説明

負圧ブースタのシェル構造

【課題】前部シェル半体における補強壁部及び端壁間の接続部に発生する応力集中を緩和して,前部シェル半体の耐久性を確保しつゝその薄肉,軽量化を図る。
【解決手段】前部シェル半体1aは,その後端側から周壁部51,半径方向内方及び前方に向かって傾斜する端壁部52及び,ブースタシェル1の軸線Y1に直交する平坦な取り付け座部53を備え,端壁部52及び取り付け座部53間には,その両方に対して角度をなす補強壁部54を形成し,取り付け座部53の座面は,互いに直交する長径L及び短径Sを有する形状をなしており,その長径L上に配置される一対の締結部材6を取り付け座部53に固設したシェル構造において,補強壁部54の端壁部52に対する角度θを,取り付け座部53の正面視で締結部材6の軸線Y2と直交し且つ短径Sに平行する仮想直線A上での角度が長径L及び短径Sの各延長線上での角度より大となるように設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,自動車のブレーキマスタシリンダの倍力作動のために用いられる負圧ブースタに関し,特に,内部に入力杆の操作入力を増幅して出力杆に伝達するブースタピストンを収容するブースタシェルを,車体に固着される後部シェル半体と,この後部シェル半体に結合され前部シェル半体とで構成し,その前部シェル半体は,その後端側から周壁部と,この周壁部の前端から半径方向内方及び前方に向かって傾斜して延びる端壁部と,この端壁部の内周側に連なり,ブースタシェルの軸線に直交する方向に延びる平坦な取り付け座部とを備えており,前記端壁部及び取り付け座部間には,これら端壁部及び取り付け座部の両方に対して角度をなして取り付け座部の剛性を強化する補強壁部を形成し,前記取り付け座部の座面は,互いに直交する長径及び短径を有する形状をなしており,その長径上に前記軸線を挟んで配置される一対の締結ボルトを前記取り付け座部に固設し,これら締結ボルトによりブースタピストンにより前進駆動されるマスタシリンダの取り付けフランジを前記端壁部に締結するようにした負圧ブースタのシェル構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
かゝる負圧ブースタのシェル構造は,特許文献1に開示されるように既に知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3759451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図6は特許文献1に開示される負圧ブースタの正面図,図7は図6の7−7線断面図である。これら図面より明らかなように,従来の負圧ブースタBのシェル1の前部シェル半体1aは,周壁部51と,この周壁部51の前端から半径方向内方及び前方に向かって傾斜して延びる端壁部52と,この端壁部52の内周側に連なり,ブースタシェル1の軸線Y1に直交する方向に延びる平坦な取り付け座部53とで構成され,端壁部52及び取り付け座部53間には,これら端壁部52及び取り付け座部53の両方に対して角度をなして取り付け座部53の剛性を強化する補強壁部54が形成され,取り付け座部53の座面は,前記軸線Y1を交点として互いに直交する長径L及び短径Sを有する形状をなしており,その長径L上に前記軸線Y1を挟んで配置される一対の締結ボルト6,6が取り付け座部53に固設され,これら締結ボルト6,6によりブースタピストン4によりマスタピストンMbが前進駆動されるマスタシリンダMの取り付けフランジ45が取り付け座部53に締結するようになっており,補強壁部54各部の高さを,取り付け座部53の正面視で前記短径S側から長径L側に向かって増加させている。
【0005】
このような補強壁部54は,取り付け座部53の剛性を,特に締結ボルト6,6の周辺で強化して,取り付け座部53に対するマスタシリンダの取り付けフランジの締結を強固にすることができると共に,負圧ブースタの作動時,締結ボルト6,6から遠く離れた取り付け座部53の短径S周辺部で無用な応力が発生することを極力回避することを狙ったものでる。
【0006】
ところで,昨今,自動車における燃費低減の要求が一層強くなり,自動車各部の軽量化を図る必要があり,負圧ブースもその例外ではない。そこで,ブースタシェルの軽量化のために,前部シェル半体1aの肉厚を減少させると,従来の前部シェル半体では,取り付け座部53の正面視で締結ボルト6,6の軸線Y2と直交し且つ前記短径Sに平行する仮想直線A及びその近傍における端壁部52と補強壁部54との接続部に大なる集中応力が発生し,前部シェル半体の耐久性を損なう虞があることを本発明者は究明した。
