説明

負極、電極体、及び蓄電素子

【課題】出力を向上させることができる、負極、電極体、及び蓄電素子を提供することを課題とする。
【解決手段】アルカリ金属又はアルカリ土類金属の少なくとも一方を吸蔵及び放出可能な非晶質炭素粒子を含む活物質とバインダとを含む負極層を備え、前記負極層に複数の細孔を有し、前記細孔のうちの1nm以上3nm以下の孔径を有するミクロ細孔の比表面積(S1)と、20nm以上100nm以下の孔径を有するメソ細孔の比表面積(S2)との比率S1/S2が、0.3以上0.9以下であることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極、負極を用いた電極体、及び電極体を用いた蓄電素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高性能化、小型化が進む電子機器用電源、電力貯蔵用電源、電気自動車用電源等として、リチウムイオン電池に代表される非水電解質電池や、電気二重層キャパシタ等のキャパシタ等の放充電可能な蓄電素子が用いられている。
非水電解質電池は、金属箔からなる集電体に負極活物質の層(負極層)と正極活物質の層(正極層)とをそれぞれ設けた負極及び正極を、電気的に隔離するセパレータを介して対向させ、非水電解質中において正極負極間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するものである。
【0003】
前記負極活物質としては、安全性が高く、サイクル特性が高いことから炭素材料が用いられており、このような炭素材料として、高いエネルギー密度を得るために、比表面積の大きい炭素材料を用いることが行われている。
例えば、特許文献1乃至特許文献3には、表面に複数の細孔が形成された炭素材料からなる負極活物質を用いた電極体が記載されている。
また、特許文献4には、非晶質炭素で表面が被覆された黒鉛材料を含むスラリーを集電体に塗布・乾燥後、加圧することで、負極層の比表面積を増大させる方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、負極層の比表面積を単に増大させただけでは、効果的に電池の出力を向上させることは困難である。例えば、前記のような黒鉛を含む負極層を加圧して比表面積を増大させる方法では、加圧時の圧力が強すぎる場合には1nm以下の径の細孔が多く生じるが、このような微細すぎる細孔の割合が前記黒鉛に多く生じると、むしろ出力の低下を招く可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−158532号公報
【特許文献2】特開2007−39289号公報
【特許文献3】特開2010−21032号公報
【特許文献4】特開2000−138061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、出力を向上させることができる、負極、電極体、及び蓄電素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の少なくとも一方を吸蔵及び放出可能な非晶質炭素粒子を含む活物質とバインダとを含む負極層を備え、
前記負極層に複数の細孔を有し、
前記細孔のうちの1nm以上3nm以下の孔径を有するミクロ細孔の比表面積(S1)と、20nm以上100nm以下の孔径を有するメソ細孔の比表面積(S2)との比率S1/S2が、0.3以上0.9以下である負極を提供する。
【0008】
尚、本発明における細孔の比表面積S1及びS2は、窒素ガス吸着法により測定した細孔分布からDFT法による細孔分布解析をすることにより得られた各孔径に対応する比表面積をいう。
また、本発明におけるミクロ細孔とは、前記比表面積の測定法と同様の方法で測定した細孔径が3nm以下である細孔をいい、メソ細孔とは同様の方法で測定した細孔径が3nmより大きく100nm以下である細孔をいう。
【0009】
本発明に係る負極は、前記のように表面に開口する複数の細孔が存在する非晶質炭素粒子からなる活物質を含む負極であって、前記細孔のうちの1nm以上3nm以下の孔径を有するミクロ細孔の比表面積(S1)と、20nm以上100nm以下の孔径を有するメソ細孔の比表面積(S2)との比率S1/S2が、0.3以上0.9以下であるため、この負極を用いた電極体が用いられた蓄電素子において、高い出力が得られる。
【0010】
このような細孔比表面積の比率となるような非晶質炭素を負極材料として負極に用いると、蓄電素子の出力が向上する理由としては、以下のように考えられる。
例えば、リチウムイオンのような正極負極間で受け渡しされるイオンのサイズは、溶媒和された状態では通常1nm程度であるため、負極の活物質の細孔が1nmよりも小さい孔径を有している場合にはイオンを受け取ることができない。従って、1nmよりも小さい孔径を有している細孔が多すぎても出力増加に寄与しない。
