説明

負圧倍力装置およびこれを用いたブレーキ倍力装置

【課題】アシスト作動の長期にわたる繰り返しによる筒状部材の摩耗を筒状部材の内周側と外周側の間でほぼ均一にして、長期にわたって作動アシスト機構の作動を確実に行う。
【解決手段】通常ブレーキ非作動時、筒状部材保持部材35の一対の直線係止部35b,
35cの係止面35f,35gに、BA筒状部材33の係止部の係止面33h1,33h1′が面接触で係止する。このとき、係止面35f,35gのそれらの移動方向の長さが、係
止面33h1,33h1′の同方向の長さより小さく設定されている。これにより、BA作
動時での直線係止部35b,35cの摺擦移動中、係止面33h1,33h1′と係止面35f,35gとの接触面積が一定であるから、これらの係止面の間の面圧もほぼ一定となる
。したがって、BA作動の長期にわたる繰り返しによるBA筒状部材33の係止部の摩耗がBA筒状部材33の内周側と外周側の間でほぼ均一となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動アシスト時(緊急ブレーキ作動時)に、通常作動時と同じ入力(ブレーキ操作力)で通常作動時より大きな出力(ブレーキ力)を得ることのできる負圧倍力装置およびこれを用いたブレーキ倍力装置の技術分野に関するものである。なお、本特許請求の範囲および明細書の記載では、「前方」は入力により入力軸が進む方向(つまり作動方向)を言い、また「後方」は入力の消滅により入力軸が戻る方向を言う。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車等の自動車のブレーキシステムにおいては、ブレーキ倍力装置に負圧を利用した負圧倍力装置が用いられている。このような従来の一般的な負圧倍力装置では、ブレーキペダルの通常の踏み込みによる通常ブレーキ作動時に入力軸が前進すると、この入力軸に連結されているバルブプランジャーも前進し、バルブボディに配設されている制御弁の弁体が同じくバルブボディに形成された真空弁座に着座して真空弁が閉じるとともに、バルブプランジャーに形成された大気弁座が制御弁の弁体から離れて大気弁が開き、非作動時に負圧が導入されている変圧室が常時負圧が導入されている定圧室から遮断されかつ大気に連通される。すると、大気が開いた大気弁を通って変圧室に導入され、変圧室と定圧室との間に差圧が生じてパワーピストンが前進するので、バルブボディおよび出力軸が前進して、負圧倍力装置が入力軸の入力(つまり、ペダル踏力)を所定のサーボ比で倍力して出力する。この負圧倍力装置の出力により、マスタシリンダのピストンが前進して、マスタシリンダがマスタシリンダ圧を発生し、このマスタシリンダ圧でホイールシリンダが作動して通常ブレーキが作動する。
【0003】
このとき一般に、負圧倍力装置は、入力が小さいときは出力軸からの反力が入力軸に伝達されず、入力がある程度大きくて反力機構により反力が入力軸に伝達されたときは実質的に所定の出力を発生するという、いわゆるジャンピング(JP)特性を有する入出力特性を有している。
【0004】
ところで、ブレーキシステムにおいては、緊急ブレーキ時に、ブレーキペダルの踏み込み開始から通常ブレーキ作動時よりは迅速にかつ大きな所望のブレーキ力を発生させることが必要な場合がある。そこで、ブレーキシステムに用いられる負圧倍力装置として、小さなペダル踏力で大きなブレーキ力を迅速に発生させるブレーキアシスト(以下、BAともいう)制御を行うためのBA機構、つまり作動アシスト機構を備えた負圧倍力装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
この特許文献1に開示の負圧倍力装置では、バルブボディに、真空弁座を有する筒状部材を相対摺動可能に設けるとともにこの筒状部材をばねで常時大気弁が開く方向に付勢し、更に通常時(BA非作動時)は筒状部材を筒状部材保持部材で非作動位置に保持している。そして、通常速度より踏込み速度が速い急激なペダル踏込みで、バルブプランジャーが通常時より速い速度で前進して筒状部材保持部材による筒状部材の保持を解除することにより、ばねで筒状部材を大気弁が開く方向に移動させて大気弁を通常時より大きく開弁する。これにより、負圧倍力装置のジャンピング量が通常時より増大して出力が迅速に増大する。こうして、緊急ブレーキ時のBA制御が行われる。
【0006】
特許文献1に開示の負圧倍力装置におけるBA機構は、通常時に筒状部材を非作動位置に保持する筒状部材保持部材を備えている。この筒状部材保持部材は横断面矩形で全体がほぼU字状のクリップで構成されている。そして、図8(a)に示すように、U字状のクリップaの一対の直線部a1(図(a)には一方の直線部のみ図示)の前面a2が筒状部材
bの係止凹部b1に組み付けられる。筒状部材bは図示しないBAばねのばね力fbで常時後方に付勢されている。したがって、通常時はこのばね力fbでクリップaの直線部a1の前面a2が、筒状部材bの係止凹部b1の前端面を構成する係止部b2の係止面b3に面接触で係止されて、筒状部材bが非作動位置に保持される。この係止部b2の係止面b3は筒状部材bの軸方向と直交する面内に形成される。
【0007】
なお、図8(a)には、クリップaの一対の直線部の一方の直線部a1のみが示されて
いるが、クリップaの一対の直線部の他方の直線部は、一対の直線部の一方の直線部a1
と筒状部材bの中心軸線に関し図8(a)において上下に線対称に設けられかつ上下線に対称に作用することが異なるだけで、一対の直線部の一方の直線部a1と実質的に同じで
ある。したがって、以後の従来例および本発明の実施の形態の説明においては、筒状部材の中心軸線に関しこのように上下線対称に設けられかつ上下線対称に作用することが異なるだけで、他は実質的に同じである一対の構成要素の場合には、一方の構成要素について説明し、他方の説明は省略する。
【0008】
U字状のクリップaの一対の直線部がクリップ自体の弾性力faに抗して互いに若干離
間した(拡開した)状態で筒状部材bに組み付けられている。したがって、クリップaの一対の直線部は、組み付け状態では弾性力faで互いに接近する方向(縮閉方向)に付勢
されており、図8(a)に示すように通常時は直線部a1の内側面a3(他方の直線部と対向する面)が、係止凹部b1の底部に当接している。
【0009】
また、緊急ブレーキ操作でバルブプランジャーが通常時より速い速度で前進したときには、バルブプランジャー(不図示)がクリップaの一対の直線部を弾性力faに抗して拡
開方向cに開く。これにより、図8(b)に示すように直線部a1が係止部b2の外周面b4の方へ移動する。そして、直線部a1の内側面a3が係止部b2の外周面b4より外方(図
8(b)において上方)へ移動すると、このクリップaと筒状部材bの係止部b2との係
止が解除される。すると、筒状部材bがBA制御ばねのばね力fbで大気弁が開く後方(
図8(a)において右方)に移動するようになっている。これにより、BA作動が行われる。
【特許文献1】特表2005−538839号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、特許文献1に開示のBA機構では、図8(a)に示すように通常時は直線部a1はその内側面a3が係止凹部b1の底部に当接する位置にあるため、係止部b2の係止
面b3と直線部a1の前面a2とは最大接触面積で当接している。一方、図8(b)に示すようにBA作動時は直線部a1の内側面a3が係止部b2の外周面b4の方へ移動するにつれて、係止部b2の係止面b3と直線部a1の前面a2との接触面積は次第に小さくなる。す
ると、係止部b2の係止面b3が直線部a1の前面a2にBAばねの一定のばね力fbで常時圧接されているから、図8(a)に示す通常時は直線部a1の前面a2と係止凹部b1の係
止面b3との面圧は比較的小さいが、図8(b)に示すBA作動開始時の直線部a1の移動に連れて、直線部a1の前面a2と係止凹部b1の係止面b3との面圧が次第に大きくなるように変化する。
【0011】
そして、長期間にわたってBA作動が繰り返されると、クリップaの前面a2と筒状部
材bの係止部b2の係止面b3との間で摩擦が繰り返され、係止面b3が摩耗する。このと
き、前述のように直線部a1の前面a2と係止凹部b1の係止面b3との面圧が直線部a1
移動に連れて変化するため、係止凹部b1の係止面b3の摩耗は係止部b2の外周面b4に近くづくに連れて大きくなり、筒状部材bの内周側と外周側とで不均一となる。このため、図8(c)に実線で示すように係止凹部b1の係止面b3は、この摩耗により内側から外周
側に向かって前方へ傾斜する傾斜面となる。
このように、係止凹部b1の係止面b3が前方へ向かう傾斜面となると、直線部a1の前