【0007】
本発明は,かゝる事情に鑑みてなされたもので,前部シェル半体における補強壁部及び端壁間の接続部に発生する応力集中を緩和して,前部シェル半体の耐久性を確保しつゝその薄肉,軽量化に寄与し得る負圧ブースタのシェル構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために,本発明は,内部に入力杆の操作入力を増幅して出力杆に伝達するブースタピストンを収容するブースタシェルを,車体に固着される後部シェル半体と,この後部シェル半体に結合され前部シェル半体とで構成し,その前部シェル半体は,その後端側から周壁部と,この周壁部の前端から半径方向内方及び前方に向かって傾斜して延びる端壁部と,この端壁部の内周側に連なり,ブースタシェルの軸線に直交する方向に延びる平坦な取り付け座部とを備えており,前記端壁部及び取り付け座部間には,これら端壁部及び取り付け座部の両方に対して角度をなして取り付け座部の剛性を強化する補強壁部を形成し,前記取り付け座部の座面は,互いに直交する長径及び短径を有する形状をなしており,その長径上に前記軸線を挟んで配置される一対の締結部材を前記取り付け座部に固設し,これら締結部材によりブースタピストンにより前進駆動されるマスタシリンダの取り付けフランジを前記端壁部に締結するようにした負圧ブースタのシェル構造において,前記補強壁部の前記端壁部に対する前部シェル半体外面側の角度を,前記取り付け座部の正面視で前記締結部材の軸線と直交し且つ前記短径に平行する仮想直線上での角度が前記長径及び短径の各延長線上での角度より大となるように設定したことを特徴とする。尚,前記締結部材は,後述する本発明の実施例中の締結ボルト6に対応する。
【0009】
また本発明は,第1の特徴に加えて,前記補強壁部各部の前記端壁部に対する前部シェル半体外面側の角度を,前記取り付け座部の正面視で前記長径及び短径側から,前記締結部材の軸線と直交し且つ前記短径に平行する仮想直線に近づくにつれて増加させたことを第2の特徴とする。
【0010】
さらに本発明は,第1又は2の特徴に加えて,前記補強壁部及び前記端壁部を連続した一壁面状に形成して前記仮想直線上での前記角度を略180°としたことを第3の特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の特徴によれば,前記補強壁部の前記端壁部に対する前部シェル半体外面側の角度を,前記取り付け座部の正面視で前記締結部材の軸線と直交し且つ前記短径に平行する仮想直線上での角度が前記長径及び短径の各延長線上での角度より大となるように設定したことで,前記仮想直線上での端壁部と補強壁部との接続部が,前記長径及び短径の各延長線上での端壁部と補強壁部との接続部よりも締結部材から遠ざかることになり,したがって上記接続部に発生する応力を周囲に分散させて集中応力の発生を回避し,前部シェル半体の耐久性を確保しつゝ,前部シェル半体の薄肉化,延いては軽量化を図ることができる。
【0012】
本発明の第2の特徴によれば,前記補強壁部各部の前記端壁部に対する前部シェル半体外面側の角度を,前記取り付け座部の正面視で前記長径及び短径側から,前記締結部材の軸線と直交し且つ前記短径に平行する仮想直線に近づくにつれて増加させたことで,前記仮想直線及びその近傍における端壁部と補強壁部との接続部が締結部材から徐々に遠ざかることになり,したがって上記接続部に発生する応力を周囲により効果的に分散させて集中応力の発生を回避することができる。
【0013】
本発明の第3の特徴によれば,前記補強壁部及び前記端壁部を連続した一壁面状に形成して前記仮想直線上での前記角度を略180°としたことで,補強壁部の取り付け座部に対する補強効果を極力維持しつゝ,前記仮想直線及びその近傍における端壁部と補強壁部との接続部での応力分散効果を最も効果的なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係る負圧ブースタの縦断面図。
【図2】図1中の前部シェル半体の斜視図。
【図3】上記前部シェル半体の正面図。
【図4】図3の4−4線断面図。
【図5】図3の5−5線断面図。
【図6】従来の負圧ブースタの正面図。
