説明

貝類の保護基盤

【課題】 水底の砂泥環境で生息する貝類の成育に必要な自然に近い状態を維持しながら
貝類を保護・養殖できる貝類の保護基盤を得る。
【解決手段】 植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートの線状体1からなるブロック2であって,該線状体1同士が部分的に結着し且つ該線状体1同士の間に間隙7が形成されている立体形状のブロック2と,該ブロック2の前記間隙7に装填された砂泥分8とからなる貝類の保護基盤である。この保護基盤の線状体1は,MgOおよびP25を主成分とする低pHセメントを結合材に使用して構成することができ,植物繊維としては
綿や麻を使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,貝類の保護・養殖に適したモルタルまたはコンクリート製のブロック基盤に
関する。
【背景技術】
【0002】
近年,アサリ,ハマグリ,シジミ,マテガイ等に代表される二枚貝の資源減少は著しく,水産庁や地方自治体などもその対応についての研究,保護,保全,資源回復の検討・施
策を試みているが,効果が上がっている状況ではない。
【0003】
二枚貝減少の原因には,乱獲による人為的な作用,大小を問わずに行われている開発行為による生物生息域の消失,食物連鎖の破壊による餌(被食者)の減少,水質悪化による生息環境の改変などがある。特に問題は,生息場などの生息環境が保全されているにも拘わらず,資源が減少している点である。これは,次世代の資源を生む親貝や成貝の漁獲によることが大きい。これらの資源減少に対する対策として,特に親貝・成貝の保護に関しては,漁期の設定,漁獲区域の設定,さらには漁具の規制などが行われているが,十分な
効果を上げていない。
【0004】
そこで,このような二枚貝類に対する資源の回復のためには,人為的な方法で親貝・成貝を漁獲から保護する方法と,それに合わせて親貝・成貝が成育するための人工基盤を整
備することが必要となる。
【0005】
貝類成育のための人工基盤に関しては,例えば特許文献1には稚貝を通水性保護箱内で水中養殖するための養殖具が記載され,特許文献2には稚貝を付着した付着器を,分解性樹脂を用いたシート状の網状体で保護するようにした貝類育成具が記載されている。特許文献3にはモルタルまたはコンクリート製の動植物着生用ブロック基材およびこれを用い
た動植物着生法が記載されている。
【特許文献1】特開2000−139265号公報
【特許文献2】特開平8−51883号公報
【特許文献3】特開2003−265039号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2に記載されたものも,それなりに効果があると考えられるが,いずれの養殖具や育成具も,水底の砂泥環境で生息する貝類の成育に必要な自然に近い状態を維持することは困難であり,自然に近い砂泥環境で貝類を成育させて資源回復を図るとい
う大きな課題に対しては十分には対処し得ない。
【0007】
特許文献3には植物繊維入りのモルタルまたはコンクリートの線状体からなるブロック基材が記載されているが,水底の砂泥中で生息する貝類の成育に関する開示はない。本発明者らは,特許文献3に記載されたブロック基材だけでは貝類の成育に適するものとはならないことがわかった。したがって,本発明はこのような課題の解決を目的としたもので
ある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば,植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートの線状体からなるブロックであって,該線状体同士が部分的に結着し且つ該線状体同士の間に間隙が形成されている立体形状のブロックと,該ブロックの前記間隙に装填された砂泥分とからなる貝類の保護基盤を提供する。この保護基盤において,モルタルまたはコンクリート中に配合される植物繊維の配合量は10Kg/m3以上であるのが好ましく,線状体の径が5〜100mm,好ましくは10〜30mmであるのがよい。さらにモルタルまたはコンクリートはMgOおよびP25を主成分とする低pHセメントを結合材としたものであるのがよい。また,線状体の表面には貝類の足糸定着用の凹凸を有することが必要である。このため,線状体の表面には線状体軸方向の多数の溝を並設し,この並設溝によって線状体表面に貝類固定用の表面凹凸を形成するのがよい。また,ブロックの線状体同士の間の間隙に多数本の棒状体を差し込むことにより,それらの棒状体が基盤から林立した状態となるように基盤から突出させ,この突出した棒状体によって他の生物による食害を防止すること
ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
市場に流通している貝類には,アワビ,サザエ等の巻貝類と,アサリ,ハマグリ,カキ,ホタテ等の貝殻が2枚1組になっいる二枚貝類に分けられる。本発明においては,二枚貝のうちでも,水底の砂,泥,礫,石,岩など(以下,これらをまとめて砂泥という)に潜り込んで生活する二枚貝類例えば海産のアサリ,ハマグリ,アカガイ,タイラギ,マテガイ等,淡水産のマシジミ,セタシジミ等,汽水産のヤマトシジミ等,また巻貝類にあっては例えば淡水産のカワニナ,モノアラ等,海産のダンベイキサゴ,バイガイ,テングニ
シ等の有用貝類を主たる対象とする。
【0010】
このような水底の砂泥中で生活する貝類の人工基盤を構成するには,人工基盤内に十分な砂泥が維持され且つ貝類が生活・成長・増殖できる空間が確保されていることのほかに,貝採取時に破損しないような強度を有する基盤であること,さらには,対象生物はもとより周辺生物の生息に対して影響の少ない材料で構成されていること,そして,巻貝類の
ように卵を固形物に付着させる種にとっては産卵床となることが必要である。
【0011】
この要求を満たす人工基盤として,本発明は,植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートの線状体からなるブロックであって,該線状体同士が部分的に結着し且つ該線状体同士の間に間隙が形成されている立体形状のブロックを基体材料とし,このブロックの間隙に砂泥分を装填し,このブロック内の間隙を貝類の生息すなわち生活・成長・増殖のための空間に利用する。特に,アサリ等の稚貝や成貝では体内から出す糸状物質(足糸)を該基体材料の表面に付着させてその体を固定しやすくして流れや堀り返しから守ることに該基体材料を利用する。貝類が出す足糸が該基体材料の表面に付着しやすいように,該基体材料の線状体の表面には凹凸を設けておくのがよく,このような凹凸は線状体の軸方向に沿った多数の表面溝によって形成されているのがよい。線状体表面の凹凸は,また,ブロックに生息する貝類の餌となる藻類や菌類などの有機物を付着しやすくすると共に,表面積の増大によってその発生量も多くなり,その凹凸によって多様な環境か創り出されるので異種のものが増殖しやすくもなる。ブロックを構成する結合材(セメント)としては,MgOおよびP25を主成分とする低pHセメントを用いると生物の生活環境に与
える影響も少ない。
【0012】
セメント系モルタルまたはコンクリートに適量の植物繊維を配合すると,硬化した状態では保水機能と強度を具備した硬化体が得られ,未だ固まらない状態では,ノズル口から押し出した場合に,その連続した線状体は線状形状を保持しながら変形できる性質が得られる。すなわち,植物繊維を配合することによってセメントマトリックス中に水が含浸できる硬化体組織が得られると共に,フレッシュ状態では線状体に押し出し成形ができるような粘った混練物を得ることが可能となり,ノズル口から押し出された線状体は変形が自在でありながらその線状の形状を硬化するまで保持し得るので,この線状体を未だ固まらないうちに曲げ絡み合わせると,あたかも即席乾燥麺に見られるような,線状体が捲縮して絡み合った接合組織が得られ,このものは,線状体同士が部分的に結着して硬化してい
るために適当な間隙をもつ任意形状の立体ブロックとなり得る。
【0013】
図1は,本発明に従う立体形状のブロックの一つの形状例を示したもので,図2は,図1のX−Y矢視断面を示している。図示のように,植物繊維を配合したセメント系硬化体(モルタルまたはコンクリート)からなる線状体1が曲げ絡み合って立体形状のブロック2を形成している。このブロック2は,硬化した線状体1が部分的に結着し,線状体同士の間に間隙7を形成した構造を有しており,一見したところ,即席乾燥麺(インスタント