面a2が係止凹部b1の係止面b3から外れやすくなることが考えられる。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、アシスト作動の長期にわたる繰り返しによる筒状部材の係止部の摩耗が筒状部材の内周側と外周側の間でほぼ均一になるようにして、長期にわたって作動アシスト機構の作動を確実に行うことのできる負圧倍力装置を提供することである。
本発明の目的は、ブレーキアシスト作動の長期にわたる繰り返しによる筒状部材の係止面の摩耗が筒状部材の内周側と外周側の間でほぼ均一になるようにして、長期にわたってBA機構の作動を確実に行うことのできるブレーキ倍力装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前述の課題を解決するために、請求項1に係る発明の負圧倍力装置は、入力軸と、負圧が導入される定圧室と大気が導入される変圧室とに区画するパワーピストンを支持するバルブボディと、前記入力軸に連結されかつ前記バルブボディ内に摺動自在に配設された弁プランジャと、前記弁プランジャの作動により前記定圧室と前記変圧室との間の連通または遮断を制御する真空弁と、前記弁プランジャの作動により前記変圧室と少なくとも大気との間を遮断または連通を制御する大気弁と、前記入力軸が通常作動時での移動速度より速く移動された時作動して出力を通常時より大きくする作動アシスト機構とを少なくとも備えている負圧倍力装置において、前記大気弁が、弁体に設けられた大気弁部と、前記弁プランジャに設けられかつ前記大気弁部が着離座可能な大気弁座とを有し、前記真空弁が、前記弁体に設けられた真空弁部と、前記真空弁部が着離座可能な真空弁座とを有し、前記真空弁座が前記バルブボディに対して相対移動可能に設けられ、前記真空弁部と前記大気弁部とが一体に移動可能にされており、前記作動アシスト機構が、作動時に前記真空弁座を介して前記真空弁部と前記大気弁部を前記バルブボディに対して後方に所定量移動させる筒状部材と、通常時前記筒状部材を非作動位置に保持しかつ作動時に前記筒状部材の保持を解除して前記筒状部材を作動する筒状部材保持部材とを備えており、前記筒状部材が前記バルブボディに摺動可能に設けられているとともに常時入力側に付勢されており、前記筒状部材保持部材が前記筒状部材の方へ常時付勢されており、前記筒状部材が、前記筒状部材に設けられた係止部が前記筒状部材の軸方向と直交する方向の面に設定された係止面を有し、この筒状部材の係止面が前記筒状部材保持部材の係止面に面接触で係止することで前記非作動位置に保持されるとともに、前記筒状部材保持部材が前記係止部を摺擦移動して前記係止部と前記筒状部材保持部材との係止が解除することで作動されるようになっており、前記筒状部材保持部材の係止面の筒状部材保持部材摺擦移動方向の長さ(L1)が、前記筒状部材の係止部の係止面の同方向の長さ(L2)より小さく設定されており、前記筒状部材保持部材が、前記入力軸が通常作動時での移動速度より速く移動されたとき前記バルブプランジャによって押圧されることで前記筒状部材の係止部との係止を解除することを特徴としている。
また、請求項2の発明に係る負圧倍力装置は、前記筒状部材保持部材の係止面が、前記筒状部材保持部材の作動開始時に摺擦移動方向と反対側の面から直ぐに設けられていることを特徴としている。
【0014】
更に、請求項3に係る発明のブレーキ倍力装置は、ブレーキ操作力を負圧倍力装置で倍力したブレーキ力を出力するブレーキ倍力装置において、前記負圧倍力装置が請求項1または2記載の負圧倍力装置であり、前記作動アシスト機構が、緊急ブレーキ操作時に作動して通常ブレーキ作動時より同じブレーキ操作力で大きなブレーキ力を出力するブレーキアシスト機構であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
このように構成された本発明に係る負圧倍力装置によれば、筒状部材保持部材の係止面の、筒状部材保持部材が移動する方向の長さ(L1)を、この係止面が面接触する筒状部
材の係止部の係止面の同方向の長さ(L2)より小さく設定しているので、係止面が係止
面に線接触する場合よりは面圧を小さくすることができ、しかも、筒状部材の係止面と筒状部材保持部材の係止面との接触面積を、作動アシスト操作時に筒状部材の係止部と筒状部材保持部材との係止解除する直前まで一定またはほぼ一定にすることができる。
【0016】
これにより、アシスト作動時において筒状部材の係止面に対する筒状部材保持部材の摺擦移動中に、筒状部材保持部材の係止面と筒状部材の係止面との間の面圧をほぼ一定にすることができる。その結果、長期にわたるアシスト作動の繰り返しで筒状部材の係止部が摩耗しても、これらの係止部の摩耗は、各係止部の内周側から外周側にわたってほぼ一定にすることができる。したがって、摩耗後の係止部の係止面を、筒状部材の軸方向と直交する面に維持することができる。こうして、筒状部材の係止部が摩耗しても、アシスト非作動時に筒状部材保持部材が対応する係止部から容易に外れることを防止でき、長期にわたって作動アシスト機構の作動を確実に行うことができるようになる。
【0017】
また、本発明に係るブレーキ倍力装置によれば、本発明の負圧倍力装置を用いているので、ブレーキアシスト作動の長期にわたる繰り返しによる筒状部材の係止面の摩耗を筒状部材の内周側と外周側の間でほぼ均一にすることができる。これにより、長期にわたってブレーキアシスト機構の作動を確実に行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を用いて、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は本発明に係る負圧倍力装置の実施の形態の、ブレーキシステムに用いられるブレーキ倍力装置に適用した例を非作動状態で示す断面図、図2は図1における真空弁および大気弁の部分を拡大して示す部分拡大断面図である。なお、以下の説明において、「前」および「後」はそれぞれ各図において「左」および「右」を示す。
【0019】
まず、この例の負圧倍力装置において、特許文献1に記載の従来の負圧倍力装置と同じ構成部分および特許文献1に記載の負圧倍力装置と構成が異なるが、本発明に直接関係しない構成部分について簡単に説明する。図1および図2において、1は負圧倍力装置、2はフロントシェル、3はリヤシェル、4はバルブボディ、5はバルブボディ4に取り付けられたパワーピストン部材6とバルブボディ4および両シェル2,3間に設けられたダイ
ヤフラム7とからなるパワーピストン、8は両シェル2,3内の空間をパワーピストン5
で区画された2つの室の一方で、通常時負圧が導入される定圧室、9は前述の2つの室の他方で、負圧倍力装置1の作動時大気圧が導入される変圧室、10はバルブプランジャー、11は図示しないブレーキペダルに連結され、かつバルブプランジャー10を作動制御する入力軸、12はバルブボディ4に気密にかつ摺動可能に設けられ、かつ大気弁部12aと真空弁部12bとこれらを一体移動可能に連結する連結具12cとを有する弁体、13は環状の真空弁座、14はバルブプランジャー10に形成された環状の大気弁座、15は真空弁部12bと真空弁座13とにより構成される真空弁、16は大気弁部12aと大気弁座14とにより構成される大気弁、17は互いに直列に配設された真空弁15と大気弁16とからなり、変圧室9を定圧室8と大気とに選択的に切り換え制御する制御弁、18は弁体12を真空弁部12bが真空弁座13に着座する方向に常時付勢する第1弁制御スプリング、19はバルブディ4の外周側通路19aとこれに連通する内周側通路19bとからなる大気導入通路、20はリヤシェル3と入力軸11との間に取り付けられかつ大気導入口20aを有するブーツ、21は大気導入口20aに設けられて制御弁17で発生する音を低減するサイレンサ、22は真空通路、23はバルブボディ4に形成されたキー孔4aに挿通されてこのバルブボディ4に対するバルブプランジャー10の相対移動を、キー孔4aの軸方向幅により規定される所定量に規制し、かつバルブボディ4およびバル
ブプランジャー10の各後退限を規定するキー部材、24は間隔部材、25はリアクションディスク、26は出力軸、27はリターンスプリング、28は図示しない負圧源からの負圧を定圧室8に導入する負圧導入口である。
【0020】
なお、負圧倍力装置1の非作動時、この間隔部材24の前端面とこの間隔部材24の前端面に対向するリアクションディスク25の後端面との間には、軸方向の所定の間隙Cが設定されている。
また、図示しないが従来の一般的な負圧倍力装置と同様に、フロントシェル2を貫通してマスタシリンダの後端部が定圧室8内に進入しかつマスタシリンダのピストンが出力軸26で作動されるようになる。なお、マスタシリンダのフロントシェル2貫通部は図示しない適宜のシール手段でシールされていて、定圧室8が大気と気密に遮断される。また従来と同様に、バルブボディ4がリヤシェル3を移動可能に貫通しているとともに、変圧室9がこの貫通部において図示したシール部材29で大気と気密に遮断されている。
【0021】
次に、この例の負圧倍力装置1の特徴部分の構成について説明する。