【図7】図6の7−7線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を,添付図面に示す本発明の好適な実施例に基づいて説明する。
【0016】
先ず,図1において,負圧ブースタBのブースタシェル1は,対向端を相互に結合する椀状の前部シェル半体1a及び後部シェル半体1bより構成される。これら前部シェル半体1a及び後部シェル半体1bは鋼板製であり,後部シェル半体1bは,自動車の車体Fに一対の締結ボルト7(図1には1本のみを示す。)により固着され,前部シェル半体1aにブレーキマスタシリンダMのシリンダボディMaの取り付けフランジ45が一対の締結ボルト6(図1には1本のみを示す。)により締結される。上記締結ボルト6,7は,後部シェル半体1b及び前部シェル半体1aにそれぞれかしめて固設される。
【0017】
ブースタシェル1の内部は,それに前後往復動可能に収容されるブースタピストン4と,その後面に重ねて結着されると共に両シェル半体1a,1b間に挟止されるダイヤフラム5とにより,前側の負圧室2と後側の作動室3とに区画される。負圧室2は,負圧導入管14を介して負圧源V(例えば内燃機関の吸気マニホールド内部)と接続される。
【0018】
ブースタピストン4は鋼板により環状に成形されており,このブースタピストン4及びダイヤフラム5の中心部に合成樹脂製の弁筒10が一体的に結合される。この弁筒10は,後部シェル半体1bの中心部に後方へ突設された支持筒部12に軸受部材9及びシール部材13を介して摺動自在に支承される。
【0019】
弁筒10内には,弁ピストン18,この弁ピストン18に連結する入力杆20,及びこの入力杆20の前後動に応じて作動室3を負圧室2と大気とに連通切換えする制御弁38とが配設される。入力杆20の後端には,これを操作するブレーキペダルPが連結される。
【0020】
弁ピストン18は,弁筒10に設けられたガイド孔11に摺動自在に嵌合されるもので,その前端には頸部18aを介して反力ピストン17が,また後端にはフランジ状の大気導入弁座31がそれぞれ形成される。その大気導入弁座31を囲繞するように同心配置される環状の負圧導入弁座30が弁筒10に形成される。
【0021】
弁ピストン18には,入力杆20がボールジョイント20aを介して首振り可能に連結される。
【0022】
また弁筒10には,前記負圧導入弁座30及び大気導入弁座31と協働する環状の弁部34aを有する伸縮可能な筒状の弁体34が弁ホルダ35により取り付けられる。この弁体34は全体がゴム等の弾性材で成形されている。弁部34aは大気導入弁座31及び負圧導入弁座30に着座可能に対向して配置される。この弁部34aと入力杆20との間には,弁部34aを両弁座30,31との着座方向へ付勢する弁ばね36が縮設される。而して,上記負圧導入弁座30,大気導入弁座31,弁体34及び弁ばね36によって制御弁38が構成される。
【0023】
弁ホルダ35と入力杆20との間には入力戻しばね41が縮設され,これによって入力杆20は後退方向へ付勢され,一方,弁ホルダ35は弁筒10内の固定位置に保持される。
【0024】
弁筒10には第1及び第2ポート28,29が設けられる。第1ポート28は,一端が負圧室2に,他端が負圧導入弁座30の外周部に開口するように形成され,第2ポート29は,一端が作動室3に,他端が負圧導入弁座30及び大気導入弁座31間に開口するように形成される。
【0025】
前記支持筒部12の後端と入力杆20とに,弁筒10を被覆する伸縮可能のブーツ40の両端が取り付けられ,このブーツ40の後端部に,前記弁体34の内側に連通する大気導入口39が設けられる。この大気導入口39に流入する空気を濾過するフィルタ42が入力杆20の外周面と弁筒10の内周面との間に介裝される。このフィルタ42は,入力杆20及び弁筒10の相対移動を阻害しないよう,柔軟性を有する。
【0026】
また弁筒10には,前記支持筒部12に設けられたストッパ壁19の前面に当接してブースタピストン4及び入力杆20の後退限を規定するキー32が一定距離の範囲で軸方向移動可能に取り付けられる。
【0027】
さらにまた弁筒10には,前方に突出する作動ピストン15と,この作動ピストン15の中心部を貫通する小径シリンダ孔16とが設けられ,この小径シリンダ孔16に前記反力ピストン17が摺動自在に嵌合される。作動ピストン15の外周にはカップ体21が摺動自在に嵌合され,このカップ体21には作動ピストン15及び反力ピストン17に対向する偏平な弾性ピストン22が充填される。その際,反力ピストン17及び弾性ピストン22間には,負圧ブースタBの非作動時に一定の間隙ができるようになっている。