ラーメン)のような麺の捲縮固化物を拡大したような立体形状を有している。
【0014】
このようなセメント系硬化体のブロック2を作製するには,例えば図3に示したように,植物繊維配合の未だ固まらないモルタルまたはコンクリート3(以下これを略して“植物繊維入り生モルタル”と呼ぶ)の混練物をグラウトポンプ4でノズル5に圧送することにより,ノズル5から植物繊維入り生モルタル3の連続した線状体として押し出し,これを型枠6内に曲げ絡み合わせながら打設する。そのさい,植物繊維を適量配合し且つ水セメント比および単位水量を調節すると,ノズル5から押し出された生モルタル3の線状体は直角はもとより180o近く曲げても破断することなく,くねくねと自在に曲がる。植物繊維を配合しない場合には,そのような性質を具備させることは困難で,形状保持力を
もつような硬練として線状体に押し出した場合には,曲げるとすぐに折れてしまう。
【0015】
前記の図例では,型枠6内に打設するさいに,作業員がノズル5を前後・左右に移動させることによって,網目状のものが積層した形状とする例を示したが,これを機械化して行なうことも勿論可能である。また,立体形状は,この例に限らず,線状体が部分的に結着し且つ線状体の間には所定の間隙7が形成されているのであれば,あらゆる形状のものが可能である。例えば側面が3面体,4面体,5面体,6面体その他の多面体からなる多角形状の立体ブロック,或いは側面が円筒や楕円筒からなる円筒形状等の様々な形状の立
体ブロックを作り出すことができる。
【0016】
ノズル5から押し出す生モルタル3の線状体の径については,直径が5〜100mm,好ましくは10〜30mmのものが貝類の生息には都合がよい。ブロック2の線状体1は径が全て同一でなくてもよく,例えば保護基盤の底部に位置する線状体1の径を他の線状体よりも太くしておくと,保護基盤を水底に設置したさいに安定性が増す。植物繊維入り生モルタル3の配合については後述するが,使用する植物繊維としては,長さが2〜12mm,径が0.1〜1.0mm程度のものが好適であり,配合量としては,植物繊維の種類によってその適正な範囲は異なるが,10〜80Kg/m3,好ましくは20〜60Kg/m3の範囲とするのがよく,植物繊維の配合量が多いほど硬化した線状体1の湿潤性能(保水性能)および生モルタル3の線状体の変形性能が高まる。しかし,あまり多いと,骨材表面が植物繊維で覆われるところが増え,骨材・セメント間の接合強度を低下させることにもなるので,80Kg/m3以下,好ましくは60Kg/m3以下とするのがよい。練り混ぜに際しては,セメントペーストに植物繊維を先練りし,この植物繊維入りセ
メントペーストを骨材と混り混ぜる方法が好ましい。
【0017】
植物繊維の使用にあたっては,その乾燥体をよくほぐした状態で使用するのがよい。植物繊維の性質上,その繊維一本一本の径や長さ,さらには表面状態や形状(針状か板状かなど)はランダムであるが,要するところ,その植物繊維の性質に応じてモルタル中またはコンクリート中によく分散できるような寸法形状とすればよい。綿や麻を用いる場合には,長さがほぼ2〜12mmで,径がほぼ0.2〜0.7mm程度のものを練り混ぜ中の材料に少しづつ投入して分散させればよい。そのさい,水を混入する前の空練りを60秒
以上行うことが好ましい。
【0018】
コンクリート用分散剤を使用して植物繊維の分散を促進させることも好ましい。使用できる分散剤には各種のものがあるが,例えば高性能減水剤(商品名レオビルド8000ESなど)が挙げられる。また,必要に応じて水溶性高分子等の増粘剤を使用することがで
きる。
【0019】
使用するセメントとしては普通セメントが使用できるが,低pHセメントを使用すると,低pH(低アルカリ)の植物繊維入り生モルタル3が得られ,低pHの本発明に従う貝類保護用ブロック基材(保護基盤)を作ることができる。低pHセメントとしては,MgOおよびP25を主成分とする低pHセメントを使用できる。このような低pHセメントとしては,例えば特開2001−200252号公報に記載された軽焼マグネシアを主成分とする土壌硬化剤組成物が挙げられる。またこれに相当する低pHセメントは商品名マグホワイトとして市場で入手できる。さらに,セメントの一部を,必要に応じて高炉ス