よって、負極の活物質の細孔比表面積を増加させつつ、1nmよりも小さい孔径を有している細孔の割合を少なくするために、1nm以上3nm以下の孔径の細孔の比表面積が多くなるような活物質が出力向上のためには有効である。
【0011】
ここで、本発明の一態様として、前記非晶質炭素粒子は、難黒鉛化炭素及び易黒鉛化炭素からなる群から選ばれる少なくとも一種であってもよい。
【0012】
前記前記非晶質炭素粒子が、難黒鉛化炭素及び易黒鉛化炭素からなる群から選ばれる少なくとも一種である場合には、前記細孔の比表面積の比率を前記範囲に容易に調整することができる。
【0013】
また、本発明の他態様として、前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属は、リチウム、ナトリウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる一種であってもよい。
【0014】
この場合、前記アルカリ金属はリチウムであってもよい。
【0015】
また、本発明の別の態様として、前記細孔は、前記非晶質炭素粒子の表面に開口し且つバインダが付着していない部分が前記負極層の表面に露出している細孔を含んでいてもよい。
【0016】
前記細孔が、前記バインダが付着していない部分が前記非晶質炭素粒子表面に露出している細孔を含む場合には、特に、高い出力向上効果が得られる。
【0017】
本発明の電極体は、前記のような負極を用いる。
【0018】
本発明の蓄電素子は、前記のような電極体を用いる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、出力を向上させることができる、負極、電極体、及び蓄電素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】各試験例のS1/S2比率と出力比の関係を示すグラフ。
【図2】各試験例の積算細孔比表面積と細孔径の関係を示すグラフ。
【図3】本発明の負極表面の電子顕微鏡画像。
【図4】プレスによる細孔比表面積と細孔径の関係への影響を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本実施形態の負極、電極体及び電極体を使用した蓄電素子としての非水電解質電池について具体的に説明する。
【0022】
本実施形態にかかる負極は、
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の少なくとも一方を吸蔵及び放出可能な非晶質炭素粒子を含む活物質とバインダとを含む負極層を備え、
前記負極層に複数の細孔を有し、
前記細孔のうちの1nm以上3nm以下の孔径を有するミクロ細孔の比表面積(S1)と、20nm以上100nm以下の孔径を有するメソ細孔の比表面積(S2)との比率S1/S2が、0.3以上0.9以下であるものである。
【0023】
本実施形態において、前記非晶質炭素粒子が吸蔵及び放出可能な前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属は、リチウム、ナトリウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる一種であることが好ましく、中でも、特に、アルカリ金属としてリチウムを吸蔵及び放出可能である前記非晶質炭素粒子であることが好ましい。
【0024】
前記非晶質炭素としては、難黒鉛化炭素(ハードカーボン)及び易黒鉛化炭素(ソフトカーボン)からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
中でも、炭素面が配向しておらず、出入力性能に優れているため難黒鉛化炭素を用いることが好ましい。
【0025】
このような非晶質炭素は表面に細孔が多数存在しているものであり、後述するような手段で負極層とすることによって、表面の細孔のうち1nm以上3nm以下、好ましくは1nm以上2nm以下の孔径を有するミクロ細孔の比表面積(S1)と、20nm以上100nm以下の孔径を有するメソ細孔の比表面積(S2)との比率S1/S2が、0.3以上0.9以下、好ましくは0.4以上0.9以下、特に好ましくは、0.5以上0.8以下の範囲になる負極層が得られるものが使用される。
前記のような非晶質炭素は、黒鉛などの結晶性の炭素に比較して硬質な炭素材料であり、圧をかけた際の配向性が低いため、細孔の比表面積を前記比率に容易に調整することができると考えられる。
また、前記のような非晶質炭素は、比表面積が大きい場合でも、黒鉛に比較して電解質の分解による性能低下が生じにくいという利点を有する。