【0028】
カップ体21の前面には出力杆25が連設される。したがって,出力杆25は,カップ体21を介して弁筒10に摺動可能に支持されることになる。この出力杆25は,前部シェル半体1aの中心部に設けられる開口部33を貫く前記ブレーキマスタシリンダMのマスタピストンMbの後端部に連接される。
【0029】
以上において,作動ピストン15,反力ピストン17,弾性ピストン22及びカップ体21は,出力杆25の出力の一部を入力杆20にフィードバックする反力機構24を構成する。
【0030】
カップ体21及び弁筒10の前端面にリテーナ26が当接するように配設され,このリテーナ26とブースタシェル1の前壁との間にブースタピストン4及び弁筒10を後退方向へ付勢するブースタ戻しばね27が縮設される。
【0031】
次に,ブースタシェル1の前部シェル半体1aと,それに対するブレーキマスタシリンダMの取り付け構造について説明する。
【0032】
図2〜図5において,前部シェル半体1aは,その後端側から段付きの連結筒部50,この連結筒部50の前端に連なる周壁部51,この周壁部51の前端から半径方向内方及び前方に向かって傾斜して延びる端壁部52と,この端壁部52の内周側に連なり,ブースタシェル1の軸線Y1に直交する方向に延びる平坦な取り付け座部53とを備える。上記連結筒部50は,後部シェル半体1bの前端部と連結しながら,その間に前記ダイヤフラム5の外周部を挟持する(図1参照)。
【0033】
図3に明示するように,上記取り付け座部53の座面は,前記軸線Y1を交点として互いに直交する長径L及び短径Sを有する形状,例えば略楕円もしくは略菱形の形状をなしており,前記一対の締結ボルト6,6は,その長径Lに沿う取り付け座部53の両端部に固設される。また前記負圧導入管14は,端壁部52の適所に溶接等により取り付けられる。
【0034】
図2,図4及び図5に示すように,上記端壁部52及び取り付け座部53間には,これら端壁部52及び取り付け座部53の両方に対して角度をなして取り付け座部53の剛性を強化する補強壁部54が形成される。
【0035】
こゝで,補強壁部54の前記端壁部52に対する前部シェル半体1a外面側の角度θは,取り付け座部53の正面視(図3参照)で,前記締結ボルト6,6の軸線Y2と直交し且つ取り付け座部53の短径Sに平行する仮想直線A上での角度が角度θが,前記長径L及び短径Sの各延長線上での角度(例えば,160°〜170°)よりも大となるように設定される。
【0036】
望ましくは,補強壁部54の前記端壁部52に対する前部シェル半体1a外面側の角度θは,取り付け座部53の長径L及び短径S側から,前記仮想直線Aに近づくにつれて増加するように設定される。
【0037】
さらに望ましくは,前記角度θは,前記平面視で前記仮想直線Aを中間部に置く一定の領域α(例えばα≒30°,β≒15°)で略180°に設定される。換言すれば,補強壁部54と端壁部52とは,前記領域αでは連続した一壁面状に形成される。
【0038】
さらに前部シェル半体1aには,取り付け座部53の中心部にあってブースタシェル1の内方に凹入する円筒状の位置決め凹部55が形成され,この位置決め凹部55の底壁中心部に前記開口部33が設けられる。
【0039】
一方,ブレーキマスタシリンダMのシリンダボディMaの後端部には,前記取り付け座部53の座面に重ねられる取り付けフランジ45と,この取り付けフランジ45の後端面から突出して前記位置決め凹部55に嵌合される位置決め筒部46とが形成され,取り付けフランジ45には,前記一対の締結ボルト6,6が挿通される一対のボルト孔47,47が穿設される。
【0040】
而して,ブレーキマスタシリンダMのマスタピストンMbを開口部33からブースタシェル1内に突入させ,位置決め位置決め筒部46を,その端面に重なるシール部材56と共に位置決め凹部55に嵌装し,ボルト孔47,47に締結ボルト6,6を挿通させつゝ取り付けフランジ45を取り付け座部53の座面に重ね,上記締結ボルト6,6にナット57,57を螺合緊締することにより,取り付けフランジ45は取り付け座部53に締結され,位置決め凹部55及び位置決め筒部46の嵌合によりブレーキマスタシリンダMは,ブースタシェル1の軸線Y1上に配置される。