図2に示すように、この例の負圧倍力装置1では、バルブボディ4の軸方向の内孔4bに筒状部材である真空弁座部材30が摺動可能に嵌合されており、前述の真空弁座13はこの真空弁座部材30の後端の内周側に設けられている。したがって、真空弁座13もバルブボディ4に対して相対移動可能となっている。
【0022】
そして、真空弁座部材30の外周面に設けられたカップシール等のシール部材31により、バルブボディ4の内孔4bの内周面と真空弁座部材30の外周面との間が少なくとも真空弁座部材30の前端から後端に向かう空気の流れを阻止するように気密に保持されている。更に、真空弁座部材30の前端面30aは常時変圧室9に連通されていて、これらの前端面30aには常時変圧室9の圧力が作用するようになっている。
【0023】
また、弁体12の真空弁部12bが真空弁座13に着座した状態において、真空弁座部材30の後端面30bにおける、真空弁部12bの着座位置より外周側の環状の外側後端面部分は常時定圧室8に連通されていて、この外側後端面には常時定圧室8の圧力(負圧)が作用するようになっている。したがって、負圧倍力装置1の作動時、変圧室9の圧力と定圧室8の圧力とに圧力差が生じると、この圧力差による力が真空弁座部材30に後方に向けて加えられるようになる。
【0024】
更に、真空弁座部材30には延長アーム部30cがこの真空弁座部材30の前端面30aから軸方向前方に延びるようにして設けられている。この延長アーム部30cには、軸方向孔30dが穿設されている。
真空弁座部材30の後端面30bの外周側とバルブボディ4との間には、環状の板ばねからなる第2弁制御スプリング32が真空弁座部材30と直列に縮設されており、この第2弁制御スプリング32により真空弁座部材30が常時前方に付勢されている。
【0025】
次に、この例の真空弁座部材30の作動について説明する。真空弁座部材30の作動は前述の特許文献1に記載の真空弁座部材と同じであり特許文献1を参照すれば容易に理解できるので、ここでは簡単に説明する。
負圧倍力装置1の非作動時には、真空弁座部材30はその前端面30aがバルブボディ4の段部4cに当接した、図2に示す位置に位置決めされる。このように位置決めされた状態の真空弁座13は、従来の一般的な負圧倍力装置のバルブボディ4に形成された真空弁座と同じ状態になるように設定されている。したがって、負圧倍力装置1の非作動時での真空弁座部材30のこの位置では、真空弁部12bが真空弁座13に着座しなく、真空弁15は開くようになる。また、負圧倍力装置1の非作動時では、大気弁部12aが大気弁座14に着座して、大気弁16は閉じている。
【0026】
また、ブレーキペダルの踏込みにより入力軸11に入力が加えられて負圧倍力装置1が作動すると、従来の一般的な負圧倍力装置と同様に真空弁部12bが真空弁座13に着座して真空弁15閉じるとともに、大気弁部12aが大気弁座14から離座して、大気弁16が開く。すると、変圧室9に大気が導入されて、変圧室9と定圧室8との間に圧力差が生じる。このため、真空弁座部材30にもこの圧力差による力が後方に向けて加えられるようになる。この力は、変圧室9と定圧室8との間の圧力差、つまり入力軸11に加えられる入力の大きさに応じた大きさになっている。
【0027】
そして、この圧力差による力が第2弁制御スプリング32のばね荷重とこのときの弁体12の第1弁制御スプリング18のばね荷重との和以下である(つまり、入力軸11に加えられる入力が予め設定された設定入力F0以下(F0は図4に示す)である)と、真空弁座部材30はバルブボディ4に対して移動しなく、図1および図2に示す非作動位置を保持するようになる。また、圧力差による力が前述の両ばね荷重との和より大きくなる(つまり、入力軸11に加えられる入力が設定入力F0より大きくなる)と、真空弁座部材3
0が弁体12の真空弁部12bを押しながらバルブボディ4に対して相対的に後方に移動するようになっている。したがって、この真空弁座部材30の後方移動により、真空弁座13が通常時の位置より後方に突出する。
【0028】
ところで、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方へ相対的にストロークすると、大気弁16の大気弁部12aもバルブボディ4に対して真空弁座部材30の相対ストローク量と同じだけ後方へ相対ストロークする。したがって、真空弁15および大気弁16がともに閉じた制御弁17のバランス位置が後方に移動する。このため、大気弁部12aと大気弁座14との間の開弁量が真空弁座部材30の相対ストロークしないと仮定した場合に比べて、入力軸11の入力ストローク量が同じであるとすると、真空弁座部材30の相対ストローク量だけ大きくなる。すなわち、真空弁15と大気弁16とがともに閉じてバランスした中間負荷状態では、入力軸11の入力ストローク量が同じである場合、バルブボディ4およびパワーピストン5のピストン部材6の各ストロークは、真空弁座部材30の相対移動しないと仮定した場合に比べて、真空弁座部材30の相対ストローク量だけ大きくなる。換言すると、真空弁座部材30の相対ストロークした場合と相対ストロークしないと仮定した場合とで、バルブボディ4およびパワーピストン5のピストン部材6の各ストローク量が同じであるとすると、真空弁座部材30の相対ストロークした場合の方が、入力軸11のストロークは真空弁座部材30の相対ストローク量だけ短縮される。
【0029】
一方、前述の真空弁座部材30の相対ストローク時における出力軸26の出力ストロークも、前述のように入力軸11の入力ストローク量が同じであるとしたときに、バルブボディ4およびパワーピストン5のピストン部材6の各ストロークが増大することで増大する。しかし、中間負荷状態では従来の負圧倍力装置と同様にリアクションディスク25が間隔部材24の方へ膨出してこのリアクションディスク25の軸方向の厚みが薄くなるため、前述のバルブボディ4およびパワーピストン5のピストン部材6の各ストロークの増大した相対ストローク量より小さくなる。
【0030】
そして、真空弁座部材30が弁体12の真空弁部12bを押しながら後方に突出することから、弁体12が後方に移動し、かつ弁体12の大気弁部12aも後方に移動するようになる。このため、通常ブレーキ作動時の大気弁16が閉じている状態より、大気弁部12aが大気弁座14から更に大きく離座する。つまり、大気弁16の開弁量が大きくなるようにされている。このようにして、真空弁座部材30の作動は変圧室9の圧力と定圧室8の圧力との圧力差により制御される。
【0031】
この真空弁座部材30の移動について具体的に説明する。真空弁座部材30が移動しか
つ真空弁15および大気弁16がともに閉じて制御弁17がバランス状態にある中間負荷状態で、真空弁座部材30に加えられる圧力差による力を考える。この制御弁17のバランス状態は、真空弁座部材30と弁体12とが互いに当接して一体となるため、図3に示すように互いに一体になった真空弁座部材30および弁体12に加えられる力の等価状態としてみなすことができる。
【0032】
いま、図3において、真空弁座部材30および弁体12に加えられる圧力差による力をFP、定圧室8の圧力をPV0、変圧室9の圧力をPVとすると、真空弁座部材30および弁体12に加えられる圧力差による力FPは、
P = (PV−PV0)・(真空弁座部材30の有効受圧面積差)
で与えられ、この力FPが真空弁座部材30および弁体12を後方に向けて押圧するよう
になる。
【0033】
一方、第2弁制御スプリング32のばね荷重FSおよび第1弁制御スプリング18のば
ね荷重fSが前方に向けて押圧している。したがって、前述の力FPがこれらのばね荷重の和(FS+fS)以下であると、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して移動しなく、また力FPがばね荷重の和(FS+fS)より大きくなると、真空弁座部材30がバルブボ
ディ4に対して後方に移動するようになる。ここで、第1弁制御スプリング18のばね荷重fSはその絶対値が小さくしかも第2弁制御スプリング32のばね荷重FSに比べてきわめて小さく(FS≫fS)設定されることで、実質的に力FPがばね荷重FSより大きいとき(FP >FS)に、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方に移動し、力FPがばね荷重FS以下であるとき(FP ≦FS)に、真空弁座部材30はバルブボディ4に対して後方に移動しない。すなわち、真空弁座部材30の作動開始は実質的に第2弁制御スプリング32によって決定されるようになる。したがって、変圧室9の圧力が上昇して、力FPがセットばね荷重より大きくなると、真空弁座部材30が後方に移動開始するようにな
る。
【0034】