尚、前記のような非晶質炭素の硬度としては、好ましくは、ビッカース硬度が360〜940の範囲であることが好ましく、550〜900の範囲であることがより好ましい。尚、非晶質炭素粒子のビッカース硬度は、例えば、ダイナミック超微小硬度計(装置名:DUH−211S、島津製作所株式会社製)を用いて測定することができる。
【0026】
前記非晶質炭素は、平均粒子サイズ5〜25μmの粉体であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや、ふるい等が用いられる。粉砕時には水、あるいはエタノール等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、ふるいや風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0027】
本実施形態の負極は、前記活物質としての非晶質炭素粒子とバインダとを含む混合物から負極層が形成される。
【0028】
前記バインダとしては、通常、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエチレン、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン‐プロピレン‐ジエタノール‐ポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種又は2種以上の混合物として用いることができる。
バインダの添加量は、負極層の総質量に対して1〜15質量%が好ましく、特に3〜10質量%が好ましい。
バインダの添加量がこの範囲であると、前記負極活物質表面を過剰に覆って出力向上効果を阻害するおそれがない。
【0029】
本実施形態において、前記細孔は、前記非晶質炭素粒子の表面に開口し且つバインダが付着していない部分が前記負極層の表面に露出している細孔を含んでいる。
本実施形態において前記負極層は、前記活物質とバインダとを含むものであるが、バインダが付着していない部分が前記負極層の表面に露出している細孔が存在することで、前記のような前記ミクロ細孔の比表面積(S1)と、前記メソ細孔の比表面積(S2)との比率であることによる、出力向上効果がより得られ易い。
【0030】
前記負極層には、増粘剤、フィラー等が他の構成成分として含有されてもよい。
【0031】
前記増粘剤としては、通常、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等の多糖類等を1種又は2種以上の混合物として用いることができる。また、多糖類の様にリチウムと反応する官能基を有する増粘剤は、例えばメチル化するなどしてその官能基を失活させておくことが望ましい。増粘剤の添加量は、負極層の総質量に対して0.5〜5質量%が好ましく、特に1〜3質量%が好ましい。
【0032】
前記フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン、ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、負極層の総質量に対して0.5〜5質量%が好ましく、特に1〜3質量%が好ましい。
【0033】
前記非晶質炭素粒子は圧をかけることでその表面の細孔が変化する。
前記非晶質炭素粒子を前記各バインダ、増粘剤、フィラー等が他の構成成分と混合した状態で所定の圧をかけて負極層を設けた場合の、負極層の細孔のうち1nm以上3nm以下の孔径を有する細孔の比表面積(S1)と、20nm以上100nm以下の孔径を有する細孔の比表面積(S2)との比率S1/S2が、0.3以上0.9以下の範囲になる負極層が形成される。
本実施形態においては、前記非晶質炭素粒子を、バインダと混合した後に加圧するため、バインダの配合量を少なくすることができ、負極層の細孔による出力向上効果を得られやすい。
【0034】
以下に、前記非晶質炭素粒子とその他の材料とを混合した混合液を電極板に塗布したものを用いて負極層を供えた負極を製造する方法を具体的に説明する。
【0035】
まず、前記のような非晶質炭素粒子、バインダ及び必要に応じてその他の添加剤を、N−メチルピロリドン、トルエン等の有機溶媒または水などに混合させた後、得られた負極層用の混合液を負極用集電体の上に塗布する。
【0036】
前記負極用の集電体としては、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン等を用いることができる。さらに、これらの材質からなる集電体表面を、接着性、導電性、耐還元性の目的で、カーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理してもよい。
前記集電体の好ましい厚みは任意に設定可能であるが、例えば5〜30μm、好ましくは8〜20μmであることが好ましい。