【0041】
図示例では,前記周壁部51は,連結筒部50に連なる円筒部51aと,この円筒部51aの前端に連なり,前方に向かって小径となる截頭円錐部51bとで構成される。また前記端壁部52も,前方に向かって小径となる截頭円錐状に形成されるが,この截頭円錐状の端壁部52の前記軸線Y1に対する角度よりも前記截頭円錐部51bの前記軸線Y1に対する角度は小さく設定される。
【0042】
次に,この実施例の作用について説明する。
【0043】
負圧ブースタBの休止状態では,弁筒10に取り付けられたキー32が後部シェル半体1bのストッパ壁19前面に当接し,このキー32に反力ピストン17の後端面が当接することにより,ブースタピストン4及び入力杆20が後退限に位置している。このとき,大気導入弁座31は弁体34の弁部34aに密着しながら,この弁部34aを押圧して負圧導入弁座30から僅かに離座させている。これによって大気導入口39及び第2ポート29間の連通が遮断される一方,第1及び第2ポート28,29間が連通され,したがって負圧室2の負圧が両ポート28,29を通して作動室3に伝達し,両室2,3は同圧となっているため,ブースタピストン4及び弁筒10はブースタ戻しばね27の付勢力により後退位置に保持される。
【0044】
いま,車両を制動すべくブレーキペダルPを踏み込むことにより,入力戻しばね41のセット荷重に抗して入力杆20を弁ピストン18と共に前進させると,弁ばね36の付勢力が弁部34aを負圧導入弁座30に着座させると同時に,大気導入弁座31が弁体34から離れ,これにより第1及び第2ポート28,29間の連通が遮断されると共に,第2ポート29が弁体34の内側を通して大気導入口39と連通される。
【0045】
その結果,大気導入口39から弁筒10内に流入した大気が大気導入弁座31を通過し,第2ポート29を経て作動室3に導入され,作動室3を負圧室2より高圧にするので,それらの気圧差に基づく前方推力を得てブースタピストン4は,弁筒10,作動ピストン15,弾性ピストン22,カップ体21及び出力杆25を伴いながらブースタ戻しばね27の力に抗して前進する。こうして,入力杆20の操作入力は増幅されて出力杆25に伝達され,マスタピストンMbを倍力作動することができる。
【0046】
このとき,ブースタシェル1の後部シェル半体1bは,締結ボルト5を介して車体Fに固着されている一方,出力杆25のマスタピストンMbに対する前向きの駆動推力が,シリンダボディMaの取り付けフランジ45から締結ボルト6,6を介して前部シェル半体1aの取り付け座部53に作用するため,ブースタシェル1には,その軸線Y1に沿って大なる引っ張り荷重が加わることになる。
【0047】
ところで,前部シェル半体1aの取り付け座部53及び端壁部52間には,その両方に対して角度をなす補強壁部54が形成されるので,その補強壁部54により取り付け座部53の剛性が強化され,前記引っ張り荷重に抗して,取り付け座部53と取り付けフランジ45との強固な締結状態を確保することができる。
【0048】
しかも,補強壁部54の前記端壁部52に対する前部シェル半体1a外面側の角度θは,取り付け座部53の正面視で,前記締結ボルト6,6の軸線Y2と直交し且つ取り付け座部53の短径Sに平行する仮想直線A上での角度が,前記長径L及び短径Sの各延長線上での角度(例えば,160°〜170°)よりも大となるように設定されるので,前記仮想直線A上での端壁部52と補強壁部54との接続部が,前記長径L及び短径Sの各延長線上での端壁部52と補強壁部54との接続部よりも締結ボルト6,6から遠ざかることになり,したがって上記接続部に発生する応力を周囲に分散させて集中応力の発生を回避し,前部シェル半体1aの耐久性を確保しつゝ,前部シェル半体1aの薄肉化,延いては軽量化を図ることができる。
【0049】
その際,補強壁部54の端壁部52に対する前部シェル半体1a外面側の角度θを,取り付け座部53の正面視でその長径L及び短径S側から,締結ボルト6,6の軸線Y2と直交し且つ短径Sに平行する仮想直線Aに近づくにつれて増加するように設定すれば,前記仮想直線A及びその近傍における端壁部52と補強壁部54との接続部Cが締結ボルト6,6から徐々に遠ざかることになるので,上記接続部Cに発生する応力を周囲に分散させて集中応力の発生をより効果的に回避することができる。
【0050】