ラグ微粉末,フライアッシュ,シリカヒュームなどで置換することもできる。
【0020】
骨材成分としては通常の細骨材および粗骨材を使用できるが,粗骨材を使用する場合には最大寸法がノズル5の口径より小さいものを使用する必要があり,最大寸法5mm以下とするのがよい。細骨材としては通常の川砂のほか,土質成分のもの例えば火山灰土,黒土,粘土等が使用可能である。また石灰石粉等の微粉末,粒径0.2mm以下のケイ砂,粉状の火山砂礫等を配合することもできる。さらに軽量細骨材を使用することもできる。
【0021】
植物繊維を15Kg/m3以上,好ましくは20Kg/m3以上配合し,水セメント比を従来のポーラスコンクリートの場合と同等もしくはこれよりも高くして(例えばポーラスコンクリートでは水セメントが25〜35%程度である)練り混ぜると,スランプ値は高くても1.0cmまでの混練物が得られ,その硬化体は,透水係数が 1.0〜3.0 cm/secで,単位吸水率が10〜40%の保水性コンクリート(モルタル)を得ることができる。したがって,該混練物をノズル5から押し出し,曲げ絡み合わせて立体形状となし,これを硬化してなる本発明のブロック2は,単位吸水率が10〜40%の保水性を示す硬化した線状体1からなる。このため,線状体1そのものが保水性を示すので,生物生息用基材
として非常に好適な材料である。
【0022】
さらに,本発明に従うブロック2は,圧縮強度250〜330kgf/cm2 ,曲げ強度40〜50kgf/cm2 を示す硬化体製品となり得る。すなわち,普通コンクリートまたはモルタルと同等の強度特性を得ることが可能である。そして,図1に示したように,硬化した線状体1は曲げ絡み合って部分的に結着した構造の立体形状を有するので,線状体1の間には多くの間隙7を有している。ここまでは,特許文献3に記載されているプロックとほぼ
同様である。
【0023】
しかし,貝類の保護・養殖に適したモルタルまたはコンクリート製のブロック基盤として使用するには,特許文献3に記載されたものでは必ずしも適しないことがわかった。第一は,該ブロックの間隙にそのまま貝類を定着させることはできない。このため,ブロック2に適切な間隙7を持たせてその間隙7に貝類の生息に適した砂泥分(後述の図4の砂泥8)を充填することが必要である。第二に,該ブロック2の線状体1の表面が滑らかであると,貝類が出す糸状物質(後述の図9の足糸16)をその表面に固定するのが難しく,足糸16で自重を支えられないことが起きる。このため,表面に足糸16が付着されるに十分な凹凸(後述の図9の凹凸15)を設けることが必要である。また,表面に凹凸15を設けるとブロック2中の植物繊維が部分的に表面から露出するようになり,この植物繊維が足糸付着用に一層寄与することがわかった。第三に,特許文献3のブロックそのものではエイ等の餌となる食害を防止できない。このために,棒状体(後述の図10の棒状体18)をブロック2の間隙7に差し込んで,棒状体18が林立した基盤とし,魚類や鳥類等の生物が基盤中の貝類を捕食しようとしても,それを阻止するバリヤーを形成するのがよいことがわ
かった。
【0024】
線状体1からなるブロックの間隙7の容積を間隙率として表すと,この間隙率は線状体1の曲げ絡み合いの程度を調節することによって自由に制御ができ,例えば間隙率20〜
80%のブロック2,好ましくは間隙率30〜60%のブロック2とする。
【0025】
この間隙7に砂泥8を装填することによって,水底の砂泥中で生活し,成育・増殖する貝類の保護基盤として好適な部材となり,間隙7に装填された砂泥8(図4)が貝類の生息空間となる。したがって,保護する貝類の種類に応じて,その間隙7の大きさひいては装填される砂泥分の内容や粒径等を選定しておく。通常は,その間隙7の大きさは幅10〜50mm程度であればよい。砂泥8の粒径は3mm以下程度であればよく,砂泥8に礫や小石などの粒状物例えば直径3〜5mm程度の砕石などが適量含まれていると,それら