【0037】
前記混合液を集電体に塗布する方法は、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚み及び任意の形状に塗布することができる。
混合液の塗布厚みは、30〜300μm、好ましくは50〜200μm程度であることが好ましい。
【0038】
次に、混合物を前記手段で塗布後、乾燥し、さらにロールプレス機などの加圧手段で混合物をプレスして、負極層として形成する。
このときのプレス線圧は50〜1400kgf/cm、好ましくは300〜800kgf/cmでプレスすることが好ましい。
この範囲のプレス線圧でプレスすることによって、前記負極層の細孔のうち、1nm以上3nm以下の孔径を有するミクロ細孔の比表面積(S1)と、20nm以上100nm以下の孔径を有するメソ細孔の比表面積(S2)との比率S1/S2が、0.3以上0.9以下になるように調整することができ、高出力の電極を得ることができる。
【0039】
プレス線圧が上記範囲より低い場合には、細孔全体の量が不足するため、または、前記非晶質炭素粒子の密度が低くなり、導電パスが不十分になり、電極を作製した際に出力不足になるおそれがある。
【0040】
一方、プレス線圧が上記範囲より高い場合には、負極層中の非晶質炭素が破壊され、集電体からの剥がれ落ちが生じるなどして、電極としての機能が低下する。
【0041】
プレス線圧を前記範囲に調節するためには、ロールプレス機のロール径、及び負極の送り速度を調節することで調整することができる。
好ましいロール径としては、例えば、直径250mm〜750mmである。
好ましい板送り速度としては、例えば、2m/分〜20m/分である。
【0042】
前記プレスは、例えばロールプレス機のローラを加熱するなどして、加熱しながらプレスしてもよい。加熱しながらプレスすることで負極層中のバインダを軟化させてプレスを強力にすることができる。
このときの加熱温度は、50〜150℃であることが好ましい。
【0043】
前記のように加熱しながらプレスする場合には、プレス時に集電体から混合液が剥がれ落ちないように、非晶質炭素粒子に、バインダ、増粘材、あるいはフィラーなどを適切な配合量で配合することが好ましい。
【0044】
前記のように非晶質炭素粒子を含む混合液をプレスした後、乾燥することによって、非晶質炭素及びバインダを含む負極層が集電体に設けられた負極が作製される。
【0045】
このように作製された負極層全体の気孔率は、30〜45%、好ましくは36%から42%程度であることが出力向上効果を得るためには好ましい。
【0046】
気孔率が上記範囲よりも高い状態、すなわち、負極層の密度が低い状態とは、負極層が圧縮されていない状態であるため細孔比表面積が不十分な状態であると考えられる。
前記のようなミクロ細孔の比表面積と、メソ細孔の比表面積との割合が適切である非晶質炭素粒子からなる負極層を形成した場合には、負極層としての気孔率は36%から42%程度になる。
【0047】
前記のような負極と、後述する正極とをセパレータを介して積層した電極体を巻回し、非水電解質とともに電池ケースに収納することで、蓄電素子の一例である非水電解質電池(例えば、リチウムイオン電池)が製造される。
【0048】
前記正極は、正極活物質を含む正極層を正極用の集電体の一面側あるいは両面側に設けて形成される。
前記正極活物質としては、例えば、リチウムイオン電池の電極体として使用する場合には、リチウムを吸蔵・放出可能な一般式LixMO2、またはLiy24(ただし、Mは遷移金属、0≦x≦1、0≦y≦2)で表わされる複合酸化物、オリビン化合物、トンネル状の空孔を有する酸化物、層状構造の金属カルコゲン化物を用いることができる。その具体例としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn24)、Li2MnO4、MnO2、FeO2、V25、V613、TiO2、TiS2などの正極材料の粉末からなることが好ましい。
【0049】
正極用集電体としては、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル等を用いることができる。その他に、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウム等の表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀等で処理した物を用いることができる。
【0050】
セパレータとしては、織布、不織布、合成樹脂微多孔膜等を用いることができ、特に、合成樹脂微多孔膜を好適に用いることができる。中でもポリエチレン及びポリプロピレン製微多孔膜、アラミドやポリイミドと複合化させたポリエチレン及びポリプロピレン製微多孔膜またはこれらを複合した微多孔膜等のポリオレフィン系微多孔膜が、厚さ、膜強度、膜抵抗等の面で好適に用いられる。