そして、図4に示すように、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方に移動しない力FPの領域つまり変圧室9の圧力PVの領域は、入力軸11に加えられる入力が設定入力F0以下の領域である。この領域におけるサーボ比SR1は小さく、したがって負圧倍力装置1の中間負荷状態で出力は図4に実線で示すように比較的小さい。
【0035】
また、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して後方に移動する力FPの領域つまり
変圧室9の圧力PVの領域は、入力軸11に加えられる入力が設定入力F0より大きい領域である。この領域におけるサーボ比SR2は、大気弁16の開弁量が同じ入力で通常ブレ
ーキ作動時より大きくなることから、前述のサーボ比SR1より大きいサーボ比SR2(SR2>SR1)となる。したがって負圧倍力装置1の中間負荷状態で出力は図4に実線で示すようにサーボ比SR1のときより大きくなる。
【0036】
この例の負圧倍力装置1では、前述のように真空弁座部材30に移動開始を決定する第2弁制御スプリング32のばね定数およびセットばね荷重は、ともに任意に設定可能である。したがって、この例の負圧倍力装置1の図4に示す入出力特性において、小さなサーボ比SR1から大きなサーボ比SR2に変わる変化点(レシオ点)ε、つまりこの変化点εの入力である設定入力F0は、第2弁制御スプリング32のセットばね荷重を変えること
で上下させることができる。また、負圧倍力装置1のサーボ比SRは、第2弁制御スプリング32のばね定数を変えることによって大小変化させることが可能となる。
【0037】
したがって、この例の負圧倍力装置1は、第2制御弁スプリング32のばね定数およびセットばね荷重を搭載される車両に応じて設定することで、1つの形式で種々の車種のブレーキ倍力装置にその車種に応じて容易にかつより的確に適用可能となる。
【0038】
図1、図2、および図5(a),(b)に示すように、バルブボディ4の軸方向孔内に
は、本発明の作動アシスト機構であるブレーキアシスト機構(BA機構)36が設けられている。このBA機構36は、バルブボディ4に対して相対摺動可能に配設されたBA用筒状部材33を備えている。このBA用筒状部材33の後端部には、外側に突出する環状のフランジ33aが形成されているとともに、BA用筒状部材33の中央部には軸方向孔33bが穿設され、更にBA用筒状部材33の前端部にも軸方向孔33cが穿設されている。このBA用筒状部材33は、例えばPet材等の樹脂あるいは金属から形成される。
【0039】
フランジ33aとバルブボディ4との間には、BA作動用スプリング34が縮設されており、このBA作動用スプリング34のばね力によりBA用筒状部材33が常時後方に付勢されている。BA用筒状部材33がバルブボディ4に対して後方に所定ストローク以上ストロークすると、BA用筒状部材33の後端面33eが真空弁座部材30の前端面30aに当接して真空弁座部材30を後方に第2弁制御スプリング32のばね力に抗して押圧することで、BA用筒状部材33は第2弁制御スプリング32を縮小して真空弁座部材30をバルブボディ4に対して後方に移動するようになっている。
【0040】
そして、キー部材23がBA用筒状部材33の軸方向孔33bおよび延長アーム部30cの軸方向孔30dをも貫通して設けられる。図2に拡大して示すように、負圧倍力装置1の非作動時には、リヤシェル3に当接して後退限に位置決めされたキー部材23に、真空弁座部材30における軸方向孔30dより前方の前端部30eおよびBA用筒状部材33における軸方向孔33cより前方の中間部33dが当接することで、真空弁座部材30およびBA用筒状部材33がともにそれらの後退限に位置決めされる。
【0041】
更に、通常ブレーキ作動時にBA用筒状部材33をバルブディ4に対して非作動位置に位置決めして保持する筒状部材保持部材35がキー部材23より前方位置に設けられている。この筒状部材保持部材35はバルブボディ4のキー孔4aおよびBA用筒状部材33の軸方向孔33cに貫通された後、バルブボディ4の径方向孔4dに嵌入・固定されている。
【0042】
図5(b)に示すように、この筒状部材保持部材35は、例えばPom材やPeekの樹脂あるいは金属からなる弾性材でかつ横断面が矩形でかつ全体がほぼU字形に形成されている。その場合、筒状部材保持部材35は、バルブプランジャ10が貫通する湾曲U字状部35aと、バルブボディ4のキー孔4aおよびBA用筒状部材33の軸方向孔33cを貫通する一対の直線係止部35b,35cとからなっている。そして、図2および図5
(a)に示すように湾曲U字状部35aの湾曲底部35a1がバルブボディ4の径方向孔
4dに嵌入・固定されている。また、通常時には一対の直線係止部35b,35cは互い
に平行にまたはほぼ平行にされている。
【0043】
また、図2および図5(a)に示すようにBA用筒状部材33には、その軸方向孔33cに開口する係止凹部33fが設けられている。この係止凹部33fの前端面を構成する係止部33hには、通常時に筒状部材保持部材35の一方の直線係止部35bが係止されている。なお図示しないが、BA用筒状部材33には、係止凹部33fと同じもう1つの係止凹部がBA用筒状部材33の軸方向に関し係止凹部33fと線対称に設けられている。そして、もう1つの係止凹部の前端面を構成する係止部には、通常時に筒状部材保持部材35の他方の直線係止部35cが係止されている。前述のように、一方の直線係止部35bに関して説明し、他方の直線係止部35cに関しては説明を省略することもある。
【0044】
図5(b)に示すように、各直線係止部35b,35cには、それぞれBA用筒状部材
33の係止部33hの係止面33h1,33h1′に対向する位置に、各直線係止部35b,
35cの長手方向に延びる凹部35d,35eが形成されている。これらの凹部35d,35eはまったく同じ大きさおよび同じ形状に形成されている。
【0045】
図6(a)に示すように、凹部35d,35eは横断面形状(直線係止部35b,35cの長手方向と直交する方向の断面形状)が開放側(前方側)を下底とするに台形に形成されている。そして、係止部33hの係止面33h1に対向する直線係止部35bの面(前
面)には、凹部35d,35eと直線係止部35b,35cの内側面35b1,35c1(互
いの対向する直線係止部35b,35cの面;本発明における、筒状部材保持部材35の
作動開始時に摺擦移動方向と反対側の面に相当)との間に、BA筒状部材33の係止部33hの係止面33h1,33h1′(図6(a)に二点鎖線で示す)に面接触で当接可能な
平坦な係止面35f,35gが形成されている。その場合、両係止面35f,35gは、それぞれ一対の直線係止部35b,35cの内側面35b1,35c1に隣接してこれらの内側面35b1,35c1から直ぐに設けられている。
【0046】
これらの係止面35f,35gの直線係止部35b,35cの長手方向と直交する方向の長さは所定長さL1(図6(a)には一方の直線係止部35bについてのみ図示)に設定
されている。一方、BA用筒状部材33の係止部の係止面33h1,33h1′の長さ(最
内周側の係止凹部33f,33f′の底部33f1,33f1′と最外周側の軸方向孔33c,35c′の外周面との間の長さ)は、所定の長さL2(図6(a)には一方の直線係止部35bについてのみ図示)に設定されている。そして、係止面35f,35gの長さL1は、係止面33h1,33h1′の長さL2より小さく設定されている(L1<L2)。その場合、係止面35f,35gの長さL1は、係止面33h1,33h1′の長さL2に対してできるだけ小さく設定される方が好ましい(L1≪L2)。
【0047】
通常ブレーキ作動時は、一対の直線係止部35b,35cは、それぞれ、それらの内側
面35b1,35c1が係止凹部33f,33f′の底部33f1,33f1′に当接している
とともに、直線係止部35b,35cの係止面35f,35gが係止部の係止面33h1,33h1′に面接触で当接している((図6(b)には一方の直線係止部35bについてのみ図示)。したがって、直線係止部35b,35cの係止面35f,35gは係止部の係止面33h1,33h1′の一部つまり最内周側の面に当接するようになる。このとき、BA作
動用スプリング34の付勢力f33により、BA筒状部材33の各係止部から直線係止部35b,35cの各係止面35f,35gに面圧が作用するとともに、直線係止部35b,3
5cからBA筒状部材33の各係止面33h1,33h1′に、直線係止部35b,35cの係止面35f,35gの面圧と同じ大きさの面圧が作用する。これらの係止面33h1,3
3h1′はBA筒状部材33の軸方向と直交する面内に形成される。
【0048】
そして、直線係止部35b,35cのこの状態では、凹部35d,35eはBA用筒状部材33の軸方向孔33c,33c′の外周面より外方に延在するようになる。すなわち、
BA用筒状部材33の係止部のエッジ(軸方向孔33c,33c′の外周面と係止面33