の表面にも貝類は足糸16を付着させてその体を固定することができるので好ましい。
【0026】
図4は,線状体1からなる立体形状のブロック2の間隙7に砂泥8を人為的に装填する状況を示しており,ブロック2を容器9内にセットしたうえ,含水量が調節された砂泥8のスラリーを容器9内に流入させることによって,ブロック2の間隙7に砂泥8を装填することができる。容器9を使用する代わりに,多数のブロック2を敷き並べ,その上に砂
泥スラリー8を打設する方法によれば,さらに効率よく装填することができる。
【0027】
間隙7への砂泥8の装填は,水底で自然に行わせることもできる。すなわち,図1のような立体形状のブロック2を砂泥質の水底に設置しておくと,水底の砂泥が自然に該ブロック2の間隙7内に入り込み,砂泥入りブロックとなる。以後,人為的であろうと自然であろと,線状体1の間隙に砂泥8が装填された立体形状のブロックを図5に示したように
“砂泥入りブロック10”と呼ぶ。
【0028】
図5は,本発明に従う砂泥入りブロック10が砂泥質の水底11の表面部に設置された状況を示している。この砂泥入りブロック10は,予め砂泥8を間隙7に装填したうえで水底に設置された場合であっても,或いは,砂泥無装填のブロック2を水底11に設置しておくことにより,水底11の砂泥が空隙7に自然に充填されたものであってもよく,いずれにして
も,水底11において貝類の保護基盤として機能する。
【0029】
水底11の砂泥入りブロック10に貝類を定着・育成させるには,代表的には次の方法があ
る。
A.水底11に砂泥入りブロック10を設置し,その上に貝類を定着させる。
B.水底11に砂泥入りブロック10を設置し,その上に稚貝を定着させ,自然に成育させる

C.稚貝が定着した砂泥入りブロック10を施設内で準備し,これを水底11に設置して自然
に成育させる。
D.稚貝が定着した砂泥入りブロック10を施設内の水槽に設置して貝類を成長させ,その
砂泥入りブロック10を自然の水底11に設置する。
【0030】
前記Aでは,図6に示したように,水底11に砂泥入りブロック10を埋め,その上に親貝または成貝12を供給する。この場合には,親貝または成貝12(アサリの場合,貝殻の全長すなわち最大長さが20mm以上を目安としている)を別途に準備しておくことが必要である。親貝または成貝12は砂泥入りブロック10内の砂泥8内に潜り込んで生活を始め,立
体形状のブロック10によって保護されながら集団(群れ)を形成し,増殖してゆく。
【0031】
前記Bでは,図6の親貝または成貝12に代えて,稚貝14(アサリの場合,貝殻の全長すなわち最大長さが20mm未満を目安としている)を水底11の砂泥入りブロック10に供給する。稚貝14は砂泥入りブロック10の砂泥8内に潜り込んで生活を始め,立体形状のブロ
ック10で保護されながら自然の状態で成育する。
【0032】
前記Cでは,図7に示したように,例えば施設の水槽13内に砂泥入りブロック10を設置し,この砂泥入りブロック10に稚貝14を収容させる。砂泥入りブロック10への稚貝14の定着は水槽13を用いずに(水中ではなく)陸上で行なうことも可能である。この場合には,砂泥入りブロック10内の砂泥8には十分な水分を付与しておくことが必要である。次いで,稚貝14が定着した砂泥入りブロック10を現地に搬送し,これを水底11に設置する。この工程を図8に図解して示した。図8に示したように,水槽13から稚貝14が定着した砂泥入りブロック10を取り出し,これを集荷し,現地に搬送し,現地の水底11に設置するのであるが,水槽13から現地の水底11に設置されるまで,砂泥入りブロック10が陸揚げされた状態にあっても,本発明に従う砂泥入りブロック10は,保水性のコンクリート(モルタル)に砂泥8が保持された状態にあるので,貝類の生息に必要な水分が枯渇するようなことは回避され,また,長時間にわたって環境変化が小さいのでその中に定着している貝類の生
命は,数日間の陸揚げおよび搬送に耐えることができる。
【0033】
