールにより脱脂し、
iii)脱脂した破砕豆植物を、脱脂した破砕豆植物を所望の濃度のNaOH水溶液にて熱抽出し、
iv)熱抽出後、所定粒径の残留粒状物質があればそれを除去し、得られた熱抽出物を中和してpH6.0〜8.0にして最終抽出物を得る。所定粒径としては、例えば0.2ミクロン以上の粒径をあげることができる。なお、所定の粒径とは、それ未満の場合には食料あるいは飲料であっても食感をそこなわず、あるいは沈降等防止することができるということである。
【0006】
具体的態様としては、前記豆科植物の抽出物に含まれている活性化物質はポリフェノールー多糖類の複合体であり、該活性化物質のポリフェノールー多糖類複合体は、水によく溶け、また熱に安定であり、多糖類複合体の主構成成分は、ゲルろ過法により、分子量が3500, 6500,および25000の三成分からなる。
【0007】
さらに、本発明は、以下の工程i)〜iv)かなる工程によってハッショウ豆(Mucuna. hassjoo Sieb.)、フロリダ・ベルベットビ−ン(Mucuna. deeringigina Merr.)、アナン(Mucuna. ana)、およびハリデイビ(Mucuna. Hari Devi)、紫花豆(Phaseolus coccineus L.)、高原豆(Phaseolus coccineus L.)、小豆(Vigna angularis Ohwi et Ohashi)、からなる豆科植物の群から選択された豆科植物から得られた抽出物に関する。
i)豆科植物をミキサーで破砕し、
ii)必要に応じて95%エタノールにより脱脂し、
iii)脱脂した破砕豆植物を、脱脂した破砕豆植物を所望の濃度のNaOH水溶液にて熱抽出し、
iv)熱抽出後、所定粒径の残留粒状物質があればそれを除去し、得られた熱抽出物を中和してpH6.0〜8.0にして最終抽出物を得る。
【0008】
本発明の上記抽出物の具体的件実施態様としては、前記豆科植物の抽出物に含まれている活性化物質はポリフェノールー多糖類の複合体であり、該活性化物質のポリフェノールー多糖類複合体は、水によく溶け、また熱に安定であり、多糖類複合体の主構成成分は、ゲルろ過法により、分子量が3500, 6500,および25000の三成分からなる。
【0009】
本発明は、さらに上記豆科植物から得られた豆植物抽出物を含有し、免疫機能増強活性と癌細胞に対するアポトーシス誘導能を有する抗癌・癌予防効果を有する、健康食品材料に関する。本出願では、「豆科植物から得られた抽出物を含有する健康食品材料」とは、「豆科植物から得られた抽出物からのみなる健康食品材料」をも含むものと定義する。
【0010】
具体的態様としては、上記健康食品材料を水、お湯、酒類、飲料水、ソフトドリンク類、氷、果汁類、乳汁類、シロップ類、茶類、スープ類、澱粉類、寒天類、ゼラチン類調味料類、蜂蜜、健康食品、天然高分子類(澱粉系、セルロース系、その他多糖類系、たんぱく質)に含有、溶解させることを目的にし、形態を液状、丸錠、錠剤、変形錠、粉末状、フレーク状、ブロック状、塊状、カプセル型、顆粒状、茶状、ティーバッグ状、飴状、ゲル状、ペースト状にした、健康食品。
【0011】
さらに、本発明によれば、上記健康食料材料を水、飲料水に溶かした免疫増強活性と癌細胞に対するアポトーシス誘導活性を持つ、抗癌・癌予防健康飲料水を提供する。
【0012】
得られた豆科植物の抽出物に含まれている活性化物質はポリフェノールー多糖類の複合体である。癌細胞に対するアポト−シス誘導活性および免疫増強活性が強いハッショウ豆、フロリダ・ベルベットビ−ン、アナン(Mucuna. ana)、ハリデイビのムクナ属豆類と紫花豆、高原豆、小豆には類似のポリフェノールー多糖類複合体が高濃度に含まれている。
【0013】
本発明の組成物は水に溶け、熱に安定なので、各種の形状に調製することができる。例えば、豆科植物抽出物の水溶液をそのまま飲料にしてもよいし、賦形剤などを加えて錠剤もしくは丸剤にしてもよく、あるいは、ハ−ドカプセルやソフトカプセルなどのカプセル剤などの形態にしてもよい。
【0014】