【0051】
前記電解質としては、電解質塩が非水溶媒に溶解された非水電解質が用いられる。
非水溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等の環状炭酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酪酸メチル等の鎖状エステル類;テトラヒドロフランまたはその誘導体;1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジブトキシエタン、メチルジグライム等のエーテル類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジオキソランまたはその誘導体;エチレンスルフィド、スルホラン、スルトンまたはその誘導体等を単独、またはそれら2種以上の混合物等が挙げられる。
【0052】
電解質塩としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiN(SO2252、LiN(SO2CF3)(SO249)、LiSCN、LiBr、LiI、Li2SO4、Li210Cl10、NaClO4、NaI、NaSCN、NaBr、KClO4、KSCN等のイオン性化合物が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、又はそれらの2種類以上の混合物が挙げられる。
【0053】
このような電解質と前記電極体を電池ケースに収納することで、前記非水電解質電池(例えば、リチウムイオン電池)が製造される。
【実施例】
【0054】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0055】
(試料の作製)
まず、負極を作製する。
負極活物質として非晶質炭素粒子(株式会社クレハ製 難黒鉛性炭素 カーボトロンP、平均粒径9μm)95重量部と、及びバインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)5重量部とを混合した負極層用の混合物を、負極集電体としての10μmの銅箔に厚さ40μmになるように塗布し、150℃10分間乾燥した後、ロールプレスで圧縮成型した。
この時のロールプレスのプレス線圧を表1に示す9段階で行い、9種類の負極層を有する負極(試験例1から9)を作製した。
尚、プレスロールは150℃に加熱した。
また、ロールプレスのロールの直径は500mm、負極板の送り速度は5m/分であった。
【0056】
さらに上記各試験例1−9の負極を使用し電池を作製した。
前記電池は、前記負極と正極とをセパレータを介して積層したものを巻回し、電解液とともにアルミラミネートケース内に収納することで作製した。
正極材料としては、コバルト酸リチウムを使用し、セパレータは25μmの厚みのポリエチレン製微多孔膜、電解液はエチレンカーボネート:ジメチルカーボネート:ジエチルカーボネート=4:4:2(体積%)に1mol/lとなるようにLiPF6を溶解させたものを用いた。
【0057】
(出力の測定)
上記試験例1から試験例9の負極を使用した電池の出力を測定した。
上記構成からなる各試験例の電池を定格容量500mAhになるように作製し、この電池を4.1Vまで充電したのち、0.5、2、5、10Aの各電流値で10秒ずつ放電したデータからV−Iプロットを作成して最小二乗法で直線近似し、電圧を2.0Vとなる点まで外挿したときの電流値を算出する。このときの電流値に下限電圧(ここでは2.0V)を乗じて出力とした。
【0058】
(S1/S2の測定)
次に上記試験例1から試験例9の負極層の細孔のうちの1nm以上3nm以下の孔径を有するミクロ細孔の比表面積(S1)と、20nm以上100nm以下の孔径を有するメソ細孔の比表面積(S2)を測定し、比率S1/S2(1)を算出した。
同時に、負極層の細孔のうちの1nm以上2nm以下の孔径を有するミクロ細孔の比表面積(S1)とした場合の比率S1/S2(2)も算出した。
【0059】
具体的には、まず、前記方法で作成した試験例1から9の負極を集電体ごと4×30cmに切断し、測定管に入れて105℃で数時間乾燥した後、比表面積・細孔分布測定装置(製品名:Autosorb−1シリーズ Quantachrome社製)を用いて窒素ガス脱着法によって細孔分布を測定し、DFT法(Density Functional Theory)により、1nm以上3nm以下の孔径を有するミクロ細孔の比表面積(S1)と、20nm以上100nm以下の孔径を有するメソ細孔の比表面積(S2)を算出した。