1,33h1′との交差部)は凹部35d,35eに対向する位置となっている(図6(b)には一方の直線係止部35bについてのみ図示;その場合、同図には一方の直線係止部35bのエッジ33h2が図示される)。
【0049】
BA操作時、図6(c)に示すように直線係止部35b,35cがそれぞれ拡開方向c
につまり外方に向かって互いに開くように移動するが、直線係止部35b,35cの係止
面35f,35gは、係止部33hの係止面33h1,33h1′上を摺擦しながら移動する。このとき、直線係止部35b,35cの係止面35f,35gがそれぞれBA筒状部材33の係止部のエッジに到達するまでは、各係止面33h1,33h1′と各係止面35f,35gとの接触面積は変わらず一定となる。したがって、各係止面33h1,33h1′と係
止面35f,35gとの間の面圧はほとんど変化しなくほぼ一定となり、図6(b)に示
す初期状態とほぼ同じである。
【0050】
そして、長期にわたるBA作動の繰り返しで図6(d)に示すようにBA筒状部材33の各係止部が摩耗するようになるが、これらの係止部の摩耗は、各係止部の内周側から外周側にわたってほぼ一定となる。したがって、摩耗後の各係止部の係止面33h1,33h1′は、前述の図8(c)に示す従来のように傾斜面とならずBA用筒状部材33の軸方
向と直交する面に維持される(図6(d)には一方の係止部33hの摩耗後の係止面33h1が二点差線で図示)。したがって、BA筒状部材33の両係止部が摩耗しても、BA
非作動時に直線係止部35b,35cが対応する係止部から容易に外れることが防止され
る。
【0051】
また図6(e)に示すように、凹部35dは、通常ブレーキ作動時(つまり、BA非操作時)に、直線係止部35bが生じる可能性と考えられる最大回転角度ねじり回転したとき、係止部33hのエッジ33h2が凹部35dの底部(台形形状の上底)および両側壁
(台形形状の両傾斜面)に当接しない大きさに形成されている。これにより、BA非操作時)に直線係止部35bが仮にねじり回転しても、係止部33hのエッジ33h2が摩耗
するのを抑制される。
【0052】
図2に示すように、バルブプランジャー10には、BA用筒状部材33の係止部33hと筒状部材保持部材35の直線係止部35bとの係止を解除するための係止解除部10aが設けられている。この係止解除部10aは截頭円錐台形の側面からなるテーパ状に形成されている。緊急ブレーキ作動のためブレーキペダルが通常ブレーキ作動時より迅速に踏み込まれて、バルブプランジャー10がバルブボディ4に対して通常ブレーキ作動時より所定量以上前方へ移動すると、この係止解除部10aが筒状部材保持部材35における湾曲U字状部35aの後方側のエッジ部35a2の2箇所に当接しかつこれらの2箇所のエ
ッジ部35a2を押圧することで、湾曲U字状部35aがBA用筒状部材33の軸方向と
直交する平面内で拡開する方向に弾性的に変形する。すると、一対の直線係止部35,3
5cが図5(a),(b)および図6(b)に示すように拡開方向cに筒状部材保持部材
35の弾性力f35に抗してBA筒状部材33の係止面33h1,33h1′を摺擦移動する

【0053】
この例の負圧倍力装置1では、直線係止部35bと係止部33hとの係止位置が被押圧部である湾曲U字状部35aのエッジ部35a2の2箇所の位置から軸方向前方の近傍位
置となっている。
【0054】
次に、この例の負圧倍力装置1の作動について説明する。
(負圧倍力装置の非作動時)
負圧倍力装置1の定圧室8には負圧導入口28を通して常時負圧が導入されている。また、図1および図2に示す負圧倍力装置1の非作動状態では、キー部材23がリヤシェル3に当接して後退限となっている。したがって、このキー部材23によってバルブボディ4およびバルブプランジャー6が後退限にされ、更にパワーピストン5、入力軸11および出力軸26も後退限となっている。また、真空弁座部材30の前端面30aが第2弁制御スプリング32のばね力でバルブボディ4の段部4cに当接して真空弁座部材30が図2に示す位置に位置決めされているとともに、BA用筒状部材33の中間部33dがBA作動用スプリング34のばね力でキー部材23に当接してBA用筒状部材33が図2に示す位置に位置決めされている。この状態では、BA用筒状部材33の後端面33eが真空弁座部材30の前端面30aに当接しない。
【0055】
この非作動状態では、弁体12の大気弁部12aが大気弁座14に着座して大気弁16が閉じ、かつ弁体12の真空弁部12bが真空弁座13から離座して真空弁15が開いて
いる。したがって、変圧室9は大気から遮断されかつ定圧室8に連通して変圧室9に負圧が導入されており、変圧室9と定圧室8との間に実質的に差圧が生じていない。このため、真空弁座部材30には圧力差による力が後方に向けて加えられていない。
また、BA機構36は、一対の直線係止部35b,35cがBA用筒状部材33の係止
部(直線係止部35bに対しては係止部33h)に係止して非作動位置に保持されている。
【0056】
(負圧倍力装置の設定入力F0以下の入力領域での通常ブレーキ作動時)
通常ブレーキを行うためにブレーキペダルが通常ブレーキ操作時での踏込速度で踏み込まれると、入力軸11が前進してバルブプランジャー10が前進する。バルブプランジャー10の前進により、弁体12の真空弁部12bが真空弁座13に着座して真空弁15が閉じるとともに大気弁座14が弁体12の大気弁部12aから離れて、大気弁16が開く。すなわち、変圧室9が定圧室8から遮断されるとともに大気に連通される。したがって、大気圧の空気が大気導入口20a、外周側通路19a、内周側通路19b、開いている大気弁16、およびキー孔4aを通って変圧室9に導入される。その結果、変圧室9と定圧室8との間に差圧が生じてパワーピストン5が前進し、更にバルブボディ4を介して出力軸26が前進して図示しないマスタシリンダのピストンが前進する。このとき、弁体12、真空弁座部材30、およびBA用筒状部材33等のバルブボディ4に支持されている部材は、バルブボディ4と一体に移動する。
【0057】
また、バルブプランジャー10の前進で間隔部材24も前進するが、まだ間隔部材24は間隙Cによりリアクションディスク25に当接するまでには至らない。したがって、出力軸26から反力がリアクションディスク25から間隔部材24に伝達されないので、この反力はバルブプランジャー10および入力軸11を介してブレーキペダルにも伝達されない。入力軸11が更に前進すると、パワーピストン5も更に前進し、バルブボディ4および出力軸26を介してマスタシリンダのピストンが更に前進する。
【0058】
マスタシリンダ以降のブレーキ系のロスストロークが消滅すると、負圧倍力装置1は実質的に出力を発生し、この出力でマスタシリンダがマスタシリンダ圧(液圧)を発生し、このマスタシリンダ圧でホイールシリンダが作動してブレーキ力を発生する。
【0059】
このとき、マスタシリンダから出力軸26に加えられる反力によってリアクションディスク25が後方に膨出し、間隙Cが消滅してリアクションディスク25が間隔部材24に当接する。これにより、出力軸26からの反力はリアクションディスク25から間隔部材24に伝達され、更にバルブプランジャー10および入力軸11を介してブレーキペダルに伝達されて運転者に感知されるようになる。すなわち、図4に示すように負圧倍力装置1は通常ブレーキ作動時のジャンピング量Jsを有するジャンピング特性を発揮する。
【0060】
設定入力F0以下の入力で通常ブレーキが作動される場合には、負圧倍力装置1の入力
(つまり、ペダル踏力)が比較的小さいため、出力が所定出力以下の出力領域であう。したがって、前述のように変圧室9の圧力PVと定圧室8の圧力PV0との差圧により真空弁
座部材30を押圧する力FPが第1および第2弁制御スプリング18,32の各ばね力の和より小さい。
【0061】
このため、真空弁座部材30はバルブボディ4に対して後方に移動しなく、サーボ比は従来の通常ブレーキ作動時とほぼ同じ比較的小さなサーボ比SR1となる。したがって、
負圧倍力装置1の出力がペダル踏力による入力軸11の入力をこの小サーボ比SR1で倍
力した大きさになると、大気弁部12aが大気弁座14に着座して大気弁16も閉じて中間負荷でのバランス状態となる(真空弁15は、真空弁部12bが真空弁座13に着座して既に閉じている)。こうして、図4に示すように設定入力F0以下の入力領域において
は、通常ブレーキ作動時のペダル踏力をサーボ比SR1で倍力したブレーキ力で通常ブレ
ーキが作動する。
【0062】
また、ブレーキペダルが通常ブレーキ操作時での踏込速度で踏み込まれることで、バルブプランジャ10が前進しても、その係止解除部10aが筒状部材保持部材35における湾曲U字状部35aの湾曲底部35a1のエッジ部35a2に当接しない。したがって、BA機構36は作動しない。
【0063】