本発明は、さらに前記健康食料材料を水、飲料水に溶かした免疫増強活性と癌細胞に対するアポトーシス誘導活性を持つ抗癌・癌予防健康飲料水に関する。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る、免疫増強活性と癌細胞に対するアポトーシス誘導活性を持つ抗癌・癌予防抗癌・癌予防健康食品材料あるいはそれから得られる抗癌・癌予防健康食品、あるいは抗癌・癌予防健康飲料を摂取することによって、癌に罹患する危険性を低減でき、癌予防を良好に行うことができる。
【0016】
本発明では、有益な豆科植物としては以下の種および品種を用いることができる。即ち、ハッショウ豆(Mucuna. hassjoo Sieb.)、フロリダ・ベルベットビ−ン(Mucuna. deeringigina Merr.)、アナン(Mucuna. ana)、ハリデイビ(Mucuna. Hari Devi)、紫花豆(Phaseolus coccineus L.)、高原豆(Phaseolus coccineus L.)、小豆(Vigna angularis Ohwi et Ohashi)、である。
【0017】
本発明では、食用とされて栽培されているハッショウ豆等の豆科植物を使用する。豆科植物としては、市場で入手できるハッショウ豆等の豆科植物を利用することができる。ハッショウ豆等の豆科植物については、豆科植物の豆、若豆(収穫時期以前の豆)、葉あるいは枯葉等を用いることができる。
【0018】
抽出溶液を所望の濃度に濃縮して使用する。得られた溶液は熱に安定で、その後さらに加工せずに冷蔵して保存することができる。また、遠心分離、ろ過、凍結乾燥して、粉末形状とすることもできる。
【0019】
以下に、本発明をさらに好適な実施態様に基づいて詳細に説明する。
【0020】
(1)精製方法
ii)豆科植物をミキサ−で破砕し、必要に応じて95%エタノールにより脱脂し、
iii)脱脂した破砕豆植物を、脱脂した破砕豆植物を所望の濃度のNaOH水溶液にて熱抽出する。熱抽出後、例えば粒径0.2ミクロンm以上の残留粒状物質を除去し、得られた熱抽出物を中和してpH6.0〜8.0にして最終抽出物を得る。「所望の濃度」とは、例えば、0.1M〜1MのNaOH水溶液を指す。
【0021】
豆科植物からアルカリ性の水溶液で抽出することが活性複合体を調製するのに重要である。
【0022】
豆科植物の破砕物を所望の濃度の NaOH 溶液に懸濁し、さらに抽出効率を上げるために加熱する。沸騰させながら抽出を行うことが好ましい。さらに、121℃でオートクレーブによって抽出を行うことにより完全に殺菌された溶液を調製できる。
【0023】
抽出後は、抽出混合物を放置して例えば、室温まで冷却し、さらに処理を行うに先立って、必要に応じて冷蔵庫で保存する。
【0024】
粒状物質を除去するために、豆科植物の抽出液を遠心及びフィルタ−でろ過滅菌を行う。
【0025】
その後、粒状物を除去した抽出溶液のpHをHClでpH6.0〜8.0に調整する。
【0026】
本法で調製した豆科植物抽出液は熱に安定であるが、長時間保存する場合には、低温、好ましくは4℃以下で保存することが好ましい。
【0027】
本発明の抽出物は、上記の各成分に対して当業者が通常行う加工方法により、各種の形状に調製することができる。例えば、豆科植物抽出物に賦形剤などを加えて、錠剤もしくは丸剤などの形状に成形してもよく、あるいは、散剤の形態や、ハードカプセル、ソフトカプセルなどのカプセル剤、ガム、粉末状、顆粒状、ティーバッグ状、飴状、液体、ペースト状などの形態としてもよい。
【実施例】
【0028】
以下に、本発明を具体的実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明がこれらの実施例により制限されないことはいうまでもない。
(実施例1)
1.豆科植物からの抽出法
豆科植物50 g をミキサ−で破砕して粉末状にし、豆科植物をミキサーで破砕し、
ii)必要に応じて95%エタノールにより脱脂し、
iii)脱脂した破砕豆植物を、脱脂した破砕豆植物を所望の濃度のNaOH水溶液にて熱抽出する。熱抽出後、例えば粒径0.2ミクロンm以上の残留粒状物質を除去し、得られた熱抽出物を中和してpH6.0〜8.0にして最終抽出物を得る。
【0029】