また,図示例のように,補強壁部54及び前記端壁部52を連続した一壁面状に形成して前記仮想直線A上での前記角度θを略180°に設定すれば,補強壁部54の取り付け座部53に対する補強効果を極力維持しつゝ,前記接続部Cでの応力分散効果を最も効果的なものとすることができる。
【0051】
本発明は,上記実施例に限定されるものではなく,その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。例えば,前記締結ボルト6に代えて,ナットを取り付け座部53に埋設,固定することもできる。また前部シェル半体1aの周壁部51は,截頭円錐部51bが無い単純な円筒状に形成することもできる。
【符号の説明】
【0052】
A・・・・仮想直線
B・・・・負圧ブースタ
F・・・・車体
M・・・・マスタシリンダ(ブレーキマスタシリンダ)
Y1・・・ブースタシェル1の軸線
Y2・・・締結部材6(締結ボルト)の軸線
θ・・・・補強壁部54の端壁部52に対する前部シェル半体外面側の角度
1・・・・ブースタシェル
1a・・・前部シェル半体
1b・・・後部シェル半体
2・・・・負圧室
3・・・・作動室
4・・・・ブースタピストン
6・・・・締結部材(締結ボルト)
10・・・弁筒
20・・・入力杆
25・・・出力杆
45・・・取り付けフランジ
51・・・周壁部
52・・・端壁部
53・・・取り付け座部
54・・・補強壁部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に入力杆(20)の操作入力を増幅して出力杆(25)に伝達するブースタピストン(4)を収容するブースタシェル(1)を,車体(F)に固着される後部シェル半体(1b)と,この後部シェル半体(1b)に結合され前部シェル半体(1a)とで構成し,その前部シェル半体(1a)は,その後端側から周壁部(51)と,この周壁部(51)の前端から半径方向内方及び前方に向かって傾斜して延びる端壁部(52)と,この端壁部(52)の内周側に連なり,ブースタシェル(1)の軸線(Y1)に直交する方向に延びる平坦な取り付け座部(53)とを備えており,前記端壁部(52)及び取り付け座部(53)間には,これら端壁部(52)及び取り付け座部(53)の両方に対して角度をなして取り付け座部(53)の剛性を強化する補強壁部(54)を形成し,前記取り付け座部(53)の座面は,互いに直交する長径(L)及び短径(S)を有する形状をなしており,その長径(L)上に前記軸線(Y1)を挟んで配置される一対の締結部材(6)を前記取り付け座部(53)に固設し,これら締結部材(6)によりブースタピストン(4)により前進駆動されるマスタシリンダ(M)の取り付けフランジ(45)を前記端壁部(52)に締結するようにした負圧ブースタのシェル構造において,
前記補強壁部(54)の前記端壁部(52)に対する前部シェル半体(1a)外面側の角度(θ)を,前記取り付け座部(53)の正面視で前記締結部材(6)の軸線(Y2)と直交し且つ前記短径(S)に平行する仮想直線(A)上での角度が前記長径(L)及び短径(S)の各延長線上での角度より大となるように設定したことを特徴とする負圧ブースタのシェル構造。
【請求項2】
請求項1記載の負圧ブースタのシェル構造において,
前記補強壁部(54)各部の前記端壁部(52)に対する前部シェル半体(1a)外面側の角度(θ)を,前記取り付け座部(53)の正面視で前記長径(L)及び短径(S)側から,前記締結部材(6)の軸線(Y2)と直交し且つ前記短径(S)に平行する仮想直線(A)に近づくにつれて増加させたことを特徴とする負圧ブースタのシェル構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載の負圧ブースタのシェル構造において,
前記補強壁部(54)及び前記端壁部(52)を連続した一壁面状に形成して前記仮想直線(A)上での前記角度(θ)を略180°としたことを特徴とする負圧ブースタのシェル構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−143735(P2011−143735A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3674(P2010−3674)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【Fターム(参考)】