通常ブレーキ作動時での負圧倍力装置1の大気弁16および真空弁15がともに閉じている状態から、通常ブレーキを解除するために、ブレーキペダルを解放すると、入力軸11およびバルブプランジャー10がともに後退するが、バルブボディ4および真空弁座部材30は変圧室9に空気(大気)が導入されているので、直ぐには後退しない。これにより、バルブプランジャー10の大気弁座14が弁体12の大気弁部12aを後方に押圧するので、真空弁部12bが真空弁座13gから離座し、真空弁15が開く。すると、変圧室9が開いた真空弁15および真空通路22を介して定圧室8に連通するので、変圧室9に導入された空気は、開いた真空弁15、真空通路22、定圧室8および負圧導入口28を介して真空源に排出される。
【0064】
これにより、変圧室9の圧力が低くなって変圧室9と定圧室8との差圧が小さくなるので、リターンスプリング27のばね力により、パワーピストン5、バルブボディ4および出力軸26が後退する。バルブボディ4の後退に伴い、マスタシリンダのピストンのリターンスプリングのばね力によってマスタシリンダのピストンおよび出力軸26も後退し、通常ブレーキが解除開始される。
【0065】
キー部材23が図1および図2に示すようにリヤシェル3に当接すると、キー部材23は停止してそれ以上後退しなくなる。しかし、バルブボディ4、バルブプランジャー10および入力軸11が更に後退する。そして、バルブプランジャー10がキー部材23に当接してそれ以上後退しなくなり、更に、バルブボディ4のキー孔4aの前端4a1がキー
部材23に当接して、バルブボディ4がそれ以上後退しなくなる。こうして、負圧倍力装置1は図1および図2に示す初期の非作動状態になる。したがって、マスタシリンダが非作動状態になってマスタシリンダ圧が消滅するとともに、ホイールシリンダも非作動状態になってブレーキ力が消滅して、通常ブレーキが解除される。
【0066】
(負圧倍力装置の設定入力F0より大きな入力領域での通常ブレーキ作動時)
通常ブレーキ操作時でのブレーキペダルの通常の踏込速度でかつ負圧倍力装置1の設定入力F0より大きな入力領域で通常ブレーキ作動を行う場合には、負圧倍力装置1の入力
(つまり、ペダル踏力に対応)が大きくなると、出力が所定出力より大きい出力領域となるとともに、変圧室9の圧力PVも大きくなる。
【0067】
設定入力F0より大きな入力領域では、変圧室9の圧力PVと定圧室8の圧力PV0との差圧により真空弁座部材30を押圧する力FPが第1および第2弁制御スプリング18,32の各ばね力の和より大きくなるので、真空弁座部材30は第1および第2弁制御スプリング18,32を縮小して弁体12を押しながらバルブボディ4に対して後方に移動する。
このため、大気弁部12aが大気弁座14から通常時より大きく離間し、大気弁16が大きく開く。したがって、図4に示すようにこの大入力領域においては、前述のようにサーボ比はサーボ比SR1より大きいサーボ比SR2となる。すなわち、負圧倍力装置1の出力が入力軸11の入力をこの大サーボ比SR2で倍力した大きさになると、前述と同様に大
気弁部12aが大気弁座14に着座して大気弁16も閉じて制御弁17は中間負荷のバランス位置となる(真空弁15は、真空弁部12bが真空弁座13に着座して既に閉じている)。
【0068】
したがって、制御弁17のバランス位置は後方に移動する。こうして、このような大入力領域において、ペダル踏力を大サーボ比SR2で倍力した大きなブレーキ力でブレーキ
が作動する。その場合、負圧倍力装置1は、この大入力領域においては、ペダル踏力つまり負圧倍力装置1の入力が大きいが、小サーボ比SR1の通常ブレーキ作動時での入力と
同じ入力で、通常ブレーキ作動時より大きな出力が得られるようになる。
【0069】
また、この大入力領域の作動時では、真空弁座部材30が小入力領域(設定入力F0
下の入力領域)での作動時よりバルブボディ4に対して後方にストローク量だけ移動することから、出力ストロークがこのストローク量に応じて大きくなる。すなわち、入力軸11のストロークつまりブレーキペダルのストロークが短縮される。なお、この入力軸11のストローク短縮の詳細は、国際公開2004ー101340号公報に開示されていてこの公開公報を参照すれば理解できるので、ここでは省略する。
【0070】
真空弁座部材30の作動時での負圧倍力装置1の大気弁16および真空弁15がともに閉じている状態から、通常ブレーキを解除するために、ブレーキペダルを解放すると、前述の低入力領域での通常ブレーキ作動の場合と同様にして真空弁15が開き、変圧室9に導入された空気が、開いた真空弁15、真空通路22、定圧室8および負圧導入口28を介して真空源に排出される。
【0071】
これにより、前述と同様に変圧室9の圧力が低下し、リターンスプリング27のばね力により、パワーピストン5、バルブボディ4および出力軸26が後退する。バルブボディ4の後退に伴い、マスタシリンダのピストンのリターンスプリングのばね力によってマスタシリンダのピストンおよび出力軸26も後退し、ブレーキが解除開始される。
【0072】
変圧室9と定圧室8との差圧が小さくなって、真空弁座部材30を押圧する力FPが変
圧室9の圧力PVが第1および第2弁制御スプリング18,32のばね荷重FS,fSの和よ
り小さくなると、真空弁座部材30がバルブボディ4に対して前方に相対的に移動して、真空弁座部材30は図2に示す非作動位置になる。これにより、真空弁部12bが真空弁座13gから大きく離座して真空弁15が大きく開くので、変圧室9内の空気は多く排出されて、小入力領域での通常ブレーキ作動状態になる。これ以後、前述の小入力領域での通常ブレーキ作動の場合と同様であり、最終的に負圧倍力装置1の移動した部材はすべて図2に示す非作動位置になり、通常ブレーキが解除される。
【0073】
真空弁座部材30の非作動位置への戻り過程(真空弁座部材30のバルブボディ4に対する前方移動)で、真空弁座部材30がスティックを起こして第2弁制御スプリング32のばね力では前方へ移動しなくなった場合には、バルブボディ4の後退移動により真空弁座部材30の前端部30eが、リヤシェル3に当接して後退移動しないキー部材23に当接する。したがって、真空弁座部材30も後退移動が阻止される。しかし、バルブボディ4の更なる後退移動で、スティックを起こしている真空弁座部材30はバルブボディ4に対して強制的に前方へ移動するようになる。このため、真空弁座部材30は確実に図2に示す非作動位置となって真空弁が開き、負圧倍力装置1は確実に非作動位置となり、ブレーキが解除される。
【0074】
(負圧倍力装置のBA作動時)
ブレーキペダルが通常ブレーキ作動時より速い踏込速度で踏み込まれて緊急ブレーキ操作が行われると、バルブボディ4に対する入力軸11およびバルブプランジャー10の前方移動が通常ブレーキ作動時より大きくなる。すると、バルブプランジャー10の係止解除部10aが筒状部材保持部材35のエッジ部35a2に当接して筒状部材保持部材35
を押し開くので、前述の図6(b)に示すように筒状部材保持部材35が外方へ移動して
一対の直線係止部35b,35cとBA用筒状部材33の係止部33hとの係止が解除さ
れる。このとき、直線係止部35b,35cとBA用筒状部材33の係止部との係止が解
除する直前までは、各直線係止部35b,35cの係止面35f,35gとBA筒状部材33の各係止部の係止面33h1,33h1′との接触面積はほぼ一定に維持され、したがっ
て、係止面35f,35gと係止面33h1,33h1′との間の面圧もほぼ一定となる。
【0075】
直線係止部35b,35cとBA用筒状部材33の係止部との係止が解除すると、前述
のようにBA作動用スプリング34の付勢力でBA用筒状部材33が後方へ移動して真空弁座部材30に当接する。更に、このBA用筒状部材33は真空弁座部材30を後方に押圧しつつバルブボディ4に対して後方へ移動する。そして、BA用筒状部材33は、その前端部33gが直線係止部35b,35cに当接することで所定量移動して停止する。こ
れにより、真空弁座部材30および弁体12も後方に所定量移動して停止する。
【0076】
このとき、真空弁座部材30は、一気に後退限に達する。その後、出力軸26からの反力でリアクションディスク25が膨出して間隔部材24に当接すると、負圧倍力装置1の出力が大きくなる。したがって、図4に示すようにBA作動時のジャンピング特性のジャンピング量Jeが通常ブレーキ作動時のジャンピング量Jsより大きくなる(Je>Js)。これにより、小さなペダル踏力で大きなブレーキ力が発生する。
【0077】
前述の通常ブレーキ作動時と同様にして、中間負荷状態では真空弁15および大気弁16がともに閉じた中間負荷でのバランス状態となる。こうして、図4に二点鎖線で示すように負圧倍力装置は緊急ブレーキ作動時のペダル踏力を小サーボ比SR1で倍力しかつ大
ジャンピング量Jeで大きくなった出力を発生し、この大きな出力によるブレーキ力で緊急ブレーキが作動する。また、大気弁16および真空弁15がともに閉じるバランス位置が後方に移動するので、その分入力軸11のストロークが短縮され、その結果ペダルストロークが短縮する。このようにして、小さなペダル踏力および小さなペダルストロークで大きなブレーキ力が発生する。こうして、緊急ブレーキ作動時においてBA作動が行われる。