豆科植物としては、ハッショウ豆、フロリダ・ベルベットビーン、アンナ、ハリディビ、紫花豆、高原豆、小豆を用い、比較例として豆科植物として金時豆、大福豆、ひよこ、隠元豆、白刀豆、落花生、枝豆、大豆、モロッコ、さやえんどう、鞍掛豆、紅しぼり、黒豆、レンズ豆、ナタ豆、がんくい、そら豆、うずら豆、とら丸うずら豆、本金時、大手豆、平床豆を使用した。ハッショウ豆については、若豆、葉、枯葉についても同様に抽出液を得た。
【0030】
松かさ抽出液については現在米国で臨床試験が行われているが、米国での特許が取得されている(US6703053B2)。本発明者は豆植物の抽出物の効果を評価するため、対照例として上記方法と同様にして松かさ抽出液を調製した。
【0031】
(実施例2)
(豆科植物抽出液の癌細胞に対する増殖阻害)
(1)2 x 105個/mlのU937細胞を10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640倍値に懸濁し、豆科植物抽出液を加え、2〜3日間培養した。培養後、トリパンブル−試薬を加え、トリパンブル−試薬で染色されない細胞を生細胞として血球計算板を用いてカウントした。
【0032】
松かさ抽出液に対して感受性が高いヒト白血病U937細胞は、ムクナ属ハッショウ豆の抽出液に対しても感受性が高く、図1に示すように24時間(黒三角)、48時間(白丸)、72時間(黒丸)と処理時間が長くなるほど増殖阻害効果が強く現れた。72時間の処理で、細胞増殖を50%阻害するIC50値は2.7 + 1.1 mg/mlと松かさ抽出液と同程度低かった。
【0033】
(2)また、ハッショウ豆の葉からの抽出液のIC50値が1.3 + 0.7 mg/mlと低く、枯葉のIC50値は0.5 + 0.02 mg/mlで最も増殖速阻害活性が高かった(図2)。この結果は、葉中にも豆中と同じ活性成分が含まれており、しかもその活性成分は葉が枯れても安定に存在することを示している。
【0034】
(3)ムクナ属のフロリダ・ベルベットビ−ン(Mucuna. deeringigina Merr.)、アナン(Mucuna. ana)、およびハリデイビ(Mucuna. Hari Devi)もU937細胞の増殖を阻害し、IC50値が低かった(図2)。したがって、ムクナ属には同様な活性成分が含まれていることがわかる。
【0035】
(4)他の豆類では図2に示すように、紫花豆(Phaseolus coccineus L.)のIC50値が3.1 + 2.1 mg/ml、高原豆(Phaseolus coccineus L.)が3.25 + 0.8 mg/ml、小豆(Vigna angularis Ohwi et Ohashi)が6.1 + 0.1と低かったが、それ以外の豆類からの抽出液の増殖阻害作用はほとんど認められず、IC50値は100 mg/ml以上であった。
【0036】
(実施例3)
癌細胞に対するアポト−シスが誘導されると、細胞内のcaspase 3が活性化され、これがDNaseを活性化しDNAが切断される。その結果、ヌクレオソ−ムが断片化し、さらに核も断片化される。そこでアポト−シスの誘導は、断片化されたヌクレオソ−ムを検出する抗体を使用するELISA (Enzyme-linked immunosorbent assay)法および断片化された核を染色するヘキスト染色法により測定した。またcaspase 3の活性化は、caspase 3の特異的基質である(7-methoxycoumarin-4-yl)acetyl-Asp-Glu-Val-Asp-
Ala-Pro-N’-(2,4-dinitrophenyl)-lysine amide [MCA-
DEVD-APK(dnp)]を用いて、caspase 3により特異的に分解されたときに起こる蛍光変化を測定して分析した。アポト−シス誘導の初期に発生する活性酸素種(ROS)は、superoxideと反応するdihydroethidium 、および過酸化水素と反応する2’,7’-dichlorodihydrofluorescein diacetateを用いて、それらが反応後生成して発生する蛍光をフロ−サイトメ−タ−で測定して分析した。
【0037】
(1)ハッショウ豆抽出液は、松かさ抽出液と同様にU937細胞に対してアポト−シスを誘導した。ヘキスト染色でハッショウ豆抽出液により処理されたU937細胞の核の断片化を調べると、図3の黒丸に示すように時間依存的にアポト−シス誘導が観察された。白丸はコントロ−ルの未処理のU937細胞の場合で、アポト−シスの誘導は全く起こらなかった。断片化されたヌクレオソ−ムを検出する抗体を使用すると、ハッショウ豆抽出液の濃度に依存して断片化されたヌクレオソ−ムが増加した。