前記Dでは,図7のように,施設の水槽13内に設置された砂泥入りブロック10で,稚貝14を成貝になるまで養殖する。その段階で,成貝を採取して出荷することもできるが,成貝が定着した砂泥入りブロック10を水槽13から取り出し,これを搬送して自然の水底11に設置することもできる。これにより,貝類は立体形状のブロック10で保護されながら自然
の状態で増殖する。
【0034】
砂泥入りブロック10を搬送したり水底11に設置する場合に,砂泥入りブロック10内の砂泥8がブロック10内の間隙7から剥落するおそれがある場合などでは,砂泥入りブロック10を容器に入れて搬送したり貯溜するのが好ましい。この容器として,例えば側板と底板とからなり,その底板がスライド式に取外しができるようにしたものであると,砂泥入りブロック10を入れた容器ごと水底11に設置したうえ,その底板をスライドして抜き出し,次いで側板を持ち上げるという順序で,砂泥入りブロック10を水底11に置いたまま容器を
分解して取り去ることができる。
【0035】
水底11において砂泥入りブロック10内で成育した貝類を採取する場合には,この砂泥入りブロック10ごとに陸揚げして,内部の貝類を採取することができ,採取後の砂泥入りブロック10は再利用に供すればよい。また,水底11に設置したままの状態で砂泥入りブロック10から成育した貝類を採取することも可能である。貝類の採取用漁具として,マキが普通に使用されているが,これを用いて砂泥入りブロック10内の貝類を掘り起こしても,本発明のブロック10は十分な強度をもつコンクリート製(モルタル製)であるので,マキに
よって破損するようなことは防止される。
【0036】
図9は,線状体1の表面に凹凸を形成した状態を示している。図9の例では線状体1の表面に軸方向に多数の溝15を並設することにより凹凸を形成してある。この並設溝15は,図3のようにノズル5から植物繊維入り生モルタル3を押し出すさいに,口径内面に凹凸をもった異形ノズルを使用することによって形成することができる。溝15の深さと間隔は保護目的の貝類の種類によって適切に選定するが,アサリのような場合には深さ2〜7mm,ピッチ幅が2〜7mm程度の並設溝15を形成するのがよい。このような溝状凹凸15を設けると,貝類から出る糸状物質(足糸)が付着しやすくなり,流れや堀り起こしによる貝類の流失が効果的に防止できることがわかった。また,線状体1の表面に溝状凹凸15を設けると,ブロック内の植物繊維がその凹凸表面に部分的に露出しやすくなる。この露出した植物繊維が足糸の固定端として機能する。図9において,16はアサリ17から出た足糸
を示している。
【0037】
特許文献3に記載されたブロック(表面が滑らかな線状体からなる)を用いてアサリの養殖を図ってみたが必ずしも良好な成果は得られなかった。本発明の保護基盤でアサリ等
の二枚貝の生息環境を形成する場合,その好ましい形態は次のとおりである。
1.基盤は稚貝用と成貝用に分けられるが,線状体1同士の間の間隙7は貝殻の全長(最大長)に対して,いずれも1.5〜3倍程度とするのがよい。砂泥8を装填する深さも貝殻の全長の少なくとも2〜3倍を必要とする。線状体1の層は3層以上とし,その多層によって全体の重量を確保することで,水底11中での移動を防ぐ。また多層内に入った砂泥8や小石等は波や流れによる移動も小さく安定することで,定着した貝類のストレスを低
減する。
2.線状体1の断面形状は丸型でよいが,前記のように貝類の足糸16の付着と,ノズル5から押し出される生モルタル3の表面荒れ(植物繊維を露出させるための荒れ)を促進するために,断面形状が丸鋸の歯型やギヤ歯のようなギザギザをもつ丸型がよい。このものは,前記のように線状体1の軸方向に多数の溝15を並設した状態となる。この表面凹凸15は線状体1同士の間隙7に存在する砂泥8の流失抵抗ともなり,また波や流れに対しても
複雑な小さな渦を生じさせて間隙7に入る水流の影響を小さくする。
3.線状体1の太さは10〜30mm程度で構成し,基盤全体の大きさは人力で運べる一片が50cm以下のものでも,機械搬送用の50cm以上のものでもよい。水底11への設置は,予め固定用ブロックを事前に設け,この固定用ブロックに本発明の保護基盤を固定しておくと保護基盤を経時的に交換するのに手間がかからない。固定用ブロックには当該