尚、各負極としては、周囲温度25℃において、0.1ItA(50mA)で2.0Vまで放電した後、定電圧2.0Vで4時間保持した電池を解体し、取り出した放電状態のものを使用した。
また、前記の方法によって測定した試験例2、5及び7の各孔径の細孔の積算比表面積と細孔径との関係を図2に示した。
試験例1から9のうち、出力がもっとも高かった試験例5の出力を100%としたときの各試験例の出力比(%)と、S1/S2との関係を図1のグラフ及び表1に示した。
【0060】
さらに、前記試料の作製においてプレスロールで圧縮成型する前の負極について、前記と同様の方法で細孔分布を測定し、前記S1及びS2を算出した。
このプレス前の試料、前記試験例2及び5について細孔径と細孔比表面積との関係を図4のグラフに示した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1及び図1からあきらかなようにS1/S2(1)が0.3から0.9である試験例2乃至8では出力比は、67%以上と高い出力を維持している。
特に、S1/S2が0.5から0.8である試験例4から7では、出力比は90%以上と非常に高い出力を維持している。
一方、S1/S2(1)が0.9を超えている試験例9、及び、S1/S2(1)が0.3を下回る試験例1においては、出力比がかなり低下することがわかる。
さらに、試験例8及び9では集電体からの負極材料の剥がれ落ちが生じていた。
【0063】
また、試験例5の負極層表面を電子顕微鏡(走査電子顕微鏡JSM−T 330A、日本電子株式会社製、2000倍拡大画像)で観察したところ、図3に示すように負極層表面に、割れが生じていた。
【0064】
また、各試験例の各負極層の各材料(活物質、バインダー)の真密度と組成比から、負極層としての真密度(気孔率0%のときの密度)を計算する。
次に、負極層の体積と重量を測定し、これらの値から計算したかさ密度との比から、下記の式によって気孔率を算出した。

気孔率(%)=100−(かさ密度/真密度)×100

尚、負極層の体積は、所定の寸法に切断した負極の厚みから集電体の銅箔厚みを差し引いて求めた厚みと切断した寸法とから求める。また、負極層の重量は所定の寸法に切断した負極の重量と前記銅箔の重量を実測し、負極重量から銅箔重量を差し引いて求める。
このようにして求めた気孔率(%)を表1に示した。
【0065】
図2から、気孔率が低い、つまりプレス圧の高い試験例の方がミクロ細孔及びメソ細孔の細孔比表面積は大きくなっていることがわかる。
これは、負極材料をプレスすることなどにより、多孔質である非晶質炭素の細孔が分割され小さい孔になるために、また細孔を覆うバインダが剥がれて細孔表面が露出するために生じると考えられる。
【0066】
図4から、プレス前の試料に比べて、試験例2及び5は細孔容積が増加していることがわかった。
すなわち、プレスによって負極活物質表面には新たな細孔が開口しているものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属又はアルカリ土類金属の少なくとも一方を吸蔵及び放出可能な非晶質炭素粒子を含む活物質とバインダとを含む負極層を備え、
前記負極層に複数の細孔を有し、
前記細孔のうちの1nm以上3nm以下の孔径を有するミクロ細孔の比表面積(S1)と、20nm以上100nm以下の孔径を有するメソ細孔の比表面積(S2)との比率S1/S2が、0.3以上0.9以下である負極。
【請求項2】
前記非晶質炭素粒子は、難黒鉛化炭素及び易黒鉛化炭素からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1に記載の負極。
【請求項3】
前記アルカリ金属又はアルカリ土類金属は、リチウム、ナトリウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1または2に記載の負極。
【請求項4】
前記アルカリ金属は、リチウムである請求項3に記載の負極。
【請求項5】
前記細孔は、前記非晶質炭素粒子の表面に開口し且つバインダが付着していない部分が前記負極層の表面に露出している細孔を含む請求項1乃至4のいずれか1項に記載の負極。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の負極を用いた電極体。
【請求項7】
請求項6に記載の電極体を用いた蓄電素子。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−164638(P2012−164638A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−5089(P2012−5089)
【出願日】平成24年1月13日(2012.1.13)
【出願人】(507151526)株式会社GSユアサ (375)
【Fターム(参考)】