【0038】
(2)一般的にアポト−シス誘導の最終段階でcaspase 3が活性化されるが、ハッショウ豆抽出液も濃度依存的にcaspase 3が活性化された。
【0039】
(3)また、活性酸素種(Reactive oxygen species, ROS)が生成しているかをフロ−サイトメ−タ−を用いて測定した結果、ROSのうちのス−パ−オキシドの産生が認められた。このことを確認するために、抗酸化剤であるa-TocopherolやN-Acetylcysteine (NAC)の共存下でU937細胞をハッショウ豆抽出液で処理すると、NACではハッショウ豆抽出液によるアポト−シス誘導は阻害されなかったが、a-Tocopherolの存在下で完全に阻害された。
【0040】
(4)したがって、ハッショウ豆抽出液の処理によりU937細胞内に産生したス−パ−オキシドがミトコンドリアに障害を与え、チトクロームcの流出に続くcaspase 3の活性化を経てアポト−シスが誘導されるものと考えられる。
【0041】
(5)ハッショウ豆のこのようなアポト−シス誘導機構は、松かさ抽出液によるアポト−シス誘導機構と類似している。GeneFising法によりU937細胞の転写反応に与える影響を比較すると、図5に示すようにハッショウ豆抽出液も松かさ抽出液もfibrillarin, Ku70, S20という特定の遺伝子の発現に影響を与えていることがわかった。
【0042】
(実施例4)
(豆科植物抽出液の免疫機能増強作用)
以下に、豆科植物抽出液の免疫機能増強作用の実験結果を示す。なお、松かさ以外の植物や食品中に、免疫増強活性があることは報告されていない。また、サルノコシカケ等のキノコ類に免疫増強活性があるといわれているが、臨床的に有効であることが科学的には証明されていない。
【0043】
(1)マウスの骨髄幹細胞をGranulocyte macrophage-colony stimulating factor (GM-CSF)で7日間処理して未成熟な樹状細胞に分化誘導後、ハッショウ豆抽出液で処理すると、成熟した樹状細胞表面に発現されている細胞表面マ−カ−が発現した。図5は、骨髄幹細胞をGM-CSFで7日処理後、ポジティブコントロ−ルであるLipopolysaccharide (LPS)で3日間処理し、成熟樹状細胞の細胞表面マ−カーの一つであるCD86に対する蛍光色素で標識した抗体で検出した結果を示す。LPS 処理によりCD86が細胞表面に発現誘導された結果、蛍光強度の増加した細胞集団が見られる。同様に、骨髄幹細胞をGM-CSFで7日処理後、松かさ抽出液やハッショウ豆抽出液で処理すると、さらに蛍光強度が増加した細胞集団の出現が観察された。この結果は、松かさ抽出液やハッショウ豆抽出液で処理により成熟した樹状細胞に分化誘導されたことを示している。
【0044】
(2)成熟した樹状細胞のもう一つの特色は、インタ−ロイキン6(IL-6)や腫瘍壊死因子(TNF-a)などのサイトカインを産生することである。骨髄幹細胞をGM-CSFで7日処理後、ポジティブコントロ−ルであるLPSや、松かさ抽出液および種々の豆科植物抽出液で3日間処理し、インタ−ロイキン6の産生を酵素免疫測定法(Enzyme-linked immunosorbent assay, ELISA) で測定したところ、図6に示すように松かさ抽出液と同様にハッショウ豆抽出液はインタ−ロイキン6の産生を誘導した。ハッショウ豆の中では、枯葉抽出液のインタ−ロイキン6産生能がLPSと同程度に強かった。また、豆科植物の中では、高原豆、紫花豆、小豆の抽出液がインタ−ロイキン6産生能が強かったが、それ以外の豆科植物抽出液にはこのような活性は認められなかった。高原豆および紫花豆はマメ科インゲン属に属する。なお、霊芝(サルノコシカケ)抽出液には、このようなインタ−ロイキン6の産生能はまったく認められなかった。
【0045】