【0078】
(負圧倍力装置のBA作動解除時)
BA作動後、ブレーキペダルを解放すると、バルブボディ4、パワーピストン5、バルブプランジャー10,入力軸11,出力軸26等は後退して、前述の通常ブレーキ作動の解除時と同様に図1および図2に示す非作動位置に戻る。その場合、バルブプランジャー10の係止解除部10aが筒状部材保持部材35のエッジ部35a2から離れるので、筒
状部材保持部材35の一対の直線係止部35b,35cがBA用筒状部材33の係止部と
係止可能な状態となる。一方、BA用筒状部材33はバルブボディ4の後退移動によりBA用筒状部材33の中間部33dがリヤシェル3に当接して後退移動しないキー部材23に当接する。したがって、BA用筒状部材33も後退移動が阻止される。しかし、バルブボディ4の更なる後退移動で、BA用筒状部材33はキー部材23によりバルブボディ4に対して強制的に前方へ移動し、非作動位置に戻る。これにより、一対の直線係止部35b,35cが筒状部材保持部材35の弾性復元力でBA用筒状部材33の係止部に係止し
、BA用筒状部材33が非作動位置に保持される。こうして、緊急ブレーキが解除される。
【0079】
そして、長期にわたるBA作動の繰り返しでBA用筒状部材33の各係止部がともに摩耗するが、各係止部の摩耗後の係止面33h1,33h1′はBA筒状部材の軸方向に直交
する面に維持される。したがって、BA用筒状部材33の各係止部が摩耗しても、BA用筒状部材33の各係止部と一対の直線係止部35b,35cとの係止は容易に解除される
ことはない。
【0080】
このようにブレーキシステムのブレーキ倍力装置に適用したこの例の負圧倍力装置1によれば、BA作動時に一対の直線係止部35b,35cが移動する方向の、これらの直線
係止部35b,35cの係止面35f,35gの長さL1を、これらの係止面35f,35gが面接触するBA筒状部材33の係止面33h1,33h1′の同方向の長さL2より小さく設定しているので、係止面35f,35gが係止面33h1,33h1′に線接触する場合よりは面圧を小さくすることができ、しかも、BA筒状部材33の係止面33h1,33h1
′と一対の直線係止部35b,35cの係止面35f,35gとの接触面積を、BA操作時にBA筒状部材33の係止面33h1,33h1′と直線係止部35b,35cとの係止解除する直前まで一定またはほぼ一定にすることができる。
【0081】
これにより、BA作動時においてBA筒状部材33の係止面33h1,33h1′に対す
る直線係止部35b,35cの摺擦移動中に、直線係止部35b,35cの係止面35f,
35gとBA筒状部材33の係止面33h1,33h1′との間の面圧をほぼ一定にするこ
とができる。その結果、長期にわたるBA作動の繰り返しでBA筒状部材33の各係止部が摩耗しても、これらの係止部の摩耗は、各係止部の内周側から外周側にわたってほぼ均一にすることができる。したがって、摩耗後の各係止部の係止面33h1,33h1′を、
BA用筒状部材33の軸方向と直交する面に維持することができる。こうして、BA筒状部材33の両係止部が摩耗しても、BA非作動時に直線係止部35b,35cが対応する
係止部から容易に外れることを防止でき、長期にわたってBA機構の作動を確実に行うことができるようになる。
【0082】
図7(a)ないし(f)は、それぞれ、本発明に係る負圧倍力装置の実施の形態の他の例を示す、図6(b)または(c)に相当する部分拡大断面図である。なお、以下の各例の説明において、その例より前に述べられている例および前述の例と同じ構成要素には同じ符号を付すことで、それらの詳細な説明は省略する。
【0083】
前述の図1ないし図6(a)ないし(e)に示す例では、筒状部材保持部材35の一対の直線係止部35b,35cに設けられる凹部35d,35eがともに、これらの直線係止部35b,35cの長手方向に直交する方向の断面が台形に形成されているが、図7(a
)および(b)に示す例における負圧倍力装置1の一対の直線係止部35b,35cに設
けられる凹部35d,35eは、いずれも直線係止部35b,35cの長手方向に直交する方向の断面が円弧状の湾曲した形状に形成されている。また、図7(c)に示す例における負圧倍力装置1の一対の直線係止部35b,35cに設けられる凹部35d,35eは、いずれも直線係止部35b,35cの長手方向に直交する方向の断面が矩形状に形成され
ている。更に、図7(d)に示す例における負圧倍力装置1の一対の直線係止部35b,
35cには、それぞれ、前述の各例の凹部35d,35eに代えて、内側面35b1,35
1と反対側の外側面35b2,35c2に開口する溝が形成されている(図7(d)には一方の直線係止部35bの溝が符号35hで図示。また、符号35c2は図5(b)に図示
)。
【0084】
これらの図7(a)ないし(d)に示す例の負圧倍力装置1の他の構成は、いずれも、前述の図1ないし図6(a)ないし(e)に示す例と同じである。また、図7(a)ないし(d)に示す例の負圧倍力装置1の作用効果も、いずれも、前述の図1ないし図6(a)ないし(e)に示す例と同じである。
【0085】
また、図7(e)に示す例の負圧倍力装置1では、前述の各例における凹部35d,3
5eまたは溝35hは設けられず、単に、一対の直線係止部35b,35cの厚みを薄く
することで、係止面35f,35gがそれぞれ形成されている(図7(e)には一方の直
線係止部35bについてのみ図示)。この図7(e)に示す例の負圧倍力装置1の他の構成は、いずれも、前述の図1ないし図6(a)ないし(e)に示す例と同じである。また
、図7(e)に示す例の負圧倍力装置1の作用効果も、前述の図1ないし図6(a)ないし(e)に示す例とほぼ同じである。
【0086】
ところで、この例の場合には、一対の直線係止部35b,35cの強度が他の各例より
小さい。このため、一対の直線係止部35b,35cの厚み(つまり係止面35f,35gの長さL1)を厚くするか、あるいは一対の直線係止部35b,35cのBA筒状部材33の軸方向の長さを長くするかして、一対の直線係止部35b,35cの強度を大きくする
必要がある。しかし、直線係止部35b,35cの厚みを厚くすると、BA筒状部材33
の係止面33h1,33h1′の長さL2も大きくしなければならないので、BA筒状部材33が径方向に大きくなってしまう。また、直線係止部35b,35cのBA筒状部材33
の軸方向の長さを長くすると、BA筒状部材33が径方向に長くなってしまう。いずれにしても、負圧倍力装置1が大型になる。したがって、前述の図6(a)ないし(e)および図7(a)ないし(d)に示す例の方が好ましい。
【0087】
更に、前述の図1ないし図6(a)ないし(e)に示す例では、筒状部材保持部材35の一対の直線係止部35b,35cに設けられる係止面35f,35gがともに、これらの直線係止部35b,35cの内側面35b1,35c1から直ぐに設けられているが、図7(f)に示す例における負圧倍力装置1では、一対の直線係止部35b,35cに設けられ
る係止面35f,35gは、いずれも、直線係止部35b,35cの内側面35b1,35c1から直ぐに設けられていない。すなわち、この例の負圧倍力装置1では、一対の直線係
止部35b,35cに設けられる係止面35f,35gは、いずれも、直線係止部35b,
35cの内側面35b1,35c1から外側面35b2,35c2の方へ若干ずれた位置に設けられている。
【0088】
この図7(f)に示す例の負圧倍力装置1の他の構成は、いずれも、前述の図1ないし図6(a)ないし(e)に示す例と同じである。また、図7(f)に示す例の負圧倍力装置1の作用効果も、いずれも、前述の図1ないし図6(a)ないし(e)に示す例とほぼ同じである。図7(f)に示す例は、図7(a)ないし(d)に示す例にも適用することができることは言うまでもない。
【0089】
ところで、この例の場合には、係止面35f,35gが、いずれも、直線係止部35b,35cの内側面35b1,35c1から外側面35b2,35c2の方へ若干ずれた位置に設けられるので、BA筒状部材33の係止部の係止面33h1,33h1′の内周側に、係止面
35f,35gが当接しないデッドスペースが存在する。このため、BA筒状部材33の
係止面33h1,33h1′の長さL2を大きくしなければならないので、図6(a)ないし(e)および図7(a)ないし(d)に示す各例に比べてBA筒状部材33が径方向に大きくなってしまう。このため、負圧倍力装置1が大型になるので、前述の図6(a)ないし(e)および図7(a)ないし(d)に示す例の方が好ましい。
【0090】
なお、前述の例では、筒状部材保持部材35をU字形に形成するものとしているが、筒状部材保持部材35は必ずしもU字形に形成する必要はない。例えば、一対の直線係止部35b,35cがBA筒状部材33の係止面33h1,33h1′の前述の長さL2より小さ