基盤を設置する穴や金具を取付けておくのがよい。
4.線状体1の層を多層にする場合,いくつかの層を分離可能にして積層すると,基盤内に生息している貝類の状況を観察しやすいし,回収も容易になる。層を分離可能にして設置する場合には,水中での層間の移動を防止するために固定金具や冶具を用いて各層を固
定するのがよい。
【0038】
図10は,砂泥入りブロック10(本発明の基盤)に棒状体18を林立させた状態を示している。すなわち,線状体1同士の間隙7に存在する砂泥8中に多数本の棒状体18を差し込むことにより,それらの棒状体18が基盤から突出した状態で基盤に突き刺さった形態にしてある。このように棒状体18を基盤に林立させておくと,エイなどの魚類や鳥類を始めとする生物が基盤内の貝類を捕食するのを防止するバリヤーとなる。棒状体18としては竹や木製(例えば使用済割り箸)などの天然材料を使用すると貝類の定着に影響がなく,食害防止に加えて貝類の生息環境向上にも効果がある。最近のアサリ漁獲量減少の要因の一つとして外敵による食害が指摘されている。とくにナルトビエイや放流量が増えているチヌなどの食害生物による被餌が起きているが,このような食害に対して棒状体18の林立は防止機能を果たす。なお,棒状体18を線状体1の表面から突出させて基盤
に林立させるようにすることもできる。
【0039】
図11(A)は,線状体1同士の間に間隙7が形成されている立体形状のブロック2と砂泥8とを,上面が開口した容器19内に収容することによって本発明の保護基盤を形成した例を示している。容器19の底部および/または側部は,砂泥8が流出し難いが通水性を有する材料(例えば網目状のプラスチック)を用いて構成してあり,この容器19内に収容するブロック2は,線状体1の層が2層以上とするが,その厚さは,代表的には30mm±20mm程度である。この線状体1の層を容器19内に収容するにあたっては,図示のように,容器19に先ず砂泥8を装填したあと,その砂泥8の表面をほぼ覆うようにブロック2を載置し,このブロック2の線状体1同士の間隙7に砂泥8を装填する。したがって,容器19の底近くには砂泥8の下層(約150mm±50mm程度)があり,その上に線状体1と砂泥8からなる上層(30mm±20mm程度)が存在することにな
る。
【0040】
図11(B)は,水底11が砂泥質以外の例えば岩盤やコンクリート基板等である場合に,この硬質の水底11に対して本発明の保護基板を設置する例を示している。この場合には,取外し可能な底部をもつ容器19を使用し,設置時にその底部を取り外すことにより,設置状態での容器19は図示のように側部の枠体だけにし,水底11と容器19の下
部や側部との間隙には砂泥8などを埋める。
図11(A)および(B)において,20は容器19の側部内側に設けたブロック支持部を示している。この支持部20は,ブロック2が容器19内に沈下するのを防止するストッパーの役割を果たし,図示のように突起状のものを容器内側に取付けることのほか,側部内側で略水平に架設された棹状とすることができる。この場合,貝類の生息を妨げ内
間隔で設置するのが望ましい。
【0041】
図11の態様に示したように,本発明によれば,植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートの線状体からなるブロックであって,該線状体同士が部分的に結着し且つ該線状体同士の間に間隙が形成されている立体形状のブロックと,該ブロックの前記間隙に装填された砂泥分と,該ブロックおよび砂泥分を収容する通水性容器とからなる貝類の保護
基盤を提供する。
【0042】
本発明に従う立体形状のブロックを作るための,代表的な植物繊維入り生モルタルの材
料配合例を挙げると,例えば,
低pHセメント(商品名マグホワイト):500Kg/m3±50Kg/m3
黒土 :500Kg/m3±50Kg/m3
砂 :400Kg/m3±40Kg/m3
水 :420Kg/m3±40Kg/m3
植物繊維(綿の場合) :20Kg/m3±5Kg/m3
混和剤として,
ソイルセメント用混和剤(商品名レオソイル100A):5Kg/m3±1Kg/m3
ソイルセメント用混和剤(商品名レオソイル100B):3Kg/m3±1Kg/m3