(3)図7は、骨髄幹細胞をGM-CSFで7日処理後、ポジティブコントロ−ルであるLPSや、松かさ抽出液および種々の豆科植物抽出液で3日間処理し、腫瘍壊死因子の産生を酵素免疫測定法で測定した結果である。インタ−ロイキン6の産生と同様に、ハッショウ豆とその枯葉、および高原豆、紫花豆、小豆の抽出液に強い腫瘍壊死因子産生能が観察された。
【0046】
(腫瘍免疫を強化させる活性と癌細胞に対するアポトーシス誘導能を併せ持つ食品の開発)
本件の最も大きな特色で新しい点は、これまで独自に発展してきた抗癌剤の研究と腫瘍免疫学を結びつけて、腫瘍免疫を強化させる活性と癌細胞に対するアポトーシス誘導能を併せ持つ食品を豆科の植物から開発しようとしていることである。また、米国で臨床試験が行われている松かさ抽出液は食品ではなく、治療の為の飲料であるが、ハッショウ豆は昭和の初期までは日本人が食用に供していた食物である。現在でも、北米、ブラジル、インド、中国、ベトナムなどの地域や国々で食用に供されている。表1に示すように、ハッショウ豆抽出液を雄10匹、雌10匹のマウスに経口投与して毒性を測定したが、下痢などの症状は全く示さず、体重も順調に増加した。ハッショウ豆抽出液を投与したマウスの体重の増加率は、雄で1.51倍、雌で1.35倍であった。ハッショウ豆抽出液を投与しないコントロ−ルのICRマウスの4週から5週にかけての体重増加率は、雄で1.50倍、雌で1.25倍であるので、ハッショウ豆投与の影響は全く認められなかった。またハッショウ豆は、肥沃でない土地にも肥料を使用しないで栽培ができ、休耕田の活用も可能で、大量に安価に栽培できるメリットがある。ハッショウ豆以外に、白血病U937細胞に対するアポトーシス誘導能および免疫機能増強能が共に強かった高原豆、紫花豆と小豆は、現在、煮豆として食べられている。したがってこれらの豆類は、全く無害で新しい抗癌・癌予防食品になる可能性がある。また、癌予防が必要な対象者は、癌による死亡者が急増する50歳以上の健常者が該当するので、その需要は大きい。さらに、免疫機能を増強させる豆科植物は、インフルエンザやエイズの予防にも使用することが可能なので、その場合は、さらに需要が拡大する。
【0047】
【表1】

【0048】
4週令の雄、雌各10匹のマウス(ICR)に1 g/体重1kgのハッショウ豆抽出液(0.122 g/ml)を、午前10時と午後2時の2回経口投与し、毎日症状を観察した。投与7日後に再度体重を測定した。
【0049】
(実施例5:飲料の製造)
下記の配合量で本発明の抗癌・癌予防健康飲料水(500mL)を製造した:
<配合成分(単位は質量%)>
豆科植物抽出物 0.02
アスコルビン酸ナトリウム 0.016
果糖 0.3
オレンジ果汁 1.0
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る、免疫増強活性と癌細胞に対するアポトーシス誘導活性を持つ抗癌・癌予防抗癌・癌予防健康食品材料あるいはそれから得られる抗癌・癌予防健康食品、あるいは抗癌・癌予防健康飲料を摂取することによって、癌に罹患する危険性を低減でき、癌予防を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】ハッショウ豆の抽出液が白血病U937細胞の増殖に与える実験結果を示す。
【図2】種々の豆科植物抽出液について細胞増殖を50%阻害するIC50値についての実験結果を示す。
【図3】ハッショウ豆抽出液は、松かさ抽出液と同様にU937細胞に対して時間依存的にアポト−シス誘導することを示す。
【図4】ハッショウ豆抽出液は、松かさ抽出液同様、fibrillarin, Ku70, S20という特定の遺伝子の発現に影響を与えていることを示す。
【図5】骨髄幹細胞をGM-CSFで7日処理後、ポジティブコントロ−ルであるLipopolysaccharide (LPS)やハッショウ豆抽出液、または松かさ抽出液で3日間処理し、成熟樹状細胞の細胞表面マ−カーの一つであるCD86に対する蛍光色素で標識した抗体で検出した結果を示す。
【図6】松かさ抽出液やポジティブコントロ−ルであるLPSと同様に、ハッショウ豆とその枯葉、および高原豆、紫花豆、および小豆の抽出液がインタ−ロイキン6の産生を誘導することを示す。