い前述の長さL1の係止面35f,35gを有するものであれば、筒状部材保持部材35は、互いに別体に形成された断面矩形状の一対の棒状部材からなる直線係止部35b,35
cで構成することもできる。その場合には、一対の直線係止部35b,35cを互いに接
近する方向に常時付勢する付勢力(前述の付勢力f35に相当)を生じさせる付勢手段が必要となる。更に、この場合において、1本の棒状部材だけで直線係止部35bのみ設けるようにすることも出できる。しかし、BA筒状部材33の作動を安定かつ確実に行うためには、一対の直線係止部35b,35cを設けることが好ましい。
【0091】
また、前述の例では真空弁座部材30を設けているが、この真空弁座部材30は必ずしも必要ではなく、省略できる。その場合には、BA用筒状部材33に、真空弁部12bが着座可能な真空弁座13を設けるとともに、BA非作動時には保持手段で真空弁座13をバルブボディ4に対して相対移動不能にし、またBA作動時には保持手段による保持を解除して真空弁座13をバルブボディ4に対して所定量相対移動させた後バルブボディ4に対して停止させる。更に、真空弁座部材30を省略した場合には、BA用筒状部材33に、真空弁部12bが着座可能な真空弁座13を設けることなく、バルブボディ4に一体に設けることもできる。この場合には、BA作動時には保持手段による保持を解除して、BA用筒状部材33をバルブボディ4に対して所定量相対移動させて真空弁部12bを直接移動させた後バルブボディ4に対して停止させる。この場合は、負圧倍力装置1のサーボ比は小サーボ比SRlのみとなる。
【0092】
更に、前述の例では、変圧室9の圧力と定圧室の圧力との圧力差により真空弁座部材30の作動制御しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、変圧室9の圧力のみあるいは変圧室9の圧力と他の一定圧力との圧力差により、真空弁座部材30の作動を制御することもできる。更に、変圧室9の圧力に代えて、入力軸11に加えられる入力に応じた圧力により、真空弁座部材30の作動を制御することもできる。
【0093】
更に、前述の例では、本発明を1つのパワーピストン5を有するシングル型の負圧倍力装置に適用しているが、本発明は複数のパワーピストン5を有するタンデム型の負圧倍力装置に適用することもできる。
更に、前述の例では、本発明の負圧倍力装置をブレーキシステムに適用しているが、負圧倍力装置を用いる他のシステムや装置に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明に係る負圧倍力装置(ブレーキ倍力装置)は、作動アシスト時(緊急ブレーキ作動)時に、通常作動時と同じ入力(ブレーキ操作力)で通常作動時より大きな出力(ブレーキ力)を得ることのできる負圧倍力装置(ブレーキ倍力装置)に好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明に係る負圧倍力装置の実施の形態の、ブレーキ倍力装置に適用した例を非作動状態で示す断面図である。
【図2】図1における真空弁および大気弁の部分を拡大して示す部分拡大断面図である。
【図3】図1に示す例の負圧倍力装置における真空弁座部材の作動を説明し、力学的に等価状態を示す図である。
【図4】図1に示す例の負圧倍力装置の特性を説明し、(a)は入力ストローク−出力ストローク特性を示す図、(b)は入力−出力特性を示す図である。
【図5】(a)はこの例のBA機構を示す部分断面斜視図、(b)は筒状部材保持部材の斜視図である。
【図6】(a)は図1および図2に示す例のBA機構における部材の一部を個別に示す部分拡大断面図、(b)はこの例のBA機構の一部の非作動状態を示す部分拡大断面図、(c)はこの例のBA機構の一部の作動開始状態を示す部分拡大断面図、(d)はこの例のBA機構の一部の摩耗を説明する部分拡大断面図、(e)はこの例のBA機構の一部の挙動を説明する部分拡大断面図である。
【図7】(a)ないし(f)は、それぞれ、本発明に係る負圧倍力装置の実施の形態の他の例を示す、図6(b)または(c)に相当する部分拡大断面図である。
【図8】(a)は従来の筒状部材保持部材とBA用筒状部材との初期状態での関係を非作動状態で説明する部分拡大断面図、(b)は同関係を作動途中で説明する部分拡大断面図、(c)は長期的なBA作動の繰り返しで生じる摩耗を説明する部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0096】
1…負圧倍力装置、2…フロントシェル、3…リヤシェル、4…バルブボディ、5…パワーピストン、8…定圧室、9…変圧室、10…バルブプランジャー、10a…係止解除部、11…入力軸、12…弁体、12a…大気弁部、12b…真空弁部、13…真空弁座、14…大気弁座、15…真空弁、16…大気弁、17…制御弁、18…第1弁制御スプリング、23…キー部材、24…リアクションディスク、25…出力軸、30…真空弁座部材、32…第2弁制御スプリング、33…BA用筒状部材、33h…係止部、33h1,33h1′…係止面、33h2…エッジ、34…BA作動用スプリング、35…筒状部材保持部材、35a…湾曲U字状部、35a2…エッジ部、35b,35c…直線係止部、35b1,35c1…内側面、35b2,35c2…外側面、35d,35e…凹部、35h…溝、3
5f,35g…係止面、36…ブレーキアシスト機構(BA機構)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸と、負圧が導入される定圧室と大気が導入される変圧室とに区画するパワーピストンを支持するバルブボディと、前記入力軸に連結されかつ前記バルブボディ内に摺動自在に配設された弁プランジャと、前記弁プランジャの作動により前記定圧室と前記変圧室との間の連通または遮断を制御する真空弁と、前記弁プランジャの作動により前記変圧室と少なくとも大気との間を遮断または連通を制御する大気弁と、前記入力軸が通常作動時での移動速度より速く移動された時作動して出力を通常時より大きくする作動アシスト機構とを少なくとも備えている負圧倍力装置において、
前記大気弁は、弁体に設けられた大気弁部と、前記弁プランジャに設けられかつ前記大気弁部が着離座可能な大気弁座とを有し、
前記真空弁は、前記弁体に設けられた真空弁部と、前記真空弁部が着離座可能な真空弁座とを有し、前記真空弁座が前記バルブボディに対して相対移動可能に設けられ、
前記真空弁部と前記大気弁部とが一体に移動可能にされており、
前記作動アシスト機構は、作動時に前記真空弁座を介して前記真空弁部と前記大気弁部を前記バルブボディに対して後方に所定量移動させる筒状部材と、通常時前記筒状部材を非作動位置に保持しかつ作動時に前記筒状部材の保持を解除して前記筒状部材を作動する筒状部材保持部材とを備えており、
前記筒状部材は前記バルブボディに摺動可能に設けられているとともに常時入力側に付勢されており、
前記筒状部材保持部材は前記筒状部材の方へ常時付勢されており、
前記筒状部材は、前記筒状部材に設けられた係止部が前記筒状部材の軸方向と直交する方向の面に設定された係止面を有し、この筒状部材の係止面が前記筒状部材保持部材の係止面に面接触で係止することで前記非作動位置に保持されるとともに、前記筒状部材保持部材が前記係止部を摺擦移動して前記係止部と前記筒状部材保持部材との係止が解除することで作動されるようになっており、
前記筒状部材保持部材の係止面の筒状部材保持部材摺擦移動方向の長さ(L1)が、前
記筒状部材の係止部の係止面の同方向の長さ(L2)より小さく設定されており、
前記筒状部材保持部材は、前記入力軸が通常作動時での移動速度より速く移動されたとき前記バルブプランジャによって押圧されることで前記筒状部材の係止部との係止を解除することを特徴とする負圧倍力装置。
【請求項2】
前記筒状部材保持部材の係止面は、前記筒状部材保持部材の作動開始時に摺擦移動方向と反対側の面から直ぐに設けられていることを特徴とする請求項1記載の負圧倍力装置。
【請求項3】
ブレーキ操作力を負圧倍力装置で倍力したブレーキ力を出力するブレーキ倍力装置において、
前記負圧倍力装置が請求項1または2記載の負圧倍力装置であり、
前記作動アシスト機構が、緊急ブレーキ操作時に作動して通常ブレーキ作動時より同じブレーキ操作力で大きなブレーキ力を出力するブレーキアシスト機構であることを特徴とするブレーキ倍力装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−262764(P2009−262764A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114888(P2008−114888)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】