を例示できる。これによって例えば気乾比重=1.5±0.2,湿潤比重=2.1±0.2の硬化体とすることができる。この硬化体(立体形状のブロックを構成するための線状体)は,例えば圧縮強度300kgf/cm2 ±50kg/m3,曲げ強度45kgf/cm2 ±10kg/m
3で,単位吸水率が30%±10%程度の保水性を示す硬化体となる。
【0043】
以上説明したように,本発明によると,貝類の生息が可能な空隙をもつセメント系硬化体ブロックが得られ,このブロックは通常のコンクリートブロックと同様の強度を有しながら高い保水性を有し,且つ貝類の生息に適した砂泥が装填される間隙を有するので,自然に近い砂泥環境で二枚貝や巻貝を保護下で成育させることができ,これによって,貝類
の資源回復を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明に従う立体形状のブロックの一例を示す略平面図である。
【図2】図1のX−Y矢視断面図である。
【図3】本発明に従う植物繊維入り生モルタルの線状体を型枠内に装填する例を示す略図である。
【図4】立体形状のブロックの空隙に砂泥を装填する状態を示す略断面図である。
【図5】本発明に従う砂泥入りブロックを水底に設置した状態を示す略断面図である。
【図6】水底に設置した砂泥入りブロックに親貝または成貝を定着させる状態を示す略断面図である。
【図7】水槽に設置した砂泥入りブロックに稚貝を定着させる状態を示す略断面図である。
【図8】稚貝を内包している砂泥入りブロックを水槽から水底に移す状態を示す工程説明図である。
【図9】表面に並設溝を形成した線状体の例を示す斜視図である。
【図10】基盤に棒状体を林立させた例を示す略断面図である。
【図11】本発明の保護基盤の他の例を示す略断面図である。
【符号の説明】
【0045】
1 植物繊維配合のセメント系硬化体からなる線状体
2 立体形状のブロック
3 植物繊維入り生モルタル
4 グラウトポンプ
5 ノズル
6 型枠
7 線状体同士の間の間隙
8 砂泥
9 容器
10 砂泥入りブロック
11 水底
12 親貝または成貝
13 水槽
14 稚貝
15 線状体表面の並設溝(凹凸)
16 貝類の糸状物質(足糸)
17 アサリ
18 棒状体
19 通水性容器
20 支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートの線状体からなるブロックであって,該線状体同士が部分的に結着し且つ該線状体同士の間に間隙が形成されている立体形状の
ブロックと,該ブロックの前記間隙に装填された砂泥分とからなる貝類の保護基盤。
【請求項2】
植物繊維の配合量が10Kg/m3以上で,線状体の径が5〜100mmである請求項
1に記載の貝類の保護基盤。
【請求項3】
モルタルまたはコンクリートは,MgOおよびP25を主成分とする低pHセメント
を結合材としたものである請求項1または2に記載の貝類の保護基盤。
【請求項4】
線状体は,その表面に凹凸を有している請求項1ないし3のいずれかに記載の貝類の保
護基盤。
【請求項5】
線状体の表面の凹凸は,線状体軸方向に並設された多数の溝によって形成されている請
求項4に記載の貝類の保護基盤。
【請求項6】
多数本の棒状体が基盤から突出している請求項1ないし5のいずれかに記載の貝類の保
護基盤。
【請求項7】
植物繊維を配合したモルタルまたはコンクリートの線状体からなるブロックであって,該線状体同士が部分的に結着し且つ該線状体同士の間に間隙が形成されている立体形状のブロックと,該ブロックの前記間隙に装填された砂泥分と,該ブロックおよび砂泥分を収
容する通水性容器とからなる貝類の保護基盤。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれかに記載の保護基盤を水底に設置し,該基盤の砂泥に貝類を
生息させる貝類の保護・養殖法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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