【図7】ハッショウ豆とその枯葉、および高原豆、紫花豆、および小豆の抽出液が、松かさ抽出液やポジティブコントロ−ルであるLPSと同様に強い腫瘍壊死因子産生能を有することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程i)〜iv)によってハッショウ豆(Mucuna. hassjoo Sieb.)、フロリダ・ベルベットビ−ン(Mucuna. deeringigina Merr.)、アナン(Mucuna. ana)、およびハリデイビ(Mucuna. Hari Devi)、紫花豆(Phaseolus coccineus L.)、高原豆(Phaseolus coccineus L.)、小豆(Vigna angularis Ohwi et Ohashi)、からなる豆科植物の群から選択された豆科植物から抽出物を製造する方法。
i)豆科植物をミキサーで破砕し、
ii)必要に応じて95%エタノールにより脱脂し、
iii)脱脂した破砕豆植物を、脱脂した破砕豆植物を所望の濃度のNaOH水溶液にて熱抽出し、
iv)熱抽出後、所定の粒径以上の残留粒状物質があればそれを除去し、得られた熱抽出物を中和してpH6.0〜8.0にして最終抽出物を得る。
【請求項2】
前記豆科植物の抽出物に含まれている活性化物質はポリフェノールー多糖類の複合体であり、該活性化物質のポリフェノールー多糖類複合体は、水によく溶け、また熱に安定であり、多糖類複合体の主構成成分は、ゲルろ過法により、分子量が3500, 6500,および25000の三成分からなる、請求項1に記載の豆科植物から抽出物を製造する方法。
【請求項3】
以下の工程i)〜iv)によってハッショウ豆(Mucuna. hassjoo Sieb.)、フロリダ・ベルベットビ−ン(Mucuna. deeringigina Merr.)、アナン(Mucuna. ana)、およびハリデイビ(Mucuna. Hari Devi)、紫花豆(Phaseolus coccineus L.)、高原豆(Phaseolus coccineus L.)、小豆(Vigna angularis Ohwi et Ohashi)、からなる豆科植物の群から選択された豆科植物から得られた抽出物。
i)豆科植物をミキサーで破砕し、
ii)必要に応じて95%エタノールにより脱脂し、
iii)脱脂した破砕豆植物を、脱脂した破砕豆植物を所望の濃度のNaOH水溶液にて熱抽出し、
iv)熱抽出後、所定粒径の残留粒状物質があればそれを除去し、得られた熱抽出物を中和してpH6.0〜8.0にして最終抽出物を得る。
【請求項4】
前記豆科植物の抽出物に含まれている活性化物質はポリフェノールー多糖類の複合体であり、該ポリフェノールー多糖類複合体は、水によく溶け、また熱に安定であり、多糖類複合体の主構成成分は、ゲルろ過法により、分子量が3500, 6500,および25000の三成分からなる、請求項3に記載の豆科植物から得られた抽出物。
【請求項5】
請求項3または4記載の前記豆植物抽出物を含有し、免疫機能増強活性と癌細胞に対するアポトーシス誘導能を有する抗癌・癌予防効果を有する、健康食品材料。
【請求項6】
請求項4または5の前記健康食品材料を水、お湯、酒類、飲料水、ソフトドリンク類、氷、果汁類、乳汁類、シロップ類、茶類、スープ類、澱粉類、寒天類、ゼラチン類調味料類、蜂蜜、健康食品、天然高分子類(澱粉系、セルロース系、その他多糖類系、たんぱく質)に含有、溶解させることを目的にし、形態を液状、丸錠、錠剤、変形錠、粉末状、フレーク状、ブロック状、塊状、カプセル型、顆粒状、茶状、ティーバッグ状、飴状、ゲル状、ペースト状にした、健康食品。
【請求項7】
請求項5または6の前記健康食料材料を水、飲料水に溶かした免疫増強活性と癌細胞に対するアポトーシス誘導活性を持つ、抗癌・癌予防健康飲料水。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−81478(P2008−81478A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−266725(P2006−266725)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月29日 社団法人 日本薬学会主催の「日本薬学会第126年会」において文書をもって発表
【出願人】(591002108)
【Fターム(参考)】